(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】帯状鋼板の圧延方法及びステータコアの製造装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20240709BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H02K15/02 D
H02K15/02 F
H02K1/18 B
H02K15/02 E
(21)【出願番号】P 2021097270
(22)【出願日】2021-06-10
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 拓暉
(72)【発明者】
【氏名】植村 尚彦
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-170505(JP,A)
【文献】特開昭57-162954(JP,A)
【文献】特開平02-106151(JP,A)
【文献】特開平10-180389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/00-15/02
H02K 15/04-15/16
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状鋼板(10)を長手方向(L)に送りながら、圧延ロール群(20)を用いて圧延する圧延加工工程(S1)を備える圧延方法であって、
上記圧延ロール群は、上記帯状鋼板を板厚方向(T)に挟んで対向し、かつ、板幅方向(W)をロール幅方向とするロール対(21~2N)が、上記長手方向にわたって多段に配置されて構成されて
いると共に、最後段の上記ロール対が、周面の全面が平坦面であるフラットロール対にて構成されており、
最前段を含む1段以上の上記ロール対は、上記ロール幅方向の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出する突出部(3)を備え、上記突出部の先端面が圧延面(30)となる段付きロール対であり、
上記圧延加工工程において、上記帯状鋼板を、連続的に上記圧延ロール群へ送り込み、上記段付きロール対の上記圧延面の間において上記帯状鋼板を挟圧して、上記板幅方向に圧延する、帯状鋼板の圧延方法。
【請求項2】
帯状鋼板(10)を長手方向(L)に送りながら、圧延ロール群(20)を用いて圧延する圧延加工工程(S1)を備える圧延方法であって、
上記圧延ロール群は、上記帯状鋼板を板厚方向(T)に挟んで対向し、かつ、板幅方向(W)をロール幅方向とするロール対(21~2N)が、上記長手方向にわたって多段に配置されて構成されており、
最前段を含む1段以上の上記ロール対は、上記ロール幅方向の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出する突出部(3)を備え、上記突出部の先端面が圧延面(30)となる段付きロール対であり、
上記段付きロール対は、上記ロール幅方向の中央部が、先端側ほど幅狭となる台形断面の段付き状に径方向外方へ突出して、上記突出部を形成しており、
上記圧延加工工程において、上記帯状鋼板を、連続的に上記圧延ロール群へ送り込み、上記段付きロール対の上記圧延面の間において上記帯状鋼板を挟圧して、上記板幅方向に圧延する、帯状鋼板の圧延方法。
【請求項3】
帯状鋼板(10)を長手方向(L)に送りながら、圧延ロール群(20)を用いて圧延する圧延加工工程(S1)を備える圧延方法であって、
上記圧延加工工程の後に、さらに、長手方向圧延工程(S11、S31)を備えており、
上記圧延ロール群は、上記帯状鋼板を板厚方向(T)に挟んで対向し、かつ、板幅方向(W)をロール幅方向とするロール対(21~2N)が、上記長手方向にわたって多段に配置されて構成されており、
最前段を含む1段以上の上記ロール対は、上記ロール幅方向の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出する突出部(3)を備え、上記突出部の先端面が圧延面(30)となる段付きロール対であり、
上記圧延加工工程において、上記帯状鋼板を、連続的に上記圧延ロール群へ送り込み、上記段付きロール対の上記圧延面の間において上記帯状鋼板を挟圧して、上記板幅方向に圧延した後に、
上記長手方向圧延工程において、上記圧延ロール群の後段側に配置され、上記帯状鋼板を上記板厚方向に挟んで対向し、上記板幅方向を上記ロール幅方向とする長手方向用フラットロール対(200)を用いて、上記帯状鋼板を上記長手方向に送りながら、上記長手方向に圧延する、帯状鋼板の圧延方法。
【請求項4】
帯状鋼板(10)を長手方向(L)に送りながら、圧延ロール群(20)を用いて圧延する圧延加工工程(S1)を備える圧延方法であって、
上記圧延ロール群は、上記帯状鋼板を板厚方向(T)に挟んで対向し、かつ、板幅方向(W)をロール幅方向とするロール対(21~2N)が、上記長手方向にわたって多段に配置されて構成されており、
上記帯状鋼板は、コアバック部(C1)及び複数のティース部(C2)を備えるステータコア(C)の構成材料として用いられ、上記板幅方向を複数の上記ティース部の延出方向としており、
最前段を含む1段以上の上記ロール対は、上記ロール幅方向の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出する突出部(3)を備え、上記突出部の先端面が圧延面(30)となる段付きロール対であり、
上記圧延加工工程において、上記帯状鋼板を、連続的に上記圧延ロール群へ送り込み、上記段付きロール対の上記圧延面の間において上記帯状鋼板を挟圧して、上記板幅方向に圧延する、帯状鋼板の圧延方法。
【請求項5】
上記圧延ロール群は、最後段の上記ロール対が、周面の全面が平坦面であるフラットロール対にて構成されている、請求項
2~4のいずれか1項に記載の帯状鋼板の圧延方法。
【請求項6】
上記圧延ロール群は、複数段の上記段付きロール対を備えており、各段の上記突出部は、後段側ほど上記圧延面の幅(B1~Bn)が広くなるように形成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の帯状鋼板の圧延方法。
【請求項7】
コアバック部(C1)及び複数のティース部(C2)を備えるステータコア(C)の製造装置(1)であって、
圧延ロール群(20)を備え、帯状鋼板(10)を長手方向(L)に送りながら、板幅方向(W)に圧延する幅圧延加工部(40)と、
圧延加工された上記帯状鋼板を、上記板幅方向の端縁部を上記コアバック部とし、上記コアバック部の内側に、複数の上記ティース部が上記板幅方向に平行配置される形状の打ち抜き片(5)に加工する打ち抜き加工部(50)と、
上記打ち抜き片を、円柱状の巻き取り軸(61)周りに上記コアバック部が径方向外側となるように、らせん状に巻き取りながら積層して、上記ステータコア形状の積層体(6)に加工するヘリカル加工部(60)と、
上記積層体を熱処理する焼鈍部(70)と、を備えており、
上記幅圧延加工部において、
上記圧延ロール群は、上記帯状鋼板を板厚方向(T)に挟んで対向し、かつ、
上記板幅方向をロール幅方向とするロール対(21~2N)が、上記長手方向にわたって多段に配置されて構成されており、
最前段を含む1段以上の上記ロール対を、上記ロール幅方向の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出する突出部(3)を備え、上記突出部の先端面が圧延面(30)となる段付きロール対として、上記段付きロール対の上記圧延面の間において上記帯状鋼板を挟圧して、上記板幅方向に圧延する、ステータコアの製造装置。
【請求項8】
上記圧延ロール群の最後段の上記ロール対が、周面の全面が平坦面であるフラットロール対である、請求項7に記載のステータコアの製造装置。
【請求項9】
上記圧延ロール群は、複数段の上記段付きロール対を備えており、
各段の上記突出部は、上記ロール幅方向の中央部が、先端側ほど幅狭となる台形断面の段付き状に径方向外方へ突出して形成されており、後段側ほど上記圧延面の幅(B1~Bn)が広くなるように形成される、請求項7又は8に記載のステータコアの製造装置。
【請求項10】
上記圧延ロール群の後段側に長手方向圧延部(41)を備えるか、又は、上記ヘリカル加工部が、長手方向圧延部を兼ねている、請求項7~9のいずれか1項に記載のステータコアの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状鋼板を幅方向に圧延する方法と、圧延された帯状鋼板を用いてステータコアを製造するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の回転電機等に用いられるステータコアは、無方向性電磁鋼板を打ち抜き加工して積層したもの、あるいは、方向性電磁鋼板をティース部とコアバック部で分割して組み合わせたものとして構成されている。方向性電磁鋼板は、圧延により磁化容易軸である<100>方位を特定方向に配向させたものであり、磁束の流れる向きに結晶方位を揃えることによって磁気特性を向上させることが期待される。また、ステータコアは、ティース部とコアバック部とで、磁束の流れる向きが異なることから、クロス圧延によって製造される二方向性電磁鋼板を用いることが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、予め特定方位({110}<001>方位)に集積した一方向性電磁鋼板を準備し、その圧延方向と直交する方向に、20%~50%の圧下率で冷間圧延することにより、その一部を方位変化させる方法が開示されている。このようにして得られる二方向性電磁鋼板は、特定の主方位と副方位を有し、その後のステータコアの製造工程において、打ち抜き加工性又は曲げ加工性の改善に有効とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるステータコアの製造工程において、得られた二方向性電磁鋼板は、例えば、所定のステータコア形状に打ち抜かれ、所定枚数の打ち抜き板を積層して一体化される。あるいは、所定の帯状に打ち抜かれた板材を曲げ加工し、所定のらせん状に巻回して、ステータコアが構成される。その場合、前者の方法では、円環状のコアバック部の内周にティース部が放射状に配置される打ち抜き形状となり、ステータコアの全周において、ティース部の磁束の向きに結晶方位を揃えることは難しい。また、打ち抜きによる材料ロスが生じやすく、歩留まりが低下する。
【0006】
一方、後者の方法では、帯状の板材の幅方向と平行にティース部が配置されることから、この方向に磁化容易軸を配向させるためには、例えば、板材に幅方向のひずみを導入し熱処理することが考えられる。ところが、圧延によって板幅方向にひずみを導入しようとすると、圧延ロールの移動方向が、板材の長手方向と直交する方向となるために、板材を間欠送りしながら、圧延加工する必要がある。そのため、歩留まり向上は期待されるものの、生産性が低下することから、現実的な方法とは言えなかった。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、帯状の板材を連続送りしながら、幅方向の圧延を行って、磁気特性及び生産性を向上することが可能な帯状鋼板の圧延方法及びステータコアの製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
帯状鋼板(10)を長手方向(L)に送りながら、圧延ロール群(20)を用いて圧延する圧延加工工程(S1)を備える圧延方法であって、
上記圧延ロール群は、上記帯状鋼板を板厚方向(T)に挟んで対向し、かつ、板幅方向(W)をロール幅方向とするロール対(21~2N)が、上記長手方向にわたって多段に配置されて構成されていると共に、最後段の上記ロール対が、周面の全面が平坦面であるフラットロール対にて構成されており、
最前段を含む1段以上の上記ロール対は、上記ロール幅方向の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出する突出部(3)を有し、上記突出部の先端面が圧延面(30)となる段付きロール対であり、
上記圧延加工工程において、上記帯状鋼板を、連続的に上記圧延ロール群へ送り込み、上記段付きロール対の上記圧延面の間において上記帯状鋼板を挟圧して、上記板幅方向に圧延する、帯状鋼板の圧延方法にある。
本発明の他の態様は、
帯状鋼板(10)を長手方向(L)に送りながら、圧延ロール群(20)を用いて圧延する圧延加工工程(S1)を備える圧延方法であって、
上記圧延ロール群は、上記帯状鋼板を板厚方向(T)に挟んで対向し、かつ、板幅方向(W)をロール幅方向とするロール対(21~2N)が、上記長手方向にわたって多段に配置されて構成されており、
最前段を含む1段以上の上記ロール対は、上記ロール幅方向の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出する突出部(3)を有し、上記突出部の先端面が圧延面(30)となる段付きロール対であり、
上記段付きロール対は、上記ロール幅方向の中央部が、先端側ほど幅狭となる台形断面の段付き状に径方向外方へ突出して、上記突出部を形成しており、
上記圧延加工工程において、上記帯状鋼板を、連続的に上記圧延ロール群へ送り込み、上記段付きロール対の上記圧延面の間において上記帯状鋼板を挟圧して、上記板幅方向に圧延する、帯状鋼板の圧延方法にある。
本発明のさらに他の態様は、
帯状鋼板(10)を長手方向(L)に送りながら、圧延ロール群(20)を用いて圧延する圧延加工工程(S1)を備える圧延方法であって、
上記圧延加工工程の後に、さらに、長手方向圧延工程(S11、S31)を備えており、
上記圧延ロール群は、上記帯状鋼板を板厚方向(T)に挟んで対向し、かつ、板幅方向(W)をロール幅方向とするロール対(21~2N)が、上記長手方向にわたって多段に配置されて構成されており、
最前段を含む1段以上の上記ロール対は、上記ロール幅方向の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出する突出部(3)を有し、上記突出部の先端面が圧延面(30)となる段付きロール対であり、
上記圧延加工工程において、上記帯状鋼板を、連続的に上記圧延ロール群へ送り込み、上記段付きロール対の上記圧延面の間において上記帯状鋼板を挟圧して、上記板幅方向に圧延した後に、
上記長手方向圧延工程において、上記圧延ロール群の後段側に配置され、上記帯状鋼板を上記板厚方向に挟んで対向し、上記板幅方向をロール幅方向とする長手方向用フラットロール対(200)を用いて、上記帯状鋼板を上記長手方向に送りながら、上記長手方向に圧延する、帯状鋼板の圧延方法にある。
本発明のさらに他の態様は、
帯状鋼板(10)を長手方向(L)に送りながら、圧延ロール群(20)を用いて圧延する圧延加工工程(S1)を備える圧延方法であって、
上記圧延ロール群は、上記帯状鋼板を板厚方向(T)に挟んで対向し、かつ、板幅方向(W)をロール幅方向とするロール対(21~2N)が、上記長手方向にわたって多段に配置されて構成されており、
上記帯状鋼板は、コアバック部(C1)及び複数のティース部(C2)を備えるステータコア(C)の構成材料として用いられ、上記板幅方向を複数の上記ティース部の延出方向としており、
最前段を含む1段以上の上記ロール対は、上記ロール幅方向の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出する突出部(3)を有し、上記突出部の先端面が圧延面(30)となる段付きロール対であり、
上記圧延加工工程において、上記帯状鋼板を、連続的に上記圧延ロール群へ送り込み、上記段付きロール対の上記圧延面の間において上記帯状鋼板を挟圧して、上記板幅方向に圧延する、帯状鋼板の圧延方法にある。
【0009】
本発明の他の態様は、
コアバック部(C1)及び複数のティース部(C2)を備えるステータコア(C)の製造装置(1)であって、
圧延ロール群(20)を備え、帯状鋼板(10)を長手方向(L)に送りながら、板幅方向(W)に圧延する幅圧延加工部(40)と、
圧延加工された上記帯状鋼板を、上記板幅方向の端縁部を上記コアバック部とし、上記コアバック部の内側に、複数の上記ティース部が上記板幅方向に平行配置される形状の打ち抜き片(5)に加工する打ち抜き加工部(50)と、
上記打ち抜き片を、円柱状の巻き取り軸(61)周りに上記コアバック部が径方向外側となるように、らせん状に巻き取りながら積層して、上記ステータコア形状の積層体(6)に加工するヘリカル加工部(60)と、
上記積層体を熱処理する焼鈍部(70)と、を備えており、
上記幅圧延加工部において、
上記圧延ロール群は、上記帯状鋼板を板厚方向(T)に挟んで対向し、かつ、上記板幅方向をロール幅方向とするロール対(21~2N)が、上記長手方向にわたって多段に配置されて構成されており、
最前段を含む1段以上の上記ロール対を、上記ロール幅方向の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出する突出部(3)を有し、上記突出部の先端面が圧延面(30)となる段付きロール対として、上記段付きロール対の上記圧延面間において上記帯状鋼板を挟圧して、上記板幅方向に圧延する、ステータコアの製造装置にある。
【発明の効果】
【0010】
上記圧延方法において、帯状鋼板は、圧延ロール群のロール対に順次送り込まれる。長手方向にわたって多段に配置されたロール対は、最前段を含む1段以上が段付きロール対で構成されており、ロール幅方向の中央部に設けられる突出部の先端面が圧延面となって、帯状鋼板の板幅方向の中央部を圧下する。このとき、段付きロール対の圧延面間に挟圧される鋼板材料は、板幅方向の中央部から両側へ流動し、板幅方向のひずみが増加する。圧延ロール群の1段目においてひずみが付与された帯状鋼板は、2段目以降へ送られ、さらに圧延加工される。したがって、段付きロール対を含む圧延ロール群を、所望のひずみが得られるように構成し、帯状鋼板を長手方向に連続送りしながら、板幅方向の圧延加工を行うことができる。
【0011】
また、上記構成のステータコアの製造装置は、幅圧延加工部を備え、段付きロール対を備える圧延ロール群を用いて、帯状鋼板を長手方向に連続送りしながら、板幅方向の圧延加工を行うことができる。そして、続く打ち抜き加工部において、板幅方向がティース部の方向となるように打ち抜き、得られた打ち抜き片を、さらに、ヘリカル加工部において、コアバック部が径方向外側となるようにらせん状に巻回して、所定のステータコア形状の積層体とすることができる。これを、焼鈍部にて熱処理することにより、ティース部の磁束の向きに合わせて材料組織の結晶方位を制御し、磁気特性を向上させることができる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、帯状の板材を連続送りしながら、幅方向の圧延を行って、磁気特性及び生産性を向上することが可能な帯状鋼板の圧延方法及びステータコアの製造装置を提供しようとするものである。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1における、帯状鋼板の圧延方法に用いられる圧延ロール群の概略構成を示す模式的な図。
【
図2】実施形態1における、圧延ロール群を用いた帯状鋼板の圧延加工工程を示す模式的な断面図。
【
図3】実施形態1における、圧延ロールによる帯状鋼板の加工部と、作用効果を説明するための模式的な図。
【
図4】実施形態1における、ステータコアの製造装置の概略構成図。
【
図5】実施形態1における、ステータコアの製造装置の各部構成と、製造工程を説明するための概略図。
【
図6】実施形態1における、帯状鋼板を用いて製造されるステータコアの概略構成を示す斜視図。
【
図7】実施形態1における、ステータコアを用いて製造されるモータの概略構成を示す斜視図とそのA部拡大図。
【
図8】実施形態1における、ステータコアの構成を示す部分拡大図で、
図7のB部拡大図。
【
図9】実施形態1における、圧延加工された帯状鋼板とステータコアの磁束の向きを対比させて示す模式的な図。
【
図10】実施形態2における、ステータコアの製造装置の概略構成図。
【
図11】実施形態2における、ステータコアの製造装置の各部構成及び工程を説明するための概略斜視図。
【
図12】実施形態3における、ステータコアの製造装置の概略構成図。
【
図13】実施形態3における、ステータコアの製造装置の各部構成と、製造工程を説明するための概略図。
【
図14】実施形態3における、ヘリカル加工部による帯状鋼板の加工工程と製造される積層体の構成を、実施形態2と比較して示す模式的な図。
【
図15】実施形態4における、圧延ロール群の詳細構成例を示す模式的な断面図。
【
図16】試験例1における、CAE解析用のモデルとなる幅圧延加工部の構成を示す模式的な図。
【
図17】試験例1における、CAE解析条件と解析結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
以下に、帯状鋼板の圧延方法及びステータコアの製造装置に係る実施形態1について、
図1~
図9を参照して説明する。
図1、
図2に示すように、本形態の圧延方法は、圧延ロール群20を用いて実施される圧延加工工程S1を備える。圧延加工工程S1において、帯状鋼板10は、その長手方向Lが送り方向(すなわち、
図1中に矢印で示す方向)となるように、連続的に送られながら、板幅方向Wに圧延される。帯状鋼板10は、例えば、薄板帯状に成形された電磁鋼板であり、圧延ロール群20は、長手方向Lにわたって所定の間隔をおいて多段に配置されたロール対21~2Nにて構成される。
【0015】
図2において、圧延ロール群20を構成するロール対21~2Nは、それぞれ、帯状鋼板10を板厚方向Tに挟んで対向し、かつ、板幅方向Wをロール幅方向とする一対のロール2a、2bからなる。一対のロール2a、2bは、板厚方向Tを上下方向として対向配置されており、各段において、上側のロール2aと下側のロール2bとは、同一の周面形状に成形されている。以下、各段を構成するこれら一対のロール2a、2bを、適宜、圧延ロール2と称する。圧延ロール群20は、後述するステータコアCの製造装置1において、幅圧延加工部40を構成する(例えば、
図4参照)。
【0016】
図1において、ロール対21~2Nは、圧延ロール群20が所定段数(例えば、N段)となるように、それぞれ、板幅方向Wをロール幅方向として、長手方向Lに整列している。圧延ロール群20は、多段配置されたロール対21~2Nのうち、最前段を含む1段以上が、ロール幅方向の中央部に突出部3を有する段付きロール対にて構成されている。ここでは、例えば、N段の圧延ロール2のうち、1段目からn段目(すなわち、N>n)となるロール対21~2nを段付きロール対として図示している。段付きロール対は、ロール幅方向(すなわち、板幅方向W)の中央部が一定幅で周方向の全周にわたって外方へ突出して、突出部3を形成し、突出部3の先端面が圧延面30となって、帯状鋼板10の板面を圧延加工する。具体的には、段付きロール対となる各ロール対21~2nは、それぞれ、ロール幅方向の中央部が拡径した突出部31~3nを有し、突出部31~3nの圧延面30の幅B1~Bnは、各段で異なっている。
【0017】
最後段のロール対2Nは、周面の全面が平坦面であるフラットロール対として構成される。具体的には、フラットロール対は、板厚方向Tに帯状鋼板10を挟んで対向する一対のロール2a、2bが、ロール幅方向の中央部に突出部3を有しておらず、平坦な全周面が圧延面となるフラットロールからなる。好適には、圧延ロール群20は、三段以上の圧延ロール2を有し、その複数段が段付きロール対であることが望ましい。その場合には、例えば、最後段のロール対2Nをフラットロール対とし、それ以外の複数段(例えば、N-1段)の圧延ロール2を、段付きロール対とすることができる。
【0018】
図2に示すように、圧延加工工程S1において、帯状鋼板10は、連続的に圧延ロール群20へ送り込まれ、各段のロール対21~2Nによって、帯状鋼板10が、順次圧延される。このとき、段付きロール対では、圧延面30となる突出部31~3nの先端面間において、帯状鋼板10が挟圧される。これにより、圧延面30の間において、帯状鋼板10の中央部が板厚方向Tに圧縮され、拘束の小さい圧延面30の両側へ材料流動が生じやすくなることにより、板幅方向Wのひずみが増加する。
【0019】
複数段の段付きロール対を有する場合には、好適には、各ロール対21~2nに形成される突出部31~3nは、各段の圧延面30の幅B1~Bnが、周方向の全周において一定であると共に、後段側ほど、圧延面30の幅B1~Bnが広くなるように形成される。より好適には、各ロール対21~2nの突出部31~3nは、周方向の断面形状が、台形形状であることが望ましい。具体的には、ロール幅方向(すなわち、板幅方向W)の中央部が、先端側ほど幅狭となる台形断面の段付き状に突出して、突出部31~3nを形成している。このように、基端側ほど幅広となる裾拡がりの形状であると、突出部3の座屈を抑制し、また、次段の突出部3が導入されやすくなる利点がある。
【0020】
このように、圧延ロール群20は、複数の圧延ロール2が、それぞれ異なる大きさの突出部3を有する段付き形状であり、後段側ほど圧延面30の幅Bnが広くなることにより、帯状鋼板10を、圧延ロール群20へ連続送りしながら、板幅方向Wへ圧延することができる。具体的には、後段側へ向かうほど、圧延面30により押圧される帯状鋼板10の加工部が、板幅方向Wへ拡がり、板幅方向Wへの材料流動によりひずみが増加する。これにより、圧延加工後の熱処理の際に、ひずみの方向に結晶が配向しやすくなり、材料組織の結晶方位の制御が可能になる。
【0021】
ここで、
図3の左図に示すように、段付きロール対であるn段目のロール対2nは、板幅方向Wの中央部に、幅Bnの圧延面30を有する突出部3nとなる大径部を備え、圧延加工工程S1において、突出部3nに対向する帯状鋼板10の中央部のみを、所定の圧下量rnで圧下する。突出部3nは、台形の段付き形状を有し、基端部の幅bnは、圧延面30の幅Bnよりも広くなっている。具体的には、ロール対2nは、円柱状のロール本体の外周面から外方へ突出する突出部3nが、ロール幅方向の中心線に対して対称な台形形状であることが望ましい。ロール対2nは、ロール幅方向を回転軸の方向として回転し、ロール本体の外周面を環状に取り巻く突出部3nの一部が、順次、帯状鋼板10を押圧する。
【0022】
図3の右図に示すように、帯状鋼板10は、図中に矢印で示す送り方向に送られながら、加工部となる一部が、突出部3nによって押圧される。このとき、帯状鋼板10の加工部では、より多くの材料が存在する長手方向Lへの変形が拘束されるために、長手方向Lと比較して材料が少ない板幅方向Wの両側へ向けて、材料が積極的に流動することになる。そのために、帯状鋼板10の長手方向ひずみは小さくなり、これに比較して、幅方向ひずみは大きくなるので、結晶方位が板幅方向Wに揃いやすくなり、板幅方向Wへの圧延が可能になる。
【0023】
図3中に示すように、ひずみの大きさは圧下率rと相関があり、以下の関係で表される。
圧下率:r=(1-t/t
0)・・・(1)
ひずみ(絶対値)=(2/√3)ln(1-r)・・・(2)
なお、上記式(2)は、圧延による相当塑性ひずみの算出式を、上記式(1)を用いて変形したものである。
図3の左図において、圧下率rは、初期の板厚t
0と圧延後の板厚tとから、上記式(1)で求められる。圧延後の板厚tは、初期の板厚t
0から圧下量rnを減じた値である。この式(1)を変形すると、以下のようになる。
ln(t
0/t)=-ln(1-r)・・・(11)
また、圧延による相当塑性ひずみの算出式は、一般に下記式で表されるから、
算出式:-(2/√3)ln(t/t
0)
ここに、上記式(11)を代入すると、上記式(2)となる。
【0024】
後述する試験例に示すように、多段の圧延ロール群20を用いた圧延加工工程S1において、突出部3を備えるロール対21~2nにより、帯状鋼板10を連続的に幅方向Wに圧延し、例えば、圧下率20%相当以上の幅方向ひずみを付与することができる。
【0025】
図4、
図5に装置構成と製造工程の一例を示すように、このようにして、板幅方向Wに圧延加工された帯状鋼板10は、ステータコア材として好適であり、らせん状に巻き取るヘリカル加工を行って、ステータコアCを製造することができる。
図6に示すように、ステータコアCは、コアバック部C1及び複数のティース部C2を備える構成であり、例えば、円環状のコアバック部C1の内周側に、複数のティース部C2が放射状に配置されて、全体が円筒状の積層体となっている。
【0026】
このとき、ステータコアCの磁気特性を向上させるには、
図6中に矢印で示すように、磁化容易軸である<100>方位が、ステータコアCを流れる磁束の方向に揃うことが望ましい。すなわち、ティース部C2においては、磁束の向きは径方向となり、コアバック部C1においては、磁束の向きは周方向となる。そして、予め板幅方向Wに圧延加工された帯状鋼板10を、さらにヘリカル加工することによって、ティース部C2の磁束の向きに、結晶方位を揃えることができる。また、帯状鋼板10の長手方向Lの圧延は、従来の方法により比較的容易にできるので、さらに、コアバック部C1の磁束の向きに結晶方位を揃え、所望の磁気特性が得られるように、材料組織を制御することができる。
【0027】
図4において、ステータコアCの製造装置1は、幅圧延加工部40と、打ち抜き加工部50と、ヘリカル加工部60と、焼鈍部70とを備えている。幅圧延加工部40においては、帯状鋼板10を板幅方向Wに圧延加工する、圧延加工工程S1が実施される。また、打ち抜き加工部50において、打ち抜き加工工程S2が、ヘリカル加工部60において、ヘリカル加工工程S3が、焼鈍部70において、焼鈍工程S4が実施されて、ステータコアCとなる積層体6が製造される。
【0028】
打ち抜き加工部50は、
図5に示す打ち抜き加工工程S2において、圧延加工された帯状鋼板10を、板幅方向Wの端縁部を両端縁部の一方をコアバック部C1とし、コアバック部C1の内側に、複数のティース部C2が板幅方向Wに平行配置される形状の打ち抜き片5に加工する。続くヘリカル加工工程S3において、ヘリカル加工部60は、打ち抜き片5を、円柱状の巻き取り軸61周りにコアバック部C1が径方向外側となるように、らせん状に巻き取りながら積層して、ステータコアC形状の積層体6に加工する。
【0029】
次に、ステータコアCの製造装置1の各部構成と、帯状鋼板10の圧延方法を利用したステータコアCの製造工程について、詳細に説明する。
図4において、製造装置1は、予めアンコイラ11に巻回された状態で保持されている帯状鋼板10を、所定の送り速度で連続的に送り出し、幅圧延加工部40と、打ち抜き加工部50と、ヘリカル加工部60と、焼鈍部70とを経て、ステータコアCを製造する。打ち抜き加工部50は、上下一対のプレス型51a、51b及び送り装置52を有するプレス機51を備え、巻き取り装置62を有するヘリカル加工部60との間には、バッファ装置12が介設される。焼鈍部70は、焼成炉71を備えている。
【0030】
図5に示されるように、幅圧延加工部40の圧延ロール群20は、ここでは、3段の圧延ロール2からなり、各圧延ロール2はロール幅方向を回転軸の方向として、図示しないモータにより回転駆動される。これら圧延ロール2は、前段側の2つのロール対21、22が、突出部31、32を有する段付きロール対にて構成され、最後段のロール対23がフラットロール対となっている。段付きロール対の2つの突出部3は、1段目のロール対21の突出部31の幅B1よりも、2段目の突出部32の幅B2が大きくなっている(例えば、
図2参照)。圧延加工工程S1において、帯状鋼板10は、ロール対21、22にて、板幅方向Wに順次圧延された後、最後段のフラットなロール対23にて、全体がフラットに仕上げられる。
【0031】
圧延加工工程S1にて、圧延加工された帯状鋼板10は、次いで、打ち抜き加工部50へ送られる(例えば、
図4参照)。打ち抜き加工工程S2では、プレス機51の送り装置52によって、帯状鋼板10が、上下一対のプレス型51a、51bの間に間欠的に送り出され、上プレス型51aが下プレス型51bに対して往復動作することによって、所定の打ち抜き片5に加工される(例えば、
図5参照)。
【0032】
打ち抜き片5は、帯状鋼板10の板幅方向Wの端縁部をコアバック部C1とし、コアバック部C1の内側に、複数のティース部C2が板幅方向Wに平行配置される形状を有する。その際、好適には、
図5中に示すように、帯状鋼板10の両端縁部を一対のコアバック部C1とし、複数のティース部C2が互い違いに配置されるようにすると、対称形状の一対の打ち抜き片5として打ち抜くことができ、材料ロスをなくすことができる。
【0033】
帯状鋼板10から打ち抜かれた打ち抜き片5は、バッファ装置12を介して、ヘリカル加工部60へ送られる(例えば、
図4参照)。バッファ装置12は、間欠的に送り出される打ち抜き片5を収容しつつ、ヘリカル加工部60へ連続的に供給する。ヘリカル加工工程S3では、巻き取り装置62を用いて、巻き取り軸61周りに打ち抜き片5を巻き取りながら積層する。このとき、
図5中に示すように、巻き取り軸61の径方向の外側に、打ち抜き片5のコアバック部C1が位置するようにして、らせん状に曲げ加工しながら巻き回すことにより、所定形状の積層体6とすることができる。また、曲げ加工する際には、コアバック部C1となる外周側が、長手方向Lに引き伸ばされることになり、コアバック部C1における磁束の向きにひずみが導入されやすくなる。
【0034】
その後、所定のステータコアC形状に積層された積層体6を、焼鈍部70に送り、焼鈍工程S4において、焼成炉71にて熱処理する。熱処理は、所定温度(例えば、750℃~950℃の範囲)に昇温し、所定時間(例えば、2時間~10時間の範囲)保持することにより行う。その過程で、付加されたひずみが除去され、再結晶した材料組織の結晶方位を所望の方向に揃えることができる。
【0035】
このようにして、帯状鋼板10を、板幅方向Wに圧延加工し、打ち抜き加工、ヘリカル加工を施して、上記
図6に示した積層体状のステータコアCとすることができる。ステータコアCは、例えば、
図7に示す車両用モータMを構成することができ、
図8に示すように、その材料組織を所望の結晶方位に制御することができる。
図7において、モータMは、磁界を形成するステータの内側にロータが配置されたインナロータ型で、永久磁石を保持するロータコアRの外周に、ステータコアCが配置されて、コイルC3が装着されている。ステータコアCは、環状のコアバック部C1の内周から径方向に延出する多数のティース部C2とからなり、隣り合うティース部C2の間に、コイルC3が巻回されるスロットが形成される。
【0036】
図8左図に示すように、従来は、ステータコアCの構成材として、結晶粒の磁化容易軸の方向がランダムな無方向性電磁鋼板が用いられており、図中に矢印で示す磁束の向きと結晶方位が必ずしも一致しない。また、方向性電磁鋼板を用いることも検討されているが、上記
図6に示したように、ステータコアCの磁束の向きは、径方向又は周方向となるため、打ち抜き加工により、その向きを全周で合わせることは困難であった。これに対して、
図9に示すように、無方向性電磁鋼板からなる帯状鋼板10を、予め板幅方向Wに圧延し、さらにヘリカル加工することにより、ティース部C2となる部位と、コアバック部C1となる部位とを、それぞれ磁束の向きに合わせることが可能になる。これにより、
図8右図に示すように、ティース部C2及びコアバック部C1の両方において、結晶粒の磁化容易軸の方向が揃い、磁気特性を向上させることができる。
【0037】
(実施形態2)
以下に、帯状鋼板の圧延方法とステータコアの製造装置に係る実施形態2について、
図10~
図11を参照して説明する。
図10に示すように、本形態において、ステータコアCの製造装置1の基本構成及び基本の製造工程は、上記実施形態1と同様であり、幅圧延加工部40の後段に、長手方向圧延部41を有し、長手方向圧延工程S11が追加される点が異なっている。以下、相違点を中心に説明する。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0038】
図10において、幅圧延加工部40は、上記
図4と同様の3段の圧延ロール群20を有する構成であり、圧延ロール群20は、段付きロール対であるロール対21、22と、フラットロール対であるロール対23とを備える。長手方向圧延部41は、圧延ロール群20よりも後段に配置される、長手方向用フラットロール対(以下、適宜、フラットロール対と略称する)200を備えており、圧延ロール群20のロール対21~23による圧延加工に引き続いて、連続的に、フラットロール対200による、長手方向Lの圧延加工を行うことができる。
【0039】
図11に示すように、長手方向圧延部41を構成するフラットロール対200は、帯状鋼板10を板厚方向Tに挟んで対向する一対の上下ロール2c、2dを有する。上下ロール2c、2dは、いずれも圧延面となる周面が平坦なフラットロールであり、ロール幅方向(すなわち、板幅方向W)を回転軸の方向として、図示しないモータにより回転駆動される構成となっている。長手方向圧延部41の後段には、上記実施形態1と同様の打ち抜き加工部50、ヘリカル加工部60、焼鈍部70が配置される。
【0040】
本形態では、圧延加工工程S1において、帯状鋼板10を、圧延ロール群20のロール対21~23により板幅方向Wに順次圧延した後、さらに、長手方向圧延工程S11において、帯状鋼板10の全体を、長手方向Lに圧延することができる。その場合には、帯状鋼板10の板幅全体に、板幅方向Wと長手方向Lの圧延加工が施されるため、最終的なひずみとしては合算されて、斜め方向にひずみが加わることになる。その後、上記実施形態1と同様にして、帯状鋼板10を、打ち抜き加工工程S2、ヘリカル加工工程S3、焼鈍工程S4に供することにより、ステータコアCを製造することができる。
【0041】
このように、圧延加工工程S1の後に、長手方向圧延工程S11を追加することにより、帯状鋼板10に対して、打ち抜き加工工程S2に先立って、ティース部C2の方向と、コアバック部C1の方向の両方に、圧延加工を施すことができる。このような帯状鋼板10を打ち抜いた打ち抜き片5を、ヘリカル加工し、さらに熱処理を行うことにより、磁気特性に優れたステータコアCを製造することができる。
【0042】
(実施形態3)
以下に、帯状鋼板の圧延方法とステータコアの製造装置に係る実施形態3について、
図12~
図13を参照して説明する。
図12に示すように、本形態において、ステータコアCの製造装置1の基本構成及び基本の製造工程は、上記実施形態1と同様であり、幅圧延加工部40の後段に、長手方向圧延部を兼ねるヘリカル加工部
60を有し、長手方向圧延工程S31が追加される点が異なっている。以下、相違点を中心に説明する。
【0043】
図12において、幅圧延加工部40は、2段の圧延ロール群20を有する構成であり、圧延ロール群20は、段付きロール対であるロール対21、22を備える。
図13に示すように、本形態において、圧延ロール群20は、ロール対21、22の後段にフラットロール対を備えておらず、帯状鋼板10は、幅方向Wの両端縁を含む一部が加工されない。そのため、圧延加工工程S1を経た帯状鋼板10は、
図12中に示すように、両端縁部に、圧延加工が施されていない肉厚の非加工部10aを有する材料断面形状となる。
【0044】
幅圧延加工部40の後段には、打ち抜き加工部50と、長手方向圧延部を兼ねるヘリカル加工部
60と、焼鈍部70とが配置される。打ち抜き加工部50は、上記実施形態1と同様の構成であり、帯状鋼板10は、打ち抜き片5の両端縁部に、肉厚の非加工部10aを有する状態で、打ち抜き加工される(例えば、
図12参照)。ヘリカル加工部60は、長手方向圧延用のフラットロール対200が付設された巻き取り装置63を備えて、フラットロール対200により帯状鋼板10の表面を平坦化する。焼鈍部70は、上記実施形態1と同様の構成である。
【0045】
図13において、巻き取り装置63は、上記実施形態1と同様に、巻き取り軸61の周りに、打ち抜き片5を曲げ加工しながら巻き取る構成となっており、巻き取り軸61の前段にフラットロール対200が配置されている。フラットロール対200は、一対の上下ロール2e、2fを有し、上下ロール2e、2fの間に送り込まれる打ち抜き片5の非加工部10aを挟圧する。
【0046】
具体的には、
図14に示されるように、上下ロール2e、2fは、コアバック部C1となる材料を、外径側へ下り傾斜するテーパ状の圧延面201にて潰して、曲げ加工しやすくする。このとき、帯状鋼板10に非加工部10aを設けておくことで、外径側をより多く潰しながら、全体がフラットになるように仕上げることができる。これにより、巻き取り後の積層体6の各層の板厚が均一になり、磁気特性に優れたステータコアCを製造することができる。一方、上記実施形態2のように、予め平坦に加工されて、非加工部10aを有しない場合には、外径側の板厚が薄くなり、巻き取り後の積層体6の層間に隙間が生じるおそれがある。
【0047】
したがって、製造しようとするステータコアCの仕様に応じて、製造装置1の構成を適宜選択又は変更し、所望の特性が得られるように、板幅方向Wの圧延加工工程S1に、長手方向Lの圧延加工を組み合わせて、ステータコアCを製造するのがよい。
【0048】
(実施形態4)
以下に、帯状鋼板の圧延方法とステータコアの製造装置に係る実施形態4について、
図15~
図16を参照して説明する。本形態では、上記実施形態1において、帯状鋼板10の圧延方法に用いられる圧延ロール群20の具体的構成例を示している。このような圧延ロール群20は、上記各実施形態に示したステータコアCの製造装置1に適用されて、幅圧延加工部40を構成し、圧延ロール群20を用いた圧延加工工程S1に用いられる。製造装置1の基本構成は、上記各実施形態と同様であり、説明を省略する。
【0049】
上記実施形態1に示したように(例えば、
図1、
図2参照)、圧延ロール群20は、任意のN段のロール対21~2Nにて構成することができ、段付きロール対の段数が増えることで、圧延加工工程S1にて付与される幅方向ひずみを増加することができる。好適には、3段~6段程度の段数とすることが望ましく、例えば、
図15には、5段の圧延ロール2からなる圧延ロール群20を用いて、段階的に帯状鋼板10を板幅方向Wに圧延する例を示している。圧延ロール群20は、突出部31~34を有する段付きロール対であるロール対21~24と、フラットロール対であるロール対25とを含む。
【0050】
ロール対21~24は、それぞれロール本体の中央部に、所定幅の突出部31~34を有し、ロール本体の径及び幅は、いずれもロール対25と同径及び同幅となっている。突出部31~34は、ロール本体から突出する突出部3の形状が、図示の周方向の断面において、先端側ほど幅が狭くなる台形形状となっている。言い換えれば、突出部31~34は、圧延面30となる平坦な先端面と、その両側へ裾拡がりに傾斜する両側面を有する。圧延面30の幅B1~B4は、後段側ほど、幅広となるように形成されている。また、圧延加工工程S1において、ロール対21~24による圧下量r1~r4は、後段側ほど、大きくなっている。
【0051】
このように、突出部3が、台形の段付き形状であると、圧延面30が平坦面であることで、帯状鋼板10の加工部を凹凸のないフラットな面に加工しやすい。また、突出部3の基端側が幅広となることで、突出部3の座屈を抑制すると共に、次段の突出部3が導入されやすくなる。好適には、突出部3がロール本体と接続する基端側の幅(すなわち、突出部3の最大幅)b1~b4が、次段の圧延面30の幅B1~B4よりも幅広に形成されることが望ましい。このとき、n段目の圧延面30の幅Bnは、n-1段目の突出部3n-1の最大幅bn-1と、下記式に示す関係にある。
bn-1>Bn
【0052】
各ロール対21~24は、突出部31~34が、上下一対のロール2a、2bにおいて同一形状であり、また、板幅方向Wにおいて、突出部31~34とロール本体の中心線とが一致する線対称形状で、帯状鋼板10の中心線とが一致するように配置されることが望ましい。これらの中心線が一致しないと、帯状鋼板10の加工形状が非対称となって、板厚方向Tの反りが生じたり、板幅方向Wの曲がりが生じたりするおそれがある。
【0053】
各段における圧延面30の幅B1~B4、又は、ロール対21~24による圧下量r1~r4は、帯状鋼板10の初期サイズ等に応じて任意に設定され、例えば、それぞれ後段側へ向けて、均等に増加するように設定することができる。その場合には、n段目の圧延面30の幅Bnは、帯状鋼板10の初期の板幅をW0、全体の段数をNとしたとき、下記式を満たすように設定される。
Bn=(W0/N)n・・・(3)
また、n段目の圧下量rnは、最終圧下率をa、全体の段数をNとしたとき、下記式を満たすように設定される。
rn=(at0/N)n・・・(4)
【0054】
なお、段数を多くすることで、幅方向ひずみは増加するが、好適には、最大の段数Nが、下記式を満たすように設定されることが望ましい。
(W0/N)>0.5・・・(5)
上記式(5)の左辺は、上記式(3)における1段目の圧延面30の幅B1に相当し、圧延面30の幅Bnの最小幅を示す。このとき、幅Bnが0.5mmを下回ると、突出部3の製作が容易でなく、また、段数が多くなることで、装置構成が複雑になりやすい。
【0055】
一例として、
図15中に示すように、帯状鋼板10の初期の板幅W
0を5mm、初期の板厚t
0を1mmとし、最終段の圧下量rNを0.25mmとしたとき、圧延面30の幅B1~B4を、最前段から順に、1mm、2mm、3mm、4mmと増加させ、圧下量r1~r4を、0.1mm(0.2mm)、0.15mm(0.3mm)、0.2mm(0.4mm)、0.25mm(0.5mm)と増加させることができる。圧下量r1~r4は、ロール対21~24の突出部31~34が、帯状鋼板10の一面側を圧下する量(単位:mm)であり、括弧内の数値は、各ロール対21~24の上下一対のロール2a、2bによる両側の圧下量の合計である。
【0056】
このとき、
図15中に示すように、圧延ロール群20の各圧延ロール2によって、帯状鋼板10が、板幅方向Wに徐々に圧延加工される。帯状鋼板10は、初期の板幅W
0(すなわち、W
0=5mm)から徐々に引き伸ばされ、圧延加工後の板幅W11~W14は、最前段から順に、5.1mm、5.4mm、5.9mm、6.6mmと増加する。その後、最終段のフラットなロール対25にて全体がフラットに仕上げられた帯状鋼板10は、板幅W1が7.5mm、板厚t1が0.5mmと、それぞれ50%増、50%減となる。
【0057】
なお、本形態では、圧延面30の幅B1~B4、又は、ロール対21~24による圧下量r1~r4は、それぞれ後段側へ向けて均等に増加するように構成しているが、必ずしも均等になっていなくてもよい。また、最終段のロール対25は、圧延加工後の帯状鋼板10の板幅W1よりも、幅広となるように構成される。ロール対21~24の幅は、必ずしもロール対25と同じ幅でなくてもよく、好適には、各段の圧延加工後の板幅W11~W14よりも幅広となるように、ロール対25の幅と同等ないしそれ以下の範囲で、適宜設定される。
【0058】
(試験例)
本形態による効果を確認するために、
図16に示す幅圧延加工部40の三次元構造モデルをメッシュ分割し、CAE(Computer Aided Engineering)解析用のモデルを作成して、圧延ロール群20を用いた圧延加工によるひずみの解析を行った。
図16において、複数の圧延ロール2からなる圧延ロール群20は、段付きのロール対21~2nが多段配置された構成であり、その1段目と2段目について、
図17中に示す条件で、帯状鋼板10の幅方向圧延を行ったときのひずみ分布から、板幅方向W(すなわち、X軸方向)に付与されるX方向ひずみを算出した。
【0059】
図17において、帯状鋼板10は、初期の板厚t
0:0.25mm、板幅W
0:10mmとし、1段目のロール対21と2段目のロール対22の圧延面の幅B及び圧下量rnは、それぞれ、以下のように設定した。
・1段目:B1:1mm、r1:0.02mm
・2段目:B2:2mm、r2:0.04mm
このとき、1段目と2段目の間、及び、2段目と3段目の間において、帯状鋼板10に付与されるひずみを、以下のCAE解析ソフトウェアを用いて解析した結果を、
図17中に比較して示した。
・CAEソルバ:LS-Dyna;株式会社JSOL製
・メッシュサイズ:0.05mm×0.05mm×0.05mm
【0060】
その結果、1-2段目のX方向ひずみは、0.62、2-3段目のX方向ひずみは、1.16であり、それぞれ、板幅方向Wにおいて、圧下率42%、圧下率64%に相当する相当塑性ひずみとなった。ここで、相当塑性ひずみは、上述したように、上記
図3に基づく式(1)、(2)に基づくものである。そして、目標ひずみ量を、圧下率20%に相当する相当塑性ひずみである0.26を超える値としたとき、いずれも必要なひずみ量を満たしていることが確認された。
圧下率:r=(1-t/t
0)・・・(1)
ひずみ(絶対値)=(2/√3)ln(1-r)・・・(2)
・目標ひずみ量:X(板幅)方向ひずみ>0.26
なお、圧下率20%は、上述の特許文献1において、幅方向圧延による一方向電磁鋼板の方位変化に必要とされる圧下率である。
【0061】
このようにして、帯状鋼板10を、多段の圧延ロール群20を用いて、連続的に板幅方向Wに圧延し、磁気特性のすぐれたステータコアCを製造することができる。具体的には、従来の間欠送りによる幅方向圧延では、例えば、加工速度が50m/min以下であるのに対し、多段の圧延ロール群20を用いて、連続加工する場合には、例えば、加工速度を120m/min以上に向上させて、生産性を高めることができる。
【0062】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、上記実施形態では、帯状鋼板10を、車両用のステータコア材として説明したが、車両用に限らず、電動航空機用モータや発電機等といった回転電機全般の電気機器コア材料として好適に使用され、板幅方向の磁気特性を向上させることができる。また、帯状鋼板10をステータコアCに製造するための製造装置1の各部構成は、上記実施形態に例示した構成に限らず、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 製造装置
10 帯状鋼板
20 圧延ロール群
21~2N ロール対
3、31~3n 突出部
30 圧延面
40 幅圧延加工部
50 打ち抜き加工部
60 ヘリカル加工部
70 焼鈍部