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特許7516909積層体、その製造方法及びエアレスタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】積層体、その製造方法及びエアレスタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 7/00 20060101AFI20240709BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20240709BHJP
   B32B 37/26 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B60C7/00 H
B32B25/08
B32B37/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020108902
(22)【出願日】2020-06-24
(65)【公開番号】P2022006592
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】武田 亜衣
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-294933(JP,A)
【文献】特開昭55-152040(JP,A)
【文献】国際公開第2018/211734(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
B60C 7/00 - 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム層と樹脂層との積層体を含むエアレスタイヤであって、
前記ゴム層は、加硫ゴムからなり、
前記加硫ゴムは、表面処理層を含み、
前記表面処理層が、接着剤の層を介在することなく、前記樹脂層と直接接合されており、
前記表面処理層が塩素化された層である
エアレスタイヤ
【請求項2】
前記表面処理層の厚さが1~15(μm)である、請求項1に記載のエアレスタイヤ
【請求項3】
前記表面処理層の表面自由エネルギーが30~50(mJ/m2)である、請求項1又は2に記載のエアレスタイヤ
【請求項4】
前記樹脂層が熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂で形成される、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のエアレスタイヤ
【請求項5】
前記熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の融点が120~180(℃)である、請求項4に記載のエアレスタイヤ。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の引張弾性率が65~200(MPa)である、請求項4又は5に記載のエアレスタイヤ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のエアレスタイヤの製造方法であって、
前記ゴム層を形成するための加硫ゴム部材を準備する工程と、
前記加硫ゴム部材の少なくとも一部に前記表面処理層を形成する工程と、
前記加硫ゴム部材に接着剤を塗布することなしに、液状の樹脂を、前記加硫ゴム部材の前記表面処理層に接触させる工程と、
前記樹脂を硬化させて前記樹脂層と前記ゴム層とを接合させる工程とを含む、
エアレスタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム層と樹脂層とが積層された積層体、その製造方法及びエアレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴムと樹脂とを接着した積層体が、様々な用途に用いられている。近年では、エアレスタイヤの開発に、このような積層体が用いられている。
【0003】
エアレスタイヤは、車軸に固定されるハブ部と、地面に接触するトレッドリングと、ハブ部とトレッドリングとを接続する多数のスポークとを含んでいる。トレッドリングは、加硫ゴムで形成されている。一方、スポークは、樹脂材料で形成されている。これらは、接着剤を介して接合されている。したがって、スポークとトレッドリングとの積層部は、上述の積層体に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-165154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、加硫ゴムと樹脂材料とを接着する際には、先ず、樹脂材料の接着面が脱脂され、その後、プライマーの塗布やバフ研磨等による前処理が行われる。次に、接着面に接着剤が塗布された後に、接着剤を介して、樹脂材料と加硫ゴムとが接合される。この際、通常、接着剤に熱を加えて反応させる。
【0006】
以上のように、上述のような積層体を準備するためには、接着剤の塗布、その加熱、さらにはそれらを行うための環境設備が必要であった
【0007】
また、接着剤を加熱する際、加硫ゴムも間接的に加熱されてしまうところ、加硫ゴムは加硫後に再度加熱されると、物性が劣化するおそれもあった。
【0008】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、製造に際して工程や設備を簡素化でき、しかも、加硫ゴムの物性劣化を抑制することができる積層体、その製造方法及びエアレスタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴム層と樹脂層との積層体であって、前記ゴム層は、加硫ゴムからなり、前記加硫ゴムは、表面処理層を含み、前記表面処理層が、接着剤の層を介在することなく、前記樹脂層と直接接合されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る前記積層体において、前記表面処理層が塩素化された層であってもよい。
【0011】
本発明に係る前記積層体において前記表面処理層の厚さが1~15(μm)であってもよい。
【0012】
本発明に係る前記積層体において、前記表面処理層の表面自由エネルギーが30~50(mJ/m2)であってもよい。
【0013】
本発明に係る前記積層体において、前記樹脂層が熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂で形成されてもよい。
【0014】
本発明に係る前記積層体において、前記熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の融点が120~180(℃)であってもよい。
【0015】
本発明に係る前記積層体において、前記熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の引張弾性率が65~200(MPa)であってもよい。
【0016】
本発明は、上記いずれかに記載の積層体の製造方法であって、前記ゴム層を形成するための加硫ゴム部材を準備する工程と、前記加硫ゴム部材の少なくとも一部に前記表面処理層を形成する工程と、前記加硫ゴム部材に接着剤を塗布することなしに、液状の樹脂を、前記加硫ゴム部材の前記表面処理層に接触させる工程と、前記樹脂を硬化させて前記樹脂層と前記ゴム層とを接合させる工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明は、上記いずれかに記載の積層体を含む、エアレスタイヤであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の積層体、その製造方法及びエアレスタイヤは、上記の構成を採用したことにより、製造工程や設備を簡素化でき、しかも、加硫ゴムの物性劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】積層体の一例を示す部分断面図である。
図2】(A)~(D)は、本実施形態の積層体の製造方法を説明する断面図である。
図3】エアレスタイヤの一例を示す部分正面図である。
図4図3のIV-IV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0021】
[積層体の全体構造]
図1には、本実施形態の積層体1の部分断面図が示される。図1に示されるように、本実施形態の積層体1は、ゴム層2と樹脂層3とが積層されている。ゴム層2は、加硫ゴム2Gで構成されている。加硫ゴム2Gは、表面処理層4を含み、この表面処理層4が、接着剤の層を介在することなく、樹脂層3と直接接合されている。なお、図1において、符号Bは、ゴム層2と樹脂層3との間の界面を示している。
【0022】
[表面処理層]
表面処理層4は、ゴム層2(加硫ゴム2G)中の樹脂層3側に、局部的に形成されている。本実施形態の表面処理層4は、例えば、塩素化された層として形成されている。このような表面処理層4は、ゴム層2の中で塩素が存在している領域として特定され得る。
【0023】
表面処理層4は、例えば、樹脂層3と接合される前のゴム層2(加硫ゴム2G)の表面に、塩素系のプライマーを塗布することによって容易に形成される。このようなプライマーとしては、特に限定されないが、例えば、トリクロロイソシアルヌル酸を使用した製品名「ケムロック7701」(ロード・ファー・イーストコーポレーション社製)等がある。なお、プライマーを塗布するのに先立ち、ゴム層2の表面が脱脂されても良い。
【0024】
表面処理層4は、ゴム層2と樹脂層3との接合に、何らかの化学結合要素を生み出していると推察される。発明者らは、集束イオンビーム(FIB-SEM)にて種々の積層体1を分析した。その結果、ゴム層2と樹脂層3との接合をより強固にするためには、表面処理層4の厚さ(界面Bから測定される厚さ)は、1μm以上であるのが望ましいことが判明した。
【0025】
なお、表面処理層4の厚さが小さすぎると、ゴム層2の表面の凹凸が少なくなること、及び、接着に必要な反応因子が少なくなるため、樹脂層3との接合強度が十分に得られないおそれがある。また、意外にも、表面処理層4の厚さが大きすぎても、樹脂層3との接合強度が十分に得られないおそれがある。これは、ゴム層2の強度が小さくなり、ゴム層2が破壊することになって接着強度が小さくなるためと推察される。このような観点より、表面処理層4の厚さは、15μm以下とされるのが望ましい。なお、表面処理層4の厚さは、例えば、プライマーの塗布を繰り返す回数と正の相関があり、この塗布の回数によって調整が可能である。
【0026】
なお、ゴム層2の中に、表面処理層4とそれ以外の部分との明確な界面は現れないが、ゴム層2の中で、界面Bから最も離れた塩素の位置を特定し、それらを繋ぎ合わせることで、実質的に、表面処理層4の厚さを特定することができる。
【0027】
さらに、上記の積層体1の分析により、ゴム層2と樹脂層3との接合をより強固にするためには、表面処理層4の表面自由エネルギーが、30~50(mJ/m2)であるのが望ましいこと判明した。
【0028】
表面自由エネルギーが30(mJ/m2)以上に設定されることにより、表面処理層4の表面自由エネルギーを、ゴム層2(加硫ゴム2G)の表面自由エネルギーよりも大きくすることができる。これにより、表面処理層4の表面自由エネルギーと、樹脂層3の表面自由エネルギーとを近づけることが可能となる。その結果、本実施形態の積層体1は、ゴム層2及び樹脂層3を、表面処理層4を介して強固に接合することが可能となる。
【0029】
一方、表面自由エネルギーが50mJ/m2以下に設定されることにより、表面処理層4の表面自由エネルギーが必要以上に大きくなって、表面処理層4の表面自由エネルギーと、樹脂層3の表面自由エネルギーとが乖離するのを防ぐことができる。これにより、ゴム層2と樹脂層3との強固な接合が維持される。このような観点より、表面自由エネルギーは、好ましくは38(mJ/m2)以上であり、また、好ましくは、45(mJ/m2)以下である。
【0030】
本明細書において、表面自由エネルギー(mJ/m2)は、下記の条件に基づいて、下記の液体試薬を表面処理層4に滴下して、それらの液体試薬での接触角をそれぞれ測定し、下記のソフトウェアを用いて、Owens-Wendt法により取得されるものとする。
接触角計:協和界面科学社株式会社製の「DM-501H1」
ソフトウェア:多機能統合解析ソフトウェア「FAMAS(interFAce Measurement and Analysis System)」
気温:23℃
湿度:55%RH
液体試薬:水、ジヨードメタン(滴下量:1.0マイクロリットル)
接触角:10回測定された接触角の平均値
【0031】
以上のように、本実施形態の積層体1は、ゴム層2と樹脂層3との接合に接着剤が介在しないため、接着剤を塗布する工程や、接着剤に熱を加えて反応させる工程を不要とする利点をもたらす。したがって、積層体1の製造に際して工程や設備を簡素化することが可能なる。
【0032】
また、上記の工程が不要となることにより、従来のように、接着剤への加熱に伴って、ゴム層2(加硫ゴム2G)が間接的に加熱されることもない。このため、本実施形態の積層体1は、加硫ゴム2Gの物性劣化を抑制することが可能となる。以下、各部が詳細に説明される。
【0033】
[ゴム層(加硫ゴム)のゴム成分]
ゴム層2(加硫ゴム2G)は、ゴム成分を含む。ゴム成分としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレン系ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、一種類のゴムで構成されても良いし、二種類以上がブレンドされてもよい。
【0034】
[ゴム層(加硫ゴム)中の粘着性付与剤]
好ましい態様では、ゴム層2(加硫ゴム2G)は、ゴム成分以外に、粘着付与剤を含有しても良い。このような粘着付与剤は、ゴム層2と樹脂層3との接着性をさらに向上するのに役立つ。なお、粘着付与剤としては、例えば、天然樹脂や合成樹脂が挙げられ、好ましくは、合成樹脂が用いられる。この合成樹脂としては、例えば、石油系樹脂やアルキルフェノール樹脂等が好適である。
【0035】
石油系炭化水素樹脂としては、例えば、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂等が挙げられる。脂肪族系石油樹脂は、炭素数4~5個相当の石油留分(C5留分)であるイソプレンやシクロペンタジエンなどの不飽和モノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂であり(C5系石油樹脂とも称される。)、水添したものであってもよい。芳香族系石油樹脂は、炭素数8~10個相当の石油留分(C9留分)であるビニルトルエン、アルキルスチレンなどのモノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂であり(C9系石油樹脂とも称される。)、水添したものであってもよい。脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂は、上記C5留分とC9留分を共重合することにより得られる樹脂であり(C5/C9系石油樹脂とも称される。)、水添したものであってもよい。
【0036】
アルキルフェノール系樹脂としては、アルキルフェノール(例えば、p-t-ブチルフェノール)とアセチレンの重縮合物であるアルキルフェノールアセチレン系樹脂、アルキルフェノール(例えば、p-t-ブチルフェノール、p-t-オクチルフェノール、p-t-ドデシルフェノール)とホルムアルデヒドの重縮合物であるアルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂が挙げられ、特にはアルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂が好ましい。
【0037】
粘着付与剤は、その軟化点が高温であると、ゴム練り工程において、ゴム成分中に十分に分散しないおそれがある。このような観点より、粘着付与剤の軟化点は、好ましくは150(℃)以下、より好ましくは100(℃)以下とされる。逆に、粘着付与剤の軟化点が低すぎると、ゴムに混ぜたときのべた付きが大きく混ざり難い他、接合箇所の耐熱性が低くなるおそれがある。このような観点より、粘着付与剤の軟化点は、好ましくは60(℃)以上、より好ましくは70(℃)以上とされる。なお、本明細書において、樹脂の軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度として定義される。
【0038】
粘着付与剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して、例えば、1~15重量部とされ、より好ましくは1~10重量部とされる。粘着付与剤の配合量が1重量部未満では、粘着付与剤を添加したことによる樹脂との接着性向上効果があまり期待できない。逆に、粘着付与剤の配合量が15重量部を超えると、ゴム材料の耐スコーチ性が悪化し、成形加工性が低下するおそれがある。
【0039】
粘着付与剤の酸価は、例えば、120以下とされるのが望ましい。粘着付与剤の酸価が大きいと、酸化されやすく粘度安定性が悪くなる他、樹脂層3との接着性が悪くなる傾向がある。一方、粘着付与剤の酸価は、小さい程よいため下限値は特に設定しなくても良い。なお、本明細書において、樹脂の酸価とは、樹脂の1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量のミリグラム数であり、電位差滴定法(JIS K 0070:1992)により測定された値として定義される。
【0040】
[ゴム層(加硫ゴム)中の熱可塑性エラストマー]
ゴム層2(加硫ゴム2G)は、ゴム成分以外に、さらに、熱可塑性エラストマーを含有しても良い。このように、ゴム層2に熱可塑性エラストマーを添加した場合、ゴム層2に高い接着耐久性が付与される。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー及びポリアミド系熱可塑性エラストマーの群から選ばれる少なくとも1種とされるのが望ましい。
【0041】
上記熱可塑性エラストマーは、ゴム層2(加硫ゴム2G)の加硫前に添加される。したがって、熱可塑性エラストマーは、加硫時にゴム成分と相溶する必要があることから、加硫温度より低い融点を有することが望ましい。一方、熱可塑性エラストマーの融点が低すぎると加硫時に揮発するおそれがある。このような観点より、熱可塑性エラストマーの融点は、100~150(℃)の範囲とされるのが望ましい。
【0042】
熱可塑性エラストマーとしては、特に、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが好ましい。なかでも、後述のポリエステル系樹脂との親和性を考慮すると、エステル結合を有する結晶性樹脂が、ゴム層2(加硫ゴム2G)により高い接着耐久性を付与する点で好適である。このような結晶性樹脂は、不連続相(海島構造における島領域)を構成し、フィラーと同様に粒子形状を成した状態で存在するものと推察される。そのため、粒子状に存在する結晶性樹脂によって、ゴム層2の弾性や剛性が高められ、ひいては、その強度が向上するものと推察される。
【0043】
エステル結合を有する結晶性樹脂としては、例えば、結晶性のポリエステル系熱可塑性樹脂、結晶性のポリカーボネート系熱可塑性樹脂、及び、結晶性のポリウレタン系熱可塑性樹脂等が挙げられる。とりわけ、結晶性ポリエステル系熱可塑性樹脂、又は、結晶性ポリカーボネート系熱可塑性樹脂が好ましい。結晶性樹脂の市販品としては、例えば、東洋紡(株)の結晶性ポリエステル樹脂「バイロン」シリーズ、東レ(株)の「ハイトレル」シリーズ等が挙げられる。
【0044】
以上のように、熱可塑性エラストマーが添加されたゴム層2(加硫ゴム2G)は、それ自体の強度の向上によって、ゴム層2に負荷が加えられた際、表面処理層4の補強のみならず、樹脂層3との界面Bでのズレの発生等が抑制される。したがって、ゴム層2と樹脂層3との間に高い接着耐久性が得られるものと推察される。
【0045】
ゴム層2(加硫ゴム2G)において、熱可塑性エラストマーの添加量は、特に限定されないが、多すぎると加硫時間が速くなる他、ゴムの粘度が低くなって加工性が悪化するおそれがある。このような観点より、熱可塑性エラストマーの添加量は、ゴム成分100重量部に対して、例えば、10重量部以下程度が好適である。
【0046】
本実施形態のゴム層2(加硫ゴム2G)を構成するゴム組成物には、上記成分以外にも、ゴム材料の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイルやワックス等の可塑剤、粘着付与剤、加硫剤(硫黄、有機過酸化物など)、加硫促進剤等が適宜配合されても良い。
【0047】
[樹脂層]
樹脂層3を構成する高分子材料は、特に限定されるものではないが、樹脂又はエラストマーとして、注型法又は射出法で成型が可能であるものが好ましい。
【0048】
このような樹脂又はエラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセタール、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0049】
上記の高分子材料のうち、成型・加工性や、材料設計の自由度の観点から、好ましくはポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等が好ましく、さらに好ましくはポリアミド樹脂(熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂)が好ましい。このような熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂は、他の樹脂(ポリエステル樹脂等)に比べて、ゴム層2(表面処理層4)との接着性、及び、耐熱性を向上させることが可能となる。
【0050】
さらに、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の融点は、120~180(℃)が望ましい。融点が120(℃)以上に設定されることで、樹脂層3の耐熱性を向上させることができる。さらに、積層体1がエアレスタイヤ10のスポーク部13(図3に示す)に用いられる場合には、スポーク部13の耐久性(高速走行時の耐熱性を含む)を向上させることが可能となる。
【0051】
一方、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の融点が180(℃)以下に設定されることにより、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の結晶化度が高くなるのを抑制でき、樹脂層3が必要以上に硬くなるのを防ぐことができる。したがって、積層体1がエアレスタイヤ10のスポーク部13(図3に示す)に用いられる場合には、乗り心地の低下を抑制しうる。このような作用を効果的に発揮させるために、融点は、好ましくは140(℃)以上であり、また、好ましくは160(℃)以下である。なお、「融点」は、DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)に基づいて測定されうる。
【0052】
熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の引張弾性率は、65~200(MPa)が望ましい。引張弾性率が65(MPa)以上に設定されることにより、樹脂層3の荷重に対する変形を小さくすることができる。さらに、積層体1がエアレスタイヤ10のスポーク部13(図3に示す)に用いられる場合には、車両荷重の支持性能を向上させることが可能となる。一方、引張弾性率が200(MPa)以下に設定されることにより、樹脂層3が必要以上に硬くなるのを防ぐことができる。したがって、積層体1がエアレスタイヤ10のスポーク部13に用いられる場合、乗り心地の低下を抑制しうる。このような作用を効果的に発揮させるために、引張弾性率は、好ましくは100(MPa)以上であり、また、好ましくは160(MPa)以下である。
【0053】
本明細書において、「引張弾性率」は、JIS-K6394に準拠し、下記の条件で粘弾性スペクトロメータ(株式会社岩本製作所製)を用いて測定された値である。
初期歪み:10%
動歪:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:30℃
【0054】
[製造方法]
次に、本実施形態の積層体1の製造方法が、図2(A)~(D)を参照しつつ、説明される。本実施形態の製造方法には、ゴム層2を形成するための加硫ゴム部材2a(加硫ゴム2G)を準備する工程と、加硫ゴム部材2aの少なくとも一部に表面処理層4を形成する工程とが含まれる。さらに、本実施形態の製造方法には、加硫ゴム部材2aに接着剤を塗布することなしに、液状の樹脂3aを、加硫ゴム部材2aの表面処理層4に接触させる工程と、樹脂3aを硬化させて樹脂層3とゴム層2とを接合させる工程とが含まれる。
【0055】
図2(A)に示されるように、加硫ゴム部材2aは、予め、別工程で所定形状に加硫成型される。
【0056】
図2(B)に示されるように、表面処理層4は、例えば、準備された加硫ゴム部材2aの少なくとも一部(具体的には、樹脂層3と接合されることになる表面)を、塩素化することにより形成される。より具体的には、加硫ゴム部材2aの前記表面に、塩素が導入される。
【0057】
図2(C)に示されるように、表面処理された加硫ゴム部材2aは、例えば、金型Mのキャビティ5にセットされる。この際、キャビティ5には、樹脂3aを供給することができるように、空きスペース6が残されている。また、加硫ゴム部材2aの表面処理層4は、キャビティ5の空きスペース6に面するように位置決めされる。
【0058】
そして、図2(D)に示されるように、キャビティ5の空きスペース6に、液状の樹脂3aが供給される。これにより、加硫ゴム部材2aの表面処理層4に、液状の樹脂3aが接触する。なお、樹脂3aの供給方法は、例えば、熱可塑性樹脂の射出や、熱硬化性樹脂の注入が挙げられる。
【0059】
キャビティ5の空きスペース6に供給された樹脂3aを硬化させることにより、図1に示したように、ゴム層2(加硫ゴム2G)と樹脂層3とが、接着剤の層を介在することなしに直接接合した積層体1を得ることができる。なお、樹脂3aの硬化は、採用される樹脂に応じて、加熱工程又は冷却工程を採用することができる。
【0060】
[エアレスタイヤ]
次に、本実施形態の積層体1を用いたエアレスタイヤが説明される。
図3は、エアレスタイヤを車軸方向からみた部分正面図であり、図4は、そのIV-IV線断面図である。図3及び図4に示されるように、エアレスタイヤ10は、車軸に固定されるハブ部11と、地面に接触させるための環状のトレッドリング12と、ハブ部11とトレッドリング12とを接続するスポーク部13とを含む。
【0061】
ハブ部11は、例えば、金属材料で形成されている。
【0062】
トレッドリング12は、加硫ゴム2Gで形成されている。トレッドリング12は、その周方向剛性等を高めるために、例えば、内部に補強コード層20を備えても良い。トレッドリング12は、そのタイヤ半径方向の内周面側に、表面処理層4が形成されている。表面処理層4は、塩素化処理によって形成されている。
【0063】
スポーク部13は、樹脂材料(例えば、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂)から形成されている。本実施形態のスポーク部13は、例えば、タイヤ半径方向外側のアウターゴム部14と、タイヤ半径方向内側のインナーゴム部15と、複数のスポークエレメント16とを一体的に含む。
【0064】
アウターゴム部14は、トレッドリング12の内周面(すなわち、表面処理層4)に接合された環状体である。アウターゴム部14の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.5~5.0mm度であり、より好ましくは1.0~3.0mm度とされる。インナーゴム部15は、ハブ部11の外周面に接合された環状体である。各スポークエレメント16は、それぞれ、アウターゴム部14とインナーゴム部15との間のタイヤ半径方向に延びて、これらを互いに接続している。
【0065】
そして、トレッドリング12の表面処理層4とアウターゴム部14とは、図4に示されるように、接着剤の層を介在することなく、直接接合されている。したがって、本実施形態のエアレスタイヤ10は、トレッドリング12及びアウターゴム部14が、それぞれ、ゴム層2及び樹脂層3に相当しており、本発明の積層体1を利用して製造されている。
【0066】
本実施形態のエアレスタイヤ10の製造方法は、次のとおりである。
まず、環状のトレッドリング12(ゴム層2)が加硫成型されて準備される。次に、トレッドリング12の内周面に表面処理層4が形成される。表面処理層4は、例えば、塩素化処理により形成される。次に、トレッドリング12及びハブ部11が、金型のキャビティ(いずれも図示省略)にセットされる。これらの部材がセットされた後、金型のキャビティは、スポーク部13を成型するための空きスペースを残している。この空きスペースに、液状の樹脂が供給される。この樹脂を硬化させることにより、トレッドリング12の表面処理層4と樹脂とが、接着剤の層を介することなく、直接接合したエアレスタイヤ10が得られる。
【0067】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例
【0068】
[実施例A]
以下、本発明のより具体的かつ非限定的な実施例が説明される。
表1のゴム配合等に基づき、複数種類のゴム組成物が準備された。これらが、それぞれ温度170℃、圧力50kg/cm2の条件で12分間プレス加硫され、4mm×120mm×150mmのシート状の加硫ゴムが得られた。この加硫ゴムがイソプロパノールで脱脂され、ゴム層のサンプルが得られた。
【0069】
次に、表面処理層を形成するために、上記ゴム層(加硫ゴム)のサンプル表面に、塩素化剤を含む表面処理剤「ケムロック7701」(ロード・ファー・イーストコーポレーション社製の商品名)が塗布された。表面処理剤の溶剤が蒸発揮散した後、同様の操作が計3回繰り返された。表面処理層の厚さは、5μmに設定された。
【0070】
以上の処理が施された加硫ゴムの表面(表面処理層)の接触角が測定され、表面自由エネルギーが取得された。なお、接触角及び表面自由エネルギーの取得手順は、明細書に記載のとおりである。
【0071】
また、ゴム層のサンプルを、金型のキャビティに入れ、キャビティの空きスペースに、ポリエステル系樹脂が射出成形された。樹脂層の厚さは3mmに調整された。
【0072】
樹脂層の硬化後、金型からポリエステル樹脂層とゴム層とからなる積層体を取り出し、幅25mm及び長さ100mmの短冊状の試料が、積層体のサンプルとして切り出された。
【0073】
そして、積層体におけるゴム層と樹脂層との界面での接着力を評価するために、剥離試験(T字剥離)が行われた。剥離試験は、JIS K 6854に準拠し、23℃かつ湿度55%の室温環境下と、高温環境下(80℃)とでそれぞれ行われた。
【0074】
さらに、積層体の保存性(ゴム層と樹脂層との界面での接着力の継続性)を評価するために、試料が60℃かつ湿度90%の室内環境下で200時間保管された後に、23℃かつ湿度55%の室温環境下で1時間保管された。そして、JIS K 6854に準拠し、23℃かつ湿度55%の室温環境下で、剥離試験(T字剥離)が行われた。
テストの結果が、表1に示される。
【0075】
【表1】
【0076】
テストの結果、実施例1及び実施例2の積層体は、剥離試験(室温及び80℃)及び保存性試験(60℃保管)において、ゴム層にて材料破壊が生じており、ゴム層と樹脂層との間の界面では剥離は生じなかった。一方、比較例1及び比較例2では、樹脂層とゴム層との間にて、界面剥離が生じていた。さらに、比較例3及び比較例4では、樹脂層とゴム層との間の接着剤の層にて、界面剥離が生じていた。したがって、実施例の積層体は、ゴム層と樹脂層との間に接着剤が介在していなくても、長期間に亘って、高い接着強度が得られており、積層体を製造するための工程や設備を簡素化できることが確認できた。
【0077】
次に、表1の配合のゴム層及び樹脂層を用いて、エアレスタイヤが試作され、それらについてドラム耐久テストが行われた。ドラム耐久テストでは、ドラム試験機を用い、荷重2.0kN、速度60km/hの条件で、エアレスタイヤに損傷が生じるまでの走行距離が測定された。その結果は、表1の最下段に、実施例1を100とする指数で表示されている。数値が大きい程、耐久性が優れていることを示す。
【0078】
テストの結果、実施例のエアレスタイヤは、比較例のエアレスタイヤに比べて、優れた耐久性を発揮することが確認できた。したがって、実施例は、加硫ゴムの物性劣化を抑制できることが確認できた。
【0079】
[実施例B]
表1の実施例1のゴム配合等に基づいて、表面処理層の厚さのみが異なる複数の積層体が形成された(実施例3~8)。そして、積層体におけるゴム層と樹脂層との界面での接着力を評価するために、剥離試験(T字剥離)が行われた。さらに、積層体の保存性(ゴム層と樹脂層との界面での接着力の継続性)が評価された。試験方法等の詳細は、実施例Aに記載のとおりである。テストの結果が、表2に示される。
【0080】
【表2】
【0081】
テストの結果、表面処理層の厚さが好ましい範囲外となる実施例3及び実施例8の積層体は、実施例Aの表1に示した比較例1~4に比べて、接合強度を高めることができたが、樹脂層とゴム層との間にて、界面剥離が生じた。一方、表面処理層の厚さが好ましい範囲内となる実施例4~7では、ゴム層と樹脂層との間の界面で剥離が生じることはなく、高い接着強度が得られることが確認できた。
【0082】
[実施例C]
表1の実施例1のゴム配合等に基づいて、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の融点、及び、引張弾性率が異なる複数のエアレスタイヤが試作され、それらについてドラム耐久テストが行われ、乗り心地性能が評価された(実施例9~14)。ドラム耐久テストの手順は、実施例Aに記載のとおりであり、実施例9を100とする指数で示されている。
【0083】
一方、乗り心地性能は、評価対象のエアレスタイヤが、車両(小型EV:商品名COMS)の4輪に装着され、1名乗車にてドライアスファルト路面のタイヤテストコースを走行し、乗り心地性能についてドライバーの官能評価によって評価された。結果は、実施例14を100とする指数で示されており、数値の大きいほど、良好であることが示されている。テストの結果が、表3に示される。
【0084】
【表3】
【0085】
テストの結果、熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂の融点、及び、引張弾性率が好ましい範囲内にある実施例は、その他の実施例に比べて、優れた耐久性を発揮しつつ、乗り心地を向上させることができた。
【符号の説明】
【0086】
1 積層体
2 ゴム層
2G 加硫ゴム
3 樹脂層
4 表面処理層
図1
図2
図3
図4