(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ゴルフボール用樹脂組成物及びゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20240709BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20240709BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20240709BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240709BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
A63B37/00 316
A63B37/00 412
A63B37/00 616
A63B37/00 618
C08L23/26
C08L79/02
C08K3/08
C08K5/09
(21)【出願番号】P 2020110580
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南馬 昌司
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-526953(JP,A)
【文献】特開2011-015763(JP,A)
【文献】特開2011-092708(JP,A)
【文献】特開2008-119485(JP,A)
【文献】特開2004-113517(JP,A)
【文献】特開2012-148072(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0228146(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00-47/04
C08L 23/26
C08L 79/02
C08K 3/08
C08K 5/09
C08F 251/00-283/00
C08F 283/02-289/00
C08F 291/00-297/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分及び(b)成分、
(a)酸含有共重合体であって、該共重合体のモノマー単位の総和100質量%に対する酸成分の量が1~30質量%である酸含有共重合体、
(b)分岐状構造を有するアミン含有ポリマー
を含有
し、上記(b)成分がポリエチレンイミンであり、その配合量が上記(a)成分100質量部に対して0.1~10質量部であることを特徴とするゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項2】
(b)成分の配合量が、上記(a)成分100質量部に対して0.25~4質量部である請求項1記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項3】
上記ポリエチレンイミンのアミン価が18~21(mmol/g)である請求項1又は2記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項4】
(a)成分の酸含有共重合体が、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体、または、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸-α,β不飽和カルボン酸エステル共重合体である請求項
1~3のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項5】
さらに(c)金属イオンを含有し、該(c)成分により(a)成分の酸含有共重合体の酸成分の0.1~99モル%を中和するようにした請求項1~
4のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項6】
さらに(d)脂肪酸又はその金属塩を含有する請求項1~
5のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項7】
少なくとも1層のコアと少なくとも1層のカバーとを有するゴルフボールであって、上記カバーのうち少なくとも1層が、請求項1~
6のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物により形成されることを特徴とするゴルフボール。
【請求項8】
上記カバーが、最外層と、該最外層と上記コアとの間に挟まれる中間層との2層からなり、上記中間層が、請求項1~
6のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物により形成される請求項
7記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール用樹脂組成物及びこれを用いたゴルフボールに関し、特に、コアに少なくとも中間層及び最外層の2層以上のカバーが被覆されるゴルフボールにおける中間層又は最外層の材料として好適に用いられるゴルフボール用樹脂組成物及びこれを用いたゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
コアとカバーからなるゴルフボールにおいて、カバー材は文字通り、コア材を保護するものである。カバー材としては、エチレンと酸共重合体または金属イオンで中和したものが最も多く用いられている。その理由としては、これらのエチレンと酸共重合体またはその金属塩が強靭であり、反発弾性に優れているからである。これらのエチレンと酸共重合体またはその金属塩の物性は、酸含量と酸を中和する金属イオンの種類及び中和度等の要因により決定される。一般的には、酸含量が増加すると、エチレンと酸共重合体またはその金属塩は硬くなり、高剛性となる。また、中和度が増えるとエチレンと酸共重合体またはその金属塩は、反発弾性が高くなる。特に、主鎖がエチレンと酸とエステルとの3成分からなるものにおいてはその効果が顕著となる。
【0003】
しかしながら、上記のエチレンと酸とエステルとの3成分からなる共重合体または金属イオンで中和した材料をカバー材として用いると、副次的に、ゴルフボールの繰り返し打撃耐久や耐擦過傷性が悪くなるという欠点を有する。
【0004】
上記以外にも、エチレンと酸共重合体またはその金属塩の物性を改質する方法が多数試みられているが、その多くはエチレンと酸共重合体またはその金属塩にゴム、エラストマー又は硬質なポリマーをブレンドするものであるが、ゴルフボールで要求される飛びやアプローチ時スピン量、耐久性等の特性が全て良くなるものではない。
【0005】
特開昭60-60867号公報や特表2001-514561号公報には、エチレンと酸共重合体またはその金属塩の剛性を付与するために、ポリアミドや液晶ポリマーなどの硬質なポリマーをブレンドする技術も種々提案されている。また、特開2002-143345号公報や特開昭56-083367号公報には、エチレンと酸共重合体またはその金属塩に靭性を付与したり、単純にソフトな触感に改質する目的で、ポリエステルエラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーをブレンドする技術も種々提案されている。
【0006】
しかしながら、上記の提案された材料をカバー材に使用したゴルフボールは、反発弾性の低下を引き起こすことが多く、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭60-60867号公報
【文献】特表2001-514561号公報
【文献】特開2002-143345号公報
【文献】特開昭56-083367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ゴルフボールの反発弾性に優れると共に、繰り返し打撃耐久及び耐擦過傷性に優れるゴルフボール用樹脂組成物及びゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、酸成分の量が特定範囲の酸含有共重合体に、ポリエチレンイミン等の分岐状構造を有するアミン含有ポリマーを含有した樹脂組成物をゴルフボールの部材に適用した場合、そのゴルフボールの反発弾性を良好にすることができ、割れ耐久性や耐擦過傷性に優れていることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
即ち、エチレンと酸含有共重合体またはその金属塩と、ポリエチレンイミン等の分岐構造を有しアミン価が高いポリマーをブレンドすると、酸含有共重合体の酸成分の一部がアミン含有ポリマーのアミンと共有結合するので、エチレンと酸共重合体またはその金属塩とアミン含有ポリマーとは相溶性がよく、良好に混合することになる。この2成分混合系からなる樹脂材料に外力が働くと、両ポリマー間の界面に生じる動的粘弾性のロスは低くなり、その結果、上記樹脂材料を用いたゴルフボールは、反発弾性に優れると共に、繰り返し打撃耐久及び耐擦過傷性に優れると推察される。
【0011】
従って、本発明は、下記のゴルフボール用樹脂組成物及びゴルフボールを提供する。
1.下記(a)成分及び(b)成分、
(a)酸含有共重合体であって、該共重合体のモノマー単位の総和100質量%に対する酸成分の量が1~30質量%である酸含有共重合体、
(b)分岐状構造を有するアミン含有ポリマー
を含有し、上記(b)成分がポリエチレンイミンであり、その配合量が上記(a)成分100質量部に対して0.1~10質量部であることを特徴とするゴルフボール用樹脂組成物。
2.(b)成分の配合量が、上記(a)成分100質量部に対して0.25~4質量部である上記1記載のゴルフボール用樹脂組成物。
3.上記ポリエチレンイミンのアミン価が18~21(mmol/g)である上記1又は2記載のゴルフボール用樹脂組成物。
4.(a)成分の酸含有共重合体が、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体、または、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸-α,β不飽和カルボン酸エステル共重合体である上記1~3のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物。
5.さらに(c)金属イオンを含有し、該(c)成分により(a)成分の酸含有共重合体の酸成分の0.1~99モル%を中和するようにした上記1~4のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物。
6.さらに(d)脂肪酸又はその金属塩を含有する上記1~5のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物。
7.少なくとも1層のコアと少なくとも1層のカバーとを有するゴルフボールであって、上記カバーのうち少なくとも1層が、上記1~6のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物により形成されることを特徴とするゴルフボール。
8.上記カバーが、最外層と、該最外層と上記コアとの間に挟まれる中間層との2層からなり、上記中間層が、上記1~6のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物により形成される上記7記載のゴルフボール。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、ゴルフボールの反発弾性に優れると共に、繰り返し打撃耐久及び耐擦過傷性に優れるものであり、特に、ゴルフボールのカバー材(最外層及び中間層)として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、主成分として、(a)酸含有共重合体であって、該共重合体のモノマー単位の総和100質量%に対する酸成分の量が1~30質量%である酸含有共重合体を含有するものである。この(a)成分の詳細は以下のとおりである。
【0014】
(a)酸含有共重合体は、その酸がカルボン酸(無水カルボン酸及びその誘導体を含む)、ジカルボン酸(以下、そのハーフエステルカルボン酸も含む)、スルフォン酸、燐酸から選択されるものであり、特にカルボン酸であることが好ましい。このような酸含有共重合体として具体的には、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体、または、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸-α,β不飽和カルボン酸エステル共重合体が例示される。
【0015】
上記共重合体のオレフィンは、通常炭素数2個以上、上限として8個以下、特に6個以下のものが好ましく、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等が挙げられ、特にエチレンであることが好ましい。また、上記(a)成分の不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特に、アクリル酸、メタクリル酸であることが好ましい。更に、上記共重合体の不飽和カルボン酸エステルとしては、上記の不飽和カルボン酸の低級アルキルエステルが好適であり、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等を挙げることができ、特にアクリル酸ブチル(n-アクリル酸ブチル、i-アクリル酸ブチル)であることが好ましい。
【0016】
(a)酸含有共重合体は、金属イオンで中和されたものであってもよく、具体的には、上記オレフィン-不飽和カルボン酸(-不飽和カルボン酸エステル)共重合体の酸基を部分的に金属イオンで中和することによって得ることができる。酸基を中和する金属イオンとしては、例えば、Na+、K+、Li+、Zn++、Cu++、Mg++、Ca++、Co++、Ni++、Pb++等が挙げられ、特に、Na+、Li+、Zn++、Mg++、Ca++等が好適に用いられる。このような中和物は公知の方法で得ることができ、例えば、上記共重合体に対して、上記金属イオンのギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物及びアルコキシド等の化合物を使用して中和物を得ることができる。
【0017】
(a)成分としては、公知のものを用いることができる。例えば、市販品としては、酸共重合体として、ニュクレルN1560、同N1214、同N1035、同N2060、同AN4221C、同AN4311、同AN4319(いずれも三井・ダウポリケミカル社製)等を挙げることができる。また、酸共重合体の金属イオン中和物として、例えば、ハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、同1706、同AM7311、同1855、同1856、同AM7316(いずれも三井・ダウポリケミカル社製)、サーリン7930、同6320、同8660、同8320、同9320、同8120(ダウ・カンパニー製)等をそれぞれ挙げることができる。
【0018】
上記(a)成分の共重合体に含まれる不飽和カルボン酸の含量(酸含量)は、該共重合体のモノマー単位の総和100質量%に対して、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上であり、上限値として、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは22質量%以下である。この範囲内の不飽和カルボン酸の含量(酸含量)であれば、(b)成分との相溶性が良くなる。
【0019】
次に、(b)成分について説明すると、(b)成分は分岐状構造を有するアミン含有ポリマーである。(b)成分は、完全な線状高分子ではなく、分岐構造を有するポリマーであり、分子中に、1級、2級または3級アミンを含む。このため、(b)成分はカチオン密度が高くなり反応性に富むこととなり、上記(a)成分の未中和の酸成分と反応することになる。一般的に、エチレンと酸含有共重合体またはその金属塩のミクロ構造は、酸含量や酸を中和する金属イオン種及び中和度により決定されるが、ポリエチレンイミンのような分岐構造を有するアミン含有ポリマーとブレンドすることで酸含有共重合体の単体や、従来より提案されている酸含有共重合体とポリアミドとのブレンド物、酸含有共重合体とポリエチレンとのブレンド物などでは得られ難い特有の機械物性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
(b)成分としては、ポリエチレンイミン等のアミン系ポリマーが挙げられる。また、ポリエチレンイミンのアミン価は高いものが好ましく、アミン価が18~21であることが好適である。アミン価は、ポリエチレンイミンの固形分1gに含まれるアミンのmmol数で表される。
【0021】
(b)成分の配合量は、(a)成分の100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上である。上限値として、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは8質量部以下である。(b)成分の配合量が少なすぎると、所望の効果が得られない。一方、(b)成分の配合量は多すぎると、(a)成分との相溶性が悪くなり、所望の効果が得られなくなり、加工中に組成物が焼け加工ができなくなるおそれがある。
【0022】
さらに本発明では(c)金属イオンを含有することができる。即ち、(c)成分は、(a)成分の酸含有共重合体中の未中和の酸基を中和するための金属イオンであり、塩基性無機金属化合物であることが好適である。上記(c)成分中の金属イオンとしては、例えば、Li+、Na+、K+、Ca++、Mg++、Zn++、Al+++、Ni++、Fe++、Fe+++、Cu++、Mn++、Sn++、Pb++、Co++等を挙げることができ、これらは1種を単独で、又は2種以上併用しても良い。(c)成分としては、これら金属イオンを含む公知の塩基性無機充填剤を使用することができ、より具体的には、例えば酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等を挙げることができる。特に水酸化物、又は一酸化物であることが推奨され、ベース樹脂との反応性の高い水酸化カルシウム、酸化マグネシウムが好適に使用される。
【0023】
上記(c)成分の配合量は、上記(a)成分100質量部に対して、通常0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上であり、その上限は、通常15質量部以下、好ましくは10質量部以下である。
【0024】
なお、上記(a)成分の中和度としては、(a)成分中の酸基の総量を基準として、0~99モル%であり、0.1~90モル%が好適である。(a)成分の中和度が50モル%以内であれば、ボールの反発性(初速)のほか、耐擦過傷性がより一層改善する。(a)成分の中和度が50モル%以上であれば、更に割れ耐久性が向上し得る。上記(a)成分の中和度としては、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上である。
【0025】
本発明では、更に(d)成分として脂肪酸及びその金属塩を含ませることができる。この(d)成分は、樹脂成分と比較して分子量が極めて小さく、混合物の溶融粘度を適度に調整し、特に流動性の向上に寄与する成分であるため好適に配合される。
【0026】
上記(d)成分の脂肪酸の分子量は、通常280以上、好ましくは300以上、より好ましくは330以上、更に好ましくは360以上とすることができる。また、分子量の上限は、通常1500以下、好ましくは1000以下、より好ましくは600以下、更に好ましくは500以下である。分子量が少なすぎると耐熱性に劣る場合があり、多すぎると流動性が改善できない場合がある。
【0027】
(d)成分としては、具体的には、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛等を挙げることができ、中でもステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛を好適に使用することができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(d)成分の配合量としては、上記(a)成分100質量部に対し、通常5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上であり、配合量の上限は、通常120質量部以下、好ましくは80質量部以下である。
【0029】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、種々の添加剤を配合することができ、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤等を適宜配合することができる。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、例えば、混練型(単軸又は)2軸押出機,バンバリー,ニーダー等の各種の混練機を用いて上述した各成分を混合することにより得ることができる。
【0031】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、特に、コアと該コアを被覆するカバーとからなるツーピースソリッドゴルフボール、又は、1層以上のコアと該コアを被覆する多層のカバーとからなるマルチピースソリッドゴルフボールにおけるカバー材(中間層及び最外層)として用いることができる。
【0032】
なお、本発明の樹脂組成物を適用したゴルフボールにおける各構成部材の説明としては以下のとおりである。
【0033】
コアは、公知のゴム材料を基材として形成することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムの公知の基材ゴムを使用することができ、より具体的には、ポリブタジエン、特にシス構造を少なくとも40%以上有するシス-1,4-ポリブタジエンを主に使用することが推奨される。また、基材ゴム中には、所望により上述したポリブタジエンと共に、天然ゴム,ポリイソプレンゴム,スチレンブタジエンゴムなどを併用することができる。
【0034】
また、ポリブタジエンは、Nd触媒の希土類元素系触媒,コバルト触媒及びニッケル触媒等の金属触媒により合成することができる。
【0035】
上記の基材ゴムには、不飽和カルボン酸及びその金属塩等の共架橋剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,炭酸カルシウム等の無機充填剤,ジクミルパーオキサイドや1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等を配合することができる。また、必要により、市販品の老化防止剤等を適宜添加することができる。
【0036】
上記コアの直径は、そのボールの構造によって適宜選定されるものであり、特に制限はないが、好ましくは20mm以上、より好ましく25mm以上、さらに好ましくは30mm以上であり、上限値としては、好ましくは41mm以下、より好ましくは40mm以下である。
【0037】
上記コアとカバー最外層との間には中間層を設けることができる。この場合、上記中間層の材料硬度は、特に制限されるものではないが、ショアD硬度で50以上、好ましくは55以上、より好ましくは60以上とすることができる。また、その上限も特に制限されるものではないが、好ましくは70以下、より好ましくは65以下とすることができる。
【0038】
上記カバーのうち最外層の厚さは、特に制限はないが、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、上限としては、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは1.0mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下である。
【0039】
なお、上記カバーの表面には1種又は2種類以上の多数のディンプルを形成することができる。また、上記カバー表面には、更に各種塗料を塗装することができ、この塗料としては、ゴルフボールの過酷な使用状況に耐えうる必要から、2液硬化型のウレタン塗料、特に、無黄変のウレタン塗料が好適に挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例1~16、比較例1~4]
下記表1に示す「C1」のゴム組成物を用い、155℃で15分間の加硫により、直径37.3mm各例のソリッドコアを作成した。
【0042】
【0043】
なお、上記コア材料の詳細は下記のとおりである。
・「cis-1,4-ポリブタジエン」 JSR社製、商品名「BR01」
・「ステアリン酸亜鉛」 日油社製
・「アクリル酸亜鉛」 日本触媒社製
・「酸化亜鉛」 堺化学工業社製
・「老化防止剤」 商品名「ノクラックNS6」(大内新興化学工業社製)
・「有機過酸化物(1)」 ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)
・「有機過酸化物(2)」 1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカの混合物、商品名「パーヘキサC-40」(日油社製)
【0044】
カバー層(中間層及び最外層)の形成
次に、上記で得た直径37.3mmのコアの周囲に、下記表2及び表3に示す樹脂組成物を射出成形法により被覆して、厚さ1.45mmの中間層が被覆された球体(中間層被覆球体)を製造した。次いで、中間層被覆球体の周囲に、下記表2及び表3に示す樹脂組成物を射出成形法により被覆して、厚さ1.25mmの最外層が被覆された球体(スリーピースゴルフボール)を作製した。この際、各実施例、比較例のカバー表面には、特に図示してはいないが、共通するディンプルが形成された。
【0045】
【0046】
【0047】
上記表中の詳細は下記の通りである。
「ニュクレル2060」「ニュクレル4319」:三井・ダウポリケミカル社製のナトリウムイオン中和アイオノマー
「サーリン8660」:ダウ・ケミカル・カンパニー製のアイオノマー樹脂
「ポリアミド」:商品名「ベスタミド E58-S4」ダイセル・エボニック社製
「ポリエステル」:商品名「ハイトレル5557G10」東レ・デュポン社製
「ポリエチレンイミン(A)」:商品名「エポミンSP-003」日本触媒社製(数平均分子量約300、アミン価21)
「ポリエチレンイミン(B)」:商品名「エポミンSP-012」日本触媒社製(数平均分子量約1,200、アミン価19)
「ポリエチレンイミン(C)」:商品名「エポミンSP-200」日本触媒社製(数平均分子量約10,000、アミン価18)と「エポミンP-1000」日本触媒社製(数平均分子量約70,000、アミン価18)とを1:1の比でブレンドしたもの(数平均分子量の平均値:約18,000)
「金属イオン」酸化マグネシウム:商品名「キョーワマグMF-150」協和化学工業社製
「ステアリン酸マグネシウム」:商品名「マグネシウムステアレートG」日油社製
【0048】
得られた各実施例及び比較例のゴルフボールについて、下記の方法により、ドライバー打撃時のボール初速及び耐擦過傷性を評価した。その結果を表4及び表5に示す。
【0049】
ボール初速
ゴルフ打撃ロボットにドライバー(W#1)をつけて、ヘッドスピード45m/sにて打撃した直後のボールの初速を初期条件計測装置により測定した。クラブは、ブリヂストンスポーツ社製の「TourB XD-3ドライバー」(ロフト角9.5°)を使用した。
【0050】
耐擦過傷性
ボールを23℃に保温するとともに、スウィングロボットマシンを用い、クラブはピッチングウェッジを使用して、ヘッドスピード33m/sで各ボールを各5球ずつ打撃し、打撃傷を以下の基準で目視にて評価した。
〔評価基準〕
「より良い」 ・・・ 傷がほとんど見えない。
「良い」 ・・・ ディンプルエッジ部分が削られる。削りカスは長さ2~3mm程度で、太さ1mm未満の糸くず状のものであり、傷口につながった状態で残る。または幅1mm未満の線状の傷がディンプル土手部に付く。
「悪い」 ・・・ ディンプルエッジ部分またはディンプル土手部分が変形する。削られたり、切断されたりはしない。ディンプルの形状は維持されていない状態である。
「より悪い」 ・・・ ディンプルエッジ部分からディンプル土手部分が削られる。削りカスが傷口につながった状態で残る。ディンプルの形状は維持されていない状態である。
【0051】
【0052】
表4の結果より、本実施例1~8は、中間層の樹脂組成物には(b)成分が含有されており、比較例1に比べてボール初速が高いことが分かる。
【0053】
【0054】
表5の結果より、本実施例9~16は、中間層の樹脂組成物には(b)成分が含有されており、比較例2に比べてボール初速が高く、耐擦過傷性が良好であることが分かる。一方、比較例3及び比較例4は、ポリエステルエラストマーやポリアミドをブレンドした樹脂組成物であり、ボールの評価としては、ボール初速が低く、耐擦過傷性も悪いことが分かる。
【0055】
[実施例17~24、比較例5]
上記表1に示す「C2」のゴム組成物を用い、155℃で15分間の加硫により、直径37.3mm各例のソリッドコアを作成する。次に、上記で得た直径37.3mmのコアの周囲に、上記表2及び表3に示す樹脂組成物を射出成形法により被覆して、厚さ1.45mmの中間層が被覆された球体(中間層被覆球体)を製造する。次いで、中間層被覆球体の周囲に、下記表2及び表3に示す樹脂組成物を射出成形法により被覆して、厚さ1.25mmの最外層が被覆された球体(スリーピースゴルフボール)を作製する。この際、各実施例、比較例のカバー表面には、特に図示してはいないが、共通するディンプルが形成される。
【0056】
得られた各実施例及び比較例のゴルフボールについて、上述した方法により、ドライバー打撃時のボール初速を測定すると共に、下記の方法により、繰り返し打撃耐久性を評価する。その結果を表6に示す。
【0057】
繰り返し打撃耐久性
米国Automated Design Corporation製のADC Ball COR Durability Testerにより、ボールの耐久性を評価する。この試験機は、ゴルフボールを空気圧で発射させた後、平行に設置した2枚の金属板に連続的に衝突させる機能を有する。金属板への入射速度は43m/sとした。ゴルフボールが割れるまでに要した発射回数を測定し、その発射回数に基づいて下記の基準で評価する。
〔評価基準〕
「より良い」 ・・・ 発射回数が125~150回
「良い」 ・・・ 発射回数が100~124回
「悪い」 ・・・ 発射回数が75~99回
「より悪い ・・・ 発射回数が50~74回
【0058】
【0059】
表6の結果より、本実施例17~24は、中間層の樹脂組成物には(b)成分が含有されており、比較例5に比べてボール初速が高く、割れ耐久性が良好であることが分かる。