(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】血圧計
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
A61B5/022 400B
A61B5/022 300B
A61B5/022 300D
(21)【出願番号】P 2020184633
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】内藤 晃誠
(72)【発明者】
【氏名】澤野井 幸哉
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-136385(JP,A)
【文献】米国特許第04889132(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定部位が発生するコロトコフ音によって血圧を測定する血圧計であって、
被測定部位を取り巻いて装着される血圧測定用カフと、
上記血圧測定用カフに流体を供給して加圧し、または、上記血圧測定用カフから流体を排出して減圧する圧力デバイスと、
上記血圧測定用カフを介して上記被測定部位が発生する音を検出する音検出デバイスと、
上記圧力デバイスによる上記血圧測定用カフの加圧過程で、上記血圧測定用カフの圧力が予め定められた第1圧力範囲を通過するのに要する第1通過時間を計測し、上記第1通過時間に応じて、コロトコフ音成分に対する増幅率を可変して設定する増幅率設定部と、
上記加圧過程または上記加圧過程に続く減圧過程で、上記血圧測定用カフからの音に応じた上記音検出デバイスの出力を受けて、上記出力に含まれたコロトコフ音成分を上記増幅率設定部によって設定された増幅率で増幅し、この増幅されたコロトコフ音成分に基づいて上記被測定部位の血圧を算出する血圧算出部と
を備えたことを特徴とする血圧計。
【請求項2】
請求項1に記載の血圧計において、
上記血圧測定用カフは、
帯状に長手方向に延在し、被測定部位を取り巻く外布と、
上記外布の上記被測定部位に対向する側に上記長手方向に沿って延在して設けられ、上記被測定部位を圧迫する押圧用流体袋と、
上記外布に対して垂直な厚さ方向に関して上記外布と上記押圧用流体袋との間に設けられ、上記押圧用流体袋を介して上記被測定部位からの音を取得する音取得用流体袋とを含み、
上記押圧用流体袋と上記圧力デバイスとを流体流通可能に接続する第1流体配管と、
上記第1流体配管とは別に設けられ、上記音取得用流体袋と上記音検出デバイスとを流体流通可能に接続する第2流体配管と
を備えたことを特徴とする血圧計。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血圧計において、
上記被測定部位の周囲長に応じて、上記血圧測定用カフおよび/または上記血圧測定用カフに含まれた押圧用流体袋の長手方向の長さは可変して設定され、
上記増幅率設定部は、上記血圧測定用カフおよび/または上記押圧用流体袋の長手方向および/または幅方向の長さが長くなるのに伴って上記第1通過時間が長くなるのに応じて、上記増幅率を大きく設定する
ことを特徴とする血圧計。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一つに記載の血圧計において、
上記増幅率設定部は、
上記圧力デバイスによる上記血圧測定用カフの加圧過程で、上記血圧測定用カフの圧力が、上記第1圧力範囲よりも下方の予め定められた第2圧力範囲を通過するのに要する第2通過時間を計測し、
上記血圧測定用カフの巻き付け強度が緩くなるのに伴って上記第2通過時間が長くなるのに応じて、上記増幅率を大きく設定する
ようになっており、
上記第1通過時間に応じて設定される増幅率を、上記第2通過時間に応じて可変して設定する
ことを特徴とする血圧計。
【請求項5】
被測定部位が発生するコロトコフ音によって血圧を測定する血圧計であって、
被測定部位を取り巻いて装着される血圧測定用カフと、
上記血圧測定用カフに流体を供給して加圧し、または、上記血圧測定用カフから流体を排出して減圧する圧力デバイスと、
上記血圧測定用カフを介して上記被測定部位が発生する音を検出する音検出デバイスと、
現在接続されている血圧測定用カフが予め用意された複数種類のカフサイズのうちいずれのカフサイズを有するかを表すサイズ情報を入力する入力部と、
上記入力部によって入力されたサイズ情報に応じて、コロトコフ音成分に対する増幅率を可変して設定する増幅率設定部と、
上記圧力デバイスによる加圧過程または減圧過程で、上記血圧測定用カフからの音に応じた上記音検出デバイスの出力を受けて、上記出力に含まれたコロトコフ音成分を上記増幅率設定部によって設定された増幅率で増幅し、この増幅されたコロトコフ音成分に基づいて上記被測定部位の血圧を算出する血圧算出部と
を備えたことを特徴とする血圧計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は血圧計に関し、より詳しくは、被測定部位を圧迫してコロトコフ音に基づいて血圧を測定する血圧計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の血圧計としては、例えば特許文献1(特開昭53-136385号公報)に開示されているように、カフ(マンシェット)の減圧過程で、拍ごとに検出されるコロトコフ音の振幅が一定となるように、増幅器の増幅率を可変する技術が知られている。これにより、コロトコフ音を確実に認識できるように図っている。また、特許文献2(特開平5-317270号公報)に開示されているように、カフの減圧過程で、減圧速度に基づいてK音認識レベル(このK音認識レベルを超える信号がコロトコフ音として扱われる)を可変して設定する技術が知られている。これにより、コロトコフ音を安定して認識できるように図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭53-136385号公報
【文献】特開平5-317270号公報
【文献】特許第5408125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被測定部位が太腕(周囲長が大)である場合は、動脈と体表面との間の生体組織が多いので音が伝わり難く、コロトコフ音レベルは小さくなる一方、被測定部位が細腕(周囲長が小)である場合は、動脈と体表面との間の生体組織が少ないので、コロトコフ音レベルは大きくなる、という傾向がある。このため、仮に被測定部位が太腕である場合のコロトコフ音レベルに基づいて増幅率を大きく設定してしまうと、被測定部位が細腕である場合にその増幅率で増幅された信号が飽和してしまう(すなわち、その信号を処理するプロセッサの入力レンジを超えてしまう)、という問題がある。この結果、血圧測定の精度が低下する。上記特許文献1、2には、そのような問題意識がなく、上記特許文献1、2の技術は上記問題を解決するものではない。
【0005】
そこで、この発明の課題は、被測定部位の周囲長に依存したコロトコフ音レベルの大小を緩和または解消でき、血圧を精度良く測定できる血圧計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、この開示の血圧計は、
被測定部位が発生するコロトコフ音によって血圧を測定する血圧計であって、
被測定部位を取り巻いて装着される血圧測定用カフと、
上記血圧測定用カフに流体を供給して加圧し、または、上記血圧測定用カフから流体を排出して減圧する圧力デバイスと、
上記血圧測定用カフを介して上記被測定部位が発生する音を検出する音検出デバイスと、
上記圧力デバイスによる上記血圧測定用カフの加圧過程で、上記血圧測定用カフの圧力が予め定められた第1圧力範囲を通過するのに要する第1通過時間を計測し、上記第1通過時間に応じて、コロトコフ音成分に対する増幅率を可変して設定する増幅率設定部と、
上記加圧過程または上記加圧過程に続く減圧過程で、上記血圧測定用カフからの音に応じた上記音検出デバイスの出力を受けて、上記出力に含まれたコロトコフ音成分を上記増幅率設定部によって設定された増幅率で増幅し、この増幅されたコロトコフ音成分に基づいて上記被測定部位の血圧を算出する血圧算出部と
を備えたことを特徴とする。
【0007】
本明細書で、「被測定部位」は、上腕、手首などの上肢、または、足首などの下肢を含み、典型的には棒状の部位を指す。
【0008】
「血圧測定用カフ」は、典型的には、被測定部位を圧迫するための流体袋(これを「押圧用流体袋」と呼ぶ。)を含む。
【0009】
「圧力デバイス」は、典型的には、ポンプ、弁を含む。
【0010】
「音検出デバイス」は、典型的には、マイクロフォンを含む。
【0011】
「予め定められた第1圧力範囲」は、例えば25mmHg~35mmHgのような範囲を指す。
【0012】
この開示の血圧計では、上記血圧測定用カフは、被測定部位を周方向に取り巻いて装着される。この装着状態で、血圧測定時には、上記圧力デバイスによって例えば空気が上記血圧測定用カフ(典型的には、押圧用流体袋)に供給される。これにより、上記血圧測定用カフが加圧される。これにより、上記被測定部位が圧迫されて、上記被測定部位を通る動脈が阻血される。この加圧過程で、上記増幅率設定部は、上記血圧測定用カフの圧力(カフ圧)が予め定められた第1圧力範囲を通過するのに要する第1通過時間を計測する。
【0013】
ここで、例えば特許文献3(特許第5408125号公報)に開示されているように、20mmHg以上の予め定められた第1圧力範囲(例えば25mmHg~35mmHgの範囲)であれば、カフ圧が上記第1圧力範囲を通過するのに要する第1通過時間は、カフの巻き付け強度にかかわらず、被測定部位の周囲長(カフサイズ、特に、押圧用流体袋のサイズに対応する)に従って変化する。
【0014】
そこで、上記増幅率設定部は、上記第1通過時間に応じて、コロトコフ音成分に対する増幅率を可変して設定する。上記血圧算出部は、上記加圧過程または上記加圧過程に続く減圧過程で、上記血圧測定用カフからの音に応じた上記音検出デバイスの出力を受けて、上記出力に含まれたコロトコフ音成分を上記増幅率設定部によって設定された増幅率で増幅し、この増幅されたコロトコフ音成分に基づいて上記被測定部位の血圧を算出する。これにより、被測定部位の周囲長に依存した上記コロトコフ音レベルの大小を緩和または解消することができる。つまり、増幅されたコロトコフ音成分が、この信号を処理するプロセッサ(血圧算出部をなす)の入力レンジを超えてしまうような事態を回避できる。したがって、この血圧計によれば、血圧を精度良く測定できる。
【0015】
一実施形態の血圧計では、
上記血圧測定用カフは、
帯状に長手方向に延在し、被測定部位を取り巻く外布と、
上記外布の上記被測定部位に対向する側に上記長手方向に沿って延在して設けられ、上記被測定部位を圧迫する押圧用流体袋と、
上記外布に対して垂直な厚さ方向に関して上記外布と上記押圧用流体袋との間に設けられ、上記押圧用流体袋を介して上記被測定部位からの音を取得する音取得用流体袋とを含み、
上記押圧用流体袋と上記圧力デバイスとを流体流通可能に接続する第1流体配管と、
上記第1流体配管とは別に設けられ、上記音取得用流体袋と上記音検出デバイスとを流体流通可能に接続する第2流体配管と
を備えたことを特徴とする。
【0016】
「被測定部位に対向する側」とは、この血圧測定用カフが被測定部位を取り巻いて装着された状態(これを「装着状態」と呼ぶ。)で、上記被測定部位に対向する側を意味する。
【0017】
血圧測定用カフについて、「長手方向」は、外布が帯状に延在する方向を意味し、装着状態では被測定部位を取り巻く周方向に相当する。後述の「幅方向」は、上記外布に沿った面内で上記長手方向に対して垂直な方向を意味し、装着状態では上記被測定部位を動脈が通る方向に相当する。また、「厚さ方向」は、長手方向と幅方向との両方(つまり、外布)に対して垂直な方向を意味し、装着状態では上記被測定部位の外周面に対して垂直な方向に相当する。
【0018】
この一実施形態の血圧計では、上記血圧測定用カフは、このカフの長手方向が被測定部位を取り巻く態様で装着される。この装着状態では、上記被測定部位に対して、厚さ方向に関して、上記押圧用流体袋と、上記音取得用流体袋と、上記外布とが、この順に並ぶ。この装着状態で、血圧測定時には、上記圧力デバイスから上記第1流体配管を通して空気が上記押圧用流体袋に供給される。これにより、上記押圧用流体袋が加圧される。この加圧過程で、上記押圧用流体袋が上記音取得用流体袋とともに上記被測定部位から遠ざかる向きの膨張は、全体として上記外布によって規制される。したがって、上記押圧用流体袋は、上記被測定部位を押圧する向きに膨張する。これにより、上記被測定部位が圧迫されて、上記被測定部位を通る動脈が阻血される。続いて、上記押圧用流体袋から空気が上記第1流体配管を通して上記圧力デバイスによって徐々に排出される。これにより、上記押圧用流体袋が徐々に減圧される。
【0019】
この血圧計では、上記血圧測定用カフにおいて、上記音取得用流体袋が、上記押圧用流体袋を介して上記被測定部位からの音を取得する。上記装着状態では、被測定部位の周方向に沿って上記押圧用流体袋が延在している。したがって、仮に被測定部位に対するカフの装着位置(特に、周方向の位置)がばらついたとしても、上記被測定部位を通る動脈から上記押圧用流体袋に入る音のレベルへの影響は少なく、この結果、上記音取得用流体袋による集音が安定する。したがって、コロトコフ音を安定して取得できる。さらに、上記押圧用流体袋と上記圧力デバイスとを流体流通可能に接続する第1流体配管とは別に、上記音取得用流体袋と上記音検出デバイスとを流体流通可能に接続する第2流体配管が設けられている。したがって、上記押圧用流体袋、上記第1流体配管および上記圧力デバイスを含む流体系(これを「第1流体系」と呼ぶ。)から、脈音(脈波音)が、上記音取得用流体袋、上記第2流体配管および上記音検出デバイスを含む流体系(これを「第2流体系」と呼ぶ。)へ混入するのを防止できる。したがって、コロトコフ音をさらに安定して取得できる。
【0020】
一実施形態の血圧計では、
上記被測定部位の周囲長に応じて、上記血圧測定用カフおよび/または上記血圧測定用カフに含まれた押圧用流体袋の長手方向の長さは可変して設定され、
上記増幅率設定部は、上記血圧測定用カフおよび/または上記押圧用流体袋の長手方向および/または幅方向の長さが長くなるのに伴って上記第1通過時間が長くなるのに応じて、上記増幅率を大きく設定する
ことを特徴とする。
【0021】
被測定部位が太腕(周囲長が大)である場合は、動脈と体表面との間の生体組織が多いので音が伝わり難く、コロトコフ音レベルは小さくなる一方、被測定部位が細腕(周囲長が小)である場合は、動脈と体表面との間の生体組織が少ないので、コロトコフ音レベルは大きくなる、という傾向がある。そこで、この一実施形態の血圧計では、上記増幅率設定部は、上記血圧測定用カフおよび/または上記押圧用流体袋の長手方向および/または幅方向の長さが長くなるのに伴って上記第1通過時間が長くなるのに応じて、上記増幅率を大きく設定する。したがって、被測定部位の周囲長に依存した上記コロトコフ音レベルの大小を確実に緩和または解消することができる。この結果、上記血圧算出部は、血圧をさらに精度良く測定できる。
【0022】
一実施形態の血圧計では、
上記増幅率設定部は、
上記圧力デバイスによる上記血圧測定用カフの加圧過程で、上記血圧測定用カフの圧力が、上記第1圧力範囲よりも下方の予め定められた第2圧力範囲を通過するのに要する第2通過時間を計測し、
上記血圧測定用カフの巻き付け強度が緩くなるのに伴って上記第2通過時間が長くなるのに応じて、上記増幅率を大きく設定するようになっており、
上記第1通過時間に応じて設定される増幅率を、上記第2通過時間に応じて可変して設定する
ことを特徴とする。
【0023】
「予め定められた第2圧力範囲」は、例えば10mmHg~15mmHgのような範囲を指す。
【0024】
血圧測定用カフの巻き付け強度が緩くなるのに伴ってコロトコフ音レベルは小さくなる一方、血圧測定用カフの巻き付け強度がきつくなるのに伴ってコロトコフ音レベルは大きくなる、という傾向がある。ここで、例えば特許文献3(特許第5408125号公報)に開示されているように、上記第1圧力範囲よりも下方の予め定められた第2圧力範囲(例えば10mmHg~15mmHgの範囲)であれば、カフ圧が上記第2圧力範囲を通過するのに要する第2通過時間は、カフサイズと巻き付け強度に従って変化する。つまり、或るカフサイズに設定された条件下では、上記第2通過時間は、巻き付け強度に対応する。そこで、この一実施形態の血圧計では、上記増幅率設定部は、上記圧力デバイスによる上記血圧測定用カフの加圧過程で、上記血圧測定用カフの圧力が、上記第2圧力範囲を通過するのに要する第2通過時間を計測し、上記血圧測定用カフの巻き付け強度が緩くなるのに伴って上記第2通過時間が長くなるのに応じて、上記増幅率を大きく設定する。具体的には、上記第1通過時間に応じて設定される増幅率を、上記第2通過時間に応じて可変して設定する。したがって、血圧測定用カフの巻き付け強度に依存した上記コロトコフ音レベルの大小を確実に緩和または解消することができる。この結果、上記血圧算出部は、血圧をさらに精度良く測定できる。
【0025】
別の局面では、この開示の血圧計は、
被測定部位が発生するコロトコフ音によって血圧を測定する血圧計であって、
被測定部位を取り巻いて装着される血圧測定用カフと、
上記血圧測定用カフに流体を供給して加圧し、または、上記血圧測定用カフから流体を排出して減圧する圧力デバイスと、
上記血圧測定用カフを介して上記被測定部位が発生する音を検出する音検出デバイスと、
現在接続されている血圧測定用カフが予め用意された複数種類のカフサイズのうちいずれのカフサイズを有するかを表すサイズ情報を入力する入力部と、
上記入力部によって入力されたサイズ情報に応じて、コロトコフ音成分に対する増幅率を可変して設定する増幅率設定部と、
上記圧力デバイスによる加圧過程または減圧過程で、上記血圧測定用カフからの音に応じた上記音検出デバイスの出力を受けて、上記出力に含まれたコロトコフ音成分を上記増幅率設定部によって設定された増幅率で増幅し、この増幅されたコロトコフ音成分に基づいて上記被測定部位の血圧を算出する血圧算出部と
を備えたことを特徴とする。
【0026】
言い換えれば、この開示の血圧計は、
現在接続されている血圧測定用カフが予め用意された複数種類のカフサイズのうちいずれのカフサイズを有するかを表すサイズ情報を入力する入力部を備え、
上記増幅率設定部は、上記第1通過時間を求めるのに代えて、上記入力部によって入力されたサイズ情報に応じて、コロトコフ音成分に対する増幅率を可変して設定する。
【0027】
この開示の血圧計は、上記入力部は、現在接続されている血圧測定用カフが予め用意された複数種類のカフサイズのうちいずれのカフサイズを有するかを表すサイズ情報を入力する。増幅率設定部は、上記第1通過時間を求めるのに代えて、上記入力部によって入力されたサイズ情報に応じて、コロトコフ音成分に対する増幅率を可変して設定する。上記血圧算出部は、上記圧力デバイスによる加圧過程または減圧過程で、上記血圧測定用カフからの音に応じた上記音検出デバイスの出力を受けて、上記出力に含まれたコロトコフ音成分を上記増幅率設定部によって設定された増幅率で増幅し、この増幅されたコロトコフ音成分に基づいて上記被測定部位の血圧を算出する。この結果、被測定部位の周囲長(カフサイズに対応する)に依存したコロトコフ音レベルの大小を緩和または解消することができる。したがって、上記血圧算出部は、血圧を精度良く測定できる。
【発明の効果】
【0028】
以上より明らかなように、この開示の血圧計によれば、被測定部位の周囲長に依存したコロトコフ音レベルの大小を緩和または解消でき、血圧を精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】この発明の一実施形態の血圧計の外観を示す図である。
【
図3】
図3(A)は、上記血圧計に含まれた血圧測定用カフを展開した状態で、そのカフに内包された音取得用流体袋、押圧用流体袋の平面レイアウトを模式的に示す図である。
図3(B)は、それらの音取得用流体袋、押圧用流体袋の断面を、分解状態で模式的に示す図である。
【
図4】
図4(A)は、上記カフが被測定部位としての上腕の外周を取り巻いて装着された態様を模式的に示す図である。
図4(B)は、上記音取得用流体袋を通して音検出デバイス(マイクロフォン)を用いて取得されるK音信号(コロトコフ音を表す)を模式的に示す図である。
図4(C)は、上記押圧用流体袋を通して圧力センサによって取得される圧力変動成分を模式的に示す図である。
【
図5】上記血圧計による血圧測定フローの一例を示す図である。
【
図6】
図5の血圧測定フローにおける、上記カフのカフサイズと巻き付け強度を判定する判定処理のフローを示す図である。
【
図7】上記血圧計による血圧測定フローの別の例を示す図である。
【
図8】上記カフのカフサイズと巻き付け強度が変更された場合の、上記カフに含まれた押圧用流体袋の圧力(カフ圧)と加圧時間との関係を示す図である。
【
図9】上記カフのカフサイズと巻き付け強度に応じて、コロトコフ音成分に対する増幅率を可変して設定する仕方を説明する図である。
【
図10】上記カフのカフサイズがL(大)(これを適宜「Lカフ」と呼ぶ。)であり、かつ、巻き付け強度がぴったりである場合(これを適宜「ぴったり巻き」と呼ぶ。)の、血圧測定中のカフ圧とK音信号の変化を示す図である。
【
図11】上記カフのカフサイズがM(中)(これを適宜「Mカフ」と呼ぶ。)であり、かつ、巻き付け強度がぴったり巻きである場合の、血圧測定中のカフ圧とK音信号の変化を示す図である。
【
図12】上記カフのカフサイズがS(小)(これを適宜「Sカフ」と呼ぶ。)であり、かつ、巻き付け強度がぴったり巻きである場合の、血圧測定中のカフ圧とK音信号の変化を示す図である。
【
図13】上記カフがMカフであり、かつ、巻き付け強度が緩い場合(これを適宜「ゆる巻き」と呼ぶ。)の、血圧測定中のカフ圧とK音信号の変化を示す図である。
【
図14】上記カフがMカフであり、かつ、巻き付け強度がぴったり巻きである場合の、血圧測定中のカフ圧とK音信号の変化を示す図である。
【
図15】上記カフがMカフであり、かつ、巻き付け強度がきつい場合(これを適宜「きつ巻き」と呼ぶ。)の、血圧測定中のカフ圧とK音信号の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0031】
(血圧計の概略構成)
図1は、この発明の一実施形態の血圧計100の外観を示している。この血圧計100は、大別して、上腕または手首などの棒状の被測定部位90(
図4(A)参照)を取り巻いて装着される血圧測定用カフ20と、このカフ20に対して第1流体配管としてのエア配管38、第2流体配管としてのエア配管37を介して流体流通可能に接続された本体10とを備えている。
【0032】
(血圧測定用カフの構成)
図1によって分かるように、上記カフ20は、外観上、細長い帯状(この例では、丸角の長方形)の外布21と、この外布21に対応する形状をもつ内布29とを対向させ、それらの外布21、内布29の周縁部20sを縫製(または溶着)して構成されている。
【0033】
図3(A)は、カフ20を展開した状態で、そのカフ20に内包された音取得用流体袋22、押圧用流体袋23の平面レイアウトを模式的に示している。
図3(B)は、それらの音取得用流体袋22、押圧用流体袋23の断面を、分解状態で模式的に示している。ここで、カフ20について、長手方向Xは、外布21が帯状に延在する方向を意味し、装着状態(
図4(A)参照)では被測定部位90を取り巻く周方向に相当する。幅方向Yは、外布21に沿った面内で長手方向Xに対して垂直な方向を意味し、装着状態では被測定部位90を動脈91が通る方向に相当する。また、厚さ方向Zは、長手方向Xと幅方向Yとの両方(つまり、外布21)に対して垂直な方向を意味し、装着状態では被測定部位90の外周面に対して垂直な方向に相当する。
【0034】
図3(B)によって分かるように、この例では、カフ20は、内布29と外布21との間に、押圧用流体袋23と、押圧用流体袋23とは別に構成された音取得用流体袋22とを備えている。押圧用流体袋23は、主に被測定部位90を圧迫するために、内布29の側に設けられている。音取得用流体袋22は、押圧用流体袋23を介して被測定部位90からの音を取得するために、外布21と押圧用流体袋23との間に設けられている。この例では、音取得用流体袋22は、押圧用流体袋23に対して部分的に接着され、押圧用流体袋23に対して位置ずれしないようになっている。押圧用流体袋23は、外布21に対して部分的に接着され、外布21に対して位置ずれしないようになっている。
【0035】
図3(A)によって分かるように、押圧用流体袋23は、外布21に沿った面内で、長手方向Xに沿って延在する丸角の略長方形の形状を有している。音取得用流体袋22は、外布21に沿った面内で、押圧用流体袋23よりも小さい丸角の略長方形の形状を有している。
【0036】
図3(B)によって分かるように、押圧用流体袋23は、厚さ方向Zに互いに対向する一対のシート23a,23bを含み、それらの一対のシート23a,23bの周縁部23as,23bsが矢印M2で示すように互いに環状に接合(この例では、溶着)されて袋状に構成されている。音取得用流体袋22は、厚さ方向Zに互いに対向する一対のシート22a,22bを含み、それらの一対のシート22a,22bの周縁部22as,22bsが矢印M1で示すように互いに環状に接合されて袋状に構成されている。この例では、シート23a,23b,22a,22bはポリウレタン樹脂からなっている。
【0037】
押圧用流体袋23をなす一対のシート23a,23bは、互いに対応する位置に、それぞれ
図3(A)において幅方向(-Y方向)に突出した略矩形状のタブ23at,23btを有している。タブ23at,23btの間にエア配管38を挟んだ状態で、タブ23at,23btのうちエア配管38の両側に相当する部分23tm,23tm(斜線で示す)を全面溶着することによって、エア配管38は押圧用流体袋23に流体流通可能に接続されている。押圧用流体袋23は、エア配管38を通して、空気が供給されることによって膨張し、空気が排出されることによって収縮することができる。同様に、音取得用流体袋22をなす一対のシート22a,22bは、互いに対応する位置に、それぞれ
図3(A)において幅方向(-Y方向)に突出した略矩形状のタブ22at,22btを有している。タブ22at,22btの間にエア配管37を挟んだ状態で、タブ22at,22btのうちエア配管37の両側に相当する部分22tm,22tm(斜線で示す)を全面溶着することによって、エア配管37は音取得用流体袋22に流体流通可能に接続されている。音取得用流体袋22が取得した音は、このエア配管37を通して、本体10へ伝えられる(詳しくは、後述する。)。
【0038】
音取得用流体袋22をなす一対のシート22a,22bの互いに対向する隙間に、スペーサとしての複数の突起22p,22p,…が設けられている。この例では、これらの突起22p,22p,…は、それぞれ短円柱状をなし、押圧用流体袋23側に配されたシート22bに一体に形成されている。これにより、スペーサが簡単に構成され得る。この例では、これらの突起22p,22p,…は、外布21に沿った面(XY平面)内で概ね等間隔に分散して配置されている。これにより、血圧測定中に一対のシート22a,22bが密接するのが防止される。したがって、音取得用流体袋22は、押圧用流体袋23を介して被測定部位90からの音を安定して取得することができる。この結果、コロトコフ音を安定して取得できる。
【0039】
外布21は、湾曲または屈曲可能であるが、血圧測定時に音取得用流体袋22、押圧用流体袋23が被測定部位90から遠ざかる向きに膨張するのを全体として規制するために、実質的に伸縮しないように構成されている。一方、内布29は、湾曲または屈曲可能であるとともに、血圧測定時に押圧用流体袋23が被測定部位90を圧迫し易いように伸縮容易に構成されている。ここで、外布21、内布29は、編まれたものに限られず、樹脂の一層または複数層からなっていてもよい。外布21と内布29の長手方向Xの寸法は、被測定部位90(この例では、上腕)の周囲長よりも長く設定されている。外布21と内布29の幅方向Yの寸法は、押圧用流体袋23(および音取得用流体袋22)の幅方向Yの寸法よりも若干大きく設定されている。
【0040】
このカフ20を備えた血圧計100では、音取得用流体袋22が、押圧用流体袋23を介して被測定部位90からの音を取得する。装着状態では、被測定部位90の周方向に沿って押圧用流体袋23が延在している。したがって、仮に被測定部位90に対するカフ20(押圧用流体袋23)の装着位置(特に、周方向の位置)がばらついたとしても、被測定部位90を通る動脈か91ら押圧用流体袋23に入る音のレベルへの影響は少なく、この結果、音取得用流体袋22による集音が安定する。したがって、コロトコフ音を表すK音信号Ksを安定して取得できる。
【0041】
(押圧用流体袋、音取得用流体袋の面方向寸法の設定)
押圧用流体袋23、音取得用流体袋22の面方向寸法は、カフサイズ(カフの仕様として設定され、外布21、内布29の面方向寸法を定める)に応じて設定される。例えば、カフサイズとしては、下の表1の「カフサイズ」欄に示すように、上腕用として、L(大)、M(中)、S(小)が設定される。
(表1)
【0042】
図3(A)中に示す押圧用流体袋23の長手方向Xの寸法L1、幅方向Yの寸法W1は、被験者の腕周(被測定部位90の周囲長)に対応したカフサイズに応じて、表1の「押圧用流体袋」欄に示すように可変して設定される。すなわち、上腕用でカフサイズL(大)のとき、長手方向Xの寸法L1=312.5mm、幅方向Yの寸法W1=150.0mmに設定される。上腕用でカフサイズM(中)のとき、長手方向Xの寸法L1=235.0mm、幅方向Yの寸法W1=125.0mmに設定される。上腕用でカフサイズS(小)のとき、長手方向Xの寸法L1=167.0mm、幅方向Yの寸法W1=90.0mmに設定される。カフ20は、これらの押圧用流体袋23の面方向寸法L1,W1の設定のおかげで、様々な腕周、手首周の被験者に適合して装着され得る。同様に、音取得用流体袋22の長手方向Xの寸法L2、幅方向Yの寸法W2は、被験者の腕周に対応したカフサイズに応じて、表1の「音取得用流体袋」欄に示すように可変して設定される。なお、カフサイズがL(大)、M(中)、S(小)であるカフ20を、それぞれ「Lカフ」、「Mカフ」、「Sカフ」と呼ぶ。
【0043】
(本体の構成)
図2に示すように、本体10は、制御部110と、表示器50と、操作部52と、記憶部としてのメモリ51と、電源部53と、圧力センサ31と、発振回路310と、圧力デバイスとしてのポンプ32および制御弁33と、ポンプ駆動回路320と、弁駆動回路330と、音検出デバイスとしてのマイクロフォン35と、フィルタ349と、増幅回路350と、大気開放弁34と、弁駆動回路340とを搭載している。この例では、圧力センサ31に接続されたエア配管38aと、ポンプ32に接続されたエア配管38bと、制御弁33に接続されたエア配管38cとが合流して、押圧用流体袋23に流体流通可能に接続された1本のエア配管38になっている。第1流体配管としてのエア配管38は、これらのエア配管38a,38b,38cを含む総称である。また、マイクロフォン35に接続されたエア配管37aと、大気開放弁34に接続されたエア配管37bとが合流して、音取得用流体袋22に流体流通可能に接続された1本のエア配管37になっている。第2流体配管としてのエア配管37は、これらのエア配管37a,37bを含む総称である。
【0044】
図1中に示すように、表示器50と操作部52は、本体10の正面パネル10fに配置されている。表示器50は、この例では、LCD(Liquid Crystal Display;液晶ディスプレイ)からなり、制御部110からの制御信号に従って所定の情報を表示する。この例では、収縮期血圧SYS(Systolic Blood Pressure、単位;mmHg)、拡張期血圧DIA(Diastolic Blood Pressure、単位;mmHg)、脈拍数PULSE(単位;拍/min)を表示するようになっている。なお、表示器50は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイからなっていてもよいし、LED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)を含んでいてもよい。
【0045】
操作部52は、この例では、血圧の測定開始/停止の指示を受け付けるための測定スイッチ(簡単のため、同じ符号52で表す。)からなり、ユーザの指示に応じた操作信号を制御部110に入力する。具体的には、この測定スイッチ52が押されると、血圧測定を開始すべき旨の操作信号が制御部110に入力されて、制御部110は後述の血圧測定を開始する(血圧測定が完了すると、自動的に停止する。)。血圧測定の実行中に測定スイッチ52が押されると、制御部110は、血圧測定を緊急停止する。
【0046】
図2中に示すメモリ51は、血圧計100を制御するためのプログラムのデータ、血圧計100の各種機能を設定するための設定データ、および血圧値の測定結果のデータなどを記憶する。また、メモリ51は、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0047】
制御部110は、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)を含み、この血圧計100全体の動作を制御する。具体的には、制御部110は、メモリ51に記憶された血圧計100を制御するためのプログラムに従って圧力制御部として働いて、操作部52からの操作信号に応じて、圧力デバイスとしてのポンプ32や制御弁33を駆動する制御を行う。また、制御部110は、増幅回路350とともに血圧算出部として働いて、マイクロフォン35の出力に基づいて血圧値を算出し、表示器50およびメモリ51を制御する。具体的な血圧測定の仕方については後述する。
【0048】
圧力センサ31は、この例ではピエゾ抵抗式圧力センサであり、エア配管38を通して、カフ20に内包された押圧用流体袋23の圧力(これを「カフ圧Pc」と呼ぶ。)をピエゾ抵抗効果による電気抵抗として出力する。発振回路310は、圧力センサ31からの電気抵抗に応じた発振周波数で発振する。制御部110は、その発振周波数に応じて、カフ圧Pcを求める。
【0049】
ポンプ32は、制御部110から与えられる制御信号に基づいてポンプ駆動回路320によって駆動され、エア配管38を通して、カフ20に内包された押圧用流体袋23へ空気を供給する。これにより、押圧用流体袋23の圧力(カフ圧Pc)が加圧される。
【0050】
制御弁33は、常開タイプの電磁制御弁からなり、制御部110から与えられる制御信号に基づいて弁駆動回路330によって駆動され、エア配管38を通して押圧用流体袋23内の空気を排出し、または封入してカフ圧を制御するために開閉される。
【0051】
マイクロフォン35は、音取得用流体袋22によって取得された音をエア配管37を通して検出して、その音に応じた電気信号を出力する。この例では、フィルタ349は、マイクロフォン35が出力する電気信号から、高速フーリエ変換(FFT)を含むフィルタリングを行ってコロトコフ音を表すK音信号(Ksで表す)を抽出する。
図4(B)に例示するように、K音信号(コロトコフ音成分)Ksは、典型的には、基準レベルbaに対して高低に振動するパルス状の信号として得られる。
図4(B)中に、K音信号Ksのピーク・ツゥ・ピークの振幅がAp-pで表されている。増幅回路350は、フィルタ349が出力するK音信号Ksを、可変して設定された増幅率αで増幅する。この増幅されたK音信号(これをαKsとする。)に基づいて、制御部110によって被測定部位90の血圧が算出される(詳しくは、後述する。)。
【0052】
図2中に示す大気開放弁34は、常開タイプの電磁制御弁からなり、制御部110から与えられる制御信号に基づいて弁駆動回路340によって駆動され、音取得用流体袋22とエア配管37とを含む第2流体系FS2を大気に開放し、または封じるために開閉される。
【0053】
この例では、押圧用流体袋23、エア配管38、圧力センサ31、ポンプ32および制御弁33を含む第1流体系FS1と、音取得用流体袋22、エア配管37、マイクロフォン35および大気開放弁34を含む第2流体系FS2とが、互いに流体流通不能に分離され、本体10内でも分離が維持されている。これにより、第2流体系FS2(特に、エア配管37)を通る音(コロトコフ音成分を含む)に対して、第1流体系FS1から脈音(脈波音)が混入するのを防止できる。したがって、コロトコフ音を安定して取得できる。
【0054】
電源部53は、制御部110、表示器50、メモリ51、圧力センサ31、ポンプ32、制御弁33、マイクロフォン35、大気開放弁34、その他の本体10内の各部に電力を供給する。
【0055】
(血圧測定用カフの装着態様)
上記カフ20は、
図4(A)(被測定部位90を通る動脈91に沿った断面)に示すように、カフ20の長手方向Xが被測定部位(この例では、上腕)90の外周面を取り巻く態様で装着される。装着のとき、図示しない面ファスナによって、外布21が緩まないように固定される。なお、
図4(A)では、簡単のため、内布29の図示が省略され、また、押圧用流体袋23、音取得用流体袋22がそれぞれ楕円状に描かれている。この装着状態では、被測定部位90の外周面に対して、厚さ方向Zに、図示が省略された内布29と、押圧用流体袋23と、音取得用流体袋22と、外布21とが、この順に並ぶ。なお、装着状態では、動脈91を通る血流の下流側(-Y方向)へ向かってエア配管37,38が延在するので、エア配管37,38が装着の邪魔になることがない。
【0056】
(血圧測定)
図5は、ユーザ(この例では、被験者とする。)が血圧計100によって血圧測定を行う際の動作フローを示している。
【0057】
カフ20が被測定部位90に装着された装着状態で、ユーザが本体10に設けられた測定スイッチ52によって測定開始を指示すると(
図5のステップS1)、制御部110は、初期化を行う(
図5のステップS2)。具体的には、制御部110は、処理用メモリ領域を初期化するとともに、ポンプ32を停止し、制御弁33を開いた状態で、圧力センサ31の0mmHg調整(大気圧を0mmHgに設定する。)を行う。このとき、大気開放弁34は開いた状態にある。
【0058】
次に、制御部110は、大気開放弁34を閉じ、また、制御弁33を閉じる(ステップS3)。カフ20が被測定部位90に装着された後、押圧用流体袋23の加圧を開始する前の、この段階で大気開放弁34を閉じる理由は、被測定部位90から押圧用流体袋23を介してコロトコフ音を取得するために、音取得用流体袋22内に適量の空気を封じるためである。また、大気開放弁34を閉じることは、バックグラウンドノイズを減少させるので、コロトコフ音を取得する際の信号対ノイズ比(S/N比)の改善に寄与する。
【0059】
続いて、制御部110は圧力制御部として働いて、ポンプ32を駆動して、カフ20の加圧を開始する(ステップS4)。すなわち、制御部110は、ポンプ32からエア配管38を通してカフ20(に内包された押圧用流体袋23)に空気を供給する。これとともに、圧力センサ31は圧力検出部として働いて、押圧用流体袋23の圧力を、エア配管38を通して検出する。制御部110は、圧力センサ31の出力に基づいて、ポンプ32による加圧速度を制御する。
【0060】
このとき、
図4(A)に示した押圧用流体袋23が、音取得用流体袋22とともに、被測定部位90から遠ざかる向きの膨張は、全体として外布21によって規制される。したがって、押圧用流体袋23は、被測定部位90のうち対向する領域90Aを押圧する向きに膨張する。これにより、被測定部位90のうち押圧用流体袋23が対向する領域90Aが圧迫されて、その領域90Aを通る動脈91が阻血される。
【0061】
この加圧過程で、制御部110は増幅率設定部として働いて、まず、現在接続されているカフ20のカフサイズと巻き付け強度を判定する(
図5のステップS5)。ここで、制御部110は、その判定されたカフサイズと巻き付け強度を、例えば「Mカフ ぴったり巻き」のように、表示器50に表示してもよい。続いて、制御部110は、その判定されたカフサイズと巻き付け強度に応じて、増幅回路350(
図2参照)のための増幅率αを可変して設定する(
図5のステップS6)。これらのステップS5,S6の処理については、後に詳述する。
【0062】
次に、この例では、制御部110は、圧力センサ31の出力に基づいて、カフ20(この例では、押圧用流体袋23)の圧力(カフ圧Pc)が予め定められた値Pu(例えば
図11中に示す)に達したか否かを判断する。ここで、この値Puは、被験者の想定される血圧値を十分上回るように、例えば280mmHgというように定められていてもよいし、前回測定された被験者の血圧値プラス40mmHgというように定められていてもよい。この例では、
図11によって分かるように、Pu=230mmHgに予め定められているものとする。制御部110は、カフ圧Pcが上述の値Pu=230mmHgに達するまで、加圧を継続し、カフ圧Pcが上述の値Puに達すると、ポンプ32を停止する(ステップS7)。
図11に示す「Mカフ ぴったり巻き」の例では、時刻t1にカフ圧Pcが上述の値Puに達して、ポンプ32が停止されている。
【0063】
続いて、制御部110は、制御弁33を徐々に開く(
図5のステップS8)。これにより、カフ圧Pcを略一定速度で減圧してゆく。この例では、この減圧過程で、音取得用流体袋22が、押圧用流体袋23を介して被測定部位90からの音を取得する。さらに、音取得用流体袋22によって取得された音を、エア配管37を通して、マイクロフォン35が検出する。マイクロフォン35は、その音に応じた電気信号を出力する。フィルタ349は、マイクロフォン35が出力する電気信号から、高速フーリエ変換(FFT)を含むフィルタリングを行って、コロトコフ音を表すK音信号Ksを抽出する。
図11の例では、K音信号(コロトコフ音成分)Ksは、時刻t2に観測され始め、次第に大きくなって極大値を示した後、次第に小さくなって、時刻t3に消失している。増幅回路350は、フィルタ349が出力するK音信号Ksを、上述のステップS6で可変して設定された増幅率αで増幅する。この増幅されたK音信号αKsは制御部110に入力される。
【0064】
制御部110は、増幅回路350とともに血圧算出部として働いて、この時点で取得されている上記増幅されたK音信号αKsに基づいて、血圧値(収縮期血圧SYS(Systolic Blood Pressure)と拡張期血圧DIA(Diastolic Blood Pressure))の算出を試みる(
図5のステップS9)。
図11の例では、時刻t2で圧力センサ31によって検出されているカフ圧Pcが収縮期血圧SYSとして算出される。また、時刻t3で圧力センサ31によって検出されているカフ圧Pcが拡張期血圧DIAとして算出される。
【0065】
また、押圧用流体袋23からエア配管38を通して圧力センサ31によって検出されるカフ圧Pcには、脈波による脈波情報としての脈波信号(圧力変動成分)Pm(
図4(C)に示す)が重畳されている。この例では、制御部110は、この脈波信号Pmに基づいて、脈拍数PULSE(拍/min)を算出する。
【0066】
制御部110は、データ不足のために未だ血圧値と脈拍数を算出できない場合は(
図5のステップS10でNO)、算出できるまでステップS8~S10の処理を繰り返す。
【0067】
このようにして血圧値と脈拍数の算出ができたら(ステップS10でYes)、制御部110は圧力制御部として働いて、制御弁33を開いて、カフ20(押圧用流体袋23)内の空気を急速排気する制御を行う(ステップS11)。また、大気開放弁34を開く。
【0068】
この後、制御部110は、算出した血圧値と脈拍数を表示器50に表示し(ステップS12)、血圧値と脈拍数をメモリ51に保存する制御を行う。
【0069】
このようにして、カフ20を備えた血圧計100では、音取得用流体袋22が、押圧用流体袋23を介して被測定部位90からの音を取得する。
【0070】
(カフサイズと巻き付け強度によるK音信号の変化)
本発明者は、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅Ap-pが、現在接続されているカフ20のカフサイズと巻き付け強度に応じて比較的大きく変化する、という事実に注目した。なお、既述のように、カフサイズがL(大)、M(中)、S(小)であるカフ20を、それぞれ「Lカフ」、「Mカフ」、「Sカフ」と呼ぶ。また、巻き付け強度が緩い場合、ぴったりである場合、きつい場合を、それぞれ「ゆる巻き」、「ぴったり巻き」、「きつ巻き」と呼ぶ。
【0071】
例えば、
図11に示す「Mカフ ぴったり巻き」の例では、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅がAp-p≒1.2V(ボルト)となっている。これに対して、
図10に示す「Lカフ ぴったり巻き」の例では、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅がAp-p≒0.3Vとなっている。また、
図12に示す「Sカフ ぴったり巻き」の例では、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅がAp-p≒1.4Vとなっている。このように、カフサイズ(被測定部位90の周囲長に対応する)がLカフからSカフまで変化すると、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅Ap-pが約0.3Vから約1.4Vまで変化する(ただし、「ぴったり巻き」という条件下である。)。
【0072】
また、
図14に示す「Mカフ ぴったり巻き」の例では、
図11におけるのと同様に、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅がAp-p≒1.2Vとなっている。これに対して、
図13に示す「Mカフ ゆる巻き」の例では、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅がAp-p≒0.9Vとなっている。また、
図15に示す「Mカフ きつ巻き」の例では、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅がAp-p≒1.5Vとなっている。このように、巻き付け強度が「ゆる巻き」から「きつ巻き」まで変化すると、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅Ap-pが約0.9Vから約1.5Vまで変化する(ただし、「Mカフ」という条件下である。)。
【0073】
ここで、
図10~
図15中にそれぞれ示すように、制御部110が含むCPUの入力レンジCPUinは、0.5Vから3.0Vまでの2.5V(一定範囲)となっている。このため、例えば、仮に「Lカフ ゆる巻き」の場合のコロトコフ音レベル(K音信号Ksの振幅Ap-p)に基づいて増幅率αを大きく設定してしまうと、「Sカフ きつ巻き」の場合にその増幅率αで増幅されたK音信号αKsが飽和してしまう(入力レンジCPUinを超えてしまう)という問題が生ずる。
【0074】
そこで、本発明者は、現在接続されているカフ20のカフサイズと巻き付け強度を判定し(
図5のステップS5)、その判定されたカフサイズと巻き付け強度に応じて、増幅回路350(
図2参照)のための増幅率αを可変して設定する(
図5のステップS6)、という発明を着想した。
【0075】
(カフサイズと巻き付け強度の判定)
図8は、カフ20のカフサイズと巻き付け強度が変更された場合の、カフ20に含まれた押圧用流体袋23の圧力(カフ圧Pc)と加圧時間との関係を示している。この
図8の例では、「Lカフ ゆる巻き」、「Lカフ ぴったり巻き」、「Lカフ きつ巻き」の場合に、それぞれ加圧時間の経過に伴うカフ圧Pcの上昇を表す曲線CLL,CLJ,CLTが表されている。また、「Mカフ ゆる巻き」、「Mカフ ぴったり巻き」、「Mカフ きつ巻き」の場合に、それぞれ加圧時間の経過に伴うカフ圧Pcの上昇を表す曲線CML,CMJ,CMTが表されている。
【0076】
例えば特許文献3(特許第5408125号公報)に開示されているように、20mmHg以上の予め定められた第1圧力範囲(
図8中に示すP3~P4の範囲であり、この例では25mmHg~35mmHgの範囲である。これを「第1圧力範囲(P3,P4)」と呼ぶ。)であれば、カフ圧Pcが第1圧力範囲(P3,P4)を通過するのに要する第1通過時間Δt1は、カフ20の巻き付け強度にかかわらず、被測定部位の周囲長(カフサイズ、特に、押圧用流体袋23のサイズに対応する)従って変化する。例えば、
図8中の例では、「Mカフ ぴったり巻き」の曲線CMJについての第1通過時間Δt11よりも、「Lカフ ぴったり巻き」の曲線CLJについての第1通過時間Δt12の方が大きいことが分かる。したがって、現在接続されているカフ20について、第1通過時間Δt1に応じて、カフサイズを判定することができる。
【0077】
また、例えば特許文献3(特許第5408125号公報)に開示されているように、第1圧力範囲(P3,P4)よりも下方の予め定められた第2圧力範囲(
図8中に示すP1~P2の範囲であり、この例では10mmHg~15mmHgの範囲である。これを「第2圧力範囲(P1,P2)」と呼ぶ。)であれば、カフ圧Pcが第2圧力範囲(P1,P2)を通過するのに要する第2通過時間Δt2は、カフサイズと巻き付け強度に従って変化する。つまり、或るカフサイズに設定された条件下では、第2通過時間Δt2は、カフ20の巻き付け強度に対応する。例えば、
図8中の例では、「Mカフ きつ巻き」の曲線CMTについての第2通過時間Δt21よりも、「Mカフ ぴったり巻き」の曲線CMJについての第2通過時間Δt22の方が大きく、さらに、「Mカフ ゆる巻き」の曲線CMLについての第2通過時間Δt23の方が大きいことが分かる。この点、Lカフでも同様である。したがって、現在接続されているカフ20について、カフサイズと第2通過時間Δt2に応じて、巻き付け強度を判定することができる。
【0078】
図6は、
図5のステップS5の、上述の知見に基づく具体的なフローを示している。まず、制御部110は、加圧過程で、
図6のステップS51に示すように、カフ圧Pcが第2圧力範囲(P1,P2)を通過するのに要する第2通過時間Δt2を計測する。続いて上記加圧過程で、制御部110は、ステップS52に示すように、カフ圧Pcが第1圧力範囲(P3,P4)を通過するのに要する第1通過時間Δt1を計測する。
【0079】
次に、制御部110は、ステップS52で計測された第1通過時間Δt1に応じて、現在接続されているカフ20のカフサイズを判定する(ステップS53)。具体的には、
図9の横軸(第1通過時間Δt1を表す)に沿って示すように、Sカフに対応して第1通過時間Δt1がとるべき下限値から上限値までの範囲Δt1S、Mカフに対応して第1通過時間Δt1がとるべき下限値から上限値までの範囲Δt1M、Lカフに対応して第1通過時間Δt1がとるべき下限値から上限値までの範囲Δt1Lを、それぞれ予め実測に基づいて定めておく。そして、計測された第1通過時間Δt1がいずれの範囲Δt1S,Δt1M,Δt1Lに入るかに応じて、現在接続されているカフ20のカフサイズを判定する。
【0080】
次に、制御部110は、
図6のステップS53で判定されたカフサイズと、ステップS51で計測された第2通過時間Δt2とに応じて、現在接続されているカフ20の巻き付け強度を判定する(ステップS54)。具体的には、カフサイズ毎に、「ゆる巻き」、「ぴったり巻き」、「きつ巻き」に対応して第2通過時間Δt2がとるべき範囲を、それぞれ予め実測に基づいて定めておく。そして、カフサイズ毎に、計測された第2通過時間Δt2がいずれの範囲に入るかに応じて、現在接続されているカフ20の巻き付け強度を判定する。
【0081】
(増幅率の設定)
図9は、
図6のステップS6で、制御部110が増幅率設定部として働いて、現在接続されているカフ20のカフサイズと巻き付け強度に応じて、K音信号(コロトコフ音成分)Ksに対する増幅率αを可変して設定する仕方を示している。この例では、基本的に、コロトコフ音レベル(K音信号Ksの振幅Ap-p)の大小を緩和または解消するように、増幅率αを可変して設定している。具体的には、カフサイズがLカフ、Mカフ、Sカフのいずれであるか、すなわち、第1通過時間Δt1がいずれの範囲Δt1S,Δt1M,Δt1Lに入ったかに応じて、階段状に変化する関数F1のように、「ぴったり巻き」のための増幅率αLJ,αMJ,αSJを定めている。そして、カフサイズ毎に、「ゆる巻き」、「きつ巻き」のための増幅率をバリエーションとして定めている。
図9の例では、Lカフについて、「ゆる巻き」のための増幅率をαLL(>αLJ)、「きつ巻き」のための増幅率をαLT(<αLJ)として定めている。Mカフについて、「ゆる巻き」のための増幅率をαML(>αMJ)、「きつ巻き」のための増幅率をαMT(<αMJ)として定めている。また、Sカフについて、「ゆる巻き」のための増幅率をαSL(>αSJ)、「きつ巻き」のための増幅率をαST(<αSJ)として定めている。このように可変して設定された増幅率αの値は、例えば下の表2に示すようなものである。
(表2)
【0082】
既述のように、増幅回路350は、このように可変して設定された増幅率αでK音信号Ksを増幅する。これにより、カフサイズと巻き付け強度に依存したコロトコフ音レベル(K音信号Ksの振幅Ap-p)の大小を緩和または解消することができる。この増幅されたK音信号αKsは制御部110に入力される。したがって、増幅されたK音信号αKsが、制御部110が含むCPUの入力レンジCPUinを超えてしまうようなことがなくなる。したがって、この血圧計100によれば、血圧を精度良く測定できる。
【0083】
(変形例1)
上の例では、制御部110は、減圧過程で血圧値を算出したが、これに限られるものではなく、カフ20(に含まれた押圧用流体袋23)の加圧過程で血圧値を算出してもよい。例えば、
図7は、上記加圧過程のうち第1圧力範囲(P3,P4)を超えた後の部分で血圧値を算出する場合の血圧測定フローを示している。
【0084】
この
図7の血圧測定フローでは、制御部110は、測定スイッチの押し下げ(ステップS101)から増幅率の設定(ステップS106)まで、
図5のステップS1~S6と全く同様に処理を進める。続いて、
図7のステップS107で、制御部110は圧力制御部として働いて、加圧制御を継続し、この加圧過程(すなわち、第1圧力範囲(P3,P4)を超えた後の部分)で、血圧値と脈拍数の算出を試みる(ステップS108)。血圧値と脈拍数の算出ができたら(ステップS109でYes)、制御部110は圧力制御部として働いて、ポンプを停止し(ステップS110)、制御弁33を開いて、カフ20(押圧用流体袋23)内の空気を急速排気する制御を行う(ステップS111)。また、大気開放弁34を開く。この後、制御部110は、算出した血圧値と脈拍数を表示器50に表示し(ステップS112)、血圧値と脈拍数をメモリ51に保存する制御を行う。
【0085】
この
図7の血圧測定フローでも、
図5の血圧測定フローにおけるのと同様に、血圧を精度良く測定できる。
【0086】
(変形例2)
既述の
図10~
図12に示したように、カフサイズがLカフからSカフまで変化すると、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅Ap-pが約0.3Vから約1.4Vまで変化する(ただし、「ぴったり巻き」という条件下である。)。また、
図13~
図15に示したように、巻き付け強度が「ゆる巻き」から「きつ巻き」まで変化すると、フィルタ349が出力するK音信号Ksの振幅Ap-pが約0.9Vから約1.5Vまで変化する(ただし、「Mカフ」という条件下である。)。このように、K音信号Ksの振幅Ap-pに対する影響は、巻き付け強度よりも、カフサイズの変化の方が大きい。したがって、現在接続されているカフ20のカフサイズと巻き付け強度との両方に応じてK音信号Ksに対する増幅率αを可変して設定するのではなく、カフサイズのみに応じてK音信号Ksに対する増幅率αを可変して設定してもよい。
【0087】
その場合、制御部110が増幅率設定部として働いて、例えば
図9中に階段状に変化する関数F1で示したように、現在接続されているカフ20のカフサイズがLカフ、Mカフ、Sカフのいずれであるか、すなわち、第1通過時間Δt1がいずれの範囲Δt1S,Δt1M,Δt1Lに入ったかに応じて、増幅率αをαLJ,αMJ,αSJとして可変して設定すればよい。このようにした場合、カフサイズに依存したK音信号Ksの振幅Ap-p(コロトコフ音レベル)の大小を緩和または解消することができる。この結果、増幅されたK音信号αKsが、制御部110が含むCPUの入力レンジCPUinを超えてしまうようなことがなくなる。したがって、血圧を精度良く測定できる。それとともに、判定処理(
図6)を簡素化できる。
【0088】
(変形例3)
上の例では、第1通過時間Δt1を計測し(ステップS52)、第1通過時間Δt1に応じてカフサイズを判定した(ステップS53)。しかしながら、これに限られるものではない。例えば、測定スイッチ52を入力部として用いて、現在接続されているカフ20が予め用意された複数種類のカフサイズのうちいずれのカフサイズ(例えば、Lカフ、MカフまたはSカフ)を有するかを表すサイズ情報を入力してもよい。
【0089】
サイズ情報の入力は、例えば次のようにして行われ得る。まず、ユーザが測定スイッチ52を3秒間以上長押しすると、制御部110はサイズ情報入力モードに入る。このサイズ情報入力モードで、測定スイッチ52が押された回数に応じて、制御部110はLカフ、MカフまたはSカフを表すサイズ情報を入力する。
【0090】
サイズ情報が入力された場合、制御部110が増幅率設定部として働いて、上記第1通過時間Δt1を求めるのに代えて、上記入力されたサイズ情報に応じて、K音信号Ksに対する増幅率αに対する増幅率を可変して設定する。
【0091】
この場合も、カフサイズに依存したK音信号Ksの振幅Ap-p(コロトコフ音レベル)の大小を緩和または解消することができる。したがって、血圧を精度良く測定できる。それとともに、判定処理(
図6)を簡素化できる。
【0092】
(変形例4)
上の例では、
図9に示したように、第1通過時間Δt1がいずれの範囲Δt1S,Δt1M,Δt1Lに入ったかに応じて、階段状に変化する関数F1のように、「ぴったり巻き」のための増幅率αLJ,αMJ,αSJを定めた。しかしながら、これに限られるものではない。例えば、第1通過時間Δt1が増加すると単調増加する曲線に応じて、増幅率αを可変して設定してもよい。
【0093】
上の例では、カフサイズとして、上腕用としてL(大)、M(中)、S(小)が設定されたが、これに限られるものではない。上腕用として、Lサイズよりも大きいXL(特大)サイズも設定され得る。また、上腕用のSサイズよりも小さい手首用サイズも設定され得る。その場合、血圧計100では、それらのカフサイズに応じて、K音信号Ksに対する増幅率αが可変して設定される。
【0094】
上の例では、音検出デバイスとしてのマイクロフォン35は、本体10に搭載され、エア配管37を通して音取得用流体袋22からの音を検出したが、これに限られるものではない。音検出デバイスとしてのマイクロフォン35は、音取得用流体袋22に接した状態でカフ20に搭載され、音取得用流体袋22からの音を直接検出してもよい。
【0095】
被測定部位90は上腕に限られるものではなく、手首などの上腕以外の上肢、または、足首などの下肢であってもよい。
【0096】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 本体
20 血圧測定用カフ
22 音取得用流体袋
23 押圧用流体袋
31 圧力センサ
32 ポンプ
33 制御弁
34 大気開放弁
35 マイクロフォン
37,38 エア配管
100 血圧計