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特許7517436高分子固体電解質およびその製造方法、ならびに電気化学デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】高分子固体電解質およびその製造方法、ならびに電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20240709BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20240709BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240709BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240709BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240709BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M4/46
H01M4/38 Z
H01M10/054
H01B1/06 A
H01G11/56
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022545302
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2021016794
(87)【国際公開番号】W WO2022044428
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020144622
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆平
(72)【発明者】
【氏名】中山 有理
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 秀樹
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/146815(WO,A1)
【文献】特開2000-003619(JP,A)
【文献】特開2018-030959(JP,A)
【文献】特開2019-157008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0197375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/054-10/0565
H01M 4/46
H01M 4/38
H01B 1/06
H01G 11/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極としてマグネシウム電極を備えた電気化学デバイスのための高分子固体電解質であって、
Mg2+と、アニオン性官能基および配位性官能基を有するアニオン性ポリマーとを含むMgポリマー塩を含んで成り、
Mgイオン伝導性を有し、
前記アニオン性ポリマーは、前記アニオン性官能基を側鎖に有し、前記配位性官能基を主鎖に有する高分子固体電解質。
【請求項2】
前記アニオン性ポリマーは、一般式(1)
【化1】
[前記一般式(1)中、(A)はアニオン性官能基を有するブロックを示し、(B)は配位性官能基を有するブロックを示す]
で表されるトリブロック共重合体である、請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項3】
前記一般式(1)中、(A)は一般式(2):
【化2】
[前記一般式(2)中、Afはアニオン性官能基を示し、mは3~40の整数を示し、pは1~10の整数を示す]
で表されるブロックである、請求項に記載の高分子固体電解質。
【請求項4】
前記一般式(1)中、(B)は一般式(3):
【化3】
[前記一般式(3)中、nは150~850の整数を示し、qは1~10の整数を示す]
で表されるブロックである、請求項またはに記載の高分子固体電解質。
【請求項5】
前記アニオン性官能基は、パーフルオロアルキルスルホニルアミド基(C 2k+1 -SO -N -SO -基;ここで、kは1~10の整数を表す)または-SO 基である、請求項1~4のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項6】
前記アニオン性官能基がトリフルオロメチルスルホニルアミド基である、請求項1~のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項7】
前記配位性官能基がポリ(エチレンオキシド)である、請求項1~のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項8】
前記電気化学デバイスの正極が、硫黄を含んで成る硫黄電極である、請求項1~のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項9】
Mgイオン伝導性を有する高分子固体電解質の製造方法であって、
一般式(4):
【化4】
[前記一般式(4)中、Afはアニオン性官能基を示し、Tは末端基を示し、mは3~40の整数を示し、nは150~850の整数を示し、pおよびqは1~10の整数を示し、pおよびqは互いに同一であっても異なってもよい]
で表されるLiポリマー塩をMg塩の直鎖エーテル溶液に溶解し、直鎖エーテルを加えて一般式(5):
【化5】
[前記一般式(5)中、Afはアニオン性官能基を示し、Tは末端基を示し、mは3~40の整数を示し、nは150~850の整数を示し、pおよびqは1~10の整数を示し、pおよびqは互いに同一であっても異なってもよい]
で表されるMgポリマー塩を析出させる工程を含んで成る、高分子固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記一般式(4)および(5)中、前記アニオン性官能基がトリフルオロメチルスルホニルアミド基である、請求項に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項11】
前記一般式(4)および(5)中、qは2を示す、請求項または10に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項12】
負極および正極を備えた電気化学デバイスであって、
前記負極がマグネシウム電極であり、
前記電気化学デバイスの固体電解質が請求項1~のいずれかに記載の高分子固体電解質である、電気化学デバイス。
【請求項13】
前記正極が、硫黄を含んで成る硫黄電極である、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子固体電解質およびその製造方法、ならびに電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスとしては、キャパシタ、空気電池、燃料電池および二次電池などがあり、種々の用途に用いられている。電気化学デバイスは、正極および負極を備え、かかる正極と負極との間のイオン輸送を担う固体電解質を有している。
【0003】
例えばマグネシウム電池に代表される電気化学デバイスの電極としては、マグネシウムから成る電極あるいはマグネシウムを少なくとも含んだ電極が設けられている(以下では、そのような電極を単に「マグネシウム電極」とも称し、マグネシウム電極が用いられている電気化学デバイスを「マグネシウム電極系の電気化学デバイス」とも称する)。マグネシウムは、リチウムに比べて資源的に豊富で遙かに安価である。また、マグネシウムは、酸化還元反応によって取り出すことができる単位体積当たりの電気量が一般に大きく、電気化学デバイスに用いた場合の安全性も高い。それゆえ、マグネシウム電池は、リチウムイオン電池に代わる次世代の二次電池として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許公開公報US2018/0159170A1
【文献】米国特許公開公報US2018/0102567A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグネシウム電池の固体電解質としては、無機物を用いることが提案されている。例えば、特許文献1では、一般式MgSiO(ただし、一般式中、Mは、Ti、Zr、Hf、Ca、Sr、およびBaから成る群より選択される少なくとも1種であり、0<x<2、0<y<2、ならびに3<z<6である)で示される組成を有する無機物が用いられている。また、特許文献2では、一般式MgSiO(ただし、一般式中、1<x<2、3<y<5、ならびに0≦z<1である)で示される組成を有する無機物が用いられている。
【0006】
無機物は柔軟性が低いため、無機物が固体電解質として用いられると、固体電解質に応力が印加された場合または固体電解質内で応力が発生した場合に、脆く元の形状に戻りにくいという欠点があった。また、無機物で構成される固体電解質のイオン伝導度は500℃で10-9~10-7S/cmオーダーと極めて低い。
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、優れた構造維持性を有し、従来に比べイオン伝導性がより高い電気化学デバイスの実現に資する固体電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された固体電解質の発明に至った。
【0009】
本発明では、負極としてマグネシウム電極を備えた電気化学デバイスのための高分子固体電解質であって、
Mg2+と、アニオン性官能基および配位性官能基を有するアニオン性ポリマーとを含むMgポリマー塩を含んで成り、
Mgイオン伝導性を有する高分子固体電解質が提供される。
【0010】
また、本発明では、Mgイオン伝導性を有する高分子固体電解質の製造方法であって、
一般式(4):
【化1】
[一般式(4)中、Afはアニオン性官能基を示し、Tは末端基を示し、mは3~40の整数を示し、nは150~850の整数を示し、pおよびqは1~10の整数を示し、pおよびqは互いに同一であっても異なってもよい]
で表されるLiポリマー塩をMg塩の直鎖エーテル溶液に溶解し、直鎖エーテルを加えて一般式(5):
【化2】
[一般式(5)中、Afはアニオン性官能基を示し、Tは末端基を示し、mは3~40の整数を示し、nは150~850の整数を示し、pおよびqは1~10の整数を示し、pおよびqは互いに同一であっても異なってもよい]
で表されるMgポリマー塩を析出させる工程を含んで成る、高分子固体電解質の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高分子固体電解質では、構造維持性に優れ、高いイオン伝導性を有する電気化学デバイスがもたらされる。つまり、本発明の高分子固体電解質が用いられるマグネシウム電極系の電気化学デバイスでは、高分子固体電解質は、Mg2+と、アニオン性官能基および配位性官能基を有するアニオン性ポリマーとを含むMgポリマー塩を含んで成る。かかる高分子固体電解質のこのような構成に起因して高いイオン伝導性(Mgイオン伝導性)を有する。
【0012】
本発明のマグネシウム電極系の電気化学デバイスの電解質はMgポリマー塩で構成されている。よって、固体電解質に応力が印加された場合または固体電解質内に応力が発生した場合であっても、Mgポリマー塩は柔軟性が高いために元の形状に復元することができる。かかる高分子固体電解質のこのような構成に起因して構造維持性に優れる。
【0013】
また、本発明の高分子固体電解質の製造方法では、構造維持性に優れ、高いイオン伝導性を有する電気化学デバイスをもたらす高分子固体電解質を製造する。高分子固体電解質の製造方法は、Liポリマー塩をMg塩の直鎖エーテル溶液に溶解し直鎖エーテルを加えることで、Mgポリマー塩を析出させる、つまりLiポリマー塩のLをイオン交換反応によりMg2+に置換させ、析出させてMgポリマー塩を得る。このため、得られたMgポリマー塩では、Mgイオン濃度が比較的高い。さらに、アニオン性ポリマーは一般式(5)中で表される構造を有し、特にMg2+と適度な強さのイオン結合を形成するため、Mgポリマー塩は、高イオン伝導性に寄与し得る。
なお、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるもので無く、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施態様のマグネシウム電極系の電気化学デバイス(特に電池)の概念図である。
図2図2は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池(円筒型のマグネシウム二次電池)の模式的な断面図である。
図3図3は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池(平板型のラミネートフィルム型マグネシウム二次電池)の模式的な斜視図である。
図4図4は、本発明の一実施態様においてキャパシタとして供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
図5図5は、本発明の一実施態様において空気電池として供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
図6図6は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池を電池パックに適用した場合の回路構成例を示すブロック図である。
図7図7A図7Bおよび図7Cは、本発明の一実施態様としてマグネシウム二次電池が適用された電動車両、電力貯蔵システムおよび電動工具の構成をそれぞれ表したブロック図である。
図8図8は、本明細書の[実施例]で作製した電池を模式的に表した展開図である。
図9図9は、本明細書の[実施例]における”同定の評価”の結果を示すグラフ(NMRスペクトル)である。
図10図10は、本明細書の[実施例]における“イオン伝導性の評価”の結果を示すグラフ(特に、イオン伝導度と温度との関係を示すグラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の「電気化学デバイスのための高分子固体電解質(以下、高分子固体電解質を固体電解質とも称する)およびその製造方法」ならびに「電気化学デバイス」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観および寸法比などは実物と異なり得る。なお、本明細書で言及する各種の数値範囲は、下限および上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、特段の説明が付されない限り下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈される。
【0016】
本発明において「電気化学デバイス」とは、広義には、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出すことができるデバイスを意味している。狭義には、「電気化学デバイス」は、一対の電極および電解質を備え、特にはイオンの移動に伴って充電および放電が為されるデバイスを意味している。あくまでも例示にすぎないが、電気化学デバイスとしては、二次電池の他、キャパシタ、空気電池および燃料電池などを挙げることができる。
【0017】
[電気化学デバイスのための固体電解質]
本発明の固体電解質は、電気化学デバイスに用いられる。つまり、本明細書で説明する固体電解質は、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出すことができるデバイスのための電解質に相当する。
【0018】
本発明の固体電解質は、その大前提として、マグネシウム電極を備える電気化学デバイスに用いられる固体電解質となっている。特に、負極としてマグネシウム電極を備える電気化学デバイスのための固体電解質である。したがって、本発明の固体電解質は、マグネシウム電極系の電気化学デバイス用の固体電解質であるともいえる(以下では、単に「マグネシウム電極系の固体電解質」とも称す)。
【0019】
後述でも触れるが、かかる電気化学デバイスは、その負極がマグネシウム電極である一方、正極は硫黄電極であることが好ましい。つまり、ある好適な一態様では、本発明の固体電解質は、マグネシウム(Mg)-硫黄(S)電極用の固体電解質となっている。
【0020】
ここで、本明細書で用いる「マグネシウム電極」とは、広義には、活性成分(すなわち、活物質)としてマグネシウム(Mg)を有する電極のことを指している。狭義には「マグネシウム電極」は、マグネシウムを含んで成る電極のことを指しており、例えば、マグネシウム金属あるいはマグネシウム合金を含んで成る電極、特にはそのようなマグネシウムの負極を指している。なお、かかるマグネシウム電極は、マグネシウム金属またはマグネシウム合金以外の成分を含んでいてよいものの、ある好適な一態様ではマグネシウムの金属体から成る電極(例えば、純度90%以上、好ましくは純度95%以上、更に好ましくは純度98%以上のマグネシウム金属の単体物から成る電極)となっている。
【0021】
また、本明細書で用いる「硫黄電極」とは、広義には、活性成分(すなわち、活物質)として硫黄(S)を有する電極のことを指している。狭義には「硫黄電極」は、硫黄を少なくとも含んで成る電極のことを指しており、例えば、Sおよび/またはポリマー状の硫黄などの硫黄(S)を含んで成る電極、特にはそのような硫黄の正極を指している。なお、硫黄電極は、硫黄以外の成分を含んでいてよく、例えば導電助剤および結着剤などを含んでいてもよい。あくまでも例示にすぎないが、硫黄電極における硫黄の含有量は電極全体基準で5質量%以上95質量%以下であってよく、例えば70質量%以上90質量%以下程度であってよい(また、ある1つの例示態様では、硫黄電極における硫黄の含有量が5質量%~20質量%または5質量%~15質量%などとなっていてもよい)。
【0022】
本発明に係るマグネシウム電極系の固体電解質は、Mgイオン伝導性を有する。固体電解質のイオン伝導度は、例えば、50℃で10-5S/cmオーダーの値である。イオン伝導度の測定方法は実施例にて詳細に説明する。従来の、無機物で構成される固体電解質では、Mgイオン伝導度は、かなりの高温で10-9~10-7S/cmオーダーの値である。例えば、特許文献1~2では、500℃で1.1×10-9~約3.6×10-7S/cmである。
【0023】
固体電解質は、Mgポリマー塩を含んで成る。固体電解質はMgポリマー塩を含んで成るため、固体電解質に応力が印加された場合または固体電解質内に応力が発生した場合であっても、Mgポリマー塩は柔軟性が高いために元の形状に戻ることができる。よって、固体電解質は構造維持性に優れる。
また、固体電解質は、固体であり液体(電解液)ではない。固体電解質では、有機溶媒を含まないため、電解液が電気デバイスから漏出する等のおそれがなく、安全性および作業性に優れる。さらに、固体電解質は、有機溶媒を含まないため、熱安定性に優れる。なお、固体電解質が分散媒としての有機溶媒を含まないのは、後述するように、アニオン性ポリマーの配位性官能基がMg2+を固体電解質中に分散させるためである。
【0024】
また、Mgポリマー塩は、Mg2+と、アニオン性官能基および配位性官能基を有するアニオン性ポリマーとを含む。固体電解質のこのような構成に起因して高いイオン導電性を有する。特定の理論に拘束されるわけではないが、その理由は以下のように推測される。配位性官能基は、Mg2+を固体電解質中に分散させる。アニオン性ポリマーは固体電解質中においてある程度の分子内での運動性を有し、例えば、アニオン性官能基を有するアニオン性ポリマーの分子鎖が動く。アニオン性官能基(例えば、一価のマイナス帯電した官能基)はカウンターイオンのMg2+との間に静電引力を作用させるため、アニオン性官能基の動きに付随してMg2+が固体電解質中を輸送され得る。このように、アニオン性ポリマーは、キャリアとしてのMg2+を固体電解質中で効率的に輸送するため、Mg2+のイオン輸率が向上し、固体電解質のMgイオン伝導性は高い。
【0025】
Mgポリマー塩は、例えば、一般式(1):
【化3】
[一般式(1)中、(A)はアニオン性官能基を有するブロックを示し、(B)は配位性官能基を有するブロックを示し、2つの(A)は互いに同一であっても異なってもよい]
で表されるトリブロック共重合体(ABA型トリブロック共重合体)であってもよい。
【0026】
一般式(1)中、(A)は一般式(2):
【化4】
[一般式(2)中、Afはアニオン性官能基を示し、mは3~40の整数を示し、pは1~10の整数を示す]
で表されるブロックであってもよい。
【0027】
一般式(2)中、Mgイオン導電性をさらに向上させる観点から、好ましくはpは3を示し、mは20~40を示す。
【0028】
一般式(2)中、アルキレン基-(CH-の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-へキシレン基、n-へプチレン基、n-オクチレン基、n-ノニレン基およびn-デシレン基が挙げられる。一般式(2)で表されるm個の繰り返し単位におけるm個のアルキレン基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。これらアルキレン基の中でも、Mgイオン導電性を向上させる観点から、n-プロピレン基が好ましい。
【0029】
アニオン性官能基の価数は、1価または多価(例えば、2価等)であってもよい。アニオン性官能基は、好ましくは1価のアニオン性官能基である。この場合、Mgイオン導電性がより向上する。特定の理論に拘束されるわけではないが、その理由は以下のように推測される。アニオン性官能基は固体電解質中でカウンターイオンであるMg2+との間に静電引力を作用させ、イオン結合を形成する。ここで、1価のアニオン性官能基は、2価以上の多価のアニオン性官能基に比べ、価数が小さいためMg2+との間に比較的弱いイオン結合を形成する。このため、1価のアニオン性官能基は、Mg2+との間に適度な強さのイオン結合を形成し、キャリアとしてのMg2+の束縛が抑制される。よって、Mg2+のイオン輸率が向上し、Mgイオン導電性がより向上すると考えられる。
【0030】
アニオン性官能基は、より好ましくは、パーフルオロアルキルスルホニルアミド基(C2k+1-SO-N-SO-基;ここで、kは1~10の整数を表す)および-SO 基が挙げられ、さらに好ましくはパーフルオロアルキルスルホニルアミド基であり、特に好ましくはトリフルオロメチルスルホニルアミド基(CF-SO-N-SO-基)である。一般式(2)で表されるm個の繰り返し単位におけるm個のアニオン性官能基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
パーフルオロアルキルスルホニルアミド基および-SO 基は、負電荷の空間的な広がりが比較的大きい。このため、アニオン性官能基がパーフルオロアルキルスルホニルアミド基または-SO 基であると、アニオン性官能基がMg2+との間で適度な強さのイオン結合を形成し、Mg2+とアニオン性官能基との間の静電引力がMg2+をアニオン性官能基に強く束縛しない程度に適度に作用する。このように、アニオン性官能基によるMg2+の束縛が抑制されるため、Mg2+のイオン輸率が向上し、Mgイオン導電性がより向上すると考えられる。
【0032】
アニオン性ポリマーは、例えば一般式(2)で表すように、好ましくはアニオン性官能基を側鎖に有する。この場合、固体電解質のMgイオン伝導性がさらに高くなる。特定の理論に拘束されるわけではないが、その理由は以下のように推測される。アニオン性ポリマーの側鎖は主鎖に比べ運動の自由度が高く、例えば、固体電解質中で側鎖を揺らすようにして動く。アニオン性官能基とMg2+との間に静電引力が作用するため、アニオン性ポリマーの側鎖の動きに伴い、Mg2+も移動することができる。よって、アニオン性ポリマーがアニオン性官能基を側鎖に有すると、Mg2+のイオン輸率がさらに向上し、固体電解質のMgイオン伝導性がさらに高くなると考えられる。
【0033】
一般式(1)中、
(B)は、一般式(3):
【化5】
[一般式(3)中、nは150~850の整数を示し、qは1~10の整数を示す]
で表されるブロックであってもよい。
【0034】
一般式(3)中、Mgイオン導電性をさらに向上させる観点から、好ましくはqは2を示す。
【0035】
一般式(3)で表されるブロックは、複数のアルキレンオキシ構造単位が直鎖状に結合したポリ(アルキレンオキシド)である。ここで、「アルキレンオキシ構造単位」とは、アルキレン基と酸素原子とが結合した分子構造単位(-(CH-O-)(分子構造単位中のqは、一般式(3)中のqと同義である)のことを指す。
【0036】
一般式(3)で表されるポリ(アルキレンオキシド)としては、例えば、炭素原子数1~10のポリ(アルキレンオキシド)である。ポリ(アルキレンオキシド)の具体例としては、ポリ(メチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(n-プロピレンオキシド)、ポリ(n-ブチレンオキシド)、ポリ(n-ペンチレンオキシド)、ポリ(n-へキシレンオキシド)、ポリ(n-へプチレンオキシド)、ポリ(n-オクチレンオキシド)、ポリ(n-ノニレンオキシド)およびポリ(n-デシレンオキシド)が挙げられる。これらポリ(アルキレンオキシド)の中でも、Mgイオン導電性をさらに向上させる観点から、ポリ(エチレンオキシド)が好ましい。
【0037】
一般式(3)で表されるブロックが有する複数のアルキレンオキシド構造単位は、例えば、炭素原子数1~10の複数のアルキレンオキシド構造単位である。この構造単位におけるアルキレンオキシの具体例としては、メチレンオキシ、エチレンオキシ、n-プロピレンオキシ、n-ブチレンオキシ、n-ペンチレンオキシ、n-へキシレンオキシ、n-へプチレンオキシ、n-オクチレンオキシ、n-ノニレンオキシおよびn-デシレンオキシである。これらアルキレンオキシの中でも、Mgイオン導電性をさらに向上させる観点から、エチレンオキシが好ましい。
【0038】
アニオン性ポリマーは、例えば一般式(3)で表すように、好ましくは主鎖に配位性官能基を有する。この場合、Mgイオン導電性がより向上する。特定の理論に拘束されるわけではないが、その理由は以下のように推測される。配位性官能基は比較的柔軟な構造を有するため、アニオン性ポリマーが主鎖に配位性官能基を有すると、アニオン性ポリマーの運動の自由度が高くなる。アニオン性官能基とMg2+との間に静電引力が作用するため、アニオン性ポリマーの主鎖の動きに伴い、Mg2+も移動することができる。よって、アニオン性ポリマーが主鎖に配位性官能基を有すると、Mg2+のイオン輸率が向上し、Mgイオン導電性がより向上すると考えられる。
【0039】
配位性官能基は、例えば一般式(3)で表すように、好ましくはポリ(アルキレンオキシド)であり、より好ましくはポリ(エチレンオキシド)(一般式(3)中、qが2を示す場合のポリアルキレンオキシド)である。この場合、Mgイオン導電性がより向上する。特定の理論に拘束されるわけではないが、その理由は以下のように推測される。ポリ(エチレンオキシド)は比較的柔軟な構造を有するため、アニオン性ポリマーが配位性官能基としてポリ(エチレンオキシド)を有すると、アニオン性ポリマーの運動の自由度が高くなる。さらに、ポリアルキレンオキシドの酸素原子の非共有電子対がMg2+に配位しやすくなるため、固体電解質中でのMg2+の分散性がさらに向上する。これにより、Mg2+のイオン輸率が向上し、Mgイオン導電性がより向上すると考えられる。
【0040】
一般式(1)で表されるMgポリマー塩は、例えば、一般式(5):
【化6】
[一般式(5)中、Afはアニオン性官能基を示し、Tは末端基を示し、mは3~40の整数を示し、nは150~850の整数を示し、pおよびqは1~10の整数を示し、pおよびqは互いに同一であっても異なってもよい]
で表されるMgポリマー塩であってもよい(以下、一般式(5)で表されるMgポリマー塩を「Mgポリマー塩(5)」とも称する)。
なお、一般式(5)中のm、pおよびAf、ならびにnおよびqは、それぞれ一般式(2)中のm、pおよびAf、ならびに一般式(3)中のnおよびqと同義である。また、一般式(5)中のTとしては、例えば、CC(=S)S-が挙げられる。また、一般式(5)中のAfは1価のアニオン性官能基を示す。
【0041】
Mgポリマー塩の数平均分子量Mnは、例えば、12,000~60,000である。Mgポリマー塩の数平均分子量の測定方法は実施例にて詳細に説明する。
【0042】
Mgポリマー塩(5)としては、例えば、一般式(5-2):
【化7】
[一般式(5-2)中、mは3~40の整数を示し、nは150~850の整数を示す]
で表されるMgポリマー塩(以下、「Mgポリマー塩(5-2)」とも称する)が挙げられる。
【0043】
固体電解質は、Mgポリマー塩から成ってもよい。
【0044】
本発明に係るマグネシウム電極系の固体電解質は、マグネシウム電極を負極として備える電気化学デバイスにとって好適なものであるが、デバイスが硫黄電極を正極として備える場合が更に好適となる。つまり、本発明の固体電解質は、マグネシウム電極を負極として備えた電気化学デバイスのための固体電解質であるところ、当該電気化学デバイスの正極が、硫黄電極となっていることが好ましい。このようなマグネシウム電極-硫黄電極の対を備える電気化学デバイスを以下「マグネシウム-硫黄電極系の電気化学デバイス」とも称する。
【0045】
[固体電解質の製造方法]
本発明の固体電解質の製造方法の一例としてMgポリマー塩(5)の合成方法を説明する。Mgポリマー塩(5)の合成方法は、Liポリマー塩合成工程と、イオン交換工程とを含んで成る。すなわち、Mgポリマー塩(5)は、下記の反応スキームに示すように、反応(R-1)~(R-2)に従って又はこれに準ずる方法によって合成する。
【化8】
【0046】
(Liポリマー塩合成工程:反応(R-1))
Liポリマー塩合成工程では、重合開始剤の存在下で、一般式(6)で表されるPAOマクロ連鎖移動剤(以下、PAOマクロ連鎖移動剤(6)とも称する)と、一般式(7)で表されるメタクリル酸誘導体のLi塩(以下、Li塩(7)とも称する)とを可逆的付加開裂連鎖重合反応(RAFT反応:反応(R-1))させ、一般式(4)で表されるLiポリマー塩(以下、Liポリマー塩(4)とも称する)を合成する。
なお、反応(R-1)において、一般式(6)中のqおよびn、一般式(7)中のpおよびAfは、それぞれ一般式(5)中のq、n、pおよびAfと同義である。一般式(4)中のm、n、p、qおよびAfは、それぞれ一般式(5)中のm、n、p、qおよびAfと同義である。なお、上記反応スキームにおける一般式(5)中のAfは1価のアニオン性官能基を示す。
【0047】
重合開始剤としては、例えば、アゾ系の重合開始剤(より具体的には、2,2’-アゾビス(2-アミノプロパン)塩酸塩(AIBA))が挙げられる。重合開始剤は、例えば、1モルのPAOマクロ連鎖移動剤に対して0.1~0.4モル添加することができる。
【0048】
反応(R-1)では、例えば、1モルのPAOマクロ連鎖移動剤に対してmモルのLi塩(7)を反応させて1モルのLiポリマー塩(4)を得る。反応(R-1)では、反応温度は、40℃以上80℃以下であることが好ましい。反応時間は、8時間以上15時間以下であることが好ましい。
なお、反応(R-1)における出発化合物のPAOマクロ連鎖移動剤(6)およびLi塩(7)は、合成して準備してもよい。
【0049】
(イオン交換工程:反応(R-2))
イオン交換工程では、Liポリマー塩(4)をイオン交換反応させMgポリマー塩(5)を得る。Liポリマー塩(4)をMg塩の直鎖エーテル溶液(Mg電解液)に溶解させる。Mg塩としては、例えば、塩化マグネシウム(MgCl)、パーフルオロアルキルスルホニルイミドのMg塩(より具体的には、トリフルオロメチルスルホニルイミドのMg塩(マグネシウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド:Mg(TFSI)))およびこれらの混合物が挙げられる。Mg塩の濃度は、例えば、0.5~3M(moL/L)である。Mg溶液の体積は、Mgポリマー塩(5)の収率を向上させる観点から、LiをMg2+に置換するのに十分な体積であって、Liポリマー塩(4)を溶解させるのに必要な可能な限り小さい体積が好ましく、Liポリマー塩(4)を溶解させるのに必要な最小の体積がより好ましい。次いで、得られたLiポリマー塩(4)溶液に、直鎖エーテルを加え、Mgポリマー塩(5)を析出させる。なお、反応(R-2)は不活性ガス(例えば、アルゴン)雰囲気下で行うことができる。
【0050】
溶媒としての直鎖エーテルは、例えば、一般式(8):
【化9】
[一般式(8)中、R’およびR”は、各々独立に炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を示し、n’は1以上10以下の整数を示す]
で表される。
【0051】
一般式(8)で表される直鎖エーテルは、エチレンオキシ構造単位を有している。エチレンオキシ構造単位を有する直鎖エーテルでは、一般式(8)中、R’およびR”は、各々独立に炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基であってもよい。また、そのようなエチレンオキシ構造単位を有する直鎖エーテルでは、一般式(8)におけるn’が2以上4以下の整数となっていてよく、それゆえ、直鎖エーテルがエチレンオキシ構造単位を2以上4以下有するエーテルとなっていてよい。また、“エチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテルでは、一般式(8)において、R’およびR”が各々独立に炭素原子数1以上4以下の低級アルキル基となっていてよい。また、“エチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテル溶媒では、上記一般式において、R’およびR”とが互いに同じアルキル基となっていてよい。
【0052】
あくまでも1つの例示にすぎないが、“エチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテルは、エチレングリコールジメチルエーテル(ジメトキシエタン)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテルおよびポリエチレングリコールジメチルエーテルから成る群から選択される少なくとも1種でもあってよい。これらの中でもジメトキシエタンが好ましい。
【0053】
従来、Mgポリマー塩(5)を効率よく得ることができないという問題があった。例えば、Liポリマー塩(4)を単にMg塩溶液に溶解させ、溶媒を除去する方法では、Liを除去することが困難であり、目的とするMgポリマー塩(5)以外にLiポリマー塩(4)が含まれ、Mgポリマー塩(5)のみを析出回収できなかった。本発明者らは鋭意検討した結果、Liポリマー塩(4)の、グライム溶媒を含む電解液への溶解度が電解質濃度によって大きく変動することを見出した。本発明者らは、この技術的知見に基づいて、Liポリマー塩(4)の、グライム溶媒を含む電解液への溶解度を、電解液中の電解質濃度により比較的容易に調節できること(溶解度の電解質濃度依存性)を導き出した。併せて、発明者らは目的とするMgポリマー塩(5)も同様に溶解性の電解質濃度依存性を示すものと予測した。また、本発明者らは、金属イオンとアニオン性ポリマーとの静電的相互作用および溶媒和に基づき、Lに対してMg2+が選択的にイオン交換し配位することに着目し、上記電解質としてMg塩を用いることを導き出した。さらに、本発明者らは、Mg塩溶液中でMg2+がアニオン性ポリマーに配位した状態で、グライム溶媒を加えると、Mgポリマー塩(5)を効率的に析出できることを見出した。これらの技術的知見に基づいて本発明者らがさらに検討した結果、「Liポリマー塩(4)をMg塩のグライム溶液に溶解させ、次いでグライム溶媒を加えること」により、Liポリマー塩(4)の溶解およびMgポリマー塩(5)の析出をともに満足させて、効率よくMgポリマー塩(5)を得ることに想到した。
【0054】
これらの反応以外に必要な工程(例えば、加工工程および精製工程)をさらに含んでもよい。加工工程は、例えば、得られたポリマー塩(5)を加熱プレスしてシート状にして切断する等、得られたポリマー塩(5)を所定の形状に加工する。精製工程としては、例えば、公知の方法(より具体的には、濾過、クロマトグラフィー、透析又は晶析)が挙げられる。
【0055】
[本発明の電気化学デバイス]
次に本発明の電気化学デバイスを説明する。かかる電気化学デバイスは、負極および正極を備えており、当該負極としては、マグネシウム電極が設けられている。かかる電気化学デバイスは、その固体電解質が上述の固体電解質から少なくとも成ることを特徴としている。
【0056】
つまり、本発明の電気化学デバイスの固体電解質は、少なくともMgポリマー塩を含んで成り、かかるMgポリマー塩は、Mg2+と、アニオン性官能基および配位性官能基を有するアニオン性ポリマーとを含む。
【0057】
Mgポリマー塩は、例えば、一般式(1):
【化10】
[一般式(1)中、(A)はアニオン性官能基を有するブロックを示し、(B)は配位性官能基を有するブロックを示し、2つの(A)は互いに同一であっても異なってもよい]
で表されるトリブロック共重合体(ABA型トリブロック共重合体)であってもよい。
【0058】
一般式(1)中、(A)は一般式(2):
【化11】
[一般式(2)中、Afはアニオン性官能基を示し、mは3~40の整数を示し、pは1~10の整数を示す]
で表されるブロックであってもよい。
【0059】
一般式(2)中、Mgイオン導電性をさらに向上させる観点から、好ましくはpは3を示し、mは20~40を示す。
【0060】
一般式(2)中、アルキレン基-(CH-の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-へキシレン基、n-へプチレン基、n-オクチレン基、n-ノニレン基およびn-デシレン基が挙げられる。一般式(2)で表されるm個の繰り返し単位におけるm個のアルキレン基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。これらアルキレン基の中でも、Mgイオン導電性を向上させる観点から、n-プロピレン基が好ましい。
【0061】
アニオン性官能基の価数は、1価または多価(例えば、2価等)であってもよい。アニオン性官能基は、好ましくは1価のアニオン性官能基である。この場合、Mgイオン導電性がより向上する。特定の理論に拘束されるわけではないが、その理由は以下のように推測される。アニオン性官能基は固体電解質中でカウンターイオンであるMg2+との間に静電引力を作用させ、イオン結合を形成する。ここで、1価のアニオン性官能基は、2価以上の多価のアニオン性官能基に比べ、価数が小さいためMg2+との間に比較的弱いイオン結合を形成する。このため、1価のアニオン性官能基は、Mg2+との間に適度な強さのイオン結合を形成し、キャリアとしてのMg2+の束縛が抑制される。よって、Mg2+のイオン輸率が向上し、Mgイオン導電性がより向上すると考えられる。
【0062】
アニオン性官能基は、より好ましくは、パーフルオロアルキルスルホニルアミド基(C2k+1-SO-N-SO-基;ここで、kは1~10の整数を表す)および-SO 基が挙げられ、さらに好ましくはパーフルオロアルキルスルホニルアミド基であり、特に好ましくはトリフルオロメチルスルホニルアミド基(CF-SO-N-SO-基)である。一般式(2)で表されるm個の繰り返し単位におけるm個のアニオン性官能基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0063】
パーフルオロアルキルスルホニルアミド基および-SO 基は、負電荷の空間的な広がりが比較的大きい。このため、アニオン性官能基がパーフルオロアルキルスルホニルアミド基または-SO 基であると、アニオン性官能基がMg2+との間で適度な強さのイオン結合を形成し、Mg2+とアニオン性官能基との間の静電引力がMg2+をアニオン性官能基に強く束縛しない程度に適度に作用する。このように、アニオン性官能基によるMg2+の束縛が抑制されるため、Mg2+のイオン輸率が向上し、Mgイオン導電性がより向上すると考えられる。
【0064】
アニオン性ポリマーは、例えば一般式(2)で表すように、好ましくはアニオン性官能基を側鎖に有する。この場合、固体電解質のMgイオン伝導性がさらに高くなる。特定の理論に拘束されるわけではないが、その理由は以下のように推測される。アニオン性ポリマーの側鎖は主鎖に比べ運動の自由度が高く、例えば、固体電解質中で側鎖を揺らすようにして動く。アニオン性官能基とMg2+との間に静電引力が作用するため、アニオン性ポリマーの側鎖の動きに伴い、Mg2+も移動することができる。よって、アニオン性ポリマーがアニオン性官能基を側鎖に有すると、Mg2+のイオン輸率がさらに向上し、固体電解質のMgイオン伝導性がさらに高くなると考えられる。
【0065】
一般式(1)中、
(B)は、一般式(3):
【化12】
[一般式(3)中、nは150~850の整数を示し、qは1~10の整数を示す]
で表されるブロックであってもよい。
【0066】
一般式(3)中、Mgイオン導電性をさらに向上させる観点から、好ましくはqは2を示す。
【0067】
一般式(3)で表されるブロックは、複数のアルキレンオキシ構造単位が直鎖状に結合したポリ(アルキレンオキシド)である。ここで、「アルキレンオキシ構造単位」とは、アルキレン基と酸素原子とが結合した分子構造単位(-(CH-O-)(分子構造単位中のqは、一般式(3)中のqと同義である)のことを指す。
【0068】
一般式(3)で表されるポリ(アルキレンオキシド)としては、例えば、炭素原子数1~10のポリ(アルキレンオキシド)である。ポリ(アルキレンオキシド)の具体例としては、ポリ(メチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(n-プロピレンオキシド)、ポリ(n-ブチレンオキシド)、ポリ(n-ペンチレンオキシド)、ポリ(n-へキシレンオキシド)、ポリ(n-へプチレンオキシド)、ポリ(n-オクチレンオキシド)、ポリ(n-ノニレンオキシド)およびポリ(n-デシレンオキシド)が挙げられる。これらポリ(アルキレンオキシド)の中でも、Mgイオン導電性をさらに向上させる観点から、ポリ(エチレンオキシド)が好ましい。
【0069】
一般式(3)で表されるブロックが有する複数のアルキレンオキシド構造単位は、例えば、炭素原子数1~10の複数のアルキレンオキシド構造単位である。この構造単位におけるアルキレンオキシの具体例としては、メチレンオキシ、エチレンオキシ、n-プロピレンオキシ、n-ブチレンオキシ、n-ペンチレンオキシ、n-へキシレンオキシ、n-へプチレンオキシ、n-オクチレンオキシ、n-ノニレンオキシおよびn-デシレンオキシである。これらアルキレンオキシの中でも、Mgイオン導電性をさらに向上させる観点から、エチレンオキシが好ましい。
【0070】
アニオン性ポリマーは、例えば一般式(3)で表すように、好ましくは主鎖に配位性官能基を有する。この場合、Mgイオン導電性がより向上する。特定の理論に拘束されるわけではないが、その理由は以下のように推測される。配位性官能基は比較的柔軟な構造を有するため、アニオン性ポリマーが主鎖に配位性官能基を有すると、アニオン性ポリマーの運動の自由度が高くなる。アニオン性官能基とMg2+との間に静電引力が作用するため、アニオン性ポリマーの主鎖の動きに伴い、Mg2+も移動することができる。よって、アニオン性ポリマーが主鎖に配位性官能基を有すると、Mg2+のイオン輸率が向上し、Mgイオン導電性がより向上すると考えられる。
【0071】
配位性官能基は、例えば一般式(3)で表すように、好ましくはポリ(アルキレンオキシド)であり、より好ましくはポリ(エチレンオキシド)(一般式(3)中、qが2を示す場合のポリアルキレンオキシド)である。この場合、Mgイオン導電性がより向上する。特定の理論に拘束されるわけではないが、その理由は以下のように推測される。ポリ(エチレンオキシド)は比較的柔軟な構造を有するため、アニオン性ポリマーが配位性官能基としてポリ(エチレンオキシド)を有すると、アニオン性ポリマーの運動の自由度が高くなる。さらに、ポリアルキレンオキシドの酸素原子の非共有電子対がMg2+に配位しやすくなるため、固体電解質中でのMg2+の分散性がさらに向上する。これにより、Mg2+のイオン輸率が向上し、Mgイオン導電性がより向上すると考えられる。
【0072】
一般式(1)で表されるMgポリマー塩は、例えば、一般式(5):
【化13】
[一般式(5)中、Afはアニオン性官能基を示し、Tは末端基を示し、mは3~40の整数を示し、nは150~850の整数を示し、pおよびqは1~10の整数を示し、pおよびqは互いに同一であっても異なってもよい]
で表されるMgポリマー塩であってもよい(以下、一般式(5)で表されるMgポリマー塩を「Mgポリマー塩(5)」とも称する)。
なお、一般式(5)中のm、pおよびAf、ならびにnおよびqは、それぞれ一般式(2)中のm、pおよびAf、ならびに一般式(3)中のnおよびqと同義である。また、一般式(5)中のTとしては、例えば、CC(=S)S-が挙げられる。また、一般式(5)中のAfは1価のアニオン性官能基を示す。
【0073】
Mgポリマー塩の数平均分子量Mnは、例えば、12,000~60,000である。Mgポリマー塩の数平均分子量の測定方法は実施例にて詳細に説明する。
【0074】
Mgポリマー塩(5)としては、例えば、一般式(5-2):
【化14】
[一般式(5-2)中、mは3~40の整数を示し、nは150~850の整数を示す]
で表されるMgポリマー塩(以下、「Mgポリマー塩(5-2)」とも称する)が挙げられる。
【0075】
固体電解質は、Mgポリマー塩から成ってもよい。
【0076】
本発明の電気化学デバイスでは、正極が、硫黄を少なくとも含んで成る硫黄電極であることが好ましい。つまり、本発明の電気化学デバイスの硫黄電極は、S8および/またはポリマー状の硫黄といった硫黄(S)の正極電極として構成することが好ましい。負極はマグネシウム電極ゆえ、本発明の電気化学デバイスは、マグネシウム電極-硫黄電極の対を備えた電気化学デバイとなり、それに好適な固体電解質を有するので、かかる正極に所望のサイクル特性をもたらしつつも、負極のクーロン効率の向上を図ることができる。
【0077】
硫黄電極は、少なくとも硫黄を含んで成る電極であるところ、その他に導電助剤および/または結着剤などが含まれていてよい。かかる場合、硫黄電極における硫黄の含有量は、当該電極の全体基準で5質量%以上95質量%以下、好ましくは70質量%以上90質量%以下となっていてよい。
【0078】
例えば、正極として用いられる硫黄電極に含まれる導電助剤としては、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料を挙げることができ、これらの1種類又が2種類以上を混合して用いることができる。炭素繊維としては、例えば、気相成長炭素繊維(Vapor Growth Carbon Fiber:VGCF(登録商標))等を用いることができる。カーボンブラックとして、例えば、アセチレンブラックおよび/またはケッチェンブラック等を用いることができる。カーボンナノチューブとして、例えば、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)および/またはダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)等のマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)等を用いることができる。導電性が良好な材料であれば、炭素材料以外の材料を用いることもでき、例えば、Ni粉末のような金属材料、および/または導電性高分子材料等を用いることもできる。また、正極として用いられる硫黄電極に含まれる結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)および/もしくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ならびに/またはスチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)系樹脂等の高分子樹脂を挙げることができる。また、結着剤としては導電性高分子を用いてもよい。導電性高分子として、例えば、置換又は無置換のポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、および、これらから選ばれた1種類又は2種類から成る(共)重合体等を用いることができる。
【0079】
一方、本発明の電気化学デバイスにおいて、負極を構成する材料(具体的には、負極活物質)は、“マグネシウム電極”ゆえ、マグネシウム金属単体、マグネシウム合金あるいはマグネシウム化合物から成っている。負極がマグネシウムの金属単体物(例えばマグネシウム板など)から成る場合、その金属単体物のMg純度は90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上となっている。負極は、例えば、板状材料あるいは箔状材料から作製することができるが、これに限定するものではなく、粉末を用いて形成(賦形)することも可能である。
【0080】
負極は、その表面近傍に負極活物質層が形成された構造とすることもできる。例えば、負極活物質層として、マグネシウム(Mg)を含み、更に、炭素(C)、酸素(O)、硫黄(S)およびハロゲンのいずれかを少なくとも含む、マグネシウムイオン伝導性を有する層を有するような負極であってもよい。このような負極活物質層は、あくまでも例示の範疇にすぎないが、40eV以上60eV以下の範囲にマグネシウム由来の単一のピークを有するものであってよい。ハロゲンとして、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)から成る群より選ばれた少なくとも1種類を挙げることができる。かかる場合、負極活物質層の表面から2×10-7mまでの深さに亙り、40eV以上60eV以下の範囲にマグネシウム由来の単一のピークを有していてよい。負極活物質層が、その表面から内部に亙り、良好な電気化学的活性を示すからである。また、同様の理由から、マグネシウムの酸化状態が、負極活物質層の表面から深さ方向に2×10-7nmに亙りほぼ一定であってもよい。ここで、負極活物質層の表面とは、負極活物質層の両面の内、電極の表面を構成する側の面を意味し、裏面とは、この表面とは反対側の面、即ち、集電体と負極活物質層の界面を構成する側の面を意味する。負極活物質層が上記の元素を含んでいるか否かはXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)法に基づき確認することができる。また、負極活物質層が上記ピークを有すること、および、マグネシウムの酸化状態を有することも、XPS法に基づき、同様に確認することができる。
【0081】
本発明の電気化学デバイスにおいて、正極と負極とは、両極の接触による短絡を防止しつつ、マグネシウムイオンを通過させる無機セパレータあるいは有機セパレータによって分離されていることが好ましい。無機セパレータとしては、例えば、ガラスフィルター、グラスファイバーを挙げることができる。有機セパレータとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンおよび/またはポリエチレン等から成る合成樹脂製の多孔質膜を挙げることができ、これらの2種類以上の多孔質膜を積層した構造とすることもできる。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は短絡防止効果に優れ、且つ、シャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。
【0082】
上述したマグネシウム電極系の電気化学デバイスは、二次電池として構成することができ、その場合の概念図を図1に示す。図示するように、充電時、マグネシウムイオン(Mg2+)が正極10から電解質層12を通って負極11に移動することにより電気エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄電する。放電時には、負極11から電解質層12を通って正極10にマグネシウムイオンが戻ることにより電気エネルギーを発生させる。
【0083】
電気化学デバイスを、上述の本発明の固体電解質(以下、単に「電解質」とも称する)から構成された電池(一次電池あるいは二次電池)とするとき、かかる電池は、例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA(携帯情報端末)、携帯電話、スマートフォン、コードレス電話の親機・子機、ビデオムービー、デジタルスチルカメラ、電子書籍、電子辞書、携帯音楽プレイヤー、ラジオ、ヘッドホン、ゲーム機、ナビゲーションシステム、メモリカード、心臓ペースメーカー、補聴器、電動工具、電気シェーバ、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、ステレオ、温水器、電子レンジ、食器洗浄器、洗濯機、乾燥機、照明機器、玩具、医療機器、ロボット、ロードコンディショナー、信号機、鉄道車両、ゴルフカート、電動カート、および/または電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)等の駆動用電源又は補助用電源として使用することができる。また、住宅をはじめとする建築物又は発電設備用の電力貯蔵用電源等として搭載し、あるいは、これらに電力を供給するために使用することができる。電気自動車において、電力を供給することにより電力を駆動力に変換する変換装置は、一般的にはモータである。車両制御に関する情報処理を行う制御装置(制御部)としては、電池の残量に関する情報に基づき、電池残量表示を行う制御装置等が含まれる。また、電池を、所謂スマートグリッドにおける蓄電装置において用いることもできる。このような蓄電装置は、電力を供給するだけでなく、他の電力源から電力の供給を受けることにより蓄電することができる。この他の電力源としては、例えば、火力発電、原子力発電、水力発電、太陽電池、風力発電、地熱発電、および/または燃料電池(バイオ燃料電池を含む)等を用いることができる。
【0084】
二次電池、二次電池に関する制御を行う制御手段(または制御部)、および、二次電池を内包する外装を有する電池パックにおいて本発明の電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することができる。かかる電池パックにおいて、制御手段は、例えば、二次電池に関する充放電、過放電又は過充電の制御を行う。
【0085】
二次電池から電力の供給を受ける電子機器に本発明の電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することもできる。
【0086】
二次電池から電力の供給を受けて車両の駆動力に変換する変換装置、および、二次電池に関する情報に基づいて車両制御に関する情報処理を行う制御装置(または制御部)を有する電動車両に本発明の電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することもできる。かかる電動車両において、変換装置は、典型的には、二次電池から電力の供給を受けてモータを駆動させ、駆動力を発生させる。モータの駆動には、回生エネルギーを利用することもできる。また、制御装置(または制御部)は、例えば、二次電池の電池残量に基づいて車両制御に関する情報処理を行う。このような電動車両には、例えば、電気自動車、電動バイク、電動自転車、および鉄道車両等の他、所謂ハイブリッド車が含まれる。
【0087】
二次電池から電力の供給を受け、および/または、電力源から二次電池に電力を供給するように構成された電力システムにおける二次電池に本発明の電気化学デバイスを適用することができる。このような電力システムは、およそ電力を使用するものである限り、どのような電力システムであってもよく、単なる電力装置も含む。かかる電力システムは、例えば、スマートグリッド、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)、および/または車両等を含み、蓄電も可能である。
【0088】
二次電池を有し、電力が供給される電子機器が接続されるように構成された電力貯蔵用電源において本発明の電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することができる。かかる電力貯蔵用電源の用途は問わず、基本的にはどのような電力システム又は電力装置にも用いることができるが、例えば、スマートグリッドに用いることができる。
【0089】
本発明の電気化学デバイスのより詳細な事項、更なる具体的な態様などその他の事項は、上述の本発明の電気化学デバイスのための固体電解質]で説明しているので、重複を避けるために説明を省略する。
【0090】
ここで、本発明のマグネシウム電極系の電気化学デバイスが、二次電池として供される場合について更に詳述しておく。以下では、かかる二次電池を「マグネシウム二次電池」とも称する。
【0091】
本発明の電気化学デバイスとしてのマグネシウム二次電池は、それを駆動用・作動用の電源又は電力蓄積用の電力貯蔵源として利用可能な機械、機器、器具、装置、システム(複数の機器等の集合体)に対して、特に限定されることなく、適用することができる。電源として使用されるマグネシウム二次電池(例えば、マグネシウム-硫黄二次電池)は、主電源(優先的に使用される電源)であってもよいし、補助電源(主電源に代えて、又は、主電源から切り換えて使用される電源)であってもよい。マグネシウム二次電池を補助電源として使用する場合、主電源はマグネシウム二次電池に限られない。
【0092】
マグネシウム二次電池(特に、マグネシウム-硫黄二次電池)の用途として、具体的には、ビデオカメラ、カムコーダ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、パーソナルコンピュータ、テレビジョン受像機、各種表示装置、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、音楽プレーヤー、携帯用ラジオ、電子ブック、および/または電子新聞等の電子ペーパー、PDAを含む携帯情報端末といった各種電子機器、電気機器(携帯用電子機器を含む);玩具;電気シェーバ等の携帯用生活器具;室内灯等の照明器具;ペースメーカーおよび/または補聴器等の医療用電子機器;メモリーカード等の記憶用装置;着脱可能な電源としてパーソナルコンピュータ等に用いられる電池パック;電動ドリルおよび/または電動鋸等の電動工具;非常時等に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステム等の電力貯蔵システム、ホームエネルギーサーバー(家庭用蓄電装置)、電力供給システム;蓄電ユニットおよび/またはバックアップ電源;電動自動車、電動バイク、電動自転車、および/またはセグウェイ(登録商標)等の電動車両;航空機および/または船舶の電力駆動力変換装置(具体的には、例えば、動力用モータ)の駆動を例示することができるが、これらの用途に限定するものではない。
【0093】
そのなかでも、マグネシウム二次電池(特にマグネシウム-硫黄二次電池)は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電力供給システム、電動工具、電子機器、および/または電気機器等に適用されることが有効である。電池パックは、マグネシウム二次電池を用いた電源であり、所謂組電池等である。電動車両は、マグネシウム二次電池を駆動用電源として作動(例えば走行)する車両であり、二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(例えばハイブリッド自動車等)であってもよい。電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)は、マグネシウム二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)では、電力貯蔵源であるマグネシウム二次電池に電力が蓄積されているため、電力を利用して家庭用の電気製品等が使用可能となる。電動工具は、マグネシウム二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリル等)が可動する工具である。電子機器および電気機器は、マグネシウム二次電池を作動用の電源(すなわち、電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
【0094】
以下、円筒型のマグネシウム二次電池および平板型のラミネートフィルム型のマグネシウム二次電池について説明する。
【0095】
円筒型のマグネシウム二次電池100の模式的な断面図を図2に示す。マグネシウム二次電池100にあっては、ほぼ中空円柱状の電極構造体収納部材111の内部に、電極構造体121および一対の絶縁板112,113が収納されている。電極構造体121は、例えば、セパレータ126を介して正極122と負極124とを積層して電極構造体を得た後、電極構造体を捲回することで作製することができる。電極構造体収納部材(例えば電池缶)111は、一端部が閉鎖され、他端部が開放された中空構造を有しており、鉄(Fe)および/またはアルミニウム(Al)等から作製されている。一対の絶縁板112,113は、電極構造体121を挟むと共に、電極構造体121の捲回周面に対して垂直に延在するように配置されている。電極構造体収納部材111の開放端部には、電池蓋114、安全弁機構115および熱感抵抗素子(例えばPTC素子、Positive Temperature Coefficient 素子)116がガスケット117を介してかしめられており、これによって、電極構造体収納部材111は密閉されている。電池蓋114は、例えば、電極構造体収納部材111と同様の材料から作製されている。安全弁機構115および熱感抵抗素子116は、電池蓋114の内側に設けられており、安全弁機構115は、熱感抵抗素子116を介して電池蓋114と電気的に接続されている。安全弁機構115にあっては、内部短絡および/または外部からの加熱等に起因して内圧が一定以上になると、ディスク板115Aが反転する。これによって、電池蓋114と電極構造体121との電気的接続が切断される。大電流に起因する異常発熱を防止するために、熱感抵抗素子116の抵抗は温度の上昇に応じて増加する。ガスケット117は、例えば、絶縁性材料から作製されている。ガスケット117の表面にはアスファルト等が塗布されていてもよい。
【0096】
電極構造体121の捲回中心には、センターピン118が挿入されている。但し、センターピン118は、捲回中心に挿入されていなくてもよい。正極122には、アルミニウム等の導電性材料から作製された正極リード部123が接続されている。具体的には、正極リード部123は正極集電体に取り付けられている。負極124には、銅等の導電性材料から作製された負極リード部125が接続されている。具体的には、負極リード部125は負極集電体に取り付けられている。負極リード部125は、電極構造体収納部材111に溶接されており、電極構造体収納部材111と電気的に接続されている。正極リード部123は、安全弁機構115に溶接されていると共に、電池蓋114と電気的に接続されている。尚、図2に示した例では、負極リード部125は1箇所(捲回された電極構造体の最外周部)であるが、2箇所(捲回された電極構造体の最外周部および最内周部)に設けられている場合もある。
【0097】
電極構造体121は、正極集電体上に(より具体的には、正極集電体の両面に)正極活物質層が形成された正極122と、負極集電体上に(より具体的には、負極集電体の両面に)負極活物質層が形成された負極124とが、セパレータ126を介して積層されて成る。正極リード部123を取り付ける正極集電体の領域には、正極活物質層は形成されていないし、負極リード部125を取り付ける負極集電体の領域には、負極活物質層は形成されていない。
【0098】
マグネシウム二次電池100は、例えば、以下の手順に基づき製造することができる。
【0099】
まず、正極集電体の両面に正極活物質層を形成し、負極集電体の両面に負極活物質層を形成する。
【0100】
次いで、溶接法等を用いて、正極集電体に正極リード部123を取り付ける。また、溶接法等を用いて、負極集電体に負極リード部125を取り付ける。次に、微多孔性ポリエチレンフィルムから成るセパレータ126を介して正極122と負極124とを積層し、捲回して、(より具体的には、正極122/セパレータ126/負極124/セパレータ126の電極構造体(すなわち、積層構造体)を捲回して)、電極構造体121を作製した後、最外周部に保護テープ(図示せず)を貼り付ける。その後、電極構造体121の中心にセンターピン118を挿入する。次いで、一対の絶縁板112,113で電極構造体121を挟みながら、電極構造体121を電極構造体収納部材111の内部に収納する。この場合、溶接法等を用いて、正極リード部123の先端部を安全弁機構115に取り付けると共に、負極リード部125の先端部を電極構造体収納部材111に取り付ける。その後、減圧方式に基づき電解質を注入して、電解質をセパレータ126に含浸させる。次いで、ガスケット117を介して電極構造体収納部材111の開口端部に電池蓋114、安全弁機構115および熱感抵抗素子116をかしめる。
【0101】
次に、平板型のラミネートフィルム型の二次電池について説明する。かかる二次電池の模式的な分解斜視図を図3に示す。この二次電池にあっては、ラミネートフィルムから成る外装部材200の内部に、基本的に前述したと同様の電極構造体221が収納されている。電極構造体221は、セパレータおよび電解質層を介して正極と負極とを積層した後、この積層構造体を捲回することで作製することができる。正極には正極リード部223が取り付けられており、負極には負極リード部225が取り付けられている。電極構造体221の最外周部は、保護テープによって保護されている。正極リード部223および負極リード部225は、外装部材200の内部から外部に向かって同一方向に突出している。正極リード部223は、アルミニウム等の導電性材料から形成されている。負極リード部225は、銅、ニッケル、および/またはステンレス鋼等の導電性材料から形成されている。
【0102】
外装部材200は、図3に示す矢印Rの方向に折り畳み可能な1枚のフィルムであり、外装部材200の一部には、電極構造体221を収納するための窪み(例えばエンボス)が設けられている。外装部材200は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。二次電池の製造工程では、融着層同士が電極構造体221を介して対向するように外装部材200を折り畳んだ後、融着層の外周縁部同士を融着する。但し、外装部材200は、2枚の別個のラミネートフィルムが接着剤等を介して貼り合わされたものでもよい。融着層は、例えば、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレン等のフィルムから成る。金属層は、例えば、アルミニウム箔等から成る。表面保護層は、例えば、ナイロンおよび/またはポリエチレンテレフタレート等から成る。中でも、外装部材200は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。但し、外装部材200は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレン等の高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。具体的には、ナイロンフィルムと、アルミニウム箔と、無延伸ポリプロピレンフィルムとが外側からこの順に積層された耐湿性のアルミラミネートフィルムから成っていてよい。
【0103】
外気の侵入を防止するために、外装部材200と正極リード部223との間、および、外装部材200と負極リード部225との間には、密着フィルム201が挿入されている。密着フィルム201は、正極リード部223および負極リード部225に対して密着性を有する材料、例えば、ポリオレフィン樹脂等から成っていてよく、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂から成っていてよい。
【0104】
上述では、二次電池を主に念頭にした説明であったが、本開示事項は他の電気化学デバイス、例えば、キャパシタ、空気電池および燃料電池などについても同様に当てはまる。以下それについて説明する。
【0105】
本発明の電気化学デバイスは、模式的な断面図を図4に示すように、キャパシタとして供すことができる。キャパシタでは、電解質を含むセパレータ33を介して、正極31および負極32が対向して配置されている。参照番号35,36は集電体を示し、参照番号37はガスケットを示す。
【0106】
あるいは、本発明の電気化学デバイスは、図5の概念図に示すように、空気電池として供すこともできる。かかる空気電池は、例えば、水蒸気を透過し難く酸素を選択的に透過させる酸素選択性透過膜47、導電性の多孔質材料から成る空気極側集電体44、この空気極側集電体44と多孔質正極41の間に配置され導電性材料から成る多孔質の拡散層46、導電性材料と触媒材料を含む多孔質正極41、水蒸気を通過し難いセパレータおよび固体電解質(又は、固体電解質を含む固体電解質)43、マグネシウムイオンを放出する負極42、負極側集電体45、および、これらの各層が収納される外装体48から構成されている。
【0107】
酸素選択性透過膜47によって空気(例えば大気)51中の酸素52が選択的に透過され、多孔質材料から成る空気極側集電体44を通過し、拡散層46によって拡散され、多孔質正極41に供給される。酸素選択性透過膜47を透過した酸素の進行は空気極側集電体44によって部分的に遮蔽されるが、空気極側集電体44を通過した酸素は拡散層46によって拡散され、広がるので、多孔質正極41全体に効率的に行き渡るようになり、多孔質正極41の面全体への酸素の供給が空気極側集電体44によって阻害されることがない。また、酸素選択性透過膜47によって水蒸気の透過が抑制されるので、空気中の水分の影響による劣化が少なく、酸素が多孔質正極41全体に効率的に供給されるので、電池出力を高くすることが可能となり、安定して長期間使用可能となる。
【0108】
なお、電気化学デバイスにおける負極についていえば、Mg金属板を用いることができるほか、以下の手法で製造することもできる。例えば、MgCl2とEnPS(エチル-n-プロピルスルホン)とを含むMg固体電解質(Mg-EnPS)を準備し、このMg固体電解質を用いて、電解メッキ法に基づきCu箔上にMg金属を析出させて、負極活物質層としてMgメッキ層をCu箔上に形成してよい。ちなみに、かかる手法で得られたMgメッキ層の表面をXPS法に基づき分析した結果、Mgメッキ層の表面にMg、C、O、SおよびClが存在することが明らかになり、また、表面分析で観察されたMg由来のピークは分裂しておらず、40eV以上60eV以下の範囲にMg由来の単一のピークが観察された。更には、Arスパッタ法に基づき、Mgメッキ層の表面を深さ方向に約200nm掘り進め、その表面をXPS法に基づき分析した結果、Arスパッタ後におけるMg由来のピークの位置および形状は、Arスパッタ前におけるピークの位置および形状と比べて変化がないことが分かった。
【0109】
本発明の電気化学デバイスは、図1図3を参照して説明したようにマグネシウム二次電池として特に用いることができるが、かかるマグネシウム二次電池の幾つかの適用例についてより具体的に説明しておく。尚、以下で説明する各適用例の構成は、あくまで一例であり、構成は適宜変更可能である。
【0110】
マグネシウム二次電池は電池パックの形態で用いることができる。かかる電池パックは、マグネシウム二次電池を用いた簡易型の電池パック(所謂ソフトパック)であり、例えば、スマートフォンに代表される電子機器等に搭載される。それに代えて又はそれに加えて、2並列3直列となるように接続された6つのマグネシウム二次電池から構成された組電池を備えていてよい。尚、マグネシウム二次電池の接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。
【0111】
本発明のマグネシウム二次電池を電池パックに適用した場合の回路構成例を表すブロック図を図6に示す。電池パックは、セル(例えば組電池)1001、外装部材、スイッチ部1021、電流検出抵抗器1014、温度検出素子1016および制御部1010を備えている。スイッチ部1021は、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を備えている。また、電池パックは、正極端子1031および負極端子1032を備えており、充電時には正極端子1031および負極端子1032は、それぞれ、充電器の正極端子および負極端子に接続され、充電が行われる。また、電子機器使用時には、正極端子1031および負極端子1032は、それぞれ、電子機器の正極端子および負極端子に接続され、放電が行われる。
【0112】
セル1001は、複数の本開示におけるマグネシウム二次電池1002が直列および/または並列に接続されることで、構成される。尚、図6では、6つのマグネシウム二次電池1002が、2並列3直列(2P3S)に接続された場合を示しているが、その他、p並列q直列(但し、p,qは整数)のように、どのような接続方法であってもよい。
【0113】
スイッチ部1021は、充電制御スイッチ1022およびダイオード1023、並びに、放電制御スイッチ1024およびダイオード1025を備えており、制御部1010によって制御される。ダイオード1023は、正極端子1031からセル1001の方向に流れる充電電流に対して逆方向、負極端子1032からセル1001の方向に流れる放電電流に対して順方向の極性を有する。ダイオード1025は、充電電流に対して順方向、放電電流に対して逆方向の極性を有する。尚、例ではプラス(+)側にスイッチ部を設けているが、マイナス(-)側に設けてもよい。充電制御スイッチ1022は、電池電圧が過充電検出電圧となった場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に充電電流が流れないように制御部1010によって制御される。充電制御スイッチ1022が閉状態となった後には、ダイオード1023を介することによって放電のみが可能となる。また、充電時に大電流が流れた場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に流れる充電電流を遮断するように、制御部1010によって制御される。放電制御スイッチ1024は、電池電圧が過放電検出電圧となった場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に放電電流が流れないように制御部1010によって制御される。放電制御スイッチ1024が閉状態となった後には、ダイオード1025を介することによって充電のみが可能となる。また、放電時に大電流が流れた場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に流れる放電電流を遮断するように、制御部1010によって制御される。
【0114】
温度検出素子1016は例えばサーミスタから成り、セル1001の近傍に設けられ、温度測定部1015は、温度検出素子1016を用いてセル1001の温度を測定し、測定結果を制御部1010に送出する。電圧測定部1012は、セル1001の電圧、およびセル1001を構成する各マグネシウム二次電池1002の電圧を測定し、測定結果をA/D変換して、制御部1010に送出する。電流測定部1013は、電流検出抵抗器1014を用いて電流を測定し、測定結果を制御部1010に送出する。
【0115】
スイッチ制御部1020は、電圧測定部1012および電流測定部1013から送られてきた電圧および電流を基に、スイッチ部1021の充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を制御する。スイッチ制御部1020は、マグネシウム二次電池1002のいずれかの電圧が過充電検出電圧若しくは過放電検出電圧以下になったとき、および/または、大電流が急激に流れたときに、スイッチ部1021に制御信号を送ることにより、過充電および過放電、過電流充放電を防止する。充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024は、例えばMOSFET等の半導体スイッチから構成することができる。この場合、MOSFETの寄生ダイオードによってダイオード1023,1025が構成される。MOSFETとして、pチャネル型FETを用いる場合、スイッチ制御部1020は、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024のそれぞれのゲート部に、制御信号DOおよび制御信号COを供給する。充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024は、ソース電位より所定値以上低いゲート電位によって導通する。即ち、通常の充電および放電動作では、制御信号COおよび制御信号DOをローレベルとし、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を導通状態とする。そして、例えば過充電若しくは過放電の際には、制御信号COおよび制御信号DOをハイレベルとし、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を閉状態とする。
【0116】
メモリ1011は、例えば、不揮発性メモリであるEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)等から成る。メモリ1011には、制御部1010で演算された数値および/または製造工程の段階で測定された各マグネシウム二次電池1002の初期状態におけるマグネシウム二次電池の内部抵抗値等が予め記憶されており、また、適宜、書き換えが可能である。また、マグネシウム二次電池1002の満充電容量を記憶させておくことで、制御部1010と共に例えば残容量を算出することができる。
【0117】
温度測定部1015では、温度検出素子1016を用いて温度を測定し、異常発熱時に充放電制御を行い、また、残容量の算出における補正を行う。
【0118】
次に、マグネシウム二次電池の電動車両への適用について説明する。電動車両の一例であるハイブリッド自動車といった電動車両の構成を表すブロック図を図7Aに示す。電動車両は、例えば、金属製の筐体2000の内部に、制御部2001、各種センサ2002、電源2003、エンジン2010、発電機2011、インバータ2012,2013、駆動用のモータ2014、差動装置2015、トランスミッション2016およびクラッチ2017を備えている。その他、電動車両は、例えば、差動装置2015および/またはトランスミッション2016に接続された前輪駆動軸2021、前輪2022、後輪駆動軸2023、および後輪2024を備えている。
【0119】
電動車両は、例えば、エンジン2010又はモータ2014のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン2010は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジン等である。エンジン2010を動力源とする場合、エンジン2010の駆動力(例えば回転力)は、例えば、駆動部である差動装置2015、トランスミッション2016およびクラッチ2017を介して前輪2022又は後輪2024に伝達される。エンジン2010の回転力は発電機2011にも伝達され、回転力を利用して発電機2011が交流電力を発生させ、交流電力はインバータ2013を介して直流電力に変換され、電源2003に蓄積される。一方、変換部であるモータ2014を動力源とする場合、電源2003から供給された電力(例えば直流電力)がインバータ2012を介して交流電力に変換され、交流電力を利用してモータ2014を駆動する。モータ2014によって電力から変換された駆動力(例えば回転力)は、例えば、駆動部である差動装置2015、トランスミッション2016およびクラッチ2017を介して前輪2022又は後輪2024に伝達される。
【0120】
制動機構(図示せず)を介して電動車両が減速すると、減速時の抵抗力がモータ2014に回転力として伝達され、その回転力を利用してモータ2014が交流電力を発生させるようにしてもよい。交流電力はインバータ2012を介して直流電力に変換され、直流回生電力は電源2003に蓄積される。
【0121】
制御部2001は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源2003は、本発明に従った1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。電源2003は、外部電源と接続され、外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積する構成とすることもできる。各種センサ2002は、例えば、エンジン2010の回転数を制御すると共に、スロットルバルブ(図示せず)の開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。各種センサ2002は、例えば、速度センサ、加速度センサ、および/またはエンジン回転数センサ等を備えている。
【0122】
尚、電動車両がハイブリッド自動車である場合について説明したが、電動車両は、エンジン2010を用いずに電源2003およびモータ2014だけを用いて作動する車両(例えば電気自動車)でもよい。
【0123】
次に、マグネシウム二次電池の電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)への適用について説明する。電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)の構成を表すブロック図を図7Bに示す。電力貯蔵システムは、例えば、一般住宅および商業用ビル等の家屋3000の内部に、制御部3001、電源3002、スマートメータ3003、および、パワーハブ3004を備えている。
【0124】
電源3002は、例えば、家屋3000の内部に設置された電気機器(例えば電子機器)3010に接続されていると共に、家屋3000の外部に停車している電動車両3011に接続可能である。また、電源3002は、例えば、家屋3000に設置された自家発電機3021にパワーハブ3004を介して接続されていると共に、スマートメータ3003およびパワーハブ3004を介して外部の集中型電力系統3022に接続可能である。電気機器(例えば電子機器)3010は、例えば、1又は2以上の家電製品を含んでいる。家電製品として、例えば、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機および/または給湯器等を挙げることができる。自家発電機3021は、例えば、太陽光発電機および/または風力発電機等から構成されている。電動車両3011として、例えば、電動自動車、ハイブリッド自動車、電動オートバイ、電動自転車、および/またはセグウェイ(登録商標)等を挙げることができる。集中型電力系統3022として、商用電源、発電装置、送電網、および/またはスマートグリッド(例えば次世代送電網)を挙げることができるし、また、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所、および/または風力発電所等を挙げることもできるし、集中型電力系統3022に備えられた発電装置として、種々の太陽電池、燃料電池、風力発電装置、および/またはマイクロ水力発電装置、地熱発電装置等を例示することができるが、これらに限定するものではない。
【0125】
制御部3001は、電力貯蔵システム全体の動作(電源3002の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源3002は、本発明にしたがった1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。スマートメータ3003は、例えば、電力需要側の家屋3000に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能である。そして、スマートメータ3003は、例えば、外部と通信しながら、家屋3000における需要・供給のバランスを制御することで、効率的で安定したエネルギー供給が可能となる。
【0126】
かかる電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統3022からスマートメータ3003およびパワーハブ3004を介して電源3002に電力が蓄積されると共に、独立電源である自家発電機3021からパワーハブ3004を介して電源3002に電力が蓄積される。電源3002に蓄積された電力は、制御部3001の指示に応じて電気機器(例えば電子機器)3010および電動車両3011に供給されるため、電気機器(例えば電子機器)3010の作動が可能になると共に、電動車両3011が充電可能になる。即ち、電力貯蔵システムは、電源3002を用いて、家屋3000内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
【0127】
電源3002に蓄積された電力は、任意に利用可能である。そのため、例えば、電気料金が安価な深夜に集中型電力系統3022から電源3002に電力を蓄積しておき、電源3002に蓄積しておいた電力を電気料金が高い日中に用いることができる。
【0128】
以上に説明した電力貯蔵システムは、1戸(例えば1世帯)毎に設置されていてもよいし、複数戸(例えば複数世帯)毎に設置されていてもよい。
【0129】
次に、マグネシウム二次電池の電動工具への適用について説明する。電動工具の構成を表すブロック図を図7Cに示す。電動工具は、例えば、電動ドリルであり、プラスチック材料等から作製された工具本体4000の内部に、制御部4001および電源4002を備えている。工具本体4000には、例えば、可動部であるドリル部4003が回動可能に取り付けられている。制御部4001は、電動工具全体の動作(電源4002の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源4002は、本発明に従った1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。制御部4001は、動作スイッチ(図示せず)の操作に応じて、電源4002からドリル部4003に電力を供給する。
【0130】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【0131】
例えば、上述した固体電解質の組成、製造に用いた原材料、製造方法、製造条件、固体電解質の特性、電気化学デバイス、電池の構成または構造は例示であり、これらに限定するものではなく、また、適宜、変更することができる。
【実施例
【0132】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0133】
[実施例]
[1.Mgポリマー塩の合成]
Mgポリマー塩(5-2)を合成した。
【0134】
Mgポリマー塩(5-2)の合成では、以下の試薬を使用した。
・塩化マグネシウム(MgCl)(無水物):シグマアルドリッチ製
・マグネシウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(Mg(TFSI)):富山薬品工業製
・ジメトキシエタン(DME):富山薬品工業製
・3-(メタクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸カリウム:シグマアルドリッチ製,98%
・無水テトラヒドロフラン(無水THF) :シグマアルドリッチ製,無水,インヒビターフリー,≧99.9%
・塩化チオニル(SOCl):ナカライテスク,特級,>99%
・無水ジメチルホルムアミド(無水DMF):シグマアルドリッチ製,無水,99.8%
・ジクロロメタン(DCM):ナカライテスク製,JIS試薬特級,≧99.5%(GC)
・無水硫酸マグネシウム(無水MgSO):ナカライテスク製,ナカライ規格1級,≧99.0%(強熱後)
・トリフルオロメタンスルホンアミド (CFSONH):東京化成工業製,>98.0%(T)
・無水トリエチルアミン:シグマアルドリッチ製,≧99.5%,≦0.1%(カール・フィッシャー)
・4-メトキシフェノール:東京化成工業製,99%
・水素化リチウム(LiH):シグマアルドリッチ製,粉末,-30メッシュ,95%
・ヘキサン:シグマアルドリッチ製,ReagentPlus(R),≧99%
・ポリ(エチレンオキシド)(PEO):シグマアルドリッチ製,Mw=35000g/moL
・無水ジクロロメタン(DCM) :シグマアルドリッチ製,安定剤としてアミレンを40~150ppm含有,≧99.8%
・4-シアノ-4-(チオベンジルチオ)ペンタン酸(CPADB) :シグマアルドリッチ製,>97.0%
・N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC) :シグマアルドリッチ製,>99.0%
・4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP):シグマアルドリッチ製,≧99.0%
・ジエチルエーテル:ナカライテスク,JIS試薬特級,≧99.5%
・2,2’-アゾビス(2-アミノプロパン)塩酸塩(AIBA):東京化成工業製,>98.0%(HPLC)
・透析膜:サーモフィッシャーサイエンティフィック製,3500-MW cut-off(MWCO),再生セルロース透析膜
【0135】
Mgポリマー塩(5-2)は、以下の反応スキームに示すように、反応(r-1)~(r-2)に従って合成した。
【0136】
【化15】
【0137】
反応(r-1)では、PEOマクロ連鎖移動剤(6-2)と、スルホンイミド誘導体のLi塩(7-2)とを重合開始剤AIBAの存在下で可逆的付加開裂連鎖重合反応させ、Liポリマー塩(4-2)を合成した。次いで、反応(r-2)では、Liポリマー塩(4-2)のイオン交換反応によりMgポリマー塩(5-2)を合成した。なお、化学式(4-2)および(5-2)中のmおよびnは、それぞれ化学式(4-2)および(5-2)で表される繰り返し単位の重合度を示す。mは約33~34であり、nは約794~795である。また、化学式(6-2)中のnは、化学式(5-2)中のnと同義である。以下、Mgポリマー塩(5-2)の合成を詳細に説明する。
【0138】
[1-1.スルホンイミド誘導体のLi塩(7-2)の合成]
スルホンイミド誘導体のLi塩(7-2)は反応(r-3)~(r-5)に従って合成した。
【化16】
【0139】
(反応(r-3):3-(クロロスルホニル)プロピルメタクリレート(塩化スルホニル(b))の合成)
反応(r-3)に従って、スルホン酸塩(a)を塩素化して塩化スルホニル(b)を得た。
具体的には、3-(メタクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸カリウム 15.00g(0.06moL)を減圧乾燥し、アルゴン雰囲気下で無水THF 25mL中に加えて懸濁液とした。塩素化剤としての塩化チオニル39.90g(0.34moL)を無水DMF 1.7mLに溶解させ、塩化チオニルのDMF溶液を調製した。上記懸濁液を氷冷およびスターラ攪拌しながら、塩化チオニルのDMF溶液をアルゴン雰囲気下で少しずつ滴下した。0℃で1時間、さらに室温(例えば、25℃)で15時間の条件でスターラ攪拌した。その後、冷水200mL中に少しずつ加えた。ジクロロメタン80mLを加えて、蒸留水25mLで6回洗浄した後に、ジクロロメタン相を無水MgSOで乾燥した。ジクロロメタン相を濾過し、乾燥剤を濾別して除去した。エバポレータを用いて濾液を減圧乾燥し、ジクロロメタンを留去し、残留物を得た。その後、残留物を一晩減圧乾燥して塩化スルホニル(b)を得た。
【0140】
(反応(r-4):トリエチルアンモニウム-1-[3-(メタクリロイルオキシ)プロピルスルホニル]-1-(トリフルオロメタン-スルホニル)イミド)(スルホンイミド誘導体の第三級アンモニウム塩(c))の合成)
反応(r-4)に従って、求核剤としてのトリフルオロメタンスルホンアミドによる塩化スルホニル(b)の付加脱離反応によってスルホンイミド誘導体の第三級アンモニウム塩(c)を得た。
【0141】
具体的には、トリフルオロメタンスルホンアミド7.30g(0.05moL)をアルゴン雰囲気下でスターラ攪拌しながら、無水トリエチルアミン10.90g(0.11moL)をゆっくりと添加した。その後、無水THF40mLをさらに加えた。これにより溶液を得た。
塩化スルホニル(b)11.10g(0.05moL)を無水THF15mL(13.50g)に混合させ、塩化スルホニル(b)のTHF溶液を調製した。上記溶液を氷冷、スターラ攪拌しながら、上記溶液に塩化スルホニル(b)のTHF溶液をゆっくりと滴下した。その後、0℃で1時間の条件でスターラー攪拌し、室温に戻して室温および1時間の条件でスターラ攪拌した。これにより沈殿物を得た。
沈殿物をアルゴン雰囲気下で吸引濾過した。その後、エバポレータを用いて濾液を減圧乾燥した。ジクロロメタン90mLを添加して、蒸留水35mLで4回洗浄した後に、ジクロロメタン相を無水MgSOで乾燥した。ジクロロメタン相を濾過して、乾燥剤を濾別して除去した。濾液に4-メトキシフェノールを少量添加した後、エバポレータを用いて濾液のジクロロメタンを留去し、残留物を得た。その後、残留物を減圧乾燥してスルホンイミド誘導体の第三級アンモニウム塩(c)を得た。
【0142】
(反応(r-5):リチウム1-[3-(メタクリロイルオキシ)プロピルスルホニル]-1-(トリフルオロメタン-スルホニル)イミド)(スルホンイミド誘導体のLi塩(7-2))の合成)
反応(r-5)では、スルホンイミド誘導体の第三級アンモニウム塩(c)のイオン交換反応によりスルホンイミド誘導体のLi塩(7-2)を得た。
具体的には、無水THF 9mLをアルゴン雰囲気下でスターラ攪拌しながら、スルホンイミド誘導体の第三級アンモニウム塩(c)5.89g(13.36mmoL)を加えた。その後、さらにLiH 0.26g(34.06mmoL)を少量ずつ加えた。一晩アルゴン雰囲気下でスターラ攪拌した。その後、濾過し、エバポレータにより濾液を減圧濃縮し、残留物を得た。残留物をヘキサン10mLで4回洗浄した。その後、残留物をさらに減圧乾燥した。残留物に無水ジクロロメタン25mLを加えて一晩冷蔵(10℃)保存し、沈殿物を析出させた。沈殿物を濾過および減圧乾燥してスルホンイミド誘導体のLi塩(7-2)を得た。
【0143】
[1-2.PEOマクロ連鎖移動剤の合成]
反応(r-6)に従って、CPADBおよびPEOをシュテークリヒエステル化反応させ、PEOマクロ連鎖移動剤(6-2)を得た。
【化17】
具体的には、PEO 15.0gをトルエン30mLで2時間蒸留した。その後、55℃、12時間減圧乾燥した。PEO 10.00g(0.29mmoL)を無水ジクロロメタン(DCM)100mLに溶解し、PEOのDCM溶液を調製した。4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸(CPADB)0.95g(3.42mmoL)を縮合剤としてのN,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)0.77g(3.76mmoL)に分散させて分散液を調製した。PEOのDCM溶液を0℃でスターラ攪拌しながら、PEOのDCM溶液に分散液をゆっくり滴下した。
触媒としての4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)0.13g(1.06mmoL)を無水DCM2mLに溶解し、DMAPのDCM溶液を調製した。PEOのDCM溶液にDMAPのDCM溶液をさらに滴下し、0℃で48時間の条件でスターラ攪拌した。その後、固形物を濾別し、DCM 50mLで洗浄した。濾液に氷冷したジエチルエーテル500mLを加えてポリマーを沈殿させ、遠心分離した。分離したポリマーにDCM 30mLを加えて溶解し、氷冷ジエチルエーテル100mLで遠心分離する操作を2回繰り返した。室温で3時間減圧乾燥してPEOマクロ連鎖移動剤(macro-CTA)(6-2)を得た。
【0144】
[1-3.Liポリマー塩(4-2)の合成]
反応(r-1)に従って、PEOマクロ連鎖移動剤(6-2)およびスルホンイミド誘導体のLi塩(d)を可逆的付加開裂連鎖重合反応させ、Liポリマー塩(4-2)を得た。
具体的には、PEOマクロ連鎖移動剤(6-2)0.70g(20μmoL)と、スルホンイミド誘導体のLi塩(d)0.47g(1.35mmoL)をイオン交換水4.7mLに溶解させ溶液を調製した。得られた溶液に、重合開始剤としてのAIBA 1.09mg(4.02μmoL)を添加し溶解させた。アルゴン置換した後、65℃に加熱した油浴中に浸けて、11時間加熱した。室温に戻し、蒸留水で3日間透析(MWCO 3500)した。透析、凍結乾燥し、80℃、24時間減圧乾燥してLiポリマー塩(4-2)を得た。
【0145】
[1-4.Mgポリマー塩(5-2)の合成]
反応(r-2)に従って、Mgポリマー塩(5-2)を合成した。反応(r-2)では、Liポリマー塩(4-2)のイオン交換反応によりMgポリマー塩(5-2)を得た。
具体的には、シート状にして減圧乾燥したLiポリマー塩(4-2)(厚みt=100μm,0.05g)をアルゴン雰囲気下でMg電解液((2M MgCl+1M Mg(TFSI))/DME)2mLに溶解させた。DME 38mLをさらに加えてMgポリマー塩(5-2)を析出させた。上澄みを除去し、DME 20mLで固形物を2回洗浄した。その後、アルゴン雰囲気下で自然乾燥させた。その後に減圧乾燥(室温,1時間)し、加熱プレスしてシート状にした。
【0146】
[1-5.同定]
得られたLiポリマー塩(4-2)およびMgポリマー塩(5-2)の H-NMRスペクトルを測定した。なお、 H-NMRスペクトルの測定では、溶媒としてCDClを用いた。内部標準試料としてテトラメチルシラン(TMS)を用いた。
図9(a)にMgポリマー塩(5-2)の H-NMRスペクトルを示し、図9(b)にLiポリマー塩(4-2)の H-NMRスペクトルを示す。併せて、これらのポリマー塩の化学構造式も示す。図9(b)では、 H-NMRスペクトルの各ピークをLiポリマー塩(4-2)の水素原子にそれぞれ帰属した。 H-NMRスペクトルの各ピークおよび化学構造式中の数値は、対応関係を示す。これにより、目的とするLiポリマー塩(4-2)を合成できていることを確認した。また、図9(a)では、同様に H-NMRスペクトルの各ピークをMgポリマー塩(5-2)の水素原子にそれぞれ帰属した。さらに、図9(a)の H-NMRスペクトルは図9(b)の H-NMRスペクトルに対して形状がほぼ同じであることから、イオン交換反応によりLiをMg2+に置換してもカウンターアニオン(アニオン性ポリマー)の構造上の変化がないことが確認された。
【0147】
(数平均分子量Mn測定)
Mgポリマー塩(5-2)の数平均分子量Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した。測定条件は、溶離液として0.1M MgCl-1.5×10-5M NaNの溶液を使用し、その溶液の溶媒として水/アセトニトリル(4/1=v/v)の混合溶媒が用いた。また、溶離液のフロー速度は35℃で0.5mL/分であった。プルラン標準をキャリブレーションに用いた。
【0148】
[2.高分子固体電解質およびマグネシウム-硫黄二次電池の作製]
高分子固体電解質およびこの電解質を備えるマグネシウム-硫黄二次電池を作製した。高分子固体電解質およびマグネシウム-硫黄二次電池の仕様は、以下の通りである。
(高分子固体電解質の仕様)
● Mgポリマー塩(5-2)(φ5mm、厚みt100μm)
(マグネシウム-硫黄二次電池の仕様)
● 負極:マグネシウム電極(φ15mmおよび厚み200μmのMg板/純度99.9%)
● 正極:硫黄電極(S硫黄を10質量%含有した電極、導電助剤としてケッチェンブラック(KB)を含有、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有)
● セパレータ:グラスファイバー
● 高分子固体電解質:Mgポリマー塩(5-2)(φ5mm)
● 二次電池形態:コイン電池CR2016タイプ
【0149】
図8に作製した電池を模式的な展開図で示す。正極23は、硫黄(S)10質量%、導電助剤として、ケッチェンブラック60質量%、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)30質量%を瑪瑙製の乳鉢を用いて混合した。そして、アセトンで馴染ませながらローラーコンパクターを用いて10回程度圧延成型した。その後、70℃の真空乾燥で12時間乾燥した。こうして、正極23を得ることができた。
【0150】
コイン電池缶21にガスケット22を載せ、硫黄から成る正極23、グラスファイバー製のセパレータ24、直径15mm、厚さ200μmのMg板から成る負極25、厚さ0.5mmのステンレス鋼板から成るスペーサ26、コイン電池蓋27の順に積層した後、コイン電池缶21をかしめて封止した。スペーサ26はコイン電池蓋27に予めスポット溶接しておいた。
【0151】
[3.電気化学測定]
(インピーダンス測定)
上記作製した電池を評価用セルとした。評価用セルを恒温槽内に入れ、以下の測定条件でインピーダンスを測定した。測定は、ポテンシオスタット(Bio-Logic社製 VMP3)を用い、恒温槽が各設定温度に達してから3時間後に行った。
測定条件
・周波数 :1MHz~1Hz
・振幅 :10mV
・温度範囲:25℃,30℃~50℃(10℃刻み)
【0152】
各温度で得られた電気抵抗(単位:Ω)およびイオン伝導度(Mgイオン伝導度)を表1および図10に示す。
【表1】
【0153】
Mgポリマー塩(5-2)を含む高分子固体電解質は、Mgイオン伝導度が50℃で1.3×10-5S/cmであった。また、Mgイオン伝導度は、温度の増加と共に増加すること(温度依存性)が確認された。これに対して、比較例としての特許文献1~2に記載の無機固体電解質では、イオン伝導度が500℃で1.1×10-9~約3.6×10-6S/cmであった。無機固体電解質も上記高分子固体電荷質と同様にイオン伝導度の温度依存性を有することから、50℃におけるイオン伝導度は500℃でのイオン伝導度よりも非常に小さいことが予想される。よって、実施例の高分子固体電解質は、比較例の無機固体電解質に比べ、少なくとも1~3桁大きいイオン伝導度を有することが分かった。

【0154】
以上を踏まえて総括すると、以下の事項を本実証試験から見出すことができた。
・実施例の高分子固体電解質は、Mgポリマー塩(5-2)を含む。Mgポリマー塩(5-2)は、Mg2+と、アニオン性官能基および配位性官能基を有するアニオン性ポリマーとを含むMgポリマー塩であることから、このような組成および構造を有するMgポリマー塩を含むと、高いMgイオン伝導性に寄与し得る。
・実施例の高分子固体電解質に含まれるMgポリマー塩(5-2)は、配位性置換基を主鎖に有することから、このような構造を有するMgポリマー塩を含むと、高いMgイオン伝導性に寄与し得る。
・実施例の高分子固体電解質に含まれるMgポリマー塩(5-2)は、配位性置換基として主鎖にポリ(アルキレンオキシド)(より具体的には、ポリ(エチレンオキシド))を有することから、このような構造を有するMgポリマー塩を含むと、高いMgイオン伝導性に寄与し得る。
・実施例の高分子固体電解質に含まれるMgポリマー塩(5-2)は、アニオン性官能基(特に、トリフルオロメチルスルホニルアミド基)を側鎖に有することから、このような構造を有するMgポリマー塩を含むと、高いMgイオン伝導性に寄与し得る。
・実施例の高分子固体電解質は、Mgポリマー塩を含むことから、柔軟性を有し、構造維持性に寄与し得る。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の高分子固体電解質は、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出す様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の高分子固体電解質は、二次電池はもちろんのこと、それに限らず、キャパシタ、空気電池および燃料電池などの種々の電気化学デバイスに用いられる。
【符号の説明】
【0156】
10・・・正極、11・・・負極、12・・・電解質層、31・・・正極、32・・・負極、33・・・セパレータ、35,36・・・集電体、37・・・ガスケット、41・・・多孔質正極、42・・・負極、43・・・セパレータおよび固体電解質、44・・・空気極側集電体、45・・・負極側集電体、46・・・拡散層、47・・・酸素選択性透過膜、48・・・外装体、51・・・空気(大気)、52・・・酸素、61・・・正極、62・・・正極用固体電解質、63・・・正極用固体電解質輸送ポンプ、64・・・燃料流路、65・・・正極用固体電解質貯蔵容器、71・・・負極、72・・・負極用固体電解質、73・・・負極用固体電解質輸送ポンプ、74・・・燃料流路、75・・・負極用固体電解質貯蔵容器、66・・・イオン交換膜、100・・・マグネシウム二次電池、111・・・電極構造体収納部材(電池缶)、112,113・・・絶縁板、114・・・電池蓋、115・・・安全弁機構、115A・・・ディスク板、116・・・熱感抵抗素子(PTC素子)、117・・・ガスケット、118・・・センターピン、121・・・電極構造体、122・・・正極、123・・・正極リード部、124・・・負極、125・・・負極リード部、126・・・セパレータ、200・・・外装部材、201・・・密着フィルム、221・・・電極構造体、223・・・正極リード部、225・・・負極リード部、1001・・・セル(組電池)、1002・・・マグネシウム二次電池、1010・・・制御部、1011・・・メモリ、1012・・・電圧測定部、1013・・・電流測定部、1014・・・電流検出抵抗器、1015・・・温度測定部、1016・・・温度検出素子、1020・・・スイッチ制御部、1021・・・スイッチ部、1022・・・充電制御スイッチ、1024・・・放電制御スイッチ、1023,1025・・・ダイオード、1031・・・正極端子、1032・・・負極端子、CO,DO・・・制御信号、2000・・・筐体、2001・・・制御部、2002・・・各種センサ、2003・・・電源、2010・・・エンジン、2011・・・発電機、2012,2013・・・インバータ、2014・・・駆動用のモータ、2015・・・差動装置、2016・・・トランスミッション、2017・・・クラッチ、2021・・・前輪駆動軸、2022・・・前輪、2023・・・後輪駆動軸、2024・・・後輪、3000・・・家屋、3001・・・制御部、3002・・・電源、3003・・・スマートメータ、3004・・・パワーハブ、3010・・・電気機器(電子機器)、3011・・・電動車両、3021・・・自家発電機、3022・・・集中型電力系統、4000・・・工具本体、4001・・・制御部、4002・・・電源、4003・・・ドリル部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10