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特許7517614バッテリ劣化量決定方法、バッテリマネジメントユニットおよびバッテリパック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】バッテリ劣化量決定方法、バッテリマネジメントユニットおよびバッテリパック
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20240709BHJP
   G01R 31/374 20190101ALI20240709BHJP
   G01R 31/3828 20190101ALI20240709BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20240709BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240709BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/374
G01R31/3828
G01R31/385
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/42 P
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023539930
(86)(22)【出願日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2023007241
(87)【国際公開番号】W WO2023176423
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2022039897
(32)【優先日】2022-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 一
(72)【発明者】
【氏名】横辻 北斗
(72)【発明者】
【氏名】石川 清貴
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅大
(72)【発明者】
【氏名】加納 靖章
(72)【発明者】
【氏名】田中 颯
(72)【発明者】
【氏名】新谷 正紀
(72)【発明者】
【氏名】田力 明洋
(72)【発明者】
【氏名】八木 彩月
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-66387(JP,A)
【文献】特開2016-72180(JP,A)
【文献】特開2020-135188(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0072323(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/48
H01M 10/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの温度を示す温度データ、前記バッテリのSOCを示すSOCデータ、および、前記バッテリの充電および放電による積算電流量を示す積算電流量データを含むバッテリデータを取得するステップと、
第1劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第1劣化特性による前記バッテリの劣化量である第1劣化量を算出するステップと、
第2劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第2劣化特性による前記バッテリの劣化量である第2劣化量を算出するステップと、
前記第1劣化量と前記第2劣化量とに基づいて、前記バッテリの劣化量を算出するステップと、を含み、
前記第1劣化特性モデルは、前記第1劣化量に上限を規定し、
前記第2劣化特性モデルは、前記第2劣化量に上限を規定しない
バッテリ劣化量決定方法。
【請求項2】
前記第1劣化量の算出は、
第1期間における前記第1劣化特性による前記バッテリの劣化量である第1期間第1劣化量を示す第1期間第1劣化量データを取得するステップと、
前記第1期間に引き続く第2期間における前記第1劣化特性による前記バッテリの劣化量である第2期間第1劣化量を算出するステップと、
前記第1期間第1劣化量に前記第2期間第1劣化量を加算するステップと、を含む、
請求項1に記載のバッテリ劣化量決定方法。
【請求項3】
前記第2劣化量の算出は、
前記第1期間における前記第2劣化特性による前記バッテリの劣化量である第1期間第2劣化量を示す第1期間第2劣化量データを取得するステップと、
前記第2期間における前記第2劣化特性による前記バッテリの劣化量である第2期間第2劣化量を算出するステップと、
前記第1期間第2劣化量に前記第2期間第2劣化量を加算するステップと、を含む、
請求項2に記載のバッテリ劣化量決定方法。
【請求項4】
前記第1劣化特性モデルは、第1係数を含む数学的モデルであり、
前記第1劣化量の算出は、前記バッテリの温度および前記バッテリのSOCに基づいて前記第1係数を決定するステップを含む、
請求項2または3に記載のバッテリ劣化量決定方法。
【請求項5】
前記第1係数の決定は、
前記バッテリの温度に関する複数の温度候補と、前記バッテリのSOCに関する複数のSOC候補と、前記第1係数に関する複数の第1係数候補とを関連付けた第1マップデータを取得するステップと、
前記第1マップデータを利用して、前記温度データに示された温度に対応する温度候補および前記SOCデータに示されたSOCに対応するSOC候補に関連付けられた前記複数の第1係数候補の1つを特定するステップと、を含む、
請求項4に記載のバッテリ劣化量決定方法。
【請求項6】
前記複数の温度候補は、第1温度と、前記第1温度よりも高い第2温度とを含み、
前記複数のSOC候補は、第1SOCと、前記第1SOCよりも高い第2SOCとを含み、
前記複数の第1係数候補は、前記第1温度および前記第1SOCの組み合わせに関連付けられた第1候補と、前記第2温度および前記第2SOCの組み合わせに関連付けられた第2候補とを含み、
前記第2候補は、前記第1候補よりも大きい、
請求項5に記載のバッテリ劣化量決定方法。
【請求項7】
前記第1劣化特性モデルは、さらに、前記第1係数とは異なる第2係数を含み、
前記第1劣化量の算出は、さらに、
前記第2期間における前記積算電流量に基づく前記バッテリの劣化量である第2期間サイクル劣化量を算出するステップと、
前記第1劣化量の上限から前記第2期間サイクル劣化量および前記第1期間第1劣化量を差し引くことにより得られる劣化量マージンに基づいて前記第2係数を決定するステップを含む、
請求項4に記載のバッテリ劣化量決定方法。
【請求項8】
前記第2係数の決定は、
前記劣化量マージンに関する複数の劣化量マージン候補と、前記第2係数に関する複数の第2係数候補とを関連付けた第2マップデータを取得するステップと、
前記第2マップデータを利用して、前記劣化量マージンに対応する劣化量マージン候補に関連付けられた前記複数の第2係数候補の1つを特定するステップと、を含む、
請求項7に記載のバッテリ劣化量決定方法。
【請求項9】
前記複数の劣化量マージン候補は、第1劣化量マージンと、前記第1劣化量マージンよりも大きな第2劣化量マージンとを含み、
前記複数の第2係数候補は、前記第1劣化量マージンに関連付けられた第1候補と、前記第2劣化量マージンに関連付けられた第2候補とを含み、
前記第2候補は、前記第1候補よりも大きい、
請求項8に記載のバッテリ劣化量決定方法。
【請求項10】
バッテリの温度を示す温度データ、前記バッテリのSOCを示すSOCデータ、および、前記バッテリの充電および放電による積算電流量を示す積算電流量データを含むバッテリデータを取得する処理と、
第1劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第1劣化特性による前記バッテリの劣化量である第1劣化量を算出する処理と、
第2劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第2劣化特性による前記バッテリの劣化量である第2劣化量を算出する処理と、
前記第1劣化量と前記第2劣化量とに基づいて、前記バッテリの劣化量を算出する処理と、を実行し、
前記第1劣化特性モデルは、前記第1劣化量に上限を規定し、
前記第2劣化特性モデルは、前記第2劣化量に上限を規定しない
バッテリマネジメントユニット。
【請求項11】
バッテリと、
前記バッテリの温度を検出して前記バッテリの温度を示す温度データを生成する温度センサと、
前記バッテリの電圧を検出して前記バッテリの電圧を示す電圧データを生成する電圧センサと、
前記バッテリの充電および放電による電流を検出して前記バッテリの電流を示す電流データを生成する電流センサと、
前記温度センサ、前記電圧センサおよび前記電流センサに接続されたバッテリマネジメントユニットと、を備え、
前記バッテリマネジメントユニットは、
前記温度センサから前記温度データを取得し、
前記電圧センサから前記電圧データを取得し、
前記電流センサから前記電流データを取得し、
前記温度データ、前記電圧データおよび前記電流データに基づいて、前記温度データ、前記バッテリのSOCを示すSOCデータ、および、前記バッテリの充電および放電による積算電流量を示す積算電流量データを含むバッテリデータを生成し、
第1劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第1劣化特性による前記バッテリの劣化量である第1劣化量を算出し、
第2劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第2劣化特性による前記バッテリの劣化量である第2劣化量を算出し、
前記第1劣化量と前記第2劣化量とに基づいて、前記バッテリの劣化量を算出し、
前記第1劣化特性モデルは、前記第1劣化量に上限を規定し、
前記第2劣化特性モデルは、前記第2劣化量に上限を規定しない
バッテリパック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バッテリ劣化量決定方法、バッテリマネジメントユニットおよびバッテリパックに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、バッテリの劣化量を推定する推定装置を開示している。この推定装置は、バッテリの現在の容量維持率を取得する。推定装置は、容量維持率が閾値以上の場合、第1近似データを利用してバッテリの劣化量を算出する。一方、推定装置は、容量維持率が閾値未満の場合、第2近似データを利用してバッテリの劣化量を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2020-180935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリの劣化量は、バッテリのSOC(State of Charge)を算出するために利用される。バッテリのSOCの精度をより高めるため、バッテリの劣化量の決定方法がより改善されることが好ましい。
【0005】
本開示は、改善されたバッテリ劣化量決定方法、バッテリマネジメントユニットおよびバッテリパックを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るバッテリ劣化量決定方法は、(a)バッテリの温度を示す温度データ、前記バッテリのSOCを示すSOCデータ、および、前記バッテリの充電および放電による積算電流量を示す積算電流量データを含むバッテリデータを取得するステップと、(b)第1劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第1劣化特性による前記バッテリの劣化量である第1劣化量を算出するステップと、(c)第2劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第2劣化特性による前記バッテリの劣化量である第2劣化量を算出するステップと、(d)前記第1劣化量と前記第2劣化量とに基づいて、前記バッテリの劣化量を算出するステップと、を含む。前記第1劣化特性モデルは、前記第1劣化量に上限を規定する。前記第2劣化特性モデルは、前記第2劣化量に上限を規定しない。
【0007】
本開示の一態様に係るバッテリマネジメントユニットは、(a)バッテリの温度を示す温度データ、前記バッテリのSOCを示すSOCデータ、および、前記バッテリの充電および放電による積算電流量を示す積算電流量データを含むバッテリデータを取得する処理と、(b)第1劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第1劣化特性による前記バッテリの劣化量である第1劣化量を算出する処理と、(c)第2劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第2劣化特性による前記バッテリの劣化量である第2劣化量を算出する処理と、(d)前記第1劣化量と前記第2劣化量とに基づいて、前記バッテリの劣化量を算出する処理と、を実行する。前記第1劣化特性モデルは、前記第1劣化量に上限を規定する。前記第2劣化特性モデルは、前記第2劣化量に上限を規定しない。
【0008】
本開示の一態様に係るバッテリパックは、バッテリと、前記バッテリの温度を検出して前記バッテリの温度を示す温度データを生成する温度センサと、前記バッテリの電圧を検出して前記バッテリの電圧を示す電圧データを生成する電圧センサと、前記バッテリの充電および放電による電流を検出して前記バッテリの電流を示す電流データを生成する電流センサと、前記温度センサ、前記電圧センサおよび前記電流センサに接続されたバッテリマネジメントユニットと、を備える。前記バッテリマネジメントユニットは、(a)前記温度センサから前記温度データを取得し、(b)前記電圧センサから前記電圧データを取得し、(c)前記電流センサから前記電流データを取得し、(d)前記温度データ、前記電圧データおよび前記電流データに基づいて、前記温度データ、前記バッテリのSOCを示すSOCデータ、および、前記バッテリの充電および放電による積算電流量を示す積算電流量データを含むバッテリデータを生成し、(e)第1劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第1劣化特性による前記バッテリの劣化量である第1劣化量を算出し、(f)第2劣化特性モデルを利用して、前記バッテリデータに基づいて第2劣化特性による前記バッテリの劣化量である第2劣化量を算出し、(g)前記第1劣化量と前記第2劣化量とに基づいて、前記バッテリの劣化量を算出する。前記第1劣化特性モデルは、前記第1劣化量に上限を規定する。前記第2劣化特性モデルは、前記第2劣化量に上限を規定しない。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、改善されたバッテリ劣化量決定方法、バッテリマネジメントユニットおよびバッテリパックを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の実施形態に係るバッテリ劣化量決定処理を示す機能ブロック図である。
図2図2は、本開示の実施形態に係るバッテリ劣化量決定処理を示す機能ブロック図である。
図3図3は、本開示の実施形態に係る、バッテリの劣化量の上限を決定するのに利用される第3マップデータを示す図である。
図4図4は、本開示の実施形態に係る、バッテリの劣化量を算出するための第1係数を決定するのに利用される第1マップデータを示す図である。
図5図5は、本開示の実施形態に係る、バッテリの劣化量を算出するための第2係数を決定するのに利用される第2マップデータを示す図である。
図6図6は、本開示の実施形態に係るバッテリ劣化量決定処理を示すフローチャートである。
図7図7は、本開示の実施形態に係るバッテリの劣化特性モデルを構築するプロセスを説明するための図である。
図8図8は、本開示の実施形態に係るバッテリの劣化特性モデルを構築するプロセスを説明するための図である。
図9図9は、本開示の実施形態に係るバッテリ劣化量決定処理により算出されるバッテリ劣化量と、従来技術に係るバッテリ劣化量決定処理により算出されるバッテリ劣化量とを示す図である。
図10図10は、本開示の実施形態に係るバッテリ劣化量決定方法の応用例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本開示の実施形態に係るバッテリ劣化量決定処理を示す。本実施形態では、バッテリ劣化量決定処理120は、劣化特性モデル123、124、125を含む。劣化特性モデル123は、バッテリデータを受信し、バッテリデータに基づいてバッテリの劣化特性Aによるバッテリの劣化量Ya2を算出する。劣化特性モデル124は、バッテリデータを受信し、バッテリデータに基づいてバッテリの劣化特性Bによるバッテリの劣化量Yb2を算出する。劣化特性モデル125は、バッテリデータを受信し、バッテリデータに基づいてバッテリの劣化特性Cによるバッテリの劣化量Yc2を算出する。バッテリ劣化量決定処理120は、劣化特性Aに基づく劣化量Ya2と、劣化特性Bに基づく劣化量Yb2と、劣化特性Cに基づく劣化量Yc2に基づいて、バッテリの劣化量Yを算出する。具体的には、バッテリの劣化量Yは、劣化量Ya2、劣化量Yb2および劣化量Yc2の和である。
【0012】
図2に示すように、本実施形態では、劣化特性モデル123は、第1期間での劣化特性Aによるバッテリの劣化量Ya1を取得し、第1期間に引き続く第2期間での劣化特性Aによるバッテリの劣化量ΔYを算出し、第1期間での劣化量Ya1に第2期間での劣化量ΔYを加えてバッテリの劣化量Ya2を算出する。バッテリの劣化量Ya2は、時間的に累積された劣化量である。
【0013】
同様に、本実施形態では、劣化特性モデル124は、第1期間での劣化特性Bによるバッテリの劣化量Yb1を取得し、第2期間での劣化特性Bによるバッテリの劣化量ΔYを算出し、第1期間での劣化量Yb1に第2期間での劣化量ΔYを加えてバッテリの劣化量Yb2を算出する。バッテリの劣化量Yb2は、時間的に累積された劣化量である。
【0014】
同様に、本実施形態では、劣化特性モデル125は、第1期間での劣化特性Cによるバッテリの劣化量Yc1を取得し、第2期間での劣化特性Cによるバッテリの劣化量ΔYを算出し、第1期間での劣化量Yc1に第2期間での劣化量ΔYを加えてバッテリの劣化量Yc2を算出する。バッテリの劣化量Yc2は、時間的に累積された劣化量である。
【0015】
本実施形態では、バッテリの劣化量Yは、以下の数式で表される。
【0016】
【数1】
【0017】
【数2】
【0018】
本実施形態では、バッテリデータは、第2期間におけるバッテリの温度Tを示す温度データ、第2期間におけるバッテリのSOCを示すSOCデータ、第2期間におけるバッテリの充電および放電による積算電流量ΔΣiを示す積算電流量データを含む。
【0019】
第2期間におけるバッテリの温度Tは、第2期間の始期での温度、第2期間の終期での温度、第2期間の始期と終期の間の中間期での温度、第2期間内の複数の時期での温度の平均、その他の第2期間を代表する温度である。
【0020】
第2期間におけるバッテリのSOCは、第2期間の始期でのSOC、第2期間の終期でのSOC、第2期間の始期と終期の間の中間期でのSOC、第2期間内の複数の時期でのSOCの平均、その他の第2期間を代表するSOCである。
【0021】
第2期間における積算電流量ΔΣiは、第2期間内の複数の時期でサンプリングされた電流の積算である。
【0022】
本実施形態では、劣化特性モデル123は、バッテリ劣化量Ya2に上限を規定する。バッテリ劣化量Ya2は、時間的な累積により増加し、上限に到達すると増加を停止する。劣化特性モデル123は、例えば、バッテリの電極材料特性による劣化傾向を反映する。
【0023】
同様に、本実施形態では、劣化特性モデル124は、バッテリ劣化量Yb2に上限を規定する。バッテリ劣化量Yb2は、時間的な累積により増加し、上限に到達すると増加を停止する。劣化特性モデル124は、例えば、バッテリの電極材料特性による劣化傾向を反映する。あるバッテリでは、バッテリ劣化量Yb2の上限は、バッテリ劣化量Ya2の上限に等しい。別のバッテリでは、バッテリ劣化量Yb2の上限は、バッテリ劣化量Ya2の上限と異なる。
【0024】
本実施形態では、劣化特性モデル125は、バッテリ劣化量Yc2に上限を規定しない。バッテリ劣化量Yc2は、時間的な累積により増加し続ける。
【0025】
バッテリ劣化量Ya2の上限は、固定値でもよく変動値でもよい。バッテリ劣化量Yb2の上限は、固定値でもよく変動値でもよい。本実施形態では、バッテリ劣化量Ya2の上限もバッテリ劣化量Yb2の上限も変動値である。
【0026】
図3は、バッテリの劣化量Ya2の上限を決定するのに利用される第3マップデータを示す。第3マップデータは、複数の温度候補と、複数のSOC候補と、複数の劣化量上限候補とを関連付ける。例えば、第3マップデータは、温度TとSOCと劣化量上限Uとを関連付ける。第3マップデータは、さらに、温度TとSOCと劣化量上限Uとを関連付ける。温度Tは、温度Tよりも高い。SOCは、SOCよりも高い。劣化量上限Uは、劣化量上限Uよりも大きい。バッテリの劣化量Yb2も同様にマップデータの利用により決定されてもよい。バッテリの劣化量Yb2を決定するためのマップデータは、バッテリの劣化量Yb1を決定するためのマップデータと同じまたは異なる。
【0027】
本実施形態では、劣化特性モデル123は、第2期間での劣化量ΔYを算出するため以下の数式を含む。劣化量ΔYは、Δtの二乗根に比例する。劣化量ΔYは、経過時間要因のバッテリの劣化量を表す。
【0028】
【数3】
【0029】
係数aは、固定値である。係数aは、固定値である。係数aは、固定値である。あるバッテリでは、係数a、a、aは、等しい。別のバッテリでは、係数a、a、aは、互いに異なる。また別のバッテリでは、係数a、a、aのうちの2つが等しい。Δtは、第2期間の時間的長さである。第1係数A1は、第2期間でのバッテリの利用環境を劣化量に反映するための変動値である。第2係数A2は、第2期間でのバッテリの電極劣化特性を劣化量に反映するための変動値である。
【0030】
本実施形態では、劣化特性モデル124は、第2期間での劣化量ΔYを算出するため以下の数式を含む。劣化量ΔYは、Δtの二乗根に比例する。劣化量ΔYは、経過時間要因のバッテリの劣化量を表す。
【0031】
【数4】
【0032】
係数bは、固定値である。係数bは、固定値である。係数bは、固定値である。あるバッテリでは、係数b、b、bは、等しい。別のバッテリでは、係数b、b、bは、互いに異なる。また別のバッテリでは、係数b、b、bのうちの2つが等しい。Δtは、第2期間の時間的長さである。第1係数B1は、第2期間でのバッテリの利用環境を劣化量に反映するための変動値である。第2係数B2は、第2期間でのバッテリの電極劣化特性を劣化量に反映するための変動値である。
【0033】
本実施形態では、劣化特性モデル125は、第2期間での劣化量ΔYを算出するため以下の数式を含む。劣化量ΔYは、第1項と第2項を含む。第1項は、Δtの二乗根に比例する。第1項は、経過時間要因のバッテリの劣化量を表す。第2項は、ΔΣiの二乗根に比例する。第2項は、積算電流量要因のバッテリの劣化量(サイクル劣化量ともいう)を表す。
【0034】
【数5】
【0035】
係数cは、固定値である。係数cは、固定値である。係数cは、固定値である。あるバッテリでは、係数c、c、cは、等しい。別のバッテリでは、係数c、c、cは、互いに異なる。また別のバッテリでは、係数c、c、cのうちの2つが等しい。Δtは、第2期間の時間的長さである。第1係数C1は、第2期間でのバッテリの利用環境を劣化量に反映するための変動値である。ΔΣiは、第2期間での積算電流量である。
【0036】
図4は、第1係数A1を決定するのに利用される第1マップデータを示す。第1マップデータは、複数の温度候補と、複数のSOC候補と、複数の第1係数候補とを関連付ける。例えば、第1マップデータは、温度TとSOCと第1係数A1(1)とを関連付ける。第1マップデータは、さらに、温度TとSOCと第1係数A1(2)とを関連付ける。温度Tは、温度Tよりも高い。SOCは、SOCよりも高い。第1係数A1(2)は、第1係数A1(1)よりも大きい。一般に、バッテリの劣化量は、バッテリの温度およびバッテリのSOCに依存する。第1マップデータは、このようなバッテリの劣化量の利用環境を反映している。
【0037】
第1係数B1も、同様に、マップデータにより決定されてもよい。あるバッテリでは、第1係数B1を決定するためのマップデータは、第1係数A1を決定するためのマップデータと同じである。別のバッテリでは、第1係数B1を決定するためのマップデータは、第1係数A1を決定するためのマップデータと異なる。
【0038】
第1係数C1も、同様に、マップデータにより決定されてもよい。あるバッテリでは、第1係数C1を決定するためのマップデータは、第1係数A1を決定するためのマップデータと同じである。別のバッテリでは、第1係数C1を決定するためのマップデータは、第1係数A1を決定するためのマップデータと異なる。
【0039】
図5は、第2係数A2を決定するのに利用される第2マップデータを示す。第2マップデータは、複数の劣化量マージン候補と、複数の第2係数候補とを関連付ける。例えば、第2マップデータは、劣化量マージンMと第2係数A2(1)とを関連付ける。第2マップデータは、劣化量マージンMと第2係数A2(2)とを関連付ける。劣化量マージンMは、劣化量マージンMよりも大きい。第2係数A2(2)は、第2係数A2(1)よりも大きい。
【0040】
劣化量マージンは、バッテリ劣化量の上限とサイクル劣化量と第1期間での劣化量に基づいて算出されてもよい。例えば、劣化量マージンは、バッテリ劣化量の上限からサイクル劣化量および第1期間での劣化量を差し引くことにより算出されてもよい。
【0041】
本実施形態では、第2係数A2は、0以上1以下の範囲内の値をとる。例えば、劣化量マージンがゼロの場合に、第2係数A2はゼロとなる。第2係数A2がゼロになるので、第2期間での劣化量ΔYがゼロになる。第2期間での劣化量ΔYがゼロになるので、バッテリの劣化量Ya2は、第1期間での劣化量Ya1と等しくなる。すなわち、劣化量マージンがゼロの場合、バッテリの劣化量Ya2の増加が停止する。
【0042】
第2係数B2も、同様に、マップデータにより決定されてもよい。あるバッテリでは、第2係数B2を決定するためのマップデータは、第2係数A2を決定するためのマップデータと同じである。別のバッテリでは、第2係数B2を決定するためのマップデータは、第2係数A2を決定するためのマップデータと異なる。
【0043】
本実施形態では、第2係数B2は、第2係数A2と同様に、0以上1以下の範囲内の値をとる。例えば、劣化量マージンがゼロの場合に、第2係数B2はゼロとなる。劣化量マージンがゼロの場合、バッテリの劣化量Yb2の増加が停止する。
【0044】
図6は、第2期間でのバッテリ劣化量決定処理の流れを示す。バッテリ劣化量決定処理は、一定のサンプリング周期で繰り替えされる。
【0045】
ステップS101では、バッテリデータが取得される。上述の通り、バッテリデータは、温度データ、SOCデータおよび積算電流量データを含む。
【0046】
ステップS102では、劣化特性Aによるバッテリの劣化量Yが算出される。上述の通り、バッテリの劣化量Yは、劣化特性モデル123の利用により、バッテリデータに基づいて算出される。
【0047】
ステップS103では、劣化特性Bによるバッテリの劣化量Yが算出される。上述の通り、バッテリの劣化量Yは、劣化特性モデル124の利用により、バッテリデータに基づいて算出される。
【0048】
ステップS104では、劣化特性Cによるバッテリの劣化量Yが算出される。上述の通り、バッテリの劣化量Yは、劣化特性モデル125の利用により、バッテリデータに基づいて算出される。
【0049】
ステップS105では、劣化量Y、Y、Yに基づいて、バッテリの劣化量Yが算出される。
【0050】
図7および図8は、バッテリの劣化特性モデルを構築するプロセスを示す。まず、実験により、バッテリの劣化量の時間推移を示す劣化曲線データが得られる。実験は複数の異なる水準で実施される。例えば、水準1は、低温および低SOCの組み合わせである。水準1では、劣化曲線10が得られる。水準2は、低温および高SOCの組み合わせである。水準2では、劣化曲線20が得られる。水準3は、高温および低SOCの組み合わせである。水準3では、劣化曲線30が得られる。水準4は、高温および高SOCの組み合わせである。水準4では、劣化曲線40が得られる。
【0051】
図7に示すように、本実施形態では、劣化曲線10、20、30、40はいずれも2つの変曲点を含む。つまり、劣化曲線10、20、30、40は、いずれも、大きな傾きを有する期間α、中程度の傾きを有する期間β、小さな傾きを有する期間γを含む。ただし、劣化曲線10、20、30、40は、それぞれの期間の長さおよびそれぞれの期間での傾きにおいて互いに異なる。
【0052】
図8に示すように、水準1での劣化曲線10は、劣化特性Aによる劣化曲線11、劣化特性Bによる劣化曲線12および劣化特性Cによる劣化曲線13に分解される。劣化曲線10は、劣化曲線11、劣化曲線12および劣化曲線13の和である。劣化曲線11は、期間αで上限に達し、期間βおよび期間γではゼロの傾きを有する。劣化曲線12は、期間αと期間βで上限に達し、期間γではゼロの傾きを有する。劣化曲線13は、上限を有さない。水準1での劣化曲線10を劣化曲線11、12、13に分解する方法は、無数に存在する。つまり、劣化曲線11の候補は無数に存在する。劣化曲線12の候補は無数に存在する。劣化曲線13の候補は無数に存在する。
【0053】
同様に、水準2での劣化曲線20は、劣化特性Aによる劣化曲線、劣化特性Bによる劣化曲線、劣化特性Cによる劣化曲線に分解される。水準2でも、劣化特性Aによる劣化曲線の候補は無数に存在する。劣化特性Bによる劣化曲線の候補は無数に存在する。劣化特性Cによる劣化曲線の候補は無数に存在する。水準3、4についても同様である。
【0054】
水準1から水準4のいずれにおいても実験データに近似する劣化特性Aによる劣化曲線が、無数の候補の中からトライアルアンドエラーあるいはフィッティングにより選択される。同様に、水準1から水準4のいずれにおいても実験データに近似する劣化特性Bによる劣化曲線が、無数の候補の中から選択される。水準1から水準4のいずれにおいても実験データに近似する劣化特性Cによる劣化曲線が、無数の候補の中から選択される。これにより、水準1から水準4のいずれにおいても実験データに近似する結果を出力する統一モデル(劣化特性モデル123、124、125)が得られる。
【0055】
上記のトライアルアンドエラーあるいはフィッティングにより、劣化特性モデル123、124、125の各係数、劣化特性モデル123、124、125の第1係数を決定するための第1マップデータ、劣化特性モデル123、124、125の第2係数を決定するための第2マップデータ、劣化特性モデル123、124の上限を決定するための第3マップデータが決定される。
【0056】
図9において、劣化曲線131は、従来技術に係るバッテリ劣化量決定処理により算出されるバッテリ劣化量を示す。例えば、従来技術では、劣化曲線131の傾きは、バッテリ劣化量が閾値Yth1に到達したとき、バッテリ劣化量が閾値Yth2に到達したときに変化する。劣化曲線132は、本実施形態に係るバッテリ劣化量決定処理により算出されるバッテリ劣化量を示す。劣化曲線132は、サンプリング期間S、S、S、S、S、Sごとに異なる傾きを有し得る。サンプリング期間Sでは、バッテリ劣化量は、サンプリング期間Sでのバッテリデータに基づいて算出される。サンプリング期間Sでは、バッテリ劣化量は、サンプリング期間Sでのバッテリデータに基づいて算出される。
【0057】
図10は、本開示の実施形態に係るバッテリ劣化量決定方法の応用例を示す。バッテリ劣化量決定方法は、車両101に実装され得る。車両101は、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、外部充電または外部給電が可能なプラグインハイブリッド自動車、その他のバッテリから受けた電力により駆動する車両である。
【0058】
車両101は、エンジン102およびジェネレータ103を含み得る。エンジン102は、回転エネルギーを出力する内燃機関を含み得る。ジェネレータ103は、エンジン102から回転エネルギーを受けて、回転エネルギーに基づいて電気エネルギーを生成してもよい。
【0059】
車両101は、さらに、フロントモータドライブユニット(FPDU)104、バッテリパック105およびフロントモータ112を含み得る。FPDU104は、ジェネレータ103またはバッテリパック105から電力線113を介して電気エネルギーを受けて、フロントモータ112に電力線116を介して電気エネルギーを与える。フロントモータ112は、電気エネルギーを受けて、電気エネルギーを回転エネルギーに変換し、回転エネルギーを車両の前輪に与える。フロントモータ112は、ジェネレータ103と共通の冷却117を受ける。
【0060】
車両101は、さらに、エレクトロニックコントロールユニット(ECU)111を含み得る。ECU111は、FPDU104およびバッテリパック105にデータ線114、115を介して接続されている。
【0061】
バッテリパック105は、バッテリ106、温度センサ107、電圧センサ108、電流センサ109およびバッテリマネジメントユニット(BMU)110を含み得る。バッテリ106は、例えば、リチウムイオンバッテリである。温度センサ107は、バッテリ106の温度を検出して、バッテリ106の温度を示す温度データを生成する。電圧センサ108は、バッテリ106の電圧を検出して、バッテリ106の電圧を示す電圧データを生成する。電流センサ109は、バッテリ106の充電および放電による電流を検出し、バッテリ106の電流を示す電流データを生成する。BMU110は、温度センサ107、電圧センサ108および電流センサ109に接続されている。BMU110は、温度センサ107から温度データを取得し、電圧センサ108から電圧データを取得し、電流センサ109から電流データを受信する。BMU110は、温度データ、電圧データおよび電流データに基づいて、温度データ、バッテリ106のSOCを示すSOCデータ、および、バッテリ106の充電および放電による積算電流量を示す積算電流量データを含むバッテリデータを生成する。BMU110は、上述のバッテリ劣化量決定処理を実施して、バッテリデータに基づいてバッテリ106の劣化量を決定する。
【0062】
BMU110は、バッテリ106の劣化量をSOCの算出に利用し得る。BMU110は、バッテリ106の劣化量を示す劣化量データを生成し、劣化量データをECU111に送信してもよい。ECU111は、劣化量データを受信して、バッテリ106の劣化量に基づいて車両101の航続距離の演算に利用し得る。
【0063】
バッテリ106は、時間帯、季節、地域、利用状況その他の要因により、時間経過とともに異なる温度および異なるSOCをとり得る。本実施形態のバッテリ劣化量決定処理は、サンプリング期間ごとにそのサンプリング期間での温度およびそのサンプリング期間でのSOCに基づいてバッテリ106の劣化量を決定する。バッテリ106の劣化量は、時間経過とともに異なる温度および異なるSOCを反映する。
【0064】
上記実施形態では、バッテリは、劣化特性A、劣化特性Bおよび劣化特性Cの3つを含むが、これに限らず、2つの特性を有してもよく、4つ以上の特性を有してもよい。
【0065】
以上、各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0066】
なお、本出願は、2022年3月15日出願の日本特許出願(特願2022-039897)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0067】
101 車両
102 エンジン
103 ジェネレータ
105 バッテリパック
106 バッテリ
107 温度センサ
108 電圧センサ
109 電流センサ
112 フロントモータ
113 電力線
114、115 データ線
116 電力線
117 冷却
120 バッテリ劣化量決定処理
123 劣化特性モデル
124 劣化特性モデル
125 劣化特性モデル
131 劣化曲線
132 劣化曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10