(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】イオン源
(51)【国際特許分類】
H01J 27/16 20060101AFI20240709BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20240709BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H01J27/16
H01J37/08
H05H1/46
(21)【出願番号】P 2020205444
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】糸井 駿
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】酒井 滋樹
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-235485(JP,A)
【文献】特開平04-242049(JP,A)
【文献】特開平06-076749(JP,A)
【文献】特開平08-253860(JP,A)
【文献】特開2000-133497(JP,A)
【文献】特開2001-042099(JP,A)
【文献】特開2008-052909(JP,A)
【文献】特開2009-212346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/16
H01J 37/08
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン引出し開口を有するプラズマ容器と、
前記イオン引出し開口からイオンビームを引き出すための引出し電極系とを具備し、
前記引出し電極系は、前記イオン引出し開口側から順に電位の異なる第1電極と第2電極とを有し、前記第1電極の電位は前記第2電極の電位に比べて高く、
前記プラズマ容器の内壁または前記第2電極に光を照射して、光電効果により電子を放出させる、光照射装置を備え
、
前記光照射装置は、前記引出し電極系によるイオンビームの引き出し方向において、前記イオン引出し開口と前記第2電極との間に配置されている、高周波型イオン源。
【請求項2】
前記光照射装置は、前記プラズマ容器の内壁と前記第2電極の前記第1電極側の面に光を照射する、請求項
1記載の高周波型イオン源。
【請求項3】
前記光照射装置は、大気と真空とを隔てる誘電体窓を介して、光の照射を行う請求項1または
2に記載の高周波型イオン源。
【請求項4】
前記第2電極は、前記イオンビームの引き出し方向と反対側に向かう突出部位を有し、
前記光照射装置は、前記イオンビームの引き出し方向と反対側に向けて光の照射を行って、前記プラズマ容器の内壁と前記突出部位に光を照射する請求項
2または
3に記載の高周波型イオン源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波型イオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入装置などに用いられるイオン源として、高周波放電によりプラズマの生成を行う高周波型イオン源が知られている。
【0003】
具体的には、特許文献1に記載のごとく、プラズマ容器と高周波電極との間に高周波電力を供給して、プラズマ容器内に導入したガスをプラズマ化して、プラズマ容器のイオン引出し開口を塞ぐように設けられた、複数枚の電極からなる引出し電極系を用いてイオンビームの引き出しを行うイオン源である。
【0004】
特許文献1の高周波型イオン源は、容量結合型と呼ばれる高周波型イオン源であるが、高周波型イオン源には誘導結合型と呼ばれる別のタイプのイオン源も存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いずれの高周波型イオン源も、無電極放電であるため積極的に熱電子を放出する構造とはされておらず、プラズマ容器内でのプラズマの点灯が難しく、プラズマの点灯が失敗するケースがある。
【0007】
本発明では、高周波型イオン源でのプラズマ点灯の成功率を向上することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
高周波型イオン源は、
イオン引出し開口を有するプラズマ容器と、
前記イオン引出し開口からイオンビームを引き出すための引出し電極系とを具備し、
前記引出し電極系は、前記イオン引出し開口側から順に電位の異なる第1電極と第2電極とを有し、前記第1電極の電位は前記第2電極の電位に比べて高く、
前記プラズマ容器の内壁または前記第2電極に光を照射して、光電効果により電子を放出させる、光照射装置を備えている。
【0009】
光照射装置から光をプラズマ容器の内壁または第2電極に光を照射することで、光電効果によって被照射部材から電子の放出が行われる。プラズマ容器の内壁から放出された電子は即座にプラズマの点灯に寄与し、第2電極から放出された電子は電位の高い第1電極によりプラズマ容器内に引き込まれることでプラズマの点灯に寄与する。プラズマの点灯にあたり、光電効果によって発生する電子を利用しているので、高周波型イオン源におけるプラズマ点灯の成功率が向上する。
【0010】
光照射装置の配置については、
前記引出し電極系によるイオンビームの引き出し方向において、
前記光照射装置は、前記イオン引出し開口と前記第2電極との間に配置されていることが望ましい。
【0011】
上記配置とすることで、プラズマ容器の内壁または第2電極への光の照射が効率的となる。
【0012】
プラズマ点灯の成功率を更に向上するには、
前記光照射装置は、前記プラズマ容器の内壁と前記第2電極の前記第1電極側の面に光を照射することが望ましい。
【0013】
光照射装置のメンテナンスを考慮すれば、
前記光照射装置は、大気と真空とを隔てる誘電体窓を介して、光の照射を行う構成とすることが望ましい。
【0014】
光照射装置を真空内に配置することもできるが、メンテナンスを行うにあたり、真空を破ってプラズマ容器や引出し電極系が配置される真空チャンバ内の大気開放が必要となる。
上記構成のごとく、光照射装置を大気側に配置する、つまりは真空チャンバの外側に配置することで、プラズマ容器などが配置されている真空チャンバを大気開放せずとも光照射装置のメンテナンスが可能となる。
【0015】
より具体的な構成としては、
前記第2電極は、前記イオンビームの引き出し方向と反対側に向かう突出部位を有し、
前記光照射装置は、前記イオンビームの引き出し方向と反対側に向けて光の照射を行って、前記プラズマ容器の内壁と前記突出部位に光を照射する構成とすることが望ましい。
【0016】
上記構成であれば、第2電極が突出部位を有することから、プラズマ容器の内壁と第2電極への光照射をより効果的に実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
光照射装置から光をプラズマ容器の内壁または第2電極に光を照射することで、光電効果によって被照射部材から電子の放出が行われる。プラズマ容器の内壁から放出された電子は即座にプラズマの点灯に寄与し、第2電極から放出された電子は電位の高い第1電極によりプラズマ容器内に引き込まれることでプラズマの点灯に寄与する。プラズマの点灯にあたり、光電効果によって発生する電子を利用しているので、高周波型イオン源におけるプラズマ点灯の成功率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】高周波型イオン源の第1の変形例にかかる模式的断面図
【
図3】高周波型イオン源の第2の変形例にかかる模式的断面図
【
図4】高周波型イオン源の第3の変形例にかかる模式的断面図
【
図5】高周波型イオン源の第4の変形例にかかる模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明にかかる高周波型イオン源RF1の模式的断面図である。
真空容器1は、真空と大気とを隔てる容器であり、その内部(真空側)にプラズマ容器4が配置されている。
プラズマ容器4には、ガス供給路9を通してプラズマ化するためのガスの供給が行われる。プラズマ容器4には容器外部から内部に延びた高周波電力が供給されるアンテナ8が配置されている。
【0020】
プラズマ容器4の端部にはイオン引出し開口10が形成されている。イオンビームは、プラズマ容器4内で生成されたプラズマから図のZ方向に向けて、引出し電極系によって引き出される。
引出し電極系は、引出電極5(第1電極)、抑制電極6(第2電極)、接地電極7(第3電極)の3枚の電極で構成されている。接地電位(0V)を基準にして、例えば、引出電極5には40kV、抑制電極6には-2kVの電圧がそれぞれ印加されている。これより、引出電極5の電位は抑制電極6や接地電極7の電位よりも高い。このような引出し電極系を用いることで、電気的に正のイオンビームの引出しが行われる。
引出電極5は、絶影物(図中、ハッチングされている部材)を介してプラズマ容器4に取り付けられていて、抑制電極6と接地電極7は図示されない支持フランジに支持されている。
【0021】
真空容器1の外側、つまりは大気側には、光照射装置2が配置されている。この光照射装置2は、真空と大気を隔てる誘電体窓3を介して真空容器1の内側に150nm~300nmの紫外線光を照射する装置である。光照射装置2の具体例としては、重水素ランプや深紫外LEDが挙げられる。
【0022】
引出し電極系を構成する電極やプラズマ容器4の壁面は、タングステンやモリブデンで構成されており、上述した波長の光が照射されると、光電効果により各部から電子が放出される。
光照射装置2から延びた破線は、装置から照射される光で、各部に光が照射されることで一点鎖線方向へ電子(e)が放出される。
【0023】
プラズマ容器4の内壁から放出された電子は即座にプラズマの点灯に寄与し、第2電極から放出された電子は電位の高い第1電極によりプラズマ容器4内に引き込まれることでプラズマの点灯に寄与する。プラズマの点灯にあたり、光電効果によって発生する電子を利用しているので、高周波型イオン源RF1におけるプラズマ点灯の成功率が向上する。
【0024】
図2乃至
図5を用いて種々の変形例(高周波型イオン源RF2~5)について説明する。
図2では、
図1の構成から光照射装置2の配置を変更している。
図1では光照射装置2を大気側に配置していたが、
図2のように真空側に配置してもよい。
ただし、光照射装置のメンテナンスを考慮すれば、
図1のように大気側に光照射装置2を配置する方が望ましい。
【0025】
図3では、
図2の構成から光照射装置2の向きを変更している。プラズマ点灯の成功率の更なる向上を目指すうえでは、プラズマ容器4の内壁と抑制電極6の両方に光照射装置2からの光が照射されている状態が望ましい。しかしながら、
図3の構成のように、光照射装置2をイオンビーム引き出し方向(Z方向)側に向けた構成では、抑制電極6にしか光の照射ができなくなる。
このことから、
図1や
図2のごとく、光照射装置2をイオンビーム引き出し方向(Z方向)とは反対側に向けた構成としておくことが望まれる。
【0026】
図4では、光照射装置2をイオンビーム引き出し方向(Z方向)で抑制電極6と接地電極7の間に配置している。
プラズマ容器4から離間した位置に光照射装置2を配置すると、プラズマ容器4の内壁への光照射はできるものの、抑制電極6の引出電極5側の面への光照射が難しくなる。
【0027】
このことから、
図1乃至
図3のごとく、光照射装置2はイオンビームの引き出し方向(Z方向)において、プラズマ容器4と抑制電極6との間に配置することが望ましい。そのような構成であれば、プラズマ容器4の内壁と抑制電極6の両方への光照射が行いやすくなる。また、被照射対象物からの距離が離間すれば、光照射装置と被照射対象物の間に配置される他の部材に光が照射されてしまうこともあり、被照射対象物への光照射が非効率となる。
【0028】
図5では、
図2の構成から抑制電極6の突出部位11を取り除き、平板状の電極を抑制電極6として採用している。
突出部位11がない場合でも、抑制電極6への光照射はできないことはないが、当該部位を備えた抑制電極6の方が、プラズマ容器4の壁面と抑制電極6の両方への光照射は容易となる。
【0029】
光照射装置2の数については、複数配置するようにしてもよい。また、配置場所については、
図1乃至
図5にて示した配置場所に限らず、図のXY平面で異なる場所に配置されていてもよい。例えば、各図において、図の上方に光照射装置2が配置されているが、下方にも対を成す形で光照射装置2を配置するようにしてもよい。
【0030】
また、プラズマ容器4の内壁はライナーで覆われていてもいい。この場合、ライナーをこれまでの実施形態におけるプラズマ容器4の内壁として考え、光照射装置2から照射される光の波長を調整して、ライナーから光電効果により電子の放出がなされるようにしておく。
【0031】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0032】
2 光照射装置
4 プラズマ容器
5~7 引出し電極系
5 第1電極(引出電極)
6 第2電極(抑制電極)
10 イオン引出し開口
RF1~5 高周波型イオン源