(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】三次元造形装置および三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/321 20170101AFI20240709BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20240709BHJP
B29C 64/343 20170101ALI20240709BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20240709BHJP
B29C 64/209 20170101ALI20240709BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240709BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240709BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240709BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20240709BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240709BHJP
B22F 12/53 20210101ALI20240709BHJP
B22F 12/60 20210101ALI20240709BHJP
【FI】
B29C64/321
B29C64/106
B29C64/343
B29C64/393
B29C64/209
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B22F10/38
B28B1/30
B22F12/53
B22F12/60
(21)【出願番号】P 2020127035
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姉川 賢太
(72)【発明者】
【氏名】林 里緒奈
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/210183(WO,A1)
【文献】特開2020-006647(JP,A)
【文献】特開2020-049692(JP,A)
【文献】特開2020-100058(JP,A)
【文献】特開2018-187777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
B22F 10/00-12/90
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元造形装置であって、
スクリューを有し、前記スクリューの回転によって材料を可塑化して可塑化材料を生成する可塑化部と、
前記可塑化材料が堆積される堆積面を有するステージと、
前記ステージの前記堆積面に平行な第1軸に沿って並んで配置された複数のノズルを有し、前記複数のノズルから前記堆積面に向かって前記可塑化材料を吐出する吐出部と、
前記複数のノズルのそれぞれからの前記可塑化材料の吐出量を調節する吐出量調節部と、
前記ステージの前記堆積面に平行で前記第1軸と交差する第2軸に沿って、前記吐出部を前記ステージに対して相対移動させる移動部と、
前記ステージの前記堆積面に堆積した前記可塑化材料によって形成される造形層を平坦化する平坦化部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は
、
前記スクリューの回転速度を制御する第1制御と、前記吐出量調節部によって前記吐出量を制御する第2制御と、前記ステージに対する前記吐出部の相対速度を制御する第3制御とのうちの少なくともいずれか一つの制御を、前記複数のノズルからの前記可塑化材料の吐出状態に基づいて実行して、
前記造形層を前記ステージ上に積層
し、
前記移動部を制御して、前記平坦化部によって平坦化される前の前記造形層を前記ノズルの先端部で押圧する、
三次元造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元造形装置であって、
前記吐出部は、前記可塑化部に連通する共通流路と、前記共通流路に連通する複数の分岐流路と、前記分岐流路と前記ノズルとを連通する複数の個別流路とを有し、
前記吐出量調節部は、前記複数のノズルのそれぞれに対応する前記個別流路に設けられた複数のバルブを有し、
前記制御部は、前記複数のバルブの開度を制御することによって、前記複数のノズルのそれぞれからの前記可塑化材料の前記吐出量を調節する、三次元造形装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の三次元造形装置であって、
前記制御部は、前記第1制御と前記第2制御と前記第3制御とのうちの少なくとも一つの制御を、前記吐出状態としての、前記複数のノズルのそれぞれからの前記可塑化材料の吐出の停止と開始とを示す状態に基づいて実行
し、
前記制御部は、前記複数のノズルのうち、前記可塑化材料の吐出を停止状態にするノズルの数を増加させる場合、
前記第1制御を実行する場合には、前記スクリューの回転速度を減少させ、
前記第2制御を実行する場合には、前記吐出量が減少するように前記吐出量調節部を調整し、
前記第3制御を実行する場合には、前記ステージに対する前記吐出部の相対速度を増加させる、三次元造形装置。
【請求項4】
請求項1に記載の三次元造形装置であって、
前記吐出部は、前記複数のノズルのそれぞれに連通する複数の個別流路と、前記複数の個別流路のそれぞれの圧力を計測する複数の第1計測部とを有し、
前記複数の第1計測部は、前記複数の個別流路のうち、前記吐出量調節部よりも上流の位置に配置されており、
前記制御部は、前記第1制御と前記第2制御と前記第3制御とのうちの少なくとも一つの制御を、前記吐出状態としての、前記複数の第1計測部によって計測される圧力を示す状態に基づいて実行
し、
前記制御部は、前記第1計測部によって計測される圧力が増加した場合に、
前記第1制御を実行する場合には、前記スクリューの回転速度を減少させ、
前記第2制御を実行する場合には、前記吐出量が減少するように前記吐出量調節部を調整し、
前記第3制御を実行する場合には、前記ステージに対する前記吐出部の相対速度を増加させる、三次元造形装置。
【請求項5】
請求項1
または請求項2に記載の三次元造形装置であって、
前記複数のノズルのそれぞれから吐出された前記可塑化材料の前記吐出量または線幅を計測する第2計測部を備え、
前記制御部は、前記第1制御と前記第2制御と前記第3制御とのうちの少なくとも一つの制御を、前記吐出状態としての、前記第2計測部によって計測される前記吐出量または前記線幅を示す状態に基づいて実行
し、
前記制御部は、前記第2計測部によって計測される前記吐出量または前記線幅が増加した場合に、
前記第1制御を実行する場合には、前記スクリューの回転速度を減少させ、
前記第2制御を実行する場合には、前記吐出量が減少するように前記吐出量調節部を調整し、
前記第3制御を実行する場合には、前記ステージに対する前記吐出部の相対速度を増加させる、三次元造形装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の三次元造形装置であって、
前記堆積面に垂直な方向から見て前記複数のノズルを挟むように設けられ、前記ステージ上に積層された前記造形層を加熱する機能と前記ステージ上に積層された前記造形層を冷却する機能とを有する一対の加熱冷却部と、
前記堆積面に垂直な方向から見て前記複数のノズル及び前記一対の加熱冷却部を挟むように設けられ、前記ステージ上に積層された前記造形層の表面自由エネルギーを高める一対の表面活性化部と、
をさらに備え、
前記平坦化部は、前記堆積面に垂直な方向から見て前記複数のノズルと前記加熱冷却部との間に配置され、前記複数のノズルを挟むように一対で設けられている、三次元造形装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の三次元造形装置であって、
前記堆積面に垂直な方向から見て前記複数のノズルを挟むように設けられ、前記ステージ上に積層された前記造形層を加熱する機能と前記ステージ上に積層された前記造形層を冷却する機能とを有する一対の加熱冷却部をさらに備え、
前記平坦化部は、前記堆積面に垂直な方向から見て前記複数のノズルと前記加熱冷却部との間に配置され、前記複数のノズルを挟むように一対で設けられており、
前記制御部は、前記一対の加熱冷却部を制御して、前記造形層を形成する際の前記ステージに対する前記吐出部の前記第2軸に沿った移動方向において前記複数のノズルよりも前方に配置された前記加熱冷却部によって前記ステージ上に積層された前記造形層を加熱し、前記移動方向において前記複数のノズルよりも後方に配置された前記加熱冷却部によって前記ステージ上に積層された前記造形層を冷却する、三次元造形装置。
【請求項8】
請求項1に記載の三次元造形装置であって、
前記可塑化部、前記吐出部、および、前記吐出量調節部を各々備える第1造形部および第2造形部を有し、
前記第1造形部の前記複数のノズル、および、前記第2造形部の前記複数のノズルは、前記第1軸に沿って互いに隣り合って配置されており、
前記移動部は、前記第1造形部と前記第2造形部とを一体として前記ステージに対して相対移動させ、
前記制御部は、前記吐出状態としての、前記複数のノズルのうちの前記可塑化材料の吐出を停止状態にするノズルの数を、前記第1造形部および前記第2造形部において増加させる場合であって、前記第2造形部における前記停止状態にするノズルの数を前記第1造形部における前記停止状態にするノズルの数よりも少なくする場合、
前記第2造形部により前記堆積面に堆積する前記可塑化材料の単位面積当たりの堆積量が、前記第2造形部における前記停止状態にするノズルの数の変更前後で同じになるように、前記第1造形部および前記第2造形部の前記ステージに対する相対速度を増加させるとともに、
前記第1造形部により前記堆積面に堆積する前記可塑化材料の単位面積当たりの堆積量が、前記第1造形部における前記停止状態にするノズルの数の変更前後で同じになるように、前記第1造形部の前記スクリューの回転速度を減少させる、三次元造形装置。
【請求項9】
第1軸に沿って並んで配置された複数のノズルから前記第1軸に平行な堆積面に向かって可塑化材料を吐出させて、前記可塑化材料によって形成される造形層を前記堆積面上に積層することにより三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法であって、
スクリューの回転によって材料を可塑化して前記可塑化材料を生成する第1工程と、
前記複数のノズルのそれぞれからの前記可塑化材料の吐出量を調節する第2工程と、
前記堆積面に平行で前記第1軸と交差する第2軸に沿って前記複数のノズルを前記堆積面に対して相対移動させつつ前記複数のノズルから前記堆積面に向かって前記可塑化材料を吐出する第3工程と、
前記堆積面に堆積した前記可塑化材料によって形成される造形層を平坦化する第4工程と、
を備え、
前記第1工程における前記スクリューの回転速度と、前記第2工程における前記吐出量と、前記第3工程における前記堆積面に対する前記複数のノズルの相対速度とのうちの少なくとも一つを、前記複数のノズルからの前記可塑化材料の吐出状態に基づいて調節して、
前記造形層を前記堆積面上に積層
し、
前記第3工程では、平坦化される前の前記造形層を前記ノズルの先端部で押圧する、三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元造形装置および三次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、予熱器で加熱されて溶融した熱可塑性の材料を、予め設定された形状データに従って走査する押出ノズルから基台上に押し出し、基台上で硬化した材料の上に溶融材料を積層して三次元造形物を作成する装置が開示されている。特許文献2には、加熱板にパルス電圧を印加することによって、加熱板を瞬間的に加熱して流路内の材料を溶融させるとともに流路の側壁を構成する薄板に熱歪みを生じさせ、溶融した材料を複数の吐出口から薄板の熱歪みを用いて間欠的に吐出する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-192710号公報
【文献】国際公開第2016/185626号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、1つのノズルから材料を吐出する装置を用いて、一筆書きのようにして三次元造形物を造形する場合、造形時間が長くなる。そこで、特許文献2のように、複数のノズルから材料を吐出する装置を用いることによって造形時間を短期化できる。複数のノズルから材料を吐出する装置を用いて三次元造形物を造形する場合、三次元造形物の形状に応じて各ノズルからの材料の吐出の停止と開始とが切り替えられることが好ましい。しかしながら、例えば、1つの材料供給源から圧送された材料を複数のノズルから同時に吐出可能な装置では、複数のノズルのうちの吐出を停止するノズルの数を変更すると、吐出を停止しないノズルからの材料の吐出量が変動して、三次元造形物を寸法精度良く造形できない可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の形態によれば、三次元造形装置が提供される。この三次元造形装置は、スクリューを有し、前記スクリューの回転によって材料を可塑化して可塑化材料を生成する可塑化部と、前記可塑化材料が堆積される堆積面を有するステージと、前記ステージの前記堆積面に平行な第1軸に沿って並んで配置された複数のノズルを有し、前記複数のノズルから前記堆積面に向かって前記可塑化材料を吐出する吐出部と、前記複数のノズルのそれぞれからの前記可塑化材料の吐出量を調節する吐出量調節部と、前記ステージの前記堆積面に平行で前記第1軸と交差する第2軸に沿って、前記吐出部を前記ステージに対して相対移動させる移動部と、制御部と、を備える。前記制御部は、前記スクリューの回転速度を制御する第1制御と、前記吐出量調節部によって前記吐出量を制御する第2制御と、前記ステージに対する前記吐出部の相対速度を制御する第3制御とのうちの少なくともいずれか一つの制御を、前記複数のノズルからの前記可塑化材料の吐出状態に基づいて実行して、前記可塑化材料によって形成される造形層を前記ステージ上に積層する。
【0006】
本開示の第2の形態によれば、三次元造形物の製造方法が提供される。この三次元造形物の製造方法は、第1軸に沿って並んで配置された複数のノズルから前記第1軸に平行な堆積面に向かって可塑化材料を吐出させて、前記可塑化材料によって形成される造形層を前記堆積面上に積層することにより三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法であって、スクリューの回転によって材料を可塑化して前記可塑化材料を生成する第1工程と、前記複数のノズルのそれぞれからの前記可塑化材料の吐出量を調節する第2工程と、前記堆積面に平行で前記第1軸と交差する第2軸に沿って前記複数のノズルを前記堆積面に対して相対移動させつつ前記複数のノズルから前記堆積面に向かって前記可塑化材料を吐出する第3工程と、を備える。前記第1工程における前記スクリューの回転速度と、前記第2工程における前記吐出量と、前記第3工程における前記堆積面に対する前記複数のノズルの相対速度とのうちの少なくとも一つを、前記複数のノズルからの前記可塑化材料の吐出状態に基づいて調節して、前記可塑化材料によって形成される造形層を前記堆積面上に積層することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の三次元造形装置の概略構成を示す断面図。
【
図2】第1実施形態の造形部の概略構成を示す底面図。
【
図5】吐出部および吐出量調節部の構成を示す上面図。
【
図7】三次元造形処理の内容を示すフローチャート。
【
図8】堆積量変動抑制処理の内容を示すフローチャート。
【
図9】奇数番目の造形層が形成される様子を模式的に示す側面図。
【
図10】奇数番目の造形層が形成される様子を模式的に示す第1の底面図。
【
図11】奇数番目の造形層が形成される様子を模式的に示す第2の底面図。
【
図12】偶数番目の造形層が形成される様子を模式的に示す側面図。
【
図13】第2実施形態の三次元造形装置の第1計測部の概略構成を示す説明図。
【
図14】第3実施形態の三次元造形装置の第2計測部の概略構成を示す説明図。
【
図15】第4実施形態の三次元造形装置の造形部の概略構成を示す底面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における三次元造形装置100の概略構成を示す断面図である。
図2は、本実施形態における造形部200の概略構成を示す底面図である。
図1および
図2には、互いに直交する3つの座標軸であるX,Y,Z軸を表す矢印が示されている。X軸およびY軸は水平面に平行な座標軸であり、Z軸は水平面に垂直な座標軸である。X,Y,Z軸を表す矢印は、他の図においても、矢印の指し示す方向が
図1や
図2と対応するように適宜、図示してある。なお、Y軸のことを第1軸と呼び、X軸のことを第2軸と呼び、Z軸のことを第3軸と呼ぶことがある。
【0009】
以下の説明において、X軸を表す矢印の指し示す方向のことを+X方向と呼び、Y軸を表す矢印の指し示す方向のことを+Y方向と呼び、Z軸を表す矢印の指し示す方向のことを+Z方向と呼ぶ。+X方向とは反対方向のことを-X方向と呼び、+Y方向とは反対方向のことを-Y方向と呼び、+Z方向とは反対方向のことを-Z方向と呼ぶ。-Z方向は、重力方向に沿った方向である。+X方向と-X方向とのことを特に区別せずに説明する場合には単にX方向と呼び、+Y方向と-Y方向とのことを特に区別せずに説明する場合には単にY方向と呼び、+Z方向と-Z方向とのことを特に区別せずに説明する場合には単にZ方向と呼ぶ。
【0010】
図1に示すように、三次元造形装置100は、造形部200と、ステージ300と、移動部400と、制御部500とを備えている。造形部200は、可塑化材料を吐出する吐出部60を有している。ステージ300は、吐出部60から吐出された可塑化材料が堆積される堆積面310を有している。三次元造形装置100は、移動部400を用いて吐出部60とステージ300とを相対移動させつつ吐出部60からステージ300の堆積面310に向かって可塑化材料を吐出することによって、可塑化材料によって形成される造形層を堆積面310上に積層して、造形層の積層体である三次元造形物を造形する。
【0011】
本実施形態では、造形部200は、材料供給部20と、可塑化部30と、吐出部60と、吐出量調節部70と、第1表面活性化部210Aと、第2表面活性化部210Bと、第1加熱冷却部220Aと、第2加熱冷却部220Bと、第1平坦化部230Aと、第2平坦化部230Bとを備えている。
【0012】
材料供給部20は、材料MRを可塑化部30に供給する。材料MRとして、例えば、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。本実施形態では、ペレット状に形成されたABS樹脂が材料MRとして用いられる。材料供給部20は、材料MRを収容するホッパーによって構成されている。材料供給部20の下方には、材料供給部20と可塑化部30との間を接続する供給路22が設けられている。材料供給部20に収容された材料MRは、供給路22を介して、可塑化部30に供給される。
【0013】
可塑化部30は、材料供給部20から供給された材料MRを可塑化して可塑化材料を生成して、可塑化材料を吐出部60に供給する。「可塑化」とは、熱可塑性を有する材料に熱が加わり溶融することを意味する。「溶融」とは、熱可塑性を有する材料が融点以上の温度に加熱されて液状になることのみならず、熱可塑性を有する材料がガラス転移点以上の温度に加熱されることにより軟化し、流動性が発現することをも意味する。
【0014】
可塑化部30は、スクリューケース31と、駆動モーター32と、フラットスクリュー40と、バレル50と、ヒーター58とを備えている。スクリューケース31は、フラットスクリュー40を収容する筐体である。スクリューケース31の下端部にはバレル50が固定されており、スクリューケース31とバレル50とによって囲まれた空間にフラットスクリュー40が収容されている。
【0015】
フラットスクリュー40は、その中心軸RXに沿った方向の高さが直径よりも小さい略円柱形状を有している。フラットスクリュー40は、中心軸RXがZ方向に平行になるようにスクリューケース31内に配置されている。フラットスクリュー40の上面41側は制御部500の制御下で駆動される駆動モーター32に接続されており、駆動モーター32が発生させるトルクによって、フラットスクリュー40は、スクリューケース31内において中心軸RXを中心にして回転する。フラットスクリュー40は、上面41とは反対側に、溝部45が形成された溝形成面42を有している。バレル50は、フラットスクリュー40の溝形成面42に対向するスクリュー対向面52を有している。スクリュー対向面52の中央には、吐出部60に連通する連通孔56が設けられている。
【0016】
図3は、フラットスクリュー40の構成を示す斜視図である。
図3には、技術の理解を容易にするために、
図1とは上下逆向きにフラットスクリュー40が表されている。
図3には、フラットスクリュー40の中心軸RXの位置が一点鎖線で示されている。フラットスクリュー40の溝形成面42の中央部47は、溝部45の一端が接続されている窪みとして構成されている。中央部47は、
図1に示したバレル50の連通孔56に対向している。中央部47は、中心軸RXと交差する。本実施形態では、溝部45は、中央部47から、フラットスクリュー40の外周に向かって弧を描くように渦状に延びている。溝部45は、インボリュート曲線状に構成されてもよいし、螺旋状に延びるように構成されてもよい。溝形成面42には、溝部45の側壁部を構成し、各溝部45に沿って延びている凸条部46が設けられている。溝部45は、フラットスクリュー40の側面43に形成された材料導入口44まで連続している。材料導入口44は、材料供給部20の供給路22を介して供給された材料MRを受け入れる部分である。材料導入口44から溝部45内に導入された材料MRは、フラットスクリュー40の回転によって溝部45内を中央部47に向かって搬送される。
【0017】
図3には、3つの溝部45と、3つの凸条部46とを有するフラットスクリュー40が表されている。フラットスクリュー40に設けられる溝部45や凸条部46の数は、3つには限定されない。フラットスクリュー40には、1つの溝部45のみが設けられてもよいし、2つ以上の複数の溝部45が設けられてもよい。また、溝部45の数に合わせて任意の数の凸条部46が設けられてもよい。
図3には、材料導入口44が3箇所に形成されたフラットスクリュー40が表されている。フラットスクリュー40に設けられる材料導入口44の位置は、3箇所に限定されない。フラットスクリュー40には、材料導入口44が1箇所にのみ設けられてもよいし、2箇所以上の複数の位置に設けられてもよい。
【0018】
図4は、バレル50の構成を示す上面図である。上述したとおり、スクリュー対向面52の中央には、吐出部60に連通する連通孔56が設けられている。スクリュー対向面52には、連通孔56の周りに、複数の案内溝54が設けられている。それぞれの案内溝54は、一端が連通孔56に接続され、連通孔56からスクリュー対向面52の外周に向かって弧を描くように渦状に延びている。それぞれの案内溝54は、可塑化材料を連通孔56に導く機能を有している。なお、スクリュー対向面52には、案内溝54が設けられていなくてもよい。
【0019】
図1に示すように、バレル50の下端部には、材料MRを加熱するためのヒーター58が固定されている。本実施形態では、ヒーター58は、リング状の外形形状を有しており、連通孔56を囲むように配置されている。ヒーター58の温度は、制御部500によって制御される。溝部45内を搬送される材料MRは、フラットスクリュー40の回転によるせん断とヒーター58からの熱によって可塑化されて、ペースト状の可塑化材料になる。可塑化材料は、フラットスクリュー40の回転によって連通孔56から吐出部60に圧送される。
【0020】
図2に示すように、本実施形態では、吐出部60は、4つのノズル68A~68Dを有している。吐出部60は、バレル50の下端部に固定された第1流路部材61と、第1流路部材61の下端部に固定された第2流路部材62とによって構成されている。各ノズル68A~68Dは、第2流路部材62下端部に、Y方向に沿って並んで配置されている。吐出部60は、各ノズル68A~68Dからステージ300に向かって、連続した線状の形態で可塑化材料を吐出する。以下の説明では、各ノズル68A~68Dのことを、-Y方向側から順に、第1ノズル68A、第2ノズル68B、第3ノズル68C、第4ノズル68Dと呼ぶことがある。各ノズル68A~68Dの符号の末尾に付された「A」~「D」の文字は、各ノズル68A~68Dを区別するために付された文字である。以下の説明において、各ノズル68A~68Dを特に区別せずに説明する場合には、符号の末尾に「A」~「D」の文字を付さずに説明する。なお、吐出部60に設けられるノズル68の数は、4つに限られず、2つまたは3つでもよいし、5つ以上でもよい。
【0021】
各ノズル68A~68Dの-Z方向側の先端部には、可塑化材料を吐出するための吐出口69A~69Dが設けられている。本実施形態では、各吐出口69A~69Dの開口形状は、Y方向に沿った長手方向を有する長方形である。各吐出口69A~69Dの大きさは同じである。なお、各吐出口69A~69Dの開口形状は、長方形に限られず、例えば、正方形でもよいし、四角形以外の多角形でもよいし、円形でもよい。
【0022】
本実施形態では、吐出部60には、各ノズル68A~68Dが千鳥状に配置されている。より具体的には、吐出部60は、第1ノズル68Aと第3ノズル68Cとによって構成された第1ノズル列と、第2ノズル68Bと第4ノズル68Dとによって構成された第2ノズル列とを有している。第1ノズル列を構成する第1ノズル68Aと第3ノズル68Cとは、Y方向に平行な直線上に並んで配置されている。第2ノズル列は、X方向において第1ノズル列との間に間隔を空けて、第1ノズル列に対して-X方向側に配置されている。第2ノズル列を構成する第2ノズル68Bと第4ノズル68Dとは、Y方向に平行な直線上に並んで配置されている。第1ノズル列を構成する各ノズル68A,68CのY方向における位置は、第2ノズル列を構成する各ノズル68B,68DのY方向における位置とは異なる。第2ノズル68Bは、Y方向において、第1ノズル68Aと第3ノズル68Cとの間に配置されており、第3ノズル68Cは、Y方向において、第2ノズル68Bと第4ノズル68Dとの間に配置されている。なお、各ノズル68A~68Dは、千鳥状に配置されずに、一直線上に並んで配置されてもよい。
【0023】
本実施形態では、第1ノズル68Aの吐出口69Aの+Y方向側の周縁部と、第2ノズル68Bの吐出口69Bの-Y方向側の周縁部とが、Y方向において同じ位置になるように第1ノズル68Aと第2ノズル68Bとが配置されている。第2ノズル68Bの吐出口69Bの+Y方向側の周縁部と、第3ノズル68Cの吐出口69Cの-Y方向側の周縁部とが、Y方向において同じ位置になるように第2ノズル68Bと第3ノズル68Cとが配置されている。第3ノズル68Cの吐出口69Cの+Y方向側の周縁部と、第4ノズル68Dの吐出口69Dの-Y方向側の周縁部とが、Y方向において同じ位置になるように第3ノズル68Cと第4ノズル68Dとが配置されている。つまり、本実施形態では、+X方向あるいは-X方向に視たときに、隣り合うノズル68の吐出口69同士が互いに接するように各ノズル68A~68Dが配置されている。
【0024】
図5は、吐出部60および吐出量調節部70の構成を示す上面図である。
図6は、
図5におけるVI-VI線断面図である。
図5に示すように、吐出部60は、1つの共通流路63と、2つの分岐流路64A,64Bと、4つの個別流路65A~65Dとを有している。各個別流路65A~65Dは、各ノズル68A~68Dに対して1つずつ設けられている。共通流路63の上流側の端部は、バレル50の連通孔56に連通している。共通流路63の下流側の端部は、第1分岐流路64Aと第2分岐流路64Bとに連通している。第1分岐流路64Aの下流側の端部は、第1個別流路65Aと第2個別流路65Bとに連通している。第2分岐流路64Bの下流側の端部は、第3個別流路65Cと第4個別流路65Dとに連通している。
図6に示すように、第1個別流路65Aは、第1ノズル68Aの吐出口69Aに連通しており、第2個別流路65Bは、第2ノズル68Bの吐出口69Bに連通している。第3個別流路65Cは、第3ノズル68Cの吐出口69Cに連通しており、第4個別流路65Dは、第4ノズル68Dの吐出口69Dに連通している。
【0025】
共通流路63は、第1流路部材61にZ方向に沿って設けられた貫通孔によって構成されている。各分岐流路64A,64Bは、第1流路部材61の底面に水平方向に設けられた溝によって構成されている。各個別流路65A~65Dは、第2流路部材62の上面に水平方向に沿って設けられた溝と、第2流路部材62にZ方向に沿って設けられた貫通孔によって構成されている。共通流路63の下流側の端部から第1ノズル68Aの吐出口69Aまでの流路の長さと、共通流路63の下流側の端部から第2ノズル68Bの吐出口69Bまでの流路の長さと、共通流路63の下流側の端部から第3ノズル68Cの吐出口69Cまでの流路の長さと、共通流路63の下流側の端部から第4ノズル68Dの吐出口69Dまでの流路の長さとは、それぞれ同じである。そのため、共通流路63の下流側の端部から各吐出口69A~69Dに可塑化材料が流れる際の圧力損失を均等にすることができる。
【0026】
図5に示すように、吐出量調節部70は、各ノズル68A~68Dから吐出される可塑化材料の量を個別に調節する。各ノズル68から吐出される可塑化材料の量のことを吐出量と呼ぶ。本実施形態では、吐出量調節部70は、各個別流路65A~65Dに対して1つずつ設けられたバルブ71A~71Dによって構成されている。各バルブ71A~71Dは、弁部75A~75Dと弁駆動部76A~76Dとを有している。
【0027】
本実施形態では、各弁部75A~75Dは、X方向に沿った中心軸を有する円柱状の外形形状を有している。吐出部60の第2流路部材62には、各個別流路65A~65Dに対して1つずつ、X方向に沿った中心軸を有する円筒状のシリンダー部66A~66Dが設けられており、各弁部75A~75Dは、各シリンダー部66A~66D内に配置されている。
【0028】
本実施形態では、各弁駆動部76A~76Dは、制御部500の制御下で、各弁部75A~75DをX方向に沿って並進移動させて、各個別流路65A~65Dを個別に開閉する。例えば、弁駆動部76Aは、弁部75Aを
図5に示した位置から+X方向に向かって移動させて弁部75Aによって第1個別流路65Aを閉塞させ、弁部75Aを
図5に示した位置に戻して第1個別流路65Aを開放する。各個別流路65A~65Dが個別に開閉されることによって、各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出のオンオフの状態が個別に切り替えられる。各弁駆動部76A~76Dは、各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出のオンオフの状態を切り替えるだけではなく、各弁部75A~75Dの位置を調節することによって各個別流路65A~65Dの流路断面積を調節して、各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出量を調節可能に構成されてもよい。以下の説明では、ノズル68から可塑化材料が吐出されている状態、換言すれば、ノズル68からの可塑化材料の吐出が停止されていない状態のことを吐出オン状態と呼び、ノズル68からの可塑化材料の吐出が停止されている状態のことを吐出オフ状態と呼ぶ。本実施形態では、各弁駆動部76A~76Dは、コンプレッサーから供給される圧縮空気を用いて各弁部75A~75Dを駆動させる空気式である。なお、各弁駆動部76A~76Dは、空気式に限られず、ソレノイドの発生させる電磁力を用いて各弁部75A~75を駆動させるソレノイド式でもよいし、モーターの発生させる回転力を用いて各弁部75A~75Dを駆動させる電気式でもよい。各バルブ71A~71Dは、各弁部75A~75Dの並進動作ではなく回転動作によって各個別流路65A~65Dを個別に開閉してもよい。この場合、各バルブ71A~71Dは、例えば、バタフライバルブによって構成されてもよい。
【0029】
図1および
図2に示すように、第1表面活性化部210Aは、各ノズル68A~68Dに対して+X方向側、かつ、各ノズル68A~68Dに対して+Z方向側に配置されている。スクリューケース31の+X方向側の側面には、第1支持部35が固定されており、表面活性化部210は、第1支持部35に固定されている。第2表面活性化部210Bは、各ノズル68A~68Dに対して-X方向側、かつ、各ノズル68A~68Dに対して+Z方向側に配置されている。スクリューケース31の-X方向側の側面には、第2支持部36が固定されており、第2表面活性化部210Bは、第2支持部36に固定されている。各表面活性化部210A,210Bは、ステージ300上に形成された造形層の表面を化学的に活性化させる。本実施形態では、各表面活性化部210A,210Bは、大気圧プラズマ装置によって構成されている。各表面活性化部210A,210Bは、制御部500の制御下で、ステージ300上に形成された造形層にプラズマを照射することによって、造形層の表面を化学的に活性化させて、造形層の表面自由エネルギー、換言すれば、造形層の濡れ性を高める。なお、各表面活性化部210A,210Bは、造形層にプラズマを照射するのではなく、造形層にイオンビームあるいは紫外線を照射して、造形層の表面を化学的に活性化させてもよい。
【0030】
第1加熱冷却部220Aは、X方向における各ノズル68A~68Dと第1表面活性化部210Aとの間、かつ、各ノズル68A~68Dに対して+Z方向側に配置されている。第1加熱冷却部220Aは、第1支持部35に固定されている。第2加熱冷却部220Bは、X方向における各ノズル68A~68Dと第2表面活性化部210Bとの間、かつ、各ノズル68A~68Dに対して+Z方向側に配置されている。第2加熱冷却部220Bは、第2支持部36に固定されている。各加熱冷却部220A,220Bは、ステージ300上に形成された造形層の上面を加熱する機能と、ステージ300上に形成された造形層を冷却する機能との両方を有している。本実施形態では、各加熱冷却部220A,220Bは、内蔵されたヒーターによって昇温された熱風を送出する機能と、冷風を送出する機能との両方を有する送風機によって構成されている。熱風とは、材料MRのガラス転移点以上の温度の空気あるいは不活性ガスの流れのことを意味する。冷風とは、材料MRのガラス転移点よりも低い温度の空気あるいは不活性ガスの流れのことを意味する。冷風の温度は、三次元造形装置100の設置場所の室温以下であることが好ましい。各加熱冷却部220A,220Bは、制御部500の制御下で、ステージ300上に形成された造形層に向かって熱風を吹き付けることによって、造形層の上面をガラス転移点以上の温度に加熱する。さらに、各加熱冷却部220A,220Bは、制御部500の制御下で、各ノズル68A~68Dから吐出された可塑化材料によって形成された硬化前の造形層に向かって冷風を吹き付けることによって、造形層を冷却して硬化を促進させる。なお、第1加熱冷却部220Aは、第1表面活性化部210Aに対して+X方向側に配置されてもよい。第2加熱冷却部220Bは、第2表面活性化部210Bに対して-X方向側に配置されてもよい。
【0031】
第1平坦化部230Aは、X方向における各ノズル68A~68Dと第1加熱冷却部220Aとの間に配置されている。第1平坦化部230Aは、スクリューケース31の下端部に固定されている。第2平坦化部230Bは、X方向における各ノズル68A~68Dと第2加熱冷却部220Bとの間に配置されている。第2平坦化部230Bは、スクリューケース31の下端部に固定されている。本実施形態では、各平坦化部230A,230Bは、ローラー231と、ローラー231を支持するローラー支持部232とを備えている。ローラー231は、回転軸がY方向に平行になるように配置されている。ローラー支持部232は、制御部500の制御下でローラー231を昇降させる機能を有しており、Z方向におけるステージ300とローラー231との距離を変更可能に構成されている。各平坦化部230A,230Bは、各ノズル68A~68Dから吐出された可塑化材料によって形成された硬化前の造形層をローラー231によって押圧して平坦化する。
【0032】
図1に示すように、ステージ300は、吐出部60に対して-Z方向側に配置されている。上述したとおり、ステージ300は、各ノズル68A~68Dに対向し、各ノズル68A~68Dから吐出された可塑化材料が堆積される堆積面310を有している。本実施形態では、堆積面310は、水平面に平行に設けられている。ステージ300は、移動部400によって支持されている。
【0033】
移動部400は、吐出部60と堆積面310との相対的な位置を変化させる。本実施形態では、移動部400は、ステージ300を移動させることによって、吐出部60と堆積面310との相対的な位置を変化させる。本実施形態における移動部400は、3つのモーターが発生させる動力によって、ステージ300をX,Y,Z方向の3軸方向に移動させる3軸ポジショナーによって構成されている。各モーターは、制御部500の制御下で駆動される。なお、移動部400は、ステージ300を移動させずに造形部200を移動させることによって、吐出部60と堆積面310との相対的な位置を変化させるように構成されてもよい。移動部400は、造形部200とステージ300との両方を移動させることによって、吐出部60と堆積面310との相対的な位置を変化させるように構成されてもよい。移動部400は、吐出部60と堆積面310とのY方向における相対的な位置を変化させる機能を有していなくてもよい。
【0034】
制御部500は、1つまたは複数のプロセッサーと、主記憶装置と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェースとを備えるコンピューターによって構成されている。本実施形態では、制御部500は、主記憶装置上に読み込んだプログラムや命令をプロセッサーが実行することによって、種々の機能を発揮する。例えば、制御部500は、後述する三次元造形処理を実行することによって、ステージ300上に三次元造形物を造形する。なお、制御部500は、コンピューターではなく、複数の回路の組み合わせによって構成されてもよい。
【0035】
図7は、三次元造形物を造形するための三次元造形処理の内容を示すフローチャートである。この処理は、三次元造形装置100に設けられた操作パネルや、三次元造形装置100に接続されたコンピューターに対して、所定の開始操作がユーザーによって行われた場合に、制御部500によって実行される。
【0036】
まず、ステップS110にて、制御部500は、三次元造形物を造形するための造形データを取得する。造形データとは、フラットスクリュー40の回転速度の目標値や、ステージ300に対する造形部200の相対速度の目標値や、吐出部60に設けられた各ノズル68から吐出される可塑化材料の吐出量の目標値や、各ノズル68から吐出された可塑化材料をステージ300上に堆積させる目標位置等に関する情報が表されたデータである。造形データは、例えば、三次元造形装置100に接続されたコンピューターにインストールされたスライサーソフトに形状データを読み込ませることによって作成される。形状データとは、三次元CADソフトや三次元CGソフト等を用いて作成された三次元造形物の目標形状を表すデータである。形状データには、STL形式やAMF形式等のデータを用いることができる。スライサーソフトは、三次元造形物の目標形状を所定の厚みの造形層に分割して、造形層ごとの造形データを作成する。造形データは、GコードやMコード等によって表される。制御部500は、三次元造形装置100に接続されたコンピューターや、USBメモリー等の記録媒体から造形データを取得する。
【0037】
次に、ステップS120にて、制御部500は、造形データに従って可塑化部30を制御して、可塑化材料の生成を開始する。制御部500は、フラットスクリュー40の回転速度、および、バレル50に設けられたヒーター58の温度を制御することによって、材料を可塑化させて可塑化材料を生成する。可塑化材料は、三次元造形処理が行われる間、生成され続ける。
【0038】
次に、ステップS130にて、制御部500は、三次元造形装置100の動作モードを切り替える。本実施形態では、三次元造形装置100は、往路モードと復路モードとを有しており、制御部500は、奇数番目に形成される造形層である奇数層を形成する際には動作モードを往路モードに切り替え、偶数番目に形成される造形層である偶数層を形成する際には動作モードを復路モードに切り替える。往路モードでは、第1表面活性化部210Aからのプラズマの照射がオンにされ、第2表面活性化部210Bからのプラズマの照射がオフにされ、第1加熱冷却部220Aから熱風が送出され、第2加熱冷却部220Bから冷風が送出され、第1平坦化部による造形層の平坦化がオフにされ、第2平坦化部による造形層の平坦化がオンにされる。一方、復路モードでは、第1表面活性化部210Aからのプラズマの照射がオフにされ、第2表面活性化部210Bからのプラズマの照射がオンにされ、第1加熱冷却部220Aから冷風が送出され、第2加熱冷却部220Bから熱風が送出され、第1平坦化部による造形層の平坦化がオンにされ、第2平坦化部による造形層の平坦化がオフにされる。
【0039】
ステップS140にて、制御部500は、フラットスクリュー40の回転速度を制御する第1制御と、吐出量調節部70によって各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出量を制御する第2制御と、ステージ300に対する吐出部60の相対速度を制御する第3制御とを同時並列的に実行して、造形層を形成する。つまり、ステップS140にて、制御部500は、第1制御によってフラットスクリュー40の回転を用いて材料を可塑化して可塑化材料を生成する第1工程と、第2制御によって各ノズル68A~68Dへの可塑化材料の供給量、換言すれば、各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出量を調節する第2工程と、第3制御部よってステージ300に対して造形部200を相対移動させつつ、各ノズル68A~68Dからステージ300に向かって可塑化材料を吐出する第3工程とを繰り返すことによって、造形層を形成する。往路モードでは、制御部500は、ステージ300に対して造形部200が+X方向に移動するように第3制御を実行する。一方、復路モードでは、制御部500は、ステージ300に対して造形部200が-X方向に移動するように第3制御を実行する。本実施形態では、往路モードおよび復路モードにおいて、制御部500は、堆積量変動抑制処理を実行しながら、造形層を形成する。堆積量変動抑制処理の内容や、造形層が形成される様子については後述する。
【0040】
その後、ステップS150にて、制御部500は、全ての造形層の形成が終了したか否かを判定する。制御部500は、造形データを用いて、全ての造形層の形成が終了したことを判断できる。ステップS150で全ての造形層の形成が終了したと判断されなかった場合、制御部500は、ステップS160にて、移動部400を制御することによって、造形層の厚み分、ステージ300を下降させ、その後、ステップS130に処理を戻す。ステップS150で全ての造形層の形成が終了したと判断されるまで、制御部500は、ステップS160の処理とステップS130からステップS150までの処理とを繰り返して、ステージ300上に造形層を積層する。ステップS150で全ての造形層の形成が終了したと判断された場合、制御部500は、この処理を終了する。
【0041】
図8は、堆積量変動抑制処理の内容を示すフローチャートである。この処理は、
図7に示したステップS140の処理が開始される際に、制御部500によって開始される。まず、ステップS210にて、制御部500は、各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出状態を取得する。吐出状態とは、各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出のオンオフの状態の他に、各ノズル68A~68Dから吐出される可塑化材料の圧力の状態や、各ノズル68A~68Dから吐出される可塑化材料の吐出量の状態や、各ノズル68A~68Dから吐出される可塑化材料の線幅の状態をも含む意味である。本実施形態では、制御部500は、吐出状態として、各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出のオンオフの状態を取得する。より具体的には、制御部500は、4つのノズル68A~68Dのうちの吐出量調節部70によって吐出オン状態にされているノズル68の数を取得する。例えば、制御部500は、吐出量調節部70のバルブ71に対して開弁動作を実行させた場合には、当該バルブ71が開弁状態であること、つまり、当該バルブ71に対応するノズル68が吐出オン状態であることを記憶部に記憶し、吐出量調節部70のバルブ71に対して閉弁動作を実行させた場合には、当該バルブ71が閉弁状態であること、つまり、当該バルブ71に対応するノズル68が吐出オフ状態であることを記憶部に記憶する。制御部500は、記憶部に記憶された各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出のオンオフの状態を読み込むことによって、吐出オン状態にされているノズル68の数を取得できる。各弁部75A~75Dの位置を検出するエンコーダーが各バルブ71A~71Dに設けられ、制御部500は、各エンコーダーからの情報を用いて吐出オン状態にされているノズル68の数を取得してもよい。以下の説明では、吐出オン状態にされているノズル68のことを吐出オンノズルと呼び、吐出オフ状態にされているノズル68のことを吐出オフノズルと呼ぶ。
【0042】
ステップS220にて、制御部500は、各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出のオンオフの状態に基づいて、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度とを制御する。この際に、制御部500は、ステージ300上の単位面積当たりの可塑化材料の堆積量が吐出オンノズルの数の変更前後で同じになるように、ステージ300に対する造形部200の相対速度とフラットスクリュー40の回転速度とを調節する。本実施形態では、制御部500は、吐出オンノズルの数とステージ300に対する造形部200の相対速度とフラットスクリュー40の回転速度との関係が表されたマップを用いて、ステージ300に対する造形部200の相対速度とフラットスクリュー40の回転速度とを調節する。このマップは、予め行われる試験によって作成されて、制御部500の記憶部に記憶されている。このマップは、三次元造形物の造形に用いられる材料MRの種類ごとに作成されることが好ましい。なお、制御部500は、吐出オンノズルの数とステージ300に対する造形部200の相対速度とフラットスクリュー40の回転速度との関係が表された関数を用いて、ステージ300に対する造形部200の相対速度とフラットスクリュー40の回転速度とを調節してもよい。
【0043】
ステップS230にて、制御部500は、造形層の形成が終了したか否かを判定する。ステップS230で造形層の形成が終了したと判断されるまで、制御部500は、ステップS210からステップS230までの処理を繰り返す。ステップS230で造形層の形成が終了したと判断された場合、制御部500は、この処理を終了する。その後、造形層の上にさらに造形層を形成する場合、制御部500は、この処理を再び開始する。
【0044】
図9は、本実施形態の三次元造形装置100によって奇数番目の造形層が形成される様子を模式的に示す側面図である。
図10は、本実施形態の三次元造形装置100によって奇数番目の造形層が形成される様子を模式的に示す第1の底面図である。
図11は、本実施形態の三次元造形装置100によって奇数番目の造形層が形成される様子を模式的に示す第2の底面図である。
図9に示すように、本実施形態では、制御部500は、nが1以上の奇数である場合、n番目に形成される造形層である第n層L
nを形成する際には、移動部400を制御することによってステージ300に対して造形部200を+X方向に向かって相対移動させる。第n層L
nの形成が開始される前には、造形部200は、ステージ300の-X方向側の端部よりも-X方向側に配置されている。第n層L
nの形成に先立って、三次元造形装置100は、往路モードに切り替えられている。つまり、第1表面活性化部210Aからのプラズマの照射がオンにされており、第2表面活性化部210Bからのプラズマの照射がオフにされており、第1加熱冷却部220Aから熱風が送出されており、第2加熱冷却部220Bから冷風が送出されており、第1平坦化部230Aによる造形層の平坦化がオフにされており、第2平坦化部230Bによる造形層の平坦化がオンにされている。
【0045】
ステージ300に対して造形部200が+X方向に向かって相対移動することによって、造形部200に設けられた第1表面活性化部210Aと第1加熱冷却部220Aと第1平坦化部230Aと吐出部60と第2平坦化部230Bと第2加熱冷却部220Bと第2表面活性化部210Bとがこの順に第n-1層Ln-1上を通過する。なお、第1層L1を形成する際には、これらが上述した順にステージ300上を通過する。
【0046】
第n-1層Ln-1上を通過する第1表面活性化部210AからプラズマPLが照射されることによって、第n-1層Ln-1の上面は、化学的に活性化される。第n-1層Ln-1上を通過する第1加熱冷却部220Aから熱風HAが吹き付けられることによって、第n-1層Ln-1の上面は、ガラス転移点以上の温度に加熱される。なお、第1層L1を形成する際には、第1表面活性化部210AからのプラズマPLの照射、および、第1加熱冷却部220Aからの熱風HAの送出がオフにされてもよい。
【0047】
第n-1層Ln-1上を通過する吐出部60の各ノズル68から連続した線状の形態で可塑化材料が吐出される。この際、制御部500は、吐出量調節部70を制御することによって、三次元造形物の目標形状に応じて各ノズル68からの可塑化材料の吐出の開始と停止とを個別に切り替える。各ノズル68から吐出された可塑化材料が第n-1層Ln-1上に堆積することによって第n層Lnが形成される。可塑化材料の堆積に先立って第n-1層Ln-1の上面が化学的に活性化されているので、第n層Lnと第n-1層Ln-1との密着性が高められる。さらに、可塑化材料の堆積に先立って第n-1層Ln-1の上面がガラス転移点以上の温度に加熱されているので、第n層Lnと第n-1層Ln-1との密着性がさらに高められる。なお、第1層L1を形成する際には、各ノズル68から吐出された可塑化材料がステージ300上に堆積することによって第1層L1が形成される。
【0048】
フラットスクリュー40を定速で回転させている状態で、吐出量調節部70によって4つのノズル68A~68Dのうちの吐出オンノズルの数が変更された場合、1つの吐出オンノズルからの可塑化材料の吐出量は変化する。より具体的には、吐出オンノズル数が減少した場合、1つの吐出オンノズルからの可塑化材料の吐出量は増加し、吐出オンノズル数が増加した場合、1つの吐出オンノズルからの可塑化材料の吐出量は減少する。本実施形態では、制御部500は、堆積量変動抑制処理を実行することによって、1つの吐出オンノズルから吐出されて第n-1層L
n-1上あるいはステージ300上に堆積する可塑化材料についての、第n-1層L
n-1上あるいはステージ300上の単位面積当たりの堆積量が吐出オンノズル数の変更前後で同じになるように、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度とを制御する。例えば、
図10に示すように、吐出オンノズル数が4つの場合、制御部500は、ステージ300に対する造形部200の相対速度が速度v1になるように移動部400を制御し、
図11に示すように、吐出オンノズル数が4つから2つに変更されることによって吐出オンノズルからの可塑化材料の吐出量が2倍になる場合には、制御部500は、ステージ300に対する造形部200の相対速度が速度v1よりも2倍速い速度v2になるように移動部400を制御する。ステージ300に対する造形部200の相対速度を増加させることができない場合には、制御部500は、フラットスクリュー40の回転速度を減少させる。
【0049】
図9に示すように、第n-1層L
n-1上に形成された硬化前の第n層L
nは、第2平坦化部230Bのローラー231によって押圧されて平坦化される。第n層L
nが平坦化されることによって、第n層L
nとステージ300との密着性が高められるとともに、第n層L
nと第n-1層L
n-1との間に意図せず空隙が形成されることが抑制される。さらに、第n層L
nが平坦化されることによって、第n層L
nのZ方向における厚みは減少し、
図10に示すように、第n層L
nのうちの各ノズル68から吐出された可塑化材料によって形成された各部分のY方向における線幅は増加する。そのため、第n層L
nのうちのY方向において隣り合うノズル68から吐出された可塑化材料によって形成された部分同士の密着性が高められるとともに、当該部分同士の間に意図せず空隙が形成されることが抑制される。例えば、第n層L
nのうちの第1ノズル68Aから吐出された可塑化材料によって形成された部分と第2ノズル68Bから吐出された可塑化材料によって形成された部分との密着性が高められるとともに、当該部分同士の間に意図せず空隙が形成されることが抑制される。なお、第1層L
1を形成する際には、制御部500は、各ノズル68の先端部とステージ300とを近接させた状態で、ステージ300に対して造形部200を+X方向に向かって相対移動させることによって、第2平坦化部230Bによって平坦化される前の第1層L
1を各ノズル68の先端部で押圧してもよい。この場合、第1層L
1とステージ300との密着性が高まるので、第2平坦化部230Bによって平坦化される前に第1層L
1がステージ300から剥がれることを抑制できる。
【0050】
第2平坦化部230Bによって平坦化された第n層Lnは、第2加熱冷却部220Bから送出された冷風CAによって冷却されて硬化を促進される。第n層Lnが冷却されることによって、第n層Lnが硬化するまでの待ち時間が短期化される。第n層Lnの形成が終了した後、制御部500は、移動部400を制御することによって、ステージ300に対して造形部200を第n層Lnの厚み分+Z方向に向かって相対移動させる。
【0051】
図12は、本実施形態の三次元造形装置100によって偶数番目の造形層が形成される様子を模式的に示す側面図である。制御部500は、nが1以上の奇数である場合、n+1番目に形成される造形層、つまり、偶数番目に形成される造形層である第n+1層L
n+1を形成する際には、移動部400を制御することによってステージ300に対して造形部200を-X方向に向かって相対移動させる。第n+1層L
n+1の形成に先立って、三次元造形装置100は、往路モードから復路モードに切り替えられている。つまり、第1表面活性化部210Aからのプラズマの照射がオフにされており、第2表面活性化部210Bからのプラズマの照射がオンにされており、第1加熱冷却部220Aから冷風が送出されており、第2加熱冷却部220Bから熱風が送出されており、第1平坦化部230Aによる造形層の平坦化がオンにされており、第2平坦化部230Bによる造形層の平坦化がオフにされている。
【0052】
ステージ300に対して造形部200が-X方向に向かって相対移動することによって、造形部200に設けられた第2表面活性化部210Bと第2加熱冷却部220Bと第2平坦化部230Bと吐出部60と第1平坦化部230Aと第1加熱冷却部220Aと第1表面活性化部210Aとがこの順に第n層Ln上を通過する。第n層Ln上を通過する第2表面活性化部210BからプラズマPLが照射されることによって、第n層Lnの上面は、化学的に活性化される。第n層Ln上を通過する第2加熱冷却部220Bから熱風HAが吹き付けられることによって、第n層Lnの上面は、ガラス転移点以上の温度に加熱される。第n層Ln上を通過する吐出部60の各ノズル68から可塑化材料が吐出されることによって、第n層Ln上に第n+1層Ln+1が形成される。第n+1層Ln+1が形成される際、制御部500によって堆積量変動抑制処理が実行される。第n層Ln上に形成された硬化前の第n+1層Ln+1は、第1平坦化部230Aのローラー231によって押圧されて平坦化される。第1平坦化部230Aによって平坦化された第n+1層Ln+1は、第1加熱冷却部220Aから送出された冷風CAによって冷却されて硬化を促進される。
【0053】
以上で説明した本実施形態における三次元造形装置100によれば、制御部500は、ステージ300上あるいは既に形成された造形層である既設層上に造形層を形成する際に、堆積量変動抑制処理を実行することによって、各ノズル68からの可塑化材料の吐出状態に基づいて、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度とを制御するので、吐出オンノズルから吐出されてステージ300上あるいは既設層上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量の変動を抑制できる。そのため、三次元造形物を寸法精度良く造形することができる。
【0054】
また、本実施形態では、制御部500は、堆積量変動抑制処理において、各ノズル68からの可塑化材料の吐出状態として、各ノズル68からの可塑化材料の吐出のオンオフの状態に基づいて、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度とを制御する。そのため、簡易な制御で、上述した堆積量の変動を抑制できる。
【0055】
また、本実施形態では、制御部500は、堆積量変動抑制処理において、吐出オフ状態にされるノズル68の数を増加させる際に、ステージ300に対する造形部200の相対速度を増加させ、ステージ300に対する造形部200の相対速度を増加させることができない場合には、フラットスクリュー40の回転速度を減少させる。そのため、上出した堆積量の変動を確実に抑制できる。
【0056】
また、本実施形態では、可塑化部30は、回転軸に沿ったZ方向において小型なフラットスクリュー40の回転を用いて、溝部45に供給された材料を可塑化して可塑化材料を生成する。そのため、可塑化部30をZ方向において小型化できる。
【0057】
また、本実施形態では、吐出量調節部70は、各ノズル68A~68Dに連通する各個別流路65A~65Dを開閉するバルブ71A~71Dによって構成されている。そのため、簡易な構成で、各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出のオンオフを切り替えることができる。
【0058】
B.第2実施形態:
図13は、第2実施形態における三次元造形装置100bの吐出部60bの概略構成を示す断面図である。第2実施形態では、吐出部60b内に4つの個別流路65A~65Dのそれぞれに第1計測部90が配置されており、制御部500は、堆積量変動抑制処理において、各第1計測部90を用いて各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出状態を取得することが第1実施形態と異なる。その他の構成については、特に説明しない限り、第1実施形態と同じである。
【0059】
各第1計測部90は、各個別流路65A~65D内の圧力を検出する圧力センサーである。各第1計測部90は、各個別流路65A~65Dのうちの吐出量調節部70よりも上流部分に配置されている。
図13には、第2個別流路65Bに配置された第1計測部90と、第4個別流路65Dに配置された第1計測部90とが表されている。図示は省略するが、第1個別流路65Aと第3個別流路65Cとにも第1計測部90が配置されている。なお、各第1計測部90は、各個別流路65のうちの吐出量調節部70よりも下流部分に配置されてもよい。
【0060】
本実施形態では、
図8に示した堆積量変動抑制処理のステップS210にて、制御部500は、吐出状態として、各ノズル68A~68Dから吐出される可塑化材料の圧力の状態を取得する。より具体的には、制御部500は、各第1計測部90によって計測される圧力値を取得する。例えば、吐出オンノズルの数が減少した場合、吐出オンノズルに連通する個別流路65内に配置された第1計測部90によって計測される圧力値は増加し、吐出オンノズルの数が増加した場合、吐出オンノズルに連通する個別流路65内に配置された第1計測部90によって計測される圧力値は減少する。
【0061】
ステップS220にて、制御部500は、各第1計測部90によって計測された圧力値に基づいて、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度とを制御する。本実施形態では、制御部500は、第1計測部90によって計測される圧力値と、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度との関係が表されたマップまたは関数を用いて、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度とを制御する。このマップや関数は、予め行われる試験によって作成される。第1計測部90によって計測される圧力値が増加した場合、制御部500は、ステージ300に対する造形部200の相対速度を増加させる。ステージ300に対する造形部200の相対速度を増加させることができない場合には、制御部500は、フラットスクリュー40の回転速度を減少させる。一方、第1計測部90によって計測される圧力値が減少した場合、制御部500は、ステージ300に対する造形部200の相対速度を減少させる。ステージ300に対する造形部200の相対速度を減少させることができない場合には、制御部500は、フラットスクリュー40の回転速度を増加させる。
【0062】
以上で説明した本実施形態における三次元造形装置100bによれば、制御部500は、堆積量変動抑制処理において、吐出状態として、各ノズル68A~68Dに連通する各個別流路65A~65D内に配置された各第1計測部90によって検出される圧力の状態を用いる。そのため、各個別流路65A~65D内の圧力変動によって吐出オンノズルからの吐出量が変動した場合であっても、吐出オンノズルから吐出されてステージ300上あるいは既設層上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量の変動を抑制できる。特に、本実施形態では、各第1計測部90は、各個別流路65A~65Dのうちの吐出量調節部70よりも上流部分に配置されている。そのため、各第1計測部90によって各個別流路65A~65D内の圧力を精度良く計測できる。
【0063】
C.第3実施形態:
図14は、第3実施形態における三次元造形装置100cの概略構成を示す断面図である。第3実施形態における三次元造形装置100cは、第2計測部95を備えており、制御部500は、堆積量変動抑制処理において、第2計測部95を用いて吐出状態を取得することが第1実施形態と異なる。その他の構成については、特に説明しない限り、第1実施形態と同じである。
【0064】
本実施形態では、第2計測部95は、各ノズル68A~68Dに対して+X方向側と、各ノズル68A~68Dに対して-X方向側とに配置されており、吐出部60の下端部に固定されている。第2計測部95は、各ノズル68A~68Dから吐出された可塑化材料の吐出量または線幅を計測する。第2計測部95は、各ノズル68A~68Dから吐出されてステージ300上あるいは既設層上に堆積する前の可塑化材料の吐出量または線幅を計測してもよいし、各ノズル68A~68Dから吐出されてステージ300上あるいは既設層上に堆積した後の可塑化材料の吐出量または線幅を計測してもよい。本実施形態では、第2計測部95は、各ノズル68A~68Dから吐出された可塑化材料を撮像するカメラによって構成されている。なお、第2計測部95は、レーザー発振部とレーザー受光部を備え、各ノズル68A~68Dから吐出された可塑化材料に向けてレーザーを照射し、照射したレーザーを受光することによって、可塑化材料の吐出量や線幅を計測してもよい。
【0065】
本実施形態では、
図8に示した堆積量変動抑制処理のステップS210にて、制御部500は、吐出状態として、各ノズル68A~68Dから吐出された可塑化材料の吐出量の状態または線幅の状態を取得する。より具体的には、制御部500は、第2計測部95によって計測された吐出量または線幅に関する情報を取得する。
【0066】
ステップS220にて、制御部500は、第2計測部95によって計測された吐出量または線幅に基づいて、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度とを制御する。例えば、第2計測部95によって計測された吐出量または線幅が増加した場合、制御部500は、ステージ300に対する造形部200の相対速度を増加させる。ステージ300に対する造形部200の相対速度を増加させることができない場合には、制御部500は、フラットスクリュー40の回転速度を減少させる。第2計測部95によって計測された吐出量または線幅が減少した場合、制御部500は、ステージ300に対する造形部200の相対速度を減少させる。ステージ300に対する造形部200の相対速度を減少させることができない場合には、制御部500は、フラットスクリュー40の回転速度を増加させる。
【0067】
以上で説明した本実施形態における三次元造形装置100cによれば、制御部500は、堆積量変動抑制処理において、吐出状態として、第2計測部95によって計測された各ノズル68A~68Dからの可塑化材料の吐出量または線幅の状態を用いるので、吐出オンノズルから吐出された可塑化材料の吐出量または線幅が変動した場合であっても、吐出オンノズルから吐出されてステージ300上あるいは既設層上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量の変動を抑制できる。
【0068】
D.第4実施形態:
図15は、第4実施形態における三次元造形装置100dの2つの造形部200A,200Bの概略構成を示す底面図である。第4実施形態における三次元造形装置100dには、2つの造形部200A,200Bが設けられていること、および、吐出量変動抑制処理の内容が第1実施形態と異なる。その他の構成については、特に説明しない限り、第1実施形態と同じである。
【0069】
2つの造形部200A,200Bは、Y方向に沿って並んで配置されている。以下の説明では、-Y方向側に配置された造形部200Aのことを第1造形部200Aと呼び、+Y方向側に配置された造形部200Bのことを第2造形部200Bと呼ぶ。第1造形部200Aは、材料供給部20と、可塑化部30と、吐出部60dと、吐出量調節部70dとを備えている。材料供給部20の構成、および、可塑化部30の構成は、第1実施形態と同じである。本実施形態では、吐出部60dは、Y方向に沿って並んで配置された8つのノズル68を有している。吐出量調節部70dは、8つのバルブ71によって構成されている。第2造形部200Bの構成は、第1造形部200Aの構成と同じである。
【0070】
本実施形態では、第1表面活性化部210Cと、第2表面活性化部210Dと、第1加熱冷却部220Cと、第2加熱冷却部220Dと、第1平坦化部230Cと、第2平坦化部230Dとが1つずつ設けられている。各表面活性化部210C,210Dは、第1実施形態の各表面活性化部210A,210BよりもY方向に長尺に構成されている。各加熱冷却部220C,220Dは、第1実施形態の各加熱冷却部220A,220BよりもY方向に長尺に構成されている。各平坦化部230C,230Dは、第1実施形態の各平坦化部230A,230BよりもY方向に長尺に構成されている。第1表面活性化部210Cおよび第1加熱冷却部220Cは、第1造形部200Aの第1支持部35と第2造形部200Bの第1支持部35とに固定されている。第2表面活性化部210Dおよび第2加熱冷却部220Dは、第1造形部200Aの第2支持部36と第2造形部200Bの第2支持部36とに固定されている。第1平坦化部230Cおよび第2平坦化部230Dは、第1造形部200Aのスクリューケース31の下端部と第2造形部200Bのスクリューケース31の下端部とに固定されている。
【0071】
移動部400は、ステージ300に対して第1造形部200Aおよび第2造形部200Bを相対移動させる。本実施形態では、移動部400は、ステージ300に対して第1造形部200Aと第2造形部200Bとを一体として相対移動させる。つまり、移動部400は、第1造形部200Aに対して第2造形部200Bを相対移動させない。
【0072】
本実施形態では、
図8に示した堆積量変動抑制処理のステップS210にて、制御部500は、第1造形部200Aの8つのノズル68のうちの吐出オンノズルの割合を取得し、第2造形部200Bの8つのノズル68のうちの吐出オンノズルの割合を取得する。ステップS220にて、制御部500は、第1造形部200Aの吐出オンノズルの割合と第2造形部200Bの吐出オンノズルの割合とが異なる場合には、第1造形部200Aと第2造形部200Bのうちの吐出オンノズルの割合が多い方の吐出オンノズルから吐出されてステージ300上あるいは既設層上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量が吐出オンノズル数の変更前後で同じになるようにステージ300に対する第1造形部200Aおよび第2造形部200Bの相対速度を調節するとともに、第1造形部200Aと第2造形部200Bのうちの吐出オンノズルの割合が少ない方の吐出オンノズルから吐出されてステージ300上あるいは既設層上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量が吐出オンノズル数の変更前後で同じになるように第1造形部200Aと第2造形部200Bのうちの吐出オンノズルの割合が少ない方のフラットスクリュー40の回転速度を調節する。例えば、第1造形部200Aの吐出オンノズル数が8つから6つに変更されるとともに第2造形部200Bの吐出オンノズル数が8つから7つに変更された場合、制御部500は、第1造形部200Aと第2造形部200Bのうちの吐出オンノズルの割合が多い第2造形部200Bの吐出オンノズルから吐出されてステージ300上あるいは既設層上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量が吐出オンノズル数の変更前後で同じになるようにステージ300に対する第1造形部200Aおよび第2造形部200Bの相対速度を増加させるとともに、吐出オンノズルの割合が少ない第1造形部200Aの吐出オンノズルから吐出されてステージ300上あるいは既設層上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量が吐出オンノズル数の変更前後で同じになるように第1造形部200Aのフラットスクリュー40の回転速度を減少させる。
【0073】
以上で説明した本実施形態における三次元造形装置100dによれば、ステージ300に対して2つの造形部200A,200Bが一体として相対移動する形態において、各造形部200A,200Bの吐出オンノズル数の変更によって、第1造形部200Aの吐出オンノズルの割合と第2造形部200Bの吐出オンノズルの割合とが異なる状態になった場合であっても、各造形部200A,200Bの吐出オンノズルから吐出されてステージ300上あるいは既設層上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量が吐出オンノズル数の変更前後で変動することを抑制できる。
【0074】
E.他の実施形態:
(E1)上述した各実施形態の三次元造形装置100~100dでは、制御部500は、
図8に示した堆積量変動抑制処理において、各ノズル68からの可塑化材料の吐出状態に基づいて、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度とを調節している。これに対して、制御部500は、各ノズル68からの可塑化材料の吐出状態に基づいて、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度と、吐出量調節部70による吐出量の調節度合いとを調節してもよい。この場合、吐出量調節部70の各バルブ71は、各ノズル68からの可塑化材料のオンオフを切り替えるだけでなく、各ノズル68からの可塑化材料の吐出量を調節可能に構成されることが好ましい。
【0075】
(E2)
図8に示した堆積量変動抑制処理において、制御部500は、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、フラットスクリュー40の回転速度とを調節せずに、各ノズル68からの可塑化材料の吐出状態に応じて、吐出量調節部70による吐出量の調節度合いを調節してもよい。
【0076】
(E3)
図8に示した堆積量変動抑制処理において、制御部500は、フラットスクリュー40の回転速度を調節せずに、各ノズル68からの可塑化材料の吐出状態に応じて、ステージ300に対する造形部200の相対速度と、吐出量調節部70による吐出量の調節度合いとを調節してもよい。
【0077】
(E4)
図8に示した堆積量変動抑制処理において、制御部500は、ステージ300に対する造形部200の相対速度を調節せずに、各ノズル68からの可塑化材料の吐出状態に応じて、フラットスクリュー40の回転速度と、吐出量調節部70による調節度合いとを調節してもよい。
【0078】
(E5)
図8に示した堆積量変動抑制処理において、制御部500は、フラットスクリュー40の回転速度を調節せずに、各ノズル68からの可塑化材料の吐出状態に応じて、ステージ300に対する造形部200の相対速度を調節してもよい。
【0079】
(E6)
図8に示した堆積量変動抑制処理において、制御部500は、ステージ300に対する造形部200の相対速度を調節せずに、各ノズル68からの可塑化材料の吐出状態に応じて、フラットスクリュー40の回転速度を調節してもよい。
【0080】
(E7)上述した各実施形態の三次元造形装置100~100dでは、可塑化部30は、フラットスクリュー40とバレル50とを備え、フラットスクリュー40とバレル50との相対的な回転を用いて材料を可塑化させて可塑化材料を生成している。これに対して、可塑化部30は、フラットスクリュー40ではなく、長尺な円柱状の外形形状を有しており、円柱の側面部分に螺旋溝が形成されたスクリューと、スクリューを囲む円筒状のバレルとを備え、スクリューとバレルとの相対的な回転を用いて材料を可塑化させて可塑化材料を生成してもよい。また、可塑化部30は、フラットスクリュー40や上述したスクリューを備えていなくてもよい。この場合、例えば、FDM(Fused Deposition Modeling)方式の三次元造形装置のように、材料のフィラメントをヒーターで加熱することによって可塑化させて可塑化材料を生成するように構成されてもよい。
【0081】
(E8)上述した各実施形態の三次元造形装置100~100dでは、制御部500は、ステージ300に対して造形部200を+X方向に相対移動させつつ各ノズル68から可塑化材料を吐出させて三次元造形物の奇数層を形成し、ステージ300に対して造形部200を-X方向に相対移動させつつ各ノズル68から可塑化材料を吐出させて偶数層を形成している。これに対して、制御部500は、ステージ300に対して造形部200を+X方向に相対移動させつつ各ノズル68から可塑化材料を吐出させて奇数層を形成し、奇数層を形成する前の位置にステージ300に対する造形部200の位置を戻した後、ステージ300に対して造形部200を+X方向に相対移動させつつ各ノズル68から可塑化材料を吐出させて偶数層を形成してもよい。また、制御部500は、例えば、ステージ300に対して造形部200を+X方向に相対移動させつつ各ノズル68から可塑化材料を吐出させた後、ステージ300に対して造形部200を+Y方向あるいは-Y方向に移動させ、さらに、ステージ300に対して造形部200を-X方向に相対移動させつつ各ノズル68から可塑化材料を吐出させることによって造形層を形成してもよい。
【0082】
(E9)上述した各実施形態の三次元造形装置100~100dでは、第1表面活性化部210Aと、第2表面活性化部210Bと、第1加熱冷却部220Aと、第2加熱冷却部220Bと、第1平坦化部230Aと、第2平坦化部230Bとを備えている。これに対して、三次元造形装置100~100dは、第1表面活性化部210Aと、第2表面活性化部210Bと、第1加熱冷却部220Aと、第2加熱冷却部220Bと、第1平坦化部230Aと、第2平坦化部230Bとを備えていなくてもよい。
【0083】
(E10)上述した各実施形態の三次元造形装置100~100dでは、ペレット状のABS樹脂が材料MRとして用いられたが、造形部200において用いられる材料MRとしては、例えば、熱可塑性を有する材料や、金属材料、セラミック材料等の種々の材料を主材料として三次元造形物を造形する材料を採用することもできる。ここで、「主材料」とは、三次元造形物の形状を形作っている中心となる材料を意味し、三次元造形物において50重量%以上の含有率を占める材料を意味する。上述した可塑化材料には、それらの主材料を単体で溶融したものや、主材料とともに含有される一部の成分が溶融してペースト状にされたものが含まれる。
【0084】
主材料として熱可塑性を有する材料を用いる場合には、可塑化部30において、当該材料が可塑化することによって可塑化材料が生成される。「可塑化」とは、熱可塑性を有する材料に熱が加わり溶融することを意味する。また、「溶融」とは、熱可塑性を有する材料がガラス転移点以上の温度に加熱されることにより軟化し、流動性が発現することをも意味する。
【0085】
熱可塑性を有する材料としては、例えば、下記のいずれか一つまたは2以上を組み合わせた熱可塑性樹脂材料を用いることができる。
<熱可塑性樹脂材料の例>
ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリアミド樹脂(PA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの汎用エンジニアリングプラスチック、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのエンジニアリングプラスチック。
【0086】
熱可塑性を有する材料には、顔料や、金属、セラミック、その他に、ワックス、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤などの添加剤等が混入されていてもよい。熱可塑性を有する材料は、可塑化部30において、フラットスクリュー40の回転とヒーター58の加熱によって可塑化されて溶融した状態に転化される。また、そのように生成された可塑化材料は、ノズル68から吐出された後、温度の低下によって硬化する。
【0087】
熱可塑性を有する材料は、そのガラス転移点以上に加熱されて完全に溶融した状態でノズル68から吐出されることが望ましい。なお、「完全に溶融した状態」とは、未溶融の熱可塑性を有する材料が存在しない状態を意味し、例えばペレット状の熱可塑性樹脂を材料に用いた場合、ペレット状の固形物が残存しない状態のことを意味する。
【0088】
造形部200では、上述した熱可塑性を有する材料の代わりに、例えば、以下の金属材料が主材料として用いられてもよい。この場合には、下記の金属材料を粉末状にした粉末材料に、可塑化材料の生成の際に溶融する成分が混合されて、可塑化部30に投入されることが望ましい。
<金属材料の例>
マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)やクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)の単一の金属、もしくはこれらの金属を1つ以上含む合金。
<合金の例>
マルエージング鋼、ステンレス、コバルトクロムモリブデン、チタニウム合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、コバルト合金、コバルトクロム合金。
【0089】
造形部200においては、上記の金属材料の代わりに、セラミック材料を主材料として用いることが可能である。セラミック材料としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物セラミックスや、窒化アルミニウムなどの非酸化物セラミックスなどが使用可能である。主材料として、上述したような金属材料やセラミック材料を用いる場合には、ステージ300に配置された可塑化材料は、例えばレーザーの照射や温風などによる焼結によって硬化されてもよい。
【0090】
材料供給部20に投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料は、単一の金属の粉末や合金の粉末、セラミック材料の粉末を、複数種類、混合した混合材料であってもよい。また、金属材料やセラミック材料の粉末材料は、例えば、上で例示したような熱可塑性樹脂、あるいは、それ以外の熱可塑性樹脂によってコーティングされていてもよい。この場合には、可塑化部30において、その熱可塑性樹脂が溶融して流動性が発現されるものとしてもよい。
【0091】
材料供給部20に投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のような溶剤を添加することもできる。溶剤は、下記の中から選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
<溶剤の例>
水;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸iso-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル等の酢酸エステル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;テトラアルキルアンモニウムアセテート類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤;ピリジン、γ-ピコリン、2,6-ルチジン等のピリジン系溶剤;テトラアルキルアンモニウムアセテート(例えば、テトラブチルアンモニウムアセテート等);ブチルカルビトールアセテート等のイオン液体等。
【0092】
その他に、材料供給部20に投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のようなバインダーを添加することもできる。
<バインダーの例>
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース系樹脂或いはその他の合成樹脂又はPLA(ポリ乳酸)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)或いはその他の熱可塑性樹脂。
【0093】
F.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0094】
(1)本開示の第1の形態によれば、三次元造形装置が提供される。この三次元造形装置は、スクリューを有し、前記スクリューの回転によって材料を可塑化して可塑化材料を生成する可塑化部と、前記可塑化材料が堆積される堆積面を有するステージと、前記ステージの前記堆積面に平行な第1軸に沿って並んで配置された複数のノズルを有し、前記複数のノズルから前記堆積面に向かって前記可塑化材料を吐出する吐出部と、前記複数のノズルのそれぞれからの前記可塑化材料の吐出量を調節する吐出量調節部と、前記ステージの前記堆積面に平行で前記第1軸と交差する第2軸に沿って、前記吐出部を前記ステージに対して相対移動させる移動部と、制御部と、を備える。前記制御部は、前記スクリューの回転速度を制御する第1制御と、前記吐出量調節部によって前記吐出量を制御する第2制御と、前記ステージに対する前記吐出部の相対速度を制御する第3制御とのうちの少なくともいずれか一つの制御を、前記複数のノズルからの前記可塑化材料の吐出状態に基づいて実行して、前記可塑化材料によって形成される造形層を前記ステージ上に積層する。
この形態の三次元造形装置によれば、制御部は、各ノズルからの可塑化材料の吐出状態に基づいて、スクリューの回転速度と、吐出量調節部によって調節される吐出量と、ステージに対する吐出部の相対速度とのうちの少なくとも一つを制御するので、各ノズルから吐出されてステージ上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量の変動を抑制できる。そのため、三次元造形物を寸法精度良く造形することができる。
【0095】
(2)上記形態の三次元造形装置において、前記制御部は、前記第1制御と前記第2制御と前記第3制御とのうちの少なくとも一つの制御を、前記吐出状態としての、前記複数のノズルのそれぞれからの前記可塑化材料の吐出の停止と開始とを示す状態に基づいて実行してもよい。
この形態の三次元造形装置によれば、簡易な制御で、各ノズルから吐出されてステージ上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量の変動を抑制できる。
【0096】
(3)上記形態の三次元造形装置において、前記制御部は、前記複数のノズルのうち、前記可塑化材料の吐出を停止状態にするノズルの数を増加させる際に、前記第1制御を実行する場合には、前記スクリューの回転速度を減少させ、前記第2制御を実行する場合には、前記吐出量調節部によって前記吐出量を減少させ、前記第3制御を実行する場合には、前記ステージに対する前記吐出部の相対速度を増加させてもよい。
この形態の三次元造形装置によれば、可塑化材料の吐出を停止状態にされるノズルの数を増加させる際に、制御部は、スクリューの回転速度の減少と、吐出量調節部による吐出量の減少と、ステージに対する吐出部の相対速度の増加とのうちの少なくとも一つを実行するので、各ノズルから吐出されてステージ上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量の変動を確実に抑制できる。
【0097】
(4)上記形態の三次元造形装置において、前記吐出部は、前記複数のノズルのそれぞれに連通する複数の個別流路と、前記複数の個別流路のそれぞれの圧力を計測する複数の第1計測部とを有し、前記制御部は、前記第1制御と前記第2制御と前記第3制御とのうちの少なくとも一つの制御を、前記吐出状態としての、前記複数の第1計測部によって計測される圧力を示す状態に基づいて実行してもよい。
この形態の三次元造形装置によれば、各個別流路内の圧力変動によって各ノズルからの吐出量が変動した場合であっても、制御部は、各第1計測部によって計測される各個別流路内の圧力に基づいて、スクリューの回転速度と、吐出量調節部によって調節される吐出量と、ステージに対する吐出部の相対速度とのうちの少なくとも一つを調整できるので、各ノズルから吐出されてステージ上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量の変動を抑制できる。
【0098】
(5)上記形態の三次元造形装置において、前記複数の第1計測部は、前記複数の個別流路のうち、前記吐出量調節部よりも上流の位置に配置されてもよい。
この形態の三次元造形装置によれば、各第1計測部によって各個別流路内の圧力を精度良く計測できる。
【0099】
(6)上記形態の三次元造形装置は、前記複数のノズルのそれぞれから吐出された前記可塑化材料の前記吐出量または線幅を計測する第2計測部を備え、前記制御部は、前記第1制御と前記第2制御と前記第3制御とのうちの少なくとも一つの制御を、前記吐出状態としての、前記第2計測部によって計測される前記吐出量または前記線幅を示す状態に基づいて実行してもよい。
この形態の三次元造形装置によれば、各ノズルから吐出される可塑化材料の吐出量または線幅が変動した場合であっても、制御部は、第2計測部によって計測される吐出量または線幅の状態に基づいて、スクリューの回転速度と、吐出量調節部によって調節される吐出量と、ステージに対する吐出部の相対速度とのうちの少なくとも一つを調整できるので、各ノズルから吐出されてステージ上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量の変動を抑制できる。
【0100】
(7)上記形態の三次元造形装置において、前記可塑化部は、前記スクリューとして、溝部が設けられた溝形成面を有するフラットスクリューを有し、前記溝形成面に対向し、前記複数のノズルに連通する連通孔を有するバレルを有し、前記フラットスクリューの回転によって、前記溝部に供給された前記材料を可塑化して前記可塑化材料を生成し、前記可塑化材料を前記連通孔から前記複数のノズルに供給してもよい。
この形態の三次元造形装置によれば、フラットスクリューの回転によって、溝部に供給された材料を可塑化して可塑化材料を生成できるので、フラットスクリューの回転軸に沿った方向において、可塑化部を小型化できる。
【0101】
(8)上記形態の三次元造形装置において、前記吐出量調節部は、前記複数のノズルのそれぞれに対応する複数のバルブを有し、前記制御部は、前記複数のバルブの開度を制御することによって、前記複数のノズルのそれぞれからの前記可塑化材料の前記吐出量を調節してもよい。
この形態の三次元造形装置によれば、簡易な構成で、各ノズルからの可塑化材料の吐出量を調節できる。
【0102】
(9)本開示の第2の形態によれば、三次元造形物の製造方法が提供される。この三次元造形物の製造方法は、第1軸に沿って並んで配置された複数のノズルから前記第1軸に平行な堆積面に向かって可塑化材料を吐出させて、前記可塑化材料によって形成される造形層を前記堆積面上に積層することにより三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法であって、スクリューの回転によって材料を可塑化して前記可塑化材料を生成する第1工程と、前記複数のノズルのそれぞれからの前記可塑化材料の吐出量を調節する第2工程と、前記堆積面に平行で前記第1軸と交差する第2軸に沿って前記複数のノズルを前記堆積面に対して相対移動させつつ前記複数のノズルから前記堆積面に向かって前記可塑化材料を吐出する第3工程と、を備える。前記第1工程における前記スクリューの回転速度と、前記第2工程における前記吐出量と、前記第3工程における前記堆積面に対する前記複数のノズルの相対速度とのうちの少なくとも一つを、前記複数のノズルからの前記可塑化材料の吐出状態に基づいて調節して、前記可塑化材料によって形成される造形層を前記堆積面上に積層することを特徴とする。
この形態の三次元造形物の製造方法によれば、各ノズルからの可塑化材料の吐出状態に基づいて、スクリューの回転速度と、吐出量調節部によって調節される吐出量と、堆積面に対する吐出部の相対速度とのうちの少なくとも一つを調節するので、各ノズルから吐出されて堆積面上に堆積する可塑化材料の単位面積当たりの堆積量の変動を抑制できる。そのため、三次元造形物を寸法精度良く造形することができる。
【0103】
本開示は、三次元造形装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、三次元造形装置の制御方法、三次元造形物の製造方法等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0104】
20…材料供給部、30…可塑化部、40…フラットスクリュー、50…バレル、56…連通孔、58…ヒーター、60…吐出部、61…第1流路部材、62…第2流路部材、63…共通流路、64…分岐流路、65…個別流路、66…シリンダー部、68…ノズル、69…吐出口、70…吐出量調節部、71…バルブ、75…弁部、76…弁駆動部、90…第1計測部、95…第2計測部、100…三次元造形装置、200…造形部、210…表面活性化部、220…加熱冷却部、230…平坦化部、231…ローラー、232…ローラー支持部、300…ステージ、310…堆積面、400…移動部、500…制御部