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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/08 20200101AFI20240709BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240709BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B60W50/08
B60W60/00
G08G1/16 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021184407
(22)【出願日】2021-11-11
(65)【公開番号】P2023071550
(43)【公開日】2023-05-23
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土橋 孝平
(72)【発明者】
【氏名】堂上 靖史
(72)【発明者】
【氏名】山中 聡
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-079746(JP,A)
【文献】特開2020-001551(JP,A)
【文献】特開2019-119327(JP,A)
【文献】特開2019-119326(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0061299(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 50/08
B60W 60/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速、アクセルペダル位置、及び、前記アクセルペダル位置に対応して発生させるべき車両の前後加速度を目標加速度として規定した手動運転モード用駆動力特性に基づいて前記車両の駆動力を制御する手動運転モードと、運転者のアクセルペダルの操作に依存せずに自動制御で前記駆動力を制御する自動運転モードと、を切り替えて走行可能であり、前記自動運転モードから前記手動運転モードへ移行する際に、前記自動運転モードで発生させた駆動力から前記手動運転モードで発生させる駆動力へ向けて前記駆動力を変化させる駆動力制御装置であって、
前記自動運転モード中に前記運転者による前記アクセルペダルの操作によって加速要求があり、前記自動運転モードから前記手動運転モードへ移行する場合に、
前記車速、前記アクセルペダル位置、及び、前記車両に対する走行抵抗に応じて前記目標加速度を規定するオーバーライド用駆動力特性に基づいて前記駆動力を制御し、
前記オーバーライド用駆動力特性に基づいて前記駆動力を制御している前記自動運転モード中に前記手動運転モードへ切り替わった場合には、前記手動運転モードへ切り替わった後、前記手動運転モード中に前記アクセルペダル位置が全閉または全閉近傍になるまでの間、あるいは、前記オーバーライド用駆動力特性に基づいた前記駆動力と前記手動運転モード用駆動力特性に基づいた前記駆動力との差が所定値以下となるまでの間、前記オーバーライド用駆動力特性に基づいた前記駆動力の制御を継続し、その後、前記アクセルペダル位置が全閉または全閉近傍になった場合、あるいは、前記オーバーライド用駆動力特性に基づいた前記駆動力と前記手動運転モード用駆動力特性に基づいた前記駆動力との差が所定値以下になった場合に、前記手動運転モード用駆動力特性に変更することを特徴とする駆動力制御装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、オーバーライドを検知した場合に、運転者の加速意図を判断してモード移行用駆動力特性を設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-079746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、モード移行用駆動力特性から手動運転モード用駆動力特性に切り替えられた場合に、駆動力の急変が発生するといった問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、駆動力の急変による失速感の発生を抑制することができる駆動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る駆動力制御装置は、車速、アクセルペダル位置、及び、前記アクセルペダル位置に対応して発生させるべき車両の前後加速度を目標加速度として規定した手動運転モード用駆動力特性に基づいて前記車両の駆動力を制御する手動運転モードと、運転者のアクセルペダルの操作に依存せずに自動制御で前記駆動力を制御する自動運転モードと、を切り替えて走行可能であり、前記自動運転モードから前記手動運転モードへ移行する際に、前記自動運転モードで発生させた駆動力から前記手動運転モードで発生させる駆動力へ向けて前記駆動力を変化させる駆動力制御装置であって、前記自動運転モードから前記手動運転モードへ移行する場合に、前記車速、前記アクセルペダル位置、及び、前記車両に対する走行抵抗に応じて前記目標加速度を規定するオーバーライド用駆動力特性に基づいて前記駆動力を制御し、前記オーバーライド用駆動力特性に基づいて前記駆動力を制御している前記自動運転モード中に前記手動運転モードへ切り替わった場合には、前記手動運転モードへ切り替わった後の所定期間、前記オーバーライド用駆動力特性に基づいた前記駆動力の制御を継続することを特徴とするものである。
【0007】
これにより、オーバーライド用駆動力特性に基づいて駆動力を制御している自動運転モード中に手動運転モードに切り替えられた場合に、駆動力の急変による失速感の発生を抑制することができる。
【0008】
また、上記において、前記所定期間は、前記手動運転モード中に前記アクセルペダル位置が全閉または全閉近傍になるまでの間、あるいは、前記オーバーライド用駆動力特性に基づいた前記駆動力と前記手動運転モード用駆動力特性に基づいた前記駆動力との差が所定値以下となるまでの間であるようにしてもよい。
【0009】
これにより、駆動力が発生していない場合、または、駆動力変動が少ない状態で、駆動力特性を切り替えることによって、駆動力の急変を抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る駆動力制御装置は、オーバーライド用駆動力特性に基づいて駆動力を制御している自動運転モード中に手動運転モードに切り替えられた場合に、駆動力の急変による失速感の発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る車両のギヤトレーン及び制御系統の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る車両の制御系統の詳細を説明するための図である。
図3図3は、実施形態に係る車両のECUによって実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
図4図4は、本実施形態におけるオーバーライド用駆動力特性及び手動運転用駆動力特性のアクセルペダル位置と前後加速度との関係を示した図である。
図5図5は、本実施形態における時系列の挙動イメージを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る駆動力制御装置の一実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0013】
図1は、実施形態に係る車両100のギヤトレーン及び制御系統の一例を示す図である。実施形態に係る車両100は、従来の一般的な車両と同様に、運転者の運転操作に従って走行する手動運転モードと、運転者の運転操作には依存せずに、運転操作を自動制御することによって走行する自動運転モードとを切り替えることが可能なように構成されている。具体的には、図1に示すように、車両100は、主要な構成要素として、駆動力源1、駆動輪2、アクセルペダル3、及び、ECU(Electronic Control Unit)4などを備えている。
【0014】
駆動力源1は、車両100を走行させるための駆動トルクを出力する動力源である。駆動力源1は、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関であり、出力の調整、並びに、始動及び停止などの作動状態が電気的に制御されるように構成されている。ガソリンエンジンであれば、スロットルバルブの開度、燃料の供給量または噴射量、点火の実行及び停止、並びに、点火時期などが電気的に制御される。あるいは、ディーゼルエンジンであれば、燃料の噴射量、燃料の噴射時期、または、EGRシステムにおけるスロットルバルブの開度などが電気的に制御される。
【0015】
また、駆動力源1は、例えば、永久磁石式の同期モータ、もしくは、誘導モータなどの電気モータであってもよい。その場合の電気モータは、例えば、電力が供給されることにより駆動されてモータトルクを出力する原動機としての機能と、外部からのトルクを受けて駆動されることにより電気を発生する発電機としての機能とを兼ね備えた、いわゆるモータ・ジェネレータであってもよい。モータ・ジェネレータであれば、回転数やトルク、あるいは、原動機としての機能と発電機としての機能との切り替えなどが電気的に制御される。
【0016】
駆動輪2は、駆動力源1が出力する駆動トルクが伝達されて駆動力を発生する。図1には、前輪が駆動輪2となる前輪駆動車の構成を示している。なお、実施形態に係る車両100としては、後輪が駆動輪となる後輪駆動車であってもよいし、前輪及び後輪の両方を駆動輪とする四輪駆動車であってもよい。また、駆動力源1としてエンジンを搭載する場合は、エンジンの出力側に変速機を設け、駆動力源1が出力する駆動トルクを変速機で増減して駆動輪2へ伝達するように構成してもよい。駆動輪2を含む各車輪には、それぞれ、制動装置が設けられている。さらに、前輪もしくは後輪の少なくともいずれか一方には、車両100の操舵を行う操舵装置が設けられている。
【0017】
車両100では、運転者による加速要求操作、すなわち、運転者によるアクセルペダル操作(アクセルペダル3の踏み込み操作、及び、アクセルペダル3の踏み戻し操作)の操作量、及び、車速に基づいて、車両100の駆動力あるいは加速度が制御される。例えば、アクセルペダル3の操作量、もしくは、アクセルペダル位置、及び、車速に基づく目標加速度を設定し、その目標加速度を実現するように、ECU4が駆動力源1の出力を制御する。
【0018】
アクセルペダル3は、運転者の加速要求操作によって車両100の駆動力を調整し、車両100の加速度を制御するために用いられる。そのため、このアクセルペダル3には、後述する内部センサ13の一つとして、運転者によるアクセルペダル3の操作量を検出するためのアクセルポジションセンサが設けられている。アクセルポジションセンサにより、アクセルペダル3の操作量、もしくは、アクセルペダル位置(アクセルペダル開度、あるいは、アクセルペダル3の踏み込み角度等)を検出することができる。
【0019】
ECU4は、例えば、マイクロコンピュータを主体にして構成される電子制御装置であって、車両100の駆動力を制御する駆動力制御装置として機能する。ECU4には、後述する外部センサ11、GPS受信部12、内部センサ13、地図データベース14、及び、ナビゲーションシステム15などからの各種データが入力される。また、車両間通信システムからのデータが入力されるように構成することもできる。ECU4は、入力された各種データ及び予め記憶させられているデータや計算式等を使用して演算を行う。それと共に、その演算結果を制御指令信号として出力し、車両100を制御するように構成されている。
【0020】
例えば、ECU4は、アクセルポジションセンサで検出されるアクセルペダル位置をはじめとする各種データを取得する。それと共に、取得した各種データに基づいて、車両100の目標加速度あるいは目標駆動トルクを算出する。そして、算出した目標加速度あるいは目標駆動トルクに基づいて、車両100に発生させる前後加速度を制御する。すなわち、目標加速度を実現する駆動力を制御するための制御指令信号を出力する。
【0021】
したがって、ECU4は、検出されたアクセルペダル位置に基づいて、目標加速度を設定し、その目標加速度を実現するように、車両100の駆動力及び制動力を制御する。具体的には、駆動力源1の出力を制御する。すなわち、車両100の駆動力制御を実行する。なお、図1では一つのECU4が設けられた例を示しているが、ECU4は、制御する装置や機器毎に、あるいは制御内容毎に、複数設けられていてもよい。例えば、ECU4を、車両100を統合的に制御するメインコントローラとし、ECU4と連携して、駆動力源1や変速機などを専門的に制御するサブコントローラが別途設けられていてもよい。
【0022】
実施形態に係る車両100は、車両100の運転操作を自動制御して走行させる自動運転(自動運転モードにおける走行)が可能である。本実施形態において定義している自動運転とは、走行環境の認識や周辺状況の監視、並びに、発進・加速、操舵、及び、制動・停止などの全ての運転操作を、全て車両100の制御システムが行う自動運転である。例えば、NHTSA[米国運輸省道路交通安全局]が策定した自動化レベルにおける「レベル4」、あるいは、米国のSAE[Society of Automotive Engineers]が策定した自動化レベルにおける「レベル4」及び「レベル5」に該当する高度自動運転もしくは完全自動運転である。車両100は、例えば、SAEの自動化レベルにおける「レベル4」で定義されているように、自動運転で走行する自動運転モードと、運転操作を運転者が行う手動運転モードとを選択できる構成であってもよい。
【0023】
上記のような自動運転を実施するECU4の具体例を、図2に示している。図2は、実施形態に係る車両100の制御系統の詳細を説明するための図である。
【0024】
ECU4には、外部センサ11、GPS受信部12、内部センサ13、地図データベース14、及び、ナビゲーションシステム15などからの検出信号や情報信号が入力されるように構成されている。
【0025】
外部センサ11は、車両100の外部における走行環境や周辺状況を検出する。外部センサ11としては、例えば、車載カメラ、RADAR(Radio Detection and Ranging)、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、及び、超音波センサなどが設けられている。外部センサ11として、上記の各センサの全てが設けられていてもよく、あるいは、上記の各センサのうちの少なくとも1つが設けられた構成であってもよい。
【0026】
例えば、車載カメラは、車両100の前方及び側方に設置され、車両100の外部状況に関する撮像情報をECU4に送信する。車載カメラは、単眼カメラであってもよく、あるいはステレオカメラであってもよい。単眼カメラは、ステレオカメラと比較して、小型で低コストであり、車両100への取り付けが容易である。ステレオカメラは、両眼視差を再現するように配置された複数の撮像部を有している。ステレオカメラの撮像情報によれば、認識対象物の奥行き方向の情報も得ることができる。
【0027】
RADARは、ミリ波やマイクロ波などの電波を利用して車両100の外部の他車両や障害物等を検出し、その検出データをECU4に送信する。例えば、電波を車両100の周囲に放射し、他車両や障害物等に当たって反射された電波を受信して測定・分析することにより、他車両や障害物等を検出するように構成されている。
【0028】
LIDAR(もしくは、レーザーセンサ、レーザースキャナー)は、レーザー光を利用して車両100の外部の他車両や障害物等を検出し、その検出データをECU4に送信する。例えば、レーザー光を車両100の周囲に放射し、他車両や障害物等に当たって反射されたレーザー光を受光して測定・分析することにより、他車両や障害物等を検出するように構成されている。
【0029】
超音波センサは、超音波を利用して車両100の外部の他車両や障害物等を検出し、その検出データをECU4に送信する。例えば、超音波を車両100の周囲に放射し、他車両や障害物等に当たって反射された超音波を受信して測定・分析することにより、他車両や障害物等を検出するように構成されている。
【0030】
GPS受信部12は、複数のGPS(Global Positioning System)衛星からの電波を受信することにより、車両100の位置(例えば、車両100の緯度及び経度)を測定し、その位置情報をECU4に送信する。
【0031】
内部センサ13は、車両100の走行状態及び各部の作動状態や挙動等を検出する。内部センサ13は、少なくとも、アクセルペダル3の操作量もしくはアクセルペダル位置を検出するアクセルポジションセンサを有している。その他に、主な内部センサ13としては、一例として、車速を検出するための車輪速センサ、駆動力源1の出力軸の回転数を検出する回転数センサ(駆動力源として電気モータを搭載する場合、レゾルバ)、スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ、ブレーキペダルの操作量(操作状態)を検出するブレーキストロークセンサ(ブレーキスイッチ)、車両100の加速度を検出する加速度センサ、及び、操舵装置の舵角を検出する舵角センサなどが設けられている。内部センサ13は、ECU4と電気的に接続されており、上記のような各種センサや機器・装置等の検出値または算出値に応じた電気信号を検出データとしてECU4に出力する。
【0032】
地図データベース14は、地図情報を蓄積したデータベースであり、例えば、ECU4内に形成されている。あるいは、車両100と通信可能な情報処理センタなどの外部施設のコンピュータに記憶されたデータを利用することもできる。
【0033】
ナビゲーションシステム15は、GPS受信部12が測定した車両100の位置情報と、地図データベース14の地図情報とに基づいて、車両100の走行ルートを算出するように構成されている。
【0034】
上記のような外部センサ11、GPS受信部12、内部センサ13、地図データベース14、及び、ナビゲーションシステム15などからの検出データや情報データが、ECU4に入力される。そして、ECU4は、入力された各種データ及び予め記憶させられているデータ等を使用して演算を行い、その演算結果を基に、車両100各部のアクチュエータ16及び補助機器17などに対して、制御指令信号を出力するように構成されている。
【0035】
アクチュエータ16は、車両100を自動運転で走行させる際に、車両100の発進・加速、操舵、及び、制動・停止などの運転操作に関与し、駆動力源1、制動装置、及び、操舵装置などを制御するための作動装置である。主なアクチュエータ16としては、例えば、スロットルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、及び、操舵アクチュエータなどが設けられている。
【0036】
例えば、スロットルアクチュエータは、ECU4から出力される制御信号に応じてエンジンのスロットルバルブの開度や、電気モータに対する供給電力を制御するように構成されている。ブレーキアクチュエータは、ECU4から出力される制御信号に応じて制動装置を作動させ、各車輪へ付与する制動力を制御するように構成されている。操舵アクチュエータは、ECU4から出力される制御信号に応じて電動パワーステアリング装置のアシストモータを駆動し、操舵装置における操舵トルクを制御するように構成されている。
【0037】
補助機器17は、上記のアクチュエータ16に含まれない機器あるいは装置であり、例えば、ワイパー、前照灯、方向指示器、エアコンディショナ、及び、オーディオ装置など、車両100の運転操作に直接的には関与しない機器・装置である。
【0038】
さらに、ECU4は、車両100を自動運転モードで走行させるための主な制御部として、例えば、車両位置認識部18、外部状況認識部19、走行状態認識部20、走行計画生成部21、走行制御部22、及び、補助機器制御部23などを有している。
【0039】
車両位置認識部18は、GPS受信部12で受信した車両100の位置情報及び地図データベース14の地図情報に基づいて、地図上における車両100の現在位置を認識するように構成されている。なお、ナビゲーションシステム15で用いられる車両100の位置を、そのナビゲーションシステム15から得ることもできる。あるいは、道路上や道路脇の外部に設置されたセンサやサインポスト等で車両100の位置を測定可能な場合は、そのセンサとの通信によって現在位置を得ることもできる。
【0040】
外部状況認識部19は、例えば、車載カメラの撮像情報やRADARもしくはLIDARの検出データに基づいて、車両100の外部状況を認識するように構成されている。外部状況としては、例えば、走行車線の位置、道路幅、道路の形状、路面勾配、及び、車両周辺の障害物に関する情報等が得られる。また、走行環境として車両100周辺の気象情報や路面の摩擦係数などを検出してもよい。
【0041】
走行状態認識部20は、内部センサ13の各種検出データに基づいて、車両100の走行状態を認識するように構成されている。車両100の走行状態としては、例えば、車速、前後加速度、横加速度、及び、ヨーレートなどが入力される。
【0042】
走行計画生成部21は、例えば、ナビゲーションシステム15で演算された目標ルート、車両位置認識部18で認識された車両100の現在位置、及び、外部状況認識部19で認識された外部状況等に基づいて、車両100の進路を生成するように構成されている。進路は、目標ルートに沿って車両100が進行する経路である。また、走行計画生成部21は、目標ルート上で、安全に走行すること、法令を順守して走行すること、及び、効率よく走行すること等の基準に沿って、車両100が適切に走行することができるように進路を生成する。そして、走行計画生成部21は、生成した進路に応じた走行計画を生成するように構成されている。具体的には、少なくとも、外部状況認識部19で認識された外部状況及び地図データベース14の地図情報に基づいて、予め設定された目標ルートに沿った走行計画が生成される。
【0043】
走行計画は、車両100の将来の駆動力要求を含む車両の走行状態を設定したものであり、例えば、現在時刻から数秒先の将来のデータが生成される。また、車両100の外部状況や走行状況によっては、現在時刻から数十秒先の将来のデータが生成される。走行計画は、例えば、目標ルートに沿った進路を車両100が走行する際に、車速、加速度、及び、操舵トルク等の推移を示すデータとして走行計画生成部21から出力される。
【0044】
また、走行計画は、車両100の速度パターン、加速度パターン、及び、操舵パターンとして走行計画生成部21から出力することもできる。速度パターンとは、例えば、進路上に所定間隔で設定された目標制御位置に対して、目標制御位置毎に時間に関連付けられて設定された目標車速からなるデータである。加速度パターンとは、例えば、進路上に所定間隔で設定された目標制御位置に対して、目標制御位置毎に時間に関連付けられて設定された目標加速度からなるデータである。操舵パターンとは、例えば、進路上に所定間隔で設定された目標制御位置に対して、目標制御位置毎に時間に関連付けられて設定された目標操舵トルクからなるデータである。
【0045】
走行制御部22は、走行計画生成部21で生成された走行計画に基づいて、車両100の走行を自動で制御するように構成されている。具体的には、走行計画に応じた制御信号が、スロットルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、及び、操舵アクチュエータ等のアクチュエータ16に対して出力される。また、駆動力源1に対して、上記のような走行計画に応じた制御信号が出力されてもよい。
【0046】
補助機器制御部23は、走行計画生成部21で生成された走行計画に基づいて、補助機器17を自動で制御するように構成されている。具体的には、走行計画に応じた制御信号が、必要に応じて、ワイパー、前照灯、方向指示器、エアコンディショナ、オーディオ装置等の補助機器17に対して出力される。
【0047】
なお、上述したような走行計画に基づいて車両100を自動運転モードで走行させる制御に関しては、例えば、特開2016-99713号公報に記載されている。この車両100は、特開2016-99713号公報に記載されている内容や、その他の自動運転に関する制御技術を適用して、上述した高度自動運転あるいは完全自動運転による走行が可能なように構成されている。
【0048】
実施形態に係る車両100のECU4は、運転者の加速意図や減速意図を反映させ、運転者にショックや違和感を感じさせ難くし、自動運転モードから手動運転モードへの運転モードの切り替えを適切に行うように構成されている。なお、通常、手動運転モードでは、アクセルペダル位置(アクセルペダル3の操作量)、及び、そのアクセルペダル位置に対応して発生させるべき車両100の前後加速度を目標加速度として規定した手動運転モード用駆動力特性に基づいて駆動力制御がECU4によって実行される。
【0049】
例えば、ECU4は、自動運転モード中に運転者の加速要求がありオーバーライドを実行するときに、車両走行状態(車速や走行抵抗(路面勾配)など)、及び、運転者の意図(アクセルペダル位置(アクセルペダル3の操作量)や、内部センサ13に含まれる車内カメラなどによって撮影した運転者の身体や目線の動きなど)に基づいて、駆動力特性を自動運転モード用駆動力特性からオーバーライド用駆動力特性に変更する。なお、オーバーライド用駆動力特性は、車両100の走行状態及び運転者の意図に基づいて、オーバーライド中の駆動力特性を定めるものである。具体的には、オーバーライド用駆動力特性は、車速と、アクセルペダル位置(アクセルペダル3の操作量)と、車両100に対する走行抵抗とに応じて、アクセルペダル位置に対応して発生させるべき車両100の前後加速度を、目標加速度として規定する。したがって、オーバーライド中は、オーバーライド用駆動力特性に基づいて目標加速度が算出され、そのオーバーライド用駆動力特性から算出された目標加速度を基に、車両100の駆動力制御がECU4によって実行される。
【0050】
このように、自動運転モード中に運転者の加速要求がありオーバーライドを実行するときに、駆動力特性をオーバーライド用駆動力特性に変更することによって、自動運転モード中でも運転者の加速意図を反映した車両挙動を速やかに実現することができる。特に、運転者が加速意図の場合には、失速感を与えないように自動運転モード用駆動力特性と調停することによって、運転者の意図を反映した車両挙動を実現することができる。その結果、オーバーライドをスムースに開始することができる。
【0051】
また、本実施形態においては、車速やアクセルペダル位置、手動運転モード用駆動力特性との関係などの情報に基づいて、オーバーライド用駆動力特性を手動運転モード用駆動力特性に変更する。これにより、オーバーライド用駆動力特性を手動運転モード用駆動力特性へ、運転者に違和感を与えず切り替えることができる。
【0052】
一方で、オーバーライド中に自動運転モードが解除された場合には、オーバーライド用駆動力特性から手動運転モード用駆動力特性に変更しないようにしている。これにより、オーバーライド中に自動運転モードが解除されても、運転者に増速感や失速感を与えずに手動運転モードに切り替えることができる。
【0053】
図3は、実施形態に係る車両100のECU4によって実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。図3に示すフローチャートに示す制御は、車両100が自動運転モードで走行している場合に数[ms]毎に繰り返し実行する。
【0054】
まず、ECU4は、駆動力特性がオーバーライド用駆動力特性であるか否かを判断する(ステップS1)。ECU4は、駆動力特性がオーバーライド用駆動力特性であると判断した場合(ステップS1にてYes)、手動運転モード用駆動力特性への変更条件成立か否かを判断する(ステップS2)。ECU4は、手動運転モード用駆動力特性への変更条件成立と判断した場合(ステップS2にてYes)、手動運転モード用駆動力特性に変更する(ステップS3)。その後、ECU4は、一連の制御をリターンする。
【0055】
また、ECU4は、ステップS2において、手動運転モード用駆動力特性への変更条件成立ではないと判断した場合(ステップS2にてNo)、駆動力特性の変更を行わずに、一連の制御をリターンする。
【0056】
また、ECU4は、ステップS1において、駆動力特性がオーバーライド用駆動力特性ではないと判断した場合(ステップS1にてNo)、自動運転モード中であるか否かを判断する(ステップS4)。ECU4は、自動運転モード中であると判断した場合(ステップS4にてYes)、オーバーライド用駆動力特性への変更条件成立か否かを判断する(ステップS5)。ECU4は、オーバーライド用駆動力特性への変更条件成立と判断した場合(ステップS5にてYes)、オーバーライド用駆動力特性に変更する(ステップS6)。その後、ECU4は、一連の制御をリターンする。
【0057】
また、ECU4は、ステップS4において、自動運転モード中ではないと判断した場合(ステップS4にてNo)、車両100が通常の手動運転モードで走行するように制御して、一連の制御をリターンする。
【0058】
また、ECU4は、ステップS5において、オーバーライド用駆動力特性への変更条件成立ではないと判断した場合(ステップS5にてNo)、駆動力特性の変更を行わず、車両100が通常の自動運転モードで走行するように制御して、一連の制御をリターンする。
【0059】
ここで、本実施形態では、図3に示したフローチャートにおいて、ECU4が、スタートからリターンまで、ステップS1(ステップS1にてNo)、ステップS4(ステップS4にてYes)、ステップS5(ステップS5にてYes)、ステップS6の順で実施する処理の流れをフロー1とする。また、図3に示したフローチャートにおいて、ECU4が、スタートからリターンまで、ステップS1(ステップS1にてYes)、ステップS2(ステップS2にてYes)、ステップS3の順で実施する処理の流れをフロー2とする。また、ECU4が、スタートからリターンまで、ステップS1(ステップS1にてYes)、ステップS2(ステップS2にてNo)の順で実施する処理の流れをフロー3とする。
【0060】
本実施形態においては、図3に示したフローチャートにおいて、フロー1が成立し、駆動力特性をオーバーライド用駆動力特性に変更後、オーバーライド用駆動力特性に変更したまま自動運転モードの解除が実施された場合、駆動力の低下による失速感が発生してしまうフロー2ではなく、オーバーライド用駆動力特性を継続するフロー3が成立するような手動運転モード用駆動力特性への変更条件とする。これは、自動運転モードが解除されてもオーバーライド用駆動力特性を継続するような変更条件とすればよく、例えば、アクセルペダル位置が全閉または全閉近傍になった場合、あるいは、オーバーライド用駆動力特性に基づいた駆動力と手動運転モード用駆動力特性に基づいた駆動力との差(駆動力差)が所定値以下になった場合にのみ、手動運転モード用駆動力特性に変更する。
【0061】
図4は、本実施形態におけるオーバーライド用駆動力特性及び手動運転用駆動力特性のアクセルペダル位置と前後加速度との関係を示した図である。なお、図4中、アクセルペダル位置が0のときが全閉(アクセル開度が全閉)であり、アクセルペダル位置が100のときが全開(アクセル開度が全開)である。図5は、本実施形態における時系列の挙動イメージを示した図である。
【0062】
実施形態に係る車両100のECU4は、図4及び図5に示すように、前記フロー1の成立により駆動力特性をオーバーライド用駆動力特性に変更後、手動運転モード用駆動力特性に変更されることなく自動運転モードが解除された場合には、そのままオーバーライド用駆動力特性に基づいて駆動力を演算する。
【0063】
すなわち、ECU4は、オーバーライド用駆動力特性に基づいて駆動力を制御している自動運転モード中に手動運転モードへ切り替わった場合に、手動運転モードへ切り替わった後の所定期間、オーバーライド用駆動力特性に基づいた駆動力の制御を継続する。これにより、オーバーライド用駆動力特性に基づいて駆動力を制御している自動運転モード中(オーバーライド中)に手動運転モードに切り替えられた場合に、駆動力の急変による失速感の発生を抑制することができる。
【0064】
なお、前記所定期間としては、手動運転モード中にアクセルペダル位置が全閉または全閉近傍になるまでの間、あるいは、オーバーライド用駆動力特性に基づいた駆動力と手動運転モード用駆動力特性に基づいた駆動力との差(駆動力差)が所定値以下となるまでの間とする。これにより、駆動力が発生していない場合、または、駆動力変動が少ない状態で、駆動力特性を切り替えることによって、駆動力の急変を抑えることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 駆動力源
2 駆動輪
3 アクセルペダル
4 ECU
11 外部センサ
12 GPS受信部
13 内部センサ
14 地図データベース
15 ナビゲーションシステム
16 アクチュエータ
17 補助機器
18 車両位置認識部
19 外部状況認識部
20 走行状態認識部
21 走行計画生成部
22 走行制御部
23 補助機器制御部
100 車両
図1
図2
図3
図4
図5