(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ホウ素含有多孔質炭素
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20240709BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240709BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20240709BHJP
H01G 11/32 20130101ALN20240709BHJP
H01G 11/36 20130101ALN20240709BHJP
H01G 11/40 20130101ALN20240709BHJP
H01M 4/62 20060101ALN20240709BHJP
H01M 4/96 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B32/168
C01B32/194
H01G11/32
H01G11/36
H01G11/40
H01M4/62 Z
H01M4/96 B
H01M4/96 M
(21)【出願番号】P 2020189486
(22)【出願日】2020-11-13
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
(72)【発明者】
【氏名】川原 淳子
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/061901(WO,A1)
【文献】特表2019-515456(JP,A)
【文献】特開昭62-246813(JP,A)
【文献】特開平10-237683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
H01G 11/32
H01G 11/36
H01G 11/40
H01M 4/62
H01M 4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソ孔またはマクロ孔を有するホウ素含有多孔質炭素であって、
細孔容積は、0.3cm
3/g~5cm
3/gであり、体積抵抗率は、2.0×10
-2
Ω・cm未満であることを特徴とするホウ素含有多孔質炭素。
【請求項2】
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、ホウ素含有多孔質炭素表面の全元素に対するクラスター型ホウ素元素と置換型ホウ素元素との合計の割合(mol%)が、0.0001以上であることを特徴とする請求項1に記載のホウ素含有多孔質炭素。
【請求項3】
ピーク細孔径が2nm~500nmであることを特徴とする請求項1または2記載のホウ素含有多孔質炭素。
【請求項4】
ホウ素を含有する炭素材料(A)を含む造粒粒子であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のホウ素含有多孔質炭素。
【請求項5】
ホウ素を含有する炭素材料(A)が、ホウ素を含有する、カーボンブラック、黒鉛、繊維状炭素およびグラフェン系炭素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項4に記載のホウ素含有多孔質炭素。
【請求項6】
ホウ素を含有する炭素材料(A)が、平均一次粒子径が1~100nmである、ホウ素を含有するカーボンブラックを含むことを特徴とする請求項
4に記載のホウ素含有多孔質炭素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有多孔質炭素に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質炭素は、高い表面積や規則的で均一な細孔(ポーラス)構造を有し、耐熱性や耐薬品性、耐食性に優れるため、電極材料やガス吸着材、水処理剤、触媒など、幅広い用途で使用されている。特に、リチウムイオン電池やキャパシタ、燃料電池などの蓄電・発電デバイス用の電極としての研究が盛んである。
【0003】
加えて、近年では、糖やアルコール、有機酸等の有機物を燃料にして、微生物や酵素反応により生成した電子の有する電気エネルギーを利用するバイオ発電デバイスへの応用にも期待が高まっており、多孔質炭素の製法、構造、用途が多様化されつつある。
【0004】
例えば、吸着を目的とする場合、細孔径が揃い、かつ高い比表面積を持つ多孔質炭素が望まれる。また、バイオ発電のような発電デバイスとして用いる場合には、高い電気伝導性を有し、反応に適したナノメートルオーダーで細孔構造が制御された多孔質炭素が望まれる。
【0005】
多孔質炭素の製造方法としては、木炭、ヤシ殻灰、石炭、レーヨン、フェノール樹脂等を原料とし、塩化亜鉛、燐酸等の化学薬品を加えてから、賦活性ガス雰囲気中で加熱して炭化する薬品賦活や、炭化した原料を水蒸気、空気、燃焼ガス等を用いてガス賦活する方法が知られている。
【0006】
特許文献1では、多孔質ゼオライトを鋳型として用い、ゼオライトに有機物を注入し、炭化した後、鋳型を除去することを含む製造する方法が記載されている。鋳型剤に多孔質ゼオライトを用いることで、鋳型剤の粒径や形状を反映した細孔の精密制御が可能である。しかしながら、鋳型剤を除去するためにフッ化水素酸または塩酸など強酸を用いるため、酸腐食による炭素の構造の破壊などにより導電性が低下する問題があった。
【0007】
特許文献2では、炭素材料とバインダー樹脂から構成される造粒粒子をバインダー樹脂の分解温度以上で熱処理することで、多孔質炭素を製造する方法が記載されている。しかしながら、造粒粒子を作製する炭素材料の導電性が低いため、作製した多孔質炭素の導電性も従来の多孔質炭素に比べ高いとは言い難い。
【0008】
特許文献3では、糖類炭素源とホウ酸、シリコン系孔形成材を含む前駆体溶液を噴霧乾燥後、不活性ガス雰囲気下で焼成し(1000℃以下)、更に上記孔形成材を除去することで、ホウ素を含有する多孔質炭素を作製する方法が記載されている。しかしながら、焼成温度が炭素の黒鉛化やホウ素と炭素の結合形成反応が進行する温度以下であるため、得られた多孔質炭素の導電性は高くないと予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-206112号公報
【文献】特開2016-141592号公報
【文献】特開2019―515465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、細孔径が制御された、導電性に優れた多孔質炭素、
および、細孔径を容易に均一制御可能な多孔質炭素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、メソ孔またはマクロ孔を有するホウ素含有多孔質炭素であって、
細孔容積は、0.3cm3/g~5cm3/gであり、体積抵抗率は、2.0×10-2
Ω・cm未満であることを特徴とするホウ素含有多孔質炭素に関する。
【0012】
また、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、ホウ素含有多孔質炭素表面の全元素に対するクラスター型ホウ素元素と置換型ホウ素元素との合計の割合(mol%)が、0.0001以上であることを特徴とする前記のホウ素含有多孔質炭素に関する。
【0013】
また、ピーク細孔径が2nm~500nmであることを特徴とする前記のホウ素含有多孔質炭素に関する。
【0014】
また、ホウ素を含有する炭素材料(A)を含む造粒粒子であることを特徴とする前記のホウ素含有多孔質炭素に関する。
【0015】
また、ホウ素を含有する炭素材料(A)が、ホウ素を含有する、カーボンブラック、黒鉛、繊維状炭素およびグラフェン系炭素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする前記のホウ素含有多孔質炭素に関する。
【0016】
また、ホウ素を含有する炭素材料(A)が、平均一次粒子径が1~100nmである、ホウ素を含有するカーボンブラックを含むことを特徴とする前記のホウ素含有多孔質炭素に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、細孔径が制御された、導電性に優れたホウ素含有多孔質炭素、および細孔径を容易に均一制御可能なホウ素含有多孔質炭素を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<ホウ素含有多孔質炭素>
本発明におけるホウ素含有多孔質炭素とは、炭素原子が六角網状に共有結合した網平面を形成した炭素六角網面を基本骨格(構成単位)とし、それらの構成単位間に物理的・化学的な相互作用(結合)を有し、少なくともホウ素元素が炭素元素の一部を置換するようにドープされており、かつ、固体構造内に無数の細孔を有する多孔質形状の炭素材料である。ホウ素含有多孔質炭素は、場合によって窒素元素やリン元素などのヘテロ元素や、卑金属元素などが含まれていてもよい。
【0019】
ホウ素含有多孔質炭素は、少なくともメソ孔またはマクロ孔を有する。細孔は径の大きさにより呼称が異なり、IUPACでは細孔径が2nm未満のミクロ孔、2~50nmのメソ孔、及び細孔径が50nmを超えるマクロ孔の3つのクラスに分類される。
【0020】
ホウ素含有多孔質炭素は、ピーク細孔径が2nm~500nmであると、幅広い吸着質を吸着することできるため好ましい。ピーク細孔径が20nm~500nm以上であると、酵素や微生物、ウイルス等の吸着物質を選択的に吸着や分離することができ、発電デバイスやセンサー、除染や資源回収等に有効活用することができ好ましい。また、ピーク細孔径が50nm~500nm、また50nm~200nmであるとさらに好ましい。ピーク細孔径は、後述の方法で求めることができる。
【0021】
ホウ素含有多孔質炭素の細孔容積は、0.3cm3/g~5cm3/gである。また、体積抵抗率は、2.0×10-2Ω・cm未満である。細孔容積が上記範囲にあると吸着質の吸着場や触媒などの反応場として優れるほか、ガスや液体などの透過能も付与することができるため好ましい。なお、本発明における細孔容積とは試料単位質量当たりの全細孔容積を意味する。また、体積抵抗率が上記範囲にあると、導電配線の電気抵抗の低減や、電極中の酸化還元反応に必要な電子伝達が促進され、電流の増加に繋がりやすく好ましい。上記のように、ホウ素含有多孔質炭素は、細孔容積がある程度大きな状態で導電性が高いため、例えば、リチウムイオン電池やキャパシタなどの蓄電デバイスおよび水素燃料電池やバイオ発電といった発電デバイスなどの電極やガス透過性の集電体、電極を兼ねる導電配線などに好適に用いることができる。
【0022】
細孔容積は、0.5~4.0cm3/gが好ましく、0.8~3.5cm3/gがより好ましい。体積抵抗率は1×10-2Ω・cm未満が好ましく、8×10-3Ω・cm未満がより好ましく、5×10-3Ω・cm未満が更に好ましい。
【0023】
細孔径および細孔容積は、窒素吸着法などによって求めることができる。窒素吸着法とは、吸着剤に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより吸着等温線を測定し、測定したデータを解析し、比表面積や細孔容積、細孔径を算出する。比表面積についてはBET法、細孔容積および細孔径については細孔分布解析法として広く用いられているBJH法により求められる。BJH法により細孔分布をプロットし、メソ孔またはマクロ孔の存在を確認することができる。ピーク細孔径の算出方法としては、例えば、細孔径に対して対数微分細孔容積をプロットし、得られるピークから求めることができる。また、水銀圧入法やバブルポイント法などによっても求めることができる。
【0024】
本発明における体積抵抗率とは単位体積当たりの抵抗のことであり、四端子法によって求めることができる。断面積Dに一定電流A(A)を流し、距離Lだけ離れた電極間の電位差V(V)を測ることにより求められる。ここでいう体積抵抗率は、粉体抵抗測定システム(日東精工アナリテック社製、MCP-PD51)と抵抗率計(日東精工アナリテック社製、ロレスタ-GP)を用いて測定することができ、具体的には、ホウ素含有多孔質炭素を粉体抵抗測定システムのセル内に入れ、荷重4kNを加えた際の体積抵抗率を測定する。
【0025】
ホウ素含有多孔質炭素の導電性は下記式で表される。
σ=μ×n×e (式1) μ:移動度、n:キャリア密度、e:電気素量(定数)
上記(式1)より導電性を向上させるためには移動度及び/またはキャリア密度の向上が必要となる。多孔質炭素へのホウ素ドープの主な狙いとしては炭素骨格への元素置換によるホールの導入によるキャリア密度の向上である。一方、多孔質炭素へのホウ素ドープは炭素の結晶構造や電子状態などに大きく影響を与え、多孔質炭素の結晶構造の乱れや結晶子の低下などを誘発し移動度を低下させる要因ともなる。
【0026】
ホウ素含有多孔質炭素のホウ素元素の形態は特に限定されないが、炭素骨格内の炭素元素の位置にホウ素元素が置換されている置換型ホウ素元素(BC3型)、炭化ホウ素型及びホウ素クラスター型ホウ素元素(B4C型、Bc型)、完全又は部分的に酸化された状態の酸化ホウ素型ホウ素元素(BC2O型、BCO2型、B2O3型)等が挙げられる。
【0027】
ホウ素含有多孔質炭素は、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、ホウ素含有多孔質炭素表面の全元素に対するクラスター型ホウ素元素および置換型ホウ素元素の割合が、0.0001以上であることが好ましく、ホウ素元素ドープによるキャリア密度を向上させる効果が高い。このホウ素含有多孔質炭素表面のクラスター型ホウ素元素および置換型ホウ素元素の割合は、XPSによって測定したホウ素含有多孔質炭素表面の全元素のスペクトル面積に対する全ホウ素元素のスペクトル面積の割合Bとし、XPSのB1sスペクトルより求めた、炭素材料表面の全ホウ素元素のスペクトル面積に対するクラスター型ホウ素元素および置換型ホウ素元素のピーク面積の割合をBRとしたとき、B×BRで表される。より好ましくは0.001以上であり、更に好ましくは0.0025以上である。
【0028】
XPS測定で得られるホウ素のB1sスペクトルは、ホウ素元素のB1s電子の結合エネ
ルギー範囲(185~197eV付近)に現れ、大別すると4つの成分からなることが知られている。各成分の結合エネルギーの値(ピークトップ)は、ホウ素クラスターが186~187eV、炭化ホウ素が187~188eV、六角網面を基本骨格とした炭素元素と置換するようにドープされているホウ素(BC3)が188~189.3eV、各種酸化ホウ素であるBC2Oが189.5~190.5eV、BCO2が191.5~192eV、B2O3が192.5~193eVに現れる。これらのピークが重なっている場合には、各成分をガウス関数としてピーク強度、ピーク位置、ピーク半値全幅をパラメーターとして最適化することにより、フィッティングを行ってピークを分離することにより割合を求めることができる。従って、B1sのピーク分離を行い、ホウ素ドープ炭素材料の表面のホウ素の状態を分析することが出来る。
【0029】
ホウ素含有多孔質炭素は、励起レーザー波長532nmのレーザーラマンスペクトルにおけるDバンド(1330~1370cm-1)とGバンド(1560~1620cm-1)のピーク強度の比(IG/ID)であるG/D比が0.5以上であると炭素表面の欠陥や結晶界面が少なく電子伝導が高くなりやすく好ましい。より好ましくは1以上、さらに好ましくは5以上、さらに10以上である。
【0030】
ホウ素含有多孔質炭素は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、10~1200m2/gであることが好ましい。より好ましくは30~800m2/gである。
【0031】
本発明における比表面積とは試料単位質量当たりの表面積のことであり、ガス(N2又はH2O)吸着法によって求めることができる。解析法はBET法を用い、相対圧(P(吸着平衡圧)/P0(飽和蒸気圧)=0.05~0.3)とガス吸着量のプロットより得られる直線の切片と勾配から、単分子吸着量を求めることで、BET比表面積を算出できる。
【0032】
本発明におけるホウ素含有多孔質炭素は、少なくともホウ素を含有する炭素材料からなり、前記炭素材料の一次粒子が物理的または化学的に集合した二次構造を形成し、一次粒子間隙が細孔となる。前記二次構造の形状を制御することで細孔の構造(細孔径や細孔容積)の制御が可能であるため、一次粒子に細孔を有するタイプの多孔質炭素に比べ、幅広い細孔径や細孔容積を任意に合成できるという特長を持つ。
【0033】
本発明では、ホウ素含有多孔質炭素は、ホウ素を含有する炭素材料(A)の造粒粒子であることが好ましい。造粒の種類としては、噴霧造粒、圧縮造粒、転動造粒、攪拌造粒などが挙げられ特に限定はないが、中でも均一な粒度や密度を制御しやすい噴霧造粒が特に好ましい。
【0034】
<ホウ素含有多孔質炭素の製造方法>
ホウ素含有多孔質炭素の製造方法としては、例えば、(1)ホウ素を含有する炭素材料(A)と分散樹脂(B)とを液状媒体(C)に混合・分散したスラリーを作製する第一の工程と、前記スラリーから液状媒体を除去し造粒粒子を作製する第二の工程と、前記造粒粒子を分散樹脂の分解温度以上で焼成する第三の工程を含む製造方法により得ることができる。
また、(2)ホウ素を含有する化合物と炭素材料と分散樹脂とを液状媒体に混合・分散したスラリーを作製する第一の工程と、前記スラリーから液状媒体を除去し造粒粒子を作製する第二の工程と、前記造粒粒子を1000℃以上で焼成する第三の工程を含む製造方法により得ることができる。
また、(3)炭素材料と分散樹脂とを液状媒体に混合・分散したスラリーを作製する第一の工程と、前記スラリーから液状媒体を除去し造粒粒子を作製する第二の工程と、前記造粒粒子を分散樹脂の分解温度以上で焼成した後、ホウ素を含有する化合物と混合し1000℃以上で焼成する第三の工程を含む製造方法により得ることができる。
上記(2)および(3)の方法によっても、ホウ素を含有する炭素材料(A)の造粒粒子である多孔質炭素を得ることができる。以下に、上記(1)を例に製造方法を詳細に説明する。
【0035】
<ホウ素を含有する炭素材料(A)>
第一工程で使用するホウ素を含有する炭素材料(A)としては、例えばホウ素を含有する後述の導電性炭素材料が挙げられる。導電性炭素材料としては、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、黒鉛、繊維状炭素(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、カーボンナノホーン、グラフェン系炭素(グラフェン層の厚みが100nm以下のグラフェン材料)、フラーレンを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。導電性、入手の容易さから、カーボンブラック、黒鉛、繊維状炭素およびグラフェン系炭素が好ましく、カーボンブラック、黒鉛、繊維状炭素およびグラフェン系炭素を2種類以上併用するとより好ましい。中でも他の導電性炭素材料に比べ、一次粒子径の小さいカーボンブラックは凝集状態を制御しやすく好ましい。これらホウ素を含有する炭素材料(A)は、原料となる導電性炭素材料の形状や粒形などの特徴をある程度保持しており、原料と同様炭素の種類を区別することが可能である。
【0036】
市販の導電性炭素材料としては、例えば、デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のデンカ社製アセチレンブラック;ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD、ライオナイトEC-200L等のライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製ケッチェンブラック;トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック;プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック;Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、975 ULTRA、PUER BLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック;#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、及び#5400B等の三菱化学社製ファーネスブラック;MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック;Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP-Li等のTIMCAL社製ファーネスブラック;SCMG-AH、SCMG-AR、SCMG-AR-H、SCMG-AF、SCMG-AFC、UF-G10、UF-G30等の昭和電工社製黒鉛;CPB、UCP、AP、P#1、PAG-5、HAG-10W、ACP、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、GR-15、UP-5N、UP-15N、CGC-20、CGB-20、J-SP-α、UP-5-α、SP-5030-α、EXP-SM等の日本黒鉛工業社製黒鉛;UF-2,BF-3A、BF-5A、BF-8A、BF-10A、BF-20A、CNG-44N、BSP-5A、BSP-20A、A-0、FAG-1C、JSG-25、JSG-75、WF-10,WF-20,WF-30等の富士黒鉛工業社製黒鉛,Z-5F,CNP-7、CNP-15、CNP-35、Z+80、Z-25、Z-50、X-10、X-20、SRP7、SRP10、CP2000M、EC1500、SG-BH8、SG-BH等の伊藤黒鉛工業社製黒鉛、VGCF、VGCF-H、VGCF-X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ;名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ;日本ゼオン社製のカーボンナノチューブ;xGnP-C-300、xGnP-C-500、xGnP-C-750、xGnP-M-5、xGnP-M-15、xGnP-M-25、xGnP-H-5、xGnP-H-15、xGnP-H-25等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
ホウ素を含有する炭素材料の製造方法としては特に限定されないが、炭素系原料と、ホウ素を含む化合物とを混合する工程と、前記混合物を1000℃以上の高温で熱処理する工程を含む方法が好ましい。
【0038】
<ホウ素を含む化合物>
ホウ素を含む化合物は、特に限定されるものではないが、炭化ホウ素、酸化ホウ素、窒化ホウ素、金属ホウ化物、ホウ素オキソ酸、ボラン、ホウ素含有有機化合物等が挙げられる。
具体的には、炭化ホウ素では、B4C(B12C3)、B12C2(B6C)等、
酸化ホウ素では、BC2O、BCO2、B2O2、B2O3 、B4O3、B4O5等、
窒化ホウ素では、BN等、
金属ホウ化物では、AlB2、CoB、FeB、MgB2、NiB、TiB2等、
ホウ素オキソ酸では、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等、
ボランでは、モノボラン、ジボラン、デカボラン等、
ホウ素含有有機化合物では、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル等のホウ酸エステル類、トリエチルボラン、トリフェニルボラン等の置換ボラン類、フェニルボロン酸、フェニルボロン酸エステル等のボロン酸類等が挙げられる。
【0039】
導電性炭素材料とホウ素を含む化合物の原料組成比は、特に限定されるものではないが、導電性炭素材料100質量部に対してホウ素を含む化合物の割合が好ましくは0.01~300質量部であり、さらに好ましくは0.1~100質量部である。
【0040】
前記混合物の作製方法としては、導電性炭素材料と、ホウ素を含む化合物を少なくとも含んでいればよく、混合法としては乾式混合及び湿式混合が挙げられる。混合装置としては、混合装置としては、以下のような乾式混合装置や湿式混合装置を使用できる。
【0041】
乾式混合装置としては、例えば、2本ロールや3本ロール等のロールミル、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速攪拌機、マイクロナイザーやジェットミル等の流体エネルギー粉砕機、アトライター、ホソカワミクロン社製粒子複合化装置「ナノキュア」、「ノビルタ」、「メカノフュージョン」、奈良機械製作所社製粉体表面改質装置「ハイブリダイゼーションシステム」、「メカノマイクロス」、「ミラーロ」等が挙げられる。
【0042】
又、乾式混合装置を使用する際、2種以上の原料を粉体のまま直接混合しても良いが、より均一な混合物を作成するために、前もって1種以上の原料を少量の溶媒に溶解、又、分散させておき、混合する方法を用いても良い。更に処理効率を上げるために、加温しても良い。
【0043】
湿式混合装置としては、例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類、エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類、レッドデビル社製ペイントコンディショナー、ボールミル、シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等のサンドミル類、アトライター、若しくはコボールミル等のメディア型分散機、 ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等の湿式ジェットミル類、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機類、又は、その他ロールミル、ニーダー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、湿式混合装置としては、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい場合がある。
【0044】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。又、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0045】
又、原料が均一に溶解した系でない場合、各原料の溶媒への濡れ性、分散性を向上させるために、分散剤を一緒に添加し、分散、混合しても良い。
【0046】
分散剤としては、各原料に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる効果があれば特に限定されることはなく、従来公知のものを使用することができる。例えば、分散樹脂、界面活性剤、顔料誘導体などの分散剤を用いることが出来る。
【0047】
前記混合物を熱処理する方法は、原料となる炭素系原料やホウ素を含む化合物の種類や量によって異なるが、加熱温度は1000~3200℃が好ましく、1800~3000℃がより好ましい。
【0048】
加熱時間は特に限定されないが、通常は30分から10時間であることが好ましい。
熱処理工程における雰囲気は、原料の酸化を防ぐため、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気や、真空雰囲気が好ましい。また、熱処理工程は、一定の雰囲気及び温度下において1段階で処理を行う方法だけでなく、雰囲気や温度下を都度変更し多段階で行っても良い。
【0049】
ホウ素を含有する炭素材料(A)は、ホウ素を含有する、カーボンブラック、黒鉛、繊維状炭素およびグラフェン系炭素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましく、平均一次粒子径が1~100nmである、ホウ素を含有するカーボンブラックであることがより好ましい。
【0050】
炭素材料は、アグリゲート(一次凝集体)が凝集してなるアグロメレート(二次凝集体)を形成している。二次凝集体のサイズが所定以上大きいことで、導電ネットワークを形成しやすくなり、体積抵抗を下げるのに有利となる。二次凝集体を形成することで、所定の細孔径を有する多孔質炭素を得やすいために好ましい。本発明において、二次凝集体は体積平均粒子径で表され、好ましくはホウ素を含有する炭素材料(A)の体積平均粒子径(D50)が0.2~3μmであり、より好ましくは0.2~2μmであり、さらに好ましくは0.2~1μmである。
ここでいう体積平均粒子径(D50)とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、レーザー散乱方式の粒度分布計等で測定される。ホウ素を含有する炭素材料(A)の体積平均粒子径(D50)は、噴霧造粒させるスラリー中における体積平均粒子径(D50)により表すことができる。
【0051】
<分散樹脂(B)>
分散樹脂(B)としては、特に限定されないが、ノニオン性分散剤、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤、両性分散剤などを挙げることができる。これらは、例えば、アニオン性官能基、カチオン性官能基およびノニオン性官能基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体、または前記重合体の中和物の形態であり、溶媒に水系溶媒を用いる際により好適に使用できる。
【0052】
分散樹脂の重量平均分子量は5000以上が好ましい。更に好ましくは30000以上である。また、その上限値は1500000以下が好ましく、800000以下がさらに好ましい。上記範囲であると、ホウ素を含有する炭素材料や導電性炭素材料の分散性が優れるため好ましい。
【0053】
(ノニオン性分散樹脂)
ノニオン性分散樹脂とは、イオン性官能基を有していない樹脂が挙げられる。具体的には、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール変性アクリル樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル-ビニルピロリドン共重合体、ビニルピロリドン-メタクリル酸アミド-ビニルイミダゾール共重合体、及びアルキル化ビニルピロリドン-1-ブテン共重合体等のビニルピロリドン系樹脂、リグニン、ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、セルロース系樹脂(セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレート、シアノエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど)、キチン類、キトサン類、デンプンなどが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
中でも、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0054】
(アニオン性分散樹脂)
アニオン性分散樹脂としては、特に限定されないが、例えば、酸性官能基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂、酸性官能基を有するポリビニル系樹脂、酸性官能基を有するポリエステル系樹脂、およびその他の市販の酸性官能基を有する樹脂等が挙げられる。また、酸性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、及び燐酸基が挙げられる。アニオン性分散剤の酸価は、100mgKOH/g以上600mgKOH/g以下の範囲であることが好ましく、更には300mgKOH/g以上600mgKOH/g以下の範囲であることが好ましい。
【0055】
カルボキシル基を有するアニオン性分散樹脂としては、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体および必要に応じた他の単量体を共重合して得られる分散樹脂が挙げられる。カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、カルボキシル基を有する単量体であれば特に限定されないが、特にメタクリル酸、アクリル酸が好ましい。共重合する単量体としては、スチレン、α-メチルスチレンもしくはベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環を有するエチレン性不飽和単量体、アルキル系(メタ)アクリレート、アルキレングリコール系(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0056】
スルホン酸を有するアニオン性分散樹脂としては、スルホン酸を有する樹脂であれば特に限定されないが、例えば、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物を用いることができる。芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物とは、例えば、ベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸(またはそれらのアルカリ金属塩)をホルマリンで縮合したものである。
【0057】
(カチオン性分散樹脂)
カチオン性分散樹脂は、カチオン性部位として脂肪族アミンもしくは芳香族アミンの少なくとも一方を有することが好ましい。アミン価は、110mgKOH/g以上1000mgKOH/g未満の範囲であることが好ましく、更には250mgKOH/g以上1000mgKOH/g未満の範囲であることが好ましい。
【0058】
脂肪族アミンもしくは芳香族アミンを有するカチオン性分散剤としては、脂肪族アミンもしくは芳香族アミンを有する樹脂であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族アミノ基もしくは芳香族アミノ基を有する単量体を重合もしくは縮合してなり、好ましくは、脂肪族アミノ基もしくは芳香族アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体および必要に応じた他の単量体を重合して得られるものである。
【0059】
脂肪族アミノ基もしくは芳香族アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、脂肪族アミノ基を有するものとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、アリルアミン等を例示することができ、また、芳香族アミノ基を有するものとしては、アミノスチレン、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等を例示することができる。
共重合する単量体としては、スチレン、α-メチルスチレンもしくはベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環を有するエチレン性不飽和単量体、アルキル系(メタ)アクリレート、アルキレングリコール系(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
(両性分散樹脂)
両性分散樹脂としては、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体と、アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体と、を必須成分とする共重合および前記共重合体の中和物であることが好ましい。これらの単量体としては、アニオン性分散樹脂またはカチオン性分散樹脂で例示したものと同じものが挙げられる。
【0061】
<液状媒体>
本発明に使用する液状媒体としては、特に限定せず使用することができる。必要に応じて、例えば、分散性向上のために、複数の溶剤種を混ぜて使用しても良い。溶剤としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。中でも水や、炭素数が4以下のアルコール系溶剤が好ましい。
【0062】
本発明では、ホウ素含有多孔質炭素は、ホウ素を含有する炭素材料と、分散樹脂を液状媒体に混合・分散したスラリーを作製する第一の工程の直後に、第二の工程をとることが好ましい。直後とは、ホウ素含有する炭素材料の分散状態が保たれている間の時間であることを示し、具体的には、前述した体積平均粒子径(D50)により確認することができる。
【0063】
本発明の第一の工程では、分散樹脂(B)を液状媒体(C)に完全ないしは一部溶解させ、その溶液中にホウ素を含有する炭素材料(A)を添加、混合、分散することが好ましい。ホウ素を含有する炭素材料(A)を一次粒子近くまで分散させつつ、これら分散樹脂(B)をホウ素を含有する炭素材料(A)に吸着、被覆させて溶媒中に分散させることができるためである。
【0064】
前記スラリー固体分100質量%中、ホウ素を含有する炭素材料(A)の含有量は、導電性の観点から、好ましくは50~95質量%であり、より好ましくは50~90質量%、さらに好ましくは65~85質量%である。
前記スラリー固体分100質量%中、分散樹脂(B)の含有量は、導電性と分散安定性観点から、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは15~35質量%である。
【0065】
本発明の第一工程でホウ素を含有する炭素材料のスラリーを得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機が使用できる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、プライミクス社「フィルミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの分散機は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。さらに、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0066】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーターおよびベッセルがセラミック製または樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーターおよびベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズや、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0067】
第二の工程は、第一の工程で作製したスラリーから液状媒体(C)を除去し造粒粒子を作製する。液状媒体(C)を除去する方法としては、特に限定されないが、例えば、噴霧乾燥、攪拌乾燥、静置乾燥等の中から選択することができる。中でも、粒子を充填しやすい球状に造粒できることから、スプレードライヤーを好適に用いることができる。
【0068】
第三の工程は、上記第二の工程で作製した造粒粒子を分散樹脂(B)の分解温度以上で焼成してホウ素含有多孔質炭素を作製する。分散樹脂(B)の分解温度以上で焼成することは、有機物を分解または炭化させ、空隙の有無やサイズを調整するために必要となる。焼成は不活性雰囲気下で行うことが好ましく、不活性雰囲気としては、窒素やアルゴンで満たされた雰囲気、または、真空雰囲気を例示できる。
【0069】
本発明のホウ素含有多孔質炭素は、酵素や微生物、ウイルス、ガス等の吸着物質を選択的に吸着や脱離することができ、水浄化や土壌改質、クロマトグラフィー、ガス吸蔵・放出、タンパク質の取込、除染や資源回収に有効活用することができる。また、導電性に優れているため、リチウムイオン電池やキャパシタなどの畜電デバイス、水素燃料電池やバイオ発電といった発電デバイスやセンサーの電極用または導電配線用の導電材として適用することができる。特に、酵素発電デバイスにおいては、本発明のホウ素含有多孔質炭素をデバイス用電極の導電材として好適に適用できる。
【0070】
<酵素発電デバイス>
酵素発電デバイスは、酸化還元酵素を含み、燃料を酸化する負極、酸素の還元が起こる正極、及び必要に応じて負極と正極とを電気的に分離するセパレータを含み、更に必要に応じて、負極から正極側にイオンを伝達するためのイオン伝導体を含む。
【0071】
酵素発電デバイスの具体的な態様としては、酵素燃料電池及び有機物センサー等が挙げられる。酵素燃料電池では、糖及びアルコール等の有機物を燃料として用い、負極での酸化反応と正極での還元反応を含む上記反応により発電し、電気を出力することができる。有機物センサーでは、発電の有無又は発電量を検知することにより、センシング対象物質の有無又は量を検出することができる。酵素発電デバイスは、電源とセンサーを兼ねることができ、電源機能付きセンサーとして用いることができる。
【0072】
燃料又はセンシング対象物質としては酸化還元酵素により分解できる有機物であれば特に限定されず、グルコース(好ましくは天然型のD-グルコース)及びフルクトース等の単糖類;デンプン等の多糖類;エタノール等のアルコール;乳酸等の有機酸等が挙げられる。中でも、グルコース、フルクトース、及び乳酸からなる群より選択される1種以上の有機物が好ましい。燃料は、外部から供給されてもよいし、セパレータ等に担持されるなど、酵素発電デバイスに内蔵されてもよい。
【0073】
本発明のホウ素含有多孔質炭素は、酵素発電デバイス用電極を形成するためのペーストとして用いることができる。電極用ペーストは、ホウ素含有多孔質炭素と溶剤とバインダーとを含み、更に必要に応じて分散剤等の他の成分を含むことができる。各成分の割合は特に限定されず、適宜設計することができる。
【0074】
電極用ペーストに使用される溶剤としては特に限定されず、公知のものを用いることができ、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、及び水等が挙げられる。中でも、水及び炭素数が4以下のアルコール系溶剤が好ましい。
【0075】
電極用ペーストに使用されるバインダーは、ホウ素含有多孔質炭素等の他の電極構成材料を結着させるために使用され、それらの他の電極構成材料を溶剤中へ分散させる効果は小さい公知のバインダー用の樹脂が用いられる。
例えば、アクリル樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリエステル樹脂;フェノール樹脂;エポキシ樹脂;フェノキシ樹脂;尿素樹脂;メラミン樹脂;アルキッド樹脂;ホルムアルデヒド樹脂;シリコーン樹脂;スチレン-ブタジエンゴム及びフッ素ゴム等の合成ゴム;ポリアニリン及びポリアセチレン等の導電性樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニル、パーフルオロカーボン、及びテトラフルオロエチレン等の含フッ素化合物;これらの変性物等が挙げられる。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0076】
溶剤として水性液状媒体を使用する場合、バインダーとして水性エマルションを使用してもよい。水性エマルションは、バインダー樹脂が水中に溶解せずに、微粒子の形態で分散した分散液である。
水性エマルションとしては特に限定されず、(メタ)アクリル系エマルション;ニトリル系エマルション;ウレタン系エマルション;SBR(スチレンブタジエンゴム)等のジエン系ゴムを含むジエン系エマルション;PVdF(ポリフッ化ビニリデン)及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の含フッ素高分子を含むフッ素系エマルション等が挙げられる。
【0077】
電極用ペーストに必要に応じて使用される分散剤は、特に制限されず、ホウ素含有多孔質炭素で例示した分散樹脂等が挙げられる。また、電極用ペーストは、必要に応じて、酸化還元酵素、触媒等の他の成分を含んでもよく、従来公知のものを使用することができる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例および比較例における「部」は「質量部」、%は質量%を表す。
【0079】
<ホウ素含有炭素材料の合成>
(製造例1)
導電性カーボンブラック(ライオナイトEC-200L、ライオン社製)とホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)を、質量比90/10(カーボンブラック/ホウ酸)となるようにそれぞれ秤量し、自転公転ミキサーで混合し、導電性カーボンブラック(ライオナイトEC-200L)とホウ酸の混合物を得た。上記混合物を、グラファイト製るつぼに充填し、多目的高温炉にてアルゴン雰囲気下、2000℃で1時間熱処理を行い、ホウ素含有炭素材料(1)を得た。
【0080】
(製造例2)
導電性カーボンブラック(HS-100、デンカ社製)とホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)を、質量比90/10(カーボンブラック/ホウ酸)となるようにそれぞれ秤量し、自転公転ミキサーで混合し、導電性カーボンブラック(HS-100)とホウ酸の混合物を得た。上記混合物を、グラファイト製るつぼに充填し、多目的高温炉にてアルゴン雰囲気下、2000℃で1時間熱処理を行い、ホウ素含有炭素材料(2)を得た。
【0081】
(製造例3)
導電性カーボンナノチューブ(NTP3003、NTP社製)とホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)を、質量比90/10(カーボンナノチューブ/ホウ酸)となるようにそれぞれ秤量し、自転公転ミキサーで混合し、導電性カーボンナノチューブとホウ酸の混合物を得た。上記混合物を、グラファイト製るつぼに充填し、多目的高温炉にてアルゴン雰囲気下、1800℃で1時間熱処理を行い、ホウ素含有炭素材料(3)を得た。
【0082】
(製造例4)
導電性グラフェン系炭素材料(xGnP-C―750、XGScienses社製)とホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)を、質量比90/10(グラフェン系炭素材料/ホウ酸)となるようにそれぞれ秤量し、自転公転ミキサーで混合し、導電性グラフェン系炭素材料とホウ酸の混合物を得た。上記混合物を、グラファイト製るつぼに充填し、多目的高温炉にてアルゴン雰囲気下、2000℃で1時間熱処理を行い、ホウ素含有炭素材料(4)を得た。
【0083】
<ホウ素含有多孔質炭素の合成>
(実施例1A)
導電性炭素材料としてホウ素含有炭素材料(1)14質量部、分散樹脂であるポリビニルピロリドン(PVP K-30、和光社製:分解温度390℃)10%水溶液を60質量部(固形分として6質量部)、イオン交換水を126質量部採取し、ミキサーに入れて混合し、サンドミルを用いて30分間分散し、スラリーを得た。続いて、日本ビュッヒ社の噴霧乾燥器ミニスプレードライヤーB-290を使用し、上記スラリーを125℃で噴霧造粒することによって、ホウ素含有多孔質炭素を含む造粒粒子を得た。その後、得られた粉末を、窒素雰囲気下、500℃で1時間加熱焼成することによって、ホウ素含有多孔質炭素(1)を得た。
【0084】
(実施例2A~4A)
表1に示すホウ素含有炭素材料、および分散樹脂(B)と液状媒体(C)を変更した以外は、実施例1Aと同様の方法により、ホウ素含有多孔質炭素(2)~(4)を得た。
【0085】
(実施例5A~7A)
サンドミルでの分散時間を延長して、表1に示す体積平均粒子径になるよう変更した以外は、実施例1Aと同様の方法により、ホウ素含有多孔質炭素(5)~(7)を得た。
【0086】
(実施例8A)
導電性炭素材料としてカーボンブラック(ライオナイトEC-200L、ライオン社製
)14質量部、分散樹脂であるポリビニルピロリドン(PVP K-30、和光社製:分解温度390℃)10%水溶液を60質量部(固形分として6質量部)、イオン交換水を126質量部採取し、ミキサーに入れて混合し、サンドミルを用いて30分間分散し、スラリーを得た。続いて、日本ビュッヒ社の噴霧乾燥器ミニスプレードライヤーB-290を使用し、上記スラリーを125℃で噴霧造粒した。その後、得られた粉末を、窒素雰囲気下、500℃で1時間加熱焼成することによって、導電性炭素材料の造粒粒子(1)を得た。
次に、導電性炭素材料の造粒粒子(1)とホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)を、質量比90/10(ホウ素含有多孔質炭素/ホウ酸)となるようにそれぞれ秤量し、自転公転ミキサーで混合し、混合物を得た。上記混合物を、グラファイト製るつぼに充填し、多目的高温炉にてアルゴン雰囲気下、2000℃で1時間熱処理を行い、ホウ素含有多孔質炭素(8)を得た。ホウ素含有多孔質炭素(8)は、ホウ素含有炭素材料を含む造粒粒子である。表1において、ホウ素含有多孔質炭素(8)を構成するホウ素含有炭素材料を、ホウ素含有炭素材料(5)と示す。
【0087】
(比較例1A)
実施例8Aで作製した導電性炭素材料の造粒粒子(1)を比較例1Aとして用いた。
【0088】
(比較例2A)
炭素化原料としてセルロース(富士フィルム和光純薬社製)12.6質量部、分散樹脂であるポリビニルピロリドン(PVP K-30、富士フィルム和光純薬社製:分解温度390℃)10%水溶液を60質量部(固形分として6質量部)、ホウ酸(富士フィルム和光純薬社製)5%エタノール溶液28質量部(固形分として1.4質量部)、水とエタノールの混合溶液(水/エタノール=1/1)99.4質量部採取し、ミキサーに入れて混合し、サンドミルを用いて30分間分散し、スラリーを得た。続いて、日本ビュッヒ社の噴霧乾燥器ミニスプレードライヤーB-290を使用し、上記スラリーを125℃で噴霧造粒することによって、セルロースの造粒粒子を作製し、得られた粉末を、窒素雰囲気下、1000℃で1時間加熱焼成することによって、ホウ素含有多孔質炭素(9)を得た。
【0089】
実施例および比較例に用いた材料の評価については、以下の通り行った。
【0090】
(導電性炭素材料の平均一次粒子径)
透過型電子顕微鏡(日本電子データム社製JEM-1010)を用いて、加速電圧100kVにて炭素材料粒子の撮影を行った。一次凝集体を形成する球形粒子100個の直径を測長し、平均化して求めた。尚、ホウ素を含有するカーボンナノチューブなど繊維形状の粒子は繊維径を測長し、同様に求めた。
【0091】
(導電性炭素材料の体積平均粒子径)
各実施例で作製した、ホウ素含有多孔質炭素又は導電性炭素材料と分散樹脂とを機械分散したスラリーを、固形分に応じて100~1000倍に水希釈し、マイクロトラック(日機装社製MT3300EXII)のセルに該希釈スラリーをサンプリングローディングにおいて適正濃度になるまで注入し、サンプルに応じた分散媒の屈折率条件を入力後、測定を行い、D50を平均粒子径とした。
【0092】
(比表面積、細孔容積、細孔径)
各実施例および比較例で作製した多孔質炭素を窒素流通下で150℃4時間加熱処理し、重量測定をした後、窒素吸着測定装置(マイクロトラックベル社製BELSORP-miniII)を用い、吸着温度77Kにて吸着等温線を測定した。得られた吸着等温線から、BET法を用いて比表面積を算出した。また、BJH法により、2~200nmの細孔分布をプロットし、実施例の多孔質炭素についてメソ孔またはマクロ孔が存在することを確認し、細孔径に対して対数微分細孔容積をプロットし、2~200nmの範囲に得られるピークから細孔容積とピーク細孔径を算出した。
【0093】
(体積抵抗率)
体積抵抗率は日東精工アナリテック社製粉体抵抗測定システムMCP-PD51型を用いて評価した。
低抵抗用粉体プロープを用いて四探針方式にて測定を行い、各サンプルに4kNの荷重を加えた際の体積抵抗率を値として使用した。
【0094】
(表面の全ホウ素元素量、クラスター型ホウ素及び置換型ホウ素量)
表面の全ホウ素元素量および置換型ホウ素元素量は、X線光電子分光装置ThermoFisher scientific社製K-Alphaを用いて評価した。ホウ素B1sスペクトルピークから得られた全スペクトル面積から表面の全ホウ素元素の割合(モル比)を算出した。また、前記ホウ素の全スペクトル面積に対する186~187及び188~189.3eVのピーク面積の割合からクラスター型ホウ素及び置換型ホウ素元素の割合(モル比)を算出した。
【0095】
実施例及び比較例で作製した多孔質炭素の物性を表1に示す。
【0096】
【0097】
<酵素発電デバイス用電極スラリーの作製>
(実施例1B)
実施例1Aのホウ素含有多孔質炭素(1)4.8部、溶剤として水49.2部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液40部(固形分2%)、更にバインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)6部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素発電デバイス用電極スラリー(1)を得た。
【0098】
(実施例2B~8B、比較例1B~2B)
実施例2A~8Aのホウ素含有多孔質炭素(2)~(8)、比較例1Aの導電性炭素材料の造粒粒子(1)および比較例2Aのホウ素含有多孔質炭素(9)を用いた以外は、実施例1Bと同様の方法で、それぞれ酵素発電デバイス用電極スラリー(2)~(8)、(9)および(10)を得た。
【0099】
<酵素発電デバイス用電極の作製>
(実施例1C~8C、比較例1C~2C)
酵素発電デバイス用電極スラリー(1)~(10)を、ドクターブレードにより、乾燥後の酵素発電デバイス用炭素系材料の目付け量が2mg/cm2となるように、導電性支持体として炭素繊維からなる東レ社製カーボンペーパー基材上に塗布し、大気雰囲気中95℃、60分間乾燥し、酵素発電デバイス用電極(1)~(10)を作製した。
【0100】
<酵素発電デバイス用負極の作製の作製>
(実施例1D~8D、比較例1D~2D)
酵素発電デバイス用電極(1)~(10)に、メディエータとしてテトラチアフルバレンのメタノール溶液と、グルコースオキシダーゼ(GOD)水溶液をそれぞれ滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用負極(1)~(10)を作製した。
【0101】
<酵素発電デバイス用正極の作製>
導電性支持体として炭素繊維からなる東レ社製カーボンペーパー基材上にビリルビンオキシダーゼ(BOD)水溶液を滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用正極を作製した。
【0102】
<グルコースを用いた酵素発電デバイス用負極の出力性能評価>
酵素発電デバイス用負極(1)~(10)を作用極、酵素発電デバイス用正極を対極および参照極として、反応基質として0.1Mのグルコースが溶解した0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中に浸漬した。その後、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、pH7、25℃でLinear Sweep Voltammetry(LSV)を行い、得られた電圧・電流曲線から最大出力を算出し出力性能の指標とした。出力性能の評価では、比較例1Dで作製した酵素発電デバイス用負極の最大出力を100とした相対値で比較した。
【0103】
表1に示すように、比較例1~2に比べ、実施例1~8では低い体積抵抗率と幅広い細孔径を有するホウ素含有多孔質炭素であることが確認された。比較例ではホウ素を含有しない、またはホウ素を含有するが表面のホウ素元素種が適切でなく体積抵抗率が高いと考えられる。
また、実施例1~8のホウ素含有多孔質炭素を用いて作製された電極からなる酵素発電デバイスにおいては、比較例1~2に比べて優れた出力性能を有することが示された。
これは酵素が担持されるホウ素含有多孔質炭素の体積抵抗率が比較例に比べて低いため、負極反応における酵素と電極間の電子の授受が効率的に促進できるためと考えられる。
以上より、本発明におけるホウ素含有多孔質炭素においては、低い体積抵抗率と幅広い細孔径を両立するため、酵素発電デバイスなどの電極反応に好適に使用できることが明らかとなった。