(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20240709BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20240709BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/23
(21)【出願番号】P 2020206570
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 祐樹
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090121(JP,A)
【文献】特開平05-178122(JP,A)
【文献】特開2018-092050(JP,A)
【文献】特開2019-090896(JP,A)
【文献】国際公開第2020/021773(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0073121(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/23 - 35/235
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示光を生成する表示部と、
前記画像表示光が透明部材に向けて投射されるように前記画像表示光を反射する凹面鏡と、
前記凹面鏡から前記表示部までの距離が、前記凹面鏡から前記透明部材に向かう前記画像表示光が平行光となる基準距離
となる場合と、前記基準距離よりも短い距離となる場合とを含む範囲で前記表示部を移動させる駆動機構と、を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記凹面鏡から前記表示部までの距離が前記基準距離以下となる範囲での
前記表示部の移動を可能とし、前記凹面鏡から前記表示部までの距離が前記基準距離を超える範囲での
前記表示部の移動を制限することを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記基準距離は、前記透明部材の表面と裏面が平行であり、前記表示装置のユーザが、前記透明部材に投射された前記画像表示光を、無限遠にある虚像として知覚する場合における、前記凹面鏡から前記表示部までの距離であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置に関し、特に虚像を表示する表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用表示装置としてヘッドアップディスプレイが用いられることがある。ヘッドアップディスプレイは、画像表示光を車両のウィンドシールドなどに投射し、画像表示光に基づく虚像を車外の風景に重畳して表示する。ウィンドシールドには表面と裏面があり、表面と裏面のそれぞれにて反射して視認される画像表示光がずれて重畳され、二重像に見えてしまうことがある。このような二重像の発生を抑制するため、表面で反射する第1の光線と裏面で反射する第2の光線の光路が一致するようにした構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の先行技術では、ウィンドシールドなどの透明部材の表面と裏面が平行であることを前提としており、透明部材の製造誤差等によって表面と裏面が厳密に平行ではない場合には二重像が発生してしまう場合がある。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、二重像の発生を抑制した表示装置を適切に調整する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の表示装置は、画像表示光を生成する表示部と、画像表示光が透明部材に向けて投射されるように画像表示光を反射する凹面鏡と、凹面鏡から表示部までの距離が、凹面鏡から透明部材に向かう画像表示光が平行光となる基準距離以下となる範囲で表示部を移動させる駆動機構と、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二重像の発生を抑制した表示装置を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る表示装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】非平行な透明部材による二重像の発生を模式的に示す図である。
【
図3】非平行な透明部材による二重像の解消方法を模式的に示す図である。
【
図4】比較例に係る表示装置において表示部を基準位置よりも遠方に配置した場合を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。かかる実施の形態に示す具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0011】
図1は、実施の形態に係る表示装置10の構成を模式的に示す図である。表示装置10は、いわゆるヘッドアップディスプレイ装置である。表示装置10は、車両のウィンドシールドなどである透明部材30に画像表示光を投射してユーザEの前方に虚像40を表示する。
【0012】
表示装置10は、照明部12と、表示部14と、凹面鏡16と、駆動機構18とを備える。照明部12は、画像表示光を生成するための光源であり、表示部14を照明するための照明光を生成する。照明部12は、LED(Light Emitting Diode)やLD(Laser Diode)などの発光素子と、発光素子からの出力光の強度分布や角度分布を調整するための光学素子とを有する。照明部12は、例えば、ほぼ一様な明るさの白色光を表示部14に提供する。照明部12の構成は特に限られないが、発光素子からの出力光を整えるために、例えば、ライトトンネル、フレネルレンズ、光拡散板などの光学素子を用いることができる。
【0013】
表示部14は、照明部12からの照明光を変調して画像表示光を生成する。表示部14は、画像表示光を生成するための透過型の画像表示素子を含み、透過型の液晶パネルといった表示デバイスを含む。画像表示素子は、例えば、画像信号を取得し、画像信号に対応する表示内容の画像表示光を生成する。表示部14は、画像表示光の向きや配光角を整えるための光学素子をさらに含んでもよい。表示部14は、例えば、透過型液晶パネル以外のDMD(Digital Mirror Device)やLCOS(Liquid Crystal on Silicon)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方式等のLSM(Laser Scanning Module)といったプロジェクションユニットと、マイクロレンズアレイシートや光拡散シートといった透過型スクリーンとを組み合わせた構成としてもよい。
【0014】
凹面鏡16は、表示部14からの画像表示光を透明部材30に向けて反射させる。凹面鏡16は、表示部14が基準位置20に配置されている場合に凹面鏡16から透明部材30に向かう画像表示光が平行光となるように構成されている。具体的には、表示部14が基準位置20に配置されている場合に表示部14の任意の点から出射する第1光線L1と第2光線L2が平行になって透明部材30に入射する。ここで、基準位置20に配置される表示部14と凹面鏡16の間の距離のことを「基準距離d0」ともいう。基準距離d0は、表示部14から凹面鏡16に向けて画像表示光が進行する方向に沿った距離である。
【0015】
駆動機構18は、表示部14を矢印Xで示されるように並進移動させ、凹面鏡16から表示部14までの距離を変化させる。駆動機構18によって表示部14が移動する方向Xは、表示部14から凹面鏡16に向けて画像表示光が進行する方向と平行である。駆動機構18は、凹面鏡16の表示部14までの距離が基準距離d0以下となる範囲で表示部14を移動させる。駆動機構18は、表示部14が基準位置20よりも凹面鏡16に近い位置に向かう第1方向X1への移動を可能とする。駆動機構18は、表示部14が基準位置20よりも凹面鏡16から遠い位置に向かう第2方向X2への移動を不可とする。駆動機構18による表示部14の移動範囲は、駆動機構18の機械的な構造であるハードウェアによって制限されてもよいし、駆動機構18の動作を制御するソフトウェアによって制限されてもよい。
【0016】
駆動機構18は、操作部50と接続されており、操作部50への入力操作に応じて駆動する。操作部50は、表示装置10が備える専用の操作ボタンであってもよいし、表示装置10が設置される車両などに設けられる操作ボタンであってもよい。操作部50は、例えば、車両のセンターコンソールなどに配置されるナビゲーション装置用の操作ボタンやタッチパネルであってもよい。操作部50は、携帯電話やスマートフォン、タブレットといったモバイル装置であってもよく、モバイル装置から有線または無線で駆動機構18に操作情報が送信されてもよい。
【0017】
駆動機構18は、透明部材30の平行度の誤差に応じて発生しうる二重像を調整するために表示部14の位置を変化させる。ユーザEは、表示装置10を設置した後、透明部材30を介して表示される虚像40を視認しながら操作部50を操作する。ユーザEは、例えば、虚像40として二重像が知覚される場合に二重像が解消されるように操作部50を操作する。以下、表示装置10において生じる二重像について説明する。
【0018】
図1は、透明部材30の表面32と裏面34が平行であり、表面32と裏面34の間の厚さtが均一である場合を示す。凹面鏡16から透明部材30に入射する光線L1,L2は、透明部材30の表面32または裏面34にて反射してユーザEに向かう。第1光線L1は、透明部材30の表面32にて反射してユーザEに向かう。第2光線L2は、透明部材30の表面32にて屈折し、裏面34にて反射してユーザEに向かう。
【0019】
図1の例では、透明部材30に入射する第1光線L1と第2光線L2が平行であり、透明部材30の表面32と裏面34が平行であるため、ユーザEに向かう第1光線L1と第2光線L2の方向(角度)が一致する。その結果、ユーザEは、第1光線L1と第2光線L2のずれによる二重像を知覚することなく虚像40を視認できる。したがって、透明部材30が厳密に平行であれば、表示部14を基準位置20に配置することで二重像を解消できる。このとき、ユーザEから虚像40までの距離、つまり、ユーザEが虚像40を知覚する距離(虚像距離ともいう)は、無限遠である。
【0020】
図2は、非平行な透明部材30aによる二重像の発生を模式的に示す図である。
図2の透明部材30aは、
図1の透明部材30と異なり、表面32aと裏面
34aが非平行である。具体的には、透明部材30aの下側の厚みt1aが小さく、透明部材30aの上側の厚みt2aが大きくなるような楔形状となっている。
図2では、分かりやすさのために、透明部材30aの楔形状を強調して示しているが、透明部材30aの表面32aと裏面
34aの間の非平行度は、非常に僅かであってもよい。透明部材30aの非平行度は、例えば、透明部材30を形成しようとする場合の製造誤差等によって生じる程度のわずかな値であってもよく、例えば、0.1度以下や0.01度以下であってもよい。
【0021】
図2の例では、表示部14が基準位置20に配置されており、透明部材
30aに入射する第1光線L1と第2光線L2が平行である。そうすると、表面32aと裏面
34aが非平行であるため、ユーザEに向かう第1光線L1と第2光線L2の間に方向(角度)のずれが生じる。その結果、ユーザEは、第1光線L1と第2光線L2のずれによる二重像が発生した虚像42を視認することとなる。
【0022】
図3は、非平行な透明部材30aによる二重像の解消方法を模式的に示す図である。
図3の透明部材30aは、
図2と同じである。
図3では、表示部14の位置が異なっており、基準位置20よりも凹面鏡16の近くである近方位置21に表示部14が配置されている。
図3の例では、凹面鏡16から表示部14までの距離d1が基準距離d0よりも短い。駆動機構18によって表示部14を基準位置20から第1方向X1に移動させることで、表示部14を近方位置21に配置できる。
【0023】
図3の例では、表示部14が基準位置20よりも凹面鏡16に近い近方位置21に配置されるため、凹面鏡16から透明部材30aに向かう第1光線L1aと第2光線L2aが非平行となる。具体的には、第1光線L1aおよび第2光線L2aは、透明部材
30aに向けて発散するように進行する。このとき、透明部材
30aに向かう第1光線L1aおよび第2光線L2aの発散角を適切に調整することで、透明部材30aからユーザEに向かう第1光線L1aと第2光線L2aの方向(角度)を一致させることができる。その結果、第1光線L1aと第2光線L2aのずれによる二重像を知覚することなく虚像44を視認できる。このとき、ユーザEが視認する虚像44の虚像距離は、無限遠ではなく有限となる。
【0024】
図4は、比較例に係る表示装置110において表示部114を基準位置20よりも遠方に配置した場合を模式的に示す図であり、凹面鏡16から表示部114までの距離d2が基準距離d0よりも長い。
図4の表示装置110は、上述の実施の形態と異なり、表示部114を基準位置20から第2方向X2に移動可能であり、表示部114を遠方位置22に配置できる。上述の実施の形態では、表示部14を基準位置20から第2方向X2に移動不可であり、表示部14を遠方位置22に配置できない。
【0025】
図4の例では、透明部材30bが非平行であるが、
図3とは透明部材30bの厚さt1b,t2bの大小関係が逆となっている。具体的には、透明部材30bの下側の厚みt1bが大きく、透明部材30bの上側の厚みt2bが小さくなるような楔形状となっている。この場合、表示部114を基準位置20よりも遠方の遠方位置22に配置することで、透明部材30bからユーザEに向かう第1光線L1bおよび第2光線L2bの方向(角度)を一致させることができ、第1光線L1bおよび第2光線L2bのずれによる二重像を解消できる。
【0026】
しかしながら、
図4の例では、第1光線L1bおよび第2光線L2bは、透明部材30bに向けて収束するように進行する。その結果、ユーザEに視認される虚像46の虚像距離は、無限遠よりも遠い状態である「オーバーインフィニティ」となり、ユーザEは虚像46にピントを合わせることができなくなる。つまり、ユーザEは鮮明な画像を視認できず、ユーザEが無理にピントを合わせようとすることでユーザEの目に過大な負担がかかる。ユーザEの目の負担を考慮すると、このような状態は避けることが好ましい。そこで、本実施の形態では、オーバーインフィニティとなって虚像にピントが合わない状態となることを避けるため、表示部14が基準位置20よりも遠方に配置されることを不可とする。
【0027】
なお、本実施の形態に係る表示装置10において、
図4に示されるような非平行な透明部材30bが使用される場合、第1光線L1bと第2光線L2bのずれによる二重像を解消することはできない。しかしながら、本実施の形態によれば、オーバーインフィニティとなって虚像にピントが合わない状態となることを防止し、ユーザEの目に過大な負担がかかることを防止できる。
【0028】
つまり、駆動機構18は、透明部材30の表面32と裏面34が平行であることを前提とした表示部14の基準位置20から、表示部14の位置を凹面鏡16に近い位置に向かう方向への調整を可能とし、凹面鏡16から遠い位置に向かう方向への調整を制限する。言い換えると、駆動機構18は、凹面鏡16に対する表示部14の位置を、ユーザが虚像を無限遠として知覚する位置を基準として、ユーザが虚像を有限距離として知覚する方向への調整を可能とし、オーバーインフィニティとなる方向への調整を制限する。
【0029】
本実施の形態によれば、
図1のように厳密に平行な透明部材30である場合、
図3のように下側の厚みt1aが相対的に小さい楔形状である透明部材30aである場合、凹面鏡16から表示部14までの距離を駆動機構18によって変化させることで、二重像を解消できる。本実施の形態によれば、
図4のように下側の厚みt1bが相対的に
大きい楔形状である透明部材
30bである場合、二重像を解消することはできないが、虚像距離がオーバーインフィニティとなってユーザEが虚像にピントを合わせることができなくなる状況の発生を防ぐことができる。したがって、本実施の形態によれば、凹面鏡16から表示部14までの距離が固定されている表示装置や、凹面鏡16から表示部14までの距離の変化に制約がない表示装置に比べて、より好適な虚像をユーザEに提示できる。
【0030】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、各表示例に示す構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。
【0031】
上述の実施の形態では、透明部材30と表示部14の間の光路に凹面鏡16のみが配置される場合について示した。別の実施の形態では、表示部14と凹面鏡16の間に別の光学素子が追加されてもよく、折り返しミラーや凸レンズなどが追加されてもよい。表示部14と凹面鏡16の間に凸レンズが追加される場合、凸レンズを通過して凹面鏡16にて反射された後の画像表示光が平行光となるように表示部14の基準位置20が設定される。
【符号の説明】
【0032】
10…表示装置、12…照明部、14…表示部、16…凹面鏡、18…駆動機構、20…基準位置、21…近方位置、30…透明部材、32…表面、34…裏面、40…虚像。