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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】血圧測定用カフおよび血圧計
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
A61B5/022 300B
A61B5/022 300D
A61B5/022 400B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020184630
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2022074522
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【弁理士】
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】内藤 晃誠
(72)【発明者】
【氏名】澤野井 幸哉
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-116004(JP,U)
【文献】特開2011-200606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定部位を圧迫してコロトコフ音を取得する血圧測定用カフであって、
帯状に長手方向に延在し、被測定部位を取り巻く外布と、
上記外布の上記被測定部位に対向する側に上記長手方向に沿って延在して設けられ、上記被測定部位を圧迫する押圧用流体袋と、
上記外布に対して垂直な厚さ方向に関して上記外布と上記押圧用流体袋との間に設けられ、上記押圧用流体袋を介して上記被測定部位からの音を取得する音取得用流体袋と、
上記押圧用流体袋に流体流通可能に接続された第1流体配管と、
上記第1流体配管とは別に、上記音取得用流体袋に流体流通可能に接続された第2流体配管と
を備えたことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項2】
請求項1に記載の血圧測定用カフにおいて、
上記押圧用流体袋と上記第1流体配管とを含む第1流体系と、上記音取得用流体袋と上記第2流体配管とを含む第2流体系とが、互いに流体流通不能に分離されている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血圧測定用カフにおいて、
上記音取得用流体袋は、上記厚さ方向に互いに対向する一対のシートを含み、上記一対のシートが互いに接合されて袋状に構成されており、
上記一対のシートの互いに対向する隙間に、上記一対のシートが密接するのを防ぐスペーサが設けられている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項4】
請求項3に記載の血圧測定用カフにおいて、
上記スペーサは、上記シートに一体に形成された突起からなる
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項5】
請求項1または2に記載の血圧測定用カフにおいて、
上記押圧用流体袋は、上記厚さ方向に互いに対向する一対のシートを含み、上記一対のシートが互いに環状に接合されて袋状に構成されており、
上記音取得用流体袋は、上記厚さ方向に互いに対向する一対のシートを含み、上記一対のシートが互いに環状に接合されて袋状に構成されており、
上記音取得用流体袋の上記一対のシートのうち上記押圧用流体袋側のシートが、上記押圧用流体袋の上記一対のシートのうち上記音取得用流体袋側のシートと共通になっている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一つに記載の血圧測定用カフにおいて、
上記被測定部位は上腕であり、
上記押圧用流体袋の上記長手方向の寸法が167mmから380mmの範囲内に設定され、かつ、上記外布に沿った面内で上記押圧用流体袋の上記長手方向に垂直な幅方向の寸法が90mmから180mmの範囲内に設定され、
上記音取得用流体袋の上記長手方向の寸法が41.8mmから380mmの範囲内に設定され、かつ、上記音取得用流体袋の上記幅方向の寸法が45mmから180mmの範囲内に設定されている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれか一つに記載の血圧測定用カフにおいて、
上記被測定部位は手首であり、
上記押圧用流体袋の上記長手方向の寸法が140mmに設定され、かつ、上記外布に沿った面内で上記押圧用流体袋の上記長手方向に垂直な幅方向の寸法が60mmに設定され、
上記音取得用流体袋の上記長手方向の寸法が35mmから140mmの範囲内に設定され、かつ、上記音取得用流体袋の上記幅方向の寸法が30mmから60mmの範囲内に設定されている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項8】
請求項6または7の血圧測定用カフにおいて、
上記音取得用流体袋の上記長手方向の寸法は、上記押圧用流体袋の上記長手方向の寸法の1/2に設定され、
上記音取得用流体袋の上記幅方向の寸法は、上記押圧用流体袋の上記幅方向の寸法と同じに設定されている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項9】
被測定部位が発生するコロトコフ音によって血圧を算出する血圧計であって、
請求項1から8までのいずれか一つに記載の血圧測定用カフと、
上記第1流体配管に流体流通可能に接続され、上記押圧用流体袋に上記第1流体配管を通して流体を供給して加圧し、または、上記押圧用流体袋から上記第1流体配管を通して流体を排出して減圧する圧力デバイスと、
上記第2流体配管に流体流通可能に接続され、上記第2流体配管を通して上記音取得用流体袋からの音を検出する音検出デバイスと、
上記第2流体配管に流体流通可能に接続され、上記第2流体配管を閉じ又は大気圧に開放可能な大気開放弁とを備え、
上記押圧用流体袋と上記第1流体配管とを含む第1流体系と、上記音取得用流体袋と上記第2流体配管とを含む第2流体系とが、互いに流体流通不能に維持されており、
上記圧力デバイスが上記押圧用流体袋を加圧または減圧するのに伴って上記大気開放弁を開閉して、上記音取得用流体袋からの音に応じた上記音検出デバイスの出力に基づいて、上記被測定部位の血圧を算出する血圧算出部
を備えた血圧計。
【請求項10】
請求項9に記載の血圧計において
上記血圧算出部は、上記血圧測定用カフが上記被測定部位に装着された後、上記圧力デバイスが上記押圧用流体袋の加圧を開始する前に、上記大気開放弁を閉じて上記第2流体系を封じる
ことを特徴とする血圧計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は血圧測定用カフに関し、より詳しくは、被測定部位を圧迫してコロトコフ音を取得する血圧測定用カフに関する。また、この発明は、そのような血圧測定用カフを備えて、コロトコフ音に基づいて血圧を測定する血圧計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の血圧測定用カフとしては、例えば特許文献1(特開昭58-155841号公報)に開示されているように、被測定部位(上腕)を圧迫するための阻血カフと、阻血カフのうち被測定部位に対向する側の一部領域に配置された集音カフとを備えたものが知られている。同様に、特許文献2(特開2012-61104号公報)に開示されているように、被測定部位(上腕)を圧迫するための阻血用空気袋と、阻血用空気袋のうち被測定部位に対向する側の一部領域に配置された第1、第2のコロトコフ音検出用空気袋とを備えたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-155841号公報
【文献】特開2012-61104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1、2の血圧測定用カフでは、集音カフ(または第1、第2のコロトコフ音検出用空気袋)が阻血カフ(または阻血用空気袋)のうち被測定部位に対向する側の一部領域のみに配置されているため、被測定部位(上腕)に対するカフの装着位置(特に、周方向の位置)がばらつくと、集音が安定しない、という問題がある。
【0005】
そこで、この発明の課題は、被測定部位を圧迫してコロトコフ音を取得する血圧測定用カフであって、コロトコフ音を安定して取得できるものを提供することにある。また、この発明の課題は、そのような血圧測定用カフを備えて、血圧を精度良く測定できる血圧計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、この開示の血圧測定用カフは、
被測定部位を圧迫してコロトコフ音を取得する血圧測定用カフであって、
帯状に長手方向に延在し、被測定部位を取り巻く外布と、
上記外布の上記被測定部位に対向する側に上記長手方向に沿って延在して設けられ、上記被測定部位を圧迫する押圧用流体袋と、
上記外布に対して垂直な厚さ方向に関して上記外布と上記押圧用流体袋との間に設けられ、上記押圧用流体袋を介して上記被測定部位からの音を取得する音取得用流体袋と、
上記押圧用流体袋に流体流通可能に接続された第1流体配管と、
上記第1流体配管とは別に、上記音取得用流体袋に流体流通可能に接続された第2流体配管と
を備えたことを特徴とする。
【0007】
本明細書で、「被測定部位」は、上腕、手首などの上肢、または、足首などの下肢を含み、典型的には棒状の部位を指す。
【0008】
「被測定部位に対向する側」とは、この血圧測定用カフが被測定部位を取り巻いて装着された状態(これを「装着状態」と呼ぶ。)で、上記被測定部位に対向する側を意味する。
【0009】
血圧測定用カフについて、「長手方向」は、外布が帯状に延在する方向を意味し、装着状態では被測定部位を取り巻く周方向に相当する。後述の「幅方向」は、上記外布に沿った面内で上記長手方向に対して垂直な方向を意味し、装着状態では上記被測定部位を動脈が通る方向に相当する。また、「厚さ方向」は、長手方向と幅方向との両方(つまり、外布)に対して垂直な方向を意味し、装着状態では上記被測定部位の外周面に対して垂直な方向に相当する。
【0010】
この開示の血圧測定用カフでは、上記押圧用流体袋は、上記第1流体配管を通して、この血圧測定用カフの外部に設けられた圧力デバイス(典型的には、ポンプ、弁を含む)に流体流通可能に接続される。上記音取得用流体袋は、上記第2流体配管を通して、この血圧測定用カフの外部に設けられた音検出デバイス(典型的には、マイクロフォンを含む)に流体流通可能に接続される。上記血圧測定用カフは、このカフの長手方向が被測定部位を取り巻く態様で装着される。この装着状態では、上記被測定部位に対して、厚さ方向に関して、上記押圧用流体袋と、上記音取得用流体袋と、上記外布とが、この順に並ぶ。この装着状態で、血圧測定時には、上記圧力デバイスによって上記第1流体配管を通して空気が上記押圧用流体袋に供給される。これにより、上記押圧用流体袋が加圧される。この加圧過程で、上記押圧用流体袋が上記音取得用流体袋とともに上記被測定部位から遠ざかる向きの膨張は、全体として上記外布によって規制される。したがって、上記押圧用流体袋は、上記被測定部位を押圧する向きに膨張する。これにより、上記被測定部位が圧迫されて、上記被測定部位を通る動脈が阻血される。続いて、上記押圧用流体袋から空気が上記第1流体配管を通して上記圧力デバイスによって徐々に排出される。これにより、上記押圧用流体袋が徐々に減圧される。例えば、この減圧過程で、上記音取得用流体袋が、上記押圧用流体袋を介して上記被測定部位からの音を取得する。さらに、上記音取得用流体袋によって取得された音を、上記第2流体配管を通して、上記音検出デバイスが検出する。そして、上記音取得用流体袋からの音に応じた上記音検出デバイスの出力に基づいて、コロトコフ音が抽出され、上記被測定部位の血圧が測定される。
【0011】
このように、この血圧測定用カフでは、上記音取得用流体袋が、上記押圧用流体袋を介して上記被測定部位からの音を取得する。上記装着状態では、被測定部位の周方向に沿って上記押圧用流体袋が延在している。したがって、仮に被測定部位に対するカフの装着位置(特に、周方向の位置)がばらついたとしても、上記被測定部位を通る動脈から上記押圧用流体袋に入る音のレベルへの影響は少なく、この結果、従来例に比して、上記音取得用流体袋による集音が安定する。したがって、コロトコフ音を安定して取得できる。
【0012】
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記押圧用流体袋と上記第1流体配管とを含む第1流体系と、上記音取得用流体袋と上記第2流体配管とを含む第2流体系とが、互いに流体流通不能に分離されていることを特徴とする。
【0013】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記第2流体系を通る音(コロトコフ音成分を含む)に対して、上記第1流体系から脈音(脈波音)が混入するのを防止できる。したがって、コロトコフ音をさらに安定して取得できる。
【0014】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記音取得用流体袋は、上記厚さ方向に互いに対向する一対のシートを含み、上記一対のシートが互いに接合されて袋状に構成されており、
上記一対のシートの互いに対向する隙間に、上記一対のシートが密接するのを防ぐスペーサが設けられている
ことを特徴とする。
【0015】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記一対のシートの互いに対向する隙間にスペーサが設けられているので、上記一対のシートが密接するのが防止される。したがって、上記音取得用流体袋は、上記押圧用流体袋を介して上記被測定部位からの音を安定して取得することができる。この結果、コロトコフ音をさらに安定して取得できる。
【0016】
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記スペーサは、上記シートに一体に形成された突起からなることを特徴とする。
【0017】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記スペーサが簡単に構成され得る。
【0018】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記押圧用流体袋は、上記厚さ方向に互いに対向する一対のシートを含み、上記一対のシートが互いに環状に接合されて袋状に構成されており、
上記音取得用流体袋は、上記厚さ方向に互いに対向する一対のシートを含み、上記一対のシートが互いに環状に接合されて袋状に構成されており、
上記音取得用流体袋の上記一対のシートのうち上記押圧用流体袋側のシートが、上記押圧用流体袋の上記一対のシートのうち上記音取得用流体袋側のシートと共通になっている
ことを特徴とする。
【0019】
「接合され」とは、溶着または接着などにより、つなぎ合わされていることを意味する。
【0020】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記音取得用流体袋の上記一対のシートのうち上記押圧用流体袋側のシートが、上記押圧用流体袋の上記一対のシートのうち上記音取得用流体袋側のシートと共通になっている。したがって、上記押圧用流体袋と上記音取得用流体袋とが3枚のシートで構成されるので、構造が簡素化される。
【0021】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記被測定部位は上腕であり、
上記押圧用流体袋の上記長手方向の寸法が167mmから380mmの範囲内に設定され、かつ、上記外布に沿った面内で上記押圧用流体袋の上記長手方向に垂直な幅方向の寸法が90mmから180mmの範囲内に設定され、
上記音取得用流体袋の上記長手方向の寸法が41.8mmから380mmの範囲内に設定され、かつ、上記音取得用流体袋の上記幅方向の寸法が45mmから180mmの範囲内に設定されている
ことを特徴とする。
【0022】
上記長手方向の寸法と上記幅方向の寸法とを併せて、適宜「面方向寸法」と総称する。
【0023】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記押圧用流体袋の面方向寸法の設定のおかげで、様々な腕周の被験者に適合して装着され得る。また、仮に上記被測定部位としての上腕に対するカフの装着位置(特に、周方向の位置)がばらついたとしても、上記押圧用流体袋は上記上腕を通る動脈に安定して対向することができる。また、上記音取得用流体袋の面方向寸法の設定のおかげで、上記一対のシートを例えば一般的なポリウレタン樹脂からなるものとした場合に、上記音取得用流体袋の固有振動数を、コロトコフ音の主な周波数成分に対して略同じオーダにすることが可能となる。したがって、上記音取得用流体袋は、上記被測定部位からのコロトコフ音成分を効率良く取得できる。
【0024】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記被測定部位は手首であり、
上記押圧用流体袋の上記長手方向の寸法が140mmに設定され、かつ、上記外布に沿った面内で上記押圧用流体袋の上記長手方向に垂直な幅方向の寸法が60mmに設定され、
上記音取得用流体袋の上記長手方向の寸法が35mmから140mmの範囲内に設定され、かつ、上記音取得用流体袋の上記幅方向の寸法が30mmから60mmの範囲内に設定されている
ことを特徴とする。
【0025】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記音取得用流体袋は、上記被測定部位からのコロトコフ音成分を効率良く取得できる。
【0026】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記音取得用流体袋の上記長手方向の寸法は、上記押圧用流体袋の上記長手方向の寸法の1/2に設定され、
上記音取得用流体袋の上記幅方向の寸法は、上記押圧用流体袋の上記幅方向の寸法と同じに設定されている
ことを特徴とする。
【0027】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記音取得用流体袋は、上記被測定部位からのコロトコフ音成分を効率良く取得できる。
【0030】
さらに別の局面では、この開示の血圧計は、
被測定部位が発生するコロトコフ音によって血圧を測定する血圧計であって、
上述の血圧測定用カフと、
上記第1流体配管に流体流通可能に接続され、上記押圧用流体袋に上記第1流体配管を通して流体を供給して加圧し、または、上記押圧用流体袋から上記第1流体配管を通して流体を排出して減圧する圧力デバイスと、
上記第2流体配管に流体流通可能に接続され、上記第2流体配管を通して上記音取得用流体袋からの音を検出する音検出デバイスと、
上記第2流体配管に流体流通可能に接続され、上記第2流体配管を閉じ又は大気圧に開放可能な大気開放弁とを備え、
上記押圧用流体袋と上記第1流体配管とを含む第1流体系と、上記音取得用流体袋と上記第2流体配管とを含む第2流体系とが、互いに流体流通不能に維持されており、
上記圧力デバイスが上記押圧用流体袋を加圧または減圧するのに伴って上記大気開放弁を開閉して、上記音取得用流体袋からの音に応じた上記音検出デバイスの出力に基づいて、上記被測定部位の血圧を算出する血圧算出部
を備える。
【0031】
「圧力デバイス」は、典型的には、ポンプ、弁を含む。
【0032】
「音検出デバイス」は、典型的には、マイクロフォンを含む。
【0033】
この開示の血圧計では、上記血圧測定用カフは、被測定部位を取り巻く態様で装着される。この装着状態で、血圧測定時には、例えば上記大気開放弁によって上記第2流体配管(を含む第2流体系)が閉じられた状態で、上記圧力デバイスによって上記第1流体配管を通して空気が上記押圧用流体袋に供給される。これにより、上記押圧用流体袋が加圧される。この加圧過程で、上記押圧用流体袋が上記音取得用流体袋とともに上記被測定部位から遠ざかる向きの膨張は、全体として上記外布によって規制される。したがって、上記押圧用流体袋は、上記被測定部位を押圧する向きに膨張する。これにより、上記被測定部位が圧迫されて、上記被測定部位を通る動脈が阻血される。続いて、上記押圧用流体袋から空気が上記第1流体配管を通して上記圧力デバイスによって徐々に排出される。これにより、上記押圧用流体袋が徐々に減圧される。例えば、この減圧過程で、上記音取得用流体袋が、上記押圧用流体袋を介して上記被測定部位からの音を取得する。さらに、上記音取得用流体袋によって取得された音を、上記第2流体配管を通して、上記音検出デバイスが検出する。そして、上記血圧算出部は、上記音取得用流体袋からの音に応じた上記音検出デバイスの出力に基づいて、コロトコフ音を抽出して、上記被測定部位の血圧を算出する。
【0034】
この血圧計では、上記血圧測定用カフによってコロトコフ音を安定して取得でき、したがって、血圧を精度良く測定できる。
【0035】
一実施形態の血圧計では
上記血圧算出部は、上記血圧測定用カフが上記被測定部位に装着された後、上記圧力デバイスが上記押圧用流体袋の加圧を開始する前に、上記大気開放弁を閉じて上記第2流体系を封じる
ことを特徴とする。
【0036】
この一実施形態の血圧計では、上記血圧算出部による上記加圧過程および上記減圧過程の間、上記音取得用流体袋は適量の空気が封入された状態に維持され得る。上記音取得用流体袋は、上記被測定部位からのコロトコフ音成分を効率良く取得できる。したがって、血圧をさらに精度良く測定できる。
【発明の効果】
【0037】
以上より明らかなように、この開示の血圧測定用カフによれば、コロトコフ音を安定して取得できる。また、この開示の血圧計によれば、血圧を精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】この発明の一実施形態の血圧測定用カフを備えた血圧計の外観を示す図である。
図2】上記血圧計のブロック構成を示す図である。
図3図3(A)は、上記カフを展開した状態で、そのカフに内包された音取得用流体袋、押圧用流体袋の平面レイアウトを模式的に示す図である。図3(B)は、それらの音取得用流体袋、押圧用流体袋の断面を、分解状態で模式的に示す図である。
図4図4(A)は、上記カフが被測定部位としての左上腕の外周を取り巻いて装着された態様を模式的に示す図である。図4(B)は、上記音取得用流体袋を通して音検出デバイス(マイクロフォン)を用いて取得されるK音信号(コロトコフ音を表す)を模式的に示す図である。図4(C)は、上記押圧用流体袋を通して圧力センサによって取得される圧力変動成分を模式的に示す図である。
図5】上記血圧計による血圧測定のフローを示す図である。
図6図6(A)は、上記音取得用流体袋の長手方向寸法、幅方向寸法を設定する態様を示す図である。図6(B)は、上記音取得用流体袋の長手方向寸法が様々な値に設定された場合の、上記K音信号の振幅を示す図である。図6(C)は、上記音取得用流体袋の幅方向寸法が様々な値に設定された場合の、上記K音信号の振幅を示す図である。
図7図7(A)は、上記カフの上記被測定部位に対する装着位置、特に上記音取得用流体袋の周方向位置が3通りに変更された態様を示す図である。図7(B)は、上記カフ(実施例)の音取得用流体袋の周方向位置が3通りに変更された場合の、上記K音信号の振幅を示す図である。図7(C)は、比較例1のカフ(押圧用流体袋下に音取得用流体袋が配置されているもの)の音取得用流体袋の周方向位置が3通りに変更された場合の、上記K音信号の振幅を示す図である。
図8A】上記カフ(実施例)が上記被測定部位からの音を取得している場合(K音有)に、上記マイクロフォンによって取得される音のパワースペクトルを示す図である。
図8B】上記カフ(実施例)が上記被測定部位からの音を取得していない場合(K音無)に、上記マイクロフォンによって取得される音のパワースペクトルを示す図である。
図9A】比較例2のカフ(押圧用流体袋と音取得用流体袋のエア配管が共通になっているもの)が上記被測定部位からの音を取得している場合(K音有)に、上記マイクロフォンによって取得される音のパワースペクトルを示す図である。
図9B】上記比較例2のカフが上記被測定部位からの音を取得していない場合(K音無)に、上記マイクロフォンによって取得される音のパワースペクトルを示す図である。
図10】上記血圧計による血圧測定中に、上記音取得用流体袋に流体流通可能に接続された大気開放弁の開閉の前後で、上記マイクロフォンによって取得される音のバックグラウンドノイズ(音圧レベル)を示す図である。
図11】上記カフ(実施例)が被測定部位に装着された後、ポンプによる加圧開始前に上記大気開放弁を閉じた場合に、上記血圧計によって上記血圧測定のフローに従って得られたカフ圧とK音信号を示す図である。
図12】上記カフ(実施例)が被測定部位に装着される前に上記大気開放弁を閉じた場合(比較例3)に、上記血圧計によって上記血圧測定のフローに従って得られたカフ圧とK音信号を示す図である。
図13図13(A)は、変形例1のカフを展開した状態で、そのカフに内包された音取得用流体袋、押圧用流体袋の平面レイアウトを模式的に示す図である。図13(B)は、それらの音取得用流体袋、押圧用流体袋の断面を、分解状態で模式的に示す図である。
図14図14(A)は、変形例2のカフを展開した状態で、そのカフに内包された音取得用流体袋、押圧用流体袋の平面レイアウトを模式的に示す図である。図14(B)は、それらの音取得用流体袋、押圧用流体袋の断面を、分解状態で模式的に示す図である。
図15図15(A)は、変形例3のカフを展開した状態で、そのカフに内包された音取得用流体袋、押圧用流体袋の平面レイアウトを模式的に示す図である。図15(B)は、それらの音取得用流体袋、押圧用流体袋の断面を、分解状態で模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0040】
(血圧計の概略構成)
図1は、この発明の一実施形態の血圧測定用カフ20を備えた血圧計100の外観を示している。この血圧計100は、大別して、上腕または手首などの棒状の被測定部位90(図4(A)参照)を取り巻いて装着されるカフ20と、このカフ20に対して第1流体配管としてのエア配管38、第2流体配管としてのエア配管37を介して流体流通可能に接続された本体10とを備えている。
【0041】
(血圧測定用カフの構成)
図1によって分かるように、上記カフ20は、外観上、細長い帯状(この例では、丸角の長方形)の外布21と、この外布21に対応する形状をもつ内布29とを対向させ、それらの外布21、内布29の周縁部20sを縫製(または溶着)して構成されている。
【0042】
図3(A)は、カフ20を展開した状態で、そのカフ20に内包された音取得用流体袋22、押圧用流体袋23の平面レイアウトを模式的に示している。図3(B)は、それらの音取得用流体袋22、押圧用流体袋23の断面を、分解状態で模式的に示している。ここで、カフ20について、長手方向Xは、外布21が帯状に延在する方向を意味し、装着状態(図4(A)参照)では被測定部位90を取り巻く周方向に相当する。幅方向Yは、外布21に沿った面内で長手方向Xに対して垂直な方向を意味し、装着状態では被測定部位90を動脈91が通る方向に相当する。また、厚さ方向Zは、長手方向Xと幅方向Yとの両方(つまり、外布21)に対して垂直な方向を意味し、装着状態では被測定部位90の外周面に対して垂直な方向に相当する。
【0043】
図3(B)によって分かるように、この例では、カフ20は、内布29と外布21との間に、押圧用流体袋23と、押圧用流体袋23とは別に構成された音取得用流体袋22とを備えている。押圧用流体袋23は、主に被測定部位90を圧迫するために、内布29の側に設けられている。音取得用流体袋22は、押圧用流体袋23を介して被測定部位90からの音を取得するために、外布21と押圧用流体袋23との間に設けられている。この例では、音取得用流体袋22は、押圧用流体袋23に対して部分的に接着され、押圧用流体袋23に対して位置ずれしないようになっている。押圧用流体袋23は、外布21に対して部分的に接着され、外布21に対して位置ずれしないようになっている。
【0044】
図3(A)によって分かるように、押圧用流体袋23は、外布21に沿った面内で、長手方向Xに沿って延在する丸角の略長方形の形状を有している。押圧用流体袋23の長手方向Xの寸法はL1=235mm、押圧用流体袋23の幅方向Yの寸法はW1=125mmに設定されている。音取得用流体袋22は、外布21に沿った面内で、押圧用流体袋23よりも小さい丸角の略長方形の形状を有している。音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法はL2=125mm、音取得用流体袋22の幅方向Yの寸法はW2=125mmに設定されている。これらの面方向寸法L1,W1,L2,W2の具体的な設定の仕方については、後述する。この例では、押圧用流体袋23の中心と音取得用流体袋22の中心とは一致している。
【0045】
図3(B)によって分かるように、押圧用流体袋23は、厚さ方向Zに互いに対向する一対のシート23a,23bを含み、それらの一対のシート23a,23bの周縁部23as,23bsが矢印M2で示すように互いに環状に接合(この例では、溶着)されて袋状に構成されている。音取得用流体袋22は、厚さ方向Zに互いに対向する一対のシート22a,22bを含み、それらの一対のシート22a,22bの周縁部22as,22bsが矢印M1で示すように互いに環状に接合されて袋状に構成されている。この例では、シート23a,23b,22a,22bはポリウレタン樹脂からなっている。
【0046】
押圧用流体袋23をなす一対のシート23a,23bは、互いに対応する位置に、それぞれ図3(A)において幅方向(-Y方向)に突出した略矩形状のタブ23at,23btを有している。タブ23at,23btの間にエア配管38を挟んだ状態で、タブ23at,23btのうちエア配管38の両側に相当する部分23tm,23tm(斜線で示す)を全面溶着することによって、エア配管38は押圧用流体袋23に流体流通可能に接続されている。押圧用流体袋23は、エア配管38を通して、空気が供給されることによって膨張し、空気が排出されることによって収縮することができる。同様に、音取得用流体袋22をなす一対のシート22a,22bは、互いに対応する位置に、それぞれ図3(A)において幅方向(-Y方向)に突出した略矩形状のタブ22at,22btを有している。タブ22at,22btの間にエア配管37を挟んだ状態で、タブ22at,22btのうちエア配管37の両側に相当する部分22tm,22tm(斜線で示す)を全面溶着することによって、エア配管37は音取得用流体袋22に流体流通可能に接続されている。音取得用流体袋22が取得した音は、このエア配管37を通して、本体10へ伝えられる(詳しくは、後述する。)。
【0047】
音取得用流体袋22をなす一対のシート22a,22bの互いに対向する隙間に、スペーサとしての複数の突起22p,22p,…が設けられている。この例では、これらの突起22p,22p,…は、それぞれ短円柱状をなし、押圧用流体袋23側に配されたシート22bに一体に形成されている。これにより、スペーサが簡単に構成され得る。この例では、これらの突起22p,22p,…は、外布21に沿った面(XY平面)内で概ね等間隔に分散して配置されている。これにより、血圧測定中に一対のシート22a,22bが密接するのが防止される。したがって、後述するように、音取得用流体袋22は、押圧用流体袋23を介して被測定部位90からの音を安定して取得することができる。この結果、コロトコフ音を安定して取得できる。
【0048】
外布21は、湾曲または屈曲可能であるが、血圧測定時に音取得用流体袋22、押圧用流体袋23が被測定部位90から遠ざかる向きに膨張するのを全体として規制するために、実質的に伸縮しないように構成されている。一方、内布29は、湾曲または屈曲可能であるとともに、血圧測定時に押圧用流体袋23が被測定部位90を圧迫し易いように伸縮容易に構成されている。ここで、外布21、内布29は、編まれたものに限られず、樹脂の一層または複数層からなっていてもよい。外布21と内布29の長手方向Xの寸法は、被測定部位90(この例では、上腕)の周囲長よりも長く設定されている。外布21と内布29の幅方向Yの寸法は、押圧用流体袋23(および音取得用流体袋22)の幅方向Yの寸法よりも若干大きく設定されている。なお、内布29は、音取得用流体袋22、押圧用流体袋23の保護のために設けられており、血圧測定のためには省略され得る。
【0049】
(本体の構成)
図2に示すように、本体10は、制御部110と、表示器50と、操作部52と、記憶部としてのメモリ51と、電源部53と、圧力センサ31と、圧力デバイスとしてのポンプ32および制御弁33と、音検出デバイスとしてのマイクロフォン35と、大気開放弁34とを搭載している。この例では、圧力センサ31に接続されたエア配管38aと、ポンプ32に接続されたエア配管38bと、制御弁33に接続されたエア配管38cとが合流して、押圧用流体袋23に流体流通可能に接続された1本のエア配管38になっている。第1流体配管としてのエア配管38は、これらのエア配管38a,38b,38cを含む総称である。また、マイクロフォン35に接続されたエア配管37aと、大気開放弁34に接続されたエア配管37bとが合流して、音取得用流体袋22に流体流通可能に接続された1本のエア配管37になっている。第2流体配管としてのエア配管37は、これらの37a,37bを含む総称である。
【0050】
図1中に示すように、表示器50と操作部52は、本体10の正面パネル10fに配置されている。表示器50は、この例では、LCD(Liquid Crystal Display;液晶ディスプレイ)からなり、制御部110からの制御信号に従って所定の情報を表示する。この例では、収縮期血圧SYS(Systolic Blood Pressure、単位;mmHg)、拡張期血圧DIA(Diastolic Blood Pressure、単位;mmHg)、脈拍数PULSE(単位;拍/min)を表示するようになっている。なお、表示器50は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイからなっていてもよいし、LED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)を含んでいてもよい。
【0051】
操作部52は、この例では、血圧の測定開始/停止の指示を受け付けるための測定スイッチ(簡単のため、同じ符号52で表す。)からなり、ユーザの指示に応じた操作信号を制御部110に入力する。具体的には、この測定スイッチ52が押されると、血圧測定を開始すべき旨の操作信号が制御部110に入力されて、制御部110は後述の血圧測定を開始する(血圧測定が完了すると、自動的に停止する。)。血圧測定の実行中に測定スイッチ52が押されると、制御部110は、血圧測定を緊急停止する。
【0052】
図2中に示すメモリ51は、血圧計100を制御するためのプログラムのデータ、血圧計100の各種機能を設定するための設定データ、および血圧値の測定結果のデータなどを記憶する。また、メモリ51は、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0053】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含み、この血圧計100全体の動作を制御する。具体的には、制御部110は、メモリ51に記憶された血圧計100を制御するためのプログラムに従って圧力制御部として働いて、操作部52からの操作信号に応じて、圧力デバイスとしてのポンプ32や制御弁33を駆動する制御を行う。また、制御部110は、血圧算出部として働いて、マイクロフォン35の出力に基づいて血圧値を算出し、表示器50およびメモリ51を制御する。具体的な血圧測定の仕方については後述する。
【0054】
圧力センサ31は、この例ではピエゾ抵抗式圧力センサであり、エア配管38を通して、カフ20に内包された押圧用流体袋23の圧力(これを「カフ圧Pc」と呼ぶ。)をピエゾ抵抗効果による電気抵抗として出力する。この例では、制御部110は、圧力センサ31からの電気抵抗に応じた発振周波数で発振する発振回路を含み、その発振周波数に応じて、カフ圧Pcを求める。
【0055】
ポンプ32は、制御部110から与えられる制御信号に基づいて、エア配管38を通して、カフ20に内包された押圧用流体袋23へ空気を供給する。これにより、押圧用流体袋23の圧力(カフ圧Pc)が加圧される。
【0056】
制御弁33は、常開タイプの電磁制御弁からなり、制御部110から与えられる制御信号に基づいて、エア配管38を通して押圧用流体袋23内の空気を排出し、または封入してカフ圧を制御するために開閉される。
【0057】
マイクロフォン35は、音取得用流体袋22によって取得された音をエア配管37を通して検出して、その音に応じた電気信号を制御部110へ出力する。この例では、制御部110は、マイクロフォン35が出力する電気信号から、高速フーリエ変換(FFT)を含むフィルタリングを行ってコロトコフ音を表すK音信号(Ksで表す)を抽出する。図4(B)に例示するように、K音信号Ksは、典型的には、基準レベルbaに対して高低に振動するパルス状の信号として得られる。図4(B)中に、K音信号Ksのピーク・ツゥ・ピークの振幅がAp-pで表されている。
【0058】
図2中に示す大気開放弁34は、常開タイプの電磁制御弁からなり、制御部110から与えられる制御信号に基づいて、音取得用流体袋22とエア配管37とを含む第2流体系FS2を大気に開放し、または封じるために開閉される。
【0059】
この例では、押圧用流体袋23、エア配管38、圧力センサ31、ポンプ32および制御弁33を含む第1流体系FS1と、音取得用流体袋22、エア配管37、マイクロフォン35および大気開放弁34を含む第2流体系FS2とが、互いに流体流通不能に分離され、本体10内でも分離が維持されている。これにより、第2流体系FS2(特に、エア配管37)を通る音(コロトコフ音成分を含む)に対して、第1流体系FS1から脈音(脈波音)が混入するのを防止できる。したがって、コロトコフ音をさらに安定して取得できる(詳しくは、後述する。)。
【0060】
電源部53は、制御部110、表示器50、メモリ51、圧力センサ31、ポンプ32、制御弁33、マイクロフォン35、大気開放弁34の各部に電力を供給する。
【0061】
(血圧測定用カフの装着態様)
上記カフ20は、図4(A)(被測定部位90を通る動脈91に沿った断面)に示すように、カフ20の長手方向Xが被測定部位(この例では、左上腕)90の外周面を取り巻く態様で装着される。装着のとき、図示しない面ファスナによって、外布21が緩まないように固定される。なお、図4(A)では、簡単のため、内布29の図示が省略され、また、押圧用流体袋23、音取得用流体袋22がそれぞれ楕円状に描かれている。この装着状態では、被測定部位90の外周面に対して、厚さ方向Zに、図示が省略された内布29と、押圧用流体袋23と、音取得用流体袋22と、外布21とが、この順に並ぶ。なお、装着状態では、動脈91を通る血流の下流側(-Y方向)へ向かってエア配管37,38が延在するので、エア配管37,38が装着の邪魔になることがない。
【0062】
(血圧測定)
図5は、ユーザが血圧計100によって血圧測定を行う際の動作フローを示している。
【0063】
カフ20が被測定部位90に装着された装着状態で、ユーザが本体10に設けられた測定スイッチ52によって測定開始を指示すると(図5のステップS1)、制御部110は、初期化を行う(図5のステップS2)。具体的には、制御部110は、処理用メモリ領域を初期化するとともに、ポンプ32を停止し、制御弁33を開いた状態で、圧力センサ31の0mmHg調整(大気圧を0mmHgに設定する。)を行う。このとき、大気開放弁34は開いた状態にある。
【0064】
次に、制御部110は、大気開放弁34を閉じる(ステップS3)。カフ20が被測定部位90に装着された後、押圧用流体袋23の加圧を開始する前の、この段階で大気開放弁34を閉じる理由は、被測定部位90から押圧用流体袋23を介してコロトコフ音を取得するために、音取得用流体袋22内に適量の空気を封じるためである。なお、図10は、血圧計100による血圧測定中に、大気開放弁34を時刻t0で閉じたとき、時刻t0の前後で、上記マイクロフォン35によって取得される音のバックグラウンドノイズ(音圧レベル)を示している。図10から分かるように、大気開放弁34を閉じることは、バックグラウンドノイズを減少させるので、コロトコフ音を取得する際の信号対ノイズ比(S/N比)の改善に寄与する。
【0065】
続いて、制御部110は圧力制御部として働いて、制御弁33を閉じ(ステップS4)、ポンプ32を駆動して、カフ20の加圧を開始する(ステップS5)。すなわち、制御部110は、ポンプ32からエア配管38を通してカフ20(に内包された押圧用流体袋23)に空気を供給する。これとともに、圧力センサ31は圧力検出部として働いて、押圧用流体袋23の圧力を、エア配管38を通して検出する。制御部110は、圧力センサ31の出力に基づいて、ポンプ32による加圧速度を制御する。
【0066】
このとき、図4(A)に示した押圧用流体袋23が、音取得用流体袋22とともに、被測定部位90から遠ざかる向きの膨張は、全体として外布21によって規制される。したがって、押圧用流体袋23は、被測定部位90のうち対向する領域90Aを押圧する向きに膨張する。これにより、被測定部位90のうち押圧用流体袋23が対向する領域90Aが圧迫されて、その領域90Aを通る動脈91が阻血される。
【0067】
次に、制御部110は、圧力センサ31の出力に基づいて、カフ20(この例では、押圧用流体袋23)の圧力(カフ圧Pc)が予め定められた値Pu(例えば図11中に示す)に達したか否かを判断する。ここで、この値Puは、被験者の想定される血圧値を十分上回るように、例えば280mmHgというように定められていてもよいし、前回測定された被験者の血圧値プラス40mmHgというように定められていてもよい。この例では、図11中に示すように、Pu=180mmHgに予め定められているものとする。制御部110は、カフ圧Pcが上述の値Pu=180mmHgに達するまで、加圧を継続し、カフ圧Pcが上述の値Puに達すると、ポンプ32を停止する(ステップS6)。図11の例では、時刻t1にカフ圧Pcが上述の値Puに達して、ポンプ32が停止されている。
【0068】
続いて、制御部110は、制御弁33を徐々に開く(図5のステップS7)。これにより、カフ圧Pcを略一定速度で減圧してゆく。この例では、この減圧過程で、音取得用流体袋22が、押圧用流体袋23を介して被測定部位90からの音を取得する。さらに、音取得用流体袋22によって取得された音を、エア配管37を通して、マイクロフォン35が検出する。マイクロフォン35は、その音に応じた電気信号を制御部110へ出力する。制御部110は、マイクロフォン35が出力する電気信号から、高速フーリエ変換(FFT)を含むフィルタリングを行って、コロトコフ音を表すK音信号Ksを抽出する。図11の例では、K音信号Ksは、時刻t2に観測され始め、次第に大きくなって極大値を示した後、次第に小さくなって、時刻t3に消失している。
【0069】
制御部110は血圧算出部として働いて、この時点で取得されているK音信号Ksに基づいて、血圧値(収縮期血圧SYS(Systolic Blood Pressure)と拡張期血圧DIA(Diastolic Blood Pressure))の算出を試みる(図5のステップS8)。図11の例では、時刻t2で圧力センサ31によって検出されているカフ圧Pcが収縮期血圧SYSとして算出される。また、時刻t3で圧力センサ31によって検出されているカフ圧Pcが拡張期血圧DIAとして算出される。
【0070】
また、押圧用流体袋23からエア配管38を通して圧力センサ31によって検出されるカフ圧Pcには、脈波による脈波情報としての脈波信号(圧力変動成分)Pm(図4(C)に示す)が重畳されている。この例では、制御部110は、この脈波信号Pmに基づいて、脈拍数PULSE(拍/min)を算出する。
【0071】
制御部110は、データ不足のために未だ血圧値と脈拍数を算出できない場合は(図5のステップS9でNO)、算出できるまでステップS7~S9の処理を繰り返す。
【0072】
このようにして血圧値と脈拍数の算出ができたら(ステップS9でYes)、制御部110は圧力制御部として働いて、制御弁33を開いて、カフ20(押圧用流体袋23)内の空気を急速排気する制御を行う(ステップS10)。また、大気開放弁34を開く(ステップS11)。
【0073】
この後、制御部110は、算出した血圧値と脈拍数を表示器50に表示し(ステップS12)、血圧値と脈拍数をメモリ51に保存する制御を行う。
【0074】
このようにして、カフ20を備えた血圧計100では、音取得用流体袋22が、押圧用流体袋23を介して被測定部位90からの音を取得する。装着状態では、被測定部位90の周方向に沿って押圧用流体袋23が延在している。したがって、仮に被測定部位90に対するカフ20(押圧用流体袋23)の装着位置(特に、周方向の位置)がばらついたとしても、従来例に比して、被測定部位90を通る動脈か91ら押圧用流体袋23に入る音のレベルへの影響は少なく、この結果、音取得用流体袋22による集音が安定する。したがって、コロトコフ音を表すK音信号Ksを安定して取得できる。この結果、血圧を精度良く測定できる。
【0075】
なお、上の例では、カフ20(押圧用流体袋23)の減圧過程で血圧値と脈拍数を算出したが、これに限られるものではなく、カフ20(押圧用流体袋23)の加圧過程で血圧値と脈拍数を算出してもよい。
【0076】
(押圧用流体袋、音取得用流体袋の面方向寸法の設定)
押圧用流体袋23、音取得用流体袋22の面方向寸法は、カフサイズ(カフの仕様として設定され、外布21、内布29の面方向寸法を定める)に応じて設定される。一般的に、カフサイズとしては、下の表1の「カフサイズ」欄に示すように、上腕用として、XL(特大)、L(大)、M(中)、S(小)が設定される。また、手首用サイズが設定される。
(表1)
【0077】
押圧用流体袋23の長手方向Xの寸法L1、幅方向Yの寸法W1は、被験者の腕周に対応したカフサイズに応じて、表1の「押圧用流体袋」欄に示すように様々な値に設定される。すなわち、上腕用でカフサイズXL(特大)のとき、長手方向Xの寸法L1=380.0mm、幅方向Yの寸法W1=180.0mmに設定される。上腕用でカフサイズL(大)のとき、長手方向Xの寸法L1=312.5mm、幅方向Yの寸法W1=150.0mmに設定される。上腕用でカフサイズM(中)のとき、長手方向Xの寸法L1=235.0mm、幅方向Yの寸法W1=125.0mmに設定される。上腕用でカフサイズS(小)のとき、長手方向Xの寸法L1=167.0mm、幅方向Yの寸法W1=90.0mmに設定される。手首用のとき、長手方向Xの寸法L1=140mm、幅方向Yの寸法W1=60mmに設定される。カフ20は、これらの押圧用流体袋23の面方向寸法L1,W1の設定のおかげで、様々な腕周、手首周の被験者に適合して装着され得る。
【0078】
図6(A)は、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2、幅方向Yの寸法W2を設定する態様を示している。音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2については、例えば最大値から減らしてゆくとき、矢印X1,X1′で示すように、押圧用流体袋23の長手方向Xの中心に対して、音取得用流体袋22の長手方向Xの中心が一致したまま減らしてゆく。音取得用流体袋22の幅方向Yの寸法W2については、例えば最大値から減らしてゆくとき、矢印Y1で示すように、音取得用流体袋22の下流側の辺22dが押圧用流体袋23の下流側の辺23dと一致したまま減らしてゆく。その理由は、動脈91の上流側からの脈音(脈波音)が音取得用流体袋22に混入するのを、なるべく避けるためである。この例では、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2、幅方向Yの寸法W2は、被験者の腕周に対応したカフサイズに応じて、表1の「音取得用流体袋」欄に示すように様々な値に設定される。すなわち、上腕用でカフサイズXLのとき、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2について95mm~380mmの範囲内に設定され、それに伴って、音取得用流体袋22の幅方向Yの寸法W2について90mm~180mmの範囲内に設定される。上腕用でカフサイズLのとき、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2について78.1mm~312.5mmの範囲内に設定され、それに伴って、音取得用流体袋22の幅方向Yの寸法W2について75mm~150mmの範囲内に設定される。上腕用でカフサイズMのとき、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2について58.8mm~235mmの範囲内に設定され、それに伴って、音取得用流体袋22の幅方向Yの寸法W2について62.5mm~125mmの範囲内に設定される。上腕用でカフサイズSのとき、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2について41.8mm~167mmの範囲内に設定され、それに伴って、音取得用流体袋22の幅方向Yの寸法W2について45mm~90mmの範囲内に設定される。手首用サイズのとき、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法はL2について35mm~140mmの範囲内値に設定され、それに伴って、音取得用流体袋22の幅方向Yの寸法W2について30mm~60mmの範囲内に設定される。
【0079】
図6(B)、図6(C)は、それぞれ、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2、幅方向Yの寸法W2が様々な値に設定された場合の、K音信号Ksのピーク・ツゥ・ピークの振幅Ap-p(単位;ボルト)を示している。なお、押圧用流体袋23については、長手方向Xの寸はL1=235.0mm、幅方向Yの寸法W1=125.0mmに固定して設定された(これらは、上腕用でカフサイズMのときの設定値に相当する。)。図6(B)によって分かるように、幅方向Yの寸法W2=125mmの条件下で、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2については、L2=235mmのときの振幅Ap-pの平均値は約0.80ボルト、L2=125mmのときの振幅Ap-pの平均値は約0.85ボルト、L2=60mmのときの振幅Ap-pの平均値は約0.68ボルト、L2=30mmのときの振幅Ap-pの平均値は約0.48ボルトであった。なお、d1,d2,d3,d4,d5は、この場合の個々のL2設定値での振幅Ap-pのばらつき範囲を示している。この結果、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2については、押圧用流体袋23の長手方向Xの寸法L1(=235mm)の1/2に相当するL2=125mmのとき、振幅Ap-pが最大値を示し、有利であることが分かった。また、長手方向Xの寸法L2=235mmの条件下で、音取得用流体袋22の幅方向Yの寸法W2については、W2=125mmのときの振幅Ap-pの平均値は約0.80ボルト、W2=60mmのときの振幅Ap-pの平均値は約0.68ボルト、W2=30mmのときの振幅Ap-pの平均値は約0.56ボルトであった。なお、d1′,d2′,d3′は、この場合の個々のW2設定値での振幅Ap-pのばらつき範囲を示している。この結果、押圧用流体袋23の幅方向Yの寸法W1(=125mm)に相当するW2=125mmのとき、振幅Ap-pが最大値を示し、有利であることが分かった。このように、L2=125mm、W2=125mmに設定するのが有利な理由は、音取得用流体袋22をなす一対のシート22a,22bを例えば一般的なポリウレタン樹脂からなるものとした場合に、音取得用流体袋22の固有振動数が、コロトコフ音の主な周波数成分に対して略同じオーダになるからだ、と考えられる。これにより、音取得用流体袋22は、被測定部位90からのコロトコフ音成分を効率良く取得できる。
【0080】
次に述べる検証実験1~3では、カフ20について、既述のように、押圧用流体袋23の長手方向Xの寸法はL1=235mm、押圧用流体袋23の幅方向Yの寸法はW1=125mmに設定された。音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法はL2=125mm、音取得用流体袋22の幅方向Yの寸法はW2=125mmに設定された。
【0081】
(検証実験1)
押圧用流体袋23の上に音取得用流体袋22が配置されているという構成(図4(A)参照)により、仮に被測定部位90に対するカフ20の装着位置(特に、周方向の位置)がばらついたとしても、コロトコフ音を安定して取得できるという効果を検証するために、本発明者は次のような検証実験を行った。
【0082】
図7(A)は、上記カフ20の被測定部位90に対する装着位置、特に音取得用流体袋22の周方向位置がP1,P2,P3で示すように3通りに変更された態様を示している。図7(A)は、被測定部位90としての左上腕を動脈91の上流側から見たときの断面に相当する。周方向位置P2は、音取得用流体袋22の中心が動脈91に対向する位置に相当する。周方向位置P3は、被測定部位90に対して周方向位置P2の反対側の位置に相当する。周方向位置P1は、被測定部位90の周りで周方向位置P2と周方向位置P3との中間の位置に相当する。図7(B)は、上記カフ20の音取得用流体袋22の周方向位置がP1,P2,P3で示すように3通りに変更された場合の、K音信号Ksのピーク・ツゥ・ピークの振幅Ap-p(単位;ボルト)を示している。この場合、周方向位置P1での振幅Ap-pの平均値は約0.82ボルト、周方向位置P2での振幅Ap-pの平均値は約0.80ボルト、周方向位置P3での振幅Ap-pの平均値は約0.64ボルトであった。この結果、周方向位置P1,P2,P3の変更による振幅Ap-pの平均値の変化量(最大差)Dv1は、約0.18ボルトであった。なお、dv1,dv2,dv3は、この場合の個々の周方向位置P1,P2,P3での振幅Ap-pのばらつき範囲を示している。
【0083】
本発明者は、比較例1のカフとして、従来例と同様に、押圧用流体袋23の下に音取得用流体袋22が配置されているものを作製した。比較例1のカフにおいて、その点以外は上記カフ20と同様に構成されている。図7(C)は、比較例1のカフの音取得用流体袋22の周方向位置がP1,P2,P3で示すように3通りに変更された場合の、K音信号Ksの振幅Ap-p(単位;ボルト)を示している。この場合、周方向位置P1での振幅Ap-pの平均値は約0.73ボルト、周方向位置P2での振幅Ap-pの平均値は約1.28ボルト、周方向位置P3での振幅Ap-pの平均値は約0.92ボルトであった。この結果、周方向位置P1,P2,P3の変更による振幅Ap-pの平均値の変化量(最大差)Dv2は、約0.55ボルトであった。なお、dv1′,dv2′,dv3′は、この場合の個々の周方向位置P1,P2,P3での振幅Ap-pのばらつき範囲を示している。
【0084】
図7(B)、図7(C)の結果を比較すれば分かるように、前者の変化量Dv1は後者の変化量(最大差)Dv2よりも小さい。つまり、カフ20では、仮に被測定部位90に対するカフ20(押圧用流体袋23)の装着位置(特に、周方向の位置)がばらついたとしても、従来例に比して、被測定部位90を通る動脈か91ら押圧用流体袋23に入る音のレベルへの影響は少ない。この結果、カフ20では、音取得用流体袋22による集音が安定し、したがって、コロトコフ音を表すK音信号Ksを安定して取得できる。
【0085】
このように、押圧用流体袋23の上に音取得用流体袋22が配置されているという構成により、仮に被測定部位90に対するカフ20の装着位置(特に、周方向の位置)がばらついたとしても、コロトコフ音を安定して取得できるという効果を検証することができた。
【0086】
(検証実験2)
第1流体系FS1と第2流体系FS2とが、互いに流体流通不能に分離されているという構成により、第2流体系FS2を通る音(コロトコフ音成分を含む)に対して、第1流体系FS1から脈音(脈波音)が混入するのを防止できるという効果を検証するために、本発明者は次のような検証実験を行った。
【0087】
図8Aは、カフ20が被測定部位90からの音を取得している場合(K音有)に、マイクロフォン35によって取得される音のパワースペクトルを示している。図8Bは、カフ20が被測定部位90からの音を取得していない場合(K音無)に、マイクロフォン35によって取得される音のパワースペクトルを示している。図8Aでは約120Hz~300Hzの範囲A1内にコロトコフ音のスペクトルが現れているのに対して、図8Bではその範囲A1内にコロトコフ音のスペクトルが現れていないことが分かる。このように、上記カフ20を備えた血圧計100では、コロトコフ音を表すK音信号Ksを確かに取得できる。
【0088】
本発明者は、比較例2のカフとして、エア配管37,38が共通のエア配管になっているものを作製した。比較例2のカフにおいて、その点以外は上記カフ20と同様に構成されている。図9Aは、比較例2のカフが被測定部位90からの音を取得している場合(K音有)に、マイクロフォン35によって取得される音のパワースペクトルを示している。図9Bは、上記比較例2のカフが被測定部位90からの音を取得していない場合(K音無)に、上記マイクロフォンによって取得される音のパワースペクトルを示している。図9A図9Bのいずれにおいても、約120Hz~300Hzの範囲A1内にコロトコフ音のスペクトルが現れていないことが分かる。この理由は、図9Aでは、コロトコフ音のスペクトルがバックグラウンドノイズ(脈音の成分を含む)に埋もれているからである、と考えられる。なお、図8A図8B図9A図9Bは、取得されたスペクトルデータ中の最大値が10に正規化されている。
【0089】
これらの結果から、第1流体系FS1と第2流体系FS2とが互いに流体流通不能に分離されているという構成により、第2流体系FS2を通る音(コロトコフ音成分を含む)に対して、第1流体系FS1から脈音(脈波音)が混入するのを防止できるという効果を検証することができた。なお、この効果は、仮に押圧用流体袋23の下に音取得用流体袋22が配置されているという構成であっても得られる、と言える。
【0090】
(検証実験3)
血圧測定の際、カフ20が被測定部位90に装着された後、押圧用流体袋23の加圧を開始する前の段階で大気開放弁34を閉じること(図5のステップS4)によって、被測定部位90から押圧用流体袋23を介してコロトコフ音を取得するために、音取得用流体袋22内に適量の空気を封じることができるという効果を検証するために、本発明者は次のような検証実験を行った。
【0091】
既述のように、図11は、上述の血圧測定フロー、すなわち、カフ20が被測定部位90に装着された後、押圧用流体袋23の加圧を開始する前の段階で大気開放弁34を閉じた(図5のステップS4)場合に、取得されたコロトコフ音を表すK音信号Ksを示している。図11の例では、K音信号Ksは、時刻t2に観測され始め、次第に大きくなって極大値を示した後、次第に小さくなって、時刻t3に直ちに消失している。
【0092】
これに対して、図12は、カフ20が被測定部位90に装着される前に大気開放弁34を閉じた場合(比較例3)、すなわち音取得用流体袋22内に適量を超える空気が残っている場合に、取得されたコロトコフ音を表すK音信号Ksを示している。この場合、K音信号Ksは、収縮期血圧SYSに対応する時刻t2′に観測され始め、次第に大きくなって極大値を示した後、次第に小さくなるが、拡張期血圧DIAに対応する時刻t3′を過ぎた後も直ちには消失せず、破線で示す領域B1内に示すように、ゆっくり消失する。この理由は、収縮期血圧SYS時点での周波数成分に比して拡張期血圧DIA時点での周波数成分の方が低いため、脈波(振動)の影響を受け易いからである、と考えられる。このように、K音信号Ksが時刻t3′を過ぎた後も残る場合は、どの時刻のカフ圧が拡張期血圧DIAに相当するかを判定し難い。
【0093】
これにより、血圧測定の際、カフ20が被測定部位90に装着された後、押圧用流体袋23の加圧を開始する前の段階で大気開放弁34を閉じること(図5のステップS4)によって、被測定部位90から押圧用流体袋23を介してコロトコフ音を取得するために、音取得用流体袋22内に適量の空気を封じることができるという効果を検証することができた。
【0094】
(変形例1)
上記カフ20では、図3(A)、図3(B)によって説明したように、音取得用流体袋22と押圧用流体袋23とが4枚のシート22a,22b,23a,23bで構成されているものとした。しかしながら、これに限られるものではない。
【0095】
図13(A)、図13(B)は、上記カフ20を変形した変形例1のカフ20Aとして、音取得用流体袋22と押圧用流体袋23とが3枚のシート22a,23a,23bで構成される例を、図3(A)、図3(B)に対応して示している。なお、図3(A)、図3(B)におけるのと同一の構成要素には同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する(後述の図14(A)、図14(B)、図15(A)、図15(B)でも同様。)。また、図13(B)では、簡単のため、外布21と内布29の図示を省略している(後述の図14(B)、図15(A)、図15(B)でも同様。)。
【0096】
このカフ20Aでは、図13(B)によって分かるように、音取得用流体袋22Aは、シート22aの周縁部22asと、押圧用流体袋23をなす上側のシート(音取得用流体袋22側のシート)23aのうち上記周縁部22asに対応する部分23aiとが、矢印M1で示すように互いに環状に接合(この例では、溶着)されて袋状に構成されている。押圧用流体袋23は、上記カフ20におけるのと同様に、一対のシート23a,23bの周縁部23as,23bsが矢印M2で示すように互いに環状に接合(この例では、溶着)されて袋状に構成されている。すなわち、図3(B)に示した音取得用流体袋22の一対のシート22a,22bのうち押圧用流体袋23側のシート22bが、押圧用流体袋23の一対のシート23a,23bのうち上側のシート23aと共通になって、省略されている。このように、このカフ20Aでは、音取得用流体袋22と押圧用流体袋23とが3枚のシート22a,23a,23bで構成されるので、構造が簡素化される。なお、矢印M1で示す接合が先に行われた後、矢印M2で示す接合が行われる。
【0097】
なお、このカフ20Aでは、図13(A)によって分かるように、押圧用流体袋23をなす上側のシート23aは、タブ23atに加えて、音取得用流体袋22Aのタブ22atと対応する位置に、タブ23at′を有している。これらのタブ22at,23at′の間にエア配管37を挟んだ状態で、タブ22at,23at′のうちエア配管37の両側に相当する部分22tm,22tm(斜線で示す)を全面溶着することによって、エア配管37は音取得用流体袋22Aに流体流通可能に接続されている。
【0098】
また、このカフ20Aでは、押圧用流体袋23をなす上側のシート23aの上面に、スペーサとしての複数の突起22p,22p,…が一体に形成されている。これにより、音取得用流体袋22Aをなすシート22a,23aが密接するのが防止される。
【0099】
(変形例2)
上記カフ20,20Aでは、音取得用流体袋22,22Aにおけるスペーサは、それぞれシート22bまたは23aに一体に形成された複数の突起22p,22p,…からなるものとした。しかしながら、これに限られるものではない。
【0100】
図14(A)、図14(B)は、変形例1のカフ20Aをさらに変形した変形例2のカフ20Bとして、スペーサがスポンジシート24で構成された例を、図13(A)、図13(B)に対応して示している。
【0101】
このカフ20Bでは、図14(B)によって分かるように、音取得用流体袋22Bをなす一対のシート22a,23aの互いに対向する隙間に、スペーサとしてのスポンジシート24が設けられている。図14(A)によって分かるように、スポンジシート24は、外布21に沿った面内で、音取得用流体袋22Bをなす上側のシート22aよりも若干寸法が小さい丸角の長方形の形状を有している。これは、図14(B)中に矢印M1で示した接合部分に対するマージンを確保するためである。このカフ20Bは、それ以外の点についてはカフ20Aと同様に構成されている。
【0102】
このカフ20Bは、複数の突起22p,22p,…が一体に形成されたシートを用いる必要がないので、簡単に作製され得る。
【0103】
なお、スポンジシート24は、音取得用流体袋22Bをなす一対のシート22a,23aのいずれか一方または両方に接着されていてもよいし、接着されなくてもよい。
【0104】
(変形例3)
上記カフ20,20A,20Bでは、音取得用流体袋22,22A,22Bに対してエア配管37が、それぞれタブ22at,22btまたは22at,23at′を用いて接続された。しかしながら、これに限られるものではない。
【0105】
図15(A)、図15(B)は、変形例1のカフ20Aをさらに変形した変形例3のカフ20Cとして、音取得用流体袋22Cに対してエア配管37がキャップ25を用いて接続された例を、図13(A)、図13(B)に対応して示している。
【0106】
このカフ20Cでは、音取得用流体袋22Cをなす上側のシート22aの上面に、ドーム状のキャップ25が一体に取り付けられている。シート22aのうちキャップ25に対応する部分には、厚さ方向Zにシート22aを貫通する貫通孔28が設けられている。この例では、エア配管37の端部はキャップ25に気密に嵌合して挿入され、取り付けられている。
【0107】
このカフ20Cは、上記カフ20,20A,20Bに比して、タブ22at,22btまたは22at,23at′を溶着する手間がかからないので、簡単に作製され得る。
【0108】
上の例では、外布21に沿った面内で、押圧用流体袋23、音取得用流体袋22,20A,20B,20Cは、それぞれ丸角の長方形の形状を有するものとしたが、これに限られるものではない。それらの平面的な形状は、丸角の正方形であってもよいし、楕円形、円形などであってもよい。
【0109】
また、上の例では、被測定部位90は上腕(特に、左上腕)であるものとしたが、これに限られるものではない。被測定部位90は、右上腕であってもよいし、手首などの上腕以外の上肢、または、足首などの下肢であってもよい。
【0110】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0111】
10 本体
20,20A,20B,20C 血圧測定用カフ
21 外布
22 音取得用流体袋
22p 突起
23 押圧用流体袋
24 スポンジシート
25 キャップ
31 圧力センサ
32 ポンプ
33 制御弁
34 大気開放弁
35 マイクロフォン
37,38 エア配管
100 血圧計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15