(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】高圧タンク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16J 12/00 20060101AFI20240709BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20240709BHJP
F17C 1/00 20060101ALI20240709BHJP
B29C 70/16 20060101ALN20240709BHJP
B29C 70/32 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
F16J12/00 A
F17C1/06
F17C1/00 B
B29C70/16
B29C70/32
(21)【出願番号】P 2021170107
(22)【出願日】2021-10-18
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】片野 剛司
(72)【発明者】
【氏名】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】里屋 大輔
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-110367(JP,A)
【文献】特開2012-149739(JP,A)
【文献】特開2010-236614(JP,A)
【文献】特開2017-110669(JP,A)
【文献】特開2011-163354(JP,A)
【文献】国際公開第2011/154994(WO,A1)
【文献】特開2022-053579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 12/00
F17C 1/00- 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴体部と前記胴体部の軸方向の両端に設けられた一対のドーム部とを有するライナ、及び、前記ライナの外周面に設けられるとともに、樹脂部材とフープ層とヘリカル層とを有する補強層を備える高圧タンクの製造方法であって、
前記樹脂部材が前記胴体部の外周面に周設される状態において、前記胴体部と前記ドーム部との境界部から前記胴体部の中央に向かって厚くなるように前記樹脂部材を製造する樹脂部材製造工程と、
前記胴体部の外周面に該外周面の一部を覆う前記フープ層を形成するフープ層形成工程と、
前記樹脂部材製造工程で製造された前記樹脂部材を、その厚さが最も厚い端部を前記フープ層形成工程で形成された前記フープ層の端部と当接するように、前記フープ層の両端部に配置する樹脂部材配置工程と、
前記フープ層と、前記フープ層の両端に配置された前記樹脂部材と、前記一対のドーム部とを覆う前記ヘリカル層を形成するヘリカル層形成工程と、
を含むことを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
前記フープ層形成工程は、予め製造されて固化された円筒状のフープ層用巻回体の中に前記ライナを挿入する工程である請求項
1に記載の高圧タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素タンク等の高圧タンクとして、円筒状の胴体部と該胴体部の軸方向の両端に設けられた一対のドーム部とを有するライナ、及び、ライナの外周面に設けられるとともにフープ層とヘリカル層とを有する補強層を備えるものが知られている。このような構造を有する高圧タンクは、繊維に樹脂が含浸された繊維強化樹脂を用いてライナの胴体部の外周面にフープ層を形成した後に、フープ層及びドーム部を覆うヘリカル層を形成することにより製造されている(例えば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フープ層では、樹脂が含浸された繊維は、ライナの軸方向に対して略直交する角度で周状に配向され、すなわち高圧タンクの周方向に配向されている。一方、ヘリカル層では、樹脂が含浸された繊維は高圧タンクの周方向に配向されずに、高圧タンクの周方向と交差する様々な方向に配向されている。このようにフープ層とヘリカル層とで繊維の配向方向が異なる原因に起因し、胴体部とドーム部との境界部付近では、フープ層とヘリカル層との界面に層間剥離が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、胴体部とドーム部との境界部付近におけるフープ層とヘリカル層との層間剥離を防止できる高圧タンク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る高圧タンクは、円筒状の胴体部と前記胴体部の軸方向の両端に設けられた一対のドーム部とを有するライナ、及び、前記ライナの外周面に設けられた補強層を備える高圧タンクであって、前記補強層は、前記胴体部の外周面の両端部に周設される一対の樹脂部材と、前記胴体部の外周面のうち前記一対の樹脂部材の間の部分を覆うフープ層と、前記一対の樹脂部材、前記フープ層及び前記一対のドーム部を覆うヘリカル層と、を有し、前記樹脂部材は、前記胴体部と前記ドーム部との境界部から前記胴体部の一部を覆うように形成され、その厚さが前記境界部から前記胴体部の中央に向かって厚くなっていることを特徴としている。
【0007】
本発明に係る高圧タンクでは、ライナの胴体部とドーム部との境界部付近において、従来のフープ層とヘリカル層の構造に代えて、樹脂部材とヘリカル層の構造が用いられる。これによって、従来のように境界部付近における配向方向の異なる繊維からなる界面がなくなるため、胴体部とドーム部との境界部付近におけるフープ層とヘリカル層との層間剥離を防止することができる。
【0008】
本発明に係る高圧タンクにおいて、前記樹脂部材は、ナイロンによってリング状に形成されていることが好ましい。ナイロンは、ライナとの剛性差が小さいため、ライナとフープ層及びヘリカル層との隙間を埋めることができる。しかも、ナイロンは比較的に安価であるため、高圧タンクの製造コストを削減することができる。
【0009】
本発明に係る高圧タンクにおいて、前記ヘリカル層は、前記ドーム部の形状に沿う曲面部を有し、前記胴体部の軸方向において、前記樹脂部材は、前記境界部から前記胴体部における前記曲面部のR止まりに対応する部分まで配置されていることが好ましい。従来のフープ層とヘリカル層の構造の場合、境界部から胴体部における曲面部のR止まりに対応する部分まではフープ層の厚さが変化する領域である。この厚さが変化する領域に樹脂部材を配置することにより、層間剥離防止効果を充分確保できるとともに、樹脂部材の配置による補強層の強度への影響を抑えることができる。
【0010】
また、本発明に係る高圧タンクの製造方法は、円筒状の胴体部と前記胴体部の軸方向の両端に設けられた一対のドーム部とを有するライナ、及び、前記ライナの外周面に設けられるとともに、樹脂部材とフープ層とヘリカル層とを有する補強層を備える高圧タンクの製造方法であって、前記樹脂部材が前記胴体部の外周面に周設される状態において、前記胴体部と前記ドーム部との境界部から前記胴体部の中央に向かって厚くなるように前記樹脂部材を製造する樹脂部材製造工程と、前記胴体部の外周面に該外周面の一部を覆う前記フープ層を形成するフープ層形成工程と、前記樹脂部材製造工程で製造された前記樹脂部材を、その厚さが最も厚い端部を前記フープ層形成工程で形成された前記フープ層の端部と当接するように、前記フープ層の両端部に配置する樹脂部材配置工程と、前記フープ層と、前記フープ層の両端に配置された前記樹脂部材と、前記一対のドーム部とを覆う前記ヘリカル層を形成するヘリカル層形成工程と、を含むことを特徴としている。
【0011】
本発明に係る高圧タンクの製造方法では、胴体部とドーム部との境界部から胴体部の中央に向かって厚くなるように樹脂部材を製造する樹脂部材製造工程と、胴体部の外周面の一部を覆うフープ層を形成するフープ層形成工程と、樹脂部材をその厚さが最も厚い端部をフープ層の端部と当接するようにフープ層の両端部に配置する樹脂部材配置工程と、フープ層と樹脂部材とドーム部とを覆うヘリカル層を形成するヘリカル層形成工程と、を含む。このように製造された高圧タンクにおいて、従来のように境界部付近における配向方向の異なる繊維からなる界面がないため、胴体部とドーム部との境界部付近におけるフープ層とヘリカル層との層間剥離を防止することができる。
【0012】
本発明に係る高圧タンクの製造方法において、前記フープ層形成工程は、予め製造されて固化された円筒状のフープ層用巻回体の中に前記ライナを挿入する工程であることが好ましい。このようにすれば、フープ層を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、胴体部とドーム部との境界部付近におけるフープ層とヘリカル層との層間剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】実施形態に係る高圧タンクの製造方法を説明するフロー図である。
【
図4】実施形態に係る高圧タンクの製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明に係る高圧タンク及びその製造方法の実施形態を説明する。以下の説明において、高圧タンク1は、燃料電池車両に搭載されて内部に高圧の水素ガスが充填される例として説明するが、その他の用途についても適用されてもよい。また、高圧タンク1に充填可能なガスとしては、高圧の水素ガスに限定されず、CNG(圧縮天然ガス)などの各圧縮ガス、LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)などの各種液化ガス、その他のガスが充填されてもよい。
【0016】
[高圧タンク]
まず、
図1及び
図2に基づいて高圧タンクを説明する。
図1は実施形態に係る高圧タンクを断面図であり、
図2は
図1のA部分を示す拡大図である。
図1に示すように、本実施形態の高圧タンク1は、両端がドーム状に丸みを帯びた略円筒形状の高圧ガス貯蔵容器であって、ガスバリア性を有するライナ2と、ライナ2の外面を覆う補強層3と、高圧タンク1の一端部に取り付けられた口金4と、を備えている。
【0017】
ライナ2は、高圧水素を貯留する貯留空間5を有する中空の容器であって、水素ガスに対するガスバリア性を有する樹脂材料などによって形成されている。このライナ2は、円筒状の胴体部21と、該胴体部21の軸方向(すなわち、高圧タンク1の軸L方向)の左右両側に設けられた一対のドーム部22とを有する。胴体部21は、高圧タンク1の軸L方向に沿って所定の長さで延在している。一対のドーム部22は、胴体部21の左右両側に連続して形成されており、胴体部21から遠ざかるに従ってそれぞれ縮径するように半球状を呈している。
【0018】
一対のドーム部22のうち、片方のドーム部22(
図1では左側のドーム部22)の頂部には開口部が形成され、該開口部には上述の口金4が装着されている。残りのドーム部22には開口部が形成されていない。
【0019】
ライナ2は、例えばポリエチレンやナイロンなどの樹脂部材を用いて回転・ブロー成形法によって一体的に形成されている。また、ライナ2は、回転・ブロー成形法のような一体成形の製造方法に代えて、射出・押出成形などにより複数に分割された部材を連結することにより形成されてもよい。更に、ライナ2は、樹脂部材に代えてアルミニウムなどの金属材料によって形成されてもよい。
【0020】
口金4は、ステンレスやアルミニウムなどの金属材料を所定形状に加工したものである。この口金4は、略円筒形状の口金本体部41と、ライナ2と補強層3との間に嵌入された鍔部42とを有する。口金4には、貯留空間5に対して水素ガスを充填及び排出するためのバルブ(図示せず)が取り付けられている。
【0021】
補強層3は、ライナ2を補強して高圧タンク1の剛性や耐圧性などの機械的強度を向上させる機能を有する層である。この補強層3は、胴体部21の外周面の両端部に周設される一対の樹脂リング31と、一対の樹脂リング31の間に配置されるとともに胴体部21の一部を覆うフープ層32と、一対の樹脂リング31、フープ層32及び一対のドーム部22を覆うヘリカル層33と、を有する。
【0022】
樹脂リング31は、特許請求の範囲に記載の「樹脂部材」に相当するものであって、胴体部21とドーム部22との境界部23から胴体部21の一部を覆うように形成されている。より具体的には、樹脂リング31は、高圧タンク1の軸L方向において、境界部23から胴体部21におけるヘリカル層33の曲面部332(後述する)のR止まりに対応する部分まで配置されている。そして、樹脂リング31の厚さは、境界部23から胴体部21の中央に向かって厚くなっている。
【0023】
樹脂リング31は、ライナ2との剛性差が小さい樹脂材料により形成されている。本実施形態では、樹脂リング31はナイロンにより形成されていることが好ましい。ナイロンは、ライナ2との剛性差が小さいため、後にヘリカル層33を形成した後に熱硬化する際に、ライナ2とフープ層32及びヘリカル層33との隙間を埋めることができる。また、ナイロンは比較的に安価であるため、高圧タンク1の製造コストを削減することができる。そして、ナイロンには繊維が含まれていない。なお、ここでいう剛性は、ライナ2の熱膨張率とヤング率のことを指す。
【0024】
フープ層32は、胴体部21の外周面のうち、左右一対の樹脂リング31の間の部分を覆うように形成されている。フープ層32は、繊維強化樹脂によって形成されている。ここでの繊維強化樹脂は、繊維に樹脂が含浸されてなるものであり、例えば直径が数μm程度の単繊維を束ねて構成されたものに、未硬化の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸させることにより形成されている。そして、単繊維としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、天然繊維、又は高強度ポリエチレン繊維などの繊維を挙げることができるが、軽量化や機械的強度等の観点から炭素繊維を用いることが好ましい。
【0025】
繊維強化樹脂に用いられる熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、及びエポキシ樹脂等が挙げられるが、機械的強度等の観点からエポキシ樹脂を用いることが好ましい。一般的に、エポキシ樹脂とは、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの共重合体等であるプレポリマーと、ポリアミン等である硬化剤と、を混合して熱硬化することで得られる樹脂である。エポキシ樹脂は、未硬化状態では流動性があり、熱硬化後は強靭な架橋構造を形成する。一方、繊維強化樹脂に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド等が挙げられる。
【0026】
このフープ層32は、例えば樹脂が含浸された繊維を胴体部21の外周面に直接フープ巻きすることによって形成されてもよい。フープ巻きとは、ライナ2の軸(すなわち、高圧タンク1の軸L)と繊維の巻き付け方向とがなす角度(いわゆる巻き角度)が略垂直になるように、繊維をライナ2の周方向に巻き付ける態様である。ここで、「略垂直」とは、90度と、繊維同士が重ならないように繊維の巻き付け位置をずらすことによって生じ得る90度前後の角度との両方を含むことを意味する。
【0027】
また、フープ層32は、例えばフープ巻きを用いて、樹脂が含浸された繊維を円筒状の型の外周面に巻回してフープ層用巻回体を作製し、作製されたフープ層用巻回体を固化させた後に、フープ層用巻回体の中にライナを挿入することにより形成されてもよい。
【0028】
なお、フープ層32の厚さは、樹脂リング31の最も大きい厚さと同じであることが好ましい。このようにすれば、樹脂リング31及びフープ層32の外側にヘリカル層33を形成する際に、厚さの違いに起因する隙間の発生を防止できる。
【0029】
ヘリカル層33は、一対の樹脂リング31、フープ層32及び一対のドーム部22を覆うように繊維強化樹脂によって形成されている。ヘリカル層33に用いられる繊維強化樹脂は、フープ層32に用いられる繊維強化樹脂と同じであっても良く、異なってもよいが、コスト削減の観点から同じであるのが好ましい。
【0030】
ヘリカル層33は、例えば一対の樹脂リング31、フープ層32及び一対のドーム部22を覆うように、樹脂が含浸された繊維をヘリカル巻きにすることによって形成されている。なお、ヘリカル巻きとは、ライナ2の軸と繊維の巻き付け方向とがなす角度(巻き角度)が0°より大きく90°未満になるように繊維を螺旋状に巻き付ける態様である。このヘリカル巻きは、巻き角度によって低角度ヘリカル巻きと高角度ヘリカル巻きに更に分けられる。
【0031】
低角度ヘリカル巻きは、すなわち巻き角度が小さい(例えば0°より大きく30°以下)場合のヘリカル巻きであり、繊維がライナ2の軸を一周する前にドーム部22における繊維の巻付方向の折り返しが生じる巻き付け態様である。高角度ヘリカル巻きは、すなわち巻き角度が大きい(例えば30°より大きく90°未満)場合のヘリカル巻きであり、ドーム部22における繊維の巻付方向の折り返しが生じるまでに、胴体部21において繊維がライナ2の軸を少なくとも一周する巻き付け態様である。
【0032】
このヘリカル層33は、ライナ2のドーム部22の形状に沿うように形成された左右一対の曲面部332と、左右一対の曲面部332を連結する直筒部331とを有する。
【0033】
本実施形態の高圧タンク1では、胴体部21とドーム部22との境界部23付近において、従来のフープ層とヘリカル層の構造に代えて、樹脂リング31とヘリカル層33の構造が用いられる。これによって、従来のように境界部付近における配向方向の異なる繊維からなる界面がなくなるめ、境界部23付近におけるフープ層32とヘリカル層33との層間剥離を防止することができる。その結果、従来の構造と比べてヘリカル層33の繊維の歪みを低減することができ、繊維摩耗を抑制することができる。
【0034】
なお、本実施形態において、境界部付近とは、胴体部21とドーム部22との境界部23からドーム部22側に向かうものではなく、境界部23から胴体部21の中央に向かって胴体部21の一部の領域を意味する。
【0035】
また、高圧タンク1の軸L方向において、樹脂リング31は、境界部23から胴体部21におけるヘリカル層33の曲面部332のR止まりに対応する部分まで配置されている。従来のフープ層とヘリカル層の構造では、境界部から胴体部における曲面部のR止まりに対応する部分まではフープ層の厚さが変化する領域である。この厚さが変化する領域に樹脂リング31を配置することで、層間剥離防止効果を充分確保できるとともに、樹脂リング31の配置による補強層3の強度への影響を抑えることができる。
【0036】
すなわち、樹脂リング31の配置位置が曲面部332のR止まりよりも境界部23側になる場合は、フープ層32の厚さが変化する部分が生じてしまうため、層間剥離防止効果が不充分の可能性がある。一方、樹脂リング31の配置位置が曲面部のR止まりを越える場合(すなわち、胴体部21の中央に近づく場合)は、樹脂リング31の配置による補強層3の強度への影響を与える可能性がある。このようなことを考慮し、境界部23から胴体部21におけるヘリカル層33の曲面部332のR止まりに対応する部分までの領域に樹脂リング31を配置することが好ましい。
【0037】
[高圧タンクの製造方法]
次に、
図3及び
図4を基に高圧タンク1の製造方法の実施形態を説明する。
図3は実施形態に係る高圧タンクの製造方法を説明するフロー図であり、
図4は実施形態に係る高圧タンクの製造方法を示す模式図である。高圧タンク1の製造方法は、ライナ製造工程S1と、フープ層用巻回体製造工程S2と、樹脂リング製造工程S3と、フープ層形成工程S4と、樹脂リング配置工程S5と、ヘリカル層形成工程S6とを含む。なお、ライナ製造工程S1、フープ層用巻回体製造工程S2、及び樹脂リング製造工程S3は、互いに独立した工程であるため、並行して行ってもよく、いずれの工程を先に行ってもよい。
【0038】
ライナ製造工程S1では、円筒状の胴体部21と該胴体部21の軸方向の両端に設けられた一対のドーム部22とを有するライナ2を製造する。具体的には、まず、ポリエチレンやナイロンなどの樹脂部材を用いて回転・ブロー成形法によりライナ2を一体的に形成する。次に、形成されたライナ2の一端部に口金4を装着する(
図4(a)参照)。
【0039】
フープ層用巻回体製造工程S2では、まず、円柱状のマンドレルの外周面に繊維強化樹脂からなるシートを、繊維がマンドレルの周方向に配向されるように巻き付けることで、フープ層32の中間体である円筒状のフープ層用巻回体30を形成する。次に、形成されたフープ層用巻回体30をマンドレルから取り外して固化させる(
図4(a)参照)。
【0040】
フープ層用巻回体30を固化させる(言い換えれば、繊維に含浸された樹脂を固化させる)方法としては、特に限定されるものではないが、含浸された樹脂が熱硬化性樹脂である場合、樹脂を予備硬化しても良い。予備硬化の条件(温度及び時間)は、含浸された樹脂の種類によって異なるが、樹脂の粘度が所定の型に巻回したときの粘度(予備硬化前の粘度)よりも高くなるように設定される。ここでは、予備硬化として、含浸された樹脂の流動性がなくなるまで行われる。一方、含浸された樹脂が熱可塑性樹脂である場合、樹脂が流動性を有した状態の繊維を冷却することによって、樹脂を固化させても良い。
【0041】
また、このフープ層用巻回体製造工程S2において、CW(Centrifugal Winding)法を用いて、回転する円筒金型の内面に樹脂が含浸された繊維シートを貼り付けることによりフープ層用巻回体30を形成しても良い。その際に用いられる繊維シートは、例えば円筒金型の周方向に配向された繊維を有するものである。
【0042】
樹脂リング製造工程S3では、製造される樹脂リング31が後にライナ2の胴体部21の外周面に周設される状態において、胴体部21とドーム部22との境界部23から胴体部21の中央に向かって徐々に厚くなるように、ナイロンを用いて射出成形で樹脂リング31を製造する(
図4(a)参照)。
【0043】
フープ層形成工程S4では、フープ層用巻回体製造工程S2で製造されて固化されたフープ層用巻回体30の中に、ライナ製造工程S1で製造されたライナ2を挿入することにより、フープ層32を形成する(
図4(b)参照)。
【0044】
樹脂リング配置工程S5では、フープ層形成工程S4で形成されたフープ層32の両端部に、樹脂リング製造工程S3で製造された樹脂リング31を配置する。その際に、樹脂リング31の最も厚い端部をフープ層32の端部に当接するように、樹脂リング31を胴体部21の外周面に嵌め込む(
図4(b)及び(c)参照)。また、樹脂リング31の位置ずれ等を防止するために、樹脂リング31の端部とフープ層32の端部とを接着剤で固定することが好ましい。
【0045】
ヘリカル層形成工程S6では、フープ層32と、フープ層32の両端に配置された樹脂リング31と、ライナ2の一対のドーム部22とを覆うヘリカル層を形成する。具体的には、まず、ヘリカル巻きを用いて、フープ層32、樹脂リング31及びドーム部22の全体を覆うように樹脂が含浸された繊維を巻回してヘリカル層用巻回体を形成する。次に、ヘリカル層用巻回体とフープ層32及び樹脂リング31とが形成されたライナ2を熱硬化炉に搬送し、熱硬化炉で例えば160℃で10分加熱することにより、繊維に含浸された樹脂を熱硬化させる。これによって、高圧タンク1が製造される。
【0046】
以上の製造方法により製造された高圧タンク1では、従来のように境界部付近における配向方向の異なる繊維からなる界面がないため、胴体部21とドーム部22との境界部23付近におけるフープ層32とヘリカル層33との層間剥離を防止することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0048】
例えば、上記の実施形態において、樹脂部材として樹脂リングを挙げて説明したが、樹脂リングのほか、例えばC字状の樹脂部材、あるいは複数の円弧状の樹脂部材を組み合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1:高圧タンク、2:ライナ、3:補強層、4:口金、5:貯留空間、21:胴体部、22:ドーム部、23:境界部、30:フープ層用巻回体、31:樹脂リング、32:フープ層、33:ヘリカル層、41:口金本体部、42:鍔部、331:直筒部、332:曲面部