(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】アンカー部材及び地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/10 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
E02D3/10 103
(21)【出願番号】P 2020170358
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真一
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】杉江 茂彦
(72)【発明者】
【氏名】中道 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 徹
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-279657(JP,A)
【文献】特開2014-190117(JP,A)
【文献】実開昭61-045440(JP,U)
【文献】実開昭55-140535(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積する改良対象土に埋設されるとともに、前記改良対象土の底面側に設けられる排水層に接続されるドレーン材に装着するアンカー部材であって、
前記ドレーン材を挿通する挿通部が形成されたアンカープレートと、
前記アンカープレートの下面側から下方に向けて突出するように設けられ、
前記ドレーン材を前記挿通部に挿通させた際に、前記アンカープレートの下方側に位置する前記ドレーン材の下端余長部を保形する
とともに延在方向を転換させるドレーン保形部材と、を備え、
前記アンカープレートの下面を前記排水層の上面に当接させた状態で、前記ドレーン保形部材が、前記ドレーン材の下端余長部とともに前記排水層に挿入されることを特徴とするアンカー部材。
【請求項2】
請求項1に記載のアンカー部材において、
前記ドレーン保形部材に、前記下端余長部に接する接触部が設けられることを特徴とするアンカー部材。
【請求項3】
請求項1に記載のアンカー部材において、
前記ドレーン保形部材の下端部に、前記下端余長部を貫通するパンチ部が設けられることを特徴とするアンカー部材。
【請求項4】
請求項1に記載のアンカー部材において、
前記ドレーン保形部材に、前記下端余長部を保持する保持部が設けられることを特徴とするアンカー部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のアンカー部材を装着したドレーン材を用いて排水層上に堆積する改良対象土の間隙水を前記排水層へ排出し、地盤改良を行う地盤改良工法であって、
前記アンカープレートの前記挿通部に前記ドレーン材を挿通させて、該ドレーン材に前記アンカー部材を装着し、前記アンカー部材の下方側に前記ドレーン材の下端余長部を設ける工程と、
前記改良対象土に前記ドレーン材を打設するとともに、前記ドレーン材の下端余長部を前記排水層に挿入し、該排水層と前記ドレーン材を接続する工程と、
を備えることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項6】
請求項5に記載の地盤改良工法において、
前記ドレーン材が打設された前記改良対象土に、前記排水層及び前記ドレーン材を介して負圧を作用させる工程を備えることを特徴とする地盤改良工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレーン材に装着するアンカー部材、及びドレーン材を用いた地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軟弱な粘性土地盤の圧密沈下を促進し強度増加を図る工法として、バーチカルドレーンを利用した載荷盛土工法が知られている。載荷盛土工法では、改良対象となる軟弱な粘性土に複数のドレーン材を所定の間隔で鉛直状に打設するとともに、このドレーン材の上部及び下部を、軟弱な粘性土の上下に設ける上部砂層及び下部砂層に接触させる。この状態で、上部砂層の上方に盛土を造成して載荷すると、軟弱な粘性土の間隙水がドレーン材を介して上部砂層もしくは下部砂層に排水され、地盤の沈下が促進される。
【0003】
また、盛土を使用せずに圧密沈下を促進する工法として、複数のドレーン材が打設された軟弱な粘性土に負圧を作用させて強制的に排水する真空圧密工法も知られている。例えば特許文献1では、改良対象となる地盤の底面側から負圧を作用させる工法が開示されている。
【0004】
具体的には、透水層上に改良対象地盤を形成したのち、ドレーン材を打設して透水層と接触させるとともに、改良対象地盤の上面を不透水層で被覆する。次に、吸気管及び吸気ポンプを配備した集水井戸を、透水層と連通するようにして改良対象地盤中に複数配置する。こののち、集水井戸を利用して透水層及びドレーン材を介して改良対象地盤に負圧を作用させ、埋立地盤の水分を集水井戸に集水している。
【0005】
なお、上記の改良対象地盤の底面側から負圧を作用させる工法で用いる透水層は、新たに敷設する場合だけでなく、例えば、透水層として機能させることが可能な状態で自然に堆積する砂層が存在する場合や、過去に実施された工事で敷設された透水層が再利用可能な状態で存在する場合などは、これらを利用することもある。また、改良したい地盤が既設の埋立地盤である場合にも、その底面側に上記の自然の砂層や過去の工事で敷設された透水層が存在する場合には、底面側から負圧を作用させる工法を採用することがある。
【0006】
上述の工法はいずれの場合にも、ドレーン材の打設にマンドレルを用いる方法を採用する場合が多い。その方法は、例えば特許文献2の従来技術で開示されているように、鉛直状に立設した筒状のマンドレル内にドレーン材を挿入し、マンドレルの下端より露出したドレーン材の端部近傍にアンカー装置を取り付ける。この状態で、マンドレルを改良対象となる地盤に挿入する。
【0007】
こののち、アンカー装置が所定の深度に到達したところでマンドレルを引く抜くと、アンカー装置が、ドレーン材の共上がりを防止する装置としての機能するため、ドレーン材とアンカー装置は軟弱地盤中に残置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-279657号公報
【文献】特開2013-124474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のアンカー装置は、ドレーン材の幅より略長大なスリット孔が並列に2本設けられた平板状のアンカープレートよりなり、ドレーン材に装着する際には、ドレーン材を、アンカープレートの上面側から往復させるようにして、2本のスリット孔に挿通させる。これにより、アンカープレートの下面側には、ドレーン材の方向転換部分がこのアンカープレートに沿うようにして形成される。
【0010】
このようなアンカー装置を、例えば特許文献1のドレーン材に適用して改良対象地盤に打設すると、打設中に生じる抵抗によって、アンカー装置が透水層に当接したことを検知できる。これにより、アンカープレートの下面側に位置するドレーン材の方向転換部分を透水層に接触させることができる。
【0011】
しかし、このドレーン材の方向転換部分は、アンカープレートより面積が小さいことから、透水層との接触状態が良好でない場合には、改良対象地盤から集水した間隙水を効率よく透水層に排水できない。これに対応するべく、アンカープレートの下面側でドレーン材を弛ませ、方向転換部分の面積を大きく確保しようとすると、この弛んだ状態の方向転換部分が、透水層に接触した際に押しつぶされるなどして変形し、折れを生じる可能性がある。このような場合には、ドレーン材で集水した間隙水を、スムーズに透水層へ排出させることができない。
【0012】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、改良対象土に埋設したドレーン材と、改良対象土の底面側に位置する排水層とを確実に接続し、改良対象土の間隙水を効率よく排出することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するため、本発明のアンカー部材は、堆積する改良対象土に埋設されるとともに、前記改良対象土の底面側に設けられる排水層に接続されるドレーン材に装着するアンカー部材であって、前記ドレーン材を挿通する挿通部が形成されたアンカープレートと、前記アンカープレートの下面側から下方に向けて突出するように設けられ、前記ドレーン材を前記挿通部に挿通させた際に、前記アンカープレートの下方側に位置する前記ドレーン材の下端余長部を保形するとともに延在方向を転換させるドレーン保形部材と、を備え、前記アンカープレートの下面を前記排水層の上面に当接させた状態で、前記ドレーン保形部材が、前記ドレーン材の下端余長部とともに前記排水層に挿入されることを特徴とする。
【0014】
本発明のアンカー部材は、前記ドレーン保形部材に、前記下端余長部に接する接触部が設けられることを特徴とする。
【0015】
本発明のアンカー部材は、前記ドレーン保形部材の下端部に、前記下端余長部を貫通するパンチ部が設けられることを特徴とする。
【0016】
本発明のアンカー部材は、前記ドレーン保形部材に、前記下端余長部を保持する保持部が設けられることを特徴とする。
【0017】
本発明のアンカー部材によれば、アンカープレートの下面側に下方に向けて突出するドレーン保形部材を備える。これにより、アンカープレートの挿通部にドレーン材を挿通させた際に、アンカープレートの下方側に位置するドレーン材の下端余長部を、ドレーン保形部材に対応した形状に保持し、外力が作用した場合にもその変形を抑制することができる。
【0018】
したがって、改良対象土に埋設されたドレーン材を改良対象土の底面側に設けられた排水層に接続する際、ドレーン材の下端余長部を排水層に挿入することで、ドレーン材と排水層との確実に接続することが可能となる。このため、改良対象土の間隙水及び空気を、ドレーン材からこの下端余長部を介して滞りなく排水層に排出させて、効率よく改良対象土の圧密沈下を促進させることが可能となる。
【0019】
また、ドレーン保形部材の形状を変更することにより、ドレーン材の下端余長部はその形状や大きさを容易に変更することができる。したがって、改良対象土の間隙水や空気をドレーン材を介して排水層へスムーズに流下させるべく、下端余長部の貫入量や接触面積等を変更したい場合にも、ドレーン保形部材を用いて容易に調整することが可能となる。
【0020】
本発明の地盤改良工法は、本発明のアンカー部材を装着したドレーン材を用いて排水層上に堆積する改良対象土の間隙水を前記排水層へ排出し、地盤改良を行う地盤改良工法であって、前記アンカープレートの前記挿通部に前記ドレーン材を挿通させて、該ドレーン材に前記アンカー部材を装着し、前記アンカー部材の下方側に前記ドレーン材の下端余長部を設ける工程と、前記改良対象土に前記ドレーン材を打設するとともに、前記ドレーン材の下端余長部を前記排水層に挿入し、該排水層と前記ドレーン材を接続する工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の地盤改良工法によれば、改良対象土にドレーン材を打設するのみでドレーン材の下端余長部を排水層に挿入でき、また、ドレーン材と排水層とを確実に接続できる。したがって、特別な手順を追加したり新たな設備を用いることなく、高い品質の地盤改良工事を実施することが可能となる。
【0022】
また、下端余長部を排水層に挿入する際には、アンカー部材のアンカープレートは排水層に当接していれば足りる。したがって、排水層がアンカープレートにより乱されることがないため、ドレーン材と排水層との接続部に、明確かつ健全な状態を確保することが可能となる。
【0023】
さらに、排水層にアンカー部材全体が挿入された場合であっても、ドレーン材の下端余長部はこれらに先行して排水層に挿入されるから、少なくとも下端余長部の周囲で排水層が大きく乱されることはない。したがって、改良対象土の間隙水が、ドレーン材から排水層に排出される挙動を阻害することもない。
【0024】
本発明の地盤改良工法は、前記ドレーン材が打設された前記改良対象土に、前記排水層及び前記ドレーン材を介して負圧を作用させる工程を備えることを特徴とする。
【0025】
本発明の地盤改良工法によれば、確実に接続されたドレーン材と排水層とを利用して、改良対象土の下方から高さ方向全域に負圧を作用させることができるため、より高い品質の地盤改良工事を効率よく実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、アンカープレートの下面側にドレーン保形部材を設けることで、アンカー部材の下方側に位置し、外力が作用しても変形することのない下端余長部をドレーン材に形成できるため、この下端余長部分を利用して、改良対象土に打設したドレーン材と改良対象土の底面側に設けた排水層とを確実に接続し、改良対象土の間隙水や空気を効率よく排出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施の形態におけるアンカー部材を装着したドレーン材による地盤改良工事の概略を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態におけるドレーン材の概略を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態におけるドレーン材の打設時に用いるマンドレルの概略を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における接触型のドレーン保形部材を備えたアンカー部材を示す図である(その1)。
【
図5】本発明の実施の形態における接触型のドレーン保形部材を備えたアンカー部材を示す図である(その2)。
【
図6】本発明の実施の形態における貫通型のドレーン保形部材を備えたアンカー部材を示す図である(その1)。
【
図7】本発明の実施の形態における貫通型のドレーン保形部材を備えたアンカー部材を示す図である(その2)。
【
図8】本発明の実施の形態における保持型のドレーン保形部材を備えたアンカー部材を示す図である(その1)。
【
図9】本発明の実施の形態における保持型のドレーン保形部材を備えたアンカー部材を示す図である(その2)。
【
図10】本発明の実施の形態におけるアンカー部材を設けたドレーン材による地盤改良工法の手順を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態における地盤改良工法の他の事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、真空圧や盛土を利用して改良対象地盤の間隙水を排出し、改良対象地盤に圧密沈下を生じさせることにより地盤の強度増加を図る地盤改良工事に好適な、ドレーン材に装着するアンカー部材、及びドレーン材を用いた地盤改良工法である。
【0029】
以下に、海域で行う埋立工事において、改良対象土に底面側から負圧を作用させ圧密促進を図る工法を事例に挙げ、
図1~
図11を参照しつつ、その詳細を説明する。これに先立ち、改良対象地盤の底面側から負圧を作用させる圧密促進工法の概略を説明する。
【0030】
≪負圧による圧密促進工法≫
図1で示すように、コンクリート造の護岸堤体Eで仕切られた埋立領域10には、改良対象土Dが堆積されて埋立地盤が形成され、土壌排水装置1を介してその間隙水及び空気が強制的に排出されている。
【0031】
土壌排水装置1は、改良対象土Dの間隙水を集水する集水設備2と、集水設備2を介して改良対象土Dに負圧を作用させる負圧作用設備3とを備えている。集水設備2は、
図1で示すように、周縁部及び下面に閉塞部211a、211bが設けられた排水層21と、排水層21に埋設された水平ドレーン22と、排水層21に接続された鉛直ドレーン23と、により構成されている。
【0032】
鉛直ドレーン23は、排水層21の上面に堆積された改良対象土D内に立設状態で配置され、排水層21を平面視した際に、複数が平面全体に分散して配置されている。その材料は、水分及び空気を透過するものの土砂等の流入を抑制可能な帯状の排水材であればいずれを用いてもよく、本実施の形態では、変形自在な帯状のボードドレーンを採用している。
【0033】
なお、ボードドレーンは、
図2で示すように、複数の溝が長手方向に形成された長尺な芯材23aと、この芯材23aを被覆するフィルター材23bにより構成され、フィルター材23bは、高い透水性能を有するものの粒状材料を透過することのない不織布等よりなる。
【0034】
このような構成の鉛直ドレーン23は、
図1で示すように、上端部近傍に気密キャップ233が設置された状態で、気中に露出することのないよう改良対象土D中に埋設されている。また、下端部における排水層21の表面に相当する高さ位置には後述するアンカー部材4が装着されて、アンカー部材4より下方側に位置する下端余長部231が、排水層21に挿入されている。
【0035】
排水層21は、良質な砂材を用いた透水性の高い敷砂であるサンドマットであり、埋立領域10の海底地盤上に、護岸堤体Eとの間に所定の距離を確保した状態で敷設されている。そして、排水層21内には、鉛直ドレーン23と同様のボードドレーンよりなる水平ドレーン22が、露出することがないよう埋設されている。
【0036】
なお、排水層21は、高い透水性能を有し、地盤の上面に対して面状に敷設可能で、さらに、鉛直ドレーン23の下端部近傍に設ける下端余長部231を挿入可能な材料で構成されていれば、何れを採用してもよい。
【0037】
負圧作用設備3は、一端が水平ドレーン22に接続する連結管31と、この連結管31の他端に接続される貯水槽32を備えている。また、貯水槽32内を減圧する真空ポンプを含む減圧装置33と、貯水槽32内に貯留する間隙水を排出する揚水ポンプを含む排水装置34とを備えている。
【0038】
このような構成の土壌排水装置1は、減圧装置33と排水装置34を稼働して貯水槽32内を減圧すると、連結管31から水平ドレーン22、排水層21及び鉛直ドレーン23を介して改良対象土Dの全体に負圧が作用される。これにより、改良対象土D中の間隙水及び空気を効率よく排出させることができる。
【0039】
このような地盤改良効果を確実に得るためには、アンカー部材4の下方側に位置する鉛直ドレーン23の下端余長部231を、排水層21に確実に挿入して接続させる必要がある。そこで、鉛直ドレーン23に装着するアンカー部材4には、下端余長部231の形状を保持するドレーン保形部材6が設けられている。以下に、アンカー部材4の詳細を説明する。
【0040】
≪アンカー部材≫
アンカー部材4は、
図3で示すように、鉛直ドレーン23を改良対象土D中に打設する際に用いられるマンドレル7の先端部が当接可能な大きさのアンカープレート5と、アンカープレート5の下面側に設けられたドレーン保形部材6とを備えている。
【0041】
アンカープレート5は、
図4(a)で示すように、鋼板等の平板材により構成されており、その中ほどには、鉛直ドレーン23を挿通可能な一対のスリット51a、51bが間隔を設けて平行に形成されている。また、ドレーン保形部材6は、一対のスリット51a、51bの間であってアンカープレート5の下面より下方に向けて突出するように設けられている。
【0042】
このような形状のアンカー部材4を鉛直ドレーン23に装着する際には、アンカープレート5の上面側から、一方のスリット51aに鉛直ドレーン23を挿入する。すると、鉛直ドレーン23の側面がドレーン保形部材6に当接するから、このドレーン保形部材6を利用して鉛直ドレーン23の延在方向を転換させる。
【0043】
そして、方向転換した鉛直ドレーン23をアンカープレート5の下面側から他方のスリット51bへ挿入する。こうして、一対のスリット51a、51bを利用してアンカープレート5を挟んで鉛直ドレーン23を往復させることで、鉛直ドレーン23はアンカー部材4に装着される。また、アンカー部材4の下方側に位置する鉛直ドレーン23の下端余長部231は、ドレーン保形部材6によってその形状が略U字形に保形される。
【0044】
このように、鉛直ドレーン23の下端余長部231は、ドレーン保形部材6に対応した形状に保持され、外力が作用した場合にも変形が抑制される。したがって、排水層21と鉛直ドレーン23を接続させるには、
図4(b)で示すように、マンドレル7の下端をアンカープレート5の上面に当接させて押圧力を作用させることにより、鉛直ドレーン23を改良対象地盤D1中に打設する。
【0045】
そして、アンカープレート5が排水層21に当接したところで打設作業を停止する。すると、アンカープレート5の下方に位置する鉛直ドレーン23の下端余長部231は、ドレーン保形部材6によって保形された状態で排水層21に確実に挿入されて、鉛直ドレーン23と排水層21との間に接続構造が形成される。
【0046】
このように、鉛直ドレーン23の下端余長部231が排水層21に確実に挿入されることから、両者の接続構造は明確なものとなる。これにより、改良対象土Dの間隙水及び空気は、鉛直ドレーン23からこの下端余長部231を介して滞りなく排水層21に排出される。したがって、効率よく改良対象土Dの圧密排水を進行させることが可能となる。
【0047】
また、鉛直ドレーン23の下端余長部231は、ドレーン保形部材6の形状を変更することにより、その形状や大きさを容易に変更することができる。したがって、改良対象土Dの間隙水や空気を鉛直ドレーン23を介して排水層21へスムーズに流下させるべく、排水層21に対する下端余長部231の貫入量や接触面積を、ドレーン保形部材6を用いて適宜調整することも可能となる。
【0048】
そこで、ドレーン保形部材6について、形状の事例と併せて鉛直ドレーン23との取り合いの事例を、下端余長部231に接触する接触型、下端余長部231に一部貫通する貫通型、下端余長部231を保持する保持型の3つのタイプに分類し、以下に説明する。
【0049】
≪ドレーン保形部材:接触型≫
図4(a)(b)では、ドレーン保形部材6として函体を採用し、アンカープレート5の下面に固定している。この場合には、ドレーン保形部材6の外周縁部が下端余長部231との接触部61となる。したがって、あらかじめ大きさや形状の異なる函体を複数準備しておき、これを適宜取り替えることにより、下端余長部231の形状を変更し、排水層21に対する下端余長部231の貫入量や接触面積を適宜調整することができる。
【0050】
なお、ドレーン保形部材6として機能する函体は、鋼板を加工して整形してもよいし、鉄筋かご等を採用してもよい。さらにその形状は、直方体に限定されるものではなく、立体形状であれば、角柱や角錐等に成形してもよいし、肉薄なプレート状部材を採用してもよい。
【0051】
また、鉛直ドレーン23の下端余長部231を排水層21へ貫入する際の貫入抵抗を低減させたい場合には、例えば、
図5(a)(b)で示すように、ドレーン保形部材6の下端形状を曲面に形成すると良い。
【0052】
図5(a)では、横臥姿勢にした円筒体を複数本束ねてドレーン保形部材6を形成している。こうすると下端余長部231との接触部61となる下端部が曲面状となるため、排水層21に挿入する際の抵抗を低減させることができる。
【0053】
また、円筒体として、市場で一般に取引されている塩ビ管やスチールパイプ等を使用できる。したがって、経済的であるとともに、軽量化を図ることも可能となる。さらに、切り出し長さや束ねる本数を適宜変更できるため、下端余長部231の長さや形状を自在に変更し、排水層21に対する下端余長部231の貫入量や接触面積を容易に調整することができる。
【0054】
図5(b)では、アンカープレート5そのものを、下端余長部231との接触部61となる下端部が緩やかな凸部が形成されるよう折り曲げ加工し、ドレーン保形部材6を形成している。こうすると、ドレーン保形部材6を別途準備し、アンカープレート5に固定するといった煩雑な作業を省略することが可能となる。
【0055】
さらに、
図5(c)で示すように、ドレーン保形部材6として複数のボルトを採用してもよい。この場合には、アンカープレート5に設けた複数の貫通孔各々にボルトを装着するとともに、その先端に溝形鋼を設け下端余長部231との接触部61とするとよい。こうすると、アンカープレート5に対するボルトの垂下量を、施工現場にて適宜変更し、排水層21に対する下端余長部231の貫入量や接触面積を調整できる。
【0056】
≪ドレーン保形部材:貫通型≫
図6(a)では、ドレーン保形部材6として横臥姿勢の三角柱を採用し、これをアンカープレート5の下面に固定している。この場合には、ドレーン保形部材6の下端部(三角柱の側壁角部)が、下端余長部231を貫通するパンチ部62として機能する。
【0057】
つまり、
図6(b)で示すように、鉛直ドレーン23を改良対象土D中に打設すると排水層21に挿入する前の下端余長部231は、ドレーン保形部材6に接触するのみで略U字形状をなしている。しかし、アンカープレート5が排水層21に当接するまで打設すると、ドレーン保形部材6及び下端余長部231が排水層21に挿入する際の抵抗により、パンチ部62が鉛直ドレーン23の幅方向中ほどを貫通する。
【0058】
これにより、下端余長部231の一部が破損するものの、その形状は保持される。なお、下端余長部231に生じた破損部232は、鉛直ドレーン23で集水した改良対象土Dの間隙水を排水層21に流下させる水みちとして機能することとなる。なお、ドレーン保形部材6に設けるパンチ部62は、鉛直ドレーン23の幅より短小な形状に形成しておくとよい。これは、パンチ部62により下端余長部231が切断されないようにするためである。
【0059】
パンチ部62が設けられたドレーン保形部材6としては、例えば、
図7(a)で示すように、アンカープレート5に設けたボルト孔に螺合させた複数のボルトを採用し、これらボルトの先端をパンチ部62として機能させて、下端余長部231に破損部232を生じさせてもよい。または、
図7(b)で示すように、アンカープレート5自体を折り曲げ加工してドレーン保形部材6を形成するに際し、下端部を鋭角な突状部に形成してこれをパンチ部62として機能させる。そして、このパンチ部62で、下端余長部231に破損部232を生じさせてもよい。
【0060】
≪ドレーン保形部材:保持型≫
図8(a)では、ドレーン保形部材6として鉛直ドレーン23が貫通可能な孔を有する函体を採用し、アンカープレート5の下面に固定している。この場合には、鉛直ドレーン23が貫通可能な孔を、鉛直ドレーン23の保持部63として機能させている。また、
図8(b)では、横臥姿勢にした円筒体を複数本束ねてドレーン保形部材6とし、円筒体どうしの間に鉛直ドレーン23が貫通可能な隙間を設け、これを保持部63として機能させている。
【0061】
こうすると、
図8(a)(b)で示すように、鉛直ドレーン23が一対のスリット51a、51b及び保持部63を貫通することにより、下端余長部231が保形される。そして、この状態で
図8(c)で示すように、アンカープレート5が排水層21も当接するまで鉛直ドレーン23を改良対象土D中に打設すると、ドレーン保形部材6の下端部が先行して排水層21に挿入されるため、鉛直ドレーン23の下端余長部231を保護することが可能となる。
【0062】
なお、ドレーン保形部材6は、上記の接触型、貫通型及び保持型のいずれの場合も、例えば、
図9(a)で示すように、ドレーン保形部材6をアンカープレート5に対してヒンジ部材64を介して設置することも可能である。
図9(a)では、保持部63が設けられているドレーン保形部材6を例示している。
【0063】
この場合には、
図9(b)で示すように、鉛直ドレーン23を打設する際、改良対象土D中でアンカープレート5を傾斜させた状態で打設させる。こうすると、アンカープレート5を水平に維持した状態で打設する場合と比較して打設抵抗を低減でき、鉛直ドレーン23の打設作業が容易となる。
【0064】
この状態でマンドレル7を介して押圧力を作用させると、アンカー部材4は、ドレーン保形部材6が先行して排水層21に挿入されたのち、アンカープレート5の一部が排水層21の表面に到達する。傾斜した状態のアンカープレート5は、排水層21の抵抗を受けるためヒンジ部材64を介して回転し、排水層21上で水平となる。
【0065】
≪地盤改良工法≫
上記のアンカー部材4を装着した鉛直ドレーン23を利用して地盤改良工事を実施する手順を、鉛直ドレーン23の打設方法と併せて、以下に、
図3、
図4及び
図10を参照しつつ説明する。
【0066】
図10(a)で示すように、海底地盤よりなる閉塞部211bを有する埋立領域10に対して、水平ドレーン22が埋設された排水層21を敷設するとともに、護岸堤体Eの内壁面に沿って貯水槽32を設置し、連結管31を介して水平ドレーン22と貯水槽32を連通させる。これらと前後してもしくは同時に、貯水槽32に減圧装置33と排水装置34を設置し、土壌排水装置1を構築する。こののち、排水層21の上面に改良対象土Dを投下し、排水層21の表面全面を覆い、負圧作用設備3を稼働させる。こうして、貯水槽32内を減圧するとともに排水装置34を稼働させ、貯水槽32内に排水された間隙水を揚水する。
【0067】
このような改良対象土Dを排水層21上に堆積させる作業と、堆積した改良対象土Dの間隙水を強制的に吸引し排水する作業をほぼ同時に開始し、以降、両者の作業を並行して進行させる。堆積した改良対象土Dが所定の高さに到達したところで、改良対象土Dの堆積作業を一旦中断し、改良対象土D中の所定位置に鉛直ドレーン23を打設する。
【0068】
<ドレーン材の打設方法>
鉛直ドレーン23を打設する際には、
図3で示すように、鉛直ドレーン23をリール71から巻き出しつつ起立状のマンドレル7に挿通させる。こののち、マンドレル7の下端部近傍で鉛直ドレーン23に、上述したアンカー部材4を装着する。これにより、アンカー部材4の下方側には、ドレーン保形部材6により保形された鉛直ドレーン23の下端余長部231が設けられる。
【0069】
こののち、例えば
図4(b)で示すように、アンカープレート5の上面に当接するマンドレル7を介して押圧力を作用させることにより、鉛直ドレーン23を改良対象土D中に打設する。アンカープレート5が少なくとも排水層21の上面に接したところで打設作業を終了し、鉛直ドレーン23及びアンカー部材4を残置しつつ、マンドレル7を引き抜いていく。また、鉛直ドレーン23の上端には、気密キャップ233を設けておく。
【0070】
すると、
図10(b)で示すように、排水層21にはアンカー部材4の下方側に位置する鉛直ドレーン23の下端余長部231が、ドレーン保形部材6により保形された状態で挿入されている。また、排水層21がアンカー部材4により乱されることがない。したがって、鉛直ドレーン23と排水層21との接続部に、明確かつ健全な状態を確保することが可能となる。
【0071】
なお、排水層21にアンカー部材4全体が挿入された場合であっても、鉛直ドレーン23の下端余長部231は先行して排水層21に挿入されるから、少なくとも下端余長部231の周囲で排水層21が大きく乱されることはない。したがって、改良対象土Dの間隙水や空気が、鉛直ドレーン23から排水層21に排出される挙動を阻害することもない。
【0072】
このような手順で、鉛直ドレーン23の打設作業を、順次繰り返し、打設予定の鉛直ドレーン23をすべて打設したのち、改良対象土Dの投下作業を再開する。もしくは打設作業と並行して、改良対象土Dの投下作業を再開する。こうして、
図1で示すように、鉛直ドレーン23の上端が完全に埋設されるまで改良対象土Dを堆積させる。
【0073】
改良対象土Dが所望の高さに到達したところで投下作業を終了するが、負圧作用設備3の減圧装置33と排水装置34は、改良対象土Dの沈下が収束するか、または沈下量が所定の値以下になるまで稼働させる。
【0074】
上記のとおり、アンカー部材4を装着した鉛直ドレーン23を利用した地盤改良工法によれば、改良対象土Dに鉛直ドレーン23を打設することで、鉛直ドレーン23の下端余長部231を排水層21に挿入でき、また、鉛直ドレーン23と排水層21とを確実に接続できる。したがって、特別な手順を追加したり新たな設備を用いることなく、高い品質の地盤改良工事を実施することが可能となる。
【0075】
本発明のアンカー部材4及び地盤改良工法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0076】
本実施の形態では、海域で行う新設の埋立工事に採用する場合を事例に挙げたが、これに限定されるものではなく、既設の埋立地盤や、地上で実施する地盤改良工事に採用することも可能である。したがって、改良対象土Dも、浚渫工事に伴い発生する浚渫土、地中掘削に伴い発生する土砂、建設工事に伴って発生した建設発生土、建設汚泥やヘドロなど泥状物等、土砂が混じった土砂混合物等、いずれをも適用可能である。
【0077】
また、排水層21は、新たに敷設したものに限定されるものではなく、例えば、排水層として機能させることが可能な状態で自然に堆積する砂層が存在する場合や、過去に実施された工事で敷設された排水層が再利用可能な状態で存在する場合には、これらを用いてもよい。
【0078】
また、本実施の形態では、アンカープレート5に設けた一対のスリット51a、51bを、鉛直ドレーン23の挿通部としたが、これに限定するものではない。鉛直ドレーン23が挿通可能であれば本数はいずれでもよく、また、その形状も溝孔に限定されるものではなく、アンカープレート5を切り欠いて形成したものでもよい。
【0079】
さらに、本実施の形態では、地盤改良工法として改良対象土Dに負圧を作用させる場合を事例に挙げたが、必ずしもこれに限定するものではない。例えば、
図11で示すような、盛土載荷により圧密沈下を促進し、地盤強化を図る地盤改良工法にも採用することが可能である。
【0080】
この場合には、下部排水層11を敷設したのち、これを被覆するようにして、改良対象土Dを投下し堆積させる。改良対象土Dが所定の高さに到達したところで、前述のマンドレル7を利用してアンカー部材4が装着された鉛直ドレーン23を、改良対象土D中に打設する。アンカープレート5が排水層21の上面に当接したところで打設作業を終了し、鉛直ドレーン23及びアンカー部材4を残置してマンドレル7を引く抜く。これにより、鉛直ドレーン23の下端余長部231は下部排水層11に挿入され、鉛直ドレーン23と下部排水層11は確実に接続される。
【0081】
こののち、改良対象土Dの上面を覆うようにして上部排水層12を敷設するとともに、改良対象土Dより上方に露出する鉛直ドレーン23の上端部近傍を屈曲させて、水平ドレーン22とともに上部排水層12内に埋設する。これにより、鉛直ドレーン23は、上部が上部排水層12に接続されるとともに、下部が下端余長部231を介して下部排水層11と確実に接続される。
【0082】
この状態で、上部排水層12上に盛土13を構築して改良対象土Dに載荷する。すると、改良対象土Dの間隙水は鉛直ドレーン23に集水されたのち、上部排水層12及び下部排水層11を介して効率よく排水されることとなる。これにより、従来の盛土載荷による地盤改良工事と比較して、効率よく高い品質をもって改良対象土Dよりなる地盤の強度増進を図ることが可能になる。
【符号の説明】
【0083】
1 土壌排水装置
2 集水設備
21 排水層
211a 閉塞部
211b 閉塞部
22 水平ドレーン
221 芯材
23 鉛直ドレーン(ドレーン材)
23a 芯材
23b フィルター材
231 下端余長部
232 破損部
233 気密キャップ
3 負圧作用設備
31 連結管
32 貯水槽
33 減圧装置
34 排水装置
4 アンカー部材
5 アンカープレート
51a スリット(挿通部)
51b スリット(挿通部)
6 ドレーン保形部材
61 接触部
62 パンチ部
63 保持部
7 マンドレル
71 リール
10 埋立領域
11 下部排水層
12 上部排水層
13 盛土
D 改良対象土
E 護岸堤体