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特許7517151タイヤ及びタイヤのグリップ性能の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】タイヤ及びタイヤのグリップ性能の評価方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20240709BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240709BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240709BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C19/00 H
C08L21/00
C08K5/18
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020548311
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2019034993
(87)【国際公開番号】W WO2020066527
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2018182770
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】松永 貴信
(72)【発明者】
【氏名】小森 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 達也
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141429(JP,A)
【文献】特許第6354924(JP,B1)
【文献】特許第6288172(JP,B1)
【文献】特開2013-177113(JP,A)
【文献】特開2015-232110(JP,A)
【文献】特開2015-000971(JP,A)
【文献】特開2016-199755(JP,A)
【文献】特開2015-013956(JP,A)
【文献】特開2018-095701(JP,A)
【文献】特開2018-002904(JP,A)
【文献】特開2015-232114(JP,A)
【文献】特開2015-013975(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046845(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/104955(WO,A1)
【文献】特開2015-196825(JP,A)
【文献】特開2012-036370(JP,A)
【文献】特開2013-053296(JP,A)
【文献】特表2013-544936(JP,A)
【文献】特開2007-224253(JP,A)
【文献】特開2018-053179(JP,A)
【文献】特開2016-204503(JP,A)
【文献】特開2020-63383(JP,A)
【文献】特表2019-523331(JP,A)
【文献】特開2017-101208(JP,A)
【文献】特開2014-213508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤトレッド接地部において、
タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、下記式(I)を満たすトレッドゴムを有し、
前記トレッドゴムが、ゴム成分100質量部に対するフェニレンジアミン系老化防止剤の含有量が3.4質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対する液状可塑剤の含有量が20質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量が30質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が3質量部以上であるゴム組成物を用いて作製されたゴムであるタイヤ。
(a)/(b)≧0.75 式(I)
【請求項2】
タイヤトレッド接地部において、
タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、下記式(I)を満たすトレッドゴムを有し、
前記トレッドゴムが、ゴム成分100質量部に対するフェニレンジアミン系老化防止剤の含有量が3.4質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対する液状可塑剤の含有量が20質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が3質量部以上20質量部以下であるゴム組成物を用いて作製されたゴムであるタイヤ。
(a)/(b)≧0.75 式(I)
【請求項3】
タイヤトレッド接地部において、
タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、下記式(I)を満たすトレッドゴムを有し、
前記トレッドゴムが、ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量が40質量%以上であり、ゴム成分100質量部に対するフェニレンジアミン系老化防止剤の含有量が3.4質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対する液状可塑剤の含有量が20質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が3質量部以上であるゴム組成物を用いて作製されたゴムであるタイヤ。
(a)/(b)≧0.75 式(I)
【請求項4】
タイヤトレッド接地部において、
タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、下記式(I)を満たすトレッドゴムを有し、
前記トレッドゴムが、ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量が30質量%以下であり、ゴム成分100質量部に対するフェニレンジアミン系老化防止剤の含有量が3.4質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対する液状可塑剤の含有量が20質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が3質量部以上であるゴム組成物を用いて作製されたゴムであるタイヤ。
(a)/(b)≧0.75 式(I)
【請求項5】
タイヤトレッド接地部において、
タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、下記式(I)を満たすトレッドゴムを有し、
前記トレッドゴムが、ゴム成分100質量部に対するフェニレンジアミン系老化防止剤の含有量が3.4質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対する液状可塑剤の含有量が20質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が3質量部以上であり、芳香族ビニル重合体を含むゴム組成物を用いて作製されたゴムであるタイヤ。
(a)/(b)≧0.75 式(I)
【請求項6】
タイヤトレッド接地部において、
タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、下記式(I)を満たすトレッドゴムを有し、
前記トレッドゴムが、ゴム成分100質量部に対するフェニレンジアミン系老化防止剤の含有量が3.4質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対する液状可塑剤の含有量が20質量部以上であり、ゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量が1.50質量部以下であり、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が3質量部以上であるゴム組成物を用いて作製されたゴムであるタイヤ。
(a)/(b)≧0.75 式(I)
【請求項7】
前記マルテンス硬度の最小値(a)が0.35mgf/μm以下である請求項1~6のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項8】
前記マルテンス硬度の最大値(b)が0.05mgf/μm以上である請求項1~7のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項9】
前記トレッドゴムが、ゴム成分100質量部に対する、アミド化合物又はSP値9.0以上の非イオン性界面活性剤の含有量が0.1質量部以上であるゴム組成物を用いて作製されたゴムである請求項1~8のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項10】
タイヤのトレッドゴムから切り出した試験片であって、タイヤトレッド接地部を構成していた面である接地面と、接地面と直交し、タイヤ半径方向に向かって延びる面である測定面とを有する試験片を調製する試験片調製工程と、
微小硬度計又は薄膜硬度計を用いて、前記試験片調製工程により調製した試験片の測定面をタイヤ半径方向に沿ってマルテンス硬度を測定する測定工程と
を有するタイヤのグリップ性能の評価方法。
【請求項11】
前記測定工程において、前記測定面のうち、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μm~200μmに相当する範囲について、マルテンス硬度を測定する請求項10記載のタイヤのグリップ性能の評価方法。
【請求項12】
マルテンス硬度を測定する前に、前記試験片調製工程により調製した試験片の測定面の表面を20μm以上除去して、新たな測定面を形成し、形成された新たな測定面のマルテンス硬度を測定する請求項10又は11記載のタイヤのグリップ性能の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ及びタイヤのグリップ性能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの重要な性能として、良好なウェットグリップ性能が求められている。ウェットグリップ性能を向上させるためには一般的にタイヤトレッドゴムのヒステリシスロスを上げる手法が知られており、そのためにゴムの温度依存性カーブにおけるtanδピーク温度(Tg)を高くする手法がよく知られている(例えば、特許文献1)。また、樹脂を配合することにより、ウェットグリップ性能を向上させる手法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-056979公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、tanδピーク温度を高くする手法を採用したり、樹脂を配合する手法を採用したりしても、新品のタイヤにおいて、慣らし走行前のグリップ性能が不十分である場合があることが本発明者らの検討の結果明らかとなった。
本発明は、前記課題を解決し、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能を両立したタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、本発明者らが見出した上記新たな課題について鋭意検討した結果、トレッドゴムの特定箇所のマルテンス硬度を特定の関係とすることにより、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能を両立できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、タイヤトレッド接地部において、
タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、下記式(I)を満たすトレッドゴムを有するタイヤに関する。
(a)/(b)≧0.75 式(I)
【0006】
上記マルテンス硬度の最小値(a)が0.35mgf/μm以下であることが好ましい。
【0007】
上記マルテンス硬度の最大値(b)が0.05mgf/μm以上であることが好ましい。
【0008】
上記トレッドゴムが、ゴム成分100質量部に対するフェニレンジアミン系老化防止剤の含有量が2.1質量部以上であるゴム組成物を用いて作製されたゴムであることが好ましい。
【0009】
上記トレッドゴムが、ゴム成分100質量部に対する液状可塑剤の含有量が20質量部以上であるゴム組成物を用いて作製されたゴムであることが好ましい。
【0010】
上記トレッドゴムが、ゴム成分100質量部に対する、アミド化合物又はSP値9.0以上の非イオン性界面活性剤の含有量が0.1質量部以上であるゴム組成物を用いて作製されたゴムであることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、タイヤのトレッドゴムから切り出した試験片であって、タイヤトレッド接地部を構成していた面である接地面と、接地面と直交し、タイヤ半径方向に向かって延びる面である測定面とを有する試験片を調製する試験片調製工程と、
微小硬度計又は薄膜硬度計を用いて、上記試験片調製工程により調製した試験片の測定面をタイヤ半径方向に沿ってマルテンス硬度を測定する測定工程と
を有するタイヤのグリップ性能の評価方法に関する。
【0012】
上記測定工程において、上記測定面のうち、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μm~200μmに相当する範囲について、マルテンス硬度を測定することが好ましい。
【0013】
マルテンス硬度を測定する前に、上記試験片調製工程により調製した試験片の測定面の表面を20μm以上除去して、新たな測定面を形成し、形成された新たな測定面のマルテンス硬度を測定することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
第一の本発明によれば、式(I)を満たすトレッドゴムを有するタイヤであるので、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能を両立できる。
【0015】
第二の本発明によれば、タイヤのトレッドゴムから切り出した試験片であって、タイヤトレッド接地部を構成していた面である接地面と、接地面と直交し、タイヤ半径方向に向かって延びる面である測定面とを有する試験片を調製する試験片調製工程と、微小硬度計又は薄膜硬度計を用いて、上記試験片調製工程により調製した試験片の測定面をタイヤ半径方向に沿ってマルテンス硬度を測定する測定工程の2つの工程を有するタイヤのグリップ性能の評価方法であるので、タイヤのグリップ性能の評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】トレッドゴムにおけるマルテンス硬度の分布の一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るタイヤの一部が示された断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るタイヤの一部が示された断面図である。
図4】(a)~(c)は試験片を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第一の本発明)
第一の本発明のタイヤは、タイヤトレッド接地部において、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、下記式(I)を満たすトレッドゴムを有する。これにより、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能を両立できる。
(a)/(b)≧0.75 式(I)
なお、以下では、マルテンス硬度の最小値(a)を単にマルテンス硬度(a)とも記載し、マルテンス硬度の最大値(b)を単にマルテンス硬度(b)とも記載し、両者をまとめてマルテンス硬度(a)、(b)とも記載する。
【0018】
上記タイヤは前述の効果が得られるが、このような作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
本発明者らの検討の結果、良好なグリップ性能を得るためには、トレッドゴムにおいて、内剛外柔が理想であることが判明した。
すなわち、トレッド内部は、ゴムの倒れ込みを防ぎ、ゴムの路面に対する実接触面積を高く保つ観点から、また、操縦安定性でのコーナリングパワー確保の観点から、硬い方が良い。
一方、トレッド表層部は、路面の石骨材(8mmピッチ)のミクロな凹凸(80μm~0.1mm)にゴムがミクロ追従する観点から、柔らかい方が良い。追従させる方が、ゴムと路面の実接触面積を大きくでき、ヒステリシスロスを発生させやすく、グリップが良好である。
新品のタイヤにおいて、慣らし走行前のグリップ性能が不十分である場合がある原因について、上記考えに基づいて、検討した。
その結果、トレッドの表層0~100μm深さでは、ポリマーと可塑剤リッチ層が形成されて、加硫直後、すなわちタイヤ製造直後は柔らかい。しかし、タイヤを保管中に、酸素が浸透して、特に架橋密度が低い場合、特に老化防止剤が少ない場合、硬化し易いことが分かった。すなわち、タイヤを製造後、使用するまでの間にトレッドの表層において硬化が進行し、その結果、慣らし走行前のグリップ性能が低下することが判明した。
【0019】
この現象について鋭意検討した結果、タイヤは製造された後使用されるまで、通常、数ヶ月~1年程度の時間が経過するが、数ヶ月~1年程度倉庫等で保管されることにより、表層では硬化が進行すると共に、表層に老化防止剤、可塑剤、ワックス等も移行することにより表層を軟化させたり、硬化の進行を抑制したりすることが共存することが判明した。具体的には、フェニレンジアミン系老化防止剤が表層に移行し、ブリードすることにより、酸素、オゾン、紫外線による硬化を抑制できる。また、液状可塑剤、アミド化合物、非イオン性界面活性剤が表層に移行し、ブリードすることにより、表層が軟化すると共に、表層に存在するフェニレンジアミン系老化防止剤を均一に分布させ、より好適に硬化を抑制できる。また、液状可塑剤は、老化防止剤のキャリアとなり、老化防止剤の表層への移行を促進する。更に、アミド化合物、非イオン性界面活性剤は、最表面でブリード層を柔らかくする作用もある。なお、ゴム成分と対象物のSP値の差が大きいほうがよりブリードしやすい。
また、液状可塑剤、非イオン性界面活性剤自体にはグリップ性はないものの、ゴム中の樹脂の分散性を向上させたり、ブリードした樹脂又は被膜を可塑化したりする機能を有する。
【0020】
そして、数ヶ月~1年程度倉庫で保管したタイヤでは、トレッドゴム内で配合剤の表層への移行、表層の硬化が進行し、図1に示す通り、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10~200μmの間の位置では、酸化、オゾン、紫外線劣化による硬化が顕著な場合があり、タイヤ間で有意義な差がみられる。
10~200μmの間のいずれかの位置で、マルテンス硬度の最小値、最大値を生じるが、上記式(I)を満たすことは、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μm~200μmの範囲において、マルテンス硬度の最小値、最大値の差が小さいことを意味する。すなわち、上記式(I)を満たすことは、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μm~200μmの範囲において、局部的硬化が抑制されていることを意味する。よって、上記式(I)を満たすことにより、10μm~200μmの範囲において局部的硬化が抑制されており、路面のミクロな凹凸に追従し、実接触面積を大きくでき、慣らし走行前のグリップ性能を慣らし走行後のグリップ性能に近づけることが可能となり、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能を両立できることが分かった。
これは、上記式(I)を満たすことにより、路面のミクロな凹凸に追従し、実接触面積を大きくでき、慣らし走行前のグリップ性能を慣らし走行後のグリップ性能に近づけることが可能となるため、良好な慣らし走行前のグリップ性能が得られると共に、ゴムブロックの倒れ込みを小さくできることで、ブロックエッジの浮き上がりを小さくできるため、良好な慣らし走行後のグリップ性能も得られ、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能を両立できるものと推測される。
従って、上記式(I)を満たすトレッドゴムを有するタイヤは、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能を両立できる。このように、本発明は、上記式(I)のパラメーターを満たすトレッドゴムを有するタイヤの構成にすることにより、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能の両立という課題(目的)を解決するものである。すなわち、当該パラメーターは課題(目的)を規定したものではなく、本願の課題は、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能の両立であり、そのための解決手段として、トレッドゴムを上記式(I)のパラメーターを満たす構成にしたものである。つまり、上記式(I)のパラメーターを満たすことが必須の構成要件である。
【0021】
第一の本発明のタイヤは、
タイヤトレッド接地部において、
タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、下記式(I)を満たすトレッドゴムを有する。
(a)/(b)≧0.75 式(I)
ここで、本明細書において、タイヤトレッド接地部とは、トレッドのうち、路面と接する部分を意味する。図2のタイヤ2では、トレッド4のトレッド面20を意味し、溝22は路面と接しないため、タイヤトレッド接地部に該当しない。
【0022】
第一の本発明のタイヤは、タイヤトレッド接地部において、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置(図3のaの位置)からタイヤ半径方向深さ200μmの位置(図3のbの位置)の範囲(図3のaの位置からbの位置まで)におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、上記式(I)を満たすトレッドゴムを有する。
上記式(I)の下限は、好ましくは0.75、より好ましくは0.76、更に好ましくは0.78、特に好ましくは0.79、最も好ましくは0.80、より好ましくは0.83、より好ましくは0.85、より好ましくは0.90、より好ましくは0.92、より好ましくは0.93、より好ましくは0.94である。上記式(I)の上限は特に限定されないが、好ましくは1.00である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0023】
マルテンス硬度の最小値(a)は、上記式(I)を満たす限り特に限定されない。
マルテンス硬度の最小値(a)は、下限は特に限定されないが、好ましくは0.05mgf/μm以上、より好ましくは0.10mgf/μm以上、更に好ましくは0.12mgf/μm以上であり、好ましくは0.35mgf/μm以下、より好ましくは0.30mgf/μm以下、更に好ましくは0.25mgf/μm以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0024】
マルテンス硬度の最大値(b)は、上記式(I)を満たす限り特に限定されない。
マルテンス硬度の最小値(a)、マルテンス硬度の最大値(b)は、押し込み深さが数mmのマクロな硬度である、タイヤの技術分野で用いられているShore(A)Hs(Shore(A)硬度)と大まかな相関があり、通常Hsが60~75であれば、マルテンス硬度の最大値(b)は0.10~0.30である。マルテンス硬度の最大値(b)は、好ましくは0.05mgf/μm以上、より好ましくは0.10mgf/μm以上、更に好ましくは0.13mgf/μm以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは0.50mgf/μm以下、より好ましくは0.45mgf/μm以下、更に好ましくは0.40mgf/μm以下、特に好ましくは0.35mgf/μm以下、最も好ましくは0.30mgf/μm以下、より最も好ましくは0.25mgf/μm以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
なお、本明細書において、マルテンス硬度(a)、(b)は、後述する実施例に記載の測定方法により得られる値である。
【0025】
なお、マルテンス硬度(a)、(b)は、トレッドゴムを作製するゴム組成物(以下においては、トレッド用ゴム組成物ともいう)に配合される薬品(特に、フェニレンジアミン系老化防止剤、液状可塑剤、アミド化合物、SP値9.0以上の非イオン性界面活性剤)の種類や量によって調整することが可能であり、具体的には、表1に示す指針に従って調整すればよい。
なお、表中の↓は低下を、↑は増加を、→は影響なしを意味する。ここで、0.1以下の変動の場合も影響なしとした。
【表1】
薬品増量により硬度(Shore(A)硬度)が2以上変化する場合は、オイル等の配合量の調整を行う必要がある場合もある。
【0026】
より具体的に説明すると、トレッドゴムを作製するゴム組成物において、前記(a)/(b)、前記マルテンス硬度(a)、前記マルテンス硬度(b)は、ゴム組成物に配合される薬品(特に、フェニレンジアミン系老化防止剤、液状可塑剤、アミド化合物、SP値9.0以上の非イオン性界面活性剤)を適宜選択すること、これらの配合量を適宜調整すること、等により付与することが可能である。具体的には、(1)ゴム成分100質量部に対するフェニレンジアミン系老化防止剤の含有量を2.1質量部以上とする、(2)ゴム成分100質量部に対する液状可塑剤の含有量を20質量部以上とする、及び/又は(3)ゴム成分100質量部に対する、アミド化合物又はSP値9.0以上の非イオン性界面活性剤の含有量を0.1質量部以上とすることにより、前記(a)/(b)、前記マルテンス硬度(a)、前記マルテンス硬度(b)を付与できる。特に、(1)、(2)、なかでも、(2)が重要である。また、配合量の割に影響が大きいという点では、(3)も重要である。
また、(1)と(2)の組み合わせ、(1)と(3)の組み合わせ、(1)と(2)と(3)の組み合わせも好適である。
【0027】
前記(a)/(b)、前記マルテンス硬度(a)、前記マルテンス硬度(b)を制御する他の手段としては、(a)と(b)が同方向に変化する傾向だが、シリカ、カーボンブラック、高分子量ポリマー(SBR、BR)、希土類系BR(高シス含量BR)、加硫剤を適宜調整する方法等が挙げられる。
【0028】
上記手法に沿ってトレッド用ゴム組成物を調製し、該ゴム組成物を用いたトレッドを有するタイヤを作製することにより、前記(a)/(b)、前記マルテンス硬度(a)、前記マルテンス硬度(b)を満たすトレッドゴムを有するタイヤが得られる。
より具体的には、上記手法に沿ってトレッド用ゴム組成物を調製し、該ゴム組成物を用いたトレッドを有するタイヤを作製し、使用開始されるまで倉庫等でタイヤが保管されることにより、トレッドゴム内で配合剤の表層への移行、表層の硬化が進行し、前記(a)/(b)、前記マルテンス硬度(a)、前記マルテンス硬度(b)を満たすトレッドゴムを有するタイヤが得られる。
【0029】
以下、上記ゴム組成物(トレッドゴムを作製するゴム組成物)に使用可能な薬品について説明する。
【0030】
上記ゴム組成物に使用できるゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、SBR、BR、イソプレン系ゴムが好ましく、SBR、BRがより好ましい。
【0031】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ここで、ゴム成分は、重量平均分子量(Mw)が15万以上が好ましく、より好ましくは35万以上のゴムである。Mwの上限は特に限定されないが、好ましくは400万以下、より好ましくは300万以下である。
【0033】
SBRのスチレン量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0034】
SBRのビニル含量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0035】
SBRは、非変性SBRでもよいし、変性SBRでもよい。
変性SBRとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するSBRであればよく、例えば、SBRの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性SBR(末端に上記官能基を有する末端変性SBR)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性SBRや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性SBR(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性SBR)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性SBR等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)、アミド基が好ましい。
【0037】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用することができる。
【0038】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0039】
BRとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。例えば、高シス含量のBR、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(希土類系BR)、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)等、タイヤ工業において一般的なものが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、希土類系BRが好ましい。
【0040】
希土類系BRは希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴムであり、シス含量が高く、かつビニル含量が低いという特徴を有している。希土類系BRとしては、タイヤ製造における汎用品を使用できる。
【0041】
上記希土類元素系触媒としては、公知のものを使用でき、例えば、ランタン系列希土類元素化合物、有機アルミニウム化合物、アルミノキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じてルイス塩基を含む触媒が挙げられる。なかでも、ランタン系列希土類元素化合物としてネオジム(Nd)含有化合物を用いたNd系触媒が特に好ましい。
【0042】
BRのシス含量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。下限以上にすることで、効果がより好適に得られる。
【0043】
BRのビニル含量は、好ましくは1.8質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。上限以下にすることで、効果がより好適に得られる。
【0044】
BRは、非変性BR、変性BRのいずれでもよい。
変性BRとしては、前述の官能基が導入された変性BRが挙げられる。好ましい態様は変性SBRの場合と同様である。
【0045】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0046】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0047】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、天然ゴムが好ましい。
【0048】
ゴム成分100質量%中のSBR、BRの合計含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0049】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
また、シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)、ビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定でき、スチレン量は、H-NMR測定によって測定できる。
【0050】
上記ゴム組成物は、ワックスを含有することが好ましい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックスなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、石油系ワックスが好ましく、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスがより好ましい。また、マイクロクリスタリンワックス100質量%中の分岐アルカンの含有量が50質量%以上であることが好ましい。
【0051】
ワックスとしては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0052】
ゴム成分100質量部に対するパラフィンワックスの含有量は、好ましくは2.3質量部以下、より好ましくは2.0質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以下、特に好ましくは1.3質量部以下であり、静的オゾン性向上のためには、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上、特に好ましくは1.0質量部以上である。
【0053】
ゴム成分100質量部に対するマイクロクリスタリンワックスの含有量は、慣らし走行前のグリップ性能の向上のためには、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上であり、慣らし走行後のグリップ性能の向上のためには、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以下である。
【0054】
上記ゴム組成物は、老化防止剤を含有することが好ましい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ビス-(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤(p-フェニレンジアミン系老化防止剤);2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、フェニレンジアミン系老化防止剤が好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ビス-(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミンがより好ましい。
なお、フェニレンジアミン系老化防止剤と共に、キノリン系老化防止剤を併用してもよいが、キノリン系老化防止剤はフェニレンジアミン系老化防止剤よりも移行速度が遅く、表層の軟化効果は低い傾向がある。
【0055】
老化防止剤としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0056】
ゴム成分100質量部に対するフェニレンジアミン系老化防止剤の含有量は、好ましくは2.1質量部以上、より好ましくは2.4質量部以上、更に好ましくは3質量部以上、特に好ましくは3.4質量部以上、最も好ましくは4質量部以上、より最も好ましくは5質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは7質量部以下である。上記範囲内であると、前記(a)/(b)、前記マルテンス硬度(a)、前記マルテンス硬度(b)を所定の範囲内とすることができると共に、効果がより好適に得られる。
【0057】
老化防止剤の含有量(合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは4質量部以上、更に好ましくは6質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは8質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0058】
上記ゴム組成物は、液状可塑剤を含有することが好ましい。
液状可塑剤としては、20℃で液体状態の可塑剤であれば特に限定されず、オイル、液状樹脂、液状ポリマー等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、オイル、液状樹脂が好ましい。
【0059】
ゴム成分100質量部に対する液状可塑剤の含有量は、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは25質量部以上、特に好ましくは30質量部以上、最も好ましくは35質量部以上であり、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、特に好ましくは50質量部以下である。上記範囲内であると、前記(a)/(b)、前記マルテンス硬度(a)、前記マルテンス硬度(b)を所定の範囲内とすることができると共に、効果がより好適に得られる。なお、本明細書において、液状可塑剤の含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0060】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、軽度抽出溶媒和物(MES(mild extraction solvates))、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE(treated distillate aromatic extracts)などを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油、オレイン酸含有油等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果が良好に得られるという理由から、プロセスオイルが好ましく、アロマ系プロセスオイル、オレイン酸含有油が好ましい。
【0061】
オイルとしては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。
【0062】
液状樹脂としては、20℃で液体状態のテルペン系樹脂(テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂を含む)、スチレン系樹脂、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)樹脂、クマロンインデン系樹脂(クマロン、インデン単体樹脂を含む)、フェノール樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、クマロンインデン系樹脂が好ましい。
【0063】
液状ポリマー(液状ジエン系ポリマー)としては、20℃で液体状態の液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)、液状スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(液状SBSブロックポリマー)、液状スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(液状SISブロックポリマー)、液状ファルネセン重合体、液状ファルネセンブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、末端や主鎖が極性基で変性されていても構わない。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記ゴム組成物は、レジン(固体レジン:常温(25℃)で固体状態のレジン)を含有することが好ましい。これにより、より良好なグリップ性能が得られる傾向がある。
【0065】
上記レジンの軟化点は、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましく、上限は特に限定されないが、160℃以下が好ましく、135℃以下がより好ましい。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
なお、レジンの軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0066】
上記レジン(固体レジン)としては、特に制限されないが、例えば、芳香族ビニル重合体、クマロンインデン系樹脂、テルペン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5C9系石油樹脂、p-t-ブチルフェノールアセチレン樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、樹脂は、水添されていてもよい。なかでも、芳香族ビニル重合体、テルペン系樹脂が好ましい。
【0067】
上記芳香族ビニル重合体とは、α-メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂であり、スチレンの単独重合体(スチレン樹脂)、α-メチルスチレンの単独重合体(α-メチルスチレン樹脂)、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、スチレンと他のモノマーの共重合体などが挙げられる。
【0068】
テルペン系樹脂としては、テルペン化合物に由来する単位を有する樹脂であれば特に限定されず、例えば、ポリテルペン(テルペン化合物を重合して得られる樹脂)、テルペン芳香族樹脂(テルペン化合物と芳香族化合物とを共重合して得られる樹脂)、芳香族変性テルペン樹脂(テルペン樹脂を芳香族化合物で変性して得られる樹脂)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、テルペン芳香族樹脂、芳香族変性テルペン樹脂が好ましく、芳香族変性テルペン樹脂がより好ましい。
【0069】
上記テルペン化合物は、(Cの組成で表される炭化水素及びその含酸素誘導体で、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオールなどが挙げられる。上記テルペン化合物としてはまた、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸、ピマール酸、イソピマール酸などの樹脂酸(ロジン酸)なども挙げられる。すなわち、上記テルペン系樹脂には、松脂を加工することにより得られるロジン酸を主成分とするロジン系樹脂も含まれる。なお、ロジン系樹脂としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの天然産のロジン樹脂(重合ロジン)の他、マレイン酸変性ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂などの変性ロジン樹脂、ロジングリセリンエステルなどのロジンエステル、ロジン樹脂を不均化することによって得られる不均化ロジン樹脂などが挙げられる。
【0070】
上記芳香族化合物としては、芳香環を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール、不飽和炭化水素基含有フェノールなどのフェノール化合物;ナフトール、アルキルナフトール、アルコキシナフトール、不飽和炭化水素基含有ナフトールなどのナフトール化合物;スチレン、アルキルスチレン、アルコキシスチレン、不飽和炭化水素基含有スチレンなどのスチレン誘導体などが挙げられる。これらのなかでも、スチレンが好ましい。
【0071】
上記レジン、液状樹脂としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、JXTGエネルギー(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0072】
レジンの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、特に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0073】
上記ゴム組成物は、アミド化合物及び/又はSP値9.0以上の非イオン性界面活性剤を含有することが好ましい。
【0074】
アミド化合物としては、特に限定されないが、脂肪酸アミド、脂肪酸アミドエステルが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、脂肪酸アミドが好ましく、脂肪酸アミドと脂肪酸アミドエステルの混合物がより好ましい。
【0075】
アミド化合物は脂肪酸金属塩との混合物であってもよく、効果がより好適に得られるという理由から、アミド化合物は脂肪酸金属塩との混合物であることが好ましい。
【0076】
脂肪酸金属塩を構成する金属としては、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル、モリブデンなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、カルシウム、亜鉛などのアルカリ土類金属が好ましく、カルシウムがより好ましい。
【0077】
脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよく、飽和脂肪酸としては、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸などが挙げられ、不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、エライジン酸などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。また、不飽和脂肪酸としてはオレイン酸が好ましい。
【0078】
脂肪酸アミドは、飽和脂肪酸アミドであっても不飽和脂肪酸アミドであってもよく、飽和脂肪酸アミドとしては、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミドなどが挙げられ、不飽和脂肪酸アミドとしては、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、不飽和脂肪酸アミドが好ましく、オレイン酸アミドがより好ましい。
【0079】
脂肪酸アミドエステルは、飽和脂肪酸アミドエステルであっても不飽和脂肪酸アミドエステルであってもよく、飽和脂肪酸アミドエステルとしては、ステアリン酸アミドエステル、ベヘニン酸アミドエステルなどが挙げられ、不飽和脂肪酸アミドエステルとしては、オレイン酸アミドエステル、エルカ酸アミドエステルなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、不飽和脂肪酸アミドエステルが好ましく、オレイン酸アミドエステルがより好ましい。
【0080】
アミド化合物としては、例えば、日油(株)、ストラクトール社、ランクセス社等の製品を使用できる。
【0081】
ゴム成分100質量部に対する、アミド化合物の含有量は、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、特に好ましくは2質量部以下である。上記範囲内であると、前記(a)/(b)、前記マルテンス硬度(a)、前記マルテンス硬度(b)を所定の範囲内とすることができると共に、効果がより好適に得られる。なお、本明細書において、アミド化合物が脂肪酸金属塩との混合物である場合、アミド化合物の含有量には、アミド化合物に含まれる脂肪酸金属塩量も含まれる。
【0082】
SP値9.0以上の非イオン性界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される非イオン界面活性剤;プルロニック型非イオン界面活性剤;モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジラウリルエーテル、エチレングリコールジ2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールジオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。これら、非イオン界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、プルロニック型非イオン界面活性剤がより好ましい。
【化1】
(式(1)中、Rは、炭素数6~26の炭化水素基を表す。dは整数を表す。)
【化2】
(式(2)中、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数6~26の炭化水素基を表す。eは整数を表す。)
【0083】
上記式(1)で表される非イオン界面活性剤としては、エチレングリコールモノオレエート、エチレングリコールモノパルミエート、エチレングリコールモノパルミテート、エチレングリコールモノパクセネート、エチレングリコールモノリノレート、エチレングリコールモノリノレネート、エチレングリコールモノアラキドネート、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールモノセチルエート、エチレングリコールモノラウレート等が挙げられる。
【0084】
上記式(2)で表される非イオン界面活性剤としては、エチレングリコールジオレエート、エチレングリコールジパルミエート、エチレングリコールジパルミテート、エチレングリコールジパクセネート、エチレングリコールジリノレート、エチレングリコールジリノレネート、エチレングリコールジアラキドネート、エチレングリコールジステアレート、エチレングリコールジセチルエート、エチレングリコールジラウレート等が挙げられる。
【0085】
上記プルロニック型非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物とも呼ばれ、一般的には、下記式(I)で表わされる非イオン界面活性剤である。下記式(I)で表されるように、プルロニック型非イオン界面活性剤は、両側にエチレンオキシド構造から構成される親水基を有し、この親水基に挟まれるように、プロピレンオキシド構造から構成される疎水基を有する。
【化3】
(式(I)中、a、b、cは整数を表す。)
【0086】
プルロニック型非イオン界面活性剤のポリプロピレンオキシドブロックの重合度(上記式(I)のb)、及びポリエチレンオキシドの付加量(上記式(I)のa+c)は特に限定されず、使用条件・目的等に応じて適宜選択できる。ポリプロピレンオキシドブロックの割合が高くなる程ゴムとの親和性が高く、ゴム表面に移行する速度が遅くなる傾向がある。なかでも、非イオン界面活性剤のブルームを好適にコントロールでき、効果がより好適に得られるという理由から、ポリプロピレンオキシドブロックの重合度(上記式(I)のb)は、好ましくは100以下であり、より好ましくは10~70、更に好ましくは10~60、特に好ましくは20~60、最も好ましくは20~45である。同様に、ポリエチレンオキシドの付加量(上記式(I)のa+c)は、好ましくは100以下であり、より好ましくは3~65、更に好ましくは5~55、特に好ましくは5~40、最も好ましくは10~40である。ポリプロピレンオキシドブロックの重合度、ポリエチレンオキシドの付加量が上記範囲内であると、非イオン界面活性剤のブルームを好適にコントロールでき、効果がより好適に得られる。
【0087】
プルロニック型非イオン界面活性剤としては、BASFジャパン(株)製のプルロニックシリーズ、三洋化成工業(株)製のニューポールPEシリーズ、旭電化工業(株)製のアデカプルロニックL又はFシリーズ、第一工業製薬(株)製エパンシリーズ、日油(株)製のプロノンシリーズ又はユニルーブ等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
非イオン性界面活性剤のSP値は9.0以上であり、好ましくは9.1以上、より好ましくは9.2以上であり、好ましくは12以下、より好ましくは11以下、更に好ましくは10.5以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0089】
なお、本明細書において、SP値は、化合物の構造に基づいてHoy法によって算出される溶解度パラメーター(Solubility Parameter)を意味する。Hoy法とは、例えば、K.L.Hoy “Table of Solubility Parameters”,Solvent and Coatings Materials Research and Development Department,Union Carbites Corp.(1985)に記載された計算方法である。
【0090】
ゴム成分100質量部に対する、SP値9.0以上の非イオン性界面活性剤の含有量は、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。上記範囲内であると、前記(a)/(b)、前記マルテンス硬度(a)、前記マルテンス硬度(b)を所定の範囲内とすることができると共に、粘着グリップ性を損じなく、総合的グリップ性能がより好適に得られる。
【0091】
上記ゴム組成物は、シリカを含んでもよい。
シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは80m/g以上、より好ましくは110m/g以上であり、また、好ましくは300m/g以下、より好ましくは280m/g以下、更に好ましくは200m/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0093】
シリカとしては、例えば、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0094】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは70質量部以上、特に好ましくは90質量部以上であり、また、好ましくは200質量部以下、より好ましくは160質量部以下、更に好ましくは150質量部以下、特に好ましくは130質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0095】
上記ゴム組成物において、充填剤(補強性充填剤)100質量%中のシリカの含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0096】
上記ゴム組成物がシリカを含有する場合、更にシランカップリング剤を含有することが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。市販されているものとしては、例えば、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより良好に得られる傾向がある点から、スルフィド系シランカップリング剤が好ましい。
【0097】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0098】
上記ゴム組成物は、補強性充填剤としてカーボンブラックを含んでもよい。
カーボンブラックとしては、特に限定されず、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは80m/g以上、より好ましくは100m/g以上であり、また、好ましくは400m/g以下、より好ましくは300m/g以下、更に好ましくは150m/g以下、特に好ましくは130m/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのNSAは、JIS K6217-2:2001に準拠して測定される値である。
【0100】
カーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱化学(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。
【0101】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、特に好ましくは20質量部以下、最も好ましくは10質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0102】
上記ゴム組成物は、補強性充填剤として水酸化アルミニウム、硫酸マグネシウム、アルミナ、酸化マグネシウム、タルク、珪藻土を含有してもよい。これにより、より良好なグリップ性能が得られる傾向がある。
【0103】
水酸化アルミニウムの窒素吸着比表面積(NSA)は、3~60m/gであることが好ましい。該NSAの下限は、好ましくは6m/g以上、より好ましくは12m/g以上であり、また、上限は、好ましくは50m/g以下、より好ましくは40m/g以下、更に好ましくは20m/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。なお、水酸化アルミニウムのNSAは、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0104】
水酸化アルミニウムの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは4質量部以上であり、また、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、特に好ましくは20質量部以下、最も好ましくは15質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0105】
上記ゴム組成物は、ステアリン酸を含有してもよい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0106】
ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0107】
上記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含有してもよい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0108】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0109】
上記ゴム組成物は硫黄を含有してもよい。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
硫黄としては、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0111】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0112】
上記ゴム組成物は、加硫促進剤を含有してもよい。
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤を併用することがより好ましい。
【0113】
加硫促進剤としては、例えば、川口化学(株)、大内新興化学(株)製等の製品を使用できる。
【0114】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0115】
上記ゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機過酸化物;炭酸カルシウム、クレー、マイカなどの充填剤;等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~200質量部が好ましい。
【0116】
上記ゴム組成物は、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後必要に応じて加硫する方法等により製造できる。
【0117】
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは80~110℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫等の加硫処理が施される。加硫温度としては、乗用車タイヤでは通常140~190℃、好ましくは150~185℃、トラック・バス用タイヤでは通常130~160℃、好ましくは135~155℃である。加硫時間は、乗用車タイヤでは通常5~15分、トラック・バス用タイヤでは通常25~60分である。
【0118】
上記ゴム組成物は、タイヤのトレッドに使用する。キャップトレッド及びベーストレッドで構成されるトレッドの場合、キャップトレッドに好適に使用可能である。
【0119】
本発明のタイヤ(空気入りタイヤ等)は、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、上記ゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどの各タイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0120】
なお、上記タイヤのトレッドは、少なくとも一部が上記ゴム組成物で構成されていればよく、全部が上記ゴム組成物で構成されていてもよい。すなわち、トレッドゴムは、少なくとも一部が上記ゴム組成物を用いて作製されたゴムであればよく、全部が上記ゴム組成物を用いて作製されたゴムであってもよい。
【0121】
トレッドゴムのタイヤ半径方向の厚みは、乗用車用タイヤでは5~12mm、トラック・バス用タイヤでは7~25mmである。本願では、表層1mm以内の物性に着目しているため、用途を問わずに適用できる。
【0122】
上記タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ、スタッドレスタイヤ(冬用タイヤ)、オールシーズンタイヤ、ランフラットタイヤ、航空機用タイヤ、鉱山用タイヤ等として好適に用いられる。
【0123】
(第二の本発明)
従来から、タイヤの技術分野で用いられているShore(A)Hs(Shore(A)硬度)は、押し込み針長さ2mm程度で、ゴムの試験、引張性能とも相関有り、タイヤの操縦性の指標として常用されている。しかし、グリップ性能(特に、初期グリップ性能)とHsは相関が無い場合があることが本発明者らの検討の結果明らかとなってきた。このように、従来は、グリップ性能(特に、初期グリップ性能)を評価する手法が存在しなかった。
第二の本発明は、このような課題を解決したものであって、上述の知見に基いて、タイヤのグリップ性能を評価する方法に関する発明である。
具体的には、第二の本発明のタイヤのグリップ性能の評価方法は、
タイヤのトレッドゴムから切り出した試験片であって、タイヤトレッド接地部を構成していた面である接地面と、接地面と直交し、タイヤ半径方向に向かって延びる面である測定面とを有する試験片を調製する試験片調製工程と、
微小硬度計又は薄膜硬度計を用いて、前記試験片調製工程により調製した試験片の測定面をタイヤ半径方向に沿ってマルテンス硬度を測定する測定工程と
を有する。
【0124】
<試験片調製工程>
試験片調製工程では、図4のように、タイヤのトレッドゴムから、ゴム片を切り出す。切り出す際に、タイヤトレッド接地部を構成していた面である接地面(図4のトレッド面20)がゴム片に残るように切り出す。そして、切り出したゴム片から、タイヤトレッド接地部を構成していた面である接地面(図4のトレッド面20)と、接地面と直交し、タイヤ半径方向に向かって延びる面である測定面とを有する形状の試験片を調製する(図4参照)。試験片の測定面としては、図4で図示される2面(図4の測定面30)と、裏側に隠れた図示されていない2面の合計4面が存在するがいずれの面を測定面として採用してもよい。
ここで、図4(a)~(c)に示す通り、トレッド面20を有するようにゴム片を切り出す限り、タイヤのどの位置からゴム片を切り出してもよく、タイヤ周方向に沿って切り出しても、タイヤ周方向と異なる角度で切り出してもよい。
なお、図4のように、ゴム片を切り出すことにより測定面を形成してもよく、切り出したゴム片を更に加工することにより測定面を形成してもよい。
【0125】
<測定工程>
測定工程では、微小硬度計又は薄膜硬度計を用いて、前記試験片調製工程により調製した試験片の測定面をタイヤ半径方向に沿ってマルテンス硬度を測定する。
ここで、マルテンス硬度を測定する間隔としては特に限定されないが、生産性と精度とを両立できるという理由から、20μm刻みで測定することが好ましい。
【0126】
微小硬度計としては、特に限定されないが、微小押し込み型硬度計、Hysitron社製TI-950型トライボインデンター、フィッシャー社製ピコデンターHM500、島津製作所社製島津ダイナミック超微小硬度計DUH-W201S、フィッシャーインストルメンツ社製HM-2000、フィッシャー・インストルメンツ社製フィッシャースコープH100等が挙げられる。
薄膜硬度計としては、特に限定されないが、マルテンス硬度計、エリオニクス社製のナノインデンター「ENT-2100」、日本電気社製の薄膜硬度計MHA-400等が挙げられる。なかでも、薄膜硬度計が好ましい。
【0127】
マルテンス硬度を測定する範囲としては、特に限定されないが、前記測定面のうち、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μm~200μm(好ましくは20μm~200μm)に相当する範囲について、マルテンス硬度を測定することが好ましい。これにより、生産性よくグリップ性能を評価できる。
【0128】
測定面の表面粗さ(μm)は、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.5以下であり、下限は特に限定されない。これにより、より好適にグリップ性能の評価が可能となる。
なお、本明細書において、表面粗さは、JIS B0601-2001で規定される中心線表面粗さRaである。
【0129】
圧子に加えられる荷重は、好ましくは30mgf以上、より好ましくは50mgf以上であり、好ましくは200mgf以下、より好ましくは100mgf以下である。これにより、より好適にグリップ性能の評価が可能となる。
【0130】
圧子の押し込み深さは、適宜調整可能であるが、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下であり、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上である。これにより、より好適にグリップ性能の評価が可能となる。
【0131】
ここで、測定面における空気による酸化の影響を低減するため、マルテンス硬度を測定する前に、前記試験片調製工程により調製した試験片の測定面の表面を20μm以上(好ましくは200μm以上、より好ましくは500μm以上であり、上限は特に限定されない)除去して、新たな測定面を形成し、形成された新たな測定面のマルテンス硬度を測定することが好ましい。これにより、より好適にグリップ性能の評価が可能となる。
また、測定面における空気による酸化の影響を低減するため、実際に測定に供する測定面を形成してからマルテンス硬度を測定するまでの時間は、好ましくは6時間以下である。
【0132】
<評価工程>
評価工程では、測定工程により得られたマルテンス硬度の分布に基いて、グリップ性能を評価する。具体的には、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、上記式(I)を満たすか否かにより、グリップ性能(特に、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能の両立)を評価すればよい。
【0133】
以上の通り、第二の本発明によれば、タイヤのトレッドゴムから切り出した試験片であって、タイヤトレッド接地部を構成していた面である接地面と、接地面と直交し、タイヤ半径方向に向かって延びる面である測定面とを有する試験片を調製する試験片調製工程と、微小硬度計又は薄膜硬度計を用いて、上記試験片調製工程により調製した試験片の測定面をタイヤ半径方向に沿ってマルテンス硬度を測定する測定工程とを有するタイヤのグリップ性能の評価方法であるので、タイヤのグリップ性能(特に、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能の両立)の評価が可能となる。
【実施例
【0134】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0135】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
<SBR1>:日本ゼオン(株)製のN9548(スチレン量:35質量%、ビニル含量:18質量%、ゴム固形分100質量部に対してオイル分37.5質量部含有)
<SBR2>:日本ゼオン(株)製のNS612(スチレン量:15質量%、ビニル含量:30質量%)
<BR>:ランクセス(株)製のBUNA-CB25(Nd系触媒を用いて合成した希土類系BR、ビニル含量:0.7質量%、シス含量:97質量%、SP値:8.2)
<カーボンブラック>:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(NSA:114m/g)
<シリカ1>:エボニックデグッサ社製のウルトラシルVN3(NSA:175m/g)
<シリカ2>:ローディア社製のZ115Gr(NSA:115m/g)
<水酸化アルミニウム>:Nabaltec社製のApyral200(NSA:15m/g)
<シランカップリング剤>:エボニックデグッサ社製のSi75(ビス(3-トリエトキシシリルプロピルジスルフィド))
<αメチルスチレン樹脂>:Arizona chemical社製のSYLVARES SA85(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃)
<テルペン系樹脂>:ヤスハラケミカル(株)製のYSレジンTO125(芳香族変性テルペン樹脂、軟化点:125℃)
<アロマオイル>:出光興産(株)製のAH-24(アロマ系プロセスオイル)
<液状クマロンインデン樹脂>:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C10(液状クマロンインデン樹脂、軟化点:10℃)
<界面活性剤>:三洋化成工業(株)製のニューポールPE-64(プルロニック型非イオン界面活性剤(PEG/PPG-25/30コポリマー)(上記式(I)のa+c:25、b:30、SP値:9.2)
<WB16>:ストラクトール社製のWB16(脂肪酸カルシウム、脂肪酸アミド及び脂肪酸アミドエステルの混合物、灰分割合4.5%)
<ステアリン酸>:日油(株)製のビーズステアリン酸「椿」
<老化防止剤1>:住友化学(株)製のアンチゲン6C(6PPD、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン)
<老化防止剤2>:LANXESS社製のVulkanox4030(77PD、N,N'-ビス-(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン)
<老化防止剤3>:大内新興化学工業(株)製のノクラック224(TMQ、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体)
<パラフィンワックス>:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
<マイクロクリスタリンワックス>:日本精蝋(株)製のHi-Mic1080(マイクロクリスタリンワックス100質量%中の分岐アルカンの含有量:50.6質量%)
<酸化亜鉛>:ハクスイテック(株)製の酸化亜鉛2種
<硫黄>:細井化学工業(株)製のHK200-5(5%オイル含有粉末硫黄)
<加硫促進剤1>:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
<加硫促進剤2>:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(ジフェニルグアニジン)
【0136】
(実施例及び比較例)
表2に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物をキャップトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃の条件下で10分間プレス加硫してタイヤ(サイズ:225/50R17、トレッドゴムのタイヤ半径方向の厚み:9mm)を得た。
市場に流通する新品のタイヤを再現するために、得られたタイヤを3ヶ月間、気温20~40℃の倉庫に静置し、試験用タイヤとした。
【0137】
得られた試験用タイヤを下記により評価した。結果を表2に示す。
【0138】
(マルテンス硬度)
得られた試験用タイヤのトレッドゴムから、ゴム片を切り出した。切り出す際に、タイヤトレッド接地部を構成していた面である接地面がゴム片に残るように切り出した。そして、切り出したゴム片から、タイヤトレッド接地部を構成していた面である接地面と、接地面と直交し、タイヤ半径方向に向かって延びる面である測定面とを有する形状の試験片を調製した(図4参照)。
更に、空気による酸化の影響を低減するため、測定の直前(1時間前)に、調製した試験片の測定面の表面を500μm除去して、新たな測定面を形成した。そして、形成された新たな測定面の、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲に相当する範囲のマルテンス硬度をタイヤ半径方向に沿って測定した。そして、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)を決定した。
マルテンス硬度の測定方法は、以下の通りである。
エリオニクス社製のナノインデンター「ENT-2100」(薄膜硬度計)を用いて測定した。
測定条件は、以下の通りである。
温度:23℃
試験片の厚み(バーコビッチ圧子を押し込む方向の厚み):2mm
測定面の表面粗さ:0.2
荷重F:50mgf
バーコビッチ圧子の角度α:65.03°
バーコビッチ圧子の材質:DLC(Diamond-Like Carbon)コーティングされた鉄
押し込み深さh:7μm
押し込み深さhと圧子の角度αとに基づいて、下記数式によって面積As(h)(深さhにおける圧子の表面積(圧子と試料間の接触投影面積))が算出される。
As(h)=3×31/2×tanα/cosα×h
圧子に加えられた荷重(最大試験荷重)Fと面積As(h)に基づいて、下記数式によってマルテンス硬度が算出される。
マルテンス硬度=F/As(h)
【0139】
(慣らし走行前のグリップ性能(ウェットグリップ性能))
得られた試験用タイヤを車両(国産4WD2500cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面を走行し、ドライバーがグリップ感、応答性、ブレーキ減速性、周回軌道トレース性を官能評価した。結果は、比較例1を100としたときの指数で表示した(慣らし走行前グリップ性能指数)。指数が大きいほど、慣らし走行前のグリップ性能(ウェットグリップ性能)に優れることを示す。
【0140】
(慣らし走行後のグリップ性能(ウェットグリップ性能))
慣らし走行前のグリップ性能(ウェットグリップ性能)を評価した後、更に、周回路を約70km、0.5時間走行し、トレッド面を深さ約10μm摩耗させた後、慣らし走行前のグリップ性能(ウェットグリップ性能)と同様に官能評価した。
結果は、比較例1を100としたときの指数で表示した(慣らし走行後グリップ性能指数)。指数が大きいほど、慣らし走行後のグリップ性能(ウェットグリップ性能)に優れることを示す。
【0141】
【表2】
【0142】
表2より、式(I)を満たすトレッドゴムを有する実施例のタイヤは、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能を両立できることが分かった。
【0143】
また、表2より、以下の知見も得られた。
フェニレンジアミン系老化防止剤の配合量が多いほど、また、パラフィンワックスの配合量が少ないほど、マイクロクリスタリンワックスを配合すると、マルテンス硬度(a)を小さくできる傾向がある。
液状可塑剤の配合量が多く、界面活性剤の配合量が多いほど、表面のフェニレンジアミン系老化防止剤の分布が均一となり、更にマルテンス硬度(a)を小さくできる傾向がある。
液状可塑剤の配合量が少ないと、フェニレンジアミン系老化防止剤の配合効果が小さく、マルテンス硬度(a)が大きくなる傾向がある。
液状可塑剤の配合量が少なく、かつ、レジンの配合量が多い場合であっても、界面活性剤、マイクロクリスタリンワックス等の使用で、マルテンス硬度(a)は小さくできる傾向がある。
シリカ量の配合量が多いほど、液状可塑剤の配合量も多くなり、マルテンス硬度(a)は小さくなる傾向がある。
【0144】
次に、比較例1、実施例1、実施例11の試験片について、測定の直前(1時間前)に、調製した試験片の測定面の表面を500μm除去して、新たな測定面を形成した。そして、形成された新たな測定面について、タイヤ半径方向に沿ってタイヤ表面から20μm刻みで、タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ20μm~200μmに相当する範囲について、マルテンス硬度を測定した。なお、その他の条件は上記方法に従って行った。結果を図1に示した。
【0145】
図1に示す通り、タイヤ表面から20μmの位置では、酸素、オゾン、紫外線劣化による硬化が顕著な場合があり、有意義な差がみられた。タイヤ表面から40~60μmの位置では、上記劣化が進展しておらず、タイヤ表面から200μmの位置に比べても、硬度が低い。これは、可塑剤や樹脂成分がリッチな層であるためであると推測される。
タイヤは、摩耗していくものの、実際の路面との接触は1/10000の面積で、走行温度60℃以上になると、表層は劣化、内部からブリード物が析出してきて、新品時と同じ現象が常に再現していると推測される。
【0146】
タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置からタイヤ半径方向深さ200μmの位置の範囲におけるマルテンス硬度の最小値(a)、最大値(b)に関して、上記式(I)を満たすか否かにより、グリップ性能(特に、慣らし走行前のグリップ性能、慣らし走行後のグリップ性能の両立)を評価できる。
【符号の説明】
【0147】
2 タイヤ
4 トレッド
20 トレッド面
22 溝
30 測定面
a タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ10μmの位置
b タイヤ表面からタイヤ半径方向深さ200μmの位置
図1
図2
図3
図4