(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04746 20160101AFI20240709BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20240709BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20240709BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20240709BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/249
H01M8/04313
H01M8/0438
H01M8/0432
(21)【出願番号】P 2022014433
(22)【出願日】2022-02-01
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 大作
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-87583(JP,A)
【文献】特開2020-198160(JP,A)
【文献】特開平6-60896(JP,A)
【文献】特開2005-123142(JP,A)
【文献】特開2006-294402(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0087283(US,A1)
【文献】特開2018-129138(JP,A)
【文献】特表2023-549940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
気体が流れる共通流路と、
前記共通流路から分岐する第1流路及び第2流路と、
前記第1流路に接続された第1燃料電池と、
前記第1流路に設けられており、前記気体を前記第1流路から前記第1燃料電池へ送出する第1コンプレッサと、
前記第2流路に接続された第2燃料電池と、
前記第2流路に設けられており、前記気体を前記第2流路から前記第2燃料電池へ送出する第2コンプレッサと、
前記第1コンプレッサと前記第2コンプレッサを制御する制御装置、
を有し、
前記制御装置が、前記第1燃料電池に対する発電要求量が前記第2燃料電池に対する発電要求量よりも高いときに、前記第1コンプレッサを動作させるとともに、前記第2コンプレッサを前記第1コンプレッサの回転数よりも低いとともに下限回転数よりも高い回転数で動作させる不均衡動作を実行し、
前記制御装置が、前記不均衡動作において、前記第1流路の気体流量が高いほど前記下限回転数を高くする、
燃料電池システム。
【請求項2】
大気圧を検出する大気圧センサをさらに有し、
前記共通流路の上流端が大気に開放されており、
前記気体が空気であり、
前記制御装置が、前記不均衡動作において、前記大気圧センサで検出される大気圧に応じて前記下限回転数を変更する、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御装置が、前記不均衡動作において、前記大気圧センサで検出される大気圧が低いほど前記下限回転数を高くする、
請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池システム内で前記気体の温度を検出する温度センサをさらに有し、
前記制御装置が、前記不均衡動作において、前記温度センサで検出される温度に応じて前記下限回転数を変更する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御装置が、前記不均衡動作において、前記温度センサで検出される温度が高いほど前記下限回転数を高くする、
請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記下限回転数が前記第2流路内で前記気体の逆流が生じない回転数である、請求項1~5のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、燃料電池システムに関する。
【0002】
特許文献1に開示の燃料電池システムは、2つの燃料電池と、2つのコンプレッサと、気体供給路を有している。気体供給路には複数の弁が設けられている。複数の弁によって、気体供給路内で気体が流れる流路を変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の燃料電池システムでは、気体供給路に設けられた複数の弁によって気体が流れる流路を変更する。気体供給路に弁を設けると、気体供給路で生じる圧損が大きくなる。本明細書では、弁を用いずに気体が流れる流路を適切に変更する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する燃料電池システムは、気体が流れる共通流路と、前記共通流路から分岐する第1流路及び第2流路と、前記第1流路に接続された第1燃料電池と、前記第1流路に設けられているとともに前記気体を前記第1流路から前記第1燃料電池へ送出する第1コンプレッサと、前記第2流路に接続された第2燃料電池と、前記第2流路に設けられているとともに前記気体を前記第2流路から前記第2燃料電池へ送出する第2コンプレッサと、前記第1コンプレッサと前記第2コンプレッサを制御する制御装置、を有する。前記制御装置が、前記第1燃料電池に対する発電要求量が前記第2燃料電池に対する発電要求量よりも高いときに、前記第1コンプレッサを動作させるとともに、前記第2コンプレッサを前記第1コンプレッサの回転数よりも低いとともに下限回転数よりも高い回転数で動作させる不均衡動作を実行する。前記制御装置が、前記不均衡動作において、前記第1流路の気体流量が高いほど前記下限回転数を高くする。
【0006】
この燃料電池システムでは、第1コンプレッサを動作させることによって第1流路に気体を流して第1燃料電池で発電を行うことができる。また、第2コンプレッサを動作させることによって第2流路に気体を流して第2燃料電池で発電を行うことができる。また、第1コンプレッサと第2コンプレッサを動作させることで、第1燃料電池と第2燃料電池で発電を行うことができる。このように、この燃料電池システムによれば、動作させるコンプレッサを変更することによって気体が流れる流路を変更することができる。また、制御装置は、第1燃料電池に対する発電要求量が第2燃料電池に対する発電要求量よりも高いときに、第1コンプレッサを動作させるとともに、第2コンプレッサを第1コンプレッサの回転数よりも低い回転数で動作させる不均衡動作を実行する。不均衡動作においては、第1燃料電池に対する発電要求量に応じて第1コンプレッサの回転数(すなわち、第1流路の気体流量)が変化する。不均衡動作において第1流路の気体流量が高くなると、第2流路の上流部の圧力が低くなり、第2流路で気体の逆流が生じるおそれがある。したがって、制御装置は、不均衡動作において、第1流路の気体流量が高いほど第2コンプレッサの下限回転数を高くする。これによって、不均衡動作において第1流路の気体流量が上昇した場合でも、第2流路における気体の逆流を防止することができる。このように、この燃料電池システムによれば、弁を用いずに気体の流路を変更可能であるとともに、不均衡動作において第2流路における気体の逆流を適切に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】燃料電池システムのコンプレッサよりも上流側の部分の斜視図。
【
図3】逆流防止制御を実施しない場合の分岐流路34bの空気流量のシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図4】コンプレッサ46bに対する逆流防止制御を示すブロック線図。
【
図5】空気流量、大気圧、及び、空気温度に基づいて下限回転数を算出するマップを示す図。
【
図6】逆流防止制御を実施する場合の分岐流路34bの空気流量のシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図7】コンプレッサ46aに対する逆流防止制御を示すブロック線図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書が開示する一例の燃料電池システムは、大気圧を検出する大気圧センサをさらに有していてもよい。前記共通流路の上流端が大気に開放されていてもよい。前記気体が空気であってもよい。前記制御装置が、前記不均衡動作において、前記大気圧センサで検出される大気圧に応じて前記下限回転数を変更してもよい。
【0009】
共通流路の上流端が大気に開放されている場合には、不均衡動作時における第2流路の上流部の圧力が大気圧の影響を受ける。したがって、第2流路での気体の逆流を防止できる第2コンプレッサの回転数は、大気圧によって変化する。この燃料電池システムによれば、大気圧センサで検出される大気圧に応じて第2コンプレッサの下限回転数を変更するので、第2流路における気体の逆流をより好適に防止できる。
【0010】
本明細書が開示する一例の燃料電池システムでは、前記制御装置が、前記不均衡動作において、前記大気圧センサで検出される大気圧が低いほど前記下限回転数を高くしてもよい。
【0011】
この構成によれば、大気圧センサで検出される大気圧に応じて下限回転数を適切に変更できる。
【0012】
本明細書が開示する一例の燃料電池システムは、前記燃料電池システム内で前記気体の温度を検出する温度センサをさらに有していてもよい。前記制御装置が、前記不均衡動作において、前記温度センサで検出される温度に応じて前記下限回転数を変更してもよい。
【0013】
気体の密度が気体の温度によって変化するので、不均衡動作時における第2流路の上流部の圧力は、気体の温度の影響を受ける。したがって、第2流路での気体の逆流を防止できる第2コンプレッサの回転数は、気体の温度によって変化する。この燃料電池システムによれば、温度センサで検出される気体の温度に応じて第2コンプレッサの下限回転数を変更するので、第2流路における気体の逆流をより好適に防止できる。
【0014】
本明細書が開示する一例の燃料電池システムでは、前記制御装置が、前記不均衡動作において、前記温度センサで検出される温度が高いほど前記下限回転数を高くしてもよい。
【0015】
この構成によれば、温度センサで検出される温度に応じて下限回転数を適切に変更できる。
【0016】
本明細書が開示する一例の燃料電池システムでは、前記下限回転数が前記第2流路内で前記気体の逆流が生じない回転数であってもよい。
【0017】
図1に示す実施形態の燃料電池システム10は、車両に搭載されている。燃料電池システム10は、2つの燃料電池20a、20bを有しており、燃料電池20a、20bのそれぞれで発電を行う。燃料電池20a、20bで生成された電力は、車両の走行用モータに供給される。燃料電池システム10は、燃料電池20a、20bのそれぞれに空気を供給する空気供給装置30を有している。また、図示していないが、燃料電池システム10は、燃料電池20a、20bのそれぞれに水素を供給する水素供給装置を有している。燃料電池20a、20bは、供給された空気と水素を反応させて発電を行う。
【0018】
図1、2に示すように、空気供給装置30は、共通流路32、分岐流路34a、及び、分岐流路34bを有している。共通流路32の上流端には、空気吸入口33が設けられている。共通流路32は、空気吸入口33で大気に開放されている。分岐流路34a、34bは、共通流路32から分岐した流路である。共通流路32の下流端に、分岐流路34a、34bの上流端が接続されている。分岐流路34aの下流端に燃料電池20aが接続されている。燃料電池20aには、排出流路36aが接続されている。共通流路32から分岐流路34aに流入した空気は、燃料電池20aに供給される。燃料電池20aを通過した空気は、排出流路36aを介して燃料電池システム10の外部に排出される。分岐流路34bの下流端に燃料電池20bが接続されている。燃料電池20bには、排出流路36bが接続されている。共通流路32から分岐流路34bに流入した空気は、燃料電池20bに供給される。燃料電池20bを通過した空気は、排出流路36bを介して燃料電池システム10の外部に排出される。
【0019】
共通流路32には、エアクリーナー40が設けられている。エアクリーナー40は、共通流路32内を流れる空気中から異物を除去する。
【0020】
分岐流路34aには、流量センサ42a、温度センサ44a、及び、コンプレッサ46aが設けられている。流量センサ42aは、分岐流路34a内を流れる空気の流量Faを検出する。温度センサ44aは、分岐流路34a内を流れる空気の温度Taを検出する。コンプレッサ46aは、流量センサ42aと温度センサ44aの下流側の分岐流路34aに設置されている。コンプレッサ46aは、分岐流路34a内の空気を加圧しながら下流側へ送出する。コンプレッサ46aが動作すると、空気吸入口33から共通流路32内に空気が流入し、共通流路32内に流入した空気が分岐流路34aと燃料電池20aを経て排出流路36aへ流れる。
【0021】
分岐流路34bには、流量センサ42b、温度センサ44b、及び、コンプレッサ46bが設けられている。流量センサ42bは、分岐流路34b内を流れる空気の流量Fbを検出する。温度センサ44bは、分岐流路34b内を流れる空気の温度Tbを検出する。コンプレッサ46bは、流量センサ42bと温度センサ44bの下流側の分岐流路34bに設置されている。コンプレッサ46bは、分岐流路34b内の空気を加圧しながら下流側へ送出する。コンプレッサ46bが動作すると、空気吸入口33から共通流路32内に空気が流入し、共通流路32内に流入した空気が分岐流路34bと燃料電池20bを経て排出流路36bへ流れる。
【0022】
燃料電池システム10は、大気圧センサ52を有している。大気圧センサ52は、車両外部の大気圧Pを検出する。
【0023】
燃料電池システム10は、制御装置50を有している。制御装置50は、流量センサ42a、42b、温度センサ44a、44b、コンプレッサ46a、46b、及び、大気圧センサ52に電気的に接続されている。制御装置50は、コンプレッサ46a、46bを制御する。
【0024】
制御装置50には、図示しない演算回路から燃料電池20aに対する発電要求量と燃料電池20bに対する発電要求量が入力される。制御装置50は、燃料電池20aに対する発電要求量が高いほどコンプレッサ46aの回転数を高くし、燃料電池20bに対する発電要求量が高いほどコンプレッサ46bの回転数を高くする。コンプレッサ46aの回転数がコンプレッサ46bの回転数よりも高ければ、分岐流路34aに分岐流路34bよりも高い流量で空気が流れる。コンプレッサ46bの回転数がコンプレッサ46aの回転数よりも高ければ、分岐流路34bに分岐流路34aよりも高い流量で空気が流れる。コンプレッサ46aの回転数とコンプレッサ46bの回転数が等しければ、分岐流路34aと分岐流路34bにほぼ均等に空気が流れる。このように、制御装置50がコンプレッサ46a、46bの回転数を制御することで、空気が流れる流路を変更することができる。
【0025】
後に詳述するが、制御装置50は、コンプレッサ46a、46bに対して、燃料電池システム10の内部での空気の逆流を防止する逆流防止制御を実行する。言い換えると、逆流防止制御を行わないと、燃料電池システム10の内部での空気の逆流が生じる場合がある。以下に、逆流防止制御を行わない場合に生じる空気の逆流について説明する。燃料電池20aに対する発電要求が高く、燃料電池20bに対する発電要求が低い場合、制御装置50は、コンプレッサ46aを高い回転数で動作させ、コンプレッサ46bを低い回転数で動作させる。この場合、コンプレッサ46aを高い回転数で動作させるので、共通流路32から分岐流路34aに流れる空気流量が高くなる。このように空気が流れると、分岐流路34bの上流端近傍で分岐流路34b内の気圧が低下する。上述したように、コンプレッサ46aの回転数は燃料電池20aに対する発電要求に応じて変化する。燃料電池20aに対する発電要求の上昇によってコンプレッサ46aの回転数が上昇した場合には、分岐流路34aの空気流量が上昇し、分岐流路34bの上流端近傍で非常に低い気圧が発生する。コンプレッサ46bの回転数が低い状態で分岐流路34bの上流端近傍で非常に低い気圧が発生すると、分岐流路34b内の空気が逆流する。
【0026】
例えば、
図3は、逆流防止制御を実行しない場合の分岐流路34bの空気流量をシミュレーションした結果を示している。
図3の期間A1では、車両のアクセル開度が低下し、車速が低下している。このため、図示していないが、期間A1において、燃料電池20bに対する発電要求量が低下する。なお、図示していないが、期間A1において、燃料電池20aに対する発電要求量は高い値に維持されており、分岐流路34aにおける空気流量は高い値に維持されている。期間A1では、燃料電池20bに対する発電要求量が低下するので、制御装置50はコンプレッサ46bの回転数を低下させる。例えば、期間A1の初期では、制御装置50は、コンプレッサ46bの回転数を748rpmmまで低下させている。その結果、期間A1の初期において、分岐流路34b内の空気流量がマイナスの値(すなわち、-202NL/min)まで低下している。すなわち、分岐流路34bにおいて空気の逆流が生じている。なお、
図3では、期間A1におけるコンプレッサ46bの回転数の最低値が748rpmmであるが、期間A1においてコンプレッサ46bの回転数がさらに低下する場合には、分岐流路34b内で空気の逆流がより生じ易くなる。例えば、期間A1においてコンプレッサ46bの回転数をゼロまで低下させる場合(すなわち、コンプレッサ46bを停止させる場合)には、
図3よりもさらに空気の逆流が生じ易い。
【0027】
分岐流路34b内の空気が逆流すると、燃料電池20bが正常に動作することができない。また、分岐流路34b内の空気が逆流すると、燃料電池20bや排出流路36b内に存在する異物が分岐流路34bと分岐流路34aを介して燃料電池20a内に流れ込み、不具合が生じるおそれがある。なお、燃料電池20bに対する発電要求量が高く、燃料電池20aに対する発電要求量が低い場合(すなわち、コンプレッサ46bを高い回転数で動作させ、コンプレッサ46aを低い回転数で動作させる場合)には、分岐流路34a内で空気の逆流が生じる。
【0028】
次に、空気の逆流を防止する逆流防止制御について説明する。
図4は、制御装置50がコンプレッサ46bを制御する処理を示すブロック線図である。燃料電池システム10の動作中に、制御装置50は
図4の処理を繰り返し実行する。制御装置50は、制御ブロックBb1において、燃料電池20bに対する発電要求量等に基づいてコンプレッサ46bの目標回転数Rbtを算出する。ここでは、制御装置50は、燃料電池20bに対する発電要求量が高いほど、高い目標回転数Rbtを算出する。また、制御装置50は、制御ブロックBb2において、コンプレッサ46bの下限回転数Rbminを算出する。制御ブロックBb2については、後に詳述する。また、制御装置50は、コンプレッサ46bの上限回転数Rbmaxを取得する。上限回転数Rbmaxは、制御装置50が固定値として記憶していてもよいし、燃料電池システム10の状態に応じて制御装置50が算出してもよい。制御ブロックBb3では、制御装置50は、指令回転数Rbiを算出する。制御装置50は、目標回転数Rbtが上限回転数Rbmaxよりも低く下限回転数Rbminよりも高い値であるときは、目標回転数Rbtを指令回転数Rbiとして算出する。また、制御装置50は、目標回転数Rbtが上限回転数Rbmax以上の値であるときは、上限回転数Rbmaxを指令回転数Rbiとして算出する。また、制御装置50は、目標回転数Rbtが下限回転数Rbmin以下の値であるときは、下限回転数Rbminを指令回転数Rbiとして算出する。制御装置50は、コンプレッサ46bの回転数が指令回転数Rbiと一致するように、コンプレッサ46bを制御する。このように、制御装置50は、燃料電池20bに対する発電要求量が低い場合であっても、コンプレッサ46bを下限回転数Rbmin以上の回転数で動作させる。
【0029】
燃料電池20aに対する発電要求量が燃料電池20bに対する発電要求量よりも高い場合には、制御装置50は、コンプレッサ46bをコンプレッサ46aの回転数よりも低い回転数で動作させる不均衡動作を実行する。不均衡動作中においても、制御装置50は、
図4に従ってコンプレッサ46bを下限回転数Rbmin以上の回転数で動作させる。例えば、不均衡動作中に燃料電池20bに対する発電要求量がゼロになっても、制御装置50は、コンプレッサ46bを下限回転数Rbmin以上の回転数で動作させる。
【0030】
図4に示すように、制御装置50は、空気流量Fa、大気圧P、及び、空気温度Tに基づいてコンプレッサ46bの下限回転数Rbminを算出する。なお、空気流量Faは、流量センサ42aで検出される分岐流路34aの空気流量である。また、大気圧Pは、大気圧センサ52で検出される車両外部の大気圧である。また、空気温度Tは、温度センサ44aで検出される空気温度Taまたは温度センサ44bで検出される空気温度Tbである。制御装置50は、
図5に示すマップを記憶しており、このマップに基づいて下限回転数Rbminを算出する。例えば、空気流量Faが2000NL/minであり、空気温度Tが20℃であり、大気圧Pが90kPaの場合には、制御装置50は下限回転数Rbminとして921rpmを算出する。また、例えば、空気流量Faが4000NL/minであり、空気温度Tが50℃であり、大気圧Pが80kPaの場合には、制御装置50は下限回転数Rbminとして2188rpmを算出する。
【0031】
図5に示すように、制御装置50は、空気流量Faが高いほど、下限回転数Rbminを高くする。また、制御装置50は、大気圧Pが低いほど、下限回転数Rbminを高くする。また、制御装置50は、空気温度Tが高いほど、下限回転数Rbminを高くする。
【0032】
上述したように、コンプレッサ46aの回転数が高く、コンプレッサ46bの回転数が低い場合、分岐流路34bの上流端近傍で低い気圧が発生する。また、上述したように、分岐流路34bの上流端近傍で発生する低い気圧は、分岐流路34aの空気流量Faが高いほど低くなる。これに対し、
図5に示すように、制御装置50は、分岐流路34aの空気流量Faが高いほど、コンプレッサ46bの下限回転数Rbminを高くする。この構成によれば、分岐流路34aの空気流量Faが高いほど(すなわち、分岐流路34bの上流端近傍の気圧が低いほど)、コンプレッサ46bの下限回転数Rbminが高くなり、コンプレッサ46bが空気を下流側へ送り出す能力の下限値が高くなる。したがって、不均衡動作中に分岐流路34aの空気流量Faの上昇によって分岐流路34bの上流端近傍の気圧が低下しても、分岐流路34bにおける空気の逆流を防止できる。
【0033】
また、上述したように、共通流路32は空気吸入口33で大気に開放されている。したがって、不均衡動作中における分岐流路34bの上流端近傍の気圧は、大気圧の影響を受ける。すなわち、大気圧が低いほど分岐流路34bの上流端近傍の気圧が低くなり易い。したがって、コンプレッサ46aの回転数が高く、コンプレッサ46bの回転数が低い場合、大気圧が低いほど分岐流路34bの上流端近傍の気圧が低くなり易い。これに対し、
図5に示すように、制御装置50は、大気圧Pが低いほど、コンプレッサ46bの下限回転数Rbminを高くする。この構成によれば、大気圧Pが低いほど(すなわち、分岐流路34bの上流端近傍の気圧が低いほど)、コンプレッサ46bの下限回転数Rbminが高くなり、コンプレッサ46bが空気を下流側へ送り出す能力の下限値が高くなる。したがって、大気圧Pが低いときに不均衡動作が実行されても、分岐流路34bにおける空気の逆流を防止できる。
【0034】
また、空気の密度が空気の温度によって変化するので、不均衡動作中における分岐流路34bの上流端近傍の気圧は、燃料電池システム10内の空気温度Tの影響を受ける。シミュレーションにより、空気温度Tが高いほど分岐流路34bの上流端近傍の気圧が低くなり易いことが判明した。これに対し、
図5に示すように、制御装置50は、空気温度Tが高いほど、コンプレッサ46bの下限回転数Rbminを高くする。この構成によれば、空気温度Tが高いほど(すなわち、分岐流路34bの上流端近傍の気圧が低いほど)、コンプレッサ46bの下限回転数Rbminが高くなり、コンプレッサ46bが空気を下流側へ送り出す能力の下限値が高くなる。したがって、空気温度Tが高いときに不均衡動作が実行されても、分岐流路34bにおける空気の逆流を防止できる。
【0035】
図6は、
図3と同じ条件において逆流防止制御を実行した場合の分岐流路34bの空気流量の変化を示している。
図6では、期間A1におけるコンプレッサ46bの回転数の最低値が、1191rpmであり、
図3における最低値(すなわち、748rpm)よりも高い。その結果、
図6では、期間A1における分岐流路34b内の空気流量の最低値が、49.1NL/minであり、正の値である。すなわち、期間A1において、分岐流路34bで空気の逆流が生じていない。このように、逆流防止制御によれば、分岐流路34bでの空気の逆流を防止できる。
【0036】
また、
図7は、制御装置50がコンプレッサ46aを制御する処理を示すブロック線図である。コンプレッサ46aは、コンプレッサ46bと略同様に制御される。すなわち、制御装置50は、制御ブロックBa1において、燃料電池20aに対する発電要求量等に基づいてコンプレッサ46aの目標回転数Ratを算出する。ここでは、制御装置50は、燃料電池20aに対する発電要求量が高いほど、高い目標回転数Ratを算出する。また、制御装置50は、制御ブロックBa2において、コンプレッサ46aの下限回転数Raminを算出する。制御装置50は、空気流量Fb、大気圧P、及び、空気温度Tに基づいてコンプレッサ46aの下限回転数Raminを算出する。なお、空気流量Fbは、流量センサ42bで検出される分岐流路34bの空気流量である。制御装置50は、
図5と同様のマップに従って下限回転数Raminを算出する。ここでは、制御装置50は、空気流量Fbが高いほど下限回転数Raminを高くし、大気圧Pが低いほど下限回転数Raminを高くし、空気温度Tが高いほど下限回転数Raminを高くする。また、
図7に示すように、制御装置50は、コンプレッサ46aの上限回転数Ramaxを取得する。上限回転数Ramaxは、制御装置50が固定値として記憶していてもよいし、燃料電池システム10の状態に応じて制御装置50が算出してもよい。制御ブロックBa3では、制御装置50は、指令回転数Raiを算出する。制御装置50は、目標回転数Ratが上限回転数Ramaxよりも低く下限回転数Raminよりも高い値であるときは、目標回転数Ratを指令回転数Raiとして算出する。また、制御装置50は、目標回転数Ratが上限回転数Ramax以上の値であるときは、上限回転数Ramaxを指令回転数Raiとして算出する。また、制御装置50は、目標回転数Ratが下限回転数Ramin以下の値であるときは、下限回転数Raminを指令回転数Raiとして算出する。制御装置50は、コンプレッサ46aの回転数が指令回転数Raiと一致するように、コンプレッサ46aを制御する。このように制御装置50がコンプレッサ46aを制御するので、分岐流路34bの空気流量が分岐流路34aの空気流量よりも高くなる不均衡動作が実行されたときに、分岐流路34aにおける空気の逆流を防止できる。
【0037】
以上に説明したように、実施形態の燃料電池システム10によれば、2つのコンプレッサ46a、46bを制御することで、空気の逆流を防止しながら空気の流路を変更できる。すなわち、弁を用いることなく、空気の逆流を防止しながら空気が流れる流路を変更できる。この構成によれば、共通流路32及び分岐流路34a、34bに設けられる弁の数を減らすことができるので、空気の流路で生じる圧損を減少させることができる。このため、この燃料電池システム10は、高効率で発電することができる。
【0038】
なお、上記の実施形態では、2つの分岐流路34a、34bを有する燃料電池システム10について説明した。しかしながら、3つ以上の分岐流路を有する燃料電池システムにおいて、本明細書に開示の技術を適用してもよい。この場合、分岐流路のそれぞれにコンプレッサを設けてもよい。すなわち、燃料電池システムが、3つ以上のコンプレッサを有していてもよい。この場合、各コンプレッサにおいて逆流防止制御を実施することができる。この場合、1つの分岐流路に設けられたコンプレッサの下限回転数を、他の分岐流路のうちの1つまたは複数の空気流量に応じて変更してもよい。
【0039】
また、上記の実施形態の燃料電池システムは、車両に搭載されていた。しかしながら、他の燃料電池システム(例えば、定置型の燃料電池システム)に本明細書に開示の技術を適用してもよい。
【0040】
また、上記の実施形態では、燃料電池に空気を供給する空気供給装置について説明した。しかしながら、他の気体を燃料電池に供給する気体供給装置(例えば、空気以外の酸化ガスを燃料電池に供給する酸化ガス供給装置、水素を燃料電池に供給する水素供給装置等)に本明細書に開示の技術を適用してもよい。
【0041】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0042】
10 :燃料電池システム
20a、20b:燃料電池
30 :空気供給装置
32 :共通流路
33 :空気吸入口
34a、34b:分岐流路
36a、36b:排出流路
40 :エアクリーナー
42a、42b:流量センサ
44a、44b:温度センサ
46a、46b:コンプレッサ
50 :制御装置
52 :大気圧センサ