(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ゴルフクラブシャフトの製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 53/10 20150101AFI20240709BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20240709BHJP
【FI】
A63B53/10 A
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2020125625
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐真
【審査官】三田村 陽平
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-327873(JP,A)
【文献】特開2019-199073(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0124409(US,A1)
【文献】特開2017-176444(JP,A)
【文献】特開平08-276698(JP,A)
【文献】特開2009-254599(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0102974(US,A1)
【文献】特開2010-154875(JP,A)
【文献】特開平09-220304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/14
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブシャフトの製造方法であって、
繊維強化樹脂を用いたシャフト本体を準備する準備工程と、
表示部を備えた熱収縮性のフィルム基材を含む表層材を、前記シャフト本体の外周面に装着する装着工程と、
前記表層材を熱収縮させて、前記表層材を前記シャフト本体の前記外周面に密着固定する固定工程とを含
み、
前記シャフト本体は、ゴルファが構えたときに、前記ゴルファが視認可能な面とされる表面及び前記ゴルファが視認不能な面とされる裏面とを含み、
前記表層材は、前記フィルム基材を重ね合わせて接合した接合部を備え、
前記装着工程は、前記接合部を、前記シャフト本体の前記裏面に位置するように装着する、
ゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項2】
前記表層材は、前記シャフト本体に装着するに先立って、予め筒状に形成されている、請求項1に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項3】
前記シャフト本体は、プリプレグを積層したプリプレグ積層体の硬化物である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項4】
前記シャフト本体の前記外周面の少なくとも一部は、研磨されていない未研磨部分を備えており、
前記装着工程では、前記表層材を、前記未研磨部分の少なくとも一部を覆うように装着する、請求項3に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項5】
前記シャフト本体の前記外周面の少なくとも一部は、塗装されていない未塗装部分を備えており、
前記装着工程では、前記表層材を、前記未塗装部分の少なくとも一部を覆うように装着する、請求項3又は4に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項6】
前記シャフト本体の前記外周面には、螺旋状に延びる凸状模様が形成されており、
前記装着工程では、前記表層材を、前記凸状模様の少なくとも一部を覆うように装着する、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項7】
前記フィルム基材の厚さが10~100μmである、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項8】
前記シャフト本体は、プリプレグを積層したプリプレグ積層体の未硬化物である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項9】
ゴルフクラブシャフトの製造方法であって、
繊維強化樹脂を用いたシャフト本体を準備する準備工程と、
表示部を備えた熱収縮性のフィルム基材を含む表層材を、前記シャフト本体の外周面に装着する装着工程と、
前記表層材を熱収縮させて、前記表層材を前記シャフト本体の前記外周面に密着固定する固定工程とを含み、
前記シャフト本体の前記外周面には、螺旋状に延びる凸状模様が形成されており、
前記装着工程では、前記表層材を、前記凸状模様の少なくとも一部を覆うように装着する、
ゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項10】
ゴルフクラブの製造方法であって、
請求項1ないし9のいずれか1項に記載されたゴルフクラブシャフトの製造方法で製造されたゴルフクラブシャフトにゴルフクラブヘッドを装着する工程を含む、
ゴルフクラブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトは、次のような工程を経て製造される(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
まず、強化繊維をマトリックス樹脂に含浸させたプリプレグが、所定の形状に裁断される(裁断工程)。
【0004】
次に、裁断されたプリプレグが、芯材であるマンドレルへ巻回される。これにより、マンドレルの上に、プリプレグが巻きつけられた巻回体が形成される(巻回工程)。
【0005】
次に、巻回体が加熱される。この加熱により、巻回体のマトリックス樹脂が硬化し、硬化積層体が得られる(硬化工程)。
【0006】
次に、硬化積層体から、マンドレルが引き抜かれる(除去工程)。
【0007】
次に、硬化積層体の外表面に残る凹凸が研磨による平滑化され(研磨工程)、その後、硬化積層体の外表面が塗装され(塗装工程)、シャフトが得られる。
【0008】
次に、シャフトの外表面に、商品面やブランドロゴ等の表示部が、印刷や転写等によって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の製造方法では、ゴルフクラブシャフトを製造するに際して、多く工程が必要であり、生産性の向上が望まれていた。
【0011】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、生産性を向上することができるゴルフクラブシャフトの製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、繊維強化樹脂を用いたシャフト本体を準備する準備工程と、表示部を備えた熱収縮性のフィルム基材を含む表層材を、前記シャフト本体の外周面に装着する装着工程と、前記表層材を熱収縮させて、前記表層材を前記シャフト本体の前記外周面に密着固定する固定工程とを含む、ゴルフクラブシャフトの製造方法である。
【0013】
本発明の他の態様では、前記表層材は、前記シャフト本体に装着するに先立って、予め筒状に形成されていても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、前記シャフト本体は、プリプレグを積層したプリプレグ積層体の硬化物であっても良い。
【0015】
本発明の他の態様では、前記シャフト本体の前記外周面の少なくとも一部は、研磨されていない未研磨部分を備えており、前記装着工程では、前記表層材を、前記未研磨部分の少なくとも一部を覆うように装着することでも良い。
【0016】
本発明の他の態様では、前記シャフト本体の前記外周面の少なくとも一部は、塗装されていない未塗装部分を備えており、前記装着工程では、前記表層材を、前記未塗装部分の少なくとも一部を覆うように装着することでも良い。
【0017】
本発明の他の態様では、前記シャフト本体は、ゴルファが構えたときに、前記ゴルファが視認可能な面とされる表面及び前記ゴルファが視認不能な面とされる裏面とを含み、前記表層材は、前記フィルム基材を重ね合わせて接合した接合部を備え、前記装着工程は、前記接合部を、前記シャフト本体の前記裏面に位置するように装着することでも良い。
【0018】
本発明の他の態様では、前記シャフト本体の前記外周面には、螺旋状に延びる凸状模様が形成されており、前記装着工程では、前記表層材を、前記凸状模様の少なくとも一部を覆うように装着することでも良い。
【0019】
本発明の他の態様では、前記フィルム基材の厚さが10~100μmであっても良く、好ましくは30~100μm、より好ましくは30~80μm、さらに好ましくは30~50μmであっても良い。
【0020】
本発明の他の態様では、前記シャフト本体は、プリプレグを積層したプリプレグ積層体の未硬化物であっても良い。
【0021】
本発明の他の態様は、ゴルフクラブの製造方法であって、上記いずれかに記載されたゴルフクラブシャフトの製造方法で製造されたゴルフクラブシャフトにゴルフクラブヘッドを装着する工程を含む、ゴルフクラブの製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、上記の工程を採用したことにより、ゴルフクラブシャフトの生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態のシャフト本体の斜視図である。
【
図2】第1実施形態の表層材の表側の斜視図である。
【
図3】
図2の表層材を裏側から見た分解斜視図である。
【
図4】シャフト本体に表層材を装着した状態の斜視図である。
【
図5】第1実施形態のゴルフクラブシャフトの斜視図である。
【
図8】シャフト本体の変形例1を示す斜視図である。
【
図10】変形例のシャフト本体に表層材を装着した状態の部分断面図である。
【
図11】変形例のシャフト本体に表層材を密着固定した状態の部分断面図である。
【
図12】(A)~(C)は、第2実施形態のゴルフクラブシャフトの製造方法を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれていることが理解されなければならない。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0025】
[第1実施形態]
本実施形態のゴルフクラブシャフトの製造方法は、準備工程、装着工程及び固定工程を含む。以下、各工程が順に説明される。
【0026】
[準備工程]
図1には、シャフト本体10の斜視図が示されている。
図1に示されるように、準備工程では、繊維強化樹脂を用いたシャフト本体10が準備される。本実施形態のシャフト本体10は、例えば、内部が中空とされたパイプ状であり、一端側に向かってほぼテーパ状で形成されている。
【0027】
シャフト本体10は、例えば、上述の裁断工程、巻回工程、硬化工程及び除去工程を経て準備される。すなわち、本実施形態のシャフト本体10は、プリプレグ(図示省略)を積層したプリプレグ積層体を予め硬化させた硬化物として準備される。シャフト本体10を構成する繊維強化樹脂は、特に限定されないが、例えば、炭素繊維強化樹脂(CFRP)が好適である。
【0028】
本実施形態のシャフト本体10は、上述の研磨工程が施されていない。したがって、シャフト本体10の外周面10aの少なくとも一部(本実施形態では全部)は、表面が研磨されていない未研磨部分とされている。
【0029】
また、本実施形態の準備工程で準備されるシャフト本体10は、塗装工程が施されていない。したがって、本実施形態のシャフト本体10の外周面10aの少なくとも一部(本実施形態では全部)は、未塗装部分とされている。
【0030】
[装着工程]
装着工程では、準備工程で準備されたシャフト本体10の外周面10aに、
図2に示されるような表層材20が装着される。表層材20は、熱収縮性のフィルム基材を含んで形成されている。本実施形態の表層材20は、
図2に示されるように、シャフト本体10に装着するに先立って、予め、筒状に形成されている。
【0031】
図3に示されるように、筒状の表層材20は、帯状のフィルム基材25の両側部25a、25aを互いに重ねて接合することにより形成される。接合には、例えば、溶剤系やウレタン樹脂系の接着剤が用いられる。したがって、本実施形態の表層材20には、フィルム基材25を互いに重ねて接合した接合部22が形成される。この接合部22は、例えば、シャフト本体10の軸方向に対応する表層材20の長手方向に沿って延びている。
【0032】
筒状の表層材20の内径は、その内部にシャフト本体10を挿入することができるように、シャフト本体10の外形よりも僅かに大きく形成されることが望ましい。
【0033】
[フィルム基材]
フィルム基材25には、熱収縮性を有するものであれば、種々のフィルム材料を用いることができる。
【0034】
フィルム基材25としては、樹脂フィルム基材が好適である。樹脂フィルム基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等のポリスチレン系樹脂、及び、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂から選択される1種単独又は2種以上の混合物からなるフィルムが採用され得る。
【0035】
また、フィルム基材25として、2種以上の樹脂フィルムを積層した積層フィルムの他、樹脂フィルムに、不織布、金属蒸着層、発泡層等を積層した複合フィルムが採用されても良い。
【0036】
とりわけ、フィルム基材25には、柔軟性や伸縮性等の観点から、ポリエチレンテレフタレート系又はポリスチレン系の樹脂フィルムが好適である。なお、フィルム基材25は、透明でも良いし、着色されたもので良い。
【0037】
フィルム基材25の厚さは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上とされ、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは50μmとされる。
【0038】
[表示部]
表層材20には、表示部23が形成されている。表示部23は、ゴルフクラブシャフトのメーカー名、商標、フレックス等の各種の情報を表示するためのものである。表示部23は、文字のみならず、例えば、装飾模様や図形等が含まれても良い。表示部23は、例えば、フィルム基材25のいずれか一方の面に、グラビア印刷やフレキソ印刷等の各種の手段によって形成される。
【0039】
図3から明らかなように、表示部23は、表層材20において、接合部22とは反対側の位置に形成されるのが望ましい。この例では、表示部23は、接合部22とは、筒状の軸中心線の周りに180°の角度を隔てている。
【0040】
[シャフト本体への表層材の装着]
図4は、シャフト本体10に、表層材20を装着した仮組体30を示す。本実施形態では、筒状の表層材20に、シャフト本体10を挿入することにより、仮組体30が得られる。他の態様では、シート状の表層材20を用いて、仮組体30が準備されても良い。この場合、シート状の表層材20をシャフト本体10の外周面10aを巻き付け、この表層材20の両端部が接合される。これにより、表層材20が、シャフト本体10の上で円筒状に形成されても良い。
【0041】
また、本実施形態の表層材20は、シャフト本体10のほぼ全長さに等しい長さを有している。他の態様では、表層材20は、シャフト本体10の全長よりも短くても良く、また、長くても良い。さらに、表層材20は、シャフト本体10の軸方向に複数に分割されて構成されても良い。
【0042】
[固定工程]
固定工程では、表層材20を熱収縮させて、表層材20をシャフト本体10に密着固定させる。固定工程は、例えば、仮組体30を、予め設定された温度に加熱することにより行われる。加熱は、様々な方法で実施され得る。例えば、仮組体30は、所定の温度に調整された熱風チャンバー又はスチームチャンバー内で加熱され得る。加熱温度は、フィルム基材25に合わせて適宜設定される。フィルム基材25が、例えばPETの場合、チャンバー内の雰囲気温度は、約160~180℃程度が好適である。
【0043】
仮組体30の表層材20は、加熱されることによって熱収縮し、シャフト本体10の外周面10aに強固に密着する。これにより、
図5に示されるようなゴルフクラブシャフト1が製造される。このゴルフクラブシャフト1は、繊維強化樹脂製のシャフト本体10と、シャフト本体10の外周面10a(
図1に示す)に熱収縮により密着固定された表層材20とを含み、表層材20には、表示部23が設けられている。
【0044】
以上のように、本実施形態のゴルフクラブシャフトの製造方法によれば、例えば、研磨工程や塗装工程を完全に無くすことや、それらの一部を簡略化することが可能である。したがって、本実施形態の製造方法では、ゴルフクラブシャフト1の生産性を向上することができる。
【0045】
また、本実施形態では、表層材20が、シャフト本体10の未研磨部分の少なくとも一部を覆うように装着されている。一般に、プリプレグ積層体の硬化物からなるシャフト本体10の表面粗さは大きい。本実施形態では、このようなシャフト本体10の表面特性をそのまま利用するために、シャフト本体10の外周面10aに、意図的に研磨していない未研磨部分を残存させている。これにより、シャフト本体10の未研磨部分の表面の微細な凹凸が、熱収縮した表層材20の内周面に食い込み、ひいては、シャフト本体10と表層材20との位置ずれが効果的に防止される。
【0046】
上記のような観点より、シャフト本体10の外周面10aの軸方向に沿って測定された粗さ曲線において、十点平均粗さ(Rzjis)が3μm以上、より好ましくは4μm以上、さらに好ましくは4.5μm以上であるのが望ましい。
【0047】
[ゴルフクラブへの適用]
図6は、
図5のゴルフクラブシャフト1を用いて製造されたゴルフクラブ100の正面図を示す。
図7は、
図6のゴルフクラブ100の上面図を示す。ゴルフクラブ100は、上記の製造方法で製造されたゴルフクラブシャフト1に、ゴルフクラブヘッド40を装着する工程を含む、ゴルフクラブの製造方法により、製造することができる。本実施形態のゴルフクラブ100は、ゴルフクラブシャフト1と、その一端側に固着されたゴルフクラブヘッド40と、ゴルフクラブシャフト1の他端側に装着されたグリップ50とを含む。
【0048】
図6において、ゴルフクラブ100は、基準状態に置かれている。本明細書において、ゴルフクラブ100の基準状態とは、ゴルフクラブヘッド40のフェース41に形成されたスコアライン42と水平面HPとが平行とされた状態で、ゴルフクラブヘッド40が水平面HP上に置かれた状態として定義される。基準状態では、シャフト軸中心線CLが基準垂直面(図示省略)内に配される。基準垂直面は、水平面HPに対して垂直な平面である。
【0049】
図1に戻ると、本実施形態のシャフト本体10は、ゴルファが構えたときに、ゴルファが視認可能な面とされる表面10Aと、ゴルファが視認不能な面とされる裏面10Bとを含む。例えば、本実施形態のシャフト本体10は、プリプレグの積層によって得られているため、プリプレグが重なるスパイン等の存在により、完全等方性ではないことがある。このようなシャフト本体10は、ゴルフクラブヘッド40に組み込まれる際に、特定の向きで使用されるように管理されている。この結果、シャフト本体10は、上述の表面10A及び裏面10Bが予め特定される。なお、
図1には、シャフト本体10の表面10Aの中心を示す任意要素としてのマーク10bが表示されている。
【0050】
本明細書において、シャフト本体10の表面10Aは、
図6及び
図7を参照すると、シャフト軸中心線CLを通り、かつ、
図6の紙面と直交する平面Pよりも上側(
図6及び
図7のA側)に位置する面として定義される。他方、シャフト本体10の裏面10Bは、平面Pよりも下側(
図6及び
図7のB側)に位置する面として定義される。
【0051】
そして、本実施形態では、
図6に示されるように、表層材20の接合部22は、シャフト本体10の裏面10Bに位置するように装着される。このようなゴルフクラブシャフト1では、ゴルファがゴルフクラブ100を構えた際に、表層材20の接合部22が視界に入らない。したがって、本実施形態のゴルフクラブシャフト1は、ゴルフクラブ100の外観性能を向上させることができる。
【0052】
一方、本実施形態の表層材20では、表示部23は、表層材20の円周方向において、接合部22とは反対の位置に設けられている。このため、ゴルファがゴルフクラブ100を構えた際に、ゴルファに印象づけたい表示部23を、ゴルファの視界に入れることができる(
図7参照)。したがって、本実施形態のゴルフクラブシャフト1は、ゴルフクラブ100の外観性能を向上させることができる。
【0053】
[シャフト本体の変形例]
図8には、シャフト本体10の変形例の斜視図が示されている。
図9は、
図8のシャフト本体10のシャフト軸中心線CLに沿った部分断面図である。この変形例において、シャフト本体10は、プリプレグ積層体を硬化させた硬化物であり、その外周面10aに、螺旋状に延びる凸状模様10cが形成されている。
【0054】
凸状模様10cは、例えば、上述の巻回工程の後、巻回体の外側に、張力を付与しながらラッピングテープ(図示省略)を螺旋状に巻き付け(テープラッピング工程)、ラッピングテープとともに巻回体を硬化させることで形成される。このようなラッピングテープは、プリプレグの巻きほぐれ等を防止し、巻回体の形状を保持するのに役立つ。一方、ラッピングテープを取り除いた後は、シャフト本体10の外周面10aに、螺旋状のラッピングテープの巻き付け痕が残る。この例では、凸状模様10cとして、ラッピングテープの巻き付け痕が利用されている。
【0055】
図8及び
図9に示したようなシャフト本体10には、
図10に示されるように、上述と同様の手順にて、表層材20が装着される(装着工程)。この際、表層材20が、凸状模様10cの少なくとも一部を覆うように装着される。これにより、シャフト本体10に表層材20を装着した仮組体30が得られる。
【0056】
次に、仮組体30が加熱される(固定工程)。これにより、シャフト本体10の外側に配された表層材20は熱収縮し、表層材20をシャフト本体10に密着固定される。
【0057】
以上の工程により、
図11に示されるようなゴルフクラブシャフト1が製造される。このゴルフクラブシャフト1では、表層材20の内周面に、シャフト本体10の螺旋状に延びる凸状模様10cが食い込み、ひいては、シャフト本体10と表層材20との接合がより強固になり、特に軸方向での位置ずれが効果的に防止される点で望ましい。
【0058】
好ましい態様では、シャフト本体10の凸状模様10cの高さhは、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上とされる。他方、凸状模様10cの高さhが過度に大きくなると、表層材20の破断等が生じるおそれがある。このような観点より、凸状模様10cの高さhは、好ましくは50μm以下、より好ましくは45μm以下とされる。
【0059】
[第2実施形態]
図12(A)~(C)は、第2実施形態のゴルフクラブシャフトの製造方法を説明する斜視図である。第1実施形態では、準備工程において、硬化済のシャフト本体10が準備された。この第2実施形態では、シャフト本体10は、プリプレグを積層したプリプレグ積層体の未硬化物である点で第1実施形態とは異なっている。
【0060】
図12(A)に示されるように、本実施形態のシャフト本体10は、芯金であるマンドレルMの上に準備される(準備工程)。すなわち、所定の形状に裁断された複数のプリプレグ10Pが、マンドレルMに巻回されることで、未硬化のシャフト本体10が形成される。
【0061】
次に、
図12(B)に示されるように、マンドレルM上の未硬化のシャフト本体10に、表層材20が装着される(装着工程)。この例でも、表層材20は、予め筒状に形成されており、その中にマンドレルMとともにシャフト本体10が挿入される。これにより、シャフト本体10に表層材20が装着された仮組体30が得られる。
【0062】
次に、この仮組体30が、オーブン等で所定の温度まで加熱される(固定工程)。これにより、シャフト本体10では、プリプレグの硬化が始まる。また、表層材20も熱収縮し、シャフト本体10に密着固定する。
【0063】
以上の工程を得て、
図12(C)に示されるように、マンドレルM上に、ゴルフクラブシャフト1を製造することができる。この実施形態では、シャフト本体10の硬化と表層材20の熱収縮とが同時に行われるため、さらにゴルフクラブシャフト1の生産性が向上する。また、表層材20は、ラッピングテープと同様に、硬化中のシャフト本体を外側から保持することで、プリプレグのばらけ等を抑制し、形状を保持するのに役立つ。
【0064】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。例えば、本実施形態の製造方法を用いた場合、以下のようなゴルフクラブシャフト等を提供することができる。
【0065】
[態様1]
ゴルフクラブシャフト1であって、繊維強化樹脂製のシャフト本体10と、前記シャフト本体10の外周面10aに、熱収縮により密着固定された表層材20とを含み、前記表層材20には、表示部23が設けられている、ゴルフクラブシャフト。
【0066】
[態様2]
上記態様1において、前記シャフト本体10は、プリプレグを積層したプリプレグ積層体の硬化物であり、前記外周面10aの少なくとも一部は、研磨されていない未研磨部分を備えており、前記表層材20は、前記未研磨部分の少なくとも一部を覆うことができる。
【0067】
[態様3]
上記態様1又は2において、前記シャフト本体10の前記外周面10aには、螺旋状に延びる凸状模様10cが形成されており、前記表層材20は、前記凸状模様10cの少なくとも一部を覆っていても良い。
【0068】
[態様4]
上記態様1ないし3のいずれかにおいて、前記シャフト本体10は、未塗装であっても良い。
【0069】
[態様5]
上記態様1ないし4のいずれかにおいて、前記シャフト本体10は、ゴルファが構えたときに、前記ゴルファが視認可能な面とされる表面10A及び前記ゴルファが視認不能な面とされる裏面10Bとを含み、前記表層材20は、前記シャフト本体10の軸方向に沿って延びる接合部22を備え、前記接合部22は、前記シャフト本体10の前記裏面10Bに位置しても良い。
【0070】
[態様6]
上記態様1ないし5のいずれかに記載されたゴルフクラブシャフト1と、ゴルフクラブヘッド40とを備えるゴルフクラブ100。
【符号の説明】
【0071】
1 ゴルフクラブシャフト
10 シャフト本体
10A シャフト本体の表面
10B シャフト本体の裏面
10a シャフト本体の外周面
10c 凸状模様
20 表層材
22 接合部
23 表示部
25 フィルム基材
40 ゴルフクラブヘッド
100 ゴルフクラブ