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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ICタグの設計方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 9/26 20060101AFI20240709BHJP
   H01Q 1/38 20060101ALI20240709BHJP
   H01Q 1/50 20060101ALI20240709BHJP
   H01Q 9/28 20060101ALI20240709BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H01Q9/26
H01Q1/38
H01Q1/50
H01Q9/28
G06K19/077 280
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020104497
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021197679
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】朝香 聖成
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/110382(WO,A1)
【文献】特開2012-217042(JP,A)
【文献】特開2012-198589(JP,A)
【文献】特開2011-188039(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0283694(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0249306(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 9/26
H01Q 1/38
H01Q 1/50
H01Q 9/28
G06K 19/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICタグの設計方法であって、
前記ICタグは、少なくとも、ICチップと、アンテナ回路を備え、前記アンテナ回路が、前記ICチップに接続される給電点を有する整合ループ回路と、放射アンテナ部を有し、前記放射アンテナ部が、前記整合ループ回路と電磁結合するコの字形部を中央に有し、前記コの字形部の左右に、順次に接続した、メアンダラインとキャパシタハットを有し、前記キャパシタハットの面積が前記メアンダラインの配線の面積の半分以上2倍以下であり、
前記メアンダラインの配線の面積に対する前記キャパシタハットの面積の比を、前記メアンダラインのライン間隔に応じて定めて前記放射アンテナ部を設計することを特徴とする、
ICタグの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDシステムなどに用いられるICタグ及びICタグの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RFIDシステムに用いられるICタグで、特にUHF帯(300MHz~3GHz)の電磁界を利用するICタグは、値札、リテール商品などの貼り付け対象物の大きさが限られる製品の識別用途や、インクカートリッジの識別用や、電化製品の個別包装の識別用や、セキュリティ商材、高級商材の識別用に利用する事ができる。
【0003】
UHF帯のICタグは、物品の表面等に実装して使用できるような平面状のタグである。このICタグのアンテナ設計において、1つの例として、半波長ダイポールアンテナを基本とする設計手法に基づいて設計を行う。このICタグは、薄い誘電体基板の上に、電波信号を送受信するためのダイポールアンテナ(以下、単にアンテナとも記す)とICチップ、メモリー等を組み込んで一体化する。このICタグでは、アンテナ長を送受信用電波の波長λの半分(λ/2)に設定することにより良好な利得を得ることができる。
【0004】
電波信号の送受信を効率的に行うには、アンテナ長を最適化するとともに、アンテナの複素インピーダンスZとICチップの複素インピーダンス(以下、単にインピーダンスとも記す)を複素共役関係にするのが望ましい。図3のアンテナの等価回路で、アンテナの複素インピーダンスZは、抵抗Rの実数成分と、インダクタンス成分(L成分)と容量成分(C成分)で表される虚数成分のリアクタンスXの和で表される。
【0005】
特許文献1では、アンテナの複素インピーダンスZとICチップの複素インピーダンスZの虚数成分Xのリアクタンスを打ち消すように調整するために、アンテナ回路をICチップに接続する部分に環状のループ回路(以下、整合ループ回路と記す)を設けたアンテナ回路を用いている。
【0006】
また、ICタグのアンテナは2分の1波長よりも短い小型のアンテナにするために、メアンダラインなどでアンテナの長さを調整して設計を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-198589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術では、足りないアンテナの長さを計算してメアンダラインL(mia)の長さを決めている。しかし、その際に以下の現象を考慮する必要があった。
(1)メアンダラインL(mia)自体が誘導性リアクタンス(L成分)であることと。
(2)メアンダラインL(mia)間で密接している部分が容量性リアクタンス(C成分)であること。
(3)メアンダの折り返し部が、電流の向きが逆になるため(逆位相)打ち消しあう。
【0009】
以上の現象があるため、足りないアンテナの長さを計算してメアンダラインを配置するだけでは、ライン間カップリングであるキャパシタのリアクタンス成分が大きくなり、単純な長さだけの設計では、複素インピーダンスZの虚数成分Xを打ち消すアンテナ周波数
が所望の設計周波数にはならない。そのように、アンテナ回路2の複素インピーダンスZは、多くの要因に影響されるので、その虚数成分のリアクタンス成分Xを計算式で表すことが難しく、アンテナ回路の設計が難しいという問題があった。
【0010】
そのため本発明の課題は、上記問題を解決し、アンテナ回路が容易に設計できるICタグを提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るICタグは、少なくとも、ICチップと、アンテナ回路を備え、
前記アンテナ回路が、前記ICチップに接続される給電点を有する整合ループ回路と、放射
前記放射アンテナ部が、
前記整合ループ回路と電磁結合するコの字形部を中央に有し、
前記コの字形部の左右に、順次に接続した、メアンダラインとキャパシタハットを有し、
前記キャパシタハットの面積が前記メアンダラインの配線の面積の半分以上2倍以下であることを特徴とするICタグである。
本発明は、上記のICタグの設計方法であって、前記メアンダラインの配線の面積に対する前記キャパシタハットの面積の比を、前記メアンダラインのライン間隔に応じて定めて前記放射アンテナ部を設計することを特徴とするICタグの設計方法である。
【0012】
本発明は、この構成により、アンテナ回路の設計が容易になり、ICタグの製造コストが低減できる効果がある。
【0013】
本発明に係るICタグにおいては、前記アンテナ回路の複素インピーダンスの虚数成分の値が、前記ICチップの複素インピーダンスの虚数成分の値を打ち消していてもよい。
【0014】
本発明に係るICタグにおいては、前記アンテナ回路の複素インピーダンスの実数成分の値が、前記ICチップの複素インピーダンスの実数成分の値の2分の1以上2倍以下であってもよい。
【0015】
本発明に係るICタグにおいては、前記メアンダラインの長さが、アンテナ共振波長の2分の1波長であってもよい。
【0016】
本発明に係るICタグにおいては、前記整合ループ回路の、アンテナ方向に垂直な、左右の辺と前記コの字形部の左右の辺の間隙を小さくすることで、前記整合ループ回路の左右の辺と前記コの字形部の左右の辺が電磁結合していてもよい。
【0017】
本発明に係るICタグにおいては、前記コの字形部の配線の長さ及び前記整合ループ回路の配線の長さを調整することで、前記アンテナ回路の複素インピーダンスの虚数成分Xと、前記ICチップの複素インピーダンスの虚数成分を相殺させていてもよい。
【0018】
本発明に係るICタグにおいては、前記整合ループ回路と前記コの字形部が、電気接続配線で接続されていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のICタグは、アンテナ回路を、ICチップに接続される給電点を有する整合ループ回路と、放射アンテナ部で構成し、放射アンテナ部を、その中央に、整合ループ回路と電磁結合するコの字形部を有し、コの字形部の左右に、順次に接続した、メアンダラインとキャパシタハットを有する放射アンテナ部に構成し、メアンダラインの配線の面積とキャパシタハットの面積を概ね等しくする構成を持つ。
【0021】
この構成により、本発明のICタグは、そのアンテナ回路の設計が容易になり、それにより、ICタグの製造コストが低減できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)本発明の実施形態のICタグの平面図である。(b)本発明の実施形態のICタグの断面模式図である。
図2】本発明の実施形態のICタグのアンテナ回路の平面図の中央部分を拡大して示した図である。
図3】本発明の実施形態のICタグのアンテナ回路の等価回路の説明図である。
図4】本発明の実施形態のICタグのアンテナ回路の複素インピーダンスZのスミス図である。
図5】本発明の実施形態のICタグのアンテナ回路の利得の周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。図1(a)は本実施形態のICタグの平面図であり、図1(b)は断面模式図である。図1(b)のように、ICタグは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)またはPEN(ポリエチレンナフタレート)により形成された可撓性を有するアンテナ基材1にアンテナ回路2が形成されている。アンテナ基材1の厚さは、例えば、20μm~100μmの範囲から適宜選択されるが50μm程度が好ましい。
【0024】
そして、アンテナ回路2の整合ループ回路10のICチップ接続部11にICチップ3を電気接続し、そのアンテナ回路2とICチップ3を備えたアンテナ基材1をカバー材4で覆ってICタグを製造している。
【0025】
図1(a)の平面図の様に、アンテナ回路2の配線パターンがアンテナ基材1の表面に形成されている。アンテナ回路2の材料は任意に選択できるが、例えば、アンテナ基材1の表面に形成されたアルミニウム箔や銅箔等の金属箔をエッチングしてパターニングする等で所定の配線パターンに形成したアンテナ回路2を形成する事ができる。また、ワイヤー等からなるアンテナ回路2、導電性繊維、導電性ペーストなどで形成するアンテナ回路2を用いることもできる。
【0026】
アンテナ回路2は、ICチップ3に接続される矩形状の整合ループ回路10と放射アンテナ部20とで構成し、整合ループ回路10とアンテナ部20のコの字形部21を1本の電気接続配線12で接続する。
【0027】
アンテナ回路2の放射アンテナ部20は、図1(a)の様に、整合ループ回路10の外側に近接させて電磁結合させたコの字形部21と、それから左右に伸びるパターンで形成し、UHF帯(300MHz~3GHz、特に860MHz~960MHz)に対応したパターンに設計する。
【0028】
アンテナ回路2の整合ループ回路10の中央部の回路パターンの端部にICチップ接続部11を形成し、そのICチップ接続部11にICチップ3を電気接続する。その整合ループ回路10の、ICチップ接続部11を形成した辺と対向する辺の中央部を、1本の電気接続配線12で、放射アンテナ部20のコの字形部21の中央部と電気接続する。
【0029】
(整合ループ回路10)
アンテナ回路2に、四角形状の整合ループ回路10を形成する。整合ループ回路10は、放射アンテナ部20のコの字形部21の中央部から遠い側のアンテナ方向と平行な辺の中央部に、ICチップ接続部11として、幅を広げた配線の端部を形成する。
【0030】
そのICチップ接続部11に、エポキシ樹脂と金属微粒子を主成分とする異方導電性ペーストを塗布し、その上部からベアチップのICチップ3を載置し加圧した状態で過熱することでICチップ3の電極とICチップ接続部11とを電気的接続する。
【0031】
ICチップ3とICチップ接続部11の接続は、異方導電性ペースト以外にワイヤーボンディング、フリップチップ接続等があるが、ベアチップを使用するのかモジュールタイプのICチップ3を使用するのかなど接続端子数や許容面積に依存して適宜選択することができる。
【0032】
(放射アンテナ部20)
図1(a)の様に、放射アンテナ部20は、整合ループ回路10を囲むコの字形部21から左右対称に伸ばすメアンダラインL(mia)とキャパシタハットC(ant)のパターンで形成する。放射アンテナ部20は、アンテナ長が半波長よりも短い小型アンテナにする。
【0033】
メアンダラインL(mia)のパターンがインダクタンス成分(L成分)になるが、アンテナ長が半波長より短いと、容量性リアクタンス(C成分)が増えてしまう。その容量成分と、キャパシタハットC(ant)の容量成分(C成分)が合わされてアンテナの容量性リアクタンス(C部)になる。
【0034】
(整合ループ回路10と放射アンテナ部20を電磁結合させる)
図1(a)の平面図のアンテナ回路2の中央部分を拡大した図を図2に示す。図2の様に、整合ループ回路10の、アンテナ方向に垂直な左右の電磁結合辺13を、放射アンテナ部20のコの字形部21の左右の電磁結合部21aと21bに、電磁結合間隙dを隔てて対向させて電磁結合させる。整合ループ回路10の左側の電磁結合辺13のが左側電磁結合辺13aであり、右側の辺が右側電磁結合辺13bである。
【0035】
具体的には、整合ループ回路10の左右の電磁結合辺13と放射アンテナ部20のコの字形部21の左右の電磁結合部21a、21bとの電磁結合間隙dを2mm以下にする。整合ループ回路10の電磁結合辺13の長さa1は、放射アンテナ部20の高さLymia=Cyantの2分の1以上にすることが好ましい。これにより、整合ループ回路10の電磁結合辺13a、13bと放射アンテナ部20のコの字型の電磁結合部21a、21bを確実に電磁界結合させることができる。
【0036】
(整合ループ回路10と放射アンテナ部20のコの字形部21の長さでインピーダンスを調整する)
図3のアンテナの等価回路で、アンテナの複素インピーダンスZは、抵抗Rの実数成分と、インダクタンス成分(L成分)と容量成分(C成分)で表される虚数成分のリアクタンスXの和で表される。ICチップ3から見たアンテナ回路2の複素インピーダンスZの虚数成分Xと、ICチップ3の複素インピーダンスの虚数成分がキャンセルするように、
放射アンテナ部20のコの字形部21の長さ及び整合ループ回路10の配線パターンの長さを調整してアンテナ回路2の複素インピーダンスを調整する。
【0037】
また、アンテナ回路2の複素インピーダンスの実数成分(実抵抗R)をICチップ3の複素インピーダンスの実数成分(実抵抗)に近付ける。ここで、アンテナ回路2の複素インピーダンスの実数成分とICチップ3の実数成分は、一致するのが望ましいが、厳密に一致させることは必要でなく、両者の比が2倍以下で2分の1以上の範囲内なら問題ない。
【0038】
(アンテナ回路2の設計指針)
アンテナ回路2の配線幅は任意に選択でき、例えば、放射アンテナ部の配線幅として0.1mm~5.0mmが挙げられ、より好ましくは0.2mm~1.0mmなどが挙げられる。
【0039】
左右の各々のメアンダラインL(mia)の全長を、以下の設計指針に従って定める。
(設計指針1)
メアンダラインL(mia)の長さを、アンテナが送受信する電磁波の2分の1波長にダイポールアンテナの短縮率0.9を掛け算した長さに設計する。
【0040】
例えば、放射アンテナ部20から920MHzの電磁界を放射するアンテナ回路2として、その電磁界の2分の1波長の163mmの長さに短縮率0.9を掛け算した長さのメアンダラインL(mia)を設計する。詳しくは、メアンダラインL(mia)の長さを、図1(a)の様に、16mmの高さのLymiaを5往復して概ね160mmの長さになるように設計する。
【0041】
(設計指針2)
メアンダラインL(mia)は往復で逆位相になると考え、メアンダラインL(mia)の端部をアンテナ中心になるように設計する。
【0042】
(設計指針3)
中心に設置するICチップ3の位置で電流が最大値になるように設計する。これは、放射アンテナ部20と整合ループ回路10の電流を電磁界シミュレーションにより求め、整合ループ回路10において、ICチップ3を実装する中心位置で電流が最大になるように設計する。
【0043】
(設計指針4)
リアクタンスの、容量成分(C成分)のキャパシタハットC(ant)の面積と、インダクタンス成分(L成分)のメアンダラインL(mia)の面積を概ね同じにしたパターンに設計する。
【0044】
すなわち、メアンダラインL(mia)のライン間隔(ラインのピッチ)が1mmの場合は、メアンダラインL(mia)のアンテナ方向の長さからライン間隙の総和を差し引いた残りの長さLxmiaと、メアンダラインL(mia)の高さLymiaの積、すなわち、メアンダラインL(mia)の配線の面積をキャパシタハットC(ant)の面積と概ね等しい放射アンテナ部20を設計する。
【0045】
メアンダラインL(mia)のライン間隔(ラインのピッチ)が1mmと異なる場合は、その間隔による補正係数であるスリット係数Slitを定め、メアンダラインL(mia)のアンテナ方向の長さからライン間隙の総和を差し引いた残りの長さLxmiaと、メアンダラインL(mia)の高さLymiaの積、すなわち、メアンダラインL(mia)の配線の面積に
スリット係数Slitを掛け算した値の面積を持つキャパシタハットC(ant)を持つ放射アンテナ部20を設計する。すなわち、メアンダラインL(mia)の配線の面積とキャパシタハットC(ant)の面積の比を、メアンダラインL(mia)のライン間隔(ラインのピッチ)に応じて定めて放射アンテナ部20を設計する。
【0046】
こうして、キャパシタハットC(ant)の面積を、メアンダラインL(mia)の配線の面積の半分以上2倍以下の面積に設計する。これにより、設計周波数でインダクタンス成分(L成分)と容量成分(C成分)で打ち消しあい、リアクタンスが概ね0になるアンテナ回路2が設計できる。
【0047】
例えば、放射アンテナ部20から920MHzの共振周波数で2分の1波長が163mmの電磁界を放射するアンテナ回路2として、図1(a)の様に、メアンダラインL(mia)の長さは、16mmの高さのLymiaを5往復して概ね160mmの長さになるように設計する。そのメアンダラインL(mia)のライン間隔(ラインのピッチ)を1mmにし、配線幅を0.5mmにし、ライン間隙を0.5mmにし、メアンダラインL(mia)のアンテナ方向の長さを約10mmに設計する。
【0048】
そして、キャパシタハットC(ant)は、アンテナ方向に垂直方向の幅CyantをメアンダラインL(mia)の16mmの高さLymiaと同じ16mmにし、アンテナ方向の長さCxantを5mmにして、キャパシタハットC(ant)の面積を、メアンダラインL(mia)のLxmiaと高さLymiaの積の面積と等しくする。
【0049】
それにより、放射アンテナ部20のアンテナ方向の全長a3を、コの字形部21の長さと合わせて44mm程度に設計する。また、整合ループ回路10の矩形の横の、アンテナ方向の長さa2は、コの字形部21に囲まれる長さの10mmに設計する。
【0050】
(設計指針5)
こうして、放射アンテナ部20の形を定めたアンテナ回路2の、ICチップ3から見た複素インピーダンスZをシミュレーションで計算する。すなわち、図4の様なスミス図の、アンテナ回路2の複素インピーダンスZのグラフg1、g2や、図5の様なアンテナ利得のグラフg1、g2をシミュレーションで計算する。そして、そのグラフg1やg2を、ICチップ3のインピーダンスの複素共役のグラフg0に近付ける。
【0051】
ここで、放射アンテナ部20のコの字形部21の配線の長さ及び整合ループ回路10の配線の長さを調整することで、シミュレーションで計算したアンテナ回路2の複素インピーダンスの虚数成分Xと、ICチップ3の複素インピーダンスの虚数成分を相殺させるように調整する設計を行う。
【0052】
コの字形部21の配線の長さ及び整合ループ回路10の配線の長さを調整することで、アンテナ回路2にICチップ3を接続した全体の回路でシミュレーションした回路の電流が、ICチップ3を接続したアンテナ回路2と接続するICチップ接続部11の位置で最大になるように調整する。そうすることで、アンテナ回路2の複素インピーダンスの虚数成分Xが、ICチップ3の複素インピーダンスの虚数成分を相殺させるように設計できる。
【0053】
また、放射アンテナ部20のコの字形部21と対向する、整合ループ回路10の電磁結合辺13の長さa1を調整することで、アンテナ回路2の複素インピーダンスの実数成分(実抵抗R)を微調整しICチップ3の複素インピーダンスの実数成分(実抵抗)に近付ける。ここで、アンテナ回路2の複素インピーダンスの実数成分とICチップ3の実数成分は、一致するのが望ましいが、厳密に一致させることは必要でなく、両者の比が2倍以
下で2分の1以上の範囲内なら問題ない。
【0054】
このように、整合ループ回路10のループ回路のアンテナ方向に垂直な方向の電磁結合辺13をコの字形部21の電磁結合部21a、21bを電磁結合させて構成した2重のループ回路を用いことで、そのコの字形部21の長さ及び整合ループ回路10の配線パターンの長さを調整できるようにする。
【0055】
それにより、キャパシタハットC(ant)による容量成分(C成分)のリアクタンスと、メアンダラインL(mia)のインダクタンス成分(L成分)のリアクタンスを合わせたリアクタンスXが、容易にICチップ3の複素インピーダンスの虚数成分をキャンセルするように調整し易いアンテナ回路2にする。
【0056】
また、整合ループ回路10のアンテナ方向に垂直な方向の電磁結合辺13を放射アンテナ部20のコの字形部21の電磁結合部21a、21bに対向させることで、それらの配線間の電磁結合間隙dを変えずに、また、整合ループ回路10のループ回路の配線の長さを変えずに、コの字形部21の配線の長さも変えずに、整合ループ回路10をアンテナ方向に垂直な方向に平行移動させる事ができる。
【0057】
その様に整合ループ回路10をアンテナ方向に垂直な方向に平行移動させる事で、整合ループ回路10にICチップ3を電気接続するICチップ接続部11の位置で電流が最大になるように調整して、アンテナ回路2の複素インピーダンスの虚数成分Xを、ICチップ3の複素インピーダンスの虚数成分を相殺させるように微調整する事ができる効果がある。
【0058】
こうして、整合ループ回路10のループ回路のアンテナ方向に垂直な方向の電磁結合辺13をコの字形部21の電磁結合部21a、21bを電磁結合させて構成した2重のループ回路を用いことで、アンテナ回路2の設計が容易になり、ICタグの製造コストを低減できる効果がある。
【0059】
以上の様に、本実施形態では、先ず、設計指針1から4に従って、キャパシタハットC(ant)による容量成分(C成分)と、メアンダラインL(mia)のインダクタンス成分(L成分)とが、設計周波数で概ね相殺するように設計する。
【0060】
次に、設計指針5に従って、放射アンテナ部20の余ったリアクタンス成分を、コの字形部21の長さ及び整合ループ回路10の配線パターンの長さを調整することで調整して、アンテナ回路2の複素インピーダンスZの虚数成分X(リアクタンス)が、ICチップ3の複素インピーダンスの虚数成分をキャンセルするように設計する。
【0061】
また、例えば、整合ループ回路10の矩形の縦の、電磁結合辺13の長さa1を8mmに設計し、放射アンテナ部20のコの字形部21の16mmの高さLymiaの半分にすることで、アンテナ回路2の複素インピーダンスの実数成分とICチップ3の実数成分の比を2倍以下で2分の1以上の範囲内に調整する。
【実施例
【0062】
図1(a)に示すように、920MHzの共振周波数で2分の1波長が163mmの電磁界を放射するアンテナ回路2として、設計指針1から4に従って、放射アンテナ部20を、メアンダラインL(mia)の長さを、16mmの高さのLymiaを5往復して概ね160mmの長さになるように設計した。そのメアンダラインL(mia)のライン間隔(ラインのピッチ)を1mmにし、配線幅を0.5mmにし、ライン間隙を0.5mmにし、メアンダラインL(mia)のアンテナ方向の長さを約10mmに設計した。
【0063】
次に、キャパシタハットC(ant)のアンテナ方向に垂直方向の幅Cyantを16mmにし、アンテナ方向の長さCxantを5mmに設計し、放射アンテナ部20の全長a3=44mmに設計した。そして、整合ループ回路10の電磁結合辺13の長さa1を8mmにし、アンテナ方向の長さa2を10mmに設計した。
【0064】
このアンテナ回路2を設計指針5に従ってシミュレーションした。ICチップ3から見た複素インピーダンスをシミュレーションで計算した結果を図4のスミスチャートに示す。すなわち、このアンテナ回路2の複素インピーダンスZの抵抗成分(実部R)及びリアクタンス成分(虚部X)の各周波数毎の値を図4のスミスチャートに示す。
【0065】
図4のスミスチャートでは、750MHzから1.2GHzまでの各周波数での各アンテナの複素インピーダンスの周波数特性のグラフg1、g2と、ICチップ3のインピーダンスに複素共役なインピーダンスの周波数特性のグラフg0を示す。図4のスミスチャートでは、アンテナの複素インピーダンスのリアクタンス成分の値を、グラフの横軸に接する円の群で表し、抵抗成分Rの値を、グラフの右端に接する円の群で表している。
【0066】
図5には、このシミュレーション結果の、アンテナの利得(dB)の周波数特性のグラフg1、g2を示す。また、ICチップ3のインピーダンスに複素共役なインピーダンスの周波数特性のグラフg0を示す。
【0067】
この図4図5の、シミュレーション結果のグラフを基準にして、放射アンテナ部20のコの字形部21の配線の長さ及び整合ループ回路10の配線の長さを調整しつつ、アンテナの複素インピーダンスの周波数特性のグラフg1、g2を、ICチップ3のインピーダンスに複素共役なインピーダンスのグラフg0に近付ける設計を行う。
【0068】
こうして、図4図5のグラフg1、g2で表されるアンテナ回路2の複素インピーダンスZを、使用する動作周波数fにおけるICチップ3のインピーダンスに複素共役なインピーダンスのグラフg0と±30%の範囲内で一致するようにアンテナ回路2を設定する。
【0069】
なお、本発明は、以上の実施形態で説明した構成のICタグに限定されず、整合ループ回路10の配線と放射アンテナ部20の配線の層を異なる層に形成する事もできる。また、アンテナ回路2の、矩形状の整合ループ回路10と放射アンテナ部20のコの字形部21を電気接続配線12で接続しないで、整合ループ回路10と放射アンテナ部20を直流的に絶縁した構成のICタグを構成することもできる。
【0070】
また、本発明は、整合ループ回路10の配線のアンテナ方向の配線を、コの字形部のアンテナ方向の配線と電磁結合させた構成のICタグを用いることもできる。
【符号の説明】
【0071】
1・・・アンテナ基材
2・・・アンテナ回路
3・・・ICチップ
4・・・カバー材
10・・・整合ループ回路
11・・・ICチップ接続部
12・・・電気接続配線
13・・・電磁結合辺
20・・・放射アンテナ部
21・・・コの字形部
21a・・・左側電磁結合部
21b・・・右側電磁結合部
a1・・・整合ループ回路の電磁結合辺の長さ
a2・・・整合ループ回路のアンテナ方向の長さ
a3・・・放射アンテナ部の全長
C(ant)・・・キャパシタハット
Cxant・・・キャパシタハットのアンテナ方向の長さ
Cyant・・・キャパシタハットのアンテナ方向に垂直方向の幅
d・・・電磁結合間隙
g0・・・ICチップのインピーダンスに複素共役なインピーダンスの周波数特性のグラフ
g1・・・第1のアンテナの複素インピーダンスZの周波数特性のグラフ
g2・・・第2のアンテナの複素インピーダンスZの周波数特性のグラフ
L(mia)・・・メアンダライン
Lxmia・・・メアンダラインの束のアンテナ方向の(ライン間スペースを除いた)長さ
Lymia・・・メアンダラインの束のアンテナ方向に垂直方向の幅
R・・・アンテナの抵抗成分
X・・・アンテナのリアクタンス成分
L・・・アンテナのインダクタンス
C・・・アンテナの容量
Z・・・アンテナの複素インピーダンス
ω・・・電磁界の角周波数
図1
図2
図3
図4
図5