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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】電流測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/18 20060101AFI20240709BHJP
   G01R 15/20 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G01R15/18 A
G01R15/20 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022187531
(22)【出願日】2022-11-24
(62)【分割の表示】P 2019114925の分割
【原出願日】2019-06-20
(65)【公開番号】P2023015389
(43)【公開日】2023-01-31
【審査請求日】2022-11-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】竹中 一馬
(72)【発明者】
【氏名】小河 晃太朗
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 美菜子
(72)【発明者】
【氏名】野口 直記
(72)【発明者】
【氏名】小箱 紗希
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 文兵
(72)【発明者】
【氏名】吉武 哲
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0253109(US,A1)
【文献】特開2015-222176(JP,A)
【文献】米国特許第06366076(US,B1)
【文献】特開2017-053662(JP,A)
【文献】特開2013-061322(JP,A)
【文献】特開2004-257905(JP,A)
【文献】特開2004-257904(JP,A)
【文献】特開2004-205264(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056397(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/18
G01R 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定導体に流れる電流を測定する電流測定装置であって、
前記被測定導体に流れる電流によって生ずる直流磁界及び低周波の交流磁界を検出する一軸磁気センサである第1センサと、
前記被測定導体に流れる電流によって生ずる低周波から高周波の交流磁界を検出する第2センサと、
前記第1センサの検出軸を前記被測定導体の接線方向と一致させ、且つ、前記第1センサと前記被測定導体中心との距離を予め規定された距離情報で示される距離に保持する固定機構と、を有するセンサヘッドと、
前記距離情報を予め記憶しており、前記距離情報で示される距離と前記第1センサの検出結果とを用いて前記被測定導体に流れる電流を求める演算を行う第1演算部と、
前記第2センサの検出結果から前記被測定導体に流れる電流を求める演算を行う第2演算部と、
前記第1演算部の演算結果と前記第2演算部の演算結果とを合成する合成部と、を有する回路部と、
を備え、
前記第2センサは、空芯コイルであって、
前記合成部は、前記第1演算部の演算結果から高周波成分を除去して低周波成分を通過させる第1フィルタと、
前記第2演算部の演算結果から低周波成分を除去して高周波成分を通過させる第2フィルタと、
前記第1フィルタから出力される第1信号のレベルと前記第2フィルタから出力される第2信号のレベルとが同じになるように、前記第1フィルタから出力される第1信号のレベル、及び、前記第2フィルタから出力される第2信号のレベルの少なくとも一方を調整する調整部と、
前記調整部によりレベルが調整された前記第1信号と前記第2信号とを加算する加算部と、
を備え、
前記回路部は、前記センサヘッドと分離されており、可撓性のケーブルを介して前記センサヘッドに接続されている、
電流測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被測定導体に流れる電流を非接触で測定することが可能な様々な電流測定装置が開発されている。このような電流測定装置の代表的なものとしては、例えば、CT(Current Transformer:変流器)方式の電流測定装置、ゼロフラックス方式の電流測定装置、ロゴスキー方式の電流測定装置、ホール素子方式の電流測定装置等が挙げられる。
【0003】
例えば、CT方式及びゼロフラックス方式の電流測定装置は、巻線が巻回された磁気コアを被測定導体の周囲に設け、被測定導体(一次側)に流れる電流によって磁気コアに生ずる磁束を打ち消すように巻線(二次側)に流れる電流を検出することで、被測定導体に流れる電流を測定するものである。また、ロゴスキー方式の電流測定装置は、ロゴスキーコイル(空芯コイル)を被測定導体の周囲に設け、被測定導体に流れる交流電流によって生ずる磁界がロゴスキーコイルと鎖交することでロゴスキーコイルに誘起される電圧を検出することで、被測定導体に流れる電流を測定するものである。
【0004】
以下の特許文献1には、ゼロフラックス方式の電流測定装置の一例が開示されている。また、以下の特許文献2には、複数の磁気センサを用いた電流測定装置が開示されている。具体的に、以下の特許文献2に開示された電流測定装置は、被測定導体に対してそれぞれ異なる距離をとって2つの磁気センサを配置し、これら磁気センサの出力から磁気センサと被測定導体との距離を求め、求めた距離を用いて被測定導体に流れる電流の大きさを求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-55300号公報
【文献】特開2011-164019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、被測定導体に流れる電流を測定する際に、被測定導体に流れる電流が直流電流及び交流電流の何れであっても測定することができれば、1つの電流測定装置のみで電流の測定を行うことができ、利便性を飛躍的に向上させることができると考えられる。また、被測定導体に流れる電流を非接触で測定することができれば、簡便且つ効率的に電流の測定を行うことができると考えられる。更に、小型であれば、微小空間への設置も可能になると考えられる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、小型で直流電流及び交流電流を非接触で測定することができる電流測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1,第2態様による電流測定装置は、被測定導体(MC)に流れる電流(I)を測定する電流測定装置(1、2)であって、前記被測定導体に流れる電流によって生ずる直流磁界及び低周波の交流磁界を検出する第1センサ(SE1)と、前記被測定導体に流れる電流によって生ずる低周波から高周波の交流磁界を検出する第2センサ(SE2)と、前記第1センサと前記被測定導体との距離(r)を示す距離情報を用いて、前記第1センサの検出結果から前記被測定導体に流れる電流を求める第1演算部(21、21A)と、前記第2センサの検出結果から前記被測定導体に流れる電流を求める第2演算部(22)と、前記第1演算部の演算結果と前記第2演算部の演算結果とを合成する合成部(23)と、を備える。
【0009】
また、本発明の第1態様による電流測定装置は、前記距離情報が、前記第1演算部に予め格納されており、前記被測定導体に対する前記第1センサの距離を、前記第1演算部に予め格納された前記距離情報で示される距離に規定する固定機構(FM)を備える。
【0010】
また、本発明の第1態様による電流測定装置は、前記第1センサ、前記第2センサ、及び前記固定機構を有するセンサヘッド(10)と、前記第1演算部、前記第2演算部、及び前記合成部を有する回路部(20)と、を備える。
【0011】
また、本発明の第2態様による電流測定装置は、前記第1センサに対し、感磁方向及び相対的な位置が予め規定された関係となるように配置された2つ以上の三軸磁気センサ(11、12)を更に備えており、前記第1演算部は、前記2つ以上の三軸磁気センサの検出結果に基づいて、前記距離情報を算出する距離情報算出部(21c)を備える。
【0012】
また、本発明の第2態様による電流測定装置は、前記第1演算部が、前記2つ以上の三軸磁気センサの検出結果に含まれる雑音成分を除去する雑音除去部(21b)を更に備えており、前記距離情報算出部が、前記雑音除去部によって雑音成分が除去された前記2つ以上の三軸磁気センサの検出結果を用いて前記距離情報を算出する。
【0013】
また、本発明の第2態様による電流測定装置は、前記第1センサ、前記第2センサ、及び前記2つ以上の三軸磁気センサを備えるセンサヘッド(10A)と、前記第1演算部、前記第2演算部、及び前記合成部を有する回路部(20A)と、を備える。
【0014】
また、本発明の第1,第2態様による電流測定装置は、前記合成部が、前記第1演算部の演算結果から高周波成分を除去して低周波成分を通過させる第1フィルタ(23a)と、前記第2演算部の演算結果から低周波成分を除去して高周波成分を通過させる第2フィルタ(23b)と、前記第1フィルタから出力される第1信号のレベル、及び、前記第2フィルタから出力される第2信号のレベルの少なくとも一方を調整する調整部(23c)と、前記調整部によりレベルが調整された前記第1信号と前記第2信号とを加算する加算部(23d)と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小型で直流電流及び交流電流を非接触で測定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態による電流測定装置を模式的に示す図である。
図2】本発明の第1実施形態による電流測定装置の要部構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態において、回路部の合成部で行われる処理を説明するための図である。
図4】本発明の第1実施形態による電流測定装置の動作の概要を示すフローチャートである。
図5】本発明の第2実施形態による電流測定装置を模式的に示す図である。
図6】本発明の第2実施形態による電流測定装置の要部構成を示すブロック図である。
図7】本発明の第2実施形態における被測定導体に対する磁気センサの距離を算出する方法の一例を説明するための図である。
図8】被測定導体及び三軸磁気センサを、図7中の方向D1から見た図である。
図9】三軸磁気センサのY方向における間隔Lを求める方法を説明するための図である。
図10】本発明の第2実施形態で行われる距離算出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による電流測定装置について詳細に説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の各実施形態の詳細について説明する。
【0018】
〔概要〕
本発明の実施形態は、小型で直流電流及び交流電流を非接触で測定することを可能とするものである。具体的には、電流測定時に微小空間への設置が可能であり、直流電流及び数十[MHz]程度までの交流電流を非接触で測定することを可能とするものである。また、被測定導体に対する設置位置や設置方向を柔軟に行えるようにするものでもある。
【0019】
近年、ハイブリッド自動車(HV:Hybrid Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)の開発工程において、SiC(シリコンカーバイド)等のパワー半導体のピンに流れる電流や、組み立て後のバスバーに流れる電流を測定したいという要求がある。パワー半導体はピンのピッチが狭いものが多く、バスバーは周辺のスペースが限られている場所に設置されることがあり、このようなパワー半導体やバスバー等に対して、電流測定時の設置を柔軟に行うことが可能な電流測定装置が望まれている。また、ハイブリッド自動車や電気自動車では、例えばバッテリから供給される直流電流やモータに流れる交流電流が取り扱われるため、小型で直流電流及び交流電流を非接触で測定可能な電流測定装置が望まれている。
【0020】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されたゼロフラックス方式の電流測定装置は、ある程度の大きさ(例えば、数十[cm]程度)を有する磁気コアを被測定導体の周囲に設ける必要があることから、狭い場所への設置が困難である。また、上述したロゴスキー方式の電流測定装置は、ロゴスキーコイルに誘起される電圧を検出していることから、原理的に直流電流の測定を行うことはできない。また低周波領域では、出力信号が微弱であるとともに位相がずれるため、測定精度が悪い。また、上述した特許文献2に開示された電流測定装置は、磁気センサの感磁方向を被測定導体の円周方向に一致させる必要があることから、磁気センサの配置が制限されてしまい柔軟な配置が困難である。
【0021】
本発明の実施形態では、被測定導体に流れる電流によって生ずる直流磁界及び低周波の交流磁界を検出する第1センサと、被測定導体に流れる電流によって生ずる低周波から高周波の交流磁界を検出する第2センサとを設けている。そして、第1センサと被測定導体との距離を示す距離情報を用いて第1センサの検出結果から被測定導体に流れる電流を求め、第2センサの検出結果から被測定導体に流れる電流を求め、各々の演算結果を合成するようにしている。これにより、小型で直流電流及び交流電流を非接触で測定することができる。
【0022】
〔第1実施形態〕
〈電流測定装置の構成〉
図1は、本発明の第1実施形態による電流測定装置を模式的に示す図である。図1に示す通り、本実施形態の電流測定装置1は、ケーブルCBによって接続されたセンサヘッド10及び回路部20を備えており、被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定する。尚、被測定導体MCは、例えばパワー半導体のピンやバスバー等の任意の導体である。以下では、説明を簡単にするために、被測定導体MCは、円柱形状の導体であるとする。
【0023】
センサヘッド10は、被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定するための部材である。センサヘッド10は、電流Iによって生成される磁界(例えば、図1中に示す磁界H)を遮らない材質(例えば、樹脂等)によって形成されている。このセンサヘッド10は、いわば被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定するためのプローブとして用いられるものである。
【0024】
センサヘッド10は、図1に示す通り、被測定導体MCに流れる電流Iの測定を行う場合には、被測定導体MCに対して固定配置される。このため、センサヘッド10が被測定導体MCに物理的に接触した状態にされることもある。但し、センサヘッド10は、被測定導体MCとは電気的に絶縁されており、被測定導体MCに流れる電流Iがセンサヘッド10に流れ込むことはない。このため、センサヘッド10は、被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定するためのものということができる。
【0025】
センサヘッド10には、磁気センサSE1(第1センサ)、ロゴスキーセンサSE2(第2センサ)、及び固定機構FMが設けられている。磁気センサSE1は、被測定導体MCに流れる電流Iによって生ずる直流磁界及び低周波(例えば、数百[Hz]程度まで)の交流磁界を検出する。例えば、被測定導体MCに流れる電流Iが直流電流である場合には、図1中に示す磁界Hを検出する。
【0026】
磁気センサSE1は、被測定導体MCを流れる電流Iの測定に用いられるため応答性が求められる。磁気センサSE1は、例えば、遅延時間が1[msec]未満であることが好ましい。磁気センサSE1は、応答速度が十分速ければ、アナログセンサであっても良く、ディジタルセンサであっても良い。磁気センサSE1の検出軸は、三軸又は四軸以上であることが望ましいが、一軸又は二軸であっても良い。磁気センサSE1の検出軸が一軸である場合には、磁気センサSE1は、センサヘッド10が固定機構FMによって被測定導体MCに固定されたときに、検出軸が電流Iによって生成される磁界の方向(被測定導体MCの接線方向)と一致するようにセンサヘッド10内に配置される。
【0027】
磁気センサSE1は、電流測定装置1の測定精度を確保するために、雑音が小さいものが用いられる。例えば、磁気センサSE1は、磁気センサSE1の検出結果に含まれる雑音成分の大きさが、電流測定装置1の測定レンジの0.1%程度のものが用いられる。尚、磁気センサSE1としては、例えばホール素子、磁気抵抗効果素子等を用いることができる。
【0028】
ロゴスキーセンサSE2は、被測定導体MCに流れる電流Iによって生ずる低周波(例えば、数百[Hz])から高周波(例えば、数十[MHz])の交流磁界を検出する。ロゴスキーセンサSE2は、ロゴスキーコイル(空芯コイル)を用いたセンサであり、被測定導体MCの周囲を取り囲んだ状態に配置される。尚、ロゴスキーセンサSE2は、被測定導体MCの周囲への配置を容易にするために、その一端部E1がセンサヘッド10に対して着脱可能に構成されている。
【0029】
固定機構FMは、被測定導体MCに対してセンサヘッド10を固定するための機構である。この固定機構FMは、被測定導体MCに対してセンサヘッド10を固定することで、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離を、予め規定された距離rにするために設けられる。この固定機構FMとしては、例えば被測定導体MCの側面を挟持するように構成された樹脂製の板バネ等を用いることができ、また、ガイド付きのねじ機構を採用することもできる。尚、センサヘッド10は、被測定導体MCに対して物理的に接触した状態で固定されても良く、被測定導体MCから離間した状態で固定されても良い。
【0030】
固定機構FMによって、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離を一定の距離rにするのは、磁気センサSE1の測定結果のみを用いて被測定導体MCを流れる電流Iを求めるためである。つまり、被測定導体MCを流れる電流Iは、アンペールの法則より、被測定導体MCから測定点までの距離r、その測定点で測定される磁界H、及び定数(2π)の積によって求められる。磁界Hは、磁気センサSE1で測定することができるが、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離が不定であると、被測定導体MCを流れる電流Iを求めることはできない。本実施形態では、固定機構FMによって、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離を一定の距離rにすることで、磁気センサSE1の測定結果のみを用いて被測定導体MCを流れる電流Iを求めるようにしている。
【0031】
回路部20は、センサヘッド10から出力される検出結果(磁気センサSE1及びロゴスキーセンサSE2の検出結果)に基づいて、被測定導体MCに流れる電流Iを測定する。回路部20は、電流Iの測定結果を外部に出力し、或いは表示する。センサヘッド10と回路部20とを接続するケーブルCBとしては任意のものを用いることができるが、可撓性を有するものが望ましく、また、取り回しが容易なものが望ましく、また、断線が生じ難いものが望ましい。
【0032】
図2は、本発明の第1実施形態による電流測定装置の要部構成を示すブロック図である。尚、図2では、図1に示した構成に対応するブロックについては、同一の符号を付してある。以下では、主に、図2を参照して回路部20の内部構成の詳細について説明する。図2に示す通り、回路部20は、演算部21(第1演算部)、演算部22(第2演算部)、合成部23、及び出力部24を備える。
【0033】
演算部21は、磁気センサSE1の検出結果から、被測定導体MCに流れる電流Iを求める。ここで、磁気センサSE1は、前述の通り、直流磁界及び低周波の交流磁界を検出するものであるから、演算部21で求められる電流Iは、直流及び低周波の成分である。演算部21には、被測定導体MCから測定点(磁気センサSE1が配置されるべき位置)までの距離rを示す距離情報が予め格納されている。演算部21は、距離情報で示される距離r、磁気センサSE1の検出結果(磁界H)、及び定数(2π)の積を演算することによって、被測定導体MCに流れる電流Iを求める。
【0034】
演算部22は、ロゴスキーセンサSE2の検出結果から、被測定導体MCに流れる電流Iを求める。ここで、ロゴスキーセンサSE2は、前述の通り、低周波から高周波の交流磁界を検出するものであるから、演算部22で求められる電流Iは、低周波から高周波の成分である。ロゴスキーセンサSE2の検出結果は、被測定導体MCに流れる電流I(交流電流)の周囲に生じる交流磁界によってロゴスキーコイルに誘起される電圧を示すものである。演算部22は、ロゴスキーセンサSE2の検出結果(電圧)を電流に変換する演算を行うことによって被測定導体MCに流れる電流Iを求める。
【0035】
合成部23は、演算部21の演算結果と演算部22の演算結果を合成する。具体的に、合成部23は、低域通過フィルタ23a(第1フィルタ)、高域通過フィルタ23b(第2フィルタ)、信号レベル調整部23c(調整部)、及び加算部23dを備える。低域通過フィルタ23aは、演算部21の演算結果から高周波成分を除去して低周波成分を通過させ、後述する合成処理に適した所望の周波数特性の信号とする。高域通過フィルタ23bは、演算部22の演算結果から低周波成分を除去して高周波成分を通過させ、後述する合成処理に適した所望の周波数特性の信号とする。
【0036】
信号レベル調整部23cは、低域通過フィルタ23aから出力される信号(第1信号)のレベルを調整する。例えば、信号レベル調整部23cは、ピーク値が同じ直流電流と交流電流とが被測定導体MCに流れている場合に、低域通過フィルタ23aから出力される信号の信号レベルが、高域通過フィルタ23bから出力される信号の信号レベルと同じになるように調整する。この信号レベル調整部23cとしては、例えば可変抵抗を用いることができる。
【0037】
尚、本実施形態においては、低域通過フィルタ23aから出力される信号(第1信号)のレベルのみを調整する信号レベル調整部23cを備えているが、本発明はこれに限定されない。例えば、高域通過フィルタ23bから出力される信号(第2信号)のレベルを調整する信号レベル調整部を、信号レベル調整部23cに代えて備えたものであっても良く、信号レベル調整部23cに加えて備えたものであっても良い。或いは、第1信号のレベルと第2信号のレベルとをそれぞれ調整可能な信号レベル調整部を備えてもよい。
【0038】
加算部23dは、信号レベル調整部23cによって信号レベルが調整された信号(第1信号)と、高域通過フィルタ23bから出力される信号(第2信号)とを加算する。信号レベル調整部23cによって信号レベルが調整された信号(第1信号)は、電流Iの直流及び低周波の成分を示す信号である。高域通過フィルタ23bから出力される信号(第2信号)は、電流Iの高周波の成分を示す信号である。このため、これらを加算することにより、直流及び高周波までの交流の成分を示す信号を得ることができる。
【0039】
図3は、本発明の第1実施形態において、回路部の合成部で行われる処理を説明するための図である。尚、図3(a)は、低域通過フィルタ23aのフィルタ特性の一例を示す図である。図3(b)は、高域通過フィルタ23bのフィルタ特性の一例を示す図である。図3(c)は、合成部の周波数特性の一例を示す図である。
【0040】
図3(a),(b)に示す通り、低域通過フィルタ23a及び高域通過フィルタ23bの遮断周波数は共にfcである。つまり、低域通過フィルタ23aは、概ね、遮断周波数fcよりも高い周波数成分を除去し、遮断周波数fcよりも低い周波数成分を通過させる特性を有する。また、高域通過フィルタ23bは、概ね、遮断周波数fcよりも低い周波数成分を除去し、遮断周波数fcよりも高い周波数成分を通過させる特性を有する。
【0041】
図3(c)に示す通り、合成部23の周波数特性は、いわば図3(a)に示す特性と図3(b)に示す特性とが、遮断周波数fc及びその付近において平坦となるように合成された特性となる。つまり、合成部23の周波数特性は、低周波から高周波までの交流電流のピーク値が平坦とされたものになり、直流電流のピーク値(電流値)は、この周波数特性において平坦とされた交流電流のピーク値と略一致した値となる。
【0042】
ここで、合成部23で合成された信号(電流Iの測定結果)が、被測定導体MCを流れる電流Iを再現したものになるには、磁気センサSE1の遅延時間tdelayと、上記の遮断周波数fcとの関係が、tdelay<(1/fc)×(1/100)なる関係を満たす必要がある。尚、上記の遅延時間tdelayは、被測定導体MCに流れる電流が変化してから(つまり、磁気センサSE1に加わる磁界が変化してから)、磁気センサSE1が検出結果を出力するまでに要する時間である。
【0043】
出力部24は、合成部23で合成された信号(電流Iの測定結果)を外部に出力する。尚、出力部24は、例えば電流Iの測定結果を示す信号を外部に出力する出力端子を備えてもよく、電流Iの測定結果を外部に表示する表示装置(例えば、液晶表示装置)を備えていても良い。
【0044】
ここで、図1図2に示す通り、回路部20は、センサヘッド10と分離されており、ケーブルCBを介してセンサヘッド10に接続されている。このような構成にすることで、磁界検出機能(磁気センサSE1、ロゴスキーセンサSE2)と、演算機能(演算部21,22、合成部23、及び出力部24)とを分離することができる。これにより、センサヘッド10の取り回しが容易になり、例えば狭い場所へのセンサヘッド10の設置も容易に行うことができる。また、演算機能がセンサヘッド10内に設けられている場合に生ずる諸問題(例えば、温度特性、絶縁耐性)等を回避することができ、これにより電流測定装置1の用途を拡げることができる。
【0045】
〈電流測定装置の動作〉
次に、電流測定装置1を用いて被測定導体MCに流れる電流Iを測定する際の動作について説明する。まず、電流測定装置1のユーザは、被測定導体MCに流れる電流Iを測定するために、図1に示す通り、固定機構FMによって、センサヘッド10を被測定導体MCに固定させる。これにより、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離が距離rに設定される。
【0046】
また、電流測定装置1のユーザは、図1に示す通り、被測定導体MCの周囲を取り囲んだ状態にロゴスキーセンサSE2を配置する。このとき、電流測定装置1のユーザは、必要であればロゴスキーセンサSE2の一端部E1をセンサヘッド10から取り外し、ロゴスキーセンサSE2を上記の状態に配置してから、ロゴスキーセンサSE2の一端部E1をセンサヘッド10に取り付けるようにしても良い。
【0047】
図4は、本発明の第1実施形態による電流測定装置の動作の概要を示すフローチャートである。図4に示すフローチャートは、例えば一定周期(例えば、1秒)で繰り返し行われる。図4に示すフローチャートの処理が開始されると、まず、磁気センサSE1及びロゴスキーセンサSE2によって、被測定導体MCに流れる電流Iによって形成される磁界が検出される(ステップS11)。
【0048】
次に、磁気センサSE1及びロゴスキーセンサSE2の検出結果から、被測定導体MCに流れる電流Iを求める処理が、演算部21,22で行われる(ステップS12)。具体的に、演算部21では、自身に格納されている距離情報で示される距離r、磁気センサSE1の検出結果(磁界H)、及び定数(2π)の積を演算することによって、被測定導体MCに流れる電流I(直流及び低周波の成分)を求める処理が行われる。また、演算部22では、ロゴスキーセンサSE2の検出結果(電圧)を電流に変換する演算を行うことによって被測定導体MCに流れる電流I(低周波から高周波の成分)を求める処理が行われる。
【0049】
続いて、演算部21,22で演算された電流を合成する処理が、合成部23で行われる(ステップS13)。具体的には、まず、演算部21の演算結果が低域通過フィルタ23aに入力されて高周波成分が除去され、演算部22の演算結果が高域通過フィルタ23bに入力されて低周波成分が除去される。次に、低域通過フィルタ23aから出力される信号(低域通過フィルタ23aを通過した低周波成分)と、高域通過フィルタ23bから出力される信号(高域通過フィルタ23bを通過した高周波成分)とのレベルを調整する処理が、信号レベル調整部23cで行われる。
【0050】
そして、信号レベル調整部23cによって信号レベルが調整された信号と、高域通過フィルタ23bから出力される信号とを加算する処理が加算部23dで行われる。このようにして、演算部21,22で演算された電流が合成される。以上の処理が終了すると、合成部23で合成された電流が出力部24から出力される(ステップS14)。
【0051】
以上の通り、本実施形態では、被測定導体MCに流れる電流によって生ずる直流磁界及び低周波の交流磁界を検出する磁気センサSE1と、被測定導体MCに流れる電流によって生ずる低周波から高周波の交流磁界を検出するロゴスキーセンサSE2とを設けている。そして、磁気センサSE1と被測定導体MCとの距離rを示す距離情報を用いて磁気センサSE1の検出結果から被測定導体MCに流れる電流(直流電流及び低周波の交流電流)を求め、ロゴスキーセンサSE2の検出結果から被測定導体MCに流れる電流(低周波から高周波)を求め、各々の演算結果を合成するようにしている。このため、本実施形態では、小型で直流電流及び交流電流を非接触で測定することができる。
【0052】
〔第2実施形態〕
〈電流測定装置の構成〉
図5は、本発明の第2実施形態による電流測定装置を模式的に示す図である。尚、図5においては、図1に示した構成に相当する構成には、同一の符号を付してある。図5に示す通り、本実施形態の電流測定装置2は、ケーブルCBによって接続されたセンサヘッド10A及び回路部20Aを備えており、被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定する。
【0053】
センサヘッド10Aは、図1に示すセンサヘッド10と同様に、被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定するための部材であり、電流Iによって生成される磁界を遮らない材質(例えば、樹脂等)によって形成されている。センサヘッド10Aは、図1に示すセンサヘッド10の固定機構FMを省略し、2つの三軸磁気センサ11,12を追加した構成である。2つの三軸磁気センサ11,12は、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離を求めるために設けられる。
【0054】
三軸磁気センサ11,12は、互いに直交する三軸に感磁方向を有する磁気センサである。三軸磁気センサ11,12は、各々の感磁方向が互いに平行になるように、予め規定された間隔をもって配置されている。例えば、三軸磁気センサ11,12の第1軸が平行になり、三軸磁気センサ11,12の第2軸が平行になり、且つ三軸磁気センサ11,12の第3軸が平行になり、所定の方向に所定の距離だけ離間するように配置されている。尚、以下では、三軸磁気センサ11,12は、第1軸方向に所定の距離だけ離間するように配列されているとする。
【0055】
尚、三軸磁気センサの感磁方向は、本実施形態のように、互いに直交するものに限定されず、互いに既知の角度で交差するものであれば、如何なる角度で交差するものであっても良い。また、複数の三軸磁気センサは、本実施形態のように、各々の感磁方向が互いに平行になるように配置されるものに限定されず、各々の感磁方向が既知となるように、互いに如何なる角度で配置されるものであっても良い。
【0056】
また、三軸磁気センサ11,12は、磁気センサSE1に対し、感磁方向及び相対的な位置が予め規定された関係となるように配置されている。磁気センサSE1に対する三軸磁気センサ11,12の位置関係の例については後述する。尚、センサヘッド10Aに設けられる三軸磁気センサの数は、2つに制限される訳ではなく、2つ以上であれば良い。例えば、センサヘッド10Aに、3つの三軸磁気センサが設けられても良く、4つの三軸磁気センサが設けられても良い。
【0057】
三軸磁気センサ11,12の検出結果を示す信号は、アナログ信号及びディジタル信号の何れでも良い。但し、三軸磁気センサ11,12の検出結果を示す信号がディジタル信号である場合には、センサヘッド10Aと回路部20Aとを接続するケーブルCBに含まれる信号線の本数を少なくすることができる。例えば、三軸磁気センサ11,12の検出結果を示す信号がアナログ信号である場合には、三軸磁気センサ11,12の各々について三軸の検出結果を出力する3本の信号線がそれぞれ必要になるため、計6本の信号線が必要になる。これに対し、三軸磁気センサ11,12の検出結果を示す信号がディジタル信号である場合には、1本の信号線のみで良い。ケーブルCBに含まれる信号線の本数が少ないと、ケーブルCBの屈曲性が向上するため、例えばセンサヘッド10Aを狭い空間内に配置する際にハンドリングが容易になる。
【0058】
三軸磁気センサ11,12は、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離を高精度に求めるために、雑音が小さいものが用いられる。例えば、三軸磁気センサ11,12は、その検出結果に含まれる雑音成分の大きさが、磁気センサSE1の検出結果に含まれる雑音成分の大きさの1/10以下であるものが用いられる。
【0059】
回路部20Aは、センサヘッド10Aから出力される検出結果(磁気センサSE1及びロゴスキーセンサSE2の検出結果)に基づいて、被測定導体MCに流れる電流Iを測定する。ここで、第1実施形態で説明した通り、磁気センサSE1の検出結果に基づいて電流I(直流及び低周波の成分)を求める際に、磁気センサSE1と被測定導体MCとの距離rを示す距離情報が必要になる。回路部20Aは、三軸磁気センサ11,12の検出結果に基づいて上記の距離情報を算出する。回路部20Aは、図1に示す回路部20と同様に、電流Iの測定結果を外部に出力し、或いは表示する。
【0060】
図6は、本発明の第2実施形態による電流測定装置の要部構成を示すブロック図である。尚、図6では、図2に示した構成に相当するブロックについては、同一の符号を付してある。以下では、主に、図6を参照して回路部20Aの内部構成の詳細について説明する。図6に示す通り、回路部20Aは、図2に示す演算部21に代えて演算部21A(第1演算部)を設けた構成である。尚、図6に示す演算部22、合成部23、及び出力部24は、図2に示すものと同じものであるため、説明を省略する。
【0061】
演算部21Aは、磁気センサSE1の検出結果及び三軸磁気センサ11,12の検出結果から、被測定導体MCに流れる電流I(直流及び低周波の成分)を求める。演算部21Aは、データ蓄積部21a、雑音除去部21b、距離算出部21c(距離情報算出部)、及び電流算出部21dを備える。
【0062】
データ蓄積部21aは、例えば揮発性又は不揮発性の半導体メモリを備えており、センサヘッド10Aから出力される三軸磁気センサ11,12の検出結果を蓄積する。尚、データ蓄積部21aは、上記の半導体メモリとともに(或いは、上記の半導体メモリに代えて)、例えばHDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)等の補助記憶装置を備えていても良い。
【0063】
雑音除去部21bは、三軸磁気センサ11,12の検出結果に含まれる雑音成分を除去する。具体的に、雑音除去部21bは、予め規定された一定の期間(例えば、1秒)毎に、三軸磁気センサ11,12の各々から得られる複数の検出結果に対し、平均化処理又は二乗和平方根処理を個別に行うことで、三軸磁気センサ11,12の検出結果に含まれる雑音成分を除去する。尚、三軸磁気センサ11,12からは三軸の検出結果がそれぞれ出力されるが、雑音除去部21bによる雑音成分の除去は、各軸の検出結果に対して個別に行われる。このような雑音除去を行うのは、三軸磁気センサ11,12のSN比(信号対雑音比)を向上させて、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離rの算出精度を向上させるためのである。
【0064】
距離算出部21cは、三軸磁気センサ11,12の検出結果、三軸磁気センサ11,12の間隔、及び磁気センサSE1に対する三軸磁気センサ11,12の位置関係に基づいて、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離rを求める(推定する)。この距離rを求めるのは、磁気センサSE1の検出結果に基づいて電流I(直流及び低周波の成分)を求める際に、距離rを示す距離情報が必要になるからである。尚、距離算出部21cで行われる処理の詳細については後述する。
【0065】
電流算出部21dは、被測定導体MCに流れる電流I(直流及び低周波の成分)を求める。具体的に、電流算出部21dは、距離算出部21cによって算出された距離情報で示される距離r、磁気センサSE1の検出結果(磁界H)、及び定数(2π)の積を演算することによって、被測定導体MCに流れる電流I(直流及び低周波の成分)を求める。
【0066】
〈距離の算出方法〉
図7は、本発明の第2実施形態における被測定導体に対する磁気センサの距離を算出する方法の一例を説明するための図である。まず、図7に示す通り、センサヘッド10Aのみに係る座標系(xyz直交座標系)と、被測定導体MC及びセンサヘッド10Aの双方に係る座標系(XYZ直交座標系)との2つの座標系を設定する。尚、図示の都合上、XYZ直交座標系は、原点位置をずらして図示しているが、XYZ直交座標系の原点は、xyz直交座標系の原点と同じ位置である。
【0067】
xyz直交座標系は、センサヘッド10Aの位置及び姿勢に応じて規定される座標系である。このxyz直交座標系は、三軸磁気センサ11の位置に原点が設定されており、三軸磁気センサ11,12の配列方向(第1軸方向)にx軸が設定されており、三軸磁気センサ11,12の第2軸方向にy軸が設定されており、三軸磁気センサ11,12の第3軸方向にz軸が設定されている。
【0068】
三軸磁気センサ11,12のx方向の間隔はd[m]であるとする。従って、三軸磁気センサ11は、xyz直交座標系の座標(0,0,0)に配置されており、三軸磁気センサ12は、xyz直交座標系の座標(d,0,0)に配置されているということができる。また、磁気センサSE1と三軸磁気センサ11とのx方向の間隔はd1[m]であり、磁気センサSE1と三軸磁気センサ11とのz方向の間隔はd2[m]であって、磁気センサSE1は三軸磁気センサ11よりも-z側に配置されているとする。従って、磁気センサSE1は、xyz直交座標系の座標(d1,0,-d2)に配置されているということができる。
【0069】
XYZ座標系は、被測定導体MCとセンサヘッド10Aとの相対的な位置関係に応じて規定される座標系である。このXYZ直交座標系は、三軸磁気センサ11の位置に原点が設定されており、被測定導体MCの長手方向(電流Iの方向)と平行になるようにX軸が設定されており、原点位置(三軸磁気センサ11の位置)における磁界H1の方向にY軸が設定される。尚、Z軸は、X軸及びY軸に直交する方向に設定される。
【0070】
図7に示す通り、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ11の距離をr1とし、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ12の距離をr2とする。尚、距離r1は、三軸磁気センサ11から被測定導体MCに垂直に下ろした線分の長さであり、距離r2は、三軸磁気センサ12から被測定導体MCに垂直に下ろした線分の長さである。また、電流Iによって三軸磁気センサ11の位置に形成される磁界をH1とし、電流Iによって三軸磁気センサ12の位置に形成される磁界をH2とする。ここで、上記の磁界H1,H2は、三軸磁気センサ11,12によって検出することができるが、磁界H1,H2のみでは距離r1,r2を検出することはできない点に注意されたい。
【0071】
図8は、被測定導体及び三軸磁気センサを、図7中の方向D1から見た図である。図7中の方向D1は、被測定導体MCの長手方向に沿う方向(電流Iが流れる方向とは反対の方向)である。尚、図8においては、理解を容易にするためにセンサヘッド10Aの図示を省略して、被測定導体MC及び三軸磁気センサ11,12を図示している。また、図8においても、図7と同様に、原点位置をずらしてXYZ直交座標系を図示している。
【0072】
図8に示す通り、紙面に対して垂直なX方向(-X方向)に流れる電流Iによって、三軸磁気センサ11,12の位置に形成される磁界H1,H2は、X軸に直交するものになる。従って、図8に示す通り、電流Iが流れる方向と直交するYZ平面に、三軸磁気センサ11,12の位置に形成される磁界H1,H2を、その大きさを変えることなく射影することができる。
【0073】
三軸磁気センサ11の位置に形成される磁界H1は、三軸磁気センサ11から被測定導体MCに垂直に下ろした線分に直交する。また、三軸磁気センサ12の位置に形成される磁界H2は、三軸磁気センサ12から被測定導体MCに垂直に下ろした線分に直交する。従って、上記の線分同士がなす角θ2は、磁界H1と磁界H2とがなす角θ1に等しくなる。このため、三軸磁気センサ11,12のY方向における間隔Lは、以下の(1)式で表される。
【数1】
【0074】
ここで、上述の通り、上記の角θ1は、ベクトルで表される磁界H1と磁界H2とのなす角である。このため、角θ1は、ベクトルの内積公式を用いて以下の(2)式で表される。
【数2】
【0075】
上記(2)式を変形して上記(1)に代入すると、以下の(3)式が得られる。
【数3】
【0076】
上記(3)式中の磁界H1,H2は、三軸磁気センサ11,12の検出結果である。このため、上記の間隔Lが分かれば、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ12の距離r2を求めることができる。以下、距離r2を求めるために必要となる三軸磁気センサ11,12のY方向における間隔Lを求める方法について説明する。
【0077】
図9は、三軸磁気センサのY方向における間隔Lを求める方法を説明するための図である。尚、図9(a)は、xyz座標系を+z側から-z側の方向に見た図であり、図9(b)は、xyz座標系を+x側から-x側の方向に見た図であり、図9(c)は、xyz座標系を+y側から-y側の方向に見た図である。本実施形態では、XYZ座標系を回転させてxyz座標系に一致させる操作を行って、三軸磁気センサ11,12のY方向における間隔Lを求めている。尚、かかる操作を行うことで、三軸磁気センサ11の位置における磁界はy成分のみになり、被測定導体MCはyz平面と直交した状態(x軸と平行な状態)になる。
【0078】
具体的には、まず、図9(a)に示す通り、XYZ座標系をz軸の周りで角αだけ回転させて、磁界H1(Y軸)をyz平面に配置する操作を行う。ここで、三軸磁気センサ11で検出される磁界H1のx成分をH1xとし、y成分をH1yとし、z成分をH1zとすると、上記の角αは、以下の(4)式で表される。また、かかる操作を行った後の三軸磁気センサ12の位置P1は、以下の(5)式で表される。
【0079】
【数4】
【数5】
【0080】
次に、図9(b)に示す通り、XYZ座標系をx軸の周りで角βだけ回転させて、磁界H1(Y軸)をy軸上に配置する操作を行う。上記の角βは、以下の(6)式で表される。また、かかる操作を行った後の三軸磁気センサ12の位置P2は、以下の(7)式で表される。
【0081】
【数6】
【数7】
【0082】
次いで、図9(c)に示す通り、XYZ座標系をy軸の周りで角γだけ回転させて、被測定導体MCをyz平面と直交させる操作を行う。このとき、y座標は変化しないことから、かかる操作を行った後の三軸磁気センサ12の位置P3のy座標は、d・sinα・cosβである。
【0083】
以上の操作を行うことにより、三軸磁気センサ11,12のY方向(y方向)における間隔Lは、三軸磁気センサ12の位置P3のy座標(d・sinα・cosβ)と等しくなる。すると、上記(3)式は、上記(4)式及び上記(6)式を用いて以下の(8)式に変形することができる。この(8)式を参照すると、三軸磁気センサ11,12の検出結果と三軸磁気センサ11,12の間隔dとから、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ12の距離r2が求められる(推定される)ことが分かる。
【0084】
【数8】
【0085】
尚、ここでは、三軸磁気センサ11の位置に原点が設定されたxyz直交座標系及びXYZ直交座標系に対して上述した操作を行って、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ12の距離r2を求める例について説明した。xyz直交座標系及びXYZ直交座標系の原点の位置を三軸磁気センサ12の位置に設定し、上述した操作と同様の操作を行えば、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ11の距離r1も求める(推定する)ことができる。
【0086】
前述の通り、磁気センサSE1に対する三軸磁気センサ11,12の位置関係は予め規定されている。このため、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ11の距離r1と、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ12の距離r2とが求められれば、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離rを求める(推定する)ことができる。尚、以上説明した距離rの算出方法はあくまでも一例である点に注意されたい。例えば、センサヘッド10Aに設けられる三軸磁気センサの数等に応じて異なる算出方法を用いても良い。
【0087】
〈電流測定装置の動作〉
次に、電流測定装置2を用いて被測定導体MCに流れる電流Iを測定する際の動作について説明する。まず、電流測定装置2のユーザは、被測定導体MCに流れる電流Iを測定するために、センサヘッド10Aを被測定導体MCに近接配置させる。尚、被測定導体MCに対するセンサヘッド10Aの位置及び姿勢は任意である。
【0088】
また、電流測定装置2のユーザは、図5に示す通り、被測定導体MCの周囲を取り囲んだ状態にロゴスキーセンサSE2を配置する。このとき、電流測定装置2のユーザは、必要であればロゴスキーセンサSE2の一端部E1をセンサヘッド10Aから取り外し、ロゴスキーセンサSE2を上記の状態に配置してから、ロゴスキーセンサSE2の一端部E1をセンサヘッド10Aに取り付けるようにしても良い。
【0089】
被測定導体MCに流れる電流Iを測定する際の電流測定装置2の動作は、基本的には第1実施形態の電流測定装置1の動作と同様である。つまり、被測定導体MCに流れる電流Iを測定する際には、図4に示すフローチャートの処理に従った動作が、電流測定装置2で行われる。但し、電流測定装置2では、三軸磁気センサ11,12の検出結果に基づいて、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離rを求める距離算出処理が追加で行われる。
【0090】
図10は、本発明の第2実施形態で行われる距離算出処理を示すフローチャートである。図10に示すフローチャートは、例えば一定周期(例えば、1秒)で繰り返し行われる。尚、図10に示す処理は、図4に示すステップS11,S12の処理と並行して行われる。
【0091】
図10に示すフローチャートの処理が開始されると、まず三軸磁気センサ11,12によって、被測定導体MCに流れる電流Iによって形成される磁界が検出される(ステップS21)。尚、三軸磁気センサ11,12による磁界の検出は、例えば1秒間に1000回程度行われる。次に、三軸磁気センサ11,12の検出結果を示す検出データを、回路部20Aのデータ蓄積部21aに蓄積する処理が行われる(ステップS22)。
【0092】
次いで、検出データから雑音を除去する処理が、雑音除去部21bによって行われる(ステップS23)。具体的には、データ蓄積部21aに蓄積された検出データが雑音除去部21bに読み出され、読み出された検出データに対して平均化処理又は二乗和平方根処理が行われることで、検出データに含まれる雑音成分を除去する処理が行われる。尚、二乗和平方根処理を行うと符号が無くなるため、別途、符号の付加を行う。ここで、三軸磁気センサ11,12からは、三軸の検出結果を出力する3種類の検出データがそれぞれ出力される。雑音除去部21bによる雑音成分の除去は、各軸の検出データに対して個別に行われる。
【0093】
続いて、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離rを算出する処理が、距離算出部21cによって行われる(ステップS24)。具体的には、ステップS23で雑音が除去された検出データと、予め入力されている三軸磁気センサ11,12の間隔dを示すデータとを用い、前述した(8)式に示される演算を行って、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ12の距離r2を算出する処理が距離算出部21cによって行われる。同様に、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ11の距離r1を算出する処理が距離算出部21cによって行われる。
【0094】
そして、磁気センサSE1と三軸磁気センサ11とのx方向の間隔d1及びz方向の間隔d2を示すデータと、被測定導体MCに対する三軸磁気センサ11の距離r1及び三軸磁気センサ12の距離r2とを用いて、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離rを求める処理が距離算出部21cによって行われる。尚、距離算出部21cによって算出された距離情報で示される距離r、磁気センサSE1の検出結果(磁界H)、及び定数(2π)の積を演算して、被測定導体MCに流れる電流I(直流及び低周波の成分)を求める処理が電流算出部21dで行われる。
【0095】
以上の通り、本実施形態においても、被測定導体MCに流れる電流によって生ずる直流磁界及び低周波の交流磁界を検出する磁気センサSE1と、被測定導体MCに流れる電流によって生ずる低周波から高周波の交流磁界を検出するロゴスキーセンサSE2とを設けている。そして、磁気センサSE1と被測定導体MCとの距離rを示す距離情報を用いて磁気センサSE1の検出結果から被測定導体MCに流れる電流(直流電流及び低周波の交流電流)を求め、ロゴスキーセンサSE2の検出結果から被測定導体MCに流れる電流(低周波から高周波)を求め、各々の演算結果を合成するようにしている。このため、本実施形態においても、小型で直流電流及び交流電流を非接触で測定することができる。
【0096】
また、本実施形態では、三軸磁気センサ11,12の検出結果を示す検出データ、三軸磁気センサ11,12の間隔dを示すデータ、及び磁気センサSE1に対する三軸磁気センサ11,12の位置関係を示すデータ(間隔d1,d2)を用いて、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離rを求めている。そして、求めた距離rを示す距離情報を用いて磁気センサSE1の検出結果から被測定導体MCに流れる電流(直流電流及び低周波の交流電流)を求めている。ここで、本実施形態では、被測定導体MCに対するセンサヘッド10Aの位置及び姿勢は任意で良い。このため、本実施形態では、電流測定時の設置を柔軟に行うことができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態による電流測定装置について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した実施形態では、三軸磁気センサ11,12が第1軸方向(x軸方向)に間隔d[m]だけ離間している例について説明した。しかしながら、三軸磁気センサ11,12は、第2軸方向(y軸方向)に離間していても良く、第3軸方向(z軸方向)に離間していても良く、その他の方向に離間していても良い。つまり、三軸磁気センサ11,12が離間する方向は任意である。
【0098】
また、上述した実施形態では、2つの三軸磁気センサ11,12を用いて被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離rを求める例について説明した。しかしながら、3つ以上の三軸磁気センサを用いて被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離rを求めるようにしても良い。
【符号の説明】
【0099】
1,2 電流測定装置
10,10A センサヘッド
11,12 三軸磁気センサ
20,20A 回路部
21,21A 演算部
21b 雑音除去部
21c 距離算出部
22 演算部
23 合成部
23a 低域通過フィルタ
23b 高域通過フィルタ
23c 信号レベル調整部
23d 加算部
I 電流
FM 固定機構
MC 被測定導体
SE1 磁気センサ
SE2 ロゴスキーセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10