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特許7517004運転支援装置、運転支援方法及び運転支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】運転支援装置、運転支援方法及び運転支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20240709BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20240709BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/32
H02J3/38 110
H02J3/38 120
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020152788
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047075
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】小熊 祐司
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼口 謙一
(72)【発明者】
【氏名】稲村 彰信
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-097267(JP,A)
【文献】特開2017-211763(JP,A)
【文献】特開2007-129873(JP,A)
【文献】特開2020-031481(JP,A)
【文献】特開2016-103974(JP,A)
【文献】特開2016-032336(JP,A)
【文献】特開2015-018374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/32
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からの前記エネルギーの授受も可能であるマイクログリッドのエネルギー需給計画の決定を支援する運転支援装置であって、
前記エネルギー需給計画を算出する最適化計算部と、
前記エネルギー需給計画を出力する最適化結果出力部と、を備え、
前記最適化計算部は、
時間帯に関連付けられた前記エネルギーの需要によって示される目標需給計画を設定し、
前記目標需給計画に対して予想される前記エネルギーの需要の予実差を設定すると共に、前記予実差が実際に発生したときに前記エネルギーの需要を前記目標需給計画に近づけるように前記エネルギー授受装置を制御するための補償計画を算出し、
前記最適化結果出力部は、前記目標需給計画及び前記補償計画を前記エネルギー需給計画として出力し、
前記最適化計算部は、前記補償計画の設定において、前記マイクログリッドの外部からの前記エネルギーの入力及び外部への前記エネルギーの出力に関する予実差を制約条件として採用する、又は、外部からの前記エネルギーの授受における予実差に係る項を含む目的関数を導入する、運転支援装置。
【請求項2】
前記最適化計算部は、前記エネルギー授受装置を制御するための最適化された前記補償計画を得る最適化問題を、混合整数計画問題として定式化する、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記最適化計算部は、前記予実差が含む予測の不確実性の指標として、時間帯間の予測誤差共分散を採用する、請求項1又は2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記最適化計算部は、前記エネルギーを電力として扱う、請求項1~の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記最適化計算部は、前記補償計画として、前記エネルギー授受装置である蓄電池の充電及び放電の制御計画を算出する、請求項1~の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項6】
前記最適化計算部は、前記補償計画として、前記エネルギー授受装置である発電装置の起動、停止及び発電電力量の制御計画を算出する、請求項1~の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項7】
前記最適化計算部は、前記補償計画として、前記エネルギー授受装置であるごみ発電装置の起動、停止及び発電電力量の制御計画を算出する、請求項1~の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項8】
前記最適化計算部は、前記補償計画として、前記エネルギー授受装置であるバイオマス発電装置の起動、停止及び発電電力量の制御計画を算出する、請求項1~の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項9】
前記最適化計算部は、前記補償計画として、前記エネルギー授受装置である水電解装置の起動、停止及び負荷の制御計画を算出する、請求項1~の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項10】
前記最適化計算部は、前記補償計画として、前記エネルギー授受装置である再生可能エネルギー発電システムの制御計画を算出する、請求項1~の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項11】
エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からの前記エネルギーの授受も可能であるマイクログリッドのエネルギー需給計画の決定を支援する運転支援方法であって、
前記エネルギー需給計画を算出するステップと、
前記エネルギー需給計画を出力するステップと、を有し、
前記エネルギー需給計画を算出するステップは、
時間帯に関連付けられた前記エネルギーの需要によって示される目標需給計画を設定するステップと、
前記目標需給計画に対して予想される前記エネルギーの需要の予実差を設定すると共に、前記予実差が実際に発生したときに前記エネルギーの需要を前記目標需給計画に近づけるように前記エネルギー授受装置を制御するための補償計画を算出するステップと、
前記目標需給計画及び前記補償計画を前記エネルギー需給計画として出力するステップと、を含み、
前記補償計画を算出するステップでは、前記補償計画の設定において、前記マイクログリッドの外部からの前記エネルギーの入力及び外部への前記エネルギーの出力に関する予実差を制約条件として採用する、又は、外部からの前記エネルギーの授受における予実差に係る項を含む目的関数を導入する、運転支援方法。
【請求項12】
エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からの前記エネルギーの授受も可能であるマイクログリッドのエネルギー需給計画の決定の支援をコンピュータに実行させる運転支援プログラムであって、
前記エネルギー需給計画を算出するステップと、
前記エネルギー需給計画を出力するステップと、を行うように前記コンピュータを動作させ、
前記エネルギー需給計画を算出するステップでは、前記コンピュータに、
時間帯に関連付けられた前記エネルギーの需要によって示される目標需給計画を設定するステップと、
前記目標需給計画に対して予想される前記エネルギーの需要の予実差を設定すると共に、前記予実差が実際に発生したときに前記エネルギーの需要を前記目標需給計画に近づけるように前記エネルギー授受装置を制御するための補償計画を算出するステップと、
前記目標需給計画及び前記補償計画を前記エネルギー需給計画として出力するステップと、を行わせ、
前記補償計画を算出するステップでは、前記補償計画の設定において、前記マイクログリッドの外部からの前記エネルギーの入力及び外部への前記エネルギーの出力に関する予実差を制約条件として採用させ、又は、外部からの前記エネルギーの授受における予実差に係る項を含む目的関数を導入させる、運転支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援装置、運転支援方法及び運転支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるマイクログリッドに関する技術が検討されている。マイクログリッドでは、所定の地域内に複数のエネルギー機器が配置され、当該地域内のエネルギー需要が各エネルギー機器によって賄われる。特許文献1、2及び非特許文献1、2は、マイクログリッドといったエネルギーシステムの運用に関する技術を開示する。
【0003】
卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッドでは、事前に策定した電力需給計画に基づき、将来各時間帯における送電量および受電量を市場にて売買する。各時間帯において、計画送受電量と実績送受電量とが一致しない場合がある。計画送受電量と実績送受電量との差は、インバランスと称される。計画送受電量と実績送受電量とが一致しない場合には、最終的な電力供給の責任を負う一般送配電事業者側が調整力電源を用いてインバランスを解消する。インバランスの解消が実行された場合には、インバランスの解消に要した費用の一部をインバランスの量に応じて負担する必要がある。
【0004】
卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッドにおいて、経済的な電力需給を実現するためには、インバランスの発生リスクを考慮した電力需給計画の最適化及び最適化された電力需給計画に基づく売買注文(問題点(1))と、マイクログリッドの需給再計画や制御に基づく需要インバランスの回避・抑制(問題点(2))と、が問題となる。
【0005】
例えば、特許文献1は、上記問題(1)、(2)を解決しようとする技術を開示する。問題点(1)に対して、過去の受電計画と実績差との統計処理に基づきペナルティコストを予測する。そして、予測された情報を用いて需給計画を最適化する。また、特許文献1は、問題点(2)に対して、決定済みの受電計画と実績との差に応じたペナルティコストを目的関数として含む最適化問題を解き、需給計画の再最適化及び再最適化に基づく制御を行うことでインバランス調整に係る負担額も含めた電力調達コストを抑制する制御手法も提案する。
【0006】
インバランスやそれにともなうペナルティコストのほかにも、将来の不確実性について配慮が求められる状況は多い。例えば、精度の低い予測に基づいて需給計画を策定した場合、予実差の大きさによってコストが増加する。あるいは計画が破綻し需給が成立しなくなるリスクもある。特許文献2は、広く、将来の不確実性を考慮した技術を開示する。特許文献2の技術では、蓄電池を有するマイクログリッドにおいて、将来予測を確率分布として考慮したうえで、さらに定期的な計画補正を取り込んだ最適化問題を解く方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6059328号
【文献】特開2019-97267号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】小熊祐司、稲村彰信、「エネルギーシステム構成・運用最適化のための数理モデルとアルゴリズム」、IHI技報、Vol.59、No.4、pp.24-35(2019)。
【文献】横山良平、長谷川泰士、伊東弘一、「混合整数線形計画法の一分解法によるエネルギー供給システムの機器構成最適化」、日本機械学会論文集C編、Vol.66、No.652、pp.4016-4023(2000)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当該技術分野にあって、インバランスを考慮した予測では、予測が困難である様々な要素が影響を及ぼす。エネルギーシステムの運用にあっては、これらの予測が困難であるような予測不確実性を許容しながら、頑健性を考慮したエネルギー需給計画を策定できる技術が望まれている。
【0010】
そこで、本発明は、予測不確実性に対して頑健性を考慮したエネルギー需給計画を策定できる運転支援装置、運転支援方法及び運転支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一形態は、エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からのエネルギーの授受も可能であるマイクログリッドのエネルギー需給計画の決定を支援する運転支援装置であって、エネルギー需給計画を算出する最適化計算部と、エネルギー需給計画を出力する最適化結果出力部と、を備え、最適化計算部は、時間帯に関連付けられたエネルギーの需要によって示される目標需給計画を設定し、目標需給計画に対して予想されるエネルギーの需要の予実差を設定すると共に、予実差が実際に発生したときにエネルギーの需要を目標需給計画に近づけるようにエネルギー授受装置を制御するための補償計画を算出し、最適化結果出力部は、目標需給計画及び補償計画をエネルギー需給計画として出力する。
【0012】
本発明の別の形態は、エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からのエネルギーの授受も可能であるマイクログリッドのエネルギー需給計画の決定を支援する運転支援方法であって、エネルギー需給計画を算出するステップと、エネルギー需給計画を出力するステップと、を有し、エネルギー需給計画を算出するステップは、時間帯に関連付けられたエネルギーの需要によって示される目標需給計画を設定するステップと、目標需給計画に対して予想されるエネルギーの需要の予実差を設定すると共に、予実差が実際に発生したときにエネルギーの需要を目標需給計画に近づけるようにエネルギー授受装置を制御するための補償計画を算出するステップと、目標需給計画及び補償計画をエネルギー需給計画として出力するステップと、を含む。
【0013】
本発明のさらに別の形態は、エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からのエネルギーの授受も可能であるマイクログリッドのエネルギー需給計画の決定の支援をコンピュータに実行させる運転支援プログラムであって、エネルギー需給計画を算出するステップと、エネルギー需給計画を出力するステップと、を行うようにコンピュータを動作させ、エネルギー需給計画を算出するステップでは、コンピュータに、時間帯に関連付けられたエネルギーの需要によって示される目標需給計画を設定するステップと、目標需給計画に対して予想されるエネルギーの需要の予実差を設定すると共に、予実差が実際に発生したときにエネルギーの需要を目標需給計画に近づけるようにエネルギー授受装置を制御するための補償計画を算出するステップと、目標需給計画及び補償計画をエネルギー需給計画として出力するステップと、を行わせる。
【0014】
上記の運転支援装置、運転支援方法及び運転支援プログラムは、予測不確実性に対して頑健性を考慮した需給計画を策定できる。
【0015】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、補償計画の設定において、マイクログリッドの外部からのエネルギーの入力及び外部へのエネルギーの出力に関する予実差を制約条件として採用してもよい。
【0016】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、補償計画の設定において、外部からのエネルギーの授受における予実差に係る項を含む目的関数を導入してもよい。
【0017】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、エネルギー授受装置を制御するための最適化された補償計画を得る最適化問題を、混合整数計画問題として定式化してもよい。
【0018】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、予実差が含む予測の不確実性の指標として、時間帯間の予測誤差共分散を採用してもよい。
【0019】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、エネルギーを電力として扱ってもよい。
【0020】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、補償計画として、エネルギー授受装置である蓄電池の充電及び放電の制御計画を算出してもよい。
【0021】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、補償計画として、エネルギー授受装置である発電装置の起動、停止及び発電電力量の制御計画を算出してもよい。
【0022】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、補償計画として、エネルギー授受装置であるごみ発電装置の起動、停止及び発電電力量の制御計画を算出してもよい。
【0023】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、補償計画として、エネルギー授受装置であるバイオマス発電装置の起動、停止及び発電電力量の制御計画を算出してもよい。
【0024】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、補償計画として、エネルギー授受装置である水電解装置の起動、停止及び負荷の制御計画を算出してもよい。
【0025】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、補償計画として、エネルギー授受装置である再生可能エネルギー発電システムの制御計画を算出してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、予測不確実性に対して頑健性を考慮した需給計画を策定な運転支援装置、運転支援方法及び運転支援プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1(a)は、翌日需給計画を説明する図である。図1(b)は、オンライン需給計画を説明する図である。
図2図2は、運転支援装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3図3は、マイクログリッドの全体構成の例示である。
図4図4は、運転支援装置の内部構成の例示である。
図5図5(a)は、運転支援装置の手動実行をする場合の動作手順である。図5(b)は、運転支援装置の自動定期実行をする場合の動作手順である。
図6図6は、実施形態に示す数式の記号の定義をまとめた表である。
図7図7は、実施形態に示す数式の記号の定義をまとめた表である。
図8図8は、実施形態の運転支援装置を適用するマイクログリッドの例示である。
図9図9は、電力需要予測を説明する図である。
図10図10は、エネルギー需給計画を最適化した結果であり受電電力の推移を説明する図である。
図11図11は、エネルギー需給計画を最適化した結果であり蓄電池充放電電力の推移を説明する図である。
図12図12は、エネルギー需給計画を最適化した結果であり蓄電池充電残量の推移を説明する図である。
図13図13は、エネルギー需給計画を最適化した結果であり発電機発電電力の推移を説明する図である。
図14図14は、太陽光発電事業者を想定したマイクログリッドの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0029】
また、以下の説明において、以下の文献を適宜引用する。
参考文献1:特許第6059328号、「需給制御装置、蓄電装置、充放電制御装置、需給制御システム及び需給制御方法」。
参考文献2:特開2019-97267号公報、「エネルギーマネジメントシステム、電力需給計画最適化方法、及び電力需給計画最適化プログラム」。
参考文献3:小熊祐司、稲村彰信、「エネルギーシステム構成・運用最適化のための数理モデルとアルゴリズム」、IHI技報、Vol.59、No.4、pp.24-35(2019)。
参考文献4:横山良平、長谷川泰士、伊東弘一、「混合整数線形計画法の一分解法によるエネルギー供給システムの機器構成最適化」、日本機械学会論文集C編、Vol.66、No.652、pp.4016-4023(2000)。
【0030】
まず、本実施形態の運転支援装置の適用先について例示する。ここでは、電力を購入する需要家の立場を例にした態様を述べる。なお、発電機等を有し、電力を販売する発電事業者としても同じような適用を考えることは容易である。本実施形態の運転支援装置のユースケースとしては、図1(a)に示す翌日需給計画(適用例(a)と称する)、図1(b)に示すオンライン需給計画(適用例(b)と称する)がある。適用例(a)は決められた買い注文・約定のタイミングの前までに翌日需給計画を策定するものである。適用例(b)は常に最新の予測情報に基づきインバランスの発生を極力抑えた需給計画の最適化を更新するものである。
【0031】
JEPXなどといった既存の市場の仕組みとしては、スポット市場と時間前市場とがある。スポット市場は、電力の受渡当日における各時間帯の電力を前日に売買する。時間前市場は、電力の受渡当日における1時間前まで売買可能である。スポット市場を考える場合は適用例(a)が適している。一方、時間前市場を考える場合は適用例(b)が適している。以下では特に両者を区別せず、「最新の予測情報に基づきインバランス発生を極力抑えた需給計画の最適化を更新する」ところに焦点をあてた説明を行い、適用例(a)、(b)で差の生じる部分については適宜補足する。
【0032】
図2に、本実施形態の運転支援装置1のハードウェア構成を示す。図3に、本実施形態の運転支援装置1を適用しうるマイクログリッド20の全体構成を示す。また、図4に、運転支援装置1の内部構成を例示する。図3に示すマイクログリッド20におけるエネルギーの形態として、本実施形態ではおもに電力を想定する。以下の説明において、電力を例として説明するが、本実施形態の運転支援装置1は、例えばエネルギーがガスや蒸気などであっても、電力であるときに奏される効果と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態の運転支援装置1が適用される場合において、エネルギーの形態、エネルギー機器の種類、エネルギー機器の台数に関する制限はない。運転支援装置1は、電力に加えて、さらにガスや蒸気などを同時に考慮するマイクログリッドに適用されてもよい。
【0033】
図3に示されるエネルギー機器21、22、23としては、以下に例示するエネルギー機器(a)~(d)がある。
エネルギー機器(a):蓄電池など、電力の貯蔵及び放出が可能な設備。
エネルギー機器(b):ガスタービン、ガスエンジン、ごみ発電装置及びバイオマス発電装置など、燃料から電力を生成可能な発電装置。
エネルギー機器(c):水電解装置及び電気ボイラなど、電力を他の資源やエネルギー形態に変換する設備。
エネルギー機器(d):太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電設備。
【0034】
インバランスの抑制及び回避という観点からは、エネルギー機器(a)はある時間で余剰した電力を別の時間の不足分に充当する使い方が可能である。エネルギー機器(b)及びエネルギー機器(c)は、それぞれ、電力が不足又は余剰している場合の補償手段として活用できる。エネルギー機器(d)は、天候に依存して発電電力が定まる。従って、エネルギー機器(d)の発電電力の制御は、エネルギー機器(a)~エネルギー機器(c)と比較して難しい。しかし、エネルギー機器(d)は、例えば電力余剰時にこれらの機器に接続されたパワーコンディショナを操作して、電力供給を遮断及び抑制することでインバランスを抑制する手段になりうる。
【0035】
エネルギー外部供給源25とは、具体的には系統連携点(受電点)を指す。インバランスとは、系統連携点における受電量の計画と実績との差である。マイクログリッド20において、各時間断面における電力の需要と電力の負荷配分とはなんらかの方法で計測あるいは計算可能である。図3では、単純にエネルギー機器21~23の出力やエネルギー需要24に対して計測器B~Eが設けられている。しかし、図3に示す形態において、例えばエネルギー需要24を、エネルギー外部供給量と各エネルギー機器の出力の和から計算するといった別の方法を採用してもよい。
【0036】
<運転支援装置>
運転支援装置1は、マイクログリッド20のエネルギー機器(群)の最適な運転状態を求める。運転支援装置1は、エネルギー機器21、22、23の運転を支援するために用いられる。図2は、運転支援装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。図2に示すように、運転支援装置1は、物理的には、1又は複数のプロセッサ101と、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の記憶装置102と、キーボード等の入力装置103と、ディスプレイ等の表示装置104と、データを送受信するための通信インターフェースである通信装置105と、を備えるコンピュータとして構成される。運転支援装置1は、プロセッサ101等のハードウェアに所定のコンピュータプログラムを読み込ませることにより、プロセッサ101の制御の下で各ハードウェアを動作させると共に、記憶装置102におけるデータの読み出し及び書き込みを行う。これにより、次の図4に示す運転支援装置1の各機能が実現される。
【0037】
図4に記載されているとおり、運転支援装置1は、その構成要素として予測値指定部11、制約条件指定部12、目的関数指定部13、機器特性データベース14、最適化計算部15、受電計画記憶部16、最適化結果出力部17、及び上述の各項目の計測値(あるいは計算値)の入力端を備える。
【0038】
予測値指定部11は、需給計画を考える期間の各時間帯(30分刻みなど)に対応する電力需要の予測値を指定する。需給計画を考える期間とは、典型的には直近1日である。マイクログリッド20が再生可能エネルギー発電設備を含む場合には、同じ期間の発電電力予測値も指定できる。予測値の不確実性などもここで指定してよい。予測値の不確実性は、例えば時間帯間の予測誤差共分散行列などの形態で与えてよい。
【0039】
制約条件指定部12及び目的関数指定部13は、ファイルの読み込みや画面上からの入力といった形態で提供される。制約条件指定部12では、例えば各エネルギー機器21~23の発電電力の上下限値や、蓄電池の充電残量の上下限値などのほか、インバランスに関する制約を指定できる。
【0040】
目的関数指定部13では、電力料金単価、燃料単価及びインバランスに関するパラメータを指定することで最適化における目的関数を間接的に指定できる。
【0041】
機器特性データベース14は、最適化対象とするエネルギー機器21~23のモデルやそのパラメータを格納する。例えば効率に関する数式やそのパラメータがこれに含まれる。
【0042】
最適化計算部15は、各種制約条件を満足したなかで、所定の目的関数を最大化あるいは最小化するエネルギー需給計画を求める。エネルギー需給計画(補償計画)とは、各時刻におけるエネルギー需要に対する各エネルギー機器21~23の負荷配分である。最適化計算部15は、エネルギー需給計画を得る動作において、以下に例示するデータ(a)~(e)を用いる。なお、最適化計算の詳細については、後述する。
データ(a):予測値指定部11で指定された予測値。
データ(b):制約条件指定部12で指定された制約条件。
データ(c):目的関数指定部13で指定された目的関数。
データ(d):機器特性データベース14に格納されたエネルギー機器モデルとそのパラメータ。
データ(e):計測器A~Eで計測された現況値φ。もしくは、一定期間の現況値の時間平均値など、計測器A~Eで計測した値を適当に処理した値であってもよい。
【0043】
受電計画記憶部16は、決定済みの受電計画を記憶する。受電計画記憶部16に記憶する決定済み受電計画の作成方法は任意である。たとえば人手で作成してもよいし、コスト最小化を目的とした最適化計算によって求めてもよい。
【0044】
最適化結果出力部17は、最適化計算部15で求めたエネルギー需給計画を画面やファイルなど、適当な方法で出力する。
【0045】
なお、上述の実施形態では、現況値の情報をエネルギー需給計画に用いることも想定している。これはオンライン需給計画を想定したものである。例えば、翌日需給計画に使用する場合は、かならずしも現況値を用いなくてもよい。また、運転支援装置1は、典型的には単一の計算機において実現される。しかし、例えば各構成要素を別の計算機上に配置するなど、その形態については自由度がある。運転支援装置1を実現する物理的な構成の相違によって、運転支援装置1の奏する効果は変わらない。
【0046】
<運転支援方法及び運転支援プログラム>
続いて、運転支援装置1の最適化部51において実行される最適化処理、すなわち本実施形態に係る運転支援方法の一例について説明する。
【0047】
図5(a)及び図5(b)のそれぞれに、実施形態に係る運転支援装置1の動作手順として、手動実行(以下、手順(a)とも称する)、自動定期実行(以下、手順(b)とも称する)の2つを示す。手動実行は、オペレータの任意のタイミングで最適化計算を実行する。自動定期実行は、オペレータの指示によらず定期的(たとえば1時間ごとに)自動で最適化計算を実行する。オンライン需給計画の場合は、例えばこの計算結果を利用してエネルギー機器21~23の自動的な制御を行ってもよい。
【0048】
手動実行及び自動定期実行は例えば同一の運転支援装置1において、互いに切り替えて使用できる動作モードとして提供されていてもよい。その場合、切り替えは例えばオペレータの操作によって実施される。なお、図5(a)及び図5(b)のステップ1(S11)~ステップ5(S15)における処理は互いに独立している。これらのステップ1(S11)~ステップ5(S15)は、かならずしも図のとおりでなくてもよい。例えばステップ1(S11)~ステップ5(S15)の処理を逆順としてもよい。また、処理を並列に実施してもよい。
【0049】
なお、運転支援装置1は、「ステップ6(S16):最適化計算実行」における最適化問題の定式化を工夫することにより、上述した問題点を解決している。
【0050】
図5(a)に示す手動動作に基づく運転支援方法は、主要なステップとして、予測値を指定するステップS11と、制約条件を指定するステップS12と、目的関数を指定するステップS13と、機器特性を読み込むステップS14と、現況値を入力するステップS15と、最適化計算を実行するステップS16と、最適化計算の結果を出力するステップS17と、を有する。
【0051】
図5(b)に示す自動動作に基づく運転支援方法は、主要なステップとして、予測値を指定するステップS11と、制約条件を指定するステップS12と、目的関数を指定するステップS13と、機器特性を読み込むステップS14と、現況値を入力するステップS15と、最適化計算を実行するステップS16と、最適化計算の結果を出力するステップS17と、を有する。さらに、図5(b)に示す自動動作に基づく運転支援方法は、上記のステップS11~S17に加えて、動作の終了をするか否かを安定するステップS9と、計算を実施するタイミングを判定するステップS10と、を有する。
【0052】
最適化部51における最適化処理は、記憶装置102に記憶されたプログラムをプロセッサ101が読み出し実行することによって実行される。例えば、図5(a)に示すフローチャートは、オペレータによる手動操作を受けて各ステップS11~S17が開始される場合を例示する。
【0053】
図5(a)に示す例では、まず、予測値指定部11が、電力需要の予測値を指定する(S11)。
【0054】
次に、制約条件指定部12は、制約条件を設定する(ステップS12)。ステップS12において制約条件は、後述する式(2)~式(24)で表される。制約条件指定部12は、式(2)~式(24)で表される制約条件を示す制約条件データを、最適化計算部15に送信する。
【0055】
次に、目的関数指定部13は、目的関数を設定する(ステップS13)。ステップS13において目的関数は、後述する式(1)で表される。目的関数指定部13は、式(1)で表される目的関数を最適化計算部15に送信する。
【0056】
次に、最適化計算部15は、最適化計算を実行するために、機器特性データベース14から機器特性データを読み込む(ステップS14)。
【0057】
次に、最適化計算部15は、最適化計算を実行するために、計測器A~Eから提供される現況値φを入力する(ステップS15)。現況値φは、計測器A~Eからの計測データに含まれる。現況値φは、電力供給(又は電力需要)を意味する。
【0058】
次に、最適化計算部15は、最適化計算を実行する(ステップS16)。すなわち、最適化計算部15は、ステップS12において設定された制約条件の下で、ステップS13において設定された目的関数の最適化問題の解を算出する。機器特性データ及び計測データは、最適化問題におけるパラメータとして用いられる。
【0059】
次に、最適化結果出力部17は、ステップS16において計算された最適化計算結果(すなわち、制御計画、補償計画)を出力する(ステップS17)。ステップS17では、最適化結果出力部17は、最適化計算部15からの計算結果データをオペレータに提示してもよい。また、各エネルギー機器21~23に直接に入力可能な電子データとして出力されてもよい。これにより、全てのエネルギー機器21、22、23の出力値が最適化された状態となる。
【0060】
ところで、参考文献1は、最適化問題においてインバランスペナルティを、参考文献1の段落[0031]及び[0058]に示すとおり目的関数として考慮する技術を開示する。実際の多くの場合では、このペナルティコスト単価UPR、UPSは電力市場を通じて事後に定まる。ペナルティコスト単価UPR、UPSを精度よく予測することは、ペナルティコスト単価が変動的であるために難しい。予測が不確実な条件下でインバランスコストを最小化しようとすると、予測インバランスコスト単価が最安となる時間帯にインバランスを集中させる結果が得られる。仮に、当該時間の実績のインバランスコスト単価が予測に反して高かった場合、多大なインバランスペナルティを支払うこととなりリスクが大きい。
【0061】
また、参考文献2の段落[0063]及び下記式に示されるように、最適化によって定める決定変数を含むと共に、右辺には非線形項を含む。
【数1】
【0062】
参考文献2では、連続量である蓄電池の充放電電力のみを最適化の対象とする。従って、非線形項が存在しても最適化計算が可能である。しかし、例えば機器の起動停止(通常、起動・停止をそれぞれ1、0に対応させる)などの離散変数が入る場合、解くことが難しい。ガスタービン発電機、ガスエンジン発電機、バイオマス発電、ごみ発電などの電力不足時のインバランスを補償しうる設備や、水電解装置などの電力余剰時のインバランスを補償しうる設備はいずれも起動・停止を考慮する必要がある。従って、離散変数を用いた定式化を避けることができない。一方、離散変数と連続変数との両方を含む最適化問題であっても、全ての目的関数と制約条件が線形式で記述できれば、分枝限定法・分枝切除法などの効率的なアルゴリズムにより、現実的な時間で解くことが可能となる。
【0063】
これらを踏まえ、本実施形態の運転支援装置1の最適化計算部15が行う演算では、以下のアイデア(a)、(b)を導入することによって最適化問題を、混合整数計画問題として定式化する。
アイデア(a):需要の予測不確実性を考慮し、予測が外れたとき(=インバランスが生じたとき)、それをどのような運転でそれを補償するかもあわせて最適化する。この工夫により、電力需要・再エネ発電の予測において不確実性がある場合、当該時間帯のインバランス回避のため調整力をなるべく残した需給計画を得ることができる。つまり、このアイデア(a)は、参考文献2に示された最適化問題をさらに発展させ、混合整数計画問題として定式化することで、蓄電池のみならず多様なエネルギー機器を最適化対象とできるようにしたものである。
アイデア(b):アイデア(a)の工夫のもとで、予測の不確実性を考慮したうえで将来各時刻におけるインバランスを抑える制約を付す、あるいはインバランスに関する項を目的関数に含める。
【0064】
以降の説明で使用する記号を、図6及び図7に示す表のとおり定義する。図6及び図7に示す表の記号の定義のもとで、本実施形態の運転支援装置1の最適化計算部15は以下の最適化問題(P)を解く。以下、最適化問題(P)の解法の一例について説明する。
【0065】
【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

【数11】

【数12】

【数13】

【数14】

【数15】

【数16】

【数17】

【数18】

【数19】

【数20】

【数21】

【数22】

【数23】

【数24】

【数25】
【0066】
なお、式(13)~式(17)において、確率変数は、下記式(25)~(29)を満たすものとする。
【数26】

【数27】

【数28】

【数29】

【数30】
【0067】
最適化問題(P)の目的関数及び各制約条件の意味は以下のとおりである。
式(1):計画期間の需給計画に依存して定まる適当な指標を最小化する。
式(2):充電電力(AC)は所定の上限値以下の値をとる。また式(3)とあわせて、充電と放電を同時に行うことはできない。
式(3):放電電力(AC)は所定の上限値以下の値をとる。
式(4):充放電電力(AC)は充電電力と放電電力の差である。
式(5):充電電力(AC)と充電電力(DC)の関係式である。
式(6):放電電力(AC)と放電電力(DC)の関係式である。
式(7):需給一致のバランス式である。
式(8):受電電力は所定の上下限内の値をとる。
式(9):充電電力は所定の上下限内の値をとる。
式(10):発電機の発電電力は所定の上下限内の値をとる。
式(11):蓄電池の充電残量は充電電力(DC)の積分である。
式(12):蓄電池の充電残量は所定の上下限内の値をとる。
式(13):受電電力実現値が上下限制約を満足する確率を1-ε以上とすること。
式(14):インバランスが上下限制約を満足する確率を1-ε以上とすること。
式(15):充電電力実現値(AC)が上下限制約を満足する確率を1-ε以上とすること。
式(16):充電残量実現値が上下限制約を満足する確率を1-ε以上とすること。
式(17):発電機発電電力実現値が上下限制約を満足する確率を1-ε以上とすること。
式(18):決定変数αは0以上1以下の値をとる。
式(19):決定変数βは0以上1以下の値をとる。
式(20):決定変数γは0以上1以下の値をとる。
式(21):予実差は蓄電池、発電機、受電によって全量補償される。
式(22):決定変数zは0又は1の値をとる。
式(23):決定変数wは0又は1の値をとる。
式(24):その他の制約条件。例えば発電機の最小連続運転時間・最小連続停止時間、最小出力などに関する制約条件があげられる。
【0068】
最適化問題(P)をそのままの形式で解くことは難しいため、式(13)~式(17)に含まれる制約条件満足確率を具体的に計算し、最適化問題(P)を確定問題として再定式化する。式(13)~式(17)は、εに対応する正数nを導入することでそれぞれ以下のとおり近似あるいは変形できる。式(16)から式(33)への変形は近似であるが、制約条件として厳しくなる方向の近似であり、不確実性に配慮するという意味で本来の趣旨をそこなわない。
【0069】
式(13)を変形した式(30)は、受電電力実現値が上下限制約を満足する確率を1-ε以上とすることを示す。
【数31】
【0070】
式(14)を変形した式(31)は、インバランスが上下限制約を満足する確率を1-ε以上とすることを示す。
【数32】
【0071】
式(15)を変形した式(32)は、充電電力実現値(AC)が上下限制約を満足する確率を1-ε以上とすることを示す。
【数33】
【0072】
式(16)の近似である式(33)は、充電残量実現値が上下限制約を満足する確率を1-ε以上とすることを示す。
【数34】
【0073】
式(17)を変形した式(34)は、発電機発電電力実現値が上下限制約を満足する確率を1-ε以上とすることを示す。
【数35】
【0074】
ここで、式(30)~式(32)、式(34)はそれぞれ式(35)~(38)のように、決定変数に関する線形の制約条件として書き換えることができる。
【数36】

【数37】

【数38】

【数39】
【0075】
非線形項を含む式(33)を、式(39)の通り近似する。
【数40】
【0076】
式(39)によれば、全ての制約条件を線形で記述できたことになる。式(39)において、下記項は、時刻kまでの決定変数aをまとめたベクトルである。
【数41】

さらに、下記に示す項は、共分散行列Σから時刻kまでの要素を取り出した首座小行列である。
【数42】

さらに、下記に示す項は、それぞれ適当な実数値のベクトル及びスカラーである。c及びdの定め方については後述する。
【数43】
【0077】
以上の議論から、最適化問題(P)は決定変数に対する線形式のみからなる混合整数計画問題(下記式(40)参照)として近似できることを示した。その結果、最適化問題(P)は、分枝限定法や分枝カット法などの効率的なアルゴリズムで解くことができる。分枝限定法や分枝カット法については、所望の数理最適化ソルバを使用してよい。
【数44】
【0078】
本実施形態の運転支援装置1の動作は、参考文献1及び参考文献2に対して、以下の優位性(1)~(3)を有する。
優位性(1):参考文献1、2の技術に対するインバランスに関する制約条件を考慮しているという点。
優位性(2):参考文献2の技術に対する非線形項を含む式(33)を式(39)により近似するという点。
優位性(3):参考文献2の技術に対する同近似における、c及びdの適切な定め方を示しているという点。
【0079】
優位性(1)によれば、予測不確実性により予実差が生じてもインバランスを抑制すると共に低減可能なエネルギー需給計画が得られる。このとき、各時刻でインバランスを制約可能であるので、参考文献1のように特定時刻にインバランスが集中することがない。その結果、インバランスペナルティコストに関するリスクも抑えられる。
【0080】
優位性(2)、(3)によれば、蓄電池のみならず、ガスタービンやガスエンジンといった電力不足を補償可能な設備、水電解装置などの電力余剰を補償可能な設備を組み入れた需給計画策定が可能となり、インバランスの抑制効果及び低減効果が向上する。上述した定式化では、インバランスを制約条件として考慮しているが、目的関数として考慮することも可能である。例えば計画全期間の最大のインバランスを最小化したいのであれば、補助変数u>0を導入しつつ、制約条件を示す式(36)に代えて別の制約条件として、式(41)を導入する。そして、式(42)に示す最適化問題を解けばよい。
【数45】

【数46】
【0081】
この方法でも特定時刻へのインバランス集中を抑えられる。また、制約条件として考慮すると実行可能解(すべての制約を満足する解)が存在しないようなケースでも、この方法によれば、極力のインバランスを抑えた解が得られる。この特徴は例えばオンラインでの需給計画に向いている。なお、定期的に需給計画を自動実行し制御に用いるという性質上、「解がない」という挙動は好ましくない。
【0082】
以下、非線形項を近似する(c,d)の定め方について述べる。好適な(c,d)の要件は、以下の要件(1)、(2)として示される。
【0083】
要件(1)は、下記の項が不確実性の大きさを表していることを考慮し、線形近似関数が下記の項に対して保守的であることである。
【数47】

つまり、任意の下記式に対して、式(43)が成り立つことである。
【数48】

【数49】
【0084】
要件(2)は、なんらかの意味で、保守性が十分小さいことである。
【0085】
以降では要件(1)を満たす(c,d)をエンベロープと呼ぶこととする。要件(2)に関して、保守性の小さいエンベロープとして、具体的に以下のエンベロープ(1)、(2)が考えられる。
エンベロープ(1):α=0近傍での保守性を最小化するもの。
エンベロープ(2):任意のαを考慮したときの最大の保守性を最小化するもの。
エンベロープ(1)は、具体的に下記式によって与えられる。
【数50】
【0086】
本エンベロープは受電電力主体の予実差補償が想定される場合に有効である(保守性を抑えられる)が、蓄電池で補償する領域において、保守性が過大となる可能性がある。要件(2)に対応するエンベロープは、式(44)及び式(45)に示される最適化問題を解くことで求まる。
【数51】

【数52】

【数53】

【数54】
【0087】
本エンベロープは、最悪ケースの保守性を抑えたものであり、特に蓄電池を積極活用した予実差補償が見込まれる場合に要件(1)よりも保守性を抑えることができると期待される。ただし一般にd>0であり、蓄電池の非活用領域においては要件(1)よりも保守性が大きくなる。
【0088】
ところで、下記の項を含んだ制約条件式である式(33)の近似の立場からは、下記の項の線形近似はかならずしも1つの式で表現しなくてもよい。
【数55】
【0089】
任意のαに対して式(43)を満たす所定個数のエンベロープを下記のとおりとすれば、式(33)は、補助変数を用いて、式(48)、(49)に示されるように線形性を維持できる。
【数56】

【数57】

【数58】

【数59】
【0090】
ただし、Mは十分大きな正数である。式(48)~式(49)は、複数のエンベロープがある場合、都合のよいエンベロープをひとつ選んでよい、ということを意味している。よって、両方のアプローチでエンベロープを求めておくことで、蓄電池の非活用領域及び活用領域のいずれにおいても保守性を抑制できる。
【0091】
<実施例>
本実施形態の運転支援装置1の効果を示すため、図8に示すような蓄電池21A、ガスエンジン発電機22Aを有するマイクログリッド20Aにおける一日分の需給計画策定を考える。図9に電力需要予測を示す。図9の横軸は時刻を示し、縦軸は電力需要を示す。さらに、図9においてグラフG9aは、電力需要を示す。グラフG9bは、電力需要(-3σ)を示し、グラフG9cは、電力需要(+3σ)を示す。つまり、グラフG9b、G9cは、予想される予実差の幅を示す。グラフG9dは、電力需要の不確実性を示す。
図9の例示によれば、不確実性として3σ(±3σ内に入る確率が99.7%)があることが示されている。この条件の下で、蓄電池21Aの充放電やガスエンジン発電機22Aの出力調整により、インバランスを全時間帯で予測値の1%以下とすることを目標としているものとする。
【0092】
この条件下での、提案手法を用いた需給計画最適化結果を図10図13に示す。図10は最適化で得られたエネルギー需給計画を最適化した結果のうち、受電電力の推移を示したものである。図10の横軸は時刻を示し、縦軸は受電電力を示す。さらに、図10においてグラフG10aは電力需要を示し、グラフG10bは電力需要(-3σ)を示し、グラフG10cは電力需要(+3σ)を示し、グラフG10dは受電電力不確実性を示す。図10に示したとおり、不確実さの大きさはどの時刻においても予測に対して1%以下となっている。この不確実性の低減は発電機の出力調整と蓄電池の充放電によってなされている。
【0093】
図11は最適化で得られたエネルギー需給計画を最適化した結果のうち、蓄電池21Aの充放電電力の推移を示したものである。図11の横軸は時刻を示し、縦軸は充放電電力を示す。さらに、図11においてグラフG11aは蓄電池21Aの充放電電力を示し、グラフG11bは蓄電池21Aの充放電電力(-3σ)を示し、グラフG11cは蓄電池21Aの充放電電力(+3σ)を示す。
【0094】
図12は最適化で得られたエネルギー需給計画を最適化した結果のうち、蓄電池21Aの充電残量の推移を示したものである。図12の横軸は時刻を示し、縦軸は充電残量を示す。さらに、図12においてグラフG12aは蓄電池21Aの充電残量を示し、グラフG12bは蓄電池21Aの充電残量(-3σ)を示し、グラフG12cは蓄電池21Aの充電残量(+3σ)を示す。
【0095】
図13は最適化で得られたエネルギー需給計画を最適化した結果のうち、ガスエンジン発電機22Aの発電電力の推移を示したものである。図13の横軸は時刻を示し、縦軸は発電電力を示す。さらに、図13においてグラフG13aはガスエンジン発電機22Aの発電電力を示し、グラフG13bはガスエンジン発電機22Aの発電電力(-3σ)を示し、グラフG13cはガスエンジン発電機22Aの発電電力(+3σ)を示す。
【0096】
これらの図11図13より、12:00から13:00及び18:00から22:00は蓄電池の充放電、それ以外の時間帯は発電機の出力調整により補償されていることがわかる。電力需要の不確実性に対処するため、これらの機器は補償に使われる時間帯において、出力上下限や充電残量上下限に関して余裕を有することがわかる。
【0097】
<作用効果>
本実施形態の運転支援装置1は、外部からエネルギーの授受が可能であると共に、エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むマイクログリッド20のエネルギー需給計画を出力する。運転支援装置1はマイクログリッド20のエネルギー需給計画を出力する最適化計算部15と、エネルギー需給計画を出力する最適化結果出力部17と、を備える。最適化計算部15は、時間帯と時間帯に関連付けられたエネルギーの需要とによって示される目標需給計画を設定し、目標需給計画に対して予想されるエネルギーの需要の予実差を設定すると共に、予実差が実際に発生したときにエネルギーの需要を目標需給計画に近づけるようにエネルギー授受装置を制御するための補償計画を設定する。最適化結果出力部17は、目標需給計画及び補償計画をエネルギー需給計画として出力する。
【0098】
この運転支援装置1は、予測不確実性に対して頑健性を考慮したエネルギー需給計画を策定できる。
【0099】
上述した本実施形態の運転支援装置1の作用効果について、例示する参考文献1~4に開示された技術と比較しながらさらに詳細に説明する。
【0100】
上述した本実施形態の運転支援装置1の適用先のひとつとして、系統に接続され、卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッドがあげられる。卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッドでは、事前に策定した電力需給計画に基づき、将来各時間帯における送電量及び受電量を市場にて売買する。各時間帯において、計画送受電量と実績送受電量が一致しなかった場合は、最終的な電力供給の責任を負う一般送配電事業者側が調整力電源を用いてインバランスを解消することとなり、マイクログリッドはそれに要した費用の一部をインバランスに応じて負担する必要がある。
【0101】
よって、卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッドにおいて、経済的な電力需給を実現するための問題点として、以下の問題点(1)、(2)が挙げられる。
問題点(1):インバランス発生リスクを考慮した電力需給計画の最適化とそれに基づく売買注文が課題となる。
問題点(2):マイクログリッドの需給再計画や制御に基づく需要インバランスの回避・抑制が課題となる。
【0102】
これらの問題点(1)、(2)に対する関連技術を開示する文献としては参考文献1をあげることができる。参考文献1では、蓄電池を有するマイクログリッドを対象としており、同文献では問題点(1)に対して、過去の受電計画と実績差の統計処理に基づきペナルティコストを予測し、この情報を用いて需給計画(蓄電池の充放電計画及びそれに基づく受電計画)を最適化する手法として、参考文献1では、請求項9~請求項13に示される発明を提案している。また、問題点(2)に対して、決定済みの受電計画と実績の差に応じたペナルティコストを目的関数として含む最適化問題を解き、需給計画の再最適化及びそれに基づく制御を行うことでインバランス調整に係る負担額も含めた電力調達コストを抑制する制御手法として、参考文献1では請求項1~請求項8に示される発明を提案している。
【0103】
上述したように運転支援装置1の適用先のひとつとして卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッドを例示した。インバランスやそれにともなうペナルティコストのほかにも、将来の不確実性について配慮が求められる状況は多い。例えば、需給計画策定にあたっては電力需要予測や太陽光発電電力の予測が求められるが、精度の低い予測に基づいて需給計画を策定した場合、予実差の大きさによってコストが増加する、あるいは計画が破綻し需給が成立しなくなるリスクもある。広く、将来の不確実性を考慮した技術としては参考文献2をあげることができる。参考文献2では、蓄電池を有するマイクログリッドにおいて、将来予測を確率分布として考慮し、さらに定期的な計画補正を取り込んだ最適化問題を解く方法を提案している。
【0104】
以下では参考文献1、2が開示する技術に対し、これらの文献が開示する技術の問題点を指摘する。
【0105】
参考文献1では需給計画策定にあたり、過去の受電計画と実績の差を統計処理し、この情報に基づき蓄電池の充放電計画及び買電計画を定めているが、ペナルティコスト単価の算定方法の記述はない。この単価は、系統全体の需給状況や地域ごとの市場価格差によって決定されるため、事前に知ることはできない。過去データに基づきこれを予測する方法も考えられるが、ペナルティコスト単価は自マイクログリッドのみならず、発電事業者の発電予実、他マイクログリッドの需要予実、調整力である火力発電の調整余力、スポット市場や1時間前市場の価格などにも左右されるため、精度のよい予測は難しい。ペナルティコスト単価が不確実な条件下でインバランスコストを最小化しようとすると、(予測した)インバランスコスト単価が最安となる時間帯にインバランスを集中させる結果が得られうる。仮に当該時間の実績のインバランスコスト単価が予測に反して高かった場合、多大なインバランスペナルティを支払うこととなり、リスクが大きいといえる(問題点(P1))。
【0106】
例えば、電力市場価格は洪水や台風、地震等による異常気象や災害時に変動しやすいため、インバランスコスト単価が高騰する場合が考えられるが、そのような非常時は、自マイクログリッドも再エネ発電量の低下などにより、需給維持が困難となって過大なインバランスの発生を起こしやすい。参考文献1が開示する技術の場合、想定よりも過多なインバランスペナルティコストの支払いが発生しうる。また、特定の災害等の事象がない場合でも電力市場価格が前触れなく高騰する場合があり、そのような予測は難しく、発電事業者の事業リスクの要因になっている。
【0107】
また、参考文献1では需給計画手段として蓄電池の充放電のみを用いている。蓄電池はある時間帯において余剰した電力を、別の電力の不足している時間帯に放電する使い方は可能であるが、一日を通して電力が計画に対して不足傾向及び余剰傾向である場合、蓄電池はインバランス解消の手段として効果を発揮しない(問題点(P2))。例えばガスタービン発電機、バイオマス発電、ごみ発電などの電力不足時のインバランスを補償しうる設備や、水電解装置などの電力余剰時のインバランスを補償しうる設備の効果的な運転方法は同文献からは着想しえない。
【0108】
参考文献2では、蓄電池を有するマイクログリッドにおいて、将来予測を確率分布として考慮し、さらに定期的な計画補正を取り込んだ最適化問題を解く方法を提案している。同文献で提案する技術を用いれば、例えば計画受電量と実績受電量の差が規定値以上となる確率を一定以下に抑える需給計画を求めることができる。ただし同文献では蓄電池以外の設備(上であげたガスタービン発電機、バイオマス発電、ごみ発電、水電解装置など)の効果的に運転方法は記述されていない。同文献で需給計画を求める最適化問題において、例えば参考文献3、4に記載の方法を用いてこれらの設備を組み入れることも可能であるが、参考文献2の最適化問題は非線形計画問題として定式化されており、参考文献3、4の方法をそのままとることはできない(問題点(P3))。例えば、機器の起動・停止などを最適化で決定しようとすると、(線形)混合整数計画問題としての定式化が求められ、参考文献2の技術では対応できない。
【0109】
これらの問題点に関し、本実施形態の運転支援装置1は、以下の手段を採用することにより、解決するものである。まず、本実施形態の運転支援装置1は、問題点(P1)を解決する手段として、予測が難しいペナルティコスト単価を用いたインバランスペナルティコストを最小化するものではなく、比較的予測しやすい電力需要や太陽光発電電力の予測の不確実性を考慮しつつ(式(14)~式(17)参照)、各時間帯におけるインバランスを一定値以下に抑える制約条件を付す、あるいはインバランスに関する項を目的関数に付すものである。この手段は、参考文献1が開示する技術に対して優位性を有する。
【0110】
さらに、本実施形態の運転支援装置1は、問題点(P2)、Cを解決する手段として、需給計画最適化問題を(線形)混合整数計画問題として定式化し(式(39)参照)、蓄電池以外の機器も考慮できるようにする。この手段は、参考文献2が開示する技術に対して優位性を有する。
【0111】
これらの手段を採用した運転支援装置1は、マイクログリッドの運転に際し、ペナルティコスト単価の予測精度不確実性に起因するリスクを排除しつつ、多様な機器を効果的に活用しインバランス量そのものを抑制することができる。
【0112】
総括すると、本実施形態において開示する技術の要旨は、以下のとおりである。
【0113】
第1の要旨は、外部とのエネルギー授受が可能なマイクログリッドのエネルギー需給計画を最適化する運転支援装置、運転支援方法もしくはそのためのプログラムであって、前記最適化で求める外部からのエネルギー需給計画を定めるにあたり、予測が外れた場合の予実差補償方法と同時にこれを最適化することを特徴とする運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0114】
第2の要旨は、エネルギー需給計画を定めるにあたり、外部からのエネルギー授受の予実差を制約条件として考慮できる、第1の要旨に記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0115】
第3の要旨は、エネルギー需給計画を定めるにあたり、外部からのエネルギー授受の予実差に係る項を目的関数に含む、第1の要旨に記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0116】
第4の要旨は、エネルギー需給計画は、混合整数計画問題として定式化される、第1の要旨~第3の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0117】
第5の要旨は、予測の不確実性の指標として、時間帯間の予測誤差共分散を採用する、第1の要旨~第4の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0118】
第6の要旨は、エネルギーとして電力を含む、第1の要旨~第5の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0119】
第7の要旨は、需給計画の手段として蓄電池の充放電を含む、第1の要旨~第6の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0120】
第8の要旨は、需給計画の手段として発電能力を有する設備の起動・停止、発電電力変化を含む、第1の要旨~第6の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0121】
第9の要旨は、発電能力を有する設備として、ごみ発電を考える、第7の要旨に記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0122】
第10の要旨は、発電能力を有する設備として、バイオマス発電を含む、第7の要旨に記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0123】
第11の要旨は、需給計画の手段として、水電解装置の起動・停止、負荷増減を含む、第1の要旨~第6の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0124】
本実施形態の第12の要旨は、需給計画の手段として、再生可能エネルギー発電システムの出力抑制を含む、第1の要旨~第6の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0125】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明の運転支援装置、運転支援方法および運転支援プログラムは、上記の実施形態に限定されない。
【0126】
上記実施形態では、外部とエネルギーを授受するシステムを便宜的に「マイクログリッド」と呼んだ。マイクログリッドが意味する態様は、かならずしも例えば単一の工場及び事業場に限定されない。マイクログリッドは、例えば複数の工場を束ねた工場団地を意味するものでもよいし、物理的に隔絶された工場を束ねたものでもよい。マイクログリッドは、エネルギー機器の需給計画を外部にゆだね、電力売買の契約と金銭的やりとりのみを仲介する態様でもよい。
【0127】
上記実施形態では、1コマあたりの時間幅を30分とした。1コマあたりの時間幅は、30分に限定されない。1コマあたりの時間幅は、5分単位など短くてもよいし、1日単位など長くてもよい。
【0128】
本実施形態の運転支援装置1の技術的ポイントである定式化の工夫は、受電(買電)・送電(売電)のいずれかに特化したものではない。本明細書では、需要側(電力購入側)を題材に(需要)インバランスを抑制する例について述べた。しかし、発電事業者を想定、所有する発電機の運転計画の最適化により(供給)インバランスを抑制する態様も、本実施形態の運転支援装置1によって満たすことができる。
【0129】
例えば再生可能エネルギーである太陽光発電により発電を行い売電する発電事業者が上記の運転支援装置1を利用する場合、太陽光発電電力の予測の不確実性を見込んでもよい。この場合、売電約定量に対して発電電力が過剰となる場合は、インバランスを抑制する手段として水電解装置を用いてもよい。具体的な構成としては図14に示したものが考えられる。同図は図8に示したマイクログリッド20Bにおいて、電力需要を太陽光発電24に、ガスエンジン発電機を水電解装置22Bに変え、電力の供給方向を変えたのみであり、上で述べた定式化は、符号を変える程度の簡単な変形でそのまま流用できる。また、太陽光発電24の出力抑制をインバランス抑制の手段として用いてもよい。もちろん、マイクログリッド20Bの形態によっては電力需要と発電電力両方の不確実性を見込んでもよい。
【0130】
<付言>
ところで、インバランス解消のための調整力電源はおもに火力発電である。インバランス解消のため、複数基を起動状態としつつ、かつ上げ・下げ両方に余裕を持たせた部分出力運転とする必要がある。これは発電効率の観点からは望ましい運転ではなく、発電単価の上昇、CO排出量増加などを招きうる。従って、インバランス抑制・解消は特定のマイクログリッドの経済性や事業収益のみに係るものではなく、社会全体としての経済的なエネルギー供給や環境負荷低減にも関わるものである。よって、上記の運転支援装置1は、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「全ての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」及び目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に貢献するものである。コストではなく、インバランス量そのものの抑制を企図した本実施形態の運転支援装置1、運転支援方法及び運転支援プログラムはこの点において有用な技術である。
【符号の説明】
【0131】
1 運転支援装置
11 予測値指定部
12 制約条件指定部
13 目的関数指定部
14 機器特性データベース
15 最適化計算部
16 受電計画記憶部
17 最適化結果出力部
20,20A マイクログリッド
21~23 エネルギー機器
21A 蓄電池
25 エネルギー外部供給源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図14