(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】可変動弁機構の油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
F01M 1/16 20060101AFI20240709BHJP
F01L 1/356 20060101ALI20240709BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
F01M1/16 G
F01L1/356 E
F02D45/00 360A
F02D45/00 362
F02D45/00 364A
(21)【出願番号】P 2020217464
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】伊東 久幸
(72)【発明者】
【氏名】細木 貴之
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-024985(JP,A)
【文献】特開2017-096103(JP,A)
【文献】特開2016-044624(JP,A)
【文献】特開2004-137901(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0277999(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/16
F01L 1/00
F02D 13/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変更することができる油圧式の可変動弁機構の油圧制御装置であって、
前記可変動弁機構による目標位相に基づいて、前記回転位相を前記目標位相に維持できる前記可変動弁機構に供給される油圧の目標値である第1目標油圧を算出する第1算出部と、
前記カムシャフトの回転により駆動される装置から前記カムシャフトが受ける、前記カムシャフトの回転の抵抗となる負荷トルクに基づいて、前記回転位相を前記目標位相に維持できる前記可変動弁機構に供給される油圧の目標値である第2目標油圧を算出する第2算出部と、
前記第1及び第2目標油圧のうち大きい方を最終的な目標油圧に決定する決定部と、を備
え、
前記可変動弁機構は、前記カムシャフトに連結された一体的に回転するベーンロータ、及び前記ベーンロータを収容し前記ベーンロータと同軸上に配置され前記ベーンロータに対して相対回転可能なハウジング、を含み、
前記ハウジングの内部には、前記ベーンロータのベーンによって仕切られる進角室及び遅角室が形成され、
前記進角室は、前記ベーンに対して前記ベーンロータの回転方向とは反対側に配置され、
前記遅角室は、前記ベーンに対して前記ベーンロータの回転方向側に配置され、
前記可変動弁機構は、前記進角室へ供給されるオイルの流通を許容するがその逆流を抑制するチェック弁、及び前記ベーンロータを進角側に付勢するアシストスプリング、を含み、
前記負荷トルクは、カムフリクショントルク、高圧燃料ポンプトルク、及びバキュームポンプトルクの合計値から逆流防止トルク及びアシストスプリングトルクを減算することにより算出され、
前記カムフリクショントルクは、機関バルブの開閉動作に伴って前記カムシャフトが受けるトルクであり、
前記高圧燃料ポンプトルクは、高圧燃料ポンプが前記カムシャフトに与えるトルクであり、
前記バキュームポンプトルクは、バキュームポンプが前記カムシャフトに与えるトルクであり、
前記逆流防止トルクは、前記チェック弁により前記進角室に流入したオイルの逆流が抑制されることにより、前記ベーンロータを遅角側に戻すことを妨げるトルクであり、
前記アシストスプリングトルクは、前記アシストスプリングによるトルクであり、
前記カムフリクショントルク、前記高圧燃料ポンプトルク、前記バキュームポンプトルク、及び前記逆流防止トルクのそれぞれは、前記クランクシャフトのクランク角に基づいて算出された機関回転速度に基づいて算出され、
前記カムフリクショントルク、前記高圧燃料ポンプトルク、及び前記バキュームポンプトルクのそれぞれの大きさは、前記機関回転速度が速いほど増大するように算出され、
前記逆流防止トルクの大きさは、前記機関回転速度が速いほど低下するように算出され、
前記アシストスプリングトルクは、固定値として算出される、可変動弁機構の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変動弁機構の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変更することができる油圧式の可変動弁機構の油圧制御装置が知られている。このような油圧制御装置では、実位相を目標位相に一致するように、実油圧が目標油圧に制御される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カムシャフトには、吸気弁又は排気弁に加えて、高圧燃料ポンプやバキュームポンプを駆動する場合がある。この場合、カムシャフトには、高圧燃料ポンプやバキュームポンプからの回転の抵抗となる負荷トルクが作用する。このため、目標位相が同じ場合であっても、負荷トルクの大きさが異なっていると、実位相を目標位相に維持するための目標油圧も異なる。このため、このような負荷トルクを考慮せずに目標油圧を算出すると、実位相を目標位相に維持することができる油圧に対して実際の油圧が不足して、実位相を目標位相に維持することができないおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、油圧不足の発生を抑制した可変動弁機構の油圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変更することができる油圧式の可変動弁機構の油圧制御装置であって、前記可変動弁機構による目標位相に基づいて、前記回転位相を前記目標位相に維持できる前記可変動弁機構に供給される油圧の目標値である第1目標油圧を算出する第1算出部と、前記カムシャフトの回転により駆動される装置から前記カムシャフトが受ける、前記カムシャフトの回転の抵抗となる負荷トルクに基づいて、前記回転位相を前記目標位相に維持できる前記可変動弁機構に供給される油圧の目標値である第2目標油圧を算出する第2算出部と、前記第1及び第2目標油圧のうち大きい方を最終的な目標油圧に決定する決定部と、を備え、前記可変動弁機構は、前記カムシャフトに連結された一体的に回転するベーンロータ、及び前記ベーンロータを収容し前記ベーンロータと同軸上に配置され前記ベーンロータに対して相対回転可能なハウジング、を含み、前記ハウジングの内部には、前記ベーンロータのベーンによって仕切られる進角室及び遅角室が形成され、前記進角室は、前記ベーンに対して前記ベーンロータの回転方向とは反対側に配置され、前記遅角室は、前記ベーンに対して前記ベーンロータの回転方向側に配置され、前記可変動弁機構は、前記進角室へ供給されるオイルの流通を許容するがその逆流を抑制するチェック弁、及び前記ベーンロータを進角側に付勢するアシストスプリング、を含み、前記負荷トルクは、カムフリクショントルク、高圧燃料ポンプトルク、及びバキュームポンプトルクの合計値から逆流防止トルク及びアシストスプリングトルクを減算することにより算出され、前記カムフリクショントルクは、機関バルブの開閉動作に伴って前記カムシャフトが受けるトルクであり、前記高圧燃料ポンプトルクは、高圧燃料ポンプが前記カムシャフトに与えるトルクであり、前記バキュームポンプトルクは、バキュームポンプが前記カムシャフトに与えるトルクであり、前記逆流防止トルクは、前記チェック弁により前記進角室に流入したオイルの逆流が抑制されることにより、前記ベーンロータを遅角側に戻すことを妨げるトルクであり、前記アシストスプリングトルクは、前記アシストスプリングによるトルクであり、前記カムフリクショントルク、前記高圧燃料ポンプトルク、前記バキュームポンプトルク、及び前記逆流防止トルクのそれぞれは、前記クランクシャフトのクランク角に基づいて算出された機関回転速度に基づいて算出され、前記カムフリクショントルク、前記高圧燃料ポンプトルク、及び前記バキュームポンプトルクのそれぞれの大きさは、前記機関回転速度が速いほど増大するように算出され、前記逆流防止トルクの大きさは、前記機関回転速度が速いほど低下するように算出され、前記アシストスプリングトルクは、固定値として算出される、可変動弁機構の油圧制御装置によって達成できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、油圧不足の発生を抑制した可変動弁機構の油圧制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、内燃機関の概略構成を示した模式図である。
【
図2】
図2は、オイルポンプの内部構成を示した図である。
【
図3】
図3は、オイルポンプの内部構成を示した図である。
【
図5】
図5は、VVTの概略構成を示した図である。
【
図6】
図6は、制御装置が実行する目標油圧決定制御の一例を示したフローチャートである。
【
図7】
図7は、制御装置が実行する第2目標油圧Bの算出制御の一例を示したフローチャートである。
【
図8】
図8Aは、機関回転速度NEとカムフリクショントルクT1を規定したマップであり、
図8Bは、機関回転速度NEと高圧燃料ポンプトルクT2を規定したマップであり、
図8Cは、機関回転速度NEとバキュームポンプトルクT3を規定したマップである。
【
図9】
図9Aは、機関回転速度NEと逆流防止トルクT4を規定したマップであり、
図9Bは、負荷トルクCTと第2目標油圧Bを規定したマップである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[内燃機関10の概略構成]
図1は、内燃機関10の概略構成を示した図である。
図1に示すように、内燃機関10には、吸気通路13及び吸気ポート13aを通じて燃焼室20に空気が吸入されるとともに、ポート噴射弁14p及び筒内噴射弁14dの少なくとも一方から噴射された燃料が燃焼室20に供給される。空気及び燃料で構成される混合気に対して点火プラグ15による点火が行われると、混合気が燃焼してピストン16が往復移動し、内燃機関10の出力軸であるクランクシャフト17が回転する。燃焼後の混合気は排気として燃焼室20から排気通路18に排出される。
【0010】
内燃機関10の吸気通路13には、吸入空気量を調量するスロットルバルブ29が設けられている。このスロットルバルブ29は、電動モータによって開度が調整される。吸気通路13に繋がる吸気ポート13aには、機関バルブとしての吸気バルブ22が設けられている。排気通路18に繋がる排気ポート18aには、機関バルブとしての排気バルブ23が設けられている。これら吸気バルブ22及び排気バルブ23は、クランクシャフト17の回転が伝達される吸気カムシャフト11及び排気カムシャフト12の回転に伴って開閉動作する。
【0011】
吸気カムシャフト11の一端には、吸気バルブ22のバルブタイミング(開閉タイミング)を変更する可変動弁機構(以下、VVTと称する)70が設けられている。VVT70は、供給されるオイルの圧力(以下、単に油圧と称する)に応じて、クランクシャフト17に対する吸気カムシャフト11の回転位相を調節することにより吸気バルブ22のバルブタイミングを変更する。尚、VVT70に供給されるオイルは、内燃機関10の各可動部に供給される潤滑油である。VVT70の機構については詳しくは後述する。
【0012】
吸気カムシャフト11の他端には、吸気カムシャフト11の回転によって駆動される高圧燃料ポンプ41が設けられている。高圧燃料ポンプ41は、筒内噴射弁14dに高圧の燃料を供給する。詳細には、吸気カムシャフト11に設けられた高圧燃料ポンプ41用のカムにより、高圧燃料ポンプ41のプランジャが往復動作し、これにより高圧の燃料が筒内噴射弁14dに供給される。
【0013】
吸気カムシャフト11の他端には、吸気カムシャフト11の回転によって駆動されるとともにオイルによって内部が潤滑されるバキュームポンプ42が組み付けられている。このバキュームポンプ42で発生した負圧は、例えば内燃機関10を搭載した車両のブレーキブースタなどで利用される。
【0014】
内燃機関10の各種制御は、制御装置100によって行われる。この制御装置100は、内燃機関10の制御にかかる演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUの演算結果が一時的に記憶されるRAM、バックアップメモリ、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等を備えて構成されている。
【0015】
制御装置100の入力ポートには、次の各種センサなどが接続されている。すなわち、アクセルポジションセンサ28は、車両の運転者によって操作されるアクセルペダル27の操作量(アクセル操作量)を検出する。スロットルポジションセンサ30は、スロットルバルブ29の開度(スロットル開度)を検出する。エアフロメータ31は、吸気通路13を通じて燃焼室20に吸入される空気の量(吸入空気量GA)を検出する。水温センサ32は、内燃機関10の冷却水温THWを検出する。クランク角センサ34は、クランクシャフト17のクランク角を検出し、その検出されたクランク角に基づいて制御装置100は機関回転速度NEを算出する。カム角センサ35は、吸気カムシャフト11の回転位相に対応した信号を出力することで吸気バルブ22の実際のバルブタイミングを検出する。油圧センサ36は、後述するメインギャラリ内でのオイルの圧力Pを検出する。
【0016】
制御装置100の出力ポートには、スロットルバルブ29の電動モータ、ポート噴射弁14p、筒内噴射弁14d、点火プラグ15、及び後述するVVT70に設けられたオイルコントロールバルブやオイルポンプからの油圧を制御するオイルコントロールバルブ等が接続されている。
【0017】
そして、制御装置100は、上記各種センサ等の入力信号に基づいて機関運転状態を把握し、その把握した機関運転状態に応じて上記出力ポートに接続された各種駆動回路に指令信号を出力する。こうしてポート噴射弁14p及び筒内噴射弁14dによる燃料噴射量の制御、点火プラグ15の点火時期の制御、吸気バルブ22のバルブタイミング制御、及びスロットルバルブ29の開度制御等が制御装置100によって実施される。
【0018】
制御装置100は、機関回転速度NE及び機関負荷KLに基づいて吸気バルブ22の目標バルブタイミング、即ち、クランクシャフト17に対する吸気カムシャフト11の回転位相の目標値である目標位相を算出する。制御装置100は、この目標位相に基づいて後述するオイルコントロールバルブを制御する。また、制御装置100は、機能的に実現される第1算出部、第2算出部、及び決定部により、VVT70の目標油圧決定制御を実行する。制御装置100は、油圧制御装置の一例である。詳しくは後述する。
【0019】
[オイルポンプ5の内部構成]
図2及び
図3は、オイルポンプ5の内部構成を示した図である。尚、
図2及び
図3には、オイルコントロールバルブ(以下、OCVと称する)60についても示している。オイルポンプ5は、可変容量型オイルポンプであり、内燃機関10の各可動部へオイルを供給する。オイルポンプ5は、入力軸5aにより回転される外歯車のドライブロータ51と、これに噛み合って回転される内歯車のドリブンロータ52とを備える。ドリブンロータ52の外周は調整リング53によって保持されている。入力軸5aには、クランクシャフト17の回転がチェーン等を介して伝達され、これにより入力軸5aは回転する。
【0020】
オイルポンプ5のハウジング50は、凹状の収容部50aが設けられた本体部50bと、本体部50bの開放端を塞ぐように設けられた不図示のカバーとにより構成される。収容部50aは、ドライブロータ51、ドリブンロータ52、調整リング53等を収容する。本体部50bには不図示の貫通孔が形成され、その貫通孔に入力軸5aが挿通されている。
【0021】
ドライブロータ51には、外歯51aが複数形成されている。ドリブンロータ52は、リング状に形成され、その内周にドライブロータ51の外歯51aと噛み合う内歯52aが複数形成されている。ドリブンロータ52の中心はドライブロータ51の中心に対して所定量偏心しており、それらの中心を結ぶ偏心方向における一方側においてドライブロータ51の外歯51aとドリブンロータ52の内歯52aとが噛み合っている。ドライブロータ51とドリブンロータ52との間の空間には、円周方向に並んで複数の作動室Rが画定され、これらの作動室Rが、ドライブロータ51及びドリブンロータ52の回転に連れて円周方向に移動しながら、その容積が増減する。
【0022】
収容部50aには、吸入ポート50c及び吐出ポート50dが形成されている。吸入ポート50cは、作動室Rの容積が増大する範囲に対応した位置に設けられている。吐出ポート50dは、作動室Rの容積が減少する範囲に対応した位置に設けられている。吸入ポート50cは、配管を介してオイルストレーナに連通されており、オイルストレーナはオイルを貯留したオイルパン内に配置されている。吸入ポート50cの一部は、調整リング53の外側においても開口しており、後述する低圧室TLに連通している。吐出ポート50dは、ハウジング50の内部に形成された油路50eを介して吐出油路6aに連通されている。吐出油路6aから吐出されたオイルは、内燃機関10の各可動部に供給される。
【0023】
このように構成されたオイルポンプ5は、クランクシャフト17の回転力を受けて入力軸5aが回転することにより、ドライブロータ51及びドリブンロータ52が互いに噛み合いながら回転し、それらの間に形成される作動室Rに吸入ポート50cからオイルが吸入され、加圧されて吐出ポート50dから吐出される。
【0024】
次に、オイルポンプ5の可変容量について説明する。オイルポンプ5は、入力軸5aの1回転あたりのオイルの吐出量を変更可能であり、吐出量と共に吐出圧も変更される。具体的には、ハウジング50の収容部50a内に形成した油圧室TC内の油圧によって調整リング53を移動させることにより、吐出量及び吐出圧が変更される。調整リング53の移動により、ドライブロータ51及びドリブンロータ52の吸入ポート50c及び吐出ポート50dに対する相対的な位置が変化するからである。
【0025】
調整リング53は、ドリブンロータ52を保持するリング状の本体部53aと、この本体部53aから外側に張り出す張出部53bと、張出部から本体部53aよりも径方向外側に突出したアーム部53cとが一体に形成されている。アーム部53cに作用するコイルバネ54の押圧力によって、調整リング53は、入力軸5aの周りを
図2の時計回りに回転移動するように付勢されている。すなわち、コイルバネ54は、油圧室TCの容積が小さくなる向きに調整リング53を付勢している。本体部50bにはガイドピン55及び56が設けられ、張出部53bには円弧溝53d及び53eが設けられている。円弧溝53d及び53eのそれぞれにガイドピン55及び56が遊嵌することにより、調整リング53の回転移動が案内される。アーム部53cは、収容部50a内に周方向に並ぶ油圧室TCと低圧室TLとを仕切っている。アーム部53cの先端側には、本体部50bの周壁に摺接するシール材57が設けられている。
【0026】
低圧室TLは、調整リング53の本体部53aの外周と本体部50bの周壁とによって囲まれる領域に形成されている。上述したように低圧室TLに臨んで吸入ポート50cの一部が開口しており、低圧室TLは吸入ポート50cと連通している。油圧室TCは、調整リング53の張出部53bの外周と本体部50bの周壁とによって囲まれ、かつ、シール材57及び58によってオイルの流れが制限される領域に形成されている。シール材58は、張出部53bの外周に設けられ、本体部50bの周壁と摺接する。本体部50bの周壁と調整リング53との間にはシール材59が設けられている。本体部50bには油圧室TCに臨んで制御孔61aが形成され、制御孔61aは制御油路61に連通されている。これにより、油圧室TCには、後述するOCV60から油圧が供給される。この油圧によってアーム部53cには、調整リング53を反時計回りに回動させるような押圧力が作用し、この押圧力とコイルバネ54の付勢力との関係によって、調整リング53の位置が決まる。
【0027】
これにより、調整リング53を移動させて、オイルポンプ5の容量を制御できる。すなわち、油圧室TC内の油圧が低いときには、調整リング53はコイルバネ54によって、
図2に示すように可動範囲の始端に位置付けられ、ポンプ容量は最大となり、オイルポンプ5からのオイルの吐出量及び吐出圧は最大となる。この状態から油圧室TC内の油圧が増大すると、調整リング53はコイルバネ54の付勢力に抗して反時計回りに回転移動し、ポンプ容量は減少する。
図3に示すように調整リング53が可動範囲の終端に位置づけられると、ポンプ容量は最小となり、オイルポンプ5からのオイルの吐出量及び吐出圧は最小となる。
【0028】
以上のように、オイルポンプ5から吐出されたオイルの一部がOCV60を介して油圧室TCに供給され、油圧室TCに供給されたオイルにより油圧室TCの容積が変化するように調整リング53が可動範囲を移動することで、オイルポンプ5からのオイルの吐出圧が変更される。
【0029】
[OCV60の構成]
図4A及び
図4Bは、OCV60の内部構成の説明図である。OCV60は、スリーブ62内を移動可能なスプール63と、スプール63を付勢するコイルバネ64と、コイルバネ64の付勢力に抗してスプール63を移動させる電磁駆動部65とを備えている。
図4Bは、
図4Aよりもスプール63が先端側に移動した状態を示している。
【0030】
スリーブ62には、制御ポート62a、供給ポート62b、及び排出ポート62cが形成されている。制御ポート62aは、制御油路61を介して油圧室TCと連通している。供給ポート62bは、オイルポンプ5の吐出油路6aから分岐する供給油路6b(
図2及び
図3参照)を介して油路50eに連通している。
【0031】
スプール63は、先端側には周方向に複数の連通孔63aが形成され、連通孔63aよりも基端側には周方向に亘って凹部63bが形成され、略円筒状である。また、スプール63は、コイルバネ64により基端側に付勢されており、後述するロッド65cに当接されている。
【0032】
電磁駆動部65は、プランジャ65aと、プランジャ65aを移動させるためのソレノイド65bとを含んでいる。プランジャ65aにはロッド65cが連結されており、そのロッド65cにスプール63がコイルバネ64の付勢力により当接されている。このため、プランジャ65aが移動すると、ロッド65c及びスプール63が移動される。ソレノイド65bには、制御装置100から出力されるDuty信号が供給され、その電流値に応じてプランジャ65aの位置が変化する。
【0033】
OCV60では、ソレノイド65bに電流が印加されていない場合には、
図4Aに示すように、コイルバネ64の付勢力によってスプール63は基端側に位置づけられる。この位置において、供給ポート62bは凹部63bのみと対向し供給ポート62bと制御ポート62aとは連通しない。このため、オイルポンプ5から吐出されたオイルはOCV60内を流れずに吐出油路6aを流れる。また
図4Aに示した状態では、制御ポート62aは連通孔63aの一部と対向し、制御ポート62aは連通孔63aを介して排出ポート62cと連通される。このため、油圧室TC内にオイルが貯留されている場合には、コイルバネ54の付勢力に従って油圧室TCの容積が減少するように調整リング53が回転し、油圧室TC内のオイルは制御油路61を介して制御ポート62aからOCV60内を流通して排出ポート62cから排出される。排出ポート62cから排出されたオイルは、後述するオイルパン19に戻される。
【0034】
ソレノイド65bに電流が印加されると、ソレノイド65bが電磁力を発生させ、
図4Bに示すように、コイルバネ64の付勢力に抗してスプール63が先端側に移動する。ここで、凹部63bは供給ポート62bに対向しつつ制御ポート62aの少なくとも一部に対向するため、供給ポート62bは凹部63bを介して制御ポート62aに連通する。また、
図4Bに示した状態では、連通孔63aは制御ポート62aとは対向しないため、制御ポート62aと排出ポート62cとは連通していない。このため、オイルポンプ5から吐出されたオイルの一部は、供給油路6bから、供給ポート62b、凹部63b、制御ポート62a、制御油路61、制御孔61aを介して、油圧室TCに供給される。
【0035】
また、
図4Bに示した状態から更に先端側にスプール63が移動すると、制御ポート62aと供給ポート62bとが連通した状態で、制御ポート62aに凹部63bが重なる領域が増大し、制御ポート62aから油圧室TCに供給される油圧が増大する。尚、OCV60のソレノイド65bに印加される電流値が上昇率に対して、スプール63の移動量が略一定となるように、ソレノイド65bの駆動力及びコイルバネ64の付勢力とが調整されている。
【0036】
[VVT70の概略構成]
図5は、VVT70の概略構成を示した図である。VVT70は、ベーンロータ71と、ベーンロータ71を収容するハウジング72とを備えている。ベーンロータ71は、吸気カムシャフト11に連結されて一体的に回転する。ハウジング72は、不図示のカムスプロケットに連結されて一体的に回転する。ベーンロータ71及びハウジング72は、同軸上に配置され相対回転可能である。ハウジング72の内部には、ベーンロータ71のベーンによって仕切られる進角室73a及び遅角室73bが形成されている。進角室73aは、ベーンに対してベーンロータ71の回転方向とは反対側に配置されている。遅角室73bは、ベーンに対してベーンロータ71の回転方向側に配置されている。また、VVT70には、進角室73aへ供給されるオイルの流通を許容するがその逆流を抑制するVVTチェック弁73cが設けられている。
【0037】
VVT70には、ハウジング72に対するベーンロータ71の相対的な位置を調節するオイルコントロールバルブ(以下、OCVと称する)74が設けられている。OCV74は、スリーブ75内を移動するスプール76と、スプール76を付勢するコイルバネ77と、コイルバネ77の付勢力に抗してスプール76を移動させるための電磁駆動部78とを含んでいる。スリーブ75には、進角室73aに接続される進角ポート75aと、遅角室73bに接続される遅角ポート75bと、メインギャラリ6を介してオイルポンプ5に接続される供給ポート75cと、オイルパンに接続される排出ポート75d及び75eとが形成されている。スプール76は、スリーブ75内を移動可能であり、スリーブ75内における位置に応じて各ポートの接続状態を変化させる。電磁駆動部78は、後述する制御装置100からDuty信号が供給されるソレノイドなどを含み、制御装置100からの電流値に応じてスプール76を移動させる。
【0038】
VVT70では、進角ポート75aと供給ポート75cとが連通されるとともに、遅角ポート75bと排出ポート75eとが連通された場合には、オイルポンプ5からメインギャラリ6を介して進角室73aに油圧が供給されるとともに、遅角室73bの油圧がオイルパン19に排出される。これにより、ベーンロータ71がハウジング72に対して進角側に回転する。遅角ポート75bと供給ポート75cとが連通されるとともに、進角ポート75aと排出ポート75dとが連通された場合には、オイルポンプ5からメインギャラリ6を介して遅角室73bに油圧が供給されるとともに、進角室73aの油圧がオイルパン19に排出される。これにより、ベーンロータ71がハウジング72に対して遅角側に回転する。尚、スプール76により、進角ポート75a及び遅角ポート75bが閉塞された場合には、進角室73a及び遅角室73bに対するオイルの給排が停止されるので、ベーンロータ71のハウジング72に対する位置が維持される。
【0039】
制御装置100は、吸入空気量に応じて吸気側のVVT70の目標位相を設定して、その目標位相と実位相との偏差が無くなるようにOCV74を制御する。スロットル開度が大きくされると、そのスロットルの変化に遅れて吸入空気量が増加する。このとき、制御装置100では、吸入空気量の増加に応じてVVT70の目標位相を遅角側から進角側にするとともに、その目標位相に実位相が追従するようにOCV74を制御する。尚、吸入空気量は、エアフロメータ31によって検出され、VVT70の実位相は、クランク角センサ34及びカム角センサ35の検出結果に基づいて算出される。また、VVT70の目標位相は、たとえば、吸入空気量をパラメータとするマップから導出される。
【0040】
さらに、制御装置100は、エンジン1の運転状態などに応じてオイルポンプ5の吐出油圧を制御するとともに、その制御された吐出油圧となるようにOCV60によりポンプ容量を制御する。具体的には、制御装置100では、油圧センサ36によって検出されるオイルポンプ5から実際に吐出された実油圧が、VVT70に供給される油圧の目標値である目標油圧となるように、Duty信号が生成してOCV60に供給する。目標油圧は、VVT70の目標位相に基づいて設定される。VVT70の目標位相は、上述したように吸入空気量に応じて設定される。オイルポンプ5からの実油圧が目標油圧に維持されることにより、VVT70に供給される油圧が目標油圧となり、吸気カムシャフト11の回転位相を目標位相に維持することができる。
【0041】
このように、内燃機関10の運転状態に応じてVVT70での目標油圧を決定すると、高圧燃料ポンプ41やバキュームポンプ42から吸気カムシャフト11が受ける回転の抵抗となる負荷トルクの大きさによっては、VVT70での油圧不足が生じて、吸気カムシャフト11の回転位相を目標位相に維持することができない可能性がある。これにより、ベーンロータ71がハウジング72に衝突して騒音が発生するおそれがある。そのため本実施例の制御装置100は、以下のようにして目標油圧を決定する。
【0042】
[目標油圧決定制御]
図6は、制御装置100が実行する目標油圧決定制御の一例を示したフローチャートである。制御装置100は、上述したように、内燃機関10の運転状態に基づいて、クランクシャフト17に対する吸気カムシャフト11の回転位相の目標位相を算出し、この目標位相に基づいて第1目標油圧Aを算出する(ステップS1)。ステップS1の処理は、第1算出部が実行する処理の一例である。
【0043】
次に制御装置100は、吸気カムシャフト11への回転の抵抗となる負荷トルクに基づいて第2目標油圧Bを算出する(ステップS2)。ステップS2の処理は、第2算出部が実行する処理の一例である。詳しくは後述する。
【0044】
次に制御装置100は、第2目標油圧Bが第1目標油圧Aより大きいか否かを判定する(ステップS3)。ステップS3でYesの場合、制御装置100は最終的な目標油圧を第2目標油圧Bに決定する(ステップS4)。ステップS3でNoの場合、制御装置100は最終的な目標油圧を第1目標油圧Aに決定する(ステップS5)。即ち、制御装置100は第1目標油圧A及び第2目標油圧Bのうち大きい値を最終的な目標油圧に決定する。このように大きい値を最終的な目標油圧に決定するため、油圧不足の発生を抑制できる。尚、ステップS3では、第2目標油圧Bが第1目標油圧A以上であるか否かを判定してもよい。ステップS4及びS5の処理は、決定部が実行する処理の一例である。
【0045】
[第2目標油圧Bの算出制御]
次に、第2目標油圧Bの算出制御について説明する。第2目標油圧Bは、以下の複数のトルクに基づいて吸気カムシャフト11への負荷トルクCTを算出し、この負荷トルクCTに基づいて算出される。具体的には以下のようにして算出される。
【0046】
図7は、制御装置100が実行する第2目標油圧Bの算出制御の一例を示したフローチャートである。制御装置100は、クランク角センサ34の検出値に基づいて機関回転速度NEを取得する(ステップS11)。
【0047】
次に制御装置100は、カムフリクショントルクT1を算出する(ステップS12)。具体的には、
図8Aに示すマップを参照してカムフリクショントルクT1を算出する。
図8Aは、機関回転速度NEとカムフリクショントルクT1を規定したマップである。このマップは予め実験により取得され制御装置100の記憶装置に記憶されている。このマップは、横軸が機関回転速度NEを示し縦軸がカムフリクショントルクT1を示している。機関回転速度NEが増大するほどカムフリクショントルクT1は増大する。カムフリクショントルクT1は、吸気バルブ22の開閉動作に伴って吸気カムシャフト11が受けるトルクである。従って吸気バルブ22は、吸気カムシャフト11の回転により駆動される装置の一例である。
【0048】
次に制御装置100は、高圧燃料ポンプトルクT2を算出する(ステップS13)。具体的には、制御装置100は、内燃機関10の運転状態がポート噴射弁14pのみから燃料が噴射される状態では、高圧燃料ポンプトルクT2をゼロとして算出し、内燃機関10の運転状態が少なくとも筒内噴射弁14dから燃料が噴射される状態では、
図8Bに示すマップを参照して高圧燃料ポンプトルクT2を算出する。ポート噴射弁14pには、高圧燃料ポンプ41ではなく不図示の低圧燃料ポンプから燃料が供給され、ポート噴射弁14pのみから燃料が噴射される状態では、高圧燃料ポンプ41が吸気カムシャフト11に与える負荷トルクは小さいものでありゼロとみなすことができるからである。
【0049】
図8Bは、機関回転速度NEと高圧燃料ポンプトルクT2を規定したマップである。このマップは予め実験により取得され制御装置100の記憶装置に記憶されている。このマップは、横軸が機関回転速度NEを示し縦軸が高圧燃料ポンプトルクT2を示している。少なくとも筒内噴射弁14dから燃料が噴射されている状態では、機関回転速度NEが増大するほど高圧燃料ポンプトルクT2は増大する。
【0050】
また、
図8Bに示したマップは、筒内噴射弁14dから噴射される燃料の目標噴射量が多いほど、及び筒内噴射弁14dから噴射される燃料の目標燃圧が高いほど、高圧燃料ポンプトルクT2は高い値となるように補正される。筒内噴射弁14dでの目標噴射量が多いほど、及び筒内噴射弁14dでの目標燃圧が高いほど、高圧燃料ポンプ41が筒内噴射弁14dに圧送する燃料量が多くなり、その分だけ高圧燃料ポンプ41が与える吸気カムシャフト11への回転の抵抗が大きくなるからである。尚、筒内噴射弁14dの目標噴射量及び目標燃圧は、内燃機関10の運転状態に応じて制御装置100が算出する。高圧燃料ポンプ41は、吸気カムシャフト11の回転により駆動される装置の一例である。
【0051】
尚、ポート噴射弁14p及び筒内噴射弁14dの噴射比率は、内燃機関10の運転状態が低回転低負荷状態ではポート噴射弁14pのみから燃料が噴射され、中回転中負荷状態ではポート噴射弁14p及び筒内噴射弁14dの双方から燃料が噴射され、高回転高負荷状態では筒内噴射弁14dのみから燃料が噴射される。従って、筒内噴射弁14dのみから燃料が噴射される高回転高負荷状態において高圧燃料ポンプトルクT2が高い値となり、反対にポート噴射弁14pのみから燃料が噴射される低回転低負荷状態では高圧燃料ポンプトルクT2は低い値、例えば本実施例ではゼロとなる。
【0052】
次に制御装置100は、バキュームポンプトルクT3を算出する(ステップS14)。具体的には、
図8Cに示すマップを参照してバキュームポンプトルクT3を算出する。
図8Cは、機関回転速度NEとバキュームポンプトルクT3を規定したマップである。このマップは予め実験により取得され制御装置100の記憶装置に記憶されている。
図8Cは、横軸が機関回転速度NEを示し縦軸がバキュームポンプトルクT3を示している。機関回転速度NEが増大するほどバキュームポンプトルクT3は増大する。バキュームポンプ42は、吸気カムシャフト11の回転により駆動される装置の一例である。
【0053】
尚、バキュームポンプ42内に供給されるオイルの温度が低いほど、バキュームポンプトルクT3を高い値に補正してもよい。バキュームポンプ42内に供給されるオイルの温度が低いほど、オイルの粘度が高くなり、バキュームポンプ42が吸気カムシャフト11に与える負荷トルクが増大するからである。この場合、オイルの温度は、オイルの温度を直接検出する温度センサの検出値に基づいて取得してもよいし、内燃機関10を冷却する冷却水の温度を検出する水温センサの検出値に基づいて取得してもよい。
【0054】
次に制御装置100は、VVTチェック弁73cによる逆流防止トルクT4を算出する(ステップS15)。逆流防止トルクT4は、VVTチェック弁73cにより進角室73aに流入したオイルの逆流が抑制されることにより、ベーンロータ71を遅角側に戻すことを妨げるトルクである。
【0055】
具体的には、
図9Aに示すマップを参照して逆流防止トルクT4を算出する。
図9Aは、機関回転速度NEと逆流防止トルクT4を規定したマップである。このマップは予め実験により取得され制御装置100の記憶装置に記憶されている。
図9Aは、横軸が機関回転速度NEを示し縦軸が逆流防止トルクT4を示している。機関回転速度NEが増大するほど逆流防止トルクT4は低下する。これは、機関回転速度NEが増大するほど、VVTチェック弁73cを通過するオイルの流量が増大してVVTチェック弁73cが開く流路が拡大して、オイルの逆流が生じやすくなり、ベーンロータ71を遅角側に戻すことを妨げるトルクが低下するからである。尚、
図9Aに示した機関回転速度NEに対する逆流防止トルクT4の変化は、あくまで一例であり、VVT機構の種類やチェック弁の大きさ等によって異なる。
【0056】
次に制御装置100は、アシストスプリングトルクT5を算出する(ステップS16)。ここでアシストスプリングは、VVT70内に設けられており、VVT70のベーンロータ71を進角側に付勢するためのスプリングである。従って、アシストスプリングはベーンロータ71の位置によってベーンロータ71を進角側に付勢する付勢力が異なっている。しかしながら本実施例では、アシストスプリングトルクT5は、他のカムフリクショントルクT1、高圧燃料ポンプトルクT2、バキュームポンプトルクT3、及び逆流防止トルクT4と比較して小さい値であるため、アシストスプリングトルクT5は予め固定値として制御装置100の記憶装置に記憶されている。尚、上述したベーンロータ71の位置、即ちVVT70が制御する回転位相に応じてアシストスプリングトルクT5が変動する可変値として算出してもよい。また、上記ステップS12~S16の順序は問わない。また、ステップS12~S16では、演算式によりトルクを算出してもよい。
【0057】
次に制御装置100は、上述したトルクに基づいて、負荷トルクCTを算出する(ステップS17)。具体的には、以下の演算式により算出する。
CT=T1+T2+T3-T4-T5…(1)
カムフリクショントルクT1、高圧燃料ポンプトルクT2、及びバキュームポンプトルクT3については、吸気カムシャフト11の回転に対して負荷となるため、上記の式では正の値として加算され、逆流防止トルクT4及びアシストスプリングトルクT5については吸気カムシャフト11の回転を後押しする方向に作用するため、上記の式では負の値として考慮される。
【0058】
次に制御装置100は、算出された負荷トルクCTに基づいて第2目標油圧Bを算出する(ステップS18)。
図9Bは、負荷トルクCTと第2目標油圧Bを規定したマップである。このマップは予め実験により取得され制御装置100の記憶装置に記憶されている。
図9Bは、横軸が負荷トルクCTを示し縦軸が第2目標油圧Bを示している。負荷トルクCTが増大するほど第2目標油圧Bは増大する。
【0059】
これにより、VVT70での油圧不足の発生を抑制でき、クランクシャフト17に対する吸気カムシャフト11の回転位相を目標位相に精度よく維持することができる。
【0060】
[その他]
上記実施例では、吸気カムシャフト11の回転により駆動される装置として、吸気バルブ22、高圧燃料ポンプ41、及びバキュームポンプ42を例に説明した。また、負荷トルクCTの算出には、カムフリクショントルクT1,高圧燃料ポンプトルクT2、及びバキュームポンプトルクT3に加えて、VVT70に関する逆流防止トルクT4及びアシストスプリングトルクT5に基づいて算出した。これにより、クランクシャフト17に対する吸気カムシャフト11の回転位相を目標位相に精度よく維持することができる。尚、逆流防止トルクT4及びアシストスプリングトルクT5については、負荷トルクCTの算出の際には必ずしも参照しなくてもよい。即ち、カムフリクショントルクT1、高圧燃料ポンプトルクT2、及びバキュームポンプトルクT3の合計値を負荷トルクCTとして算出してもよい。逆流防止トルクT4及びアシストスプリングトルクT5は、カムフリクショントルクT1、高圧燃料ポンプトルクT2、及びバキュームポンプトルクT3と比較して小さい値であり、第2目標油圧Bへの算出精度への影響は比較的小さいからである。
【0061】
上記実施例では、吸気カムシャフト11は高圧燃料ポンプ41を駆動するが、例えば排気カムシャフト12が高圧燃料ポンプ41を駆動する構成の場合には、制御装置100は上述した高圧燃料ポンプトルクT2を考慮せず負荷トルクCTを算出する。また、上記実施例では吸気カムシャフト11によりバキュームポンプ42が駆動するが、排気カムシャフト12がバキュームポンプ42を駆動する場合には、制御装置100は上述したバキュームポンプトルクT3を考慮せず負荷トルクCTを算出する。
【0062】
上記実施例では、吸気側に設けられたVVT70の第2目標油圧Bを負荷トルクCTに基づいて算出したが、これに限定されず、例えば排気側にVVTが設けられている場合には、排気側のVVTの目標油圧を排気カムシャフト12への負荷トルクに基づいて算出してもよい。
【0063】
上記の実施の形態の可変動弁機構の油圧制御装置は、車両用内燃機関に適用した例について説明したが、動力源として内燃機関を用いるものであれば適用可能であり、例えば、所謂ハイブリッド車や自動二輪車等に搭載される内燃機関はもとより、船舶や建設機械等のように車両以外のものに搭載される内燃機関にも適用可能である。
【0064】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
5…オイルポンプ、10…内燃機関、11…吸気カムシャフト、12…排気カムシャフト、13…吸気通路、13a…吸気ポート、14p…ポート噴射弁、14d…筒内噴射弁、15…点火プラグ、16…ピストン、17…クランクシャフト、18…排気通路、18a…排気ポート、20…燃焼室、22…吸気バルブ、23…排気バルブ、27…アクセルペダル、28…アクセルポジションセンサ、29…スロットルバルブ、30…スロットルポジションセンサ、31…エアフロメータ、32…水温センサ、34…クランク角センサ、35…カム角センサ、36…油圧センサ、41…高圧燃料ポンプ、42…バキュームポンプ、60、74…オイルコントロールバルブ、70…可変動弁機構(VVT)、100…制御装置