(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20240709BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240709BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2022578101
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2021044941
(87)【国際公開番号】W WO2022163139
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2021013771
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横地 崇人
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-056695(JP,A)
【文献】特開2012-074367(JP,A)
【文献】特開2007-207461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電解液および第1高分子化合物を含む第1電解質層と、
前記第1電解質層を介して互いに対向する電極およびセパレータと、
前記電極および前記セパレータが前記第1電解質層を介して互いに対向する方向と交差する方向において前記第1電解質層に隣接され、第2電解液および第2高分子化合物を含む第2電解質層と
を備え、
前記第2高分子化合物の重量に対する前記第2電解液の重量の比は、前記第1高分子化合物の重量に対する前記第1電解液の重量の比よりも大きい、
二次電池。
【請求項2】
前記第2電解質層の厚さは、前記第1電解質層の厚さよりも大きい、
請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記第1高分子化合物および前記第2高分子化合物のうちの少なくとも一方は、フッ化ビニリデンの単独重合体およびフッ化ビニリデンの共重合体のうちの少なくとも一方を含む、
請求項1または請求項2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記フッ化ビニリデンの共重合体は、重合成分としてヘキサフルオロプロピレンを含む、
請求項3記載の二次電池。
【請求項5】
前記フッ化ビニリデンの共重合体は、さらに、重合成分として不飽和二塩基酸および不飽和二塩基酸モノエステルのうちの少なくとも一方を含む、
請求項4記載の二次電池。
【請求項6】
前記第1電解質層および前記第2電解質層のうちの少なくとも一方は、さらに、複数の絶縁性粒子を含む、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
リチウムイオン二次電池である、
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度を有する電源として二次電池の開発が進められている。この二次電池は、正極および負極と共に電解質層を備えており、その電解質層は、電解液および高分子化合物を含んでいる。
【0003】
電解質層を備えた二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。具体的には、高温信頼性を向上させるために、正極とセパレータとの間にゲル状の電解質膜が設けられていると共に、負極とセパレータとの間にゲル状の電解質膜が設けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
二次電池の電池特性に関する様々な検討がなされているが、その二次電池のサイクル特性は未だ十分でないため、改善の余地がある。
【0006】
よって、優れたサイクル特性を得ることが可能である二次電池が望まれている。
【0007】
本技術の一実施形態の二次電池は、第1電解液および第1高分子化合物を含む第1電解質層と、その第1電解質層を介して互いに対向する電極およびセパレータと、その電極およびセパレータが第1電解質層を介して互いに対向する方向と交差する方向において第1電解質層に隣接され、第2電解液および第2高分子化合物を含む第2電解質層とを備えたものである。第2高分子化合物の重量に対する第2電解液の重量の比は、第1高分子化合物の重量に対する第1電解液の重量の比よりも大きい。
【0008】
本技術の一実施形態の二次電池によれば、電極およびセパレータが第1電解質層(第1電解液および第1高分子化合物)を介して互いに対向しており、その電極およびセパレータが第1電解質層を介して互いに対向する方向と交差する方向において第1電解質層に第2電解質層(第2電解液および第2高分子化合物)が隣接されており、その第2高分子化合物の重量に対する第2電解液の重量の比が第1高分子化合物の重量に対する第1電解液の重量の比よりも大きいので、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0009】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本技術の一実施形態における二次電池の構成を表す斜視図である。
【
図2】
図1に示した電池素子(巻回電極体)の構成を拡大して表す断面図である。
【
図3】変形例5における二次電池の構成を表す断面図である。
【
図4】
図3に示した電池素子(積層電極体)の構成を拡大して表す断面図である。
【
図5】二次電池の適用例の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.二次電池
1-1.構成
1-2.動作
1-3.製造方法
1-4.作用および効果
2.変形例
3.二次電池の用途
【0012】
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0013】
ここで説明する二次電池は、電極反応物質の吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池であり、正極および負極と共に、液状の電解質である電解液を備えている。
【0014】
この二次電池では、負極の充電容量が正極の放電容量よりも大きくなっている。すなわち、負極の単位面積当たりの電気化学容量は、正極の単位面積当たりの電気化学容量よりも大きくなるように設定されている。充電途中において負極の表面に電極反応物質が析出することを防止するためである。
【0015】
電極反応物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、アルカリ金属およびアルカリ土類金属などの軽金属である。アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムなどであると共に、アルカリ土類金属は、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどである。
【0016】
以下では、電極反応物質がリチウムである場合を例に挙げる。リチウムの吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池である。このリチウムイオン二次電池では、リチウムがイオン状態で吸蔵放出される。
【0017】
<1-1.構成>
図1は、二次電池の斜視構成を表していると共に、
図2は、
図1に示した電池素子20の断面構成を拡大して表している。ただし、
図1では、外装フィルム10と電池素子20とが互いに分離された状態を示していると共に、XZ面に沿った電池素子20の断面を破線で示している。
図2では、YZ面に沿った電池素子20の断面を示している。
【0018】
この二次電池は、
図1および
図2に示したように、外装フィルム10と、電池素子20と、正極リード31および負極リード32と、封止フィルム41,42とを備えている。ここで説明する二次電池は、可撓性(または柔軟性)を有する外装フィルム10を用いたラミネートフィルム型の二次電池である。
【0019】
なお、後述する「厚さ」は、
図2中の上下方向(Z軸方向)の寸法であると共に、後述する「幅」は、
図2中の左右方向(Y軸方向)の寸法である。
【0020】
[外装フィルムおよび封止フィルム]
外装フィルム10は、
図1に示したように、電池素子20を収納する可撓性の外装部材であり、その電池素子20が内部に収納された状態において封止された袋状の構造を有している。
【0021】
ここでは、外装フィルム10は、1枚のフィルム状の部材であり、折り畳み方向Fに折り畳まれている。この外装フィルム10には、電池素子20を収容するための窪み部10U(いわゆる深絞り部)が設けられている。
【0022】
具体的には、外装フィルム10は、融着層、金属層および表面保護層が内側からこの順に積層された3層のラミネートフィルムであり、その外装フィルム10が折り畳まれた状態では、互いに対向する融着層のうちの外周縁部同士が互いに融着されている。融着層は、ポリプロピレンなどの高分子化合物を含んでいる。金属層は、アルミニウムなどの金属材料を含んでいる。表面保護層は、ナイロンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0023】
ただし、外装フィルム10の構成(層数)は、特に、限定されないため、1層または2層でもよいし、4層以上でもよい。
【0024】
封止フィルム41は、外装フィルム10と正極リード31との間に挿入されていると共に、封止フィルム42は、外装フィルム10と負極リード32との間に挿入されている。ただし、封止フィルム41,42のうちの一方または双方は、省略されてもよい。
【0025】
この封止フィルム41は、外装フィルム10の内部に外気などが侵入することを防止する封止部材である。また、封止フィルム41は、正極リード31に対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物を含んでおり、そのポリオレフィンは、ポリプロピレンなどである。
【0026】
封止フィルム42の構成は、負極リード32に対して密着性を有する封止部材であることを除いて、封止フィルム41の構成と同様である。すなわち、封止フィルム42は、負極リード32に対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0027】
[電池素子]
電池素子20は、
図1および
図2に示したように、正極21と、負極22と、セパレータ23と、正極電解質層24と、負極電解質層25と、正極保液層26と、負極保液層27とを含む発電素子であり、外装フィルム10の内部に収納されている。
【0028】
この電池素子20は、いわゆる巻回電極体である。すなわち、電池素子20では、主に、正極21および負極22がセパレータ23、正極電解質層24および負極電解質層25を介して互いに積層されていると共に、Y軸方向に延在する仮想軸である巻回軸Pを中心として正極21、負極22、セパレータ23、正極電解質層24および負極電解質層25が巻回されている。正極保液層26は、正極電解質層24の隣に配置されているため、その正極電解質層24に隣接されていると共に、負極保液層27は、負極電解質層25の隣に配置されているため、その負極電解質層25に隣接されている。これにより、正極21および負極22は、セパレータ23、正極電解質層24および負極電解質層25を介して互いに対向しながら巻回されている。
【0029】
電池素子20の立体的形状は、特に限定されない。ここでは、電池素子20は、扁平状であるため、巻回軸Pと交差する電池素子20の断面(XZ面に沿った断面)は、長軸J1および短軸J2により規定される扁平形状を有している。この長軸J1は、X軸方向に延在すると共に短軸J2よりも大きい長さを有する仮想軸であると共に、短軸J2は、X軸方向と交差するZ軸方向に延在すると共に長軸J1よりも小さい長さを有する仮想軸である。ここでは、電池素子20の立体的形状は、扁平な円筒状であるため、その電池素子20の断面の形状は、扁平な略楕円形状である。
【0030】
(正極)
正極21は、充放電反応を進行させるための電極である。この正極21は、
図2に示したように、正極集電体21Aおよび正極活物質層21Bを含んでいる。
【0031】
正極集電体21Aは、正極活物質層21Bが設けられる一対の面を有している。この正極集電体21Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その金属材料は、アルミニウムなどである。なお、正極集電体21Aの幅は、正極活物質層21Bの幅よりも大きくならないように設定されており、より具体的には、正極活物質層21Bの幅と同じである。正極集電体21Aの体積の増加が防止されるため、電池素子20の体積当たりのエネルギー密度が増加するからである。
【0032】
ここでは、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの両面に設けられており、リチウムを吸蔵放出可能である正極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、正極活物質層21Bは、正極21が負極22に対向する側において正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。また、正極活物質層21Bは、さらに、正極結着剤および正極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。正極活物質層21Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0033】
正極活物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、リチウム含有化合物などである。このリチウム含有化合物は、リチウムと共に1種類または2種類以上の遷移金属元素を構成元素として含む化合物であり、さらに、1種類または2種類以上の他元素を構成元素として含んでいてもよい。他元素の種類は、リチウムおよび遷移金属元素のそれぞれ以外の元素であれば、特に限定されないが、具体的には、長周期型周期表中の2族~15族に属する元素である。リチウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、酸化物、リン酸化合物、ケイ酸化合物およびホウ酸化合物などである。酸化物の具体例は、LiNiO2 、LiCoO2 、LiNi0.8 Co0.15Al0.05O2 、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2 およびLiMn2 O4 などである。リン酸化合物の具体例は、LiFePO4 およびLiMnPO4 などである。
【0034】
正極結着剤は、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドおよびカルボキシメチルセルロースなどである。
【0035】
正極導電剤は、炭素材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その炭素材料は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。ただし、導電性材料は、金属材料および高分子化合物などでもよい。
【0036】
(負極)
負極22は、充放電反応を進行させるための他の電極である。この負極22は、
図2に示したように、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bを含んでいる。
【0037】
負極集電体22Aは、負極活物質層22Bが設けられる一対の面を有している。この負極集電体22Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その金属材料は、銅などである。なお、負極集電体22Aの幅は、負極活物質層22Bの幅よりも大きくならないように設定されており、より具体的には、負極活物質層22Bの幅と同じである。負極集電体22Aの体積の増加が防止されるため、電池素子20の体積当たりのエネルギー密度が増加するからである。
【0038】
ここでは、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの両面に設けられており、リチウムを吸蔵放出可能である負極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、負極活物質層22Bは、負極22が正極21に対向する側において負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。また、負極活物質層22Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。負極活物質層22Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0039】
負極活物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、炭素材料および金属系材料のうちの一方または双方などである。高いエネルギー密度が得られるからである。炭素材料は、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛(天然黒鉛および人造黒鉛)などである。金属系材料は、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料であり、その金属元素および半金属元素の具体例は、ケイ素およびスズのうちの一方または双方などである。この金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよいし、それらの2種類以上の相を含む材料でもよい。金属系材料の具体例は、TiSi2 およびSiOx (0<x≦2、または0.2<x<1.4)などである。
【0040】
負極結着剤および負極導電剤のそれぞれに関する詳細は、正極結着剤および正極導電剤のそれぞれに関する詳細と同様である。
【0041】
ここでは、負極活物質層22Bの幅は、正極活物質層21Bの幅よりも大きくなっている。正極21から放出されたリチウムが負極22において意図せずに析出することを防止するためである。
【0042】
(セパレータ)
セパレータ23は、
図2に示したように、正極21と負極22との間に介在している絶縁性の多孔質膜であり、その正極21と負極22との接触(短絡)を防止しながらリチウムイオンを通過させる。このセパレータ23は、ポリエチレンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0043】
(正極電解質層)
正極電解質層24は、正極21において吸蔵放出されるリチウムの媒介として機能する第1電解質層であり、
図2に示したように、正極21とセパレータ23との間に配置されている。すなわち、正極21およびセパレータ23は、正極電解質層24を介して互いに対向している。ここでは、正極電解質層24は、正極21とセパレータ23とにより挟まれており、その正極21およびセパレータ23のそれぞれに隣接されている。
【0044】
具体的には、正極電解質層24は、電解液および高分子化合物を含んでいるゲル状の電解質であり、その電解液は、高分子化合物により保持されている。このゲル状での電解質である正極電解質層24を用いることにより、液状の電解質である電解液をそのまま用いる場合とは異なり、その電解液の漏液が防止される。
【0045】
ここで説明する電解液は、正極電解質層24に含まれている第1電解液である。この電解液の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。具体的には、電解液は、溶媒および電解質塩を含んでいる。
【0046】
溶媒は、非水溶媒(有機溶剤)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その非水溶媒を含んでいる電解液は、いわゆる非水電解液である。この非水溶媒は、エステル類およびエーテル類などであり、より具体的には、炭酸エステル系化合物、カルボン酸エステル系化合物およびラクトン系化合物などである。炭酸エステル系化合物の具体例は、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルなどである。カルボン酸エステル系化合物の具体例は、酢酸エチル、プロピオン酸エチルおよびプロピオン酸プロピルなどである。ラクトン系化合物の具体例は、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなどである。
【0047】
電解質塩は、リチウム塩などの軽金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。リチウム塩の具体例は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO2 )2 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )およびビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C2 O4 )2 )などである。電解質塩の含有量は、特に限定されないが、具体的には、溶媒に対して0.3mol/kg~3.0mol/kgである。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0048】
なお、電解液は、さらに、添加剤のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。具体的には、添加剤は、不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化環状炭酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、酸無水物、ニトリル化合物およびイソシアネート化合物などである。
【0049】
不飽和環状炭酸エステルの具体例は、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンおよび炭酸メチレンエチレンなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルの具体例は、モノフルオロ炭酸エチレンおよびジフルオロ炭酸エチレンなどである。スルホン酸エステルの具体例は、プロパンスルトンおよびプロペンスルトンなどである。リン酸エステルの具体例は、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。酸無水物の具体例は、コハク酸無水物、1,2-エタンジスルホン酸無水物および2-スルホ安息香酸無水物などである。ニトリル化合物の具体例は、スクシノニトリルなどである。イソシアネート化合物の具体例は、ヘキサメチレンジイソシアネートなどである。
【0050】
ここで説明する高分子化合物は、正極電解質層24に含まれている第1高分子化合物である。この高分子化合物の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0051】
具体的には、高分子化合物は、フッ化ビニリデンの単独重合体およびフッ化ビニリデンの共重合体のうちの一方または双方を含んでいる。正極電解質層24において優れた物理的強度および優れた電気化学的安定性が得られるからである。フッ化ビニリデンの単独重合体は、いわゆるポリフッ化ビニリデンである。フッ化ビニリデンの共重合体は、フッ化ビニリデンと、1種類または2種類以上の重合成分(単量体)との共重合体であり、その重合成分の種類は、特に限定されない。
【0052】
中でも、フッ化ビニリデンの共重合体は、重合成分としてヘキサフルオロプロピレンを含んでいることが好ましい。すなわち、高分子化合物は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であることが好ましい。正極電解質層24による電解液の保持量が増加するからである。
【0053】
この場合において、フッ化ビニリデンの共重合体は、さらに、重合性分として不飽和二塩基酸および不飽和二塩基酸モノエステルのうちの一方または双方を含んでいることが好ましい。すなわち、高分子化合物は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと不飽和二塩基酸との共重合体であるか、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと不飽和二塩基酸モノエステルとの共重合体であるか、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと不飽和二塩基酸と不飽和二塩基酸モノエステルとの共重合体であることが好ましい。正極電解質層24による電解液の保持量がより増加するからである。
【0054】
不飽和二塩基酸の具体例は、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびシトラコン酸などである。不飽和二塩基酸モノエステルの具体例は、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸モノエチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステルおよびシトラコン酸モノエチルエステルなどである。
【0055】
なお、正極電解質層24は、さらに、複数の絶縁性粒子を含んでいることが好ましい。正極電解質層24による電解液の保持量がより増加するからである。
【0056】
絶縁性粒子は、無機材料および高分子化合物のうちの一方または双方を含んでいる。無機材料の具体例は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンおよび酸化マグネシウムなどである。高分子化合物の具体例は、アクリル樹脂およびスチレン樹脂などである。
【0057】
(負極電解質層)
負極電解質層25は、負極22において吸蔵放出されるリチウムの媒介として機能する他の第1電解質層であり、
図2に示したように、負極22とセパレータ23との間に配置されている。すなわち、負極22およびセパレータ23は、負極電解質層25を介して互いに対向している。ここでは、負極電解質層25は、負極22とセパレータ23とにより挟まれており、その負極22およびセパレータ23のそれぞれに隣接されている。
【0058】
具体的には、負極電解質層25は、正極電解質層24の構成と同様の構成を有している。すなわち、負極電解質層25は、電解液および高分子化合物を含んでいるゲル状の電解質であり、その電解液は、高分子化合物により保持されている。負極電解質層25を用いることにより、電解液の漏液が防止される。
【0059】
ここで説明する電解液は、負極電解質層25に含まれている他の第1電解液であると共に、ここで説明する高分子化合物は、負極電解質層25に含まれている他の第1高分子化合物である。負極電解質層25に含まれている電解液および高分子化合物のそれぞれに関する詳細は、正極電解質層24に含まれている電解液および高分子化合物のそれぞれに関する詳細と同様である。もちろん、負極電解質層25は、複数の絶縁性粒子を含んでいてもよい。
【0060】
ただし、負極電解質層25に含まれている電解液の種類と正極電解質層24に含まれている電解液の種類とは、互いに同じでもよいし、互いに異なってもよい。同様に、負極電解質層25に含まれている高分子化合物の種類と正極電解質層24に含まれている高分子化合物の種類とは、互いに同じでもよいし、互いに異なってもよい。
【0061】
(正極保液層)
正極保液層26は、正極電解質層24に電解液を供給する第2電解質層であり、
図2に示したように、その正極電解質層24に隣接されている。より具体的には、正極保液層26は、正極21およびセパレータ23が正極電解質層24を介して互いに対向する方向(Z軸方向)と交差する方向(Y軸方向)において、その正極電解質層24に隣接されている。ここでは、正極保液層26は、正極21とセパレータ23とにより挟まれておらずに、正極電解質層24の側面に接触している。
【0062】
ここでは、正極保液層26は、正極電解質層24の両側に配置されているため、電池素子20は、2個の正極保液層26を含んでいる。すなわち、1個目の正極保液層26は、正極電解質層24の右側に配置されているため、その正極電解質層24の右側面に隣接されている。2個目の正極保液層26は、正極電解質層24の左側に配置されているため、その正極電解質層24の左側面に隣接されている。
【0063】
なお、正極保液層26は、セパレータ23の一面に配置されているため、そのセパレータ23により支持されている。
【0064】
具体的には、正極保液層26は、正極電解質層24の構成と同様の構成を有している。すなわち、正極保液層26は、電解液および高分子化合物を含んでいるゲル状の電解質であり、その電解液は、高分子化合物により保持されている。正極保液層26が電解液を保持可能になると共に、その正極保液層26が正極電解質層24に電解液を供給可能になるからである。
【0065】
ここで説明する電解液は、正極保液層26に含まれている第2電解液であると共に、ここで説明する高分子化合物は、正極保液層26に含まれている第2高分子化合物である。正極保液層26に含まれている電解液および高分子化合物のそれぞれに関する詳細は、正極電解質層24に含まれている電解液および高分子化合物のそれぞれに関する詳細と同様である。もちろん、正極保液層26は、複数の絶縁性粒子を含んでいてもよい。
【0066】
ただし、正極保液層26に含まれている電解液の種類と正極電解質層24に含まれている電解液の種類とは、互いに同じでもよいし、互いに異なってもよい。同様に、正極保液層26に含まれている高分子化合物の種類と正極電解質層24に含まれている高分子化合物の種類とは、互いに同じでもよいし、互いに異なってもよい。
【0067】
ここで、正極保液層26において高分子化合物の重量に対する電解液の重量の比(重量比R2=電解液の重量/高分子化合物の重量)は、正極電解質層24において高分子化合物の重量に対する電解液の重量の比(重量比R1=電解液の重量/高分子化合物の重量)よりも大きくなっている。正極保液層26から正極電解質層24に十分な量の電解液が供給されるため、充放電繰り返しても放電容量の減少が抑制されるからである。これにより、正極電解質層24の厚さT1が薄くても済むため、電池素子20の体積当たりのエネルギー密度が増加する。重量比R1は、正極電解質層24における電解液の含有率を表すパラメータであると共に、重量比R2は、正極保液層26における電解液の含有率を表すパラメータである。
【0068】
重量比R1を求めるためには、二次電池を解体することにより、正極電解質層24を回収したのち、熱重量示差熱分析法(TG-DTA)を用いて正極電解質層24を分析する。これにより、電解液の重量および高分子化合物の重量のそれぞれが測定されるため、その測定結果に基づいて重量比R1を算出可能である。
【0069】
重量比R2を求める手順は、正極電解質層24の代わりに正極保液層26を回収および分析することを除いて、重量比R1を求める手順と同様である。
【0070】
正極保液層26の厚さT2は、特に限定されないため、任意に設定可能である。中でも、正極保液層26の厚さT2は、正極電解質層24の厚さT1よりも大きいことが好ましい。正極保液層26による電解液の保持量が増加するため、その正極保液層26から正極電解質層24に供給される電解液の量が増加するからである。
【0071】
厚さT1を求めるためには、最初に、二次電池を解体することにより、電池素子20を回収する。続いて、YZ面に沿うように電池素子20を切断することにより、その電池素子20の断面を露出させる(
図2参照)。この場合には、扁平な立体的形状を有している電池素子20のうちの平坦部において、その電池素子20を切断することが好ましい。続いて、走査型電子顕微鏡(SEM)などの顕微鏡を用いて電池素子20の断面を観察することにより、正極電解質層24の厚さを測定する。この場合には、正極活物質層21Bとセパレータ23との間の距離を測定することにより、その距離を正極電解質層24の厚さとする。なお、観察倍率は、任意に設定可能である。最後に、互いに異なる30箇所において正極電解質層24の厚さを測定したのち、30個の厚さの平均値を算出することにより、厚さT1とする。
【0072】
厚さT2を求める手順は、電池素子20の断面の観察結果に基づいて正極保液層26の厚さを測定することを除いて、厚さT1を求める手順と同様である。
【0073】
ここでは、上記したように、正極集電体21Aの幅は、正極活物質層21Bの幅と同じである。また、正極保液層26は、
図2に示したように、正極電解質層24の側面に隣接されているだけでなく、正極活物質層21Bの側面の一部にも隣接されている。これにより、正極保液層26は、正極集電体21Aに隣接されておらず、その正極集電体21Aから離隔されている。
【0074】
(負極保液層)
負極保液層27は、負極電解質層25に電解液を供給する他の第2電解質層であり、
図2に示したように、その負極電解質層25に隣接されている。より具体的には、負極保液層27は、負極22およびセパレータ23が負極電解質層25を介して互いに対向する方向(Z軸方向)と交差する方向(Y軸方向)において、その負極電解質層25に隣接されている。ここでは、負極保液層27は、負極22とセパレータ23とにより挟まれておらずに、負極電解質層25の側面に接触している。
【0075】
ここでは、負極保液層27は、負極電解質層25の両側に配置されているため、電池素子20は、2個の負極保液層27を含んでいる。すなわち、1個目の負極保液層27は、負極電解質層25の右側に配置されているため、その負極電解質層25の右側面に隣接されている。2個目の負極保液層27は、負極電解質層25の左側に配置されているため、その負極電解質層25の左側面に隣接されている。
【0076】
なお、負極保液層27は、セパレータ23の一面(正極保液層26が形成されている面とは反対側の面)に配置されているため、そのセパレータ23により支持されている。
【0077】
具体的には、負極保液層27は、負極電解質層25の構成と同様の構成を有している。すなわち、負極保液層27は、電解液および高分子化合物を含んでいるゲル状の電解質であり、その電解液は、高分子化合物により保持されている。負極保液層27が電解液を保持可能になると共に、その負極保液層27が負極電解質層25に電解液を供給可能になるからである。
【0078】
ここで説明する電解液は、負極保液層27に含まれている他の第2電解液であると共に、ここで説明する高分子化合物は、負極保液層27に含まれている他の第2高分子化合物である。負極保液層27に含まれている電解液および高分子化合物のそれぞれに関する詳細は、負極電解質層25に含まれている電解液および高分子化合物のそれぞれに関する詳細と同様である。もちろん、負極保液層27は、複数の絶縁性粒子を含んでいてもよい。
【0079】
ただし、負極保液層27に含まれている電解液の種類と負極電解質層25に含まれている電解液の種類とは、互いに同じでもよいし、互いに異なってもよい。同様に、負極保液層27に含まれている高分子化合物の種類と負極電解質層25に含まれている高分子化合物の種類とは、互いに同じでもよいし、互いに異なってもよい。
【0080】
ここで、負極保液層27において高分子化合物の重量に対する電解液の重量の比(重量比R4=電解液の重量/高分子化合物の重量)は、負極電解質層25において高分子化合物の重量に対する電解液の重量の比(重量比R3=電解液の重量/高分子化合物の重量)よりも大きくなっている。負極保液層27から負極電解質層25に十分な量の電解液が供給されるため、充放電繰り返しても放電容量の減少が抑制されるからである。これにより、負極電解質層25の厚さT3が薄くても済むため、電池素子20の体積当たりのエネルギー密度が増加する。重量比R3は、負極電解質層25における電解液の含有率を表すパラメータであると共に、重量比R4は、負極保液層27における電解液の含有率を表すパラメータである。
【0081】
重量比R3を求める手順は、正極電解質層24の代わりに負極電解質層25を回収および分析することを除いて、重量比R1を求める手順と同様である。重量比R4を求める手順は、正極電解質層24の代わりに負極保液層27を回収および分析することを除いて、重量比R1を求める手順と同様である。
【0082】
負極保液層27の厚さT4は、特に限定されないため、任意に設定可能である。中でも、負極保液層27の厚さT4は、負極電解質層25の厚さT3よりも大きいことが好ましい。負極保液層27による電解液の保持量が増加するため、その負極保液層27から負極電解質層25に供給される電解液の量が増加するからである。
【0083】
厚さT3を求める手順は、電池素子20の断面の観察結果に基づいて負極電解質層25の厚さ(負極活物質層22Bとセパレータ23との間の距離)を測定することを除いて、厚さT1を求める手順と同様である。厚さT4を求める手順は、電池素子20の断面の観察結果に基づいて負極保液層27の厚さを測定することを除いて、厚さT1を求める手順と同様である。
【0084】
ここでは、上記したように、負極集電体22Aの幅は、負極活物質層22Bの幅と同じである。また、負極保液層27は、
図2に示したように、負極電解質層25の側面に隣接されているだけでなく、負極活物質層22Bの側面の一部にも隣接されている。これにより、負極保液層27は、負極集電体22Aに隣接されておらず、その負極集電体22Aから離隔されている。
【0085】
[正極リードおよび負極リード]
正極リード31は、
図1に示したように、正極21に接続された正極端子であり、より具体的には、正極集電体21Aに接続されている。この正極リード31は、外装フィルム10の内部から外部に導出されており、アルミニウムなどの導電性材料を含んでいる。正極リード31の形状は、特に限定されないが、具体的には、薄板状および網目状などのうちのいずれかである。
【0086】
負極リード32は、
図1に示したように、負極22に接続された負極端子であり、より具体的には、負極集電体22Aに接続されている。この負極リード32は、外装フィルム10の内部から外部に導出されており、銅などの導電性材料を含んでいる。ここでは、負極リード32の導出方向は、正極リード31の導出方向と同様である。なお、負極リード32の形状に関する詳細は、正極リード31の形状に関する詳細と同様である。
【0087】
<1-2.動作>
二次電池の充電時には、電池素子20において、正極21からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが正極電解質層24および負極電解質層25を介して負極22に吸蔵される。一方、二次電池の放電時には、電池素子20において、負極22からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが正極電解質層24および負極電解質層25を介して正極21に吸蔵される。これらの充電時および放電時には、リチウムがイオン状態で吸蔵および放出される。
【0088】
二次電池の充放電時には、正極電解質層24中の電解液が消費されると共に、負極電解質層25中の電解液が消費されると、正極保液層26から正極電解質層24に電解液が供給されると共に、負極保液層27から負極電解質層25に電解液が供給される。
【0089】
<1-3.製造方法>
二次電池を製造する場合には、以下で説明する手順により、正極21、負極22、正極電解質層24、負極電解質層25、正極保液層26および負極保液層27のそれぞれを作製したのち、それらを用いて二次電池を作製する。
【0090】
[正極の作製]
最初に、正極活物質と、正極結着剤と、正極導電剤とが互いに混合された混合物(正極合剤)を溶媒に投入することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。この溶媒は、水性溶媒でもよいし、有機溶剤でもよい。続いて、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布することにより、正極活物質層21Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型してもよい。この場合には、正極活物質層21Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。これにより、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが形成されるため、正極21が作製される。
【0091】
[負極の作製]
上記した正極21の作製手順と同様の手順により、負極22を形成する。具体的には、最初に、負極活物質と、負極結着剤と、負極導電剤とが互いに混合された混合物(負極合剤)を溶媒に投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層22Bを形成する。こののち、負極活物質層22Bを圧縮成型してもよい。これにより、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが形成されるため、負極22が作製される。
【0092】
[正極電解質層の形成および負極電解質層の形成]
最初に、溶媒に電解質塩を投入する。これにより、溶媒中において電解質塩が溶解または分散されるため、電解液が調製される。続いて、電解液と、高分子化合物と、必要に応じて追加の溶媒とを互いに混合させることにより、前駆溶液を調製する。最後に、正極21の表面に前駆溶液を塗布することにより、正極電解質層24を形成する。
【0093】
上記した正極電解質層24の形成手順と同様の手順により、負極電解質層25を形成する。具体的には、電解液を調製すると共に、その電解液および高分子化合物を用いて前駆溶液を調製したのち、負極22の表面に前駆溶液を塗布することにより、負極電解質層25を形成する。
【0094】
[正極保液層の形成および負極保液層の形成]
最初に、溶媒に電解質塩を投入することにより、電解液を調製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、必要に応じて追加の溶媒とを互いに混合させることにより、前駆溶液を調製したのち、セパレータ23の一面に前駆溶液を塗布することにより、正極保液層26を形成する。この場合には、ポリプロピレンフィルムなどの高分子フィルムを用いて、セパレータ23の表面をマスキングしてもよい。
【0095】
上記した正極保液層26の形成手順と同様の手順により、負極保液層27を形成する。具体的には、電解液を調製すると共に、その電解液および高分子化合物を用いて前駆溶液を調製したのち、セパレータ23の一面(正極保液層26が形成されている面とは反対側の面)に前駆溶液を塗布することにより、負極保液層27を形成する。
【0096】
[二次電池の組み立て]
最初に、溶接法などを用いて正極21の正極集電体21Aに正極リード31を接続させると共に、溶接法などを用いて負極22の負極集電体22Aに負極リード32を接続させる。
【0097】
続いて、正極保液層26および負極保液層27が形成されているセパレータ23を介して、正極電解質層24が形成されている正極21と、負極電解質層25が形成されている負極22とを互いに積層させる。これにより、正極保液層26が正極電解質層24に隣接されると共に、負極保液層27が負極電解質層25に隣接される。続いて、正極21、負極22、セパレータ23、正極電解質層24、負極電解質層25、正極保液層26および負極保液層27を巻回させることにより、電池素子20を作製する。続いて、プレス機などを用いて電池素子20をプレスすることにより、その電池素子20を扁平形状となるように成型する。
【0098】
続いて、窪み部10Uの内部に電池素子20を収容したのち、外装フィルム10(融着層/金属層/表面保護層)を折り畳むことにより、その外装フィルム10同士を互いに対向させる。最後に、熱融着法などを用いて、互いに対向する外装フィルム10(融着層)のうちの3辺の外周縁部同士を互いに接合させる。この場合には、外装フィルム10と正極リード31との間に封止フィルム41を挿入すると共に、外装フィルム10と負極リード32との間に封止フィルム42を挿入する。これにより、袋状の外装フィルム10の内部に電池素子20が封入されるため、二次電池が組み立てられる。
【0099】
[二次電池の安定化]
組み立て後の二次電池を充放電させる。環境温度、充放電回数(サイクル数)および充放電条件などの各種条件は、任意に設定可能である。これにより、正極21および負極22のそれぞれの表面に被膜が形成されるため、二次電池の状態が電気化学的に安定化する。よって、外装フィルム10を用いたラミネートフィルム型の二次電池が完成する。
【0100】
<1-4.作用および効果>
この二次電池によれば、正極21およびセパレータ23が正極電解質層24を介して互いに対向しており、その正極21およびセパレータ23が正極電解質層24を介して互いに対向する方向(Z軸方向)と交差する方向(Y軸方向)において正極電解質層24に正極保液層26が隣接されており、その正極保液層26の重量比R2が正極電解質層24の重量比R1よりも大きくなっている。
【0101】
これにより、上記したように、充放電時において正極電解質層24中の電解液が消費されると、正極保液層26から正極電解質層24に電解液が供給されるため、その正極電解質層24中の電解液量が減少しにくくなる。この場合には、特に、正極保液層26の重量比R2が正極電解質層24の重量比R1よりも大きいため、その正極保液層26から正極電解質層24に十分な量の電解液が供給される。よって、充放電繰り返しても放電容量の減少が抑制されるため、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0102】
上記した正極電解質層24および正極保液層26に基づいて得られる効果は、負極電解質層25および負極保液層27に基づいても同様に得られる。すなわち、負極22およびセパレータ23が負極電解質層25を介して互いに対向しており、その負極22およびセパレータ23が負極電解質層25を介して互いに対向する方向(Z軸方向)と交差する方向(Y軸方向)において負極電解質層25に負極保液層27が隣接されており、その負極保液層27の重量比R4が負極電解質層25の重量比R3よりも大きくなっている。これにより、負極保液層27から負極電解質層25に十分な量の電解液が供給されるため、その負極電解質層25中の電解液量が減少しにくくなる。よって、充放電繰り返しても放電容量の減少が抑制されるため、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0103】
特に、正極保液層26の厚さT2が正極電解質層24の厚さT1よりも大きくなっていれば、その正極保液層26による電解液の保持量が増加する。よって、正極保液層26から正極電解質層24に供給される電解液の量が増加するため、より高い効果を得ることができる。
【0104】
上記した正極電解質層24の厚さT1および正極保液層26の厚さT2に基づいて得られる効果は、負極電解質層25の厚さT3および負極保液層27の厚さT4に基づいても同様に得られる。すなわち、負極保液層27の厚さT4が負極電解質層25の厚さT3よりも大きくなっていれば、その負極保液層27による電解液の保持量が増加する。よって、負極保液層27から負極電解質層25に供給される電解液の量が増加するため、より高い効果を得ることができる。
【0105】
また、正極電解質層24に含まれている高分子化合物がフッ化ビニリデンの単独重合体およびフッ化ビニリデンの共重合体のうちの一方または双方を含んでいれば、その正極電解質層24において優れた物理的強度および優れた電気化学的安定性が得られるため、より高い効果を得ることができる。
【0106】
この場合には、フッ化ビニリデンの共重合体が重合成分としてヘキサフルオロプロピレンを含んでいれば、正極電解質層24による電解液の保持量が増加するため、より高い効果を得ることができる。また、フッ化ビニリデンの共重合体がさらに重合成分として不飽和二塩基酸および不飽和二塩基酸モノエステルのうちの一方または双方を含んでいれば、正極電解質層24による電解液の保持量がより増加するため、さらに高い効果を得ることができる。
【0107】
また、正極電解質層24が複数の絶縁性粒子を含んでいれば、その正極電解質層24による電解液の保持量が増加するため、より高い効果を得ることができる。
【0108】
上記した正極電解質層24の構成(高分子化合物の種類および複数の絶縁性粒子の有無)に基づいて得られる効果は、負極電解質層25、正極保液層26および負極保液層27のそれぞれの構成に基づいても同様に得られる。
【0109】
また、二次電池がリチウムイオン二次電池であれば、リチウムの吸蔵放出を利用して十分な電池容量が安定に得られるため、より高い効果を得ることができる。
【0110】
<2.変形例>
上記した二次電池の構成は、以下で説明するように、適宜、変更可能である。ただし、以下で説明する一連の変形例のうちの任意の2種類以上は、互いに組み合わされてもよい。
【0111】
[変形例1]
図2では、正極電解質層24の両側に正極保液層26が配置されているため、電池素子20が2個の正極保液層26を含んでいる。しかしながら、正極電解質層24の片側だけに正極保液層26が配置されているため、電池素子20が1個の正極保液層26だけを含んでいてもよい。この場合においても、電池素子20が正極保液層26を含んでいない場合と比較して、充放電繰り返しても放電容量の減少が抑制されるため、同様の効果を得ることができる。
【0112】
上記した正極保液層26の配置場所に関する変形は、負極保液層27の配置場所に関しても同様である。すなわち、負極電解質層25の両側に負極保液層27が配置されているため、電池素子20が2個の負極保液層27を含んでいるが、その負極電解質層25の片側だけに負極保液層27が配置されているため、電池素子20が1個の負極保液層27だけを含んでいてもよい。この場合においても、電池素子20が負極保液層27を含んでいない場合と比較して、充放電繰り返しても放電容量の減少が抑制されるため、同様の効果を得ることができる。
【0113】
[変形例2]
図2では、正極電解質層24に正極保液層26が隣接されていると共に、負極電解質層25に負極保液層27が隣接されている。しかしながら、正極電解質層24に正極保液層26が隣接されているのに対して、負極電解質層25に負極保液層27が隣接されていなくてもよい。または、正極電解質層24に正極保液層26が隣接されていないのに対して、負極電解質層25に負極保液層27が隣接されていてもよい。この場合においても、正極電解質層24に正極保液層26が隣接されていないと共に、負極電解質層25に負極保液層27が隣接されていない場合と比較して、充放電繰り返しても放電容量の減少が抑制されるため、同様の効果を得ることができる。
【0114】
[変形例3]
図2では、電池素子20の作製工程において、セパレータ23の一面に正極保液層26を形成したのち、その正極保液層26が形成されたセパレータ23などを巻回させている。しかしながら、セパレータ23などを巻回させたのち、そのセパレータ23の一面に正極保液層26を形成してもよい。この場合においても、正極保液層26を含む電池素子20を作製可能であるため、同様の効果を得ることができる。
【0115】
上記した正極保液層26を含む電池素子20の作製方法に関する変形は、負極保液層27を含む電池素子20の作製方法に関しても同様である。すなわち、セパレータ23の一面に負極保液層27を形成したのち、その負極保液層27が形成されたセパレータ23などを巻回させているが、セパレータ23などを巻回させたのち、そのセパレータ23の一面に負極保液層27を形成してもよい。この場合においても、負極保液層27を含む電池素子20を作製可能であるため、同様の効果を得ることができる。
【0116】
[変形例4]
多孔質膜であるセパレータ23を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、高分子化合物層を含む積層型のセパレータを用いてもよい。
【0117】
具体的には、積層型のセパレータは、一対の面を有する多孔質膜と、その多孔質膜の片面または両面に配置された高分子化合物層とを含んでいる。正極21および負極22のそれぞれに対するセパレータの密着性が向上するため、電池素子20の位置ずれ(巻きずれ)が抑制されるからである。これにより、電解液の分解反応などが発生しても、二次電池の膨れが抑制される。高分子化合物層は、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物を含んでいる。ポリフッ化ビニリデンなどは、物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。
【0118】
なお、多孔質膜および高分子化合物層のうちの一方または双方は、複数の絶縁性粒子のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。二次電池の発熱時において複数の絶縁性粒子が放熱するため、その二次電池の安全性(耐熱性)が向上するからである。複数の絶縁性粒子に関する詳細は、上記した通りである。
【0119】
積層型のセパレータを作製する場合には、高分子化合物および溶媒などを含む前駆溶液を調製したのち、多孔質膜の片面または両面に前駆溶液を塗布する。この場合には、必要に応じて、前駆溶液に複数の絶縁性粒子を添加してもよい。
【0120】
この積層型のセパレータを用いた場合においても、正極21と負極22との間においてリチウムイオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、上記したように、電池素子20の巻きずれが抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0121】
[変形例5]
図1および
図2では、巻回電極体である電池素子20を用いている。しかしながら、
図1に対応する
図3および
図2に対応する
図4に示したように、積層電極体である電池素子50を用いてもよい。以下では、随時、既に説明した
図1および
図2を参照する。
【0122】
図3および
図4に示したラミネートフィルム型の二次電池は、電池素子20(正極21、負極22、セパレータ23、正極電解質層24、負極電解質層25、正極保液層26および負極保液層27)および正極リード31および負極リード32の代わりに、電池素子50(正極51、負極52、セパレータ53、正極電解質層54、負極電解質層55、正極保液層56および負極保液層57)および正極リード58および負極リード59を備えていることを除いて、
図1および
図2に示したラミネートフィルム型の二次電池の構成とほぼ同様の構成を有している。
【0123】
正極51、負極52、セパレータ53、正極電解質層54、負極電解質層55、正極保液層56、負極保液層57、正極リード58および負極リード59のそれぞれの構成は、以下で説明することを除いて、正極21、負極22、セパレータ23、正極電解質層24、負極電解質層25、正極保液層26、負極保液層27、正極リード31および負極リード32のそれぞれの構成と同様である。
【0124】
すなわち、正極電解質層54の重量比R1と正極保液層56の重量比R2との関係および負極電解質層55の重量比R3と負極保液層57の重量比R4との関係は、上記した通りである。また、正極電解質層54の厚さT1と正極保液層56の厚さT2との関係および負極電解質層55の厚さT3と負極保液層57の厚さTとの関係は、上記した通りである。
【0125】
電池素子50では、正極51および負極52がセパレータ53、正極電解質層54および負極電解質層55を介して交互に積層されている。正極保液層56は、正極電解質層54に隣接されていると共に、負極保液層57は、負極電解質層55に隣接されている。正極51、負極52、セパレータ53、正極電解質層54および負極電解質層55のそれぞれの積層数は、特に限定されないため、任意に設定可能である。正極51は、正極集電体21Aおよび正極活物質層21Bに対応する正極集電体51Aおよび正極活物質層51Bを含んでいると共に、負極52は、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bに対応する負極集電体52Aおよび負極活物質層52Bを含んでいる。
【0126】
ただし、
図3および
図4に示したように、正極集電体51Aは、正極活物質層51Bが形成されていない突出部51ATを含んでいると共に、負極集電体52Aは、負極活物質層52Bが形成されていない突出部52ATを含んでいる。この突出部52ATは、突出部51ATと重ならない位置に配置されている。複数の突出部51ATは、互いに接合されているため、1本のリード状の接合部51Zを形成していると共に、複数の突出部52ATは、互いに接合されているため、1本のリード状の接合部52Zを形成している。正極リード58は、接合部51Zに接続されていると共に、負極リード59は、接合部52Zに接続されている。
【0127】
図3および
図4に示した二次電池の製造方法は、電池素子20の代わりに電池素子50を作製すると共に、正極リード31および負極リード32の代わりに正極リード58および負極リード59を用いて二次電池を組み立てることを除いて、
図1および
図2に示した二次電池の製造方法と同様である。
【0128】
具体的には、最初に、正極集電体51A(突出部51ATを除く。)の両面に正極活物質層51Bが形成された正極51と、負極集電体52A(突出部52ATを除く。)の両面に負極活物質層52Bが形成された負極52とを作製する。続いて、正極51の表面に正極電解質層54を形成すると共に、負極52の表面に負極電解質層55を形成する。また、セパレータ53の両面に正極保液層56および負極保液層57を形成する。続いて、正極保液層56および負極保液層57が形成されているセパレータ53を介して、正極電解質層54が形成されている正極51および負極電解質層55が形成されている負極52を交互に積層させることにより、電池素子50を作製する。
【0129】
続いて、溶接法などを用いて複数の突出部51ATを互いに接合させることにより、接合部51Zを形成すると共に、溶接法などを用いて複数の突出部52ATを互いに接合させることにより、接合部52Zを形成する。最後に、溶接法などを用いて突出部51ATに正極リード58を接続させると共に、溶接法などを用いて突出部52ATに負極リード59を接続させる。
【0130】
この積層電極体である電池素子50を用いた場合においても、巻回電極体である電池素子20を用いた場合と同様に、充放電繰り返しても放電容量の減少が抑制されるため、同様の効果を得ることができる。
【0131】
なお、上記した変形例1~4のそれぞれは、電池素子20の代わりに電池素子50に適用されてもよい。
【0132】
<3.二次電池の用途>
二次電池の用途(適用例)は、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、電子機器および電動車両などの主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、主電源の代わりに用いられる電源、または主電源から切り替えられる電源である。
【0133】
二次電池の用途の具体例は、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオおよび携帯用情報端末などの電子機器である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。電子機器などに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用または産業用のバッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。これらの用途では、1個の二次電池が用いられてもよいし、複数個の二次電池が用いられてもよい。
【0134】
電池パックは、単電池を用いてもよいし、組電池を用いてもよい。電動車両は、駆動用電源として二次電池を用いて作動(走行)する車両であり、その二次電池以外の他の駆動源を併せて備えたハイブリッド自動車でもよい。家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に蓄積された電力を利用して、家庭用の電気製品などを使用可能である。
【0135】
ここで、二次電池の適用例の一例に関して具体的に説明する。以下で説明する適用例の構成は、あくまで一例であるため、適宜、変更可能である。
【0136】
図5は、電池パックのブロック構成を表している。ここで説明する電池パックは、1個の二次電池を用いた電池パック(いわゆるソフトパック)であり、スマートフォンに代表される電子機器などに搭載される。
【0137】
この電池パックは、
図5に示したように、電源61と、回路基板62とを備えている。この回路基板62は、電源61に接続されていると共に、正極端子63、負極端子64および温度検出端子65を含んでいる。
【0138】
電源61は、1個の二次電池を含んでいる。この二次電池では、正極リードが正極端子63に接続されていると共に、負極リードが負極端子64に接続されている。この電源61は、正極端子63および負極端子64を介して外部と接続可能であるため、充放電可能である。回路基板62は、制御部66と、スイッチ67と、熱感抵抗素子(PTC素子)68と、温度検出部69とを含んでいる。ただし、PTC素子68は省略されてもよい。
【0139】
制御部66は、中央演算処理装置(CPU)およびメモリなどを含んでおり、電池パック全体の動作を制御する。この制御部66は、必要に応じて電源61の使用状態の検出および制御を行う。
【0140】
なお、制御部66は、電源61(二次電池)の電圧が過充電検出電圧または過放電検出電圧に到達すると、スイッチ67を切断することにより、電源61の電流経路に充電電流が流れないようにする。過充電検出電圧は、特に限定されないが、具体的には、4.2V±0.05Vであると共に、過放電検出電圧は、特に限定されないが、具体的には、2.4V±0.1Vである。
【0141】
スイッチ67は、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオードなどを含んでおり、制御部66の指示に応じて電源61と外部機器との接続の有無を切り換える。このスイッチ67は、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などを含んでおり、充放電電流は、スイッチ67のON抵抗に基づいて検出される。
【0142】
温度検出部69は、サーミスタなどの温度検出素子を含んでおり、温度検出端子65を用いて電源61の温度を測定すると共に、その温度の測定結果を制御部66に出力する。温度検出部69により測定される温度の測定結果は、異常発熱時において制御部66が充放電制御を行う場合および残容量の算出時において制御部66が補正処理を行う場合などに用いられる。
【実施例】
【0143】
本技術の実施例に関して説明する。
【0144】
<実施例1~11および比較例1~3>
以下で説明するように、二次電池を作製したのち、その二次電池の電池特性を評価した。
【0145】
[二次電池の作製]
以下の手順により、
図1および
図2に示した電池素子20(巻回電極体)を備えたラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0146】
(正極の作製)
最初に、正極活物質(リチウム含有化合物(酸化物)であるLiNi0.80Co0.15Al0.05O2 )96質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(カーボンブラック)1質量部とを互いに混合させることにより、正極合剤とした。続いて、溶媒(有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体21A(厚さ=15μmであるアルミニウム箔)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層21Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層21Bを圧縮成型したのち、その正極活物質層21Bが形成されている正極集電体21Aを帯状(48mm×300mm)となるように切断した。これにより、正極21が作製された。
【0147】
(負極の作製)
最初に、負極活物質(炭素材料である人造黒鉛)90質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)10質量部とを互いに混合させることにより、負極合剤とした。続いて、溶媒(有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン)に負極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体22A(厚さ=15μmである銅箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層22Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層22Bを圧縮成型したのち、その負極活物質層22Bが形成されている負極集電体22Aを帯状(50mm×310mm)となるように切断した。これにより、負極22が作製された。
【0148】
(正極電解質層の形成)
最初に、溶媒(炭酸エステル系化合物である炭酸エチレン(EC)および炭酸プロピレン(PC))に電解質塩(リチウム塩であるLiPF6 )を投入したのち、その溶媒を撹拌した。この場合には、溶媒の混合比(重量比)を炭酸エチレン:炭酸プロピレン=50:50、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0149】
高分子化合物としては、フッ化ビニリデンの単独重合体であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、6種類のフッ化ビニリデンの共重合体とを用いた。6種類のフッ化ビニリデンの共重合体としては、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(VH)と、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと不飽和二塩基酸(マレイン酸)との共重合体(VHMA)と、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと不飽和二塩基酸モノエステル(マレイン酸モノメチルエステル)との共重合体(VHMMM)と、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと不飽和二塩基酸モノエステル(マレイン酸モノエチルエステル)との共重合体(VHMME)と、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと不飽和二塩基酸モノエステル(シトラコン酸モノメチルエステル)との共重合体(VHCMM)と、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと不飽和二塩基酸モノエステル(シトラコン酸モノエチルエステル)との共重合体(VHCME)とを用いた。これにより、電解液が調製された。
【0150】
続いて、電解液と、高分子化合物と、追加の溶媒(炭酸ジメチル)とを互いに混合させることにより、混合溶液を調製した。続いて、ホモジナイザを用いて混合溶液を加熱しながら撹拌することにより(加熱温度=80℃,撹拌時間=30分間~1時間)、ゾル状の前駆溶液を調整した。最後に、正極21の表面に前駆溶液を塗布したのち、その前駆溶液を乾燥させることにより、正極電解質層24を形成した。この正極電解質層24を形成する場合には、電解液と高分子化合物との混合比を調整することにより、重量比R1を制御すると共に、前駆溶液の塗布量を調整することにより、厚さT1(μm)を制御した。重量比R1および厚さT1のそれぞれに関する詳細は、表1に示した通りである。
【0151】
(負極電解質層の形成)
負極22の表面に前駆溶液を塗布したことを除いて、正極電解質層24の形成手順と同様の手順により、負極電解質層25を形成した。重量比R3および厚さT3のそれぞれに関する詳細は、表1に示した通りである。
【0152】
(正極保液層の形成)
セパレータ23(厚さ=11μmである微孔性ポリプロピレンフィルム)の一面に前駆溶液を塗布したことを除いて、正極電解質層24の形成手順と同様の手順により、正極保液層26を形成した。この場合には、電解液と高分子化合物との混合比を調整することにより、正極保液層26の重量比R2が正極電解質層24の重量比R1よりも大きくなるようにした。重量比R2および厚さT2のそれぞれに関する詳細は、表1に示した通りである。
【0153】
(負極保液層の形成)
セパレータ23の一面(正極保液層26が形成された面とは反対側の面)に前駆溶液を塗布したことを除いて、正極電解質層24の形成手順と同様の手順により、負極保液層27を形成した。この場合には、電解液と高分子化合物との混合比を調整することにより、負極保液層27の重量比R4が負極電解質層25の重量比R3よりも大きくなるようにした。重量比R4および厚さT4のそれぞれに関する詳細は、表1に示した通りである。
【0154】
実施例1~10および比較例1~3では、正極電解質層24、負極電解質層25、正極保液層26および負極保液層27のそれぞれを形成するために、互いに共通する組成を有する電解液を用いたと共に、互いに共通する種類の高分子化合物を用いた。表1に「高分子化合物」の欄を1個だけ示しているのは、上記したように、正極電解質層24、負極電解質層25、正極保液層26および負極保液層27のそれぞれにおいて互いに共通する種類の高分子化合物を用いたことを表している。
【0155】
実施例11では、正極電解質層24および負極電解質層25のそれぞれを形成するために用いた高分子化合物の種類と、正極保液層26および負極保液層27のそれぞれを形成するために用いた高分子化合物の種類とを互いに異ならせた。具体的には、正極電解質層24および負極電解質層25のそれぞれを形成するためにPVDFを用いたと共に、正極保液層26および負極保液層27のそれぞれを形成するためにVHMMMを用いた。
【0156】
なお、比較のために、正極保液層26および負極保液層27の双方を形成しなかった。また、比較のために、重量比R2が重量比R1以下となるように正極保液層26を形成したと共に、重量比R4が重量比R3以下となるように負極保液層27を形成した。
【0157】
(二次電池の組み立て)
最初に、正極21の正極集電体21Aにアルミニウム製の正極リード31を溶接したと共に、負極22の負極集電体22Aに銅製の負極リード32を溶接した。
【0158】
続いて、正極保液層26および負極保液層27が形成されているセパレータ23を介して、正極電解質層24が形成されている正極21と、負極電解質層25が形成されている負極22とを互いに積層させた。続いて、正極21、負極22、セパレータ23、正極電解質層24、負極電解質層25、正極保液層26および負極保液層27を巻回させることにより、電池素子20を作製した。続いて、プレス機を用いて電池素子20をプレスすることにより、その電池素子20を扁平形状となるように成型した。
【0159】
続いて、窪み部10Uの内部に電池素子20を収容したのち、外装フィルム10(融着層/金属層/表面保護層)を折り畳むことにより、その外装フィルム10同士を互いに対向させた。外装フィルム10としては、融着層(厚さ=30μmであるポリプロピレンフィルム)と、金属層(厚さ=40μmであるアルミニウム箔)と、表面保護層(厚さ=25μmであるナイロンフィルム)とが内側からこの順に積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。
【0160】
最後に、互いに対向する外装フィルム10(融着層)のうちの3辺の外周縁部同士を互いに熱融着させた。この場合には、外装フィルム10と正極リード31との間に封止フィルム41(厚さ=5μmであるポリプロピレンフィルム)を挿入すると共に、外装フィルム10と負極リード32との間に封止フィルム42(厚さ=5μmであるポリプロピレンフィルム)を挿入した。これにより、袋状の外装フィルム10の内部に電池素子20が封入されたため、二次電池が組み立てられた。
【0161】
(二次電池の安定化)
常温環境中(温度=23℃)において二次電池を1サイクル充放電させた。充電時には、0.1Cの電流で電圧が4.2Vに到達するまで定電流充電したのち、その4.2Vの電圧で電流が0.05Cに到達するまで定電圧充電した。放電時には、0.1Cの電流で電圧が3.0Vに到達するまで定電流放電した。0.1Cとは、電池容量(理論容量)を10時間で放電しきる電流値であると共に、0.05Cとは、電池容量を20時間で放電しきる電流値である。これにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
【0162】
[電池特性の評価]
二次電池の電池特性(サイクル特性)を評価したところ、表1に示した結果が得られた。
【0163】
サイクル特性を調べる場合には、最初に、常温環境中(温度=23℃)において二次電池を充放電させることにより、放電容量(1サイクル目の放電容量)を測定した。続いて、同環境中においてサイクル数が300サイクルに到達するまで二次電池を繰り返して充放電させることにより、放電容量(300サイクル目の放電容量)を測定した。最後に、容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100という計算式に基づいて、サイクル特性を評価するための指標である容量維持率を算出した。
【0164】
充放電条件は、充電時の電流および放電時の電流のそれぞれを0.5Cに変更したことを除いて、二次電池の安定化時の充放電条件と同様にした。0.5Cとは、電池容量を2時間で放電しきる電流値である。
【0165】
【0166】
[考察]
表1に示したように、容量維持率は、二次電池の構成に応じて大きく変動した。
【0167】
具体的には、正極保液層26および負極保液層27の双方を用いなかった場合(比較例1)には、容量維持率が著しく減少した。
【0168】
これに対して、正極保液層26および負極保液層27の双方を用いた場合(実施例1~11および比較例2,3)には、重量比R1~R4に応じて容量維持率に大きな差異が生じた。
【0169】
すなわち、重量比R2が重量比R1以下であると共に重量比R4が重量比R3以下である場合(比較例2,3)には、正極保液層26および負極保液層27の双方を用いなかった場合(比較例1)と比較して、容量維持率がごく僅かに増加した。しかしながら、容量維持率はほぼ維持されたままであるため、依然として著しく減少したままであった。
【0170】
重量比R2が重量比R1よりも大きいと共に重量比R4が重量比R3よりも大きい場合(実施例1~11)には、正極保液層26および負極保液層27の双方を用いなかった場合(比較例1)と比較して、容量維持率が著しく増加した。この場合には、容量維持率が2倍以上になったため、その容量維持率が飛躍的に増加した。
【0171】
特に、重量比R2が重量比R1よりも大きいと共に重量比R4が重量比R3よりも大きい場合には、以下で説明する一連の傾向が得られた。
【0172】
第1に、厚さT2が厚さT1よりも大きいと共に厚さT4が厚さT3よりも大きいと、容量維持率がより増加した。
【0173】
第2に、高分子化合物としてフッ化ビニリデンの共重合体を用い、より具体的にはフッ化ビニリデンの共重合体が重合成分としてヘキサフルオロプロピレンを含んでいると、容量維持率がより増加した。この場合には、フッ化ビニリデンの共重合体がさらに重合成分として不飽和二塩基酸および不飽和二塩基酸モノエステルのうちのいずれかを含んでいると、容量維持率がさらに増加した。
【0174】
<実施例12~20>
表2に示したように、正極電解質層24、負極電解質層25、正極保液層26および負極保液層27のそれぞれに複数の絶縁性粒子を含有させたことを除いて実施例2と同様の手順により、二次電池を作製したと共に電池特性を評価した。
【0175】
正極電解質層24、負極電解質層25、正極保液層26および負極保液層27のそれぞれを形成する場合には、電解液、高分子化合物および追加の溶媒(炭酸ジメチル)に複数の絶縁性粒子を添加したことを除いて同様の手順を経た。複数の絶縁性粒子の材質(絶縁性材料)としては、粉末状の無機材料である酸化アルミニウム(Al2 O3 ,メジアン径D50=0.4μm)および酸化チタン(TiO2 ,メジアン径D50=0.4μm)と、粉末状の高分子化合物であるアクリル樹脂(メジアン径D50=0.4μm)とを用いた。複数の絶縁性粒子の添加量は、電解液の重量と高分子化合物の重量との和に対して2.5重量%とした。
【0176】
【0177】
表2に示したように、正極電解質層24、負極電解質層25、正極保液層26および負極保液層27のそれぞれが複数の絶縁性粒子を含んでいると(実施例12~20)、容量維持率がより増加した。
【0178】
<実施例21~27および比較例4~6>
表3に示したように、
図1および
図2に示した電池素子20(巻回電極体)を備えたラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池の代わりに、
図3および
図4に示した電池素子50(積層電極体)を備えたラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を作製したこと除いて、実施例1~20および比較例1~3と同様の手順により、二次電池を作製したと共に電池特性を評価した。
【0179】
電池素子50を備えた二次電池の製造手順は、以下で説明することを除いて、電池素子20を備えた二次電池の製造手順と同様である。
【0180】
正極保液層56および負極保液層57が形成されているセパレータ53を介して、正極電解質層54が形成されている正極51および負極電解質層55が形成されている負極52を交互に積層させることにより、電池素子50を作製した。続いて、複数の突出部51ATを互いに溶接させることにより、接合部51Zを形成したと共に、複数の突出部52ATを互いに溶接させることにより、接合部52Zを形成した。続いて、突出部51ATに正極リード58を溶接したと共に、突出部52ATに負極リード59を溶接した。
【0181】
【0182】
表3に示したように、電池素子50(積層電極体)を用いた場合(実施例21~27および比較例4~6)においても、電池素子20(巻回電極体)を用いた場合(実施例1~20および比較例1~3)と同様の結果が得られた。
【0183】
すなわち、正極保液層56および負極保液層57の双方を用いなかった場合(比較例4)には、容量維持率が著しく減少した。また、正極保液層56および負極保液層57のそれぞれを用いても、重量比R2が重量比R1以下であると共に重量比R4が重量比R3以下である場合(比較例5,6)には、依然として容量維持率が著しく減少したままであった。
【0184】
これに対して、正極保液層56および負極保液層57の双方を用いることにより、重量比R2が重量比R1よりも大きいと共に重量比R4が重量比R3よりも大きい場合(実施例21~27)には、容量維持率が著しく増加した。この他、表1に関して説明した一連の傾向も同様に得られた。
【0185】
[まとめ]
表1~表3に示した結果から、正極21とセパレータ23との間に正極電解質層24が配置されており、その正極電解質層24に正極保液層26が隣接されており、その正極保液層26の重量比R2が正極電解質層24の重量比R1よりも大きいと、容量維持率が大幅に改善された。よって、二次電池において優れたサイクル特性が得られた。
【0186】
また、負極22とセパレータ23との間に負極電解質層25が配置されており、その負極電解質層25に負極保液層27が隣接されており、その負極保液層27の重量比R4が負極電解質層25の重量比R3よりも大きい場合においても、容量維持率が大幅に改善されたため、二次電池において優れたサイクル特性が得られた。
【0187】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の構成は、一実施形態および実施例において説明された構成に限定されないため、種々に変形可能である。
【0188】
二次電池の電池構造がラミネートフィルム型である場合に関して説明したが、その電池構造の種類は、特に限定されない。具体的には、電池構造は、円筒型、角型、コイン型およびボタン型などでもよい。
【0189】
また、電池素子の構成が巻回型および積層型である場合に関して説明したが、その電池素子の構成は、特に限定されない。具体的には、電池素子の構成は、正極および負極がジグザグに折り畳まれた九十九折り型などでもよい。
【0190】
さらに、電極反応物質がリチウムである場合に関して説明したが、その電極反応物質の種類は、特に限定されない。具体的には、電極反応物質は、上記したように、ナトリウムおよびカリウムなどの他のアルカリ金属でもよいし、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属でもよい。この他、電極反応物質は、アルミニウムなどの他の軽金属でもよい。
【0191】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して、他の効果が得られてもよい。