(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】血圧計、血圧計における個人認証方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20240709BHJP
A61B 5/117 20160101ALI20240709BHJP
【FI】
A61B5/022 A
A61B5/117 200
(21)【出願番号】P 2020198364
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 翔
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-115618(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0245769(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/022
A61B 5/117
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の被測定部位を圧迫するためのカフを備え、上記カフの圧力を観測して血圧を測定する血圧計であって、
上記カフに流体を供給して加圧し又は上記カフから流体を排出して減圧する制御を行う圧力制御部と、
上記カフの圧力を検出する圧力検出部と、
上記圧力検出部の出力に基づいて血圧を算出する血圧算出部と、
認証対象である被験者について、上記カフの加圧過程で、加圧開始からの時間経過に伴うカフの圧力変化パターンについての特徴情報を取得する特徴取得部と、
上記取得された特徴情報を、予め登録されているユーザについての登録特徴情報と比較して、上記被験者について個人認証を行う認証部と
を備えたことを特徴とする血圧計。
【請求項2】
請求項1に記載の血圧計において、
上記認証部は、
上記圧力変化パターンについての上記特徴情報に含まれた互いに異なる特徴量をそれぞれ座標軸とする特徴量空間を作成し、
上記特徴量空間で、上記予め登録されているユーザについて上記登録特徴情報に対応する点を算出するとともに、上記登録特徴情報に対応する点の周りに、上記被験者が上記予め登録されているユーザであると認められるべき許容範囲を設定し、
上記特徴量空間で、上記被験者について上記取得された特徴情報に対応する点が上記許容範囲内に入るとき、上記被験者が上記予め登録されているユーザであると判定する一方、上記被験者について上記取得された特徴情報に対応する点が上記許容範囲内に入らないとき、上記被験者が上記予め登録されているユーザではないと判定する
ことを特徴とする血圧計。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血圧計において、
上記カフの加圧過程で、上記カフの圧力から直流成分を抽出して、
直流圧力変化パターンを検出する第1圧力検出部と、
上記カフの加圧過程又はこの加圧過程に続く減圧過程で、上記カフの圧力から上記被測定部位が示す脈波による圧力変動成分を抽出して、一拍毎の波形パターンを検出する第2圧力検出部と
を備え、
上記特徴取得部は、上記特徴情報として、上記
直流圧力変化パターンについての
直流特徴量に加えて、上記一拍毎の波形パターンについての
一拍特徴量を取得し、
上記認証部は、上記取得された
直流特徴量を予め登録されている
直流特徴量と比較するのに加えて、上記取得された
一拍特徴量を予め登録されている
一拍特徴量と比較して、上記被験者について個人認証を行う
ことを特徴とする血圧計。
【請求項4】
請求項3に記載の血圧計において、
上記認証部は、予め定められた第1条件下では、上記被験者についての個人認証のために、上記
一拍特徴量を用いず、上記
直流特徴量のみを用いることを特徴とする血圧計。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一つに記載の血圧計において、
記憶部と、
上記個人認証を行う前の段階で予め、上記カフの加圧過程で、上記被験者の上記圧力変化パターンについての特徴情報を取得し、上記取得された特徴情報を、上記被験者と対応付けて上記登録特徴情報として上記記憶部に記憶させる制御を行う特徴登録部と
を備えたことを特徴とする血圧計。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか一つに記載の血圧計において、
記憶部と、
それぞれ複数のノードを含む入力層、複数の中間層、および出力層を有するニューラルネットワークとを備え、
上記ニューラルネットワークは、上記入力層に、複数の教師ユーザの上記圧力変化パターンについての特徴情報を表す特徴ベクトルのいずれかが入力されたとき、上記複数の中間層を介して、上記出力層に、入力された特徴情報に対応する教師ユーザを表す出力情報を出力するように、上記ノード間の重み付けがなされて学習済みになっており、
上記個人認証を行う前の段階で予め、上記カフの加圧過程で、上記複数の教師ユーザおよび/または上記教師ユーザ以外のユーザを含むユーザグループについて、それぞれのユーザ毎に、そのユーザの上記圧力変化パターンについての特徴情報を取得し、上記取得された特徴情報を特徴ベクトルとして上記ニューラルネットワークの上記入力層に入力して、上記複数の中間層のうち或る中間層に現れた情報を、上記ユーザと対応付けて上記登録特徴情報として上記記憶部に記憶させる制御を行う特徴登録部を備え、
上記個人認証を行う段階で、上記特徴取得部は、上記カフの加圧過程で、上記認証対象である被験者の上記圧力変化パターンについての特徴情報を取得し、
上記認証部は、上記取得された特徴情報を特徴ベクトルとして上記ニューラルネットワークの上記入力層に入力して、上記複数の中間層のうち上記或る中間層に現れた情報を、上記記憶部に登録されている上記ユーザグループのそれぞれのユーザの上記登録特徴情報と比較して、上記被験者が上記ユーザグループに含まれたユーザであるか否かを判定する
ことを特徴とする血圧計。
【請求項7】
請求項5または6に記載の血圧計において、
上記被験者が予め登録されたユーザであると判定されたとき、上記被験者について取得された上記特徴情報を用いて、予め定められた第2条件下で、上記ユーザの上記登録特徴情報を更新する更新部
を備えたことを特徴とする血圧計。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一つに記載の血圧計において、
上記認証部は、予め定められた第3条件下では上記個人認証を中止する
ことを特徴とする血圧計。
【請求項9】
被験者の被測定部位を圧迫するためのカフを備え、上記カフの圧力を観測して血圧を測定する血圧計における個人認証方法であって、
上記血圧計は、
上記カフに流体を供給して加圧し又は上記カフから流体を排出して減圧する制御を行う圧力制御部と、
上記カフの圧力を検出する圧力検出部と、
上記圧力検出部の出力に基づいて血圧を算出する血圧算出部と
を備え、
上記個人認証方法は、
認証対象である被験者について、上記カフの加圧過程で、加圧開始からの時間経過に伴うカフの圧力変化パターンについての特徴情報を取得し、
上記取得された特徴情報を、予め登録されているユーザについての登録特徴情報と比較して、上記被験者について個人認証を行う
ことを特徴とする、血圧計における個人認証方法。
【請求項10】
請求項9に記載の血圧計における個人認証方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は血圧計に関し、より詳しくは、個人認証機能を有する血圧計に関する。また、この発明は、血圧計における個人認証方法に関する。また、この発明は、そのような血圧計における個人認証方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被験者が血圧計を用いて血圧を測定するに際して、被験者と測定される血圧値とを対応付けるため、被験者に対して個人認証(登録されたユーザ本人であることの確認)を行うことが望まれる場合がある。従来、血圧計によって個人認証を行う方法として、例えば特許文献1(特開2010-110380号公報)、特許文献2(特開平6-142065号公報)に開示されているように、コロトコフ音のレベル変化のパターンを用いる方法が知られている。また、特許文献3(特開2003-299624号公報)に開示されているように、ユーザがサーバに送信した心電信号から特徴パラメータを抽出し、ニューラルネット分類手法等を用いて個人認証した上で診断を行う遠隔診断支援システムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-110380号公報
【文献】特開平6-142065号公報
【文献】特開2003-299624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コロトコフ音や心電信号は測定毎のばらつきが大きいため、正確な認証を行うことが難しいという問題がある。また、最近では、血圧計として、カフの圧力(内圧)を観測して、例えばオシロメトリック法により血圧を測定するものが普及している。このようなカフの圧力を観測して血圧を測定するタイプの血圧計で、コロトコフ音や心電信号によって個人認証を行うものとすると、圧力観測には用いない余分な構成要素(例えば、マイクロフォンなどの音検出用デバイス、心電用電極など)を設けなければならない、という問題がある。
【0005】
そこで、この発明の課題は、カフの圧力を観測して血圧を測定する血圧計であって、簡単な構成で精度良く個人認証を行えるものを提供することにある。また、この発明の課題は、そのような血圧計における個人認証方法を提供することにある。また、そのような個人認証方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、この開示の血圧計は、
被験者の被測定部位を圧迫するためのカフを備え、上記カフの圧力を観測して血圧を測定する血圧計であって、
上記カフに流体を供給して加圧し又は上記カフから流体を排出して減圧する制御を行う圧力制御部と、
上記カフの圧力を検出する圧力検出部と、
上記圧力検出部の出力に基づいて血圧を算出する血圧算出部と、
認証対象である被験者について、上記カフの加圧過程で、加圧開始からの時間経過に伴うカフの圧力変化パターンについての特徴情報を取得する特徴取得部と、
上記取得された特徴情報を、予め登録されているユーザについての登録特徴情報と比較して、上記被験者について個人認証を行う認証部と
を備えたことを特徴とする。
【0007】
本明細書で、「カフの圧力」とは、カフ(典型的には、カフに内包された流体袋)内の圧力を意味する。以下では、「カフの圧力」を適宜「カフ圧」と略称する。
【0008】
「圧力変化パターン」は、上記カフの加圧過程で、加圧開始からの時間経過に伴って上記カフの圧力が変化するパターンを意味する。上記カフの圧力には、滑らかに単調増加する成分(直流成分)に加えて、上記被測定部位が示す脈波による圧力変動成分が重畳されている。
【0009】
「個人認証を行う」とは、認証対象である被験者が予め登録されているユーザ(本人)であるか否かを判定することを意味する。本明細書では、上記被験者の圧力変化パターンについての特徴情報が、予め登録されているユーザについての登録特徴情報と一致しているか否かに応じて、上記被験者が予め登録されているユーザであるか否かを判定する。なお、「予め登録されているユーザ」は、単数であってよいし、複数であってもよい。
【0010】
「登録特徴情報」とは、典型的には、上記個人認証が行われる前に予め、上記特徴取得部によって取得され、記憶部に記憶された特徴情報である。
【0011】
この開示の血圧計では、血圧測定は次のようにして行われる。被測定部位にカフが装着された状態で、圧力制御部は、上記カフに流体を供給して加圧し又は上記カフから流体を排出して減圧する。その加圧による加圧過程又はそれに続く減圧過程で、圧力検出部は、上記カフの圧力を検出する。血圧算出部は、上記圧力検出部の出力に基づいて血圧を算出する。このようにして、血圧測定が行われる。
【0012】
また、被験者についての個人認証は次のようにして行われる。特徴取得部は、認証対象である被験者について、上記カフの加圧過程で、加圧開始からの時間経過に伴って上昇率を上げながら立ち上がる圧力変化パターンについての特徴情報を取得する。認証部は、上記取得された特徴情報を、予め登録されているユーザについての登録特徴情報と比較して、上記被験者について個人認証を行う。ここで、上記圧力変化パターン(特に、上記カフの圧力の直流成分に応じた直流圧力変化パターン)は、被測定部位の周囲長(太腕または細腕)、体組成(筋肉質または脂肪質)などの被験者の身体的特徴に依存して定まることが経験的に分かっている。例えば、被測定部位の周囲長が大きい場合(つまり、太腕の場合)は、周囲長が小さい場合(つまり、細腕の場合)に比して、カフ(流体袋)の内部容量が増えるため、上記カフの加圧過程で上記カフに流体を単位時間当たり一定流量で供給するとき、カフ圧の上昇率(勾配)が小さくなる傾向がある。また、被測定部位が脂肪質である場合は、筋肉質である場合に比して、高圧域で被測定部位が潰れ易くなることから、高圧域でカフ圧の上昇率(勾配)が小さくなる傾向がある。そして、被験者毎の被測定部位の周囲長、体組成などの組み合わせに応じて、それらの傾向が組み合わされて現れる。これらの身体的特徴は被験者個人における短期間での変化量が小さい。言い換えれば、これらの身体的特徴は、コロトコフ音や心電信号とは異なり、測定毎のばらつきが小さい。したがって、この血圧計では、被験者の身体的特徴に依存して定まる上記圧力変化パターンについての特徴情報を用いて個人認証を行うことによって、上記被験者について精度良く個人認証を行うことができる。また、このようにして上記被験者についての個人認証が行われる場合、圧力観測には用いない余分な構成要素(例えば、マイクロフォンなどの音検出用デバイス、心電用電極など)を設ける必要が無い。したがって、この血圧計は、簡単な構成で低コストに構成され得る。
【0013】
一実施形態の血圧計では、
上記認証部は、
上記圧力変化パターンについての上記特徴情報に含まれた互いに異なる特徴量をそれぞれ座標軸とする特徴量空間を作成し、
上記特徴量空間で、上記予め登録されているユーザについて上記登録特徴情報に対応する点を算出するとともに、上記登録特徴情報に対応する点の周りに、上記被験者が上記予め登録されているユーザであると認められるべき許容範囲を設定し、
上記特徴量空間で、上記被験者について上記取得された特徴情報に対応する点が上記許容範囲内に入るとき、上記被験者が上記予め登録されているユーザであると判定する一方、上記被験者について上記取得された特徴情報に対応する点が上記許容範囲内に入らないとき、上記被験者が上記予め登録されているユーザではないと判定する
ことを特徴とする。
【0014】
この一実施形態の血圧計では、上記許容範囲を適切に設定することによって、上記被験者(認証対象である被験者)が上記予め登録されているユーザであるか否かを、さらに精度良く判定できる。
【0015】
一実施形態の血圧計では、
上記カフの加圧過程で、上記カフの圧力から直流成分を抽出して、直流圧力変化パターンを検出する第1圧力検出部と、
上記カフの加圧過程又はこの加圧過程に続く減圧過程で、上記カフの圧力から上記被測定部位が示す脈波による圧力変動成分を抽出して、一拍毎の波形パターンを検出する第2圧力検出部と
を備え、
上記特徴取得部は、上記特徴情報として、上記直流圧力変化パターンについての直流特徴量に加えて、上記一拍毎の波形パターンについての一拍特徴量を取得し、
上記認証部は、上記取得された直流特徴量を予め登録されている直流特徴量と比較するのに加えて、上記取得された一拍特徴量を予め登録されている一拍特徴量と比較して、上記被験者について個人認証を行う
ことを特徴とする。
【0016】
「直流特徴量」とは、直流圧力変化パターンについての特徴量を意味する。また、「一拍特徴量」とは、直流圧力変化パターンではなく、一拍毎の波形パターンについての特徴量を意味する。
【0017】
この一実施形態の血圧計では、第1圧力検出部は、上記カフの加圧過程で、上記カフの圧力から直流成分を抽出して、直流圧力変化パターンを検出する。一方、第2圧力検出部は、上記カフの加圧過程又はこの加圧過程に続く減圧過程で、上記カフの圧力から上記被測定部位が示す脈波による圧力変動成分を抽出して、一拍毎の波形パターンを検出する。上記特徴取得部は、上記特徴情報として、上記直流圧力変化パターンについての直流特徴量に加えて、上記一拍毎の波形パターンについての一拍特徴量を取得する。上記認証部は、上記取得された直流特徴量を予め登録されている直流特徴量と比較するのに加えて、上記取得された一拍特徴量を予め登録されている一拍特徴量と比較して、上記被験者について個人認証を行う。このように、上記直流特徴量に加えて、上記一拍特徴量を判断材料として用いることによって、上記被験者についてさらに精度良く個人認証を行うことができる。
【0018】
一実施形態の血圧計では、
上記認証部は、予め定められた第1条件下では、上記被験者についての個人認証のために、上記一拍特徴量を用いず、上記直流特徴量のみを用いることを特徴とする。
【0019】
ここで、「予め定められた第1条件」としては、例えば、個人認証を行う際の脈拍数が、上記登録特徴情報を登録した際の脈拍数に比して、著しく高いか又は低いことなどの、上記一拍特徴量の信頼性が低い条件が挙げられる。
【0020】
この一実施形態の血圧計では、上記認証部は、予め定められた第1条件下では、上記被験者についての個人認証のために、上記一拍特徴量を用いず、上記直流特徴量のみを用いる。ここで、上記第1条件としては、例えば、個人認証を行う際の脈拍数が、上記登録特徴情報を登録した際の脈拍数に比して、著しく高いか又は低いことが定められているものとする。この一実施形態の血圧計によれば、そのような上記一拍特徴量の信頼性が低い場合(つまり、上記一拍特徴量の使用を排除すべき場合)に、上記直流特徴量のみを用いることができる。この結果、上記個人認証の精度が低下するのを防止できる。
【0021】
一実施形態の血圧計では、
記憶部と、
上記個人認証を行う前の段階で予め、上記カフの加圧過程で、上記被験者の上記圧力変化パターンについての特徴情報を取得し、上記取得された特徴情報を、上記被験者と対応付けて上記登録特徴情報として上記記憶部に記憶させる制御を行う特徴登録部と
を備えたことを特徴とする。
【0022】
この一実施形態の血圧計では、上記特徴登録部は、上記個人認証を行う前の段階で予め、次のような制御を行う。まず、上記カフの加圧過程で、上記被験者の上記圧力変化パターンについての特徴情報を取得する。次に、上記取得された特徴情報を、上記被験者と対応付けて上記登録特徴情報として上記記憶部に記憶させる。この結果、上記個人認証を行う段階で、上記認証部は、上記記憶部に登録されている上記登録特徴情報を比較の基準として用いて、上記被験者について個人認証を行うことができる。
【0023】
一実施形態の血圧計では、
記憶部と、
それぞれ複数のノードを含む入力層、複数の中間層、および出力層を有するニューラルネットワークとを備え、
上記ニューラルネットワークは、上記入力層に、複数の教師ユーザの上記圧力変化パターンについての特徴情報を表す特徴ベクトルのいずれかが入力されたとき、上記複数の中間層を介して、上記出力層に、入力された特徴情報に対応する教師ユーザを表す出力情報を出力するように、上記ノード間の重み付けがなされて学習済みになっており、
上記個人認証を行う前の段階で予め、上記カフの加圧過程で、上記複数の教師ユーザおよび/または上記教師ユーザ以外のユーザを含むユーザグループについて、それぞれのユーザ毎に、そのユーザの上記圧力変化パターンについての特徴情報を取得し、上記取得された特徴情報を特徴ベクトルとして上記ニューラルネットワークの上記入力層に入力して、上記複数の中間層のうち或る中間層に現れた情報を、上記ユーザと対応付けて上記登録特徴情報として上記記憶部に記憶させる制御を行う特徴登録部を備え、
上記個人認証を行う段階で、上記特徴取得部は、上記カフの加圧過程で、上記認証対象である被験者の上記圧力変化パターンについての特徴情報を取得し、
上記認証部は、上記取得された特徴情報を特徴ベクトルとして上記ニューラルネットワークの上記入力層に入力して、上記複数の中間層のうち上記或る中間層に現れた情報を、上記記憶部に登録されている上記ユーザグループのそれぞれのユーザの上記登録特徴情報と比較して、上記被験者が上記ユーザグループに含まれたユーザであるか否かを判定する
ことを特徴とする。
【0024】
「教師ユーザ」とは、上記ニューラルネットワークの学習のために、上記圧力変化パターンについての特徴情報を提供したユーザを指す。「ユーザグループ」は、複数の教師ユーザおよび/または上記教師ユーザ以外のユーザを含む。
【0025】
この一実施形態の血圧計では、上記特徴登録部は、上記個人認証を行う前の段階で予め、次のような制御を行う。まず、上記カフの加圧過程で、上記複数の教師ユーザおよび/または上記教師ユーザ以外のユーザを含むユーザグループについて、それぞれのユーザ毎に、そのユーザの上記圧力変化パターンについての特徴情報を取得する。次に、それぞれのユーザ毎に、そのユーザの上記取得された特徴情報を特徴ベクトルとして上記ニューラルネットワークの上記入力層に入力して、上記複数の中間層のうち或る中間層に現れた情報を、上記ユーザと対応付けて上記登録特徴情報として記憶部に登録する。これにより、それぞれのユーザ毎に、上記記憶部に上記登録特徴情報が登録される。
【0026】
上記個人認証を行う段階で、上記特徴取得部は、上記カフの加圧過程で、上記認証対象である被験者の上記圧力変化パターンについての特徴情報を取得する。上記認証部は、上記被験者の上記取得された特徴情報を特徴ベクトルとして上記ニューラルネットワークの上記入力層に入力する。そして、上記認証部は、上記複数の中間層のうち上記或る中間層に現れた情報を、上記記憶部に登録されている上記ユーザグループのそれぞれのユーザの上記登録特徴情報と比較して、上記被験者が上記ユーザグループに含まれたユーザであるか否かを判定する。これにより、上記被験者が上記ユーザグループに含まれたユーザである場合、そのことを認証できる。
【0027】
一実施形態の血圧計では、
上記被験者が予め登録されたユーザであると判定されたとき、上記被験者について取得された上記特徴情報を用いて、予め定められた第2条件下で、上記ユーザの上記登録特徴情報を更新する更新部
を備えたことを特徴とする。
【0028】
「予め定められた第2条件」としては、例えば、上記ユーザについての登録特徴情報の登録時(または前回の更新時)から、一定期間(例えば、1年間のような、上記圧力変化パターンについての特徴情報が著しく変化してしまう可能性がある期間)が経過したことなどの、上記登録特徴情報を更新すべき条件が挙げられる。
【0029】
この一実施形態の血圧計では、更新部は、上記被験者が予め登録されたユーザであると判定されたとき、上記被験者について取得された上記特徴情報を用いて、予め定められた第2条件下で、上記ユーザの上記登録特徴情報を更新する。ここで、上記第2条件としては、例えば、上記ユーザについての上記登録特徴情報の登録時(または前回の更新時)から、一定期間(例えば、6ヶ月間のような、上記圧力変化パターンについての特徴情報が著しく変化してしまう可能性がある期間)が経過したことが定められているものとする。この一実施形態の血圧計によれば、そのような上記登録特徴情報を更新すべき場合に、上記登録特徴情報を自動的に更新して適切な状態に維持することができる。この結果、上記個人認証の精度が低下するのを防止できる。
【0030】
一実施形態の血圧計では、
上記認証部は、予め定められた第3条件下では上記個人認証を中止する
ことを特徴とする。
【0031】
「予め定められた第3条件」としては、例えば、不規則脈波が検出されたことなどの、上記圧力変化パターンについての特徴情報(上記直流特徴量および/または上記一拍特徴量)の信頼性が低いとみなされる条件が挙げられる。
【0032】
この一実施形態の血圧計では、上記認証部は、予め定められた第3条件下では上記個人認証を中止する。ここで、上記第3条件としては、例えば、不規則脈波が検出されたことが定められているものとする。この一実施形態の血圧計によれば、そのような上記圧力変化パターンについての特徴情報(上記直流特徴量および/または上記一拍特徴量)の信頼性が低い場合に、上記個人認証を中止することができる。この結果、上記個人認証の精度が低下するのを防止できる。
【0033】
別の局面では、この開示の血圧計における個人認証方法は、
被験者の被測定部位を圧迫するためのカフを備え、上記カフの圧力を観測して血圧を測定する血圧計における個人認証方法であって、
上記血圧計は、
上記カフに流体を供給して加圧し又は上記カフから流体を排出して減圧する制御を行う圧力制御部と、
上記カフの圧力を検出する圧力検出部と、
上記圧力検出部の出力に基づいて血圧を算出する血圧算出部と
を備え、
上記個人認証方法は、
認証対象である被験者について、上記カフの加圧過程で、加圧開始からの時間経過に伴うカフの圧力変化パターンについての特徴情報を取得し、
上記取得された特徴情報を、予め登録されているユーザについての登録特徴情報と比較して、上記被験者について個人認証を行う
ことを特徴とする。
【0034】
この開示の血圧計における個人認証方法によれば、簡単な構成の血圧計で、精度良く個人認証を行うことができる。
【0035】
さらに別の局面では、この開示のプログラムは、上記血圧計における個人認証方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0036】
この開示のプログラムをコンピュータに実行させることによって、上記血圧計における個人認証方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上より明らかなように、この開示の血圧計によれば、簡単な構成で精度良く個人認証を行うことができる。また、この開示の血圧計における個人認証方法によれば、簡単な構成の血圧計で、精度良く個人認証を行うことができる。また、この開示のプログラムをコンピュータに実行させることによって、上記血圧計における個人認証方法を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】この発明の一実施形態の血圧計のブロック構成を示す図である。
【
図2】上記血圧計のCPUによる機能的なブロック構成を示す図である。
【
図3】上記血圧計による血圧測定のフローを示す図である。
【
図4】上記血圧計による登録モードの処理のフローを示す図である。
【
図5】上記血圧計による測定モードの処理のフローを示す図である。
【
図6】
図6(B)は、加圧開始からの時間経過に伴うカフ圧の変化を示す図である。
図6(A)は、加圧開始からの時間経過に伴って得られるカフ圧の圧力変動成分(脈波信号)を示す図である。
【
図7】
図7(A)は、筋肉質で太腕のユーザについての、加圧開始からの時間経過に伴う
直流圧力変化パターンを示す図である。
図7(B)は、筋肉質で細腕のユーザについての、加圧開始からの時間経過に伴う
直流圧力変化パターンを示す図である。
【
図8】
図8(A)は、脂肪質で太腕のユーザについての、加圧開始からの時間経過に伴う
直流圧力変化パターンを示す図である。
図8(B)は、脂肪質で細腕のユーザについての、加圧開始からの時間経過に伴う
直流圧力変化パターンを示す図である。
【
図9】特徴量空間において、認証対象である被験者が登録されているユーザであるか否かを判定するための許容範囲(本人受入範囲)を示す図である。
【
図10】一拍毎の波形パターンについての特徴情報(
一拍特徴量)を説明する図である。
【
図11】
図11(B)は、上記血圧計を変形した変形例の血圧計が有するニューラルネットワークの構成を示す図である。
図11(A)、
図11(C)は、それぞれ上記ニューラルネットワークに学習段階で与えられる入力信号(特徴ベクトル)、教師信号を示す図である。
【
図12】上記ニューラルネットワークに与えられる、
直流圧力変化パターンについての特徴情報(特徴ベクトル)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0040】
(血圧計の構成)
図1は、この発明の一実施形態の血圧計1の外観を示している。この血圧計1は、大別して、被験者の棒状の被測定部位(例えば、上腕)を取り巻いて装着される血圧測定用カフ20と、血圧測定のための要素を搭載した本体10とを備えている。
【0041】
上記カフ20は、一般的なものであり、細長い帯状の外布21と内布23との間に流体袋22を挟み、それらの外布21、内布23の周縁部を縫製または溶着して構成されている。
【0042】
本体10は、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)100と、表示器50と、操作部52と、記憶部としてのメモリ51と、電源部53と、圧力センサ31と、第1フィルタ部311および第2フィルタ部315と、ポンプ32と、ポンプ駆動回路320と、弁33と、弁駆動回路330とを搭載している。この例では、圧力センサ31に接続されたエア配管39aと、ポンプ32に接続されたエア配管39bと、弁33に接続されたエア配管39cとが合流して、1本のエア配管39になって、カフ20内の流体袋22に流体流通可能に接続されている。以下では、上記エア配管39a,39b,39cを含めて、エア配管39として総称する。
【0043】
表示器50は、この例では、LCD(Liquid Crystal Display;液晶ディスプレイ)からなり、CPU100からの制御信号に従って所定の情報を表示する。この例では、表示器50は、収縮期血圧SBP(Systolic Blood Pressure、単位;mmHg)、拡張期血圧DBP(Diastolic Blood Pressure、単位;mmHg)、脈拍数(単位;拍/min)、また、被験者についての個人認証の結果を表示するようになっている。なお、表示器50は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイからなっていてもよいし、LED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)を含んでいてもよい。
【0044】
操作部52は、この例では、血圧計1の電源をオンまたはオフするための電源スイッチ52Aと、血圧の測定モード開始の指示を受け付けるための測定スイッチ52Bと、登録モード開始の指示を受け付けるための登録スイッチ52Cとを含み、ユーザの指示に応じた操作信号をCPU100に入力する。具体的には、電源スイッチ52Aがオンされると、血圧計1は、ユーザによる測定スイッチ52B、登録スイッチ52Cの操作を受け付け可能な電源オン状態となる。電源オン状態で測定スイッチ52Bが押されると、血圧計1は、後述の測定モードの処理(血圧測定と個人認証とを含む処理)を実行する。電源オン状態で登録スイッチ52Cが押されると、血圧計1は、後述の登録モードの処理(ユーザに関する登録を行う処理)を実行する。以下の説明では、血圧計1は電源オン状態にあるものとする。
【0045】
メモリ51は、血圧計1を制御するためのプログラムのデータ、血圧計1の各種機能を設定するための設定データ、血圧値の測定結果のデータ、および、個人認証のための比較の基準となる登録特徴情報などを記憶する。また、メモリ51は、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0046】
CPU100は、メモリ51に記憶された血圧計1を制御するためのプログラムに従って、この血圧計1全体の動作を制御する。具体的には、CPU100は、
図2に示すように、第1圧力検出部131、第2圧力検出部132、圧力制御部133、血圧算出部134、および表示処理部135として働く。さらに、CPU100は、認証機能ブロック200に含まれた入力部210、特徴取得部220、特徴登録部230、認証部240、および更新部250として働く。各部の具体的な機能については後述する。
【0047】
図1中に示す圧力センサ31は、この例ではピエゾ抵抗式半導体圧力センサと、発振回路とを含んでいる。上記ピエゾ抵抗式半導体圧力センサは、エア配管39を通して、カフ20に内包された流体袋22内の圧力(カフ圧)Pc(
図6(B)参照)をピエゾ抵抗効果による電気抵抗として出力する。上記発振回路は、上記半導体圧力センサからの電気抵抗に応じた発振周波数で発振して、その発振周波数を含む周波数信号を、カフ圧Pcを表す信号として出力する。第1フィルタ部311は、ローパスフィルタ(LPF)312と、A/Dコンバータ314とを含み、カフ圧Pcを表す周波数信号から、
直流成分(これを「直流成分Pdc」と呼ぶ。)を抽出し、デジタル値に変換する。第2フィルタ部315は、ハイパスフィルタ(HPF)316と、A/Dコンバータ318とを含み、カフ圧Pcを表す周波数信号から、被測定部位が示す脈波による圧力変動成分(脈波信号)Pm(
図6(A)参照)を抽出し、デジタル値に変換する。デジタル化された直流成分Pdc、脈波信号Pmは、それぞれCPU100に入力される。CPU100は第1圧力検出部131として働いて、入力された直流成分Pdcに応じて、
直流圧力変化パターン(例えば、
図7(A)中に示す圧力変化パターンPdcU1)を検出する。また、CPU100は第2圧力検出部132として働いて、入力された脈波信号Pmに応じて、一拍毎の波形パターン(例えば、
図6(A)中に示す一拍毎の波形パターンPm1)を検出する。圧力センサ31、第1フィルタ部311、第2フィルタ部315、第1圧力検出部131、第2圧力検出部132は、全体として、カフ20の圧力を検出する圧力検出部を構成している。
【0048】
図1中に示すポンプ32は、CPU100(圧力制御部133として働く)から与えられる制御信号に基づいてポンプ駆動回路320によって駆動され、エア配管39を通して、カフ20に内包された流体袋22へ空気を供給する。これにより、流体袋22の圧力(カフ圧Pc)が加圧される。
【0049】
弁33は、常開タイプの電磁弁からなり、CPU100(圧力制御部133として働く)から与えられる制御信号に基づいて弁駆動回路330によって駆動され、エア配管39を通して流体袋22内の空気を排出し、または封入してカフ圧を制御するために開閉される。
【0050】
電源部53は、CPU100、表示器50、メモリ51、圧力センサ31、ポンプ32、弁33、その他の本体10内の各部に電力を供給する。
【0051】
(血圧測定)
図3は、後述の登録モードの処理(
図4)、後述の測定モードの処理(
図5)の中でそれぞれ実行される血圧測定のフローを示している。
【0052】
カフ20が被測定部位に装着された装着状態で、ユーザ(被験者)が本体10に設けられた測定スイッチ52Bによって測定モードの開始を指示すると(
図3のステップS11)、CPU100は、まず初期化を行う(ステップS12)。具体的には、CPU100は、処理用メモリ領域を初期化するとともに、ポンプ32を停止し、弁33を開いた状態で、圧力センサ31の0mmHg調整(大気圧を0mmHgに設定する。)を行う。
【0053】
続いて、CPU100は圧力制御部133として働いて、弁33を閉じ(ステップS13)、ポンプ32を駆動して、カフ20の加圧を開始する(ステップS14)。すなわち、CPU100は、ポンプ32からエア配管39を通してカフ20に内包された流体袋22に、単位時間当たり一定流量の空気を供給する。これとともに、圧力センサ31は、カフ20(流体袋22)内の圧力(カフ圧)Pcを、エア配管39を通して検出する。ここで、
図6(A),
図6(B)に示すように、圧力センサ31によって検出されるカフ圧Pcには、滑らかに単調増加する成分(直流成分Pdc)に加えて、脈波による圧力変動成分(脈波信号)Pmが重畳されている。CPU100は第1圧力検出部131として働いて、第1フィルタ部311を通して入力された直流成分Pdcに応じて、加圧開始からの時間経過に伴って上昇率を上げながら立ち上がる(すなわち、次第に傾きを大きくしながら、下向きに凸に湾曲して増加する)
直流圧力変化パターン(例えば、
図7(A)中に示す圧力変化パターンPdcU1)を検出する(
図3のステップS15)。これとともに、CPU100は、第1圧力検出部131の出力に基づいて、ポンプ32による加圧速度を制御する。この加圧により、被測定部位を通る動脈が圧迫されて、阻血される。
【0054】
次に、CPU100は、第1圧力検出部131の出力に基づいて、カフ圧Pcが予め定められた値Pu(この例では、被験者の想定される血圧値を十分上回るように、
図7(B)中に示すようにPu=200mmHgとして定められている。)に達すると、ポンプ32を停止する(
図3のステップS16)。
【0055】
続いて、CPU100は圧力制御部133として働いて、弁33を徐々に開く。これにより、カフ圧Pcを略一定速度で減圧してゆく(
図3のステップS17)。この減圧過程で、CPU100は第2圧力検出部132として働いて、第2フィルタ部315を通して入力された脈波信号Pm(一拍毎の波形パターンPm1を含む)を検出する(
図3のステップS18)。そして、CPU100は血圧算出部134として働いて、この時点で取得されている脈波信号Pmに基づいて、例えば公知のオシロメトリック法により血圧値(収縮期血圧SBP(Systolic Blood Pressure)と拡張期血圧DBP(Diastolic Blood Pressure))の算出を試みる(
図3のステップS19)。また、この例では、CPU100は、上記脈波信号に基づいて、脈拍数[拍/min]を算出する。
【0056】
CPU100は、データ不足のために未だ血圧値と脈拍数を算出できない場合は(
図3のステップS20でNO)、算出できるまでステップS17~S20の処理を繰り返す。
【0057】
このようにして血圧値と脈拍数の算出ができたら(ステップS20でYes)、CPU100は圧力制御部133として働いて、弁33を開いて、カフ20(流体袋22)内の空気を急速排気する制御を行う(ステップS21)。
【0058】
この後、CPU100は、血圧値と脈拍数をメモリ51に保存する制御を行う(ステップS22)。
【0059】
なお、上の例では、カフ20(流体袋22)の減圧過程で血圧値と脈拍数を算出したが、これに限られるものではなく、カフ20(流体袋22)の加圧過程で血圧値と脈拍数を算出してもよい。
【0060】
(登録モードの処理)
図4は、血圧計1による個人認証を行う前の段階での登録モードの処理のフローを示している。ここで、まだユーザ登録番号を登録していない新規のユーザが、被験者としてカフ20を被測定部位としての上腕に装着した装着状態にあるものとする。この状態で、ユーザが本体10に設けられた登録スイッチ52Cによって登録モードの開始を指示すると、CPU100は、次のように登録モードの処理を実行する。
【0061】
まず、
図4のステップS101で、CPU100は、表示器50に、ユーザが新規のユーザ登録番号を選択するための画面を表示させる。例えば、表示器50に、「新規のユーザ登録番号をU1としますか?」のようなユーザ登録番号の候補を表示させる。このとき、上記ユーザが、例えば登録スイッチ52Cを短押し(1秒以内)すると、上記ユーザのユーザ登録番号として「U1」がメモリ51に登録される。それに代えて、上記ユーザが、例えば登録スイッチ52Cを長押し(3秒間以上)すると、CPU100は、表示器50に、「新規のユーザ登録番号をU2としますか?」のようなユーザ登録番号の別の候補を表示させる。このとき、上記ユーザが、例えば登録スイッチ52Cを短押しすると、上記ユーザのユーザ登録番号として「U2」がメモリ51に登録される。このようにして、CPU100は、表示器50にユーザ登録番号の候補U1,U2,…を順次表示させ、上記ユーザの選択に応じて、上記ユーザ固有のユーザ登録番号をメモリ51に登録する。なお、以下では、簡単のため、各ユーザをユーザ登録番号で表すものとする。
【0062】
続いて、
図4のステップS102で、CPU100は、
図3によって説明した血圧測定の処理を実行する。既述のように、
図3のステップS15では、カフ20の加圧過程で、カフ圧Pcの直流成分Pdcに応じて、
直流圧力変化パターンが検出される。例えば、
図7(A)から
図8(B)は、横軸を時間tとし、縦軸をカフ圧Pcとした時間対カフ圧(t-Pc)平面上で、加圧開始からの時間経過に伴って上昇率を上げながら立ち上がる(すなわち、次第に傾きを大きくしながら、下向きに凸に湾曲して増加する)様々な圧力変化パターンを示している。具体的には、
図7(A)は、筋肉質で太腕のユーザU1について検出される典型的な圧力変化パターンPdcU1を示している。また、
図7(B)は、筋肉質で細腕のユーザU2について検出される典型的な圧力変化パターンPdcU2を示している。
図8(A)は、脂肪質で太腕のユーザU3について検出される典型的な圧力変化パターンPdcU3を示している。
図8(B)は、脂肪質で細腕のユーザU4について検出される典型的な圧力変化パターンPdcU4を示している。以下では、このような
直流圧力変化パターンを符号PdcUで総称する。また、
図3のステップS18では、カフ20の減圧過程で、脈波による圧力変動成分として、脈波信号Pm(一拍毎の波形パターンPm1を含む)が検出される。この例では、CPU100は入力部210として働いて、取得された
直流圧力変化パターンPdcUを、認証機能ブロック200に入力する。なお、
直流圧力変化パターンに加えて、一拍毎の波形パターンPm1を、認証機能ブロック200に入力してもよい(その場合については後述する。)。
【0063】
以下では、物理量(例えば、Pdc)にユーザ(または被験者)を表す符号(例えば、U1)を付して、その物理量がそのユーザ(または被験者)について得られたものであることを表すものとする。
【0064】
ここで、圧力変化パターン(特に、
直流圧力変化パターンPdcU)は、被測定部位の周囲長(太腕または細腕)、体組成(筋肉質または脂肪質)などの被験者の身体的特徴に依存して定まることが経験的に分かっている。例えば、
図7(A)、
図8(A)に示すように太腕の場合(つまり、被測定部位の周囲長が大きい場合)は、
図7(B)、
図8(B)に示すように細腕の場合(つまり、周囲長が小さい場合)に比して、カフ20(流体袋22)の内部容量が増えるため、カフ20の加圧過程でカフ20に流体を単位時間当たり一定流量で供給するとき、カフ圧Pcの上昇率(勾配)が小さくなる傾向がある。また、
図8(A)、
図8(B)に示すように被測定部位が脂肪質である場合は、
図7(A)、
図7(B)に示すように筋肉質である場合に比して、高圧域(例えば、25mmHg以上)で被測定部位が潰れ易くなることから、高圧域でカフ圧の上昇率(勾配)が小さくなる傾向がある。そして、被験者(ユーザ)毎の被測定部位の周囲長、体組成などの組み合わせに応じて、それらの傾向が組み合わされて現れる。
【0065】
続いて、
図4のステップS103で、CPU100は特徴登録部230として働いて、この例では
直流圧力変化パターンPdcUについての特徴情報を取得する。具体的には、例えばユーザU1について、加圧開始(時刻t=0秒、カフ圧Pc=0mmHg)から予め定められた時刻t1,t2(この例では、0<t1<t2<10秒とする。)で、
図7(A)に示す圧力変化パターンPdcU1がとる値p1U1,p2U1を、
直流特徴量として取得する。同様に、ユーザU2について、時刻t1,t2で
図7(B)に示す圧力変化パターンPdcU2がとる値p1U2,p2U2を、
直流特徴量として取得する。また、ユーザU3について、時刻t1,t2で
図8(A)に示す圧力変化パターンPdcU3がとる値p1U3,p2U3を、
直流特徴量として取得する。また、ユーザU4について、時刻t1,t2で
図8(B)に示す圧力変化パターンPdcU4がとる値p1U4,p2U4を、
直流特徴量として取得する。これらの圧力変化パターンPdcUについての
直流特徴量(符号p1,p2で総称する。)は、上述のように被験者(ユーザ)の身体的特徴に依存して定まるので、個人認証の判断基準として好適に用いることができる。
【0066】
続いて、
図4のステップS104で、CPU100は、さらに特徴登録部230として働いて、ユーザ登録番号に、特徴情報(この例では、
直流特徴量p1,p2)を対応付けて、登録特徴情報としてメモリ51に記憶(登録)させる。例えば、上記ユーザU1について取得された
直流特徴量がp1U1,p2U1であれば、下の表1の登録情報テーブルに示すように、メモリ51に記憶させる。また、上記ユーザU1とは別のユーザU2について取得された
直流特徴量がp1U2,p2U2であれば、上記ユーザU1の登録特徴情報とは区別して、そのユーザU2についての登録特徴情報を記憶させる。さらに別のユーザについても同様である。
(表1)登録情報テーブル
【0067】
このようにして、個人認証を行う前の段階で予め、登録モードの処理を実行することによって、上記ユーザの個人認証のための比較の基準として、登録特徴情報を記憶(登録)することができる。
【0068】
さらに、この例では、
図4のステップS102で、或るユーザについて、
図3によって説明した血圧測定の処理を、安静状態で、例えば3回以上繰り返すものとする。
図4のステップS103では、3回以上の血圧測定の都度、
直流圧力変化パターンPdcUを検出し、
図4のステップS104では、それらの
直流圧力変化パターンPdcUについての特徴情報(この例では、
直流特徴量p1,p2)をそれぞれ登録情報テーブルに登録するものとする。したがって、この例では、ユーザU1について、
直流特徴量p1U1,p2U1のデータは、それぞれ3値以上登録される。ユーザU2についても、
直流特徴量p1U2,p2U2のデータは、それぞれ3値以上登録される。さらに別のユーザについても同様である。
【0069】
(測定モードの処理)
図5は、血圧計1による血圧測定と個人認証とを含む測定モードの処理のフローを示している。ここで、認証対象である被験者(これを符号Uxで表す。)がカフ20を被測定部位としての上腕に装着した装着状態にあるものとする。この状態で、被験者Uxが本体10に設けられた測定スイッチ52Bによって測定モードの開始を指示すると、CPU100は、次のように測定モードの処理を実行する。
【0070】
まず、
図5のステップS201で、CPU100は、
図3によって説明した血圧測定の処理を実行する。既述のように、
図3のステップS15では、被験者Uxについて、カフ20の加圧過程で、カフ圧Pcの直流成分Pdcとして、
直流圧力変化パターン(これを符号PdcUxで表す。)が検出される。また、
図3のステップS18では、被験者Uxについて、カフ20の減圧過程で、脈波による圧力変動成分として、脈波信号Pm(一拍毎の波形パターンPm1を含む)が検出される。この例では、CPU100は入力部210として働いて、
直流圧力変化パターンPdcUxを、認証機能ブロック200に入力する。
図3のステップS22では、CPU100は血圧値と脈拍数をメモリ51に保存する。
【0071】
次に、
図5のステップS202で、CPU100は特徴取得部220として働いて、この例では
直流圧力変化パターンPdcUxについての特徴情報を取得する。具体的には、例えば、加圧開始(時刻t=0秒、カフ圧Pc=0mmHg)から予め定められた時刻t1,t2(この例では、0<t1<t2<10秒とする。)(
図7(A)参照)で、圧力変化パターンPdcUxがとる値(これを符号p1Ux,p2Uxで表す。)を
直流特徴量として取得する。
【0072】
次に、
図5のステップS203で、CPU100は認証部240として働いて、取得された特徴情報(この例では、
直流特徴量p1Ux,p2Ux)を、表1の登録情報テーブル内の登録特徴情報と比較して、被験者Uxに該当するユーザを探索する。
【0073】
具体的には、
図9に例示するように、CPU100は、横軸を
直流特徴量p1とし、縦軸を
直流特徴量p2とした特徴量空間Qを作成する。この例では、表1の登録情報テーブルで、ユーザU1について、
直流特徴量p1U1,p2U1のそれぞれ3値以上登録されたデータを用いて、特徴量空間Qでの重心点CgU1を算出する。同様に、ユーザU2について、
直流特徴量p1U2,p2U2のそれぞれ3値以上登録されたデータを用いて、特徴量空間Qでの重心点CgU2を算出する。さらに別のユーザについても同様に、特徴量空間Qでの重心点を算出する。
【0074】
さらに、CPU100は、それらの重心点CgU1,CgU2,…を中心として、それぞれ一定範囲を、本人受入範囲ArU1,ArU2,…として設定する。ここで、「本人受入範囲」とは、認証対象である被験者Uxが予め登録されたユーザU1,U2,…であると認められるべき許容範囲を意味している。この例では、それぞれの本人受入範囲ArU1,ArU2,…は、直流特徴量p1についての許容幅を長径L1とし、直流特徴量p2についての許容幅を短径L2とした楕円形状の範囲として設定されている。これらの本人受入範囲ArU1,ArU2,…のサイズは固定値であり、予め多人数で得られた実験データに基づいて、他人受入エラー(本人が他人として認定されるエラー)および個人拒否エラー(本人が本人でないとして認定されるエラー)が共に最小値となるよう調整されている。
【0075】
さらに、CPU100は、特徴量空間Qにおいて、被験者Uxの直流特徴量p1Ux,p2Uxに対応する点(これを符号dUxで表す。)が、本人受入範囲ArU1,ArU2,…のいずれかに入っているか否かを判断する。これにより、被験者Uxに該当するユーザを探索する。この探索は、被験者Uxについて取得された直流特徴量p1Ux,p2Uxを、各ユーザU1,U2,…の登録特徴情報(この例では、直流特徴量)と比較しながら行われる。
【0076】
ここで、被験者Uxの
直流特徴量p1Ux,p2Uxに対応する点dUxが、本人受入範囲ArU1,ArU2,…のいずれにも入っていない場合(
図5のステップS204でNo)は、CPU100は、の被験者Uxが予め登録されたユーザU1,U2,…ではないと判定する。この場合、
図5のステップS206に進んで、CPU100は表示処理部135として働いて、単に、血圧値と脈拍数の測定結果を表示器50に表示させる。
【0077】
一方、被験者Uxの
直流特徴量p1Ux,p2Uxに対応する点dUxが、本人受入範囲ArU1,ArU2,…のいずれかに入っている場合(
図5のステップS204でYes)、被験者Uxが予め登録されたユーザであると判定する。この場合、
図5のステップS205で、CPU100は、該当ユーザのユーザ登録番号に、血圧値の測定結果を対応付けてメモリ51に保存する。
図9の例では、被験者Uxの
直流特徴量p1Ux,p2Uxに対応する点dUxが、ユーザU1の本人受入範囲ArU1に入っていることから、CPU100は、
図5のステップS201で得られた血圧値と脈拍数を、ユーザU1のユーザ登録番号U1に対応付けて、下の表2の測定結果テーブルに示すように、メモリ51に保存する。この例では、収縮期血圧SBPは130[mmHg]、拡張期血圧DBPは80[mmHg]、脈拍数は70[拍/min]であったものとする。さらに、
図5のステップS206に進んで、CPU100は表示処理部135として働いて、血圧値と脈拍数の測定結果を表示器50に表示させる。
(表2)測定結果テーブル
なお、表1の登録情報テーブルと表2の測定結果テーブルとをユーザ登録番号で対応付けて、一体のテーブルとしてもよい。
【0078】
このように、この血圧計1では、カフ20の加圧過程で加圧開始からの時間経過に伴って上昇率を上げながら立ち上がる圧力変化パターンについての特徴情報(この例では、直流特徴量p1,p2)を用いて、被験者の個人認証を行っている。既述のように、この圧力変化パターン(特に、直流圧力変化パターンPdcU)は、被測定部位の周囲長(太腕または細腕)、体組成(筋肉質または脂肪質)などの被験者の身体的特徴に依存して定まることが経験的に分かっている。これらの身体的特徴は被験者個人における短期間での変化量が小さい。言い換えれば、これらの身体的特徴は、コロトコフ音や心電信号とは異なり、測定毎のばらつきが小さい。したがって、この血圧計1では、被験者の身体的特徴に依存して定まる圧力変化パターンについての特徴情報を用いて個人認証を行うことによって、被験者について精度良く個人認証を行うことができる。また、このようにして被験者についての個人認証が行われる場合、圧力観測には用いない余分な構成要素(例えば、マイクロフォンなどの音検出用デバイス、心電用電極など)を設ける必要が無い。したがって、この血圧計1は、簡単な構成で低コストに構成され得る。
【0079】
また、この血圧計1では、上記本人受入範囲ArU1,ArU2,…を適切に設定することによって、認証対象である被験者Uxが予め登録されたユーザU1,U2,…であるか否かを、さらに精度良く判定できる。
【0080】
上の例では、本人受入範囲ArU1,ArU2,…を楕円形状の範囲として設定したが、これに限られるものではない。例えば、横軸のp1、縦軸のp2について互いに独立に許容範囲を設定して、本人受入範囲を矩形状の範囲として設定してもよい。その他、本人受入範囲としては、ユークリッド距離、マンハッタン距離、コサイン類似度、ピアソンの積率相関係数、動的時間伸縮法などの公知の手法を使用して設定することができる。
【0081】
また、上の例では、
直流特徴量として、加圧開始から予め定められた2つの時刻t1,t2で
直流圧力変化パターンPdcUがとる値p1,p2を用いたが、これに限られるものではない。
直流特徴量としては、例えば、加圧開始から予め定められた3つ以上の時刻t1,t2,t3,…で
直流圧力変化パターンPdcUがとる値p1,p2,p3,…を用いてもよい。その他、
直流特徴量としては、次のような様々な特徴量を用いることができる。
・予め定められた圧力p1′から別の圧力p2′になるまでの時間Δt=t2′-t1′(ただし、t1′,t2′は、それぞれ予め定められた圧力p1′、p2′になる時刻である。)
・圧力の比(p2/p1)
・予め定められた時刻t1,t2間での傾きα=(p2-p1)/(t2-t1)
・予め定められた時刻での勾配
・面積S1,S2(ただし、
図7(A)中に例示するように、S1は時刻0~t1での面積(点描で示す)、S2は時刻t1~t2での面積(斜線で示す)である。)
・面積比S2/S1
【0082】
(変形例1)
上の例では、特徴情報として、
直流圧力変化パターンPdcUについての
直流特徴量のみを用いたが、これに限られるものではない。特徴情報としては、
直流特徴量に加えて、一拍毎の波形パターンPm1(
図6(A)参照)についての特徴量(
一拍特徴量)を用いてもよい。
【0083】
その場合、血圧計1による個人認証を行う前の段階の、
図4のステップS102(特に、
図3のステップS18)で、CPU100が入力部210として働いて、
直流圧力変化パターンPdcUに加えて、一拍毎の波形パターンPm1を、認証機能ブロック200に入力する。さらに、
図4のステップS103では、CPU100は特徴登録部230として働いて、特徴情報として、
直流圧力変化パターンPdcUについての
直流特徴量に加えて、一拍毎の波形パターンPm1について
一拍特徴量を取得する。
【0084】
ここで、
図10は、一拍毎の波形パターンPm1を拡大して示している。詳しくは、
図10は、一拍の開始点をt=0秒、圧力=0mmHgとし、横軸を開始点からの経過時間t、縦軸を開始点からの圧力変化量Δpとして、典型的な一拍毎の波形パターンPm1を表している。この例では、一拍毎の波形パターンPm1は、開始点から上向きに凸に湾曲して立ち上がり、時刻t11で第1の極大点(駆出ピーク)Max1を示し、時刻t12で極小点Minを示し、時刻t13で第2の極大点(反射ピーク)Max2を示し、時刻t14で圧力0mmHg(終了点)となって終了している。このような一拍毎の波形パターンPm1についての
一拍特徴量としては、
図10中に例示する次のような様々な特徴量を用いることができる。
・第1の極大点Max1での圧力変化量(振幅)pMax1、第2の極大点Max2での圧力変化量(振幅)pMax2
・第1の極大点Max1と第2の極大点Max2との間の時間間隔ΔtMax(=t13-t11)
・開始点から一定時間t10経過後における勾配α10
・一拍毎の波形パターンPm1と横軸tとの間の面積S10
・第1の極大点Max1での振幅pMax1と第2の極大点Max2での振幅pMax2との比(pMax1/pMax2)
・面積S10のうち時刻t=0からt12までの間の面積S11と、時刻t=t12からt14までの間の面積S12との比(S11/S12)
【0085】
なお、一拍毎の波形パターンPm1は、
図6(B)中に示す加圧過程と減圧過程とのいずれかからも抽出され得る。ただし、
図6(A)から分かるように、減圧過程の終盤に、一拍毎の波形が最も安定する。このため、一拍毎の波形パターンPm1については、減圧過程の終盤に抽出するのが望ましい。
【0086】
続いて、
図4のステップS104で、CPU100は、さらに特徴登録部230として働いて、ユーザ登録番号に、
直流特徴量(例えば、p1,p2)に加えて
一拍特徴量(例えば、pMax1,pMax2)を対応付けて、登録特徴情報としてメモリ51に記憶(登録)させる。例えば、上記ユーザのユーザ登録番号がU1であり、
直流特徴量p1U1,p2U1に加えて、
一拍特徴量として、第1の極大点Max1での振幅pMax1U1、第2の極大点Max2での振幅pMax2U1が取得された場合、次の表3の登録情報テーブルに示すように、メモリ51に記憶させる。
(表3)登録情報テーブル
【0087】
このようにして、血圧計1による個人認証を行う前の段階で、直流特徴量に加えて、一拍特徴量を、登録特徴情報としてメモリ51に登録することができる。
【0088】
この後、血圧計1による個人認証を行う段階の、
図5のステップS201(特に、
図3のステップS18)で、CPU100が入力部210として働いて、被験者Uxについて、
直流圧力変化パターンPdcUxに加えて、一拍毎の波形パターン(これを符号Pm1Uxで表す。)を、認証機能ブロック200に入力する。続いて、
図5のステップS202で、CPU100は特徴取得部220として働いて、特徴情報として、
直流圧力変化パターンPdcUxについての
直流特徴量p1Ux,p2Uxに加えて、一拍毎の波形パターンPm1Uxについての
一拍特徴量として、この例では第1の極大点Max1での振幅pMax1(これを符号pMax1Uxで表す。)と第2の極大点Max2での振幅pMax2(これを符号pMax2Uxで表す。)を取得する。次に、
図5のステップS203で、CPU100は認証部240として働いて、取得された特徴情報(この例では、
直流特徴量p1Ux,p2Uxと
一拍特徴量pMax1Ux,pMax2Ux)を、表2の登録情報テーブル内の登録特徴情報と比較して、被験者Uxに該当するユーザを探索する。例えば、CPU100は、p1,p2,pMax1,pMax2を座標軸とする4次元の特徴量空間(これを符号Q1で表す。)を作成する。上記特徴量空間Q1で、予め登録されているユーザU1,U2,…について登録特徴情報に対応する点を算出するとともに、登録特徴情報に対応する点の周りに、被験者Uxが予め登録されているユーザであると認められるべき許容範囲(本人受入範囲)を設定する。そして、CPU100は、特徴量空間Q1で、被験者Uxについて取得された特徴情報に対応する点が許容範囲内に入るとき、被験者Uxが予め登録されているユーザ(例えば、U1)であると判定する一方、被験者Uxについて取得された特徴情報に対応する点が許容範囲内に入らないとき、被験者Uxが予め登録されているユーザU1,U2,…ではないと判定する。このように、
直流特徴量に加えて、
一拍特徴量を判断材料として用いることによって、被験者についてさらに精度良く個人認証を行うことができる。
【0089】
なお、予め定められた第1条件下では、被験者についての個人認証のために、一拍特徴量を用いず、直流特徴量のみを用いるのが望ましい。ここで、「予め定められた第1条件」としては、例えば次のような一拍特徴量の信頼性が低い条件が挙げられる。
・ 個人認証を行う際の脈拍数が、上記登録特徴情報を登録した際の脈拍数に比して、著しく高いか又は低いこと
・ 個人認証を行う際の血圧値が、上記登録特徴情報を登録した際の血圧値に比して、著しく高いか又は低いこと
・ 個人認証を行う際の気温・湿度・気圧が、上記登録特徴情報を登録した際の気温・湿度・気圧に比して、著しく高いか又は低いこと(なお、この場合、血圧計1では、血圧測定の都度、気温・湿度・気圧を観測して記録するものとする。)
【0090】
このような一拍特徴量の信頼性が低い条件下では、被験者についての個人認証のために、一拍特徴量を用いず、直流特徴量のみを用いることによって、個人認証の精度が低下するのを防止できる。
【0091】
(変形例2)
上の例では、被験者についての個人認証のために、CPU100は、特徴量空間Q(またはQ1)を作成し、被験者Uxに該当するユーザを特徴量空間Q内で探索したが、これに限られるものではない。例えば、血圧計1は、
図11(B)に示すような学習済みのニューラルネットワークNN1を備え、被験者Uxに該当するユーザを、ニューラルネットワークNN1を用いて判定するようにしてもよい。
【0092】
具体的には、
図11(B)に示すように、ニューラルネットワークNN1は、入力層IL1と、3層の中間層ML1,ML2,ML3と、出力層OL1とを有している。この例では、入力層IL1、出力層OL1は、それぞれ5個のノード(ニューロン)ndを含んでいる。中間層ML1,ML2,ML3は、それぞれ20~30個のノードndを含んでいる。
【0093】
この例では、ニューラルネットワークNN1は、学習段階で、入力層IL1に、5人の教師ユーザ(これを符号Ua,Ub,Uc,Ud,Ueで表す。)の直流圧力変化パターンPdcUについての特徴情報inUa,inUb,inUc,inUd,inUeのいずれかが入力信号として入力されたとき、中間層ML1,ML2,ML3を介して、出力層OL1に、入力された特徴情報に対応する教師ユーザUa,Ub,Uc,UdまたはUeを表す出力情報teUa,teUb,teUc,teUdまたはteUeを出力するように、各ノードnd,nd間の結合強度の重み付けがなされている。すなわち、ニューラルネットワークNN1は、学習済みになっている。
【0094】
詳しくは、教師ユーザ(例えば、Ua)の圧力変化パターンについての特徴情報inUaは、
図12に示すように、
図4のステップS102(特に、
図3のステップS18)で得られる
直流圧力変化パターン(これを符号PdcUaで表す。)において、加圧開始(時刻t=0秒、カフ圧Pc=0mmHg)から予め定められた時刻t1,t2,t3,t4,t5(この例では、0<t1<t2<t3<t4<t5とする。)で、圧力変化パターンPdcUaがとる値p1Ua,p2Ua,p3Ua,p4Ua,p5Uaとして予め定められている。これらの5個の値(p1Ua,p2Ua,p3Ua,p4Ua,p5Ua)を成分とするベクトルを、特徴情報inUaと同じ符号を用いて、特徴ベクトルinUaと呼ぶ。同様に、
図11(A)に示すように、教師ユーザUbの
直流圧力変化パターンPdcUbについての特徴情報inUbは、特徴ベクトルinUb=(p1Ub,p2Ub,p3Ub,p4Ub,p5Ub)で表される。教師ユーザUcの
直流圧力変化パターンPdcUcについての特徴情報inUcは、特徴ベクトルinUc=(p1Uc,p2Uc,p3Uc,p4Uc,p5Uc)で表される。教師ユーザUdの
直流圧力変化パターンPdcUdについての特徴情報inUdは、特徴ベクトルinUd=(p1Ud,p2Ud,p3Ud,p4Ud,p5Ud)で表される。また、教師ユーザUeの
直流圧力変化パターンPdcUeについての特徴情報inUeは、特徴ベクトルinUe=(p1Ue,p2Ue,p3Ue,p4Ue,p5Ue)で表される。学習段階では、これらの特徴ベクトルinUa,inUb,inUc,inUd,inUeが、それぞれ入力層IL1に入力される。
【0095】
一方、教師ユーザ(例えば、Ua)を表す出力情報teUaは、
図11(C)に示すように、出力ベクトルteUa=(1,0,0,0,0)で表される。同様に、教師ユーザUbを表す出力情報teUbは、出力ベクトルteUb=(0,1,0,0,0)で表される。教師ユーザUcを表す出力情報teUcは、出力ベクトルteUc=(0,0,1,0,0)で表される。教師ユーザUdを表す出力情報teUdは、出力ベクトルteUd=(0,0,0,1,0)で表される。教師ユーザUeを表す出力情報teUeは、出力ベクトルteUe=(0,0,0,0,1)で表される。学習段階では、例えば教師ユーザUaについての特徴ベクトルinUaが入力層IL1に入力されたとき、それに対応して、教師ユーザUaを表す出力ベクトルteUaが、教師信号として出力層OL1に与えられる。同様に、教師ユーザUaについての特徴ベクトルinUaが入力層IL1に入力されたとき、それに対応して、教師ユーザUaを表す出力ベクトルteUaが、教師信号として出力層OL1に与えられる。同様に、教師ユーザUbについての特徴ベクトルinUbが入力層IL1に入力されたとき、それに対応して、教師ユーザUbを表す出力ベクトルteUbが、教師信号として出力層OL1に与えられる。他の教師ユーザUc,Ud,Ueについても、同様の処理が行われる。
【0096】
このような学習を繰り返すことによって、ニューラルネットワークNN1は、入力層IL1に、5人の教師ユーザUa,Ub,…,Ueの直流圧力変化パターンPdcUについての特徴情報inUa,inUb,inUc,inUd,inUeのいずれかが入力信号として入力されたとき、中間層ML1,ML2,ML3を介して、出力層OL1に、入力された特徴情報に対応する教師ユーザUa,Ub,Uc,UdまたはUeを表す出力情報teUa,teUb,teUc,teUdまたはteUeを出力するように、各ノードnd,nd間の結合強度の重み付けがなされている。
【0097】
このようなニューラルネットワークNN1を備えることによって、上記5人の教師ユーザUa,Ub,…,Ueおよび/または教師ユーザ以外のユーザを含むユーザグループを対象として、個人認証を行うことが可能となる。次に、このニューラルネットワークNN1を用いた場合の登録モードの処理と測定モードの処理について述べる。
【0098】
(ニューラルネットワークを用いた場合の登録モードの処理)
この場合、CPU100は特徴登録部230として働いて、個人認証を行う前の段階で予め、次のような制御を行う。まず、カフ20の加圧過程で、上記5人の教師ユーザUa,Ub,…,Ueおよび/または教師ユーザ以外のユーザを含むユーザグループについて、それぞれのユーザ毎に、そのユーザ(これを符号Uyで表す。)の
直流圧力変化パターンPdcUについての特徴情報として、特徴ベクトルinUy=(p1Uy,p2Uy,p3Uy,p4Uy,p5Uy)を取得する。次に、それぞれのユーザ毎に、そのユーザUyについて取得された特徴ベクトルinUyをニューラルネットワークNN1の入力層IL1に入力して、複数の中間層ML1,ML2,ML3のうち或る中間層(この例では、出力層OL1の一つ手前の中間層ML3)に現れた情報fe1Uy,fe2Uy,…,feNUyを得る。このN個(N=20~30)の値を成分とするベクトルを、ユーザUyについての特徴AI(Artificial Intelligence)ベクトルfeUyと呼ぶ。なお、
図11(B)中には、ユーザが限定されない一般的な特徴AIベクトルfeの成分(fe1,fe2,…,feN)が表されている。個々の成分fe1,fe2,…,feNを、AI特徴量と呼ぶ。ユーザを特定するための特徴情報として特徴AIベクトルfe=(fe1,fe2,…,feN)を使えること自体は、公知であるため、詳細な説明を省略する。CPU100は、ユーザUyについての特徴AIベクトルfeUyの成分を、下の表4の登録情報テーブルに示すように、ユーザUyと対応付けて登録特徴情報としてメモリ51に記憶(登録)させる。同様に、上記ユーザUyとは別のユーザのユーザ登録番号がUzであり、取得された特徴AIベクトルがinUz=(fe1Uz,fe2Uz,…,feNUz)であれば、上記ユーザUyの登録特徴情報とは区別して、そのユーザUzについての登録特徴情報を記憶させる。さらに別のユーザについても同様である。これにより、次の表4の登録情報テーブルに示すように、それぞれのユーザUy,Uz,…毎に、メモリ51に登録特徴情報が登録される。
(表4)登録情報テーブル
【0099】
(ニューラルネットワークを用いた場合の測定モードの処理)
個人認証を行う段階で、CPU100は特徴取得部220として働いて、カフ20の加圧過程で、認証対象である被験者(これをUxとする。)の圧力変化パターンPdcUについての特徴情報(この例では、特徴ベクトルinUx=(p1Ux,p2Ux,p3Ux,p4Ux,p5Ux))を取得する。
【0100】
さらに、CPU100は認証部240として働いて、被験者Uxについて取得された特徴AIベクトルinUxをニューラルネットワークNN1の入力層IL1に入力して、中間層ML3に現れた情報を、特徴AIベクトルinUx=(fe1Ux,fe2Ux,…,feNUx))として取得する。そして、CPU100は、被験者Uxについて取得された特徴AIベクトルinUx=(fe1Ux,fe2Ux,…,feNUx)を、表4の登録情報テーブルに登録されているそれぞれのユーザUy,Uz,…の登録特徴情報と比較して、被験者Uxがユーザグループに含まれたユーザであるか否かを判定する。これにより、被験者Uxがユーザグループに含まれたユーザである場合、そのことを認証できる。
【0101】
(変形例3)
予め定められた第2条件下では、メモリ51の表1、表3、表4の登録情報テーブルに登録されている登録特徴情報を更新するのが望ましい。ここで、「予め定められた第2条件」としては、例えば次のような上記登録特徴情報を更新すべき条件が挙げられる。
・ 上記登録特徴情報の登録時(または前回の更新時)から、一定期間(例えば、6ヶ月間のような、上記圧力変化パターンについての特徴情報が著しく変化してしまう可能性がある期間)が経過したこと
・ 被験者Uxが予め登録されているユーザ(例えば、U1)であると判定されたが、上記被験者Uxについて取得された特徴情報に対応する点dUx(
図9参照)が、本人受入範囲ArU1内で重心点CgU1から遠くなっていること
【0102】
そこで、この血圧計1では、CPU100は更新部250として働いて、被験者Uxが予め登録されたユーザであると判定されたとき、上記被験者Uxについて取得された上記特徴情報を用いて、予め定められた第2条件下で、上記ユーザの上記登録特徴情報を更新する。これにより、上記登録特徴情報を更新すべき場合に、上記登録特徴情報を自動的に更新して適切な状態に維持することができる。この結果、上記個人認証の精度が低下するのを防止できる。
【0103】
(変形例4)
予め定められた第3条件下では、個人認証を中止するのが望ましい。ここで、「予め定められた第3条件」としては、例えば次のような圧力変化パターンについての特徴情報(直流特徴量および/または一拍特徴量)の信頼性が低いとみなされる条件が挙げられる。
・ 不規則脈波が検出されたこと(この場合、血圧計1は脈拍数に基づいて不規則脈波を検出する。)
・ 体動が判定されたこと(この場合、血圧計1は加速度センサを備えて、体動を検出する。)
・ ゆる巻き(被測定部位に対するカフ20の巻き付けがゆるい状態)が判定されたこと(この場合、血圧計1は圧力変化パターンの立ち上がりが極めて緩やかであることに基づいて、ゆる巻きを検出する。)
【0104】
そこで、この血圧計1では、CPU100は認証部240として働いて、予め定められた第3条件下では個人認証を中止する。これにより、そのような圧力変化パターンについての特徴情報(直流特徴量および/または一拍特徴量)の信頼性が低い場合に、個人認証を中止することができる。この結果、個人認証の精度が低下するのを防止できる。
【0105】
また、上述の実施形態では、被測定部位は上腕であるものとしたが、これに限られるものではない。被測定部位は、手首などの上腕以外の上肢であってもよいし、足首などの下肢であってもよい。
【0106】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0107】
1 血圧計
10 本体
20 血圧測定用カフ
31 圧力センサ
51 メモリ
100 CPU
311 第1フィルタ部
315 第2フィルタ部