(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】耐火材損耗評価装置
(51)【国際特許分類】
F27D 21/00 20060101AFI20240709BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20240709BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
F27D21/00 Q
G01B11/00 H
F27D1/00 V
(21)【出願番号】P 2020101377
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】落合 勉
(72)【発明者】
【氏名】諸井 大嗣
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-294157(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101067550(CN,A)
【文献】特開2009-068982(JP,A)
【文献】特開昭58-037507(JP,A)
【文献】中国実用新案第201059963(CN,Y)
【文献】米国特許出願公開第2009/0237678(US,A1)
【文献】特開2018-185253(JP,A)
【文献】特開平09-020906(JP,A)
【文献】特開2007-212430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 17/00 - 99/00
F27D 1/00 - 1/18
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業炉の鉄皮内側にライニングされた耐火材に光を照射して反射光のデータを取得する撮影部と、
前記撮影部によって取得された反射光のデータに所定の処理を行って3次元画像データを生成する3次元画像データ生成部と、
前記工業炉内にライニングされた前記耐火材の表面までの距離を算出するための基準位置を算出可能な形状を有する板状の測定基準器と、
前記撮影部を移動可能に支持する支持部と、
前記3次元画像データに基づいて、前記耐火材の損耗を評価する評価処理部と、
を備え、
前記支持部は、前記測定基準器が前記工業炉に設置された状態で前記耐火材全体と前記測定基準器とが前記撮影部の撮影範囲に含まれるように前記撮影部を移動させ、
前記評価処理部は、前記耐火材全体と前記測定基準器とが撮影範囲に含まれた前記3次元画像データに基づいて、前記測定基準器の形状から前記工業炉の前記基準位置を算出し、算出した当該基準位置から前記耐火材表面までの寸法を算出する、
耐火材損耗評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火材損耗評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘導炉等の工業用炉の鉄皮内側にライニングされた耐火材の損耗の程度を評価する場合、人が炉内に入り、メジャー等を用いて測定を行っていた。しかし、操業の関係上、炉内が高温のまま、耐火材の損耗を評価することが必要な場合があり、評価作業の安全性の確保が難しい場合があった。また、測定基準となる炉の中心軸の位置が、耐火材の損耗によって、明確ではなくなってしまい、耐火材の損耗を正確に評価することが難しいという問題もあった。
特許文献1には、転炉の内側にライニングされた耐火材の損耗の程度を、基準点を設けずに評価する方法が記載されている。具体的には、特許文献1では、各撮像部位の2次元の撮像範囲において撮像対象までの距離を計測することのできるプロフィールメーターを備え、当該プロフィールメーターによって、炉口により近い前進位置と、炉口からより遠い後退位置とから撮像する。これにより、基準点を設けなくても、耐火材の表面形状を測定可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、2次元カメラによって測定を行っているため、十分に正確な測定をすることは難しいという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、安全性を確保しつつ、より正確に耐火材の損耗程度を評価することができる耐火材損耗評価装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る耐火材損耗評価装置は、工業炉の鉄皮内側にライニングされた耐火材に光を照射して反射光のデータを取得する撮影部と、前記撮影部によって取得された反射光のデータに所定の処理を行って3次元画像データを生成する3次元画像データ生成部と、前記工業炉内にライニングされた前記耐火材の表面までの距離を算出するための基準位置を算出可能な形状を有する板状の測定基準器と、前記撮影部を移動可能に支持する支持部と、前記3次元画像データに基づいて、前記耐火材の損耗を評価する評価処理部と、を備え、前記支持部は、前記測定基準器が前記工業炉に設置された状態で前記耐火材全体と前記測定基準器とが前記撮影部の撮影範囲に含まれるように前記撮影部を移動させ、前記評価処理部は、前記耐火材全体と前記測定基準器とが撮影範囲に含まれた前記3次元画像データに基づいて、前記測定基準器の形状から前記工業炉の前記基準位置を算出し、算出した当該基準位置から前記耐火材表面までの寸法を算出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る耐火材損耗評価装置によれば、支持部により、測定基準器が工業炉に設置された状態で耐火材全体と当該測定基準器とが撮影部の撮影範囲に含まれるように撮影部を移動させることができる。そのため、炉内が高温の状態で人が炉内に入る必要がないため、安全性を確保することができる。また、測定基準器の形状から工業炉の基準位置を算出し、算出した当該基準位置から耐火材表面までの寸法を算出することができる。そのため、耐火材の損耗によって測定基準となる炉の中心軸の位置が外見上明確ではなくなっていても、測定基準器の形状から基準位置を算出できる。これにより、算出された当該基準位置を用いて、より正確に耐火材の損耗程度を評価することができる。よって、安全性を確保しつつ、より正確に耐火材の損耗程度を評価することができる耐火材損耗評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る耐火材損耗評価装置を示す部分断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る測定基準器について説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態1について説明する。ただし、本発明は以下の実施の形態1に限定されるものではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0010】
図1は、本実施の形態1に係る耐火材損耗評価装置100の一例を示す概略図である。耐火材損耗評価装置100は、工業炉200の鉄皮201の内側にライニングされた耐火材202の損耗の程度を評価する装置である。耐火材202が損耗する範囲の一例を、
図1の一点鎖線で示す。工業炉200は、例えば、
図1に示す誘導炉であり、鉄皮201、耐火材202等を備える。鉄皮201は、ヨーク部201A、コイル部201B等を備え、鉄皮201の内側に耐火材202がライニングされている。鉄皮201は、実質的に円筒形状を有している。そして、略円筒形状のヨーク部201Aの内側に沿って、コイル部201Bが配置されている。また、コイル部201Bの内側に耐火材202が所定の厚さでライニングされている。また、コイル部201Bの円筒に囲まれた底部にも耐火材202が所定の厚さでライニングされている。これにより、耐火材202は、溶解する銅合金等の金属を収容する溶解炉を形成している。また、耐火材202によって形成された溶解炉の底部と反対側は開口されており、溶解炉の開口部側の耐火材202及び鉄皮201の端面を開口端面と称する。なお、本発明において、工業炉は
図1に示す誘導炉に限定されるものではなく、炉の内側に耐火材202が形成されるものであればよい。
【0011】
耐火材損耗評価装置100は、
図1に示すように、撮影部としての3D光学スキャナ101、3次元画像データ生成部としての3D光学スキャナ処理装置102、測定基準器103、抑え部104、支持部としてのロボットアーム105、評価処理部としての処理装置106等を備える。
【0012】
3D光学スキャナ101は、ロボットアーム105に支持された状態で、工業炉200の鉄皮201内側にライニングされた耐火材202に光を照射して反射光のデータを取得する。具体的に、3D光学スキャナ101は、例えば、ライン状のレーザ光を耐火材202の表面を走査しながら照射し、耐火材202からの反射光をカメラで撮影することにより、複数の反射光のデータを取得する。なお、耐火材202を含む測定対象物に対して3D光学スキャナ101が照射するレーザ光はライン状のレーザ光に限定されるものではなく、例えば、特定のパターン(例えば、縞模様等のパターン)を有するように変調された光であってもよい。
【0013】
3D光学スキャナ処理装置102は、3D光学スキャナ101によって取得された複数の反射光のデータに所定の処理を行って3次元画像データを生成する。例えば、3D光学スキャナ101がライン状のレーザ光を耐火材202に照射した場合、3D光学スキャナ処理装置102は、三角法を用いて反射光のデータから測定対象物(例えば、耐火材202)までの距離を算出する。3D光学スキャナ101が耐火材202の表面を走査しながら反射光のデータを取得するため、3D光学スキャナ処理装置102は、耐火材202を含む測定対象物の表面全体に対して、当該測定対象物までの距離を算出する。これにより、3D光学スキャナ処理装置102は、耐火材202を含む測定対象物の3次元画像データを生成する。
【0014】
測定基準器103は、工業炉200内にライニングされた耐火材202の表面までの距離を計測するための基準位置を算出可能な形状を有する。
図2に、測定基準器103の一例を示す。
図2に示す例では、測定基準器103は、平面視環状扇形を有する板状の部材103A、103B、103C、103Dを複数有する。また、各部材103A、103B、103C、103Dの外周側の形状は、測定基準器103は、工業炉200の中心軸を中心とする円の円弧と同じ外縁を有する板状の部材である。部材103Aと部材103Bとは互いに線対称な形状となっており、部材103Cと部材103Dとは互いに線対称な形状となっている。
測定基準器103は、耐火材損耗評価装置100が耐火材202の損耗の程度を評価する際、耐火材202の開口端面の上及び鉄皮201の開口端面の上に設置される。測定基準器103の内周側の形状(内縁形状)は、耐火材202(溶解炉)の開口部の形状と実質的に同形状となっている。これにより、測定基準器103を工業炉200上に設置する際に、測定基準器103の内周側の縁部を溶解炉の開口部に合わせることにより、測定基準器103の位置決めを行うことができる。
また、部材103A、103B、103C、103Dは、この順で、時計回り方向に、工業炉200の上に設置される。部材103A、103B、103C、103Dが工業炉200上に設置された際、部材103Cと部材103Dとの間隔は、他の部材同士の間隔に比べて大きく開いている。これにより、部材103Cと部材103Dとの間には、例えば、工業炉200の取り出し口等の比較的大きく耐火材202及び鉄皮201の開口端面よりも上側に突出する部分が位置することができる。
なお、測定基準器103の形状は、
図2に示す形状に限定されるものではなく、工業炉200の形状に応じて、基準位置を算出可能な形状であればよい。また、測定基準器103を工業炉200上に設置する際の位置決めも、上記に例示した態様に限定されるものではない。例えば、測定基準器103の工業炉200側の面に、工業炉200上の設置面に嵌合可能な凹凸を設けて、測定基準器103を工業炉200上に設置する際の位置決めを行ってもよい。
【0015】
抑え部104は、工業炉200上に設置された測定基準器103が動かないように抑える役割を果たす。
【0016】
ロボットアーム105は、3D光学スキャナ101を移動可能に支持する。具体的には、ロボットアーム105は、台座部105A、複数のアーム部105B、複数の回動軸部105C、3D光学スキャナ101を把持可能な把持部105Dを備える。そして、ロボットアーム105は、2以上の回動軸で作動可能となっている。
そして、ロボットアーム105は、図示しない制御部によって制御され、測定基準器103が工業炉200上に設置された状態で、耐火材202全体と測定基準器103とが3D光学スキャナ101の撮影範囲R(
図1の破線で示す範囲)に含まれるように当該3D光学スキャナ101を移動させる。ロボットアーム105によって3D光学スキャナ101が移動されることにより、3D光学スキャナ101は、耐火材202の表面上を走査することができる。
なお、本実施の形態1では、本発明に係る支持部としてロボットアーム105を例示したが、本発明に係る支持部は2以上の互いに直交する軸に沿って作動可能なローダー(直交ロボット)であってもよい。
【0017】
処理装置106は、例えば、3D-CADソフト等を備え、3D光学スキャナ処理装置102が生成した3次元画像データに基づいて、耐火材202の損耗の程度を評価する。具体的には、処理装置106は、耐火材202全体と測定基準器103とが撮影範囲Rに含まれた3次元画像データに基づいて、測定基準器103の外周側の形状(外縁形状)から工業炉200の中心軸の位置(基準位置)を算出する。また、処理装置106は、当該3次元画像データに基づいて、算出した当該中心軸から耐火材202の表面までの寸法を算出する。そして、処理装置106は、算出された寸法が、当該中心軸から耐火材202の表面までの寸法の初期値からどの程度増加したかに基づいて、耐火材202の損耗の程度を評価する。
【0018】
以上に説明した本実施の形態1に係る耐火材損耗評価装置100によれば、ロボットアーム105により、測定基準器103が工業炉200に設置された状態で耐火材202全体と当該測定基準器103とが3D光学スキャナ101の撮影範囲Rに含まれるように3D光学スキャナ101を移動させることができる。そのため、工業炉200内が高温の状態で人が炉内に入る必要がないため、安全性を確保することができる。また、測定基準器103の外縁形状から工業炉200の中心軸の位置(基準位置)を算出し、算出した当該中心軸から耐火材202表面までの寸法を算出することができる。そのため、耐火材202の損耗によって測定基準となる工業炉200の中心軸の位置が外見上明確ではなくなっていても、測定基準器103の外縁形状から中心軸の位置(基準位置)を算出できる。これにより、算出された当該中心軸の位置を用いて、より正確に耐火材202の損耗程度を評価することができる。よって、安全性を確保しつつ、より正確に耐火材202の損耗程度を評価することができる耐火材損耗評価装置100を提供することができる。
【0019】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0020】
100 耐火材損耗評価装置
101 3D光学スキャナ(撮影部)
102 3D光学スキャナ処理装置(3次元画像データ生成部)
103 測定基準器
105 ロボットアーム(支持部)
106 処理装置(評価処理部)
200 工業炉
201 鉄皮
201A ヨーク部
201B コイル部
202 耐火材