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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】車両検査装置及び車両検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20240709BHJP
   G01M 11/06 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G01M17/007 H
G01M11/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020215678
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101224
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀和
(72)【発明者】
【氏名】北村 巧
(72)【発明者】
【氏名】井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】品野 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】金 壯憲
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰啓
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-127930(JP,A)
【文献】特開2013-043564(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218251(WO,A1)
【文献】特開平10-059061(JP,A)
【文献】特開平08-271249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
G01M 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を停止させ且つ静止させた状態において車載機器の向きを検査する車両検査装置であって、
停止させた上記車両から離れて配置され、上記車載機器の向きを検査するための検査機器と、
停止させた上記車両のサスペンションのダンパーに対して上記検査の前に振動を付与する加振機とを備えていることを特徴とする車両検査装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記加振機は上記車両のタイヤに振動を加え、該タイヤから上記ダンパーに振動を付与することを特徴とする車両検査装置。
【請求項3】
請求項2において、
停止させた上記車両のタイヤに車幅方向内側から当接して該車両を上記検査機器に正対させるイコライザを備え、
上記加振機は上記イコライザから上記タイヤに振動が加わるように上記イコライザに取り付けられていることを特徴とする車両検査装置。
【請求項4】
請求項3において、
上記加振機は上記イコライザの車幅方向内側に取り付けられていることを特徴とする車両検査装置。
【請求項5】
請求項2において、
上記加振機は上記車両の停止位置において上記タイヤが載る床部材に取り付けられていることを特徴とする車両検査装置。
【請求項6】
請求項3又は請求項4において、
上記イコライザは上記車両の全輪各々に設けられ、各イコライザに上記加振機が設けられていることを特徴とする車両検査装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
上記車載機器は上記車両のヘッドライトであり、
上記検査機器は上記ヘッドライトの向きを検査する機器であることを特徴とする車両検査装置。
【請求項8】
車両を停止させ且つ静止させた状態において車載機器の向きを検査する車両検査方法であって、
上記車両を検査位置に停止させるステップと、
停止させた上記車両のサスペンションのダンパーに対して振動を付与するステップと、
上記ダンパーへの上記振動の付与を止めて上記車両を静止させるステップと、
上記車両から離れて配置した検査機器によって上記静止した車両の上記車載機器の向きを検査するステップとを備えていることを特徴とする車両検査方法。
【請求項9】
請求項8において、
上記車両のタイヤに振動を加え、該タイヤから上記ダンパーに振動を付与することを特徴とする車両検査方法。
【請求項10】
請求項9において、
停止させた上記車両のタイヤに車幅方向内側から当接して該車両を上記検査機器に正対させるイコライザを備え、
上記イコライザから上記タイヤに振動を加えることを特徴とする車両検査方法。
【請求項11】
請求項10において、
上記イコライザは上記車両の全輪各々に設けられ、各イコライザから上記全輪各々のタイヤに振動を加えることを特徴とする車両検査方法。
【請求項12】
請求項8乃至請求項11のいずれか一において、
上記車載機器は上記車両のヘッドライトであり、
上記検査機器は上記ヘッドライトの向きを検査する機器であることを特徴とする車両検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両検査装置及び車両検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組立てが終了した車両には、タイヤのアライメント検査、ヘッドライトの配光特性検査、ブレーキ特性検査、ドラムテスタによる速度計等の検査、ADAS(先進運転支援システム)のレーダーやカメラの調整を行なうAS(active safety)検査等がインラインで実施される。ヘッドライトの検査に関し、特許文献1には、ヘッドライトテスタ(ヘッドライトの照射分布を模擬確認するもの)に設けたカメラによってヘッドライトの形状を撮像して、ヘッドライトテスタを車両に正対する位置に移動させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-127930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両のヘッドライトやレーダー、カメラ等の車載機器のインライン検査においては、検査員が車両を運転して検査位置に停止させる。検査員が降車した後、検査機器によって車載機器の向きの検査が実施される。例えば、ヘッドライトにあっては、テスタにて配光特性が検査され、所期の特性となるようように、ヘッドライトの向きが調整される。しかし、その調整にも拘わらず、車両の監査段階になって、配光特性の調整不良が発見されることがある。
【0005】
本発明は、上述の如き、ヘッドライト、レーダー、車両姿勢センサなどの車載機器の検査及び調整の信頼性を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、車載機器の向きを調整しても調整不良が出る問題について様々な観点から検討した結果、その一因がサスペンションのダンパーのフリクションにあることを突き止めた。この点を説明する。サスペンションのダンパーは、車両の検査のために検査員が乗車し車両を移動停止させて降車する過程で伸び或いは縮む。しかし、車両を検査する時になっても、ダンパーの摺動部のフリクションの影響によってその伸び又は縮みの状態が完全には解消されず、そのため、車両が前後又は左右に傾いた姿勢で当該検査が実施された場合、上記調整不良を発生させる一因となる可能性があるということである。
【0007】
そこで、本発明は、車両を検査のために停止させた後、検査前にサスペンションのダンパーの摺動部に振動を付与することで、静摩擦を動摩擦に移行させて、フリクションの影響を減少させるようにした。
【0008】
ここに開示する車両検査装置は、車両を停止させ且つ静止させた状態において車載機器の向きを検査する装置であって、
停止させた上記車両から離れて配置され、上記車載機器の向きを検査するための検査機器と、
停止させた上記車両のサスペンションのダンパーに対して上記検査の前に振動を付与する加振機とを備えていることを特徴とする。
【0009】
また、ここに開示する車両検査方法は、車両を停止させ且つ静止させた状態において車載機器の向きを検査する方法であって、
上記車両を検査位置に停止させるステップと、
停止させた上記車両のサスペンションのダンパーに対して振動を付与するステップと、
上記ダンパーへの上記振動の付与を止めて上記車両を静止させるステップと、
上記車両から離れて配置した検査機器によって上記静止した車両の上記車載機器の向きを検査するステップとを備えていることを特徴とする。
【0010】
上記車両検査装置及び車両検査方法のいずれにおいても、サスペンションのダンパーの摺動部は、検査前の振動の付与によって摩擦力が大きい静摩擦状態から摩擦力が小さい動摩擦状態になる。すなわち、ダンパーの相対的に摺動する一方の部材が他方の部材に対して摩擦力によって拘束された状態が解かれる。その結果、ダンパーは摩擦拘束によって伸びた状態又は縮んだ状態から、車両走行中の路面からの細かい振動が加わって摩擦拘束がない状態と同様の状態になる。従って、車両は、上記振動の付与を止めて静止させたとき、走行中の姿勢に近い状態になる。よって、車載機器の向きの検査の信頼性が高くなり、当該状態での車載機器の向きの調整により、調整不良を生ずることが少なくなる。
【0011】
上記車両検査装置及び車両検査方法各々の一実施形態では、上記車両のタイヤに振動を加え、該タイヤから上記ダンパーに振動を付与する。これによれば、ダンパーに対して車両走行中と同様の振動を付与することが容易になる。
【0012】
上記車両検査装置及び車両検査方法各々の一実施形態では、停止させた上記車両のタイヤに車幅方向内側から当接して該車両を上記検査機器に正対させるイコライザを備え、このイコライザから上記タイヤに振動を加える。これによれば、タイヤに当接するイコライザを利用して該タイヤに振動を確実に加えることができる。
【0013】
上記車両検査装置及び車両検査方法各々の一実施形態では、上記イコライザは上記車両の全輪各々に設けられ、各イコライザから上記全輪各々のタイヤに振動を加える。これによれば、振動を車両のダンパーに確実に付与することができる。
【0014】
上記車両検査装置及び車両検査方法各々の一実施形態では、上記車載機器は上記車両のヘッドライトであり、上記検査機器は上記ヘッドライトの向きを検査する機器である。従って、車両を走行中の姿勢に近い状態にしてヘッドライトの向きを検査することができるから、ヘッドライトの調整不良を減少させることができる。
【0015】
上記車両検査装置の一実施形態では、上記加振機は上記イコライザの車幅方向内側に取り付けられている。これによれば、車両を検査位置に乗り入れるときの加振機との干渉を避けることができる。
【0016】
上記車両検査装置の一実施形態では、上記加振機は上記車両の停止位置において上記タイヤが載る床部材に取り付けられている。これによれば、タイヤを振動を効率良く加えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サスペンションのダンパーの摺動部の摩擦拘束を解き、車両を走行中の姿勢に近い状態にして車載機器の向きを検査することができるから、検査の信頼性が高くなり、よって、車載機器の調整不良を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ヘッドライト検査ステーションの平面図。
図2】同ステーションの側面図。
図3】車両のサスペンションの正面図。
図4】加振機が取り付けられた正対装置を示す斜視図。
図5】車両の側面図。
図6】車両に加える荷重を変化させたときの車高の変化(ヒステリシスループ)を示すグラフ図。
図7】ヘッドライト検査図。
図8】カットオフを有するヘッドライトのエルボー点の判定基準を示す図。
図9】AS検査ステーションの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
<ヘッドライトテスタ>
図1及び図2に車両検査装置としてのヘッドライトテスタを示す。同図において、1は車両2のヘッドライト3の向き(配光特性)を検査する検査機器、4は車両2を検査機器1に正対させる正対装置である。ヘッドライトテスタは車両2の左右各々のヘッドライト3を検査するための2つの検査機器1を備えている。両検査機器1は基台6に立設された支柱7に昇降可能に支持されている。基台6は車両進入方向と直交する2本のガイドレール8に移動可能に支持されている。検査機器1は、ガイドレール8による横移動と支柱7による昇降によって検査位置に位置づけられる。
【0021】
検査機器1は、ヘッドライト3の照射光を受ける集光ボックス11と、集光ボックス11の上に搭載された表示装置12とを備えている。集光ボックス11は、車両2の方を向いたボックス前面に集光レンズを備え、ボックス後面に集光レンズ7で得られた照射光の配光パターンを受像するスクリーンを備えている。集光ボックス8の内部にはスクリーン上の配光パターンを撮像して配光情報を取得するカメラが設けられている。配光情報は表示装置12に出力される。
【0022】
正対装置4は、車両2の左右の前輪13が載る前輪床14と、左右の後輪15が載る後輪床16と、左右の前輪13各々の内側に当接する左右の前輪イコライザ17と、左右の後輪15各々の内側に当接する左右の後輪イコライザ18とを備えている。前輪床14及び後輪床16は、ロックによって定位置に固定され、ロックの解除によって車幅方向に遊動し得るように設けられている。左右の前輪イコライザ17は、正対装置4の車両進入方向に延びる中心線と平行に且つ該中心線に関して互いに対称に配置されている。同じく、左右の後輪イコライザ18も、上記中心線と平行に且つ該中心線に関して互いに対称に配置されている。左右の前輪イコライザ17及び左右の後輪イコライザ18各々は、上記対称関係を保って同期して左右に移動する、つまり、左右のイコライザ間隔が拡大・縮小するように設けられている。
【0023】
正対装置4の作動を説明する。前輪床14及び後輪床16は車両2の乗り入れ時にはロックされている。車両2の前輪13が前輪床14に載り、後輪15が後輪床16に載った状態で、床14,16のロックが解除され、前輪イコライザ17及び後輪イコライザ18が上記イコライザ間隔を拡大するように作動する。左右の前輪イコライザ17の一方が左右の前輪13の一方に当接し、左右の後輪イコライザ18の一方が左右の後輪15の一方に当接することに伴って、前輪床14及び後輪床16が当該当接したイコライザ側に遊動していく。左右の前輪イコライザ17の両方及び左右の後輪イコライザ18の両方が左右の前輪13及び左右の後輪15に車幅方向内側から当接した状態になると、前輪床14及び後輪床16の遊動が止まる。これにより、車両2(ヘッドライト3)が検査機器1に正対する状態になる。
【0024】
車両2の前輪13側には、図3に示すスプリング21及びダンパー(ショックアブソーバー)22を備えたマクファーソン式サスペンション23(フロントサスペンション)が設けられている。同図において、24は前輪ハブである。車両2の後輪15側には、図示は省略するが、スプリング及びダンパーを備えた車軸式サスペンション等のリヤサスペンションが設けられている。
【0025】
図1及び図4に示すように、左右の前輪イコライザ17及び左右の後輪イコライザ18各々(4つのイコライザ各々)の車幅方向内側には加振機25が取り付けられている。加振機25は、イコライザ17,18に振動を加え、イコライザ17,18から、車両2の前輪13及び後輪15の各タイヤを介して、フロントサスペンションのダンパー21及びリヤサスペンションのダンパーに振動を付与する。本実施形態では加振機として振動モータを用いている。超音波振動機など他の加振機を採用することもできる。
【0026】
<サスペンションのダンパーの特性>
サスペンションのダンパーの特性について説明する。車両2の前部を上から押圧すると、フロントサスペンションのスプリング21及びダンパー22が圧縮され、車両2は図5に実線で示す言わば水平な状態から鎖線で示す若干前下がりに傾いた状態になる。車両2の前部の押圧を解除すると、スプリング21の復元力によって車両2は前下がり状態から元の状態に戻っていく。しかし、スプリング21の動きを抑制するダンパー22の摺動部のフリクションにより、車両2は元の状態にまで完全には戻らず、僅かに前下がりになる。
【0027】
図6に、車両2に荷重を加えていったとき及び荷重を減らしていったときの車高の変化を示す。荷重の増大時と減少時では同じ荷重でも車高が数mm違っている。これはダンパー22のフリクションの影響である。
【0028】
ここに、前輪13位置の車高が-3mm、後輪15位置の車高が+3mmずれると、ホイールベースが2700mmであるときは、ヘッドライト3の光軸が前下がりに0.127度傾くことになる。ヘッドライト3から前方に10m離れた位置での高さ方向のずれ量は22mmにもなる。
【0029】
<ヘッドライトテスト>
検査員が車両2に乗車して車両2を検査ステーションに進入させ、前輪13及び後輪15をロックされている前輪床14及び後輪床16に載せて降車する。
【0030】
スイッチ操作で正対装置4を起動すると、前輪床14及び後輪床16のロックが解除され、左右の前輪イコライザ17及び左右の後輪イコライザ18がそれぞれ車幅方向両外側に移動する。左右の前輪イコライザ17が車両2の左右の前輪13のタイヤに内側から当接し、左右の後輪イコライザ18が左右の後輪15のタイヤに内側に当接して、車両2は検査機器1に正対する状態になる。
【0031】
車両2の正対のためにイコライザ17,18をタイヤに圧接したままにすると、イコライザ17,18からタイヤを介してサスペンションのダンパーの摺動部に横方向の力が加わり、フリクションが増加し、或いは力の加わり方によっては車体を持ち上げる又は押し下げる力が働く可能性がある。従って、車両2の正対後は、イコライザ17,18を駆動する動力をオフにしてイコライザ17,18からダンパーに力が加わらないようにすることが好ましい。
【0032】
スイッチ操作で加振機25を作動させてイコライザ17,18に振動を加え、イコライザ17,18から、車両2の前輪13及び後輪15の各タイヤを介して、フロント及びリヤの各サスペンションのダンパーに振動を数秒間付与する。これにより、ダンパーは、摩擦力が大きい静摩擦状態から摩擦力が小さい動摩擦状態になる。すなわち、ダンパーの相対的に摺動する一方が他方に対して摩擦力によって拘束された状態が解かれる。その結果、ダンパーは摩擦拘束によって伸びた状態又は縮んだ状態から、車両走行中の路面からの細かい振動が加わって摩擦拘束がない状態と同様の状態になる。従って、車両2は、上記振動の付与を止めて静止させたとき、走行中の姿勢に近い状態になる。
【0033】
上記ダンパーへの振動の付与を停止して車両2を静止させた後、スイッチ操作で検査機器1をヘッドライト3の前方に移動させ、集光ボックス8のスクリーンに受像されたヘッドライト3の照射光の配光パターンをカメラにて撮像して配光情報を表示装置12に表示する。この場合のヘッドライト3とスクリーンの距離は1.3mである。上記配光情報から照射範囲・遮光範囲をチェックしてカメラの位置を調整する。カメラ画像にはエルボー点とこのエルボー点が入るべき矩形枠が表示される。
【0034】
ヘッドライトテストでは、車両にドライバー1名が乗車、燃料タンク、クーラント、オイル類などが満杯状態の車両姿勢でのエイミングが要求される。インラインではドライハーが降車し、燃料タンク等は満杯状態でないため、ドライバーや燃料等の重量の差分を考慮して集光ボックス8の位置乃至姿勢が予め調整される。
【0035】
ここで、エルボー点について、車両2のヘッドライト3に要求される配光特性の判定基準に基いて説明する。ヘッドライト3のロービームの照射方向の調整に用いる光の明部と暗部を分ける境界線をカットオフラインという。図7に示すように、カットオフラインは、水平カットオフライン及び斜めカットオフラインを有し、両ラインの交点がエルボー点である。図7はヘッドライト3から前方に10m離れた位置においてエルボー点が入るべき範囲26を示している。すなわち、エルボー点は、ロービームでの照明部中心から下方に20mm離れた水平線と150mm離れた水平線と左右両側に270mm離れた垂直線で囲まれた範囲26内に入ることが要求される。なお、図7において、照明部中心から下方に110mmと左方に230mm離れた測定点は、明確なカットオフラインが出ないときの光度測定点である。
【0036】
上記検査機器1によるヘットライトテストでは、カメラ画像上において、エルボー点が矩形枠に入っているか否かを検査し、エルボー点が矩形枠内にないときはその矩形枠に入るようにヘッドライト3の調整ねじを回して照明角度を調整する。車体の傾きに応じてヘッドライト3の方向を自動調整する機構を備えた車両にあっては、上記照明角度の調整と共に、当該自動調整のための車載の水平センサのキャリブレーションを実施する。
【0037】
カメラ画像による配光特性の検査(必要に応じて生じた照明角度の調整)後、スイッチ操作で検査機器1及びイコライザ17,18を原位置に戻す。車両2を検査ステーションから退出させた後、前輪床14及び後輪床16をロックする。
【0038】
上述の如く、ヘッドライト3の検査にあたり、事前にダンパーに振動を付与してダンバーの摺動部の摩擦による拘束を解くから、車両2を走行時と同様の言わば水平な状態にすることができる。よって、ヘッドライト3の向き(照明角度)の検査(調整)の信頼性が高くなる。従って、ヘッドライト3から前方に10m離れた位置においてエルボー点が図7に示す範囲26に入っているか否かの検査においても、合格となり易くなる。また、車載の水平センサのキャリブレーションの精度も高くなる。すなわち、キャリブレーション不良の発生が防止される。
【0039】
<振動付与効果の確認>
イコライザ17,18から加振機25によって車両2のダンパーに振動を付与したときの車高の変化を調べた。車高測定は、表1に示す「停車直後」→「イコライザ当接」→「加振」→「イコライザ離れ」→「4名乗車」→「加振」→「車輌再投入」→「加振」→「持ち上げ」→「加振」の順に行なった。このかぎ括弧書きの表記の意味は下記のとおりである。また、車高は、前輪13及び後輪15各々中心からフェンダアーチの頂点までの高さである。車高の計測値及び計測値の平均値と各計測値との差を表1に示している。また、平均値と各計測値との差を図8に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
(かぎ括弧書きの表記の意味)
「停車直後」;車両2を検査位置に停車させ、ドライバが降車した直後(加振なし)
「イコライザ当接」;イコライザ17,18をタイヤに当接したとき(加振なし)
「加振」;加振機25でイコライザ17,18からタイヤを加振した直後
「イコライザ離れ」;イコライザ17,18をタイヤから離した直後(加振なし)
「4名乗車」;大人4名が乗車し降車した直後(加振なし)
「車両再投入」;車輌2を検査位置から後退させた後に検査位置に再度進入停車させ、ドライバが降車した直後(加振なし)
「持ち上げ」;車輌前部を持ち上げて降ろした直後(加振なし)
また、表1の「LH」は左側、「RH」は右側、「Fr」は前輪側、「Rr」は後輪側を意味する。
【0042】
表1及び図8によれば、「加振なし」では平均値との差が大きくばらついているのに対して、そのばらつきが「加振あり」では小さくなっている。ばらつきが小さいということは、加振によって検査時の車両の状態が安定するということであり、従って、検査の信頼性が高くなることがわかる。
【0043】
<ASテスタ>
図9に示すように、ASテスタは、アクティブセイフティのための車載カメラ(図示省略)のキャリブレーション用ターゲット(検査機器)31、車両2をターゲット31に正対させる正対装置4を備えている。正対装置4は、車両2を停止させる検査ステーションに設けられ、その前方にターゲット31が設けられている。ターゲット31には、輝度が高い正方形の領域33と輝度が低い正方形の領域34とを市松模様状に組み合わせた認識用マーカーが設けられている。
【0044】
正対装置4は、ヘッドライトテスタと同じく、遊動型の前輪床14及び後輪床16と、左右の前輪イコライザ17(図示省略)と、左右の後輪イコライザ18とを備えている。図9には表れていないが、左右の前輪イコライザ17及び左右の後輪イコライザ18各々の車幅方向内側には加振機25が取り付けられている。加振機25は、イコライザ17,18に振動を加え、イコライザ17,18から、車両2の前輪13及び後輪15の各タイヤを介して、フロントサスペンションのダンパー及びリヤサスペンションのダンパーに振動を付与する。
【0045】
車載カメラのキャリブレーションにおいては、検査員が車両2に乗車して検査ステーションに進入し、前輪13及び後輪15をロックされている前輪床14及び後輪床16に載せて降車する。スイッチ操作で正対装置4を起動すると、前輪床14及び後輪床16のロックが解除され、左右の前輪イコライザ17及び左右の後輪イコライザ18が車両2の左右の前輪13及び左右の後輪15各々のタイヤに内側から当接して、車両2はターゲット31に正対する状態になる。
【0046】
スイッチ操作で加振機25を作動させてイコライザ17,18に振動を加え、イコライザ17,18から、前輪13及び後輪15の各タイヤを介して、フロント及びリヤの各サスペンションのダンパーに振動を数秒間付与する。これにより、ダンパーは、その摺動部の摩擦拘束によって伸びた状態又は縮んだ状態から、車両走行中の路面からの細かい振動が加わって摩擦拘束がない状態と同様の状態になる。
【0047】
上記ダンパーへの振動の付与を停止して車両2を静止させた後、スイッチ操作でターゲット31を車両前方に移動させ、ターゲット31を用いて車載カメラのキャリブレーションを実施する。キャリブレーションの終了後、スイッチ操作でターゲット31及びイコライザ17,18を原位置に戻す。車両2の退出後、前輪床14及び後輪床16をロックする。
【0048】
従って、上記車載カメラのキャリブレーションにおいても、サスペンションのダンパーへの振動の付与によって、車両2を走行中の姿勢に近い状態にして車載カメラの姿勢を検査することができる。従って、検査の信頼性が高くなり、よって、キャリブレーション不良を減らすことができる。
【0049】
なお、上記実施形態では、イコライザに加振機を取り付けたが、加振機は車両の車輪が載る床(上記前輪床や後輪床等)に取り付け、この床からタイヤを介してサスペンションのダンパーに振動を付与するようにしてもよい。
【0050】
また、車両の4輪各々が載る床が独立して左右にフリースライドするようにした正対装置(車両搬入時は各車輪床のスライド機構がロックされる)にあっては、4つの車輪床各々の裏面に加振機を取り付けるようにしてもよい。
【0051】
或いは加振機を手持ちで車両のタイヤに当ててダンパーに振動を付与することもできる。
【0052】
また、本発明が、上記ヘッドライト、水平センサ及びカメラに限らず、レーダー等の車載機器の向きないし姿勢の検査一般に採用できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0053】
1 検査機器
2 車両
3 ヘッドライト(車載機器)
4 正対装置
14 前輪床
15 後輪床
17 前輪イコライザ
18 後輪イコライザ
21 スプリング
22 ダンパー(ショックアブソーバー)
23 サスペンション
25 加振機
31 キャリブレーション用ターゲット(検査機器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9