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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】特定システム、特定装置および特定方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/071 20130101AFI20240709BHJP
   H04B 10/272 20130101ALI20240709BHJP
【FI】
H04B10/071
H04B10/272
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023112806
(22)【出願日】2023-07-10
(62)【分割の表示】P 2022510651の分割
【原出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2023145498
(43)【公開日】2023-10-11
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2020055613
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】依田 幸英
(72)【発明者】
【氏名】小倉 直人
(72)【発明者】
【氏名】青野 義明
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-146865(JP,A)
【文献】特開2016-142618(JP,A)
【文献】特開平9-105701(JP,A)
【文献】岡本 達也 TATSUYA Okamoto 他,光ファイバ振動分布測定による架空ケーブル弛み区間の特定,電子情報通信学会2019年総合大会講演論文集 通信2 PROCEEDINGS OF THE 2019 IEICE GENERAL CONFERENCE,日本,電子情報通信学会,2019年03月,第303頁,B-13-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバを介してパルス光を送信する送信手段と、
前記光ファイバから前記パルス光の後方散乱光を受信する受信手段と、
前記後方散乱光から前記光ファイバ周辺の環境状態を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果から前記光ファイバの垂れ下がりを特定する特定手段と、
を備える特定システムであって、
前記光ファイバは、光スプリッタによって複数の分岐ファイバに分岐しており、
前記特定手段は、各分岐ファイバの使用状況から、垂れ下がりが生じている分岐ファイバの候補を特定する、特定システム。
【請求項2】
前記環境状態は、振動である、請求項1に記載の特定システム。
【請求項3】
前記環境状態は、温度である、請求項1に記載の特定システム。
【請求項4】
前記検知手段は、前記環境状態の、(i)前記光ファイバ上のある位置における時間的変動、および、(ii)ある時点における前記光ファイバ上の空間的分布の少なくとも一方を検知する、請求項1~3のいずれか一項に記載の特定システム。
【請求項5】
前記検知手段は、前記環境状態を、前記光ファイバ上の複数の位置において時系列に沿って検知する、請求項1~4のいずれか一項に記載の特定システム。
【請求項6】
前記特定手段は、前記光ファイバの垂れ下がりの位置を特定する、請求項1~5のいずれか一項に記載の特定システム。
【請求項7】
前記特定手段は、前記検知手段が検知する前記環境状態と、前記光ファイバの垂れ下がりと、の関係が学習された学習モデルを用いて、前記光ファイバの垂れ下がりを特定する、請求項1~6のいずれか一項に記載の特定システム。
【請求項8】
パルス光が送信された光ファイバから受信された当該パルス光の後方散乱光を示す情報を取得する取得手段と、
前記後方散乱光を示す情報から前記光ファイバ周辺の環境状態を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果から前記光ファイバの垂れ下がりを特定する特定手段と、
を備える特定装置であって、
前記特定手段は、光スプリッタによって前記光ファイバが分岐した各分岐ファイバの使用状況から、垂れ下がりが生じている分岐ファイバの候補を特定する、特定装置。
【請求項9】
光ファイバを介してパルス光を送信し、
前記光ファイバから前記パルス光の後方散乱光を受信し、
前記後方散乱光から前記光ファイバ周辺の環境状態を検知し、
当該検知の結果から前記光ファイバの垂れ下がりを特定する、
特定方法であって、
前記光ファイバは、光スプリッタによって複数の分岐ファイバに分岐しており、
各分岐ファイバの使用状況から、垂れ下がりが生じている分岐ファイバの候補を特定する、特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの垂れ下がりを特定する特定システム、特定装置および特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの状態を監視する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の技術では、検出した後方散乱光が減衰した場合に破断等の故障が生じていると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-352547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような特許文献1に記載の技術は、光ファイバの垂れ下がりを特定するものではないという問題がある。例えば、屋外から宅内に引き込まれた光ファイバの引き込み部分が、雪の重みや台風等の影響により垂れ下がることがある。これを放置すると、垂れ下がった光ファイバが通行人等と接触し、事故につながるおそれがある。そのため、光ファイバの垂れ下がりを特定する技術を提供することは、非常に有益である。
【0005】
本発明の一態様は、光ファイバの垂れ下がりを特定する特定システム、特定装置および特定方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る特定システムは、光ファイバを介してパルス光を送信する送信手段と、前記光ファイバから前記パルス光の後方散乱光を受信する受信手段と、前記後方散乱光から前記光ファイバ周辺の環境状態を検知する検知手段と、前記検知手段の検知結果から前記光ファイバの垂れ下がりを特定する特定手段と、を備える。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る特定装置は、パルス光が送信された光ファイバから受信された当該パルス光の後方散乱光を示す情報を取得する取得手段と、前記後方散乱光を示す情報から前記光ファイバ周辺の環境状態を検知する検知手段と、前記検知手段の検知結果から前記光ファイバの垂れ下がりを特定する特定手段と、を備える。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る特定方法は、光ファイバを介してパルス光を送信し、前記光ファイバから前記パルス光の後方散乱光を受信し、前記後方散乱光から前記光ファイバ周辺の環境状態を検知し、当該検知の結果から前記光ファイバの垂れ下がりを特定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、光ファイバの垂れ下がりを特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】光ファイバの各状態の例を示す図である。
図2】本発明の実施形態1に係る特定システムの概略構成の一例を示す図である。
図3】本発明の実施形態1に係る特定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図4】光ファイバ上のある位置における振動の時間的変動の例を示す図である。
図5】ある時点における光ファイバの振動の空間的分布の例を示す図である。
図6】光ファイバの振動を示す情報のデータ構造の一例を示す図である。
図7】本発明の実施形態1の一変形例に係る特定システムの概略構成を示す図である。
図8】本発明の実施形態1の他の変形例に係る特定システムの概略構成を示す図である。
図9】光ファイバの垂れ下がりの他の例を示す図である。
図10】本発明の実施形態2に係る特定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図11】光ファイバの温度の時間的変動の例を示す図である。
図12】光ファイバの温度の空間的分布の例を示す図である。
図13】本発明の実施形態3に係る特定システムの概略構成の一例を示す図である。
図14】本発明の実施形態3に係る特定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図15】実施形態4に係る特定システムの構成を示すブロック図である。
図16】実施形態5に係る特定装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。実施形態1に係る特定システムは、光ファイバの垂れ下がりを特定する。なお、本実施形態において、通信キャリア局舎外では、光ファイバは光回線用ケーブルに内包されている形態であり、「光ファイバの垂れ下がり」は、光回線用ケーブルの垂れ下がりと同義である。
【0012】
(光ファイバの垂れ下がり)
まず、光ファイバの垂れ下がりについて説明する。図1は、光ファイバ10の各状態の例を示す図である。
【0013】
図1の上段は、光ファイバ10が「開通」されている状態を示す。図1の上段に示すように、通信キャリア局舎100内に配置されたOLT(Optical Line Termination、局側装置)110に接続された光ファイバ10は、所定の経路を経て架空配線され、宅200近傍の電柱20から宅200内に引き込まれて、宅200内に配置されたONU(Optical Network Unit、加入者側装置)210に接続される。OLT110は、通信キャリアのネットワークと接続されている。加入者は、光ファイバ10を開通することにより、所望の情報処理端末をONU210に接続して、光ファイバ10を介した通信を行うことができる。
【0014】
図1の中段は、光ファイバ10が「残置」されている状態を示す。図1の中段に示すように、宅200に引き込まれた光ファイバ10の端部は、ONU210には接続されずに、宅200内に収納される。多くの場合、宅200内の光ファイバ10は巻かれた状態にある。加入者が、光ファイバ10を開通させた後、通信キャリアとの契約を解除し、ONU210を撤去しつつ、宅200内に光ファイバ10の端部を残した場合にこのような状態となる。
【0015】
図1の下段は、残置された光ファイバ10に「垂れ下がり」が生じている状態を示す。図1の下段に示すように、光ファイバ10の宅内への引き込み部分が、宅200内に引き込まれずに、電柱20から垂れ下がっている。
【0016】
このように、光ファイバが、架空配線されている部分から垂れ下がっていることを「垂れ下がり」と称する。上述したように、屋外の架空配線から宅内に引き込まれた光ファイバの引き込み部分が、雪の重みや台風等の影響により垂れ下がることがある。これを放置すると、垂れ下がった光ファイバが通行人等と接触し、事故につながるおそれがある。
【0017】
そのため、光ファイバの垂れ下がりを特定することは重要である。現状では、一般に、光ファイバの垂れ下がりを発見した人による連絡、および、当該連絡に基づく現地調査によって、光ファイバの垂れ下がりの発生の認知および発生箇所の特定が行われている。しかし、この方法では人的コストが高い上に、光ファイバの垂れ下がりを早期に特定することができず、事故発生のリスクも高くなる。
【0018】
これに対し、本実施形態に係る特定システムは、光ファイバの垂れ下がりを特定することができるため、光ファイバの保守およびメンテナンスの効率化を図ることができる。なお、光ファイバの垂れ下がりを特定するとは、光ファイバの垂れ下がりが発生していると特定すること、または、光ファイバの垂れ下がりが発生していないと特定することを指し、一態様において、光ファイバの垂れ下がりの有無を判定するものであってもよい。
【0019】
(特定システムの概要)
図2は、実施形態1に係る特定システム1の概略構成の一例を示す図である。図2に示すように、特定システム1は、光ファイバ10およびOLT110を備える光通信システムに付加される特定システムであり、フィルタ120、ファイバセンシング機器130、サーバ300および監視端末400を備えている。OLT110、フィルタ120およびファイバセンシング機器130は、通信キャリア局舎100内に配置されている。本実施形態では、OLT110に接続されている光ファイバ10は、任意の経路を経由して架空配線されており、宅200の近傍で、電柱20から垂れ下がっているものとして説明を行う。
【0020】
ファイバセンシング機器130は、制御部135、送信部131、受信部132および通信部134を備えている。制御部135は、検知部133を備えている。
【0021】
制御部135は、ファイバセンシング機器130の各構成を統括的に制御する。一態様において、制御部135は、光ファイバ10の使用状況をOLT110から取得し、光ファイバ10が残置ファイバである場合に、各構成を動作させるようになっていてもよい。なお、光ファイバ10の使用状況は、光ファイバ10が開通しているか、残置されているかを示す情報である。
【0022】
送信部131は、光源であり、パルス光を出力する。送信部131が出力したパルス光は、フィルタ120を介して光ファイバ10に入光する。これにより、送信部131は、光ファイバ10を介してパルス光を送信することができる。
【0023】
受信部132は、光検出器である。光ファイバ10において生じた当該パルス光の後方散乱光は、フィルタ120を介して受信部132に入光する。これにより、受信部132は、光ファイバ10から、送信部131が送信したパルス光の後方散乱光を受信することができる。受信部132は、受信した後方散乱光を電気信号に変換して検知部133に出力する。
【0024】
なお、送信部131が光ファイバ10を介して送信するパルス光の波長λ1は、OLT110が光ファイバ10を介した通信に用いる波長λ0から十分に離れた波長であることが好ましい。
【0025】
フィルタ120は、光ファイバ10上に設けられた波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)フィルタであり、光ファイバ10を伝播する波長λ0を中心とした所定の範囲の波長の光信号をそのまま透過させる。一方、波長λ1を中心とした所定の範囲の波長の光信号については、フィルタ120は、(i)送信部131が出力したパルス光を、OLT110とは反対方向に向けて光ファイバ10に入光させるとともに、(ii)光ファイバ10をOLT110側に向かって伝搬する当該パルス光の後方散乱光を、受信部132に入光させる。なお、フィルタ120に代えて、同等の機能を実現するように種々の光学部品を組み合わせたものを用いてもよい。
【0026】
検知部(取得部)133は、受信部132から取得した後方散乱光を示す信号(後方散乱光を示す情報)から光ファイバ10周辺の環境状態を検知する。本実施形態では、検知部133が検知する環境状態は、振動である。検知部133は、後方散乱光を示す信号からパルス光と同じ波長λ1を有するレイリー散乱光の強度を算出する。レイリー散乱光の強度は、光ファイバ10の振動に応じて変化するので、これにより、検知部133は、光ファイバ10の振動を検知することができる。
【0027】
また、送信部131がパルス光を送信してから、受信部132が後方散乱光を受信するまでの間隔は、当該後方散乱光の発生位置に応じた間隔となる。そのため、検知部133は、パルス光の送信タイミングと当該パルス光に対応する後方散乱光の受信タイミングとの時間差から、当該後方散乱光の発生位置を算出することができる。これにより、検知部133は、光ファイバ10上の複数の位置における光ファイバ10の振動をそれぞれ検知することができる。
【0028】
そして、送信部131がパルス光を繰り返し送信することによって、検知部133は、光ファイバ10上の複数の位置における光ファイバ10の振動を時系列に沿って検知することができる。
【0029】
通信部134は、ネットワークを介してサーバ300と通信を行う。制御部135は、検知部133が検知した光ファイバ10の振動を示す情報を、通信部134を介してサーバ300に送信する。また、一態様において、制御部135は、光ファイバ10の位置情報データを併せてサーバ300に送信してもよい。光ファイバ10の位置情報データは、例えば、光ファイバ10が残置された宅200近傍の電柱20を示す情報である。
【0030】
サーバ300は、制御部340および通信部310を備えている。制御部340は、特定部320およびデータベース330を備えている。
【0031】
制御部340は、サーバ300の各構成を統括的に制御する。通信部310は、ネットワークを介してファイバセンシング機器130および監視端末400と通信を行う。制御部340は、通信部310を介してファイバセンシング機器130から受信した光ファイバ10の振動を示す情報、および、位置情報データを、特定部320に提供する。特定部320は、データベース330に記憶されている情報を参照して、光ファイバ10の振動から、光ファイバ10の垂れ下がりを特定する。特定の詳細については後述する。また、特定部320は、光ファイバ10に垂れ下がりが生じていると特定した場合、位置情報データが示す位置を、光ファイバ10の垂れ下がりの位置として特定してもよい。
【0032】
そして、制御部340は、特定部320による光ファイバ10の垂れ下がりの特定結果、および、特定部320が光ファイバ10の垂れ下がりの位置を特定した場合には当該垂れ下がりの位置の特定結果を、通信部310を介して監視端末400に送信する。
【0033】
監視端末400は、制御部420、通信部410および出力部430を備えている。制御部420は、監視端末400の各構成を統括的に制御する。通信部410は、ネットワークを介してサーバ300と通信を行う。出力部430は、ディスプレイ等の表示装置、または、スピーカ等の音声出力装置を備え、種々の情報を出力する。制御部420は、通信部410を介してサーバ300から受信した光ファイバ10の垂れ下がりの特定結果、および、光ファイバ10の垂れ下がりの位置の特定結果を、出力部430に出力させる。
【0034】
(特定システムの動作)
続いて、特定システム1の動作を説明する。図3は、特定システム1の動作の一例を示すフローチャートである。本実施形態では、特定システム1は、光ファイバ10の振動に基づいて光ファイバ10の垂れ下がりを特定する。
【0035】
まず、ファイバセンシング機器130の送信部131が、光ファイバ10を介してパルス光を送信する(ステップS10)。光ファイバ10の垂れ下がり部分は固定されていないため、風等に起因して当該垂れ下がり部分に大きな振動が生じる。そのため、光ファイバ10を介してパルス光が送信されると、光ファイバ10の垂れ下がり部分において、当該垂れ下がり部分の振動に応じたレイリー散乱光を含む後方散乱光が生じる。
【0036】
この後方散乱光を、ファイバセンシング機器130の受信部132が受信する(ステップS11)。受信部132は、受信した後方散乱光を電気信号に変換してファイバセンシング機器130の検知部133に出力する。
【0037】
検知部133は、受信部132から取得した後方散乱光を示す信号(後方散乱光を示す情報)から光ファイバ10の振動を検知する(ステップS12)。検知部133は、(i)後方散乱光を示す信号から、パルス光と同じ波長λ1を有するレイリー散乱光の強度を算出するとともに、(i)パルス光の送信タイミングと当該パルス光に対応する後方散乱光の受信タイミングとの時間差から、当該後方散乱光の発生位置を算出する。これにより、検知部133は、光ファイバ10上の複数の位置における光ファイバ10の振動を時系列に沿って検知する。ファイバセンシング機器130の制御部135は、検知部133が検知した光ファイバ10の振動を示す情報を、ファイバセンシング機器130の通信部134を介してサーバ300に送信する。
【0038】
サーバ300の制御部340は、サーバ300の通信部310を介してファイバセンシング機器130から受信した、光ファイバ10の振動を示す情報を、サーバ300の特定部320に提供する。特定部320は、サーバ300のデータベース330に記憶されているデータを参照して、光ファイバ10の振動を示す情報から、光ファイバ10の垂れ下がりを特定する(ステップS13)。
【0039】
図6は、光ファイバ10の振動を示す情報のデータ構造の一例を示す図である。図6の行は各時点に対応する値を示し、列は各位置に対応する値を示す。光ファイバ10の振動を示す情報は、検知部133が光ファイバ10上の複数の位置における光ファイバ10の振動を時系列に沿って検知した結果を示す情報であり、図6に示すように、光ファイバ10の振動を示す値を、光ファイバ10上の複数の位置毎に、時系列に沿って含んでいる。光ファイバ10の振動を示す値は、例えば、レイリー散乱光の強度に対応する値であってもよいし、振動の振幅を示す値であってもよい。
【0040】
一態様において、特定部320は、光ファイバ10の振動を示す情報を参照して、光ファイバ10上のある位置における振動の時間的変動から、当該ある位置における光ファイバ10の垂れ下がりを特定する。振動の時間的変動とは、振動を示す値の時系列に沿ったデータと言い換えることもできる。特定部320は、当該ある位置として、例えば、光ファイバ10上におけるOLT110から最も離れた位置またはその近傍を用いてもよいし、複数の位置についてそれぞれ光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。
【0041】
図4は、光ファイバ10上のある位置における振動の時間的変動の例を示す図である。図4のグラフにおいて、横軸は時間、縦軸はレイリー散乱光の強度に対応する値をそれぞれ示す。図4の上段は、当該ある位置において光ファイバ10が垂れ下がっていない場合の一例を示し、図4の下段は、当該ある位置において光ファイバ10が垂れ下がっている場合の一例を示す。
【0042】
図4に示すように、光ファイバ10上のある位置における振動の振幅は、当該ある位置において光ファイバ10が垂れ下がっている場合の方が、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合よりも大きくなる。これは、光ファイバ10が垂れ下がっていると、光ファイバ10が固定されていないために、大きく振動する傾向があるためである。そのため、例えば、振幅の閾値を予め定めておき、光ファイバ10上のある位置における振動の振幅が、当該閾値を超えた場合に、特定部320は、当該ある位置において光ファイバ10に垂れ下がりが発生していると特定してもよい。
【0043】
また、図4に示すように、光ファイバ10上のある位置における振動の振幅が最大値となってから半減するまでの時間は、当該ある位置において光ファイバ10が垂れ下がっている場合の方が、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合よりも長くなる。これは、光ファイバ10が垂れ下がっていると、光ファイバ10が固定されていないために、振動の減衰が遅くなる傾向があるためである。そのため、例えば、振動の振幅が最大値から半減するまでの時間の閾値を予め定めておき、光ファイバ10上のある位置における振動の振幅が最大値から半減するまでの時間が、当該閾値を超えた場合に、特定部320は、ある位置において光ファイバ10に垂れ下がりが発生していると特定してもよい。
【0044】
また、図4に示すように、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合と、光ファイバ10が垂れ下がっている場合とでは、振動の時間的変動のパターンが異なっているといえる。そのため、特定部320は、図4の下段に示すようなパターンを含む、光ファイバ10が垂れ下がっている場合に発生する振動の時間的変動のパターンを検出するように学習された学習モデルを用いて、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。また、特定部320は、ルールベースの判定を行う代わりに、光ファイバ10の振動の、光ファイバ10上のある位置における時間的変動と、光ファイバ10の垂れ下がりの有無と、の関係が学習された学習モデルを用いて、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。
【0045】
上記各閾値は、特定部320に対して予め設定されたものであってもよい。また、特定部320が、光ファイバ10に垂れ下がりが発生していない状態における光ファイバ10の振動を示す情報を予め学習し、閾値を設定してもよい。
【0046】
また、他の一態様において、特定部320は、光ファイバ10の振動を示す情報を参照して、ある時点における光ファイバ10の振動の空間的分布から、当該ある時点における光ファイバ10の垂れ下がりを特定する。振動の空間的分布とは、光ファイバ10上の複数の位置のそれぞれにおける振動を示すデータと言い換えることもできる。
【0047】
図5は、ある時点における光ファイバ10の振動の空間的分布の例を示す図である。図5のグラフにおいて、横軸は位置、縦軸は振動の振幅をそれぞれ示す。当該位置は、光ファイバ10上におけるOLT110から最も離れた位置からの距離によって示している。図5の上段は、当該ある時点において光ファイバ10が垂れ下がっていない場合の一例を示し、図5の下段は、当該ある時点において光ファイバ10が垂れ下がっている場合の一例を示す。特に、図5の下段は、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合の例を示す。
【0048】
図5に示すように、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合と、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合とでは、振動の空間的分布のパターンが異なっているといえる。特に、光ファイバ10上におけるOLT110から最も離れた位置およびその近傍における振幅が、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合は非常に小さいのに対して、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合、当該振幅が大きくなる。これは、光ファイバ10上におけるOLT110から最も離れた位置およびその近傍は、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっていない場合は、宅200内に収納されているために殆ど振動が起こらないのに対し、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合には大きく振動するからである。
【0049】
そのため、特定部320は、図5の下段に示すようなパターンを含む、光ファイバ10が垂れ下がっている場合に発生する振動の空間的分布のパターンを検出するように学習された学習モデルを用いて、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。また、特定部320は、ルールベースの判定を行う代わりに、光ファイバ10の振動の、ある時点における光ファイバ10の振動の空間的分布と、光ファイバ10の垂れ下がりの有無と、の関係が学習された学習モデルを用いて、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。
【0050】
なお、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合に、さらに垂れ下がった光ファイバ10が接地した場合には、接地した部分の振動は小さくなる。特定部320は、このような場合における振動の空間的分布のパターンについても、光ファイバ10が垂れ下がっている場合に発生する振動の空間的分布のパターンとして検出して、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。
【0051】
また、特定部320は、光ファイバ10上の複数の位置において時系列に沿って検知された光ファイバ10の振動と、光ファイバ10の垂れ下がりの有無と、の関係が学習された学習モデルを用いて、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。上述した各学習モデルは、データベース330に予め記憶しておくことができる。
【0052】
以上により、特定部320が光ファイバ10の垂れ下がりが発生していると特定した場合(ステップS13のYES)、制御部340は、通信部310を介して、垂れ下がりが発生している旨の特定結果を監視端末400に送信する。監視端末400の制御部420は、監視端末400の通信部410が受信した特定結果に基づいて、異常判定(垂れ下がり発生)を出力部430に出力させる(ステップS14)。
【0053】
特定部320が、光ファイバ10の垂れ下がりの位置を特定していた場合は、制御部340は、通信部310を介して、その特定結果を監視端末400に送信し、制御部420は、特定された光ファイバ10の垂れ下がりの位置を出力部430に出力させてもよい。
【0054】
特定部320が光ファイバ10の垂れ下がりが発生していないと特定した場合(ステップS13のNO)、制御部340は、通信部310を介して、垂れ下がりが発生していない旨の特定結果を監視端末400に送信する。制御部420は、通信部410が受信した特定結果に基づいて、正常判定(垂れ下がり無し)を出力部430に出力させる(ステップS15)。
【0055】
以上のように、特定システム1は、光ファイバ10の垂れ下がりを特定し、特定結果を出力することができる。これにより、光ファイバの保守およびメンテナンスの効率化を図ることができる。
【0056】
(変形例)
上述したように、特定システム1では、特定部320は、光ファイバ10の振動の、(i)光ファイバ10上のある位置における時間的変動、および、(ii)ある時点における光ファイバ10上の空間的分布の少なくとも一方を示す情報から、光ファイバ10の垂れ下がりを特定することができる。そのため、検知部133は、光ファイバ10の振動の、(i)光ファイバ10上のある位置における時間的変動、および、(ii)ある時点における光ファイバ10上の空間的分布の少なくとも一方を検知するものであればよい。
【0057】
また、特定システム1では、ファイバセンシング機器130が検知部133を備え、サーバ300が特定部320およびデータベース330を備えていたが、本実施形態はこれに限定されず、様々な構成をとることができる。
【0058】
図7は、一変形例に係る特定システム2の概略構成を示す図である。図7は、いわゆるクラウドコンピューティングを実現した構成であり、特定システム2では、ファイバセンシング機器130の制御部135は検知部133を備えておらず、その代わりに、サーバ(特定装置)300の制御部340が、検知部133と同等の機能を有する検知部350を備えている。
【0059】
ファイバセンシング機器130の制御部135は、受信部132が生成した後方散乱光を示す情報を、通信部134を介してサーバ300に送信する。サーバ300の制御部(取得部)340は、通信部310を介して受信した後方散乱光を示す情報を取得し、検知部350に提供する。これにより、特定システム2は、特定システム1と同様、光ファイバ10の垂れ下がりを特定し、特定結果を出力することができる。
【0060】
図8は、他の変形例に係る特定システム3の概略構成を示す図である。図8は、いわゆるエッジコンピューティングを実現した構成であり、サーバ300の制御部340は、特定部320およびデータベース330を備えておらず、代わりに、ファイバセンシング機器(特定装置)130の制御部135が、特定部320と同等の機能を有する特定部137、および、データベース330と同等の機能を有するデータベース136を備えている。
【0061】
ファイバセンシング機器130の特定部137は、検知部133が算出した光ファイバ10の振動を示す情報から、光ファイバ10の垂れ下がりを特定する。制御部135は、光ファイバ10の垂れ下がりの特定結果を、通信部134を介してサーバ300に送信する。サーバ300の制御部340は、通信部310を介して受信した光ファイバ10の垂れ下がりの特定結果を、通信部310を介して監視端末400に送信する。これにより、特定システム3は、特定システム1と同様、光ファイバ10の垂れ下がりを特定し、特定結果を出力することができる。
【0062】
その他、ファイバセンシング機器130、サーバ300および監視端末400を、ネットワークを介さずに直接接続してもよいし、任意の2つの組み合わせ、または、全てを一体化して構成してもよい。
【0063】
また、特定システム1では、残置ファイバである光ファイバ10の引き込み部分の垂れ下がりを特定していたが、本実施形態はこれに限定されず、開通している光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。開通している光ファイバ10は、OLT110による通信状況から異常を検出することができるが、さらに特定システム1によって光ファイバ10の垂れ下がりを特定するように構成してもよい。
【0064】
また、図9に示すように、光ファイバ10は、引き込み部分だけではなく、途中で破断した部分にも垂れ下がりが発生する場合がある。光ファイバ10の破断は、光ファイバ10の端面における反射光から検知することができるが、さらに特定システム1によって光ファイバ10の破断に起因する垂れ下がりを特定してもよい。光ファイバ10の破断に起因する垂れ下がりであっても、光ファイバ10の振動の時間的変動は図4に示すパターンとなるため、特定システム1によって特定することができる。
【0065】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態である実施形態2について、以下に説明する。実施形態1では特定システムが光ファイバの振動を検知して光ファイバの垂れ下がりを特定する構成について説明したが、特定システムが検知するものは光ファイバの振動に限定されない。
【0066】
すなわち、特定システムは、光ファイバ周辺の環境状態を検知して光ファイバの垂れ下がりを特定するものであり得る。光ファイバ周辺の環境状態としては、例えば、振動、音響、圧力、温度等があり、特定システムは、光ファイバに入射したパルス光の後方散乱光に含まれるレイリー散乱光の強度から光ファイバ周辺の振動および音響を検知してもよいし、当該後方散乱光に含まれるブリルアン散乱光の周波数シフト量から光ファイバ周辺の圧力を検知してもよいし、当該後方散乱光に含まれるラマン散乱光の強度から光ファイバ周辺の温度を検知してもよい。そして、特定システムは、これら光ファイバ周辺の環境状態から光ファイバの垂れ下がりを特定するものであればよい。
【0067】
本実施形態では、特定システムが光ファイバの温度を検知して光ファイバの垂れ下がりを特定する構成について説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0068】
図10は、実施形態2に係る特定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【0069】
まず、ファイバセンシング機器130の送信部131が、光ファイバ10を介してパルス光を送信する(ステップS20)。光ファイバ10の垂れ下がり部分は宅200内に収納されていないため、宅200内に収納されている場合に比べ、屋外の気温の影響を受けて温度が変化する。光ファイバ10内の温度によって光ファイバ10内を伝播する光のエネルギーが変わるため、光ファイバ10の温度に応じた強度のラマン散乱光を含む後方散乱光が生じる。
【0070】
この後方散乱光を、ファイバセンシング機器130の受信部132が受信する(ステップS21)。受信部132は、受信した後方散乱光を電気信号に変換してファイバセンシング機器130の検知部133に出力する。
【0071】
検知部133は、受信部132から取得した後方散乱光を示す信号(後方散乱光を示す情報)から光ファイバ10の温度を検知する(ステップS22)。検知部133は、(i)後方散乱光を示す信号から、パルス光の波長λ1に対応する波長のラマン散乱光の強度を算出するとともに、(i)パルス光の送信タイミングと当該パルス光に対応する後方散乱光の受信タイミングとの時間差から、当該後方散乱光の発生位置を算出する。これにより、検知部133は、光ファイバ10上の複数の位置における光ファイバ10の温度を時系列に沿って検知する。ファイバセンシング機器130の制御部135は、検知部133が検知した光ファイバ10の温度を示す情報を、ファイバセンシング機器130の通信部134を介してサーバ300に送信する。
【0072】
サーバ300の制御部340は、サーバ300の通信部310を介してファイバセンシング機器130から受信した、光ファイバ10の温度を示す情報を、サーバ300の特定部320に提供する。特定部320は、サーバ300のデータベース330に記憶されているデータを参照して、光ファイバ10の温度を示す情報から、光ファイバ10の垂れ下がりを特定する(ステップS23)。
【0073】
光ファイバ10の温度を示す情報のデータ構造は、図6に示す構造と同様である。すなわち、光ファイバ10の温度を示す情報は、検知部133が光ファイバ10上の複数の位置における光ファイバ10の温度を時系列に沿って検知した結果を示す情報であり、光ファイバ10の温度を示す値を、光ファイバ10上の複数の位置毎に、時系列に沿って含んでいる。
【0074】
一態様において、特定部320は、光ファイバ10の温度を示す情報を参照して、光ファイバ10上のある位置における温度の時間的変動から、当該ある位置における光ファイバ10の垂れ下がりを特定する。温度の時間的変動とは、温度を示す値の時系列に沿ったデータと言い換えることもできる。特定部320は、当該ある位置としては、光ファイバ10上におけるOLT110から最も離れた位置またはその近傍を用いることが好ましい。
【0075】
図11は、光ファイバ10上の引き込み部分における温度の時間的変動の例を示す図である。図11のグラフにおいて、横軸は時間、縦軸は温度をそれぞれ示す。図4の上段は、引き込み部分において光ファイバ10が垂れ下がっていない場合の一例を示し、図4の下段は、引き込み部分において光ファイバ10が垂れ下がっている場合の一例を示す。
【0076】
図11に示すように、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合と、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合とでは、温度の時間的変動のパターンが異なっているといえる。これは、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合に比べ、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合、屋外の温度の影響を受けて当該引き込み部分の温度変化が大きくなるからである。なお、図11では、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合に比べ、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合に引き込み部分の温度が上昇する場合を示しているが、外気の温度によっては、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合に比べ、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合に引き込み部分の温度が下降する場合もあり得る。
【0077】
そのため、特定部320は、図11の下段に示すようなパターンを含む、光ファイバ10が垂れ下がっている場合に発生する温度の時間的変動のパターンを検出するように学習された学習モデルを用いて、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。また、特定部320は、ルールベースの判定を行う代わりに、光ファイバ10の温度の光ファイバ10上のある位置における温度の時間的変動と、光ファイバ10の垂れ下がりの有無と、の関係が学習された学習モデルを用いて、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。
【0078】
また、他の一態様において、特定部320は、光ファイバ10の温度を示す情報を参照して、ある時点における光ファイバ10の温度の空間的分布から、当該ある時点における光ファイバ10の垂れ下がりを特定する。温度の空間的分布とは、光ファイバ10上の複数の位置のそれぞれにおける温度を示すデータと言い換えることもできる。
【0079】
図12は、ある時点における光ファイバ10の温度の空間的分布の例を示す図である。図12のグラフにおいて、横軸は位置、縦軸は温度をそれぞれ示す。当該位置は、光ファイバ10上におけるOLT110から最も離れた位置からの距離によって示している。図12の上段は、当該ある時点において光ファイバ10が垂れ下がっていない場合の一例を示し、図12の下段は、当該ある時点において光ファイバ10が垂れ下がっている場合の一例を示す。特に、図12の下段は、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合の例を示す。
【0080】
図12に示すように、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合と、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合とでは、温度の空間的分布のパターンが異なっているといえる。特に、光ファイバ10上におけるOLT110から最も離れた位置およびその近傍における温度が、光ファイバ10が垂れ下がっていない場合は、その他の部分における温度とは異なっているのに対して、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合、その他の部分における温度と変わらなくなる。これは、光ファイバ10上におけるOLT110から最も離れた位置およびその近傍は、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっていない場合は、宅200内に収納されているために屋外の光ファイバ10とは温度が異なっているのに対し、光ファイバ10の引き込み部分が垂れ下がっている場合には屋外の光ファイバ10と同様の温度になるからである。
【0081】
そのため、特定部320は、図12の下段に示すようなパターンを含む、光ファイバ10が垂れ下がっている場合に発生する温度の空間的分布のパターンを検出するように学習された学習モデルを用いて、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。また、特定部320は、ルールベースの判定を行う代わりに、光ファイバ10の温度の、ある時点における光ファイバ10の温度の空間的分布と、光ファイバ10の垂れ下がりの有無と、の関係が学習された学習モデルを用いて、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。
【0082】
また、特定部320は、光ファイバ10上の複数の位置において時系列に沿って検知された光ファイバ10の温度と、光ファイバ10の垂れ下がりの有無と、の関係が学習された学習モデルを用いて、光ファイバ10の垂れ下がりを特定してもよい。上述した各学習モデルは、データベース330に予め記憶しておくことができる。
【0083】
以上により、特定部320が光ファイバ10の垂れ下がりが発生していると特定した場合(ステップS23のYES)、制御部340は、通信部310を介して、垂れ下がりが発生している旨の特定結果を監視端末400に送信する。監視端末400の制御部420は、監視端末400の通信部410が受信した特定結果に基づいて、異常判定(垂れ下がり発生)を出力部430に出力させる(ステップS24)。
【0084】
実施形態1と同様、特定部320は、光ファイバ10の垂れ下がりの位置を特定してもよく、その場合、制御部340は、通信部310を介して、その特定結果を監視端末400に送信し、制御部420は、特定された光ファイバ10の垂れ下がりの位置を出力部430に出力させてもよい。
【0085】
特定部320が光ファイバ10の垂れ下がりが発生していないと特定した場合(ステップS23のNO)、制御部340は、通信部310を介して、垂れ下がりが発生していない旨の特定結果を監視端末400に送信する。制御部420は、通信部410が受信した特定結果に基づいて、正常判定(垂れ下がり無し)を出力部430に出力させる(ステップS25)。
【0086】
以上のように、実施形態2に係る特定システムによっても、光ファイバ10の垂れ下がりを特定し、特定結果を出力することができる。
【0087】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。実施形態1では光ファイバに分岐が無い構成について説明したが、本実施形態では、光ファイバが分岐を有する構成について説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0088】
図13は、実施形態3に係る特定システム4の概略構成の一例を示す図である。本実施形態では、OLT110に接続されている光ファイバ10は、任意の経路を経由して架空配線されており、光スプリッタ30によって複数の分岐ファイバ10aおよび10bに分岐している。分岐ファイバ10aは、開通しており、宅200a近傍の電柱20aから宅200a内に引き込まれ、宅200a内のONU201aに接続している。分岐ファイバ10bは、残置ファイバであり、宅200b近傍の電柱20bから垂れ下がっている。
【0089】
図14は、実施形態3に係る特定システム4の動作の一例を示すフローチャートである。
【0090】
まず、ファイバセンシング機器130の送信部131が、光ファイバ10を介してパルス光を送信する(ステップS30)。光ファイバ10において生じた当該パルス光の後方散乱光を、ファイバセンシング機器130の受信部132が受信する(ステップS31)。受信部132は、受信した後方散乱光を電気信号に変換してファイバセンシング機器130の検知部133に出力する。
【0091】
検知部133は、実施形態1または2と同様に、受信部132から取得した後方散乱光を示す信号(後方散乱光を示す情報)から光ファイバ10周辺の環境状態を検知する(ステップS32)。検知部133はまた、パルス光の送信タイミングと当該パルス光に対応する後方散乱光の受信タイミングとの時間差から、当該後方散乱光の発生位置を算出する。これにより、検知部133は、光ファイバ10上の複数の位置における光ファイバ10周辺の環境状態を時系列に沿って検知する。ファイバセンシング機器130の制御部135は、検知部133が検知した光ファイバ10周辺の環境状態を示す情報を、ファイバセンシング機器130の通信部134を介してサーバ300に送信する。制御部135はまた、分岐ファイバ10aおよび10bのそれぞれの使用状況をOLT110から取得して、通信部134を介してサーバ300に送信する。なお、分岐ファイバ10aおよび10bの使用状況は、分岐ファイバ10aおよび10bのそれぞれが開通しているか、残置されているかを示す情報に加え、開通している分岐ファイバにおいて通信に障害が生じているか否かを示す情報を含む。
【0092】
サーバ300の制御部340は、サーバ300の通信部310を介してファイバセンシング機器130から受信した、光ファイバ10周辺の環境状態を示す情報を、サーバ300の特定部320に提供する。特定部320は、実施形態1または2と同様に、サーバ300のデータベース330に記憶されているデータを参照して、光ファイバ10周辺の環境状態を示す情報から、光ファイバ10の垂れ下がりを特定する(ステップS33)。
【0093】
以上により、特定部320が光ファイバ10の垂れ下がりが発生していると判定した場合(ステップS33のYES)、特定部320は、垂れ下がりが発生した分岐ファイバの候補を特定する(ステップS34)。特定部320は、通信部310を介してファイバセンシング機器130から受信した、分岐ファイバ10aおよび10bの使用状況を参照し、開通している分岐ファイバにおいて通信に障害が生じている場合には、当該分岐ファイバを、垂れ下がりが発生した分岐ファイバの候補として特定する。特定部320はまた、開通している分岐ファイバにおいて通信に障害が生じていない場合には、開通している分岐ファイバは候補から除き、残置されている分岐ファイバを、垂れ下がりが発生した分岐ファイバの候補として特定する。
【0094】
制御部340は、通信部310を介して、垂れ下がりが発生している旨の特定結果、および、垂れ下がりが発生した分岐ファイバの候補の特定結果を監視端末400に送信する。監視端末400の制御部420は、監視端末400の通信部410が受信した各特定結果に基づいて、異常判定(垂れ下がり発生)、および、垂れ下がりが発生した分岐ファイバの候補を出力部430に出力させる(ステップS35)。
【0095】
また、実施形態1と同様、特定部320は、光ファイバ10の垂れ下がりの位置を特定してもよく、その場合、制御部340は、通信部310を介して、その特定結果を監視端末400に送信し、制御部420は、特定された光ファイバ10の垂れ下がりの位置を出力部430に出力させてもよい。
【0096】
特定部320が光ファイバ10の垂れ下がりが発生していないと特定した場合(ステップS33のNO)、制御部340は、通信部310を介して、垂れ下がりが発生していない旨の特定結果を監視端末400に送信する。制御部420は、通信部410が受信した特定結果に基づいて、正常判定(垂れ下がり無し)を出力部430に出力させる(ステップS36)。
【0097】
以上のように、実施形態3に係る特定システム4によっても、光ファイバ10の垂れ下がりを特定し、特定結果を出力することができる。また、特定システム4によれば、光ファイバ10が分岐している場合であっても、光ファイバ10の垂れ下がりが生じている分岐ファイバの候補を特定することができる。
【0098】
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記する。
【0099】
図15は、本実施形態に係る特定システム5の構成を示すブロック図である。図15に示すように、特定システム5は、送信部131、受信部132、検知部133および特定部320を備えている。
【0100】
送信部131は、光ファイバ10を介してパルス光を送信する。受信部132は、光ファイバ10からパルス光の後方散乱光を受信する。検知部133は、後方散乱光から光ファイバ10周辺の環境状態を検知する。特定部320は、検知部133の検知結果から光ファイバ10の垂れ下がりを特定する。
【0101】
上記の構成によれば、特定システム5は、光ファイバ10に入射されたパルス光に対応する後方散乱光から光ファイバ10周辺の環境状態を検知し、当該検知結果から光ファイバ10の垂れ下がりを特定することができる。
【0102】
〔実施形態5〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記する。
【0103】
図16は、本実施形態に係る特定装置500の構成を示すブロック図である。図16に示すように、特定装置500は、送信部131、受信部132、検知部133および特定部137を備えている。
【0104】
送信部131は、光ファイバ10を介してパルス光を送信する。受信部132は、光ファイバ10からパルス光の後方散乱光を受信する。検知部133は、後方散乱光から光ファイバ10周辺の環境状態を検知する。特定部137は、検知部133の検知結果から光ファイバ10の垂れ下がりを特定する。
【0105】
上記の構成によれば、特定装置500は、光ファイバ10に入射されたパルス光に対応する後方散乱光から光ファイバ10周辺の環境状態を検知し、当該検知結果から光ファイバ10の垂れ下がりを特定することができる。
【0106】
〔ソフトウェアによる実現例〕
ファイバセンシング機器130、サーバ300および監視端末400の制御ブロック(特に制御部135、340および420に含まれる各部等)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0107】
後者の場合、ファイバセンシング機器130、サーバ300および監視端末400は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0108】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0109】
〔付記事項〕
上述の各実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0110】
(付記1)
光ファイバを介してパルス光を送信する送信手段と、
前記光ファイバから前記パルス光の後方散乱光を受信する受信手段と、
前記後方散乱光から前記光ファイバ周辺の環境状態を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果から前記光ファイバの垂れ下がりを特定する特定手段と、
を備える特定システム。
【0111】
(付記2)
前記環境状態は、振動である、付記1に記載の特定システム。
【0112】
(付記3)
前記環境状態は、温度である、付記1に記載の特定システム。
【0113】
(付記4)
前記検知手段は、前記環境状態の、(i)前記光ファイバ上のある位置における時間的変動、および、(ii)ある時点における前記光ファイバ上の空間的分布の少なくとも一方を検知する、付記1~3のいずれか一つに記載の特定システム
【0114】
(付記5)
前記検知手段は、前記環境状態を、前記光ファイバ上の複数の位置において時系列に沿って検知する、付記1~4のいずれか一つに記載の特定システム。
【0115】
(付記6)
前記特定手段は、前記光ファイバの垂れ下がりの位置を特定する、付記1~5のいずれか一つに記載の特定システム。
【0116】
(付記7)
前記光ファイバは、残置ファイバである、付記1~6のいずれか一つに記載の特定システム。
【0117】
(付記8)
前記光ファイバの垂れ下がりは、架空配線から宅内への引き込み部分の垂れ下がりである、付記1~7のいずれか一つに記載の特定システム。
【0118】
(付記9)
前記光ファイバは、光スプリッタによって複数の分岐ファイバに分岐しており、
前記特定手段は、各分岐ファイバの使用状況から、垂れ下がりが生じている分岐ファイバの候補を特定する、付記1~8のいずれか一つに記載の特定システム。
【0119】
(付記10)
前記特定手段は、前記検知手段が検知する前記環境状態と、前記光ファイバの垂れ下がりと、の関係が学習された学習モデルを用いて、前記光ファイバの垂れ下がりを特定する、付記1~9のいずれか一つに記載の特定システム。
【0120】
(付記11)
パルス光が送信された光ファイバから受信された当該パルス光の後方散乱光を示す情報を取得する取得手段と、
前記後方散乱光を示す情報から前記光ファイバ周辺の環境状態を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果から前記光ファイバの垂れ下がりを特定する特定手段と、
を備える特定装置。
【0121】
(付記12)
光ファイバを介してパルス光を送信し、
前記光ファイバから前記パルス光の後方散乱光を受信し、
前記後方散乱光から前記光ファイバ周辺の環境状態を検知し、
当該検知の結果から前記光ファイバの垂れ下がりを特定する、
特定方法。
【0122】
この出願は、2020年3月26日に出願された日本出願特願2020-055613を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0123】
1、2、3、4、5 特定システム
10 光ファイバ
10a、10b 分岐ファイバ
30 光スプリッタ
130 ファイバセンシング機器
131 送信部
132 受信部
133、350 検知部
137、320 特定部
300 サーバ
400 監視端末
500 特定装置
図1
図2
図3
図4
図5
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