(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240709BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240709BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B41J2/165 101
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/14 301
(21)【出願番号】P 2020092222
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】大棚 愛一朗
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-280489(JP,A)
【文献】特開2014-138996(JP,A)
【文献】特開2019-195966(JP,A)
【文献】特許第5417240(JP,B2)
【文献】特開2009-72921(JP,A)
【文献】特開2001-212988(JP,A)
【文献】特開2020-1312(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0093513(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電アクチュエータと、前記圧電アクチュエータの駆動に応じて液体を吐出する液体吐出孔が形成された液体吐出面と、を有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出面に被せられるキャップ部を有するキャップユニットと、
前記液体吐出ヘッドの温度を検知するヘッド温度検知センサと、
前記液体吐出ヘッド及び前記キャップユニットを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
電源部の電力供給状態について、電源投入時の電源投入制御と、前記液体吐出孔から液体が吐出される液体吐出状態を含む通常状態と省電力のスリープ状態との間の状態遷移制御と、を実行するように構成され、
前記状態遷移制御における前記スリープ状態から前記通常状態へのスリープ復帰制御の実行中において、前記ヘッド温度検知センサの検知結果が所定の基準温度よりも低い値を示す場合、前記キャップ部が前記液体吐出面に被せられるように前記キャップユニットを制御するキャップ制御を実行すると共に、前記液体吐出孔からの吐出を規制可能な範囲で前記圧電アクチュエータを駆動させる制限駆動制御を実行する、液体吐出装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ヘッド温度検知センサの検知結果が前記基準温度以上の値を示すまで前記キャップ制御及び前記制限駆動制御を実行する、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御部は
、前記電源投入制
御の実行中において、前記ヘッド温度検知センサの検知結果が前記基準温度よりも低い値を示す場合に、前記キャップ制御及び前記制限駆動制御を実行する、請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記液体吐出孔からの液体の吐出の要求を示す液体吐出要求が入力された場合、前記液体吐出孔から液体が吐出されるように前記圧電アクチュエータを駆動させる液体吐出制御を実行するように構成され、
前記液体吐出制御の実行中において、前記ヘッド温度検知センサの検知結果が前記基準温度よりも低い値を示す場合、前記液体吐出制御に優先して前記キャップ制御及び前記制限駆動制御を実行し、その後に、前記キャップ部が前記液体吐出面に対して退避した位置に配置されるように前記キャップユニットを制御するキャップ退避制御を実行すると共に、前記液体吐出制御を実行する、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記制限駆動制御の停止後において、前記液体吐出制御を開始するまで、前記キャップ部が前記液体吐出面に被せられた状態が維持されるように、前記キャップユニットを制御する、請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記制限駆動制御の停止後において、前記液体吐出制御を開始するまでの間に、前記液体吐出面に被せられた前記キャップ部が当該液体吐出面に対して退避した位置に配置されるように、前記キャップ退避制御を実行する、請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記液体吐出ヘッドを加温する加温器を更に備え、
前記制御部は、前記ヘッド温度検知センサの検知結果に基づいて、前記液体吐出ヘッドの温度が前記基準温度を中心とした所定の許容範囲内で推移するように、前記加温器を制御する、請求項1~6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置が適用されるインクジェット式の記録装置は、インク(液体)を吐出する液体吐出ヘッドを備えている。液体吐出ヘッドは、圧電アクチュエータ(圧電素子)と液体吐出孔とを有し、圧電アクチュエータの駆動に応じて液体吐出孔からインクを吐出するように構成されている。
【0003】
インクは、低温環境下では粘度が上昇する性質を有している。インクの粘度が上昇した場合、液体吐出ヘッドの液体吐出孔からのインクの吐出不良が生じ得る。このような吐出不良の現象を抑制するためには、所定の適正温度になるまでインクを加温してから液体吐出ヘッドを通じた吐出を開始する必要がある。
【0004】
特許文献1には、液体吐出ヘッド内のインクを比較的短時間のうちに加温するための技術が開示されている。この技術では、液体吐出孔からインクが吐出されない程度に圧電アクチュエータを駆動させることにより、液体吐出ヘッド内においてインクを揺動させる。圧電アクチュエータの駆動に応じたインクの揺動によって、液体吐出ヘッド内においてインクを短時間で加温することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、液体吐出ヘッドの液体吐出孔からのインクの吐出不良を十分に抑制することができないという課題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、液体吐出ヘッドの液体吐出孔からの液体の吐出不良をより確実に抑制することが可能となるように、液体の加温が可能な液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の局面に係る液体吐出装置は、圧電アクチュエータと、前記圧電アクチュエータの駆動に応じて液体を吐出する液体吐出孔が形成された液体吐出面と、を有する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出面に被せられるキャップ部を有するキャップユニットと、前記液体吐出ヘッドの温度を検知するヘッド温度検知センサと、前記液体吐出ヘッド及び前記キャップユニットを制御する制御部と、を備える。そして、前記制御部は、電源部の電力供給状態について、電源投入時の電源投入制御と、前記液体吐出孔から液体が吐出される液体吐出状態を含む通常状態と省電力のスリープ状態との間の状態遷移制御と、を実行するように構成され、前記状態遷移制御における前記スリープ状態から前記通常状態へのスリープ復帰制御の実行中において、前記ヘッド温度検知センサの検知結果が所定の基準温度よりも低い値を示す場合、前記キャップ部が前記液体吐出面に被せられるように前記キャップユニットを制御するキャップ制御を実行すると共に、前記液体吐出孔からの吐出を規制可能な範囲で前記圧電アクチュエータを駆動させる制限駆動制御を実行する。
【0009】
また、上記の液体吐出装置において、前記制御部は、前記ヘッド温度検知センサの検知結果が前記基準温度以上の値を示すまで前記キャップ制御及び前記制限駆動制御を実行する。
【0010】
この液体吐出装置によれば、液体吐出ヘッドの温度、すなわち液体吐出ヘッド内の液体の温度がヘッド温度検知センサによって検知される。このヘッド温度検知センサの検知結果が基準温度よりも低い値を示す場合に、制御部は、液体吐出孔からの吐出を規制可能な範囲で圧電アクチュエータを駆動させる制限駆動制御を実行する。制限駆動制御に応じた圧電アクチュエータの駆動によって液体吐出孔の内側で液体が揺動し、液体吐出ヘッド内において液体を短時間で加温することができる。
【0011】
ここで、圧電アクチュエータの駆動によって液体吐出ヘッド内の液体は、液体吐出孔に対して出没を繰り返すように揺動する。このため、液体吐出ヘッド内での揺動中において液体は、液体吐出孔から露出した部分が外気に曝されることになる。この場合、外気に曝された液体は、乾燥によって増粘される虞がある。このような液体吐出ヘッド内での揺動中における液体の乾燥による増粘は、液体吐出孔からの液体の吐出不良の要因となり得る。そこで、制御部は、前記制限駆動制御を実行する際に、液体吐出ヘッドにおいて液体吐出孔が形成された液体吐出面にキャップ部が被せられるようにキャップユニットを制御するキャップ制御を実行する。これにより、圧電アクチュエータの駆動に応じた液体吐出ヘッド内での液体の揺動中において、液体が外気に曝されることをキャップ部によって抑止することができる。このため、液体吐出ヘッド内での揺動中に液体が乾燥によって増粘する現象を可及的に抑制することができる。この結果、液体吐出ヘッドの液体吐出孔からの液体の吐出不良をより確実に抑制することが可能となるように、液体吐出ヘッド内において液体を短時間で加温することができる。
【0012】
上記の液体吐出装置において、前記制御部は、前記電源投入制御の実行中において、前記ヘッド温度検知センサの検知結果が前記基準温度よりも低い値を示す場合に、前記キャップ制御及び前記制限駆動制御を実行する。
【0013】
電源部の停止状態、或いはスリープ状態が長時間に亘って継続されると、液体吐出ヘッドの温度、すなわち液体吐出ヘッド内の液体の温度が基準温度よりも低くなる可能性が高まる。そこで、制御部は、電源部の電源投入時の電源投入制御、及びスリープ状態から通常状態へのスリープ復帰制御の実行中において、前記キャップ制御及び前記制限駆動制御を実行する。これにより、液体吐出ヘッドの温度が基準温度よりも低い可能性が高い電源投入時及びスリープ復帰時において、液体吐出ヘッド内の液体を、乾燥を抑制した状態で加温することができる。
【0014】
上記の液体吐出装置において、前記制御部は、前記液体吐出孔からの液体の吐出の要求を示す液体吐出要求が入力された場合、前記液体吐出孔から液体が吐出されるように前記圧電アクチュエータを駆動させる液体吐出制御を実行するように構成される。そして、前記制御部は、前記液体吐出制御の実行中において、前記ヘッド温度検知センサの検知結果が前記基準温度よりも低い値を示す場合、前記液体吐出制御に優先して前記キャップ制御及び前記制限駆動制御を実行し、その後に、前記キャップ部が前記液体吐出面に対して退避した位置に配置されるように前記キャップユニットを制御するキャップ退避制御を実行すると共に、前記液体吐出制御を実行する。
【0015】
この態様では、制御部は、液体吐出要求が入力された場合に、液体吐出孔から液体が吐出されるように圧電アクチュエータを駆動させる液体吐出制御を実行する。例えば、液体吐出孔から液体が大量に吐出される場合などに、前記液体吐出制御の実行中において、液体吐出ヘッド内で加温された液体の全量が消費される場合が生じ得る。この場合、前記液体吐出制御の実行がそのまま継続されると、加温されていない液体が液体吐出孔から吐出される可能性があり、液体吐出不良の現象が生じ得る。このような現象を回避するために、制御部は、前記液体吐出制御の実行中において、前記ヘッド温度検知センサの検知結果が基準温度よりも低い値を示す場合、前記液体吐出制御に優先して前記キャップ制御及び前記制限駆動制御を実行し、その後に、前記液体吐出制御を再実行する。これにより、前記液体吐出制御の実行中において、液体吐出孔からの液体の吐出不良が生じることをより確実に抑制することができる。
【0016】
上記の液体吐出装置において、前記制御部は、前記制限駆動制御の停止後において、前記液体吐出制御を開始するまで、前記キャップ部が前記液体吐出面に被せられた状態が維持されるように、前記キャップユニットを制御する。
【0017】
この態様では、制限駆動制御の停止から液体吐出制御の開始までの間に、液体吐出孔が外気に曝されることをキャップ部によって抑止することができるので、その間に液体吐出孔を通じて液体吐出ヘッド内の液体が乾燥されることを抑制することができる。
【0018】
上記の液体吐出装置において、前記制御部は、前記制限駆動制御の停止後において、前記液体吐出制御を開始するまでの間に、前記液体吐出面に被せられた前記キャップ部が当該液体吐出面に対して退避した位置に配置されるように、前記キャップ退避制御を実行する。
【0019】
この態様では、制限駆動制御の停止から液体吐出制御の開始までの間にキャップ部が液体吐出面に対して退避した位置に配置されるので、液体吐出制御の開始の際にキャップ部の退避に要する待ち時間が生じることがなく、液体吐出制御の開始までの時間を短縮することができる。
【0020】
上記の液体吐出装置は、前記液体吐出ヘッドを加温する加温器を更に備える構成であってもよい。この場合、前記制御部は、前記ヘッド温度検知センサの検知結果に基づいて、前記通常状態において前記液体吐出ヘッドの温度が、前記基準温度を中心とした所定の許容範囲内で推移するように、前記加温器を制御する。
【0021】
この態様では、圧電アクチュエータの駆動に応じて液体吐出ヘッド内で液体を揺動させる前記制限駆動制御において加温された液体の温度を、加温器によって長期間にわたって維持させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、液体吐出ヘッドの液体吐出孔からの液体の吐出不良をより確実に抑制することが可能となるように、液体の加温が可能な液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液体吐出装置が適用される記録装置を概略的に示す図である。
【
図3】記録装置に備えられる液体吐出ヘッドの周辺を拡大して示す図である。
【
図4】液体吐出ヘッドの内部構造を示す断面図である。
【
図5】液体吐出ヘッドの要部を拡大して示す断面図である。
【
図6】記録装置に備えられるキャップユニットを示す図である。
【
図7】記録装置の状態遷移を説明するための図である。
【
図8】記録装置に備えられる制御部の制御動作を説明するための図である。
【
図9】制御部が実行する電源投入制御及びスリープ復帰制御の制御フローを示すフローチャートである。
【
図10A】制御部が実行する通常制御の制御フローを示すフローチャートである。
【
図10B】制御部が実行する通常制御の制御フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る液体吐出装置が適用されるインクジェット式の記録装置について、図面に基づいて説明する。なお、以下では、方向関係についてはXYZ直交座標軸を用いて説明する。X方向が前後方向(+Xが後、-Xが前)、Y方向が左右方向(+Yが左、-Yが右)、Z方向が上下方向(+Zが上、-Zが下)に各々相当する。また、以下の説明において、「シート」との用語は、コピー用紙、コート紙、OHPシート、厚紙、葉書、トレーシングペーパーや印刷処理を受ける他のシート材料を意味する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る液体吐出装置が適用される記録装置1を概略的に示す図である。
図2は、記録装置1のブロック図である。
図3は、記録装置1に備えられる液体吐出ヘッド51の周辺を拡大して示す図である。記録装置1は、液体としてのインクを吐出する液体吐出装置であって、当該インクの吐出によってシートSに画像を形成(記録)するインクジェット式の画像形成装置である。記録装置1は、装置本体10と、給紙部20と、シート反転部30と、シート搬送ユニット40と、記録部50とを備える。
【0026】
装置本体10は、シートSに画像を記録するための各種の装置を収容する箱形の筐体である。この装置本体10には、シートSの搬送通路となる第1搬送路11、第2搬送路12及び第3搬送路13が形成されている。
【0027】
給紙部20は、シートSを第1搬送路11へ給紙する。給紙部20は、給紙カセット21とピックアップローラー22とを備える。給紙カセット21は、装置本体10に対して着脱自在であり、内部にシートSを収容する。ピックアップローラー22は、給紙カセット21の-Y側であり且つ+Z側の端部に配置される。ピックアップローラー22は、給紙カセット21に収容されたシート束の最上層のシートSを1枚ずつ繰り出し、第1搬送路11へ送り出す。
【0028】
第1搬送路11に給紙されたシートSは、その第1搬送路11に設けられた第1搬送ローラー対111によって、第1搬送路11の下流端に配置された、シート搬送ユニット40のレジストローラー対44まで搬送される。また、装置本体10の-Y側の側面には給紙トレイ25が配置されており、給紙トレイ25の上面部にはシートSが載置可能とされる。給紙トレイ25上に載置されたシートSは、給紙ローラー24によってレジストローラー対44に向かって送り出される。
【0029】
レジストローラー対44は、シート搬送ユニット40において上流端に配置された搬送ローラー対である。レジストローラー対44は、シートSのスキュー矯正を行うとともに、記録部50による印刷処理のタイミングに合わせてシートSを、シート導入ガイド部23を介して搬送ベルト41に向けて送り出す。シート導入ガイド部23は、レジストローラー対44により送出されたシートSを、シート搬送ユニット40における搬送ベルト41の外周面411に向けてガイドする。
【0030】
シート導入ガイド部23によりガイドされたシートSは、その先端部が搬送ベルト41の外周面411に接すると、搬送ベルト41の駆動により外周面411上に保持された状態でシート搬送方向Aに搬送される。なお、シート搬送方向Aは、Y方向において-Y側から+Y側に向かう方向である。
【0031】
シート搬送ユニット40は、記録部50の-Z側において、液体吐出ヘッド51と対向するように配置されている。シート搬送ユニット40は、記録部50の-Z側をシートSが通過するように、シート導入ガイド部23によりガイドされて導入されたシートSを、シート搬送方向Aに搬送する。シート搬送ユニット40は、レジストローラー対44に加えて、搬送ベルト41と吸引部43とを備える。
【0032】
搬送ベルト41は、X方向に幅を有してY方向に延びる無端状のベルトである。搬送ベルト41は、記録部50と対向して配置され、外周面411上にてシートSをシート搬送方向Aに搬送する。
【0033】
搬送ベルト41は、第1ローラー421、第2ローラー422、第3ローラー423、及び一対の第4ローラー424に張架される。この張架された搬送ベルト41の内側において、内周面412に対向して吸引部43が配置されている。第1ローラー421は、不図示の駆動モータによって回転駆動され、所定の周回方向に搬送ベルト41を周回させる。搬送ベルト41が周回することにより、その外周面411上に保持されたシートSがシート搬送方向Aに搬送される。
【0034】
第2ローラー422は、X方向に沿って延びるベルト速度検知ローラーであり、シート搬送方向Aにおいて吸引部43よりも上流側に配置される。ここで、搬送ベルト41の外周面411において、液体吐出ヘッド51と対向する領域であって、第1ローラー421と第2ローラー422との間の領域が、シートSを保持して搬送するための前記所定の搬送領域となる。第2ローラー422は、搬送ベルト41の周回に連動して従動回転する。第2ローラー422には不図示のパルス板が取り付けられ、このパルス板は、第2ローラー422と一体になって回転する。パルス板の回転速度を測定することにより、搬送ベルト41の回転速度が検知される。
【0035】
第3ローラー423は、X方向に沿って延びるテンションローラーであり、搬送ベルト41が撓まないように、搬送ベルト41に張力を与える。第3ローラー423は、搬送ベルト41の周回に連動して従動回転する。一対の第4ローラー424はそれぞれ、Y方向に沿って延びるガイドローラーであり、搬送ベルト41が吸引部43の-Z側を通過するように、搬送ベルト41を案内する。一対の第4ローラー424は、搬送ベルト41の周回に連動して従動回転する。
【0036】
搬送ベルト41は、外周面411から内周面412にわたって厚み方向に貫通した複数の吸引孔を有している。
【0037】
吸引部43は、記録部50と搬送ベルト41を介して対向して配置されている。吸引部43は、搬送ベルト41の外周面411に保持されたシートSと搬送ベルト41との間に負圧を発生させることにより、シートSを搬送ベルト41の外周面411に密着させる。吸引部43は、ベルト案内部材431と、吸引筐体432と、吸引装置433と、排気ダクト434とを備える。
【0038】
ベルト案内部材431は、搬送ベルト41の内周面412における、第1ローラー421と第2ローラー422との間の領域に対向して配置され、搬送ベルト41の幅方向(Y方向)の長さと略同一の幅寸法を有する板体である。ベルト案内部材431は、吸引筐体432の上面部を構成し、+Z側から見たときに、吸引筐体432と略同一の形状を有している。ベルト案内部材431は、第1ローラー421と第2ローラー422との間において、第1ローラー421の回転に連動した搬送ベルト41の周回移動を案内する。
【0039】
また、ベルト案内部材431は、搬送ベルト41の内周面412に対向したベルト案内面に形成された、複数の溝部を有している。各溝部は、搬送ベルト41の吸引孔に対応して形成される。更にベルト案内部材431は、各溝部に対応して設けられた貫通孔を有している。貫通孔は、各溝部内においてベルト案内部材431の厚み方向に貫通した孔部であり、各溝部を介して、搬送ベルト41の吸引孔と連通する。
【0040】
以上のように構成されたベルト案内部材431を備えた吸引部43は、ベルト案内部材431の溝部並びに貫通孔と、搬送ベルト41の吸引孔とを介して、搬送ベルト41の+Z側の空間から空気を吸引することにより吸引力を発生させる。この吸引力により、搬送ベルト41の上方の空間に吸引部43へ向かう気流(吸引風)が発生する。シートSがシート導入ガイド部23により搬送ベルト41上にガイドされて搬送ベルト41の外周面411の一部を覆うと、シートSに吸引力(負圧)が作用して、シートSが搬送ベルト41の外周面411に密着される。
【0041】
吸引筐体432は、ベルト案内部材431を下方側から支持する支持フレームを構成する。吸引筐体432は、+Z側が開口した箱形の筐体であり、当該+Z側の開口がベルト案内部材431によって覆われるように、搬送ベルト41の-Z側に配置される。吸引筐体432は、その上面部を構成するベルト案内部材431と協働して吸引空間432Aを画定する。すなわち、吸引筐体432とベルト案内部材431とで囲まれた空間が、吸引空間432Aとなる。この吸引空間432Aは、ベルト案内部材431の溝部並びに貫通孔を介して、搬送ベルト41の吸引孔に連通する。
【0042】
吸引筐体432の底壁部には開口部432Bが形成され、この開口部432Bに対応して吸引装置433が配置されている。この吸引装置433には、排気ダクト434が接続されている。この排気ダクト434は、装置本体10に設けられた不図示の排気口と連結されている。
【0043】
なお、シート搬送ユニット40は、Z方向に沿った昇降移動が可能である。シート搬送ユニット40の昇降移動は、搬送昇降機構40A(
図2)によって行われる。換言すると、搬送昇降機構40Aは、シート搬送ユニット40をZ方向に沿って昇降移動させるための機構である。
【0044】
シート搬送ユニット40の+Z側には、記録部50が配置されている。具体的には、記録部50は、シート搬送ユニット40の+Z側において、搬送ベルト41の外周面411と対向するように配置されている。記録部50は、搬送ベルト41の外周面411上に保持された状態でシート搬送方向Aに搬送されるシートSに、印刷処理を施して画像を記録する。本実施形態では、記録部50は、画像形成のための記録方式がインクジェット式であり、液体としてのインクを吐出してシートSに画像を記録する。
【0045】
記録部50は、ヘッドハウジング55に保持された液体吐出ヘッド51Bk、51C、51M、51Yを備える。液体吐出ヘッド51Bkはブラック色のインクを吐出し、液体吐出ヘッド51Cはシアン色のインクを吐出し、液体吐出ヘッド51Mはマゼンタ色のインクを吐出し、液体吐出ヘッド51Yはイエロー色のインクを吐出する。液体吐出ヘッド51Bk、51C、51M、51Yは、シート搬送方向Aの上流側から下流側に向かって並設される。液体吐出ヘッド51Bk、51C、51M、51Yは、吐出するインクの色が異なる以外は同一の構成を有するため、液体吐出ヘッド51と総称することもある。
【0046】
液体吐出ヘッド51は、搬送ベルト41の外周面411上に保持された状態でシート搬送方向Aに搬送されるシートSにインクを吐出して、シートSに画像を記録する。詳しくは、液体吐出ヘッド51は、搬送ベルト41により搬送されて液体吐出ヘッド51に対向する位置を通過するシートSへ向けて、インクを吐出する。これにより、シートSに画像が記録される。液体吐出ヘッド51の詳細については後述する。
【0047】
画像が記録されたシートSは、搬送ベルト41により搬送されて、当該搬送ベルト41のシート搬送方向Aの下流側に配置された搬送ユニット45に送出される。搬送ユニット45は、シート搬送ユニット40から受け取ったシートSをシート搬送方向Aの下流側に更に搬送する。この搬送ユニット45の下流側にデカーラユニット46が配置されている。デカーラユニット46は、搬送ユニット45から受け取ったシートSのカールを矯正しながら、シートSをシート搬送方向Aの下流側に更に搬送する。デカーラユニット46により搬送されるシートSは、第2搬送路12に送出される。
【0048】
第2搬送路12は、装置本体10の+Y側の側面に沿って延設されている。第2搬送路12に送出されたシートSは、その第2搬送路12に設けられた第2搬送ローラー対121によって、装置本体10の+Y側に形成された排紙口12Aに向けて搬送され、排紙口12Aから排紙部47上に排出される。
【0049】
一方、第2搬送路12に送出されたシートSが、第1面(表面)の印刷処理が完了した両面印刷用のものである場合には、当該シートSは、シート反転部30に送り出される。シート反転部30は、第2搬送路12の途中で分岐された搬送路であり、シートSが反転(スイッチバック)される部分である。シート反転部30によって表裏が反転されたシートSは、第3搬送路13に送出される。第3搬送路13に送出されたシートSは、その第3搬送路13に設けられた第3搬送ローラー対131によって逆送され、レジストローラー対44及びシート導入ガイド部23を介して、表裏が反転した状態で再び搬送ベルト41の外周面411上に供給される。このように表裏が反転した状態で搬送ベルト41の外周面411上に供給されたシートSは、搬送ベルト41により搬送されながら、記録部50によって、第1面とは反対側の第2面(裏面)に印刷処理が施される。両面印刷が完了したシートSは、第2搬送路12を通過して排紙口12Aから排紙部47上に排出される。
【0050】
図3に示すように、記録部50の液体吐出ヘッド51の+Z側の上方には、コンテナ装着部60が配置されている。コンテナ装着部60は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の各色のインクをそれぞれ収容した複数のインクコンテナ61Y、61M、61C、61Bkが着脱自在に装着されている。インクコンテナ61Y、61M、61C、61Bkは、液体としてのインクを収容可能な液体収容コンテナであって、それぞれ各色のインク供給チューブ62及びサブインクタンク64を介して液体吐出ヘッド51Y、51M、51C、51Bkに連結されている。なお、インクコンテナ61Y、61M、61C、61Bkは、収容するインクの色が異なる以外は同一の構成を有するため、インクコンテナ61と総称することもある。
【0051】
インク供給チューブ62のサブインクタンク64に対して上流側の部分には、インク供給チューブ62内のインク流路を開閉する電磁弁63が設けられている。サブインクタンク64は、インクコンテナ61と液体吐出ヘッド51との間に配置され、インクコンテナ61内のインクが液体吐出ヘッド51に供給される前に、当該インクを一時的に貯留する液体貯留タンクである。本実施形態では、サブインクタンク64内に貯留されたインクが液体吐出ヘッド51に供給される。サブインクタンク64には、サブインクタンク64内のインク量を検知するインクセンサー(不図示)が設けられており、当該インク量に応じて電磁弁63が開かれてインクコンテナ61からサブインクタンク64へインクが補給される。サブインクタンク64は、インクコンテナ61よりも低い位置に配置されており、サブインクタンク64とインクコンテナ61との高低差により発生するインク圧によってインクコンテナ61から対応する色のインクがサブインクタンク64に補給される。
【0052】
記録部50が備える液体吐出ヘッド51について、
図4及び
図5を参照して詳細に説明する。液体吐出ヘッド51は、X方向に延びる細長い形状を有している。液体吐出ヘッド51は、液体中継流路部材52と、液体吐出流路部材53と、圧電アクチュエータ基板54とを含んで構成される。液体吐出ヘッド51においては、液体吐出流路部材53と圧電アクチュエータ基板54とが接合され、液体中継流路部材52が、圧電アクチュエータ基板54を挟む形で液体中継流路部材52に対して積層されて、接着される。但し、圧電アクチュエータ基板54と液体中継流路部材52との間は接着されておらず、適宜に空間524が形成されている。
【0053】
液体中継流路部材52は、X方向に延びる略直方体の形状を有し、液体吐出ヘッド51の+Z側の部分を構成する。液体中継流路部材52は、サブインクタンク64に繋がる液体流入口521と、液体吐出流路部材53に繋がる液体中継口522と、液体流入口521から流入されたインクを液体中継口522へ導く内部の液体中継流路523と、を有している。
【0054】
液体吐出流路部材53は、X方向に延びる略直方体の形状を有し、液体中継流路部材52の-Z側に位置しており、液体吐出ヘッド51の-Z側の部分を構成する。液体吐出流路部材53は、共通流路531と、複数の個別供給流路532と、複数の液体加圧室533と、複数の個別吐出流路534と、複数の液体吐出孔535と、を有している。
【0055】
共通流路531は、液体吐出流路部材53の内部に形成された、液体中継流路部材52の液体中継口522に繋がる流路である。複数の個別供給流路532は、それぞれ分離された状態で共通流路531に繋がる、液体吐出流路部材53の内部流路である。複数の個別供給流路532において、共通流路531に接続される側とは反対の端部は、対応する液体加圧室533に繋がっている。複数の液体加圧室533は、液体吐出流路部材53の上面に開口している中空の領域である。複数の液体加圧室533の各々の開口は、液体吐出流路部材53の上面に圧電アクチュエータ基板54が接着されることで閉塞されている。複数の個別吐出流路534は、それぞれ分離された状態で対応する液体加圧室533に繋がる、液体吐出流路部材53の内部流路である。複数の個別吐出流路534の各々において、液体加圧室533に接続される側とは反対の端部は、液体吐出孔535に繋がっている。複数の液体吐出孔535は、それぞれ分離された状態で対応する個別吐出流路534に繋がっている。複数の液体吐出孔535は、液体吐出流路部材53の下面に開口している。すなわち、液体吐出流路部材53の下面は、複数の液体吐出孔535が形成された液体吐出面535Sを構成する。
【0056】
以上のように構成された液体吐出流路部材53においては、複数の液体加圧室533が、液体中継流路部材52の液体中継口522に繋がる共通流路531に個別供給流路532を介して繋がっている。更に、複数の液体加圧室533と複数の液体吐出孔535とが、個別吐出流路534を介して互いに繋がっている。また、
図4に示すように、複数の液体吐出孔535が形成された液体吐出面535Sには、-Z側に突出した突起536が設けられている。
【0057】
圧電アクチュエータ基板54は、
図5に示すように、第1圧電セラミック層541と第2圧電セラミック層542とが積層された積層構造を有している。圧電アクチュエータ基板54は、共通電極543と個別電極544とを更に有している。個別電極544は、圧電アクチュエータ基板54の上面における液体加圧室533と対向する位置に配置されている電極である。共通電極543は、圧電アクチュエータ基板54に対向する領域内の全ての液体加圧室533を覆うように延在している。共通電極533は、接地され、グランド電位に保持されている。
【0058】
個別電極544に選択的に所定の駆動信号である吐出制御信号CS2(後記の
図8)が供給されることにより、この個別電極544に対応する液体加圧室533内のインクに圧力が加えられる。これにより、個別吐出流路534を通じて、対応する液体吐出孔535からインクが吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ基板54における各液体加圧室533に対向する部分は、各液体加圧室533及び各液体吐出孔535に対応する個別の圧電アクチュエータ545(圧電素子)に相当する。つまり、圧電アクチュエータ545は、第1圧電セラミック層541及び第2圧電セラミック層542からなる積層構造中に作り込まれており、各液体加圧室533の直上に位置する第2圧電セラミック層542、共通電極543、第1圧電セラミック層541及び個別電極544によって構成される。
【0059】
駆動信号は、例えば、所定の長さの矩形波のパルスを含む。矩形波の長さを変えることにより、インクが吐出される否かが変わり、吐出される場合のインクの量などが変わる。例えば、通常の吐出の場合より、短い矩形波を個別電極544に送ることにより、圧電アクチュエータ545は駆動され、液体加圧室533内のインクは振動するが、吐出はされないようにすることができる。
【0060】
液体吐出孔535からのインクの吐出に応じて共通流路531内のインクが減少すると、サブインクタンク64内のインクが、液体流入口521、液体中継流路523、液体中継口522をこの順で通って共通流路531に補充される。
【0061】
図1に示すように、記録装置1は、キャップユニット70を更に備える。キャップユニット70は、液体吐出ヘッド51によるインクの吐出に応じてシートSに画像を記録する印刷処理の休止時において、液体吐出ヘッド51における液体吐出孔535が形成された液体吐出面535Sをキャップするためのユニットである。このキャップユニット70について、
図6を参照して説明する。
【0062】
キャップユニット70は、平板状のキャップトレイ71と、そのキャップトレイ71の上面に配置された凹状のキャップ部72とを有している。キャップトレイ71の上面には、記録部50に備えられる液体吐出ヘッド51に相当する数のキャップ部72が配置されている。すなわち、Y,M,C,Bkの色毎の4本の液体吐出ヘッド51の各々に対応して、4つのキャップ部72がキャップトレイ71上に配置されている。キャップユニット70においてキャップ部72は、液体吐出ヘッド51における液体吐出孔535が形成された液体吐出面535Sに被せられる部分である。
【0063】
キャップユニット70は、キャップ部72が液体吐出ヘッド51の液体吐出面535Sに対して水平方向(Y方向)に退避した退避位置と、キャップ部72が液体吐出面535Sに対してZ方向の-Z側に位置したキャップ可能位置との間で移動可能である。更に、キャップユニット70は、前記キャップ可能位置に配置された状態において、Z方向に沿った昇降移動が可能である。キャップユニット70の前記退避位置と前記キャップ可能位置との間での移動と、Z方向に沿った昇降移動とは、キャップ移動機構73(
図2)によって行われる。キャップユニット70が前記退避位置に配置された状態においては、キャップ部72が装置本体10に設けられたキャップ当接部材10Aに当接される。これにより、キャップユニット70が前記退避位置に配置された状態において、キャップ部72に異物等が付着することを防止することができる。
【0064】
キャップ部72を液体吐出ヘッド51の液体吐出面535Sに被せる際には、キャップ移動機構73は、キャップユニット70を前記退避位置から前記キャップ可能位置にY方向に移動させる。なお、キャップ移動機構73がキャップユニット70をY方向に移動させるときには、その前に、搬送昇降機構40Aによってシート搬送ユニット40が、液体吐出ヘッド51の直下の位置からZ方向の-Z側に下降される。キャップユニット70の前記キャップ可能位置への移動が完了すると、キャップ移動機構73は、キャップユニット70をZ方向の+Z側に上昇させる。これにより、キャップ部72が液体吐出ヘッド51の液体吐出面535Sに被せられる。
【0065】
図6に示すように、キャップ部72が液体吐出面535Sに被せられた状態においては、キャップ部72において液体吐出面535Sと対向する底面部721が、液体吐出面535Sから突出した突起536に当接している。これにより、キャップ部72が液体吐出面535Sに被せられた状態において、底面部721と液体吐出面535Sとの間には、液体吐出面535Sに対する突起536の吐出量に応じた所定の隙間GPが形成されている。キャップユニット70は、キャップ部72が液体吐出面535Sに被せられることによって、液体吐出孔535が外気に曝されることを抑止し、当該液体吐出孔535を通じて液体吐出ヘッド51内のインクが乾燥されることを抑制する。なお、底面部721には、液体吐出ヘッド51内のインクの乾燥の抑制を阻害しない程度の大きさの通気孔722が形成されている。
【0066】
記録装置1は、
図2及び
図3に示すようにヘッド温度検知センサ56、ヘッド加温器57、タンク温度検知センサ65及びタンク加温器66を更に備えると共に、
図2に示すように電源部80、操作部81、通信部82及び制御部90を更に備える。
【0067】
ヘッド温度検知センサ56は、液体吐出ヘッド51の温度を検知することによって、液体吐出ヘッド51内のインクの温度を検知するためのセンサである。ヘッド温度検知センサ56は、液体吐出ヘッド51の温度を検知可能であれば、その配設位置は特に限定されるものではない。本実施形態では、ヘッド温度検知センサ56は、液体吐出ヘッド51の+Z側の部分を構成する液体中継流路部材52に配設されている。ヘッド加温器57は、液体吐出ヘッド51を加温することによって、当該液体吐出ヘッド51内のインクを加温するための加温器である。
【0068】
タンク温度検知センサ65は、サブインクタンク64の温度を検知することによって、サブインクタンク64内のインクの温度を検知するためのセンサである。タンク加温器66は、サブインクタンク64を加温することによって、当該サブインクタンク64内のインクを加温するための加温器である。
【0069】
電源部80は、商用交流電源を記録装置1の各部で利用可能な直流電圧に変換し、その変換した直流電圧を電源として記録装置1の各部に供給する。操作部81は、記録装置1の各種設定や動作指示を行うための各種操作キーやタッチパネル等で構成されている。通信部82は、LAN(Local Area Network)等のネットワークを介してパーソナルコンピュータ等の外部機器との間で、印刷処理に用いられる画像データ等の各種データを送受信する機能を有する。画像データは、液体吐出ヘッド51の液体吐出孔535からのインクの吐出の要求を示す液体吐出要求の一例である。画像データは、液体吐出ヘッド51における複数の液体吐出孔535の各々が、シートS上にどのサイズの画素を形成するインク滴を吐出するかを示す信号である。通信部82によって受信された画像データは、制御部90に入力される。
【0070】
制御部90は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータ等の演算処理回路である。ROMには記録装置1の動作制御を行うための制御プログラムが記憶されている。制御部90は、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出し、制御プログラムをRAMに展開させることで、液体吐出ヘッド51及びキャップユニット70を含む装置全体の制御を行う。また、制御部90は、記憶部91及び計時部92としての機能を有する。記憶部91には、液体吐出ヘッド51の液体吐出孔535からの吐出に適したインクの温度、すなわち、液体吐出ヘッド51やサブインクタンク64の適正温度を示す所定の基準温度STが記憶されている。計時部92は、制御部90による各種制御の実行後からの経過時間を計時する。
【0071】
電源部80の電力供給状態について着目すると、制御部90は、電源部80を介して記録装置1の各部に電力を供給したり、各部への電力供給を停止したりする。
図7は、記録装置1の状態遷移を説明するための図である。
【0072】
電源OFF状態から電源部80の電源が投入(電源ON)されると、制御部90は、電源投入制御CAを実行する。電源投入制御CAにおいて、制御部90は、電源部80による電力供給先を制限せず、記録装置1の各部の全てに電力が供給されるように電源部80を制御する。この電源投入制御CAの詳細については後述する。
【0073】
制御部90により電源投入制御CAが実行されると、電源部80の電力供給状態が通常状態とされる。通常状態には、液体吐出ヘッド51からインクが吐出される液体吐出状態を含む印刷処理に必要な各種動作を実行している稼働状態や、直ぐに稼働状態に移行できるように準備して待機するレディ状態が含まれる。通常状態では、電源部80による電力供給先が制限されておらず、ヘッド加温器57が駆動されて液体吐出ヘッド51が加温されると共に、タンク加温器66が駆動されてサブインクタンク64が加温される。電源部80の電力供給状態が通常状態とされると、制御部90は、通常制御CBを実行する。この通常制御CBの詳細については後述する。
【0074】
本実施形態に係る記録装置1は、前記通常状態と、電源部80による電力供給先が制限された省電力状態のスリープ状態との間の状態遷移が可能である。制御部90は、電源部80の電力供給状態を、通常状態とスリープ状態との間で状態遷移させる状態遷移制御を実行する。スリープ状態としては、電源部80による電力供給先の制限度に応じて第1スリープ状態と第2スリープ状態とが設定されている。第2スリープ状態は、第1スリープ状態よりも電力供給先が制限された状態であり、いわゆるディープスリープ状態である。
【0075】
通常状態において前記レディ状態が継続されて所定のスリープ移行時間が経過した場合を想定する。この場合、制御部90は、状態遷移制御として、電源部80の電力供給状態を通常状態から第1スリープ状態へ移行させるスリープ移行制御CCを実行する。第1スリープ状態では、操作部81に対する操作検知や通信部82の受信待機に必要な電力、並びに、ヘッド温度検知センサ56及びタンク温度検知センサ65の検知に必要な電力のみが供給される。このため、第1スリープ状態では、ヘッド加温器57、タンク加温器66、液体吐出ヘッド51、シート搬送ユニット40、搬送昇降機構40A、キャップユニット70、キャップ移動機構73等への電力の供給が停止される。
【0076】
第1スリープ状態において、操作部81に対する操作が検知されず、通信部82による画像データの受信が行われない状態が継続されて所定のスリープ移行時間が経過した場合を想定する。この場合、制御部90は、状態遷移制御として、電源部80の電力供給状態を第1スリープ状態から第2スリープ状態へ移行させるスリープ移行制御CCを実行する。第2スリープ状態では、操作部81に対する操作検知や通信部82の受信待機に必要な電力、並びに、タンク温度検知センサ65の検知に必要な電力のみが供給される。第2スリープ状態では、ヘッド温度検知センサ56の検知に必要な電力は供給されず、更には、ヘッド加温器57、タンク加温器66、液体吐出ヘッド51、シート搬送ユニット40、搬送昇降機構40A、キャップユニット70、キャップ移動機構73等への電力の供給が停止される。
【0077】
第1スリープ状態又は第2スリープ状態において、操作部81に対する操作が検知されるか、或いは、通信部82による画像データの受信が行われた場合を想定する。この場合、制御部90は、状態遷移制御として、電源部80の電力供給状態を第1スリープ状態又は第2スリープ状態から通常状態へ復帰させるスリープ復帰制御CDを実行する。スリープ復帰制御CDにおいて、制御部90は、前記電源投入制御CAと同様に、電源部80による電力供給先を制限せず、記録装置1の各部の全てに電力が供給されるように電源部80を制御する。このスリープ復帰制御CDの詳細については後述する。
【0078】
次に、
図8並びに
図9、
図10A及び
図10Bのフローチャートを参照して、制御部90の制御動作の詳細について説明する。最初に
図8及び
図9を参照して制御部90が実行する電源投入制御CA及びスリープ復帰制御CDについて説明し、その後に、
図8及び
図10A,10Bを参照して制御部90が実行する通常制御CBについて説明する。
【0079】
既述の通り、電源投入制御CA及びスリープ復帰制御CDは、何れも、電源部80の電力供給状態を通常状態とするための制御である。電源投入制御CA及びスリープ復帰制御CDにおいて、制御部90は、記録装置1の各部の全てに電力が供給されるように電源部80を制御する。なお、電源投入制御CAの実行前の電源OFF状態、並びに、スリープ復帰制御CDの実行前の第1スリープ状態又は第2スリープ状態においては、キャップユニット70のキャップ部72が液体吐出ヘッド51の液体吐出面535Sに被せられた状態とされている。
【0080】
電源投入制御CA及びスリープ復帰制御CDの実行中において、制御部90は、タンク温度検知センサ65によるサブインクタンク64のタンク温度の検知結果を取得し(ステップa1)、そのタンク温度の検知結果に基づいてタンク加温器66を制御する(ステップa2)。これにより、サブインクタンク64のタンク温度が、記憶部91に記憶された基準温度STに近づくように調整される。
【0081】
更に、制御部90は、ヘッド温度検知センサ56による液体吐出ヘッド51のヘッド温度の検知結果を取得し(ステップa3)、そのヘッド温度の検知結果に基づいてヘッド加温器57を制御する(ステップa4)。これにより、液体吐出ヘッド51のヘッド温度が、記憶部91に記憶された基準温度STに近づくように調整される。
【0082】
次に、制御部90は、ヘッド温度検知センサ56の検知結果が前記基準温度STよりも低い値を示すか否か、すなわち、前記ヘッド温度が前記基準温度ST未満であるか否かを判定する(ステップa5)。制御部90は、前記ヘッド温度が前記基準温度ST未満である場合(ステップa5でYES)には、ステップa6からステップa9までの各処理を実行し、その後に、通常制御CBに制御を移行する。一方、前記ヘッド温度が前記基準温度ST以上である場合(ステップa5でNO)には、制御部90は、ステップa6からステップa9までの各処理の実行を省略し、通常制御CBに制御を移行する。
【0083】
前記ヘッド温度が前記基準温度ST未満である場合のステップa6からステップa9までの各処理について、
図8を参照して説明する。前記ヘッド温度が前記基準温度ST未満である場合、制御部90は、キャップユニット70を制御対象としたキャップ制御CY1を実行する(ステップa6)と共に、液体吐出ヘッド51を制御対象とした制限駆動制御CX1を実行する(ステップa7)。
【0084】
キャップ制御CY1において、制御部90は、キャップ部72が液体吐出ヘッド51の液体吐出面535Sに被せられるようにキャップ移動機構73を介してキャップユニット70を制御する。既述の通り、キャップ部72が液体吐出面535Sに被せられた状態において、キャップ部72の底面部721と液体吐出面535Sとの間には、液体吐出面535Sに対する突起536の吐出量に応じた所定の隙間GPが形成されている(
図6参照)。なお、電源投入制御CA及びスリープ復帰制御CDの実行前においては、キャップ部72が液体吐出面535Sに被せられた状態とされているので、キャップ制御CY1は、その状態を維持するような制御となる。
【0085】
制限駆動制御CX1において、制御部90は、液体吐出ヘッド51の各液体吐出孔535からのインクの吐出を規制可能な範囲で当該各液体吐出孔535の内側でインクが揺動するように、複数の液体吐出孔535の各々に対応した複数の圧電アクチュエータ545の全てを駆動させる。具体的に、制御部90は、パルスを含む駆動信号としての制限駆動制御信号CS1を、各圧電アクチュエータ545を構成する各個別電極544に供給する。前記制限駆動制御信号CS1は、後述の液体吐出制御CX2において個別電極544に供給される吐出制御信号CS2に対して、液体吐出孔535からのインクの吐出を規制可能な範囲のパルス幅にされた駆動信号である。また、前記制限駆動制御信号CS1は、個別電極544の電位が吐出制御信号CS2に対して小さくなるような駆動信号であってもよい。
【0086】
各個別電極544に前記制限駆動制御信号CS1が供給されることにより各圧電アクチュエータ545が駆動されると、その駆動によって各圧電アクチュエータ545が熱を発する。また、各圧電アクチュエータの駆動に応じたインクの揺動によって、インク自身も熱を発する。これらの熱によって液体吐出ヘッド51内のインクを、短時間で加温することができる。
【0087】
ここで、圧電アクチュエータ545の駆動によって液体吐出ヘッド51内のインクは、液体吐出孔535に対して出没を繰り返すように揺動する。このため、液体吐出ヘッド51内での揺動中においてインクは、液体吐出孔535から露出した部分が外気に曝されることになる。この場合、外気に曝されたインクは、乾燥によって増粘される虞がある。このような液体吐出ヘッド51内での揺動中におけるインクの乾燥による増粘は、液体吐出孔535からのインクの吐出不良の要因となり得る。そこで、制御部90は、制限駆動制御CX1を実行する際に、液体吐出ヘッド51において複数の液体吐出孔535が形成された液体吐出面535Sにキャップ部72が被せられるようにキャップユニット70を制御するキャップ制御CY1を実行する。これにより、圧電アクチュエータ545の駆動に応じた液体吐出ヘッド1内でのインクの揺動中において、インクが外気に曝されることをキャップ部72によって抑止することができる。このため、液体吐出ヘッド51内での揺動中にインクが乾燥によって増粘する現象を可及的に抑制することができる。この結果、液体吐出ヘッド51の液体吐出孔535からのインクの吐出不良をより確実に抑制することが可能となるように、液体吐出ヘッド51内においてインクを短時間で加温することができる。
【0088】
また、電源部80の電源OFF状態、或いは第1スリープ状態及び第2スリープ状態が長時間に亘って継続されると、例えば冬場などの低温環境下では、液体吐出ヘッド51の温度、すなわち液体吐出ヘッド51内のインクの温度が前記基準温度STよりも低くなる可能性が高まる。そこで、制御部90は、電源部80の電源投入時の電源投入制御CA、並びに、第1スリープ状態又は第2スリープ状態から通常状態へのスリープ復帰制御CDの実行中において、前記キャップ制御CY1及び前記制限駆動制御CX1を実行する。これにより、液体吐出ヘッド51の温度が前記基準温度STよりも低い可能性が高い電源投入時及びスリープ復帰時において、液体吐出ヘッド51内のインクを、乾燥を抑制した状態で加温することができる。
【0089】
前記キャップ制御CY1及び前記制限駆動制御CX1の実行中において、制御部90は、ヘッド温度検知センサ56の検知結果に基づいて、当該検知結果が前記基準温度ST以上の値を示すか否か、すなわち、液体吐出ヘッド51のヘッド温度が前記基準温度STに達したか否かを判定する(ステップa8)。液体吐出ヘッド51のヘッド温度が前記基準温度STに達した場合(ステップa8でYES)、制御部90は、前記制限駆動制御CX1を停止する(ステップa9)。換言すると、制御部90は、ヘッド温度検知センサ56の検知結果が前記基準温度ST以上の値を示すまで、前記制限駆動制御CX1を実行する。これにより、前記制限駆動制御CX1が終了し、電源部80の電力供給状態が通常状態とされることに応じて通常制御CBへ移行するときには、液体吐出ヘッド51の温度が、各液体吐出孔535からのインクの吐出に適した前記基準温度STとされる。
【0090】
制御部90は、前記制限駆動制御CX1の停止後において、後述の通常制御CBにおける液体吐出制御CX2を開始するまで、キャップ部72が液体吐出ヘッド51の液体吐出面535Sに被せられた状態が維持されるように、キャップユニット70を制御する。この場合、前記制限駆動制御CX1の停止から液体吐出制御CX2の開始までの間に、液体吐出ヘッド51の液体吐出孔535が外気に曝されることをキャップ部72によって抑止することができるので、その間に液体吐出孔535を通じて液体吐出ヘッド51内のインクが乾燥されることを抑制することができる。なお、制御部90は、前記制限駆動制御CX1の停止後において、液体吐出制御CX2を開始するまでの間に、液体吐出面535Sに被せられたキャップ部72が当該液体吐出面535Sに対して退避した位置に配置されるように、キャップユニット70を制御対象としたキャップ退避制御CY2を実行してもよい。この場合には、通常制御CBにおいて画像データが通信部82を介して制御部90に入力されたときに、当該画像データに対応した液体吐出制御CX2の開始の際にキャップ部72の退避に要する待ち時間が生じることがなく、液体吐出制御CX2の開始までの時間を短縮することができる。
【0091】
電源部80の電力供給状態が通常状態とされると、制御部90は、
図8及び
図10A,10Bに示される通常制御CBを実行する。通常制御CBにおいて、制御部90は、タンク温度検知センサ65によるサブインクタンク64のタンク温度の検知結果を取得し(ステップb1)、そのタンク温度の検知結果に基づいてタンク加温器66を制御する(ステップb2)。具体的に、制御部90は、タンク温度検知センサ65の検知結果に基づいて、サブインクタンク64のタンク温度が、前記基準温度STを中心とした所定の許容範囲内で推移するように、タンク加温器66を制御する。これにより、通常状態において、サブインクタンク64のタンク温度を、前記基準温度STの付近で推移させることができる。
【0092】
更に、制御部90は、ヘッド温度検知センサ56による液体吐出ヘッド51のヘッド温度の検知結果を取得し(ステップb3)、そのヘッド温度の検知結果に基づいてヘッド加温器57を制御する(ステップb4)。具体的に、制御部90は、ヘッド温度検知センサ56の検知結果に基づいて、液体吐出ヘッド51のヘッド温度が、前記基準温度STを中心とした所定の許容範囲内で推移するように、ヘッド加温器57を制御する。これにより、通常状態において、液体吐出ヘッド51のヘッド温度を、前記基準温度STの付近で推移させることができる。このため、圧電アクチュエータ545の駆動に応じて液体吐出ヘッド51内でインクを揺動させる前記制限駆動制御CX1において加温されたインクの温度を、ヘッド加温器57によって長期間にわたって維持させることができる。
【0093】
次に、制御部90は、通信部82を介して画像データが入力されたか否かを判定する(ステップb5)。画像データが入力された場合(ステップb5でYES)、制御部90は、キャップユニット70を制御対象としたキャップ退避制御CY2を実行する(ステップb6)と共に、液体吐出ヘッド51を制御対象とした液体吐出制御CX2を実行する(ステップb7)。
【0094】
キャップ退避制御CY2において、制御部90は、キャップ部72が液体吐出ヘッド51の液体吐出面535Sに対してY方向に退避した退避位置に配置されるように、キャップ移動機構73を介してキャップユニット70を制御する。既述の通り、キャップユニット70が前記退避位置に配置された状態においては、キャップ部72が装置本体10に設けられたキャップ当接部材10Aに当接される(
図8参照)。これにより、キャップユニット70が前記退避位置に配置された状態において、キャップ部72に異物等が付着することを防止することができる。
【0095】
液体吐出制御CX2において、制御部90は、画像データに対応して液体吐出ヘッド51の液体吐出孔535からインクが吐出されるように、圧電アクチュエータ545を駆動させる。具体的に、制御部90は、
図8に示すように、パルスを含む駆動信号としての吐出制御信号CS2を、圧電アクチュエータ545を構成する個別電極544に供給する。前記吐出制御信号CS2は、液体吐出孔535からのインクの吐出が可能となるように、個別電極544の電位及びパルス幅が設定された駆動信号である。前記吐出制御信号CS2は、圧電アクチュエータ545の駆動のさせ方に応じて複数の種類が存在する。例えば、複数の液体吐出孔535の各々がシートS上にどのサイズの画素を形成するインク滴を吐出するかに応じて、対応する吐出制御信号CS2が、複数の液体吐出孔535の各々に対応する圧電アクチュエータ545の個別電極544に供給される。
【0096】
個別電極544に前記吐出制御信号CS2が供給されることにより圧電アクチュエータ545が駆動されると、それに応じて圧電アクチュエータ545を構成する第1圧電セラミック層541及び第2圧電セラミック層542が変位することに伴って液体加圧室533内の圧力が変化し、その液体加圧室533に対応する液体吐出孔535からインクが吐出される。これにより、画像データに対応した画像が、シート搬送ユニット40によって搬送されるシートS上に記録される。
【0097】
例えば、液体吐出ヘッド51の液体吐出孔535からインクが大量に吐出される場合などに、前記液体吐出制御CX2の実行中において、液体吐出ヘッド51内で加温されたインクの全量が消費される場合が生じ得る。この場合、前記液体吐出制御CX2の実行がそのまま継続されると、加温されていないインクが液体吐出孔535から吐出される可能性があり、液体吐出不良の現象が生じ得る。このような現象を回避するために、制御部90は、前記液体吐出制御CX2の実行中において、ヘッド温度検知センサ56の検知結果が前記基準温度STよりも低い値を示すか否か、すなわち、液体吐出ヘッド51のヘッド温度が前記基準温度ST未満であるか否かを判定する(ステップb8)。制御部90は、前記ヘッド温度が前記基準温度ST未満である場合(ステップb8でYES)には、ステップb9からステップb15までの各処理を実行する。一方、前記ヘッド温度が前記基準温度ST以上である場合(ステップb8でNO)には、制御部90は、ステップb9からステップb15までの各処理の実行を省略し、次のステップb16に処理を移行する。
【0098】
前記ヘッド温度が前記基準温度ST未満である場合、制御部90は、液体吐出制御CX2を一時停止させて(ステップb9)、当該液体吐出制御CX2に優先して、キャップユニット70を制御対象としたキャップ制御CY1を実行する(ステップb10)と共に、液体吐出ヘッド51を制御対象とした制限駆動制御CX1を実行する(ステップb11)。
【0099】
キャップ制御CY1において、制御部90は、キャップ部72が液体吐出ヘッド51の液体吐出面535Sに被せられるようにキャップ移動機構73を介してキャップユニット70を制御する。制限駆動制御CX1において、制御部90は、液体吐出ヘッド51の各液体吐出孔535からのインクの吐出を規制可能な範囲で当該各液体吐出孔535の内側でインクが揺動するように、複数の液体吐出孔535の各々に対応した複数の圧電アクチュエータ545の全てを駆動させる。具体的に、制御部90は、パルスを含む駆動信号としての前記制限駆動制御信号CS1を、各圧電アクチュエータ545を構成する各個別電極544に供給する。既述の通り、個別電極544に前記制限駆動制御信号CS1が供給されることにより圧電アクチュエータ545が駆動されると、その駆動によって圧電アクチュエータ545が熱を発する。また、圧電アクチュエータの駆動に応じたインクの揺動によって、インク自身も熱を発する。これらの熱によって液体吐出ヘッド51内のインクを、短時間で加温することができる。
【0100】
前記キャップ制御CY1及び前記制限駆動制御CX1の実行中において、制御部90は、ヘッド温度検知センサ56の検知結果に基づいて、当該検知結果が前記基準温度ST以上の値を示すか否か、すなわち、液体吐出ヘッド51のヘッド温度が前記基準温度STに達したか否かを判定する(ステップb12)。液体吐出ヘッド51のヘッド温度が前記基準温度STに達した場合(ステップb12でYES)、制御部90は、前記制限駆動制御CX1を停止する(ステップb13)。換言すると、制御部90は、ヘッド温度検知センサ56の検知結果が前記基準温度ST以上の値を示すまで、前記制限駆動制御CX1を実行する。
【0101】
前記制限駆動制御CX1の停止後において、制御部90は、キャップ退避制御CY2を実行する(ステップb14)。キャップ退避制御CY2において、制御部90は、キャップ部72が液体吐出ヘッド51の液体吐出面535Sに対してY方向に退避した退避位置に配置されるように、キャップ移動機構73を介してキャップユニット70を制御する。キャップユニット70が前記退避位置に配置されると、制御部90は、ステップb9において一時停止させていた前記液体吐出制御CX2を再実行する(ステップb15)。
【0102】
以上のように、前記液体吐出制御CX2の実行中において液体吐出ヘッド51のヘッド温度が前記基準温度ST未満である場合、制御部90は、液体吐出制御CX2に優先してキャップ制御CY1及び制限駆動制御CX1を実行し、その後に、液体吐出制御CX2を再実行する。これにより、液体吐出制御CX2の実行中において、液体吐出ヘッド51の液体吐出孔535からのインクの吐出不良が生じることをより確実に抑制することができる。
【0103】
次に、制御部90は、通信部82を介して入力された画像データに対応した印刷処理(液体吐出ヘッド51によるインクの吐出処理)が終了したか否かを判定する(ステップb16)。印刷処理が終了していない場合(ステップb16でNO)には、制御部90は、ステップb7に処理を戻して前記液体吐出制御CX2の実行を継続する。一方、印刷処理が終了した場合(ステップb16でYES)には、制御部90は、液体吐出制御CX2を停止させる(ステップb17)。そして、制御部90は、通信部82による新たな画像データの受信が行われない状態が継続されて、所定の基準待機時間が経過したか否かを判定する(ステップb18)。前記基準待機時間は、例えば1分間に設定される。
【0104】
前記基準待機時間が経過した場合(ステップb18でYES)、制御部90は、キャップユニット70を制御対象としたキャップ制御CY1を実行する(ステップb19)。キャップ制御CY1において、制御部90は、キャップ部72が液体吐出ヘッド51の液体吐出面535Sに被せられるようにキャップ移動機構73を介してキャップユニット70を制御する。これにより、待機中において液体吐出ヘッド51内のインクが液体吐出孔535を通じて外気に曝されることをキャップ部72によって抑止することができる。このため、液体吐出ヘッド51内のインクが乾燥によって増粘する現象を抑制することができる。
【0105】
キャップ制御CY1の実行後において、制御部90は、通信部82による新たな画像データの受信が行われない状態が更に継続されて、所定のスリープ移行時間が経過したか否かを判定する(ステップb20)。前記スリープ移行時間が経過した場合(ステップb20でYES)、制御部90は、電源部80の電力供給状態が通常状態から第1スリープ状態に移行するように、スリープ移行制御CCを実行する。これにより、記録装置1の省電力化を図ることができる。
【符号の説明】
【0106】
1 記録装置(液体吐出装置)
50 記録部
51 液体吐出ヘッド
535 液体吐出孔
535S 液体吐出面
54 圧電アクチュエータ基板
545 圧電アクチュエータ
56 ヘッド温度検知センサ
57 ヘッド加温器
70 キャップユニット
71 キャップトレイ
72 キャップ部
80 電源部
90 制御部
CA 電源投入制御
CB 通常制御
CC スリープ移行制御
CD スリープ復帰制御
CX1 制限駆動制御
CX2 液体吐出制御
CY1 キャップ制御
CY2 キャップ退避制御