(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ロータ、回転電機、車両
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240709BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2020212664
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 壮一郎
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-27700(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114498983(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアと、
前記ロータコアに設けられ、周方向に並ぶ複数の磁極部と、
前記ロータコアに設けられ、前記複数の磁極部の間のq軸上にそれぞれ配置され、それぞれの磁化容易方向がq軸方向を向く複数の異方性磁気部材とを備え、
前記複数の磁極部の各々は、
径方向に着磁される固定磁石と、
前記固定磁石の前記周方向の一端側および他端側にそれぞれ配置され、それぞれが所定の磁束により前記周方向における磁化状態を変化させることが可能な第1可変磁石および第2可変磁石とを有し、
前記複数の磁極部の各々に含まれる前記第1可変磁石は、該磁極部の前記周方向の一端側に位置する別の磁極部に含まれる前記第2可変磁石と、前記q軸を挟んで隣り合い、
前記ロータコアの前記複数の磁極部の間のq軸上に位置する部分の各々において、該q軸を挟んで隣り合う前記第1可変磁石と前記第2可変磁石の間の部分には、前記異方性磁気部材が形成されない非形成領域が設けられる
ことを特徴とするロータ。
【請求項2】
請求項1のロータにおいて、
前記複数の磁極部の各々は、
前記第1可変磁石の径方向内側に配置される第1非磁性部材と、
前記第2可変磁石の径方向内側に配置される第2非磁性部材とを有し、
前記複数の磁極部の各々に含まれる前記第1非磁性部材は、該磁極部の前記周方向の一端側に位置する別の磁極部に含まれる前記第2非磁性部材と、前記異方性磁気部材を挟んで隣り合う
ことを特徴とするロータ。
【請求項3】
請求項2のロータにおいて、
前記第1非磁性部材は、前記第1可変磁石を保持するための部材であり、
前記第2非磁性部材は、前記第2可変磁石を保持するための部材である
ことを特徴とするロータ。
【請求項4】
請求項2または3のロータにおいて、
前記第1非磁性部材は、第1中空部を有し、
前記第2非磁性部材は、第2中空部を有する
ことを特徴とするロータ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つのロータにおいて、
前記非形成領域は、該非形成領域に対応する前記異方性磁気部材の径方向外端を始端とし、前記ロータコアの外周縁を終端とする領域であり、
前記非形成領域の始端は、該非形成領域を挟んで隣り合う前記第1可変磁石および前記第2可変磁石の各々の径方向内端に対応する第1位置から、該第1可変磁石および該第2可変磁石の各々の径方向における中央に対応する第2位置までの範囲内に位置する
ことを特徴とするロータ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つのロータと、
前記径方向において前記ロータとエアギャップを隔てて対向するステータとを備える
ことを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項6の回転電機と、
前記回転電機の動力が伝達される駆動輪とを備える
ことを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、ロータ、回転電機、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、固定子と回転子と有する回転電機が開示されている。固定子は、電機子巻線を有する。回転子は、回転子鉄心と、回転子鉄心に埋め込まれた固定磁力磁石と、固定磁力磁石の両側に配置された可変磁力磁石とを有する。可変磁力磁石は、電機子巻線を通電して形成される磁界で磁化状態が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の回転電機において、q軸方向に磁束が流れやすくなるように、磁化容易方向がq軸方向を向く異方性磁気部材(例えば異方性電磁鋼板)をq軸上に設けることが考えられる。しかしながら、単に異方性磁気部材をq軸上に設けるだけでは、可変磁力磁石に磁束が流れにくくなるおそれがある。
【0005】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、可変磁石を通過する磁束の減少を抑制しつつq軸方向に流れる磁束を増加させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示する技術は、ロータに関し、このロータは、ロータコアと、前記ロータコアに設けられ、周方向に並ぶ複数の磁極部と、前記ロータコアに設けられ、前記複数の磁極部の間のq軸上にそれぞれ配置され、それぞれの磁化容易方向がq軸方向を向く複数の異方性磁気部材とを備え、前記複数の磁極部の各々は、径方向に着磁される固定磁石と、前記固定磁石の前記周方向の一端側および他端側にそれぞれ配置され、それぞれが所定の磁束により前記周方向における磁化状態を変化させることが可能な第1可変磁石および第2可変磁石とを有し、前記複数の磁極部の各々に含まれる前記第1可変磁石は、該磁極部の前記周方向の一端側に位置する別の磁極部に含まれる前記第2可変磁石と、前記q軸を挟んで隣り合い、前記ロータコアの前記複数の磁極部の間のq軸上に位置する部分の各々において、該q軸を挟んで隣り合う前記第1可変磁石と前記第2可変磁石の間の部分には、前記異方性磁気部材が形成されない非形成領域が設けられる。
【0007】
前記の構成では、磁化容易方向がq軸方向を向く異方性磁気部材を設けることにより、q軸方向に流れる磁束を増加させることができる。また、q軸を挟んで隣り合う第1可変磁石と第2可変磁石との間に非形成領域(異方性磁気部材が形成されない領域)を設けることにより、q軸を挟んで隣り合う第1可変磁石と第2可変磁石とを通過する磁束の流れが異方性磁気部材により阻害されることを抑制することができる。これにより、第1可変磁石および第2可変磁石の各々を通過する磁束の減少を抑制することができる。
【0008】
なお、前記ロータにおいて、前記複数の磁極部の各々は、前記第1可変磁石の径方向内側に配置される第1非磁性部材と、前記第2可変磁石の径方向内側に配置される第2非磁性部材とを有してもよく、前記複数の磁極部の各々に含まれる前記第1非磁性部材は、該磁極部の前記周方向の一端側に位置する別の磁極部に含まれる前記第2非磁性部材と、前記異方性磁気部材を挟んで隣り合ってもよい。
【0009】
前記の構成では、第1可変磁石および第2可変磁石の径方向内側に、異方性磁気部材と第1非磁性部材と第2非磁性部材とを配置することにより、第1可変磁石および第2可変磁石の径方向内側において周方向における磁束の流れを抑制することができる。これにより、第1可変磁石および第2可変磁石に磁束の流れを集中させることができる。
【0010】
また、前記ロータにおいて、前記第1非磁性部材は、前記第1可変磁石を保持するための部材であってもよく、前記第2非磁性部材は、前記第2可変磁石を保持するための部材であってもよい。
【0011】
前記の構成では、第1非磁性部材が第1可変磁石を保持することにより、第1可変磁石を保持するための部材と第1非磁性部材とが別部材である場合よりも、部品点数を削減することができる。また、第2非磁性部材が第2可変磁石を保持することにより、第2可変磁石を保持するための部材と第2非磁性部材とが別部材である場合よりも、部品点数を削減することができる。
【0012】
また、前記ロータにおいて、前記第1非磁性部材は、第1中空部を有してもよく、前記第2非磁性部材は、第2中空部を有してもよい。
【0013】
前記の構成では、第1非磁性部材に第1中空部を設けることにより、第1非磁性部材の重量を低減することができる。また、第2非磁性部材に第2中空部を設けることにより、第2非磁性部材の重量を低減することができる。
【0014】
また、前記ロータにおいて、前記非形成領域は、該非形成領域に対応する前記異方性磁気部材の径方向外端を始端とし、前記ロータコアの外周縁を終端とする領域であってもよく、前記非形成領域の始端は、該非形成領域を挟んで隣り合う前記第1可変磁石および前記第2可変磁石の各々の径方向内端に対応する第1位置から、該第1可変磁石および該第2可変磁石の各々の径方向における中央に対応する第2位置までの範囲内に位置してもよい。
【0015】
前記の構成では、非形成領域の始端を第1位置から第2位置までの範囲内に位置させることにより、q軸方向に流れる磁束の量と第1可変磁石および第2可変磁石を通過する磁束の量とを適切に確保することができる。
【0016】
また、ここに開示する技術は、回転電機に関し、この回転電機は、前記ロータと、前記径方向において前記ロータとエアギャップを隔てて対向するステータとを備える。
【0017】
また、ここに開示する技術は、車両に関し、この車両は、前記回転電機と、前記回転電機の動力が伝達される駆動輪とを備える。
【発明の効果】
【0018】
ここに開示する技術によれば、第1可変磁石および第2可変磁石を通過する磁束の減少を抑制しつつ、q軸方向に流れる磁束を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態の回転電機の構成を例示する横断面図である。
【
図2】実施形態の回転電機の要部の構成を例示する横断面図である。
【
図3】非形成領域の始端について説明するための概略図である。
【
図4】回転電機を備える車両の構成を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態を詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付しその説明は繰り返さない。
【0021】
(実施形態)
図1は、実施形態の回転電機1の構成を例示する。回転電機1は、ロータ10と、ステータ20と、シャフト30とを備える。
【0022】
以下の説明では、ロータ10の回転中心Qの方向を「軸方向」と記載し、軸方向と直交する方向を「径方向」と記載し、ロータ10の回転方向に沿う方向を「周方向」と記載する。回転中心Qから遠い側を「径方向外側」と記載し、回転中心Qに近い側を「径方向内側」と記載する。軸方向と直交する断面の形状を「横断面形状」と記載する。
【0023】
〔ステータ〕
ステータ20は、径方向においてロータ10とエアギャップを隔てて対向する。ステータ20は、ステータコア21と、複数のコイル22とを有する。
【0024】
ステータコア21は、円環状に形成されたバックヨーク21aと、バックヨーク21aから径方向内方に突出する複数のティース21bとを有する。例えば、ステータコア21は、複数枚の電磁鋼板製の薄板材が軸方向に積層された積層コアである。
【0025】
複数のコイル22は、複数のティース21bに巻回される。複数のコイル22が通電すると、複数のコイル22に磁束が発生する。例えば、複数のコイル22は、三相コイルである。
【0026】
この例では、複数のコイル22において発生する磁束には、ロータ10を回転させるための磁束である回転磁束と、後述する第1可変磁石51および第2可変磁石52の磁化状態を変化させるための磁束である可変磁束(所定の磁束)とが含まれる。
【0027】
例えば、複数のコイル22に交流電流を供給することにより、複数のコイル22に回転磁束が発生する。この回転磁束によりロータ10が回転する。また、ロータ10の回転中(または停止中)に、複数のコイル22に所定の電流(例えば回転磁束を発生させる交流電流よりも高いパルス電流)を所定の時間だけ供給することにより、複数のコイル22に可変磁束が発生する。この可変磁束により後述する第1可変磁石51および第2可変磁石52の磁化状態が変化する。
【0028】
〔ロータ〕
次に、
図1および
図2を参照して、ロータ10について説明する。ロータ10は、ロータコア11と、複数の磁極部12と、複数の異方性磁気部材15とを備える。図中の直線の矢印は、磁石の磁化方向を例示している。
【0029】
〔ロータコア〕
ロータコア11は、円柱状に形成される。例えば、ロータコア11は、複数枚の電磁鋼板製の薄板材が軸方向に積層された積層コアである。ロータコア11の中央部には、軸孔S30が設けられる。軸孔S30には、シャフト30が挿入されて固定される。
【0030】
〔磁極部〕
複数の磁極部12は、ロータコア11に設けられ、周方向に並ぶ。複数の磁極部12の各々は、固定磁石40と、第1可変磁石51と、第2可変磁石52と、第1補助磁石61と、第2補助磁石62と、第1非磁性部材71と、第2非磁性部材72とを有する。
【0031】
〈固定磁石〉
固定磁石40は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、固定磁石40は、ロータコア11に設けられた固定磁石孔S40に収容される。また、固定磁石40は、径方向と直交する方向(接線方向)に延びる。具体的には、固定磁石40は、横断面形状が矩形状に形成され、長手方向が接線方向を向く。
【0032】
また、固定磁石40は、径方向に着磁される。この例では、径方向外端がN極となる固定磁石40と径方向外端がS極となる固定磁石40とが周方向に交互に並ぶように、複数の固定磁石40が着磁される。
【0033】
なお、固定磁石40は、磁化方向を維持する永久磁石である。具体的には、固定磁石40は、所定の磁束(この例ではステータ20のコイル22において発生する可変磁束)が印加されても磁化状態が実質的に変化しない。固定磁石40は、第1可変磁石51および第2可変磁石52よりも、磁化状態が変化しにくい永久磁石である。例えば、固定磁石40の保磁力は、第1可変磁石51および第2可変磁石52の保磁力よりも高い。固定磁石40の例としては、Nd-Fe-B系磁石、Sm-Co系磁石、金属系磁石(例えばFe-Ni系磁石)、フェライト系磁石などが挙げられる。
【0034】
〈可変磁石〉
複数の磁極部12の各々に含まれる第1可変磁石51は、その磁極部12の周方向の一端側(
図1および
図2の例では時計回りの方向の隣り)に位置する別の磁極部12に含まれる第2可変磁石52と、q軸を挟んで隣り合う。q軸は、周方向において隣り合う2つの磁極部12の間を通過して径方向に延びる仮想線である。
【0035】
また、複数の磁極部12の各々において、第1可変磁石51と第2可変磁石52は、固定磁石40の周方向における中央を通過して径方向に延びる仮想線(d軸)を軸として対称となっている。
【0036】
〈第1可変磁石〉
第1可変磁石51は、固定磁石40の周方向の一端側に配置される。第1可変磁石51は、周方向において固定磁石40と間隔をおいて対向する。第1可変磁石51とq軸との間の周方向長さは、第1可変磁石51と固定磁石40との間の周方向長さよりも短い。
【0037】
第1可変磁石51は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、第1可変磁石51は、ロータコア11に設けられた第1可変磁石孔S51に収容される。また、第1可変磁石51は、q軸(周方向において隣り合うq軸)に沿うように延びる。具体的には、第1可変磁石51は、横断面形状が矩形状に形成され、長手方向がq軸と平行な方向を向く。
【0038】
〈第2可変磁石〉
第2可変磁石52は、固定磁石40の周方向の他端側に配置される。第2可変磁石52は、周方向において固定磁石40と間隔をおいて対向する。第2可変磁石52とq軸との間の周方向長さは、第2可変磁石52と固定磁石40との間の周方向長さよりも短い。
【0039】
第2可変磁石52は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、第2可変磁石52は、ロータコア11に設けられた第2可変磁石孔S52に収容される。また、第2可変磁石52は、q軸(周方向において隣り合うq軸)に沿うように延びる。具体的には、第2可変磁石52は、横断面形状が矩形状に形成され、長手方向がq軸と平行な方向を向く。
【0040】
〈可変磁石の磁気特性〉
なお、第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々は、磁化状態を変化させることが可能な永久磁石である。具体的には、第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々は、所定の磁束(この例ではステータ20のコイル22において発生する可変磁束)により周方向における磁化状態を変化させることが可能である。第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々は、固定磁石40よりも、磁化状態が変化しやすい永久磁石である。例えば、第1可変磁石51および第2可変磁石52の保磁力は、固定磁石40の保磁力よりも低い。第1可変磁石51および第2可変磁石52の例としては、Sm-Co系磁石、Nd-Fe-B系磁石、金属系磁石(例えばFe-Ni系磁石)、フェライト系磁石、Al-Ni-Co系磁石などが挙げられる。
【0041】
この例では、第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々の磁化容易方向は、径方向と直交する方向(接線方向)を向く。第1可変磁石51の磁化困難方向は、第1可変磁石51の磁化容易方向と直交する方向(この例では径方向)を向く。第2可変磁石52の磁化困難方向は、第2可変磁石52の磁化容易方向と直交する方向(この例では径方向)を向く。
【0042】
また、この例では、第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々は、磁化方向が第1方向を向く第1状態と、磁化方向が第2方向を向く第2状態と、磁力が実質的にゼロとなるゼロ状態とに切り換え可能である。第1方向は、ティース21bと鎖交する磁束(有効磁束)を増加させる方向である。第2方向は、ティース21bと鎖交する磁束(有効磁束)を減少させる方向である。例えば、固定磁石40の磁化方向が径方向外方へ向かう方向である場合、第1方向は、第1可変磁石51(または第2可変磁石52)から固定磁石40へ向かう方向となり、第2方向は、固定磁石40から第1可変磁石51(または第2可変磁石52)へ向かう方向となる。
【0043】
〈補助磁石〉
複数の磁極部12の各々において、第1補助磁石61と第2補助磁石62は、固定磁石40の周方向における中央を通過して径方向に延びる仮想線(d軸)を軸として対称となっている。
【0044】
〈第1補助磁石〉
第1補助磁石61は、固定磁石40と第1可変磁石51との間に配置される。第1補助磁石61と固定磁石40との間の周方向長さは、第1補助磁石61と第1可変磁石51との間の周方向長さよりも短い。
【0045】
第1補助磁石61は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、第1補助磁石61は、ロータコア11に設けられた第1補助磁石孔S61に収容される。また、第1補助磁石61は、固定磁石40の周方向の一端部に沿うように延びる。具体的には、第1補助磁石61は、横断面形状が矩形状に形成され、短手方向が固定磁石40の長手方向を向く。
【0046】
第1補助磁石61は、固定磁石40の径方向外端と第1可変磁石51との間における磁束の流れを阻害する方向に着磁される。具体的には、固定磁石40の磁化方向が径方向外方へ向かう方向である場合、第1補助磁石61の磁化方向は、第1可変磁石51から固定磁石40へ向かう方向となる。固定磁石40の磁化方向が径方向内方へ向かう方向である場合、第1補助磁石61の磁化方向は、固定磁石40から第1可変磁石51へ向かう方向となる。
【0047】
〈第2補助磁石〉
第2補助磁石62は、固定磁石40と第2可変磁石52との間に配置される。第2補助磁石62と固定磁石40との間の周方向長さは、第2補助磁石62と第2可変磁石52との間の周方向長さよりも短い。
【0048】
第2補助磁石62は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、第2補助磁石62は、ロータコア11に設けられた第2補助磁石孔S62に収容される。また、第2補助磁石62は、固定磁石40の周方向の他端部に沿うように延びる。具体的には、第2補助磁石62は、横断面形状が矩形状に形成され、短手方向が固定磁石40の長手方向を向く。
【0049】
第2補助磁石62は、固定磁石40の径方向外端と第2可変磁石52との間における磁束の流れを阻害する方向に着磁される。具体的には、固定磁石40の磁化方向が径方向外方へ向かう方向である場合、第2補助磁石62の磁化方向は、第2可変磁石52から固定磁石40へ向かう方向となる。固定磁石40の磁化方向が径方向内方へ向かう方向である場合、第2補助磁石62の磁化方向は、固定磁石40から第2可変磁石52へ向かう方向となる。
【0050】
〈補助磁石の磁気特性〉
なお、第1補助磁石61および第2補助磁石62の各々は、磁化方向を維持する永久磁石である。具体的には、第1補助磁石61および第2補助磁石62の各々は、所定の磁束(この例ではステータ20のコイル22において発生する可変磁束)が印加されても磁化状態が実質的に変化しない。第1補助磁石61および第2補助磁石62は、第1可変磁石51および第2可変磁石52よりも、磁化状態が変化しにくい永久磁石である。例えば、第1補助磁石61および第2補助磁石62の保磁力は、第1可変磁石51および第2可変磁石52の保磁力よりも高い。第1補助磁石61および第2補助磁石62の例としては、Nd-Fe-B系磁石、Sm-Co系磁石、金属系磁石(例えばFe-Ni系磁石)、フェライト系磁石などが挙げられる。
【0051】
〈補助磁石の詳細〉
この例では、第1補助磁石61および第2補助磁石62の各々の径方向外端は、固定磁石40の径方向外端よりも径方向外側に位置する。
【0052】
また、この例では、第1補助磁石61は、固定磁石40の周方向の一端部と接触する。具体的には、第1補助磁石孔S61は、固定磁石孔S40と連通する。第1補助磁石61は、固定磁石孔S40に収容された固定磁石40と接触した状態で第1補助磁石孔S61に収容される。
【0053】
また、この例では、第2補助磁石62は、固定磁石40の周方向の他端部と接触する。具体的には、第2補助磁石孔S62は、固定磁石孔S40と連通する。第2補助磁石62は、固定磁石孔S40に収容された固定磁石40と接触した状態で第2補助磁石孔S62に収容される。
【0054】
〈非磁性部材〉
複数の磁極部12の各々に含まれる第1非磁性部材71は、その磁極部12の周方向の一端側(
図1および
図2の例では時計回りの方向の隣り)に位置する別の磁極部12に含まれる第2非磁性部材72と、q軸を挟んで隣り合う。
【0055】
複数の磁極部12の各々において、第1非磁性部材71と第2非磁性部材72は、固定磁石40の周方向における中央を通過して径方向に延びる仮想線(d軸)を軸として対称となっている。例えば、第1非磁性部材71と第2非磁性部材72は、絶縁性を有する樹脂により構成される。
【0056】
〈第1非磁性部材〉
第1非磁性部材71は、第1補助磁石61および固定磁石40の径方向内側に配置される。第1非磁性部材71は、第1補助磁石61および固定磁石40の径方向内端と間隔をおいて対向する。
【0057】
第1非磁性部材71は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、第1非磁性部材71は、ロータコア11に設けられた第1収容孔S71に収容される。また、第1非磁性部材71は、q軸(周方向において隣り合うq軸)に沿うように延びる。具体的には、第1非磁性部材71の横断面形状は、台形状に形成される。第1非磁性部材71の一方の斜辺は、q軸と平行な方向を向き、第1非磁性部材71の他方の斜辺は、d軸と平行な方向を向く。
【0058】
この例では、第1非磁性部材71は、第1可変磁石51を保持するための部材である。具体的には、第1収容孔S71は、第1可変磁石孔S51と連通する。第1非磁性部材71は、第1可変磁石51へ向けて突出する突出部を有する。そして、第1非磁性部材71は、その突出部が第1可変磁石孔S51に収容された第1可変磁石51を径方向外方に押し付けた状態で、第1収容孔S71に収容される。
【0059】
また、この例では、第1非磁性部材71は、第1中空部71aを有する。第1中空部71aは、第1非磁性部材71を軸方向に貫通する。
【0060】
〈第2非磁性部材〉
第2非磁性部材72は、第2補助磁石62および固定磁石40の径方向内側に配置される。第2非磁性部材72は、第2補助磁石62および固定磁石40の径方向内端と間隔をおいて対向する。
【0061】
第2非磁性部材72は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、第2非磁性部材72は、ロータコア11に設けられた第2収容孔S72に収容される。また、第2非磁性部材72は、q軸(周方向において隣り合うq軸)に沿うように延びる。具体的には、第2非磁性部材72の横断面形状は、台形状に形成される。第2非磁性部材72の一方の斜辺は、q軸と平行な方向を向き、第2非磁性部材72の他方の斜辺は、d軸と平行な方向を向く。
【0062】
この例では、第2非磁性部材72は、第2可変磁石52を保持するための部材である。具体的には、第2収容孔S72は、第2可変磁石孔S52と連通する。第2非磁性部材72は、第2可変磁石52へ向けて突出する突出部を有する。そして、第2非磁性部材72は、その突出部が第2可変磁石孔S52に収容された第2可変磁石52を径方向外方に押し付けた状態で、第2収容孔S72に収容される。
【0063】
また、この例では、第2非磁性部材72は、第2中空部72aを有する。第2中空部72aは、第2非磁性部材72を軸方向に貫通する。
【0064】
〈切り欠き部〉
第1可変磁石51の径方向外側には、第1切り欠き部S55が設けられる。第1切り欠き部S55は、ロータコア11の外周面に設けられ、軸方向に延びる。この例では、第1切り欠き部S55は、第1可変磁石孔S51と連通する。
【0065】
第2可変磁石52の径方向外側には、第2切り欠き部S56が設けられる。第2切り欠き部S56は、ロータコア11の外周面に設けられ、軸方向に延びる。この例では、第2切り欠き部S56は、第2可変磁石孔S52と連通する。
【0066】
〈空隙部〉
第1補助磁石61の径方向外側には、第1空隙部S65が設けられる。第1空隙部S65は、ロータコア11を軸方向に貫通する。この例では、第1空隙部S65は、第1補助磁石孔S61と連通する。
【0067】
第2補助磁石62の径方向外側には、第2空隙部S66が設けられる。第2空隙部S66は、ロータコア11を軸方向に貫通する。この例では、第2空隙部S66は、第2補助磁石孔S62と連通する。
【0068】
〔異方性磁気部材〕
複数の異方性磁気部材15は、ロータコア11に設けられ、複数の磁極部12の間のq軸上にそれぞれ配置される。複数の異方性磁気部材15は、互いに同様の構成を有する。異方性磁気部材15の例としては、方向性電磁鋼板(異方性電磁鋼板とも言う)、誘導磁気異方性を活用した非晶質磁性材などが挙げられる。誘導磁気異方性を活用した非晶質磁性材の例としては、Fe-Co-Si-B、Fe-Co-Si-B-Nbなどが挙げられる。
【0069】
複数の異方性磁気部材15の各々は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、異方性磁気部材15は、ロータコア11に設けられた収容孔S15に収容される。また、異方性磁気部材15は、径方向に延び、q軸を軸として対称となっている。具体的には、異方性磁気部材15は、横断面形状が矩形状に形成され、長手方向がq軸方向を向く。
【0070】
この例では、複数の磁極部12の各々に含まれる第1非磁性部材71は、その磁極部12の周方向の一端側に位置する別の磁極部12に含まれる第2非磁性部材72と、異方性磁気部材15を挟んで隣り合う。
【0071】
また、複数の異方性磁気部材15の各々の磁化容易方向は、q軸方向を向く。複数の異方性磁気部材15の各々の磁化困難方向は、その異方性磁気部材15の磁化容易方向と直交する方向(この例ではq軸方向と直交する方向)を向く。
【0072】
〔非形成領域〕
ロータコア11の複数の磁極部12の間のq軸上に位置する部分の各々において、そのq軸を挟んで隣り合う第1可変磁石51と第2可変磁石52の間の部分には、異方性磁気部材15が形成されない非形成領域16が設けられる。
【0073】
非形成領域16は、その非形成領域16に対応する異方性磁気部材15の径方向外端を始端とし、ロータコア11の外周縁を終端とする領域である。
【0074】
〔非形成領域の詳細〕
次に、
図3を参照して、非形成領域16について詳しく説明する。
【0075】
図3において、第1曲線L1は、動力性能指標の変化を示す。第2曲線L2は、可変性能指標の変化を示す。動力性能指標は、鎖交磁束量(ティース21bと鎖交する磁束の量)に対応し、q軸方向に流れる磁束の量に対応する。可変性能指標は、第1可変磁石51および第2可変磁石52を通過する磁束の量に対応し、d軸方向における磁束の量に対応する。
【0076】
また、
図3において、開始位置P0は、非形成領域16を挟んで隣り合う第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々の径方向内端よりも径方向内側に存在する位置である。第1位置P1は、非形成領域16を挟んで隣り合う第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々の径方向内端に対応する位置である。第2位置P2は、非形成領域16を挟んで隣り合う第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々の径方向における中央に対応する位置である。終了位置P3は、非形成領域16を挟んで隣り合う第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々の径方向外端に対応する位置である。
【0077】
図3に示すように、動力性能指標は、非形成領域16の始端が開始位置P0から第2位置P2までの範囲にある場合に、比較的に高い値となり、非形成領域16の始端が第2位置P2から終了位置P3へ向かうに連れて、次第に低下していく。一方、可変性能指標は、非形成領域16の始端が開始位置P0から第1位置P1へ向かうに連れて、急峻に上昇していき、非形成領域16の始端が第1位置P1から第2位置P2に向かうに連れて、緩やかに上昇し、非形成領域16の始端が第2位置P2から終了位置P3に向かうに連れて、急峻に上昇する。このように、非形成領域16の始端が第1位置P1から第2位置P2までの範囲に位置する場合、動力性能指標と可変性能指標がバランス良く良好となる。
【0078】
この例では、非形成領域16の始端は、第1位置P1から第2位置P2までの範囲内に位置する。第1位置P1は、非形成領域16を挟んで隣り合う第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々の径方向内端に対応する位置である。第2位置P2は、非形成領域16を挟んで隣り合う第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々の径方向における中央に対応する位置である。
【0079】
〔実施形態の効果〕
以上のように、実施形態のロータ10では、磁化容易方向がq軸方向を向く異方性磁気部材15をq軸上に設けることにより、q軸方向に流れる磁束を増加させることができる。また、q軸を挟んで隣り合う第1可変磁石51と第2可変磁石52との間に非形成領域16(異方性磁気部材15が形成されない領域)を設けることにより、q軸を挟んで隣り合う第1可変磁石51と第2可変磁石52とを通過する磁束の流れが異方性磁気部材15により阻害されることを抑制することができる。これにより、第1可変磁石51および第2可変磁石52の各々を通過する磁束の減少を抑制することができる。
【0080】
また、実施形態のロータ10では、第1可変磁石51および第2可変磁石52の径方向内側に、異方性磁気部材15と第1非磁性部材71と第2非磁性部材72とが配置される。このような構成により、第1可変磁石51および第2可変磁石52の径方向内側において周方向における磁束の流れを抑制することができる。これにより、第1可変磁石51および第2可変磁石52に磁束の流れを集中させることができる。
【0081】
また、実施形態のロータ10では、非形成領域16の始端は、第1位置P1から第2位置P2までの範囲内に位置する。このような構成により、q軸方向に流れる磁束の量と第1可変磁石51および第2可変磁石52を通過する磁束の量とを適切に確保することができる。
【0082】
また、実施形態のロータ10では、第1非磁性部材71は、第1可変磁石51を保持する。このような構成により、第1可変磁石51を保持するための部材と第1非磁性部材71とが別部材である場合よりも、部品点数を削減することができる。また、第2非磁性部材72は、第2可変磁石52を保持する。このような構成により、第2可変磁石52を保持するための部材と第2非磁性部材72とが別部材である場合よりも、部品点数を削減することができる。
【0083】
また、実施形態のロータ10では、第1非磁性部材71は、第1中空部71aを有する。このような構成により、第1非磁性部材71の重量を低減することができる。また、第2非磁性部材72は、第2中空部72aを有する。このような構成により、第2非磁性部材72の重量を低減することができる。
【0084】
また、実施形態のロータ10では、第1補助磁石61および第2補助磁石62を設けることにより、固定磁石40の径方向外端と第1可変磁石51および第2可変磁石52との間における磁束の短絡を抑制することができる。これにより、固定磁石40と第1可変磁石51と第2可変磁石52の磁束を有効に利用することができる。
【0085】
(車両)
図4は、回転電機1を備える車両の構成を例示する。この車両は、回転電機1に加えて、制御装置2と、駆動輪3と、動力伝達機構4と、バッテリ5とを備える。
【0086】
制御装置2は、回転電機1を制御する。制御装置2は、駆動部2aと、制御部2bとを有する。駆動部2aは、回転電機1に電力を供給することで回転電機1を駆動させる。制御部2bは、駆動部2aを制御することで回転電機1の動作を制御する。
【0087】
動力伝達機構4は、回転電機1の動力を駆動輪3に伝達する。このようにして、回転電機1の動力が駆動輪3に伝達される。バッテリ5は、駆動部2aおよび制御部2bに電力を供給する。
【0088】
(その他の実施形態)
以上の説明では、回転電機1が車両に設けられる場合を例に挙げたが、これに限定されない。例えば、回転電機1は、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機などに設けられてもよい。
【0089】
また、以上の実施形態を適宜組み合わせて実施してもよい。以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、ここに開示する技術、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上説明したように、ここに開示する技術は、ロータ、回転電機、車両として有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 回転電機
2 制御装置
3 駆動輪
10 ロータ
11 ロータコア
12 磁極部
15 異方性磁気部材
16 非形成領域
20 ステータ
30 シャフト
40 固定磁石
51 第1可変磁石
52 第2可変磁石
61 第1補助磁石
62 第2補助磁石
71 第1非磁性部材
72 第2非磁性部材