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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ヒートシール紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/40 20060101AFI20240709BHJP
   D21H 19/44 20060101ALI20240709BHJP
   D21H 19/58 20060101ALI20240709BHJP
   D21H 19/82 20060101ALI20240709BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20240709BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
D21H19/40
D21H19/44
D21H19/58
D21H19/82
B65D65/42 C
B32B29/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023066941
(22)【出願日】2023-04-17
(62)【分割の表示】P 2020113010の分割
【原出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2023086819
(43)【公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯▲崎▼ 友史
(72)【発明者】
【氏名】野一色 泰友
(72)【発明者】
【氏名】鶴原 正啓
(72)【発明者】
【氏名】社本 裕太
(72)【発明者】
【氏名】田中 三代子
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/099787(WO,A1)
【文献】特開昭56-058096(JP,A)
【文献】特開2001-172898(JP,A)
【文献】特開平10-278189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00- 27/42
B65D 65/00- 65/46
B32B 1/00- 43/00
C09D 1/00- 10/00
101/10-201/10
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール層を有するヒートシール紙であり、
該ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、アスペクト比が20以上の顔料を15質量部以上60質量部以下含有し、
該水分散性樹脂バインダーが、エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸共重合体を含み、
該ヒートシール紙の王研式透気抵抗度が75,000秒以上であり、
紙基材の王研式平滑度が150秒以上であり、
紙基材の透過光地合指数が20以上50以下であり、
紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール層が2層以上形成されてなる、
ヒートシール紙。
【請求項2】
紙基材の少なくとも一方の面に、ヒートシール層が2層形成されてなる、請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項3】
ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、滑剤を10質量部以上30質量部以下含有する、請求項1または2に記載のヒートシール紙。
【請求項4】
ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダーを50質量%以上含有する、請求項1~3のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項5】
紙基材の王研式平滑度が500秒以下である、請求項1~4のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項6】
ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、アスペクト比が20以上の顔料を40質量部以上60質量部以下含有する、請求項1~5のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項7】
ヒートシール層の塗工量が2g/m以上15g/m以下である、請求項1~6のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項8】
ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、3.0N/15mm以上である、請求項1~7のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項9】
ヒートシール紙再離解後のパルプ回収率が85%以上である、請求項1~8のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項10】
顔料がカオリンを含む、請求項1~9のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のヒートシール紙を用いてなる、包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減を目的として、各種プラスチック製品の紙製品への転換が望まれている。その対策として、プラスチックを紙に代替することが提案されているが、紙を袋や容器に加工する際には、ヒートシール性が要求される。
従来、ヒートシール性を付与するために、紙基材にポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルムをラミネートしたラミネート紙が、使用されてきたが、再生時にポリエチレンフィルムの除去が困難であり、再生利用性に劣るという問題があった。
このような問題に対応するために、特許文献1には、プラスチックの使用量を低減することができる包装用紙を提供することを目的として、紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1 層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/mであり、前記ヒートシール層が少なくとも一方の面に2層以上形成されていることを特徴とする包装用紙が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6580291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒートシール紙は、連続的に製造する場合、ロールに巻き取りながら製造されるが、その際に、巻き取られたヒートシール紙のヒートシール層塗工面が、ヒートシール紙の裏面に貼り付き、剥がれが生じる(ブロッキングする)という問題がある。このような問題について、特許文献1では検討されていない。
さらに、紙基材を使用しているため、従来のヒートシール紙は、密封袋状にしたときに、中の空気が抜けてしまい、輸送中に内容物が変形したり、破損する場合があった。
本発明は、ヒートシール性および耐ブロッキング性に優れ、さらに、再離解後のパルプ回収率に優れると共に、空気密封性に優れた包装袋が得られるヒートシール紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、紙基材上にヒートシール層を有し、該ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダーに対して、アスペクト比が20以上の顔料を特定量含有し、さらに、ヒートシール紙の透気抵抗度が特定値以上であることにより、ヒートシール性および耐ブロッキング性に優れ、さらに、再離解後のパルプ回収率に優れると共に、空気密封性に優れた包装袋が得られるヒートシール紙が得られることを見出した。
本発明は以下の<1>~<13>に関する。
<1> 紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール層を有するヒートシール紙であり、該ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、アスペクト比が20以上の顔料を15質量部以上60質量部以下含有し、該ヒートシール紙の王研式透気抵抗度が75,000秒以上である、ヒートシール紙。
<2> 紙基材の少なくとも一方の面に、ヒートシール層が2層以上形成されてなる、<1>に記載のヒートシール紙。
<3> ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、滑剤を10質量部以上30質量部以下含有する、<1>または<2>に記載のヒートシール紙。
<4> 水分散性樹脂バインダーが、エチレン共重合体である、<1>~<3>のいずれかに記載のヒートシール紙。
<5> エチレン共重合体が、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、およびエチレン-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体よりなる群から選択される、<4>に記載のヒートシール紙。
<6> 水分散性樹脂バインダーが、エチレン-酢酸ビニル共重合体である、<1>~<5>のいずれかに記載のヒートシール紙。
<7> ヒートシール層が、エチレン-酢酸ビニル共重合体を50質量%以上含有する、<1>~<6>のいずれかに記載のヒートシール紙。
<8> 紙基材の王研式平滑度が10秒以上500秒以下である、<1>~<7>のいずれかに記載のヒートシール紙。
<9> 紙基材の透過光地合指数が20以上50以下である、<1>~<8>のいずれかに記載のヒートシール紙。
<10> ヒートシール層の塗工量が2g/m以上15g/m以下である、<1>~<9>のいずれかに記載のヒートシール紙。
<11> ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、3.0N/15mm以上である、<1>~<10>のいずれかに記載のヒートシール紙。
<12> ヒートシール紙再離解後のパルプ回収率が85%以上である、<1>~<11>のいずれかに記載のヒートシール紙。
<13> <1>~<12>のいずれかに記載のヒートシール紙を用いてなる、包装袋。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ヒートシール性および耐ブロッキング性に優れ、さらに、再離解後のパルプ回収率に優れると共に、空気密封性に優れた包装袋が得られる優れたヒートシール紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[ヒートシール紙]
本発明のヒートシール紙は、紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール層を有するヒートシール紙であり、該ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、アスペクト比が20以上の顔料を15質量部以上60質量部以下含有し、該ヒートシール紙の王研式透気抵抗度が75,000秒以上である。
本発明によれば、ヒートシール性および耐ブロッキング性に優れ、さらに、再離解後のパルプ回収率に優れると共に、空気密封性に優れた包装袋が得られるヒートシール紙を提供することができる。
上述した効果が得られる詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように考えられる。本発明では、ヒートシール層が、アスペクト比が20以上の顔料を、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、15質量部以上60質量部以下含有する。これにより、ヒートシール性を低下させることなく、耐ブロッキング性が向上したものと考えられ、また、アスペクト比が20以上の顔料を特定量含有することにより、高い透気抵抗度が得られたものと考えられる。また、王研式透気抵抗度を75,000秒以上とすることにより、空気密封性に優れたヒートシール紙が得られる。さらに、水分散性バインダーを使用することにより、ヒートシール性を付与しつつ、再離解性に優れ、パルプの回収率に優れ、再生利用性に優れたヒートシール紙が得られたものと考えられる。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0008】
<ヒートシール層>
本発明において、ヒートシール紙は、紙基材の少なくとも一方の面に、ヒートシール層を有する。
なお、本発明のヒートシール紙は、ヒートシール層を紙基材の両方の面に有していてもよい。また、ヒートシール性を付与する観点から、少なくとも一方の面の最上層にヒートシール層を有しており、ヒートシール層が一方の面に2層以上形成されていてもよい。
【0009】
〔水分散性樹脂バインダー〕
本発明において、ヒートシール層は、水分散性樹脂バインダーを含有する。
水分散性樹脂バインダーとしては、水分散性の樹脂であり、顔料に対して結合剤として機能すると共に、ヒートシール性を付与可能な樹脂であればとくに限定されない。また、水分散性樹脂バインダーは、ディスパージョン型の水分散性樹脂バインダーであってもよく、エマルション型の水分散性樹脂バインダーであってもよい。水分散性樹脂バインダーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明のヒートシール紙は、ヒートシール層が水分散性樹脂バインダーを含有することにより、水系塗工液を使用してヒートシール層を塗工することができるため、VOC(Volatile Organic Compound、揮発性有機化合物)の問題が抑制されるので好ましい。
【0010】
本発明において、水分散性樹脂バインダーは、ヒートシール性および顔料分散性の観点から、エチレン共重合体であることが好ましい。
エチレン共重合体として、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、およびエチレン-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体が例示される。
【0011】
(エチレン-酢酸ビニル共重合体)
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、少なくともエチレンと酢酸ビニルとが共重合した共重合体であり、場合により他のモノマーがさらに共重合されていてもよい。他のモノマーに由来する構成単位の含有量は、共重合体全体の好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、よりさらに好ましくは1質量%以下である。
上記エチレン-酢酸ビニル共重合体は、ヒートシール強度の観点から、共重合体を構成する全モノマー中のエチレンの割合が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
また、エチレン-酢酸ビニル共重合体のガラス転移温度は、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下、さらに好ましくは10℃以下であり、そして、好ましくは-30℃以上、より好ましくは-20℃以上、さらに好ましくは-10℃以上である。
【0012】
(エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸共重合体)
上記エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸共重合体としては、例えば、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体などが挙げられる。
なお、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体は、アイオノマーとしてヒートシール層に配合されたものであってもよい。すなわち、少なくともヒートシール層を作製する際に、その原料としてアイオノマーが使用されることが好ましく、製造後において、ヒートシール層がアイオノマーの形でエチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有していなくてもよい。
ここで、アイオノマーとは、陽イオンによる凝集力を利用し、高分子を凝集体とした合成樹脂の総称であり、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体を陽イオンで凝集体とした合成樹脂は、全てアイオノマーに該当する。
陽イオンとしては、金属イオンの他、アンモニウムイオン(NH )、有機アンモニウムイオンが例示される。
金属イオンとしては、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)等のアルカリ土類金属イオン、亜鉛イオン(Zn2+)、銅イオン(Cu2+)等の遷移金属イオン等が例示される。これらの中でも、入手容易性等の観点から、金属イオンとしては、ナトリウムイオンが好ましい。
エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体アイオノマーであることが好ましく、エチレン-メタクリル酸共重合体の金属塩、エチレン-アクリル酸共重合体の金属塩、エチレン-アクリル酸共重合体のアンモニウム塩であることがより好ましく、エチレン-アクリル酸共重合体の金属塩、エチレン-アクリル酸共重合体のアンモニウム塩であることがさらに好ましく、エチレン-アクリル酸共重合体のアンモニウム塩であることがよりさらに好ましい。
【0013】
エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体中の(メタ)アクリル酸の共重合比率は、ヒートシール性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、よりさらに好ましくは18質量%以上、よりさらに好ましくは20.0質量%以上、とくに好ましくは20.5質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは27質量%以下、よりさらに好ましくは24質量%以下、とくに好ましくは22質量%以下である。
【0014】
前記エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体アイオノマーとしては、例えば、ケミパールシリーズ(三井化学(株)製)、ザイクセンシリーズ(住友精化(株)製)等が例示される。
【0015】
(エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体)
上記エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体としては、例えば、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルとしては、メタノール、エタノール等炭素数1~8の脂肪族アルコールとのエステルが好適に使用される。上記エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体の中でも、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、もしくはエチレン-メタクリル酸メチル共重合体が汎用性の面から好ましい。
【0016】
なお、エチレン共重合体は、3成分以上のモノマーを共重合してなる多元共重合体であってもよい。上記多元共重合体としては、例えば、エチレン、脂肪族不飽和カルボン酸エステルおよび酸無水物から選ばれる少なくとも3種類のモノマーを共重合してなる共重合体等が挙げられる。
【0017】
これらの中でも、エチレン共重合体としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体は、伸びやすく、紙基材に染み込みにくいため、紙基材上に均一なヒートシール層を形成することができる。その結果、ヒートシール強度に優れたヒートシール紙を得ることができるので好ましい。
また、ヒートシール層の固形分中の水分散性樹脂バインダーの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、とくに好ましくは65質量%以下である。
ヒートシール層の固形分中のエチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、とくに好ましくは65質量%以下である。
【0018】
〔顔料〕
本発明において、ヒートシール層は、上記水分散性樹脂バインダーに加えて、アスペクト比が20以上の顔料が配合されてなる。
顔料としては、アスペクト比が20以上であれば、とくに限定されるものではなく、従来の顔料塗工層に使用されている各種顔料が例示される。顔料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。顔料のアスペクト比は、ヒートシール剥離強度の低下を抑えつつ耐ブロッキング性および透気抵抗度を向上させる観点から、20以上であり、好ましくは25以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは60以上であり、そして、入手容易性およびヒートシール層表面の平滑性の観点から、好ましくは10,000以下、より好ましくは1,000以下、さらに好ましくは300以下である。
顔料のアスペクト比は、長径/短径を意味し、実施例に記載の方法により測定される。
【0019】
顔料は、アスペクト比20以上の層状無機化合物であることが好ましい。層状無機化合物の形態は、平板状である。
顔料とバインダーとの混合溶液を作製し、紙基材上に塗工すると、ヒートシール層が形成される。ヒートシール層内においては、顔料が平板状の層状無機化合物であると、顔料が紙基材の平面(表面)とほぼ平行に積層した状態に配列する。そうすると、平面方向では層状無機化合物が存在していない面積が小さくなることから、透気抵抗度が向上する。また、厚さ方向では平板状の層状無機化合物が紙基材平面に対して平行に配列して存在するため、空気は、層中の層状無機化合物を迂回しながら透過することとなり、迷路効果によって高い透気抵抗度が得られる。さらに、顔料が平板状であると、顔料のヒートシール層表面からの突出が抑制され、ヒートシール性を維持しつつ、耐ブロッキング性に優れたヒートシール層が得られる。
【0020】
顔料は、長さ(平均粒子径)が0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。長さが0.1μm以上であると、顔料が紙基材に対して平行に配列し易い。また、長さが100μm以下であると顔料の一部がヒートシール層から突出する懸念が少ない。顔料の長さは、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上、とくに好ましくは1.0μm以上であり、そして、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下、とくに好ましくは15μm以下である。
ここで、ヒートシール層中に含まれている状態での顔料の長さは、以下のようにして求められる。ヒートシール層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影する。このとき、画面内に顔料が20~30個程度含まれる倍率とする。画面内の顔料の個々の長さを測定する。そして、得られた長さの平均値を算出して、顔料の長さとする。なお、顔料の長さは、粒子径という表現で記載されることもある。
【0021】
顔料は、厚さが200nm以下であることが好ましい。顔料の厚さは、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは80nm以下、よりさらに好ましくは50nm以下、とくに好ましくは30nm以下である。また、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。顔料の平均厚さが小さい方が、ヒートシール層中における顔料の積層数が大きくなるため、高い透気抵抗度を得ることができる。ここで、ヒートシール層中に含まれている状態での顔料の厚さは、以下のようにして求められる。ヒートシール層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影する。このとき、画面内に顔料が20~30個程度含まれる倍率とする。画面内の顔料の個々の厚さを測定する。そして、得られた厚さの平均値を算出して、顔料の厚さとする。
【0022】
アスペクト比が20以上の顔料の具体例としては、マイカ、ベントナイト、カオリン、パイロフィライト、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、緑泥石、セプテ緑泥石、蛇紋石、スチルプノメレーン、モンモリロナイトなどが挙げられる。
マイカの具体例としては、合成マイカ(例えば、膨潤性合成マイカ)、白雲母(マスコバイト)、絹雲母(セリサイト)、金雲母(フロコパイト)、黒雲母(バイオタイト)、フッ素金雲母(人造雲母)、紅マイカ、ソーダマイカ、バナジンマイカ、イライト、チンマイカ、パラゴナイト、ブリトル雲母などが挙げられる。また、ベントナイトの具体例としては、モンモリロナイトが挙げられる。
カオリンの具体例としては、カオリン、焼成カオリン、構造化カオリン、デラミネーテッドカオリン等の各種カオリンが例示される。
これらの中でもとくに、透気抵抗度の向上および耐ブロッキング性の観点、ならびに経済性の観点から、マイカ、ベントナイト、カオリンおよびタルクのうちいずれか1種以上を含有することが好ましく、カオリンがより好ましい。
【0023】
なお、本発明において、顔料として、アスペクト比が20未満である顔料を併用してもよいが、アスペクト比が20未満である顔料の含有量は、アスペクト比が20以上である顔料100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下であり、0質量部であってもよい。
【0024】
本発明において、ヒートシール層は、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、アスペクト比が20以上の顔料を15質量部以上60質量部以上含有する。アスペクト比が20以上の顔料の含有量が上記範囲内であると、ヒートシール性に優れると共に、耐ブロッキング性に優れ、さらに、透気抵抗度の高いヒートシール紙が得られる。
水分散性樹脂バインダー100質量部に対する、アスペクト比が20以上の顔料の含有量は、15質量部以上であり、好ましくは20質量部以上、より好ましくは25質量部以上であり、さらに好ましくは40質量部以上、とくに好ましくは45質量部以上である。また、60質量部以下であり、好ましくは55質量部以下である。
なお、前記水分散性樹脂バインダーは、固形分量を意味し、水分散性樹脂バインダーの固形分100質量部に対する、アスペクト比が20以上の含有量の含有量を規定している。
【0025】
〔滑剤〕
ヒートシール層は、上述した水分散性樹脂バインダーおよび顔料に加えて、滑剤を含有することが好ましい。滑剤を含有することにより、耐ブロッキング性により優れたヒートシール層が得られる。
滑剤としては、具体的にはパラフィン、ワックス等の炭化水素系滑剤、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸等の脂肪酸系滑剤、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド等の脂肪酸アミド系滑剤、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル等のエステル系滑剤、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール等のアルコール系滑剤、金属石鹸、混合系滑剤等が挙げられる。これらの滑剤は、天然由来でも合成品でもよく、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ヒートシール層における分散性の観点から、炭化水素系滑剤が好ましく、ポリオレフィンワックスがより好ましく、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスがさらに好ましく、低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックスがさらに好ましい。また、滑剤を溶液あるいは分散液とするために、可溶化剤、分散剤、乳化剤を併用してもよい。
滑剤として、市販されている製品を使用してもよく、具体的には、低分子量ポリエチレンワックスディスパージョン(三井化学(株)製、ケミパールW-310、ケミパールW-410、ケミパールW-800)などが例示される。
【0026】
ヒートシール層における滑剤の含有量は、耐ブロッキング性向上の観点から、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは14質量部以上、さらに好ましくは18質量部以上であり、そして、良好なヒートシール性を維持する観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは26質量部以下、さらに好ましくは22質量部以下である。
【0027】
本発明において、ヒートシール層は、上記水分散性樹脂バインダー、顔料、および滑剤に加えて、他の成分を添加してもよい。
他の成分としては、例えば、消泡剤;粘度調整剤;界面活性剤、アルコール等のレベリング剤;着色染料等の着色剤などが例示される。
なお、これらの他の成分は、ヒートシール性を悪化させる傾向があることから、他の成分の含有量の合計は、ヒートシール層の固形分中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0028】
〔ヒートシール層の形成方法〕
ヒートシール層は、少なくとも水分散性樹脂バインダーおよび顔料を含有するヒートシール層用塗工液を調製し、これを、紙基材の少なくとも一方の面に塗工することにより得られる。
ヒートシール層用塗工液は、自己乳化型ディスパーションであってもよく、界面活性剤等の乳化剤、分散剤を含有していてもよい。
【0029】
ヒートシール層用塗工液を塗工する方法としては、とくに限定されず、一般に使用されている塗工装置から適宜選択して使用すればよい。例えば、エアナイフコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、チャンプレックスコーター、メータリングブレード式のサイズプレスコーター、ショートドウェルコーター、スプレーコーター、ゲートロールコーター、リップコーター等の公知の各種塗工装置が挙げられる。
また、塗工液を塗工後、乾燥前に、塗工された塗工膜に発生する気泡や、該気泡が破泡した痕跡を、スムージングバーにより平滑化することが好ましい。具体的には、塗工液を塗工したした後、かつ乾燥装置に至る前に、塗工膜の表面にスムージングバーが接触するよう設ける。スムージングバーは、必要に応じて回転を加えて、塗工膜の表面に接するように設ける。これにより、ヒートシール層表面を平滑にすることができ、また、ピンホール等の発生を抑制し、透気抵抗度の高いヒートシール紙が得られる。また、顔料の配向性も向上し、ヒートシール層表面からの顔料の脱離なども抑制することができる。
【0030】
〔ヒートシール層の好ましい態様〕
本発明のヒートシール紙は、紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール層を有していればよく、紙基材の両面に有していてもよい。ヒートシール層は、ヒートシール性を付与する観点から、少なくとも最上層に設けられていることが好ましい。
【0031】
ヒートシール紙は、少なくとも一方の面にヒートシール層を有し、紙基材の少なくとも一方の面に、ヒートシール層が2層以上形成されていることが好ましい。ヒートシール層を2層以上形成することにより、ピンホール等の発生が抑制され、また、平滑な表面が得やすい。この結果、ヒートシール性に優れ、透気抵抗度の高いヒートシール紙が得られる。
なお、2層以上のヒートシール層を有する場合、2層以上のヒートシール層は、直接に接触する層として設けられていることが好ましく、最上層のシール層が、ヒートシール紙の最上層を構成していることが好ましい。
なお、ヒートシール層は、2層以上形成されていることが好ましく、製造容易性および多層とすることによる効果の観点から、好ましくは5層以下、より好ましくは4層以下、さらに好ましくは3層以下であり、2層であることが最も好ましい。
ヒートシール層が2層以上形成されているとき、少なくとも1層(例えば、最上層)のヒートシール層が上記顔料を含んでいればよいが、ヒートシール紙の透気抵抗度をさらに向上させる観点からは、2層以上(例えば、最上層を含む2層以上)のヒートシール層が上記顔料を含むことが好ましく、全てのヒートシール層が上記顔料を含むことがより好ましい。
【0032】
ヒートシール層の塗工量は、ヒートシール性および耐ブロッキング性に優れ、透気抵抗度の高いヒートシール紙とする観点から、好ましくは1g/m以上、より好ましくは2g/m以上、さらに好ましくは3g/m以上、さらに好ましくは5g/m以上であり、そして、好ましくは20g/m以下、より好ましくは15g/m以下、さらに好ましくは10g/m以下である。
なお、ヒートシール層の塗工量は、固形分での塗工量であり、また、ヒートシール紙が2層以上のヒートシール層を有する場合には、合計した塗工量を意味する。
2層のヒートシール層を有する場合、それぞれのヒートシール層の塗工量は、下層の塗工量は、上層の塗工量以上であることが好ましく、下層の塗工量と上層の塗工量が同じであることがより好ましい。
【0033】
<その他の層>
本発明において、ヒートシール紙は、ヒートシール層に加えて、紙基材とヒートシール層との間に、例えば、下塗り層を有していてもよい。下塗り層は、紙基材とヒートシール層との密着性を向上させる目的や、ヒートシール紙に耐水性等を付与する目的で設けることができる。すなわち、ヒートシール紙が下塗り層を有する場合、ヒートシール紙は、下塗り層およびヒートシール層をこの順で有することが好ましい。
下塗り層としては、例えば、顔料を含有しない水分散性バインダーからなる塗工液からなる層が例示される。
【0034】
<紙基材>
本発明のヒートシール紙は、紙基材上の少なくとも一方の面の最上層にヒートシール層を有する。
紙基材を構成するパルプとしては、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の化学パルプ;砕木パルプ(GP)、加圧式砕木パルプ(PGW)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、ケミグランドパルプ(CGP)等の機械パルプ;古紙パルプ;ケナフ、バガス、竹、コットン等の非木材繊維パルプ;合成パルプ等が挙げられる。これらのパルプは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)が好ましく、広葉樹晒クラフトパルプと、針葉樹晒クラフトパルプとを併用することも好ましい。
【0035】
パルプの叩解度は、とくに限定するものではないが、カナダ標準濾水度(CSF)として、200mL以上650mL以下が好ましく、350mL以上600mL以下がより好ましい。パルプのCSFが前記範囲内であれば、包装袋とする際に、必要な紙力が得られやすい。200mL以上であれば、繊維間結合が高くなりすぎて、包装袋等への加工の際に、ヒートシール層が破壊される現象の発生を抑えることができる。また、650mL以下であれば、紙表面の平滑性が良好となり、印刷適性を維持することができる。
CSFは、JIS P 8121-2:2012「パルプ-ろ水度試験方法-第2部:カナダ標準ろ水度法」に従って測定される。
【0036】
紙基材への添加剤としては、例えばpH調整剤(炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等)、乾燥紙力剤(ポリアクリルアミド、澱粉等)、湿潤紙力剤(ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂のいずれか)、内添サイズ剤(ロジン系、アルキルケテンダイマー等)、濾水歩留り向上剤、消泡剤、填料(炭酸カルシウム、タルク等)、染料等が挙げられる。これらの添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
添加剤の含有量は、とくに限定されず、通常用いられている範囲であってよい。
【0037】
紙基材の坪量は、とくに限定されないが、例えば包装袋用途であれば、30g/m以上150g/m以下が好ましく、50g/m以上100g/m以下がより好ましい。
紙基材の坪量は、JIS P 8124:2011に準拠して測定される。
紙基材の紙厚は、とくに限定されないが、例えば包装袋用途であれば、30μm以上150μm以下が好ましい。
紙基材の紙厚は、JIS P 8118:2014に準拠して測定される。
【0038】
紙基材の王研式平滑度は、ヒートシール性に優れ、透気抵抗度の高いヒートシール紙を得る観点から、好ましくは10秒以上、より好ましくは15秒以上、さらに好ましくは20秒以上であり、そして、耐ブロッキング性向上の観点から、好ましくは500秒以下、より好ましくは300秒以下、さらに好ましくは200秒以下であり、入手容易性や、紙基材選択性の観点から、よりさらに好ましくは100秒以下、とくに好ましくは50秒以下である。
紙基材の王研式平滑度は、JIS P 8155:2010に準拠して測定される。
【0039】
紙基材の透過光地合指数は、透気抵抗度の高いヒートシール紙を得る観点から、好ましくは20以上、より好ましくは22以上、さらに好ましくは24以上であり、そして、紙基材選択性の観点から、好ましくは50以下、より好ましくは45以下、さらに好ましくは40以下である。
透過光地合指数は、紙の均一性(ミクロの坪量の均一性)を示す指数であり、数値が大きいほど、地合が良好であることを意味する。地合指数を所定値の範囲内とすることにより、より透気抵抗度の高いヒートシール紙を得ることができる。また、紙基材の選択性を担保することができる。
透過光地合指数は、市販されている3Dシートアナライザーで紙基材の透過強度を測定し、厚さのバラつきを数値化することで得られる。本実施形態においては、M/Kシステム社製の3Dシートアナライザーを用いて、測定レンジ1(標準感度)、光源の絞り1.5mmで透過光地合指数を測定する。
【0040】
〔紙基材の製造方法〕
紙基材を製造する方法としては、パルプを含有する紙料を抄紙する方法が挙げられる。なお、紙料は、添加剤をさらに含有してもよい。添加剤としては、例えば前記で挙げた添加剤が挙げられる。
紙料は、パルプスラリーに添加剤を添加することにより調製できる。
パルプスラリーは、パルプを水の存在下で叩解することにより得られる。パルプの叩解方法、叩解装置はとくに限定されず、公知の叩解方法、叩解装置と同様であってよい。
紙料におけるパルプの含有量は、とくに限定されず、通常用いられている範囲であってよい。例えば、紙料の総質量に対して、60質量%以上100質量%未満である。
【0041】
紙料の抄紙は定法により実施できる。例えば、紙料をワイヤ等に流延させ、脱水して湿紙を得て、必要に応じて複数の湿紙を重ね、この単層または多層の湿紙をプレスし、乾燥させる方法が挙げられる。このとき、複数の湿紙を重ねない場合は単層抄きの紙が得られ、複数の湿紙を重ねる場合は多層抄きの紙が得られる。
複数の湿紙を重ねる際に、湿紙の表面(他の湿紙を重ねる面)に接着剤を塗布してもよい。
【0042】
<ヒートシール紙の物性>
本発明のヒートシール紙は、包装袋としたときの空気密封性の観点から、透気抵抗度(王研)が75,000秒以上である。透気抵抗度(王研)は、好ましくは80,000秒以上、より好ましくは85,000秒以上、さらに好ましくは90,000秒以上、とくに好ましくは99,999秒以上である。透気抵抗度の上限は、とくに限定されない。
透気抵抗度を上記範囲内とすることにより、空気を遮断する意味での遮断性が高くなり、包装袋としたときに、空気密封性にさらに優れるヒートシール紙が得られる。
透気抵抗度が75,000秒以上であるヒートシール紙は、ヒートシール層に特定のアスペクト比を有する顔料を特定量含有させること、特定の水分散性樹脂バインダーを選択すること、ヒートシール層の塗工量、層構成(単層または2層以上など)、塗工条件、紙基材の表面性等を適宜選択することにより得られる。
透気抵抗度度(王研)は、JIS P 8117:2009に準拠して測定される。
【0043】
本発明のヒートシール紙は、ヒートシール性を有する。
ヒートシールの条件はとくに限定されないが、ヒートシール時の温度は、例えば、好ましくは60℃以上300℃以下、より好ましくは70℃以上200℃以下、さらに好ましくは80℃以上180℃以下である。ヒートシール時の圧力は、例えば、好ましくは0.05MPa以上10MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上2MPa以下である。加圧時間は、例えば、好ましくは0.1秒以上15秒以下、より好ましくは0.2秒以上5秒以下である。
【0044】
本発明のヒートシール紙は、ヒートシール性に優れる観点から、ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度は、好ましくは3.0N/15mm以上、より好ましくは4.0N/15mm以上、さらに好ましくは4.2N/15mm以上、よりさらに好ましくは4.5N/15mm以上、とくに好ましくは4.8N/15mm以上であり、そして、上限はとくに限定されないが、達成容易性の観点から、好ましくは20N/15mm以下、より好ましくは10N/15mm以下、さらに好ましくは7.5N/15mm以下である。
剥離強度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0045】
本発明のヒートシール紙は、再離解によるパルプの回収率に優れており、ヒートシール紙再離解後のパルプの回収率は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、とくに好ましくは98%以上が達成される。上限はとくに限定されず、100%以下である。再離解後のパルプの回収率が上記範囲内であると、リサイクル性に優れ、環境負荷の低減性に優れる。
本発明のヒートシール紙は、紙基材上にヒートシール層を、好ましくは塗工により設けており、また、該塗工液が好ましくは水系塗工液であることから、樹脂フィルムをラミネートした場合等に比べて、再離解後のパルプ回収率に格段に優れる。
再離解後のパルプの回収率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0046】
本発明のヒートシール紙は、ヒートシール性を有し、また、加工適性に優れることから、包装袋にとくに好適であり、とくに、空気密封性が要求される包装袋として好適である。
より具体的には、内容物の破損を防ぐために空気を入れて包装体としている、米菓、クッキー、飴等の菓子等の包装袋や、個別包装された前記菓子等の外装用の包装袋として好適である。
【実施例
【0047】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0048】
実施例および比較例で使用した原材料は、以下の通りである。
[水分散性樹脂バインダー]
・S-470HQ:エチレン-酢酸ビニル共重合体(住化ケムテックス(株)製、スミカフレックスS-470HQ、固形分55%)
・A-6160:スチレン-ブタジエン共重合体(旭化成(株)製、A-6160、固形分48%)
・S-300:アイオノマーディスパージョン(三井化学(株)製、ケミパールS-300、固形分38%)
【0049】
[滑剤]
・W-310:低分子量ポリエチレンワックスディスパージョン(三井化学(株)製、ケミパールW-310、固形分38.5%)
[顔料]
・カオリンA:平均粒子径8μm、アスペクト比80~100
・カオリンB:平均粒子径1.5μm、アスペクト比30
・重質炭酸カルシウム:平均粒子径1.0μm、球状
【0050】
[測定方法]
<顔料のアスペクト比>
ヒートシール層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影した。このとき、画面内に顔料が20~30個程度含まれる倍率とした。画面内の顔料の個々の長さと厚さを測定してアスペクト比を算出した。得られたアスペクト比の平均値を算出して、顔料のアスペクト比とした。
【0051】
<紙基材(原紙)の王研式平滑度>
JIS P 8155:2010に準拠して、紙基材の王研式平滑度を測定した。
【0052】
<紙基材(原紙)の透過光地合指数>
3Dシートアナライザーで紙基材の透過強度を測定し、厚さのバラつきを数値化することで透過光地合指数を得た。M/Kシステム社製の3Dシートアナライザーを用いて、測定レンジ1(標準感度)、光源の絞り1.5mmで透過光地合指数を測定した。なお、数値が大きいほど、地合が良好であることを意味する。
【0053】
[比較例1]
<ヒートシール層塗料の調製>
エチレン-酢酸ビニル共重合体(住化ケムテックス(株)製、スミカフレックスS-470HQ、固形分55%)182部、低分子量ポリエチレンワックスディスパージョン(三井化学(株)製、ケミパールW-310、固形分38.5%)52部、カオリンA(平均粒子径8μm、アスペクト比80~100)の濃度50%水分散液10部を混合し、固形分濃度が40%になるよう水を加えて撹拌し、ヒートシール層塗料(濃度40%)を得た。
<ヒートシール紙の製造>
得られたヒートシール層塗料を、坪量70g/mの片艶晒クラフト紙(王子製紙(株)製、透過光地合指数36、紙厚91μm)のザラ面(王研式平滑度25秒)に、ヒートシール層の乾燥後の塗工量が4g/mとなるように、グラビアコーター(スムージングバーを使用)で塗工し、1層目のヒートシール層を形成した。その後、同じ面に対して、ヒートシール層の乾燥後の塗工量が4g/mとなるように、再度グラビアコーター(スムージングバーを使用)で塗工し、2層目のヒートシール層を形成した。
【0054】
[比較例2]
カオリンAの濃度50%水分散液の配合部数を20部に変更した以外は比較例1と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0055】
[実施例1]
カオリンAの濃度50%水分散液の配合部数を40部に変更した以外は比較例1と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0056】
[実施例2]
カオリンAの濃度50%水分散液の配合部数を60部に変更した以外は比較例1と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0057】
[実施例3]
カオリンAの濃度50%水分散液の配合部数を100部に変更した以外は比較例1と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0058】
[実施例4]
カオリンAをカオリンB(平均粒子径1.5μm、アスペクト比30)に変更した以外は実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0059】
[比較例3]
カオリンAを重質炭酸カルシウム(平均粒子径1.0μm、球状)に変更した以外は実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0060】
[実施例5]
1層目のヒートシール層の塗工量を3g/m、2層目のヒートシール層の塗工量を3g/mに変更した以外は実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0061】
[実施例6]
1層目のヒートシール層の塗工量を2g/m、2層目のヒートシール層の塗工量を2g/mに変更した以外は実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0062】
[比較例4]
カオリンAの濃度50%水分散液の配合部数を200部に変更した以外は比較例1と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0063】
[比較例5]
2層目のヒートシール層の塗工を省いた以外は実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0064】
[比較例6]
1層目のヒートシール層の塗工量を8g/mとし、2層目のヒートシール層の塗工を省いた以外は実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0065】
[比較例7]
1層目のヒートシール層の塗工量を12g/mとし、2層目のヒートシール層の塗工を省いた以外は実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0066】
[比較例8]
スムージングバーを不使用とした以外は、実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0067】
[実施例7]
透過光地合指数25の片艶晒クラフト紙(王子製紙(株)製、坪量70g/m、紙厚91μm)のザラ面(王研式平滑度25秒)をヒートシール層塗工面とした以外は、実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0068】
[比較例9]
スチレン-ブタジエン共重合体(旭化成(株)製、A-6160、固形分48%)208部、カオリンA(平均粒子径8μm)の濃度50%水分散液100部を混合し、固形分濃度が40%になるよう水を加えて撹拌しヒートシール層塗料(濃度40%)を得た。ヒートシール層塗料の配合以外は実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0069】
[比較例10]
透過光地合指数25の片艶晒クラフト紙(王子製紙(株)製、坪量70g/m、紙厚91μm)のザラ面(王研式平滑度25秒)をヒートシール層塗工面とした以外は、比較例9と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0070】
[比較例11]
アイオノマーディスパージョン(三井化学(株)製、S-300、固形分38%)263部、カオリンA(平均粒子径8μm)の濃度50%水分散液100部を混合し、固形分濃度が40%になるよう水を加えて撹拌しヒートシール層塗料(濃度40%)を得た。ヒートシール層塗料の配合以外は実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0071】
[実施例8]
坪量70g/mの片艶晒クラフト紙(王子製紙(株)製、紙厚91μm)に、処理後の王研式平滑度が150秒となるようにカレンダー処理を施した(この時の透過光地合指数は36)ものを原紙とした以外は比較例11と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0072】
[比較例12]
坪量70g/mの市販晒クラフト紙(王研式平滑度25秒、透過光地合指数25、紙厚91μm)を原紙とした以外は比較例11と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0073】
[実施例9]
坪量70g/mの市販晒クラフト紙(王研式平滑度25秒、透過光地合指数25、紙厚91μm)に、処理後の王研式平滑度が150秒となるようにカレンダー処理を施したものを原紙とした以外は比較例11と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0074】
[比較例13]
エチレン-酢酸ビニル共重合体(住化ケムテックス(株)製、スミカフレックスS-470HQ、固形分55%)182部、低分子量ポリエチレンワックスディスパージョン(三井化学(株)製、ケミパールW-310、固形分38.5%)52部を混合し、固形分濃度が40%になるよう水を加えて撹拌しヒートシール層塗料(濃度40%)を得た。ヒートシール層塗料の配合以外は実施例3と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0075】
[比較例14]
ヒートシール層塗料をアイオノマーディスパージョン(三井化学(株)製、S-300、固形分38%)に変更した以外は比較例12と同様にしてヒートシール紙を得た。
【0076】
[比較例15]
坪量70g/mの片艶晒クラフト紙(王子製紙(株)製、透過光地合指数36、紙厚91μm)のザラ面(王研式平滑度25秒)上に、押出ラミネーターによって低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、ノバテックLD LC600A)をTダイ温度320℃、加工速度80m/minで、塗布量が19g/mとなるように押出ラミネートで積層しヒートシール紙を得た。
【0077】
[評価および測定]
実施例および比較例にて得られたヒートシール紙について、以下の評価および測定を行った。結果を以下の表1に示す。
<透気抵抗度(王研)の測定>
JIS P 8117:2009の中に記載されている王研式試験機法に準拠して、空気流入側にヒートシール層を向けて、ヒートシール紙の透気抵抗度(王研)を測定した。
【0078】
<ヒートシール剥離強度の測定>
1組のヒートシール紙を、ヒートシール層が向き合うように重ね、ヒートシールテスター(テスター産業製、TP-701-B)を用いて、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールした。続いて、JIS Z 0238:1998の記載に準拠してヒートシール剥離強度を測定した。具体的には、ヒートシールされた試験片を15mm幅にカットし、引張試験機を用いて、引張速度300mm/minでT字剥離し、記録された最大荷重をヒートシール剥離強度とした。
【0079】
<再離解性(再離解後のパルプ回収率)の評価>
絶乾質量30gのヒートシール紙を手で3~4cm角に破き、20℃の水道水に一晩浸漬した。ヒートシール紙の濃度を2.5%になるよう希釈後、TAPPI標準離解機(熊谷理機(株)製)を用いて3000rpmの回転数で20分間離解処理した。得られたパルプスラリーを6カット(スリット幅0.15mm)のスクリーンプレートをセットしたフラットスクリーン(熊谷理機(株)製)に供し、8.3L/minの水流中で精選処理した。スクリーンプレート上に残った未離解物を回収して105℃のオーブンで乾燥して質量を測定し、以下の計算式:
パルプ回収率(%)={試験に供したヒートシール紙の絶乾質量(g)-未離解物の絶乾質量(g)}/試験に供したヒートシール紙の絶乾質量×100
からパルプ回収率を算出した。
【0080】
<ピロー袋の空気密封性の評価>
ヒートシール紙を用いて、縦型ピロー成形機((株)川島製作所製KBF6000X2)により縦15cm、横11cmのピロー袋を作製した。成形したピロー袋を秤の上に置き、該秤が示す重さが10kgとなるように手で圧力をかけ、中に封入された空気の漏れを以下の基準で評価した。
A:空気の漏れを感じない
B:空気が漏れる
【0081】
<ヒートシール層面同士のブロッキング性の評価>
幅10cmに切ったヒートシール紙を、ヒートシール層面同士が向き合うように重ね、カレンダー速度20m/分、線圧24kg/cmの条件でチルドカレンダーにてカレンダー処理を施した。処理した1組のヒートシール紙を手で剥離して貼りつきの程度を以下の基準で官能評価した。剥離は各5枚行い、5枚のうち最も数の多い評価を最終的な評価結果とした。
5:剥がれない(完全にブロッキングする)
4:剥がせるがときどき紙が破れる
3:剥がせるがバリバリと大きな音がする
2:くっつくがあまり強く密着していない
1:くっつく部分もあるが密着力はごく弱い
0:くっつかない
【0082】
【表1-1】
【0083】
【表1-2】
【0084】
実施例1~9に示すように、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、アスペクト比が20以上の顔料を15質量部以上60質量部以下含有し、かつ、ヒートシール紙の透気抵抗度(王研)が75,000秒以上である本発明のヒートシール紙は、耐ブロッキング性に優れ、ヒートシール紙再離解後のパルプ回収率が高く、また、該ヒートシール紙から得られたピロー袋は、空気密封性に優れるものであった。
一方、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、アスペクト比が20以上の顔料を5質量部(比較例1)、10質量部(比較例2)、0質量部(比較例13および14)含有する比較例1、2、13、14では、耐ブロッキング性に劣るものであった。
また、比較例3のように、顔料として、球状の重質炭酸カルシウムを使用したり、比較例4のように、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、アスペクト比が20以上の顔料を、60質量部を超えて、100質量部含有する場合には、十分なヒートシール性および剥離強度が得られなかった。
ヒートシール層を単層で設けた比較例5~7、ヒートシール層の塗工時にスムージングバーを使用しなかった比較例8では、ヒートシール紙の透気抵抗度(王研)が75,000秒未満であり、該ヒートシール紙から得られたピロー袋は、空気密封性に劣るものであった。
また、王研式平滑度が25秒である紙基材に、水分散性樹脂バインダーとしてスチレン-ブタジエン共重合体を使用したヒートシール層を設けた比較例9および10では、透過光地合指数が25、36のいずれであっても、透気抵抗度(王研)が75,000秒未満であり、十分な透気抵抗度が得られず、該ヒートシール紙から得られたピロー袋は、空気密封性に劣るものであった。
さらに、水分散性樹脂バインダーとして、アイオノマーを使用した場合、紙基材の王研式平滑度が25秒である紙基材を使用した比較例11および12では、透過光地合指数が25、36のいずれであっても、ヒートシール紙の透気抵抗度(王研)が75,000秒未満であり、該ヒートシール紙から得られたピロー袋は、空気密封性に劣るものであった。一方、王研式平滑度が150秒である紙基材を使用した実施例8および9では、ヒートシール紙の王研式透気抵抗度が75,000以上であり、耐ブロッキング性に優れ、パルプ回収率が高く、また、該ヒートシール紙から得られたピロー袋は、空気密封性に優れるものであった。なお、水分散性樹脂バインダーとしてエチレン-酢酸ビニル共重合体を使用した場合には、実施例7に示すように、紙基材の王研式平滑度が25秒である紙基材を使用しても、ヒートシール紙の透気抵抗度が75,000秒以上であり、該ヒートシール紙から得られたピロー袋は、空気密封性に優れていた。
さらに、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムをラミネートした比較例15では、再離解パルプの回収ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、ヒートシール性に優れ、さらに、耐ブロッキング性に優れると共に、再離解後のパルプ回収率にも優れたヒートシール紙が得られ、さらに、該ヒートシール紙から得られた包装袋の空気密封性に優れるヒートシール紙が得られる。
本発明のヒートシール紙は、とくに、空気密封性が要求される各種の包装袋に好適に使用される。