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特許7517059防雪換気棟構造及び防雪換気棟構造の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】防雪換気棟構造及び防雪換気棟構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04D 13/10 20060101AFI20240709BHJP
   E04D 1/30 20060101ALI20240709BHJP
   E04D 3/40 20060101ALI20240709BHJP
   E04D 13/16 20060101ALI20240709BHJP
   E04H 9/16 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
E04D13/10 Z
E04D1/30 601P
E04D1/30 603D
E04D3/40 C
E04D13/16 D
E04H9/16 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020172394
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2022063957
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】中松 保二
(72)【発明者】
【氏名】坂上 通明
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-267029(JP,A)
【文献】特開2010-101055(JP,A)
【文献】実開平06-071690(JP,U)
【文献】米国特許第05328407(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/30
E04D 3/40
E04D 13/10
E04D 13/16
E04D 13/17
E04B 1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
勾配屋根の棟に形成される棟換気口の上部を棟包み部材によって覆い、前記棟包み部材と前記勾配屋根の前記棟の両側の屋根面との間にそれぞれ通気間隙が形成された換気棟と、
各前記通気間隙からの雪の吹き込みを防ぐために各前記通気間隙に沿って前記棟包み部材の内側空間の各前記屋根面の上にそれぞれ載置される防雪部材と、
を備え、
各前記防雪部材は、外形が略円筒状に形成され、自重によって外形が径方向に変形しない剛性を有し、直径が対応する前記通気間隙の幅よりも大きく形成され
前記防雪部材は、中心に配置される芯部と、前記芯部を中心として前記芯部から放射直線状に延びる多数の毛材とからなる円筒ブラシ状に形成されることを特徴とする防雪換気棟構造。
【請求項2】
請求項1に記載の防雪換気棟構造の施工方法であって、
前記棟包み部材が前記棟に取り付けられる前に前記棟の両側の前記屋根面の上にそれぞれ前記防雪部材を載置する防雪部材載置工程と、
前記棟換気口と各前記防雪部材とを覆うように前記棟包み部材を被せて前記棟に取り付ける棟包み部材取付工程と、
を備えることを特徴とする防雪換気棟構造の施工方法。
【請求項3】
前記防雪部材載置工程の前に複数の棟包み部材取付具を互いに間隔を空けて前記棟に設置する棟包み部材取付具設置工程をさらに備え、
前記棟包み部材は、各前記通気間隙を形成する縁辺部にそれぞれ内向きに突出する係止爪が形成されており、
各前記棟包み部材取付具は、前記棟の両側に張り出す張出部と、前記張出部の両端部からそれぞれ下方に延びる垂下部と、各前記垂下部の外側にそれぞれ形成される前記棟包み部材の前記係止爪が係止される係止部とを有し、
前記防雪部材載置工程において、前記防雪部材を前記棟包み部材取付具の前記垂下部の内側に引っ掛けるようにして前記屋根面の上に載置し、
前記棟包み部材取付工程において、前記棟包み部材を上方から前記複数の棟包み部材取付具に対して押し込むようにして、前記棟包み部材の各前記縁辺部に設けられた前記係止爪をそれぞれ前記複数の棟包み部材取付具の各前記係止部に係止させることで、前記棟包み部材を前記棟に取り付ける
ことを特徴とする請求項2に記載の防雪換気棟構造の施工方法。
【請求項4】
勾配屋根の棟に形成される棟換気口の上部を棟包み部材によって覆い、前記棟包み部材と前記勾配屋根の前記棟の両側の屋根面との間にそれぞれ通気間隙が形成された換気棟と、
各前記通気間隙からの雪の吹き込みを防ぐために各前記通気間隙に沿って前記棟包み部材の内側空間の各前記屋根面の上にそれぞれ載置される防雪部材と、
を備え、
各前記防雪部材は、外形が略円筒状に形成され、自重によって外形が径方向に変形しない剛性を有し、直径が対応する前記通気間隙の幅よりも大きく形成される防雪換気棟構造の施工方法であって、
前記棟包み部材が前記棟に取り付けられる前に前記棟の両側の前記屋根面の上にそれぞれ前記防雪部材を載置する防雪部材載置工程と、
前記棟換気口と各前記防雪部材とを覆うように前記棟包み部材を被せて前記棟に取り付ける棟包み部材取付工程と、
を備え、
前記防雪部材載置工程の前に複数の棟包み部材取付具を互いに間隔を空けて前記棟に設置する棟包み部材取付具設置工程をさらに備え、
前記棟包み部材は、各前記通気間隙を形成する縁辺部にそれぞれ内向きに突出する係止爪が形成されており、
各前記棟包み部材取付具は、前記棟の両側に張り出す張出部と、前記張出部の両端部からそれぞれ下方に延びる垂下部と、各前記垂下部の外側にそれぞれ形成される前記棟包み部材の前記係止爪が係止される係止部とを有し、
前記防雪部材載置工程において、前記防雪部材を前記棟包み部材取付具の前記垂下部の内側に引っ掛けるようにして前記屋根面の上に載置し、
前記棟包み部材取付工程において、前記棟包み部材を上方から前記複数の棟包み部材取付具に対して押し込むようにして、前記棟包み部材の各前記縁辺部に設けられた前記係止爪をそれぞれ前記複数の棟包み部材取付具の各前記係止部に係止させることで、前記棟包み部材を前記棟に取り付ける
ことを特徴とす防雪換気棟構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建物の勾配屋根の棟に設けられる防雪換気棟構造及び防雪換気棟構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
勾配屋根を有する住宅等の建物において、小屋裏の換気のために勾配屋根の棟部分の構造を換気棟構造とすることがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のような換気棟構造では、勾配屋根の棟に沿って小屋裏まで連通するスリット状の開口が設けられ、当該開口の上部が勾配屋根と略等しい勾配の断面略山形に形成された棟包み部材によって覆われた構造となっている。棟包み部材の両側の下端と勾配屋根の屋根面との間にはそれぞれ間隙が設けられており、当該間隙、棟包み部材の内側空間及び棟の開口を介して、屋外と小屋裏との間で換気可能となっている。
【0003】
ところで、降雪地においても換気棟構造を採用したい場合がある。しかしながら、換気棟構造では棟包み部材と屋根面との間に換気のための間隙が設けられているので、降雪地の場合には、この間隙から棟包み部材内に雪が吹き込んで小屋裏まで雪が侵入してしまうような虞がある。そのため、雪の侵入を防ぐことができるような換気棟構造とする必要がある。
【0004】
このような雪の侵入を防ぐために、特許文献1の換気棟構造では、棟の開口から棟包み部材と両側の屋根面との間に形成された間隙までの間の棟包み部材内の換気経路上にそれぞれ多孔体が設けられている。この多孔体は、多孔断面で各孔が長い筒状となされた多孔板状に形成されてなり、各孔の連通方向が棟の勾配方向に沿うようにして設けられ、棟の勾配方向の途中で分断された空間を形成するようになされるとともに、棟外側の端面が水平となるようにカットされた構成となっており、特許文献1には、この多孔体によって粉雪などの侵入が阻止され、多孔体の棟外側の端面が水平なため粉雪などがとどまることなく自重で落下して通気性が阻害されることなく十分な換気性能を維持できることが記載されている。
【0005】
また、その他に、特許文献2には、換気経路となる通気層の開口部の内部近傍に、該開口部を覆うように不織布より成る栓構造体を配置することで、通気層の開放部分に雨雪等が吹き込むことを防止することが記載されている。栓構造体は、シート状の不織布を細幅に細断し、次いでこれらを波形に湾曲させ、湾曲した細幅リボンの凸部同士が接当するように配置した上で、該接当箇所を順次接着してゆくことによってハニカム状に形成されており、ハニカムにおける多数の透孔ではなく、不織布の繊維構造内部を外気が通過するように、各不織布によって通気層の開口部全体が覆われる形で栓構造体が通気層に設置されることが記載されている。また、栓構造体の各不織布同士の接着力を調整しておき、設置後に外側から一枚ずつはがせるようにしておくことで、ゴミやほこりが付着して目詰まりを起こし通気能力が低下した場合でも、最外側の不織布のみを除去することで対処できることが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、上部に通気口を備えていて棟部に固定される本体と、本体上に被装されるカバーと、本体とカバーとの間隙に配置される通気部材とからなる棟換気装置が記載されている。通気部材は、十分な通気性を確保すると共に雨雪の通り抜けを極力防止するためのもので、設置時において上下方向に貫通する細い通気路を縦横に多数設けてなるもので、この通気部材として、多数の通気路を並設したプラスチックプレートを複数積層して固定したものを用いることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-316448号公報
【文献】特開平10-18455号公報
【文献】特開2003-147922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、換気棟の換気経路上に、特許文献1の多孔体、特許文献2の不織布より成る栓構造体、または特許文献3の通気部材を設けることによって、降雪地においても換気棟からの雪の侵入を防ぐことができると考えられる。しかしながら、特許文献1の場合、多孔体は、各孔が平行に配列されている必要があり、また、各孔の径の大きさも均一に揃えられている必要があると思われるので、製造品質を保つためにコストがかかる。また、換気棟の換気経路上で多孔体の各孔が正しい向きで保たれる必要があるので、多孔体を施工する際に、多孔体の向きや位置に気を付けて固定設置する必要があるので、施工の手間がかかる。そして、多孔体の棟外側の端面が水平となるようにカットされている必要があるので、勾配屋根の勾配が異なると、多孔体のカットされる必要のある端面の角度も異なるため、現場で勾配屋根の勾配に合わせて多孔体の端面をカットするとなると施工の手間がかかってしまい、また、勾配屋根の勾配に応じて予め端面がカットされた複数の多孔体を用意するとなると、在庫管理にコストがかかり、発注ミス等が発生する虞もある。
【0009】
また、特許文献2の場合、複数の波形の細幅リボンの不織布が接着されてなるハニカム状の栓構造体で、ハニカムではなく、不織布の繊維構造内部を外気が通過するように栓構造体が配置される必要があり、施工の際に、栓構造体を正しい向きで正しい位置に固定設置する必要があるので、施工の手間がかかる。また、不織布はゴミやほこりによって目詰まりが生じやすいという問題がある。それについて、特許文献2では栓構造体の各不織布の接着力を調整して1枚ずつはがせるようにして、一番目詰まりを起こしている最外側の不織布のみを除去することで対処できるとしているが、換気棟に特許文献2の栓構造体が設置される場合、換気棟は勾配屋根の頂部である棟に設けられるので、栓構造体が目詰まりしたとして、勾配屋根に上って最外側の不織布を剥がしに行くのは通常困難であり、目詰まりしたかどうか確認するのも困難である。
【0010】
また、特許文献3の場合、通気部材として、多数の通気路を並設したプラスチックプレートを複数積層して固定したものを用いて、換気棟の換気経路上に、通気部材の通気路が上下方向に貫通するような向きで設置されるようになっているので、施工の際に、通気部材を正しい向きや位置に固定設置する必要があるので、施工の手間がかかる。
【0011】
以上のように、従来の換気棟における雪の吹き込みを防ぐための防雪換気棟構造では、特許文献1の多孔体、特許文献2の栓構造体または特許文献3の通気部材のように特定の方向からの雪の吹き込みを防ぐように形成された防雪部材が、換気棟の換気経路上で特定の向きや位置に配置されるようになっており、防雪部材を設置するために換気棟を特別な構造とする必要があったり、防雪部材自体も複雑な構造となっていた。また、防雪部材を施工する際に、防雪部材が正しい向きであることを確認しながらビスやボルト等の何らかの固定手段を用いて防雪部材を固定設置する必要があるため、施工が煩雑であった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、簡素な構成で施工も簡単な防雪換気棟構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る防雪換気棟構造は、勾配屋根の棟に形成される棟換気口の上部を棟包み部材によって覆い、前記棟包み部材と前記勾配屋根の前記棟の両側の屋根面との間にそれぞれ通気間隙が形成された換気棟と、各前記通気間隙からの雪の吹き込みを防ぐために各前記通気間隙に沿って前記棟包み部材の内側空間の各前記屋根面の上にそれぞれ載置される防雪部材と、を備え、各前記防雪部材は、外形が略円筒状に形成され、自重によって外形が径方向に変形しない剛性を有し、直径が対応する前記通気間隙の幅よりも大きく形成されることを特徴とする。
【0014】
好ましくは、本発明に係る防雪換気棟構造は、前記防雪部材は、中心に配置される芯部と、前記芯部を中心として前記芯部から放射直線状に延びる多数の毛材とからなる円筒ブラシ状に形成されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る防雪換気棟構造の施工方法は、上記の防雪換気棟構造の施工方法であって、前記棟包み部材が前記棟に取り付けられる前に前記棟の両側の前記屋根面の上にそれぞれ前記防雪部材を載置する防雪部材載置工程と、前記棟換気口と各前記防雪部材とを覆うように前記棟包み部材を被せて前記棟に取り付ける棟包み部材取付工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
好ましくは、本発明に係る防雪換気棟構造の施工方法は、前記防雪部材載置工程の前に複数の棟包み部材取付具を互いに間隔を空けて前記棟に設置する棟包み部材取付具設置工程をさらに備え、前記棟包み部材は、各前記通気間隙を形成する縁辺部にそれぞれ内向きに突出する係止爪が形成されており、各前記棟包み部材取付具は、前記棟の両側に張り出す張出部と、前記張出部の両端部からそれぞれ下方に延びる垂下部と、各前記垂下部の外側にそれぞれ形成される前記棟包み部材の前記係止爪が係止される係止部とを有し、前記防雪部材載置工程において、前記防雪部材を前記棟包み部材取付具の前記垂下部の内側に引っ掛けるようにして前記屋根面の上に載置し、前記棟包み部材取付工程において、前記棟包み部材を上方から前記複数の棟包み部材取付具に対して押し込むようにして、前記棟包み部材の各前記縁辺部に設けられた前記係止爪をそれぞれ前記複数の棟包み部材取付具の各前記係止部に係止させることで、前記棟包み部材を前記棟に取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る防雪換気棟構造は、換気棟の棟包み部材と屋根面との間に形成された通気間隙からの雪の吹き込みを防ぐため、防雪部材が棟包み部材の内側空間の屋根面の上に載置されるようにして設けられている。屋根面の上に載置された防雪部材は、外形が略円筒状に形成され、自重によって外形が径方向に変形しない剛性を有するので、屋根面の傾斜に沿って重力によって自然に転がり落ちようとするが、防雪部材の直径は通気間隙の幅より大きく形成されているので、防雪部材は棟包み部材に引っ掛かって通気間隙を塞ぐように棟包み部材の内側空間内に位置することになる。従って、防雪部材によって通気間隙からの雪の吹き込みが防がれる。また、強風等によって防雪部材が動かされたような場合でも、防雪部材は重力によって自然に屋根面に沿って転がり落ちて通気間隙を塞ぐような元の位置に戻り、防雪性能を発揮する。このように、本発明に係る防雪換気棟構造の防雪部材は、屋根面や棟包み部材等に固定される必要がなく、棟包み部材の内側空間の屋根面の上に載置されているだけなので、施工が簡単である。また、換気棟は、降雪地向けに特別な構成とする必要はなく、勾配屋根の棟に形成される棟換気口の上部を棟包み部材によって覆い、棟包み部材と勾配屋根の棟の両側の屋根面との間にそれぞれ通気間隙が形成されて、棟包み部材の内側空間に防雪部材を設置できるようなスペースが設けられているような換気棟であれば、当該スペースに防雪部材を設置して本発明に係る防雪換気棟構造とすることができるので、本発明に係る防雪換気棟構造の換気棟は、防雪機能を必要としない一般地向けの換気棟と部材等を共通して用いて構成することができ、コストを低減できる。また、既設の換気棟であっても本発明に係る防雪換気棟構造の換気棟と同様の構成になっていれば、本発明に係る防雪部材を設置するだけで、簡単に防雪仕様にすることができる。
【0018】
好ましくは、本発明に係る防雪換気棟構造は、前記防雪部材は、中心に配置される芯部と、前記芯部を中心として前記芯部から放射直線状に延びる多数の毛材とからなる円筒ブラシ状に形成されることを特徴とするので、多数の毛材の間には多数の細かい隙間が形成されており、防雪部材が通気間隙を塞ぐように設けられていても、毛材の間に形成されている隙間から通気可能であり、屋外側から吹き込もうとする雪は、ある程度の大きさに成長した氷の結晶の集まりなので、毛材の間に形成される隙間を通過できずに進入が防がれる。このとき、毛材は芯部から放射直線状に延びるようになっているので、多数の毛材間に形成される隙間は、芯部に近くなるほど間隔が狭く、芯部から遠ざかって防雪部材の外周面に近くなるほど間隔が広くなる傾向となる。多数の毛材の間の隙間に引っ掛かった雪は、融けて水になったり、雪が集まってある程度の重さになると、重力によって下方に流れ落ちようとするが、芯部より下方では、毛材の間の隙間が狭い方から広い方へ流れようとすることになるので、水や雪が毛材間の隙間に長時間保持されずに防雪部材の外部に流れ出やすく、通気性能を確保しながら防雪性能を発揮することができる。
【0019】
本発明に係る防雪換気棟構造の施工方法は、上記の防雪換気棟構造の施工方法であって、前記棟包み部材が前記棟に取り付けられる前に前記棟の両側の前記屋根面の上にそれぞれ前記防雪部材を載置する防雪部材載置工程と、前記棟換気口と各前記防雪部材とを覆うように前記棟包み部材を被せて前記棟に取り付ける棟包み部材取付工程と、を備えることを特徴とし、防雪部材を屋根面の上に載置して、その上から棟包み部材を被せるように棟に取り付けるだけで防雪部材を施工することができるので、施工が簡単である。
【0020】
好ましくは、本発明に係る防雪換気棟構造の施工方法は、前記防雪部材載置工程の前に複数の棟包み部材取付具を互いに間隔を空けて前記棟に設置する棟包み部材取付具設置工程をさらに備え、前記棟包み部材は、各前記通気間隙を形成する縁辺部にそれぞれ内向きに突出する係止爪が形成されており、各前記棟包み部材取付具は、前記棟の両側に張り出す張出部と、前記張出部の両端部からそれぞれ下方に延びる垂下部と、各前記垂下部の外側にそれぞれ形成される前記棟包み部材の前記係止爪が係止される係止部とを有し、前記防雪部材載置工程において、前記防雪部材を前記棟包み部材取付具の前記垂下部の内側に引っ掛けるようにして前記屋根面の上に載置し、前記棟包み部材取付工程において、前記棟包み部材を上方から前記複数の棟包み部材取付具に対して押し込むようにして、前記棟包み部材の各前記縁辺部に設けられた前記係止爪をそれぞれ前記複数の棟包み部材取付具の各前記係止部に係止させることで、前記棟包み部材を前記棟に取り付けることを特徴とし、棟包み部材取付具は、それぞれが棟包み部材の係止爪が係止される係止部を有しており、棟包み部材を取り付けるために棟に互いに間隔を空けて複数設置され、棟包み部材取付工程において、棟に設置された複数の棟包み部材取付具に対して棟包み部材を上方から押し込むようにして、棟包み部材の係止爪を各棟包み部材取付具の係止部に係止させることで棟包み部材が棟に取り付けられるため、棟包み部材の施工が簡単にできる。また、棟包み部材取付工程において棟包み部材を棟に取り付ける前に、防雪部材載置工程において防雪部材が施工されるが、このとき、棟には複数の棟包み部材取付具が設置されている。防雪部材載置工程において、この棟包み部材取付具の垂下部の内側に防雪部材を引っ掛けるようにして、防雪部材を屋根面の上に載置するようにすることで、勾配屋根の勾配が大きい場合でも、防雪部材が屋根面に沿って転がり落ちることを防ぐための特別な処置を施すことなく、棟包み部材を取り付けるための棟包み部材取付具の垂下部によって防雪部材が転がり落ちることが防止され、その後の棟包み部材取付工程において、簡単に棟包み部材を施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る防雪換気棟構造の一部断面斜視図。
図2図1の防雪換気棟構造の断面正面図。
図3図1の防雪換気棟構造の屋根面の様子を示す断面正面図。
図4図1の防雪換気棟構造における防雪部材の斜視図。
図5図1の防雪換気棟構造の一部断面分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る防雪換気棟構造及び防雪換気棟構造の施工方法の一実施形態について、以下、図面を参照しつつ説明する。ただし、以下はあくまで本発明の実施形態を例示的に示すものであり、本発明の範囲は以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0023】
本発明の一実施形態に係る防雪換気棟構造1は、図1から図5に示すように、勾配屋根2に設けられる換気棟4と、換気棟4からの雪の吹き込みを防ぐための防雪部材5とを備える。
【0024】
勾配屋根2は、棟21から棟21の両側に斜め下方に向かって傾斜する一対の屋根面22によって略山形状に形成された屋根となっている。本実施形態の勾配屋根2は、切妻造の住宅の屋根となっており、棟21が水平方向に延び、棟21を頂部とした略山形状の一対の屋根面22によって住宅の上部全体が覆われるようになっている。勾配屋根2の一対の屋根面22の下部には、その下に設けられた部屋の天井との間に小屋裏23となる空間が形成されている。また、本実施形態の勾配屋根2は、棟21を含む鉛直面を対称面とした面対称な形状となっている。
【0025】
本実施形態では、勾配屋根2の一対の屋根面22が、重ね葺き工法によってリフォームされている場合を例として示している。図2に示すように、棟母屋31、母屋(不図示)及び軒桁(不図示)に、複数の垂木32が棟21側から軒先側に向かって斜め下方に傾斜して架設されており、これら垂木32の上に野地板33が敷設されることで屋根面22の下地面が形成されている。そして、野地板33の上に防水のための既設ルーフィングが敷かれた後で、既設屋根材35が葺かれることでリフォーム前の屋根面22となっていた既設屋根面が形成されている。既設ルーフィング34はシート状の防水材で、屋根の防水材として一般的に普及している板紙やフェルト等の基材にアスファルトをしみ込ませたアスファルトルーフィングが用いられている。既設屋根材35は平板状の屋根材で、屋根材として一般的に普及しているセメントを主成分とした平板状の化粧スレート材が用いられている。既設ルーフィング34や既設屋根材35が経年劣化等によって傷みが生じると、雨漏り等の不具合の原因となるため、リフォームが行われることになる。
【0026】
本実施形態では、既設屋根材35として平板状のスレート屋根材が用いられており、既設屋根材35が葺かれて形成された既設屋根面は略平面状となっており、既設ルーフィング34や既設屋根材35を撤去せずに、そのまま既設屋根材35によって形成された既設屋根面の上に、新たに新設ルーフィング36を敷いて、その上に新設屋根材37を葺くことで新設屋根面を形成する重ね葺き工法によって、既設屋根面から新設屋根面へリフォームされている。この新設屋根材37が葺かれて形成された新設屋根面が屋根面22となっている。新設ルーフィング36は、シート状の防水材で、既設ルーフィング34と同じくアスファルトルーフィングが用いられている。新設屋根材37は、既設屋根材35を撤去せずにその上に葺かれることになるため軽量な薄板状の金属板によって形成された金属屋根材となっており、亜鉛めっき鋼板を基材としたトタン屋根材と比べて、耐食性が高い溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼板を基材とした金属屋根材が用いられている。本実施形態では新設屋根材37は、横長に形成されて、上端部及び下端部には係合部が設けられており、屋根面22の軒先側から棟21に向かって1段ずつ棟21が延びる方向に沿って葺かれ、上段と下段とで隣接する新設屋根材37は、下段の新設屋根材37の上端部の係合部に上段の新設屋根材37の下端部の係合部を係合させることで連結される。また、本実施形態では、新設屋根材37は、下端側に立上り部が設けられており、新設屋根面は、棟21側から軒先側に向かって略階段状に傾斜して下る段付きの屋根面となっている。新設屋根材37の下端側に設けられた立上り部によって新設屋根材37と既設屋根面の上に敷設された新設ルーフィング36との間に形成される断面略三角形状の空間には、断熱材38が充填されて勾配屋根2の断熱性が高められている。断熱材38は、一般的な屋根の断熱材で、ポリスチレンフォームが用いられている。
【0027】
換気棟4は、上記のような勾配屋根2の棟21に設けられる小屋裏23の換気のための構造となっている。換気棟4は、勾配屋根2の棟21に形成される棟換気口41と、棟換気口41の上部を覆う棟包み部材42とを備える。棟換気口41は、棟21に沿って勾配屋根2を小屋裏23まで貫通するスリット状の開口となっており、棟換気口41を介して小屋裏23と屋外側とで通気可能となっている。棟換気口41は、棟21の全長にわたって設けられていてもよいし、棟21の一部に設けられていてもよい。
【0028】
棟包み部材42は、棟換気口41の上部を覆うように棟21に取り付けられる。棟換気口41は勾配屋根2の棟21を上下方向に貫通する開口なので、そのままでは降雨時に棟換気口41から小屋裏23に雨が降り注ぐことになる。そのため、棟包み部材42によって棟換気口41の上部が覆われることで、小屋裏23へ降雨が直接降り注ぐことが防がれる。棟包み部材42は、棟換気口41が覆われるような長さに形成されればよく、棟換気口41が棟21の全長にわたって形成される場合は、棟包み部材42も棟21の全長にわたって設けられ、棟換気口41が棟21の一部にのみ形成される場合は、棟包み部材42は棟換気口41を覆って棟21の一部のみに設けられてもよい。
【0029】
換気棟4は、小屋裏23の換気のための構造であるので、棟包み部材42は、棟換気口41の上部を覆うように棟21に取り付けられて、その際、棟包み部材42と、棟21の両側の一対の屋根面22との間には、それぞれ通気間隙43が形成されるようになっている。
【0030】
本実施形態では、勾配屋根2の屋根面22は、既設屋根面の上に新設屋根面が重ね葺きされることでリフォームされており、換気棟4もそのリフォームの際に設けられている。ここでは、図2に示すように、一対の屋根面22の下地面を形成している一対の野地板33が、それぞれの頂辺部の間にスリット状の間隙が形成されるように配置されており、当該間隙を塞がないように、既設ルーフィング34及び既設屋根材35が野地板33の上に敷設されて、既設屋根面の棟21に小屋裏23まで貫通する開口が形成されている。この既設屋根面の棟21に形成された開口に沿って、一対の既設屋根面のそれぞれの頂部に下地材45が設けられている。下地材45は、断面矩形の角材で、下地材45の底面が、野地板33の勾配と略等しい傾斜面となっている既設屋根材35によって形成された既設屋根面の上に取付金具等を介して設置され、各下地材45の底面と対向する上面は、それぞれ既設屋根面よりも上方に位置して軒先側に向かって野地板33の勾配と略等しい勾配で斜め下方に傾斜した面となっている。各下地材45の軒先側の側面及び上面までは、それぞれの既設屋根面の上に敷設される新設ルーフィング36で覆われて防水対策が施されている。新設屋根面を形成する新設屋根材37は、軒先側から棟21側に向かって下地材45の手前まで葺かれている。新設屋根材37は下端側に立上り部が設けられているので、新設屋根材37によって形成される新設屋根面は略階段状の段付きの屋根面となっているが、図3に示すように、この新設屋根面の各新設屋根材37の立上り部の頂部を通って野地板33と平行な面を基準屋根面221とすると、下地材45の上面は、この基準屋根面221よりも上方に突出して配置されるようになっている。
【0031】
そして、下地材45の上面及び軒先側の側面の上端から当該側面と基準屋根面221とが交差する略位置までを覆う被覆部と、被覆部の下端辺から軒先側に向かって基準屋根面221に沿って斜め下方に傾斜して延出する延出部とを有する水切り板46が、各下地材45に取り付けられている。本実施形態では、水切り板46は、新設屋根材37と同様に、溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼板を基材とした金属板材を用いて形成される。水切り板46の延出部の上面は、基準屋根面221と略同一平面上に配置されるようになっており、延出部の軒先側の延出端辺は、最も棟21側に葺かれた新設屋根材37の上方に位置して、当該新設屋根材37の上端部の係合部の上方が水切り板46の延出部によって覆われるようになっている。水切り板46の延出部と最も棟21側に葺かれた新設屋根材37との間には、水密材47が設けられて雨水等が侵入することが防がれている。水密材47には、発泡ゴム等による一般的な防水パッキン材を用いることができる。このように、本実施形態では、水切り板46の延出部が、新設屋根材37によって形成される新設屋根面の基準屋根面221と略同一平面上に設けられており、水切り板46の延出部も屋根面22として見なしている。
【0032】
水切り板46の被覆部は、下地材45の上面全体を覆うようになっており、水切り板46の被覆部の棟21側の端部は、下地材45の上面の棟21側の端辺よりも棟21側に突出するように設けられていてもよいが、その突出する長さは、棟21の両側の下地材45にそれぞれ設けられている水切り板46の被覆部の棟21側の端部同士の間に所定の間隔の間隙が設けられるような長さとなっている。この棟21の両側の水切り板46の被覆部の棟21側の端部同士の間に形成された間隙が、棟換気口41を構成する開口となっており、当該開口は、基準屋根面221よりも下地材45によって上方にかさ上げされた位置に設けられている。このように、本実施形態では、勾配屋根2の棟21は下地材45によって基準屋根面221よりも上方にかさ上げされており、棟換気口41はそのかさ上げされた棟21に小屋裏23まで上下方向に貫通するように形成されている。
【0033】
水切り板46の被覆部の棟21側の端部には、当該被覆部の棟21側の縁辺部を上向きに折り曲げてその先端を軒先側に向けて形成されたような返し片部が設けられていてもよい。また、水切り板46の被覆部の下地材45の上面を覆う面から下地材45の軒先側の側面を覆う面への折り返し部分に軒先側に突出する突出角部が設けられていてもよい。当該突出角部は、被覆部の下地材45の上面を覆う面を下地材45の軒先側の側面を覆う面よりも軒先側に突出させてから下地材45の軒先側の側面に向けて折り曲げるようにして形成される。棟換気口41は、下地材45によって屋根面22よりも上方にかさ上げされた位置に設けられているので、強風時等に雨水が屋根面22を上ってきたとしても、屋根面22から立ち上がる下地材45の軒先側の側面及びそれを覆う水切り板46によって雨水が棟換気口41まで到達することが阻まれる。また、もし水はね等によって水切り板46の被覆部の下地材45の上面を覆う面に雨水が付着しても、当該面は下地材45の上面と同じく軒先側に向かって下方に傾斜しているため、雨水は軒先側に流れ落ちるようになっている。水切り板46に設けられる突出角部は、雨水が水切り板46の被覆部の下地材45の上面を覆う面に付着することを低減し、返し片部は、雨水が水切り板46の被覆部の下地材45の上面を覆う面に付着した場合に雨水が棟換気口41へ浸入することを確実に防止する。
【0034】
本実施形態では、棟包み部材42は、断面略山形状に形成された上板部421と、上板部421の断面略山形状の頂辺を挟んで対向する端辺からそれぞれ下方に延出する垂板部422とを備える。棟包み部材42は、上板部421の断面略山形状の頂辺が、棟21が延びる方向と平行になるように棟換気口41の上方に配置されて、当該頂辺から両側に斜め下方に延出する上板部421の断面略山形状の一対の傾斜面が、それぞれ一対の屋根面22の基準屋根面221と略平行となるように、棟21に取り付けられる。棟21は下地材45によって基準屋根面221よりも上方にかさ上げされており、上板部421の一対の傾斜面のそれぞれの軒先側端辺部は、下地材45の上面を覆う水切り板46の被覆部の面の軒先側端部よりも、軒先側に突出しており、上板部421の一対の傾斜面の各軒先側端辺部から下方に垂板部422が延出し、各垂板部422の下端辺の高さ位置は、その直下の屋根面22より所定の距離L1上方に位置するようになっている。これら各垂板部422の下端辺とその下方の屋根面22との間に形成される距離L1の棟21方向に延びるスリット状の間隙が、それぞれ通気間隙43となっている。棟包み部材42の上板部421及びその両側の垂板部422と、勾配屋根2の一対の屋根面22とによって囲まれた領域が棟包み部材42の内側空間となっており、小屋裏23の空気や湿気が屋外へ排出される際は、小屋裏23から棟換気口41を通って棟包み部材42の内側空間へと入り、棟包み部材42の内側空間内で棟21を挟んだ両側の屋根面22のいずれかに沿って流れて通気間隙43を通って屋外へと排出されるようになっている。このように、換気棟4において、棟換気口41、棟包み部材42の内側空間及びその両側の通気間隙43が、小屋裏23から屋外までの換気経路となっている。本実施形態では、上板部421の一対の傾斜面の軒先側端辺部は、それぞれ下地材45の軒先側側面から基準屋根面221に沿って軒先側に延びる水切り板46の延出部の上方に位置して、各垂板部422は略鉛直下方に延び、各通気間隙43は、各垂板部422の下端辺とその下方の水切り板46の延出部との間に形成されるようになっている。上板部421の各軒先側端辺部は、それぞれ棟21の下地材45によってかさ上げされた部分よりも軒先側に突出するようになっているので、各垂板部422は、各下地材45の軒先側側面から間隔を隔てて配置されており、棟包み部材42の内側空間は、両側にそれぞれ、垂板部422、下地材45の軒先側側面を覆う水切り板46の被覆部の面、上板部421及び本実施形態で屋根面22としている水切り板46の延出部に囲まれたスペースが設けられるようになっており、当該各スペースにそれぞれ防雪部材5が配置されるようになっている。
【0035】
防雪部材5は、棟包み部材42と一対の屋根面22との間に形成された各通気間隙43を介して小屋裏23へ雪が吹き込むことを防ぐため、棟包み部材42の内側空間内で各通気間隙43に沿ってそれぞれ設けられる。各防雪部材5は、外形が略円筒状に形成され、自重によって外形が径方向に変形しない剛性を有し、直径が対応する通気間隙43の幅よりも大きく形成される。防雪換気棟構造1において、防雪部材5は、屋根面22や棟包み部材42等に固定されることなく、棟包み部材42の内側空間内で屋根面22の上に載置された状態となっている。防雪部材5は、外形が略円筒状で、自重によって外形が径方向に変化しない剛性を有しており、その中心軸が棟21方向に延びるように屋根面22の上に載置されるので、屋根面22の勾配に従って軒先側へ転がり落ちようとする。しかし、棟包み部材42の内側空間の軒先側には垂板部422が存在し、垂板部422の下端辺と屋根面22との間には通気間隙43が形成されており、防雪部材5の外形の直径は通気間隙43の幅よりも大きく形成されているので、転がり落ちようとする防雪部材5は、垂板部422に引っ掛かって係止された状態となる。従って、本実施形態に係る防雪換気棟構造1においては、防雪部材5の精密な位置決め作業や固定作業を行う必要がなく、棟包み部材42を棟21に取り付ける際に、防雪部材5を屋根面22の上に載置してその上から棟包み部材42を被せるようにするだけで、棟包み部材42の内側空間内で防雪部材5が自然と通気間隙43を塞ぐような位置に配置されるようになっており、防雪部材5によって通気間隙43からの雪の吹き込みが防がれる。
【0036】
防雪部材5は、通気間隙43からの雪の吹き込みを防ぎながら、通気間隙43からの換気性能も確保されるような構造となっている必要がある。本実施形態の防雪部材5は、図4に示すように、中心に配置される芯部51と、芯部51を中心として芯部51から放射直線状に延びる多数の毛材52とからなる円筒ブラシ状に形成されている。多数の毛材52の間には多数の細かい隙間が形成されることになり、毛材52の密度を適切に調節することによって、防雪部材5が通気間隙43を塞ぐように設けられていても、毛材52の間に形成されている隙間からの通気によって換気性能を確保しながら、通気間隙43から吹き込もうとする雪は、ある程度の大きさに成長した氷の結晶の集まりなので、毛材52の間に形成される隙間を通過させずに進入を防ぐことができる。このとき、毛材52は芯部51から放射直線状に延びるようになっているので、多数の毛材52の間に形成される隙間は、芯部51に近くなるほど間隔が狭く、芯部51から遠ざかって外形円筒状の防雪部材5の外周面に近くなるほど間隔が広くなる傾向となる。多数の毛材52の間の隙間に引っ掛かった雪は、融けて水になったり、引っ掛かった雪が集まってある程度の重さになると、重力によって下方に流れ落ちようとするが、芯部51より下方では、毛材52の間の隙間が狭い方から広い方へ流れようとすることになるので流れ出やすく、毛材52の間の隙間に水や雪が長時間保持されずに、換気性能を確保しながら防雪性能を発揮することができる。防雪部材5の直径の大きさは、防雪部材5が通気間隙43から外部へ抜け出ずに垂板部422に係止されるように、通気間隙43の幅である距離L1よりも大きくなっていればよいが、防雪部材5の直径が距離L1の2倍程度の大きさの直径に形成されると、防雪部材5が通気間隙43から外部に抜け出る虞をより低減でき、また、雪や水が流れ出やすい芯部51から下半分の毛材52によって通気間隙43が塞がれるようになるので、より好ましい。このような防雪部材5として、芯部51に2本または4本の針金を用いて、その間に毛材52を挟んでねじりあげることによって作製される一般的なねじりブラシを用いることができる。毛材52の材質についても樹脂製、金属製、または天然の動物や植物の繊維等、特に問わず、防雪部材5として形成された後で、防雪部材5の全体としての外形が径方向に自重によって変化しない程度の剛性を有するようになっていればよく、一般的なたわしに用いられる毛材を用いてもよい。従って、防雪部材5は、安価に製造できる。
【0037】
本実施形態では、棟包み部材42を取り付けるために棟包み部材取付具6が用いられている。図5に示すように、複数の棟包み部材取付具6が、棟21に互いに間隔を空けて設置され、それらの棟包み部材取付具6に対して棟包み部材42が取り付けられることで、棟包み部材42が棟21に取り付けられるようになっている。本実施形態では、棟換気口41は、棟21の下地材45によって基準屋根面221よりも上方にかさ上げされた部分に設けられており、棟包み部材取付具6は、その棟21のかさ上げされた部分に取り付けられるようになっている。棟包み部材取付具6は、棟21の両側に張り出す張出部61と、張出部61の両端部からそれぞれ下方に延びる垂下部62と、各垂下部62の外側に形成される係止部63とを備える。張出部61は、棟換気口41とその両側の下地材45の上面を覆う水切り板46の被覆部の面とを覆って、各当該面の軒先側端辺よりもそれぞれ軒先側に突出するように設けられており、張出部61の両端部からそれぞれ下方に延びる垂下部62と、各下地材45の軒先側側面を覆う水切り板46の被覆部の面との間には間隔が設けられるようになっている。張出部61の両側の垂下部62の外側間の距離は、棟包み部材42の両側の垂板部422の内側間の距離と略等しく形成されており、垂下部62と、下地材45の軒先側側面と、張出部61と、屋根面22とに囲まれたスペースに防雪部材5が配置できるようになっている。棟包み部材42の各通気間隙43を形成する縁辺部、つまり各垂板部422の下端部には、それぞれ内向きに突出する係止爪423が形成されており、棟包み部材42は、棟21に設置された複数の棟包み部材取付具6に対して上方から押し込むようにして、各垂板部422に設けられた係止爪423を、各棟包み部材取付具6の両側の垂下部62に設けられた係止部63に係止させることで棟21に取り付けられるようになっている。各棟包み部材取付具6の張出部61の上面には防水材等のスペーサー(不図示)を設けて、各スペーサーを棟包み部材42の上板部421の下面に当接させるようにしてもよい。それによって棟包み部材42に掛かる荷重を分散して上板部421が変形したり係止爪423や係止部63が破損する虞を低減でき、また、少なくともスペーサーの厚みの分、棟包み部材42の上面部421の下面は、棟換気口41よりも高い位置に配置されることになり、各スペーサーが配置される棟包み部材取付具6は互いに間隔を空けて設けられるので、換気経路が確保される。
【0038】
以上のように、本実施形態に係る防雪換気棟構造1によると、防雪部材5が簡素な構成で安価に製造でき、防雪部材5の施工も防雪部材5をそれぞれ屋根面22の上に載置してその上から棟包み部材42を被せるだけで、簡単に施工できる。防雪部材5は、中心に配置される芯部51と、芯部51を中心として芯部51から放射直線状に延びる多数の毛材52とからなる円筒ブラシ状に形成されていることで、施工時に防雪部材5の向きを気にする必要がなく、特定の向きに配向されるように通気孔が形成されているような防雪部材の場合と比べて、簡単に施工できて施工ミスも低減できる。防雪部材5は、外形略円筒状の中心に芯部51を有しているのでたわみにくく、施工時に、防雪部材5を屋根面22の上に載置して棟包み部材42を被せるまでの間、防雪部材5が落下しないように軽く押さえておくだけで、防雪部材5が大きくたわむこともないので施工しやすい。このとき、防雪部材5が落下しないように押さえておく手段としては、特別な道具や手段等を用いることなく、手で押さえておくだけでよい。また、本実施形態のように、棟包み部材42を取り付けるために棟包み部材取付具6が用いられている場合には、施工時に、棟包み部材取付具6の垂下部62を利用して、防雪部材5を垂下部62に引っ掛けるようにすれば、防雪部材5を手で押さえておく必要もないので、更に施工しやすい。
【0039】
本実施形態では、通気間隙43は、棟包み部材42と水切り板46の延出部との間に形成されるようになっていたが、例えば、水切り板46の延出部の軒先側に延出する長さが短い場合や、水切り板46が設けられていないような場合等に、棟包み部材42の上板部421の軒先側端辺部が新設屋根材37の上方まで延出して、当該新設屋根材37と棟包み部材42の垂板部422の下端辺との間に通気間隙43が形成されるようになっていてもよい。ただ、本実施形態の新設屋根材37のように、下端側に立上り部が設けられていたり、上端に係合部が設けられているような場合には、それらが防雪部材5を設置するのに邪魔になったり、防雪部材5が載置される新設屋根材37の面の勾配が小さすぎたりする可能性があるので、そのような場合には、本実施形態のように水切り板46を設けて、水切り板46と棟包み部材42との間で通気間隙43が形成されるようにすることが好ましい。また、本実施形態では、水切り板46の延出部が、基準屋根面221と略同一平面上に配置されるようになっていたが、基準屋根面221と略同一平面上に配置されていない水切り板46の延出部と棟包み部材42との間で通気間隙43が形成されてもよい。この場合の水切り板46の延出部は、軒先側に向かって斜め下方に一定勾配で傾斜するような面となっていればよい。
【0040】
本実施形態の勾配屋根2の屋根面22は、既設屋根面の上に新設屋根材37が重ね葺きされてリフォームされて、そのリフォームの際に防雪換気棟構造1が設けられるようになっていたが、新築時に防雪換気棟構造1が設けられてもよい。また、新築時等に既に勾配屋根2に本実施形態と同様の換気棟4が設けられている場合には、屋根の全体的なリフォームをすることなく、そのままその既設の換気棟4に防雪部材5を施工して簡単に後から防雪機能を持たせた防雪換気棟構造1とすることができる。また、本実施形態の勾配屋根2は、住宅の上部全体を覆う切妻屋根となっていたが、その他にも、例えば、寄棟造や入母屋造の建物等のように、屋根の一部だけが勾配屋根2となっているような屋根を備える建物においても、同様に勾配屋根2の部分に防雪換気棟構造1を適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る防雪換気棟構造は、勾配屋根の棟部分に設けられる換気棟における雪の吹き込みを防ぐための構造となっているが、その他の棟部分以外に設けられた換気構造においても適用の可能性がある。
【符号の説明】
【0042】
1 防雪換気棟構造
2 勾配屋根
21 棟
22 屋根面
221 基準屋根面
23 小屋裏
31 棟母屋
32 垂木
33 野地板
34 既設ルーフィング
35 既設屋根材
36 新設ルーフィング
37 新設屋根材
38 断熱材
4 換気棟
41 棟換気口
42 棟包み部材
421 上板部
422 垂板部
423 係止爪
43 通気間隙
45 下地材
46 水切り部材
47 水密材
5 防雪部材
51 芯部
52 毛材
6 棟包み部材取付具
61 張出部
62 垂下部
63 係止部
図1
図2
図3
図4
図5