(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20240709BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240709BHJP
C08F 220/70 20060101ALI20240709BHJP
C08F 212/14 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
C08F220/70
C08F212/14
(21)【出願番号】P 2021040678
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2020180712
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬
(72)【発明者】
【氏名】植阪 裕介
(72)【発明者】
【氏名】安池 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】神谷 育代
(72)【発明者】
【氏名】中田 正一
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/119461(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/045549(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189637(WO,A1)
【文献】特開2016-145954(JP,A)
【文献】特開2017-049576(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056584(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/149071(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
C08F 220/70
C08F 212/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する、液晶配向剤
であって、
(A)重合体
(B)求核性官能
基を1分子内に2個以上有し、かつ1分子内に存在する求核性官能
基のうち1個以上が、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子と、熱及び光のうち少なくとも一方により脱離する脱離性基とが結合した部分構造[T]を有する化合物(ただし、前記(A)成分を除く。)
(C)求電子性官能基を1分子内に2個以上有する化合物(ただし、前記(A)成分及びラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を除く。)
前記(B)成分は、下記式(1)で表される化合物であり、
前記(C)成分が有する求電子性官能基は、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、環状カーボネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、ケテン構造を有する基、及びメルドラム酸構造を有する基よりなる群から選択される少なくとも1種である、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、X
1
は、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、又は下記式(x-1)で表される基である。Y
1
は、熱及び光のうち少なくとも一方により脱離する脱離性基である。R
1
は、水素原子又は1価の有機基である。R
2
は、芳香環を有しないk価の有機基である。kは、2以上の整数である。X
1
が硫黄原子又は酸素原子である場合、mは1かつnは0であり、X
1
が窒素原子又は下記式(x-1)で表される基である場合、mは1又は2であり、かつnは2-mである。式中の複数のX
1
は、互いに同一又は異なる。式中にY
1
が複数存在する場合、複数のY
1
は、互いに同一又は異なる。)
【化2】
(式(x-1)中、R
3
は、水素原子又は芳香環を有しない炭素数1~10の1価の炭化水素基である。「*」は結合手であることを表す。「*1」は、R
2
との結合手であることを表す。)
【請求項2】
前記R
2は、k価の鎖状炭化水素基であるか、又は、鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR
4-、-CO-NR
4-、-NR
4-CO-O-、-NR
4-CO-NR
5-、-CO-NR
4-NR
5-若しくは非芳香族複素環を含むk価の基(ただし、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、水素原子又は
芳香環を有しない炭素数1~10の1価の有機基である)である、請求項
1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
下記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する、液晶配向剤
であって、
(A)重合体
(B
)酸性官能基を1分子内に2個以上有し、かつ1分子内に存在す
る酸性官能基のうち1個以上が、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子と、熱及び光のうち少なくとも一方により脱離する脱離性基とが結合した部分構造[T]を有する化合物(ただし、前記(A)成分を除く。)
(C)求電子性官能基を1分子内に2個以上有する化合物(ただし、前記(A)成分及びラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を除く。)
前記(C)成分が有する求電子性官能基は、環状エーテル基、環状カーボネート基、オキサゾリン基、及びβ-ヒドロキシアミド構造を有する基よりなる群から選択される少なくとも1種である、液晶配向剤。
【請求項4】
前記(B)成分は、下記式(3)で表される化合物である、請求項
3に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(3)中、X
2は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基、又はスルホン酸基である。X
3は、保護されたカルボン酸基、保護されたリン酸基、保護された亜リン酸基、又は保護されたスルホン酸基である。R
6は、(i+j)価の有機基である。iは、0以上の整数である。jは、1以上の整数である。ただし、(i+j)≧2を満たす。iが2以上の場合、複数のX
2は、互いに同一又は異なる。jが2以上の場合、複数のX
3は、互いに同一又は異なる。)
【請求項5】
前記R
6は、(i+j)価の鎖状炭化水素基であるか、鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR
7-、-CO-NR
7-、-NR
7-CO-O-、-NR
7-CO-NR
8-、-CO-NR
7-NR
8-若しくは非芳香族複素環を含む(i+j)価の基(ただし、R
7及びR
8は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の1価の有機基である)であるか、又は(i+j)価の脂環式炭化水素基である、請求項
4に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記(C)成分は芳香環を有していない、請求項
3~
5のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記(A)成分は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、及び炭素-炭素不飽和結合を有する単量体に由来する構造単位を有する重合体よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の液晶配向剤を基板上に塗布し、該塗布した後に光照射して液晶配向能を付与する、液晶配向膜の製造方法。
【請求項10】
請求項
8に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの前記導電膜上に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記液晶配向剤を塗布した一対の基板を、液晶層を挟んで前記塗膜が対向するように配置して液晶セルを構築する工程と、
前記導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程と、
を含む、液晶素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、液晶層中の液晶分子を一定の方向に配向させる機能を有する液晶配向膜を具備している。液晶配向膜は一般に、重合体成分が有機溶媒に溶解されてなる液晶配向剤を基板表面に塗布し、好ましくは加熱することによって基板上に形成される。
【0003】
近年、大画面で高精細な液晶テレビが主体となり、またスマートフォンやタブレットPC等といった小型の表示端末の普及が進み、液晶素子に対する高品質化の要求は更に高まっている。こうした点に鑑み、液晶配向膜の性能を改善して液晶素子の各種特性を優れたものとするべく、種々の液晶配向剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ポリイミド又はポリイミド前駆体と共に、架橋剤として、メチロール基が芳香環に結合した構造を有する化合物を液晶配向剤に含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶配向膜の高機能化において、架橋剤の使用は有効な手段といえる。その一方で、架橋剤の使用による膜の高密度化によって、液晶素子の製造工程において基板から液晶配向膜を剥離して基板を再利用(リワーク)する際に、液晶配向膜を基板から剥離することが困難になることが懸念される。
【0006】
また、薄膜形成が必要な液晶配向剤において、保存安定性は製造パネルの駆動特性を担保するために重要である。しかしながら、架橋剤を用いた液晶配向剤では、得られる液晶配向膜の信頼性と、液晶配向剤の保存安定性とがトレードオフの関係にある。液晶素子の更なる高品質化を図る観点からすると、液晶配向剤に配合する架橋剤としては、保存温度では安定であり、かつ膜形成時には高い架橋効率を発現する化合物が求められている。さらに、架橋剤を含む液晶配向剤においては、形成される液晶配向膜の配向方位の乱れ等が生じやすいことも指摘されている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、保存安定性に優れ、リワーク性及び液晶配向性が良好な液晶配向膜を形成することができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
[1] 下記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する、液晶配向剤。
(A)重合体
(B)求核性官能基又は酸性官能基を1分子内に2個以上有し、かつ1分子内に存在する求核性官能基又は酸性官能基のうち1個以上が、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子と、熱及び光のうち少なくとも一方により脱離する脱離性基とが結合した部分構造[T]を有する化合物(ただし、前記(A)成分を除く。)
(C)求電子性官能基を1分子内に2個以上有する化合物(ただし、前記(A)成分及びラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を除く。)
[2] 上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[3] 上記[2]の液晶配向膜を具備する液晶素子。
[4] 上記[1]の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの前記導電膜上に塗布して塗膜を形成する工程と、前記液晶配向剤を塗布した一対の基板を、液晶層を挟んで前記塗膜が対向するように配置して液晶セルを構築する工程と、前記導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程と、を含む、液晶素子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶配向剤によれば、重合体成分と共に(B)成分及び(C)成分を含有することにより、保存安定性に優れ、リワーク性及び液晶配向性が良好な液晶配向膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、(A)成分として重合体を含有するとともに、架橋剤として、以下の(B)成分と(C)成分とを含有する。
(B)成分:求核性官能基又は酸性官能基を1分子内に2個以上有し、かつ1分子内に存在する求核性官能基又は酸性官能基のうち1個以上が、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子と、熱及び光のうち少なくとも一方により脱離する脱離性基とが結合した部分構造[T]を有する化合物(ただし、前記(A)成分を除く。)
(C)成分:求電子性官能基を1分子内に2個以上有する化合物(ただし、前記(A)成分及びラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を除く。)
以下に、液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0011】
なお、本明細書において「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
【0012】
<(A)成分:重合体成分>
液晶配向剤に含有される重合体成分の主骨格は特に限定されない。重合体成分としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミン、ポリエナミン、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリマレイミド、スチレン-マレイミド系共重合体、又はポリ(メタ)アクリレートを主骨格とし、かつ化合物[B]及び化合物[C]と反応(架橋反応)する官能基を有する重合体が挙げられる。なお、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。ポリエナミンとは、ポリアミンのアミノ基の隣接位に炭素-炭素二重結合を有する重合体であり、例えば、ポリエナミノケトン、ポリエナミノエステル、ポリエナミノニトリル、ポリエナミノスルホニル等が挙げられる。
【0013】
重合体成分としては、これらのうち、液晶配向性及び電気特性がより優れた液晶素子を得ることができる点で、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、及び重合性不飽和結合を有する単量体に由来する部分構造を有する重合体(以下、「重合体(Pm)」ともいう)よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、得られる液晶素子の信頼性が高い点で、本開示の液晶配向剤は、重合体成分として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含むことが特に好ましい。
【0014】
次に、本開示の液晶配向剤に含まれる重合体の好ましい例について説明する。
(ポリアミック酸)
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0015】
・テトラカルボン酸二無水物
ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等を;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等を;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0016】
ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、重合体の溶解性を高くできる点、及び良好な電気特性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用量は、ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、20モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましい。
【0017】
・ジアミン化合物
ポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物としては公知の化合物を用いることができる。当該ジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0018】
ポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物としては、脂肪族ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノスチルベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)-ピペラジン等の主鎖型ジアミン:
ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化1】
(式(E-1)中、X
I及びX
IIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はX
Iとの結合手を示す。)である。R
Iは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物等の側鎖型ジアミン等を;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。ポリアミック酸の合成に際し、ジアミン化合物としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
・ポリアミック酸の合成
ポリアミック酸は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン等のモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0020】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えば、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0021】
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0022】
(ポリアミック酸エステル)
ポリアミック酸エステルは、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミン化合物とを反応させる方法、等によって得ることができる。液晶配向剤に含有させるポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。ポリアミック酸エステルを溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0023】
(ポリイミド)
ポリイミドは、例えば上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。液晶配向剤の調製に使用するポリイミドは、そのイミド化率が20~99%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0024】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えば、ピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。上記反応により得られるポリイミドを含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリイミドは、ポリアミック酸エステルのイミド化により得ることもできる。
【0025】
液晶配向剤に含有させるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドの溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体の良溶媒(例えば、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0026】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは5,000~100,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。
【0027】
(ポリオルガノシロキサン)
液晶配向剤に含有させるポリオルガノシロキサンは、例えば、加水分解性のシラン化合物を加水分解・縮合することにより得ることができる。加水分解性のシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物;3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(3-シクロヘキシルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等の窒素・硫黄含有アルコキシシラン化合物;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン化合物;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等の不飽和結合含有アルコキシシラン化合物;トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物などを挙げることができる。加水分解性シラン化合物は、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、「(メタ)アクリロキシ」は、「アクリロキシ」及び「メタクリロキシ」を含む意味である。
【0028】
上記の加水分解・縮合反応は、上記の如きシラン化合物の1種又は2種以上と水とを、好ましくは適当な触媒及び有機溶媒の存在下で反応させることにより行うことができる。反応に際し、水の使用割合は、シラン化合物(合計量)1モルに対して、好ましくは1~30モルである。使用する触媒としては、例えば、酸、アルカリ金属化合物、有機塩基、チタン化合物、ジルコニウム化合物等を挙げることができる。触媒の使用量は、触媒の種類、温度などの反応条件等により異なり、適宜に設定されるべきであるが、例えば、シラン化合物の合計量に対して、好ましくは0.01~3倍モルである。使用する有機溶媒としては、例えば、炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、アルコール等が挙げられる。これらのうち、非水溶性又は難水溶性の有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の使用割合は、反応に使用するシラン化合物の合計100質量部に対して、好ましくは10~10,000質量部である。
【0029】
上記の加水分解・縮合反応は、例えば油浴等により加熱して実施することが好ましい。その際、加熱温度は130℃以下とすることが好ましく、加熱時間は0.5~12時間とすることが好ましい。反応終了後において、反応液から分取した有機溶媒層を、必要に応じて乾燥剤で乾燥した後、溶媒を除去することにより、目的とするポリオルガノシロキサンを得ることができる。なお、ポリオルガノシロキサンの合成方法は上記の加水分解・縮合反応に限らず、例えば加水分解性シラン化合物をシュウ酸及びアルコールの存在下で反応させる方法等により行ってもよい。
【0030】
ポリオルガノシロキサンにつき、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、100~50,000の範囲にあることが好ましく、200~10,000の範囲にあることがより好ましい。
【0031】
(重合体(Pm))
重合体(Pm)の合成に用いる、重合性不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、ビニルフェニル基、マレイミド基等を有する化合物が挙げられる。また、重合体(Pm)としては、液晶配向性に優れた液晶配向膜を形成できる点で、ポリ(メタ)アクリレート、マレイミド系重合体及びスチレン-マレイミド系共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用することができる。
【0032】
重合性不飽和結合を有するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル安息香酸等の不飽和カルボン酸:(メタ)アクリル酸アルキル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル等)、(メタ)アクリル酸シクロアルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルグリシジルエーテル等の不飽和カルボン酸エステル:無水マレイン酸等の不飽和多価カルボン酸無水物:等の(メタ)アクリル系化合物;
スチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼン及び4-(グリシジルオキシメチル)スチレン等の芳香族ビニル化合物;1,3-ブタジエン及び2-メチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエン化合物;
N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、4-(2,5-ジオキソ-3-ピロリン-1-イル)安息香酸、N-(4-グリシジルオキシフェニル)マレイミド、N-グリシジルマレイミド、3-マレイミド安息香酸、3-マレイミドプロピオン酸、3-(2,5-ジオキソ-3-ピロリン-1-イル)安息香酸、及び4-(2,5-ジオキソ-3-ピロリン-1-イル)安息香酸メチル等のマレイミド化合物が挙げられる。また、重合性不飽和結合を有するモノマーとして、光配向性基を有する化合物を用いることもできる。重合性不飽和結合を有するモノマーとしては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
重合体(Pm)は、例えば、重合性不飽和結合を有するモノマーを重合開始剤の存在下で重合することにより得ることができる。使用する重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が好ましい。重合開始剤の使用割合は、反応に使用する全モノマー100質量部に対して、0.01~30質量部とすることが好ましい。上記重合反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。反応に使用する有機溶媒としては、例えばアルコール、エーテル、ケトン、アミド、エステル、炭化水素化合物等が挙げられ、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が好ましい。反応温度は30℃~120℃とすることが好ましく、反応時間は、1~36時間とすることが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、反応に使用するモノマーの合計量(b)が、反応溶液の全体量(a+b)に対して、0.1~60質量%になるような量にすることが好ましい。
【0034】
重合体(Pm)につき、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、250~500,000であることが好ましく、500~100,000であることがより好ましい。
【0035】
液晶配向剤を用いて形成した有機膜に対し光配向法を用いて液晶配向能を付与する場合、重合体成分の少なくとも一部を、光配向性基を有する重合体とすることにより光配向膜を得ることができる。光配向性基は、光照射による光異性化反応、光二量化反応、光フリース転位反応又は光分解反応等の光反応によって膜に異方性を付与可能な官能基をいう。
【0036】
光配向性基の具体例としては、例えば、アゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有基、桂皮酸又はその誘導体(桂皮酸構造)を基本骨格として含む桂皮酸構造含有基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含むベンゾフェノン含有基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有基、シクロブタン又はその誘導体を基本骨格として含むシクロブタン含有構造、スチルベン又はその誘導体を基本骨格とするスチルベン含有基、フェニルベンゾエート又はその誘導体を基本骨格として含むフェニルベンゾエート含有基等が挙げられる。これらのうち、光配向性基は、アゾベンゼン含有基、桂皮酸構造含有基、カルコン含有基、スチルベン含有基、シクロブタン含有構造、及びフェニルベンゾエート含有基よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、光に対する感度が高い点及び重合体中に導入しやすい点で、桂皮酸構造含有基又はシクロブタン含有構造であることが特に好ましい。
【0037】
光配向性基を有する重合体は、例えば、(1)光配向性基を有するモノマーを用いて重合する方法、(2)エポキシ基を側鎖に有する重合体を合成し、当該合成により得られたエポキシ基含有重合体と、光配向性基を有するカルボン酸とを反応させる方法、等により得ることができる。重合体における光配向性基の含有割合は、塗膜に対し所望の液晶配向能を付与するように光配向性基の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、桂皮酸構造含有基の場合、光配向性基を有する重合体の全構造単位に対して、光配向性基の含有割合を5モル%以上とすることが好ましく、10~60モル%とすることがより好ましい。光配向性基がシクロブタン含有構造である場合、光配向性基を有する重合体の全構成単位に対して、光配向性基の含有割合を50モル%以上とすることが好ましく、80モル%以上とすることがより好ましい。なお、光配向性基を有する重合体としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
液晶配向剤に含有させる重合体成分は、1種単独でもよいが、複数種であってもよい。例えば、第1の重合体と、第1の重合体よりも極性が高い第2の重合体とを液晶配向剤に含有させる。この場合、極性が高い第2の重合体が下層に偏在し、第1の重合体が上層に偏在して相分離を生じさせることが可能となる点で好ましい。液晶配向剤の重合体成分の好ましい態様としては、以下の(I)~(III)が挙げられる。
(I)第1の重合体及び第2の重合体が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる重合体である態様。
(II)第1の重合体及び第2の重合体のうち一方が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる1種の重合体であり、他方がポリオルガノシロキサンである態様。
(III)第1の重合体及び第2の重合体のうち一方が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体であり、他方が重合体(Pm)である態様。
【0039】
上記(II)及び(III)の態様において、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドの合計の含有量は、液晶配向性及び電圧保持特性が十分に高い液晶素子を得る観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量に対して、20質量%以上とすることが好ましく、30%質量以上とすることがより好ましく、50~98質量%とすることが更に好ましい。液晶配向剤を用いて形成された有機膜に対し光配向法によって液晶配向能を付与する場合、ポリオルガノシロキサン、ポリ(メタ)アクリレート及びスチレン-マレイミド系共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を、光配向性基を有する重合体とすることにより、より良好な液晶配向性を有する配向膜が得られる点で好ましい。
【0040】
液晶配向剤中の重合体成分の含有割合は、基板との密着性が高い液晶配向膜を得る観点から、液晶配向剤中に含有される固形分の合計質量(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量)に対して、50質量%以上とすることが好ましく、60質量%以上とすることがより好ましく、70質量%以上とすることが更に好ましい。
【0041】
<(B)成分:化合物[B]>
化合物[B]は、求核性官能基又は酸性官能基を1分子内に2個以上有する化合物であり、かつ、1分子内に存在する求核性官能基又は酸性官能基のうち1個以上が、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子と、熱及び光のうち少なくとも一方により脱離する脱離性基(以下、単に「脱離性基」ともいう)とが結合した部分構造[T]を有する。すなわち、化合物[B]は、保護された求核性官能基又は酸性官能基を1個以上有する。なお、化合物[B]は、(A)成分である重合体成分とは異なる成分である。
【0042】
化合物[B]が有する求核性官能基又は酸性官能基は、加熱(例えば、膜形成時の加熱)により、化合物[C]が有する求電子性官能基と反応する基であることが好ましい。また、化合物[B]において、保護された求核性官能基及び保護された酸性官能基は特に限定されないが、加熱により、化合物[C]が有する求電子性官能基と反応する基を生成する基であることが好ましい。化合物[B]が有する複数個の求核性官能基又は複数個の酸性官能基は、液晶配向剤の保存安定性をより高くできる点で、化合物[B]が有する求核性官能基のうち半数以上が保護されていることが好ましく、全部が保護されていることが特に好ましい。
【0043】
化合物[B]が、求核性官能基を1分子内に2個以上有する化合物(以下、「化合物[B1]」ともいう)である場合、化合物[B1]は、保護された求核性官能基を2個以上有する化合物であることが好ましく、中でも、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【化2】
(式(1)中、X
1は、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、又は下記式(x-1)で表される基である。Y
1は、熱及び光のうち少なくとも一方により脱離する脱離性基である。R
1は、水素原子又は1価の有機基である。R
2は、k価の有機基である。kは、2以上の整数である。X
1が硫黄原子又は酸素原子である場合、mは1かつnは0であり、X
1が窒素原子又は下記式(x-1)で表される基である場合、mは1又は2であり、かつnは2-mである。式中の複数のX
1は、互いに同一又は異なる。式中にY
1が複数存在する場合、複数のY
1は、互いに同一又は異なる。)
【化3】
(式(x-1)中、R
3は、水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基である。「*」は結合手であることを表す。「*1」は、R
2との結合手であることを表す。)
【0044】
上記式(1)において、X1が上記式(x-1)で表される基である場合、式(x-1)中のR3における1価の炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数6~10のアラルキル基等が挙げられる。R3は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基又はフェニル基が好ましく、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基がより好ましい。
X1は、架橋反応性が高い点で、上記のうち、窒素原子、硫黄原子又は上記式(x-1)で表される基が好ましく、更にリワーク性が高い点で、窒素原子又は上記式(x-1)で表される基がより好ましい。
【0045】
Y1は、熱により脱離する基であることが好ましい。X1が窒素原子又は上記式(x-1)で表される基である場合、Y1としては、例えば、カルバメート系保護基、アミド系保護基、イミド系保護基、スルホンアミド系保護基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性が高い点で、カルバメート系保護基が好ましく、その具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-シアノエチルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性に優れ、かつ脱保護した構造に由来する化合物の膜中における残存量を少なくできる点で、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)が特に好ましい。
【0046】
X1が酸素原子又は硫黄原子である場合、Y1としては、例えば、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、トリチル基等のエーテル系保護基;メトキシメチル基、エトキシエチル基、2-テトラヒドロピラニル基等のアセタール系保護基;アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、トリクロロアセチル基等のアシル系保護基;アリル基、メタリル基等のアリル系保護基;tert-ブトキシカルボニル基等のカルバメート系保護基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等のシリルエーテル系保護基が挙げられる。熱による脱離しやすさと保存安定性との両立を図る観点から、X1が酸素原子又は硫黄原子である場合、Y1は、炭素数1~7のアルキル基、2-テトラヒドロピラニル基、メトキシメチル基、1-エトキシエチル基、又はアセチル基であることが好ましい。
【0047】
R1の1価の有機基は、炭素数1~12の1価の炭化水素基が好ましい。R1は、好ましくは水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、より好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。
【0048】
R2のk価の有機基は、X1の求核性を阻害しない構造が好ましい。R2において、k価の有機基は炭素数1~40であることが好ましい。R2のk価の有機基としては、炭素数1~40のk価の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR4-、-CO-NR4-、-NR4-CO-O-、-NR4-CO-NR5-、-CO-NR4-NR5-又は複素環を含むk価の基(ただし、R4及びR5は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。以下同じ)等が挙げられる。ここで、炭素数1~40の炭化水素基としては、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。これらのうち、架橋反応性がより高く、基板との密着性が高い膜を形成できる点で、好ましくは鎖状炭化水素基である。R4及びR5の1価の有機基は、好ましくは炭素数1~10の1価の炭化水素基又は保護基であり、より好ましくは炭素数1~6の1価の炭化水素基又は保護基であり、更に好ましくは炭素数1~6のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基である。
【0049】
架橋反応性がより高く、良好な電気特性及び高密着な配向膜を得ることができる点で、R
2は、芳香環を有しないk価の基であることが好ましい。具体的には、R
2は、k価の鎖状炭化水素基であるか、又は、当該鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR
4-、-CO-NR
4-、-NR
4-CO-O-、-NR
4-CO-NR
5-、-CO-NR
4-NR
5-若しくは非芳香族複素環を含むk価の基であることが好ましい。ここで、k価の鎖状炭化水素基は、炭素数2~30が好ましく、炭素数3~20がより好ましい。非芳香族複素環は、窒素含有環であることが好ましく、例えば、ピペリジン環、ピロリジン環、ヘキサメチレンイミン環、モルホリン環、イソシアヌレート環等が挙げられる。R
2の好ましい具体例としては、例えば、下記式(r-1)~式(r-4)のそれぞれで表される構造等が挙げられる。
【化4】
(式(r-1)~式(r-4)中、tは0~18の整数である。X
2及びX
3は、それぞれ独立して、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR
4-、-CO-NR
4-、-NR
4-CO-O-、-NR
4-CO-NR
5-、又は-CO-NR
4-NR
5-である。t1、t2及びt3は、それぞれ独立して、1~10の整数である。uは0~3の整数である。R
20は、上記式(r-1)又は上記式(r-2)で表される2価の基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0050】
X1が窒素原子又は上記式(x-1)で表される基である場合、液晶配向性及び電気特性を良好に維持しつつ、リワーク性を高くできる点で、mは1が好ましい。
液晶配向性及び電気特性とリワーク性との両立を図る観点から、kは、2~10が好ましく、2~6がより好ましく、2~4が更に好ましく、2又は3が特に好ましい。
【0051】
化合物[B1]につき、X1が窒素原子又は上記式(x-1)で表される基であって、重合体成分がアミノ基末端を有するか、あるいは側鎖にアミノ基を有する場合には、化合物[B1]は、重合体成分を構成するアミノ基の塩基性度よりも高い塩基性度を示す化合物であることが好ましい。具体的には、化合物[B1]のアミノ基の共役酸のpka値(水中、25℃)が、一般的な芳香族ジアミンモノマーのpka値(具体的には4以下)よりも大きいことが好ましく、反応選択性の観点から、pka値が6以上(Δpka≧2)であることがより好ましい。また、X1が酸素原子又は硫黄原子であって、重合体成分が水酸基含有単量体を有する場合には、化合物[B1]は、重合体成分を構成する水酸基含有単量体の酸性度よりも低い酸性度を示す化合物であることが好ましい。一般に、重合体成分の水酸基成分はカルボン酸(pka=4~5)であり、化合物[B1]のOH基、SH基のpka値が6以上(Δpka≧2)であることが好ましい。X1が酸素原子又は硫黄原子である場合、X1の反応性を高めるために塩基を併用することが好ましい。具体的な塩基としては、ピリジン、ピリミジン誘導体等の複素環化合物、トリエチルアミン等の脂肪族アミンを好適に使用できる。
【0052】
化合物[B1]の具体例としては、下記式(b1)~式(b13)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化5】
【化6】
【0053】
化合物[B]が、酸性官能基を1分子内に2個以上有する化合物(以下、「化合物[B2]」ともいう)である場合、化合物[B2]は、中でも、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化7】
(式(3)中、X
2は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基、又はスルホン酸基である。X
3は、保護されたカルボン酸基、保護されたリン酸基、保護された亜リン酸基、又は保護されたスルホン酸基である。R
6は、(i+j)価の有機基である。iは、0以上の整数である。jは、1以上の整数である。ただし、(i+j)≧2を満たす。iが2以上の場合、複数のX
2は、互いに同一又は異なる。jが2以上の場合、複数のX
3は、互いに同一又は異なる。)
【0054】
上記式(3)において、X
3は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基又はスルホン酸基に含まれるOH基が有する水素原子を脱離性基で置き換えてなる基であり、「*-O-L
1」で表される基を有する(ただし、L
1は脱離性基であり、「*」は結合手であることを表す)。「*-O-L
1」で表される基の具体例としては、アセタール系保護基及び環状アルコール系保護基が好ましく、例えば下記式(L1-1)~式(L1-8)のそれぞれで表される基等が挙げられる。
【化8】
(式(L1-1)~式(L1-8)中、「*」は結合手を表す。)
【0055】
R6の(i+j)価の有機基は、X2及びX3の求核性を阻害しない構造であることが好ましい。R6において、(i+j)価の有機基は、炭素数1~40であることが好ましい。R6の(i+j)価の有機基としては、炭素数1~40の(i+j)価の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR7-、-CO-NR7-、-NR7-CO-O-、-NR7-CO-NR8-、-CO-NR7-NR8-又は複素環を含む(i+j)価の基等が挙げられる。R7及びR8の1価の有機基は、好ましくは炭素数1~10の1価の炭化水素基又は保護基であり、より好ましくは炭素数1~6の1価の炭化水素基又は保護基であり、更に好ましくは炭素数1~6のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基である。
【0056】
架橋反応性がより高く、良好な電気特性及び高密着な配向膜を得ることができる点で、R6は、芳香環を有しない(i+j)価の基であることが好ましい。具体的には、R6は、(i+j)価の鎖状炭化水素基であるか、当該鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR7-、-CO-NR7-、-NR7-CO-O-、-NR7-CO-NR8-、-CO-NR7-NR8-若しくは非芳香族複素環を含む(i+j)価の基であるか、又は(i+j)価の脂環式炭化水素基であることが好ましい。ここで、(i+j)価の鎖状炭化水素基は、炭素数2~30が好ましく、炭素数3~20がより好ましい。非芳香族複素環は、窒素含有環であることが好ましく、例えば、ピペリジン環、ピロリジン環、ヘキサメチレンイミン環、モルホリン環、イソシアヌレート環等が挙げられる。
【0057】
液晶配向膜の密着性の観点から、R6は、(i+j)価の鎖状炭化水素基であるか、又は、鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR7-、-CO-NR7-、-NR7-CO-O-、-NR7-CO-NR8-、-CO-NR7-NR8-若しくは非芳香族複素環を含む(i+j)価の基であることが好ましい。
【0058】
化合物[B2]の具体例としては、多官能カルボン酸、多官能リン酸、多官能亜リン酸及び多官能スルホン酸が有する酸性基のうち少なくとも1個が保護された化合物が挙げられる。これらのうち、化合物[C]との反応性が高い点で、多官能カルボン酸が有するカルボキシ基のうち少なくとも1個が保護された化合物を好ましく使用できる。
【0059】
化合物[B2]の具体例としては、例えば、フマル酸、マロン酸、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ピリジン-2,6-ジカルボン酸等の等のジカルボン酸が有するカルボキシ基のうち少なくとも1個が保護された化合物;
1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,3-シクロヘキサントリカルボン酸、トリメリット酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸等のトリカルボン酸が有するカルボキシ基のうち少なくとも1個が保護された化合物;
1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、ピロメリット酸等のテトラカルボン酸が有するカルボキシ基のうち少なくとも1個が保護された化合物;
下記式(b2-1)~式(b2-3)のそれぞれで表される化合物;等が挙げられる。
【化9】
(式(b2-1)~式(b2-3)中、複数のL
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5の1価の炭化水素基、又は熱脱離性基である。ただし、1分子内の複数のL
2のうち少なくとも1個は熱脱離性基である。)
【0060】
本開示の液晶配向剤における化合物[B]の含有量は、液晶配向剤の保存安定性を良好にしつつ、液晶配向性及び電気特性、リワーク性に優れた液晶素子を得る観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましい。化合物[B]の含有量は、重合体成分の全量100質量部に対して、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上が更に好ましい。また、リワーク性の低下を抑制する観点から、化合物[B]の含有量は、重合体成分の全量100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。化合物[B]としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
<(C)成分:化合物[C]>
化合物[C]は、求電子性官能基を1分子内に2個以上有する化合物(ただし、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を除く。)である。なお、化合物[C]は、(A)成分である重合体成分とは異なる成分である。化合物[C]が有する求電子性官能基は、加熱(例えば、膜形成時の加熱)により、化合物[B]が有する求核性官能基と反応する基であることが好ましい。
【0062】
化合物[B]が化合物[B1]である場合、架橋反応性が高く、液晶配向性及び電気特性に優れた液晶素子を得ることができる点で、化合物[C]は、求電子性可能基として、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、環状カーボネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、ケテン構造を有する基、及びメルドラム酸構造を有する基よりなる群から選択される少なくとも1種を有する化合物(以下、「化合物[C1]」ともいう)であることが好ましい。化合物[C1]が有する求電子性官能基は、中でも、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、ケテン構造を有する基、及びメルドラム酸構造を有する基よりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0063】
保護されたイソシアネート基において、保護基は、熱により脱離する基であることが好ましい。保護されたイソシアネート基は、イソシアネート基とブロック剤とを反応させることにより化合物中に導入することができる。ブロック剤としては公知のものを使用でき、例えば、アルコール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、メルカプタン系化合物、酸アミド系化合物、酸イミド系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、尿素系化合物、オキシム系化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、ピリジン系化合物等が挙げられる。膜形成時の加熱により脱離した基に由来する成分が膜中に残存することを抑制する観点から、保護されたイソシアネート基における保護基は、炭素数が1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましい。
保護されたメチロール基における保護基としては、化合物[B1]においてX1が酸素原子である場合のY1として例示した基が挙げられる。
【0064】
化合物[C1]が有する求電子性官能基の数は、液晶配向性及び電気特性とリワーク性との両立を図る観点、並びに保存安定性の低下を抑制する観点から、2~10個が好ましく、2~8個がより好ましい。
化合物[C1]の分子量は、好ましくは1000以下であり、より好ましくは800以下であり、更に好ましくは650以下である。
【0065】
化合物[C1]としては、下記式(2)で表される化合物を好ましく用いることができる。
(Z1)m-R6 …(2)
(式(2)中、Z1は、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、環状カーボネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、ケテン構造を有する基、又はメルドラム酸構造を有する基である。R6は、m価の有機基である。mは、2以上の整数である。)
【0066】
上記式(2)において、R6のm価の有機基は、炭素数1~40であることが好ましい。R6のm価の有機基としては、炭素数1~40のm価の炭化水素基、当該炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR4-、-CO-NR4-、-NR4-CO-O-、-NR4-CO-NR5-、-CO-NR4-NR5-又は複素環で置き換えられてなるm価の基等が挙げられる。
Z1は、好ましくは、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、ケテン構造を有する基、又はメルドラム酸構造を有する基である。mは、好ましくは2~10、より好ましくは2~8である。
【0067】
化合物[C1]の具体例としては、下記式(c1)~式(c15)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化10】
【化11】
【化12】
(式(c1)、式(c2)及び式(c4)中、R
7は、保護基である。R
11、R
12及びR
13のうち1個はメチル基であり、残りは水素原子である。R
14、R
15及びR
16のうち1個はメチル基であり、残りは水素原子である。R
17、R
18及びR
19のうち1個はメチル基であり、残りは水素原子である。)
【0068】
化合物[B]が化合物[B2]である場合、架橋反応性が高く、液晶配向性及び電気特性に優れた液晶素子を得ることができる点で、化合物[C]は、求電子性官能基として、環状エーテル基、環状カーボネート基、オキサゾリン基、及びβ-ヒドロキシアミド構造を有する基よりなる群から選択される少なくとも1種を有する化合物(以下、「化合物[C2]」ともいう)であることが好ましい。ここで、環状エーテル基としては、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。β-ヒドロキシアミド構造を有する基は、β-ヒドロキシアルキルアミド基であることが好ましい。
【0069】
化合物[C2]が有する求電子性官能基は、これらの中でも、環状エーテル基、環状カーボネート基、及びβ-ヒドロキシアミド構造を有する基よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、環状カーボネート基及びβ-ヒドロキシアミド構造を有する基よりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0070】
化合物[C2]が有する求電子性官能基の数は、液晶配向性及び電気特性とリワーク性との両立を図る観点、並びに保存安定性の低下を抑制する観点から、2~10個が好ましく、2~8個がより好ましい。
化合物[C2]の分子量は、好ましくは1000以下であり、より好ましくは800以下であり、更に好ましくは650以下である。
【0071】
化合物[C2]の好ましい例としては、下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
【化13】
(式(4)中、Z
1は、環状エーテル基、環状カーボネート基、オキサゾリン基、及びβ-ヒドロキシアルキルアミド基である。R
10は、炭素数1~40のr価の有機基である。rは2~10の整数である。)
【0072】
上記式(4)において、R10としては、例えば、炭化水素基、炭化水素基の任意のメチレン基が-O-、-S-、-CO-、-COO-等で置き換えられてなる基(以下、「ヘテロ原子含有基」ともいう)、炭化水素基若しくはヘテロ原子含有基が有する任意の水素原子が水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等で置換されてなる基、及び複素環構造を有する基等が挙げられる。
【0073】
架橋反応性がより高く、良好な電気特性及び高密着な配向膜を得ることができる点で、R10は、芳香環を有しないr価の基であることが好ましい。具体的には、R10は、r価の鎖状炭化水素基であるか、又は、当該鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-若しくは非芳香族複素環を含むr価の基であることが好ましい。ここで、r価の鎖状炭化水素基は、炭素数2~30が好ましく、炭素数3~20がより好ましい。非芳香族複素環は、窒素含有環であることが好ましく、例えば、ピペリジン環、ピロリジン環、ヘキサメチレンイミン環、モルホリン環、イソシアヌレート環等が挙げられる。R10の好ましい具体例としては、例えば上記式(r-1)~式(r-4)のそれぞれで表される構造等が挙げられる。
【0074】
化合物[C2]の具体例としては、環状エーテル基を有する化合物として、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2-ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3,5,6-テトラグリシジル-2,4-ヘキサンジオール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-p-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4、4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4、4’-ジアミノジフェニルエーテル、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルペンタン、N,N-ジグリシジル-ベンジルアミン、N,N-ジグリシジル-アミノメチルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-シクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(N,N-ジグリシジル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、1,4-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、下記式(c2-1)~(c2-9)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化14】
(式(c2-5)中、aは1~3の整数である。)
【0075】
環状カーボネート基を有する化合物の具体例としては、例えば下記式(c2-10)~式(c2-16)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化15】
(式(c2-16)中、bは1~10の整数である。)
【0076】
オキサゾリン基又は保護されたオキサゾリン基(β-ヒドロキシアミド基)を有する化合物の具体例としては、例えば下記式(c2-17)~式(c2-21)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化16】
【0077】
本開示の液晶配向剤における化合物[C]の含有量は、液晶配向性及び電気特性に優れた液晶素子を得る観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましい。化合物[C]の含有量は、重合体成分の全量100質量部に対して、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、リワーク性の低下を抑制する観点から、化合物[C]の含有量は、重合体成分の全量100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。化合物[C]としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
液晶配向剤中の化合物[B]と化合物[C]との比率は、化合物[B]100質量部に対し、化合物[C]が20~500質量部が好ましく、30~300質量部がより好ましい。また、化合物[B]と化合物[C]との合計量は、液晶配向性及び電気特性の改善効果を十分得る観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましい。その一方で、リワーク性の低下を抑制する観点から、化合物[B]と化合物[C]との合計量は、重合体成分の全量100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。
【0079】
化合物[B]と化合物[C]との組み合わせは特に限定されず、上述した化合物[B]のうちの任意の1種以上と、化合物[C]のうちの任意の1種以上とを適宜組み合わせて使用することができる。架橋反応を進行させ、得られる液晶素子の液晶配向性及び電気特性を良好にする観点から、化合物[B1]と化合物[C1]とを組み合わせて使用するか、化合物[B2]と化合物[C2]とを組みわせて使用することが好ましい。
【0080】
化合物[B1]と化合物[C1]とを組み合わせて使用する場合、適度な架橋密度によってリワーク性を確保しつつ、得られる液晶素子の液晶配向性及び電気特性を良好にする観点から、化合物[B1]及び化合物[C1]のうちいずれか一方のみが、保護された求核性官能基とは異なる部分(具体的には、上記式(1)中のR1及びR2)、若しくは保護された求電子性官能基とは異なる部分(具体的には、上記式(2)中のR6)に、ベンゼン環、ナフタレン環、シクロヘキサン環及びイソシアヌレート環を有しないか、又は、化合物[B]及び化合物[C]のいずれも、保護された求核性官能基とは異なる部分及び保護された求電子性官能基とは異なる部分に、ベンゼン環、ナフタレン環、シクロヘキサン環及びイソシアヌレート環のいずれも有しないことが好ましい。これらのうち、リワーク性、液晶配向性及び電気特性をバランスよく保ちつつ、化合物の選択の自由度を高めることができる点で、化合物[B]及び化合物[C]のうちいずれか一方のみが、保護された求核性官能基とは異なる部分及び保護された求電子性官能基とは異なる部分に、ベンゼン環、ナフタレン環、シクロヘキサン環及びイソシアヌレート環のうちの1種以上を有しないことが好ましい。
【0081】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、必要に応じて、重合体成分、化合物[B]及び化合物[C]以外の成分(以下、その他の化合物ともいう)を更に含有していてもよい。その具体例としては、官能性シラン化合物(例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等)、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。なお、その他の化合物の含有量は、本開示の効果を損なわない範囲内において、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0082】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体成分、化合物[B]、化合物[C]、及び必要に応じて任意に配合される成分が、好ましくは、溶剤に溶解された液状の組成物として調製される。溶剤は有機溶媒が好ましく、例えば、非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。
使用する有機溶媒の具体例としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン(ダイアセトンアルコール)、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、3-メトキシ-1-ブタノール等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0083】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向膜を得ることができる傾向がある。また、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜の膜厚が過大となりすぎず、また、液晶配向剤の粘性を適度に高くでき、塗布性を良好にできる傾向がある。
【0084】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えば、TN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は、各動作モード共通である。
【0085】
<工程1:塗膜の形成>
先ず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えば、フロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等の樹脂からなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜等を用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、フレキソ印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0086】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止等の目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去すること等を目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~250℃であり、より好ましくは80~200℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0087】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜を、例えばナイロン、レーヨン、コットン等の繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理や、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理等を用いることができる。一方、垂直配向(VA)型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、液晶配向能を更に高めるために、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜は、PSA型の液晶素子にも好適である。
【0088】
光配向処理において、光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0089】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー等が挙げられる。基板面に対する放射線の照射量は、好ましくは400~50,000J/m2であり、より好ましくは1,000~20,000J/m2である。配向能付与のための光照射後において、基板表面を、例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0090】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、2枚の基板間に液晶配向膜に隣接して液晶が配置されるように液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば、硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。PSAモードでは、液晶セルの構築後に、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。
【0091】
PSA型の液晶素子は、以下の工程を含む方法により製造することができる。
・本開示の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの導電膜上に塗布して塗膜を形成する工程。
・液晶配向剤を塗布した一対の基板を、液晶層を挟んで塗膜が対向するように配置して液晶セルを構築する工程。
・導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する工程。
【0092】
具体的には、まず、導電膜を有する一対の基板間に、液晶と共に光重合性モノマーを注入又は滴下する点以外は上記工程1~工程3と同様にして液晶セルを構築する。液晶と共に注入又は滴下する光重合性モノマーとしては、従来公知の化合物を用いることができる。好ましくは、多官能性(メタ)アクリルモノマーである。
【0093】
PSA型液晶素子の製造においては、液晶セルの構築後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する。印加する電圧は、例えば5~50Vの直流又は交流とすることができる。照射する光としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。これらのうち、300~400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。照射光の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー等を使用することができる。光の照射量としては、好ましくは1,000~200,000J/m2であり、より好ましくは1,000~100,000J/m2である。
【0094】
各モードの液晶セルにつき、続いて、必要に応じて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶素子とする。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0095】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光フィルム、位相差フィルム等に適用することができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
以下の例において、重合体の溶液粘度、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びイミド化率は以下の方法により測定した。
<重合体の溶液粘度>
重合体の溶液粘度は、E型粘度計を用いて25℃において測定した。
<重量平均分子量及び数平均分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でMw及びMnを測定した。分子量分布(Mw/Mn)は、得られたMw及びMnより算出した。
装置:昭和電工(株)の「GPC-101」
GPCカラム:(株)島津ジーエルシー製の「GPC-KF-801」、「GPC-KF-802」、「GPC-KF-803」及び「GPC-KF-804」を結合
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
<ポリイミドのイミド化率>
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で1H-NMR測定を行った。得られた1H-NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(β1/(β2×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、β1は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、β2はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0098】
下記の例で使用した化合物の略称を以下に示す。なお、以下では便宜上、「式(X)で表される化合物」を単に「化合物(X)」と示すことがある。
・モノマー及び側鎖カルボン酸
【化17】
【化18】
【化19】
【0099】
【0100】
【0101】
・化合物[C]
【化22】
(式(C-1)及び式(C-2)中、Rは、tert-ブトキシカルボニル基又はメチルエチルケトオキシム由来の基(*-O-N=C(CH
3)(C
2H
5))である。)
【化23】
【0102】
【0103】
【0104】
<重合体の合成>
1.ポリイミドの合成
[合成例1]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物100モル部、並びに、ジアミンとしてコレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン30モル部、3,5-ジアミノ安息香酸30モル部、及び4,4’-ジアミノジフェニルメタン40モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、40℃で24時間反応させることにより、ポリアミック酸を20質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMPを追加し、ピリジン及び無水酢酸を、ポリアミック酸のカルボキシル基に対して3.00モル当量ずつ添加して、80℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなγ-ブチロラクトンで溶媒置換し、更に濃縮することにより、イミド化率71%のポリイミド(これを重合体(P-1)とする)を20質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は100mPa・sであった。
【0105】
[合成例2、5]
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を表1に記載のとおり変更した点以外は合成例1と同様に重合を行い、ポリイミドである重合体(P-2)又は重合体(P-5)を含有する溶液を得た。
【0106】
2.ポリアミック酸の合成
[合成例3]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物100モル部、並びに、ジアミンとして化合物(D-2)30モル部、化合物(D-4)40モル部、及び3,5-ジアミノ安息香酸30モル部をNMPに溶解し、40℃で24時間反応させることにより、ポリアミック酸(これを重合体(P-3)とする)を20質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は80mPa・sであった。
【0107】
[合成例4、6~8]
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を表1に記載のとおり変更した点以外は合成例3と同様に重合を行い、ポリアミック酸である重合体(P-4)、(P-6)~(P-8)をそれぞれ含有する溶液を得た。なお、重合は、重合体濃度10質量%のNMP溶液の粘度が80~100mPa・sとなるように、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とのモル比(ジアミン/テトラカルボン酸二無水物)を0.95~1.00に合わせて実施した。表1中、酸無水物の数値は、合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。ジアミンの数値は、合成に使用したジアミンの全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。
【0108】
【0109】
3.ポリオルガノシロキサンの合成
[合成例9]
1000ml三口フラスコに、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン90.0g、メチルイソブチルケトン500g、及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗から30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応を行った。反応終了後、有機層を取り出し、これを0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒及び水を留去した。メチルイソブチルケトンを適量添加し、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンである重合体(ESSQ-1)の50質量%溶液を得た。
500ml三口フラスコに、化合物(CA-1)6.28g(重合体(ESSQ-1)が有するエポキシ基量に対して20モル%)、化合物(CA-3)3.44g(重合体(ESSQ-1)が有するエポキシ基量に対して10モル%)、テトラブチルアンモニウムブロミド2.00g、重合体(ESSQ-1)含有溶液80g、及びメチルイソブチルケトン239gを加え、90℃で18時間撹拌した。室温まで冷却した後、蒸留水で分液洗浄操作を10回繰り返した。その後、有機層を回収し、ロータリーエバポレータにより濃縮とNMP希釈を2回繰り返した後、NMPを用いて固形分濃度が10質量%になるように調整し、重合体(PS-1)のNMP溶液を得た。
【0110】
[合成例10]
反応に使用する側鎖カルボン酸の種類及び量を表2に記載のとおり変更した点以外は合成例9と同様にして、ポリオルガノシロキサンである重合体(PS-2)を10質量%含有するNMP溶液を得た。なお、表2中、側鎖カルボン酸の数値は、重合体(ESSQ-1)が有するエポキシ基量に対する割合(側鎖変性率、モル%)を表す。
【0111】
【0112】
4.スチレン-マレイミド系共重合体の合成
[合成例11]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(M-1)10モル部、4-ヒドロキシスチレン10モル部、メタクリル酸35モル部、及びメタクリル酸グリシジル45モル部、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2モル部、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン50mlを加え、70℃で5時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することでスチレン-マレイミド系共重合体(これを重合体(PM-1)とする)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは30000、分子量分布Mw/Mnは2.7であった。
【0113】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[実施例1:PSA型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤(AL-1)の調製
合成例1で得た重合体(P-1)90質量部を含む溶液に、合成例9で得た重合体(PS-1)10質量部を含む溶液、化合物(B-1)5質量部、化合物(C-1)10質量部、並びに、溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0114】
(2)液晶組成物の調製
ネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)10gに対し、下記式(L1-1) で表される液晶性化合物を5質量%、及び下記式(L2-1)で表される光重合性化合物 を0.3質量%添加して混合し、液晶組成物LC1を得た。
【化26】
【0115】
(3)PSA型液晶表示素子の製造
上記で調製した液晶配向剤(AL-1)を、スリット状にパターニングされたITO電極からなる導電膜をそれぞれ有するガラス基板2枚の各電極面上に、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いて塗布し、80℃のホットプレート上で2分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、230℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚0.06μmの塗膜を形成した。これら塗膜につき、超純水中で1分間超音波洗浄を行った後、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。なお、使用した電極のパターンは、PSAモードにおける電極パターンと同種のパターンである。
次いで、上記一対の基板のうち一方の基板の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、上記で調製した液晶組成物LC1を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。その後、液晶セルの導電膜間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外線照射装置を用いて、100,000J/m2の照射量にて紫外線を照射した。なお、この照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて測定した値である。その後、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせることにより、PSA型液晶表示素子を製造した。
【0116】
(4)液晶配向性の評価
上記で製造したPSA型液晶表示素子につき、5Vの電圧をON・OFF(印加・解除)したときの明暗の変化における異常ドメインの有無を光学顕微鏡により観察し、液晶配向性を評価した。評価は、異常ドメインがない場合を「A」、一部に異常ドメインがある場合を「B」、全体的に異常ドメインがある場合を「C」とした。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」の評価であった。
【0117】
(5)電圧保持率(VHR)による電気特性の評価
上記で製造したPSA型液晶表示素子につき、5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置には(株)東陽テクニカ製VHR-1を使用した。このとき、電圧保持率が98%以上の場合に「S」、95%以上98%未満の場合に「A」、80%以上95%未満の場合に「B」、50%以上80%未満の場合に「C」、50%未満の場合に「D」とした。その結果、この実施例では、電気特性は「S」の評価であった。
【0118】
(6)膜の密着性評価
液晶配向剤(AL-1)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで2分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚0.10μmの塗膜を形成した。これと同様の操作を繰り返すことにより、塗膜が形成されたガラス基板を2枚作製した。塗膜を形成した1枚のガラス基板の塗膜上に、ODFシール剤(積水化学社製、S-WB42)を幅が1mmになるように塗布し、もう一枚のガラス基板の塗膜とODFシール剤とが接触するように貼り合わせた。その後、メタルハライドランプを用いて30,000J/m2(365nm換算)の光を照射した後、120℃のオーブンで1時間加熱した。その後、今田製作所の引張圧縮試験機(型番:SDWS-0201-100SL)を用いて密着力を測定することにより、基板に対する膜の密着性を評価した。評価は、密着力が175N/cm2以上であった場合を「優(S)」、150N/cm2以上175N/cm2未満であった場合を「良(A)」、125N/cm2以上150N/cm2未満であった場合を「可(B)」、125N/cm2未満であった場合を「不良(C)」とした。その結果、この実施例では密着力173N/cm2であり、密着性「良(A)」の評価であった。
【0119】
(7)保存安定性の評価
液晶配向剤(AL-1)を23℃、7日間保管した時の粘度の変化をE型粘度計にて25℃において測定、比較した。評価は、粘度変化が±1%以内であった場合を「優(S)」、±3%以内であった場合を「良(A)」、±5%以内であった場合を「可(B)」、±5%よりも大きかった場合を「不良(C)」とした。その結果、この実施例では粘度変化+2.5%であり、保存安定性「良(A)」の評価であった。
【0120】
(8)リワーク性の評価
厚さ1mmのガラス基板の一方の面に設けられたITO膜からなる透明導電膜上に、液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、ホットプレートで100℃、90秒間、プレベークを行い、膜厚約0.10μmの塗膜を形成した。この操作を繰り返し、塗膜付きの基板を2枚作成した。次に、得られた2枚の基板を窒素雰囲気下25℃の暗室に保管した。保管開始から12時間後及び48時間後にそれぞれ1枚ずつ基板を取り出し、40℃に調温されたNMPの入ったビーカーに2分間浸漬した後、超純水で数回洗浄し、エアブローにて表面の水滴を取り去った。この基板につき、光学顕微鏡によって観察して塗膜の残滓の有無を調べることにより、液晶配向膜の基板からの剥離容易性(リワーク性)を評価した。評価は、保管開始から48時間後に取り出した基板においても、NMP浸漬後に塗膜の残滓が完全に観察されなかった場合を「優(S)」、48時間後の基板には塗膜の残滓が観察されたが12時間後の基板には塗膜の残滓が完全に観察されなかった場合を「良(A)」、12時間後の基板には極微小の残滓が観察された場合を「可(B)」、12時間後の基板において塗膜の残滓が観察された場合を「不良(C)」とした。その結果、この実施例ではリワーク性は「優(S)」の評価であった。
【0121】
[実施例2~4及び比較例1、2]
配合組成を表3に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-2)~(AL-4)、(AR-1)、(AR-2)を調製した。また、それぞれの液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にして保存安定性、膜の密着性及びリワーク性を評価するとともに、PSA型液晶表示素子を製造して液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。評価結果を表3に示す。なお、表3中、「-」は、その化合物を使用しなかったことを表す。
【0122】
[実施例5:光垂直型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製、並びに、保存安定性、膜の密着性及びリワーク性の評価
配合組成を表3に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-5)を調製した。また、液晶配向剤(AL-5)を用いて実施例1と同様にして保存安定性、膜の密着性及びリワーク性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0123】
(2)光垂直型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL-5)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて313nmの輝線を含む偏光紫外線1,000J/m2を、基板法線から40°傾いた方向から照射して液晶配向能を付与した。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板の紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを130℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせることにより光垂直型液晶表示素子を製造した。
【0124】
(3)液晶配向性の評価
上記で製造した光垂直型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」の評価であった。
(4)電圧保持率(VHR)による電気特性の評価
上記で製造した光垂直型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして電気特性を評価した。その結果、この実施例では、電気特性は「A」の評価であった。
【0125】
[比較例3]
配合組成を表3に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AR-3)を調製した。また、液晶配向剤(AR-3)を用いて、実施例1と同様にして保存安定性、膜の密着性及びリワーク性を評価するとともに、光垂直型液晶表示素子を製造して液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0126】
[実施例6:垂直型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製、並びに、保存安定性、膜の密着性及びリワーク性の評価
配合組成を表3に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-6)を調製した。また、液晶配向剤(AL-6)を用いて実施例1と同様にして保存安定性、膜の密着性及びリワーク性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0127】
(2)垂直型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL-6)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この操作を繰り返すことにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうち1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、それぞれの液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より、一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、基板の外側の両面に偏光板を貼り合わせることにより垂直型液晶表示素子を製造した。
【0128】
(3)液晶配向性の評価
上記で製造した垂直型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」の評価であった。
(4)電圧保持率(VHR)による電気特性の評価
上記で製造した垂直型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして電気特性を評価した。その結果、この実施例では、電気特性は「A」の評価であった。
【0129】
[実施例7:FFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製、並びに、保存安定性、膜の密着性及びリワーク性の評価
配合組成を表3に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-7)を調製した。また、液晶配向剤(AL-7)を用いて実施例1と同様にして保存安定性、膜の密着性及びリワーク性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0130】
(2)FFS型液晶表示素子の製造
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板とする)、並びに電極が設けられていないガラス基板(第2基板とする)を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の片面のそれぞれに液晶配向剤(AL-7)をスピンナーにより塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、塗膜表面に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する一対の基板を得た。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した。その後、基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より、一対の基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。なお、一対の基板を重ね合わせる際には、それぞれの基板のラビング方法が反平行となるようにした。次に、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、FFS型液晶表示素子を得た。
【0131】
(3)液晶配向性の評価
上記で製造したFFS型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」の評価であった。
(4)電圧保持率(VHR)による電気特性の評価
上記で製造したFFS型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして電気特性を評価した。その結果、この実施例では、電気特性は「A」の評価であった。
【0132】
[実施例8、9及び比較例4、5]
配合組成を表3に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-8)、(AL-9)、(AR-4)、(AR-5)をそれぞれ調製した。また、各液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にして保存安定性、膜の密着性及びリワーク性を評価するとともに、FFS型液晶表示素子を製造して液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0133】
[実施例10:光FFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製、並びに、保存安定性、膜の密着性及びリワーク性の評価
配合組成を表3に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-10)を調製した。また、液晶配向剤(AL-10)を用いて実施例1と同様にして保存安定性、膜の密着性及びリワーク性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0134】
(2)光FFS型液晶表示素子の製造
実施例7と同様の第1基板及び第2基板を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の一方の基板面のそれぞれに、液晶配向剤(AL-10)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/m2を基板法線方向から照射して光配向処理を施した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、光配向処理が施された塗膜を、230℃のクリーンオーブンで30分加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
次に、液晶配向膜を形成した一対の基板のうちの一方の基板につき、液晶配向膜を有する面の外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した。その後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。その後、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、液晶表示素子を得た。また、上記の一連の操作を、ポストベーク後の紫外線照射量を100~10,000J/m2の範囲でそれぞれ変更して実施することにより、紫外線照射量が異なる3個以上の液晶表示素子を製造し、最も良好な配向特性を示した露光量(最適露光量)の液晶表示素子を、以下の評価に用いた。
【0135】
(3)液晶配向性の評価
上記で製造した光FFS型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、液晶配向性は「A」の評価であった。
(4)電圧保持率(VHR)による電気特性の評価
上記で製造した光FFS型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして電気特性を評価した。その結果、この実施例では、電気特性は「A」の評価であった。
【0136】
【0137】
表3に示すように、架橋剤として化合物[B]及び化合物[C]を併用した実施例1~10は、液晶配向性についてはA又はBの評価であり、電気特性、膜の密着性及び保存安定性についてはS、A又はBの評価であった。また、リワーク性についてはS又はAと優れていた。これに対し、架橋剤として化合物[B]のみを用いた比較例1では、保存安定性及びリワーク性がCの評価であった。また、架橋剤として化合物[C]のみを用いた比較例5では、液晶配向性及びリワーク性がCの評価であった。架橋剤として、化合物[B]とその他の架橋剤とを組み合わせた比較例3、化合物[C]とその他の架橋剤とを組み合わせた比較例2,4については、いずれも保存安定性がCの評価であった。
【0138】
[実施例11]
配合組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-11)を調製した。また、液晶配向剤(AL-11)を用いて、実施例1と同様にして保存安定性、膜の密着性及びリワーク性を評価するとともに、PSA型液晶表示素子を製造して液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。評価結果を比較例1の結果と共に表4に示す。
【0139】
[実施例12]
配合組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-12)を調製した。また、液晶配向剤(AL-12)を用いて、実施例1と同様にして保存安定性、膜の密着性及びリワーク性を評価するとともに、実施例7と同様にしてFFS型液晶表示素子を製造して液晶配向性及び電圧保持率の評価を行った。評価結果を比較例4の結果と共に表4に示す。
【0140】
【0141】
表4に示すように、架橋剤として化合物[B]及び化合物[C]を併用した実施例11、12は、液晶配向性、電気特性、膜の密着性、保存安定性及びリワーク性がS又はAの評価であった。これらの結果について、駆動モードが同じ比較例(比較例1、比較例4)とそれぞれ対比すると、実施例11では保存安定性及びリワーク性が特に改善され、実施例12では保存安定性が特に改善されていた。
【0142】
以上の結果から、重合体成分と共に架橋剤として化合物[B]及び化合物[C]を含有させた液晶配向剤は、保存安定性に優れ、かつリワーク性、液晶配向性及び電気特性が良好な液晶配向膜を形成することができることが明らかとなった。また、当該液晶配向剤により形成された配向膜は、基板との密着性も十分に高かった。