(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法、予測プログラム及び予測システム
(51)【国際特許分類】
G01N 19/00 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
G01N19/00 D
(21)【出願番号】P 2020200444
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】依田 崚平
【審査官】寺田 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-049333(JP,A)
【文献】特開2007-265266(JP,A)
【文献】特開2012-047716(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0163906(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムの粘弾性性能を予測するための方法であって、
前記加硫ゴムを複数の周波数で変形させて、各周波数での前記加硫ゴムの貯蔵弾性率を測定する工程と、
測定された前記貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(1)の非線形弾性方程式の定数A、B、C及びf
1を同定する工程と、
前記定数が同定された下記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、前記周波数fでの貯蔵弾性率G’を予測する工程とを含む、
加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法。
【数1】
ここで、
A、B、C及びf
1:定数
f:周波数
【請求項2】
加硫ゴムの粘弾性性能を予測するための方法であって、
前記加硫ゴムを複数の周波数で変形させて、各周波数での前記加硫ゴムの損失弾性率を測定する工程と、
測定された前記損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(2)の非線形弾性方程式の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3を同定する工程と、
前記定数が同定された下記式(2)に、予測対象の周波数fを代入して、前記周波数fでの損失弾性率G”を予測する工程とを含む、
加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法。
【数2】
ここで、
D、F、E、G、H、f
2及びf
3:定数
f:周波数
【請求項3】
加硫ゴムの粘弾性性能を予測するための方法であって、
前記加硫ゴムを複数の周波数で変形させて、各周波数での前記加硫ゴムの貯蔵弾性率及び損失弾性率を測定する工程と、
測定された前記貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(1)の非線形弾性方程式の定数A、B、C及びf
1を同定する工程と、
前記定数が同定された下記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、前記周波数fでの貯蔵弾性率G’を予測する工程と、
測定された前記損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(2)の非線形弾性方程式の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3を同定する工程と、
前記定数が同定された下記式(2)に、前記周波数fを代入して、前記周波数fでの損失弾性率G”を予測する工程と、
予測された前記損失弾性率G”を前記貯蔵弾性率G’で除することにより、前記周波数fでの損失正接を予測する工程とを含む、
加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法。
【数3】
【数4】
ここで、
A、B、C、D、F、E、G、H、f
1、f
2及びf
3:定数
f:周波数
【請求項4】
加硫ゴムの粘弾性性能を予測するための方法を、コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
予め測定された前記加硫ゴムの貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(1)の非線形弾性方程式の定数A、B、C及びf
1を同定する工程と、
前記定数が同定された下記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、前記周波数fでの貯蔵弾性率G’を予測する工程と、
予め測定された前記加硫ゴムの損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(2)の非線形弾性方程式の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3を同定する工程と、
前記定数が同定された下記式(2)に、前記周波数fを代入して、前記周波数fでの損失弾性率G”を予測する工程と、
予測された前記損失弾性率G”を前記貯蔵弾性率G’で除することにより、前記周波数fでの損失正接を予測する工程とを実行させる、
加硫ゴムの粘弾性性能の予測プログラム。
【数5】
【数6】
ここで、
A、B、C、D、F、E、G、H、f
1、f
2及びf
3:定数
f:周波数
【請求項5】
加硫ゴムの粘弾性性能を予測するための演算処理装置を具えたシステムであって、
前記演算処理装置は、
予め測定された前記加硫ゴムの貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(1)の非線形弾性方程式の定数A、B、C及びf
1を同定する第1同定部と、
前記定数が同定された下記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、前記周波数fでの貯蔵弾性率G’を予測する第1予測部と、
予め測定された前記加硫ゴムの損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(2)の非線形弾性方程式の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3を同定する第2同定部と、
前記定数が同定された下記式(2)に、前記周波数fを代入して、前記周波数fでの損失弾性率G”を予測する第2予測部と、
予測された前記損失弾性率G”を前記貯蔵弾性率G’で除することにより、前記周波数fでの損失正接を予測する第3予測部とを含む、
加硫ゴムの粘弾性性能の予測システム。
【数7】
【数8】
ここで、
A、B、C、D、F、E、G、H、f
1、f
2及びf
3:定数
f:周波数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法、予測プログラム及び予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ゴム製品の粘弾性応答性能を予測するための方法が記載されている。この方法では、貯蔵弾性率や貯蔵弾性率等を表す方程式が用いられている。これらの方程式は、複数のパラメータで構成されている。これらのパラメータは、実際のゴム製品の実験値に、上記の方程式がフィッティングされることによって決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、ゴム製品の実験値は、ゴム配合等に応じて異なる。上記の方程式では、実験値により精度よくフィッティングについて、さらなる改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、加硫ゴムの粘弾性性能を高い精度で予測することが可能な方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、加硫ゴムの粘弾性性能を予測するための方法であって、前記加硫ゴムを複数の周波数で変形させて、各周波数での前記加硫ゴムの貯蔵弾性率を測定する工程と、測定された前記貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(1)の非線形弾性方程式の定数A、B、C及びf
1を同定する工程と、前記定数が同定された下記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、前記周波数fでの貯蔵弾性率G’を予測する工程とを含むことを特徴とする。
【数1】
ここで、
A、B、C及びf
1:定数
f:周波数
【0007】
本発明は、加硫ゴムの粘弾性性能を予測するための方法であって、前記加硫ゴムを複数の周波数で変形させて、各周波数での前記加硫ゴムの損失弾性率を測定する工程と、測定された前記損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(2)の非線形弾性方程式の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3を同定する工程と、前記定数が同定された下記式(2)に、予測対象の周波数fを代入して、前記周波数fでの損失弾性率G”を予測する工程とを含むことを特徴とする。
【数2】
ここで、
D、F、E、G、H、f
2及びf
3:定数
f:周波数
【0008】
本発明は、加硫ゴムの粘弾性性能を予測するための方法であって、前記加硫ゴムを複数の周波数で変形させて、各周波数での前記加硫ゴムの貯蔵弾性率及び損失弾性率を測定する工程と、測定された前記貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(1)の非線形弾性方程式の定数A、B、C及びf
1を同定する工程と、前記定数が同定された下記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、前記周波数fでの貯蔵弾性率G’を予測する工程と、測定された前記損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(2)の非線形弾性方程式の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3を同定する工程と、前記定数が同定された下記式(2)に、前記周波数fを代入して、前記周波数fでの損失弾性率G”を予測する工程と、予測された前記損失弾性率G”を前記貯蔵弾性率G’で除することにより、前記周波数fでの損失正接を予測する工程とを含むことを特徴とする。
【数3】
【数4】
ここで、
A、B、C、D、F、E、G、H、f
1、f
2及びf
3:定数
【0009】
本発明は、加硫ゴムの粘弾性性能を予測するための方法を、コンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記コンピュータに、予め測定された前記加硫ゴムの貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(1)の非線形弾性方程式の定数A、B、C及びf
1を同定する工程と、前記定数が同定された下記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、前記周波数fでの貯蔵弾性率G’を予測する工程と、予め測定された前記加硫ゴムの損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(2)の非線形弾性方程式の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3を同定する工程と、前記定数が同定された下記式(2)に、前記周波数fを代入して、前記周波数fでの損失弾性率G”を予測する工程と、予測された前記損失弾性率G”を前記貯蔵弾性率G’で除することにより、前記周波数fでの損失正接を予測する工程とを実行させることを特徴とする。
【数5】
【数6】
ここで、
A、B、C、D、F、E、G、H、f
1、f
2及びf
3:定数
【0010】
本発明は、加硫ゴムの粘弾性性能を予測するための演算処理装置を具えたシステムであって、前記演算処理装置は、予め測定された前記加硫ゴムの貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(1)の非線形弾性方程式の定数A、B、C及びf
1を同定する第1同定部と、前記定数が同定された下記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、前記周波数fでの貯蔵弾性率G’を予測する第1予測部と、予め測定された前記加硫ゴムの損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、下記式(2)の非線形弾性方程式の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3を同定する第2同定部と、前記定数が同定された下記式(2)に、前記周波数fを代入して、前記周波数fでの損失弾性率G”を予測する第2予測部と、予測された前記損失弾性率G”を前記貯蔵弾性率G’で除することにより、前記周波数fでの損失正接を予測する第3予測部とを含むことを特徴とする。
【数7】
【数8】
ここで、
A、B、C、D、F、E、G、H、f
1、f
2及びf
3:定数
f:周波数
【発明の効果】
【0011】
本発明の加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法は、上記の工程を採用することにより、加硫ゴムの粘弾性性能を、高い精度で予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法を実行するためのコンピュータの一例を示すブロック図である。
【
図2】加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図3】貯蔵弾性率の値と周波数との関係の一例を示すグラフである。
【
図4】本発明の他の実施形態の加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】損失弾性率の値と周波数との関係の一例を示すグラフである。
【
図6】本発明のさらに他の実施形態の加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】損失正接の値と周波数との関係の一例を示すグラフである。
【
図8】比較例について、(a)は、貯蔵弾性率の値と周波数との関係、(b)は、損失弾性率の値と周波数との関係、(c)は、損失正接の値と周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、発明の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
【0014】
[加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法(第1実施形態)]
本実施形態の加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法(以下、単に「予測方法」ということがある。)では、加硫ゴムの粘弾性性能が予測される。予測対象の加硫ゴムは、加硫されたゴムであれば特に限定されない。加硫ゴムの一例としては、タイヤを構成するゴム材料(加硫ゴム)が挙げられる。また、予測される粘弾性性能の一例としては、貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接が挙げられる。本実施形態(第1実施形態)では、貯蔵弾性率が予測される。
【0015】
本実施形態の予測方法には、コンピュータ1が用いられる。
図1は、加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示すブロック図である。
【0016】
[加硫ゴムの粘弾性性能の予測システム(コンピュータ)]
本実施形態のコンピュータ1は、加硫ゴムの粘弾性性能の予測システム(以下、単に「予測システム」ということがある。)1Aとして構成されている。本実施形態のコンピュータ1には、入力デバイスとしての入力部2と、出力デバイスとしての出力部3と、タイヤの物理量等を計算する演算処理装置4とが含まれている。
【0017】
入力部2は、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部3は、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置4には、各種の演算を行う演算部(CPU)4A、データやプログラム等が記憶される記憶部4B、及び、作業用メモリ4Cが含まれる。
【0018】
記憶部4Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部4Bには、データ部5、及び、プログラム部6が設けられている。
【0019】
データ部5は、加硫ゴムの粘弾性性能の測定結果が入力される測定結果入力部5Aと、非線形弾性方程式が入力される方程式入力部5Bと、予測された加硫ゴムの粘弾性性能が入力される予測結果入力部5Cとが含まれる。
【0020】
プログラム部6は、演算部4Aによって実行されるプログラムである。プログラム部6には、非線形弾性方程式の定数を同定するための第1同定部6A及び第2同定部6Bが含まれる。プログラム部6は、粘弾性性能を予測するための第1予測部6C、第2予測部6D及び第3予測部6Eが含まれる。プログラム部6には、予測された粘弾性性能の良否を判断するための判断部6Fが含まれる。これらのプログラム部6(第1同定部6A~判断部6F)は、本実施形態の予測方法をコンピュータ1に実行させるための予測プログラムとして構成される。なお、本実施形態(第1実施形態)で使用されないプログラム部(本例では、第2同定部6B、第2予測部6D及び第3予測部6E)は、省略されてもよい。
【0021】
[測定工程]
図2は、加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の予測方法では、先ず、加硫ゴムを複数の周波数で変形させて、各周波数での加硫ゴムの粘弾性性能が測定される(測定工程S1)。本実施形態では、各周波数での加硫ゴムの貯蔵弾性率が測定される。
【0022】
本実施形態の測定工程S1では、先ず、予測対象の加硫ゴムのゴムサンプル(図示省略)が作成される。ゴムサンプルは、例えば、幅4.2mm、長さ35.0mm及び厚さ1.5mmの板形状に形成されている。次に、測定工程S1では、ゴムサンプルを、複数の周波数で変形させて、各周波数での加硫ゴムの貯蔵弾性率が測定される。
【0023】
粘弾性性能(貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接)の測定には、JIS-K6394の規定に準拠して、例えば、公知の粘弾性試験装置(図示省略)が用いられる。本実施形態の粘弾性試験装置には、ネッチガボ社製の動的粘弾性測定装置「イプレクサー4000N」が用いられる。粘弾性性能の測定条件の一例は、次のとおりである。
温度:30℃
初期歪:10%
振幅:±2%
周波数:1~300Hz
変形モード:引張
【0024】
測定された粘弾性性能(本例では、貯蔵弾性率)は、測定結果入力部5A(
図1に示す)に入力される。
図3は、貯蔵弾性率の値と周波数との関係の一例を示すグラフである。
図3において、実線が測定結果(測定値)である。
【0025】
図3に示されるように、粘弾性性能(本例では、貯蔵弾性率)は、加硫ゴムに与えられる変形の周波数に応じて変化する周波数依存性を有している。このような粘弾性性能は、加硫ゴムの配合等に応じて異なる傾向がある。したがって、粘弾性性能の予測精度を向上させるためには、測定された粘弾性性能に精度良くフィッティング可能な予測式(非線形弾性方程式)を用いることが重要である。
【0026】
[第1同定工程]
次に、本実施形態の予測方法では、測定された貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、非線形弾性方程式の定数が同定される(第1同定工程S2)。本実施形態の第1同定工程S2では、先ず、
図1に示されるように、測定結果入力部5Aに記憶されている貯蔵弾性率の値と周波数との関係(
図3の実線で示す)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、第1同定工程S2では、第1同定部6Aが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、第1同定部6Aが演算部4Aによって実行される。
【0027】
本実施形態の第1同定部6Aは、加硫ゴムの貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、非線形弾性方程式の定数を同定するためのプログラムである。この第1同定部6Aが演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第1同定工程S2を実行するための手段(システム)として機能させている。
【0028】
第1同定工程S2では、下記式(1)の非線形弾性方程式が用いられる。この非線形弾性方程式は、貯蔵弾性率を予測するためのものである。第1同定工程S2では、測定された貯蔵弾性率の値と周波数との関係(
図3の実線で示す)に、上記式(1)がフィッティングされることによって、下記式(1)の定数A、B、C及びf
1が同定される。
【0029】
【数1】
ここで、
A、B、C及びf
1:定数
f:周波数
【0030】
上記式(1)は、双曲線正接関数であるtanhを用いて定義されている。tanhが示す曲線の形状は、貯蔵弾性率の値と周波数との関係を示す曲線の形状(
図3の実線で示す)と近似する形状を有している。したがって、上記式(1)では、貯蔵弾性率の測定結果に精度よくフィッティングさせることが可能となる。
【0031】
上記式(1)の周波数fは、貯蔵弾性率の予測対象の周波数である。この周波数fに、任意の周波数が代入されることにより、その周波数での貯蔵弾性率が求められる。
【0032】
上記式(1)の定数A、B、C及びf
1は、測定された貯蔵弾性率の値と周波数との関係(
図3の実線で示す)にフィッティングできれば、適宜設定されうる。本実施形態の定数Aは、貯蔵弾性率の最大値である。定数Bは、貯蔵弾性率の傾きである。
【0033】
定数Cは、貯蔵弾性率のオフセット量(補正量)である。このオフセット量の大きさにより、上記式(1)で表される貯蔵弾性率G’の曲線(
図3の破線で示す)の上下方向の位置(即ち、貯蔵弾性率G’の大きさ)が調節されうる。本実施形態では、貯蔵弾性率の値と周波数との関係(
図3の実線で示す)のうち、最も小さい周波数での貯蔵弾性率に、定数Cが設定される。定数f
1は、周波数に関する定数(フィッティングパラメータ)である。
【0034】
本実施形態では、測定された貯蔵弾性率の値と周波数との関係(
図3の実線で示す)に、上記式(1)がフィッティングされることによって、定数A、B、C及びf
1が同定(決定)される。このようなフィッティングには、例えば、市販のコンピュータソフトウエア(例えば、MathWorks 社製のMATLAB(MATLABは登録商標)や、Microsoft社製のExcel(Excelは登録商標)等)が用いられる。
図3には、定数A、B、C及びf
1が同定された後の上記式(1)を用いて予測された貯蔵弾性率G’と、周波数fとの関係が、破線で示されている。定数が同定された非線形弾性方程式(上記式(1))は、方程式入力部5B(
図1に示す)に入力される。
【0035】
[第1予測工程]
次に、本実施形態の予測方法では、定数が同定された上記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、周波数fでの貯蔵弾性率G’が予測される(第1予測工程S3)。第1予測工程S3では、先ず、
図1に示されるように、方程式入力部5Bに記憶されている非線形弾性方程式(定数が同定された上記式(1))が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、第1予測工程S3では、第1予測部6Cが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、第1予測部6Cが演算部4Aによって実行される。
【0036】
本実施形態の第1予測部6Cは、定数が同定された上記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、予測対象の周波数fでの貯蔵弾性率G’を予測するためのプログラムである。この第1予測部6Cが演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第1予測工程S3を実行するための手段(システム)として機能させている。
【0037】
上記式(1)の周波数fには、予測対象の周波数が代入されうる。一般に、加硫ゴムの粘弾性性能(粘弾性特性)は、上述の周波数依存性に加えて、加硫ゴムの温度に応じて変化する温度依存性を有している。このため、周波数fには、予測対象の温度を考慮して、予測対象の周波数を変換した温度換算周波数が用いられるのが望ましい。このような温度換算周波数が、上記式(1)の周波数fに代入されることにより、予測対象の周波数と温度とを考慮した貯蔵弾性率G’が予測されうる。
【0038】
温度換算周波数は、例えば、予測対象の周波数に、WLF(Williams-Landel-Ferry)換算式に基づくシフトファクターαTが乗じられることによって求められる。WLF換算式では、粘弾性性能(本例では、貯蔵弾性率)測定温度と、予測対象の温度との温度差が考慮される。これにより、予測対象の温度を考慮して、予測対象の周波数を変換した温度換算周波数が求められうる。
【0039】
本実施形態の第1予測工程S3では、定数が同定された上記式(1)に、予測対象の周波数fが代入されることにより、任意の周波数fでの貯蔵弾性率G’を容易に予測することができる。したがって、第1予測工程S3では、測定工程S1で測定されていない周波数での貯蔵弾性率G’を容易に求めることができる。さらに、第1予測工程S3では、予測対象の周波数を変換した温度換算周波数が、上記式(1)の周波数fに代入されることにより、任意の温度での加硫ゴムの貯蔵弾性率G’が精度良く予測されうる。
【0040】
上述のとおり、本実施形態の上記式(1)(
図3の破線で示す)は、貯蔵弾性率の測定結果(
図3の実線で示す)に精度よくフィッティングさせることができるため、予測対象の周波数fでの貯蔵弾性率G’を高い精度で予測することができる。したがって、本実施形態の予測方法、予測プログラム、及び、予測システム1A(
図1に示す)は、加硫ゴムの粘弾性性能を、高い精度で予測することが可能となる。予測された貯蔵弾性率G’は、予測結果入力部5C(
図1に示す)に入力される。
【0041】
本実施形態の予測方法では、例えば、特許文献(特開2017-138192号公報)に記載のタイヤモデルの要素の各節点に、定数が同定された上記式(1)が定義されてもよい。この場合、第1予測工程S3では、各節点に定義された上記式(1)と、タイヤモデルの転動計算時の周波数及び温度とに基づいて、各節点の貯蔵弾性率G’を精度良く求める(予測する)ことができる。これにより、タイヤモデルを用いたシミュレーション精度の向上が図られる。
【0042】
[判断工程]
次に、本実施形態の予測方法では、予測された粘弾性性能(本例では、貯蔵弾性率G’)が予め定められた閾値の範囲内か否かが判断される(判断工程S4)。本実施形態の判断工程S4では、先ず、
図1に示されるように、予測結果入力部5Cに記憶されている貯蔵弾性率G’が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、判断工程S4では、判断部6Fが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、判断部6Fが演算部4Aによって実行される。
【0043】
本実施形態の判断部6Fは、予測された粘弾性性能(本例では、貯蔵弾性率G’)に基づいて、加硫ゴムの粘弾性性能が良好か否かを判断するためのプログラムである。この判断部6Fが演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、判断工程S4を実行するための手段(システム)として機能させている。
【0044】
閾値は、加硫ゴムに求められる性能等に応じて、適宜設定されうる。判断工程S4において、予測された貯蔵弾性率G’が閾値の範囲内であると判断された場合(Yes)、加硫ゴムを用いた製品(例えば、タイヤなど)が製造される(製造工程S5)。
【0045】
一方、判断工程S4において、予測された貯蔵弾性率G’が閾値の範囲外であると判断された場合(No)、配合の少なくとも一部を変更した加硫ゴムが製造され(改良工程S6)、測定工程S1~判断工程S4が再度実施される。これにより、本実施形態の予測方法では、所望の性能を有する加硫ゴム及びそれを用いたゴム製品を、確実に設計及び製造することができる。
【0046】
[加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態の予測方法では、貯蔵弾性率が予測されたが、このような態様に限定されない。例えば、損失弾性率が予測されてもよい。
図4は、本発明の他の実施形態の加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号が付され、説明が省略されることがある。
【0047】
[測定工程]
本実施形態の予測方法では、これまでの実施形態と同様に、測定工程S1が実施される。本実施形態の測定工程S1では、これまでの実施形態で測定された貯蔵弾性率と同一の手順に基づいて、加硫ゴムの損失弾性率が測定される。測定された粘弾性性能(本例では、損失弾性率)は、測定結果入力部5A(
図1に示す)に入力される。
【0048】
図5は、損失弾性率の値と周波数との関係の一例を示すグラフである。
図5において、実線が測定結果(測定値)である。損失弾性率は、
図3の実線で示した貯蔵弾性率と同様に、周波数依存性を有している。このため、損失弾性率の予測精度を向上させるためには、測定された損失弾性率に精度良くフィッティング可能な予測式(非線形弾性方程式)を用いることが重要である。
【0049】
[第2同定工程]
次に、本実施形態の予測方法では、測定された損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、非線形弾性方程式の定数が同定される(第2同定工程S7)。本実施形態の第2同定工程S7では、先ず、
図1に示されるように、測定結果入力部5Aに記憶されている損失弾性率の値と周波数との関係(
図5の実線で示す)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、第2同定部6Bが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、第2同定部6Bが演算部4Aによって実行される。
【0050】
本実施形態の第2同定部6Bは、加硫ゴムの損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、非線形弾性方程式の定数を同定するためのプログラムである。この第2同定部6Bが演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第2同定工程S7を実行するための手段(システム)として機能させている。
【0051】
第2同定工程S7では、下記式(2)の非線形弾性方程式が用いられる。この非線形弾性方程式は、損失弾性率を予測するためのものである。第2同定工程S7では、測定された損失弾性率の値と周波数との関係(
図5の実線で示す)に、上記式(2)がフィッティングされることによって、下記式(2)の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3が同定される。
【0052】
【数2】
ここで、
D、F、E、G、H、f
2及びf
3:定数
f:周波数
【0053】
上記式(2)には、定数Dが含まれる項と、定数Fが含まれる項とが含まれる。これらの2つの項により、上記式(2)は、2つの極大値を表現可能に定義されている。一方、損失弾性率の値と周波数との関係を示す曲線(
図5の実線で示す)は、2つの極大値を有することがある。したがって、上記式(2)では、損失弾性率の測定結果に精度よくフィッティングさせることが可能となる。
【0054】
上記式(2)の周波数fは、上記式(1)の周波数fと同様に、損失弾性率の予測対象の周波数である。この周波数fに、任意の周波数が代入されることにより、その周波数での損失弾性率が求められる。
【0055】
上記式(2)の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3は、測定された損失弾性率の値と周波数との関係(
図5の実線で示す)にフィッティングできれば、適宜設定されうる。本実施形態の定数D、Fは、損失弾性率の極大値を示すものである。なお、極大値が一つのみの場合、定数D、Fには、同一の値が設定されてもよい。
【0056】
定数E、Gは、損失弾性率の曲率を示すものである。定数Hは、損失弾性率のオフセット量(補正量)である。この定数Hは、上記式(1)の定数Cと同様に設定されうる。定数f2、f3は、周波数に関する定数(フィッティングパラメータ)である。
【0057】
本実施形態では、測定された損失弾性率の値と周波数との関係(
図5の実線で示す)に、上記式(2)がフィッティングされることによって、定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3が同定(決定)される。このフィッティングには、例えば、上述のコンピュータソフトウエアが用いられる。
図5には、定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3が同定された上記式(2)の損失弾性率G”と、周波数fとの関係が、破線で示されている。定数が同定された非線形弾性方程式(上記式(2))は、方程式入力部5B(
図1に示す)に入力される。
【0058】
[第2予測工程]
次に、本実施形態の予測方法では、定数が同定された上記式(2)に、予測対象の周波数fを代入して、周波数fでの損失弾性率G”が予測される(第2予測工程S8)。第2予測工程S8では、先ず、
図1に示されるように、方程式入力部5Bに記憶されている非線形弾性方程式(定数が同定された上記式(2))が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、第2予測部6Dが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、第2予測部6Dが演算部4Aによって実行される。
【0059】
本実施形態の第2予測部6Dは、定数が同定された上記式(2)に、予測対象の周波数fを代入して、予測対象の周波数fでの損失弾性率G”を予測するためのプログラムである。この第2予測部6Dが演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第2予測工程S8を実行するための手段(システム)として機能させている。
【0060】
上記式(2)の周波数fには、予測対象の周波数が代入されうる。本実施形態では、これまでの実施形態と同様に、温度換算周波数が用いられるのが望ましい。これにより、予測対象の周波数と温度とを考慮した加硫ゴムの損失弾性率G”が予測されうる。
【0061】
本実施形態の第2予測工程S8では、定数が同定された上記式(2)に、予測対象の周波数fが代入されることにより、任意の周波数fでの損失弾性率G”を容易に予測することができる。したがって、第2予測工程S8では、測定工程S1で測定されていない周波数での損失弾性率G”を求めることができる。さらに、第2予測工程S8では、予測対象の周波数を変換した温度換算周波数が、上記式(2)の周波数fに代入されることにより、任意の温度での加硫ゴムの損失弾性率G”が予測されうる。
【0062】
上述のとおり、本実施形態の上記式(2)(
図5の破線で示す)は、損失弾性率の測定結果(
図5の実線で示す)に精度よくフィッティングさせることができるため、予測対象の周波数fでの損失弾性率G”を高い精度で予測することができる。予測された損失弾性率G”は、予測結果入力部5C(
図1に示す)に入力される。
【0063】
本実施形態の予測方法では、これまでの実施形態と同様に、タイヤモデルの要素の各節点に、定数が同定された上記式(2)が定義されてもよい。この場合、第2予測工程S8では、各節点に定義された上記式(2)と、タイヤモデルの転動計算時の周波数及び温度とに基づいて、各節点の損失弾性率G”を精度良く求める(予測する)ことができる。これにより、タイヤモデルを用いたシミュレーション精度の向上が図られる。
【0064】
[判断工程]
次に、本実施形態の予測方法では、予測された粘弾性性能(本例では、損失弾性率G”)が予め定められた閾値の範囲内か否かが判断される(判断工程S4)。閾値は、加硫ゴムに求められる性能等に応じて、適宜設定されうる。
【0065】
判断工程S4、製造工程S5及び改良工程S6は、これまでの実施形態と同様の手順で実施される。これにより、本実施形態の予測方法では、所望の性能を有する加硫ゴム及びそれを用いたゴム製品を、確実に設計及び製造することができる。
【0066】
[加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態の予測方法では、貯蔵弾性率(第1実施形態)や損失弾性率(第2実施形態)が予測されたが、このような態様に限定されない。例えば、損失正接が予測されてもよい。
図6は、本発明のさらに他の実施形態の加硫ゴムの粘弾性性能の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号が付され、説明が省略されることがある。
【0067】
[測定工程]
本実施形態の予測方法では、これまでの実施形態と同様に、測定工程S1が実施される。本実施形態の測定工程では、これまでの実施形態と同様の手順に基づいて、加硫ゴムの貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接が測定される。測定された粘弾性性能(本例では、貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接)は、測定結果入力部5Aに入力される。
【0068】
図7は、損失正接の値と周波数との関係の一例を示すグラフである。
図7において、実線が測定結果(測定値)である。損失正接は、
図3の実線で示した貯蔵弾性率や、
図5の実線で示した損失弾性率と同様に、周波数依存性を有している。なお、損失正接は、損失弾性率を貯蔵弾性率で除することによって求められる。このため、損失正接の予測精度を向上させるためには、測定された貯蔵弾性率に精度良くフィッティング可能な予測式(非線形弾性方程式)と、測定された損失弾性率に精度良くフィッティング可能な予測式(非線形弾性方程式)とを用いることが重要である。
【0069】
[第1同定工程及び第1予測工程]
次に、本実施形態の予測方法では、第1実施形態と同様に、第1同定工程S2及び第1予測工程S3が実施される。これにより、本実施形態の予測方法では、予測対象の周波数fでの貯蔵弾性率G’が高い精度で予測されうる。なお、本実施形態において、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”及び損失正接tanδが予測される周波数fは、同一である。
【0070】
[第2同定工程及び第2予測工程]
さらに、本実施形態の予測方法では、第2実施形態と同様に、第2同定工程S7及び第2予測工程S8が実施される。これにより、本実施形態の予測方法では、予測対象の周波数fでの損失弾性率G”が高い精度で予測されうる。
【0071】
[第3予測工程]
次に、本実施形態の予測方法では、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除することにより、周波数fでの損失正接tanδが予測される(第3予測工程S9)。本実施形態の第3予測工程S9では、先ず、
図1に示されるように、予測結果入力部5Cに記憶されている貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、第3予測部6Eが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、第3予測部6Eが演算部4Aによって実行される。
【0072】
本実施形態の第3予測部6Eは、予測対象の周波数fでの損失正接tanδを予測するためのプログラムである。この第3予測部6Eが演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第3予測工程S9を実行するための手段(システム)として機能させている。
【0073】
第3予測工程S9では、第2予測工程S8で予測された損失弾性率G”を、第1予測工程S3で予測された貯蔵弾性率G’で除することにより、周波数fでの損失正接tanδが予測されている。上述のとおり、上記式(1)は、貯蔵弾性率の測定結果に精度よくフィッティングさせることができるため、予測対象の周波数fでの貯蔵弾性率G’を高い精度で予測することができる。さらに、上記式(2)は、損失弾性率の測定結果に精度よくフィッティングさせることができるため、予測対象の周波数fでの損失弾性率G”を高い精度で予測することができる。したがって、第3予測工程S9では、これらの損失弾性率G”を、貯蔵弾性率G’で除することにより、予測対象の周波数fでの損失正接tanδが高い精度で予測されうる。
【0074】
図7には、予測された損失正接tanδと、周波数fとの関係が、破線で示されている。予測された損失正接tanδは、予測結果入力部5Cに入力される。
【0075】
図7の実線に示されるように、損失正接tanδの値と周波数との関係を示す曲線は、2つ極大値を有している。本実施形態では、損失弾性率の予測に用いられる上記式(2)が、2つの極大値を表現可能であるため、予測された損失弾性率G”を、貯蔵弾性率G’で除することにより、2つの極大値を有する損失正接tanδに近似しうる損失正接tanδを予測できる。
【0076】
本実施形態の予測方法では、予測された損失正接tanδ(
図7の破線で示す)が、測定されたtanδ(
図7の実線で示す)にフィット(近似)するように、上記式(2)の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3が補正されてもよい。これにより、損失正接tanδの予測精度が高められる。
【0077】
本実施形態の予測方法では、これまでの実施形態と同様に、タイヤモデルの要素の各節点に、定数が同定された上記式(1)及び(2)が定義されてもよい。この場合、第3予測工程S9では、各節点に定義された上記式(1)及び(2)と、タイヤモデルの転動計算時の周波数及び温度とに基づいて、各節点の貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”を精度良く求める(予測する)ことができる。そして、第3予測工程S9では、求められた損失弾性率G”が貯蔵弾性率G’で除されることにより、各節点の損失正接tanδを精度良く求める(予測する)ことができる。これにより、タイヤモデルを用いたシミュレーション精度の向上が図られる。
【0078】
[判断工程]
次に、本実施形態の予測方法では、予測された粘弾性性能(本例では、損失正接tanδ)が予め定められた閾値の範囲内か否かが判断される(判断工程S4)。閾値は、加硫ゴムに求められる性能等に応じて、適宜設定されうる。
【0079】
判断工程S4、製造工程S5及び改良工程S6は、これまでの実施形態と同様の手順で実施される。これにより、本実施形態の予測方法では、所望の性能を有する加硫ゴム及びそれを用いたゴム製品を、確実に設計及び製造することができる。なお、判断工程S4では、損失正接tanδだけでなく、貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”も閾値の範囲内か否かが判断されてもよい。
【0080】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0081】
[実施例A]
図2に示した処理手順に基づいて、加硫ゴムの貯蔵弾性率が予測された(実施例1)。実施例1では、先ず、加硫ゴムを複数の周波数で変形させて、各周波数での加硫ゴムの貯蔵弾性率が測定された。次に、実施例1では、測定された貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、上記式(1)の非線形弾性方程式の定数A、B、C及びf
1が同定された。そして、定数が同定された上記式(1)に、予測対象の周波数fを代入して、周波数fでの貯蔵弾性率G’が予測された。
図3は、実施例1の貯蔵弾性率の値と周波数との関係の一例を示すグラフである。
図3において、実線は、貯蔵弾性率の測定結果を示しており、破線は、上記式(1)による予測結果を示している。
【0082】
比較のために、特許文献1に記載の従来の貯蔵弾性率の予測式を用いて、加硫ゴムの貯蔵弾性率が予測された(比較例1)。比較例1では、先ず、測定された貯蔵弾性率の値と周波数との関係に基づいて、従来の貯蔵弾性率の予測式の定数が同定された。そして、比較例1では、定数が同定された従来の予測式に、予測対象の周波数fを代入して、周波数fでの貯蔵弾性率が予測された。
図8(a)は、比較例1の貯蔵弾性率の値と周波数との関係を示すグラフである。
図8(a)において、実線は、貯蔵弾性率の測定結果を示しており、破線は、従来の予測式による予測結果を示している。
【0083】
テストの結果、実施例1の上記式(1)は、比較例1の予測式に比べて、測定された貯蔵弾性率に精度良くフィッティングさせることができ、加硫ゴムの粘弾性性能を高い精度で予測できることが確認できた。
【0084】
[実施例B]
図4に示した処理手順に基づいて、加硫ゴムの損失弾性率が予測された(実施例2)。実施例2では、先ず、加硫ゴムを複数の周波数で変形させて、各周波数での加硫ゴムの損失弾性率が測定された。次に、実施例2では、測定された損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、上記式(2)の非線形弾性方程式の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3が同定された。そして、定数が同定された上記式(2)に、予測対象の周波数fを代入して、周波数fでの損失弾性率G”が予測された。
図5は、実施例2の損失弾性率の値と周波数との関係の一例を示すグラフである。
図5において、実線は、損失弾性率の測定結果を示しており、破線は、上記式(2)による予測結果を示している。
【0085】
比較のために、特許文献1に記載の従来の損失弾性率の予測式を用いて、加硫ゴムの損失弾性率が予測された(比較例2)。比較例2では、先ず、測定された損失弾性率の値と周波数との関係に基づいて、従来の損失弾性率の予測式の定数が同定された。そして、比較例2では、定数が同定された従来の予測式に、予測対象の周波数fを代入して、周波数fでの貯蔵弾性率が予測された。
図8(b)は、比較例2の損失弾性率の値と周波数との関係を示すグラフである。
図8(b)において、実線は、損失弾性率の測定結果を示しており、破線は、従来の予測式による予測結果を示している。
【0086】
テストの結果、実施例2の上記式(2)は、比較例2の予測式に比べて、測定された損失弾性率に精度良くフィッティングさせることができ、加硫ゴムの粘弾性性能を高い精度で予測できることが確認できた。
【0087】
[実施例C]
図6に示した処理手順に基づいて、加硫ゴムの損失正接が予測された(実施例3)。実施例3では、先ず、加硫ゴムを複数の周波数で変形させて、各周波数での加硫ゴムの貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接が測定された。
【0088】
次に、実施例3では、実施例1と同様に、上記式(1)の非線形弾性方程式の定数A、B、C及びf
1が同定され、周波数fでの貯蔵弾性率G’が予測された。次に、実施例3では、実施例2と同様に、上記式(2)の非線形弾性方程式の定数D、F、E、G、H、f
2及びf
3が同定され、周波数fでの損失弾性率G”が予測された。そして、実施例3では、予測された損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除することにより、周波数fでの損失正接が予測された。
図7は、実施例3の損失正接の値と周波数との関係の一例を示すグラフである。
図7において、実線は、損失正接の測定結果を示しており、破線は、予測された損失正接を示している。
【0089】
比較のために、比較例1の従来の貯蔵弾性率の予測式、及び、比較例2の従来の損失弾性率の予測式を用いて、加硫ゴムの損失正接が予測された(比較例3)。比較例3では、先ず、比較例1と同様に、従来の貯蔵弾性率の予測式の定数が同定され、周波数fでの貯蔵弾性率G’が予測された。次に、比較例3では、比較例2と同様に、従来の損失弾性率の予測式の定数が同定され、周波数fでの損失弾性率G”が予測された。そして、比較例3では、予測された損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除することにより、周波数fでの損失正接が予測された。
図8(c)は、比較例3の損失正接の値と周波数との関係を示すグラフである。
図8(c)において、実線は、損失正接の測定結果を示しており、破線は、従来の予測式による予測結果を示している。
【0090】
テストの結果、実施例3は、比較例3に比べて、2つの極大値を有する損失正接の測定結果に精度良くフィッティングすることができ、加硫ゴムの粘弾性性能を高い精度で予測できることが確認できた。
【符号の説明】
【0091】
S1 粘弾性性能を測定する工程
S2 非線形弾性方程式の定数を同定する工程
S3 粘弾性性能を予測する工程