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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】電極製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240709BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240709BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20240709BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 Z
H01M4/64 A
H01M4/66 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021116280
(22)【出願日】2021-07-14
(65)【公開番号】P2023012690
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上薗 知之
(72)【発明者】
【氏名】小田 桃香
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-517139(JP,A)
【文献】特表2018-535091(JP,A)
【文献】特表2008-542980(JP,A)
【文献】特開2010-207780(JP,A)
【文献】特開2020-001247(JP,A)
【文献】特開2012-009170(JP,A)
【文献】特開2014-137965(JP,A)
【文献】特開2009-293107(JP,A)
【文献】特開2017-183025(JP,A)
【文献】特開2012-140016(JP,A)
【文献】特開2019-098745(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102013103504(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-4/62
B05B 5/025-5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアロゾル供給部と、
支持部と、
電界形成装置と、
を含み、
前記エアロゾル供給部は、エアロゾル調製部と多孔質電極とを含み、
前記エアロゾル調製部は、活物質粉体とバインダとガスとを混合することにより、エアロゾルを調製するように構成されており、
前記多孔質電極は、前記エアロゾル調製部と、前記支持部との間に配置されており、
前記支持部は、基材を支持するように構成されており、
前記基材は、前記多孔質電極から離れた位置に配置され、
前記電界形成装置は、前記多孔質電極と前記支持部との間に電界を形成するように構成
されており、
前記エアロゾル供給部は、前記多孔質電極を通して、前記エアロゾルを前記電界に供給
するように構成されており
前記エアロゾル供給部は、送気装置と多孔板とをさらに含み、
前記多孔板は、前記送気装置と、前記エアロゾル調製部との間に配置されており、
前記送気装置は、前記エアロゾル調製部に前記ガスを供給するように構成されている、
電極製造装置。
【請求項2】
前記送気装置は、前記ガスに対して、前記多孔質電極から前記基材に向かう方向の流れ
を付与するように構成されている、
請求項に記載の電極製造装置。
【請求項3】
前記エアロゾル調製部は、攪拌羽根を含み、
前記攪拌羽根は、前記活物質粉体と前記バインダと前記ガスとを攪拌することにより、
前記エアロゾルを調製するように構成されている、
請求項1または請求項2に記載の電極製造装置。
【請求項4】
前記支持部はロールを含み、
前記基材は金属箔を含み、
前記金属箔は、前記ロールの表面に支持され、
前記ロールの回転により、前記金属箔が搬送される、
請求項から請求項のいずれか1項に記載の電極製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極の製造方法および電極製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-192380号公報(特許文献1)は、静電粉体塗装装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-192380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電塗装により電極を製造する方法が提案されている。例えば、針状電極と基材との間に電界が形成される。粉体(電極材料)が電界中に噴霧される。針状電極から発生するコロナ放電により、粉体が帯電する。帯電した粉体が、静電気力により基材に付着する。
【0005】
しかし、針状電極と基材との間に形成される電界は、一様になり難い傾向がある。さらに、コロナ放電によって、空中に舞う粉体を一様に帯電させることも困難であると考えられる。そのため、投入した粉体量に対する、基材に付着した粉体量の比率(以下「塗装効率」と記される。)が低い可能性がある。
【0006】
本開示の目的は、高い塗装効率を有する電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0008】
(1)電極の製造方法は、下記(a)~(d)を含む。
(a)活物質粉体とバインダとガスとを含むエアロゾルを調製する。
(b)基材と多孔質電極との間に電界を形成する。
(c)エアロゾルを帯電させる。
(d)帯電後のエアロゾルを電界に導入する。
エアロゾルが多孔質電極を通過することにより、エアロゾルが電界に導入される。エアロゾルが多孔質電極を通過する際に、エアロゾルが多孔質電極と接触することにより、エアロゾルが帯電する。電界中において、帯電後のエアロゾルが静電気力によって基材に向かって飛行する。エアロゾルが基材の表面に付着することにより、活物質層が形成される。
【0009】
本開示の多孔質電極は、電界の一方の極を担う。多孔質電極と基材との間には、一様な電界が形成され得る。多孔質電極を通して、エアロゾル(活物質層の前駆体)が電界に供給される。エアロゾルは多孔質電極を通過する際に、多孔質電極と接触する。多孔質電極とエアロゾルとの接触により、多孔質電極からエアロゾルに電荷が注入される。すなわちエアロゾルが帯電する。多孔質電極を通過するエアロゾルは、一様に帯電することが期待される。さらに、多孔質電極が電界の一端であるため、多孔質電極を通過したエアロゾルは、実質的に全量が電界に導入されることになる。これらの作用の相乗により、高い塗装効率が期待される。
【0010】
(2)ガスは、多孔質電極から基材に向かう方向の流れを有していてもよい。ガスの流れが、エアロゾルを電界に輸送してもよい。
【0011】
エアロゾルは、ガスの流れによって輸送されてもよい。例えば、ガスの流速によって、輸送可能な粒子が限定され得る。例えば、質量が過度に大きい粒子は、ガスによって輸送されないと考えられる。これにより活物質層に含まれ得る粒子が選別されることになる。粒子が選別されることにより、均質な活物質層が形成されることが期待される。
【0012】
例えば、活物質粉体は、粗大な金属異物を含むことがある。金属異物は、意図しない不純物である。粗大な金属異物が活物質層に混入すると、例えば、自己放電量が多くなる可能性がある。例えば、一定以上の質量を有する金属異物が輸送されないように、ガスの流速が調整されてもよい。これにより活物質層において、粗大な金属異物が低減することが期待される。
【0013】
なお、粗大な金属異物は、例えば50μm以上の短径を有していてもよい。短径は粒子画像において測定される。粒子画像において、粒子の輪郭線上の最も離れた2点間の距離が長径である。長径をなす線分の中点において、該線分と直交する径が短径である。短径が直径と等しい場合もある。
【0014】
(3)電極の製造方法は、例えば、下記(e)をさらに含んでいてもよい。
(e)圧力および熱の少なくとも一方を活物質層に付与することにより、活物質層を基材に定着させる。
【0015】
上記(e)により、例えば、活物質層の剥離強さが向上することが期待される。
【0016】
(4)基材は、例えば、金属箔を含んでいてもよい。
【0017】
金属箔は、活物質層を支持し得る。金属箔は、集電体として機能し得る。金属箔は、ロールtoロール方式とも相性が良い。基材が金属箔を含むことにより、例えば生産性の向上が期待される。
【0018】
(5)電極製造装置は、エアロゾル供給部と支持部と電界形成装置とを含む。
エアロゾル供給部は、エアロゾル調製部と多孔質電極とを含む。エアロゾル調製部は、活物質粉体とバインダとガスとを混合することにより、エアロゾルを調製するように構成されている。多孔質電極は、エアロゾル調製部と、支持部との間に配置されている。
支持部は、基材を支持するように構成されている。基材は、多孔質電極から離れた位置に配置される。
電界形成装置は、多孔質電極と支持部との間に電界を形成するように構成されている。エアロゾル供給部は、多孔質電極を通して、エアロゾルを電界に供給するように構成されている。
【0019】
上記(5)の電極製造装置においては、例えば、上記(1)の電極の製造方法が実行可能である。
【0020】
(6)エアロゾル供給部は、例えば、送気装置と多孔板とをさらに含んでいてもよい。多孔板は、送気装置と、エアロゾル調製部との間に配置されている。送気装置は、エアロゾル調製部にガスを供給するように構成されている。
【0021】
ガスが多孔板を通過することにより、例えば、面内方向におけるガスの流れが均一になることが期待される。「面内方向」は、ガスの流れる方向と直交する平面内の任意の方向を示す。ガスの流れが均一であることにより、例えば、エアロゾルの組成が均質になることが期待される。その結果、均質な活物質層が形成されることが期待される。
【0022】
(7)送気装置は、ガスに対して、多孔質電極から基材に向かう方向の流れを付与するように構成されていてもよい。
【0023】
上記(7)の電極製造装置においては、例えば、上記(2)の電極の製造方法が実行可能である。
【0024】
(8)エアロゾル調製部は、例えば、攪拌羽根を含んでいてもよい。攪拌羽根は、活物質粉体とバインダとガスとを攪拌することにより、エアロゾルを調製するように構成されていてもよい。
【0025】
(9)支持部は、例えばロールを含んでいてもよい。基材は、例えば金属箔を含んでいてもよい。金属箔は、ロールの表面に支持されてもよい。ロールの回転により、金属箔が搬送されてもよい。
【0026】
上記(9)の電極製造装置においては、連続的に電極が製造され得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。
図2図2は、電極の製造過程を図解する概念図である。
図3図3は、電極の一例を示す概念図である。
図4図4は、本実施形態における電極製造装置の一例を示す概略図である。
図5図5は、図4の概略断面図である。
図6図6は、第2配置例を示す概略断面図である。
図7図7は、第3配置例を示す概略断面図である。
図8図8は、第1製造例における活物質層の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<用語の定義等>
以下、本開示の実施形態(「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【0029】
本明細書において、「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えない要素の付加が許容される。
【0030】
本明細書に記載される方法において、複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0031】
本明細書において、「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならない」という意味ではなく、許容的な意味「する可能性を有する」という意味で使用されている。
【0032】
本明細書において、単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子群」も意味し得る。
【0033】
本明細書において、例えば「70~100%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「70~100%」は、「70%以上100%以下」の数値範囲を示す。また、数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値および下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0034】
本明細書において、全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値である。全ての数値は有効数字で表示される。全ての測定値等は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により処理され得る。全ての数値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差を含み得る。
【0035】
本明細書において、例えば「LiCoO2」等の化学量論的組成式によって化合物が表現されている場合、該化学量論的組成式は代表例に過ぎない。組成比は非化学量論的であってもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0036】
本明細書における幾何学的な用語(例えば「平行」、「垂直」、「直交」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。本明細書における幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本開示技術の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0037】
本明細書における「エアロゾル」は、固体および液体の少なくとも一方が、ガス中に分散した分散系を示す。エアロゾルは、例えば、煙霧等とも称され得る。エアロゾルの外観は、例えばクラウド状、噴煙状等と形容され得る。
【0038】
本明細書における「D50」は、体積基準の粒度分布において、粒径が小さい側からの頻度の累積が50%に達する粒径を示す。体積基準の粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定され得る。
【0039】
本明細書における「融点」は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)曲線における融解ピーク(吸熱ピーク)のピークトップ温度を示す。DSC曲線は、「JIS K 7121」に準拠して測定され得る。「融点付近」は、例えば融点±20℃の範囲を示し得る。
【0040】
<電極の製造方法>
図1は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態における電極の製造方法」が「本製造方法」と略記される。本製造方法は、「(a)エアロゾルの調製」、「(b)電界の形成」、「(c)帯電」、および「(d)活物質層の形成」を含む。本製造方法は、「(d)活物質層の形成」の後に、例えば「(e)定着」等をさらに含んでいてもよい。
【0041】
本製造方法においては、リチウムイオン電池用の電極が製造され得る。ただしリチウムイオン電池は、一例に過ぎない。本製造方法は、任意の電池系に適用され得る。本製造方法においては、正極および負極の少なくとも一方が製造され得る。
【0042】
《(a)エアロゾルの調製》
本製造方法は、活物質粉体とバインダとガスとを含むエアロゾルを調製することを含む。エアロゾルは、活物質粉体とバインダとガスとが混合されることにより調製され得る。
【0043】
〈活物質粉体〉
活物質粉体は活物質粒子を含む。活物質粉体は、活物質粒子の集合体である。活物質粉体は実質的に活物質粒子からなっていてもよい。個々の活物質粒子は、一次粒子の凝集体(二次粒子)であり得る。エアロゾル中において、活物質粒子(二次粒子)は、それ以上凝集せず、分散して浮遊し得る。エアロゾル中において、実質的に全部の活物質粒子(二次粒子)が、それ以上凝集せず、分散して浮遊していてもよい。エアロゾル中において、一部の活物質粒子が凝集体を形成していてもよい。
【0044】
活物質粉体は、ごく少量の金属異物を含むこともある。例えば活物質粉体の製造過程において、製造装置が摩耗することにより、金属異物が活物質粉体に混入する可能性がある。金属異物は、例えば、ステンレス(SUS)、鉄(Fe)、銅(Cu)等を含んでいてもよい。
【0045】
活物質粉体は、例えば、1~30μmのD50を有していてもよいし、1~20μmのD50を有していてもよいし、1~10μmのD50を有していてもよい。
【0046】
活物質粒子は電極反応を生起する。活物質粒子は任意の成分を含み得る。活物質粒子は、例えば、正極活物質を含んでいてもよい。活物質粒子は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。Li(NiCoMn)O2は、例えばLi(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2等を含んでいてもよい。
【0047】
活物質粒子は、例えば、負極活物質を含んでいてもよい。活物質粒子は、例えば、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、珪素、酸化珪素、珪素基合金、錫、酸化錫、錫基合金、およびLi4Ti512からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0048】
〈バインダ〉
バインダは粉体状であり得る。バインダは、活物質層において、固体材料同士を結合する。バインダの配合量は、100質量部の活物質粉体に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)およびポリアクリル酸(PAA)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0049】
〈ガス〉
ガスは、エアロゾルの分散媒である。ガスは任意の成分を含み得る。ガスは、例えば、空気、窒素ガス、およびアルゴンガスからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば、エアロゾルの分散質(活物質粉体、固体電解質等)が空気中の水分と反応しやすい場合、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)が使用されてもよい。
【0050】
〈任意成分〉
エアロゾルは、例えば導電材をさらに含んでいてもよい。導電材は粉体状であり得る。導電材は、活物質層中に電子伝導パスを形成し得る。導電材の配合量は、100質量部の活物質粉体に対して、0.1~10質量部であってもよい。導電材は任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、導電性炭素粒子、導電性炭素繊維等を含んでいてもよい。導電材は、例えば、カーボンブラック、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、およびグラフェンフレークからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、およびサーマルブラックからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0051】
エアロゾルは、例えば溶剤をさらに含んでいてもよい。溶剤は液体である。溶剤は、例えば霧状であってもよい。例えばバインダが溶剤を吸収して膨潤していてもよい。溶剤は、任意の成分を含み得る。溶剤は、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、および酪酸ブチルからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0052】
エアロゾルは、例えば固体電解質をさらに含んでいてもよい。すなわち本製造方法においては、全固体電池用の電極も製造され得る。固体電解質は粉体状であり得る。固体電解質は、活物質層中にイオン伝導パスを形成し得る。固体電解質は任意の成分を含み得る。固体電解質は、例えば、Li2S-P25、LiI-Li2S-P25、LiBr-Li2S-P25、およびLiI-LiBr-Li2S-P25からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0053】
〈複合粒子〉
本製造方法は、例えば、複合粒子を調製することを含んでいてもよい。以下、複合粒子の集合体(粉体)は「複合粉体」とも記される。
【0054】
複合粒子は、活物質粒子と、その他の固体材料とを含む。例えば、強いせん断力が加わる条件下で、活物質粒子と、その他の固体材料とが混合されることにより、複合粒子が形成され得る。複合粒子においては、活物質粒子の表面に、例えばバインダおよび導電材が固着されていてもよい。
【0055】
本実施形態においては、後述のように、固体粒子(電極材料)が空気中を飛行することにより、活物質層が形成される。各材料の比重に差があると、軽い材料が優先的に飛行する可能性がある。その結果、活物質層の組成に偏りが生じる可能性がある。活物質粒子、導電材およびバインダが複合粒子を形成していることにより、均質な活物質層が形成されることが期待される。
【0056】
複合粒子の形成後、例えば、バインダの融点付近の温度で、複合粒子に熱処理が施されてもよい。熱処理によって、バインダが軟化、溶融、再固化する。その結果、バインダおよび導電材等が活物質粒子の表面に、強固に定着することが期待される。定着強度が低い場合、例えば、複合粒子の飛行時に、導電材等が活物質粒子の表面から剥がれる可能性がある。
【0057】
例えば、複合粒子が複数個の活物質粒子を含む場合(すなわち複合粒子が活物質粒子の凝集体である場合)、複合粒子の飛行能力が低下する可能性がある。複合粒子の質量が大きくなるためと考えられる。複合粒子は、例えば、単一の活物質粒子を含んでいてもよい。すなわち、1個の活物質粒子にバインダ、導電材等が付着することにより、1個の複合粒子が形成されていてもよい。
【0058】
《(b)電界の形成》
本製造方法は、基材と多孔質電極との間に電界を形成することを含む。なお、図1においては、便宜上、「(a)エアロゾルの調製」の後に「(b)電界の形成」が図示されている。「(b)電界の形成」は、「(c)帯電」の前である限り、任意のタイミングで実行され得る。
【0059】
図2は、電極の製造過程を図解する概念図である。基材11および多孔質電極120がそれぞれ準備される。
【0060】
〈基材〉
基材11は、例えばシート状であってもよい。基材11は集電体であってもよい。基材11は、例えば金属箔を含んでいてもよい。基材11は、例えば、アルミニウム(Al)箔、Al合金箔、Cu箔、Cu合金箔、ニッケル(Ni)箔、Ni合金箔、チタン(Ti)箔、およびTi合金箔からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。基材11は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよいし、5~20μmの厚さを有していてもよい。
【0061】
〈多孔質電極〉
多孔質電極120は導電性を有する。多孔質電極120は、例えば金属製であってもよい。多孔質電極120は、例えば、SUS製、Fe製、Ni製、Al製、Cu製等であってもよい。
【0062】
多孔質電極120は、例えば、平坦な外形を有していてもよい。多孔質電極120が平坦であることにより、電界の一様さが向上することが期待される。多孔質電極120は、例えば、シート状、板状、布状等であってもよい。多孔質電極120は、例えば、50~5000μmの厚さを有していてもよいし、50~500μmの厚さを有していてもよい。
【0063】
多孔質電極120には、複数の貫通孔が形成されている。貫通孔は、多孔質電極120の厚さ方向に、多孔質電極120を貫通している。多孔質電極120は、例えば網(メッシュ)状であってもよい。多孔質電極120は、例えば、スクリーンメッシュであってもよい。貫通孔は、活物質粒子(または複合粒子)を通過させる。貫通孔の内径は、例えば、活物質粉体のD50との間で特定の関係を満たしてもよい。貫通孔の内径は、例えば、活物質粉体のD50の3~10倍であってもよい。多孔質電極120がメッシュ状である時、貫通孔の内径は「目開き」とも称され得る。目開きは、例えば、30~300μmであってもよいし、50~150μmであってもよい。
【0064】
〈支持部〉
例えば支持部200が基材11を支持してもよい。支持部200の詳細は後述される。支持部200および基材11の両方が導電性であってもよい。支持部200および基材11が接地されてもよい。
【0065】
〈電界〉
多孔質電極120は、基材11に対向するように配置される。多孔質電極120および支持部200が、例えば高圧電源に接続されてもよい。高圧電源は、支持部200をグランド(GND)として、支持部200と多孔質電極120との間に直流電圧を印加してもよい。これにより、基材11と多孔質電極120との間に電界が形成される。図2中の「E」および直線矢印は、電界の向きを示している。例えば多孔質電極120が、基材11(支持部200)に対して負の電位を有していてもよい。基材11(支持部200)と多孔質電極120との電位差は、例えば、500~1500Vであってもよい。
【0066】
基材11と多孔質電極120とのギャップは、電界の電極間距離である。基材11と多孔質電極120とのギャップは、エアロゾルの静電輸送距離でもある。基材11と多孔質電極120とのギャップは、例えば、活物質粉体のD50の50~1000倍であってもよい。基材11と多孔質電極120とのギャップは、例えば、1~10mmであってもよい。
【0067】
《(c)帯電》
本製造方法は、エアロゾルを帯電させることを含む。エアロゾルは、多孔質電極120を通過して、基材11に向かって移動する。例えば、エアロゾルに含まれるガスが、多孔質電極120から基材11に向かう方向の流れを有していてもよい。ガスの流れにより、エアロゾルが輸送され得る。図2中の曲線矢印は、ガスの流れを示している。
【0068】
図2においては、便宜上、エアロゾルが活物質粒子1として図示されている。エアロゾルが多孔質電極120を通過する際、エアロゾルが多孔質電極120に接触する。エアロゾルと多孔質電極120との接触により、多孔質電極120からエアロゾル(特に活物質粒子1)に電子が移動し得る。すなわち電荷注入により、エアロゾルが帯電し得る。さらに、多孔質電極120を通過したエアロゾルは、静電誘導により、強く分極し得る。
【0069】
《(d)活物質層の形成》
本製造方法は、帯電後のエアロゾルを電界に導入することを含む。多孔質電極120を通過したエアロゾルは、自ずと電界に導入される(図2参照)。多孔質電極120が電界の一方の極であるためである。基材11(支持部200)は、電界の他方の極である。エアロゾルは、静電気力によって基材11に引き寄せられる。すなわち、エアロゾルは基材11に向かって飛行する。エアロゾルは基材11の表面に衝突し、付着する。これにより活物質層が形成され得る。すなわち電極が製造され得る。基材11およびエアロゾルが、電界中に連続的に供給されることにより、電極が連続的に製造され得る。
【0070】
静電気力は、電界強度によって調整され得る。電界強度は、基材11と多孔質電極120との電位差が、基材11と多孔質電極120とのギャップで除されることにより求まる。電界強度は、例えば、100000~300000V/mであってもよい。電界強度が過度に低いと、活物質粒子が基材に付着し難くなる可能性がある。電界強度が過度に高いと、活物質粒子が基材11に衝突する際の衝撃が大きくなる。衝撃の反動によって、活物質粒子が基材11に付着し難くなる可能性もある。
【0071】
《(e)定着》
本製造方法は、圧力および熱の少なくとも一方を活物質層に付与することにより、活物質層を基材に定着させることを含んでいてもよい。活物質層の定着により、例えば、活物質層の剥離強さが向上することが期待される。
【0072】
圧力および熱は、別々に付与されてもよい。圧力および熱は、実質的に同時に付与されてもよい。例えば、ヒートロール、ヒートプレート等により、活物質層が圧縮されてもよい。活物質層の加熱温度は、例えば、バインダの融点付近の温度であってもよい。加熱温度は、例えば80~200℃であってもよいし、120~200℃であってもよいし、140~180℃であってもよい。
【0073】
圧力は、例えば、活物質層の狙い厚さ、狙い密度等に応じて調整され得る。例えば、50~200MPaの圧力が活物質層に加えられてもよい。
【0074】
〈電極〉
図3は、電極の一例を示す概念図である。電極10は正極であってもよいし、負極であってもよい。電極10は、電池の仕様に合わせて、任意の外形を有し得る。電極10は、例えば、帯状であってもよい。電極10は基材11と活物質層12とを含む。活物質層12は、基材11の表面に配置されている。活物質層12は、基材11の片面のみに配置されていてもよい。活物質層12は、基材11の表裏両面に配置されていてもよい。
【0075】
活物質層12は、任意の厚さを有し得る。活物質層12は、例えば、10~500μmの厚さを有していてもよいし、50~200μmの厚さを有していてもよい。電極10が正極である時、活物質層12は、例えば、2~4g/cm3の密度を有していてもよい。電極10が負極である時、活物質層12は、例えば1~2g/cm3の密度を有していてもよい。なお、活物質層12の密度は「みかけ密度」を示す。みかけ密度は、活物質層12の質量が、活物質層12のみかけ体積で除されることにより求まる。みかけ体積は空隙体積を含む。
【0076】
活物質層12は、例えば、質量分率で、1~10%のバインダと、0~10%の導電材と、残部の活物質粉体とを含んでいてもよい。活物質粉体は、正極活物質を含んでいてもよいし、負極活物質を含んでいてもよい。
【0077】
活物質層12においては、実質的に全部の活物質粒子が電極反応に寄与することが期待される。本製造方法においては、活物質層12の形成過程で、活物質粒子が凝集体を形成し難いためである。実質的に全部の活物質粒子が電極反応に寄与することにより、例えば、入出力特性の向上等が期待される。
【0078】
これに対して、従来の電極の製造方法(例えばスラリーの塗布等)においては、活物質層の形成過程で、活物質粒子の一部が凝集することにより、凝集体が形成され得る。凝集体の内側に取り込まれた活物質粒子は、電極反応に寄与し難い傾向がある。
【0079】
<電極製造装置>
図4は、本実施形態における電極製造装置の一例を示す概略図である。以下「本実施形態における電極製造装置」が「本製造装置」と略記される。本製造装置においては、前述の本製造方法が実行され得る。
【0080】
本製造装置1000は、エアロゾル供給部100と、支持部200と、電界形成装置(不図示)とを含む。本製造装置1000は、制御装置300を含んでいてもよい。制御装置300は、各部の動作を制御し得る。制御装置300は、例えば、モータコントローラ等を含んでいてもよい。例えば制御装置300が電界形成装置を含んでいてもよい。電界形成装置は、例えば高圧電源等を含んでいてもよい。制御装置300は、電界の形成も制御し得る。
【0081】
《支持部》
図5は、図4の概略断面図である。図5には、制御装置300が図示されていない。支持部200は、エアロゾル供給部100に隣接している。支持部200は、例えばエアロゾル供給部100の鉛直上方に配置されていてもよい。支持部200は、例えば第1ロール210と、第2ロール220とを含む。第1ロール210は、例えば「バックアップロール」等とも称され得る。支持部200は基材11を支持する(図2参照)。基材11は、多孔質電極120から離れた位置に配置される。基材11は金属箔を含み得る。金属箔は、第1ロール210の表面に支持され得る。第1ロール210の回転により、第1ロール210の円周方向に、基材11が搬送され得る。
【0082】
第1ロール210は導電性を有していてもよい。第1ロール210の全部が導電性を有していてもよい。第1ロール210の一部が導電性を有していてもよい。例えば、基材11と接触する部分が導電性を有していてもよい。例えば、第1ロール210の表層が導電性を有していてもよい。第1ロール210は、電界形成装置と電気的に接続されている。第1ロール210は接地されていてもよい。電界形成時、第1ロール210は、多孔質電極120の対極となる。
【0083】
第2ロール220は、例えば「ニップロール」等とも称され得る。第2ロール220は、基材11を第1ロール210の表面に押し付ける。
【0084】
《エアロゾル供給部》
エアロゾル供給部100は、エアロゾル調製部110と多孔質電極120とを含む。エアロゾル供給部100は、送気装置130と多孔板140とをさらに含んでいてもよい。
【0085】
〈エアロゾル調製部〉
エアロゾル調製部110は、活物質粉体とバインダとガスとを混合することにより、エアロゾルを調製する。各材料の詳細は前述のとおりである。エアロゾル調製部110は、例えば、容器111と、攪拌羽根112とを含んでいてもよい。容器111内に各材料が供給される。攪拌羽根112が各材料を攪拌することにより、エアロゾルが調製されてもよい。
【0086】
送気装置130は、例えば、エアロゾル調製部110の鉛直下方に配置されていてもよい。多孔板140は、送気装置130とエアロゾル調製部110との間に配置されている。多孔板140は、例えば、容器111の底板であってもよい。
【0087】
図5中の点線矢印は、エアロゾルの輸送経路を示している。送気装置130は、エアロゾル調製部110にガスを供給する。送気装置130は、ガスに対して、多孔質電極120から基材11に向かう方向の流れを付与してもよい。図5中、多孔質電極120から基材11に向かう方向は、Z軸方向である。ガスは、多孔板140を通過して、容器111に導入される。ガスが多孔板140を通過することにより、面内方向におけるガスの流れが均一になることが期待される。ガスの流れが均一になることにより、エアロゾルの組成が安定することが期待される。
【0088】
例えば、粗大な金属異物がエアロゾルに入らないように、ガスの流速が調整されてもよい。金属異物は、例えば活物質粉体に混入した不純物であり得る。例えばSUS粒子が金属異物として想定される。例えば、50μmの短径を有するSUS粒子は、理論上、170~180m/minの終速度を有し得る。金属異物の終速度に比して、ガスの流速が十分に低い場合、金属異物は理論上、飛行しないと考えられる。すなわち金属異物はエアロゾルから排除され得る。別言すれば、ガスによる粉体輸送が、フィルタ機能を発揮し得る。ガスの流速は、例えば、金属異物の終速度の0.5倍以下であってもよいし、0.25倍以下であってもよい。ガスの流速は、例えば、1~10m/minであってもよい。
【0089】
活物質粉体等は、多孔板140の上に載積され得る。多孔板140には、複数の開気孔が形成されている。例えば、活物質粒子等が開気孔に埋没しないように、多孔板140の目開きが調整されてもよい。多孔板140の目開きは、例えば、活物質粉体のD50の0.5~2倍であってもよい。多孔板140の目開きは、例えば5~20μmであってもよい。多孔板140は、任意の材料により形成され得る。例えば、多孔板140は、セラミックス粉体の焼結体であってもよい。多孔板140は、例えばアルミナ製であってもよい。
【0090】
〈多孔質電極〉
多孔質電極120は、エアロゾル調製部110と、支持部200(第1ロール210)との間に配置されている。多孔質電極120の詳細は前述のとおりである。多孔質電極120は、電界形成装置に接続されている。電界形成時、多孔質電極120は、電界の一方の極となる。
【0091】
例えば、送気装置130が発生させるガスの流れにより、エアロゾルが電界まで輸送されてもよい。すなわちエアロゾル供給部100は、多孔質電極120を通して、エアロゾルを電界に供給する。エアロゾルが多孔質電極120を通過する際、エアロゾルが多孔質電極120と接触する。これによりエアロゾルに電荷が注入される。すなわちエアロゾルが帯電する。帯電後のエアロゾルは、ガスの流れによって、多孔質電極120を通過し、電界に導入され得る。
【0092】
《電界形成装置》
電界形成装置(不図示)は、多孔質電極120と支持部200(第1ロール210)との間に電界を形成する。例えば、高圧電源が、多孔質電極120と第1ロール210とに電気的に接続される。第1ロール210が接地される。高圧電源が多孔質電極120と第1ロール210との間に直流電圧を印加する。これにより多孔質電極120と第1ロール210との間に電界が形成される。
【0093】
電界に導入されたエアロゾルは、電界中の静電気力により、基材11に引き寄せられる。すなわちエアロゾルは基材11に向かって飛行する。エアロゾルが基材11の表面に付着することにより、活物質層12が形成され得る。
【0094】
《各部の配置》
図6は、第2配置例を示す概略断面図である。本製造装置1000において、各部の配置は任意である。例えば、エアロゾル供給部100において、エアロゾル調製部110と、送気装置130とが分離していてもよい。図6においては、エアロゾル調製部110と、送気装置130とが並列的に配置されている。図6中の点線矢印は、エアロゾルの輸送経路を示している。エアロゾルの輸送経路は、直線的であってもよいし(図5参照)、折れ曲がっていてもよい(図6参照)。
【0095】
なお、第1配置例は図5に示されている。図5においては、エアロゾル調製部110と、送気装置130とが直列的に配置されている。
【0096】
図7は、第3配置例を示す概略断面図である。例えば、エアロゾル供給部100が、支持部200の水平方向に隣接していてもよい。
【実施例
【0097】
以下本実施例が説明される。
【0098】
<第1製造例>
第1製造例においては、正極が製造された。
下記材料が準備された。
活物質粉体:Li(NiCoMn)O2
導電材:アセチレンブラック
バインダ:PVdF
基材:Al箔(厚さ 12μm)
【0099】
日本コークス工業社製の混合装置「メカノハイブリッド」が準備された。同装置は、球形タンク(混合槽)を含む。球形タンクの対流促進効果により、強いせん断力が発生し、固体材料が複合化され得る。
【0100】
メカノハイブリッドの球形タンクに、活物質粉体、導電材およびバインダが投入された。材料の配合比は「活物質粉体/導電材/バインダ=90/5/5(質量比)」であった。攪拌羽根の回転数が10000rpmに設定された。10分間にわたって材料が混合された。これにより複合粉体が形成された。複合粉体は、複合粒子の集合体である。複合粒子の各々は、単一の活物質粒子を含むと考えられる。活物質粒子の表面には、バインダおよび導電材が固着していると考えられる。
【0101】
金属製のトレーが準備された。複合粉体がトレーに薄く広げられた。トレーがオーブン内で保管されることにより、複合粉体に熱処理が施された。オーブンの設定温度は160℃であった。保管時間は30分間であった。熱処理により、バインダおよび導電材が活物質粒子の表面に定着したと考えられる。
【0102】
図5の電極製造装置が準備された。各部の設定は下記のとおりであった。
多孔質電極120:SUS製スクリーンメッシュ(目開き 100μm)
多孔板140:アルミナ多孔板(目開き 10μm、平面サイズ 75mm×75mm)
多孔質電極120と第1ロール210とのギャップ:4mm
電界:多孔質電極120=-1000V、第1ロール210=0V(GND)
【0103】
多孔板140の上に、複合粉体が供給された。送気装置130により、空気が複合粉体に供給された。空気の体積流量は25L/minであった。攪拌羽根112が複合粉体および空気を攪拌することにより、エアロゾルが調製された。攪拌羽根112の回転数は、120rpmであった。
【0104】
多孔質電極120を通して、エアロゾルが電界に供給されることにより、基材11の表面に活物質層12が形成された。すなわち電極10が製造された。活物質層12は、60mm×200mmの平面サイズを有していた。
【0105】
なお、第1製造例においては、25L/minの空気が、75mm×75mmの多孔板140を通過するため、供給される空気の流速は4.4m/minとなる。例えばSUS粒子(短径 50μm)が金属異物として想定される。SUS粒子の半径は2.5×10-5mとみなされ得る。SUSの比重が7.93g/cm3である時、SUS粒子の質量は5.19×10-10kgとみなされ得る。SUS粒子の半径および質量から、25℃、1atmにおけるSUS粒子の終速度は、177.5m/minと見積もられる。第1製造例においては、SUS粒子の終速度に比して、空気の流速が十分低いため、理論上SUS粒子は空気で輸送されないと考えられる。すなわちSUS粒子は、活物質層12に混入し難いと考えられる。
【0106】
2枚のヒートプレート(平板)に電極10が挟み込まれた。ヒートプレートの温度は160℃であった。ヒートプレートにより、15tfの荷重が活物質層12に付与された。これにより活物質層12が基材11に定着したと考えられる。
【0107】
図8は、第1製造例における活物質層の電子顕微鏡画像である。図8においては、活物質層の表面および断面のそれぞれについて、1000倍、3000倍、10000倍の画像が示されている。活物質層の表面においては、活物質粒子(複合粒子)が均質に分布している。活物質層の断面においても、活物質粒子が均質に分布している。活物質層の表面および断面の両方において、活物質粒子の凝集体はみられない。なお、画像からは明瞭ではないが、活物質粒子の表面には、バインダおよび導電材が固着している。
【0108】
<第2製造例>
第2製造例においては、負極が製造された。
下記材料が準備された。
活物質粉体:アモルファスコート黒鉛
バインダ:PVdF
基材:Cu箔(厚さ 8μm)
【0109】
アモルファスコート黒鉛においては、各黒鉛粒子の表面がアモルファス炭素材料によって被覆されている。アーステクニカ社製の混合装置「ハイスピードミキサー」が準備された。同装置においては、混合時、比較的緩やかなせん断力が発生し得る。混合装置の混合槽に、活物質粉体およびバインダが投入された。材料の配合比は「活物質粉体/バインダ=97.5/2.5(質量比)」であった。攪拌羽根の回転数が4500rpmに設定された。2分間にわたって材料が混合された。これにより複合粉体が形成された。複合粉体は、複合粒子の集合体である。複合粒子の各々は、単一の活物質粒子を含むと考えられる。活物質粒子の表面にはバインダが固着していると考えられる。
【0110】
これらを除いては、第1製造例と同様に電極が製造された。第2製造例においても、第1製造例と同様に、均質な活物質層が形成されていることが確認された。
【0111】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0112】
1 活物質粒子、10 電極、11 基材、12 活物質層、100 エアロゾル供給部、110 エアロゾル調製部、111 容器、112 攪拌羽根、120 多孔質電極、130 送気装置、140 多孔板、200 支持部、210 第1ロール、220 第2ロール、300 制御装置、1000 電極製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8