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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】電池測定装置及び電池状態測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/389 20190101AFI20240709BHJP
   G01R 27/02 20060101ALI20240709BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20240709BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20240709BHJP
   G01R 19/165 20060101ALI20240709BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G01R31/389
G01R27/02 A
G01R31/387
G01R31/392
G01R19/165 M
H01M10/48 P
H01M10/48 301
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021097229
(22)【出願日】2021-06-10
(65)【公開番号】P2022188935
(43)【公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】北川 昌明
(72)【発明者】
【氏名】石部 功
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-41581(JP,A)
【文献】特開2021-22473(JP,A)
【文献】特開2006-322857(JP,A)
【文献】特開2019-86474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
G01R 27/02
G01R 19/00
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池(42)の状態を測定する電池測定装置(50)において、
前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路(81)上に設けられ、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御部(56d)と、
前記第1電気経路とは異なる第2電気経路(82)上に設けられ、当該第2電気経路を介して、前記第1電気経路に流れる前記交流信号を測定する交流信号測定部(56c)と、
前記交流信号に対する前記蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部(52)と、
前記交流信号及び前記応答信号に基づいて前記蓄電池の複素インピーダンスに関する情報を算出する演算部(53)と、を備え、
前記第2電気経路により囲まれた領域であって、前記第1電気経路に流れる交流信号に基づく磁束が通過する磁束通過領域(S10)が形成されており、
前記第1電気経路に流れる交流信号に基づいて前記第2電気経路に生じる誘導起電力由来の前記複素インピーダンスの誤差が、±1mΩの範囲内となるように前記磁束通過領域の大きさが設定されている電池測定装置。
【請求項2】
前記交流信号測定部は、前記第1電気経路上に設けられた抵抗体(56b)を用いて前記交流信号を測定しており、
前記第1電気経路に流れる交流信号に基づいて前記第2電気経路に生じる誘導起電力又は当該誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が、前記±1mΩの範囲内となるように前記抵抗体の抵抗値及び前記磁束通過領域の大きさが設定されている請求項1に記載の電池測定装置。
【請求項3】
前記第1電気経路に流れる交流信号に基づいて前記第2電気経路に生じる誘導起電力又は当該誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が、前記±1mΩの範囲内となるように前記抵抗体の抵抗値と前記磁束通過領域の大きさとの比が設定されている請求項に記載の電池測定装置。
【請求項4】
前記蓄電池の電池容量が25Ah~800Ahであって、電池温度が-10℃~65℃である場合において、前記磁束通過領域の大きさは、前記第1電気経路に流れる交流信号に基づいて前記第2電気経路に生じる誘導起電力由来の前記複素インピーダンスの誤差が、±170μΩの範囲内となるように設定されている請求項1~3のうちいずれか1項に記載の電池測定装置。
【請求項5】
前記交流信号測定部は、前記第1電気経路上に設けられた抵抗体(56b)を用いて前記交流信号を測定しており、
前記第2電気経路は、前記抵抗体の両端のうち、第1端と前記交流信号測定部とを接続する第1検出線(82a)と、第2端と前記交流信号測定部とを接続する第2検出線(82b)と、を有し、
前記第1検出線は、前記第2検出線に対して1又は複数回交差するように配線されている請求項1~のうちいずれか1項に記載の電池測定装置。
【請求項6】
蓄電池(42)の状態を測定する電池測定装置(50)において、
前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路(81)上に設けられ、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御部(56d)と、
前記第1電気経路とは異なる第2電気経路(82)上に設けられ、当該第2電気経路を介して、前記第1電気経路に流れる前記交流信号を測定する交流信号測定部(56c)と、
前記交流信号に対する前記蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部(52)と、
前記交流信号及び前記応答信号に基づいて前記蓄電池の複素インピーダンスに関する情報を算出する演算部(53)と、を備え、
前記第2電気経路により囲まれた領域であって、前記第1電気経路に流れる交流信号に基づく磁束が通過する磁束通過領域(S10)が形成されており、
前記第1電気経路に流れる交流信号に基づいて前記第2電気経路に生じる誘導起電力がゼロを含む起電力許容値範囲内となるように、前記磁束通過領域の大きさが設定されており、
前記交流信号測定部は、前記第1電気経路上に設けられた抵抗体(56b)を用いて前記交流信号を測定しており、
前記第2電気経路は、前記抵抗体の両端のうち、第1端と前記交流信号測定部とを接続する第1検出線(82a)と、第2端と前記交流信号測定部とを接続する第2検出線(82b)と、を有し、
前記第1検出線は、前記第2検出線に対して1又は複数回交差するように配線されている電池測定装置。
【請求項7】
前記交流信号測定部は、前記第1電気経路上に設けられた抵抗体(56b)を用いて前記交流信号を測定しており、
前記交流信号の周波数をωrとし、前記第1電気経路及び前記第2電気経路間の相互インダクタンスをMIとし、前記抵抗体の抵抗値をRsとする場合、ωr×MI/Rsを用いて前記演算部により算出される複素インピーダンスを補正する補正部(53)を備える請求項1~6のうちいずれか1項に記載の電池測定装置。
【請求項8】
蓄電池(42)の状態を測定する電池測定装置(50)において、
前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路(81)上に設けられ、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御部(56d)と、
前記第1電気経路とは異なる第2電気経路(82)上に設けられ、当該第2電気経路を介して、前記第1電気経路に流れる前記交流信号を測定する交流信号測定部(56c)と、
前記交流信号に対する前記蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部(52)と、
前記交流信号及び前記応答信号に基づいて前記蓄電池の複素インピーダンスに関する情報を算出する演算部(53)と、を備え、
前記交流信号測定部は、前記第1電気経路上に設けられた抵抗体(56b)を用いて前記交流信号を測定しており、
前記交流信号の周波数をωrとし、前記第1電気経路及び前記第2電気経路間の相互インダクタンスをMIとし、前記抵抗体の抵抗値をRsとする場合、ωr×MI/Rsを用いて前記演算部により算出される複素インピーダンスを補正する補正部(53)を備える電池測定装置。
【請求項9】
前記第1電気経路と前記第2電気経路とを固定する固定部材(83)が設けられている請求項1~8のうちいずれか1項に記載の電池測定装置。
【請求項10】
蓄電池(42)の状態を測定する電池測定装置(50)が実行する電池状態測定方法において、
前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路を介して、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御工程と、
前記第1電気経路とは異なる第2電気経路を介して、前記第1電気経路に流れる前記交流信号を測定する交流信号測定工程と、
前記交流信号に対する前記蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力工程と、
前記交流信号及び前記応答信号に基づいて前記蓄電池の複素インピーダンスに関する情報を算出する演算工程と、を備え、
前記交流信号測定工程では、前記第1電気経路上に設けられた抵抗体を用いて前記交流信号を測定しており、
前記交流信号の周波数をωrとし、前記第1電気経路及び前記第2電気経路間の相互インダクタンスをMIとし、前記抵抗体の抵抗値をRsとする場合、ωr×MI/Rsを用いて前記演算工程で算出される複素インピーダンスを補正する補正工程を備える電池状態測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池測定装置及び電池状態測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、蓄電池の状態を測定するため、蓄電池の複素インピーダンスを測定することが行われていた(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の発明では、パワーコントローラにより、蓄電池に対して矩形波信号などの交流信号を印加してその応答信号を測定し、交流信号と応答信号とに基づいて複素インピーダンス特性を算出していた。そして、この複素インピーダンス特性を基に、蓄電池の劣化状態などを判別していた。
【0003】
また、特許文献2では、発振器から正弦波電流などの交流信号を蓄電池に流し、その応答信号(電圧変動)をロックインアンプにより検出し、交流信号と応答信号とに基づいて、複素インピーダンス特性を算出していた。そして、この複素インピーダンス特性を基に、蓄電池の劣化状態などを判別していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6226261号公報
【文献】特開2018-190502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電気自動車等に使用される蓄電池は、大容量化していく傾向があった。大容量の蓄電池の場合、複素インピーダンスが小さくなり、外部の影響を受けやすいという問題がある。例えば、蓄電池に対して交流信号を流す場合、当該交流信号による磁束変化によって、交流信号を測定するための電気経路において誘導起電力が生じる。これにより、測定される交流信号に測定誤差が生じ、その交流信号を用いて算出される複素インピーダンスにも測定誤差が生じるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、複素インピーダンスの測定精度を向上させることができる電池測定装置及び電池状態測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の手段は、蓄電池の状態を測定する電池測定装置において、前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路上に設けられ、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御部と、前記第1電気経路とは異なる第2電気経路上に設けられ、当該第2電気経路を介して、前記第1電気経路に流れる前記交流信号を測定する交流信号測定部と、前記交流信号に対する前記蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部と、前記交流信号及び前記応答信号に基づいて前記蓄電池の複素インピーダンスに関する情報を算出する演算部と、を備え、前記第2電気経路により囲まれた領域であって、前記第1電気経路に流れる交流信号に基づく磁束が通過する磁束通過領域が形成されており、前記第1電気経路に流れる交流信号に基づいて前記第2電気経路に生じる誘導起電力由来の前記複素インピーダンスの誤差が、±1mΩの範囲内となるように前記磁束通過領域の大きさが設定されている。
【0008】
第1電気経路に流れる交流信号が、第1電気経路とは異なる第2電気経路を介して測定される場合、第1電気経路に流れる交流信号に基づいて第2電気経路に誘導起電力が生じて、交流信号に測定誤差が生じ、これにより、算出される複素インピーダンスの誤差が生じる。
【0009】
ここで、第2電気経路により囲まれる磁束通過領域の大きさにより、第2電気経路に生じる誘導起電力の大きさを変更可能であることを発見した。そこで、本発明では、第1電気経路に流れる交流信号に基づいて第2電気経路に生じる誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が、±1mΩの範囲内となるように、磁束通過領域の大きさを設定した。これにより、誘導起電力に基づく複素インピーダンスの誤差を抑制することができる。
【0010】
第2の手段は、蓄電池の状態を測定する電池測定装置において、前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路上に設けられ、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御部と、前記第1電気経路とは異なる第2電気経路上に設けられ、当該第2電気経路を介して、前記第1電気経路に流れる前記交流信号を測定する交流信号測定部と、前記交流信号に対する前記蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部と、前記交流信号及び前記応答信号に基づいて前記蓄電池の複素インピーダンスに関する情報を算出する演算部と、を備え、前記第2電気経路により囲まれた領域であって、前記第1電気経路に流れる交流信号に基づく磁束が通過する磁束通過領域が形成されており、前記第1電気経路に流れる交流信号に基づいて前記第2電気経路に生じる誘導起電力がゼロを含む起電力許容値範囲内となるように、前記磁束通過領域の大きさが設定されている。
【0011】
第1電気経路に流れる交流信号が、第1電気経路とは異なる第2電気経路を介して測定される場合、第1電気経路に流れる交流信号に基づいて第2電気経路に誘導起電力が生じて、交流信号に測定誤差が生じ、これにより、算出される複素インピーダンスの誤差が生じる。
【0012】
ここで、第2電気経路により囲まれる磁束通過領域の大きさにより、第1電気経路に流れる交流信号に基づいて第2電気経路に生じる誘導起電力の大きさを変更可能であることを発見した。そこで、本発明では、誘導起電力がゼロを含む起電力許容値範囲内となるように、磁束通過領域の大きさを設定した。これにより、誘導起電力に基づく複素インピーダンスの誤差を抑制することができる。
【0013】
第3の手段は、蓄電池の状態を測定する電池測定装置において、前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路上に設けられ、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御部と、前記第1電気経路とは異なる第2電気経路上に設けられ、当該第2電気経路を介して、前記第1電気経路に流れる前記交流信号を測定する交流信号測定部と、前記交流信号に対する前記蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部と、前記交流信号及び前記応答信号に基づいて前記蓄電池の複素インピーダンスに関する情報を算出する演算部と、を備え、前記交流信号測定部は、前記第1電気経路上に設けられた抵抗体を用いて前記交流信号を測定しており、前記交流信号の周波数をωrとし、前記第1電気経路及び前記第2電気経路間の相互インダクタンスをMIとし、前記抵抗体の抵抗値をRsとする場合、ωr×MI/Rsを用いて前記演算部により算出される複素インピーダンスを補正する補正部を備える。
【0014】
第1電気経路に流れる交流信号が、第1電気経路とは異なる第2電気経路を介して測定される場合、第1電気経路に流れる交流信号に基づいて第2電気経路に誘導起電力が生じて、交流信号に測定誤差が生じ、これにより、算出される複素インピーダンスの誤差が生じる。
【0015】
ここで、交流信号の周波数をωrとし、第1電気経路及び第2電気経路間の相互インダクタンスをMIとし、抵抗体の抵抗値をRsとする場合、第1電気経路に流れる交流信号に基づいて第2電気経路に生じる誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差は、ωr×MI/Rsを用いて表され、ωr×MI/Rsにより複素インピーダンスの誤差を補正することができる。交流信号の周波数ωrは交流信号の測定時に測定可能であり、抵抗体の抵抗値は設定値である。また、相互インダクタンスは、磁束通過領域の大きさ等を用いたシミュレーションにより算出することができる。そのため、これらの値を用いてωr×MI/Rsを算出することができ、ωr×MI/Rsを用いて複素インピーダンスを補正することで、複素インピーダンスの誤差を抑制することができる。
【0016】
第4の手段は、蓄電池の状態を測定する電池測定装置が実行する電池状態測定方法において、前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路を介して、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御工程と、前記第1電気経路とは異なる第2電気経路を介して、前記第1電気経路に流れる前記交流信号を測定する交流信号測定工程と、前記交流信号に対する前記蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力工程と、前記交流信号及び前記応答信号に基づいて前記蓄電池の複素インピーダンスに関する情報を算出する演算工程と、を備え、前記交流信号測定工程では、前記第1電気経路上に設けられた抵抗体を用いて前記交流信号を測定しており、前記交流信号の周波数をωrとし、前記第1電気経路及び前記第2電気経路間の相互インダクタンスをMIとし、前記抵抗体の抵抗値をRsとする場合、ωr×MI/Rsを用いて前記演算部により算出される複素インピーダンスを補正する補正工程を備える。
【0017】
第4の手段においても、第3の手段と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】電源システムの概略構成図。
図2】第1実施形態における電池測定装置の構成図。
図3】第1実施形態における第1電気経路及び第2電気経路の接続状態を示す構成図。
図4】第1実施形態における電池測定装置と電池セルとの接続態様を示す構成図。
図5】インピーダンス測定精度と電池容量の関係を示す説明図。
図6】第1実施形態の変形例2における電池測定装置と電池セルとの接続態様を示す構成図。
図7】第1実施形態の変形例2における第1電気経路を示す説明図。
図8】インピーダンス補正処理のフローチャート。
図9】その他の実施形態における第1電気経路及び第2電気経路の接続状態を示す構成図。
図10】その他の実施形態における第1電気経路及び第2電気経路の接続状態を示す構成図。
図11】その他の実施形態における制御ユニットの接続状態を示す構成図。
図12】その他の実施形態における第1電気経路及び第2電気経路の接続状態を示す構成図。
図13】その他の実施形態における測定ユニットの接続状態を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、「電池測定装置」を車両(例えば、ハイブリッド車や電気自動車)の電源システムに適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1に示すように、電源システム10は、回転電機としてのモータ20と、モータ20に対して3相電流を流す電力変換器としてのインバータ30と、充放電可能な組電池40と、組電池40の状態を測定する電池測定装置50と、モータ20などを制御するECU60と、を備えている。
【0021】
モータ20は、車載主機であり、図示しない駆動輪と動力伝達可能とされている。本実施形態では、モータ20として、3相の永久磁石同期モータを用いている。
【0022】
インバータ30は、相巻線の相数と同数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、各アームに設けられたスイッチ(半導体スイッチング素子)のオンオフにより、各相巻線において通電電流が調整される。
【0023】
インバータ30には、図示しないインバータ制御装置が設けられており、インバータ制御装置は、モータ20における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、インバータ30における各スイッチのオンオフにより通電制御を実施する。これにより、インバータ制御装置は、組電池40からインバータ30を介してモータ20に電力を供給し、モータ20を力行駆動させる。また、インバータ制御装置は、駆動輪からの動力に基づいてモータ20を発電させ、インバータ30を介して、発電電力を変換して組電池40に供給し、組電池40を充電させる。本実施形態において、インバータ30における各スイッチは、IGBTである。
【0024】
組電池40は、インバータ30を介して、モータ20に電気的に接続されている。組電池40は、例えば百V以上となる端子間電圧を有し、複数の電池モジュール41が直列接続されて構成されている。電池モジュール41は、複数の電池セル42が直列接続されて構成されている。電池セル42として、例えば、リチウムイオン蓄電池や、ニッケル水素蓄電池を用いることができる。
【0025】
組電池40の正極側電源端子に接続される正極側電源経路L1には、インバータ30等の電気負荷の正極側端子が接続されている。同様に、組電池40の負極側電源端子に接続される負極側電源経路L2には、インバータ30等の電気負荷の負極側端子が接続されている。なお、正極側電源経路L1及び負極側電源経路L2には、それぞれリレースイッチSMR(システムメインリレースイッチ)が設けられており、リレースイッチSMRにより、通電及び通電遮断が切り替え可能に構成されている。
【0026】
電池測定装置50は、各電池セル42の蓄電状態(SOC)及び劣化状態(SOH)などを測定する装置である。第1実施形態において電池測定装置50は、電池モジュール41毎に設けられている。電池測定装置50は、ECU60に接続されており、各電池セル42の状態などを出力する。電池測定装置50の構成については、後述する。
【0027】
ECU60は、各種情報に基づいて、インバータ制御装置に対して力行駆動及び発電の要求を行う。各種情報には、例えば、アクセル及びブレーキの操作情報、車速、組電池40の状態などが含まれる。
【0028】
次に、電池測定装置50について詳しく説明する。図2に示すように、第1実施形態では、電池セル42毎に電池測定装置50が設けられている。
【0029】
電池測定装置50は、ASIC部50aと、フィルタ部55と、電流モジュレーション回路56と、を備えている。ASIC部50aは、安定化電源供給部51と、入出力部52と、演算部としてのマイコン部53と、通信部54と、を備えている。
【0030】
安定化電源供給部51は、電池セル42の電源ラインに接続されており、電池セル42から供給された電力を入出力部52、マイコン部53、及び通信部54に対して供給している。入出力部52、マイコン部53、及び通信部54は、この電力に基づいて駆動する。
【0031】
入出力部52は、測定対象とする電池セル42に対して接続されている。具体的に説明すると、入出力部52は、電池セル42から直流電圧を入力(測定)可能な直流電圧入力端子57を有する。電池セル42と直流電圧入力端子57との間には、フィルタ部55が設けられている。すなわち、直流電圧入力端子57の正極側端子57aと、負極側端子57bとの間には、フィルタ回路としてのRCフィルタ55a、及び保護素子としてのツェナーダイオード55bなどが設けられている。つまり、電池セル42に対して、RCフィルタ55aやツェナーダイオード55bなどが並列に接続されている。
【0032】
また、入出力部52は、電池セル42の端子間において、電池セル42の内部複素インピーダンス情報を反映した応答信号(電圧変動)を入力するための応答信号入力端子58を有する。このため、入出力部52は、応答信号入力部として機能する。
【0033】
また、入出力部52は、電流モジュレーション回路56に接続されており、電流モジュレーション回路56に対して、電池セル42から出力させる正弦波信号(交流信号)を指示する指示信号を出力する指示信号出力端子59aを有する。また、入出力部52は、フィードバック信号入力端子59bを有する。フィードバック信号入力端子59bは、電流モジュレーション回路56を介して、電池セル42から実際に流れる電流信号(交流信号)を、フィードバック信号として入力する。
【0034】
また、入出力部52は、マイコン部53に接続されており、直流電圧入力端子57が入力した直流電圧や、応答信号入力端子58が入力した応答信号、フィードバック信号入力端子59bが入力したフィードバック信号などをマイコン部53に対して出力するように構成されている。なお、入出力部52は、内部にAD変換器を有しており、入力したアナログ信号をデジタル信号に変換してマイコン部53に出力するように構成されている。
【0035】
また、入出力部52は、マイコン部53から指示信号を入力するように構成されており、指示信号出力端子59aから、電流モジュレーション回路56に対して指示信号を出力するように構成されている。なお、入出力部52は、内部にDA変換器を有しており、マイコン部53から入力したデジタル信号をアナログ信号に変換して、電流モジュレーション回路56に対して指示信号を出力するように構成されている。また、電流モジュレーション回路56に指示信号により指示される正弦波信号は、直流バイアスがかけられており、正弦波信号が負の電流(電池セル42に対して逆流)とならないようになっている。
【0036】
電流モジュレーション回路56は、測定対象である電池セル42を電源として、所定の正弦波信号を出力させる回路である。具体的に説明すると、電流モジュレーション回路56は、スイッチ部としての半導体スイッチ素子56a(例えば、MOSFET)と、半導体スイッチ素子56aに直列に接続された抵抗体としての抵抗56b(シャント抵抗)とを有する。半導体スイッチ素子56aのドレイン端子は、電池セル42の正極に接続され、半導体スイッチ素子56aのソース端子は、抵抗56bの一端に直列に接続されている。また、抵抗56bの他端は、電池セル42の負極に接続されている。半導体スイッチ素子56aは、ドレイン端子とソース端子との間において、通電量を調整可能に構成されている。
【0037】
また、電流モジュレーション回路56には、抵抗56bの両端に接続された電流検出アンプ56cが設けられている。交流信号測定部としての電流検出アンプ56cは、抵抗56bに流れる電流信号を測定し、電流信号をフィードバック信号として、入出力部52のフィードバック信号入力端子59bに出力するように構成されている。
【0038】
また、電流モジュレーション回路56には、フィードバック回路56dが設けられている。信号制御部としてのフィードバック回路56dは、入出力部52の指示信号出力端子59aから、指示信号を入力するとともに、電流検出アンプ56cからフィードバック信号を入力するように構成されている。そして、指示信号とフィードバック信号とを比較し、その結果を半導体スイッチ素子56aのゲート端子に出力するように構成されている。以下、電流モジュレーション回路56のうち、電流検出アンプ56c(電流センスアンプ)とフィードバック回路56dとを、測定制御部56eと呼ぶ。
【0039】
半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dからの信号に基づいて、指示信号により指示された正弦波信号を電池セル42から出力させるように、ゲート・ソース間に印加する電圧を調整して、ドレイン・ソース間の電流量を調整する。なお、指示信号により指示される波形と、実際に抵抗56bに流れる波形との間に誤差が生じている場合、半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dからの信号に基づいて、その誤差が補正されるように、電流量を調整する。これにより、抵抗56bに流れる正弦波信号が安定化する。
【0040】
マイコン部53は、応答信号及び電流信号に基づいて、電池セル42の複素インピーダンスに関する情報を算出する。つまり、マイコン部53は、応答信号及び電流信号に基づいて、複素インピーダンスの実部、複素インピーダンスの虚部を算出する。マイコン部53は、通信部54を介して、算出結果をECU60に出力する。
【0041】
この複素インピーダンスの算出処理は、測定範囲内の複数の周波数についての複素インピーダンスが算出されるまで繰り返し実行される。ECU60は、算出結果に基づいて、例えば、複素インピーダンス平面プロット(コールコールプロット)を作成し、電極及び電解質などの特性を把握する。例えば、ECU60は、蓄電状態(SOC)や劣化状態(SOH)を把握する。
【0042】
なお、コールコールプロット全体を必ずしも作成する必要はなく、その一部に着目してもよい。例えば、走行時、一定の時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOC、SOH及び電池温度等の走行時における変化を把握してもよい。または、1日毎、1周ごと、若しくは1年ごとといった時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOH等の変化を把握してもよい。
【0043】
ところで、電流モジュレーション回路56が、第1電気経路81を介して交流信号(正弦波信号)を電池セル42から出力させると、交流信号に基づく誘導起電力が第2電気経路82に生じる。ここで、第1電気経路81は、電流モジュレーション回路56のうち、半導体スイッチ素子56a及び抵抗56bの直列接続体と、電池セル42とを結ぶ電気経路であり、この直列接続体を介して、電池セル42の正極と負極との間を結ぶ。また、第2電気経路82は、抵抗56bと電流検出アンプ56cとを結ぶ電気経路であり、第1電気経路81と異なる(独立している)。電流検出アンプ56cは、第2電気経路82を介して、第1電気経路81に流れる電流信号を測定する。
【0044】
第2電気経路82に交流信号に基づく誘導起電力が生じると、測定される電流信号(フィードバック信号)に測定誤差が生じることとなる。そこで、誘導起電力を低減させるべく、電池測定装置50を構成している。
【0045】
ここで、誘導起電力を低減するための構成を説明する前に、誘導起電力が発生する原理と、それを抑制するための原理について説明する。図3は、第1電気経路81と、第2電気経路82と、電池セル42の内部複素インピーダンスの等価回路モデルを示した図である。この等価回路モデルでは、電池セル42の内部複素インピーダンスは、オーミック抵抗42aと反応抵抗42bとの直列接続体により構成されている。オーミック抵抗42aは、電池セル42を構成する電極や電解液での通電抵抗である。また、反応抵抗42bは、電極における電極界面反応による抵抗を表すものであり、抵抗成分と容量成分との並列接続体として表される。
【0046】
数式(1)にファラデーの法則を示す。なお、「E(x,t)」は、電場ベクトルを示し、「L」は、線積分の経路を示す。「B(x,t)」は、磁束密度ベクトルを示す。「S」は、左辺の線積分の経路によって囲まれる部分によって閉じる領域を示す。「n」は、「S」上の点の法線ベクトルを示す。「x」は、電流素片からの位置を示すベクトルであり、「t」は、時間を示す。つまり、電場ベクトル「E(x,t)」と磁束密度ベクトル「B(x,t)」は、場所と時間に依存する値である。「Vi(t)」は、誘導起電力を示す。
【0047】
第1実施形態においては、「E(x,t)」は、第2電気経路82における電場ベクトルを示し、「L」は第2電気経路82の経路を示す。「B(x,t)」は、第1電気経路81に流れる交流信号に基づく磁束が、第2電気経路82、抵抗56b、及び測定制御部56e(電流検出アンプ56c)により囲まれた領域である磁束通過領域S10を通過する磁束密度ベクトルを示す。「S」は磁束通過領域S10の面を表す。「x」は、第1電気経路81に設定された電流素片からの位置を示すベクトルである。「Vi(t)」は、第2電気経路82において生じる誘導起電力を示す。
【数1】
【0048】
ファラデーの法則によれば、第2電気経路82等により囲まれた磁束通過領域S10を小さくすれば、誘導起電力を小さくすることができることがわかる。そこで、磁束通過領域S10の大きさを極力小さくするように以下のような構成にした。
【0049】
図4は、本実施形態における電池測定装置50と電池セル42との接続態様を示す構成図である。図4に示すように、第2電気経路82は、抵抗56bの両端のうち、第1端と測定制御部56eとを接続する第1検出線82aと、第2端と測定制御部56eとを接続する第2検出線82bとを有している。
【0050】
第1検出線82aは、予め決められた分岐点Brまで第2検出線82bに沿って配線されている。すなわち、極力隙間がないように第1検出線82aと第2検出線82bとが平行に配線されている。分岐点Brは、抵抗56bに近接配置されている。また、分岐点Brは、抵抗56bの第1端と第2端とが並ぶ並列方向において、第1端と第2端との間に配置されている。そして、分岐点Brにおいて第1検出線82aは第2検出線82bと分離している。
【0051】
図4において、測定制御部56eから分岐点Brまでの第1検出線82aと第2検出線82bとは、抵抗56bの第1端と第2端とが並ぶ並列方向に直交して配線されているが、第1検出線82aと第2検出線82bとが沿って配線されるのであれば、どのように配線されていてもよい。また、第1検出線82aと第2検出線82bとが沿って配線される際、直線状に配線する必要はなく、同じように曲がるのであれば、任意に曲がっていてもよい。なお、第1検出線82aと第2検出線82bとはそれぞれ絶縁被膜により覆われている。もしくは、第1検出線82aと第2検出線82bとの間には、互いの絶縁を確保することができる程度の隙間が設けられている。
【0052】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0053】
第2電気経路82、抵抗56b、及び測定制御部56e(電流検出アンプ56c)により囲まれた領域は、第1電気経路81上に流れる交流信号に基づく磁束が通過する磁束通過領域S10となっている。第2電気経路82において発生する誘導起電力の大きさは、この磁束通過領域S10における磁束の大きさ(より正確には磁束の時間変化量の大きさ)に応じたものとなっている。
【0054】
そこで、第2電気経路82において発生する誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が、±1mΩの範囲内となるように磁束通過領域S10の大きさを設定するようにした。これにより、第2電気経路82に交流信号に基づく誘導起電力が生じることを抑制することができ、誘導起電力に基づく複素インピーダンスの誤差を抑制することができる。
【0055】
ここで、より望ましい範囲について説明する。図5に、電池セル42の電池容量(Ah)と、必要とされるインピーダンス値測定精度との関係を図示している。必要とされるインピーダンス値測定精度とは、ゼロクロス点を求めるために必要な精度のことを指す。なお、図5(a)~図5(d)に示すように、電池セル42の電池温度(℃)によって、必要とされるインピーダンス値測定精度が変化することがわかる。したがって、図5によれば、電池容量が25Ah~800Ahであって、電池温度が-10℃~65℃である場合、磁束通過領域S10の大きさは、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が、±170μΩの範囲内となるように設定されるのであれば、上記の電池容量の範囲及び電池温度の範囲において、必要とされるインピーダンス値測定精度を満たすことができる。
【0056】
ここで、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差を特定する方法を説明する。
【0057】
数式(2)に電流信号Isを算出するための計算式を示す。なお、「Im」は、第1電気経路81に実際に流れる電流信号を示す。「j」は、虚数単位を示す。「ωr」は、電流信号Isが測定される際の交流信号の周波数である測定周波数を示す。「ΣI」は、第2電気経路82に生じる誘導起電力由来のパラメータである形状パラメータを示す。形状パラメータΣIは、第2電気経路82の大きさに比例する。
【0058】
数式(2)の中央の式において、分子の第1項は、第1電気経路81に実際に流れる電流信号Imによる電圧降下を示し、分子の第2項は、第2電気経路82に生じる誘導起電力を示す。また、数式(2)の右側の式において、カッコ内の式の第2項は、「Im」を「1」とした場合における誘導起電力由来の測定誤差を示す。数式(2)の右側の式におけるカッコ内の式は、位相θを用いて、下記の数式(3)のように表され、位相θは、下記の数式(4)のように表される。
【数2】
【数3】
【数4】
【0059】
数式(2)を用いて、マイコン部53により算出される複素インピーダンスZmの計算式は、数式(5)のように表される。なお、「Vs」は、電池セル42の端子間電圧のうち直流電圧成分を除いたもの、つまり、モジュレーションによる電圧変化成分を示す。「Zb」は、「Im」に対する「Vs」の比で表される複素インピーダンスを示す。
【数5】
【0060】
また、電池測定装置50では、電流検出アンプ56cはオペアンプであるため、第1電気経路81から第2電気経路82には電流がほとんど流れ込まず、第2電気経路82に電流信号はほぼ流れない。
【0061】
そのため、第2電気経路82に流れる電流信号は、第1電気経路81に流れる電流信号に対して十分に小さい。この場合、第2電気経路82に生じる誘導起電力は、第1電気経路81に流れる交流信号によるものとみなすことができる。第1電気経路81と第2電気経路82との間の相互インダクタンスをMIとした場合、形状パラメータΣIは、ΣI=±MIと表される。そのため、数式(5)、数式(4)は、数式(6)、数式(7)のように表される。
【数6】
【数7】
【0062】
数式(6)、数式(7)を用いて、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差は、「Zb-Zm」と表される。ここで、測定周波数ωrは、電流信号の測定時に設定可能であり、抵抗56bの抵抗値Rsは設定値である。また、相互インダクタンスMIは、磁束通過領域S10の大きさや第1電気経路81と第2電気経路82との距離を用いたシミュレーション又は実測により算出することができる。具体的には、式(1)の右辺を用いた有限要素法によりシミュレーションを行うことができる。そのため、数式(6)、数式(7)によれば、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差を特定することができる。
【0063】
本実施形態では、所定の測定条件において、数式(6)、数式(7)を用いて表される誤差が、上記範囲内(±1mΩ,±170μΩ)となるように、磁束通過領域S10の大きさ、つまり形状パラメータΣIを設定するようにした。ここで、測定条件は、電池容量が25Ah~800Ahの範囲であり、電池温度が-10℃~65℃の範囲である。
【0064】
(第1実施形態の変形例1)
以下、第1実施形態の変形例1について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0065】
磁束通過領域S10の大きさの設定は、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差を用いたものに限られない。第2電気経路82に発生する誘導起電力がゼロを含む起電力許容値範囲内となるように、磁束通過領域S10の大きさを設定するようにしてもよい。本変形例では、ゼロを中心として、±200μVの範囲が起電力許容値範囲とされている。これにより、第2電気経路82に交流信号に基づく誘導起電力が生じることを抑制することができ、誘導起電力に基づく複素インピーダンスの誤差を抑制することができる。
【0066】
(第1実施形態の変形例2)
以下、第1実施形態の変形例2について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本変形例では、図6に示すように、第1検出線82aが、第2検出線82bに対して複数回交差するように配線されている点で、第1実施形態と異なる。第1検出線82aと第2検出線82bとは、固定部材としてのプリント基板83上に設けられており、プリント基板83に形成されたスルーホール84を用いて互いに異なる層に配置されることで、互いに交差するように配線されている。
【0067】
図7に基づいて詳しく説明すると、第1検出線82aは、分岐点Brにおいて第2検出線82bと分離した後、第1交差点Cr1において第2検出線82bと交差している。また、第1検出線82aは、第1交差点Cr1を経過した後に第2検出線82bと分離し、その後再び、第2交差点Cr2において第2検出線82bと交差している。
【0068】
これにより、磁束通過領域S10は、分岐点Br、第1交差点Cr1、第1検出線82a、及び第2検出線82bにより囲まれた第1磁束通過領域S11と、第1交差点Cr1、第2交差点Cr2、第1検出線82a、及び第2検出線82bにより囲まれた第2磁束通過領域S12とを含む複数の領域に分けられることとなる。
【0069】
例えば、第1電気経路81において交流信号が流れることにより、各磁束通過領域S11,S12に紙面奥側から手前側への向きの磁束が発生しているとする。この場合、誘導起電力により各磁束通過領域S11,S12に電流が流れる方向は、図7に示すように反時計回りとなる。そして、第1検出線82aと第2検出線82bとの位置関係が第1交差点Cr1を境に反対となっているため、第1交差点Cr1では、第1磁束通過領域S11に発生する誘導起電力と、第2磁束通過領域S12に発生する誘導起電力とは、位相が180度ずれる。すなわち、誘導起電力が互いに打ち消しあう。これにより、第2電気経路82に交流信号に基づく誘導起電力が生じることを抑制することができ、誘導起電力に基づく複素インピーダンスの誤差を抑制することができる。
【0070】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電池測定装置50について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。また、この第2実施形態では、基本構成として、第1実施形態のものを例に説明する。
【0071】
本実施形態では、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力、又は当該誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が、所定の範囲内(±1mΩ,±170μΩ、起電力許容値範囲内)となるように、磁束通過領域S10の大きさに加えて、抵抗56bの抵抗値Rsを設定する。
【0072】
数式(6)、数式(7)によれば、マイコン部53により算出される複素インピーダンスZmは、ωr×MI/Rsを用いて表され、ωr×MI/Rsを小さくすれば、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差を小さくすることができることがわかる。そこで、ωr×MI/Rsを小さくするために、抵抗56bの抵抗値Rsを極力大きく設定するようにした。
【0073】
つまり、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力、又は当該誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が所定の範囲内となるように磁束通過領域S10の大きさを設定するとともに、抵抗56bの抵抗値Rsを設定するようにした。これにより、誘導起電力に基づく複素インピーダンスの誤差を抑制することができる。
【0074】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の電池測定装置50について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。また、この第3実施形態では、基本構成として、第1実施形態のものを例に説明する。
【0075】
本実施形態では、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力、又は当該誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が、所定の範囲内(±1mΩ,±170μΩ、起電力許容値範囲内)となるように、抵抗値Rsと磁束通過領域S10の大きさとの比を設定する。
【0076】
数式(6)、数式(7)に示すように、ωr×MI/Rsを小さくすれば、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差を小さくすることができる。この場合に、ωr×MI/Rsを小さくするために、抵抗56bの抵抗値Rsが過大に設定されると、抵抗56bにおける電力損失が増大するとともに、抵抗56bにおける発熱量が増大し、抵抗56bの温度上昇に伴う熱ドリフトが発生することとなる。そこで、ωr×MI/Rsを小さくしつつ、抵抗値Rsが過大となるのを抑制するために、抵抗値Rsと磁束通過領域S10の大きさとの比を適切に設定するようにした。
【0077】
具体的には、MI/Rsを適切に設定するようにした。相互インダクタンスMIは、第2電気経路82の大きさに比例するため、MI/Rsは、抵抗56bの抵抗値Rsと磁束通過領域S10の大きさとの比に相当する。本実施形態では、ωr×MI/Rsを小さくするために、MI/Rsを極力小さく設定するようにした。
【0078】
つまり、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力、又は当該誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が所定の範囲内となるようにωr×MI/Rsを設定するようにした。ωr×MI/Rsを用いることで、抵抗値Rsの増大を抑制しつつ複素インピーダンスの誤差を抑制することができる。これにより、抵抗値Rsの増大による熱ドリフトや電力損失を抑制することができる。
【0079】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の電池測定装置50について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。また、この第4実施形態では、基本構成として、第1実施形態のものを例に説明する。
【0080】
本実施形態では、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力、又は当該誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が、所定の範囲内(±1mΩ,±170μΩ、起電力許容値範囲内)となるように、マイコン部53により算出される複素インピーダンスを補正する。
【0081】
数式(6)、数式(7)によれば、マイコン部53により算出される複素インピーダンスZmは、ωr×MI/Rsを用いて表され、ωr×MI/Rsを算出することで、補正部としてのマイコン部53は、複素インピーダンスZmを補正することができる。
【0082】
本実施形態では、第1電気経路81と第2電気経路82とが、同一のプリント基板83上に固定されている。つまり、第1電気経路81と第2電気経路82の位置関係及び大きさが固定されている。そのため、シミュレーションにより相互インダクタンスMIを精度よく算出することができる。そのため、これらの値を用いてωr×MI/Rsを算出することができ、ωr×MI/Rsを用いて複素インピーダンスZmを補正することで、複素インピーダンスZmの誤差を抑制することができる。
【0083】
次に、電池セル42の電池状態測定方法について説明する。電池測定装置50は、所定周期ごとに、図8に示すインピーダンス補正処理を実行する。
【0084】
インピーダンス補正処理において、マイコン部53は、最初に複素インピーダンスZmの測定周波数ωrを設定する(ステップS11)。測定周波数ωrは、予め決められた測定範囲内の周波数の中から設定される。
【0085】
次にマイコン部53は、測定周波数ωrに基づいて、正弦波信号の周波数を決定し、入出力部52に対して、当該正弦波信号の出力を指示する指示信号を出力する(ステップS12)。なお、本実施形態において、ステップS12の処理が、「信号制御工程」に相当する。
【0086】
入出力部52は、指示信号を入力すると、DA変換器により、アナログ信号に変換し、電流モジュレーション回路56に出力する。電流モジュレーション回路56は、指示信号に基づいて、電池セル42を電源として正弦波信号を出力させる。具体的には、半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dを介して入力された信号に基づき、指示信号により指示された正弦波信号を電池セル42から出力させるように、電流信号を調整する。これにより、電池セル42から正弦波信号が出力される。
【0087】
電池セル42から正弦波信号を出力させると、すなわち、電池セル42に外乱を与えると、電池セル42の端子間に電池セル42の内部複素インピーダンスを反映した電圧変動が生じる。入出力部52は、応答信号入力端子58を介して、その電圧変動を入力し、応答信号としてマイコン部53に出力する。その際、AD変換器により、デジタル信号に変換して出力する。
【0088】
ステップS102の実行後、マイコン部53は、交流信号測定部としての測定制御部56eを用いて電流信号を測定する(ステップS13)。また、マイコン部53は、入出力部52から応答信号を入力する(ステップS14)なお、本実施形態において、ステップS13の処理が、「交流信号測定工程」に相当し、ステップS14の処理が、「応答信号入力工程」に相当する。
【0089】
次に、マイコン部53は、電流信号及び応答信号に基づいて、電池セル42の複素インピーダンスZmに関する情報を算出する(ステップS15)。なお、本実施形態において、ステップS15の処理が、「演算工程」に相当する。
【0090】
次に、マイコン部53は、測定周波数ωrを用いて、ωr×MI/Rsを算出する(ステップS16)。なお、相互インダクタンスMI及び抵抗56bの抵抗値Rsは、予め取得されてマイコン部53に記憶されている。
【0091】
次に、マイコン部53は、ωr×MI/Rsを用いて、複素インピーダンスZmを補正する(ステップS17)。複素インピーダンスZmは、数式(6)、数式(7)に基づいて補正される。マイコン部53は、通信部54を介して、補正後の複素インピーダンスZmに関する情報をECU60に出力する。そして、インピーダンス補正処理を終了する。なお、本実施形態において、ステップS17の処理が、「補正工程」に相当する。
【0092】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0093】
第2電気経路82に流れる電流信号が、第1電気経路81に流れる電流信号に対して十分に小さい場合、マイコン部53により算出される複素インピーダンスZmは、数式(6)、数式(7)のように表される。ここで、数式(6)、数式(7)に含まれるωr×MI/Rsは、シミュレーション等により算出可能な値となっている。
【0094】
そのため、第1電気経路81に流れる交流信号に基づいて第2電気経路82に生じる誘導起電力、又は当該誘導起電力由来の複素インピーダンスの誤差が所定の範囲内となるように、ωr×MI/Rsを用いてマイコン部53により算出される複素インピーダンスを補正するようにした。これにより、複素インピーダンスの誤差を抑制することができる。
【0095】
本実施形態では、同一のプリント基板83により第1電気経路81と第2電気経路82とが固定されるようにした。これにより、第1電気経路81と第2電気経路82との位置関係及び大きさが固定され、第1相互インダクタンスを精度よく算出することができる。そのため、ωr×MI/Rsを精度よく算出することができ、誘導起電力に基づく複素インピーダンスの誤差を好適に抑制することができる。
【0096】
(他の実施形態)
・上記実施形態において、交流信号は、正弦波信号に限らない。例えば、矩形波や三角波等の信号であっても構わない。もしくは、交流信号は、測定周波数ωrを含む任意の周波数の合成波であっても構わない。
【0097】
・上記実施形態において、マイコン部53等の演算部が複素インピーダンスの絶対値及び位相差を算出する必要はなく、複素インピーダンスに関する情報を応答信号及び電流信号に基づいて算出し、ECU60等の外部装置に出力してもよい。なお、複素インピーダンスに関する情報は、例えば、複素インピーダンスの絶対値や位相差等を算出するために必要な途中経過(例えば、電流と電圧の実部と虚部のみ)のことである。そして、外部装置に最終結果、つまり、複素インピーダンスの絶対値及び位相差等を算出させてもよい。
【0098】
・上記第1実施形態の変形例2において、磁束通過領域S10を、3以上に分けたが、2つにわけてもよい。この場合、第1検出線82aと第2検出線82bとが1回のみ交差させることとなる。
【0099】
・上記実施形態において、第1,第2電気経路81,82をプリント基板により固定してもよいし、固定部材としての樹脂モールドにより固定してもよい。ケーブルを含む場合には、ケーブルを固定する構成を設けてもよい。また、半導体集積回路を含む場合は、半導体集積回路で関連する配線パターンが固定されるようにしてもよい。
【0100】
・上記実施形態では、電池モジュール41毎に電池測定装置50を設けたが、例えば、電池セル42ごと、組電池40ごとに、電池測定装置50を設けてもよい。また、複数の電池セル42ごとに電池測定装置50を設ける場合、電池測定装置50の機能の一部を共通化してもよい。例えば、図9に示すように、電池セル42ごとにASIC部50aが設けられる一方、測定制御部56eを、6つの電池セル42ごとに設け、これらの電池セル42に対応する測定制御部56eを共通化してもよい。また、図10に示すように、6つの電池セル42ごとにASIC部50a及び測定制御部56eを設け、これらの電池セル42に対応するASIC部50a及び測定制御部56eを共通化した制御ユニット90を設けてもよい。さらに、図11に示すように、複数の制御ユニット90が直列接続されて、組電池40及び電池測定装置50が構成されるようにしてもよい。
【0101】
・上記実施形態において、交流信号を電池セル42から出力させたが、外部電源から電池セル42に交流信号を入力して外乱を与えてもよい。例えば、図12に示すように、電流モジュレーション回路56は、半導体スイッチ素子56aに代えて電流源56fを有していてもよい。電流源56fは、第1電気経路81上において、電池セル42の正極と抵抗56bとの間に接続されており、抵抗56bに対して直列に接続されている。
【0102】
電流源56fは、測定制御部56e(フィードバック回路56d)からの信号に基づいて、指示信号により指示された交流信号を電池セル42に入力する。なお、指示信号により指示される波形と、実際に抵抗56bに流れる波形との間に誤差が生じている場合、電流源56fは、測定制御部56eからの信号に基づいて、その誤差が補正されるように、交流信号を調整する。これにより、抵抗56bに流れる交流信号が安定化する。
【0103】
この場合、図13に示すように、6つの電池セル42ごとにASIC部50aを設け、これらの電池セル42に対応するASIC部50aを共通化した測定ユニット91を設けてもよい。さらに、複数の測定ユニット91が直列接続されるとともに、これらの測定ユニット91に対して測定制御部56eを1つ設け、これらの測定ユニット91に対応する測定制御部56eを共通化してもよい。
【0104】
・上記実施形態では、電池測定装置50を車両の電源システムに適用したが、電動飛行機や電動船舶の電源システムに適用してもよい。
【0105】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0106】
42…電池セル、50…電池測定装置、52…入出力部、53…マイコン部、56…電流モジュレーション回路、56e…測定制御部、81…第1電気経路、82…第2電気経路、S10…磁束通過領域。
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