(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】フロントフェンダ
(51)【国際特許分類】
B62J 15/00 20060101AFI20240709BHJP
B62J 17/10 20200101ALI20240709BHJP
【FI】
B62J15/00 B
B62J17/10
(21)【出願番号】P 2020159519
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 京馬
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-052380(JP,U)
【文献】実開平02-105083(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2003/0121708(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 15/00
B62J 17/10
B62J 23/00
B62J 50/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキディスクが設けられた前輪を上方から覆うフェンダ上部と、前記ブレーキディスクの上部を側方から覆うフェンダ側部と、を有するフロントフェンダであって、
前記フェンダ側部には、当該フェンダ側部の前側で車幅方向外側に膨らむ膨出部と、前記膨出部の内側に流入した走行風を排出する排風口と、が形成され、
前記フェンダ側部の前面には走行風を取り込む開口が無く、前記フェンダ側部と前記前輪の間の隙間から走行風が入り込み、
前面視にて死角になる前記膨出部の後面側に前記排風口が位置付けられていることを特徴とするフロントフェンダ。
【請求項2】
前記排風口が後方に向かって幅広になることを特徴とする請求項1に記載のフロントフェンダ。
【請求項3】
前記排風口が前記前輪を支持するフロントフォークの前方に位置付けられ、
前記排風口が前記フロントフォークの延在方向に沿った方向に向いていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフロントフェンダ。
【請求項4】
前記フェンダ側部には、前記排風口から排出された走行風を後方に導くガイド部が形成され、
前記ガイド部が前記フロントフォークの前方で前記排風口よりも上方及び車幅方向外側に膨らんでいることを特徴とする請求項3に記載のフロントフェンダ。
【請求項5】
前記ガイド部が車幅方向内側の前面部と車幅方向外側の側面部に分かれており、
前記前面部が前記排風口から前記フロントフォークの前方で上方に走行風を導き、
前記側面部が前記排風口から前記フロントフォークよりも車幅方向外側に走行風を導くことを特徴とする請求項4に記載のフロントフェンダ。
【請求項6】
前面視にて前記膨出部が前記ガイド部よりも車幅方向内側に位置していることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のフロントフェンダ。
【請求項7】
前記排風口が、前記フロントフォークに前記前輪を支持するアクスルシャフトよりも前方に位置していることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のフロントフェンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフェンダに関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗型車両には、前輪の泥除けとしてフロントフェンダが設けられている。フロントフェンダによってブレーキディスクが覆われると、走行風がフロントフェンダに遮られてブレーキディスクの冷却効果が低減される。このため、前面に走行風の取込口が形成されたフロントフェンダが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のフロントフェンダの内側にはガイド壁が形成されており、取込口から流入した走行風がガイド壁によってブレーキディスクに導かれて、走行風を利用してブレーキディスクが積極的に冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のフロントフェンダは、前面に取込口が形成されており、前面視にて取込口が目立って車両外観が悪化する。ガイド壁はフロントフェンダの内側に形成されているが、ガイド壁によってフロントフェンダが大型化して車両外観への影響が大きい。さらに、ガイド壁によって走行風の流れの向きが変えられるため、走行風がスムーズに流れ難くなることでブレーキディスクの冷却効果が十分に得られないという問題があった。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、車両外観を悪化させることなく、ブレーキディスクを効果的に冷却することができるフロントフェンダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のフロントフェンダは、ブレーキディスクが設けられた前輪を上方から覆うフェンダ上部と、前記ブレーキディスクの上部を側方から覆うフェンダ側部と、を有するフロントフェンダであって、前記フェンダ側部には、当該フェンダ側部の前側で車幅方向外側に膨らむ膨出部と、前記膨出部の内側に流入した走行風を排出する排風口と、が形成され、前記フェンダ側部の前面には走行風を取り込む開口が無く、前記フェンダ側部と前記前輪の間の隙間から走行風が入り込み、前面視にて死角になる前記膨出部の後面側に前記排風口が位置付けられていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様のフロントフェンダによれば、膨出部の内側に走行風が流れ込み、膨出部の後面側の排風口から走行風が排出される。膨出部の内側の走行風が排風口にスムーズに流れて、フェンダ側部の内側のブレーキディスクが走行風によって効果的に冷却される。また、前面視にて膨出部に作られた死角に排風口が形成されているため、排風口が目立ち難くなって車両外観が悪化することがない。さらに、フロントフェンダに対する排風口の形成によって、車両外観に影響を与えるほどフロントフェンダが大型化することがない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本実施例のフロントフェンダ付きの前輪の斜視図である。
【
図3】本実施例のフロントフェンダ付きの前輪の側面図である。
【
図4】本実施例のフロントフェンダ付きの前輪の前面図である。
【
図5】本実施例のフロントフェンダ付きの前輪の上面図である。
【
図6】本実施例のフロントフェンダを通る走行風の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様のフロントフェンダは、ブレーキディスクが設けられた前輪を上方から覆うフェンダ上部と、ブレーキディスクの上部を側方から覆うフェンダ側部と、を有している。フェンダ側部には前縁から後方に向かって膨出部が車幅方向外側に膨らんでおり、膨出部の後面側には膨出部の内側から走行風を排出する排風口が形成されている。膨出部の内側に走行風が流れ込み、膨出部の後面側の排風口から走行風が排出されるため、走行風が膨出部の内側をスムーズに流れて、フェンダ側部の内側のブレーキディスクが走行風によって効果的に冷却される。また、前面視にて膨出部に作られた死角に排風口が形成されているため、排風口が目立ち難くなって車両外観が悪化することがない。さらに、フロントフェンダに対する排風口の形成によって、車両外観に影響を与えるほどフロントフェンダが大型化することがない。
【実施例】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例について詳細に説明する。
図1は、本実施例のエンジン周辺の右側面図である。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0011】
図1に示すように、鞍乗型車両1は、アルミニウム鋳造によって形成されるツインスパー型の車体フレーム10に、エンジン16や電装系等の各種部品を搭載して構成されている。車体フレーム10はヘッドパイプ(不図示)から左右に分岐して後方に延びる一対のメインフレーム11と、ヘッドパイプから左右に分岐して下方に延びる一対のダウンフレーム(不図示)とを有している。一対のメインフレーム11によってエンジン16の後部が支持され、一対のダウンフレームによってエンジン16の前部が支持されている。エンジン16が車体フレーム10に支持されることで、車両全体の剛性が確保されている。
【0012】
メインフレーム11の前側部分はエンジン16の上方に位置するタンクレール12になっており、タンクレール12によって燃料タンク17が支持されている。メインフレーム11の後側部分はエンジン16の後方に位置するボディフレーム13になっており、ボディフレーム13の上下方向の略中間位置にスイングアーム18が揺動可能に支持されている。ボディフレーム13の上部からは、シートレール(不図示)とバックステー(不図示)が後方に向かって延びている。シートレール上には、燃料タンク17の後方においてライダーシート21及びピリオンシート22が支持されている。
【0013】
ヘッドパイプには、ステアリングシャフト(不図示)を介して一対のフロントフォーク23が操舵可能に支持されている。フロントフォーク23の下部には前輪25が回転可能に支持されており、前輪25の上部はフロントフェンダ26に覆われている。スイングアーム18はボディフレーム13から後方に向かって延びている。スイングアーム18の後端には後輪28が回転可能に支持され、後輪28の上方はリヤフェンダ29に覆われている。後輪28にはチェーンドライブ式の変速機構を介してエンジン16が連結されており、変速機構を介してエンジン16からの動力が後輪28に伝達されている。
【0014】
鞍乗型車両1の車体フレーム10には、車体外装として各種カバーが装着されている。例えば、車両前部の前面側はフロントカウル31によって覆われており、車両前部の側面側は一対のサイドカウル32によって覆われている。フロントカウル31の上部にはスクリーン33が設けられ、フロントカウル31の前面からはヘッドランプ34と一対のターンシグナルランプ35が露出している。これらカウルとランプ等によって車体前部が流線形に形成されており、車両前方から車両後方に向かって走行風がスムーズに流れて車体前部に対する空気抵抗が減らされている。
【0015】
この鞍乗型車両1のフロントブレーキにはディスクブレーキが採用されており、ブレーキキャリパ49によってブレーキディスク47が挟み込まれることで前輪25に制動力が作用する。ブレーキディスク47の制動時には摩擦熱が生じるため、走行風を利用してブレーキディスク47を冷却する必要がある。そこで、本実施例のフロントフェンダ26には、フロントフェンダ26の内側から外側に走行風が抜けるように排風口58が形成されている。このとき、車両外観及び空力性能を考慮して、排風口58の位置やフロントフェンダ26の外形が設計されている。
【0016】
以下、
図2から
図5を参照して、フロントフェンダの詳細構成について説明する。
図2は、本実施例のフロントフェンダ付きの前輪の斜視図である。
図3は、本実施例のフロントフェンダ付きの前輪の側面図である。
図4は、本実施例のフロントフェンダ付きの前輪の前面図である。
図5は、本実施例のフロントフェンダ付きの前輪の上面図である。
【0017】
図2に示すように、前輪25は、アクスルシャフト41を介して一対のフロントフォーク23の下端部に回転可能に支持されている。前輪25のホイール42は、アクスルシャフト41が挿し込まれたハブ43と、タイヤ50が装着された円環状のリム44と、ハブ43とリム44を連結する複数のスポーク45とを有している。ホイール42のハブ43の両側部には、左右一対のブラケット46を介して左右一対のリング板状のブレーキディスク47が固定されている。各ブレーキディスク47は、ホイール42とフロントフェンダ26の側面の間に位置付けられている。このように、前輪25には一対のブレーキディスク47が一体回転可能に固定されている。
【0018】
各フロントフォーク23の下部後側の固定部48にはブレーキキャリパ49が固定されている。ブレーキキャリパ49は、ブレーキディスク47に対してブレーキパッド(不図示)を押し付けて前輪25に制動力を発生させている。フロントフォーク23に固定されたブレーキキャリパ49と前輪25と一体回転するブレーキディスク47によってフロントブレーキが形成されている。各フロントフォーク23の下部には、複数のステー51(本実施例では1つのみ図示、
図3参照)を介してフロントフェンダ26が固定されている。フロントフェンダ26は泥除けになる他、ブレーキディスク47へ走行風を導く流路を形成している。
【0019】
図2から
図4に示すように、フロントフェンダ26は、ブレーキディスク47が設けられた前輪25を上方から覆うフェンダ上部52と、ブレーキディスク47の上部を側方から覆うフェンダ側部53とを有している。フェンダ上部52はタイヤ50上部の外面形状に倣って側面視アーチ状に形成され、フェンダ側部53は前輪25の中心付近からフェンダ上部52に向かって側面視扇状に広がっている。フェンダ側部53の後側はフロントフォーク23を避けるように開口しており、この長尺の開口54によってフェンダ側部53とフロントフォーク23の干渉が防止されている。
【0020】
フェンダ側部53の下部は前面視にてフロントフォーク23に重なっており(特に
図4参照)、フロントフォーク23の下部に対する泥除け部55として機能している。フェンダ側部53と前輪25の間には隙間Cが空いており、この隙間Cから走行風が入り込んでブレーキディスク47が冷却される。フェンダ側部53には、フェンダ側部53の前縁56から後方に向かって車幅方向外側に膨らんだ膨出部57が形成されている。膨出部57の後面側には、フロントフェンダ26の前縁56から膨出部57の内側に流入した走行風を後方に排出する排風口58が形成されている。
【0021】
より詳細には、膨出部57はフェンダ側部53の前縁56から後斜め上方に向かって広がっている。このとき、膨出部57と前輪25の隙間Cは、前斜め上方位置から後斜め下方位置に向かうのに伴って大きくなっている。すなわち、膨出部57の膨らみが後斜め下方位置で最も大きくなる。排風口58は膨出部57の後面側で後ろ斜め上方を向くように開口しており、膨出部57の後縁に沿って排風口58が後斜め下方に延びている。このため、排風口58の上縁と下縁の幅が膨出部57の膨らみに倣って後方に向かって広くなり、膨出部57の内側の走行風が排風口58からスムーズに排出され易くなっている。
【0022】
側面視にて排風口58がブレーキディスク47の上方に位置付けられており、ブレーキディスク47付近の熱気が排風口58から排出され易くなっている。側面視にて排風口58がブレーキディスク47の前端よりも後方かつフロントフォーク23の前方に位置付けられ、排風口58がフロントフォーク23の延在方向に沿った方向D1に向けられている。これにより、排風口58から排出された走行風がフロントフォーク23に当たり難くなり、走行風の乱れが抑えられて排風口58から走行風がスムーズに排出されて、ブレーキディスク47に対する冷却効果が高められている。なお、方向D1は、排風口58の開口面に直交する直線を側方から見た方向を示している。
【0023】
側面視にて排風口58がアクスルシャフト41よりも前方に位置しており、フロントフォーク23はアクスルシャフト41から後斜め上方に延びている。排風口58が上方に向かうのに伴ってフロントフォーク23から離れ、排風口58から排出された走行風がフロントフォーク23に当たり難くなって排風口58から走行風がよりスムーズに排出される。また、排風口58よりも下方にフロントフェンダ26(フェンダ上部52)の先端が位置している。これにより、フロントフェンダ26の先端側から排風口58に向かって後斜め上方に排風口58を通す流路が形成されている。
【0024】
図3から
図5に示すように、フェンダ側部53には、排風口58の後方でフロントフォーク23の前方を覆うようにガイド部61が形成されている。ガイド部61はフロントフォーク23の前方で排風口58よりも上方及び車幅方向外側に膨らんでおり、ガイド部61によって排風口58から排出された走行風が後方に導かれる。ガイド部61は、排風口58の後縁59からフロントフォーク23の外側面に向かう直線Lを挟んで、車幅方向内側の前面部62と車幅方向外側の側面部63に分かれている(特に
図5参照)。ガイド部61の前面部62及び側面部63は滑らかな曲面になるように連なっている。
【0025】
ガイド部61の前面部62は、排風口58からフロントフォーク23の前方で上方に走行風が導かれるように、排風口58の後縁59から後方に向かって上方に膨らんでいる。ガイド部61の側面部63は、排風口58からフロントフォーク23よりも車幅方向外側に走行風が導かれるように、排風口58の後縁59から後方に向かって車幅方向に膨らんでいる。排風口58から排出された走行風が前面部62及び側面部63の膨らみに沿って上方及び車幅方向外側に流れる。走行風がフロントフォーク23を避けて後方に流れることで、ブレーキディスク47に対する冷却効果がさらに高められている。
【0026】
このように、フロントフェンダ26には、フェンダ側部53の内側から外側に走行風をスムーズに流す排風口58が形成されて、走行風を利用してブレーキディスク47が積極的に冷却されている。排風口58の後方にはフロントフォーク23が位置しているが、フロントフォーク23が略流線形のガイド部61によって覆われているため、フロントフォーク23によって走行風の流れが阻害されることがない。走行風によるフロントフェンダ26に対する空気抵抗が小さくなり、フロントフェンダ26の内側のブレーキディスク47に向かって走行風がスムーズに導かれている。
【0027】
図4に示すように、前面視にて膨出部57が車幅方向外側に膨らんでおり、死角になる膨出部57の後面側に排風口58(
図2参照)が位置付けられている。排風口58が膨出部57に作られた死角に形成されることで、排風口58が目立ち難くなって車両外観の悪化が抑えられる。膨出部57はガイド部61よりも車幅方向内側に位置している。前面視にてガイド部61よりも膨出部57が小さく形成されており、フロントフォーク23を隠すガイド部61に膨出部57が重なることによって膨出部57が目立ち難くなる。また、膨出部57の膨らみが抑えられてフロントフェンダ26の小型化が図られている。
【0028】
図6を参照して、フロントフェンダを通る走行風の流れについて説明する。
図6は、本実施例のフロントフェンダを通る走行風の流れを示す図である。なお、
図6(A)は側面から見た走行風の流れ、
図6(B)は前面から見た走行風の流れをそれぞれ示している。
【0029】
図6(A)、(B)に示すように、鞍乗型車両1の走行中には、フェンダ側部53の前縁56から膨出部57の内側に走行風が入り込む。膨出部57の内面に沿って走行風が流れて、膨出部57の後面側の排風口58から走行風が排出される。フェンダ上部52の先端が排風口58よりも低い位置にあるため、フェンダ側部53の前縁56から排風口58に向かって膨出部57の内側を走行風が後斜め上方に抜けていく。ブレーキディスク47に走行風が吹き付けられ、ブレーキディスク47の周辺の熱気が走行風に押し流されて、熱気を含んだ走行風が排風口58から排出されている。
【0030】
排風口58は膨出部57の膨らみに倣って形成されているため、排風口58から走行風がスムーズに排出されている。排風口58の後方にはフロントフォーク23が位置しているが、排風口58がフロントフォーク23の延在方向と同じ後斜め上方を向いているため、走行風の大部分はフロントフォーク23側には流れない。走行風の一部がフロントフォーク23側に流れるが、フロントフォーク23の前方がガイド部61に覆われている。このため、走行風の一部がフロントフォーク23に吹き当てられず、走行風の流れがフロントフォーク23によって乱されることがない。
【0031】
フロントフォーク23に向かう走行風は、ガイド部61の前面部62と側面部63に沿って流れて二手に分かれる。一方の走行風は前面部62に沿ってフロントフォーク23の前方で上方に流れ、他方の走行風は側面部63に沿ってフロントフォーク23の前方で車幅方向外側に流れる。前面部62と側面部63が略流線形の曲面で形成されているため、ガイド部61による空気抵抗の増加が最小限に抑えられている。このように、フェンダ側部53の前縁56から走行風が入り込み、排風口58から走行風がスムーズに抜けていくため、フェンダ側部53の内側のブレーキディスク47が走行風によって効果的に冷却される。
【0032】
以上、本実施例によれば、フェンダ側部53の前縁56から膨出部57の内側に走行風が流れ込み、膨出部57の後面側の排風口58から走行風が排出される。走行風がフェンダ側部53の前縁56から排風口58にスムーズに流れて、フェンダ側部53の内側のブレーキディスク47が走行風によって効果的に冷却される。また、前面視にて膨出部57に作られた死角に排風口58が形成されているため、排風口58が目立ち難くなって車両外観が悪化することがない。さらに、フロントフェンダ26に対する排風口58の形成によって、車両外観に影響を与えるほどフロントフェンダ26が大型化することがない。
【0033】
なお、本実施例では、膨出部がフェンダ側部の前縁から後方に向かって車幅方向に膨らむように形成されたが、膨出部の形状は特に限定されない。膨出部は、フェンダ側部の前側で車幅方向外側に膨らむように形成されていればよい。
【0034】
また、本実施例では、排風口が後方に向かって幅広になるように形成されたが、排風口の形状は特に限定されない。排風口は、膨出部の内側に流入した走行風を排出可能に形成されていればよい。
【0035】
また、本実施例では、排風口がフロントフォークの前方に位置付けられたが、排風口は前面視にて死角になる膨出部の後面側に位置付けられていればよい。また、排風口がブレーキディスクの上方に位置付けられたが、排風口がブレーキディスクの側方に位置付けられてもよい。さらに、排風口がフェンダ上部の先端よりも上方に位置付けられたが、排風口がフェンダ上部の先端よりも下方に位置付けられてもよい。
【0036】
また、本実施例では、排風口がフロントフォークの延在方向に沿った方向に向けられているが、排風口の向きは特に限定されない。排風口はフロントフォークの延在方向に交差する方向に向けられていてもよい。なお、フロントフォークの延在方向に沿った方向とは、フロントフォークの延在方向と平行な方向に限定されず、実質的にフロントフォークの延在方向と平行な向きであればよい。
【0037】
また、本実施例では、ガイド部がフロントフォークの前方で排風口よりも上方及び車幅方向外側に膨らむように形成されたが、ガイド部の形状は特に限定されない。ガイド部は排風口から排出された走行風をフロントフォークから逸らすような外面形状に形成されていればよい。
【0038】
また、本実施例のフロントフェンダは、自動三輪車等の他の鞍乗型車両にも適宜適用することができる。ここで、鞍乗型車両とは、ライダーがシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、ライダーがシートに跨らずに乗車するスクータタイプの車両も含んでいる。
【0039】
以上の通り、本実施例のフロントフェンダ(26)は、ブレーキディスク(47)が設けられた前輪(25)を上方から覆うフェンダ上部(52)と、ブレーキディスクの上部を側方から覆うフェンダ側部(53)と、を有するフロントフェンダであって、フェンダ側部には、当該フェンダ側部の前側で車幅方向外側に膨らむ膨出部(57)と、膨出部の内側に流入した走行風を排出する排風口(58)と、が形成され、前面視にて死角になる膨出部の後面側に排風口が位置付けられている。この構成によれば、膨出部の内側に走行風が流れ込み、膨出部の後面側の排風口から走行風が排出される。膨出部の内側の走行風が排風口にスムーズに流れて、フェンダ側部の内側のブレーキディスクが走行風によって効果的に冷却される。また、前面視にて膨出部に作られた死角に排風口が形成されているため、排風口が目立ち難くなって車両外観が悪化することがない。さらに、フロントフェンダに対する排風口の形成によって、車両外観に影響を与えるほどフロントフェンダが大型化することがない。
【0040】
本実施例のフロントフェンダにおいて、排風口が後方に向かって幅広になる。この構成によれば、膨出部の膨らみに倣って排風口が大きくなるため、膨出部の内側から走行風をよりスムーズに排出することができる。
【0041】
本実施例のフロントフェンダにおいて、排風口が前輪を支持するフロントフォーク(23)の前方に位置付けられ、排風口がフロントフォークの延在方向に沿った方向に向いている。この構成によれば、フロントフォークに走行風が当たり難くなり、走行風の乱れが抑えられて排風口から走行風をスムーズに排出することができる。
【0042】
本実施例のフロントフェンダにおいて、フェンダ側部には、排風口から排出された走行風を後方に導くガイド部(61)が形成され、ガイド部がフロントフォークの前方で排風口よりも上方及び車幅方向外側に膨らんでいる。この構成によれば、排風口から排出された走行風がガイド部の膨らみに沿って上方及び車幅方向外側に流れて、フロントフォークを避けるようにして走行風が車両後方にスムーズに導かれる。
【0043】
本実施例のフロントフェンダにおいて、ガイド部が車幅方向内側の前面部(62)と車幅方向外側の側面部(63)に分かれており、前面部が排風口からフロントフォークの前方で上方に走行風を導き、側面部が排風口からフロントフォークよりも車幅方向外側に走行風を導いている。この構成によれば、ガイド部の前面部及び側面部によってフロントフォークを避けるように走行風が上方及び車幅方向外側にスムーズに導かれる。
【0044】
本実施例のフロントフェンダにおいて、前面視にて膨出部がガイド部よりも車幅方向内側に位置している。この構成によれば、前面視にてガイド部よりも膨出部が小さく、フロントフォークを隠すガイド部に膨出部が重なることによって膨出部が目立ち難くなる。膨出部の膨らみが抑えられてフロントフェンダの小型化を図ることができる。
【0045】
本実施例のフロントフェンダにおいて、排風口が、フロントフォークに前輪を支持するアクスルシャフト(41)よりも前方に位置している。この構成によれば、排風口がフロントフォークから離れ、フロントフォークに走行風が当たり難くなって、排風口から走行風をスムーズに排出することができる。
【0046】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0047】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0048】
23 :フロントフォーク
25 :前輪
26 :フロントフェンダ
41 :アクスルシャフト
47 :ブレーキディスク
49 :ブレーキキャリパ
52 :フェンダ上部
53 :フェンダ側部
57 :膨出部
58 :排風口
61 :ガイド部
62 :前面部
63 :側面部