(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
F02B 39/00 20060101AFI20240709BHJP
F02B 37/00 20060101ALI20240709BHJP
F04D 29/44 20060101ALI20240709BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
F02B39/00 G
F02B37/00 301F
F04D29/44
F04D29/66
(21)【出願番号】P 2021002105
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川本 増夫
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-138612(JP,A)
【文献】特開2009-85083(JP,A)
【文献】特開2009-228664(JP,A)
【文献】特開2007-127108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
F02B 37/00
F04D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気を過給するコンプレッサホイールと、
前記コンプレッサホイールを収容するハウジング本体と、
前記ハウジング本体に固定されて前記コンプレッサホイールに導入する吸気の通路を区画する筒状のインレット部材と、を備えているターボチャージャであって、
前記ハウジング本体は、
前記コンプレッサホイールの回転軸線に沿う方向から視て、前記回転軸線を囲むように環状に延びる第1壁部と、
前記回転軸線に沿う方向から視て、前記第1壁部を囲むように環状に延びる第2壁部と、
前記第1壁部及び前記第2壁部を連結する中間壁部と、
前記第1壁部によって囲まれた空間であって前記コンプレッサホイールを収容する収容空間と、
前記第1壁部、前記第2壁部、及び前記中間壁部によって区画された環状空間と、
前記第1壁部を貫通するとともに前記中間壁部の一部を前記回転軸線に沿う方向に分断するスリットと、
を備え、
前記インレット部材は、
前記収容空間に対して前記回転軸線に沿う方向に隣り合っており、前記収容空間に吸気を導入する導入通路と、
前記回転軸線に沿う方向から視て、前記導入通路を取り囲んでいるとともに前記環状空間及び前記導入通路を連通する連通空間と、
を備え、
前記環状空間における共鳴周波数を気柱共鳴周波数とし、前記スリットにおける共鳴周波数を入口分岐共鳴周波数とし、前記連通空間における共鳴周波数を出口分岐共鳴周波数としたとき、
前記気柱共鳴周波数は前記出口分岐共鳴周波数よりも小さく、且つ、前記入口分岐共鳴周波数を前記出口分岐共鳴周波数で除算した値は1.7よりも大きい
ターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の内燃機関は、ターボチャージャを備えている。ターボチャージャは、吸気を過給するコンプレッサホイールと、コンプレッサホイールを収容するコンプレッサハウジングとを備えている。コンプレッサハウジングは、コンプレッサホイールを収容する収容空間と、収容空間に連通するとともに収容空間に吸気を導入する導入通路とを備えている。また、コンプレッサハウジングは、収容空間を取り囲む環状の環状空間と、収容空間及び環状空間を連通する連通路とを備えている。環状空間は、導入通路に連通している。
【0003】
特許文献1のターボチャージャでは、収容空間の吸気の圧力が導入通路の吸気の圧力に比べて高くなると、収容空間の吸気の一部が連通路及び環状空間を介して導入通路へと還流する。その結果、収容空間から導入通路へと直接吸気が逆流する、いわゆるサージングが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようなターボチャージャでは、収容空間の吸気の一部が連通路及び環状空間を介して導入通路へと還流する際に、その吸気の流通に起因して共鳴音が発生することがある。ターボチャージャにおける環状空間及び連通路の構造によっては、共鳴音が過度に大きくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのターボチャージャは、吸気を過給するコンプレッサホイールと、前記コンプレッサホイールを収容するハウジング本体と、前記ハウジング本体に固定されて前記コンプレッサホイールに導入する吸気の通路を区画する筒状のインレット部材と、を備えているターボチャージャであって、前記ハウジング本体は、前記コンプレッサホイールの回転軸線に沿う方向から視て、前記回転軸線を囲むように環状に延びる第1壁部と、前記回転軸線に沿う方向から視て、前記第1壁部を囲むように環状に延びる第2壁部と、前記第1壁部及び前記第2壁部を連結する中間壁部と、前記第1壁部によって囲まれた空間であって前記コンプレッサホイールを収容する収容空間と、前記第1壁部、前記第2壁部、及び前記中間壁部によって区画された環状空間と、前記第1壁部を貫通するとともに前記中間壁部の一部を前記回転軸線に沿う方向に分断するスリットと、を備え、前記インレット部材は、前記収容空間に対して前記回転軸線に沿う方向に隣り合っており、前記収容空間に吸気を導入する導入通路と、前記回転軸線に沿う方向から視て、前記導入通路を取り囲んでいるとともに前記環状空間及び前記導入通路を連通する連通空間と、を備え、前記環状空間における共鳴周波数を気柱共鳴周波数とし、前記スリットにおける共鳴周波数を入口分岐共鳴周波数とし、前記連通空間における共鳴周波数を出口分岐共鳴周波数としたとき、前記気柱共鳴周波数は前記出口分岐共鳴周波数よりも小さく、且つ、前記入口分岐共鳴周波数を前記出口分岐共鳴周波数で除算した値は1.7よりも大きい。
【0007】
本発明者は、上記の入口分岐共鳴周波数、出口分岐共鳴周波数、及び気柱共鳴周波数の関係性により、共鳴音が他の関係性の場合に比べて小さくなることを確認した。したがって、上記構成によれば、過度に大きな共鳴音が発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】コンプレッサハウジングの周辺構成を示す断面図。
【
図6】出口分岐共鳴周波数と気柱共鳴周波数との関係を示す説明図。
【
図7】入口分岐共鳴周波数を出口分岐共鳴周波数で除算した値と共鳴音の音量との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<内燃機関の概略構成>
以下、本発明の一実施形態を
図1~
図7にしたがって説明する。先ず、車両の内燃機関10の概略構成について説明する。
【0010】
図1に示すように、内燃機関10は、吸気通路11、複数の気筒12、排気通路13、複数の燃料噴射弁16、及びターボチャージャ20を備えている。吸気通路11は、内燃機関10の外部からの吸気を導入する。各気筒12は、吸気通路11に接続している。燃料噴射弁16は、気筒12内に燃料を噴射する。燃料噴射弁16は、1つの気筒12につき1つ存在している。気筒12は、燃料と吸気とを混合して燃焼させる。気筒12での燃焼により、図示しないクランクシャフトが回転する。排気通路13は、各気筒12に接続している。排気通路13は、各気筒12からの排気を排出する。なお、
図1では、複数組の気筒12及び燃料噴射弁16のうち、1組のみを図示している。
【0011】
ターボチャージャ20は、コンプレッサハウジング21、ベアリングハウジング22、タービンハウジング23、コンプレッサホイール31、シャフト32、及びタービンホイール33を備えている。
【0012】
コンプレッサハウジング21は、吸気通路11の途中に位置している。タービンハウジング23は、排気通路13の途中に位置している。ベアリングハウジング22は、コンプレッサハウジング21及びタービンハウジング23のそれぞれに連結している。すなわち、コンプレッサハウジング21及びタービンハウジング23は、ベアリングハウジング22を介して繋がっている。このように、ターボチャージャ20は、吸気通路11及び排気通路13に跨って設けられている。
【0013】
タービンハウジング23は、タービンホイール33を収容している。ベアリングハウジング22は、シャフト32を収容している。ベアリングハウジング22は、図示しないベアリングを介してシャフト32を回転可能に支持している。シャフト32の第1端は、タービンホイール33に接続している。コンプレッサハウジング21は、コンプレッサホイール31を収容している。コンプレッサホイール31は、シャフト32の第2端に接続している。すなわち、コンプレッサホイール31は、シャフト32を介してタービンホイール33に連結している。
【0014】
タービンホイール33がタービンハウジング23の内部の排気の流通により回転すると、シャフト32を介してコンプレッサホイール31が共に回転する。そして、コンプレッサホイール31が回転することにより、コンプレッサハウジング21の内部の吸気が過給される。
【0015】
タービンハウジング23は、バイパス通路23Aを備えている。バイパス通路23Aは、タービンホイール33よりも上流の空間とタービンホイール33よりも下流の空間とを接続している。
【0016】
ターボチャージャ20は、ウェイストゲートバルブ41、リンク機構42、及びアクチュエータ43を備えている。ウェイストゲートバルブ41は、バイパス通路23Aの近傍に位置している。アクチュエータ43は、リンク機構42を介して、ウェイストゲートバルブ41に連結している。アクチュエータ43は、リンク機構42を介してウェイストゲートバルブ41に駆動力を伝達する。そして、ウェイストゲートバルブ41は、バイパス通路23Aを開閉する。その結果、タービンホイール33を介して流通する排気の量が調整されることにより、タービンホイール33の回転速度が調整される。
【0017】
<コンプレッサハウジングの周辺構成>
次に、コンプレッサハウジング21の周辺構成について具体的に説明する。以下では、
図2に示すように、コンプレッサホイール31の回転軸線31Zに沿う方向のうち、コンプレッサハウジング21から視てベアリングハウジング22側の方向を第1方向とし、その反対方向を第2方向とする。また、回転軸線31Zから視て、当該回転軸線31Zに直交する方向を径方向と略記する。
【0018】
図2に示すように、コンプレッサホイール31は、軸部31A、及び複数の全翼31Bを備えている。軸部31Aは、シャフト32に接続している。軸部31Aは、シャフト32に沿って延びている。軸部31Aは、第1方向に向かうほど径が大きくなっている。軸部31Aの回転軸線31Zは、シャフト32の回転軸線と同軸になっている。全翼31Bは、軸部31Aから径方向に突出している。全翼31Bは、回転軸線31Zに沿う軸部31Aの寸法の略全域に亘って延びている。各全翼31Bは、回転軸線31Zの周方向において互いに離間するように等間隔で位置している。本実施形態において、全翼31Bの数は6枚である。なお、
図4では、全翼31Bの図示を省略している。
【0019】
図2に示すように、コンプレッサハウジング21は、ハウジング本体60、及びインレット部材80を備えている。ハウジング本体60は、第1壁部61、第2壁部62、複数の中間壁部63、筒状壁部64、及び円弧部65を備えている。
【0020】
筒状壁部64の形状は、略円筒形状である。筒状壁部64の中心軸は、概ね回転軸線31Zに沿っている。第2壁部62の形状は、筒状壁部64と同様に、略円筒形状である。したがって、
図4に示すように、第2壁部62は、回転軸線31Zに沿う方向から視て、環状に延びている。
図2に示すように、第2壁部62の中心軸は、概ね回転軸線31Zに沿っている。第2壁部62は、筒状壁部64に対して、第1方向の端、すなわち
図2における右端に接続している。第2壁部62の内径は、筒状壁部64の内径よりも小さくなっている。したがって、第2壁部62と筒状壁部64との境界には、段差が生じている。円弧部65は、筒状壁部64及び第2壁部62の外周を取り囲むように略円弧状に延びている。
【0021】
図4に示すように、第1壁部61は、回転軸線31Zに沿う方向から視て、環状に延びている。
図2に示すように、第1壁部61の第1方向の端は、第2壁部62の第1方向の端に接続している。第1壁部61の第2方向の端は、第2壁部62の第2方向の端に対して径方向に離れている。すなわち、第1壁部61の第2方向の端においては、第1壁部61の径は、第2壁部62の径よりも小さくなっている。したがって、
図4に示すように、第1壁部61は、回転軸線31Zに沿う方向から視て、第2壁部62によって囲まれている。
図2に示すように、第1壁部61における第2方向の端は、回転軸線31Zに沿う方向において、第2壁部62の第2方向の端と一致している。
【0022】
図4に示すように、中間壁部63は、第1壁部61及び第2壁部62の間に位置している。中間壁部63は、第1壁部61の外面と第2壁部62の内面とを連結している。
図2に示すように、中間壁部63の第1方向の端は、第1壁部61の底面に接続している。中間壁部63の第2方向の端は、回転軸線31Zに沿う方向において、第1壁部61及び第2壁部62の第2方向の端と一致している。
図4に示すように、各中間壁部63は、回転軸線31Zの周方向において互いに離間するように等間隔で位置している。本実施形態において、中間壁部63の数は3つである。
【0023】
図2に示すように、ハウジング本体60は、当該ハウジング本体60の内部空間として、大径空間71、収容空間72、接続通路73、スクロール通路74、スリット76、及び複数の環状空間77を備えている。
【0024】
収容空間72は、第1壁部61によって囲まれた空間である。収容空間72は、コンプレッサホイール31を収容している。大径空間71は、収容空間72から視て第2方向に位置している。大径空間71は、筒状壁部64によって囲まれた空間である。大径空間71の形状は、略円柱形状である。
【0025】
スクロール通路74は、円弧部65の内部に位置している。スクロール通路74は、コンプレッサホイール31を取り囲むように周方向に延びている。スクロール通路74の下流端は、コンプレッサハウジング21よりも下流の吸気通路11に接続している。
【0026】
接続通路73は、収容空間72とスクロール通路74との間に位置しており、収容空間72とスクロール通路74とを接続している。接続通路73を区画する壁の一部は、ベアリングハウジング22の端面によって構成されている。回転軸線31Zに沿う方向から視たときに、接続通路73の形状は、略円環形状である。
【0027】
図4に示すように、環状空間77は、第1壁部61、第2壁部62、及び中間壁部63によって区画された空間である。本実施形態において、環状空間77は、3つの中間壁部63により分断されており、合計3つ存在している。また、回転軸線31Zに沿う方向から視たときに、各環状空間77の形状は、略円弧形状である。
【0028】
図2に示すように、スリット76は、第1壁部61を径方向に貫通している。スリット76は、第1壁部61の周方向の全域に亘って延びており、略円環形状になっている。また、
図5に示すように、スリット76は、中間壁部63における径方向の途中にまで至っている。したがって、スリット76は、回転軸線31Zに沿う方向において中間壁部63の一部分を分断している。
【0029】
図2に示すように、インレット部材80は、ハウジング本体60における大径空間71に位置している。インレット部材80は、全体として円環形状になっている。インレット部材80は、環状部81、外周壁部82、内周壁部83、及び複数のベーン84を備えている。環状部81の外径は、大径空間71の内径と略同じである。環状部81の内径は、第1壁部61の内径と略同じである。環状部81の中心軸線は、回転軸線31Zと略一致している。
【0030】
外周壁部82は、環状部81における第1方向の端面から突出している。外周壁部82は、環状部81の外周縁に沿うように、当該環状部81の周方向の全域に亘って延びている。本実施形態において、環状部81及び外周壁部82が大径空間71に挿入されることにより、インレット部材80がハウジング本体60に固定されている。インレット部材80及びハウジング本体60の固定構成の一例は、環状部81及び外周壁部82と大径空間71との圧入である。
【0031】
図2に示すように、内周壁部83は、環状部81における第1方向の端面から突出している。
図3に示すように、内周壁部83は、環状部81の内周縁に沿うように、当該環状部81の周方向の全域に亘って延びている。したがって、内周壁部83は、径方向において外周壁部82と離間している。
図2に示すように、内周壁部83における第1方向の端は、外周壁部82における第1方向の端に対して、第2方向側に位置している。すなわち、内周壁部83における第1方向の端と第1壁部61の第2方向の端との間には隙間が存在する。
【0032】
図2に示すように、ベーン84は、環状部81における第1方向の端面から突出している。ベーン84における第1方向の端は、回転軸線31Zに沿う方向において、外周壁部82の第1方向の端と同じ位置にある。
図3に示すように、ベーン84は、外周壁部82及び内周壁部83を繋ぐように延びている。各ベーン84は、回転軸線31Zを中心とする周方向において互いに離間しつつ等間隔で位置している。本実施形態において、ベーン84の数は9つである。
【0033】
図2に示すように、インレット部材80は、当該インレット部材80の内部空間として、導入通路91、及び連通空間92を備えている。導入通路91は、環状部81及び内周壁部83によって区画されたこれらの径方向内側の空間である。導入通路91は、収容空間72に対して第2方向に隣り合っている。導入通路91の上流端は、コンプレッサハウジング21よりも上流の吸気通路11に接続している。したがって、導入通路91は、当該導入通路91を介して収容空間72に吸気を導入する。
【0034】
連通空間92は、環状部81、外周壁部82、内周壁部83、及びベーン84によって区画された空間である。本実施形態において、連通空間92は、9つのベーン84により分かれており、合計9つ存在している。連通空間92は、環状空間77と導入通路91とを連通している。
【0035】
<共鳴周波数に関する構成>
次に、コンプレッサハウジング21の共鳴周波数に関する構成について具体的に説明する。以下では、
図4に示すように、環状空間77の容積を容積VBとする。容積VBは、3つに分かれた環状空間77の合計の容積である。
図3に示すように、連通空間92の容積を容積VCとする。容積VCは、9つに分かれた連通空間92の合計の容積である。
図4に示すように、第2方向の端における環状空間77の開口断面積を面積Sとする。面積Sは、3つに分かれた環状空間77の合計の開口断面積である。
図5に示すように、スリット76の径方向の長さを入口長さHAとする。入口長さHAは、スリット76の径方向内側の端から径方向外側の端までの長さである。この実施形態では、スリット76の径方向内側の端の位置は、第1壁部61の内周面の位置と同じである。スリット76の径方向外側の端は、当該スリット76のうち、中間壁部63に設けられている部分の径方向外側の端である。
図2に示すように、連通空間92の径方向の長さを出口長さHCとする。出口長さHCは、内周壁部83の内周面から外周壁部82の内周面までの径方向の長さである。
図2に示すように、回転軸線31Zに沿う方向におけるスリット76と連通空間92との距離を中心間距離Lとする。ここで、内周壁部83の第1方向の端及び第1壁部61の第2方向の端における間の隙間の回転軸線31Zに沿う方向の中心を隙間中心とする。このとき、中心間距離Lは、スリット76における回転軸線31Zに沿う方向の中心と、上記隙間中心との距離である。
【0036】
また、以下では、収容空間72からスリット76を介して環状空間77へと流通する際のスリット76における共鳴周波数を入口分岐共鳴周波数FAとする。また、吸気が環状空間77を第2方向に流通する際の環状空間77における共鳴周波数を気柱共鳴周波数FBとする。さらに、環状空間77から連通空間92を介して導入通路91へと流通する際の連通空間92における共鳴周波数を出口分岐共鳴周波数FCとする。
【0037】
気柱共鳴周波数FBは、上記のパラメータと以下の関係にある。なお、以下の係数Kは、流通する吸気の音速等により定まる係数である。
式(1):気柱共鳴周波数FB=係数K×(面積S/中心間距離L×(1/容積VB+1/容積VC)0.5)
入口分岐共鳴周波数FAは、上記のパラメータと以下の関係にある。
【0038】
式(2):入口分岐共鳴周波数FA=係数K×1/入口長さHA
出口分岐共鳴周波数FCは、上記のパラメータと以下の関係にある。
式(3):出口分岐共鳴周波数FC=係数K×1/出口長さHC
本実施形態では、上記の式(1)~式(3)の関係性に基づき、各種のパラメータを調整することにより、コンプレッサハウジング21において、以下の条件(1)及び条件(2)を満たしている。
【0039】
条件(1):気柱共鳴周波数FB<出口分岐共鳴周波数FC
条件(2):入口分岐共鳴周波数FA/出口分岐共鳴周波数FC>1.7
なお、本実施形態では、以下のようにパラメータを調整することにより、条件(1)及び条件(2)を実現している。例えば、気柱共鳴周波数FB=出口分岐共鳴周波数FCである場合には、容積VBを大きく、容積VCを大きく、中心間距離Lを大きくして、気柱共鳴周波数FBを小さくすることより、条件(1)を実現できる。また、例えば、入口分岐共鳴周波数FA/出口分岐共鳴周波数FC=1.7である場合には、入口長さHAを小さくして、入口分岐共鳴周波数FAを大きくすることにより、条件(2)を実現できる。
【0040】
<本実施形態の作用>
コンプレッサハウジング21よりも上流の吸気通路11から導入通路91に吸気が導入されると、導入通路91を介して収容空間72へと吸気が流通する。そして、コンプレッサホイール31の回転により収容空間72の吸気が圧縮される。その結果、接続通路73及びスクロール通路74を介して、コンプレッサハウジング21よりも下流の吸気通路11へと圧縮された吸気が流通する。
【0041】
また、収容空間72の吸気の圧力が導入通路91の吸気の圧力に比べて高くなると、収容空間72の吸気の一部はスリット76を介して環状空間77へと流通する。そして、環状空間77の吸気は連通空間92を介して導入通路91へと還流する。なお、このようなスリット76、環状空間77、及び連通空間92を介した吸気の還流により、収容空間72から導入通路91へと直接吸気が逆流する、いわゆるサージングが抑制される。
【0042】
<本実施形態の効果>
スリット76、環状空間77、及び連通空間92を介して吸気が還流する際には、入口分岐共鳴周波数FA、気柱共鳴周波数FB、及び出口分岐共鳴周波数FCの関係性により、上記の吸気の還流に起因した共鳴音が大きくなることを本発明者が確認した。以下では、条件(1)及び条件(2)を共に満たしている本実施形態の実験データを本件データDAとし、条件(1)及び条件(2)の少なくとも一方を満たしていない実験データを比較データDBとする。
【0043】
図6に示すグラフにおいて、実線よりも下側は条件(1)を満たす領域である。したがって、本件データDAは、条件(1)を満たしている。一方、
図7に示すグラフにおいて、破線よりも右側は条件(2)を満たす領域である。したがって、本件データDAは、条件(2)を満たしている。
【0044】
図7に示すように、入口分岐共鳴周波数FA/出口分岐共鳴周波数FCが1.7以下である比較データDBでは、共鳴による騒音の音量は大きい。しかも、
図6に示すように、5つの比較データDBのうち2つは条件(1)を満たしているにも拘らず、騒音の音量は大きい。すなわち、騒音の音量を小さくするという観点では、条件(1)のみならず、条件(2)を満たす必要があることが分かる。したがって、本実施形態では、条件(1)及び条件(2)を満たすことにより、過度に大きな共鳴音が発生することを抑制できる。
【0045】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0046】
・上記実施形態において、条件(1)を実現する際のパラメータの調整例は一例であり、上記の例に限らない。例えば、容積VBを大きく、容積VCを大きく、中心間距離Lを大きくすることに加えて、又は代えて、面積Sを小さくすることにより、気柱共鳴周波数FBを小さくしてもよい。すなわち、条件(1)の実現にあたっては、容積VB、容積VC、中心間距離L、面積Sを調整することにより、気柱共鳴周波数FBを調整できる。
【0047】
・また、例えば、条件(1)の実現にあたっては、気柱共鳴周波数FBを必ずしも調整しなくてもよく、出口分岐共鳴周波数FCを調整してもよい。なお、この場合には、出口長さHCを小さくすることにより、出口分岐共鳴周波数FCを大きくできる。
【0048】
・上記実施形態において、条件(2)を実現する際のパラメータの調整例は一例であり、上記の例に限らない。例えば、条件(2)の実現にあたっては、入口分岐共鳴周波数FAを必ずしも調整しなくてもよく、出口分岐共鳴周波数FCを調整してもよい。なお、この場合には、出口長さHCを大きくすることにより、出口分岐共鳴周波数FCを小さくできる。
【0049】
・上記実施形態において、ハウジング本体60の構成は変更してもよい。例えば、中間壁部63の数は、2つ以下であったり、4つ以上であったりしてもよい。
・上記実施形態において、インレット部材80の構成は変更してもよい。例えば、ベーン84の数は、8つ以下であったり、10つ以上であったりしてもよい。
【0050】
・上記実施形態において、コンプレッサホイール31の構成は変更してもよい。例えば、全翼31Bの数は、5枚以下であったり、7枚以上であったりしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
FA…入口分岐共鳴周波数
FB…気柱共鳴周波数
FC…出口分岐共鳴周波数
HA…入口長さ
HC…出口長さ
L…中心間距離
S…面積
VB…容積
VC…容積
10…内燃機関
11…吸気通路
12…気筒
13…排気通路
20…ターボチャージャ
21…コンプレッサハウジング
31…コンプレッサホイール
31Z…回転軸線
60…ハウジング本体
61…第1壁部
62…第2壁部
63…中間壁部
72…収容空間
73…接続通路
74…スクロール通路
76…スリット
77…環状空間
80…インレット部材
91…導入通路
92…連通空間