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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】インダクタ回路
(51)【国際特許分類】
   H04L 25/02 20060101AFI20240709BHJP
   H03H 5/02 20060101ALI20240709BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20240709BHJP
   H01F 17/06 20060101ALI20240709BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H04L25/02 F
H03H5/02
H01F27/00 R
H01F17/06 Z
H01F37/00 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023531488
(86)(22)【出願日】2022-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2022020087
(87)【国際公開番号】W WO2023276459
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021106742
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 峰日登
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康誌
(72)【発明者】
【氏名】本多 宏之
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186709(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0342124(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 25/02
H03H 5/02
H01F 27/00
H01F 17/06
H01F 37/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から出力される電流を一対の信号線に伝送するインダクタ回路であって、
第1コアと、前記第1コアに巻回され、一端が前記電源に電気的に接続され、第1方向に磁界を発生する第1巻線と、前記第1コアに巻回され、一端が前記電源に電気的に接続され、前記第1方向と逆方向に磁界を発生する第2巻線と、を含む第1インダクタと、
第2コアと、前記第2コアに巻回され、一端が前記第1巻線の他端に電気的に接続され、第2方向に磁界を発生する第3巻線と、前記第2コアに巻回され、一端が前記第3巻線の他端に電気的に接続され、他端が前記一対の信号線の内の一方に電気的に接続され、前記第2方向に磁界を発生する第4巻線と、を含む第2インダクタと、
第3コアと、前記第3コアに巻回され、一端が前記第2巻線の他端に電気的に接続され、第3方向に磁界を発生する第5巻線と、前記第3コアに巻回され、一端が前記第5巻線の他端に電気的に接続され、他端が前記一対の信号線の内の他方に電気的に接続され、前記第3方向に磁界を発生する第6巻線と、を含む第3インダクタと、
を含む、
インダクタ回路。
【請求項2】
請求項1に記載のインダクタ回路であって、
前記第1コアは、閉磁路構造であり
前記第2コアは、開磁路構造であり
前記第3コアは、開磁路構造である、
インダクタ回路。
【請求項3】
請求項1に記載のインダクタ回路であって、
前記第2インダクタの電気的特性と前記第3インダクタの電気的特性とは、同特性である、
インダクタ回路。
【請求項4】
請求項1に記載のインダクタ回路であって、
前記第1インダクタ、前記第2インダクタ及び前記第3インダクタは、コモンモードチョークコイルである、
インダクタ回路。
【請求項5】
請求項1に記載のインダクタ回路であって、
前記第1インダクタ、前記第2インダクタ及び前記第3インダクタは、ディファレンシャルモードインダクタである、
インダクタ回路。
【請求項6】
請求項1に記載のインダクタ回路であって、
前記第3巻線、前記第4巻線、前記第5巻線及び前記第6巻線の巻数は、前記第1巻線及び前記第2巻線の巻数よりも少ない、
インダクタ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インダクタ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電源電流が、バイアスT(Bias-T)回路を介してシールド付き撚り対線の2本の信号線にコモンモードで供給され、リターン電流が、シールドを介してグランドに流れる、パワーオーバーイーサネット(登録商標)回路が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-41385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の回路では、電源電流がバイアスT回路のインダクタに流れることで、インダクタに磁気飽和が生じる可能性があり、インダクタンスが低下してしまう可能性がある。このインダクタンスの低下により、信号伝送路に要求される特性を満たさなくなる可能性がある。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、信号伝送路の特性の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面のインダクタ回路は、電源から出力される電流を一対の信号線に伝送するインダクタ回路であって、第1コアと、第1コアに巻回され、一端が電源に電気的に接続され、第1方向に磁界を発生する第1巻線と、第1コアに巻回され、一端が電源に電気的に接続され、第1方向と逆方向に磁界を発生する第2巻線と、を含む第1インダクタと、第2コアと、第2コアに巻回され、一端が第1巻線の他端に電気的に接続され、第2方向に磁界を発生する第3巻線と、第2コアに巻回され、一端が第3巻線の他端に電気的に接続され、他端が一対の信号線の内の一方に電気的に接続され、第2方向に磁界を発生する第4巻線と、を含む第2インダクタと、第3コアと、第3コアに巻回され、一端が第2巻線の他端に電気的に接続され、第3方向に磁界を発生する第5巻線と、第3コアに巻回され、一端が第5巻線の他端に電気的に接続され、他端が一対の信号線の内の他方に電気的に接続され、第3方向に磁界を発生する第6巻線と、を含む第3インダクタと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、信号伝送路の特性の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施の形態のインダクタ回路の構成を示す図である。
図2図2は、第1比較例のシミュレーション回路の構成を示す図である。
図3図3は、第2比較例のシミュレーション回路の構成を示す図である。
図4図4は、第1の実施の形態のシミュレーション回路の構成を示す図である。
図5図5は、第1比較例、第2比較例及び第1の実施の形態のシミュレーション結果を示す図である。
図6図6は、第2の実施の形態のインダクタ回路の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示のインダクタ回路の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により本開示が限定されるものではない。各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2の実施の形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0010】
<第1の実施の形態>
(構成)
図1は、第1の実施の形態のインダクタ回路の構成を示す図である。インダクタ回路1は、電源21から出力される電源電流を、シールド付き撚り対線(Shielded Twisted Pair:STP)22に伝送する。インダクタ回路1は、バイアスT(Bias-T)回路である。
【0011】
シールド付き撚り対線22は、第1信号線22-1及び第2信号線22-2と、シールド22-3と、を含む。シールド22-3は、基準電位に電気的に接続されている。
【0012】
インダクタ回路1は、第1インダクタ11と、第2インダクタ12と、第3インダクタ13と、を含む。
【0013】
第1インダクタ11は、第1巻線11-1と、第2巻線11-2と、第1コア11-3と、を含む。
【0014】
第1巻線11-1は、第1コア11-3に巻回されている。第1巻線11-1は、第1コア11-3の一方側から見て、反時計回りに巻回されていることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。第2巻線11-2は、第1コア11-3の一方側から見て、第1巻線11-1と同じ回り(反時計回り)に、第1コア11-3に巻回されている。
【0015】
第1巻線11-1及び第2巻線11-2は、重ねて巻回されても良い。或いは、第2巻線11-2は、第1巻線11-1と重ならない場所に巻回されても良い。
【0016】
第1巻線11-1及び第2巻線11-2の巻数は、同じであることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0017】
第1コア11-3は、閉磁路構造とするが、本開示はこれに限定されない。第1コア11-3は、開磁路構造であっても良い。第1コア11-3は、閉磁路構造とすると、磁気飽和を抑制できるので、好ましい。
【0018】
第2インダクタ12は、第3巻線12-1と、第4巻線12-2と、第2コア12-3と、を含む。
【0019】
第3巻線12-1は、第2コア12-3に巻回されている。第3巻線12-1は、第2コア12-3の一方側から見て、反時計回りに巻回されていることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。第4巻線12-2は、第2コア12-3の一方側から見て、第3巻線12-1と同じ回り(反時計回り)に、第2コア12-3に巻回されている。
【0020】
第3巻線12-1及び第4巻線12-2は、重ねて巻回されても良い。或いは、第4巻線12-2は、第3巻線12-1と重ならない場所に巻回されても良い。
【0021】
第3巻線12-1及び第4巻線12-2の巻数は、同じであることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0022】
第3巻線12-1及び第4巻線12-2の巻数は、結合容量を抑制するために、第1巻線11-1及び第2巻線11-2の巻数よりも少ないことが例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0023】
第2コア12-3は、開磁路構造とするが、本開示はこれに限定されない。第2コア12-3は、閉磁路構造であっても良い。第2コア12-3は、開磁路構造とすると、高周波特性の低下を抑制できるので、好ましい。
【0024】
第3インダクタ13は、第5巻線13-1と、第6巻線13-2と、第3コア13-3と、を含む。
【0025】
第5巻線13-1は、第3コア13-3に巻回されている。第5巻線13-1は、第3コア13-3の一方側から見て、反時計回りに巻回されていることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。第6巻線13-2は、第3コア13-3の一方側から見て、第5巻線13-1と同じ回り(反時計回り)に、第3コア13-3に巻回されている。
【0026】
第5巻線13-1及び第6巻線13-2は、重ねて巻回されても良い。或いは、第6巻線13-2は、第5巻線13-1と重ならない場所に巻回されても良い。
【0027】
第5巻線13-1及び第6巻線13-2の巻数は、同じであることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0028】
第5巻線13-1及び第6巻線13-2の巻数は、結合容量を抑制するために、第1巻線11-1及び第2巻線11-2の巻数よりも少ないことが例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0029】
第3コア13-3は、開磁路構造とするが、本開示はこれに限定されない。第3コア13-3は、閉磁路構造であっても良い。第3コア13-3は、開磁路構造とすると、高周波特性の低下を抑制できるので、好ましい。
【0030】
第1インダクタ11、第2インダクタ12及び第3インダクタ13の各々は、コモンモードチョークコイル(Common Mode Choke Coils:CMCC)である、
【0031】
電源21と第1信号線22-1との間の電気的特性と、電源21と第2信号線22-2との間の電気的特性と、のバランスを図るために、第2インダクタ12の電気的特性と第3インダクタ13の電気的特性とは同特性であることが好ましい。つまり、第2インダクタ12及び第3インダクタ13は、同じものであることが好ましい。
【0032】
第1巻線11-1の一端11-1aは、電源21に電気的に接続されている。第1巻線11-1の他端11-1bは、第3巻線12-1の一端12-1aに電気的に接続されている。
【0033】
第3巻線12-1の他端12-1bは、第4巻線12-2の一端12-2aに電気的に接続されている。第4巻線12-2の他端12-2bは、第1信号線22-1に電気的に接続されている。
【0034】
第2巻線11-2の一端11-2aは、電源21に電気的に接続されている。第2巻線11-2の他端11-2bは、第5巻線13-1の一端13-1aに電気的に接続されている。
【0035】
第5巻線13-1の他端13-1bは、第6巻線13-2の一端13-2aに電気的に接続されている。第6巻線13-2の他端13-2bは、第2信号線22-2に電気的に接続されている。
【0036】
電源21から出力される電源電流は、矢印31で示すように、第1インダクタ11に入力される。
【0037】
第1巻線11-1では、電源電流は、矢印32で示すように、図中右から図中左に向かって流れる。第1巻線11-1では、磁界は、矢印33で示すように、図中左から図中右に向かう方向に発生する。
【0038】
第2巻線11-2では、電源電流は、矢印34で示すように、図中左から図中右に向かって流れる。第2巻線11-2では、磁界は、矢印35で示すように、図中右から図中左に向かう方向に発生する。
【0039】
第1インダクタ11では、電源電流が、ディファレンシャルモードで流れる。
【0040】
第1コア11-3では、第1巻線11-1によって発生する磁界と、第2巻線11-2によって発生する磁界と、が打ち消し合うので、磁気飽和が抑制される。これにより、第1インダクタ11は、インダクタンスの低下を抑制できる。従って、インダクタ回路1は、信号反射特性の低下を抑制できる。
【0041】
第3巻線12-1では、電源電流は、矢印36で示すように、図中右から図中左に向かって流れる。第3巻線12-1では、磁界は、矢印37で示すように、図中左から図中右に向かう方向に発生する。
【0042】
第4巻線12-2では、電源電流は、矢印38で示すように、図中右から図中左に向かって流れる。第4巻線12-2では、磁界は、矢印39で示すように、図中左から図中右に向かう方向に発生する。
【0043】
第2インダクタ12では、電源電流が、コモンモードで流れる。
【0044】
第2コア12-3では、第3巻線12-1によって発生する磁界と、第4巻線12-2によって発生する磁界と、が強め合う。
【0045】
第5巻線13-1では、電源電流は、矢印40で示すように、図中左から図中右に向かって流れる。第5巻線13-1では、磁界は、矢印41で示すように、図中右から図中左に向かう方向に発生する。
【0046】
第6巻線13-2では、電源電流は、矢印42で示すように、図中左から図中右に向かって流れる。第6巻線13-2では、磁界は、矢印43で示すように、図中右から図中左に向かう方向に発生する。
【0047】
第3インダクタ13では、電源電流が、コモンモードで流れる。
【0048】
第3コア13-3では、第5巻線13-1によって発生する磁界と、第6巻線13-2によって発生する磁界と、が強め合う。
【0049】
第4巻線の他端12-2bから出力される電源電流は、矢印44で示すように、第1信号線22-1に入力される。第1信号線22-1では、電源電流は、矢印45で示すように、図中左から図中右に向かって流れ、負荷回路(図示せず)に入力される。
【0050】
第6巻線の他端13-2bから出力される電源電流は、矢印46で示すように、第2信号線22-2に入力される。第2信号線22-2では、電源電流は、矢印47で示すように、図中左から図中右に向かって流れ、負荷回路に入力される。
【0051】
シールド22-3では、負荷回路から流れ出るリターン電流は、矢印48で示すように、図中右から図中左に向かって流れ、基準電位に流れる。
【0052】
(回路シミュレーション)
[第1比較例のシミュレーション回路の構成]
図2は、第1比較例のシミュレーション回路の構成を示す図である。この回路51は、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.3chに、好ましいシミュレーション回路の例として記載されているものである。
【0053】
回路51は、インダクタ回路52を含む。インダクタ回路52は、バイアスT回路である。
【0054】
インダクタ回路52は、インダクタ52-1及び52-2を含む。インダクタ52-1は、寄生容量52-1aを含む。インダクタ52-2は、寄生容量52-2aを含む。
【0055】
インダクタ52-1の一端は、電源電位VCCに電気的に接続されている。インダクタ52-1の他端は、コネクタ54を介して、第1信号線22-1に電気的に接続されている。
【0056】
インダクタ52-2の一端は、電源電位VCCに電気的に接続されている。インダクタ52-2の他端は、コネクタ54を介して、第2信号線22-2に電気的に接続されている。
【0057】
回路53は、第1信号線22-1及び第2信号線22-2を介して通信を行う物理層(PHY)回路の等価回路である。回路53は、抵抗53-1及び53-2と、コンデンサ53-3及び53-4と、を含む。
【0058】
抵抗53-1の一端及びコンデンサ53-3の一端は、端子53aに電気的に接続されている。抵抗53-1の他端及びコンデンサ53-3の他端は、基準電位に電気的に接続されている。
【0059】
抵抗53-2の一端及びコンデンサ53-4の一端は、端子53bに電気的に接続されている。抵抗53-2の他端及びコンデンサ53-4の他端は、基準電位に電気的に接続されている。
【0060】
端子53aは、プリント基板上の配線55、DCカットコンデンサ57及びコネクタ54を介して、第1信号線22-1に電気的に接続されている。端子53aは、シャントコンデンサ59を介して、基準電位に電気的に接続されている。
【0061】
端子53bは、プリント基板上の配線56、DCカットコンデンサ58及びコネクタ54を介して、第2信号線22-2に電気的に接続されている。端子53bは、シャントコンデンサ60を介して、基準電位に電気的に接続されている。
【0062】
[第2比較例のシミュレーション回路の構成]
図3は、第2比較例のシミュレーション回路の構成を示す図である。この回路71は、回路51(図2参照)と比較して、インダクタ回路52に代えて、インダクタ回路72を含む。
【0063】
インダクタ回路72は、インダクタ回路1(図1参照)と比較して、第1インダクタ11だけを含み、第2インダクタ12及び第3インダクタ13を含んでいない。
【0064】
第1巻線11-1の他端11-1bは、コネクタ54を介して、第1信号線22-1に電気的に接続されている。
【0065】
第2巻線11-2の他端11-2bは、コネクタ54を介して、第2信号線22-2に電気的に接続されている。
【0066】
[第1の実施の形態のシミュレーション回路の構成]
図4は、第1の実施の形態のシミュレーション回路の構成を示す図である。この回路81は、回路71(図3参照)と比較して、インダクタ回路72に代えて、インダクタ回路1を含む。
【0067】
第1巻線11-1の他端11-1bは、コネクタ54を介して、第1信号線22-1に電気的に接続されている。
【0068】
第2巻線11-2の他端11-2bは、コネクタ54を介して、第2信号線22-2に電気的に接続されている。
【0069】
[シミュレーション結果]
図5は、第1比較例、第2比較例及び第1の実施の形態のシミュレーション結果を示す図である。
【0070】
図5の横軸は、周波数を表し、縦軸は、SパラメータのSdd11を表す。Sdd11は、信号反射特性を表す指標である。
【0071】
線91は、10GBase-T1で定められている、Sdd11の上限を表す。信号反射特性は、線91で表されるSdd11よりも低いことが求められる。
【0072】
線92は、第1比較例の回路51のSdd11を示す。回路51のSdd11は、周波数1MHz(メガヘルツ)から周波数6GHz(ギガヘルツ)までに渡って、線91で表されるSdd11よりも低い。
【0073】
線93は、第2比較例の回路71のSdd11を示す。回路71のSdd11は、周波数1MHzから周波数300MHzまでは、線91で表されるSdd11よりも低い。しかし、回路71のSdd11は、周波数300MHzから周波数4GHzまでは、線91で表されるSdd11よりも高くなってしまっている。その理由は、第1巻線11-1と第2巻線11-2との間に結合容量が生じ、インダクタ回路72のインピーダンスが低下するので、周波数300MHzから周波数4GHzまでの帯域で信号の反射が生じ易くなるからであると考えられる。
【0074】
線94は、第1の実施の形態の回路81のSdd11を示す。回路81のSdd11は、周波数1MHzから周波数6GHzまでに渡って、線91で表されるSdd11よりも低い。その理由は、第3巻線12-1、第4巻線12-2、第5巻線13-1及び第6巻線13-2の巻数を第1巻線11-1及び第2巻線11-2の巻数よりも少なくすることにより、第3巻線12-1と第4巻線12-2との間の結合容量及び第5巻線13-1と第6巻線13-2との間の結合容量が抑制される。従って、第2インダクタ12及び第3インダクタ13のインピーダンス低下が抑制される。これにより、第1インダクタ11、第2インダクタ12及び第3インダクタ13の合成インピーダンス、即ち、インダクタ回路1のインピーダンスの低下が抑制されるからであると考えられる。
【0075】
(まとめ)
インダクタ回路1は、電源電流を、ディファレンシャルモードで第1インダクタ11に流すことにより、第1コア11-3の磁気飽和を抑制できる。これにより、インダクタ回路1は、第1インダクタ11のインダクタンスの低下を抑制できるので、信号反射特性の低下を抑制できる。
【0076】
インダクタ回路1は、第1コア11-3を閉磁路構造とすることにより、第1コア11-3の磁気飽和を抑制できる。これにより、インダクタ回路1は、第1インダクタ11のインダクタンスの低下を抑制できるので、信号反射特性の低下を抑制できる。
【0077】
インダクタ回路1は、第2コア12-3及び第3コア13-3を開磁路構造とすることにより、第2インダクタ12及び第3インダクタ13の高周波特性の低下を抑制できる。これにより、インダクタ回路1は、信号反射特性の低下を抑制できる。
【0078】
インダクタ回路1は、第3巻線12-1、第4巻線12-2、第5巻線13-1及び第6巻線13-2の巻数を第1巻線11-1及び第2巻線11-2の巻数よりも少なくすることにより、第3巻線12-1と第4巻線12-2との間の結合容量及び第5巻線13-1と第6巻線13-2との間の結合容量を抑制できる。従って、インダクタ回路1は、第2インダクタ12及び第3インダクタ13のインピーダンス低下を抑制できる。これにより、インダクタ回路1は、インピーダンスの低下を抑制できるので、信号反射特性の低下を抑制できる。
【0079】
インダクタ回路1は、第2インダクタ12の電気的特性と第3インダクタ13の電気的特性とを同特性とすることにより、電源21と第1信号線22-1との間の電気的特性と、電源21と第2信号線22-2との間の電気的特性と、のバランスを図ることができる。これにより、インダクタ回路1は、モード変換特性によるコモンモードノイズを抑制できる。
【0080】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態の構成要素のうち、第1の実施の形態の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0081】
図6は、第2の実施の形態のインダクタ回路の構成を示す図である。インダクタ回路101は、電源21から出力される電源電流を、シールド付き撚り対線22に伝送する。インダクタ回路101は、バイアスT回路である。
【0082】
インダクタ回路101は、第1インダクタ111と、第2インダクタ112と、第3インダクタ113と、を含む。
【0083】
第1インダクタ111は、第1巻線111-1と、第2巻線111-2と、第1コア111-3と、を含む。
【0084】
第1巻線111-1は、第1コア111-3に巻回されている。第1巻線111-1は、第1コア111-3の一方側から見て、反時計回りに巻回されていることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。第2巻線111-2は、第1コア111-3の一方側から見て、第1巻線111-1と逆回り(時計回り)に、第1コア111-3に巻回されている。
【0085】
第1巻線111-1及び第2巻線111-2は、重ねて巻回されても良い。或いは、第2巻線111-2は、第1巻線111-1と重ならない場所に巻回されても良い。
【0086】
第1巻線111-1及び第2巻線111-2の巻数は、同じであることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0087】
第1コア111-3は、閉磁路構造とするが、本開示はこれに限定されない。第1コア111-3は、開磁路構造であっても良い。第1コア111-3は、閉磁路構造とすると、磁気飽和を抑制できるので、好ましい。
【0088】
第2インダクタ112は、第3巻線112-1と、第4巻線112-2と、第2コア112-3と、を含む。
【0089】
第3巻線112-1は、第2コア112-3に巻回されている。第3巻線112-1は、第2コア112-3の一方側から見て、反時計回りに巻回されていることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。第4巻線112-2は、第2コア112-3の一方側から見て、第3巻線112-1と逆回り(時計回り)に、第2コア112-3に巻回されている。
【0090】
第3巻線112-1及び第4巻線112-2は、重ねて巻回されても良い。或いは、第4巻線112-2は、第3巻線112-1と重ならない場所に巻回されても良い。
【0091】
第3巻線112-1及び第4巻線112-2の巻数は、同じであることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0092】
第3巻線112-1及び第4巻線112-2の巻数は、結合容量を抑制するために、第1巻線111-1及び第2巻線111-2の巻数よりも少ないことが例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0093】
第2コア112-3は、開磁路構造とするが、本開示はこれに限定されない。第2コア112-3は、閉磁路構造であっても良い。第2コア112-3は、開磁路構造とすると、高周波特性の低下を抑制できるので、好ましい。
【0094】
第3インダクタ113は、第5巻線113-1と、第6巻線113-2と、第3コア113-3と、を含む。
【0095】
第5巻線113-1は、第3コア113-3に巻回されている。第5巻線113-1は、第3コア113-3の一方側から見て、反時計回りに巻回されていることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。第6巻線113-2は、第3コア113-3の一方側から見て、第5巻線113-1と逆回り(時計回り)に、第3コア113-3に巻回されている。
【0096】
第5巻線113-1及び第6巻線113-2は、重ねて巻回されても良い。或いは、第6巻線113-2は、第5巻線113-1と重ならない場所に巻回されても良い。
【0097】
第5巻線113-1及び第6巻線113-2の巻数は、同じであることが例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0098】
第5巻線113-1及び第6巻線113-2の巻数は、結合容量を抑制するために、第1巻線111-1及び第2巻線111-2の巻数よりも少ないことが例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0099】
第3コア113-3は、開磁路構造とするが、本開示はこれに限定されない。第3コア113-3は、閉磁路構造であっても良い。第3コア113-3は、開磁路構造とすると、高周波特性の低下を抑制できるので、好ましい。
【0100】
第1インダクタ111、第2インダクタ112及び第3インダクタ113の各々は、ディファレンシャルモードインダクタ(Differential Mode Inductor:DMI)である。
【0101】
電源21と第1信号線22-1との間の電気的特性と、電源21と第2信号線22-2との間の電気的特性と、のバランスを図るために、第2インダクタ112の電気的特性と第3インダクタ113の電気的特性とは同特性であることが好ましい。つまり、第2インダクタ112及び第3インダクタ113は、同じものであることが好ましい。
【0102】
第1巻線111-1の一端111-1aは、電源21に電気的に接続されている。第1巻線111-1の他端111-1bは、第3巻線112-1の一端112-1aに電気的に接続されている。
【0103】
第3巻線112-1の他端112-1bは、第4巻線112-2の一端112-2aに電気的に接続されている。第4巻線112-2の他端112-2bは、第1信号線22-1に電気的に接続されている。
【0104】
第2巻線111-2の一端111-2aは、電源21に電気的に接続されている。第2巻線111-2の他端111-2bは、第5巻線113-1の一端113-1aに電気的に接続されている。
【0105】
第5巻線113-1の他端113-1bは、第6巻線113-2の一端113-2aに電気的に接続されている。第6巻線113-2の他端113-2bは、第2信号線22-2に電気的に接続されている。
【0106】
電源21から出力される電源電流は、矢印31で示すように、第1インダクタ111に入力される。
【0107】
第1巻線111-1では、電源電流は、矢印121で示すように、図中左から図中右に向かって流れる。第1巻線111-1では、磁界は、矢印122で示すように、図中右から図中左に向かう方向に発生する。
【0108】
第2巻線111-2では、電源電流は、矢印123で示すように、図中左から図中右に向かって流れる。第2巻線111-2では、磁界は、矢印124で示すように、図中左から図中右に向かう方向に発生する。
【0109】
第1インダクタ111では、電源電流が、コモンモードで流れる。
【0110】
第1コア111-3では、第1巻線111-1によって発生する磁界と、第2巻線111-2によって発生する磁界と、が打ち消し合うので、磁気飽和が抑制される。これにより、第1インダクタ111は、インダクタンスの低下を抑制できる。従って、インダクタ回路101は、信号反射特性の低下を抑制できる。
【0111】
第3巻線112-1では、電源電流は、矢印125で示すように、図中右から図中左に向かって流れる。第3巻線112-1では、磁界は、矢印126で示すように、図中左から図中右に向かう方向に発生する。
【0112】
第4巻線112-2では、電源電流は、矢印127で示すように、図中左から図中右に向かって流れる。第4巻線112-2では、磁界は、矢印128で示すように、図中左から図中右に向かう方向に発生する。
【0113】
第2インダクタ112では、電源電流が、ディファレンシャルモードで流れる。
【0114】
第2コア112-3では、第3巻線112-1によって発生する磁界と、第4巻線112-2によって発生する磁界と、が強め合う。
【0115】
第5巻線113-1では、電源電流は、矢印129で示すように、図中左から図中右に向かって流れる。第5巻線113-1では、磁界は、矢印130で示すように、図中右から図中左に向かう方向に発生する。
【0116】
第6巻線113-2では、電源電流は、矢印131で示すように、図中右から図中左に向かって流れる。第6巻線113-2では、磁界は、矢印132で示すように、図中右から図中左に向かう方向に発生する。
【0117】
第3インダクタ113では、電源電流が、ディファレンシャルモードで流れる。
【0118】
第3コア113-3では、第5巻線113-1によって発生する磁界と、第6巻線113-2によって発生する磁界と、が強め合う。
【0119】
第4巻線の他端112-2bから出力される電源電流は、矢印44で示すように、第1信号線22-1に入力される。第1信号線22-1では、電源電流は、矢印45で示すように、図中左から図中右に向かって流れ、負荷回路(図示せず)に入力される。
【0120】
第6巻線の他端113-2bから出力される電源電流は、矢印46で示すように、第2信号線22-2に入力される。第2信号線22-2では、電源電流は、矢印47で示すように、図中左から図中右に向かって流れ、負荷回路に入力される。
【0121】
シールド22-3では、負荷回路から流れ出るリターン電流は、矢印48で示すように、図中右から図中左に向かって流れ、基準電位に流れる。
【0122】
第2の実施の形態のインダクタ回路101は、第1の実施の形態のインダクタ回路1と同様の効果を奏する。
【0123】
なお、上記した実施の形態は、本開示の理解を容易にするためのものであり、本開示を限定して解釈するためのものではない。本開示は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本開示にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0124】
1、52、72、101 インダクタ回路
11、111 第1インダクタ
11-1、111-1 第1巻線
11-2、111-2 第2巻線
11-3、111-3 第1コア
12、112 第2インダクタ
12-1、112-1 第3巻線
12-2、112-2 第4巻線
12-3、112-3 第2コア
13、113 第3インダクタ
13-1、113-1 第5巻線
13-2、113-2 第6巻線
13-3、113-3 第3コア
22 シールド付き撚り対線
22-1 第1信号線
22-2 第2信号線
22-3 シールド
図1
図2
図3
図4
図5
図6