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特許7517375金属回収剤、金属回収部材、金属回収液剤及び金属回収方法
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  • 特許-金属回収剤、金属回収部材、金属回収液剤及び金属回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】金属回収剤、金属回収部材、金属回収液剤及び金属回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/44 20060101AFI20240709BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20240709BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20240709BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240709BHJP
   C22B 25/00 20060101ALI20240709BHJP
   C22B 26/20 20060101ALI20240709BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20240709BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20240709BHJP
   C22B 26/10 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C22B3/44
C22B11/00 101
C22B15/00
C22B23/00 102
C22B25/00 101
C22B26/20
C22B47/00
C22B59/00
C22B26/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022141343
(22)【出願日】2022-09-06
(65)【公開番号】P2024036835
(43)【公開日】2024-03-18
【審査請求日】2022-11-11
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】福島 康之
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/111092(WO,A1)
【文献】特表昭62-500931(JP,A)
【文献】特開2013-067826(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102517454(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106391006(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0305791(US,A1)
【文献】特開2003-103178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロフィルa、フェオホルビドa、ピロフェオホルビドa及びフェオフィチンaからなる群より選択される少なくとも一種である還元化合物を備える金属回収剤を金属溶液に接触させ、前記還元化合物により、前記金属溶液に溶解している金を含む金属を還元して析出する工程を含む、金属回収方法。
【請求項2】
前記金属を還元する工程では、前記還元化合物に光が照射される、請求項に記載の金属回収方法。
【請求項3】
前記金属溶液のpHは3以上である、請求項1又は2に記載の金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属回収剤、金属回収部材、金属回収液剤及び金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液中に溶解した微量の金属を生物学的手法によって回収する方法が知られている。具体的には、特許文献1には、藻類を用いて金属を回収する方法が開示されている。
【0003】
特許文献1の金属回収剤又は金属化合物回収剤は、シアニディウム目の紅藻の細胞の乾燥物、シアニディウム目の紅藻の細胞由来物の乾燥物、又は細胞の乾燥物若しくは細胞由来物の乾燥物を模した人工物を含んでいる。そして、特許文献1によれば、上記金属回収剤及び金属回収方法は、簡易かつ効率的に、酸濃度の高い溶液などから貴金属を選択的に回収することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/155687号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
藻類などのような生物の体内では、様々な分子が寄与する複雑な反応経路が存在している。しかしながら、このような複数の反応を人為的にコントロールすることは容易ではない。そのため、藻類などを用いた生物学的手法では、コントロールされた環境下で金属を還元して回収することが困難になるおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は、人為的にコントロールされた環境下で金属を回収することが可能な金属回収剤、金属回収部材、金属回収液剤及び金属回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る金属回収剤は、下記化学式(1)で表される還元化合物を備え、還元化合物による還元によって金属を析出する。
【0008】
【化1】
【0009】
上記化学式(1)中、R1はCH又はCHOであり、R2はCH=CH又はCHOであり、R3はCH又はCHOであり、R4はCHCH又はCH=CHであり、R5はCOOCH又はHであり、R6は炭化水素基又はHであり、Mは金属又は水素である。
【0010】
還元化合物は、クロロフィルa、フェオホルビドa、ピロフェオホルビドa及びフェオフィチンaからなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0011】
金属の標準電極電位はアルミニウムの標準電極電位以上であってもよい。
【0012】
金属は、金、銀、銅、スズ、コバルト、鉄、シリコン、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、ストロンチウム、マンガン、セシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0013】
金属は金を含んでいてもよい。
【0014】
本開示に係る金属回収部材は、金属回収剤と、金属回収剤を担持する担体とを備える。
【0015】
本開示に係る金属回収液剤は、液体と、液体に分散又は溶解した金属回収剤とを備える。
【0016】
本開示に係る金属回収方法は、下記化学式(1)で表される還元化合物により、金属溶液に溶解している金属を還元して析出する工程を含む。
【0017】
【化2】
【0018】
上記化学式(1)中、R1はCH又はCHOであり、R2はCH=CH又はCHOであり、R3はCH又はCHOであり、R4はCHCH又はCH=CHであり、R5はCOOCH又はHであり、R6は炭化水素基又はHであり、Mは金属又は水素である。
【0019】
金属を還元する工程では、還元化合物に光が照射されてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、人為的にコントロールされた環境下で金属を回収することが可能な金属回収剤、金属回収部材、金属回収液剤及び金属回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例、比較例及び参考例に係る試験液の吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0023】
[金属回収剤]
まず、本実施形態に係る金属回収剤について説明する。本実施形態に係る金属回収剤は、還元化合物による還元によって金属を析出する。そのため、金属回収剤は、還元剤と言い換えることもできる。金属回収剤は、具体的には、下記化学式(1)で表される還元化合物を備えている。本実施形態に係る還元化合物はクロリン構造を有している。還元化合物は、1種単独で用いてもよく、複数種の還元化合物を混合して用いてもよい。また、還元化合物は、タンパク質などのような物質と複合体を形成しておらず、還元化合物の単体又は混合物であってもよい。
【0024】
【化3】
【0025】
上記化学式(1)中、R1はCH又はCHOであり、R2はCH=CH又はCHOであり、R3はCH又はCHOであり、R4はCHCH又はCH=CHであり、R5はCOOCH又はHであり、R6は炭化水素基又はHであり、Mは金属又は水素である。すなわち、R1は、CHであってもよく、CHOであってもよい。また、R2は、CH=CHであってもよく、CHOであってもよい。また、R3は、CHであってもよく、CHOであってもよい。R4は、CHCHであってもよく、CH=CHであってもよい。R5は、COOCHであってもよく、Hであってもよい。R6は、炭化水素基であってもよく、Hであってもよい。Mは、金属であってもよく、水素であってもよい。
【0026】
上記化学式(1)中、R6の炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基であってもよい。R6の炭化水素基の炭素数は、1以上100以下であってもよく、1以上50以下であってもよく、1以上30以下であってもよく、1以上20以下であってもよい。R6の炭化水素基は、具体的には、フィチル基(-C2039)であってもよい。また、上記化学式(1)中、Mで表される金属は、例えばMgであってもよい。
【0027】
還元化合物は、クロロフィルa、フェオホルビドa、ピロフェオホルビドa及びフェオフィチンaからなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。クロロフィルaは、光合成に使用される色素の一種であり、例えば、植物、藻類及びシアノバクテリアなどの生物に含まれている。クロロフィルa及びクロロフィルaの誘導体であるフェオホルビドa、ピロフェオホルビドa及びフェオフィチンaは、地球上に多く存在し、上記のような生物によって合成することもできる。そのため、これらの還元化合物を用いることにより、低い環境負荷で金属を回収することができる。また、上記還元化合物によって金属を析出するため、特別な微生物を用いなくてもよく、このような微生物の継代培養の条件を検討したり、絶滅を危惧したりする必要もない。また、これらの化合物は、培養が容易な汎用生物から抽出することができるため、金属回収に要する費用を低減することができる。
【0028】
クロロフィルaは、以下の化学式(2)で表される化合物である。すなわち、クロロフィルaは、上記化学式(1)中、R1がCHであり、R2がCH=CHであり、R3がCHであり、R4がCHCHであり、R5がCOOCHであり、R6がフィチル基であり、MがMgである。
【0029】
【化4】
【0030】
フェオホルビドaは、以下の化学式(3)で表される化合物である。すなわち、フェオホルビドaは、上記化学式(1)中、R1がCHであり、R2がCH=CHであり、R3がCHであり、R4がCHCHであり、R5がCOOCHであり、R6がHであり、Mが2個の水素原子である。フェオホルビドaは、クロロフィルaのフィチル基が水素原子に置き換わり、マグネシウムが2個の水素原子に置き換わった化合物である。
【0031】
【化5】
【0032】
ピロフェオホルビドaは、以下の化学式(4)で表される化合物である。すなわち、ピロフェオホルビドaは、上記化学式(1)中、R1がCHであり、R2がCH=CHであり、R3がCHであり、R4がCHCHであり、R5がHであり、R6がHであり、Mが2個の水素原子である。具体的には、ピロフェオホルビドaは、フェオホルビドaのメトキシカルボニル基(-COOCH)が水素原子に置き換わった化合物である。すなわち、ピロフェオホルビドaは、クロロフィルaのメトキシカルボニル基(-COOCH)が水素原子に置き換わり、クロロフィルaのフィチル基が水素原子に置き換わり、マグネシウムが2個の水素原子に置き換わった化合物である。
【0033】
【化6】
【0034】
フェオフィチンaは、以下の化学式(5)で表される化合物である。すなわち、フェオフィチンaは、上記化学式(1)中、R1がCHであり、R2がCH=CHであり、R3がCHであり、R4がCHCHであり、R5がCOOCHであり、R6がフィチル基であり、Mが2個の水素原子である。具体的には、フェオフィチンaは、クロロフィルaのマグネシウムが2個の水素原子に置き換わった化合物である。
【0035】
【化7】
【0036】
なお、還元化合物の例として、クロロフィルa、フェオホルビドa、ピロフェオホルビドa及びフェオフィチンaを挙げたが、還元化合物はこれら以外の化合物であってもよい。還元化合物は、例えば、クロロフィルb、クロロフィルd及びクロロフィルf並びにこれらの誘導体などであってもよい。クロロフィルの誘導体としては、フェオホルビド、ピロフェオホルビド及びフェオフィチンなどが挙げられる。
【0037】
クロロフィルbは、上記化学式(1)中、R1はCHであり、R2はCH=CHであり、R3はCHOであり、R4はCHCHであり、R5はCOOCHであり、R6はフィチル基であり、MはMgである。
【0038】
クロロフィルdは、上記化学式(1)中、R1はCHであり、R2はCHOであり、R3はCHであり、R4はCHCHであり、R5はCOOCHであり、R6はフィチル基であり、MはMgである。
【0039】
クロロフィルfは、上記化学式(1)中、R1はCHOであり、R2はCH=CHであり、R3はCHであり、R4はCHCHであり、R5はCOOCHであり、R6はフィチル基であり、MはMgである。
【0040】
金属回収剤は、例えば、還元化合物を含む複数の粒子を含む粉末、複数の粒子の結合体、又はこれらの組み合わせであってもよい。還元化合物の粒子の形状は特に限定されず、針状、角状、樹枝状、繊維状、片状、不規則形状、涙滴状、及び球状からなる群より選択される少なくとも一種の形状であってもよい。結合体の形状は特に限定されず、シート状、棒状、角柱状、球状、円柱状、不規則形状又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0041】
金属回収剤は、還元化合物による還元によって金属を析出する。具体的には、金属が溶解した溶液から、金属を回収する。金属が溶解した溶液には、金属を含むイオンが含まれている。金属を含むイオンに電子を供与して還元し、金属を析出させることにより、溶液中の金属を回収することができる。金属を含むイオンは、Agのように、単一の金属元素から電子が放出された陽イオンであってもよく、テトラクロロ金(III)酸イオン([AuCl)、ジシアノ金(I)酸イオン([Au(CN))及びAu(HS)2-などのような錯イオンであってもよい。
【0042】
還元化合物による還元によって析出する金属の標準電極電位は、アルミニウムの標準電極電位以上であってもよい。このような金属は、還元化合物による還元によって析出されやすい。したがって、還元化合物による還元によって析出する金属は、アルミニウムを含んでいてもよく、アルミニウムよりも標準電極電位が大きい金属を含んでいてもよい。
【0043】
還元によって析出する金属は、具体的には、金属は、金、銀、銅、スズ、コバルト、鉄、シリコン、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、ストロンチウム、マンガン、セシウム、スカンジウム、イットリウム及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。これらの金属は工業的に有用である。なお、ランタノイドとしては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムが挙げられる。金属は金を含んでいてもよい。金は装飾品としても用いられており、希少性が高いため、利用価値が高い。
【0044】
還元によって析出した金属は、結晶質であってもよく、非晶質であってもよい。また、還元によって析出した金属の平均粒子径は、0.1nm以上又は10nm以上であってもよい。還元によって析出した金属の平均粒子径は、1nm以上であってもよい。また、還元によって析出した金属の平均粒子径は、10mm以下、1mm以下、100μm以下、10μm以下、1μm以下、又は、100nm以下であってもよい。金属は、原子レベルで還元した後、表面マイグレーションして結晶成長してもよい。なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0045】
金属回収剤は、還元化合物を50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は99質量%以上含んでいてもよい。
【0046】
以上説明した通り、本実施形態に係る金属回収剤は、上記化学式(1)で表される還元化合物を備え、還元化合物による還元によって金属を析出する。そのため、本実施形態に係る金属回収剤によれば、人為的にコントロールされた環境下で金属を回収することができる。
【0047】
[金属回収部材]
次に、本実施形態に係る金属回収部材について説明する。本実施形態に係る金属回収部材は、上述した金属回収剤と、金属回収剤を担持する担体とを備えている。本実施形態に係る金属回収部材では、金属回収剤は担体に担持されているため、金属回収剤の扱いが容易になる。例えば、金属回収部材を金属が溶解している金属溶液に接触させることにより、容易に金属溶液中の金属を回収することができる。
【0048】
担体の形状としては、金属回収剤を担持可能であればよく、特に限定されない。担体は、例えば、繊維状であってもよい。担体の材質は、特に限定されないが、例えば、セルロース、ガラス、プラスチック、炭素、金属、セラミックス及び木材からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。金属回収部材は、例えば、金属回収剤が担持された繊維状の担体を含むシートであってもよい。
【0049】
[金属回収液剤]
次に、本実施形態に係る金属回収液剤について説明する。本実施形態に係る金属回収液剤は、液体と、液体に分散又は溶解した上記金属回収剤とを備えている。本実施形態に係る金属回収液剤では、金属回収剤が液体に分散又は溶解しているため、金属回収剤の扱いが容易になる。例えば、金属回収液剤と金属が溶解している金属溶液とを混合することにより、容易に金属溶液中の金属を回収することができる。
【0050】
金属回収剤が分散又は溶解する液体は、有機化合物、無機化合物又はこれらの混合液体であってもよい。有機化合物は、アルコール、ケトン、ハロメタン又はこれらの混合液体であってもよい。無機化合物は、水であってもよい。アルコールは、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール及び1-メチル-2-プロパノールからなる群より選ばれる少なくとも一つであってもよい。ケトンは、例えば、アセトン及びメチルエチルケトンの少なくとも一方であってもよい。ハロメタンは、例えば、ジクロロメタンであってもよい。
【0051】
金属回収剤は、液体に分散していてもよく、液体に溶解していてもよく、液体に分散かつ溶解していてもよい。また、金属回収液剤における金属回収剤の含量は特に限定されず、適宜調製することができる。
【0052】
[金属回収方法]
次に、本実施形態に係る金属回収方法について説明する。本実施形態に係る金属回収方法は、上記化学式(1)で表される還元化合物により、金属溶液に溶解している金属を還元して析出する工程を含んでいる。そのため、本実施形態に係る金属回収方法によれば、上述のように、人為的にコントロールされた環境下で金属を回収することができる。
【0053】
金属溶液には、金属が溶解しており、金属を含むイオンが含まれている。例えば、金属溶液に還元化合物を、添加又は浸漬などすることにより、金属溶液と還元化合物を接触させると、金属を含むイオンに電子が供与されて金属が還元する。そして、還元した金属が析出することにより、溶液中の金属を回収することができる。
【0054】
金属溶液は特に限定されず、例えば、めっき廃液等の電子産業廃水、海水、金属元素含有物質の溶液等が挙げられる。金属元素含有物質の溶液は、具体的には、金属元素含有物質に含まれる金属及び金属化合物の少なくともいずれか一方の一部又は全部を溶解することにより得られた溶液であってもよい。金属元素含有物質は、金属元素、より具体的には金属又は金属化合物を1種以上含有する物質であれば特に限定されない。金属元素含有物質は、例えば、廃電子機器中の電子基板等、いわゆる都市鉱山であってよい。金属溶液に含まれる金属は、上述のように、還元によって析出する金属と同様であるため説明を省略する。
【0055】
金属溶液中の金属の濃度は特に限定されず、10-6ppm以上10ppm以下であってよい。金属の濃度を上記範囲とすることにより、金属の回収を促進することができる。金属の濃度は、10-5ppm以上、10-4ppm以上、10-3ppm以上、0.01ppm以上、0.1ppm以上、1ppm以上、又は10ppm以上であってもよい。金属の濃度は、10000ppm以下、5000ppm以下、2500ppm以下、1000ppm以下、500ppm以下、250ppm以下、又は125ppm以下であってもよい。なお、本明細書において、ppmは、質量百万分率を意味する。
【0056】
金属溶液のpHは、特に限定されず、例えば、-3以上8以下であってもよい。なお、金属溶液のpHは、-2以上、-1以上、0以上、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6以上であってもよい。また、金属溶液のpHは、7以下であってもよい。
【0057】
金属溶液中の金属の質量に対する還元化合物の質量の比(以下、還元化合物/金属比ともいう)は特に限定されず、例えば0.1~10000であってよい。還元化合物/金属比を上記範囲とすることにより、金属の回収を促進することができる。還元化合物/金属比は、0.5以上、1以上、1.5以上、又は2以上であってもよい。また、還元化合物/金属比は、1000以下、500以下、100以下、50以下、10以下、又は5以下であってもよい。
【0058】
金属溶液に対する還元化合物の量は、特に限定されない。金属の還元反応を進行させる観点から、金属溶液に対する還元化合物の量が0.2mg/100mL以上1000mg/100mL以下となるように還元化合物を金属溶液に接触させてもよい。金属溶液に対する還元化合物の量は、2、10、20又は40mg/100mL以上であってもよい。また、金属溶液に対する還元化合物の量は、500、400、200又は100mg/100mL以下であってもよい。
【0059】
金属を還元する際の温度は特に限定されず、例えば0℃以上100℃以下であってもよい。上記温度は、10℃以上であってもよく、20℃以上であってもよい。また、上記温度は、70℃以下であってもよく、50℃以下であってもよく、40℃以下であってもよく、30℃以下であってもよい。
【0060】
金属を還元する時間は、還元反応を十分に進行させる観点から、例えば、5分以上であってもよく、30分以上であってもよく、1時間以上であってもよく、8時間以上であってもよく、1日以上であってもよく、3日以上であってもよく、4日以上であってもよく、5日以上であってもよい。また、金属を還元する時間は、例えば、20日以下であってもよく、10日以下であってもよく、8日以下であってもよく、6日以下であってもよい。
【0061】
金属を還元する工程では、還元化合物に光が照射されてもよい。還元化合物に光を照射することで、還元化合物による金属の還元反応を促進することができる。この場合、還元化合物に照射する光は、可視光を含んでいてもよい。還元化合物に照射する光は、300nm以上700nm以下の波長において光成分を有していてもよい。還元化合物に照射する光の光源は、自然光及び光照射装置の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。自然光は、太陽光を含んでいてもよい。光照射装置は、LED(Light Emitting Diode)、蛍光灯及び白熱電球からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。なお、金属を還元する工程では、還元化合物に光が照射されないように、遮光しながら金属を還元してもよい。
【0062】
還元化合物に照射する光の光量子束密度は、10μmol・m-2・s-1以上であってもよい。光量子束密度を上記の値以上とすることにより、還元化合物による金属の還元反応をさらに促進することができる。なお、本明細書において、光量子束密度は、300nm~700nmの波長に含まれる単位時間かつ単位面積当たりの光子数を意味する。
【0063】
金属を還元する間、金属溶液を撹拌することが好ましい。撹拌の回転数は特に限定されず、例えば100rpm~1000rpmであってよい。
【0064】
金属溶液から析出した金属は、濾過などのような膜分離及び遠心分離などによって分離してもよい。析出した金属は、還元化合物に吸着していてもよく、還元化合物から分離し、コロイド溶液が形成されていてもよく、又は、これらの組み合わせであってもよい。析出した金属が還元化合物に付着している場合には、還元化合物を回収することで析出した金属を回収することができる。析出した金属が還元化合物から分離している場合には、金属溶液から還元化合物を取り除くことで析出した金属を回収することができる。
【0065】
還元化合物から析出した金属を脱離させるため、超音波処理をしてもよい。超音波処理は、金属溶液から還元化合物を分離する前に実施してもよく、金属溶液から還元化合物を分離した後、分離した還元化合物を液体に浸漬させてから実施してもよい。分離した還元化合物を液体に浸漬させてから超音波処理を実施する場合、より純度の高い金属コロイド溶液を得ることができる。
【0066】
金属を回収する工程は、回収した還元化合物から金属を回収するために、回収した還元化合物を焼成する工程をさらに含んでよい。この工程により、還元化合物自体は除去され、還元化合物に吸着した金属を回収することができる。焼成は、例えば空気中で容易に行うことができる。焼成温度は特に限定されず、金属の融点に応じて適宜選択できる。焼成温度は、例えば、800℃~1200℃であってもよい。焼成温度は一定であってもよく、又は段階的に昇温してもよい。例えば、まずは還元化合物の燃焼温度で一定時間還元化合物を加熱し、次いで、金属の結晶性を上げるために、金属の融点付近の温度で加熱を継続してもよい。
【0067】
回収した還元化合物を成形した後、成形した還元化合物を焼成することにより、金属成形物を形成してもよい。還元化合物の成形は、例えば、回収した還元化合物を、例えば、星形又はハート形のような所望の形に成形してもよい。還元化合物を成形する方法は特に限定されず、例えば、所望の形を有する型に回収した還元化合物を押し固めてもよい。成形した回収剤は、上述した条件で焼成してもよい。金属成形物は、身飾品用であってよい。すなわち、製造した金属成形物は、ネックレス及びイヤリングのような身飾品として用いてもよい。
【実施例
【0068】
以下、本実施形態を実施例、比較例及び参考例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
金濃度が質量比で100ppm(Au含有量10mg)となるように、300mLのビーカー内で水と富士フイルム和光純薬株式会社製のテトラクロロ金(III)酸四水和物(HAuCl・4HO)とを混合し、100mLのHAuCl水溶液を調製した。このHAuCl水溶液に50mgのクロロフィルa(富士フイルム和光純薬株式会社製、品番034-21361)(CAS登録番号が479-61-8)を添加し、pH5程度の調製液を得た。
【0070】
室温(約25℃)下において、光量子束密度が約100μmol・m-2・s-1となるように照明を点灯し、撹拌子を300rpmで回転した状態で、上記のようにして得られた調製液を5日間撹拌した。この撹拌液を濾過し、試験液を採取した。
【0071】
[実施例2]
クロロフィルaに代えてフェオホルビドa(Cayman Chemical社製、品番16072)(CAS登録番号が15664-29-6)を使用した以外は実施例1と同様の手順で試験液を採取した。
【0072】
[実施例3]
クロロフィルaに代えてピロフェオホルビドa(Cayman Chemical社製、品番21371)(CAS登録番号が24533-72-0)を使用した以外は実施例1と同様の手順で試験液を採取した。
【0073】
[実施例4]
クロロフィルaに代えてフェオフィチンa(富士フイルム和光純薬株式会社製、品番167-13771)(CAS登録番号が603-17-8)を使用した以外は実施例1と同様の手順で試験液を採取した。
【0074】
[比較例1]
クロロフィルa添加しなかった以外は実施例1と同様の手順で試験液を採取した。
【0075】
[参考例1]
実施例1で調製したクロロフィルaを添加する前のHAuCl水溶液を試験液とした。
【0076】
[評価]
上記のようにして得られた試験液を、紫外・可視分光法によって測定した。紫外・可視分光法によって得られたスペクトルを図1に示す。図1に示すように、HAuClに特有な波長310nm付近のピークは、比較例1及び参考例1よりも実施例1~実施例4の方が小さくなった。この結果から、実施例1~実施例4では、HAuCl水溶液中の金が還元されて析出したことが分かる。一方、比較例1と参考例1のスペクトルは、ほぼ重なっており、見分けることが困難であった。この結果から、比較例1では、HAuCl水溶液中の金がほとんど還元されていないことが分かる。
【0077】
次に、紫外・可視分光法による測定結果から、金回収率を算出した。金回収率は、以下の数式(1)によって算出した。
金回収率(%)=(実施例及び比較例における波長310nm付近のピークの吸光度/参考例1における波長310nm付近のピークの吸光度)×100 (1)
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示す通り、実施例1のクロロフィルaを用いた場合の金回収率は、93%であった。実施例2のフェオホルビドaを用いた場合の金回収率は、79%であった。実施例3のピロフェオホルビドaを用いた場合の金回収率は、56%であった。実施例4のフェオフィチンaを用いた場合の金回収率は、24%であった。一方、比較例1のように還元化合物を用いなかった場合の金回収率は、0%であった。これらの結果から、上記化学式(1)で表される還元化合物を備える金属回収剤を用いることにより、金属を回収できることが分かる。
【0080】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【0081】
本開示は、例えば、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「強靭なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」及び目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」に貢献することができる。
図1