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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20240709BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20240709BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20240709BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
F02D41/04
F01N3/08 A
F02D41/34
F02D43/00 301H
F02D43/00 301J
F02D43/00 301T
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021045932
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022144773
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山田 直幸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 宏明
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-020982(JP,A)
【文献】特開2001-020729(JP,A)
【文献】特開2001-098935(JP,A)
【文献】特開2000-310138(JP,A)
【文献】特開2014-074332(JP,A)
【文献】特開2011-163303(JP,A)
【文献】特開2005-240642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/04
F01N 3/08
F02D 41/34
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、燃料噴射弁(51)から噴射される燃料が燃焼に供されるエンジン(50)を有し、該エンジンの排気通路に、酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒(54)が設けられた車両用エンジンシステムに適用され、所定の燃料カット条件が成立した場合に燃料噴射を停止して燃料カットを実行するとともに、前記燃料カットの実行中に所定の解除条件が成立した場合に前記燃料カットを解除して燃料噴射を再開するエンジン制御装置(70)において、
車両走行中における前記燃料カットの実行時に、道路の勾配変化情報、道路の制限速度情報、道路の信号機の表示情報のいずれかを取得するとともに、前記勾配変化情報を取得した場合に、道路の上り勾配が大きくなる道路区間に車両が到達するタイミングを前記燃料カットの解除タイミングとして予測し、前記制限速度情報を取得した場合に、道路の制限速度が増加する道路区間に車両が到達するタイミングを前記燃料カットの解除タイミングとして予測し、前記信号機の表示情報を取得した場合に、車両前方の信号機の表示が停止指示から進行指示に切り替わるタイミングを前記燃料カットの解除タイミングとして予測するタイミング予測部と、
前記燃料カットの実行時における前記車両の速度及び前記車両の重量の少なくともいずれかを取得し、前記車両の速度が大きいほど又は前記車両の重量が大きいほどNOx量が多くなるように、前記解除条件の成立に伴い燃料噴射が再開された直後に前記エンジンから前記排気浄化触媒に向けて排出される排気中のNOx量を予測するNOx量予測部と、
前記燃料カットの実行時において、前記NOx量予測部により予測されたNOx量に応じて、前記燃料カットの解除前の噴射量である解除前噴射量を設定するとともに、その解除前噴射量による燃料噴射を、前記解除タイミングよりも前のタイミングで、前記燃料噴射弁に実施させる噴射制御部と、を備え、
前記噴射制御部は、排気中のNOx量が多いほど前記排気浄化触媒における酸素吸蔵量の許容上限を低くする関係を用い、前記NOx量予測部により予測されたNOx量に応じて、燃料噴射が再開された直後の前記許容上限を算出するとともに、前記許容上限が低いほど前記解除前噴射量を多くする関係を用いて当該解除前噴射量を算出し、前記解除タイミングよりも前のタイミングで、前記解除前噴射量による燃料噴射を実施させる、エンジン制御装置。
【請求項2】
前記燃料カットの実行中での燃料噴射時においてその噴射燃料により前記排気浄化触媒で酸素吸蔵量が減少される際に要する反応時間を、遅れ時間として算出する遅れ時間算出部を備え、
前記噴射制御部は、前記解除タイミングより前記遅れ時間以上前のタイミングで燃料噴射を実施する、請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記解除タイミングにて前記燃料カットが解除されない場合、前記解除タイミングからの前記燃料カットの継続時間が所定時間経過するごとに所定の噴射量による燃料噴射を前記燃料噴射弁に実施させる補足噴射制御部を備える、請求項1または請求項2に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路に設けられた排気浄化触媒は、エンジンが燃料カットから解除された直後に酸素吸蔵量が多い状態になっている。酸素吸蔵量が多い状態では、排気に含まれるNOxを十分に還元できない場合があることから、燃料カット解除時の排気浄化触媒における酸素吸蔵量を減少させる技術が知られている。例えば、特許文献1の燃料供給制御では、燃料カットの解除タイミングにおいて、理論空燃比よりも燃料が濃い状態となるよう燃料噴射弁に燃料噴射させる。このような燃料供給制御により、燃料カット解除後の排気浄化触媒における酸素吸蔵量は減少する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-172176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の燃料供給制御では、燃料カットの解除タイミングで燃料噴射がされてからその燃料噴射による酸素吸蔵量の減少が始まるまでには、遅れ時間が存在する。その遅れ時間が経過するまでの間は、NOx排出量の増加が懸念される。このため、燃料カットの解除タイミング直後のNOx排出を抑制できる技術が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、燃料カット解除直後における排気浄化触媒下流側へのNOx排出を適正に抑制することができるエンジン制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明のエンジン制御装置は、車両に搭載され、燃料噴射弁から噴射される燃料が燃焼に供されるエンジンを有し、該エンジンの排気通路に、酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒が設けられた車両用エンジンシステムに適用され、所定の燃料カット条件が成立した場合に燃料噴射を停止して燃料カットを実行するとともに、前記燃料カットの実行中に所定の解除条件が成立した場合に前記燃料カットを解除して燃料噴射を再開するエンジン制御装置であって、前記燃料カットの実行時に、車両の走行に関する車両走行情報に基づいて、前記燃料カットの解除タイミングを予測するタイミング予測部と、前記燃料カットの実行時において、前記解除タイミングよりも前のタイミングで、前記燃料噴射弁に燃料噴射を実施させる噴射制御部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
エンジンにおいて燃料カットが解除される場合には、一般に排気浄化触媒の酸素吸蔵状態を解消するためにリッチスキップが行われる。しかし、リッチスキップを実施してから排気浄化触媒の酸素吸蔵量が減少するまでには遅れが生じ、燃料カットの解除直後において排気浄化触媒の下流側へのNOx排出量が増加する。
【0008】
この点、本発明では、車両走行中における燃料カットの実行時に、車両の走行に関する車両走行情報に基づいて、燃料カットの解除タイミングを予測し、その解除タイミングよりも前のタイミングで、燃料噴射弁に燃料噴射を実施させるようにした。車両走行情報には、燃料カットの解除条件の成立を示唆する情報が含まれると考えられ、燃料カットの解除タイミングの予測が可能となる。そのため、燃料カットの解除タイミングを加味しつつ、燃料カットの解除直後における排気浄化触媒下流側へのNOx排出を適正に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】エンジンシステムの概略構成を示す図。
図2】(a)排気NOx量と酸素吸蔵量の許容上限との関係を示す図、(b)酸素吸蔵量の許容上限と噴射量との関係を示す図。
図3】吸入空気量と反応開始時間との関係を示す図。
図4】噴射量と反応完了時間との関係を示す図。
図5】燃料噴射制御の手順を示すフローチャート。
図6】燃料噴射制御の態様を示すタイミングチャート。
図7】補足噴射制御の手順を示すフローチャート。
図8】補足噴射制御の態様を示すタイミングチャート。
図9】燃料噴射制御の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明のエンジン制御装置を具体化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明のエンジン制御装置は、車両用エンジンシステムに適用される。まず、図1に基づいて車両用エンジンシステムの概略構成を説明する。
【0011】
図1において、エンジン50は、例えば多気筒ガソリンエンジンであり、車両に搭載される。また、エンジン50は、気筒の各々に燃料を噴射する複数の燃料噴射弁51を有する。エンジン50には、吸気管52及び排気管53が接続されている。排気通路である排気管53には、通過する排気に含まれるNOx等を浄化する排気浄化触媒54が設けられている。排気浄化触媒54は、例えば、三元触媒であり、酸素吸蔵能を有する。排気浄化触媒54の酸素吸蔵量が増加すると、排気浄化触媒54によるNOxの還元作用は低下する。
【0012】
ECU70は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成された電子制御ユニットであり、各種センサの検出信号を用いてエンジン50の各種制御を実施する。ECU70には、吸気管52に設けられて吸入空気量を検出するエアフローメータ61から検出信号が入力される他、エンジン50の回転速度を検出する回転センサ62や、アクセル操作量を検出するアクセルセンサ63から検出信号が入力される。また、ECU70には、図示しない他の車載ECU等から車両の走行に関する車両走行情報が入力される。具体的には、地図情報、車両の位置情報、運行管理データ、信号機の表示情報などである。ECU70は、これらの検出信号等に基づいて、燃料噴射弁51の燃料噴射制御を実施する。
【0013】
ECU70は、エンジン50が搭載された車両において所定の燃料カット条件が成立した場合に、燃料噴射弁51による燃料噴射を停止して燃料カットを実行する。ここで、燃料カット条件としては、例えば、アクセル操作量がゼロであり、かつ、エンジン50の回転速度が所定の燃料カット回転速度(例えば1000rpm)以上であることを含む。また、ECU70は、燃料カットの実行中に所定の解除条件が成立した場合に、燃料カットを解除して燃料噴射を再開する。解除条件としては、例えば、アクセル操作量がゼロより大きくなったことを含む。
【0014】
ところで、燃料カットによりエンジン50の燃焼が停止された状態では、排気管53内が大気で満たされることになる。そのため、排気浄化触媒54の酸素吸蔵量は増加した状態となり、そのような状態においては、排気浄化触媒54によるNOx還元作用は低下する。かかる場合には、燃料カットが解除された直後において燃料が燃焼されると、排気中に含まれるNOxを排気浄化触媒54が還元しきれず、NOx排出量が増加するおそれがある。
【0015】
そこで、本実施形態では、車両走行中における燃料カットの実行時に燃料カットの解除タイミングを予測し、解除タイミングよりも前のタイミングで燃料噴射弁51による燃料噴射(以降、解除前噴射とも呼ぶ)を実施するようにした。解除タイミング前に噴射された燃料により排気浄化触媒54を還元して、酸素吸蔵量を予め減少させておくことにより、燃料カット解除直後のNOx排出量は抑制される。ここで、燃料カットの解除タイミングの予測は、車両走行情報に基づいて実施される。車両の走行に関する車両走行情報には、燃料カットの解除条件の成立を示唆する情報が含まれると考えられる。
【0016】
ECU70は、タイミング予測部として機能することにより、車両走行中における燃料カットの実行時に、車両走行情報に基づいて、燃料カットの解除タイミングを予測する。具体的には、ECU70は、車両走行情報として、エンジン50を搭載した車両の今後の走行経路情報を取得するとともに、その走行経路情報に基づき推定可能なエンジントルクの時系列変化に応じて、燃料カットの解除タイミングを予測する。車両の今後の走行経路情報とは、図示しないナビゲーション装置、もしくは、携帯端末への目的地の入力により探索された車両の現在地からの経路に関する情報であってもよいし、車両の現在地から脇道がない区間の道路に関する情報であってもよい。すなわち、車両の今後の走行経路情報とは、車両が今後走行する蓋然性の高い道路に関する情報であればよい。走行経路情報は、ECU70もしくは外部サーバに記憶された地図情報データベースに基づいて作成される。なお、これ以降、予測された解除タイミングを解除タイミングRTと呼ぶ。
【0017】
ECU70は、走行経路情報として、道路の勾配変化情報、道路の制限速度情報、道路の信号機の表示情報等のうちいずれかを取得する。ここで、道路の信号機の表示情報とは、道路に配置された信号機の表示が停止指示の表示と進行指示の表示とのうちいずれであるかを示すとともに、一方の表示から他方の表示へと切り替わるタイミングを示す情報のことである。そして、ECU70は、取得した情報に基づき推定可能なエンジントルクの時系列変化に応じて、燃料カットの解除タイミングRTを予測する。
【0018】
ECU70は、道路の勾配変化情報を取得した場合、燃料カットの実行時に、現在車両が走行している道路区間の勾配より傾きの大きい上り勾配の道路区間に車両が到達するタイミングを、燃料カットの解除タイミングRTとして予測する。そのような道路区間では、エンジントルクを増大する可能性が高く、エンジントルクを増大させるにはアクセル操作量を増加させなければならない。そして、燃料カットの実行時にアクセル操作量を増加させることは、解除条件の成立を意味する。
【0019】
また、ECU70は、道路の制限速度情報を取得した場合、車両の今後の走行経路に含まれる道路区間のうち隣接する手前の道路区間に対して制限速度が増加する道路区間に車両が到達するタイミングを、燃料カットの解除タイミングRTとして予測する。隣接する手前の道路区間に対して制限速度が増加する道路区間では、車両の運転者は車両を加速させるためにエンジントルクを増大させる可能性が高く、エンジントルクを増大させるにはアクセル操作量を増加させなければならない。そして、燃料カットの実行時にアクセル操作量を増加させることは、解除条件の成立を意味する。
【0020】
車両が現在地から各々の道路区間に到達するまでの時間は、燃料カットの開始以降における車両の速度に基づいて算出される。この燃料カットの開始以降における車両の速度は、燃料カットを開始した際の車両の速度を移動距離に応じて減算していくことによって推定される。この減算度合いは、走行経路情報を参照して各々の道路区間の形状及び勾配を加味してもよいし、ECU70に車両の重量が記憶されている場合にはその重量も加味してもよい。なお、車両の重量は、車両自体の重さに平均乗車人数分の体重を加えた値であってもよいし、所定のエンジントルクで走行している際の車両の加速度から算出されてもよい。また、車両が運送車両である場合には、集荷センター出発時に積載された荷物の重さを車両自体の重さに加えた値であってもよい。積載された荷物の重さは、運行管理データに基づいて特定される。
【0021】
また、ECU70は、車両が燃料カット状態で走行しており、かつ車両前方の道路の信号機の表示が停止指示の表示である場合に、その信号機の表示が停止指示から進行指示に切り替わるか否かを判定する。そして、信号機の表示が停止指示から進行指示に切り替わったと判定した場合に、その切り替わりから所定時間(例えば数秒)が経過したタイミングを解除タイミングRTとして予測する。つまり、信号表示の切り替わりに伴う運転者によるアクセル操作の開始、すなわちエンジントルクの時系列変化が生じると推定されることから、ECU70は、信号機の表示情報に基づいて解除タイミングRTとして予測する。
【0022】
ECU70は、噴射制御部として機能することにより、解除タイミングRTよりも前のタイミングで、燃料噴射弁51による解除前噴射を実施する。また、ECU70は、噴射制御部として機能することにより、解除前噴射での噴射量を設定する。排気浄化触媒54の下流側へのNOx排出量を所定の基準以下にしようとする場合、エンジン50から排気浄化触媒54に向けて排出される排気中の排気NOx量に応じて排気浄化触媒54に要求される酸素吸蔵量の許容上限を定めることが可能であり、その許容上限以下となるように酸素吸蔵量を調整しておくとよい。このため、解除前噴射での噴射量は排気NOx量に応じて設定される。そこで、ECU70は、噴射量を設定するためにNOx量予測部として機能し、車両走行情報に基づいて、解除条件の成立に伴い燃料噴射が再開された直後の排気NOx量を予測する。そして、ECU70は、予測された排気NOx量に応じて設定された噴射量での解除前噴射を燃料噴射弁51に実施させる。噴射量が設定される際には、排気NOx量に加えて解除前噴射を実施する際の酸素吸蔵量も加味される。
【0023】
ECU70は、排気浄化触媒54の酸素吸蔵量を推定する。酸素吸蔵量の推定には、周知の方法を用いることができる。具体的には、エアフローメータ61により検出された吸入空気量や図示しない排気センサにより検出された空燃比、回転センサ62により検出されたエンジン50の回転速度等に基づいて酸素吸蔵量が推定される。例えば、予め定めた基準値から、排気浄化触媒54を通過した吸入空気量、及びその間における空燃比の値を累積的に演算処理する等して、酸素吸蔵量を推定する。
【0024】
排気NOx量を予測する際、ECU70は、車両走行情報として、燃料カットの実行時における車両の速度及び車両の重量の少なくともいずれかを取得する。燃料カットが解除される直前の車両の速度及び車両の重量に応じて、燃料カットが解除された直後のアクセル操作量は変わる。そして、アクセル操作量に応じて、排気NOx量も変わると考えられる。したがって、ECU70は、燃料カットが解除された直後の排気NOx量を予測するために、燃料カットの実行時における車両の速度及び車両の重量の少なくともいずれかの情報を用いる。車両の速度を取得する場合には、解除タイミングRT直前における車両の速度を、燃料カットが解除される直前の車両の速度であるとみなして、排気NOx量を予測する。解除タイミングRTは、車両走行情報に基づいて予測されたものであり、実際に燃料カットが解除されるタイミングとは異なる場合もある。排気NOx量は、車両の速度を示す値が大きいほど、もしくは、車両の重量を示す値が大きいほど、多くなるよう設定される。
【0025】
図2(a)には、排気浄化触媒54に向けて排出される排気NOx量と酸素吸蔵量の許容上限との関係の一例を示す。図2(a)より、排気NOx量が多いほど酸素吸蔵量の許容上限は低くなるとともに、排気NOx量が所定の量以上となると酸素吸蔵量の許容上限はゼロとなるよう設定される。
【0026】
図2(b)には、酸素吸蔵量の許容上限と、解除前噴射を実施する際の噴射量との関係の一例を示す。図2(b)より、酸素吸蔵量の許容上限が低いほど解除前噴射を実施する際の噴射量が多くなるよう設定される。
【0027】
図2(a)(b)に示したような設定を用いて、ECU70は、予測された排気NOx量に基づいて燃料噴射が再開された直後の排気浄化触媒54における酸素吸蔵量の許容上限を算出し、その許容上限に基づいて設定された噴射量による解除前噴射を、燃料噴射弁51に実施させる。このため、NOx量予測部の機能により予測された排気NOx量が多いほど解除前噴射での噴射量が多くなることで、解除タイミングRTまでに排気浄化触媒54の酸素吸蔵量を減少させておくことができる。したがって、解除タイミングRT直後であっても、排気浄化触媒54の下流側へのNOx排出量を所定の基準以下にすることができる。
【0028】
本実施形態では、解除タイミングRTより遅れ時間以上前のタイミングで解除前噴射が実施される。遅れ時間は、ECU70が遅れ時間算出部として機能することにより算出される。遅れ時間は、燃料カットの実行中での解除前噴射時において、その解除前噴射により排気浄化触媒54で酸素吸蔵量が減少される際に要する反応時間に相当する。本実施形態では、反応時間は、その解除前噴射により排気浄化触媒54で酸素吸蔵量の減少が開始されるまでに要する反応開始時間と、その解除前噴射での噴射量による反応の完了に要する反応完了時間と、の和の時間である。
【0029】
図3には、吸入空気量と反応開始時間との関係の一例を示す。図3より、吸入空気量が多いほど、反応開始時間が短くなるよう設定される。反応開始時間は、図3に示したような演算マップに吸入空気量を適用することで推定される。
【0030】
図4には、解除前噴射での噴射量と反応完了時間との関係の一例を示す。この噴射量は、予測された排気NOx量に応じて設定された噴射量である。図4より、噴射量が多いほど反応完了時間が短くなるよう設定される。反応完了時間は、図4に示したような演算マップに噴射量を適用することで推定される。そして、推定された反応開始時間と反応完了時間との和が遅れ時間として算出される。
【0031】
図3、4に示したような設定を用いて算出した遅れ時間を参照して、ECU70は、解除タイミングRTより遅れ時間以上前のタイミングを噴射タイミングとして設定した上で、解除前噴射を実施する。本実施形態では、解除タイミングRTより遅れ時間の分だけ前のタイミングを噴射タイミングとして設定する。他の実施形態では、遅れ時間にマージンを加えた時間の分だけ、解除タイミングRTより前のタイミングを噴射のタイミングとして設定してもよい。
【0032】
次に、ECU70における燃料噴射制御の処理手順について、図5のフローチャートを用いて説明する。本処理は、ECU70により所定周期で繰り返し実行される。
【0033】
燃料噴射制御の処理が開始されると、まず初めに、ECU70は、燃料カット条件が成立しているか否か判定する(ステップS11)。燃料カット条件が成立していないと判定された場合(ステップS11:NO)、そのまま本処理は終了する。
【0034】
一方、燃料カット条件が成立していると判定された場合(ステップS11:YES)、ECU70は、車両走行情報を取得する(ステップS12)。ここでは、車両走行情報として、車両の今後の走行経路情報が取得される。走行経路情報には、道路の勾配変化情報、道路の制限速度情報、道路の信号機の表示情報等のうち少なくともいずれかが含まれる。次に、ECU70は、車両走行情報として取得した走行経路情報に基づいて、燃料カットの解除タイミングRTを予測する(ステップS13)。次に、ECU70は、解除条件の成立に伴い燃料噴射が再開された直後の排気NOx量を予測する(ステップS14)。そして、ECU70は、予測された排気NOx量に応じて解除前噴射の噴射量を設定する(ステップS15)。
【0035】
解除前噴射の噴射量を設定したのち、ECU70は、解除前噴射の噴射タイミングを設定する(ステップS16)。詳細には、ECU70は、遅れ時間を算出した上で解除前噴射の噴射タイミングを設定する。次に、ECU70は、噴射タイミングが到来したか否か判定する(ステップS17)。噴射タイミングが到来していないと判定された場合(ステップS17:NO)、ECU70は、本処理をいったん終了する。
【0036】
一方、噴射タイミングが到来したと判定された場合(ステップS17:YES)、ECU70は、ステップS15において設定された噴射量での解除前噴射を燃料噴射弁51に実施させる(ステップS18)。その後、ECU70は、本処理を終了する。なお、本実施形態では、ステップS12からステップS16までの一連の処理が実行されて解除前噴射の噴射量及び噴射タイミングが一旦設定された場合、解除前噴射が実施される(ステップS18)までは、ステップS11の肯定判定が繰り返されてもステップS12からステップS16までの一連の処理は省略される。他の実施形態では、ステップS11において肯定判定が繰り返されるたびに、ステップS12からステップS16までの一連の処理が実行されて、解除前噴射の噴射量及び噴射タイミングが更新されてもよい。
【0037】
続いて、図6には、図5の処理をより具体的に示すタイミングチャートを示す。タイミングt11において、アクセルがオフになる(アクセル操作量がゼロになる)ことにより、燃料カット条件が成立して燃料カットが実行されるとともに、車両の速度が減少し始める。また、このとき、燃料カットの実行によって噴射量はゼロになることから、排気浄化触媒54の酸素吸蔵量が増加し始める。タイミングt11以降、排気管53内は大気で満たされ、燃料カットの継続時間が長くなるほど排気浄化触媒54の酸素吸蔵量は増加していく。燃料カットが実行されてから、ECU70は、車両走行情報を取得して解除タイミングRTの予測をしたのち、燃料噴射が再開された直後の排気NOx量の予測、解除前噴射の噴射量及び噴射タイミングの設定を行う一連の処理を実施する。
【0038】
タイミングt12において、設定された噴射量での解除前噴射が実施される。タイミングt12は、解除タイミングRTより遅れ時間の分だけ前のタイミングに相当し、タイミングt14は、解除タイミングRTに相当する。したがって、タイミングt12からタイミングt14までの間の時間が遅れ時間に相当する。タイミングt13において、酸素吸蔵量が減少し始める。すなわち、タイミングt12からタイミングt13までの間の時間は、上述した反応開始時間にあたる。そして、タイミングt12において解除前噴射された噴射量による反応がタイミングt14において完了する。図6では、燃料噴射が再開された直後の排気浄化触媒54における酸素吸蔵量の許容上限をK(>0)としており、タイミングt14において、酸素吸蔵量はKまで低減されている。すなわち、タイミングt13からタイミングt14までの間の時間は、上述した反応完了時間にあたる。
【0039】
タイミングt14において、アクセルがオンになる(アクセル操作量がゼロより大きくなる)ことにより、解除条件が成立して燃料カットが解除されるとともに、車両の速度が増加し始める。また、このとき、燃料カットの解除によって噴射量も増加する。また、タイミングt14以降、酸素吸蔵量は、Kが示す値から徐々にゼロへと近付いていく。図6においては、車両走行情報に基づいて予測された解除タイミングRTと、実際に燃料カットが解除されたタイミングとは同じである。
【0040】
図6には、タイミングt12において解除前噴射が実施されなかった場合の比較例において、その比較例における酸素吸蔵量及び噴射量が破線DL1、DL2で示されている。破線DL2で示されているように、タイミングt12において解除前噴射が実施されなかった場合、タイミングt11で燃料カットが開始されてから、タイミングt14で燃料カットが解除されるまで燃料噴射は実施されない。したがって、比較例においては、破線DL1で示されているように、タイミングt13以降も排気浄化触媒54の酸素吸蔵量は増加し続ける。
【0041】
その後、タイミングt14において燃料カットが解除されることにより、初めて燃料噴射が実施されるが、燃料カットの解除直後において酸素吸蔵量が高い状態になっていることから、排気に含まれるNOxを十分に還元できない場合がある。一方、本実施形態では、燃料カットの実行時に、解除タイミングRTよりも前のタイミングで燃料噴射弁51による解除前噴射を実施することから、比較例と比べて、燃料カットの解除直後における酸素吸蔵量を低い状態にすることができる。
【0042】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0043】
車両走行中における燃料カットの実行時に、車両の走行に関する車両走行情報に基づいて、燃料カットの解除タイミングRTを予測し、その解除タイミングRTよりも前のタイミングで、燃料噴射弁51に解除前噴射を実施させるようにした。車両走行情報には、燃料カットの解除条件の成立を示唆する情報が含まれると考えられ、燃料カットの解除タイミングRTの予測が可能となる。そのため、燃料カットの解除タイミングRTを加味しつつ、燃料カットの解除直後における排気浄化触媒54下流側へのNOx排出を適正に抑制することができる。
【0044】
また、燃料カットの実行中での解除前噴射時において、その噴射燃料により排気浄化触媒54で酸素吸蔵量が減少される際に要する反応時間を遅れ時間として算出し、解除前噴射は、解除タイミングRTよりその遅れ時間以上前のタイミングで実施されるようにした。そして、反応時間は、その解除前噴射により排気浄化触媒54で酸素吸蔵量の減少が開始されるまでに要する反応開始時間と、その噴射量による反応の完了に要する反応完了時間と、の和の時間である。
【0045】
これにより、解除タイミングRTよりも前のタイミングで解除前噴射を実施する場合において、その解除前噴射による酸素吸蔵量の減少が始まる前に解除タイミングRTが到来することを防止できる。また、その解除前噴射による反応の完了に要する反応完了時間が含まれる場合には、解除タイミングRTにおいて、その解除前噴射による反応は完了している。したがって、解除タイミングRTから遅れ時間より短い時間だけ前のタイミングで解除前噴射が実施される場合と比べて、燃料カットの解除直後における排気浄化触媒54下流側へのNOx排出を抑制することができる。
【0046】
また、車両走行情報として、車両の今後の走行経路情報を取得するとともに、走行経路情報に基づき推定可能なエンジントルクの時系列変化に応じて、解除タイミングRTを予測するようにした。エンジントルクの時系列変化においてエンジントルクの上昇が起こるタイミングでは、燃料カットの解除条件が成立する蓋然性が高い。したがって、このような構成によれば、エンジントルクの時系列変化に応じて、燃料カットの解除タイミングRTを適正に予測でき、ひいては、解除前噴射を適正に実施させることができる。
【0047】
また、走行経路情報として、道路の勾配変化情報、道路の制限速度情報、道路の信号機の表示情報のいずれかを取得し、その情報に基づき推定可能なエンジントルクの時系列変化に応じて、解除タイミングRTを予測するようにした。道路の勾配変化情報、道路の制限速度情報、道路の信号機の表示情報は、いずれもエンジントルクの変化を示唆すると考えられる。したがって、このような情報のうちいずれかに基づき推定可能なエンジントルクの時系列変化に応じて、燃料カットの解除タイミングRTの予測が可能となる。その結果、解除前噴射を適正に実施させることができる。
【0048】
また、燃料カットの実行時に、車両走行情報に基づいて、解除条件の成立に伴い燃料噴射が再開された直後の排気NOx量を予測し、その予測された排気NOx量に応じて設定された噴射量による燃料噴射を、解除タイミングRTよりも前のタイミングで、燃料噴射弁51に実施させるようにした。
【0049】
燃料噴射が再開された直後における排気NOx量は、燃料噴射の再開時の車両の走行状態に応じて変動する。そして、排気浄化触媒54の下流側へのNOx排出量を所定の基準以下にしようとする場合には、燃料噴射の再開時における排気NOx量に応じて、排気浄化触媒54に要求される酸素吸蔵量の許容上限を定めることが可能であり、その許容上限以下となるように酸素吸蔵量を調整しておくとよい。そのため、排気NOx量を予測し、その排気NOx量に応じた噴射量で解除前噴射を実施しておくことによって、燃料噴射が再開された直後においてNOx排出量を所定の基準以下にすることができる。また、酸素吸蔵量がその許容上限となるような噴射量で解除前噴射を実施した場合には、NOx排出量を所定の基準以下にすることを目的とした燃料噴射において、その噴射量に過不足が生じることを抑制できる。
【0050】
また、予測された排気NOx量に基づいて、燃料噴射が再開された直後の排気浄化触媒54における酸素吸蔵量の許容上限を算出し、その許容上限に基づいて設定された噴射量による解除前噴射を、燃料噴射弁51に実施させるようにした。予測された排気NOx量を、酸素吸蔵量の許容上限を算出する基準にするとともに、その許容上限を基準にして解除前噴射の噴射量を設定する。したがって、予測された排気NOx量を所定の基準以下にするために必要な噴射量の設定が可能となる。その結果、解除前噴射を適正に実施することができる。
【0051】
また、燃料カットの実行時における車両の速度及び車両の重量の少なくともいずれかを取得し、その情報に基づいて、燃料噴射が再開された直後の排気NOx量を予測するようにした。燃料カットの実行中における車両の速度や重量に応じて、燃料噴射の再開時のアクセル操作量は変わる。そして、アクセル操作量に応じて、排気NOx量も変わる。そのため、車両の速度及び車両の重量の少なくともいずれかを示す情報に基づけば、燃料噴射の再開時における排気NOx量を予測することができる。ひいては、当該排気NOx量に応じた噴射量で解除前噴射を実施しておくことによって、排気浄化触媒54における酸素吸蔵量を許容上限以下にしておくことができる。
【0052】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を説明する。第2実施形態では、タイミング予測部として機能するECU70は、第1実施形態と異なり、車両走行情報として、走行経路情報の代わりに、または、走行経路情報に加えて、車両の前方を走行する先行車両との車間距離情報を取得する。そして、ECU70は、車間距離情報を取得した場合、その車間距離情報に基づき推定可能なエンジントルクの時系列変化に応じて、解除タイミングRTを予測する。
【0053】
第2実施形態のエンジン制御装置が搭載された車両は、ステレオカメラによる撮影画像やミリ波レーダもしくはレーザレーダの検出結果に基づいて、先行車両との車間距離を検出する。そして、ECU70は、燃料カットの開始後に車間距離が縮小したのち拡張し始めるタイミングを、燃料カットの解除タイミングRTとして予測する。このとき、ECU70は、検出結果に先行車両との相対速度が含まれる場合には、車間距離に代えて、もしくは、車間距離に加えて相対速度を参照した上で、燃料カットの解除タイミングRTを予測してもよい。
【0054】
第2実施形態の燃料噴射制御の処理手順は、第1実施形態の燃料噴射制御の処理手順(図5に図示)と比べて、ステップS12において車両走行情報として車間距離情報を取得した場合に、ステップS13においてその車間距離情報に基づき、燃料カットの解除タイミングRTを予測する点を除いて、同じである。
【0055】
先行車両との車間距離の変化によれば、車両が燃料カット状態から燃料噴射状態に移行すること、すなわち、例えば運転者が車間距離の拡張に気付いてアクセルオンすることをいち早く把握できる。したがって、以上説明した第2実施形態によれば、車間距離情報に基づいて、燃料カットの解除タイミングRTを適正に予測でき、ひいては、解除前噴射を適正に実施させることができる。
【0056】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。ECU70は、第1実施形態にて説明した燃料噴射制御(図5、6にて説明)に加えて、補足噴射制御を実施する。解除タイミングRTであるタイミングt14(図6)において、解除条件が成立せず燃料カットが解除されなかった場合、タイミングt14以降に酸素吸蔵量は再び増加する。そこで、ECU70は、補足噴射制御部として機能することにより、解除タイミングRTからの燃料カットの継続時間が所定時間経過するごとに、所定の噴射量による燃料噴射を燃料噴射弁51に実施させる。
【0057】
ECU70における補足噴射制御の処理手順について、図7のフローチャートを用いて説明する。本処理は、燃料カットの実行中においてECU70により所定周期で実行される。
【0058】
補足噴射制御の処理が開始されると、まず初めに、ECU70は、解除タイミングRTが到来した後であるか否か判定する(ステップS21)。解除タイミングRTが到来した後でないと判定された場合、すなわち、解除タイミングRTが未だ到来していない場合(ステップS21:NO)、そのまま本処理は終了する。
【0059】
一方、解除タイミングRTが到来した後であると判定された場合、すなわち、解除タイミングRT到来後の場合(ステップS21:YES)、ECU70は、解除タイミングRTから燃料カットの継続時間が所定時間経過したか否か判定する(ステップS22)。所定時間経過していない場合(ステップS22:NO)、そのまま本処理は終了する。一方、所定時間経過している場合(ステップS22:YES)、ECU70は、所定の噴射量による燃料噴射を燃料噴射弁51に実施させる(ステップS23)。その後、ECU70は、本処理を終了する。なお、補足噴射制御が開始されてステップS23が一度実施された以降のステップS22においては、燃料カットの継続時間の起算時点は、最後に燃料カットの継続時間が所定時間を経過した時点となる。
【0060】
図8には、補足噴射を実施した場合のタイミングチャートを示す。図8においては、タイミングt14からタイミングt15までの間の時間と、タイミングt15からタイミングt16までの間の時間と、が所定時間にあたる。また、タイミングt15、t16における燃料噴射が、所定の噴射量による燃料噴射にあたる。所定の噴射量は、所定時間の長さに応じて増加するよう設定される。タイミングt17において、解除条件が成立して燃料カットが解除されると、燃料噴射が再開されて酸素吸蔵量も徐々にゼロへと近付いていく。
【0061】
以上説明した第3実施形態によれば、解除タイミングRTにて燃料カットが解除されなかったとしても、解除タイミングRTが経過してから排気浄化触媒54に吸蔵される酸素量の増加を抑制することができる。そのため、燃料カットの解除直後における排気浄化触媒54下流側へのNOx排出も適正に抑制することができる。
【0062】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について、第1実施形態との相違点を説明する。第4実施形態では、第1実施形態と異なり、解除前噴射は実施せず解除条件が成立してから燃料噴射が再開される。そして、第4実施形態においては、ECU70は、再開された際の燃料噴射での噴射量を設定する。このときの噴射量は、第1実施形態と同様に、NOx量予測部として機能するECU70が車両走行情報に基づいて、解除条件の成立に伴い燃料噴射が再開された直後の排気NOx量を予測したのち、予測されたNOx量に応じて噴射量を設定する。詳細には、ECU70は、予測された排気NOx量および図2(a)(b)で示したような関係を用いて、燃料噴射が再開された直後の排気浄化触媒54における酸素吸蔵量の許容上限を算出し、その許容上限に基づいて噴射量を設定する。第4実施形態においては、ECU70は、車両走行情報として、燃料カットが実行された時点の車両の速度を取得し、その速度を示す値が大きいほど、燃料噴射が再開された直後の排気NOx量は多くなると予測する。
【0063】
次に、第4実施形態のECU70における燃料噴射制御の処理手順について、図9のフローチャートを用いて説明する。本処理は、ECU70により所定周期で繰り返し実行される。
【0064】
燃料噴射制御の処理が開始されると、まず初めに、ECU70は、燃料カット条件が成立しているか否か判定する(ステップS31)。燃料カット条件が成立していないと判定された場合(ステップS31:NO)、そのまま本処理は終了する。
【0065】
一方、燃料カット条件が成立していると判定された場合(ステップS31:YES)、ECU70は、車両走行情報を取得する(ステップS32)。ここでは、車両走行情報として、燃料カットが実行された時点の車両の速度を示す情報が取得される。次に、ECU70は、解除条件の成立に伴い燃料噴射が再開された直後の排気NOx量を予測する(ステップS33)。そして、ECU70は、予測された排気NOx量に応じて燃料噴射が再開された際に噴射される噴射量を設定する(ステップS34)。
【0066】
再開時の噴射量を設定したのち、ECU70は、解除条件が成立したか否か判定する(ステップS35)。解除条件が成立していないと判定された場合(ステップS35:NO)、ECU70は、本処理をいったん終了する。一方、解除条件が成立していると判定された場合(ステップS35:YES)、燃料噴射が再開されたとして、ECU70は、ステップS34において設定された噴射量による燃料噴射を、燃料噴射弁51に実施させる(ステップS36)。その後、ECU70は、本処理を終了する。
【0067】
燃料噴射が再開された直後の排気NOx量は、燃料噴射の再開時の車両の走行状態に応じて変動する。そして、排気浄化触媒54の下流側へのNOx排出量を所定の基準以下にしようとする場合には、燃料噴射の再開時における排気NOx量に応じて、排気浄化触媒54に要求される酸素吸蔵量の許容上限を定めることが可能であり、その許容上限以下となるように酸素吸蔵量を調整しておくとよい。以上説明した第4実施形態によれば、排気NOx量を予測し、その排気NOx量に応じた噴射量で再開時に燃料噴射を実施することによって、燃料噴射が再開された後のNOx排出量を所定の基準以下にすることができる。また、酸素吸蔵量がその許容上限となるような噴射量で再開時に燃料噴射を実施した場合には、NOx排出量を所定の基準以下にすることを目的とした燃料噴射において、その噴射量に過不足が生じることを抑制できる。
【0068】
また、予測された排気NOx量に基づいて、燃料噴射が再開された直後の排気浄化触媒54における酸素吸蔵量の許容上限を算出し、その許容上限に基づいて設定された噴射量による燃料噴射を、燃料噴射が再開された際に燃料噴射弁51に実施させるようにした。予測された排気NOx量を、酸素吸蔵量の許容上限を算出する基準にするとともに、その許容上限を基準にして噴射再開時の噴射量を設定する。したがって、予測された排気NOx量を所定の基準以下にするために必要な噴射量の設定が可能となる。その結果、噴射再開時の燃料噴射を適正に実施することができる。
【0069】
上記実施形態は例えば次のように変更してもよい。
【0070】
・上記実施形態では、走行経路情報として、道路の勾配変化情報、道路の制限速度情報、道路の信号機の表示情報のいずれかを取得して、燃料カットの解除タイミングRTとして予測する構成としたが、これに限られない。例えば、走行経路情報として、解除条件が成立する可能性が高いと登録された道路区間の情報を取得して、燃料カットの解除タイミングRTを予測してもよい。このような場合、燃料カットを実行している際に当該道路区間を車両が通過する場合、その通過タイミングが燃料カットの解除タイミングRTとして予測される。
【0071】
・上記実施形態では、解除前噴射の噴射タイミングとして設定されるタイミングの例として、解除タイミングRTより遅れ時間の分だけ前のタイミングや、遅れ時間にマージンを加えた時間の分だけ解除タイミングRTより前のタイミングが挙げられていたが、これに限られない。例えば、解除タイミングRTと解除前噴射の噴射タイミングとの時間差の過去の平均値がECU70に記憶されており、その平均値の時間差の分だけ解除タイミングRTより前のタイミングを、解除前噴射の噴射タイミングとして予測してもよい。
【0072】
・上記実施形態では、解除タイミングRT直前における車両の速度を、燃料カットが解除される直前の車両の速度であるとみなして、排気中のNOx量を予測していたが、これに限られない。例えば、排気中のNOx量は、車両の運転者の運転傾向に基づいて予測されてもよい。このような場合、例えば、車両の運転者の運転傾向がECU70に記憶されており、その運転傾向に応じて、排気中のNOx量が予測されてもよい。ここで運転傾向とは、アクセル操作量を上昇させる際に現れる傾向(緩やかに上昇させるのか急激に上昇させるのか)のことである。
【0073】
・上記実施形態では、遅れ時間として用いられる反応時間は、反応開始時間と反応完了時間との和の時間であるとしたが、これに限られない。例えば、反応時間は、反応開始時間と反応完了時間とのうち一方しか含まない時間であってもよい。
【0074】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0075】
50…エンジン、51…燃料噴射弁、52…吸気管、53…排気管、54…排気浄化触媒、70…ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9