(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ウェルに液体を導入する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
G01N35/02 A
(21)【出願番号】P 2021522813
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2020020925
(87)【国際公開番号】W WO2020241689
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019101305
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】堀内 陽介
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/115635(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188441(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043530(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159068(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/098301(WO,A1)
【文献】KIM Soo Hyeon,Large-scale femtoliter droplet array for digital counting of single biomolecules,Lab Chip,2012年,Vol.12,Page.4986-4991
【文献】MORIIZIMI Yoshiki,Hybrid cell reactor system from Escherichia coli protoplast cells and arrayed lipid bilayer chamber device,SCIENTIFIC REPORTS,2018年,Vol.8,Page.11757
【文献】WATANABE Rikiya,High-throughput single-molecule bioassay using micro-reactor arrays with a concentration gradient of,Lab Chip,2018年,Vol.18,Page.2849-2853
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の一方面に開口し、界面活性剤を含んでいる第1の液体を内部に収容した複数のウェルと、を含み、前記一方面に第1の封止液が積層され、前記複数のウェルの開口部が前記第1の封止液によって封止されている流体デバイスの前記一方面上に、第2の液体を導入することを含み、
その結果、前記第2の液体が前記第1の封止液を置換して前記ウェルの内部に導入される、前記ウェルへの前記第2の液体の導入方法。
【請求項2】
前記第2の液体を導入することの後に、前記流体デバイスに第2の封止液を導入することを更に含み、
その結果、前記第2の封止液が前記一方面に積層されて前記複数のウェルの開口部を封止し、前記ウェルの内部に前記第2の液体、又は、前記第1の液体及び前記第2の液体の混合物が封入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記第2の液体を導入する前に、前記流体デバイスに前記第1の液体を導入することと、前記第1の封止液が前記一方面に積層されて前記複数のウェルの開口部を封止し、前記ウェルの内部に前記第1の液体が封入されるように前記流体デバイスに前記第1の封止液を導入すること、を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の液体と前記第2の液体とが混和可能である、請求項1~3に記載の方法。
【請求項5】
前記流体デバイスが、前記一方面に対向して配置されたカバー部材を更に有し、
前記カバー部材と前記一方面との間の空間が流路を形成している、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の液体が、前記流路を通じて前記流体デバイスに導入される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の液体及び前記第2の液体が反応試薬を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の液体が前記ウェルの内部に導入された後、前記第1の液体に含まれる成分の少なくとも一部が前記ウェルの内部に保持されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の液体に含まれる成分の少なくとも一部が、担体に保持されることによって、前記ウェルの内部に保持されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記一方面と前記第1の封止液との親和性が、前記一方面と前記第2の液体との親和性と同程度又は低い、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記一方面の材質がシクロオレフィンポリマーであり、前記第1の液体及び前記第2の液体の主成分が水であり、前記第1の封止液がフッ素系オイルである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェルに液体を導入する方法に関する。
本願は、2019年5月30日に日本に出願された特願2019-101305号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中の標的分子を定量的に検出することにより、疾患の早期発見や投薬の効果予測が行われている。従来から、タンパク質の定量は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)等により行われ、核酸の定量はリアルタイムPCR法等により行われている。
【0003】
近年、疾患をより早期に発見する等の目的で、標的分子をより精度よく検出するニーズが高まっている。標的分子を精度よく検出する手法として、例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献1等には、多数の微小区画内で酵素反応を行う技術が記載されている。これらの手法はデジタル計測と呼ばれている。
【0004】
デジタル計測では、試料溶液を極めて多数の微小区画に分割する。そして、各微小区画からの信号を2値化し、標的分子が存在するか否かのみを判別して、標的分子の分子数を計測する。デジタル計測によれば、従来のELISAやリアルタイムPCR法等と比較して、検出感度及び定量性を格段に向上させることができる。
【0005】
デジタル計測技術は、上記の診断用途への利用に留まらず、多数の標的分子を1分子ごとに分けて分析する用途に広く用いられており、例えば非特許文献2等には、膜貫通タンパク質の機能分析に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5551798号公報
【文献】特表2014-503831号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kim S. H., et al., Large-scale femtoliter droplet array for digital counting of single biomolecules., Lab on a Chip, 12 (23), 4986-4991, 2012.
【文献】Rikiya Watanabe, et al., High-throughput formation of lipid bilayer membrane arrays with an asymmetric lipid composition., Scientific Reports volume 4, Article number: 7076, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
デジタル計測技術では、反応試薬と混合された標的分子を、封止液や脂質二重膜を用いて多数の微小区画に分割した後に、各微小区画の内部で個別に反応を行って標的分子を検出する。このため、微小区画の内部に含まれる反応試薬に応じた分析結果しか得ることができないのが通常である。そこで、本発明は、個別に封止された微小区画の内部の液体を置換する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を含む。
[1]基板と、前記基板の一方面に開口し、界面活性剤を含んでいる第1の液体を内部に収容した複数のウェルと、を含み、前記一方面に第1の封止液が積層され、前記複数のウェルの開口部が前記第1の封止液によって封止されている流体デバイスの前記一方面上に、第2の液体を導入することを含み、その結果、前記第2の液体が前記第1の封止液を置換して前記ウェルの内部に導入される、前記ウェルへの前記第2の液体の導入方法。
[2]前記第2の液体を導入することの後に、前記流体デバイスに第2の封止液を導入することを更に含み、その結果、前記第2の封止液が前記一方面に積層されて前記複数のウェルの開口部を封止し、前記ウェルの内部に前記第2の液体、又は、前記第1の液体及び前記第2の液体の混合物が封入される、[1]に記載の方法。
[3]さらに、前記第2の液体を導入する前に、前記流体デバイスに前記第1の液体を導入することと、前記第1の封止液が前記一方面に積層されて前記複数のウェルの開口部を封止し、前記ウェルの内部に前記第1の液体が封入されるように前記流体デバイスに前記第1の封止液を導入すること、を含む[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記第1の液体と前記第2の液体とが混和可能である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]前記流体デバイスが、前記一方面に対向して配置されたカバー部材を更に有し、前記カバー部材と前記一方面との間の空間が流路を形成している、[1]~[4]のいずれか一つに記載の方法。
[6]前記第2の液体が、前記流路を通じて前記流体デバイスに導入される、[5]に記載の方法。
[7]前記第1の液体及び前記第2の液体が反応試薬を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記第2の液体が前記ウェルの内部に導入された後、前記第1の液体に含まれる成分の少なくとも一部が前記ウェルの内部に保持されている、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記第1の液体に含まれる成分の少なくとも一部が、担体に保持されることによって、前記ウェルの内部に保持されている、[8]に記載の方法。
[10]前記一方面と前記第1の封止液との親和性が、前記一方面と前記第2の液体との親和性と同程度又は低い、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]前記一方面の材質がシクロオレフィンポリマーであり、前記第1の液体及び前記第2の液体の主成分が水であり、前記第1の封止液がフッ素系オイルである、[10]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、個別に封止された微小区画の内部の液体を置換する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【
図2】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【
図3】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【
図4】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【
図5】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【
図6】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【
図7】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【
図8】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【
図9】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【
図10】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【
図11】流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0013】
[ウェルに液体を導入する方法]
本発明の一実施形態は、基板と、前記基板の一方面に開口し、内部に界面活性剤を含んでいる第1の液体を収容した複数のウェルと、を含み、前記一方面に第1の封止液が積層され、前記複数のウェルの開口部が前記第1の封止液によって封止されている流体デバイスの前記一方面上に、第2の液体を導入することを含み、その結果、前記第2の液体が前記第1の封止液を置換して前記ウェルの内部に導入される、前記ウェルへの前記第2の液体の導入方法を提供する。
【0014】
本実施形態の方法によれば、個別に封止された微小区画の内部の液体を置換することができる。これにより、例えば、デジタル計測技術において、微小区画の内部に収容された第1の液体に含まれる反応試薬で分析結果を得た後に、微小区画の内部の液体を第2の液体に置換し、第2の液体に含まれる反応試薬を用いて異なる分析を行うこと等が可能になる。
【0015】
(流体デバイス)
まず、本実施形態の方法に用いることができる流体デバイスについて説明する。
図1は、流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
図1に示すように、流体デバイス100は、基板110と、基板110の一方面111に対向して配置されるカバー部材120とを備えている。カバー部材120は、凸部121を有している。凸部121の先端は、基板110に接している。流体デバイス100においては、基板110の一方面111上にウェル141が複数一体成型されており、ウェルアレイ140を形成している。一方面111は、カバー部材120と対向している。カバー部材120は、基板110に溶着又は接着されていてもよい。
【0016】
ウェル141は、基板110の表面に開口している。ウェル141の形状、寸法、及び配置は、特に限定されないが、1つのウェル141に1個の標的分子が導入されることが好ましい。ウェル141は、容積が小さい微小ウェルであることが好ましい。例えば、1つのウェル141の容積は、10fL~100pL程度であってもよい。流体デバイス100では、同形同大の複数のウェル141がウェルアレイ140を構成している。同形同大とは、デジタル計測を行うために要求される程度に同一の形状で同一の容量であればよく、製造上の誤差程度のばらつきであれば許容される。
【0017】
ウェル141の直径は、例えば1~30μm程度であってもよい。ウェル141の深さは、例えば1~30μm程度であってもよい。また、ウェル141の配置は、特に制限されず、例えば三角格子状に整列していてもよいし、正方格子状も整列していてもよいし、ランダムに配置されていてもよい。
【0018】
流体デバイス100では、凸部121の存在により、一方面111とカバー部材120との間に空間が形成されている。当該空間は、流路130を形成している。流路130は、後述する、第1の液体、第1の封止液、第2の液体、及び第2の封止液を送液するための経路として機能する。すなわち、第1の液体、第1の封止液、第2の液体、及び第2の封止液は、流路130を通じて流体デバイス100に導入される。
【0019】
流路130の形状、構造、及び容量等は特に限定されないが、流路130の高さ(つまり、基板110の一方面111と、カバー部材120の基板110と対向する面との間の距離)は、例えば100μm以下であってもよい。
【0020】
凸部121はカバー部材120と一体に成形されていてもよい。カバー部材120は、例えば、熱可塑性樹脂の流動体を、成形型を用いて成形することで、凸部121を有する板状に成形することができる。また、カバー部材120には試薬の導入ポート122及び排出ポート123が形成されていてもよい。
【0021】
カバー部材120が凸部121を有する場合、基板110のウェル141が開口する面111に凸部121が接するように、カバー部材120と基板110とが重ねられる。この結果、カバー部材120と基板110との間の空間が流路130となる。カバー部材120と基板110とは、レーザー溶着等により溶着されてもよい。
【0022】
(流体デバイスの変形例1)
本実施形態の方法に用いられる流体デバイスは上述した流体デバイス100に限られない。
図7は、流体デバイスの一例を示す模式断面図である。
図7に示すように、流体デバイス200は、基板110と、壁部材210とを備えている。流体デバイス200においては、ウェルアレイ140は基板110の一方面111上に基板110と一体成形されている。ウェルアレイ140は複数のウェル141を有する。
【0023】
流体デバイス200は、カバー部材120を有していない点で上述した流体デバイス100と主に異なっている。このため、流体デバイス200は流路を有していない。
【0024】
(流体デバイスの変形例2)
上述した流体デバイス100においては、カバー部材120と凸部121は一体成形されている。しかしながら、カバー部材120と凸部121は別体として成形されていてもよい。
【0025】
また、上述した流体デバイス100及び流体デバイス200においては、ウェルアレイ140は、基板110の一方面111上に基板110と一体成形されていた。しかしながら、ウェルアレイは、基板110と一体成形されていなくてもよい。例えば、流体デバイスとは別体として成形されたウェルアレイ140を、流体デバイスの基板110上に配置してもよい。あるいは、基板110の表面に樹脂層を積層し、エッチング等により、樹脂層にウェルアレイを形成してもよい。
【0026】
(流体デバイスの材質)
基板110は、例えば樹脂を用いて形成される。樹脂の種類は特に限定されないが、第1の液体、第2の液体、及び封止液に対して耐性のある樹脂であることが好ましい。また、検出するシグナルが蛍光である場合には、自家蛍光が少ない樹脂であることが好ましい。例えば、樹脂としては、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、シリコン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、フッ素樹脂、及びアモルファスフッ素樹脂等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0027】
基板110の板厚方向の一方面111に複数のウェル141が形成されていてもよい。樹脂を用いたウェルの形成方法としては、射出成形、熱インプリント、及び光インプリント等が挙げられる。
【0028】
あるいは、例えば、基板110の上にフッ素樹脂を積層し、当該フッ素樹脂をエッチング等により加工してウェルアレイを形成してもよい。フッ素樹脂としては、例えばCYTOP(登録商標)(旭硝子)等を用いることができる。
【0029】
また、流体デバイスがカバー部材120を有する場合、カバー部材120の材質は、自家蛍光の少ない樹脂であることが好ましく、例えば、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等の熱可塑性樹脂であってもよい。
【0030】
また、カバー部材120は、シグナルを蛍光観察する際に検出される波長及びその近傍の波長の光を透過しない材料から形成されていてもよく、完全に光を透過しない材料から形成されていてもよい。例えば、カバー部材120は、カーボンや金属粒子等を添加した熱可塑性樹脂から形成されていてもよい。
【0031】
(第1実施形態)
上述したように、本実施形態の方法は、基板と、前記基板の一方面に開口し、界面活性剤を含んでいる第1の液体を内部に収容した複数のウェルと、を含み、前記一方面に第1の封止液が積層され、前記複数のウェルの開口部が前記第1の封止液によって封止されている流体デバイスの前記一方面上に、第2の液体を導入することを含み、その結果、前記第2の液体が前記第1の封止液を置換して前記ウェルの内部に導入される、前記ウェルへの前記第2の液体の導入方法である。
【0032】
場合により
図1~6を参照しながら、流体デバイス100を用いた場合を例に、第1実施形態の方法について説明する。
【0033】
《第1の液体の導入》
まず、
図1に示すように、流体デバイス100の導入ポート122から第1の液体L110を導入し、流路130に送液する。第1の液体L110は、例えば、生体試料又は環境試料を含む。生体試料としては、特に制限されず、血清、血漿、尿、及び細胞培養液等が挙げられる。また、環境試料としては、例えば、河川の水及び工場排水等が挙げられる。
【0034】
生体試料及び環境試料は、検出対象となる標的分子を含む場合がある。また、生体試料及び環境試料は、検出対象となる標的分子を含まない場合もある。標的分子としては、例えば、DNA、RNA、タンパク質、ウイルス、細胞、及び特定化合物等が挙げられる。ここで、RNAとしては、miRNA及びmRNA等が挙げられる。また、細胞としては、細菌、酵母、動物細胞、植物細胞、及び昆虫細胞等が挙げられる。
【0035】
第1の液体L110は、標的分子を検出する反応試薬を含んでいてもよい。反応試薬としては、緩衝物質、酵素、基質、抗体、及び抗体断片等が挙げられる。酵素は、例えば標的分子が核酸である場合には、標的分子に関連する鋳型核酸に対する酵素反応等の生化学的反応を行うために、生化学的反応の内容に対応して選択される。鋳型核酸に対する生化学的反応は、例えば、鋳型核酸が存在する条件下でシグナル増幅が起こるような反応である。反応試薬は、採用する検出反応に応じて選択される。具体的な検出反応としては、Invasive Cleavage Assay(ICA)法、ループ介在等温増幅(LAMP)法(商標登録)、5’→3’ヌクレアーゼ法(TaqMan(登録商標)法)、及び蛍光プローブ法等が挙げられる。
【0036】
第1の液体L110は、界面活性剤を含んでいる。界面活性剤としては、例えば、Triton-X100(ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(n=約10)ともいう)、ドデシル硫酸ナトリウム、Nonidet P-40(オクチルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノールともいう)及びTween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートともいう)等が挙げられる。
【0037】
界面活性剤の濃度は、第1の液体L110の総体積に対し0.001v/v%以上1.0v/v%以下であることが好ましく、0.005v/v%以上0.5v/v%以下であることがより好ましく、0.01v/v%以上0.1v/v%以下であることがさらに好ましい。界面活性剤の濃度が第1の液体L110の総体積に対し0.001v/v%以上であると、第2の液体L410への置換が行われやすい。界面活性剤の濃度が第1の液体L110の総体積に対し1.0v/v%以下であると、後に行われる標的分子の検出における反応への影響が少ない。
【0038】
流路130に送液された第1の液体L110は、ウェル141の内部に収容される。この結果、ウェル141に反応試薬、界面活性剤及び、存在する場合には標的分子が導入される。
【0039】
1つのウェル141に導入される標的分子の数は特に制限されないが、好ましくは、1つのウェル141に1つ以下、すなわち、0個又は1個の標的分子が導入される。これにより、標的分子の検出を1個単位で行うことができ、すなわちデジタル計測が可能となる。また、ウェルアレイ140の全てのウェル141に標的分子が導入される必要はない。
【0040】
標的分子をウェル141に導入する手段は、特に制限されず、選択した標的分子に応じた適切な手段を選択することができる。例えば、標的分子を自重により流体デバイス内(具体的には流路内)で沈降させ、ウェル141に分配する方法が挙げられる。あるいは、標的分子を捕捉する担体(つまり捕捉物)を利用し、自重で沈降しにくい標的分子に捕捉物を結合させて送液してもよい。また、予めウェル141に捕捉物を固定化させておき、送液された標的分子を捕捉させることで、標的分子のウェルへの導入効率を向上させることもできる。
【0041】
捕捉物を標的分子に結合させる工程は、任意の時点で行うことができる。例えば、この工程は、ウェル141に標的分子を導入する前に、サンプルチューブ内で標的分子と捕捉物を接触させることにより行ってもよい。あるいは、捕捉物をウェル141に導入した後に、標的分子をウェルに導入し、ウェル内で捕捉物と標的分子とを接触させてもよい。
【0042】
捕捉物は、標的分子を捕捉することができる物質である。捕捉物は、例えば、固相と標的分子に対する特異的結合物質との結合体であってもよい。
【0043】
固相としては、粒子、膜、及び基板等が挙げられる。また、標的分子に対する特異的結合物質は1種類でもよいし、複数種類であってもよい。例えば3種類であってもよいし、4種類であってもよいし、5種類以上であってもよい。
【0044】
粒子としては、特に制限されず、ポリマー粒子、磁気粒子、及びガラス粒子等が挙げられる。粒子は、非特異的な吸着を避けるための表面処理が施された粒子が好ましい。また、特異的結合物質を固定化するために、表面にカルボキシル基等の官能基を有する粒子が好ましい。より具体的には、粒子としてJSR社製の商品名「Magnosphere LC300」等を用いることができる。
【0045】
あるいは、例えば標的分子としてウイルスを用いる場合、ウイルスが付着することができる細胞(すなわち、ウイルス受容体を有する細胞)を、捕捉物として用いてもよい。
【0046】
捕捉物における特異的結合物質としては、抗体、抗体断片、及びアプタマー等が挙げられる。抗体断片としては、Fab、F(ab’)2、Fab’、一本鎖抗体(scFv)、ジスルフィド安定化抗体(dsFv)、2量化体V領域断片(Diabody)、及びCDRを含むペプチド等が挙げられる。抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。また、市販の抗体であってもよい。
【0047】
また、標的分子が糖鎖を含む場合、特異的結合物質は、レクチンであってもよい。また、標的分子が脂質膜を含む場合、特異的結合物質は、脂質膜に結合性を有する物質であってもよい。脂質膜に結合性を有する物質としては、例えば、ヘキサンジオール等の炭化水素及び膜貫通タンパク質等の膜タンパク質が挙げられる。膜タンパク質としては、例えばα-ヘモリシン等が挙げられる。
【0048】
特異的結合物質を固相に固定化する方法としては、特に制限されず、物理吸着による方法、化学結合による方法、アビジン-ビオチンの結合を利用する方法、及びプロテインG又はプロテインAと抗体との結合を利用する方法等が挙げられる。物理吸着による方法としては、疎水的相互作用又は静電的相互作用により、特異的結合物質を粒子表面に固定化する方法が挙げられる。化学結合による方法としては、架橋剤を使用する方法が挙げられる。例えば、粒子の表面が水酸基を有する場合、特異的結合物質が有するカルボキシル基に架橋剤を反応させて活性エステル化した後、水酸基とこのエステル基とを反応させることにより、特異的結合物質を粒子表面に固定化させることができる。また、特異的結合物質による標的分子の認識能を阻害しないよう、特異的結合物質と粒子表面との間にスペーサーを設けることが好ましい。
【0049】
捕捉物を用いて標的分子をウェル141に導入する場合、捕捉物1個に標的分子が0個又は1個捕捉される条件で捕捉物と標的分子との結合体を形成することが好ましい。さらに、1つのウェル141には、捕捉物が0個又は1個導入されるように構成されることが好ましい。これによりデジタル計測が可能となる。
【0050】
《封止液の導入》
続いて、
図2及び
図3に示すように、導入ポート122から、第1の封止液L120を導入し、流路130に送液する。
【0051】
第1の封止液は、複数のウェル141に導入された液体同士を互いに混合しないように個別に封止して液滴(微小液滴)を形成することができる液である。第1の封止液は、好ましくは油性溶液であり、より好ましくはオイルである。オイルとしては、フッ素系オイル、シリコーン系オイル、炭化水素系オイル又はこれらの混合物等を使用することができる。より具体的には、シグマ社製の商品名「FC-40」等を用いることができる。FC-40(CAS番号:86508-42-1)はフッ素化脂肪族化合物であり、25℃における比重が1.85g/mLである。
【0052】
流路130に送液された第1の封止液L120は、流路130に導入された第1の液体L110のうち、ウェル141に収容されていない第1の液体L110を押し流して置換する。これにより、第1の封止液L120が複数のウェル141をそれぞれ個別に封止し、ウェル141は独立した反応空間(微小区画142)となる。
【0053】
流路130が第1の封止液L120で満たされると、余分な第1の封止液L120は排出ポート123から排出される。
図3は、ウェルアレイ140のウェル141の全てが第1の封止液L120で封止され、封止されたウェル(微小区画)142が形成された状態を示す。
【0054】
また、第1の液体L110に脂質を溶解させておき、第1の封止液L120を流路130に送液した後、再び脂質を含む液体を送液することにより、ウェル141の開口部に脂質二重膜を形成し、当該脂質二重膜によって複数のウェル141をそれぞれ個別に封止し、封止されたウェル142を形成することもできる。脂質二重膜を形成する脂質としては、例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール(DOPG)、及びこれらの混合物等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0055】
《標的分子の検出》
ここで、第1の液体L110に含まれる反応試薬を反応させて、標的分子を検出してもよい。例えば、封止されたウェル142の内部でシグナル増幅反応を行う。すなわち、ウェル142の内部に反応試薬由来のシグナルが検出されるように、シグナルを観察可能なレベルまでシグナルを反応工程により増幅させる。シグナルとしては、蛍光、発色、電位変化、及びpH変化等が挙げられる。
【0056】
シグナル増幅反応は、例えば酵素反応である。一例として、シグナル増幅反応は、シグナル増幅のための酵素を含んだ第1の液体L110がウェル142の内部に収容された状態で流体デバイス100を、所望の酵素活性が得られる一定温度条件で所定時間維持する等温反応である。具体例として、シグナル増幅反応として、ICA反応を用いることができる。この際、ウェル142の内部には、ICA反応試薬及び標的分子である核酸が含まれている。酵素反応の結果、ウェル142に標的分子が収容されている場合には、蛍光物質が消光物質から遊離することによって、励起光に対応して所定の蛍光シグナルを発する。
図3中、符号142Rは、標的分子が収容され、シグナルを発したウェルを示す。
【0057】
《第2の液体の導入》
続いて、
図4に示すように、導入ポート122から、第2の液体L410を導入し、流路130に送液する。その結果、第2の液体L410が第1の封止液L120を押し流し、ウェル141の内部に導入される。ここで、第1の封止液L120は、第2の液体L410と完全に置換されて除去されることが好ましいが、第2の液体L410がウェル141の内部に導入される限り、第1の封止液L120の一部が残存していてもよい。
【0058】
従来、封止液により封入されたウェル142は、もはや内部の液体を交換することはできないと考えられてきた。しかしながら、実施例において後述するように、発明者らは、本実施形態の方法により、第1の封止液L120により封入されたウェル142の内部に第2の液体L410を導入することができることを明らかにした。
【0059】
第2の液体L410は、界面活性剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。第2の液体L410が界面活性剤を含んでいる場合、界面活性剤の種類及びその濃度は、第1の液体L110に含まれる界面活性剤と同じものが挙げられる。
【0060】
第2の液体L410も、第1の液体L110と同様に、標的分子を検出する反応試薬を含むことができる。反応試薬としては、上述した第1の液体L110が含むことができるものと同様のものが挙げられるが、第1の液体L110とは異なる試薬であることが好ましい。これにより、第1の液体L110に含まれる反応試薬とは異なる反応を実施することができる。
【0061】
流路130に送液された第2の液体L410は、流路130に導入された第1の封止液L120を押し流して置換する。これにより、個別に封止されていたウェル142の封止が解除され、封止されていないウェル141となる。また、第1の液体L110が収容されているウェル141の内部には第2の液体L410が導入される。
【0062】
第1実施形態の方法においては、一方面111と封止液L120との親和性が、一方面111と第2の液体L410との親和性と同程度であるか、又は、一方面111と第1の封止液L120との親和性が、一方面111と第2の液体L410との親和性よりも低いことが好ましい。これにより、第2の液体L410を導入したときに、第2の液体L410が第1の封止液L120を押し流し、ウェル142の封止を解除しやすくなる。
【0063】
一方面111と第1の封止液L120との親和性が、一方面111と第2の液体L410との親和性と同程度又は低い例としては、例えば、一方面111の材質がシクロオレフィンポリマーであり、第1の液体L110及び第2の液体L410の主成分が水であり、第1の封止液L120がフッ素系オイルである組み合わせが挙げられる。
【0064】
本明細書において、液体の主成分が水であるとは、液体の50質量%以上、例えば60質量%以上、例えば70質量%以上、例えば80質量%以上、例えば90質量%以上、例えば95質量%以上、例えば98質量%以上が水であることを意味する。また、フッ素系オイルとしては、例えば、シグマ社製の商品名「FC-40」等を用いることができる。
【0065】
第1の液体L110に界面活性剤が含まれているため、封止の解除されたウェル141の内部に第2の液体L410が導入され、その結果、ウェル141の内部を第2の液体L410に置換することができる。つまり、ウェル141の内部に界面活性剤を含んでいる第1の液体L110が導入され、第1の液体L110が第1の封止液L120により封止された後、第2の液体L410が導入され、ウェル141の内部を第2の液体L410に置換することができる。
【0066】
第2の液体L410がウェル141の内部に導入された後、第1の液体L110に含まれる成分の少なくとも一部がウェル141の内部に保持されていてもよい。例えば、第1の液体L110に含まれていた標的分子が捕捉物に結合しており、当該捕捉物がウェル141の内部に保持されていてもよい。すなわち、第1の液体L110に含まれる成分の少なくとも一部が、捕捉物(担体)に保持されることによって、ウェル141の内部に保持されていてもよい。この場合、ウェル141の内部には、当該捕捉物及び標的分子と共に、第2の液体L410が存在することになる。
【0067】
あるいは、例えば、第1の液体L110に含まれていた標的分子が捕捉物に結合しており、更に、第1の液体L110に含まれていた標的分子に対する抗体が前記標的分子に結合しており、当該捕捉物がウェル141の内部に保持されていてもよい。この場合、ウェル141の内部には、当該捕捉物、標的分子及び標的分子に結合した抗体と共に、第2の液体L410が存在することになる。
【0068】
第1の液体L110と第2の液体L410とは混和可能であることが好ましい。第1の液体L110と第2の液体L410とが混和可能であると、ウェル141の内部の液体の置換が効率的に行われる。ここで、混和可能であるとは、第1の液体L110と第2の液体L410とを混合した場合に、層分離せず、均一な溶液又は分散液が形成されることを意味する。
【0069】
流路130が第2の液体L410で満たされると、余分な第2の液体L410は排出ポート123から排出される。
【0070】
《封止液の導入》
第2の液体L410を導入する工程の後に、流体デバイス100に第2の封止液L120を導入する工程を更に実施してもよい。ここで、第2の封止液は、上述した第1の封止液と同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。具体的には、
図5に示すように、導入ポート122から、第2の封止液L120を再び導入し、流路130に送液してもよい。
【0071】
その結果、第2の封止液L120が一方面111に積層されて複数のウェル141の開口部を封止し、ウェル141の内部に第2の液体L410、又は、第1の液体L110及び第2の液体L410の混合物が封入され、それぞれのウェル141は独立した反応空間(微小区画142)となる。
【0072】
流路130が第2の封止液L120で満たされると、余分な第2の封止液L120は排出ポート123から排出される。
図6は、ウェルアレイ140のウェル141の全てが第2の封止液L120で封止され、封止されたウェル(微小区画)142が形成された状態を示す。
【0073】
また、第2の液体L410に脂質を溶解させておき、第2の封止液L120を流路130に送液した後、再び脂質を含む液体を送液することにより、ウェル141の開口部に脂質二重膜を形成し、当該脂質二重膜によって複数のウェル141をそれぞれ個別に封止し、封止されたウェル142を形成することもできる。脂質二重膜を形成する脂質としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0074】
《標的分子の検出》
ここで、第2の液体L410に含まれる反応試薬を反応させて、上述したものと同様にして、標的分子を検出してもよい。例えば、封止されたウェル142の内部でシグナル増幅反応を行ってもよい。
図6中、符号142Rは、標的分子が収容されており、反応試薬を反応させた結果、シグナルを発したウェルを示す。
【0075】
(第2実施形態)
続いて、
図7~
図11を参照しながら、流体デバイス200を用いた場合を例に、第2実施形態の方法について説明する。第2実施形態の方法は、流体デバイスがカバー部材を有していない点で、第1実施形態の方法と異なっている。また、第2実施形態の方法における第1の封止液及び第2の封止液は、第1実施形態の方法における第1の封止液及び第2の封止液と、後述する比重の条件を満たしている必要がある点において異なっている。
【0076】
《第1の液体の導入》
まず、
図7に示すように、流体デバイス200の内部に第1の液体L110を導入する。第1の液体L110については上述したものと同様である。
図7に示すように、第1の液体L110は、ウェル141の内部に収容される。この結果、ウェル141に反応試薬、及び、存在する場合には標的分子が導入される。1つのウェル141に導入される標的分子の数は特に制限されないが、1つのウェル141に1つ以下、すなわち、0個又は1個の標的分子が導入されることが好ましい。
【0077】
《封止液の導入》
続いて、
図8に示すように、流体デバイス200の内部に第1の封止液L120を導入する。第1の封止液L120の比重は第1の液体L110の比重よりも大きい。このため、第1の封止液L120は、第1の液体L110よりも下に沈み、一方面111に接する。そして、封止液L120は、第1の液体L110を収容した複数のウェル241をそれぞれ個別に封止し、独立した反応空間(微小区画142)を形成する。
【0078】
《標的分子の検出》
ここで、
図9に示すように、ウェル142内で所定の反応を行い、発生したシグナルを観察してもよい。
図9中、ウェル142Rは、標的分子が収容されており、シグナルが検出されたウェルであり、ウェル142は標的分子が収容されておらず、シグナルが検出されなかったウェルである。
【0079】
《第2の液体の導入》
続いて、
図10に示すように、流体デバイス200の内部に第2の液体L410を導入する。第2の液体L410の比重は、第1の封止液L120の比重よりも大きい。このため、第2の液体L410は、第1の封止液L120よりも下に沈む。これにより、個別に封止されていたウェル142の封止が解除され、封止されていないウェル141となる。また、ウェル141の内部には第2の液体L410が導入される。ウェル141において、第1の封止液L120は、第2の液体L410と完全に置換されて除去されることが好ましいが、第2の液体L410がウェル141の内部に導入される限り、第1の封止液L120の一部が残存していてもよい。
【0080】
第2の液体L410は、標的分子を検出する反応試薬を含んでいてもよい。反応試薬としては、上述した第1の液体L110が含むことができるものと同様のものが挙げられるが、第1の液体L110とは異なる試薬であることが好ましい。これにより、第1の液体L110に含まれる反応試薬とは異なる反応を実施することができる。
【0081】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、第2の液体L410がウェル141の内部に導入された後、第1の液体L110に含まれる成分の少なくとも一部がウェル141の内部に保持されていてもよい。
【0082】
《封止液の導入》
第2の液体L410を導入する工程の後に、流体デバイス200に第2の封止液L620を導入する工程を更に実施してもよい。具体的には、
図11に示すように、流体デバイス200の内部に第2の封止液L620を導入する。第2の封止液L620の比重は、第2の液体L410の比重よりも大きい。このため、第2の封止液L620は、第2の液体L410よりも下に沈み、一方面111に接する。そして、第2の封止液L620は、第2の液体L410、又は、第1の液体L110及び第2の液体L410の混合物を収容した複数のウェル241をそれぞれ個別に封止し、独立した反応空間(微小区画142)を形成する。
【0083】
図11は、ウェルアレイ140のウェル141の全てが第2の封止液L620で封止され、封止されたウェル(微小区画)142が形成された状態を示す。
【0084】
《標的分子の検出》
ここで、第2の液体L410に含まれる反応試薬を反応させて、上述したものと同様にして、標的分子を検出してもよい。例えば、封止されたウェル142の内部でシグナル増幅反応を行ってもよい。
図11中、142Rは、標的分子が収容されており、反応試薬を反応させた結果、シグナルを発したウェルを示す。
【0085】
第2実施形態の方法においては、第1の液体L110の比重よりも第1の封止液L120の比重が大きく、第1の封止液L120の比重よりも第2の液体L410の比重が大きく、第2の液体L410の比重よりも第2の封止液L620の比重が大きいことが好ましい。また、第1の液体L110及び第2の液体L410の主成分は水であることが好ましい。この場合、例えば、第2の液体L410にショ糖等を含有させることにより、比重を調整することができる。また、第1の封止液L120、第2の封止液L620としては、上述したものの中から、比重等の要件を満たすものを適宜選択して用いることができる。
【0086】
ここまで、個別に封止された微小区画の内部の液体を1回置換する実施形態について説明したが、本発明の一態様によれば、個別に封止された微小区画の内部の液体を2回以上置換することができる。すなわち、本発明の一態様を繰り返して実施することにより、所望の回数、液体を置換することが可能になる。
【0087】
具体的には、上述の例では、上記第1の液体L110の導入、第1の封止液L120による封止、及び第2の液体L410の導入が連続的に行われている。しかしながら、これらの工程は必ずしも連続的に行われなくてもよい。例えば、第1の封止液L120による封止と、第2の液体L410の導入の間に、第3の液体を流体デバイス100へ導入し、第3の封止液により第3の液体をウェル142の内部に封止してもよい。このとき、第3の液体は、界面活性剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。第3の液体が界面活性剤を含んでいなくても、第2の液体L410を流体デバイス100に導入することによりウェル141の内部を、界面活性剤を含まない液体から第2の液体L410に置換することができる。
【0088】
その理由として、第1の液体L110の導入により、ウェル141の内部に界面活性剤が導入され、その後、界面活性剤を含まない液体によってウェル141の内部を置換しても、界面活性剤がウェル141内に残存、又は界面活性剤がウェル141の内壁に付着していることが考えられる。そのため、第2の液体L410を導入すると、ウェル141の内部に残存する界面活性剤の作用により、ウェル141内部を第2の液体L410に置換することができる。
【0089】
さらに、第3の封止液による封止と第2の液体L410の導入の間に、第4の液体を導入し、第4の封止液により第4の液体をウェル141の内部に封止してもよい。第4の液体も同様に、界面活性剤が含まれてもよいし、含まれなくてもよい。
【0090】
本発明の一態様によれば、試料に複数の標的分子が含まれる場合、例えば試料が細胞等である場合に、標的分子の検出を簡便にすることができる。一つの例として、以下の態様が挙げられる。
【0091】
細胞及び第1の反応試薬を含んでいる第1の液体L110は、ウェル141内に導入される。このとき、捕捉物を用いてこの細胞をウェル141内に導入することが好ましい。捕捉物として、第2の液体L410を導入した後も捕捉物と結合した細胞がウェル142に留まるような捕捉物を用いる。例えば、質量の十分大きい捕捉物を用いる、又はウェル141に固定化された補足物を用いる等が挙げられる。
【0092】
その後、第1の封止液によりウェル142を得て、第1の反応試薬を用いた第1の標的分子の検出を行う。さらに、第2の反応試薬を含んでいる第2の液体L410をウェル141内に導入して、ウェル141を第2の液体に置換する。その後、第2の封止液を流路130内に導入して、封止されたウェル142を得る。このウェル142内には、捕捉物と結合した細胞及び第2の液体L410が含まれている。その後、第2の反応試薬を用いた第2の標的分子の検出を行う。
【0093】
このように試料に複数の標的物質が含まれる場合、複数のデバイスを使用することなく、簡便に複数の標的物質の検出を行うことができる。
【実施例】
【0094】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
(流体デバイスの製造)
まず、
図1に示すような構造を有する流体デバイスを製造した。射出成型で形成され、ウェルアレイ140を有するシクロオレフィンポリマー製の基板110と、カーボンブラックを添加して着色したシクロオレフィンポリマー製のカバー部材120を、両面テープで接着して流体デバイスを製造した。両面テープは凸部121として機能するものであり、流路130の高さ(基板110の一方面111と、カバー部材120の基板110と対向する面との間の距離)は100μmであった。また、カバー部材120は、導入ポート122及び排出ポート123を有していた。また、ウェルアレイ140を構成するウェル141の直径は、5μmであり、ウェル141の深さは、3μmであった。ウェル141の1つあたりの体積Vdは、93fLであった。
【0096】
(第1の液体及び第3の液体)
第1の液体及び第3の液体は、水(AccuGENE Molecular Biology Grade Water(LONZA社製))を溶媒とし、蛍光試薬として5μg/mlのRedmond Red、緩衝物質として10mM Tris-HCl(ニッポンジーン社製、pH:8.5)、塩として6.25mM MgCl2(SIGMA-ALDRICH社製)、及び界面活性剤として0.1v/v% Tween 20(SIGMA-ALDRICH社製)を含む液体であった。
【0097】
(第2の液体)
第2の液体は、水(AccuGENE Molecular Biology Grade Water(LONZA社製))を溶媒とし、蛍光試薬として1μMのフルオレセインイソチオシアネート(以下FITCと称す)、緩衝物質として10mM Tris-HCl(ニッポンジーン社製、pH:8.5)、塩として6.25mM MgCl2(SIGMA-ALDRICH社製)、及び界面活性剤として0.1mass% Tween 20(SIGMA-ALDRICH社製)を含む液体であった。
【0098】
(封止液)
封止液として、オイル(Fluorinert FC-40、SIGMA-ALDRICH社製)を用いた。
【0099】
(顕微鏡観察)
使用した装置は、以下の通りであった。
顕微鏡:BZ-800(キーエンス社製)
対物レンズ:CFI プランアポクロマート Lambda 10X(ニコン社製)
フィルタ1:BZ-Xフィルタ TexasRed(キーエンス社製)
フィルタ2:BZ-Xフィルタ GFP(キーエンス社製))
【0100】
[実施例1]
(第1の液体の導入)
流体デバイスの導入ポート122から、第1の液体を20μL注入した。
【0101】
(シグナルの検出1)
続いて、流体デバイス100の基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から、ウェル141に焦点が合うように、蛍光顕微鏡を用いて撮影した。このとき、基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から励起光を照射した。フィルタ1を用いて、露光時間1/4秒で蛍光画像を撮影し、同一視野の明視野画像も撮影した。
【0102】
図12の(a)の画像は、シグナル検出1の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。その結果、視野の全面において蛍光が観察された。
【0103】
(封止液の導入)
流体デバイスの導入ポート122から、封止液を100μL注入した。この結果、ウェル141が個別に封止され、封止されたウェル142が形成された。
【0104】
(シグナルの検出2)
続いて、流体デバイス100の基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から、ウェル141に焦点が合うように、蛍光顕微鏡を用いて撮影した。このとき、基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から励起光を照射した。フィルタ1を用いて、露光時間5秒で蛍光画像を撮影し、同一視野の明視野画像も撮影した。
【0105】
図12の(b)の画像は、シグナル検出2の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。その結果、ウェル142の配置に対応した蛍光シグナルが観察された。つまり、第1の液体が複数のウェル142に個別に収容されていることが確認された。
【0106】
(第2の液体の導入)
流体デバイスの導入ポート122から、第2の液体を20μL注入した。
【0107】
(シグナルの検出3)
続いて、流体デバイス100の基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から、ウェル141に焦点が合うように、蛍光顕微鏡を用いて撮影した。このとき、基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から励起光を照射した。フィルタ1を用いて、露光時間5秒で蛍光画像を撮影し、フィルタ2を用いて、露光時間1/40秒で蛍光画像を撮影し、同一視野の明視野画像も撮影した。
【0108】
図13の(a)の画像は、シグナル検出3の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。その結果、Redmond Redの蛍光は観察されず、全面にFITCの蛍光が観察された。
【0109】
(封止液の導入)
流体デバイスの導入ポート122から、封止液を100μL注入した。この結果、ウェル141が個別に再封止され、封止されたウェル142が形成された。
【0110】
(シグナルの検出4)
続いて、流体デバイス100の基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から、ウェル141に焦点が合うように、蛍光顕微鏡を用いて撮影した。このとき、基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から励起光を照射した。フィルタ1を用いて、露光時間5秒で蛍光画像を撮影し、フィルタ2を用いて、露光時間1.5秒で蛍光画像を撮影し、同一視野の明視野画像も撮影した。
【0111】
図13の(b)の画像は、シグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。その結果、Redmond Redの蛍光画像では蛍光シグナルが観察されず、FITCの蛍光画像ではウェル142の配置に対応した蛍光シグナルが観察された。
【0112】
[実施例2]
第2の液体がTween 20を含まないこと以外は、実施例1と同じ条件にて実験を行った。
【0113】
図14の(a)の画像は、シグナル検出1の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。その結果、視野の全面において蛍光が観察された。
【0114】
図14の(b)の画像は、シグナル検出2の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。その結果、ウェル142の配置に対応した蛍光シグナルが観察された。つまり、第1の液体が複数のウェル142に個別に収容されていることが確認された。
【0115】
図15の(a)の画像は、シグナル検出3の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。その結果、Redmond Redの蛍光は観察されず、全面にFITCの蛍光が観察された。
【0116】
図15の(b)の画像は、シグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。その結果、Redmond Redの蛍光画像では蛍光シグナルが観察されず、FITCの蛍光画像ではウェル142の配置に対応した蛍光シグナルが観察された。
【0117】
[比較例1]
第1の液体がTween 20を含まないこと以外は、実施例1と同じ条件にて実験を行った。
【0118】
[比較例2]
第1の液体及び第2の液体がTween 20を含まないこと以外は、実施例1と同じ条件にて実験を行った。
【0119】
図16の(a)の画像は、比較例1のシグナル検出1の観察画像である。
図17の(a)の画像は、比較例2のシグナル検出1の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。その結果、視野の全面において蛍光が観察された。
【0120】
図16の(b)の画像は、比較例1のシグナル検出2の観察画像である。
図17の(b)の画像は、比較例2のシグナル検出2の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。その結果、ウェル142の配置に対応した蛍光シグナルが観察された。つまり、第1の液体が複数のウェル142に個別に収容されていることが確認された。
【0121】
図18の(a)の画像は、比較例1のシグナル検出3の観察画像である。
図19の(a)の画像は、比較例2のシグナル検出3の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。その結果、ウェル142の配置に対応したRedmond Redの蛍光シグナルが観察された。つまり、第1の液体が複数のウェル142に個別に収容されていることが確認された。さらに、FITCの蛍光シグナルが全面に観察された。
【0122】
図18の(b)の画像は、比較例1のシグナル検出4の観察画像である。
図19の(b)の画像は、比較例2のシグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。その結果、ウェル142の配置に対応したRedmond Redの蛍光シグナルが観察された。つまり、第1の液体が複数のウェル142に個別に収容されていることが確認された。FITCの蛍光シグナルは、観察されなかった。
【0123】
実施例1~2及び比較例1~2の結果より、第1の液体に界面活性剤が含まれると、第1の液体が封止液により個別に収容されていても第2の液体によりウェル141内を置換することができることが明らかとなった。このとき、第2の液体に界面活性剤が含まれるか否かに関係なく、第2の液体によりウェル141内を置換することができることがわかった。さらに、第2の液体に界面活性剤が含まれていたとしても、第1の液体に界面活性剤が含まれていない場合、第2の液体によりウェル141内を置換することができないことがわかった。
【0124】
[実施例3]
実施例1と同じ手順により(第1の液体の導入)から(シグナルの検出4)までを行った。その後、以下の操作を行った。
【0125】
(第3の液体の導入)
流体デバイスの導入ポート122から、第3の液体を20μL注入した。
【0126】
(シグナルの検出5)
続いて、流体デバイス100の基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から、ウェル141に焦点が合うように、蛍光顕微鏡を用いて撮影した。このとき、基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から励起光を照射した。フィルタ1を用いて、露光時間1/4秒で蛍光画像を撮影し、フィルタ2を用いて、露光時間1.5秒で蛍光画像を撮影し、同一視野の明視野画像も撮影した。
【0127】
(封止液の導入)
流体デバイスの導入ポート122から、封止液を100μL注入した。この結果、ウェル141が個別に再封止され、封止されたウェル142が形成された。
【0128】
(シグナルの検出6)
続いて、流体デバイス100の基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から、ウェル141に焦点が合うように、蛍光顕微鏡を用いて撮影した。このとき、基板110のウェルアレイ140が形成されている面とは反対の面から励起光を照射した。フィルタ1を用いて、露光時間5秒で蛍光画像を撮影し、フィルタ2を用いて、露光時間1.5秒で蛍光画像を撮影し、同一視野の明視野画像も撮影した。
【0129】
図20の(a)の画像は、シグナル検出1の観察画像である。
図20の(b)の画像は、シグナル検出2の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。
【0130】
図21の(a)の画像は、シグナル検出3の観察画像である。
図21の(b)の画像は、シグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。
【0131】
図20及び
図21の結果より、実施例1と同じ結果が得られたことが分かる。
【0132】
図22の(a)の画像は、シグナル検出5の観察画像である。
図22の(b)の画像は、シグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。
【0133】
図22の(a)の画像の通り、Redmond Redの蛍光シグナルが全面に観察された。一方で、FITCの蛍光シグナルは観察されなかった。
図22の(b)の画像の通り、ウェル142の配置に対応したRedmond Redの蛍光シグナルが観察された。つまり、第3の液体が複数のウェル142に個別に収容されていることが確認された。一方で、FITCの蛍光シグナルは観察されなかった。
【0134】
[実施例4]
第2の液体がTween 20を含まないこと以外は、実施例3と同じ条件にて実験を行った。
【0135】
図23の(a)の画像は、シグナル検出1の観察画像である。
図23の(b)の画像は、シグナル検出2の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。
【0136】
図24の(a)の画像は、シグナル検出3の観察画像である。
図24の(b)の画像は、シグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。
【0137】
図23及び
図24の結果より、実施例2と同じ結果が得られたことが分かる。
【0138】
図25の(a)の画像は、シグナル検出5の観察画像である。
図25の(b)の画像は、シグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。
【0139】
図25の(a)の画像の通り、Redmond Redの蛍光シグナルが全面に観察された。一方で、FITCの蛍光シグナルは観察されなかった。
図25の(b)の画像の通り、ウェル142の配置に対応したRedmond Redの蛍光シグナルが観察された。つまり、第3の液体が複数のウェル142に個別に収容されていることが確認された。一方で、FITCの蛍光シグナルは観察されなかった。
【0140】
この結果から、界面活性剤を含んでいる液体(本実施例においては第1の液体)の導入と、封止液による封止と、最終的に置き換えられる液体(本実施例においては第3の液体)の導入とは連続的に行われなくても、最終的に置き換えられる液体をウェルに収容できることがわかった。言い換えれば、最終的に置き換えられる液体(本実施例においては第3の液体)の直前に収容される液体(本実施例においては第2の液体)が界面剤を含んでいなくても、最終的に置き換えられる液体より前に界面活性剤を含んでいる液体(本実施例においては第1の液体)がウェル141収容されていれば、最終的に置き換えられる液体がウェル141に収容されることがわかった。
【0141】
その理由として、第1の液体の導入により、ウェル141の内部に界面活性剤が導入され、その後界面活性剤を含まない第2の液体によってウェル141の内部を置換しても、界面活性剤がウェル141内に残存、又は界面活性剤がウェル141の内壁に付着していることが考えられる。そのため、第3の液体を導入すると、ウェル141の内部に残存する界面活性剤の作用により、ウェル141内部を第3の液体に置換することができたと考えられる。
[比較例3]
第1の液体がTween 20を含まないこと以外は、実施例3と同じ条件にて実験を行った。
【0142】
図26の(a)の画像は、シグナル検出1の観察画像である。
図26の(b)の画像は、シグナル検出2の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。
図26の結果より、比較例1と同じ結果が得られたことが分かる。
【0143】
図27の(a)の画像は、シグナル検出3の観察画像である。
図27の(b)の画像は、シグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。
図27の(a)の画像から、比較例1と同じ結果が得られたことが分かる。
図27の(b)の画像では、Redmond Redの蛍光画像において、ウェル142の配置に対応して黒く抜けている部分がある。この黒く抜けている部分と、FITCの蛍光画像における蛍光シグナルが観察された部分が一致していることから、ウェル142の一部のみ第2の液体により置換されているといえる。このように、第1の液体に界面活性剤が含まれていない場合、第2の液体により確実にウェル142を置換することができないことがわかった。
【0144】
図28の(a)の画像は、シグナル検出5の観察画像である。
図28の(b)の画像は、シグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。
【0145】
図28の(a)の画像の通り、Redmond Redの蛍光シグナルが全面に観察された。一方で、FITCの蛍光シグナルは観察されなかった。
図28の(b)の画像の通り、ウェル142の配置に対応したRedmond Redの蛍光シグナルが観察された。つまり、第3の液体が複数のウェル142に個別に収容されていることが確認された。一方で、FITCの蛍光シグナルは観察されなかった。つまり、第2の液体に界面活性剤が含まれていると、ウェル142内に収容された第2の液体が第3の液体に置換されることがわかった。
【0146】
[実施例5]
流体デバイスのカバー部材120の材質をガラスに変えた以外は、実施例1と同じ条件で実験を行った。
【0147】
[実施例6]
流体デバイスのカバー部材120の材質をポリプロピレン(アズワン社製、品番:PPN-051001)に変えた以外は、実施例1と同じ条件で実験を行った。
【0148】
[実施例7]
流体デバイスのカバー部材120の材質をシリコン(十川ゴム社製、品番:K-125(50))に変えた以外は、実施例1と同じ条件で実験を行った。
【0149】
[比較例4]
第1の液体及び第2の液体が界面活性剤を含まないこと以外は、実施例5と同じ条件で実験を行った。
【0150】
[比較例5]
第1の液体及び第2の液体が界面活性剤を含まないこと以外は、実施例6と同じ条件で実験を行った。
【0151】
[比較例6]
第1の液体及び第2の液体が界面活性剤を含まないこと以外は、実施例7と同じ条件で実験を行った。
【0152】
図29の(a)の画像は、実施例5のシグナル検出1の観察画像である。
図29の(b)の画像は、実施例5のシグナル検出2の観察画像である。
図31の(a)の画像は、実施例6のシグナル検出1の観察画像である。
図31の(b)の画像は、実施例6のシグナル検出2の観察画像である。
図33の(a)の画像は、実施例7のシグナル検出1の観察画像である。
図33の(b)の画像は、実施例7のシグナル検出2の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。
【0153】
図30の(a)の画像は、実施例5のシグナル検出3の観察画像である。
図30の(b)の画像は、実施例5のシグナル検出4の観察画像である。
図32の(a)の画像は、実施例6のシグナル検出3の観察画像である。
図32の(b)の画像は、実施例6のシグナル検出4の観察画像である。
図34の(a)の画像は、実施例7のシグナル検出3の観察画像である。
図34の(b)の画像は、実施例7のシグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。
【0154】
図29~
図34の結果より、実施例5~7は、実施例1と同じ結果が得られたことが分かる。つまり、流体デバイスのカバー部材120の材質がガラス、ポリプロピレン、又はシリコンであっても、第1の液体に界面活性剤が含まれると、封止液により第1の液体が個別に収容されているウェル142を第2の液体により置換することができることが明らかとなった。
【0155】
図35の(a)の画像は、比較例4のシグナル検出1の観察画像である。
図35の(b)の画像は、比較例4のシグナル検出2の観察画像である。
図37の(a)の画像は、比較例5のシグナル検出1の観察画像である。
図37の(b)の画像は、比較例5のシグナル検出2の観察画像である。
図39の(a)の画像は、比較例6のシグナル検出1の観察画像である。
図39の(b)の画像は、比較例6のシグナル検出2の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、下段は蛍光画像である。
【0156】
図36の(a)の画像は、比較例4のシグナル検出3の観察画像である。
図36の(b)の画像は、比較例4のシグナル検出4の観察画像である。
図38の(a)の画像は、比較例5のシグナル検出3の観察画像である。
図38の(b)の画像は、比較例5のシグナル検出4の観察画像である。
図40の(a)の画像は、比較例6のシグナル検出3の観察画像である。
図40の(b)の画像は、比較例6のシグナル検出4の観察画像である。画像の上段は明視野の画像、中段はRedmond Redの蛍光画像、下側はFITCの蛍光画像である。
【0157】
図35~
図40の結果より、比較例4~6は、比較例2と同じ結果が得られたことが分かる。つまり、流体デバイスのカバー部材120の材質がガラス、ポリプロピレン、又はシリコンであっても、第1の液体に界面活性剤が含まれていないと、封止液により第1の液体が個別に収容されているウェル142を第2の液体により置換することができないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明によれば、個別に封止された微小区画の内部の液体を置換する技術を提供することができる。
【符号の説明】
【0159】
100,200…流体デバイス、110…基板、111…一方面、120…カバー部材、121…凸部、122…導入ポート、123…排出ポート、130…流路、140…ウェルアレイ、141…ウェル、142…封止されたウェル(微小区画)、210…壁部材、L110…第1の液体、L120,L620…封止液、L410…第2の液体。