IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

特許7517322赤外発光化合物、それを含有する発光性薄膜、発光性粒子、波長変換膜及び赤外発光面光源
<>
  • 特許-赤外発光化合物、それを含有する発光性薄膜、発光性粒子、波長変換膜及び赤外発光面光源 図1
  • 特許-赤外発光化合物、それを含有する発光性薄膜、発光性粒子、波長変換膜及び赤外発光面光源 図2
  • 特許-赤外発光化合物、それを含有する発光性薄膜、発光性粒子、波長変換膜及び赤外発光面光源 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】赤外発光化合物、それを含有する発光性薄膜、発光性粒子、波長変換膜及び赤外発光面光源
(51)【国際特許分類】
   C09B 57/00 20060101AFI20240709BHJP
   C09B 23/06 20060101ALI20240709BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240709BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C09B57/00 X CSP
C09B23/06
C09K11/06
C09K11/06 620
C09K11/06 655
C09K11/06 660
G02B5/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021502174
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007000
(87)【国際公開番号】W WO2020171199
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019030899
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 康生
(72)【発明者】
【氏名】植田 則子
(72)【発明者】
【氏名】巽 大樹
(72)【発明者】
【氏名】中林 亮
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207776(WO,A1)
【文献】特開2009-263614(JP,A)
【文献】国際公開第2018/186462(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054627(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/171199(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 57/00
C09B 23/06
C09K 11/06
G02B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2a)で表される構造を有することを特徴とする赤外発光化合物。
【化1】
(一般式(2a)において、
環D及び環Eは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール環を表す。
Zは、下記式(Z)又は置換基を表し、少なくとも一つは、下記式(Z)を表す。)
【化2】
(式(Z)において、Ar及び環Aは、それぞれ独立に、アリール環、ヘテロアリール環又はそれらの縮合環を表す。
Ar及び環Aは、置換基として、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アリール基又はヘテロアリール基を有していてもよい。
は、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくは環Aが有する前記置換基と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
Arと環Aの二面角は、45度以上である
太線は、単結合又は二重結合を表す。
*は、一般式(2a)のNとの結合部位を表す。)
【請求項2】
前記一般式(2a)で表される構造が、下記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載の赤外発光化合物。
【化3】
(一般式(2b)において、環H及び環Iは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール環を表す。
22~R24、R32~R34、R42~R44、R52~R54及びR63~R66は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
aは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR22と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
aは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR24と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
bは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR32と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
bは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR34と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
cは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR42と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
cは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR44と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
dは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR52と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
dは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR54と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
【請求項3】
前記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、前記Ra~Rd及びRa~Rdは同一であることを特徴とする請求項2に記載の赤外発光化合物。
【請求項4】
前記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、前記環Hと環Iは同一で、ヒドロキシ基を有するアリール基を表し、前記Ra~Rd及びRa~Rdは、同一のイソプロピル基又は2-エチルヘキシル基を表し、前記R23、R33、R43及びR53は、それぞれRa~Rd及びRa~Rdと同一又は水素原子を表し、前記R22、R24、R32、R34、R42、R44、R52及びR54は、水素原子を表すことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の赤外発光化合物。
【請求項5】
前記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、環Hと環Iは同一で、ヒドロキシ基を有するアリール基を表し、前記RaはR22と、RaはR24と、RbはR32と、RbはR34と、RcはR42と、RcはR44と、RdはR52と、RdはR54と、それぞれ結合し、炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成していることを特徴とする請求項2に記載の赤外発光化合物。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の赤外発光化合物を含有することを特徴とする発光性薄膜。
【請求項7】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の赤外発光化合物を含有することを特徴とする発光性粒子。
【請求項8】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の赤外発光化合物を含有することを特徴とする波長変換膜。
【請求項9】
請求項8に記載の波長変換膜を具備することを特徴とする赤外発光面光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外発光化合物、それを含有する発光性薄膜、発光性粒子、波長変換膜及び赤外発光面光源に関し、より詳しくは、長波長の発光と高い発光量子収率を可能とする赤外発光化合物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外発光材料は、赤外線カメラ、生体イメージング、生体センシング及び赤外線通信などへの利用の観点から大きく注目を集めている。例えば、生体センシングの一つであるパルスオキシメーターは、血中の酸素飽和度を算出するのに赤外光を用いている(非特許文献1参照)。また、有機太陽電池の増感剤として研究されている(非特許文献2参照)。こうした赤外光の利用分野拡大に伴い、赤外発光材料に求められる性能に関して、要求は厳しくなっている。
【0003】
例えば、用途により適した発光波長は様々だが、生体センシングに使用する場合、波長650~900nmの「生体の窓」と呼ばれる生体を透過しやすい波長帯に高い輝度を持つ材料が好ましく用いられる。外部から光励起する際は、モル吸光係数が高く、発光波長がより長波長で、かつ高い発光量子収率を有する赤外発光化合物が求められている。
【0004】
しかし、赤外発光する化合物は、励起状態と基底状態のエネルギー差が小さいため無輻射失活が生じやすく、可視光発光の蛍光材料と比較して発光量子収率が低いという問題を一般的に有している。発光波長が長波長になるほど、発光量子収率低下の傾向はより顕著になる。非特許文献3では、赤外発光の有機色素を用いた有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)においても、発光波長が長波長になるにしたがって、蛍光色素の低量子収率に起因する外部量子効率の低下が示されている。
赤外発光の長波化と発光量子収率の向上に関する報告例は少ない。赤外発光を示す蛍光色素の例として、非特許文献2には、下記構造を有するスクアリリウム化合物R-1~R-3が記載されている。
【0005】
【化1】
【0006】
R-1の溶液(トルエン)中の極大発光波長は721nmで発光量子収率66%であるのに対し、R-2は750nmまで長波長化するが発光量子収率は半減以下の29%、R-3では786nmの極大発光波長であるが発光量子収率は2%と激減している。いかに赤外領域での長波長発光と高い量子収率を両立することが困難であるかということが開示されている。
【0007】
生体窓と呼ばれる650~900nmの近赤外光中でも、900nmにより近づくにつれ近赤外光の生体透過性が増すことが知られており、光治療や静脈認証といった用途で、とりわけ、750nmを越える極大発光長波長を有し、かつ高い発光量子収率を両立することが可能な赤外発光化合物が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】T.Yamanaka,et.al.,Applied Physics Express 10, 074101 (2017).
【文献】S.Wang,et al.,Chem.Mater,2011,23,4789.
【文献】D.H.Kim,et al.,Nat.Photon.2018,12,98.の Suppleymentary Fig.S1b.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、長波長の発光と高い発光量子収率を可能とする赤外発光化合物を提供することである。また、それを含有する発光性薄膜、発光性粒子、波長変換膜及び当該波長変換膜を具備する赤外発光面光源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において赤外発光化合物に、特定の置換基を導入することで、上記課題を解決できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0011】
1.下記一般式(2a)で表される構造を有することを特徴とする赤外発光化合物。
【0012】
【化4】
【0013】
(一般式(2a)において、
環D及び環Eは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール環を表す。
Zは、下記式(Z)又は置換基を表し、少なくとも一つは、下記式(Z)を表す。)
【0027】
【化6】
【0028】
(式(Z)において、Ar及び環Aは、それぞれ独立に、アリール環、ヘテロアリール環又はそれらの縮合環を表す。
Ar及び環Aは、置換基として、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アリール基又はヘテロアリール基を有していてもよい。
は、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくは環Aが有する前記置換基と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
Arと環Aの二面角は、45度以上である
太線は、単結合又は二重結合を表す。
*は、一般式(2a)のNとの結合部位を表す。)
【0029】
.前記一般式(2a)で表される構造が、下記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物であることを特徴とする第1項に記載の赤外発光化合物。
【0030】
【化7】
【0031】
(一般式(2b)において、環H及び環Iは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール環を表す。
22 ~R 24 、R 32 ~R 34 、R 42 ~R 44 、R 52 ~R 54 及びR 63 ~R 66 は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
aは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR 22 と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
aは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR 24 と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
bは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR 32 と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
bは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR 34 と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
cは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR 42 と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
cは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR 44 と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
dは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR 52 と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
dは、イソプロピル基又は2-エチルヘキシル基であるか、若しくはR 54 と結合して炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成している。
【0032】
.前記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、前記Ra~Rd及びRa~Rdは同一であることを特徴とする第項に記載の赤外発光化合物。
【0033】
.前記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、前記環Hと環Iは同一で、ヒドロキシ基を有するアリール基を表し、前記R a~R d及びR a~R dは、同一のイソプロピル基又は2-エチルヘキシル基を表し、前記R23、R33、R43及びR53は、それぞれRa~Rd及びRa~Rdと同一又は水素原子を表し、前記R22、R24、R32、R34、R42、R44、R52及びR54は、水素原子を表すことを特徴とする第項又は第項に記載の赤外発光化合物。
【0034】
.前記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、環Hと環Iは同一で、ヒドロキシ基を有するアリール基を表し、前記RaはR22と、RaはR24と、RbはR32と、RbはR34と、RcはR42と、RcはR44と、RdはR52と、RdはR54と、それぞれ結合し、炭素鎖で5員環又は6
員環構造を形成していることを特徴とする第項に記載の赤外発光化合物。
【0035】
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の赤外発光化合物を含有することを特徴とする発光性薄膜。
【0036】
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の赤外発光化合物を含有することを特徴とする発光性粒子。
【0037】
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の赤外発光化合物を含有することを特徴とする波長変換膜。
【0038】
.第項に記載の波長変換膜を具備することを特徴とする赤外発光面光源。
【発明の効果】
【0039】
本発明の上記手段により、長波長の発光と高い発光量子収率を可能とする赤外発光化合物を提供することができる。また、それを含有する発光性薄膜、発光性粒子、波長変換膜及び当該波長変換膜を具備する赤外発光面光源を提供することができる。本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0040】
前記スクアリリウム化合物R-1を、R-2及びR-3のように発光を長波長化させると、極端に発光量子収率が低下する。赤外領域の発光での励起状態は基底状態とのエネルギー差が小さいため、分子の結合の伸縮や振動による無輻射失活の影響が大きくなるためである。本発明では、分子の安定構造に2面角を生じることのできる特定の芳香環を有する置換基を赤外発光部位に導入することにより、分子振動を抑制しながらπ共役系を拡張すること、つまり、赤外領域において高発光量子収率と長波長化発光とを両立できることを見いだした。分子の安定構造に2面角を生じさせることにより、一般式(1a)のAr基と環Aとの間の回転・動きを抑制することで、無輻射失活が抑制されていると推察している。さらに、2面角を生じさせる基と2面角を作るπ共役基(一般式(1a)のAr基)との間で、σ-π共役を形成させることでπ共役系を拡張することに成功している。本置換基を、例えば、スクアリリウム化合物に導入することで、発光量子収率向上と長波長発光とを両立できる赤外発光化合物を可能とすることができる。
【0041】
さらに、置換基の嵩高さの効果により発光性薄膜としたときでも膜中での濃度消光が起きにくいため高い発光量子収率を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の波長変換膜を具備する赤外発光面光源の構成の一例を示す概略断面図
図2】封止構造を具備した本発明の波長変換膜の構成の一例を示す概略断面図
図3】比較化合物R-6に対する、発光極大波長と相対発光量子収率を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の赤外発光化合物は、前記式(1a)で表される構造を有することを特徴とする。この特徴は、下記各実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記式(1a)で表される構造が、前記式(1b)又は式(1c)で表される構造であることが好ましい。
また、前記式(1a)で表される構造が、前記式(1d)又は式(1e)で表される構造であることが好ましい。
【0044】
さらに、本発明においては、前記Rが、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、フェノキシ基、アルキルチオ基、カルボニル基又はカルボキシ基を表すことが好ましい。これにより、前記式(1a)におけるArと環A、前記式(1b)におけるArと環B、前記式(1c)におけるArと環C、前記式(1d)におけるArと環B、前記式(1e)におけるArと環B、の間に2面角を生じさせ、分子振動抑制およびπ共役拡張の効果が得られる。
本発明の実施態様としては、R11が、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、フェノキシ基、アルキルチオ基、カルボニル基又はカルボキシ基を表すことが好ましい。
【0045】
また、Rが、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、フェノキシ基、アルキルチオ基、カルボニル基又はカルボキシ基を表すことが、前記式(1d)におけるArと環Bの間に2面角の固定をより強固にし、分子振動抑制増強の効果が得られることから、好ましい。
さらに、本発明においては、式(1a)のQ-Arで表される赤外発光性残基が、スクアリリウム色素、ベンゾビスチアジアゾールを含む色素、チアジアゾロキノキサリンを含む色素、ピロメテン色素又はシアニン色素の残基であることが好ましい。
式(1a)で表される構造を有する化合物が、前記一般式(2a)、(3a)、(4a)、(5a)、(6a)、(7a)又は(8a)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
また、式(1a)で表される構造を有する化合物が前記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物であることが好ましい。
【0046】
さらに、本発明においては、一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、前記Ra~Rd及びRa~Rdは同一で、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アリール基又はヘテロアリール基を表すことが好ましい。
一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、前記環Hと環Iは同一で、ヒドロキシ基を有するアリール基を表し、前記R23、R33、R43及びR53は、それぞれRa~Rd及びRa~Rdと同一又は水素原子を表すが、前記RaとRa、RbとRb、RcとRc、RdとRdの組み合わせの少なくとも一つは、ともに水素原子であることはなく、前記R22、R24、R32、R34、R42、R44、R52及びR54は、水素原子を表すことが好ましい。
さらに、前記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、
環H及び環Iは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、アルコキシ基、NHCORa(Raは炭化水素基を表す。)基、NHSORb(Rbは炭化水素基を表す。)基又はNHPO(ORf)(ORg)(Rf及びRgは、それぞれ独立に、炭化水素基を表す。)基で置換されていてもよいアリール環を表すことが好ましい。
環Hと環Iは同一で、ヒドロキシ基を有するアリール基を表し、前記RaはR22と、RaはR24と、RbはR32と、RbはR34と、RcはR42と、RcはR44と、RdはR52と、RdはR54と、それぞれ結合し、炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成していることが好ましい。
また、本発明の赤外発光化合物を含有する発光性薄膜、発光性粒子又は波長変換膜であることが好ましい。さらに前記波長変換膜を具備する赤外発光面光源であることが好ましい。
【0047】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
なお、本発明において、赤外発光化合物とは、700nm超に発光極大波長を有する化合物をいう。
【0048】
《赤外発光化合物》
〔式(1a)で表される構造について〕
本発明の赤外発光化合物は、下記式(1a)で表される構造を有することを特徴とする。
【0049】
【化8】
【0050】
(式(1a)において、
Ar及び環Aは、それぞれ独立に、アリール環、ヘテロアリール環又はそれらの縮合環を表す。
Q-Arは、赤外発光性残基を表す。
は、Arと環Aの二面角が45度以上となる基を表す。
太線は、単結合又は二重結合を表す。)
【0051】
このような2面角を生じさせる、Rが置換した環Aを有する基(本発明に係る置換基ともいう)を、Arを有する赤外発光性残基に導入することで、分子振動を抑制しながら共役系拡張を可能とし、長波長の発光と高い発光量子収率を可能とする本発明の赤外発光化合物を得ることができる。
【0052】
本発明の赤外発光化合物は、本発明に係る置換基を複数有することが好ましい。本発明に係る置換基の数は、例えば1分子に、1~8個有することができる。好ましくは、1~4個である。
【0053】
本発明においては、Arと環Aが形成する二面角が45度以上であり、更に好ましくは60度以上である。上限は90度である。
【0054】
式(1a)において、Ar及び環Aは、アリール環、ヘテロアリール環又はそれらの縮合環を表す。
【0055】
具体的にはアリール環としては、例えば、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、クリセン環、ナフタセン環、ピレン環、ペンタレン環、アセアントリレン環、ヘプタレン環、トリフェニレン環、as-インダセン環、クリセン環、s-インダセン環、プレイアデン環、フェナレン環、フルオランテン環、ペリレン環、アセフェナントリレン環、ビフェニル環、ターフェニル環、テトラフェニル環等が挙げられる。
【0056】
ヘテロアリール環としては、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、フラン環、ピロール環、イミダゾリン環、ベンゾイミダゾリン環、ピラゾール環、ピラジン環、トリアゾール環(例えば、1,2,4-トリアゾール環、1,2,3-トリアゾール環等)、ピラゾロトリアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、チアゾール環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、チオフェン環、キノリン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、インドール環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(前記カルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、キノキサリン環、ピリダジン環、トリアジン環、キナゾリン環、フタラジン環、9,10-ジヒドロアクリジン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、ジベンゾシロール環等が挙げられる。
【0057】
は、Arと環Aの二面角が45度以上となる基を表す。具体的には、Rは、後述する二面角の測定により、二面角が45度以上となる基であれば、特に制限はない。好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、フェノキシ基、アルキルチオ基、カルボニル基又はカルボキシ基が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、2-エチルブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-ブチルオクチル基、2-ヘキシルオクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、2-ヘキシルデシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、2-オクチルドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、2-デシルテトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基等が挙げられる。
【0058】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、s-ブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、2-エチルブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、2-ブチルオクチルオキシ基、2-ヘキシルオクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、2-ヘキシルデシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、2-オクチルドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、2-デシルテトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、n-イコシルオキシ基等が挙げられる。
【0059】
アミノ基としては、アミノ基、アルキルアミノ基(例えば、エチルアミノ基)、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジーn-プロピル基、ジ-n-ブチルアミノ基、ジ-s-ブチルアミノ基、ジ-2-エチルブチルアミノ基、ジ-2-エチルヘキシルアミノ基、ジドデシルアミノ基、ジシクロペンチルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基等)、アリールアミノ基(フェニルアミノ基等)、ジアリールアミノ基(ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基等)が挙げられる。
【0060】
アリール基としては、上述したアリール環から水素原子を1個除いた基が挙げられる。
ヘテロアリール基としては、上述したヘテロアリール環から水素原子を1個除いた基が挙げられる。
【0061】
アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等が挙げられる。
【0062】
カルボニル基としては、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、n-プロピルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基等)等が挙げられ、カルボキシ基としては、アルキルカルボキシ基(例えば、メチルカルボキシ基、エチルカルボキシ基等)、アリールカルボキシ基(フェニルカルボキシ基等)等が挙げられる。
【0063】
また、これらの基は、上記の基によってさらに置換されていてもよい。これらのうち、Ar及び環Aは、アリール環、ヘテロアリール環又はそれらの縮合環を表すことが好ましく、さらに好ましくはアリール環が挙げられる。Rは、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、フェノキシ基、アルキルチオ基、カルボニル基又はカルボキシ基を表すことを表すことが好ましく、さらに好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アミノ基が挙げられる。
【0064】
Q-Arは、赤外発光性残基を表す。好ましい発光性残基として、それぞれ、スクアリリウム色素、ベンゾビスチアジアゾールを含む色素、チアジアゾロキノキサリンを含む色素、ピロメテン色素又はシアニン色素の骨格を有する基であることが好ましい。すなわち、前記式(1a)で表される構造を有する化合物が、スクアリリウム色素、ベンゾビスチアジアゾールを含む色素、チアジアゾロキノキサリンを含む色素、ピロメテン色素又はシアニン色素であることが好ましい。
【0065】
[二面角]
本発明において二面角は以下のようにして算出することができる。
一般式(1a)において、RはArと環Aの二面角が45度以上となる基を表す。本発明におけるArと環Aの二面角とは、分子軌道計算による構造最適化により算出される二面角をいう。具体的には、構造最適化を行う分子軌道計算において、汎関数としてB3LYP、基底関数として6-31G*を用いて導かれる。分子軌道計算用ソフトウェアとしては、米国Gaussian社製のGaussian09(Revision C.01,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,2010.)を利用することができる。この計算方法で得られる二面角は、実際の分子での安定構造を表している。
【0066】
【化9】
【0067】
例えば、上記したようにArがベンゼン環で環Aがベンゼン環である場合、C-C-C―Cの二面角、C-C-C-Cの二面角、C-C-C-Cの二面角、C-C-C-Cの二面角は0~90度で示される。初期構造の4つの二面角の平均値が0度のものを用いて、上記構造最適化を施し、その結果得られた構造の、C-C-C―Cの二面角、C-C-C-Cの二面角、C-C-C-Cの二面角、C-C-C-Cの二面角を平均して本発明に係る二面角を算出することができる。
【0068】
〔式(1b)又は式(1c)で表される構造について〕
前記式(1a)で表される構造は、下記式(1b)又は式(1c)で表される構造であることが好ましい。
【0069】
【化10】
【0070】
(式(1b)及び式(1c)において、
Arは、アリール環、ヘテロアリール環又はそれらの縮合環を表す。
環Bは、芳香族六員環を表す。
環Cは、芳香族五員環を表す。
は、それぞれ独立に、炭素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる原子を表す。
は、それぞれ独立に、炭素原子及び窒素原子から選ばれる原子を表す。
Q-Arは、赤外発光性残基を表す。
は、Arと環Bの二面角が45度以上となる基を表す。またRは、Arと環Cの二面角が45度以上となる基を表す。
11は、置換基を表し、隣接するRと、又は複数のR11同士が環を形成していてもよい。
n1は、0~4の整数を表す。n2は、0~3の整数を表す。)
【0071】
Ar、R及びQ-Arは、それぞれ、式(1a)におけるAr、R及びQ-Arと同義である。
環Bは、芳香族六員環を表す。具体的には、式(1a)で挙げた、アリール環、ヘテロアリール環のうちで六員環の基を表す。
環Cは、芳香族五員環を表す。具体的には、式(1a)で挙げた、ヘテロアリール環のうちで五員環の基を表す。
【0072】
は、それぞれ独立に、炭素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる原子を表す。
は、それぞれ独立に、炭素原子及び窒素原子から選ばれる原子を表す。
11は、置換基を表し、隣接するRと、又は複数のR11同士が環を形成していてもよい。
11が表す置換基としては、Rと同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。
n1は、0~4の整数を表す。n2は、0~3の整数を表す。
【0073】
〔式(1d)又は式(1e)について〕
前記式(1a)で表される構造は、下記式(1d)又は式(1e)で表される構造であることが好ましい。
【0074】
【化11】
【0075】
(式(1d)及び式(1e)において、
Arは、アリール環、ヘテロアリール環又はそれらの縮合環を表す。
環Bは、芳香族六員環を表す。
は、それぞれ独立に、炭素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる原子を表す。
Q-Arは、赤外発光性残基を表す。
は、Arと環Bの二面角が45度以上となる基を表す。
及びR11は、それぞれ独立に、置換基を表し、R11と隣接するR若しくはRと、又は複数のR11同士が環を形成していてもよい。
n3及びn4は、それぞれ独立に、0~3の整数を表す。)
【0076】
が表す置換基としては、Rと同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。
Ar、環B、X、Q-Ar、R及びR11は、式(1b)及び式(1c)で述べたAr、環B、X、Q-Ar、R及びR11と同義である。
は、置換基を表す。置換基としては、R11で述べた置換基を適用することができるが、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、フェノキシ基、アルキルチオ基、カルボニル基又はカルボキシ基を表すこととが好ましい。
n3及びn4は、それぞれ0~3の整数を表す。
【0077】
〔一般式(2a)、(3a)、(4a)、(5a)、(6a)、(7a)及び(8a)で表される化合物について〕
式(1a)で表される構造を有する化合物が、下記一般式(2a)、(3a)、(4a)、(5a)、(6a)、(7a)又は(8a)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【0078】
【化12】
【0079】
(一般式(2a)~一般式(8a)において、
環D及び環Eは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、アルコキシ基、NHCORa(Raは炭化水素基を表す。)基、NHSORb(Rbは炭化水素基を表す。)基又はNHPO(ORf)(ORg)(Rf及びRgは、それぞれ独立に、炭化水素基を表す。)基で置換されていてもよいアリール環を表す。
環F及び環Gは、それぞれ独立に、アリール環を表す。
~Lは、それぞれ独立に、アリール環、ヘテロアリール環又は単結合を表す。Xは、アリール基で置換されていてもよい炭素原子又は窒素原子を表す。
及びRは、それぞれ独立に、スルホ基で置換されていてもよいアルキル基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
は、水素原子又はアリール基を表し、R又はRがアルキル基を表すとき、R又はRと連結してシクロアルケン環を形成してもよい。
INDで表される部分がカチオン部である場合、Xは対アニオンを表し、pは電荷を中和するために必要な数を表し、式中のINDで表される部分がアニオン部である場合、Xは対カチオンを表し、pは電荷を中和するために必要な数を表し、式中のINDで表される部位の電荷が分子内で中和されている場合、pは0である。
Ar及びArは、6員環からなるアリール基又は5員環若しくは6員環からなるヘテロアリール基を表し、これらの基は2個以上の環からなっていてもよい。
及びXは、それぞれ独立に、窒素原子又はCRを表しは、水素原子又は電子吸引基を表す。
~Rは、それぞれ独立に、シアノ基、ハロゲン、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアルキニル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を表す。
Ar及びArは6員環からなるアリール基又は5員環若しくは6員環からなるヘテロアリール基を表し、これらの基は2個以上の環からなっていてもよい。
環Aは、それぞれ独立に、アリール環、ヘテロアリール環又はそれらの縮合環を表す。
は、それぞれ環Aが結合しているピロール環(一般式(7a))又はベンゼン環(一般式(8a))との二面角が45度以上となる基を表す。
太線は、単結合又は二重結合を表す。
Zは、下記式(Z)又は置換基を表し、少なくとも一つは、式(Z)を表す。
n5は、1~4の整数を表す。n6は、1~4の整数を表す。)
【0080】
【化13】
【0081】
(式(Z)中、環Aは、アリール環、ヘテロアリール環又はそれらの縮合環を表す。
*は、式(1a)の発光性残基中のArとの結合部位を表す。
は、Arと環Aの二面角が45度以上となる基を表す。
太線は、単結合又は二重結合を表す。)
【0082】
環D及び環Eは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール環を表す。
環F及び環Gは、それぞれ独立に、アリール環を表す。
~Lは、それぞれ独立に、アリール環、ヘテロアリール環又は単結合を表す。以上の環D~Gで表されるアリール環、及びL~Lはで表されるアリール環とヘテロアリール環は、式(1a)で述べたアリール環、又はヘテロアリール環のものを用いることができる。
は、アリール基で置換されていてもよい炭素原子又は窒素原子を表す。
及びRは、それぞれ独立に、スルホ基で置換されていてもよいアルキル基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
は水素原子又はアリール基を表し、R又はRがアルキル基を表すとき、R又はRと連結してシクロアルケン環を形成してもよい。
n5は、1~4の整数を表す。n6は、1~4の整数を表す。
【0083】
一般式(6a)中、INDで表される部分がカチオン部である場合、Xは対アニオンを表し、pは電荷を中和するために必要な数を表し、式中のINDで表される部分がアニオン部である場合、Xは対カチオンを表し、pは電荷を中和するために必要な数を表し、式中のINDで表される部位の電荷が分子内で中和されている場合、pは0である。
【0084】
対カチオンの例としては、アルカリ金属イオン(Li、Na、K、Csなど)、アルカリ土類金属イオン(Mg2+、Ca2+、Ba2+、Sr2+など)、遷移金属イオン(Ag、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+など)、その他の金属イオン(Al3+など)、アンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、グアニジニウムイオン、テトラメチルグアニジニウムイオン、ジアザビシクロウンデセニウムイオンなどが挙げられる。
【0085】
対アニオンの例としては、ハロゲンイオン(Cl、Br、I-)、p-トルエンスルホン酸イオン、エチル硫酸イオン、SO 2-、SbF 、PF 、BF 、B(C 、ClO 、トリス(ハロゲノアルキルスルホニル)メチドアニオン(例えば、(CFSO)、ジ(ハロゲノアルキルスルホニル)イミドアニオン(例えば(CFSO)、テトラシアノボレートアニオンなどが挙げられる。
【0086】
Zは、上記式(z)又は置換基を表し、少なくとも一つは、式(Z)を表す。
式(Z)中、Ar、環A、R及び太線は、式(1a)のAr、環A、R及び太線と同義である。
*は、式(1a)の発光性残基中のArとの結合部位を表す。
一般式(7a)において、Rが電子吸引基の場合、電子吸引基として、特に制限はないが、シアノ基が好ましい。
【0087】
〔一般式(2b)で表される構造について〕
前記式(1a)で表される構造を有する化合物が下記一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物であることが好ましい。
【0088】
【化14】
【0089】
(一般式(2b)において、
a~Rd、Ra~Rd、R22~R24、R32~R34、R42~R44、R52~R54及びR63~R66は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アリール基又はヘテロアリール基を表すが、RaとRa、RbとRb、RcとRc、及びRdとRdの組み合わせの少なくとも一つは、ともに水素原子であることはない。
aはR22と、RaはR24と、RbはR32と、RbはR34と、RcはR42と、RcはR44と、RdはR52と、及びRdはR54と環構造を形成していてもよい。
環H及び環Iは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、アルコキシ基、NHCORa(Raは炭化水素基を表す。)基、NHSORb(Rbは炭化水素基を表す。)基又はNHPO(ORf)(ORg)(Rf及びRgは、それぞれ独立に、炭化水素基を表す。)基で置換されていてもよいアリール環を表す。)
【0090】
一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、Ra~Rd及びRa~Rdは同一で、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アリール基又はヘテロアリール基を表すことが好ましい。
また、一般式(2b)で表される構造を有するスクアリリウム化合物において、環Hと環Iは同一で、ヒドロキシ基を有するアリール基を表し、前記R22~R24、R32~R34、R42~R44及びR52~R54は、前記Ra~Rd及びRa~Rdと同一又は水素原子を表すが、前記RaとRa、RbとRb、RcとRc、RdとRdの組み合わせの少なくとも一つは、ともに水素原子であることはなく、前記R22、R24、R32、R34、R42、R44、R52及びR54は、水素原子を表すことが好ましい。
さらに、環Hと環Iは同一で、ヒドロキシ基を有するアリール基を表し、前記RaはR22と、RaはR24と、RbはR32と、RbはR34と、RcはR42と、RcはR44と、RdはR52と、RdはR54と、それぞれ結合し、炭素鎖で5員環又は6員環構造を形成していることが好ましい。
【0091】
以下に本発明の式(1a)~(8a)で表される構造を有する赤外発光化合物の例を挙げるが、本発明はこれに限定されない。
【0092】
【化15】
【0093】
【化16】
【0094】
【化17】
【0095】
【化18】
【0096】
【化19】
【0097】
【化20】
【0098】
【化21】
【0099】
【化22】
【0100】
【化23】
【0101】
【化24】
【0102】
【化25】
【0103】
【化26】
【0104】
【化27】
【0105】
【化28】
【0106】
【化29】
【0107】
【化30】
【0108】
【化31】
【0109】
【化32】
【0110】
【化33】
【0111】
【化34】
【0112】
【化35】
【0113】
【化36】
【0114】
【化37】
【0115】
【化38】
【0116】
【化39】
【0117】
【化40】
【0118】
【化41】
【0119】
【化42】
【0120】
【化43】
【0121】
【化44】
【0122】
【化45】
【0123】
【化46】
【0124】
【化47】
【0125】
【化48】
【0126】
【化49】
【0127】
【化50】
【0128】
【化51】
【0129】
【化52】
【0130】
【化53】
【0131】
【化54】
【0132】
【化55】
【0133】
【化56】
【0134】
【化57】
【0135】
【化58】
【0136】
【化59】
【0137】
【化60】
【0138】
【化61】
【0139】
【化62】
【0140】
【化63】
【0141】
【化64】
【0142】
【化65】
【0143】
【化66】
【0144】
【化67】
【0145】
【化68】
【0146】
【化69】
【0147】
【化70】
【0148】
【化71】
【0149】
[合成方法]
本発明に係る一般式(2a)で表されるスクアリリウム化合物は、例えば、Chemistry of Materials,第23巻、4789ページ(2011年)、The Journal of
Physical Chemistry,第91巻、5184ページ(1987年)に記載の方法、又は、これらの文献に記載の参照文献に記載の方法を参照することにより合成することができる。一例として、以下に例示化合物Da-2の合成例を示す。
【0150】
<例示化合物Da-2の合成>
下記スキームにより合成することができる。
【0151】
【化72】
【0152】
Da-2のH-NMRスペクトル
測定装置:JNM-ECZ400S(400MHz,H-NMR)
測定条件:24.6度、CDCl溶媒使用、テトラメチルシラン基準(0ppm)
δ/ppm=0.81(48H,t,J=7Hz),0.97(48H,s),1.50-1.63(m,16H),1.60-1.72(m,16H),6.47-6.54(4H,m),6.68(4H,s),7.20(8H,d,J=8Hz),7.31(8H,d,J=8Hz),7.92(0.8H,d,J=9Hz),8.05(0.2H,d,J=9Hz),11.5(0.2H,s),12.2(0.8H,s)
【0153】
本発明に係る一般式(3a)、一般式(4a)、一般式(5a)、一般式(6a)、一般式(7a)で表される化合物も、例えば以下に示す文献に記載の方法を参考に、本発明に係る置換基を同様にして導入することで合成することができる。
Nature Materials vol 15,2016,p235-243
J. Phys. Chem.C 2009,113,p1589-1595
Materials 2013,6,p1779-1788
Molecules 2018,23,p226
Chem. Commun.,2010,46,p5289-5291
【0154】
[発光量子収率]
発光量子収率Φ(%)は、吸収された光子数と放出された光子数の割合で表される。励起された分子の全てが蛍光によって基底状態に戻れば、発光量子収率Φ(%)は100%となるが、無輻射失活が生じると100%とはならない。
【0155】
無輻射失活とは、蛍光を発しないで基底状態に戻る遷移で、項間交差による三重項状態への緩和の他、電子状態のエネルギーが振動エネルギーなどに転化して最終的に熱エネルギーになる内部転換や、他の分子にエネルギーを移すエネルギー移動などがある。
励起状態にある分子の蛍光遷移と無輻射遷移の速度定数をそれぞれKfとKnrとおくと、発光量子収率Φ(%)は、
【0156】
Φ(%)=(Kf/(Kf+Knr))×100
で表される。
【0157】
したがって、発光量子収率を向上させるためには、励起状態にある分子の無輻射失活を抑えることが必要である。
【0158】
[蛍光スペクトルの測定]
本発明の赤外発光化合物は蛍光発光する化合物である。本発明の赤外発光化合物の蛍光スペクトルは、以下の方法で確認することができる。
【0159】
本発明の赤外発光化合物をトルエン溶液中で10-6Mに調整し、常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。発光スペクトルの測定には、分光蛍光光度計(日立ハイテクノス社製、F7000)を用いる。そして、極大発光波長(発光強度が最大となる波長;「発光ピーク波長」ともいう)が700nmを超える蛍光発光を示す赤外発光化合物である。
【0160】
≪用途≫
本発明の赤外発光化合物は、長波長の発光と高い発光量子収率を示すことができる。このような性質を有することから、本発明の赤外発光化合物は、発光性薄膜、発光性粒子及び波長変換膜として用いることができる。例えば、新たなタイプの蛍光プローブ用色素として生物学及び医学における標識体として、バイオイメージに利用することができる。また、励起した電子が、基底状態へ戻る際に余分なエネルギーとして蛍光を放射する本発明の赤外発光化合物は、吸収と放出のエネルギーの違いから波長変換能を有しており、色変換フィルターとして、染料、顔料、光学フィルター、農業用フィルム等に用いることもできる。
【0161】
《発光性薄膜》
本発明の発光性薄膜は、本発明の赤外発光化合物を含有することを特徴とする。本発明の発光性薄膜は、本発明の赤外発光化合物に、製膜安定性等のために分散剤を加えた組成物、又はこれにさらに溶媒を加えた組成物を薄膜状に形成することにより作製することができる。
【0162】
分散剤としては、(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アミノ系樹脂、フッ素系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アラミド樹脂等が挙げられるが、好ましくはポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等である。また、これらの共重合体も同様に好ましい。
【0163】
(メタ)アクリレート系樹脂とは、種々のメタクリレート系モノマー、又はアクリレート系モノマーを単独重合、又は共重合することにより合成され、モノマー種及びモノマー組成比を種々変えることによって、望みの(メタ)アクリレート系樹脂を得ることができる。また本発明においては、(メタ)アクリレート系モノマーと一緒に(メタ)アクリレート系モノマー以外の不飽和二重結合を有する共重合可能なモノマーとともに共重合しても使用可能であり、さらに本発明においては、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂と一緒に他の複数の樹脂を混合しても使用可能である。
【0164】
本発明において用いられる(メタ)アクリレート系樹脂を形成するモノマー成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジ(エチレングリコール)エチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、塩化エチルトリメチルアンモニウム(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2-アセトアミドメチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3-トリメトキシシランプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、2-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、好ましくは(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0165】
ポリスチレン系樹脂とは、スチレンモノマーの単独重合物、又はスチレンモノマーと共重合可能な他の不飽和二重結合を有するモノマーを共重合したランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。さらに、かかるポリマーに他のポリマーを配合したブレンド物やポリマーアロイも含まれる。前記スチレンモノマーの例としては、スチレン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、α-メチルスチレン-p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、等の核アルキル置換スチレン、o-クロルスチレン、m-クロルスチレン、p-クロルスチレン、p-ブロモスチレン、ジクロルスチレン、ジブロモスチレン、トリクロルスチレン、トリブロモスチレン等の核ハロゲン化スチレン等が挙げられるが、この中でスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
【0166】
これらを単独重合又は共重合することによって本発明で用いられる樹脂は、例えば、ベンジルメタクリレート/エチルアクリレート、又はブチルアクリレート等の共重合体樹脂、またメチルメタクリレート/2-エチルヘキシルメタクリレート等の共重合体樹脂、またメチルメタクリレート/メタクリル酸/ステアリルメタクリレート/アセトアセトキシエチルメタクリレートの共重合体樹脂、またスチレン/アセトアセトキシエチルメタクリレート/ステアリルメタクリレートの共重合体樹脂、また、スチレン/2-ヒドロキシエチルメタクリレート/ステアリルメタクリレートの共重合体、さらには、2-エチルヘキシルメタクリレート/2-ヒドロキシエチルメタクリレート等の共重合体樹脂等が例として挙げられる。
【0167】
本発明の発光性組成物及び発光性薄膜における発光材料の含有量は、上記分散剤100質量部に対する好ましい下限が0.001質量部、好ましい上限が50質量部である。上記発光材料の含有量がこの範囲内であると、高い透明性を有し、かつ、光線が照射されることにより高い輝度の画像を表示することができる。上記発光材料の含有量のより好ましい下限は0.01質量部、より好ましい上限は10質量部、更に好ましい下限は0.05質量部、更に好ましい上限は8質量部、特に好ましい下限は0.1質量部、特に好ましい上限は5質量部である。また、本発明の発光性薄膜は、厚さ、0.1nm~1mmの範囲内で適宜用いることができる。
【0168】
《発光性粒子》
本発明の発光性粒子は、本発明の赤外発光化合物を含有することを特徴とする。赤外発光化合物を粒子表面に吸着させた発光性粒子であっても、赤外発光化合物を内包した発光性粒子であってもよい。
【0169】
例えば、液体中ポリマー粒子分散液中に赤外発光化合物を凝集させて発光性粒子を作製することができる。また、ポリマー粒子を溶媒に浸漬させた際に、該粒子が溶媒を吸収して体積が膨張する膨潤性ポリマーを用いて、赤外発光化合物を内包した発光性粒子であってもよい。
【0170】
ポリマー粒子は、市販品を用いてもよく、従来公知の方法で合成したものを用いてもよい。前記従来公知の方法としては、特に制限されないが、分散重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が挙げられ、乳化重合法が好ましい。ポリマーの原料となるモノマーは、前記分散剤として挙げた各種モノマーを使用することができる。
【0171】
また、液体中ポリマー分散液中に赤外発光化合物を凝集させる場合の溶媒は特に制限されない。公知の溶媒が使用できる。
【0172】
前記ポリマー粒子の体積平均粒子径は、0.01~50μmの範囲内であることが好ましく、0.02~1μmであることがより好ましく、0.04~0.5μmであることがさらに好ましい。
【0173】
体積平均粒子径が前記範囲にあることで、得られる発光性粒子を様々な用途に適用できる。前記体積平均粒子径は、具体的には、レーザー回折散乱光粒度分布測定装置、LS13320型にて測定することができる。
【0174】
前記ポリマー粒子の重量平均分子量は、1000~1000000の範囲内にあることが好ましく、5000~800000であることがより好ましく、10000~600000であることがさらに好ましい。
【0175】
本発明の発光性粒子に含まれるポリマー粒子は、1種でもよく、2種以上でもよいが、通常は、1種である。
【0176】
《波長変換膜及び赤外発光面光源》
本発明の波長変換膜は、本発明の赤外発光化合物を含有することを特徴とする。波長変換膜は赤外発光する赤外発光面光源に適用することができる。
本発明の赤外発光面光源は、波長変換膜を具備することを特徴とする。本発明の赤外発光面光源は、赤外光を発光する発光部材であって、近赤光領域を含む可視光領域(380~1000nm)、好ましくは近赤光領域を含む緑~赤色領域(495~900nm)、特に好ましくは近赤光領域を含む赤色領域(600~850nm)の範囲内の光を発光する有機EL素子、マイクロLED、又は拡散板と組み合わせたLEDなどの面光源の光を吸収して、近赤外光、例えば、700nmを超え、1500nm以下の領域で発光することが好ましい。
【0177】
図1に、本発明の波長変換膜を有する赤外発光面光源の基本的な構成を示す。図1に示す赤外発光面光源1は、可視光発光する面光源2、例えば、赤色発光(R)の有機EL素子上に、赤色発光(R)する面光源2の可視光を近赤外光(IR)に変換する本発明の波長変換膜3の配置した構成である。
【0178】
可視光(赤色)発光する面光源は、少なくとも赤色発光する特性を備えた光源であり、好ましくは、均一発光させたときに輝度均一性が70%以上である面光源であり、具体的な面光源としては、有機エレクトロルミネッセンス素子であることが好ましい。
【0179】
本発明の波長変換膜を具備する赤外発光面光源の形態としては、可視光(赤色)発光する面光源発光する面光源とは別途に製造し波長変換膜を可視光(赤色)発光する面光源に重ねて用いてもよく、あるいは、波長変換膜を可視光(赤色)発光する面光源上に積層されていてもよい。あるいは、接着剤や封止膜と役割を兼ねていてもよい。本発明の波長変換膜を具備する赤外発光面光源の厚さについても、用途に応じて適宜決定されるが、0.1~1000μmであることがフレキシブル性及び小型化の観点で好ましく、より好ましくは1~500μmの範囲内である。
本発明の波長変換膜を具備する赤外発光面光源は、生体計測装置、生体認証装置に好適に用いられる。
【実施例
【0180】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0181】
〔実施例1〕
<二面角>
以下の実施例で用いた本発明の赤外発光化合物13種、比較用化合物R-4~R-6の各々について、二面角を分子軌道計算用ソフトウェアとしてGaussian社製Gaussian09を用いて前述した条件で計算して求めた。結果を表Iに示す。本発明に係る置換基を有しない化合物の場合は「-」と記した。
【0182】
【化73】
【0183】
【表1】
【0184】
<発光波長及び発光量子収率の測定>
表Iに示した本発明の赤外発光化合物13種及び比較用化合物R-4~R-6の各々について、溶液中での発光波長及び発光量子収率を、それぞれ以下の方法で評価した。
【0185】
(1)溶液中での発光波長及び発光量子収率の評価
本発明の赤外発光化合物をトルエン溶液中で10-6Mに調整し、常温(300K)でこの試料の発光波長(蛍光スペクトル)を測定した。発光波長の測定には、分光蛍光光度計(日立ハイテクノス社製、F7000)を用いた。また、この溶液の発光量子収率を、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製:C11347)を用いて測定した。
発光波長に関しては、以下の基準で評価した。
ΔPL(λmax)を以下で定義し、
ΔPL(λmax)[nm]=(該当する化合物の発光極大波長)-(化合物R-6の発光極大波長)
発光量子収率は、R-6の発光量子収率を1.0としたときの相対発光量子収率を用いた。測定結果を図3に示す。
図3は、比較化合物R-6に対する、ΔPLと相対発光量子収率を示すグラフである。
【0186】
図3より、本発明の赤外発光化合物13種は比較の化合物R-4~R-6よりも長波長域の発光でも相対発光量子収率の低下が少ないことが分かる。
【0187】
(2)薄膜中での発光波長及び発光量子収率の評価
(2)-1本発明の発光性薄膜の評価
マトリックス材料であるポリスチレン(ACROS ORGANICS社製、重量平均分子量Mw=260000)と比較化合物のR-4を、トルエン中に質量比で99:1となるように添加し、これらをナスフラスコに入れて80℃に加熱撹拌して十分に溶解させた。
【0188】
得られた溶液を、石英基板上に500rpm、30秒の条件下スピンコート法により塗布して薄膜を形成した後、80℃にて10分間乾燥させ、比較化合物R-4を含有する発光性薄膜を作製した。また、比較のR-4を本発明の赤外発光化合物Da-21に変えた以外は同様にして、本発明の発光性薄膜を作製した。常温(300K)でこれらの試料の発光波長(蛍光スペクトル)及び絶対PL量子収率を測定した。発光波長の測定には分光蛍光光度計(日立ハイテクノス社製、F7000)を、絶対PL量子収率の測定には絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製:C11347)を用いて測定した。比較のR-4発光性薄膜のトルエン溶液中での絶対PL量子収率を1.00としたときのこれらの発光性薄膜の絶対PL量子収率を発光量子収率の相対値として以下に示す。
【0189】
【表2】
【0190】
表IIより、比較の化合物R-4を用いた発光性薄膜は、溶液状態より発光量子収率が0.38維持されたのに対し、本発明の赤外発光化合物Da―21を用いた発光性薄膜は、発光量子収率が溶液状態の0.80維持を達成し、濃度消光が著しく抑えられることが分かった。更に、本発明のDa―21の発光性薄膜は比較のR-4の発光性薄膜より20nm以上の長波長の発光を示し、かつ高い発光量子収率を示した。
【0191】
(2)-2本発明の発光性薄膜の評価
比較化合物のR-4を比較化合物のR-7に変えた以外は(2)-1に記載の比較の発光性薄膜と同様にして、比較化合物のR-7を含有する発光性薄膜を作製した。更に、比較のR-7を本発明の赤外発光化合物Da-50とDa-51に変えた以外は同様にして、それぞれ本発明の発光性薄膜膜を作製した。(2)-1と同様にこれらの試料の発光波長(蛍光スペクトル)及び発光量子収率を測定した。それぞれの発光性薄膜のトルエン溶液中での発光量子収率を1.00としたときのこれらの発光性薄膜の発光量子収率の相対値を以下に示す。
【0192】
【表3】
【0193】
表IIIより、比較の化合物R-7を用いた発光性薄膜は、溶液状態より量子収率が0.46維持したのに対し、本発明の赤外発光化合物を用いた発光性薄膜は、それぞれ発光量子収率がDa―50のときで溶液状態の0.76維持、Da―51のときで0.81維持を達成し、濃度消光が著しく抑えられることが分かった。更に、本発明の発光性薄膜は比較の発光性薄膜より長波長の発光を示し、かつ高い発光量子収率を示した。
比較の化合物R-8~R-10と本発明の赤外発光化合物を用いた発光性薄膜との比較でも、同様の結果が得られた。
【0194】
【化74】
【0195】
なお、比較化合物R-8、R-9及びR-10は、それぞれ、以下の文献に記載の化合物である。
R-8:Chem.Mater vol20,2008,6208
R-9:J.Phys.Chem.C, 2009,113,1589
R-10:Chem.Eur.J.2009,15,4857
【0196】
〔実施例2〕
<発光性粒子>
本発明の赤外発光化合物と比較化合物について、発光性粒子中での発光量子収率を測定した。
【0197】
(1)発光性粒子の作製
ポリスチレン(PS)粒子分散液(固形分5.2質量%、ポリスチレン粒子の体積平均粒子径0.12μm、分散媒:水)96μLに、水100μL、非イオン性界面活性剤(Kolliphor P407:シグマアルドリッチ製)の2%水溶液50μL、表IVに示した各化合物の0.01mmol/L THF溶液100μLを加え、ポリスチレン粒子と各化合物との混合液を調製した。この混合液を25℃で2分撹拌することでポリスチレン粒子を作製した。
【0198】
得られたポリスチレン粒子の分散液を用い、遠心精製法により粒子を沈降させ、上澄み液を除去した後、純水を加えて該粒子を再分散させた。この操作(遠心精製と再分散)を4回繰り返し、各化合物を含む発光性粒子分散液1~6を得た。
【0199】
(2)量子収率の評価
前項で得られたポリスチレン粒子を含む発光性粒子分散液1~6の絶対蛍光量子収率を、蛍光量子収率測定装置(浜松ホトニクス製C11347-01)を用い測定した。それぞれ、本発明のDa-21を含む分散液No4の蛍光量子収率を1.0としたときの相対値を発光量子収率として評価した。
以上の結果を表IVに示す。
【0200】
【表4】
【0201】
表IVから、本発明の化合物は、比較化合物に対してポリマー粒子中で高い発光量子収率を示すことがわかる。
【0202】
〔実施例3〕
<波長変換膜>
[波長変換膜の作製]
(波長変換膜3の作製)
下記の方法に従って、図2に記載の構成からなる波長変換膜3を作製した。
【0203】
溶媒であるトルエンに、マトリックス材料であるポリスチレン(ACROS ORGANICS社製、重量平均分子量Mw=260000)と本発明の赤外発光化合物Da-53とを、質量比で99:1となるように添加し、これらをナスフラスコに入れて80℃に加熱撹拌して十分に溶解させた。
【0204】
次いで、ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製、以下、PENと略記する。)の片側の全面に、特開2004-68143号公報に記載の構成の大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、SiOからなる無機物のガスバリアー層を厚さ500nmとなるように形成したガスバリアーフィルム上に、得られた混合溶液をアプリケーターを用いて塗布した。室温で10分乾燥させた後、さらに80℃で10分加熱乾燥を行って発光色素層5を形成した。その後、ガスバリアーフィルム4B上に接着剤層6を塗布・形成し、塗布面と張り合わせ、90℃の加熱条件で真空ラミネーターを用いて封止を行った。その後、110℃で30分加熱処理を行うことにより接着剤を硬化させ、波長変換膜3を作製した。
【0205】
(赤外発光面光源の作製)
赤色発光(R)する面光源である有機EL素子の発光面と、波長変換膜3とを密着させることにより、図1で示す構成の赤外発光面光源1を作製した。
【0206】
赤色発光(R)する面光源を発光させることにより、赤色発光(R)する面光源の赤色光が近赤外光に変換されることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明の赤外発光化合物は、長波長の発光と高い発光量子収率を可能とすることができる。このため、本発明の赤外発光化合物を含有する発光性薄膜、発光性粒子、波長変換膜及び当該波長変換膜を具備する赤外発光面光源に好ましく適用できる。
【符号の説明】
【0208】
1 赤外発光面光源
2 可視光発光する面光源
3 波長変換膜
4A、4B ガスバリアーフィルム
5 発光色素層
6 接着剤層
IR 近赤外光
R 赤色発光
図1
図2
図3