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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】車両、プログラム、及び通知方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/14 20200101AFI20240709BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240709BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20240709BHJP
   B60W 30/182 20200101ALI20240709BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240709BHJP
【FI】
B60W50/14
B60T7/12 C
B60T7/12 F
B60W30/14
B60W30/182
B60W60/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021066724
(22)【出願日】2021-04-09
(65)【公開番号】P2022161708
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 智孝
(72)【発明者】
【氏名】賎機 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】青木 裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智史
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-067170(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0089313(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0297573(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標速度に実速度を追従させる速度制御を実行する自動運転システムを備えた車両であって、
前記自動運転システムは、
少なくとも1つのプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、
前記少なくとも1つのメモリに結合された少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記少なくとも1つのプログラムの実行により、
ブレーキの積極的な使用により前記目標速度に前記実速度を追従させる第1制御モードと、前記ブレーキの使用を控えながら前記目標速度に前記実速度を追従させる第2制御モードとの間で、前記速度制御の制御モードを運転状況に応じて切り替える制御モード切替処理と、
前記速度制御の実行時に前記目標速度と前記実速度との速度誤差が閾値を越えた場合、運転者に通知を行う通知処理と、
前記制御モードが前記第1制御モードから前記第2制御モードへ切り替えられた場合、前記閾値を前記第1制御モードにおける値よりも高い値に変更する第1閾値変更処理と、
前記制御モードが前記第2制御モードから前記第1制御モードへ切り替えられた場合、前記閾値を前記第2制御モードにおける値よりも低い値に変更する第2閾値変更処理と、を実行する
ことを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両において、
前記第2閾値変更処理では、前記閾値は前記第2制御モードにおける値よりも低い値に徐々に変更される
ことを特徴とする車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両において、
前記第1閾値変更処理では、前記閾値は前記第1制御モードにおける値よりも高い値に徐々に変更される
ことを特徴とする車両。
【請求項4】
目標速度に実速度を追従させる速度制御を実行する自動運転システムを備えた車両において、前記目標速度と前記実速度との速度誤差が閾値を越えた場合に運転者に通知を行うことをコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記速度制御の制御モードは、ブレーキの積極的な使用により前記目標速度に前記実速度を追従させる第1制御モードと、前記ブレーキの使用を控えながら前記目標速度に前記実速度を追従させる第2制御モードと、を含み、
前記プログラムは、
前記制御モードが前記第1制御モードから前記第2制御モードへ切り替えられた場合、前記閾値を前記第1制御モードにおける値よりも高い値に変更する処理と、
前記制御モードが前記第2制御モードから前記第1制御モードへ切り替えられた場合、前記閾値を前記第2制御モードにおける値よりも低い値に変更する処理と、を前記コンピュータに実行させる
ことを特徴とするプログラム。
【請求項5】
目標速度に実速度を追従させる速度制御を実行する自動運転システムを備えた車両において、前記目標速度と前記実速度との速度誤差が閾値を越えた場合に運転者に通知を行う通知方法であって、
前記速度制御の制御モードは、ブレーキの積極的な使用により前記目標速度に前記実速度を追従させる第1制御モードと、前記ブレーキの使用を控えながら前記目標速度に前記実速度を追従させる第2制御モードと、を含み、
前記通知方法は、
前記制御モードが前記第1制御モードから前記第2制御モードへ切り替えられた場合、前記閾値を前記第1制御モードにおける値よりも高い値に変更するステップと、
前記制御モードが前記第2制御モードから前記第1制御モードへ切り替えられた場合、前記閾値を前記第2制御モードにおける値よりも低い値に変更するステップと、を有する
ことを特徴とする通知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両、プログラム、及び通知方法に関し、詳しくは、目標速度に実速度を追従させる速度制御を実行する自動運転システムを備えた車両と、それに用いて好適なプログラム及び通知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が長い降坂路を走行する際には、ブレーキの多用によってブレーキフェード状態に達する場合がある。特許文献1には、追従走行制御の実行時にブレーキフェード状態に至ると予測された場合、追従走行制御の制御特性を加速度変化がより小さい制御特性となるように変更することで、制動力を発生させる必要のある状況に至ることを軽減することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-028896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動運転システムを備えた車両では、行動計画に従って目標速度が定められ、目標速度に実速度を追従させる速度制御が行われる。速度制御において目標速度と実速度との速度誤差が閾値を越えた場合、運転者に対して通知が行われる。運転者に対する通知には、例えば、運転者に対してハンドルに手を添えることを要求するハンズオン(Hands-on)要求通知と、自動運転システムから運転者への運転権限移譲の要求を通知するTD(Transition demand)通知とが含まれる。
【0005】
特許文献1に記載されている技術を自動運転システムに適用した場合、制動力の発生頻度が抑制されることによって目標速度に対する実速度の追従性は低下する。その結果、目標速度と実速度との速度誤差が閾値を越える機会が増えることとなり、運転者に対する通知の頻度は増加する。しかし、この場合の目標速度と実速度との速度誤差の拡大は、ブレーキフェードを抑制するために生じる一時的なものである。つまり、目標速度に対する実速度の追従性が低下したとしても、それは自動運転システムの運転支援機能としては許容範囲内であり、運転者に通知する必要はない場合がある。必ずしも必要ではない通知を頻繁に行うことは運転者に対して煩わしさを与えることになる。
【0006】
本開示は、自動運転システムによる速度制御の実行時、目標速度に対する実速度の追従性が低下した場合に運転者に対して行われる通知の頻度を適正化することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記目的を達成するための車両を提供する。本開示に係る車両は、目標速度に実速度を追従させる速度制御を実行する自動運転システムを備えた車両である。本開示に係る車両が備える自動運転システムは、少なくとも1つのプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、上記少なくとも1つのメモリに結合された少なくとも1つのプロセッサとを備える。上記少なくとも1つのプロセッサは、上記少なくとも1つのプログラムの実行により、下記の制御モード切替処理、通知処理、第1閾値変更処理、及び第2閾値変更処理を実行する。
【0008】
制御モード切替処理は、ブレーキの積極的な使用により目標速度に実速度を追従させる第1制御モードと、ブレーキの使用を控えながら目標速度に実速度を追従させる第2制御モードとの間で、速度制御の制御モードを運転状況に応じて切り替える処理である。通知処理は、速度制御の実行時に目標速度と実速度との速度誤差が閾値を越えた場合、運転者に通知を行う処理である。第1閾値変更処理は、制御モードが第1制御モードから第2制御モードへ切り替えられた場合、閾値を第1制御モードにおける値よりも高い値に変更する処理である。第2閾値変更処理は、制御モードが第2制御モードから第1制御モードへ切り替えられた場合、閾値を第2制御モードにおける値よりも低い値に変更する処理である。
【0009】
本開示に係る車両において、第2閾値変更処理では、閾値は第2制御モードにおける値よりも低い値に徐々に変更されてもよい。また、第1閾値変更処理では、閾値は第1制御モードにおける値よりも高い値に徐々に変更されてもよい。
【0010】
本開示は、上記目的を達成するためのプログラムを提供する。本開示に係るプログラムは、目標速度に実速度を追従させる速度制御を実行する自動運転システムを備えた車両において、目標速度と実速度との速度誤差が閾値を越えた場合に運転者に通知を行うことをコンピュータに実行させるプログラムである。ここで、速度制御の制御モードは、ブレーキの積極的な使用により目標速度に実速度を追従させる第1制御モードと、ブレーキの使用を控えながら目標速度に実速度を追従させる第2制御モードとを含む。
【0011】
本開示に係るプログラムは、制御モードが第1制御モードから第2制御モードへ切り替えられた場合、閾値を第1制御モードにおける値よりも高い値に変更する処理をコンピュータに実行させる。また、本開示に係るプログラムは、制御モードが第2制御モードから第1制御モードへ切り替えられた場合、閾値を第2制御モードにおける値よりも低い値に変更する処理をコンピュータに実行させる。
【0012】
本開示は、上記目的を達成するための通知方法を提供する。本開示に係る通知方法は、目標速度に実速度を追従させる速度制御を実行する自動運転システムを備えた車両において、目標速度と実速度との速度誤差が閾値を越えた場合に運転者に通知を行う方法である。ここで、速度制御の制御モードは、ブレーキの積極的な使用により目標速度に実速度を追従させる第1制御モードと、ブレーキの使用を控えながら目標速度に実速度を追従させる第2制御モードとを含む。
【0013】
本開示に係る通知方法は、第1ステップと第2ステップとを有する。第1ステップは、制御モードが第1制御モードから第2制御モードへ切り替えられた場合、閾値を第1制御モードにおける値よりも高い値に変更するステップである。第2ステップは、制御モードが第2制御モードから第1制御モードへ切り替えられた場合、閾値を第2制御モードにおける値よりも低い値に変更するステップである。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る車両、プログラム、及び通知方法によれば、ブレーキの積極的な使用により目標速度に実速度を追従させる第1制御モードが速度制御の制御モードとして選択されている場合、閾値は相対的に低い値にされる。一方、ブレーキの使用を控えながら目標速度に実速度を追従させる第2制御モードが速度制御の制御モードとして選択されている場合、閾値は相対的に高い値にされる。
【0015】
第1制御モードは、ブレーキの積極的な使用によって相対的に高い目標速度追従性能が実現される制御モードであるので、目標速度と実速度との速度誤差は相対的に生じ難い。本開示に係る車両、プログラム、及び通知方法によれば、閾値を相対的に低い値にすることで、自動運転システムの不調が看過されることを抑えることができる。第2制御モードは、ブレーキの使用を控えることで目標速度追従性能は第1制御モードよりも相対的に低下する制御モードであるので、目標速度と実速度との速度誤差は相対的に生じやすい。本開示に係る車両、プログラム、及び通知方法によれば、閾値を相対的に高い値にすることで、必ずしも必要ではない通知が頻繁に行われることを抑えることができる。つまり、本開示に係る車両、プログラム、及び通知方法によれば、自動運転システムによる速度制御の実行時、目標速度に対する実速度の追従性が低下した場合に運転者に対して行われる通知の頻度を適正化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の第1実施形態の車両が備える自動運転システムの構成を示すブロック図である。
図2】本開示の第1実施形態の車両が備える自動運転システムによる速度制御の制御モードの決定方法を示すフローチャートである。
図3】制御モードの切り替えに伴い生じる問題について説明する図である。
図4】本開示の第1実施形態の閾値の設定を示す図である。
図5】制御モードの切り替えに伴い生じる問題について説明する図である。
図6】本開示の第2実施形態の閾値の設定を示す図である。
図7】制御モードの切り替えに伴い生じる問題について説明する図である。
図8】本開示の第3実施形態の閾値の設定を示す図である。
図9図8に示す閾値の設定の変形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。
【0018】
1.第1実施形態
1-1.自動運転システムを備えた車両の構成
図1は、本開示の第1実施形態の車両が備える自動運転システムの構成を示すブロック図である。車両10が備える自動運転システム100は、少なくとも1つのプロセッサ102(以下、単にプロセッサ102と呼ぶ)と少なくとも1つのメモリ104(以下、単にメモリ104と呼ぶ)とを有するECU(Electronic Control Unit)、すなわち、コンピュータである。メモリ104は、主記憶装置と補助記憶装置とを含む。メモリ104には、プロセッサ102で実行可能な少なくとも1つのプログラム106(以下、単にプログラム106と呼ぶ)とそれに関連する種々のデータとが記憶されている。メモリ104に記憶されているプログラム106がプロセッサ102で実行されることで、自動運転システム100には様々な機能が実現される。なお、自動運転システム100を構成するECUは、複数のECUの集合であってもよい。
【0019】
自動運転システム100は、図1にブロックで示すように、車両10の自動運転に関係する構成としてシステム状態制御部110、周辺認識部120、行動計画生成部130、速度制御部140、及びシステム状態通知部150を備える。これらは、メモリ104に記憶されたプログラム106がプロセッサ102で実行されたときに、自動運転システム100の機能として実現される。
【0020】
システム状態制御部110は、周辺認識部120、行動計画生成部130、速度制御部140、及びシステム状態通知部150のそれぞれと通信するように構成される。
【0021】
周辺認識部120は、カメラ、LiDAR、レーダ等の図示しない認識センサを用いて車両10の周辺状況を認識し、先行車両や歩行者等の物標情報を得る。認識センサによる物標情報の取得方法は公知であるので、ここでの説明は省略する。
【0022】
行動計画生成部130は、地図データベースの地図情報、GPSを用いて取得された車両10の位置情報、及び、周辺認識部120で取得された物標情報に基づいて、車両10の行動計画を生成する。行動計画は、車両10を予め設定された走行ルートに沿って走行させるための目標軌道と行動計画内容とを含む。目標軌道は、車両10に固定された座標系での目標位置と各目標点での目標速度との二つの要素からなる組を複数持つものとして生成される。行動計画内容とは、自動運転の速度制御の目的に当たる内容である。行動計画内容は、一定速度での走行、カーブでの減速、先行車への追従、長い降坂路の走行等、運転状況に応じて決定される。
【0023】
速度制御部140は、行動計画生成部130で生成された行動計画に基づいて車両10の速度を制御する。行動計画には目標軌道が含まれる。速度制御部140は、車両10が目標軌道に追従して走行するように目標駆動力及び目標加速度を決定する。より詳しくは、速度制御部140は、目標軌道に含まれる目標速度と、車輪速センサによって計測される車両10の実速度との速度誤差を計算し、速度誤差を減少させるように目標駆動力及び目標加速度を決定する。
【0024】
速度制御部140は、行動計画内容に基づいて速度制御の制御モードを切り替える制御モード切替処理を行う。制御モードは第1制御モードと第2制御モードとを含み、制御モードごとに速度誤差から目標駆動力及び目標加速度を決定する上での計算方法が異なっている。具体的には、第1制御モードでは、ブレーキの積極的な使用により目標速度に実速度を追従させるように、目標駆動力及び目標加速度が決定される。一方、第2制御モードでは、ブレーキの使用を控えながら目標速度に実速度を追従させるように、目標駆動力及び目標加速度が決定される。速度制御の制御モードの決定方法については追って詳細に説明する。
【0025】
速度制御部140で決定された目標駆動力及び目標加速度は、アクチュエータECU300に送信される。アクチュエータECU300は、目標駆動力及び目標加速度を実現するように、制駆動システムの駆動力及び制動力を制御する。制駆動システムは、例えば、制駆動力を制御可能な電気モータ、エンジン、ハイブリッドシステム等の動力装置と、制動力を制御可能な電子ブレーキ制御システムとを含む。
【0026】
ところで、目標速度と実速度との速度誤差が大きくなった場合、環境条件により或いは自動運転システム100の不調により自動運転システム100が自動運転を継続できない状況になっている可能性が有る。そこで、速度制御部140は、目標速度に実速度を追従させるように速度制御を行うと同時に、目標速度と実速度との速度誤差に基づいてハンズオン要求判定及びTD判定を行っている。ハンズオン要求判定は、運転者に対してハンズオンを要求するかどうかの判定である。TD判定は、自動運転システム100から運転者への運転権限移譲の要求(TD)を行うかどうかの判定である。
【0027】
ハンズオン要求判定では、速度制御部140は、速度誤差と所定のハンズオン要求閾値とを比較する。速度誤差がハンズオン要求閾値を越えた場合、速度制御部140、システム状態制御部110に対してハンズオン要求を出力する。TD判定では、速度制御部140は、速度誤差と所定のTD閾値とを比較する。TD閾値は、ハンズオン要求閾値よりも大きい値に設定されている。ゆえに、速度誤差がTD閾値を超えるのは、必ず、速度誤差がハンズオン要求閾値を超えてからとなる。速度誤差がTD閾値を越えた場合、速度制御部140、システム状態制御部110に対してTDを出力する。追って詳細に説明するように、ハンズオン要求閾値及びTD閾値の設定は制御モードに応じて変更される。
【0028】
システム状態通知部150は通知処理を行う。具体的には、システム状態制御部110は、速度制御部140からハンズオン要求を受け取ると、システム状態通知部150に指令を送信する。システム状態通知部150は、システム状態制御部110からの指令を受けてメータECU200にハンズオン要求通知を出力する。同様に、システム状態制御部110は、速度制御部140からTDを受け取ると、システム状態通知部150に指令を送信する。システム状態通知部150は、システム状態制御部110からの指令を受けてメータECU200にTD通知を出力する。メータECU200は、運転者にシステムの状態を通知する表示器を制御するECUである。
【0029】
1-2.速度制御の制御モードの決定方法
自動運転システム100では、行動計画内容にしたがって目標速度が設定される。例えば、先行車両がいない真っ直ぐな道路では、運転者がセットしたセット車速を目標車速として追従制御が行われる。一方、運転者のセット車速よりも遅い先行車両が存在する場合には、先行車両に追従するように、先行車両の速度を基準にして設定された速度を目標車速として追従制御が行われる。車両10の前方に先行車両が割り込んできた場合にも、割り込んできた先行車両の速度を基準にして目標車速が設定される。また、カーブ路では、カーブ路を安全に走行できるように、運転者のセット車速よりも遅い速度を目標車速として追従制御が行われる場合がある。大別するならば、自動運転システム100の行動計画内容は、運転者がセットしたセット車速に向けて単純に追従制御するという内容(行動計画内容1)と、周辺状況に合わせて変更される目標速度に向けて追従制御するという内容(行動計画内容2)とに分けることができる。
【0030】
図2は、自動運転システム100による速度制御の制御モードの決定方法を示すフローチャートである。ステップS100では、運転者のセット車速への追従制御中かどうか、すなわち、上記の行動計画内容1に従った速度制御の実行中かどうかの判定が行われる。
【0031】
ステップS100の判定の結果、行動計画内容1ではなく、行動計画内容2に従った速度制御が行われる場合、ステップS300が実行される。ステップS300では、速度制御の制御モードとして第1制御モードが選択される。第1制御モードでは、ブレーキの積極的な使用により目標速度に実速度を追従させるように、目標駆動力及び目標加速度が決定される。第1制御モードで速度制御が行われることにより、周辺状況に合わせて変更される目標速度に対して高い速度追従性能を実現することができる。
【0032】
一方、ステップS100の判定の結果、行動計画内容1に従った速度制御が行われている場合、ステップS200が実行される。ステップS200では、さらに、第2制御モードの選択可能条件が成立しているかどうか判定される。行動計画内容1には、第2制御モードの選択可能条件を満たす内容(行動計画内容3)が含まれる。ステップS200では、行動計画内容1が行動計画内容3かどうかの判定が行われる。
【0033】
第2制御モードでは、ブレーキの使用を控えながら目標速度に実速度を追従させるように速度制御が行われる。このため、第2制御モードの選択時には、ブレーキの積極的な使用が行われないことにより、第1制御モードの選択時に比較して目標速度に対する速度追従性能は低下する。それでもなお第2制御モードを選択することにメリットがある場面としては、例えば、車両10が長い降坂路を走行している場面を挙げることができる。長い降坂路では、ブレーキの多用によってブレーキがフェード状態になるおそれがある。しかし、第2制御モードを選択すれば、ブレーキの使用が控えられることで、ブレーキがフェード状態になることを抑えることができる。長い降坂路において運転者のセット車速に向けて単純に追従制御するという内容が行動計画内容3の一例である。
【0034】
ステップS200の判定の結果、第2制御モードの選択可能条件が成立していない場合、すなわち、上記の行動計画内容3に従った速度制御の実行条件が成立していない場合、ステップS300が実行される。ステップS300が実行され、第1制御モードによる速度制御が行われることで、目標速度に対する速度追従性能を無駄に低下させることを防ぐことができる。一方、ステップS200の判定の結果、第2制御モードの選択可能条件が成立した場合、ステップS400が実行される。ステップS400では、速度制御の制御モードとして第2制御モードが選択される。第2制御モードが選択されることで、例えば、車両10が長い降坂路を走行する場合にブレーキがフェード状態になることを抑えることができる。
【0035】
1-3.各制御モードでの閾値の設定
次に、上述のように決定される各制御モードでの閾値の設定について図3及び図4を用いて説明する。図3及び図4には、制御モードが第1制御モードから第2制御モードへ切り替えられ、その後再び第2制御モードから第1制御モードへ切り替えられた場合の速度誤差の時間による変化の例がそれぞれ示されている。ただし、図3に示す速度誤差の時間による変化と、図4に示す速度誤差の時間による変化とは同一である。
【0036】
第2制御モードは第1制御モードに比較して速度追従性能が低下するため、速度誤差が大きくなりやすい。しかしながら、この場合の速度誤差の拡大は、ブレーキがフェード状態になることを抑制するために生じる一時的なものである。よって、速度誤差が拡大したとしても、その程度によっては、自動運転システム100の運転支援機能としては許容範囲内である場合がある。
【0037】
ところが、図3に示すようにハンズオン要求閾値が制御モードに関わらず一定であるとすると、制御モードが第2制御モードのとき、速度誤差が容易にハンズオン要求閾値を越えてしまう可能性がある。この場合、運転者に対して本来必要ではないハンズオン要求通知を頻繁に行うことは、運転者に対して煩わしさを与えてしまうことになりかねない。また、図3に示すようにTD閾値が制御モードに関わらず一定であるとすると、制御モードが第2制御モードのとき、速度誤差が容易にTD閾値を越えてしまう可能性がある。この場合、ハンズオン要求通知で十分であるにも関わらず運転者に対してTD通知を行うことになり、本来必要のない手動運転を運転者に担わせてしまうことになりかねない。
【0038】
図3にて説明した問題を解決するため、第1実施形態では、図4に示すように各閾値が設定されている。まず、ハンズオン要求閾値は、第1制御モードでの値よりも第2制御モードでの値の方を大きくされている。具体的には、第1制御モードでのハンズオン要求閾値はX[kph]に設定されているのに対し、第2制御モードでのハンズオン要求閾値は、第1制御モードよりもα[kph]だけ高い、X+α[kph]に設定されている。
【0039】
TD閾値は、ハンズオン要求閾値よりも大きく、且つ、第1制御モードでの値よりも第2制御モードでの値の方を大きくされている。具体的には、第1制御モードでのTD閾値はY[kph]に設定されているのに対し、第2制御モードでのTD閾値は、第1制御モードよりもβ[kph]だけ高い、Y+β[kph]に設定されている。YはXよりも大きく、Y+βはX+αよりも大きい。
【0040】
このような各閾値の設定により、制御モードが第1制御モードから第2制御モードへ切り替えられた場合、ハンズオン要求閾値とTD閾値とは、それぞれ第1制御モードにおける値よりも高い値に変更される。以下、自動運転システム100で実行されるこの処理を第1閾値変更処理と呼ぶ。詳しくは、第1実施形態の第1閾値変更処理では、各閾値はステップ関数的に増大させられる。また、制御モードが第2制御モードから第1制御モードへ切り替えられた場合、ハンズオン要求閾値とTD閾値は、それぞれ第2制御モードにおける値よりも低い値に変更される。以下、自動運転システム100で実行されるこの処理を第2閾値変更処理と呼ぶ。詳しくは、第1実施形態の第2閾値変更処理では、各閾値はステップ関数的に低下させられる。
【0041】
ハンズオン要求閾値の第2制御モードでの値を第1制御モードでの値よりも大きくしたことにより、第1制御モードから第2制御モードへ切り替わったことで速度誤差が拡大したとしても、速度誤差がハンズオン要求閾値を越えることは抑えられる。これにより、必ずしも必要ではない通知が運転者に対して頻繁に行われることを抑えることができる。また、TD閾値の第2制御モードでの値を第1制御モードでの値よりも大きくしたことで、制御モードが第2制御モードに切り替えられた場合に、ハンズオン要求通知で十分であるにも関わらず運転者に対してTD通知が行われることを抑えることができる。
【0042】
2.第2実施形態
次に、本開示の第2実施形態について説明する。ただし、第2実施形態の車両が備える自動運転システムの構成は、第1実施形態と共通であって、図1のブロック図で表される。また、第2実施形態では、第1実施形態と共通の図2のフローチャートに従い、速度制御の制御モードが決定される。第2実施形態は、各制御モードでの閾値の設定において
第1実施形態と相違している。
【0043】
図5及び図6には、制御モードが第1制御モードから第2制御モードへ切り替えられ、その後再び第2制御モードから第1制御モードへ切り替えられた場合の速度誤差の時間による変化の例がそれぞれ示されている。ただし、図5に示す速度誤差の時間による変化と、図6に示す速度誤差の時間による変化とは同一である。
【0044】
図5に示す閾値の設定は、第1実施形態における閾値の設定である。ハンズオン要求閾値は、第1制御モードでの値よりも第2制御モードでの値の方を大きくされている。TD閾値は、ハンズオン要求閾値よりも大きく、且つ、第1制御モードでの値よりも第2制御モードでの値の方を大きくされている。このような各閾値の設定によれば、第1制御モードから第2制御モードへ切り替わったことで速度誤差が拡大したとしても、速度誤差がハンズオン要求閾値を越えることは抑えられ、さらに、速度誤差がTD閾値を越えることは抑えられる。
【0045】
しかしながら、第2制御モードにおいて拡大した速度誤差は、第1制御モードへ再び切り替えたとしても直ぐに収束するわけではない。このため、図5に示すように、第2制御モードから第1制御モードへの切り替えに応じてハンズオン要求閾値をステップ関数的に低下させた場合、一時的に速度誤差がハンズオン要求閾値を越えてしまい、運転者に対してハンズオン要求通知が行われてしまう。しかし、システム不調などが発生していなければ、第1制御モードへの切り替えから時間が経過することで速度誤差は収束する。よって、第1制御モードへの切り替え直後に速度誤差が生じていたとしても、それが長く続かない限り、ハンズオン要求通知を行うことは控えたい。同様のことは、速度誤差がTD閾値を超えることで行われるTD通知に関しても言える。
【0046】
図5にて説明した課題を解決するため、第2実施形態では、図6に示すように各閾値が設定されている。まず、制御モードが第1制御モードから第2制御モードへ切り替えられた場合、第1閾値変更処理により、ハンズオン要求閾値とTD閾値とは、それぞれ第1制御モードにおける値よりも高い値に変更される。第1実施形態と同じく、第2実施形態の第1閾値変更処理でも、各閾値はステップ関数的に増大させられる。
【0047】
次に、制御モードが第2制御モードから第1制御モードへ再び切り替えられた場合、第2閾値変更処理により、ハンズオン要求閾値とTD閾値は、それぞれ第2制御モードにおける値よりも低い値に戻される。ただし、第1実施形態の第2閾値変更処理では、各閾値はステップ関数的に低下させられるのに対し、第2実施形態の第2閾値変更処理では、所定の閾値徐変期間をかけて各閾値は徐々に低下させられる。
【0048】
第2制御モードから第1制御モードへの切り替え後、第2制御モードにおいて増大した速度誤差が収束するまでにはある程度の時間を要する。第2実施形態では、第2制御モードから第1制御モードへの切り替え後、ハンズオン要求閾値を徐々に低下させていくことで、一時的に増大している速度誤差がハンズオン要求閾値を越えることは抑えられる。これにより、必ずしも必要ではないハンズオン要求通知が運転者に対して頻繁に行われることを抑えることができる。また、第1制御モードへの切り替え後、TD閾値を徐々に低下させていくことで、第1制御モードへの切り替え後も速度誤差が増大している場合において、ハンズオン要求通知で十分であるにも関わらず運転者に対してTD通知が行われることを抑えることができる。
【0049】
3.第3実施形態
次に、本開示の第3実施形態について説明する。ただし、第3実施形態の車両が備える自動運転システムの構成は、第1実施形態と共通であって、図1のブロック図で表される。また、第3実施形態では、第1実施形態と共通の図2のフローチャートに従い、速度制御の制御モードが決定される。第3実施形態は、各制御モードでの閾値の設定において
第1実施形態と相違し第2実施形態とも相違している。
【0050】
図7及び図8には、制御モードが第1制御モードから第2制御モードへ切り替えられ、その後再び第2制御モードから第1制御モードへ切り替えられた場合の速度誤差の時間による変化の例がそれぞれ示されている。ただし、図7に示す速度誤差の時間による変化と、図8に示す速度誤差の時間による変化とは同一である。
【0051】
図7に示す閾値の設定は、第2実施形態における閾値の設定である。ハンズオン要求閾値は、第1制御モードでの値よりも第2制御モードでの値の方を大きくされている。TD閾値は、ハンズオン要求閾値よりも大きく、且つ、第1制御モードでの値よりも第2制御モードでの値の方を大きくされている。このような各閾値の設定によれば、第1制御モードから第2制御モードへ切り替わったことで速度誤差が拡大したとしても、速度誤差がハンズオン要求閾値を越えることは抑えられ、さらに、速度誤差がTD閾値を越えることは抑えられる。
【0052】
しかしながら、第1制御モードの段階で既に速度誤差がハンズオン要求閾値を越えており、ハンズオン要求通知が行われている状態で第1制御モードから第2制御モードへの切り替えが行われる場合がありうる。その場合、第1制御モードから第2制御モードへの切り替えに応じてハンズオン要求閾値をステップ関数的に増大させた場合、速度誤差はハンズオン要求閾値内に収まってしまい、ハンズオン要求通知が解除されてしまう。第1制御モードの段階で運転者に対して行われていたハンズオン要求通知は、システム不調等に起因する必要なハンズオン要求通知であることから、それが第2制御モードへの切り替えによって解除されることは好ましくはない。同様のことは、速度誤差がTD閾値を超えることで行われるTD通知に関しても言える。
【0053】
図7にて説明した課題を解決するため、第3実施形態では、図8に示すように各閾値が設定されている。まず、制御モードが第1制御モードから第2制御モードへ切り替えられた場合、第1閾値変更処理により、ハンズオン要求閾値とTD閾値とは、それぞれ第1制御モードにおける値よりも高い値に変更される。ただし、第1実施形態及び第2実施形態の第1閾値変更処理では、各閾値はステップ関数的に増大させられるのに対し、第3実施形態の第1閾値変更処理では、所定の閾値徐変期間をかけて各閾値は徐々に増大させられる。
【0054】
次に、制御モードが第2制御モードから第1制御モードへ再び切り替えられた場合、第2閾値変更処理により、ハンズオン要求閾値とTD閾値とは、それぞれ第2制御モードにおける値よりも低い値に戻される。第2実施形態と同じく、第3実施形態の第2閾値変更処理でも、所定の閾値徐変期間をかけて各閾値は徐々に低下させられる。
【0055】
第1制御モードでの速度制御時に生じた速度誤差は、それが一時的なものではなくシステム不調によるものである場合、第2制御モードから第1制御モードへの切り替え後も継続して発生する。速度誤差がシステム不調によるものである場合、運転者に対してハンズオン要求通知を行い、自動運転から手動運転への切り替えに備えてもらうことが好ましい。第3実施形態では、第1制御モードから第2制御モードへの切り替え後、ハンズオン要求閾値を徐々に増大させていくことで、速度誤差がハンズオン要求閾値を越えている期間、すなわち、運転者に対してハンズオン要求通知が行われる期間が延長される。これにより、運転者がハンズオン要求通知に気付きやすくなり、運転者は手動運転への切り替えに備えることができる。また、第2制御モードへの切り替え後、TD閾値を徐々に増大させていくことで、第2制御モードへの切り替え直前までTD通知が行われている場合において、運転者に対してTD通知が行われる期間が延長される。これにより、運転者がTD通知に気付きやすくなり、自動運転システム100から運転者への運転権限の移譲を速やかに行うことができるようになる。
【0056】
なお、第1制御モードから第2制御モードへの切り替え後に各閾値を徐々に増大させる場合、閾値徐変期間内に再び第1制御モードへ切り替えられる場合がある。そのような場合には、例えば、図9に示すように各閾値を変化させればよい。第1制御モードから第2制御モードへ切り替えられた時点では、次にいつ第1制御モードへ戻されるかは不明である。このため、所定の閾値徐変期間をかけてX[kph]からX+α[kph]まで増大させる速度でハンズオン要求閾値を変化させていく。また、所定の閾値徐変期間をかけてY[kph]からY+β[kph]まで増大させる速度でTD閾値を変化させていく。そして、閾値徐変期間内で第2制御モードから第1制御モードへ切り替えられた場合、その時点から所定の閾値徐変期間をかけてX[kph]までハンズオン要求閾値を低下させるとともに、所定の閾値徐変期間をかけてY[kph]までTD閾値を低下させる。
【0057】
4.その他の実施形態
各閾値の設定として、第1閾値変更処理では、第3実施形態と同じく所定の閾値徐変期間をかけて各閾値を徐々に増大させ、第2閾値変更処理では、第1実施形態と同じくステップ関数的に各閾値を低下させてもよい。
【0058】
また、上述の実施形態では、第2制御モードが選択される場面として長い降坂路を例示したが、それ以外の場面で第2制御モードが選択されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 車両
100 自動運転システム
102 プロセッサ
104 メモリ
106 プログラム
110 システム状態制御部
120 周辺認識部
130 行動計画生成部
140 速度制御部
150 システム状態通知部
200 メータECU
300 アクチュエータECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9