(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240709BHJP
F02D 41/06 20060101ALI20240709BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20240709BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
F02D45/00 368S
F02D41/06
F02D41/22
F02D41/34
F02D45/00 368Z
(21)【出願番号】P 2023509893
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013204
(87)【国際公開番号】W WO2022208578
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 欣也
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 遼太
(72)【発明者】
【氏名】中田 涼太
(72)【発明者】
【氏名】城田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 捷
(72)【発明者】
【氏名】倉田 和郎
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-088562(JP,A)
【文献】特開2013-217335(JP,A)
【文献】特開平07-042557(JP,A)
【文献】国際公開第2005/073548(WO,A1)
【文献】特開2004-068624(JP,A)
【文献】特開2016-138463(JP,A)
【文献】特開2007-255370(JP,A)
【文献】特開2017-002728(JP,A)
【文献】国際公開第2014/049646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/06
F02D 41/22
F02D 41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主室に燃料を供給する主室噴射手段と、
前記主室噴射手段による燃料供給後に副室に燃料を供給する副室噴射手段と、
前記副室噴射手段から供給される燃料量である副室燃料量を補正する燃料制御手段と、
前記副室の内部に設けられる点火プラグと、
供給された燃料への
前記点火プラグの点火時期を制御する点火制御手段と、
筒内圧を計測または予測する筒内圧取得手段とを備え、
前記筒内圧のピーク時期が予め設定される
クランク角の所定範囲から外れる場合に、前記点火制御手段による前記点火時期の変化を抑制し、前記燃料制御手段による前記副室燃料量の補正を行う
とともに、
前記燃料制御手段は、前記ピーク時期が前記所定範囲よりも遅角側に外れる場合に、前記副室燃料量を増加させ、前記ピーク時期が前記所定範囲よりも進角側に外れる場合に、前記副室燃料量を減少させる
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記燃料制御手段は、前記ピーク時期が前記所定範囲内にある場合に、筒内発熱量が所定量に到達する所定熱量位置が予め設定された所定位置よりも進角側にあれば前記副室燃料量を減少させ、遅角側にあれば前記副室燃料量を増加させる
ことを特徴とする、請求項
1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記燃料制御手段は、前記ピーク時期が前記所定範囲内にある場合であって、排気浄化触媒を昇温させる場合に、前記副室燃料量を減少させる
ことを特徴とする、請求項1
又は2に記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
ノッキングを検出するノックセンサを備え、
前記ノックセンサで前記ノッキングを検出した場合に
は、前記ピーク時期が前記所定範囲から外れる場合であっても、前記点火制御手段による前記点火時期の変化の抑制を解除
し、かつ、前記燃料制御手段による前記副室燃料量の補正を行う
ことを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、燃焼室内に主室及び副室を備えたエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン(内燃機関)の最大筒内圧に応じて点火時期や燃料噴射量を制御することで、出力や燃費を適正化する技術が知られている。例えば、最大筒内圧が上昇するにつれて点火時期をリタードさせる制御が知られている。このような制御により、ノッキングの発生を抑制することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃焼室内に主室(主燃焼室)と副室(副燃焼室)とを形成し、副室の内部に点火プラグの電極を配した副室式のエンジンが存在する。このようなエンジンでは、副室の内部で発生した火炎が、主室に向かってトーチ状に噴出するように形成される。一方、このようなエンジンでは、筒内圧が最大となるピーク時期の適正範囲が決まっており、ピーク時期が適正範囲を外れてしまうと燃焼安定性が低下しやすいという課題がある。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、副室式エンジンの燃焼安定性を向上させることである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件のエンジンの制御装置は、主室に燃料を供給する主室噴射手段と、前記主室噴射手段による燃料供給後に副室に燃料を供給する副室噴射手段と、前記副室噴射手段から供給される燃料量である副室燃料量を補正する燃料制御手段と、前記副室の内部に設けられる点火プラグと、供給された燃料への前記点火プラグの点火時期を制御する点火制御手段と、筒内圧を計測または予測する筒内圧取得手段とを備え、前記筒内圧のピーク時期が予め設定されるクランク角の所定範囲から外れる場合に、前記点火制御手段による前記点火時期の変化を抑制し、前記燃料制御手段による前記副室燃料量の補正を行う。また、前記燃料制御手段は、前記ピーク時期が前記所定範囲よりも遅角側に外れる場合に、前記副室燃料量を増加させ、前記ピーク時期が前記所定範囲よりも進角側に外れる場合に、前記副室燃料量を減少させる。
【発明の効果】
【0007】
本件のエンジンの制御装置によれば、副室式エンジンの燃焼安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本件に係る制御装置が適用されるエンジンの構造を示す模式図である。
【
図2】本件に係る制御装置が適用される他のエンジンの構造を示す模式図である。
【
図3】本件に係る制御装置が適用される他のエンジンの構造を示す模式図である。
【
図4】本件に係る制御装置が適用される他のエンジンの構造を示す模式図である。
【
図5】筒内圧のピーク時期θ
PEAKを説明するためのグラフである。
【
図6】(A)~(C)は副室噴射量の第1補正量を設定するためのマップである。
【
図7】所定熱量位置θ
HEATを説明するためのグラフである。
【
図8】所定熱量位置θ
HEATと第2補正量との関係を示すマップである。
【
図9】触媒温度Cと第3補正量との関係を示すマップである。
【
図10】制御内容(θ
PEAK,θ
HEATの算出)に係るフローチャートである。
【
図11】制御内容(燃料噴射)に係るフローチャートである。
【
図12】制御内容(追加補正)に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.構成]
図1~
図12は、車両に搭載されるエンジン10(内燃機関)の制御装置を説明するための図である。
図1~
図4はいずれも、連通する主室8(主燃焼室)及び副室5(副燃焼室)がシリンダ内に形成された副室式のエンジン10の構造を模式的に示している。
図1,
図2は、主室8や吸気ポート11に設けられた噴射弁(ポート噴射弁1,筒内噴射弁3,多機能噴射弁4)から燃料を供給する方式(パッシブ方式)のうち、火炎を形成するための燃料が主室8から副室5に向かって噴射される方式のエンジン10の構造を示す。
図1は、副室5に燃料を供給するための噴射弁(副室噴射弁2)と主室8に燃料を供給するための噴射弁(ポート噴射弁1,筒内噴射弁3)とが別設されたエンジン10である。一方、
図2は、単一の噴射弁(多機能噴射弁4)を用いて主室8と副室5とのそれぞれに燃料を吹き分けるエンジン10である。また、
図3は、火炎を形成するための燃料が副室5の内部に直接的に供給される方式(アクティブ方式)のエンジン10の構造を示す。
図4は、パッシブ方式のうち
図1及び
図2とは異なる方式のエンジン10の構造の一例を示す。
【0010】
本件に係るエンジン10の制御装置は、主室8に燃料を供給する主室噴射手段と、副室5に燃料を供給する副室噴射手段とを備える。
図1~
図4に示すように、副室5は、例えば燃焼室内の頂面中央部からピストン側に向かって膨出した中空の半球状に形成される。
図1~
図4は、ペントルーフ型のシリンダヘッドにおいて、吸気ポート11と排気ポート12との間に副室5が配置された事例を示している。副室5の位置は、燃焼室の全体形状を考慮して、あるいは、吸気バルブ13や排気バルブ14の動作範囲を考慮して設定することが好ましい。また、吸気ポート11や排気ポート12よりもシリンダの外側(シリンダ筒面に近い位置)に副室5を配置してもよい。副室5と主室8とを隔てる隔壁6には、微小な孔7が形成される。また、副室5の内部には、点火プラグ9の電極が配置される。副室5の内部で燃料混合気が点火されると、その火炎が複数の孔7を介して副室5から主室8へとトーチ状に噴出するようになっている。
【0011】
図1,
図3に示すポート噴射弁1は、主室噴射手段の一つであって、吸気ポート11に燃料を噴射するインジェクタである。ポート噴射弁1による燃料の噴射方向は、例えば開放状態の吸気バルブ13と吸気ポート11との隙間に向かう方向に設定される。また、筒内噴射弁3も主室噴射手段の一つであって、主室8に燃料を噴射するインジェクタである。筒内噴射弁3による燃料の噴射方向は、例えば圧縮行程で燃焼室内に形成される気流(タンブル流やスワール流)の向きや流速に応じて設定される。ポート噴射弁1及び筒内噴射弁3のいずれか一方は省略可能である。
【0012】
図1に示す副室噴射弁2は、副室噴射手段の一つであって、副室5に燃料を噴射するパッシブ型のインジェクタである。副室噴射弁2の噴射方向は、例えば副室5へ向かう方向に設定される。ただし、副室噴射弁2の噴射方向は、副室5へ向かう方向のみに限定されるわけではない。例えば、シリンダ内に形成される気流(タンブル流やスワール流)の向きや流速を考慮して、副室5からややずれた位置に向かって燃料を噴射させてもよい。また、
図3に示す副室噴射弁2′も副室噴射手段の一つであり、副室5の内部に直接的に燃料を噴射するアクティブ型のインジェクタである。
【0013】
図2に示す多機能噴射弁4は、主室噴射手段としての機能と副室噴射手段としての機能とを兼ね備えたインジェクタである。多機能噴射弁4の先端には、少なくとも二つの噴孔が形成される。一方の噴孔は、
図1中の筒内噴射弁3と同様の燃料噴射を実現するための噴孔であって、主室8に供給される燃料が噴射される噴孔である。他方の噴孔は、
図1中の副室噴射弁2と同様の燃料噴射を実現するための噴孔であって、副室5に供給される燃料が噴射される噴孔である。各々の噴孔の開閉状態は、個別に制御される。なお、
図4に示すポート噴射弁1,筒内噴射弁3も、主室噴射手段としての機能と副室噴射手段としての機能とを兼ね備えたインジェクタである。これらのポート噴射弁1,筒内噴射弁3は、噴射時期を相違させることで、主室8と副室5とのそれぞれに燃料を吹き分ける機能を持つ。
【0014】
副室噴射手段による燃料供給は、一つの燃焼サイクル(吸気行程,圧縮行程,燃焼行程,排気行程の四行程からなるサイクル)において、主室噴射手段による燃料供給の後に実施される。したがって、単一の噴射弁のみで主室噴射と副室噴射が実施される場合であっても、噴射タイミングに基づいてそれらを明確に区別することが可能である。主室噴射,副室噴射の各々の噴射回数は、一回でもよいし複数回でもよい。
【0015】
なお、主室噴射手段から噴射される燃料の全てが主室8のみで燃焼するとは限らず、一部の燃料は副室5にも流入しうる。同様に、副室噴射手段から噴射される燃料の全てが副室5のみで燃焼するとは限らず、一部の燃料は主室8にも流出しうる。しかしながら、主室噴射手段から噴射される燃料は、主室8で燃焼することが意図された燃料であって、主室8で燃焼しやすいタイミングで噴射され、そのほとんどが主室8で燃焼する。同様に、副室噴射手段から噴射される燃料は、副室5で燃焼することが意図された燃料であって、副室5で燃焼しやすいタイミングで噴射され、そのほとんどが副室5で燃焼する。したがって、主室噴射手段を「主室8での燃焼に適したタイミングで燃料を供給する手段」と定義してもよいし、副室噴射手段を「副室5での燃焼に適したタイミングで燃料を供給する手段」と定義してもよい。
【0016】
本件に係るエンジン10には、
図1~
図4に示すように、ノックセンサ15,筒内圧センサ16,エンジン回転数センサ17,アクセル開度センサ18,車速センサ19,触媒温度センサ20が設けられる。ノックセンサ15は、異常燃焼の一種であるノッキングの有無を把握するためのセンサであり、例えばシリンダの振動によって生じる力,圧力,加速度などを検出する。筒内圧センサ16は、燃焼室内における燃焼状態を把握するためのセンサであり、主室8の圧力を検出する。エンジン回転数センサ17は、エンジン10の作動状態を把握するためのセンサであり、例えば単位時間あたりのエンジン回転数(クランクシャフトの角速度)を検出する。アクセル開度センサ18は、エンジン10に要求されるトルク(ドライバ要求トルク)の大きさを把握するためのセンサであり、図示しないアクセルペダルの踏み込み操作量(アクセル開度)を検出する。車速センサ19は、エンジン10が搭載された車両の車速(走行速度)を検出するセンサである。触媒温度センサ20は、エンジン10の排気通路に介装される排気浄化触媒の触媒温度Cを検出するセンサである。これらのセンサ15~20で検出された各種情報は、ECU21に伝達される。
【0017】
ECU21は、エンジン10の作動状態を制御するための電子制御装置(Engine Control Unit, Electronic Control Unit)であって、プロセッサとメモリとを搭載した電子デバイスである。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)などのマイクロプロセッサであり、メモリは、例えばROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory),不揮発メモリなどである。ECU21で実施される制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存される。プログラムの実行時には、プログラムの内容がメモリ空間内に展開され、プロセッサによって実行される。
【0018】
ECU21は、図示しない車載ネットワークを介して、制御対象となる装置及びセンサ15~20の各々に接続される。
図1~
図4に示すように、制御対象となる装置にはポート噴射弁1,副室噴射弁2,2′,筒内噴射弁3,多機能噴射弁4,点火プラグ9が含まれる。エンジン10の燃料噴射量や点火時期,吸気バルブ13及び排気バルブ14の動作は、ECU21によって統括的に管理される。なお、
図1~
図4に示されていないセンサで検出された情報を併用して、燃料噴射量,点火時期等を補正することも可能である。例えば、外気温センサやエンジン冷却水温センサなどで検出された温度情報に基づき、燃料噴射量や点火時期を補正してもよい。
【0019】
ECU21には、筒内圧取得手段22,熱発生率算出手段23,点火制御手段24,燃料制御手段25が設けられる。これらの要素は、ECU21で実現される機能を表現したものであり、例えばECU21内のROMや補助記憶装置に記録,保存されるソフトウェアとしてプログラミングされうる。あるいは、そのソフトウェアに対応する電子回路(ハードウェア)として実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが混在するシステムとして実現されてもよい。
【0020】
筒内圧取得手段22は、筒内圧を計測または予測することでその実測値または予測値を取得するものである。ここでは、筒内圧の変化を把握すべく、筒内圧の値が燃焼サイクル毎のクランク角に対応付けられた形で取得される。筒内圧の実測値としては、筒内圧センサ16で検出された値を用いることができる。また、筒内圧の予測値は、例えば気体の状態方程式に基づいて算出してもよい。あるいは、公知の三次元数値流体解析ソフトウェアにエンジン10の諸元や燃料混合気の成分といった諸条件を入力し、燃焼室内での燃焼状態をシミュレートすることで算出してもよい。
【0021】
熱発生率算出手段23は、筒内圧取得手段22で取得された筒内圧に基づき、熱発生率を算出するものである。ここで算出される熱発生率は、シリンダ内における混合気の燃焼反応で生じる発熱量の発生速度に相当するもの(クランク角に対する発熱量の変化率)であり、熱発生速度とも呼ばれる。なお、熱発生率は、例えばWiebe関数やTriple-Wiebe関数といった公知の燃焼モデルを用いることで、筒内圧に基づいて算出可能である。
【0022】
点火制御手段24は、点火プラグ9の点火時期SA(燃料混合気を点火するタイミング)を制御するものである。点火時期SAは、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて設定される。エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて設定される点火時期SAは、標準点火時期と呼ばれる。なお、ノックセンサ15でノッキングが検出されている場合には、点火時期SAを標準点火時期よりもリタードさせる制御を実施してもよい。ただし、副室式エンジンにおいては、適切な点火時期SAの範囲が他のエンジンと比較して狭く、点火時期SAの変化をできるだけ抑制することが望まれる。このような実情を踏まえて、ノッキングが検出されたとしても点火リタード制御を実施しないこととしてもよい。あるいは、ノックセンサ15でノッキングが検出された時間が所定時間を超えた場合に限って、点火リタード制御を開始することとしてもよい。
【0023】
燃料制御手段25は、主室噴射手段が供給する燃料量である主室燃料量と、副室噴射手段が供給する燃料量である副室燃料量とを制御するものである。これらの燃料量は、基本的にはエンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて設定される。また、燃料制御手段25は、筒内圧取得手段22で取得された筒内圧に基づいて副室燃料量を補正する制御を実施する。まず、燃料制御手段25は、筒内圧のピーク時期θ
PEAKを算出する。ピーク時期θ
PEAKは、筒内圧がピーク値をとる時期(その時刻に対応するクランク角)である。
図5中に実線で示すように、点火後に上昇する筒内圧が下降に転じる時期がピーク時期θ
PEAKとなる。
【0024】
また、燃料制御手段25は、少なくともピーク時期θ
PEAKが予め設定される所定範囲(θ
1~θ
2)から外れる場合に、副室燃料量を補正するための第1補正量を算出する。例えば、
図5中に一点鎖線で示すように、ピーク時期θ
PEAKが所定範囲(θ
1~θ
2)よりも遅角側にある場合には、副室燃料量を増加させるべく、正の値を持つ第1補正量を算出する。これにより、副室5のトーチ火炎が強化され、急峻な燃焼となることでピーク時期θ
PEAKが進角化しやすくなる。一方、
図5中に破線で示すように、ピーク時期θ
PEAKが所定範囲(θ
1~θ
2)よりも進角側にある場合には、副室燃料量を減少させるべく、負の値を持つ第1補正量を算出する。これにより、副室5のトーチ火炎が弱められ、燃焼が緩慢に進行してピーク時期θ
PEAKが遅角化しやすくなる。
【0025】
図6(A)~(C)は、ピーク時期θ
PEAKに基づいて第1補正量を算出するためのマップの具体例である。燃料制御手段25は、これらのようなマップのいずれかに基づいて第1補正量を算出する。
図6(A)は、ピーク時期θ
PEAKの変化に対して第1補正量が直線的に変化する特性を持つマップである。ここでは、ピーク時期θ
PEAKが遅いほど第1補正量が増大し、ピーク時期θ
PEAKが早いほど第1補正量が減少する。また、第1補正量が0となるピーク時期θ
PEAKは、所定範囲(θ
1~θ
2)内に設定される。
【0026】
図6(B)は、ピーク時期θ
PEAKが所定範囲(θ
1~θ
2)から外れる場合にのみ、0以外の第1補正量が設定される特性を持つマップである。ピーク時期θ
PEAKが所定範囲の最大値θ
2を超える場合、ピーク時期θ
PEAKが遅いほど第1補正量が直線的に増加する。一方、ピーク時期θ
PEAKが所定範囲の最小値θ
1を下回る場合、ピーク時期θ
PEAKが早いほど第1補正量が直線的に減少する。ピーク時期θ
PEAKが所定範囲(θ
1~θ
2)内にある場合には、第1補正量が0となる。
【0027】
図6(C)は、所定範囲(θ
1~θ
2)の内側と外側とで第1補正量の設定が異なる特性を持つマップである。
図6(B)のマップでは、第1補正量が所定範囲(θ
1~θ
2)内で0になっている。これに対し、
図6(C)のマップでは、第1補正量が所定範囲(θ
1~θ
2)内でピーク時期θ
PEAKの変化に対して直線的に変化する。第1補正量は、ピーク時期θ
PEAKが遅いほど増大するように設定される。また、ピーク時期θ
PEAKが所定範囲の最大値θ
2を超える場合、ピーク時期θ
PEAKが遅いほど第1補正量が直線的に増加する。このとき、ピーク時期θ
PEAKに対する第1補正量の増加勾配は、所定範囲(θ
1~θ
2)内での増加勾配よりも大きく設定される。同様に、ピーク時期θ
PEAKが所定範囲の最小値θ
1を下回る場合には、ピーク時期θ
PEAKが早いほど、所定範囲(θ
1~θ
2)内よりも急勾配で第1補正量が減少する特性が設定される。
【0028】
さらに、燃料制御手段25は、ピーク時期θPEAKが予め設定される所定範囲(θ1~θ2)内にある場合に、熱発生率や触媒温度Cに基づいて副室燃料量を追加補正する。燃料制御手段25は、熱発生率算出手段23で算出された熱発生率に基づき、筒内発熱量が所定量に到達するまでの期間を算出する。筒内発熱量は、一回の燃焼サイクルにおける燃料噴射量と燃料の理論熱量を用いて算出してもよいし、筒内圧から求めた熱発生率をクランク角(あるいは時間)について積分することでも算出可能である。また、筒内発熱量の所定量は、算出された筒内発熱量に対して所定の割合(例えば、10%の場合には0.1)を乗じることで算出されうる。つまり、筒内発熱量の所定量は、算出された筒内発熱量に応じて変化しうる可変値であってもよいし、任意に設定される固定値であってもよい。
【0029】
図7中のθ
Aは、熱発生量の経時変化が実線で表される場合に、筒内発熱量が所定量に到達する時期(クランク角)を表す。またθ
Bは、熱発生量の経時変化が破線で表される場合に、筒内発熱量が所定量に到達する時期(クランク角)を表す。以下、筒内発熱量が所定量に到達する時期のことを所定熱量位置θ
HEATと呼ぶ。実線グラフで点火時期SAから所定熱量位置θ
Aまでの区間を積分した値(実線グラフと横軸とに挟まれる区間の面積)は、破線グラフで点火時期SAから所定熱量位置θ
Bまでの区間を積分した値に等しい。また、所定熱量位置θ
HEATは、燃焼速度が速いほど進角方向に移動し、燃焼速度が遅いほど遅角方向に移動する。言い換えれば、
図7中に示す点火時期SAから所定熱量位置θ
HEATまでの燃焼期間は、燃焼速度が速いほど短くなり、燃焼速度が遅いほど長くなる。
【0030】
図8は、所定熱量位置θ
HEATに基づいて第2補正量を算出するためのマップの具体例である。このマップでは、所定熱量位置θ
HEATが所定位置θ
0にあるときに第2補正量が0に設定される。また、所定熱量位置θ
HEATが所定位置θ
0よりも進角側にある場合には、副室燃料量を減少させるべく、第2補正量が負の値に設定される。このとき、所定位置θ
0からの進角量が大きいほど、第2補正量の絶対値が大きく(負の方向に大きく)設定される。これにより、速すぎた燃焼速度がやや抑えられることになり、燃焼状態が適正化される。一方、所定熱量位置θ
HEATが所定位置θ
0よりも遅角側にある場合には、副室燃料量を増加させるべく、第2補正量が正の値に設定される。このとき、所定位置θ
0からの遅角量が大きいほど、第2補正量の絶対値が大きく(正の方向に大きく)設定される。これにより、遅すぎた燃焼速度がやや急かされることになり、燃焼状態が適正化される。
【0031】
図9は、触媒温度Cに基づいて第3補正量を算出するためのマップの具体例である。このマップでは、触媒温度Cが所定温度C
0を超えていれば第3補正量が0に設定される。一方、触媒温度Cが所定温度C
0以下である場合には、排気浄化触媒を昇温させる必要があると判断されて、副室燃料量を減少させるべく第3補正量が負の値に設定される。このとき、触媒温度Cが低いほど、第3補正量の絶対値が大きく(負の方向に大きく)設定される。副室燃料量を減少させることで燃焼速度が遅くなることから、排気温度が上昇し、排気浄化触媒が迅速に昇温しやすくなる。
【0032】
副室燃料量は、副室噴射手段に供給される燃料の圧力や噴射圧をコントロールすることで増減させてもよい。この場合、燃料噴射開始時SOI(Start Of Injection)や燃料噴射終了時EOI(End Of Injection)を変更することなく噴射の勢いを弱めたり強めたりすることで、一回の燃焼サイクルで供給される副室燃料量を増減させることができる。あるいは、燃料噴射開始時SOIや燃料噴射終了時EOIをコントロールすることで副室燃料量を増減させてもよい。この場合、副室噴射手段に供給される燃料の圧力や噴射圧を一定に保ちつつ、燃料噴射期間を短縮したり延長したりすることで、一回の燃焼サイクルで供給される副室燃料量を増減させることができる。
【0033】
主室燃料量は、副室燃料量の補正値の大小に関わらず、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて設定されることにしてもよい。あるいは、トータルの燃料噴射量が変化しないように、副室燃料量を減少(または増加)させた分だけ主室燃料量を増加(または減少)させてもよい。ここで、標準的な主室燃料量をFMAINと表記し、標準的な副室燃料量をFSUBと表記する。副室燃料量の減少量をFDECと表記すれば、実際に副室噴射手段から噴射される燃料量はFSUB-FDECとなる。このとき、主室噴射手段から噴射される燃料量はFMAINのままにしてもよいし、FMAIN+FDECとしてもよい。あるいは、FMAIN以上かつFMAIN+FDEC以下の範囲内で、主室噴射手段から噴射される燃料量を設定してもよい。同様に、副室燃料量の増加量をFINCと表記すれば、実際に副室噴射手段から噴射される燃料量はFSUB+FINCとなる。このとき、主室噴射手段から噴射される燃料量はFMAINのままにしてもよいし、FMAIN-FINCとしてもよい。あるいは、FMAIN-FINC以上かつFMAIN以下の範囲内で、主室噴射手段から噴射される燃料量を設定してもよい。
【0034】
[2.フローチャート]
図10~
図12は、ECU21で実施される制御の内容を説明するためのフローチャートである。
図10は、筒内圧のピーク時期θ
PEAK及び所定熱量位置θ
HEATの算出に係るフローチャートであり、筒内圧の経時変化が精度よく把握されうる周期(例えば、クランク角が1度変化するのにかかる時間よりも短い周期)で繰り返し実行される。ステップA1では、筒内圧取得手段22において筒内圧の情報が取得される。ステップA2では、筒内圧がピーク値をとったか否かが判定される。ここでは、例えば筒内圧の変化勾配(あるいは筒内圧の今回値から前回値を減じた値)が正から0または負に変化したか否かが判定される。筒内圧がピーク値をとったと判断された場合にはステップA3に進み、そのときのクランク角であるピーク時期θ
PEAKの情報が取得されてステップA4に進む。一方、ステップA2の条件が不成立である場合には、ステップA3がスキップされてステップA4に進む。
【0035】
ステップA4では、熱発生率算出手段23において、筒内圧に基づいて熱発生率が算出される。また、ステップA5では、燃料制御手段25において、その燃焼サイクルでの総発熱量が算出されるとともに、その燃焼サイクルにおけるその時点での筒内発熱量が算出される。ステップA6では、筒内発熱量が所定量に達したか否かが判定される。この条件が成立した場合にはステップA7に進み、そのときのクランク角である所定熱量位置θHEATの情報が取得されて、この演算周期での制御が終了する。また、ステップA6の条件が不成立である場合には、ステップA7がスキップされて制御が終了する。このような制御が繰り返され、その燃焼サイクルでのピーク時期θPEAK,所定熱量位置θHEATの情報が燃焼サイクル毎に算出される。
【0036】
図11は、燃料噴射に係るフローチャートであり、一回の燃焼サイクルに対応する周期で繰り返し実行される。ステップB1では、エンジン回転数及びエンジン負荷に基づき、その燃焼サイクルでの標準的な燃料量が算出される。燃料量は、主室燃料量と副室燃料量とが個別に算出される。本件では、副室燃料量が主室燃料量よりも少ない値として算出される。例えば、副室燃料量が燃料量全体に対して数パーセントから十数パーセント程度とされる。ステップB2では、筒内圧のピーク時期θ
PEAKが所定範囲の最大値θ
2を超えているか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップB4に進み、副室燃料量が増量される。例えば、
図6(A)~(C)に示すようなマップに基づいて正の第1補正量が算出され、ステップB1で算出された副室燃料量に第1補正量が加算(すなわち増加補正)される。その後、ステップB6において燃料噴射が実施され、この演算サイクルでの制御が終了する。
【0037】
ステップB2の条件が不成立である場合にはステップB3に進み、筒内圧のピーク時期θ
PEAKが所定範囲の最小値θ
1を下回るか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップB5に進み、副室燃料量が減量される。例えば、
図6(A)~(C)に示すようなマップに基づいて負の第1補正量が算出され、ステップB1で算出された副室燃料量に第1補正量が加算(すなわち減少補正)される。その後、ステップB6において燃料噴射が実施され、この演算サイクルでの制御が終了する。なお、ステップB3の条件が不成立である場合には、第1補正量が算出されることなくステップB6に進み、燃料噴射が実施されて、この演算サイクルでの制御が終了する。
【0038】
図12は、追加補正に係るフローチャートであり、一回の燃焼サイクルに対応する周期で繰り返し実行される。ステップC1では、筒内圧のピーク時期θ
PEAKが所定範囲(θ
1~θ
2)内にあるか否かが判定される。この条件が成立する場合には、ステップC2に進む。一方、この条件が不成立である場合には、追加補正が実施されることなくそのまま制御が終了する。ステップC2では、所定熱量位置θ
HEATが所定位置θ
0よりも遅角側にある(θ
0≦θ
HEATである)か否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップC3に進み、副室燃料量が増量される。例えば、
図8に示すようなマップに基づいて正の第2補正量が算出され、これが副室燃料量に加算(すなわち増加補正)される。その後、ステップC5に進む。
【0039】
一方、ステップC2の条件が不成立である場合にはステップC4に進み、副室燃料量が減量される。例えば、
図8に示すようなマップに基づいて負の第2補正量が算出され、これが副室燃料量に加算(すなわち減少補正)される。その後のステップC5では、排気浄化触媒を昇温させる必要があるか否かが判定される。例えば、触媒温度Cが所定温度C
0以下であるか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップC6に進み、副室燃料量が減量される。例えば、
図9に示すようなマップに基づいて負の第2補正量が算出され、これが副室燃料量に加算(すなわち減少補正)されて、この演算サイクルでの制御が終了する。なお、ステップC5の条件が不成立である場合には、ステップC6がスキップされて制御が終了する。
【0040】
[3.作用,効果]
(1)上記のエンジン10の制御装置(すなわちECU21)では、筒内圧のピーク時期θPEAKが所定範囲(θ1~θ2)から外れる場合に、燃料制御手段25によって副室燃料量が補正される。これにより、点火時期SAを変更することなく、筒内圧がピーク値になるタイミングを調節することができる。例えば、外乱による筒内圧変化のばらつきを調整することができ、ノッキングの発生や燃焼変動を抑制することができる。したがって、エンジン10の燃焼安定性を向上させることができる。
【0041】
(2)上記のエンジン10の制御装置では、ピーク時期θPEAKが所定範囲(θ1~θ2)よりも遅角側にある場合に、副室燃料量が増加補正される。これにより、燃焼速度を速くすることができ、ピーク時期θPEAKを進角方向に移動させることができる。一方、ピーク時期θPEAKが所定範囲(θ1~θ2)よりも進角側にある場合には、副室燃料量が減少補正される。これにより、燃焼速度を遅くすることができ、ピーク時期θPEAKを遅角方向に移動させることができる。したがって、ピーク時期θPEAKが所定範囲(θ1~θ2)の内側に入るように燃焼状態を適正化することができ、エンジン10の燃焼安定性を向上させることができる。
【0042】
(3)上記のエンジン10の制御装置では、ピーク時期θPEAKが所定範囲(θ1~θ2)内にあることを前提として、所定熱量位置θHEATが所定位置θ0よりも進角側にある場合に、副室燃料量が減少補正される。これにより、燃焼速度を遅くすることができ、所定熱量位置θHEATを所定位置θ0に近づけることができる。反対に、所定熱量位置θHEATが所定位置θ0よりも遅角側にある場合には、副室燃料量が増加補正される。これにより、燃焼速度を速くすることができ、所定熱量位置θHEATを所定位置θ0に近づけることができる。何れにしても、所定熱量位置θHEATを所定位置θ0に接近させることができ、エンジン10の燃焼安定性を向上させることができる。
【0043】
(4)上記のエンジン10の制御装置では、ピーク時期θPEAKが所定範囲(θ1~θ2)内にあることを前提として、排気浄化触媒を昇温させる場合に、副室燃料量が減少補正される。これにより、副室5のトーチ火炎を弱めて燃焼速度を遅くすることができ、排気温度を上昇させることができる。したがって、排気浄化触媒に供給される熱量を増加させることができ、効率的に排気浄化触媒を昇温させることができ、排気浄化性能を早期に上昇させることができる。
【0044】
[4.変形例]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせることができる。例えば、上記の実施例では車両に搭載されるエンジン10の制御装置について詳述したが、本件に係る制御装置の適用対象は車載エンジンのみに制限されることはなく、例えば船舶や発電施設に設置されるエンジンにも適用可能である。少なくとも、主室噴射手段と副室噴射手段とを備えた内燃機関であれば、本件に係る制御装置を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 ポート噴射弁(主室噴射手段)
2,2′ 副室噴射弁(副室噴射手段)
3 筒内噴射弁(主室噴射手段)
4 多機能噴射弁(主室噴射手段,副室噴射手段)
5 副室
6 隔壁
7 孔
8 主室
9 点火プラグ
10 エンジン
11 吸気ポート
12 排気ポート
13 吸気バルブ
14 排気バルブ
15 ノックセンサ
16 筒内圧センサ
17 エンジン回転数センサ
18 アクセル開度センサ
19 車速センサ
20 触媒温度センサ
21 ECU
22 筒内圧取得手段
23 熱発生率算出手段
24 点火制御手段
25 燃料制御手段
θPEAK ピーク時期
θHEAT 所定熱量位置
C 触媒温度
θ0 所定位置
θ1 最小値
θ2 最大値
C0 所定温度