(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置、表示制御装置、及び表示制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B60K 35/232 20240101AFI20240709BHJP
G09G 5/00 20060101ALI20240709BHJP
G09G 5/36 20060101ALI20240709BHJP
G09G 5/373 20060101ALI20240709BHJP
G09G 5/02 20060101ALI20240709BHJP
G09G 5/38 20060101ALI20240709BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B60K35/232
G09G5/00 510A
G09G5/36 500
G09G5/373
G09G5/02 B
G09G5/00 550B
G09G5/38 100
G02B27/01
(21)【出願番号】P 2020127484
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】舛屋 勇希
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-071051(JP,A)
【文献】国際公開第2020/110580(WO,A1)
【文献】特開2020-071441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/23-35/235
G09G 5/00-5/02、5/36-5/38
G02B 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、オブジェクトの画像を、前記車両に備わる被投影部材に投影することで、ユーザーに前記画像の虚像を視認させ、かつ、前記ユーザー上又は前記車両上に設定される基準点から前記虚像までの距離を虚像表示距離とする場合に、前記オブジェクトについての虚像表示距離を制御することが可能なヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
前記オブジェクトの画像を表示する画像表示部と、
前記オブジェクトの画像を前記画像表示部に表示させる際、前記オブジェクトの虚像表示距離が閾値より小さいときは、前記虚像表示距離を可変に制御する距離制御を少なくとも含む3D表示制御によって前記オブジェクトの画像を表示させ、前記オブジェクトの虚像表示距離が閾値より大きいときは、
前記閾値が示す距離を前記オブジェクトについての虚像表示距離と定め、その虚像表示距離の虚像表示面にて、前記オブジェクトについての表示形態を変更することで疑似的に3D表示を実現する疑似3D表示制御によって前記オブジェクトの画像を表示させる奥行き表示制御部と、を有
し、
前記虚像表示距離を可変に制御する距離制御を少なくとも含む3D表示制御によって前記オブジェクトの虚像を表示する、虚像表示領域における領域を第1の領域とし、前記オブジェクトについての表示形態を変更することで疑似的に3D表示を実現する疑似3D表示制御によって前記オブジェクトの虚像を表示する、前記虚像表示領域における領域を第2の領域とする場合において、
前記奥行き表示制御部は、前記第2の領域から前記第1の領域への移行タイミングで、又は、前記移行タイミングを含む、前記移行タイミングの前後の期間内において、前記オブジェクトの表示に不連続性をもたせて、前記オブジェクトの誘目性を増大させる制御を行い、
前記オブジェクトの誘目性を増大させる際、
動的変化における速度を変化させること、
時間的な表示レートを変更して表示の飛びを発生させること、
前記ユーザーへの前記オブジェクトの接近による画像拡大率を異ならせること、
の少なくとも1つの制御を実施する、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記オブジェクトについての表示形態を変更には
、陰影の付与、色彩の変更
、サイズの変更の少なくも1つが含まれることを特徴とする、請求項
1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記虚像表示距離を可変に制御する距離制御を少なくとも含む3D表示制御は、前記距離制御単独、または、前記距離制御と前記疑似3D表示制御との組み合わせである、ことを特徴とする、請求項1
又は2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
車両に搭載され、オブジェクトの画像を、前記車両に備わる被投影部材に投影することで、ユーザーに前記画像の虚像を視認させ、かつ、前記ユーザー上又は前記車両上に設定される基準点から前記虚像までの距離を虚像表示距離とする場合に、前記オブジェクトについての虚像表示距離を制御することが可能なヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
前記オブジェクトの画像を表示する画像表示部と、
前記オブジェクトの画像を前記画像表示部に表示させる際、前記オブジェクトの虚像表示距離が閾値より小さいときは、前記虚像表示距離を可変に制御する距離制御を少なくとも含む3D表示制御によって前記オブジェクトの画像を表示させ、前記オブジェクトの虚像表示距離が閾値より大きいときは、前記閾値が示す距離を前記オブジェクトについての虚像表示距離と定め、その虚像表示距離の虚像表示面にて、前記オブジェクトについての表示形態を変更することで疑似的に3D表示を実現する疑似3D表示制御によって前記オブジェクトの画像を表示させる奥行き表示制御部と、を有し、
前記虚像表示距離を可変に制御する距離制御を少なくとも含む3D表示制御によって前記オブジェクトの虚像を表示する、虚像表示領域における領域を第1の領域とし、前記オブジェクトについての表示形態を変更することで疑似的に3D表示を実現する疑似3D表示制御によって前記オブジェクトの虚像を表示する、前記虚像表示領域における領域を第2の領域とする場合において、
前記奥行き表示制御部は、前記第2の領域から前記第1の領域への移行タイミングで、又は、前記移行タイミングを含む、前記移行タイミングの前後の期間内において、前記オブジェクトの表示に不連続性をもたせて、前記オブジェクトの誘目性を増大させる制御を行い、
前記オブジェクトの誘目性を増大させる制御が実施されるタイミングでの前記オブジェクトは、前記ユーザーの周辺視野に位置する、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記オブジェクトについての表示形態を変更には、陰影の付与、色彩の変更、サイズの変更の少なくも1つが含まれることを特徴とする、請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記虚像表示距離を可変に制御する距離制御を少なくとも含む3D表示制御は、前記距離制御単独、または、前記距離制御と前記疑似3D表示制御との組み合わせである、ことを特徴とする、請求項4又は5に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記奥行き表示制御部は、前記第2の領域では、前記オブジェクトが路面に対して立設されるように表示し、前記第1の領域では、前記オブジェクトが前記路面に重畳されるように表示する制御を実施する、
ことを特徴とする請求項
4乃至6の何れかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載されるヘッドアップディスプレイ(HUD)装置、表示制御装置、及び表示制御プログラム等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ヘッドアップディスプレイ(HUD)装置において、焦点面の移動又は、焦点面と乗り物との間の距離の調整によって、グラフィック要素が立体的に見えるようにした3Dナビゲーションシステムが示されている。
【0003】
また、特許文献2には、HUD装置において、虚像までの距離を変化させる態様の1つとして、虚像表示面を路面に対して斜めに設け、表示位置による遠近制御を行う点が開示されている(例えば、
図8、
図9)。
【0004】
また、特許文献3には、距離調整ではなく、表示対象の形状等によって立体感を与えるHUD装置において、状況に応じて、その形状等を異ならせ、あるいは元の状態に復帰させるといった表示制御を行うことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-69656号公報
【文献】特開2016-117345号公報
【文献】WO2016-166887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
虚像を表示する距離(虚像表示距離)自体を制御するHUD装置において、虚像表示距離の全範囲で距離制御を必ず実行することとした場合、HUD装置の負担が大きく、また、HUD装置のパッケージサイズ(具体的には、HUD装置の外観形状を構成する筐体等の大きさや寸法)の大型化を招くことになる。
【0007】
また、HUD装置の負担が大きくなれば、画像処理等に要する時間が増大し、処理遅延が生じる可能性がある。また、HUD装置の消費電力が増大したり、発熱量が増大したりする問題も懸念される。このような課題が、本発明者の検討によって明らかとされた。
【0008】
なお、特許文献3に記載される表示制御は、表示コンテンツの形状等を変化させて立体的に見せるものであり、虚像表示距離を可変に制御する方式ではなく、その技術内容は、本発明とは根本的に異なっている。従って、特許文献3には、上記の課題や、その解決手段についても示されていない。
【0009】
本発明の1つの目的は、例えば、HUD装置の負担等を軽減しつつ、HUD装置が意図する虚像表示距離での情報の知覚を実現することである。
【0010】
本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び最良の実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0012】
第1の態様において、ヘッドアップディスプレイ装置は、車両に搭載され、オブジェクトの画像を、前記車両に備わる被投影部材に投影することで、ユーザーに前記画像の虚像を視認させ、かつ、前記ユーザー上又は前記車両上に設定される基準点から前記虚像までの距離を虚像表示距離とする場合に、前記オブジェクトについての虚像表示距離を制御することが可能なヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
前記オブジェクトの画像を表示する画像表示部と、
前記オブジェクトの画像を前記画像表示部に表示させる際、前記オブジェクトの虚像表示距離が閾値より小さいときは、前記虚像表示距離を可変に制御する距離制御を少なくとも含む3D表示制御によって前記オブジェクトの画像を表示させ、前記オブジェクトの虚像表示距離が閾値より大きいときは、前記オブジェクトについての表示形態を変更することで疑似的に3D表示を実現する疑似3D表示制御によって前記オブジェクトの画像を表示させる奥行き表示制御部と、を有する。
【0013】
第1の態様では、例えば所定の閾値を超えない範囲で表示されるオブジェクトについては、虚像表示距離の直接的制御を含む処理(表示形態の変更による疑似3D表示制御を組み合わせることもできる。これらを総称して、「3D表示制御」と称する)を実施する。一方、閾値を超えて遠方に表示されるオブジェクトについては、直接的な距離制御を行わず、疑似3D画像処理による遠近強調(表示形態の変更によって遠近感を表現すること)によって、知覚を介した距離制御を実施することとする。
【0014】
ある程度の遠方にある物体(オブジェクト)を人が見るときの輻輳角は十分に小さくなっており、距離制御では、輻輳角の変化を人に感じさせることは困難となる。よって、所望の遠近感制御の効果が期待できないときは、複雑な処理を伴いがちな直接的な距離制御をあきらめ、疑似3D画像処理のみによる遠近強調で対応する(例えば、オブジェクトのサイズを小さくする)こととしたものである。
【0015】
これによって、遠方のオブジェクトについても、遠近感をもった表示が効果的に行えるようになる。また、HUD装置が距離制御可能な全範囲(全距離範囲)にわたって、虚像表示距離を制御するのではなく、人の目に効果的な範囲においてのみ距離制御を行うことで、表示装置の処理負担を軽減することができる。従って、表示装置(車両表示装置としてのHUD装置等)のパッケージの大型化が抑制され、コスト面でも有利となり、また、発熱の問題も抑制される。従って、HUD装置の負担等を軽減しつつ、HUD装置が意図する虚像表示距離での情報の知覚を実現することができる。
【0016】
第1の態様に従属する第2の態様において、
前記奥行き表示制御部は、
前記オブジェクトの虚像表示距離が閾値より大きいときは、前記閾値が示す距離を前記オブジェクトについての虚像表示距離と定め、その虚像表示距離の虚像表示面にて、前記疑似3D表示制御によって前記オブジェクトの画像を表示させてもよい。
【0017】
第2の態様では、オブジェクトの虚像表示距離が閾値より大きく、疑似3D表示制御が実行されて虚像が表示されるとき、その虚像表示距離を、閾値が示す距離に設定する。実際の虚像表示距離と閾値との比較を行った結果、虚像表示距離が閾値より大きいときは、比較に用いられた閾値そのものを、虚像表示距離として設定することから、虚像表示距離を新たに決め直す必要がなく、装置の負担が軽減され、また、迅速な虚像表示処理が可能となる。
【0018】
第1又は第2の態様に従属する第3の態様において、前記オブジェクトについての表示形態を変更には、立体化、陰影の付与、色彩の変更、形状の変更、サイズの変更の少なくも1つが含まれてもよい。
【0019】
第3の態様では、疑似3D表示の一種である「表示形態の変更」には、立体化(遠近法による描画であり、例えば線を斜線とする等)、あるいは、形状はそのままであるが、陰影をつけることで遠近感を演出こと、あるいは、色彩や形状の変更、オブジェクトの全部(外観)のサイズの変更(但し、これに限定されず、一部のサイズ変更であってもよい)を含めることができる。これにより、多彩な手法を用いて、簡易に、かつ効率的に遠近感の知覚を生じさせることが可能となり、装置の負担が軽減され、パッケージの小型化も図ることができる。
【0020】
第1乃至第3の態様の何れか1つ従属する第4の態様において、
前記虚像表示距離を可変に制御する距離制御を少なくとも含む3D表示制御は、前記距離制御単独、または、前記距離制御と前記疑似3D表示制御との組み合わせであるようにしてもよい。
【0021】
第4の態様では、虚像表示距離が閾値より小さく、虚像表示距離を直接的に制御する(3D制御を行う)とき、併せて、表示形態の変更による疑似3D制御を行ってもよい。これにより、遠近感をより効率的に演出でき、表示される虚像の連続性を確保する点でも有利となる。
【0022】
第1乃至第4の態様の何れか1つ従属する第5の態様において、
前記奥行き表示制御部は、
虚像表示面が、路面に対して垂直に立設されることなく傾斜し、あるいは前記路面に重なる場合において、その傾斜し、あるいは路面に重なる虚像表示面のうちの、前記閾値が示す距離よりも、前記ユーザーから見て遠くにある箇所に前記オブジェクトの虚像を表示するときは、前記箇所に対応する虚像部分の全部を、前記閾値およびその近傍における虚像表示距離にて表示し、かつ、前記虚像部分に対応する画像に前記疑似3D表示制御を実施し、これによって、前記虚像部分が、前記閾値が示す距離よりも前記ユーザーの近い側にある前記オブジェクトの虚像部分に遠近感をもって接続されるように表示を制御してもよい。
【0023】
第5の態様では、虚像表示距離の直接的な制御を、路面に対して傾いている(あるいは、路面に重畳されている)虚像表示面における表示位置の変更によって行う場合を想定している。
【0024】
例えば、光学的な光路長の変更で虚像表示距離を変化させることはできない装置であっても、虚像表示面を路面に対して傾ける(重畳させる)等しておけば、例えば、その虚像表示面の下側の虚像部分は手前に見え、上側にいくほど、遠くに見えるようになり、虚像表示距離を、表示する位置によって調整することができる。
【0025】
この場合に、本発明を適用する場合を想定する。上記の閾値が示す距離が、傾いている(あるいは重畳している)虚像表示面での位置変更による距離可変範囲の中にある場合、一部の虚像は、その閾値よりも遠い位置にあることになる。この遠い位置にある一部の虚像に対応する画像は、ある時点で一括して(同時に)描画し、その描画の際に、表示形態を変更し(例えば、サイズを縮小する等し)て、それまで描画してきた図形等に連接するように、言い換えれば遠近感をもって知覚されるように、疑似3D画像に変換して描画する。人の目は、目の焦点の距離と虚像表示距離とが離れていた場合であっても、今度は、表示形態を頼りとして距離(奥行)を把握することから、人の知覚としては、同じ距離において、ややぼやけてはいるが小さく見えている虚像が、直近に描画した画像に対応する虚像に連続しているかのように錯覚する。言い換えれば、ユーザーの注視距離と虚像の表示距離の違いによって2重視が生じるが、遠方側では距離変化に対する2重視の度合いが小さくなる。上記のとおり、人(ユーザー)は、表示形態の変化(上記のサイズの縮小等)を頼りとして距離(奥行)を把握しようとする。そのような知覚作用によって、遠方であるがゆえに2重視の程度が小さいものを、さらに小さくすることができる。このような作用によって、遠近表示が可能である。言い換えれば、好ましい例として、違和感がほとんどないような連続性が保たれた遠近感のある表示が実現される。
【0026】
閾値よりも遠い箇所の虚像に対応する画像は、一括して、サイズ等を調整して描くだけでよく、何回も時分割で部分画像を描画する必要がないことから効率的な画像生成が可能であり、その分、装置の処理負担が軽減される。
【0027】
第6の態様において、表示制御装置は、第1乃至第5の何れか1つの態様のヘッドアップディスプレイ装置に搭載され、コンピュータを用いて実現される、前記奥行き表示制御部としての表示制御装置である。
【0028】
奥行き表示制御部としてのコンピュータを、例えばCPU、MPUとして実現することで、小型化が可能であり、車載用の、小型のHUD装置にも適用が可能となる。
【0029】
第7の態様において、表示制御プログラムは、コンピュータを、第6の態様の表示制御装置として動作させる表示制御プログラムである。
【0030】
ソフトウエアによって構築可能であることから、実現が容易となる。
【0031】
第1乃至第5の何れか1つの態様に従属する第8の態様において、
前記虚像表示距離を可変に制御する距離制御を少なくとも含む3D表示制御によって前記オブジェクトの虚像を表示する、虚像表示領域における領域を第1の領域とし、前記オブジェクトについての表示形態を変更することで疑似的に3D表示を実現する疑似3D表示制御によって前記オブジェクトの虚像を表示する、前記虚像表示領域における領域を第2の領域とし、とする場合において、
前記奥行き表示制御部は、前記第2の領域から前記第1の領域への移行タイミングで、又は、前記移行タイミングを含む、前記移行タイミングの前後の期間内において、前記オブジェクトの表示に不連続性をもたせて、前記オブジェクトの誘目性を増大させる制御を行ってもよい。
第8の態様では、オブジェクト(表示コンテンツ)が、第2、第1の領域を跨ぐ際に、一旦、ユーザー(運転者)が表示を見に行くようにする(言い換えれば、一時的に視線を向けるように仕向ける)ことで、必要なタイミング(重要なタイミング)で、必要な情報を確実にユーザーに伝達することができる。
例えば、制限速度80km/hが50km/hに切り替わるタイミング(または、そのタイミングを含む前後の期間内)で、運転者は、その制限速度の変化を確実に認識して車速を落とす必要がある。その制限速度の変化は通常、道路脇に表示される制限速度標識等のオブジェクトによって示される。
その制限速度標識等のオブジェクトの表示に際して、例えば、制限速度の切り替わり位置より少し遠くから表示を開始し、このとき、表示形態の変更制御(疑似3D制御)によってサイズを小さくして遠方であることを違和感なく表現しつつ、制限速度の切り替え地点が近づいていることを運転者に示し、切り替え地点(あるいはその付近)で、表示距離制御を含む3D制御に切り替え、車両の接近に応じて、制限速度標識等が車両にダイナミックに近づき、やがて後方に流れるように消える、という臨場感のある制御が実施される場合を想定する。
但し、制限速度標識を含む道路標識等は道路脇に表示されるものであり、道路中央の遠方を注視領域とする運転者の視野から見れば、その道路標識等は周辺視野に位置する場合が多いと考えられる。本発明者の検討によれば、直視の場合と周辺視の場合とでは、運転者の奥行きの弁別能力が異なり、周辺視では奥行の弁別閾値が大きくなって、より大きな変化でないと運転者は認識することがむずかしい状態となることがわかっている。
例えば、周辺視における視認において、上記の臨場感のある表示制御を実施したとしても、運転者は制限速度標識等をはっきりとは見ず、制限速度の変更を見逃し、いつの間にか表示が後方に流れてしまっている、というような事態が生じる場合も想定される。このような場合の対策として、第8の態様の表示制御が有用である。
第8の態様では、表示に意図的に不連続性を導入し(言い換えれば、オブジェクトの表示に不連続性をもたせて)、オブジェクトの誘目性を増大させる。上述のとおり、例えば、奥行知覚は周辺視で鈍感となりがちであるため、一旦誘目させて、目の中心でオブジェクトの表示を捉えさせることとする。言い換えれば、注視による視認によって、オブジェクトの表示を例えば瞬時的に確認させる。これによって、適切なタイミングで、提示情報を、確実に、かつ違和感なく、ユーザー(運転者等)に認識させることが可能である。
第8の態様に従属する第9の態様では、
前記奥行き表示制御部は、前記オブジェクトの誘目性を増大させる際、
動的変化における速度を変化させること、
時間的な表示レートを変更して表示の飛びを発生させること、
前記ユーザーへの前記オブジェクトの接近による画像拡大率を異ならせること、
の少なくとも1つの制御を実施してもよい。
これによって、適切なタイミングで、提示情報を、確実に、かつ違和感なく、ユーザー(運転者等)に認識させることが可能である。
第8又は第9の態様に従属する第10の態様において、
前記奥行き表示制御部は、前記第2の領域では、前記オブジェクトが路面に対して立設されるように表示し、前記第1の領域では、前記オブジェクトが前記路面に重畳されるように表示する制御を実施してもよい。
第10の態様では、立設表示から路面重畳表示への切り替えの際に、誘目性を増大させる(言い換えれば、誘目性を向上させる)制御を実施し、ユーザー(運転者等)が、周辺視野にある立設表示を見逃がし、路面重畳表示が唐突に出現する、といった事態が生じないようにする。
例えば、車両が高速道路を走行しているときに、降りる出口を、道路に対して立設する標識にて示し、車両がその出口に近づいた適切なタイミングで、出口へと誘導する路面重畳表示に切り替える場合を想定する。
このとき、誘目性を増大させてユーザー(運転者等)の視線を立設標識に向かわせ(誘目させ)、これによって、出口への接近を確実にユーザーに伝達する。その後、路面重畳表示による車両誘導表示に切り替えることで、確実に、かつ違和感を生じさせることなく、出口の接近をユーザーに伝達することができ、よって、出口をうっかり通過してしまうことが防止される。
第8乃至第10の何れか1つの態様に従属する第11の態様において、
前記オブジェクトの誘目性を増大させる制御が実施されるタイミングでの前記オブジェクトは、前記ユーザーの周辺視野に位置してもよい。
人の奥行知覚は周辺視で鈍感となりがちである。そこで、周辺視野にあるオブジェクトの誘目性を増大させて、一旦誘目させて、目の中心でオブジェクトの表示を捉えさせることで、ユーザー(運転者等)への確実な情報伝達を実現することができる。また、夜間や雨天時等の運転においても、例えば誘目性の増大の程度を、通常時(昼間や晴天時)よりも増大させることで、情報の見逃しを抑制するという効果を得ることができる。
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、車両が直線状の道路を走行している運転シーンにおける、表示コンテンツであるオブジェクト(ナビゲーション画像等)の虚像の表示の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、車両が直線状の道路を走行している運転シーンにおける、表示コンテンツであるオブジェクト(ナビゲーション画像等)の虚像の表示の他の例を示す図である。
【
図3】
図3(A)は、オブジェクトの虚像表示距離が所定値(閾値)を超える場合の表示制御例を示す図、
図3(B)は、その表示制御例における虚像表示面の位置、及び表示形態制御等について説明するための図である。
【
図4】
図4(A)は、オブジェクトの虚像表示距離が所定値(閾値)を超えない場合の表示制御例を示す図、
図4(B)は、その表示制御例における虚像表示面の位置、及び表示形態制御等について説明するための図である。
【
図5】
図5は、HUD装置において、虚像表示距離を可変に制御する例(ここでは、本発明は適用されていないものとする)を説明するための図である。
【
図6】
図6(A)は、虚像表示距離が異なる複数の虚像表示面を設定可能な多面HUD装置における虚像表示面の設定例を示す図、
図6(B)は、多面HUD装置の要部の構成例を示す図、
図6(C)は、位置制御信号について説明するための図である。
【
図7】
図7は、虚像表示距離の制御が可能なHUD装置の全体構成の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態にかかるHUD装置の主要な動作手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9(A)は、虚像表示面を路面に対して傾けることが可能なHUD装置の要部の構成例を示す図、
図9(B)は、路面に重なるように設けられた虚像表示面上における遠近表示の原理を説明するための図である。
【
図10】
図10(A)は、路面に対して傾けられて設けられる虚像表示面を用いて遠近制御を行う場合において、本発明を適用した場合の表示制御例(左折地点が遠くにある場合)を示す図、
図10(B)は、その表示制御例における虚像表示面の位置、及び表示形態制御等について説明するための図、
図10(C)は、虚像表示面上での画像の表示(描画)の一例を示す図である。
【
図11】
図11(A)は、路面に対して傾けられて設けられる虚像表示面を用いて遠近制御を行う場合において、本発明を適用した場合の表示制御例(左折地点が近くにある場合)を示す図、
図11(B)は、その表示制御例における虚像表示面の位置、及び表示形態制御等について説明するための図である。
【
図12】
図12(A)は、道路脇の標識等による表示において奥行き制御を行う場合の誘目性増大の一例(移動速度低下によって誘目性を増大させる例)を示す図、
図12(B)は、他の例(表示レートの低下によって誘目性を増大させる例)を示す図である。
【
図13】
図13は、道路脇の標識等による表示において奥行き制御を行う場合の誘目性増大の他の例(接近による画像拡大率を大きくして表示面積を増やす例)を示す図である。
【
図14】
図14(A)、(B)は、オブジェクトを動的に移動させ、かつ立設表示から路面重畳表示への切り替えを行う際に、誘目性を増大させる制御を行う場合の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、誘目性を増大させる処理の手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0034】
図1は、車両が直線状の道路を走行している運転シーンにおける、表示コンテンツであるオブジェクト(ナビゲーション画像)の虚像の表示の一例を示す図である。
【0035】
図1において、車両(自車両)10は、直線状の道路(路面)2上を、速度60kmで走行している。ここでは、ユーザー(
図1では不図示、
図2の符号1)は、ステアリングホイール(ハンドル)3を握る運転者である。フロントパネル5には、車速表示用メーター(計器)M1、エンジンの回転数を示すメーター(計器)M2が設けられている。但し、これは例示であり、限定されるものではない。これらの計器の情報は、HUD装置による虚像として表示されてもよい(併用の場合もあり得る。
図1では併用されている)。
【0036】
図1の運転シーンにおいて、同じ車線の前方車両としては、FC1、FC2の2台が存在する。手前側の前方車両FC1については、車間距離はかなりあるものの、例えば急速に減速した等の理由で、注意喚起マーク(重畳マークの一種である)CUが重畳表示されている。なお、追い越し車線を走る前方車両TC1が遠くに見えている。
【0037】
HUD装置による車速表示(虚像SP)は、立体的な形状と共に表示されている(これは、立体的表示、3Dオブジェクトによる表示、立体感処理オブジェクトによる表示等と称することができる)。
【0038】
また、前方車両FC2のやや手前側において、背景の空に重ねるように、ナビゲーション表示としての、かなりの面積をもつ仮想標識NVが提示されている。仮想標識NVは、地名表示C10、C20と、ガイドとしての矢印表示C30、C40とを含む。
【0039】
なお、HUD装置による虚像は、被投影部材としてのウインドシールド6上における虚像表示領域(
図1では不図示、
図2の符号7)において表示される。
【0040】
図示されるとおり、ユーザー1は、遠近感を伴う多様なオブジェクトを同時に知覚する必要がある運転シーンであり、遠近感が誤って把握されると、事故にもつながりかねず、従って、最適な距離感でのオブジェクト(表示対象の虚像)の表示が重要となる。
【0041】
図2を参照する。
図2は、車両が直線状の道路を走行している運転シーンにおける、表示コンテンツであるオブジェクト(ナビゲーション画像)の虚像の表示の他の例を示す図である。
図2において、
図1と共通する部分には同じ符号を付している(なお、この点は、以下の図面においても共通である)。
【0042】
図2の例では、3つの仮想標識C1、C2、C3が、異なる虚像表示距離に調整されて表示(投影表示)されている。特に、制限速度を表示するナビゲーション像C1は、車両10の前方への走行スピードに合致させて、ユーザー1の視点Aから見て、奥側から手前側へと流れるように、虚像表示距離が多段階に制御される。このような制御は、多面(マルチレイヤー)HUD装置を用いて実現され得る(この点は後述する)。
【0043】
次に、
図3を参照する。
図3(A)は、オブジェクトの虚像表示距離が所定値(閾値)を超える場合の表示制御例を示す図、
図3(B)は、その表示制御例における虚像表示面の位置、及び表示形態制御等について説明するための図である。なお、ここでは、所定の「閾値(遠近の判断の基準としての閾値)」を「20m」として説明する。
【0044】
図3(A)では、道路(路面2)を横切ろうとしている人D1が右遠方(ユーザーとしての運転者1の視点Aから30mの位置)に見えている。HUD装置は、その人D1に重畳させるように、注意喚起のための枠(注意喚起枠と称する)J3を表示する。
【0045】
本来、HUD装置が意図する、枠J3の虚像表示距離(結像距離、焦点距離等と称されることもある)は、L2(30m)であるが、この距離は、閾値L1(20m)を超えている。よって、虚像表示距離を光学系の移動によって正確に調整したとしても、輻輳角の変更の度合いは小さく、人の目には、変化があまり捉えられない。一方で、装置の処理負担が増大し、パッケージサイズが大きくなる等の弊害も懸念されることになる。
【0046】
そこで、L1(20m)を超える部分については直接的な距離の調整は行わず、表示形態の変化を手掛かりとしてユーザーに遠近的知覚を与える手法に変更して表示する。ここでは、例えば、閾値L1(20m)の位置に、例えば路面2に垂直に立設する虚像表示面(
図3(B)の符号PS1)を想定し、その表示面上に、本来の大きさの「枠J1」に代えて、より小さなサイズの、疑似3D変換処理済みの「枠J2」を表示する。
【0047】
虚像表示面を閾値が示す距離L1(20m)に設定するのは、他の距離を新たに設定する手間が省け、効率的な処理ができ、処理速度等の面で有利であるからである。
【0048】
ユーザー1は、「枠J2」が、人D1に重なって見える。このとき、距離は一致はしないが、しかし、サイズが縮小されたことを手掛かりにして人の目(視点A)は遠近感を知覚することができる。よって、実際には距離の差があっても、その差が補われて、「枠J3(図中、太線の破線で示される)」が「人D1」に重畳しているかのように感じられる。よって、違和感のない、遠近感を与えることができ、効果的な立体表示となる。また、装置の処理負担を軽減でき、これによって、コスト削減、パッケージサイズの抑制、発熱の問題の抑制等の効果を期待することができる。
【0049】
図3(B)に示すように、実際は、距離L1の虚像表示面PS1上に、サイズが縮小された虚像J2が表示されるのであるが、ユーザー1の目(視点A)には、あたかも、距離L2の虚像表示面PS2上に表示されているかのように見える。なお、ここでは、虚像表示面PS1、PS2は、路面2に対して垂直に立設しているものとする。虚像表示面上においては、表示位置に関係なく、視点Aからの距離が同じであると取り扱われる。
【0050】
次に、
図4を参照する。
図4(A)は、オブジェクトの虚像表示距離が所定値(閾値)を超えない場合の表示制御例を示す図、
図4(B)は、その表示制御例における虚像表示面の位置、及び表示形態制御等について説明するための図である。
【0051】
図4の運転シーンは、
図3(B)と同じである。但し、
図3に描かれている運転シーンの時点から時間が経過し、人D1が、ユーザーである運転者1からみて、より近くに見えている。
【0052】
図4(A)では、人D1は、距離L3(10m)の位置にあり、L1は、閾値L2(20m)より小さく、虚像表示距離の直接的な制御によって、効果的に立体感を演出することが可能である。そこで、HUD装置は、距離制御(3D制御)によって、枠J4を、距離L3(10m)に設定して表示する。これによって、枠J4と人D1との距離が一致することになり、違和感のない遠近感のある表示が実現される。
【0053】
図4(B)に示すように、距離L3の位置にある虚像表示面PS3上に、枠(注意喚起用の強調枠)J4が、本来のサイズで示されている。但し、これに限定されるものではない。
図4の例において、距離を直接的に制御し、さらに、表現態様の変更による疑似3D表示によって、より立体感を増したり、より効果的な遠近強調を実現したりすることができる。
【0054】
次に、
図5を参照する。
図5は、HUD装置において、虚像表示距離を可変に制御する例(ここでは、本発明は適用されていないものとする)を説明するための図である。ここでは、
図2のナビゲーション画像を表示する例を示す。
【0055】
図5に示されるように、HUD装置100は、被投影部材であるウインドシールド6に、オブジェクト(表示対象物)の画像を投影(言い換えれば、画像を表示する表示光Kを照射)し、これによって、ユーザー1は、前方に設定される虚像表示面PS10、PS11、PS12上において、ナビゲーション像(虚像)C1~C3が各々、表示される。
【0056】
各虚像表示面PS10~PS12上では、虚像の表示位置にかかわらず、虚像表示距離は同じであり、
図5においては、虚像表示面PS10、PS11、PS12の各虚像表示距離はL201、L202、L203(L201<L202<L203)に設定されている。
【0057】
ここで、制限速度を表示するナビゲーション像C1は、車両10の前方への走行スピードに合致させて、ユーザー1の視点Aから見て、奥側から手前側へと流れるように、虚像表示距離が多段階に制御される。このような制御は、多面(マルチレイヤ―)HUD装置を用いて実現される(この点は後述する)。
【0058】
図5の運転シーンでは、虚像表示距離を異ならせた複数のオブジェクト(3種類のナビゲーションコンテンツC1~C3)が同時に提示されており、また、制限速度の標識であるC1が、自車両10の動きに合わせて手前側に流れるように動かされており、視覚的違和感が生じ易い運転シーンといえる。
【0059】
HUD装置100には、奥行き表示制御部(虚像表示距離制御部を含む)34と、表示形態制御部(遠近感補正部)900と、を有する。表示形態制御部(遠近感補正部)900は、表示オブジェクトの形態を変化させる場合等において、必要な形態の表示要素を、例えばレンダリングにより、あるいは、メモリからデータを読み出すことによって生じさせる。
【0060】
奥行き表示制御部(虚像表示距離制御部を含む)34は、
図3、
図4で示したように、虚像表示距離の直接的制御(3D制御)、及び表示形態の制御(疑似3D制御)の少なくとも一方を実施する。制御態様は、オブジェクトの距離、周囲環境(例えば昼/夜、ヘッドライトのアップ/ダウン、季節、天候、ユーザーである運転者等1の体調等)を考慮して、適応的に変更させることも可能である。これによって、よりユーザー1の視覚に合った、自然な立体視が可能となる。
【0061】
次に、
図6を参照する。
図6(A)は、虚像表示距離が異なる複数の虚像表示面を設定可能な多面HUD装置における虚像表示面の設定例を示す図、
図6(B)は、多面HUD装置の要部の構成例を示す図、
図6(C)は、位置制御信号について説明するための図である。
【0062】
多面(マルチレイヤー)HUD装置は、多面(3以上の面)の虚像表示面を設定可能なHUD装置である。言い換えれば、虚像表示距離は、m通り(mは3以上の自然数)に変更可能である。
図6(A)では、m=45であり、虚像表示距離が異なる虚像表示面PS1~PS45を設定可能である。
【0063】
多面(マルチレイヤー)HUD装置では、虚像を表示可能な虚像表示面が多面化(マルチレイヤー化)されることから、虚像表示距離を、より自在に変更することができ、奥行き感のある立体的な表示が可能となる。また、さらに、表示対象の物体(オブジェクト)のサイズや高さを、適宜、変更して遠近感を持たせたり、サイズを調整したり、物体の表示位置を調整したり、物体に奥行きを持たせて立体化したり、物体に影をつけたり、斜視表現を採用したり、物体の質感を緻密に表現したりする、といった、幾何学的な立体装飾処理(立体装飾と称する場合がある)を施すこと(言い換えれば、疑似3D画像処理を併用すること)で、よりリアルな3D表示が可能となる。
【0064】
図6(B)を参照する。
図6(B)では、光走査型のHUD装置の要部の構成が示されている。図示されるように、位置制御信号生成部91が設けられ、この位置制御信号生成部91は、表示制御部300から与えられる制御信号である走査駆動信号rvsを受けて、位置制御信号VPCを生成、出力する。
【0065】
また、虚像表示距離変更部24は、レンズ駆動部93及びスクリーン駆動部95を含む。また、
図6(B)においては、画像処理部51と、光源部53とが設けられる。
【0066】
画像処理部51は、表示制御部300から与えられる表示画像データcvに基づいて表示画像を生成し、生成した表示画像を光源駆動部55に供給する。
【0067】
また、光源部53は、光源駆動部55及び光源(ここではレーザー光源LD)57を含む。位置制御信号生成部91が生成する位置制御信号VPCは、虚像表示距離変更部24のレンズ駆動部93及びスクリーン駆動部95に供給され、同時に、光源駆動部55にも供給される。
【0068】
虚像表示距離変更部(あるいは虚像表示距離制御部)24は、画像表示部(単に、表示部という場合もある)としてのスクリーン46(及びレンズ44)を、画像表示部としてのスクリーン46の光軸に沿う方向(言い換えれば、光路に沿う方向であり、
図6(B)では、表示光Kが進行する矢印で示される方向)において、所定範囲(ここでは距離範囲LZ)で、振動させることによって、画像表示部としてのスクリーン46(より具体的には、画像Mが表示される表示面47)から、被投影部材3までの光路長を周期的に変更する。また、光源部53の光源駆動部55によって、光源(レーザー光源LD)57からの光の出射タイミングが制御されることによって、画像表示部としてのスクリーン46の表示面47上における画像Mの表示タイミング(表示時刻)が制御(調整)される。
【0069】
ここで、m通りに変更され得る虚像表示距離の各々に対応する虚像表示面を第1~第mの虚像表示面とする場合に、画像表示部としてのスクリーン46(及びレンズ44)を所定範囲(LZ)で、所定周期で振動させる制御、画像表示部としてのスクリーン46の表示面47における画像の表示タイミングの制御、及び、表示タイミングの制御に同期した表示内容の変更制御(の組み合わせ)によって、例えば、第1~第mの虚像表示面の内の少なくとも2面の各々に、例えば異なる非重畳コンテンツ(実景への重畳を前提としないナビゲーション表示等)についての虚像の表示が可能であり、また、時間経過に伴なって虚像が流れるような制御を行うことも可能となる。
【0070】
位置制御信号生成部91が生成する位置制御信号VPCは、例えば、
図6(C)に記載されるような、鋸歯状(のこぎり状)の電圧信号(鋸歯状波の電圧信号)である。なお、
図6(C)では、横軸に時間t、縦軸に電圧vを設定している。
【0071】
位置制御信号VPCの電圧が0の場合は、画像表示部としてのスクリーン46は、第1の位置PT0に位置し、位置制御信号VPCの電圧がピーク値の場合は、画像表示部としてのスクリーン46は、第2の位置PT1に位置する。
【0072】
ここで、例えば、時刻t1~t4の各々において、光源部53から、異なる表示コンテンツ(表示対象)の画像を出力することによって、虚像表示距離が異なる4つの表示対象(虚像)を表示することができる。この構成を用いることで、
図1、
図2で示したような、オブジェクトの表示(表示像による情報提示)を実現することができる。
【0073】
なお、上記の構成は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、表示面を有する表示部を複数、並列に設け、各表示部の位置を、ステップ的に移動させることで、虚像表示距離を多段階に変更可能としてもよい。
【0074】
次に、
図7を参照する。
図7は、虚像表示距離の制御が可能なHUD装置の全体の構成例を示す図である。車両用表示装置は、車両10に搭載され、画像を、車両10に備わる被投影部材としてのウインドシールド6に投影することで、ユーザー(ここでは運転者)1に画像の虚像V(虚像表示面PS上に表示される)を視認させるヘッドアップディスプレイ(HUD)装置100を有する車両用表示装置であり、画像を生成する画像生成部32と、画像(表示画像)Mが形成される表示面47を有し、画像Mの表示光Kを発する表示部(ここではスクリーン46)と、表示光Kを反射して、被投影部材3に投影する光学部材(ここでは凹面鏡49)を含む光学系52と、ユーザー1上又は車両10上に設定される基準点から虚像までの距離である虚像表示距離を変更する虚像表示距離変更部(
図6(B)の符号24、
図7では不図示)と、画像生成部32及び虚像表示距離変更部(
図6(B)の符号24)を制御して、複数の表示対象(例えば
図5のC1~C3)の各々を、異なる虚像表示距離(
図5では表示距離L201、L202、L203)に同時に表示させることが可能な表示制御部300と、を有する。
【0075】
表示制御部300は、画像生成部32と、走査駆動部33と、奥行き表示制御部(虚像表示距離制御部を含む)34と、表示形態制御部(遠近感補正部)900を備える。
【0076】
表示形態制御部(遠近感補正部)900は、表示オブジェクトの形態を変化させる場合等において、必要な形態の表示要素を、例えばレンダリングにより、あるいは、メモリからデータを読み出すことによって生じさせる。
【0077】
奥行き表示制御部(虚像表示距離制御部を含む)34は、
図3、
図4で示したように、虚像表示距離の直接的制御(3D制御)、及び表示形態の制御(疑似3D制御)の少なくとも一方を実施する。制御態様は、オブジェクトの距離、周囲環境(例えば昼/夜、ヘッドライトのアップ/ダウン、季節、天候、ユーザーである運転者等1の体調等)を考慮して、適応的に変更させることも可能である。これによって、よりユーザー1の視覚に合った、自然な立体視が可能となる。
【0078】
なお、HUD装置100は、ダッシュボード4内に配置されている。光学系(投射光学系)52は、画像の表示光Kをウインドシールド6に照射することができる。
【0079】
また、
図7では、環境光(外光)の強度を検出する外光強度センサー16が自車両10に備わっている。検出された外光強度は、昼夜の区別をするため、あるいは、日差しによる照り返しの強弱等といった周囲環境情報の一種であり、種々、役立てることができる。
【0080】
また、
図7では、前方(車両周囲)撮像カメラ17による撮像画像に基づいて画像処理を行う画像処理部21を有する運転シーン判定部19と、仮想標識情報(広義のナビゲーション情報)を出力する表示オブジェクト情報生成部400と、ソナー部10と、測距部13と、が設けられている。ソナー部10は、例えば、前方車両との距離(車間距離)を瞬時に測定するのに役立つ。測距部13は、所定演算により車間距離等を高精度に、かつ正確に求める。
【0081】
表示オブジェクト情報生成部400は、奥行きマッピング部402と、表示オブジェクト(色、立体形状等の情報を含む)生成部404と、運転経路情報取得部406と、自車両位置情報取得部408と、地図情報取得部410と、記憶部(地図、道路案内情報、道路標識等のデータベースとして機能する)412と、を有する。
【0082】
表示オブジェクト情報生成部400には、車載ECU700が収集した車両情報等が、バス(BUS)を介して供給される。
【0083】
また、通信部500が、例えば、車両10の外部に設置されている運転支援システム600との無線通信によって取得した各種の情報を、適宜、ナビゲーション部(ナビゲーションECU)400の自車両位置情報取得部408及び地図情報取得部410に供給するようにしてもよい。
【0084】
また、GPS受信部がGPS衛星から受信した位置情報等を、適宜、表示オブジェクト情報生成部(具体的にはナビゲーション用ECU)400の自車両位置情報取得部408及び地図情報取得部410に供給するようにしてもよい。
【0085】
次に、
図8を参照する。
図8は、本発明の実施形態にかかるHUD装置の主要な動作手順の一例を示すフローチャートである。
【0086】
ステップ1にて情報提示の必要性が判定され、Nのときは現状が維持され、Yのときは、ステップS2に移行する。ステップ2では、HUD装置が提示しようとするオブジェクトの虚像表示距離が、閾値よりも小さいか(閾値以下であるか)を判定する。なお、閾値未満であるかを判定することもできる。
【0087】
Yのときは、ステップ3に移行する。ここでは、表示オブジェクトを生成し、距離制御(必要に応じて表示形態制御の併用も可)を実施する。Nのときは、表示オブジェクトを生成し、表示形態制御を実施する(ステップS4)。
【0088】
ステップS5にて、表示オブジェクトが描画される。これにより、虚像(
図7の符号V)が、虚像表示領域7(
図2参照)内に表示される。
【0089】
次に、
図9を参照する。
図9(A)は、虚像表示面を路面に対して傾けることが可能なHUD装置の要部の構成例を示す図、
図9(B)は、路面に重なるように設けられた虚像表示面上における遠近表示の原理を説明するための図である。
【0090】
図9(A)のHUD装置100は、表示制御部301と、投光部42と、鉛直方向(y軸方向)を基準として所定の角度だけ傾斜したスクリーン46と、ミラー72と、を有する。表示制御部301は、奥行き表示制御部34と、画像生成部32と、投光制御部36と、を有する。なお、符号Pは光軸を示し、Kは表示光を示す。
【0091】
このHUD装置100は、原則として、画像表示部としての傾斜したスクリーン46を移動させる機構は有していない。したがって、虚像表示距離の変更は、スクリーン46の表示面47上で画像Mのy軸成分の方向における位置を変更することによって行うことになる。但し、傾斜したスクリーンを移動させる機構を有する場合は、スクリーン46の移動と、画像Mの表示面47上における位置の変更との併用によっても、虚像表示距離を変更することができる。
【0092】
図9(A)において、傾斜したスクリーン46の表示面47上での画像Mの、上下方向に沿う位置の変更は、破線の双方向の矢印で示されている。この画像Mの位置の変更によって、
図9(b)に示される、路面2に設定される虚像表示面PS10上で、例えば、虚像VBが、虚像VB’の位置まで移動することになり、この場合、虚像表示距離L40が、虚像表示距離L50へと変更されることになる。
【0093】
このように、傾斜した(あるいは、その特殊態様としての、路面に重畳される)虚像表示面を用いて、位置変更によって、虚像表示距離を可変に制御することができる。簡易な方法によって距離制御ができることから、HUD装置100の負担が軽減され、コスト上昇の抑制も容易となる。
【0094】
次に、傾斜した虚像表示面を利用して虚像表示距離を変更可能なHUD装置に、本発明を適用する場合について説明する。
図10を参照する。
図10(A)は、路面に対して傾けられて設けられる虚像表示面を用いて遠近制御を行う場合において、本発明を適用した場合の表示制御例(左折地点が遠くにある場合)を示す図、
図10(B)は、その表示制御例における虚像表示面の位置、及び表示形態制御等について説明するための図、
図10(C)は、虚像表示面上での画像の表示(描画)の一例を示す図である。
【0095】
図10の例では、虚像表示面が、路面に対して垂直に立設されることなく傾斜し、あるいは路面に重なる場合(ここでは、路面に重なる場合を例にとる)において、その傾斜し、あるいは路面に重なる虚像表示面のうちの、閾値が示す距離よりも、ユーザーから見て遠くにある箇所にオブジェクトの虚像を表示するときは、その箇所に対応する虚像部分の全部を、閾値およびその近傍における虚像表示距離にて表示し、かつ、虚像部分に対応する画像に疑似3D表示制御を実施し、これによって、虚像部分が、閾値が示す距離よりもユーザーの近い側にあるオブジェクトの虚像部分に連続的に、かつ遠近感をもって接続されるように表示を制御する。
【0096】
図10(A)において、路面2に重畳されるように、左折位置を示すナビゲーション用の矢印800が表示されている。ここで、
図10(A)に示される下側の領域が、閾値よりも手前側に本来の距離が設定されている虚像が表示される領域であり、これを奥行き表現領域Z1とする。上側の領域が、閾値よりも遠方に本来の距離が設定されている虚像が表示される領域であり、これを奥面表現領域Z2とする。
【0097】
また、奥行き表現領域Z1の表示802には、矢印800の、自車両に近い側の部分と、及び車速表示(「40km/h」という表示)SPと、が含まれる。
【0098】
奥面表現領域Z2の表示には、矢印800の先端を含む部分(自車両から遠い側の部分)804が表示される。
【0099】
図10(B)に示されるように、虚像表示面PS12は、路面2に垂直な方向(ここでは鉛直方向)に対して所定角度、傾斜して設けられる。虚像表示面PS12の左端は、距離L5(例えば10m)であり、右端は距離L6(例えば30m)である。閾値が示す距離はL2(例えば20m)である。
【0100】
言い換えれば、閾値が示す距離が、傾いている虚像表示面PS12での位置変更による距離可変範囲の中にあり、長く延在するナビゲーション用の矢印の虚像800の一部は、その閾値L2よりも遠い位置にあることになる。
【0101】
図10(B)から明らかなように、傾いている虚像表示面PS12の、距離L2(閾値)よりも手前側の領域の表面に重なるようにして表示802が延在している。
【0102】
一方、表示804であるが、これは、距離L2(閾値)の地点で、あたかも路面2に垂直に立設する虚像表示面上に描かれているように見えている。これは、
図9(A)で示したスクリーン(画像表示部)46の表示面47上に画像Mを描画する際の描画方法(タイミングと画像とを工夫すること)と、人の目の錯覚と、によって疑似的に実現されるものである。
【0103】
ここで、
図10(C)を参照する。
図10(C)に示されるように、表示802は、時刻t1~tnの各々に対応して、画像要素(短冊状の画像)M1~M9が時分割で表示(描画)されていく。例えば、最も手前側にある画像要素M1が描かれ、次に、M2が描かれるのであるが、各々の画像要素は、時分割で描かれることから、そして表示位置が異なることから、結像点が異なり、表示位置が、虚像表示面上で連接して描かれるかのように見える。言い換えれば、時刻と共に、画像要素の虚像表示距離が増大していく。
【0104】
これに対して、閾値L2よりも遠方にある虚像(言い換えれば表示804)に対応する画像は、時刻t(n+1)において、一括して(同時に)描画される。そして、その描画の際に、表示形態を変更する(例えば、サイズを縮小したり、外観形状を示す線分の傾きを変更したりする等の遠近手法を駆使する)ことで、それまで描画してきた図形(表示802に対応する画像)に連接(連続)するように、言い換えれば遠近感をもって知覚されるように、疑似3D画像に変換して描画する。
【0105】
ここで、人の目は、目の焦点の距離と虚像表示距離とが離れていた場合であっても、今度は、表示形態の変化(上記のサイズの縮小等)を頼りとして距離(奥行)を把握することから、人の知覚としては、同じ距離において、ややぼやけてはいるが小さく見えている虚像が、直近に描画した画像に対応する虚像に連続しているかのように錯覚する。言い換えれば、ユーザーの注視距離と虚像の表示距離の違いによって2重視が生じるが、遠方側では距離変化に対する2重視の度合いが小さくなる。上記のとおり、人(ユーザー)は、表示形態の変化(上記のサイズの縮小等)を頼りとして距離(奥行)を把握しようとする。そのような知覚作用によって、遠方であるがゆえに2重視の程度が小さいものを、さらに小さくすることができる。このような作用によって、遠近表示が可能である。言い換えれば、好ましい例として、違和感がほとんどないような連続性が保たれた遠近感のある表示が実現される。
【0106】
この方法によれば、閾値(距離L2)よりも遠い箇所の虚像に対応する画像は、一括して、サイズ等を調整して(言い換えれば疑似3D化して)描くだけでよく、何回も時分割で部分画像(部分的な画像要素)を描画する必要がないことから、効率的な画像生成が可能であり、その分、HUD装置の処理負担が軽減される。
【0107】
次に、
図11を参照する。
図11(A)は、路面に対して傾けられて設けられる虚像表示面を用いて遠近制御を行う場合において、本発明を適用した場合の表示制御例(左折地点が近くにある場合)を示す図、
図11(B)は、その表示制御例における虚像表示面の位置、及び表示形態制御等について説明するための図である。
【0108】
図11の運転シーンは、
図10と同じである。但し、
図10に描かれている運転シーンの時点から時間が経過し、左折地点が、ユーザーである運転者1からみて、より近くに見えている。
【0109】
図11において、表示802’、表示804’は各々、
図10の表示802、804に対応する。なお、車速表示SP’は、「30km/h」に変更されている。
【0110】
図11(B)に示すように、虚像表示面PS12’の左端の距離はL7であり、右端の距離はL8である。虚像表示面PS12’の閾値(L2)よりも手前側の領域の表面に重なるようにして表示802’がなされている。また、閾値(L2)の距離(少しずれる場合もあることから、その近傍となる)において、表示804’が一括的に表示される。表示手法については、先に
図10にて説明したのと同じである。
【0111】
以上のように、本発明の実施形態によれば、例えば、HUD装置の負担等を軽減しつつ、HUD装置が意図する虚像表示距離での情報の知覚を実現することができる。
【0112】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、種々、変形、応用が可能である。例えば、本発明において実施される虚像位置の変更制御は、車両の運転のシミュレータ等にも応用することが可能である。
【0113】
なお、「車両」については、例えば、「乗り物」、「移動体」というように広義に解釈することも可能である。HUD装置についても、車載表示装置、乗り物(移動体)用表示装置、というように、広義に解釈することができるものとする。また、HUD装置は、プロジェクターを利用したものの他、ホログラフィーと称されるものであってもよい。
【0114】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【0115】
例えば本発明は、以下のような変形、応用が可能である。
図12を参照する。
図12(A)は、道路脇の標識等による表示において奥行き制御を行う場合の誘目性増大の一例(移動速度低下によって誘目性を増大させる例)を示す図、
図12(B)は、他の例(表示レートの低下によって誘目性を増大させる例)を示す図である。
【0116】
図12(A)、(B)の例では、オブジェクト(表示コンテンツ)が、第2、第1の領域を跨ぐ際に、一旦、ユーザー(運転者)が表示を見に行くようにする(言い換えれば、一時的に視線を向けるように仕向ける)ことで、必要なタイミング(重要なタイミング)で、必要な情報を確実にユーザーに伝達することが可能である。
【0117】
図12(A)において、車両10(
図7参照)は、道路(路面)2を時速80km/hで走行している。なお、現在の制限速度は、時速80km/hとする。領域901は、運転者(ユーザー)の注視領域を示す。虚像表示領域(単に表示領域と称する場合もある)7は、
図10や
図11と同様に、奥行き表現領域Z1と奥面表現領域Z2に区分けされている。
【0118】
制限速度が50km/hに切り替わることを示す制限速度標識のアイコン(表示オブジェクトの虚像)C10が、道路の左脇に表示され、この制限速度標識の虚像は、各領域Z2、Z1を跨ぐようにして、遠方側(奥側)から近方側(手前側)へと移動するように表示される。
【0119】
言い換えれば、その制限速度標識のアイコンの表示に際して、制限速度の切り替わり位置より少し遠くから表示を開始し、このとき、表示形態の変更制御(疑似3D制御)によってサイズを小さくして遠方であることを違和感なく表現しつつ、制限速度の切り替え地点が近づいていることを運転者に示し、切り替え地点である変化点910を通過するタイミング(あるいはその付近のタイミング)で、表示距離制御を含む3D制御に切り替え、車両の接近に応じて、制限速度標識等が車両にダイナミックに近づき、やがて後方に流れるように消える、という臨場感のある制御が実施される。
【0120】
ここで、白抜きの丸に符号C10を付しているが、これが実際のアイコンの位置を示す。表示スペースの関係で、制限速度を示す数字は付していない。その代わりに、そのアイコンの上側において、二重丸の内側に「50」と記載した、実際の視覚に近いアイコンを、理解の容易のために示している。
【0121】
制限速度標識のアイコンの移動を示す軌道(破線の矢印で示される)上に点910が位置する。点910を通り、左右方向に延びて道路(路面2)を横断する破線の線分で示される位置が、制限速度が80km/hから50km/hに切り替わる位置(制限速度の切り替え位置)である。この位置は、HUD装置が提示する情報が変化する位置でもあり、「変化位置」と称する場合があり、同様に、点910を「変化点」と称する場合がある。
【0122】
図12(A)では制限速度を示すアイコンが車両(自車両)の走行に応じて相対的に接近してくるような表現方法でアイコンを表示している。初期の表示位置(符号C10が付された奥側の白抜きの丸で示される位置)は、走行時の注視領域901から外れており、周辺視の範囲にある。
【0123】
本発明者の検討によれば、直視の場合と周辺視の場合とでは、運転者の奥行きの弁別能力が異なり、周辺視では奥行の弁別閾値が大きくなって、より大きな変化でないと運転者は認識することがむずかしい状態となることがわかっている。
【0124】
例えば、周辺視における視認において、上記の臨場感のある表示制御を実施したとしても、運転者は制限速度標識のアイコンをはっきりとは見ず、制限速度の変更を見逃し、いつの間にか表示が後方に流れてしまっている、というような事態が生じる場合もないとは言えない。
【0125】
そこで、表示に意図的に不連続性を導入し(言い換えれば、アイコンの表示に不連続性をもたせて)、アイコンの誘目性を増大させる。具体的には、
図12(A)では、制限速度が切り替わる地点(変化点910)に近づくと、まずは奥面表現領域Z2にて実景に合わせた表示位置制御が実施される。次に、奥行き表現領域Z1に切り替わるタイミング(あるいはその付近のタイミング)で、その表示を一旦、中心視で視認させるために、速度変化点(変化点910)を設ける。
【0126】
図中、アイコンの車両10に対する相対的な移動速度を、p1、p2、p3、p4の各矢印で示している。その長さを比較すると、p1>p2>p3であり、p4は例えばp1と同じとする。つまり、速度変化点910に近づくと移動速度が低下し、それまで背景と一体の相対的な位置関係で動いていたアイコン表示が、速度変化(減速)によって自然な変化から外れる。これによって、アイコンの誘目性が増加(増大)する。言い換えれば、運転者(ユーザー)の目を誘う効果が生じる。
【0127】
ここで、速度変化は、速度の増加、減少のどちらでも誘目効果があるが、情報の読み取りの観点で速度の減少が好ましい。速度を減少させた結果として一旦、アイコンの動きが停止する場合(静止する場合)もあり得る。
【0128】
上述のとおり、奥行知覚は周辺視で鈍感となりがちであるため、一旦誘目させて、目の中心でオブジェクトの表示を捉えさせることとする。言い換えれば、注視による視認によって、オブジェクトの表示を例えば瞬時的に確認させる。これによって、適切なタイミングで、提示情報を、確実に、かつ違和感なく、ユーザー(運転者等)に認識させることが可能である。
【0129】
従って、
図12(A)の例では、制限速度80km/hが50km/hに切り替わるタイミング(または、そのタイミングを含む前後の期間内)で、運転者は、その制限速度の変化を確実に認識して、車速を落とす等の対応をとることができる。
【0130】
ここで、広義には、誘目性の増加は、表示を高輝度とすること、サイズを大とすること、背景とのコントラストを高コントラストとすること、色彩を淡い色から原色に変更すること、点滅無しの状態から点滅状態に移行させること、点滅状態において点滅速度を速くすること、表示オブジェクトの注目度の高い部分を追加的に表示とすること、又はその部分を拡大すること、表示オブジェクトの外観を変化させて目を引くように仕向けること等、の少なくとも1つによって実現され得る。
【0131】
次に、
図12(B)を参照する。
図12(B)の例では、変化点910を通過するタイミング(又は、その前後のタイミング、あるいはその付近のタイミング)にて、表示レート低減領域Z3を設けている。例えば、それ以前は、1/60秒に1回の表示であったものを、例えば、一時的に1/30秒に1回の表示として、表示レートを低下させる。すると、表示が消えている(表示飛びが生じている)時間が長くなり、変化点910を通過するタイミング等において、消えた状態から表示がふいに出現することから、視覚的に運転者の注意をひくことになる。言い換えれば、表示レート(表示飛び)の不連続性によって、誘目性を一時的に増加させるものである。
【0132】
次に、
図13を参照する。
図13は、道路脇の標識等による表示において奥行き制御を行う場合の誘目性増大の他の例(接近による画像拡大率を大きくして表示面積を増やす例)を示す図である。
【0133】
図13でも
図12と同様に、制限速度を示すアイコンが車両(自車両)10の走行に応じて相対的に接近しているような表現をする場合を示している。初期表示位置は、走行時の注視領域901から外れており周辺視範囲にある。よって、
図12の例と同様の事態が発生し得る。そこで、表示の不連続性によって誘目性を増大させる制御を実施する。但し、
図13の例では、ユーザー(運転者)へのアイコンの接近による画像拡大率(接近に伴いアイコンのサイズが比較的に増大していく程度)を異ならせることによって、誘目効果を生じさせる。
【0134】
背景に合わせたアイコン(オブジェクト、あるいは表示コンテンツ)を、通常の手法により拡大させると、ラインαに沿うように外形が拡大する。
【0135】
これに対して、
図13の例では、奥行表現領域Z1に入ったタイミング、あるいは、その付近のタイミングで、画像拡大率を通常よりも大きくし、ラインβ(
図13では太線の破線で示されている)に沿うように変更している。これにより、例えば、自車両の前方を走行する車両(前方走行車両:前走車)が急に制動をかけたときのような誘目効果を与えることが可能である。これにより、制限速度が切り替わるタイミング(または、そのタイミングを含む前後の期間内)で、運転者は、その制限速度の変化を確実に認識して、車速を落とす等の対応をとることができる。
【0136】
図12(A)、(B)の各例、及び
図13の例の表示制御を、組み合わせて実施することもできる。言い換えれば、奥行き表示制御部(
図7の符号34)は、オブジェクト(アイコン等の表示コンテンツ)の誘目性を増大させる際、時間的な表示レートを変更して表示の飛びを発生させること、動的変化における速度を変化させること、ユーザーへのオブジェクトの接近による画像拡大率を異ならせること、の少なくとも1つの制御を実施してもよい。これによって、適切なタイミングで、提示情報を、確実に、かつ違和感なく、ユーザー(運転者等)に認識させることが可能である。
【0137】
次に、
図14を参照する。
図14(A)、(B)は、オブジェクトを動的に移動させ、かつ立設表示から路面重畳表示への切り替えを行う際に、誘目性を増大させる制御を行う場合の一例を示す図である。
【0138】
図14の例では、
図12や
図13と同様にオブジェクトを動的に移動させ、それに加えて、立設表示から路面重畳表示への切り替えを行う。その立設表示から路面重畳表示への切り替えの際に、誘目性を増大させる(言い換えれば、誘目性を向上させる)制御を実施し、ユーザー(運転者等)が、周辺視野にある立設表示を見逃がし、路面重畳表示が唐突に出現する、といった事態が生じないようにする。なお、
図14では、出口を示す標識のアイコンC20と、案内標識のアイコンC30とが表示されている。
【0139】
図14の例では、車両10は高速道路を走行している。
図14(A)の運転シーンでは、降りる出口904が、注視領域901から外れて、奥の左側に小さく見えている。HUD装置100は、出口904の存在を、道路(路面)2に対して立設する標識のアイコンC20にて示す。続いて、車両10がその出口904に近づいた適切なタイミングで、出口904へと誘導する路面重畳表示(
図14(B)における符号C20-1、C20-2が付されて示される誘導表示)に切り替える。C20-1は路面重畳表示としての出口標識であり、C20-2は路面重畳表示としての誘導案内である。
【0140】
このとき、誘目性を増大させてユーザー(運転者等)の視線を立設標識のアイコンC20に向かわせ(誘目させ)、これによって、出口904への接近を確実にユーザーに伝達する。その後、路面重畳表示による車両の誘導表示に切り替えることで、確実に、かつ違和感を生じさせることなく、出口904の接近をユーザーに伝達することができる。これにより、運転者が、周辺視野にある出口904を示す標識を見落としてしまい、出口904に近づいたときに車両の誘導表示が唐突に出現する、といった事態が確実に防止される。また、出口904をうっかり通過してしまうことが防止される。
【0141】
上述のとおり、人の奥行知覚は周辺視で鈍感となりがちである。そこで、周辺視野にあるオブジェクトの誘目性を増大させて、一旦誘目させて、目の中心でオブジェクトの表示を捉えさせることで、ユーザー(運転者等)への確実な情報伝達を実現することができる。また、夜間や雨天時等の運転においても、例えば誘目性の増大の程度を、通常時(昼間や晴天時)よりも増大させることで、情報の見逃しを抑制するという効果を得ることができる。
【0142】
次に、
図15を参照する。
図15は、誘目性を増大させる処理の手順例を示すフローチャートである。ステップS10にて、移動を伴う表示(動的表示)を開始する。ステップS11にて、表示が変化点(又はその付近)に到達したか否かを判定する。Nのときは、変化点への到達の判定動作を継続し、Yのときは、ステップS12に移行する。
【0143】
ステップS12では、表示オブジェクトの誘目性を向上させる処理(制御)を実施する。ステップS12では、表示オブジェクトの誘目性が一時的に増大する。
【0144】
ステップS13では、ステップS12にて一時的に増大した表示オブジェクトの誘目性が、その後も維持されて表示処理が続いていくのか、あるいは、一時的に増大した誘目性を元のレベルに戻すかの判定がなされる。維持の場合は、ステップS14に移行し、誘目性を維持して表示を継続する。戻す(増大した誘目性を低下させて元に戻す)場合は、ステップS15に移行し、誘目性を戻し(低下し)て表示を継続する。ステップS16にて、表示の終了が判定され、Nの場合はその判定が継続(言い換えれば、その表示が継続)され、Yの場合は表示が終了する。
【0145】
以上説明したように、あるコンテンツが絵画的な情報で距離を表現していた領域から距離制御と絵画表現の双方が実施可能な領域に移行する際に、表現に不連続性(表示の飛びを生じさせる、動的表示の速度を変化させる、接近による拡大率を異ならせる等)を発生させる。人の奥行知覚は周辺視で鈍感であるが、一旦、誘目させて、目の中心で(直接の視認で)表示を捉えさせることで、ユーザー(運転者等)は、HUD装置による表示を確実に視認でき、提示された情報を認識することができる。言い換えれば、運転状況の変化等(出口の接近や、所定の動作を行うタイミングの接近等)を、HUD装置がユーザーに確実に伝達可能となる。
【符号の説明】
【0146】
1・・・ユーザー(運転者等)、2・・・路面(道路)、3・・・ステアリングホイール(ハンドル)、5・・・フロントパネル、6・・・被投影部材(ウインドシールド等)、7・・・虚像表示領域、10・・・車両(自車両)、11・・・ソナー部、13・・・測距部、19・・・運転シーン判定部、21・・・画像処理部、32・・・画像生成部、33・・・走査駆動部、34・・・奥行き表示制御部(虚像表示距離制御部を含めることが可能)、44・・・レンズ(光学系)、46・・・スクリーン(画像表示部、表示部)、47・・・画像表示面(表示面)、49・・・凹面鏡(ミラー)、52・・・投射光学系(光学系)、100・・・HUD装置、300・・・表示制御部、802、802’・・・閾値よりも手前側の表示、
804,804’・・・閾値より遠方の表示、900・・・表示形態制御部(遠近感補正部)、
901・・・注視領域、904・・・出口、910・・・変化点、PS・・・虚像表示面、K・・・表示光、M・・・画像、V・・・虚像、Z1・・・奥行き表現領域(第1の領域)、Z2・・・奥面表現領域(第2の領域)、C10・・・制限速度標識のアイコン、C20・・・出口標識のアイコン、C20-1・・・路面重畳表示としての出口標識、C20-2・・・路面重畳表示としての誘導案内。