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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】鉄塔補強構造、及び鉄塔補強方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/32 20060101AFI20240709BHJP
   E02D 27/42 20060101ALI20240709BHJP
   E02D 37/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
E02D27/32 A
E02D27/42 Z
E02D27/32 Z
E02D37/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020171159
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022062942
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 直明
(72)【発明者】
【氏名】武石 裕幸
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-047581(JP,A)
【文献】特開2017-089109(JP,A)
【文献】特開2008-208634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/32
E02D 27/42
E02D 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の独立基礎で支持される既設鉄塔を補強する構造であって、
複数の前記独立基礎を内部に含み、該独立基礎の位置に開口部が形成された版状のマット基礎と、
前記開口部内にある前記独立基礎の外周に固定され、前記開口部とは縁切りされた係止体と、を備え、
前記係止体の外周面の全部又は一部に、凸状曲面の係止体滑動面が形成され、
前記開口部の内周面の全部又は一部に、凹状曲面の開口部滑動面が形成され、
前記開口部を通過しない前記係止体によって、前記独立基礎の上下移動が前記マット基礎に拘束され、
前記開口部滑動面の曲面形状と対応する前記係止体滑動面の曲面形状によって、前記マット基礎に対する前記独立基礎の回転移動が自由である、
ことを特徴とする鉄塔補強構造。
【請求項2】
前記マット基礎は、コンクリート製であり、
前記係止体滑動面及び/又は前記開口部滑動面に、硬化したコンクリートより小さな摩擦係数を有する潤滑材が設置された、
ことを特徴とする請求項1記載の鉄塔補強構造。
【請求項3】
複数の独立基礎で支持される既設鉄塔を補強する方法であって、
前記独立基礎の外周に、係止体を固定する係止体固定工程と、
前記係止体の位置に開口部が形成され、かつ該係止体と該開口部とが縁切りされるように版状のマット基礎を構築するマット基礎構築工程と、を備え、
前記係止体固定工程では、外周面の全部又は一部に凸状曲面の係止体滑動面が形成された前記係止体を固定し、
前記マット基礎構築工程では、前記開口部の内周面の全部又は一部に凹状曲面の開口部滑動面が形成されるように前記マット基礎を構築し、
前記開口部を通過しない前記係止体によって、前記独立基礎の上下移動が前記マット基礎に拘束されるとともに、前記開口部滑動面の曲面形状と対応する前記係止体滑動面の曲面形状によって、該マット基礎に対する該独立基礎の回転移動が自由である構造を形成する、
ことを特徴とする鉄塔補強方法。
【請求項4】
前記係止体固定工程では、型枠内にコンクリートを打ち込むことによって前記係止体を前記独立基礎に固定し、
前記マット基礎構築工程では、型枠内にコンクリートを打ち込むことによって前記マット基礎を構築し、
前記係止体滑動面に対応する型枠は、硬化したコンクリートより小さな摩擦係数を有する潤滑材型枠が用いられ、
前記開口部滑動面に対応する型枠は、前記係止体滑動面の表面に残された前記潤滑材型枠が用いられる、
ことを特徴とする請求項3記載の鉄塔補強方法。
【請求項5】
前記係止体は、2以上の分割体で構成され、
前記係止体固定工程では、前記独立基礎の外周に2以上の前記分割体を固定して前記係止体を形成する、
ことを特徴とする請求項3記載の鉄塔補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、既設の鉄塔の補強に関するものであり、より具体的には、既設鉄塔の独立基礎がマット基礎に対して回転自由となる補強構造と、これを構築する補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送電用鉄塔は、需要者に電力を安定供給するうえで極めて重要な施設の一つであり、当然ながら堅牢な構造とされ、また原則として沈下(特に不等沈下)が許されない。そのため送電用鉄塔は、岩盤や締まった砂層など相当の地耐力が期待できる支持地盤の上に構築される基礎構造によって支持される。図9は、一般的な送電用の既設鉄塔STを示す側面図(地中は断図面)である。この図に示す既設鉄塔STは、逆T型コンクリート擁壁形構造を基礎(以下、「逆T型基礎FT」という。)とし、この逆T型基礎FT内に既設鉄塔STの脚材MLが埋設されている。これにより、それぞれの脚材MLが逆T型基礎FTに支持され、すなわち既設鉄塔STが逆T型基礎FTに支持される。なお図9では便宜上2つの脚材MLと逆T型基礎FTを示しているが、この既設鉄塔STは4つの脚材MLを備えており、それぞれ4箇所に逆T型基礎FTが構築されている。
【0003】
逆T型基礎FTは、既設鉄塔STや送電線の自重等による鉛直荷重を支持するものであり、具体的にはフーチングを介して単位面積当たりの荷重を低減したうえで支持地盤に伝達し、その反力を得ることによって鉛直下向きの力を支持する構造である。
【0004】
また既設鉄塔STは、自重等による鉛直荷重の他、引き抜きや支圧といった力を逆T型基礎FTに与えることもある。例えば、既設鉄塔STに風荷重が作用する場合、あるいは地震によって既設鉄塔STの自重に伴う荷重が作用する場合、図9に示すように既設鉄塔STには水平力が作用する。このとき上下に長い既設鉄塔STは、脚材MLが固定された逆T型基礎FTを中心に回転しようとする(図に示す矢印A)。そして、この既設鉄塔STの回転に応じて、一方(図では左側)の逆T型基礎FTには引き抜き方向(図に示す矢印B)の力が作用し、他方(図では右側)の逆T型基礎FTには支圧方向(図に示す矢印C)の力が作用する。もちろん逆T型基礎FTは、これら引き抜きや支圧といった力に対しても対抗することができるように設計される。
【0005】
ところで、土木工学は経験工学ともいわれるように、これまで大きな自然災害を経験するたびに、より適切な構造物となるよう設計思想が改善されてきた。特に、平成7年に発生した兵庫県南部地震では、高架橋が倒壊するなど地震荷重によって多くの重要構造物が損傷を受けたことから、平成8年に「道路橋示方書・同解説(社団法人日本道路協会)」(以下、「道路橋示方書」)が大幅に見直されている。平成8年の道路橋示方書の改訂では特に耐震設計法が変更されており、その結果、これまでの設計法では地震時にも耐えると評価されていた構造物が、新たな基準では地震時荷重に耐えられないというケースも生じることとなった。このように新たな経験に基づくと、既に供用されている構造物が実は地震時には耐えられない、つまり何らかの補強が必要であると評価されるケースもあるわけである。
【0006】
既設鉄塔に関しても、度重なる台風や地震といった自然災害に伴い設計荷重を含む設計思想が変更されることもあり、既に供用されている鉄塔が実は台風時や地震時には耐えられないと評価されるケースもある。そして、新たな設計荷重では耐えられないと評価された既設鉄塔に対しては、状況に応じて建て替え工事が行われ、あるいは既設構造を活かした補強工が施されることになる。
【0007】
既設鉄塔を補強する手法としては、これまで様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1では、鉄塔脚の基礎を抱き込んで構築されるマット基礎(マットスラブ)によって補強する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-047581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、既設鉄塔STをマット基礎で補強する場合、そのマット基礎と逆T型基礎FTを剛結合とすることが考えられる。図10は、剛結合されたマット基礎BSと逆T型基礎FTを示す図であり、(a)はその部分断面図、(b)はその平面図である。図10(a)に示すマット基礎BSは、場所打ちコンクリートによって構築された版状(スラブ状)の構造体であり、逆T型基礎FTと一体となるように構築されたものである。また、マット基礎BSと逆T型基礎FTがより剛な結合となるように、いかり材などの結合材をあらかじめ逆T型基礎FT(脚材ML)に取り付けたうえで、その周囲にコンクリートを打ち込んでいる。なお、図10(a)では便宜上2つの脚材MLと逆T型基礎FTを示しているが、この既設鉄塔STは図10(b)に示すように4つの脚材MLと逆T型基礎FTを備えており、すなわちマット基礎BSと4つの逆T型基礎FTが剛結合されている。
【0010】
図10に示す補強構造は、マット基礎BSが鉛直荷重を負担することができ、また図9に示すような引き抜きや支圧といった力に対してもマット基礎BSが対抗するため、合理的な補強構造といえる。しかしながらマット基礎BSと逆T型基礎FTを剛結合とした結果、水平力に伴って逆T型基礎FTが回転しようとする力(図9に示す矢印Bや矢印C)をマット基礎BSが拘束することとなり、マット基礎BSには極めて大きな曲げモーメントが生じる。そして、この曲げモーメントに対抗するためには、マット基礎BSの版厚を相当程度の寸法とする必要があり、また相当程度の鉄筋量が必要となる。この場合、大きな版厚に応じた量のコンクリートを打ち込むこととなり、また密集した複雑な配筋を組み立てることとなり、さらに大きな版厚を確保すべくより深く地盤の掘削(盤下げ)を行うこととなり、マット基礎BSの構築にかかるコストが高騰するとともにその工期も長期化する。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、その版厚が増大化しないようマット基礎に曲げモーメントを発生させない補強構造と、これを構築する補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、独立基礎に係止体を固定するとともに、この係止体とマット基礎をヒンジ結合する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0013】
本願発明の鉄塔補強構造は、複数の独立基礎で支持される既設鉄塔を補強する構造であり、マット基礎と係止体を備えたものである。このうちマット基礎は、複数の独立基礎を内部に含みこれら独立基礎の位置に開口部が形成された版状のものであり、一方の係止体は、開口部内にある独立基礎の外周に固定され開口部とは縁切りされたものである。なお、係止体の外周面の全部(あるいは一部)には「係止体滑動面(凸状曲面)」が形成され、開口部の内周面の全部(あるいは一部)には「開口部滑動面(凹状曲面)」が形成される。係止体は開口部を通過しない形状や寸法を有しており、これにより独立基礎の上下移動がマット基礎に拘束される。また、開口部滑動面の曲面形状と係止体滑動面の曲面形状が対応している(例えば、円弧どうしである)ことによって、マット基礎に対する独立基礎の回転移動は自由とされる。
【0014】
本願発明の鉄塔補強構造は、マット基礎がコンクリート製のものとすることもできる。この場合、係止体滑動面や開口部滑動面には、その表面に「潤滑材(硬化したコンクリートより小さな摩擦係数を有する部材)」が設置される。
【0015】
本願発明の鉄塔補強方法は、本願発明の鉄塔補強構造を構築する方法であり、係止体固定工程とマット基礎構築工程を備えた方法である。このうち係止体固定工程では、外周面の全部(あるいは一部)に係止体滑動面が形成された係止体を独立基礎の外周に固定し、一方のマット基礎構築工程では、開口部の内周面の全部(あるいは一部)に開口部滑動面が形成されるようにマット基礎を構築する。なお、開口部は係止体の位置に形成され、かつ係止体と開口部とが縁切りされるようにマット基礎は構築される。
【0016】
本願発明の鉄塔補強方法は、コンクリートを打ち込むことによって係止体を独立基礎に固定するとともに、コンクリートを打ち込むことによってマット基礎を構築する方法とすることもできる。この場合、係止体滑動面に対応する型枠は潤滑材型枠(潤滑材を用いた型枠)が用いられる。ただしこの潤滑材型枠は、取り外さず(脱型せず)そのまま係止体滑動面に残す。そして開口部滑動面に対応する型枠は、係止体滑動面の表面に残された潤滑材型枠が用いられる。
【0017】
本願発明の鉄塔補強方法は、2以上の分割体で構成される係止体を独立基礎に固定する方法とすることもできる。この場合、係止体固定工程では、独立基礎の外周に2以上の分割体を固定して係止体を形成する。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の鉄塔補強構造、及び鉄塔補強方法には、次のような効果がある。
(1)既設鉄塔を取り壊すことなく既存の構造を活かしつつ補強することによって、より大きな荷重等に対向することができる。これにより、撤去や新設といった莫大なコストを回避することができるうえ、新たな用地を必要としないことから用地交渉にかかる手間や期間を省くことができる。
(2)マット基礎に曲げモーメントが発生しないことから、その版厚の増大化を抑制することができる。これにより、マット基礎の材料(コンクリートや鉄筋)コストや施工コストを低減することができ、さらにマット基礎のための地盤掘削にかかるコストも低減することができ、すなわちマット基礎の構築にかかるコスト高騰や工期の長期化を抑制することができる。
(3)独立基礎の上下移動がマット基礎に拘束されることから、既設鉄塔の自重などをマット基礎が負担することができ、より大きな鉛直荷重に対向することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本願発明の鉄塔補強構造が設けられた送電用の既設鉄塔を示す側面図。
図2】(a)は鉄塔補強構造を示す部分断面図、(b)はマット基礎を上方から見た平面図。
図3】(a)は独立基礎の外周に固定された係止体を示す断面図、(b)は開口部が開放された状態のマット基礎を示す部分断面図、(c)は開口部内に係止体が配置されたマット基礎を示す部分断面図。
図4】(a)は外周面すべてに係止体滑動面が形成された係止体と内周面すべてに開口部滑動面が形成された開口部を示す平面図、(b)は外周面の一部に係止体滑動面が形成された係止体と内周面の一部に開口部滑動面が形成された開口部を示す平面図。
図5】4個の分割体によって構成される係止体を示す平面図。
図6】(a)はマット基礎に対して独立基礎が反時計回りに回転する状況を模式的に示す部分断面図、(b)はマット基礎に対して独立基礎が時計回りに回転する状況を模式的に示す部分断面図。
図7】本願発明の鉄塔補強方法の主な工程を示すフロー図。
図8】本願発明の鉄塔補強方法の主な工程を示すステップ図。
図9】一般的な送電用の既設鉄塔を示す側面図。
図10】(a)は剛結合されたマット基礎と逆T型基礎を示す部分断面図、(b)は剛結合されたマット基礎と逆T型基礎を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明の鉄塔補強構造、及び鉄塔補強方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0021】
1.鉄塔補強構造
本願発明の鉄塔補強構造について図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の鉄塔補強方法は本願発明の鉄塔補強構造を構築する方法である。したがって、まずは本願発明の鉄塔補強構造について説明し、その後に本願発明の鉄塔補強方法について詳しく説明することとする。
【0022】
図1は、本願発明の鉄塔補強構造100が設けられた送電用の既設鉄塔STを示す側面図(地中は断図面)である。本願発明の鉄塔補強構造100は、複数の独立基礎FAで支持される既設鉄塔STを補強する構造であって、後述する「マット基礎」と「係止体」を含んで構成されるものである。図1に示す既設鉄塔STは、4本の脚材ML(図では便宜上2本のみ示す)を有しており、それぞれ独立基礎FAによって個別に支持されている。具体的には、既設鉄塔STの脚材MLが独立基礎FA内に埋設されることによって、それぞれの脚材MLが独立基礎FAに支持され、すなわち既設鉄塔STが4つの独立基礎FAに支持される。図1の独立基礎FAは、例えば図9と同様、逆T型コンクリート擁壁形構造とすることができる。
【0023】
図2(a)は、鉄塔補強構造100を示す部分断面図であり、図2(b)はマット基礎110を上方から見た平面図である。図2(a)に示すように、独立基礎FAには係止体120が固定され、また複数の独立基礎FAの周囲にはマット基礎110が形成される。具体的には、独立基礎FAの周辺地盤を掘削(盤下げ)し、表出した独立基礎FAの外周に係止体120を設置するとともに、独立基礎FAと係止体120を取り囲むようにコンクリートを打ち込むことによってマット基礎110が形成される。なお、独立基礎FAがコンクリート造であれば、その一部を斫った(削り取った)うえで係止体120を固定することもできるし、独立基礎FAの断面寸法によっては斫ることなくそのままの状態で係止体120を固定することもできる。独立基礎FAの一部を斫る場合は、脚材MLにいかり材などの結合材を取り付けたうえで係止体120を固定することもできる。
【0024】
マット基礎110は版状のコンクリート構造(いわゆるコンクリートスラブ)であり、図2(b)に示すように独立基礎FAの位置にはそれぞれ開口部112が形成され、この開口部112内には係止体120が収容される。すなわち、係止体120は開口部112内にある独立基礎FAの外周に固定され、マット基礎110と係止体120は略同じ高さ(地盤高)に配置される。なお便宜上、図2(b)では4箇所の開口部112のうち1個所(左上)のみに係止体120を示しており、他の3箇所では開口部112のみを示している。
【0025】
図3(a)は独立基礎FAの外周に固定された係止体120を示す断面図である。この図に示すように係止体120は、その外周面に「凸状の曲面(以下、「係止体滑動面121」という。)」が形成されている。より詳しくは、この係止体滑動面121は、外側に膨らむような形状であって、断面視で曲線(例えば円弧)となる形状を呈している。なお、図4(a)に示すように係止体120の外周面すべて(全周)にこの係止体滑動面121を形成することもできるし、例えば独立基礎FAの回転方向(つまり、既設鉄塔STに作用する水平力の方向)が限定されている場合などは図4(b)に示すように係止体120の外周面のうち一部に係止体滑動面121を形成することもできる。図4は、マット基礎110の開口部112と係止体120を上方から見た平面図である。
【0026】
係止体120は、独立基礎FAの周辺に組み立てられた型枠内にコンクリートを打ち込む「場所打ちコンクリート」によって形成することができる。あるいは、現地でコンクリートを打ち込むことなく、工場やヤード等であらかじめ製作された2次製品の係止体120を利用することもできる。2次製品とする場合は、コンクリート製とすることもできるし、あるいは樹脂製とすることも、鋼製(中空)とすることもできる。もちろん2次製品としての係止体120は、その中央部に独立基礎FAを収容するための貫通孔が設けられる。ただしこの場合、完成品としての係止体120を現地に持ち込むと独立基礎FAに固定することが難しいため、2次製品の係止体120は図5に示すように複数(図では4個)の分割体120Sによって構成するとよい。すなわち、離散した分割体120Sを現地に搬入するとともに、ボルトなどの接合治具を利用し、分割体120Sどうしを連結しながら独立基礎FAに固定していくわけである。
【0027】
図3(b)は開口部112が開放された状態のマット基礎110を示す部分断面図である。この図に示すように開口部112は、その内周面に「凹状の面(以下、「開口部滑動面111」という。)」が形成されている。より詳しくは、この開口部滑動面111は、内側に凹むような形状であって、断面視で曲線(例えば円弧)となる形状を呈している。なお開口部滑動面111の曲面形状は、係止体滑動面121の曲面形状と対応した形状とされる。ここで「対応した形状」とは、開口部滑動面111と係止体滑動面121の断面視形状が、ともに円弧であったり、ともに放物線であったり、ともに高次関数曲線であるなど、両者の断面視形状が同じ線形であることを意味する。
【0028】
また開口部滑動面111は、係止体滑動面121と対向する位置に形成される。例えば、図4(a)に示すように係止体120の外周面すべてに係止体滑動面121が形成されるときは、開口部112の内周面すべてに開口部滑動面111が形成され、図4(b)に示すように係止体120の外周面の一部に係止体滑動面121が形成されるときは、開口部112の内周面のうち一部(係止体滑動面121と対向する位置)に開口部滑動面111が形成される。
【0029】
図3(c)は開口部112内に係止体120が配置されたマット基礎を示す部分断面図である。この図に示すように係止体120は、係止体滑動面121と開口部滑動面111が向き合うように、開口部112内に配置される。このとき、係止体120と開口部112とは双方の表面(例えば、開口部滑動面111と係止体滑動面121)どうしが接触しているだけであって、何ら連結されていないいわば「縁切り」された状態で係止体120は開口部112内に配置される。
【0030】
図3(c)から分かるように、係止体滑動面121が外側に凸の曲面とされるとともに、開口部滑動面111が内側に凹の曲面とされ、しかも係止体滑動面121の凸形状と開口部滑動面111の凹形状が嵌合している(噛み合っている)ことから、係止体120は開口部112を通過することができない。換言すれば、係止体120の上下移動が開口部112によって拘束された状態となっており、つまり独立基礎FAの上下移動がマット基礎110によって拘束された状態となっている。これにより、既設鉄塔FAの自重などの鉛直荷重を、マット基礎110が独立基礎FAとともに負担することができるわけである。
【0031】
上記したとおり、開口部滑動面111の曲面形状と係止体滑動面121の曲面形状とは対応した形状であり、しかも係止体120の外周面と開口部112の内周面とは縁切りされた状態である。したがって、少なくとも開口部滑動面111と係止体滑動面121が対抗する位置では、開口部112内における係止体120の回転移動は自由であり、つまりマット基礎110に対する独立基礎FAの回転移動は自由である。
【0032】
図6(a)は、マット基礎110に対して独立基礎FAが反時計回りに回転する状況を模式的に示す部分断面図であり、図6(b)は、マット基礎110に対して独立基礎FAが時計回りに回転する状況を模式的に示す部分断面図である。この図に示すように、開口部滑動面111と係止体滑動面121が対向している略鉛直(鉛直を含む)の面内では、係止体120は開口部112内で自由に回転することができ、すなわち独立基礎FAもマット基礎110に対して自由に回転することができる。これにより、独立基礎FAの回転拘束に伴う曲げモーメントがマット基礎110に発生することがなく、したがってマット基礎110の版厚の増大化を抑制することができ、複雑で過密な配筋を回避することができるわけである。
【0033】
マット基礎110と係止体120をそれぞれコンクリート造としたうえで、開口部滑動面111と係止体滑動面121が接触した状態とすると、開口部滑動面111と係止体滑動面121の間には相当の摩擦力が生じることになり、係止体120が円滑に回転できないことも考えられる。この場合、係止体滑動面121の表面に「潤滑材」を設置しておくとよい。ここで潤滑材とは、アクリル板といった樹脂製の板材や、金属製の板材など、少なくとも硬化したコンクリートより小さな摩擦係数を有する部材のことである。もちろん係止体滑動面121に代えて開口部滑動面111の表面に潤滑材を設置することもできるし、係止体滑動面121と開口部滑動面111の表面それぞれに潤滑材を設置することもできる。潤滑材を設置した効果で、係止体120が円滑に回転することができるわけである。なお係止体120を2次製品とする場合、その材料を潤滑材とすれば別途その表面に潤滑材を設置する必要はない。また、開口部滑動面111と係止体滑動面121の表面に潤滑剤を設置しない(設置できない)場合は、開口部滑動面111と係止体滑動面121との間に若干(係止体120が開口部112を通過しない程度)の隙間を設けておくとよい。係止体120が回転しようとするときには開口部滑動面111と係止体滑動面121が接触した状態となるものの、その接触する範囲は限定される(例えば、図4(b)で右側に倒れようとするときは右側の開口部滑動面111と係止体滑動面121のみが接触する)ことから、全体的な摩擦力は軽減されるわけである。
【0034】
2.鉄塔補強方法
続いて本願発明の鉄塔補強方法について図7図8を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の鉄塔補強方法は、ここまで説明した鉄塔補強構造100を構築する方法である。したがって、鉄塔補強構造100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の鉄塔補強方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.鉄塔補強構造」で説明したものと同様である。
【0035】
図7は、本願発明の鉄塔補強方法の主な工程を示すフロー図であり、図8は、本願発明の鉄塔補強方法の主な工程を示すステップ図である。図8(a)に示すように、まず既設鉄塔STの独立基礎FAの周辺地盤を掘削(盤下げ)し、独立基礎FAを表出させる(図7のStep101)。このとき、後続工程で形成されるマット基礎110の寸法(面積や版厚)が確保できるまで掘削する。そして独立基礎FAがコンクリート造であれば、図8(b)に示すように、後続工程で固定される係止体120固定位置CHのコンクリートを斫り、脚材MLにいかり材などの結合材を取り付けるとよい(図7のStep102)。
【0036】
次に、図8(c)に示すように独立基礎FAの周辺に係止体120用の型枠を組み立てる(図7のStep103)。もちろん係止体滑動面121が形成される範囲には、その係止体滑動面121の曲面形状に応じた形状の型枠が用いられ、しかも潤滑材型枠130が用いられる。ここで潤滑材型枠130とは、既述した潤滑材を利用した型枠であり、すべてが潤滑材製である潤滑材型枠130を利用することもできるし、通常のコンクリートパネルの外側表面(開口部滑動面111側となる面)に潤滑材を貼り付けたものを潤滑材型枠130として利用することもできる。ただし係止体滑動面121の曲面形状によっては、通常のコンクリートパネルでは対応し難いことも考えられ、この場合はアクリル材などを加工した潤滑材型枠130を利用するとよい。
【0037】
係止体120用の型枠(潤滑材型枠130を含む)を組み立てると、図8(d)に示すように型枠内にコンクリートを打ち込み(図7のStep104)、所定期間の養生を行ったうえで係止体120を形成し独立基礎FAに固定する。なお、コンクリートが十分硬化し、すなわち係止体120が完成した後も、潤滑材型枠130は取り外すことなく係止体120の表面(開口部滑動面111側となる面)に設置したままとしておく。
【0038】
係止体120を独立基礎FAに固定すると、図8(e)に示すようにマット基礎110用の型枠CPを組み立てる(図7のStep105)。このとき、開口部滑動面111用の型枠としては、係止体120の表面に残された潤滑材型枠130を利用するため、新たに型枠を組み立てる必要はない。
【0039】
マット基礎110用の型枠CPを組み立てると、図8(f)に示すように型枠CP内にコンクリートを打ち込み(図7のStep106)、所定期間の養生を行ったうえでマット基礎110用の型枠CPを解体し(図7のStep107)、元の地盤高まで掘削した土を埋め戻す(図7のStep108)。もちろん潤滑材型枠130は、マット基礎110と係止体120の間に設置されたままである。
【0040】
なお係止体120として2次製品を利用する場合は、係止体120のコンクリート打ち込み(図7のStep104)に代えて、現地に搬入された複数の分割体120Sを独立基礎FAに固定する。また、マット基礎110と係止体120の形状や寸法によっては、先にマット基礎110のコンクリート打ち込み(図7のStep106)を行ったうえで、係止体120のコンクリート打ち込み(図7のStep104)を行うこともできる。この場合、開口部滑動面111が形成される範囲に潤滑材型枠130が用いられ、係止体滑動面121が形成される範囲の型枠としては開口部112の内周面に残された潤滑材型枠130が利用される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明の鉄塔補強構造、及び鉄塔補強方法は、送電用鉄塔をはじめ独立基礎を備えたあらゆる既設鉄塔に利用することができる。本願発明によれば、供用中の鉄塔を効果的かつ経済的に補強でき、ひいては既設鉄塔という社会インフラストラクチャーの長寿命化に寄与することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0042】
100 本願発明の鉄塔補強構造
110 (鉄塔補強構造の)マット基礎
111 (マット基礎の)開口部滑動面
112 (マット基礎の)開口部
120 (鉄塔補強構造の)係止体
120S (係止体の)分割体
121 (係止体の)係止体滑動面
130 (鉄塔補強構造の)潤滑材型枠
BS マット基礎
CH 係止体の固定位置
CP 型枠
FA (既設鉄塔の)独立基礎
FT (既設鉄塔の)逆T型基礎
ML (既設鉄塔の)脚材
ST 既設鉄塔
図1
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図7
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図10