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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20240709BHJP
   B60K 1/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B62D25/20 C
B62D25/20 B
B60K1/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021103558
(22)【出願日】2021-06-22
(65)【公開番号】P2023002362
(43)【公開日】2023-01-10
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 康洋
(72)【発明者】
【氏名】是石 智正
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 順平
(72)【発明者】
【氏名】石岡 大貴
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特許第6795109(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2021/0024131(US,A1)
【文献】特開2017-185913(JP,A)
【文献】特開2015-116960(JP,A)
【文献】国際公開第2014/097514(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B60K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に搭載されたパワーユニットと、
前記パワーユニットに対する車両幅方向の両側において車両前後方向に延在し、当該パワーユニットを支持する左右一対のフロントサイドフレームと、
前記左右一対のフロントサイドフレームの車両上方側において車両前後方向に延在し、その後端部が前記左右一対のフロントサイドフレームに対してそれぞれ結合された左右一対のフロントサイドメンバと、
前記パワーユニットの車両後方側かつ斜め上方側に配置され、前記左右一対のフロントサイドメンバを車両幅方向に架け渡すと共に、前記車両の運転席を支持するクロスメンバと、
前記左右一対のフロントサイドメンバの少なくとも一方と前記クロスメンバとの間に筋交い状に架け渡された筋交いリインフォースメントと、
備え、
前記運転席は前記車両の車両幅方向の中央に対して車両幅方向の一方側にずれて配置され、少なくとも前記車両幅方向の一方向側に配置された前記筋交いリインフォースメントにおける前記クロスメンバとの結合部と前記運転席とが車両正面視において、車両幅方向の同位置に配置されている車両前部構造。
【請求項2】
前記パワーユニットは、
前記左右一対のフロントサイドフレームに支持され前記車両の走行を可能にするモータと、
前記モータの車両上方に配置され当該モータの駆動を制御する駆動ユニットと、
を含んで構成されている請求項1に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、キャビンが車台フレームに固定されたキャブオーバー型車に関する技術が開示されている。この先行技術では、キャブフロアの前端部には車両幅方向に沿ってフロントクロスメンバが設けられており、キャブフロアの車両前後方向の中間部には車両幅方向に沿って段部が設けられ、キャブフロアのフロア前部よりもフロア後部が高くなるように形成されている。そして、フロア後部には運転席が設けられており、フロア後部の下方側にエンジンが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-308151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記先行技術において、車両の前面衝突時(以下、車両の前突時という)に車両後方側への荷重が掛かり、フロントクロスメンバが変形するとパワーユニットに荷重が入力され、パワーユニットが損傷する可能性がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、車両の前突時にパワーユニットに入力される荷重を低減してパワーユニットの損傷を抑制することが可能な車両前部構造を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る車両前部構造は、車両の前部に搭載されたパワーユニットと、前記パワーユニットに対する車両幅方向の両側において車両前後方向に延在し、当該パワーユニットを支持する左右一対のフロントサイドフレームと、前記左右一対のフロントサイドフレームの車両上方側において車両前後方向に延在し、その後端部が前記左右一対のフロントサイドフレームに対してそれぞれ結合された左右一対のフロントサイドメンバと、前記パワーユニットの車両後方側かつ斜め上方側に配置され、前記左右のフロントサイドメンバを車両幅方向に架け渡すと共に、前記車両の運転席を支持するクロスメンバと、前記左右一対のフロントサイドメンバの少なくとも一方と前記クロスメンバとの間に筋交い状に架け渡された筋交いリインフォースメントと、を備え、前記運転席は前記車両の車両幅方向の中央に対して車両幅方向の一方側にずれて配置され、少なくとも前記車両幅方向の一方向側に配置された前記筋交いリインフォースメントにおける前記クロスメンバとの結合部と前記運転席とが車両正面視において、車両幅方向の同位置に配置されている
【0007】
請求項1に記載の発明に係る車両前部構造では、車両前部にパワーユニットが搭載されており、当該パワーユニットに対する車両幅方向の両側には、左右一対のフロントサイドフレームが車両前後方向にそれぞれ延在し、左右一対のフロントサイドフレームによってパワーユニットは支持されている。
【0008】
当該左右一対のフロントサイドフレームの車両上方側には、左右一対のフロントサイドメンバが車両前後方向にそれぞれ延在しており、左右一対のフロントサイドメンバの後端部が、左右一対のフロントサイドフレームに対してそれぞれ結合されている。
【0009】
また、パワーユニットの車両後方側かつ斜め上方側には、クロスメンバが設けられている。このクロスメンバは、左右一対のフロントサイドメンバを車両幅方向に架け渡されている。そして、当該クロスメンバによって、車両の運転席が支持されている。
【0010】
ここで、左右一対のフロントサイドメンバの少なくとも一方とクロスメンバとの間には、筋交いリインフォースメントが筋交い状に架け渡されている。このように、フロントサイドメンバとクロスメンバの間に当該筋交いリインフォースメントが架け渡されることによって、フロントサイドメンバ及びクロスメンバは補強される。
【0011】
これにより、本発明では、車両の前突時において、慣性により運転席に車両前方側への荷重が入力されたとき、当該運転席を支持するクロスメンバの変形を抑制することが可能となる。本発明では、クロスメンバは、パワーユニットの車両後方側かつ斜め上方側に設けられているため、当該クロスメンバの変形を抑制することによって、クロスメンバの変形による当該クロスメンバとパワーユニットとの干渉を抑制することが可能となる。
一方、本発明では、運転席は、車両における車両幅方向の中央に対して車両幅方向の一方側にずれて配置されている。そして、少なくとも車両幅方向の一方向側に配置された筋交いリインフォースメントにおけるクロスメンバとの結合部と運転席とが車両正面視において、車両幅方向の同位置に配置されている。
運転席が車両における車両幅方向の中央に対して車両幅方向の一方側にずれて配置されることによって、運転席が車両における車両幅方向の中央に配置された場合と比較して、車両の前突時において、慣性により運転席に車両前方側への荷重が入力されたときに、当該運転席を支持するクロスメンバの変形を抑制することができる。
また、本発明では、筋交いリインフォースメントにおけるクロスメンバとの結合部と運転席とが車両正面視において、車両幅方向の同位置に配置されている。このため、車両の前突時において、フロントサイドメンバに対して、車両後方側への荷重が掛かると、当該結合部を介して運転席側には車両後方側への荷重が作用する。これにより、本発明では、車両の前突時に慣性により運転席に作用する車両前方側への荷重の一部を相殺することが可能となる。その結果、運転席に作用する車両前方側への荷重を低減することが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明に係る車両前部構造は、請求項1に記載の発明に係る車両前部構造において、前記パワーユニットは、前記左右一対のフロントサイドフレームに支持され前記車両の走行を可能にするモータと、前記モータの車両上方に配置され当該モータの駆動を制御する駆動ユニットと、を含んで構成されている。
【0013】
請求項2に記載の発明に係る車両前部構造では、パワーユニットは、モータ及び駆動ユニットを含んで構成されている。モータは、左右一対のフロントサイドフレームに支持されており、当該モータによって車両の走行が可能となる。一方、駆動ユニットは、モータの車両上方に配置されており、当該駆動ユニットによってモータの駆動が制御される。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、請求項1に記載の車両前部構造によれば、車両の前突時にパワーユニットに入力される荷重を低減してパワーユニットの損傷を抑制することができる。
【0023】
請求項2に記載の車両前部構造によれば、車両の前突時に少なくとも駆動ユニットに入力される荷重を低減して当該駆動ユニットの損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施の形態に係る車両前部構造が適用された車両の前部を示す平面図である。
図2図1に示すA-A線に沿って切断したときの断面図である。
図3】本実施の形態に係る車両前部構造が適用された車両の前部の変形例を示す図2に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る車両前部構造10について説明する。なお、各図においては図面を見易くする関係から一部の符号を省略している場合がある。また、各図に適宜記す矢印FR、矢印LH、矢印UPは、車両前方(進行方向)、車両左方、車両上方をそれぞれ示している。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両左右方向(車両幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示すものとする。
【0028】
(車両前部構造の構成)
まず、本実施形態に係る車両前部構造10の構成について説明する。
【0029】
図1図2に示されるように、本実施形態に係る車両前部構造10が適用された車両12は、ラダーフレーム14の上方側にキャビンを有するボデー16が固定されるフレーム構造の車両であり、一例としてバス等のライドシェア用の車両である。図示は省略するが、この車両12のボデー16は略直方体状の外形を有している。この車両12は、一例として電気自動車である。先ず、この車両12の骨格構造の概略について説明する。
【0030】
上記のラダーフレーム14は、左右(一対)のサイドフレーム18と、複数のクロスメンバ20、22とを備えている。左右のサイドフレーム18は、車両12の車両幅方向両側部において前後方向に延在している。複数のクロスメンバ20、22は、前後方向に間隔をあけて並んでおり、車両幅方向に延在している。また、複数のクロスメンバ20、22によって左右のサイドフレーム18が車両幅方向に繋がれている。
【0031】
左右のサイドフレーム18は、左右のフロントサイドフレーム24と、左右の中央サイドフレーム26と、左右のリヤサイドフレーム(図示省略)とによって構成されている。左右のフロントサイドフレーム24は、車両12の前部の車両幅方向両側部において前後方向に延在している。左右の中央サイドフレーム26は、車両12の前後方向中央部の車両幅方向両側部において前後方向に延在している。左右のリヤサイドフレームは、車両12の後部の車両幅方向両側部において前後方向に延在している。
【0032】
また、フロントサイドフレーム24、中央サイドフレーム26及びリヤサイドフレームは、例えば鋼材によって角筒状に形成されており、前後方向から見て矩形の閉断面を有している。なお、左右の中央サイドフレーム26の間、及び左右のリヤサイドフレームの間にも、それぞれ図示しない複数のクロスメンバが設けられている。
【0033】
左右のフロントサイドフレーム24の前部24Fは、前後方向に直線状に延在しており、各前部24Fの前後方向中間部は、クロスメンバ22によって車両幅方向に繋がれている。また、各前部24Fの車両幅方向の外側面には、図示はしないが、それぞれサスペンションタワーが固定されている。
【0034】
左右のフロントサイドフレーム24の後部24Rは、その前方側の部分が後方側へ向かって下り勾配に傾斜したキック部25とされており、後方側の部分が前後方向に直線状にそれぞれ延在している。各キック部25は、車両側面視で略クランク状に曲がって形成されており、各キック部25には、車両前後に曲げ部25F、25Rが設けられている。前側に設けられた曲げ部25Fは、上方側かつ後方側へ向けて凸状をなして曲がっており、後側に設けられた曲げ部25Rは、下方側かつ前方側へ向けて凸状をなして曲がっている。各キック部25の前部は、クロスメンバ22によって車両幅方向に繋がれている。また、各キック部25の後端部には、左右の中央サイドフレーム26の前端部が結合されている。
【0035】
左右のフロントサイドフレーム24の間には、車両12を走行させるためのモータ32が配置されている。モータ32は、クロスメンバ22、24や図示しない支持部材等を介して左右のフロントサイドフレーム24に支持されている。また、モータ32の上方には、モータ32に供給する電力を制御する制御ユニット(駆動ユニット)34が配置されている。制御ユニット34は、左右のフロントサイドフレーム24間に架け渡され車両前後に配置された一対の支持フレーム35を介して左右のフロントサイドフレーム24に支持されており、モータ32及び制御ユニット34によって、パワーユニット30が構成されている。
【0036】
上記構成のラダーフレーム14によって下方側から支持されたボデー16は、車室内36の床部を構成するフロアパネル38を有している。このフロアパネル38は、車室内36の前部の床部を構成するフロントフロアパネル40と、車室内36の前後方向の中間部の床部を構成する中央フロアパネル42と、車室内36の後部の床部を構成するリヤフロアパネル(図示省略)とを備えている。フロントフロアパネル40、中央フロアパネル42及びリヤフロアパネルは、例えば鋼板によって構成されている。
【0037】
フロントフロアパネル40の前部は、前後方向及び車両幅方向に延在した運転席フロア部40Fとされている。フロントフロアパネル40の後部は、車両後方側へ向かって下り勾配に傾斜した傾斜部40Rとされている。
【0038】
運転席フロア部40Fは、左右のフロントサイドフレーム24の前部24Fに対して上方側に離間して配置されており、傾斜部40Rは、左右のフロントサイドフレーム24の後部24Rに対して上方側に離間して配置されている。なお、運転席フロア部40Fの下方には、前述した制御ユニット34が配置されている。
【0039】
傾斜部40Rの後端部には、中央フロアパネル42の前端部が結合されている。中央フロアパネル42は、前後方向及び車両幅方向に延在している。中央フロアパネル42の下方には、前述したモータ32に供給するための電力を蓄える図示しないバッテリが配置されている。運転席フロア部40Fと中央フロアパネル42によって形成される一般フロア部(他のフロア部)42Aとの間には段差が設けられており、運転席フロア部40Fは一般フロア部42Aよりも上方側に位置している。
【0040】
上記のフロントフロアパネル40は、左右一対のフロントサイドメンバ48を介して左右のフロントサイドフレーム24に支持される。左右のフロントサイドメンバ48は、左右のフロントサイドフレーム24に対する上方側かつ車両幅方向の外側で前後方向に延在している。左右のフロントサイドメンバ48は、例えば鋼板がプレス成形されて製造されたものであり、溶接等の手段でフロントフロアパネル40の下面に接合され、フロントフロアパネル40との間で車両前後方向に延びる閉断面が構成されるように形成されている。
【0041】
左右のフロントサイドメンバ48の前部48Fは、前後方向に直線状に延在しており、フロントフロアパネル40の運転席フロア部40Fの下面に接合されている。左右のフロントサイドメンバ48の後部48Rには、後方側へ向かって下り勾配に傾斜したキック部49がそれぞれ設けられており、フロントフロアパネル40の傾斜部40Rの下面にそれぞれ接合されている。各キック部49は、車両側面視で略クランク状に曲がって形成されており、各キック部49には、車両前後に曲げ部49F、49Fが設けられている。前側に設けられた曲げ部49Fは、上方側かつ後方側へ向けて凸をなして曲がっており、後側に設けられた曲げ部49Rは、下方側かつ前方側へ向けて凸をなして曲がっている。
【0042】
また、左右のフロントサイドメンバ48の前端部には、車両幅方向に延在するフロントクロスメンバ50が配置されている。フロントクロスメンバ50は、例えば鋼板によって構成されており、車両幅方向から見て前方側に開口したハット状の断面を有している。左右のフロントサイドメンバ48の前端部には、例えばフロントクロスメンバ50の後面に重ね合わされたフランジ部が設けられており、当該フランジ部がボルト締結等の手段でフロントクロスメンバ50の後面に固定されている。これにより、左右のフロントサイドメンバ48の前端部がフロントクロスメンバ50によって車両幅方向に繋がれている。
【0043】
当該フロントクロスメンバ50の車両幅方向の両端部は、左右に設けられた前側柱部材52を介して左右のフロントサイドフレーム24の前端部に支持されている。左右の前側柱部材52は、例えば鋼板がプレス成形されて形成されたものであり、前方側及び上方側が開放された箱状をなしている。各前側柱部材52は、例えばその上端部に形成された図示しないフランジ部がフロントクロスメンバ50に対して溶接やボルト締結等の手段で固定されている。各前側柱部材52の下端部は、それぞれ図示しないブラケットを介してフロントサイドフレーム24に固定されている。
【0044】
左右のフロントサイドメンバ48における各キック部49の前端部は、左右に設けられた後側柱部材56を介して左右のフロントサイドフレーム24に支持されている。左右の後側柱部材56は、例えば鋼板がプレス成形されて形成されたものであり、車両幅方向の中央側及び上方側が開放された箱状をなしている。各後側柱部材56は、例えばその上端部に形成されたフランジ部が各キック部49の前端部に対して溶接等の手段で固定されている。各後側柱部材56の下端部は、それぞれ図示しないブラケットを介してフロントサイドフレーム24に固定されている。
【0045】
当該フロントクロスメンバ50、前側柱部材52及び後側柱部材56等を介して左右のフロントサイドメンバ48が左右のフロントサイドフレーム24により下方側から支持されている。そして、左右のフロントサイドメンバ48によってフロントフロアパネル40が下方側から支持されている。そして、フロントフロアパネル40の前部の上面には、インストルメントパネル60が載置されて固定されている。
【0046】
左右のフロントサイドメンバ48における各キック部49の前端部は、シートクロスメンバ(クロスメンバ)62によって車両幅方向に繋がれている。シートクロスメンバ62は、例えば鋼材によって角筒状に形成されており、車両幅方向に延在している。シートクロスメンバ62の車両幅方向の両端部は、溶接等の手段で各キック部49の前端部に結合されている。シートクロスメンバ62の上面には、運転席フロア部40Fの後端部が溶接等の手段で結合されており、シートクロスメンバ62は、シートフレーム64の前端部を下方側から支持している。
【0047】
シートフレーム64は、車両12の右側に設けられた運転席66を下方側から支持するフレームである。このシートフレーム64は、上下方向に延びる左右一対の垂直部64Vと、左右の垂直部64Vの上端部から後方へ延びる水平部64Hとを有している。垂直部64Vの下端部と水平部64Hの前後方向中間部との間には、筋交い部64Bが筋交い状に架け渡されている。
【0048】
垂直部64Vの下端部には固定部70が設けられている。この固定部70を介して、垂直部64Vの下端部が運転席フロア部40Fの後端部及びシートクロスメンバ62に対してボルト締結等の手段で固定されている。一方、水平部64Hの後端部は、中央フロアパネル47の前端部から立設された左右一対の支柱68の上下方向中間部に固定されている。左右の支柱68は、例えば鋼材によって角筒状に形成されており、上下方向に延在すると共に、車両幅方向に間隔をあけて並んでいる。左右の支柱68間には車両幅方向に沿って縦壁部69が架け渡されており、縦壁部69の後方側には、図示はしないが、複数の客席が設けられている。
【0049】
前述のように、それぞれ上下に配設された左右のフロントサイドフレーム24及び左右のフロントサイドメンバ48の後部24R、後部48Rには、後方側へ向かって下り勾配に傾斜したキック部25、49がそれぞれ設けられている。これらのキック部25、49は、シートフレーム64の前端部を構成する左右一対の垂直部64Vの後方側に位置している。
【0050】
ここで、本実施形態では、左右のフロントサイドメンバ48における車両幅方向の内側において、当該左右のフロントサイドメンバ48とシートクロスメンバ62との間には、略同じ長さを有する筋交いリインフォースメント72、74が、筋交い状(シートクロスメンバ62との間で成す角度が約45度)にそれぞれ架け渡されている。前述のように、運転席66は車両12の右側に設けられており、筋交いリインフォースメント72とシートクロスメンバ62との結合部72Aは、車両正面視で運転席66とラップして配置されている。
【0051】
(車両前部構造の作用及び効果)
次に、本実施形態に係る車両前部構造10の作用及び効果について説明する。
【0052】
図1図2に示されるように、本実施形態における車両前部構造10では、車両前部11にパワーユニット30が搭載され、当該パワーユニット30に対する車両幅方向の両側には、左右のフロントサイドフレーム24が車両前後方向にそれぞれ延在し、左右のフロントサイドフレーム24によってパワーユニット30は支持されている。
【0053】
そして、当該左右のフロントサイドフレーム24の車両上方側には、左右一対のフロントサイドメンバ48が車両前後方向にそれぞれ延在し、左右一対のフロントサイドメンバ48の後端部(キック部49)が、左右一対のフロントサイドフレーム24に対してそれぞれ結合されている。また、パワーユニット30の車両後方側かつ斜め上方側には、シートクロスメンバ62が設けられ、このシートクロスメンバ62は、左右一対のフロントサイドメンバ48を車両幅方向に架け渡されている。そして、当該シートクロスメンバ62によって、車両12の運転席66が支持されている。
【0054】
また、本実施形態では、左右のフロントサイドフレーム24及び左右のフロントサイドメンバ48の後部24R、後部48Rには、後方側へ向かって下り勾配に傾斜したキック部25、49がそれぞれ設けられている。このため、車両12の前面衝突時には、当該キック部25、49の曲げ部25F、25F、49F、49Fに応力が集中し、これらの曲げ部25F、25F、49F、49Fを起点として当該キック部25、49が変形する。この変形により衝突荷重を吸収することができる。
【0055】
本実施形態では、前述のように、左右一対のフロントサイドメンバ48の後端部(キック部49)が、左右一対のフロントサイドフレーム24に対してそれぞれ結合されてため、各キック部25、49での変形を安定させることができる。
【0056】
ここで、本実施形態では、左右のフロントサイドメンバ48とシートクロスメンバ62との間には、筋交いリインフォースメント72、74が筋交い状にそれぞれ架け渡されている。これにより、本実施形態では、フロントサイドメンバ48及びシートクロスメンバ62は補強される。したがって、本実施形態では、車両12の前突時において、慣性により運転席66に車両前方側への荷重が入力されたとき、当該運転席66を支持するシートクロスメンバ62の変形を抑制することが可能となる。
【0057】
本実施形態では、シートクロスメンバ62は、パワーユニット30の車両後方側かつ斜め上方側に設けられているため、当該シートクロスメンバ62の変形を抑制することによって、シートクロスメンバ62の変形による当該シートクロスメンバ62とパワーユニット30との干渉を抑制することが可能となる。その結果、本実施形態では、パワーユニット30の損傷を抑制することができる。
【0058】
本実施形態では、パワーユニット30は、車両12の走行を可能とするモータ32と、当該モータ32の駆動を制御する制御ユニット34と、を含んで構成されており、制御ユニット34は、モータ32の車両上方に配置されている。本実施形態では、車両12の前突時にパワーユニット30の車両後方側に配置されたシートクロスメンバ62の変形を抑制するため、車両12の前突時に少なくともシートクロスメンバ62の変形による制御ユニット34に入力される荷重を低減し、当該制御ユニット34の損傷を抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態では、運転席66は車両12の右側に設けられている。つまり、運転席66は、車両12における車両幅方向の中央に対して車両幅方向の一方側にずれて配置されている。これにより、本実施形態では、比較例として、図示はしないが、運転席66が車両12における車両幅方向の中央に配置された場合と比較して、車両12の前突時において、慣性により運転席66に車両前方側への荷重が入力されたときに、当該運転席66を支持するシートクロスメンバ62の変形を抑制することができる。
【0060】
さらに、本実施形態では、車両12の前突時において、フロントサイドメンバ48に対して、車両後方側への荷重が掛かると、フロントサイドメンバ48に入力された衝突荷重の一部は、筋交いリインフォースメント72を介してシートクロスメンバ62へ伝達された後、当該シートクロスメンバ62に沿って車両幅方向に沿って分散される。つまり、車両前後方向に沿って入力された衝突荷重の一部を車両幅方向に沿って伝達される荷重に変換することができる。
【0061】
ここで、本実施形態では、筋交いリインフォースメント72におけるシートクロスメンバ62との結合部72Aと運転席66とが車両正面視でラップして配置されている。このため、本実施形態では、車両12の前突時において、フロントサイドメンバ48に対して、車両後方側への荷重が掛かると、当該結合部72Aを介して運転席66側には車両後方側への荷重が作用することになる。したがって、本実施形態では、車両12の前突時に慣性により運転席66に作用する車両前方側への荷重の一部を相殺することが可能となる。その結果、運転席66に作用する車両前方側への荷重を低減することが可能となる。
【0062】
以上のように、本実施形態では、左右のフロントサイドメンバ48とシートクロスメンバ62との間に筋交いリインフォースメント72、74がそれぞれ架け渡されている。これにより、左右のフロントサイドメンバ48とシートクロスメンバ62との間を補強し、運転席66を支持するシートクロスメンバ62の変形を抑制するが、シートクロスメンバ62の変形を抑制することができればよいため、これに限るものではない。
【0063】
例えば、本実施形態では、運転席66は車両12の右側に設けられている。このため、少なくとも車両12の右側の筋交いリインフォースメント72が設けられていればよく、左右のフロントサイドメンバ48とシートクロスメンバ62との間を補強した場合よりも剛性は小さくなるものの必ずしも筋交いリインフォースメント72、74が設けられる必要はない。
【0064】
また、本実施形態では、筋交いリインフォースメント72、74は、略同じ長さに設定されているが、運転席66の位置によっては、筋交いリインフォースメント72、74が必ずしも同じ長さである必要はない。
【0065】
(本実施形態の変形例)
【0066】
上記実施形態では、図2に示されるように、運転席66は車両12の右側に設けられているが、図3に示されるように、運転席66が車両12の幅方向の中央部に設けられてもよい。この場合、左右のフロントサイドメンバ48のそれぞれとシートクロスメンバ62との間に左右の筋交いリインフォースメント76、78が筋交い状にそれぞれ架け渡されている。
【0067】
ここで、当該左右の筋交いリインフォースメント76、78の結合部76A、78Aと運転席66とが車両正面視でラップして配置されるように設定するため、筋交いリインフォースメント76、78は、筋交いリインフォースメント72、74(図2参照)よりも長く形成されている。
【0068】
このように、本実施形態では、運転席66が車両12の幅方向の中央部に設けられ、かつ左右の筋交いリインフォースメント76、78の結合部76A、78Aと運転席66とが車両正面視でそれぞれラップして配置されるように設定する。
【0069】
これにより、比較例として、図示はしないが、シートクロスメンバ62の車両幅方向の両端側に筋交いリインフォースメント76、78が架け渡された場合と比較して、シートクロスメンバ62の長手方向の中央部を補強することで、シートクロスメンバ62の変形をさらに抑制することができる。その結果、車両12の前突時において、慣性により運転席66に車両前方側への荷重が入力されても、シートクロスメンバ62の変形をさらに抑制することが可能となる。
【0070】
ここで、本実施形態では、当該左右の筋交いリインフォースメント76、78の結合部76A、78Aと運転席66とが車両正面視でラップして配置されている。これにより、本実施形態では、当該結合部76A、78Aを介して運転席66には車両後方側への荷重が作用する。
【0071】
このため、比較例として、図示はしないが、一方の筋交いリインフォースメント76におけるシートクロスメンバ62との結合部76Aのみが運転席66と車両正面視でラップして配置された場合と比較して、運転席に対して車両後方側へ作用する荷重が増大する。これにより、車両12の前突時に慣性により運転席66に作用する車両前方側への荷重の一部をさらに効果的に相殺することができ、慣性により運転席66に作用する車両前方側への荷重をさらに低減することが可能となる。
【0072】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
10 車両前部構造
11 車両前部
12 車両
24 フロントサイドフレーム
30 パワーユニット
32 モータ(パワーユニット)
34 制御ユニット(パワーユニット)
48 フロントサイドメンバ
62 シートクロスメンバ(クロスメンバ)
66 運転席
72 筋交いリインフォースメント
72A 結合部
74 筋交いリインフォースメント
76 筋交いリインフォースメント
76A 結合部
78 筋交いリインフォースメント
78A 結合部
図1
図2
図3