(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】診断システムおよび学習装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/34 20200101AFI20240709BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20240709BHJP
【FI】
G01R31/34 A
G01R31/52
(21)【出願番号】P 2024508993
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2022038985
【審査請求日】2024-02-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大澤 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】開田 健
(72)【発明者】
【氏名】大木 克倫
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2022-0086243(KR,A)
【文献】特開2007-159289(JP,A)
【文献】中国実用新案第204967487(CN,U)
【文献】特開2006-170721(JP,A)
【文献】特開2020-024139(JP,A)
【文献】特開2002-340972(JP,A)
【文献】特開2015-220897(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2221051(KR,B1)
【文献】特開2021-043030(JP,A)
【文献】特開2020-008347(JP,A)
【文献】特開2002-136023(JP,A)
【文献】特開2006-325357(JP,A)
【文献】特開2012-044831(JP,A)
【文献】特開2021-116160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの絶縁性能の劣化を診断するための診断システムであって、
前記モータのコイルと前記モータの接地部分とに電気的に接続可能であり、前記コイルと前記モータの接地部分とを含む閉回路に流されたリーク電流として1×10
-7[A]以下の電流値を検出可能な検出器と、
前記検出器から前記リーク電流の検出値の入力を受け付ける受付部と、
基点となる時点で検出された前記リーク電流である初期リーク電流の検出値および前記受付部で受け付けた前記リーク電流の検出値が対応付けられて含まれるデータセット、並びに前記データセットから前記モータの絶縁性能による余寿命を推論するための予測モデル、を用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する診断部と、
を備え
、
前記モータは、エレベーターのかごを昇降移動させる巻上機に設けられ、
前記診断部は、前記かごの累積の走行距離が前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれる前記データセットを用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する診断システム。
【請求項2】
前記リーク電流の検出値には、前記検出器で検出された前記リーク電流の1分間あたりの変化量が1×10
-11[A]以下になったときの電流値が用いられる請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記受付部は、前記モータが稼働している期間における前記モータの周辺環境の水蒸気圧を算出するための測定値の入力を受け付け、
前記診断部は、前記受付部が受け付けた測定値から得た前記水蒸気圧の値が前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれる前記データセットを用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する請求項
1に記載の診断システム。
【請求項4】
前記モータは、エレベーターのかごを昇降移動させる巻上機に設けられ、
前記診断部は、前記モータの出力電流が前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれる前記データセットを用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する請求項
1に記載の診断システム。
【請求項5】
モータの絶縁性能の劣化を診断するための診断システムであって、
前記モータのコイルと前記モータの接地部分とに電気的に接続可能であり、前記コイルと前記モータの接地部分とを含む閉回路に流されたリーク電流として1×10
-7
[A]以下の電流値を検出可能な検出器と、
前記検出器から前記リーク電流の検出値の入力を受け付ける受付部と、
基点となる時点で検出された前記リーク電流である初期リーク電流の検出値および前記受付部で受け付けた前記リーク電流の検出値が対応付けられて含まれるデータセット、並びに前記データセットから前記モータの絶縁性能による余寿命を推論するための予測モデル、を用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する診断部と、
を備え、
前記予測モデルは、前記リーク電流の検出値と前記モータの累計の経過時間の推定値との関係を示す寿命関数の学習済モデルであり、
前記診断部は、
前記データセットを前記予測モデルに入力することで、前記データセットに含まれる前記リーク電流の検出値に対応する疑似経過時間を推論する推論部と、
前記予測モデルにおいて前記リーク電流の管理上限値に対応する前記モータの寿命経過時間を演算し、前記疑似経過時間から前記寿命経過時間までの期間を前記余寿命として演算し、前記余寿命を推定するための情報として出力する演算部と、
を有し
た診断システム。
【請求項6】
前記予測モデルは、前記データセットから前記余寿命を推論するための学習済モデルであり、
前記診断部は、
前記データセットを前記予測モデルに入力することで前記余寿命を推論し、前記余寿命を推定するための情報として出力する推論部、
を有した請求項
1に記載の診断システム。
【請求項7】
前記モータの構造的な特性の情報と前記受付部が受け付けた前記リーク電流の検出値とを用いて前記リーク電流の検出値を前記構造的な特性に応じて規格化した規格リーク電流値を演算する前処理部と、
を更に備え、
前記診断部は、前記リーク電流の検出値の代わりに前記規格リーク電流値が含まれた前記データセットおよび前記予測モデルを用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する請求項
1から請求項
4のいずれか一項に記載の診断システム。
【請求項8】
前記予測モデルを生成する第1学習装置、
を更に備え、
前記第1学習装置は、
前記コイルを模擬したモデルコイルが含まれる回路であって前記閉回路を模擬した試験回路に電圧を印加することで得られた電流の検出値が含まれる第1学習用データセットを取得する第1データ取得部と、
前記第1学習用データセットを用いて、前記データセットから前記余寿命を推論するための学習済モデルである前記予測モデルを生成する第1生成部と、
を有し、
前記第1学習用データセットには、前記試験回路に流された初期試験リーク電流の検出値と、前記初期試験リーク電流の検出後であって前記モデルコイルに対して規定の劣化条件のもとで劣化試験が行われた後に前記試験回路に流された試験リーク電流の検出値と、が対応付けられて含まれる請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載の診断システム。
【請求項9】
前記第1学習用データセットには、前記劣化試験において前記劣化条件として設定された前記モデルコイルの周辺環境の水蒸気圧の値が前記試験リーク電流と対応付けられて含まれ、
前記第1生成部は、前記モータの周辺環境の水蒸気圧の検出値が前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれる前記データセットから前記余寿命を推論するための前記予測モデルを生成する請求項
8に記載の診断システム。
【請求項10】
前記第1学習用データセットには、前記劣化試験において、前記劣化条件として前記モデルコイルに印加された試験電圧の値が前記試験リーク電流と対応付けられて含まれる請求項
8に記載の診断システム。
【請求項11】
前記第1学習用データセットには、前記モデルコイルの絶縁層を構成する樹脂の転移開始温度、前記樹脂の加水分解度、前記樹脂の熱分解開始温度、前記モデルコイルにおけるコア長に対応する部分の長さ、前記モデルコイルの疑似的な占積率、前記モデルコイルの線径、前記劣化条件として変化された前記モデルコイルの周辺環境の温度、および前記劣化条件として前記モデルコイルに与えられた熱衝撃の回数のうち少なくとも1つが前記試験リーク電流と対応付けられて含まれる請求項
8に記載の診断システム。
【請求項12】
前記モータは、エレベーターのかごを昇降移動させる巻上機に設けられ、
前記第1データ取得部は、前記モータの起動回数と前記モータの起動時間と前記モータの累計の運転時間と前記かごの累計の走行距離とのうち少なくとも1つが前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれた第2学習用データセットを取得し、
前記第1生成部は、前記第2学習用データセットを用いて、前記モータの起動回数と前記モータの起動時間と前記モータの累計の運転時間と前記かごの累計の走行距離とのうち少なくとも1つが前記リーク電流の検出値と対応付けられて更に含まれた前記データセットから前記余寿命を推論するための更新後の前記予測モデルを生成する請求項
8に記載の診断システム。
【請求項13】
前記受付部は、前記モータの起動回数と前記モータの起動時間と前記モータの累計の運転時間と前記かごの累計の走行距離とのうち少なくとも1つが含まれる情報を受け付け、
前記診断部は、前記モータの起動回数と前記モータの起動時間と前記モータの累計の運転時間と前記かごの累計の走行距離とのうち少なくとも1つが前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれる前記データセットおよび前記第1生成部が生成した更新後の前記予測モデルを用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する請求項
12に記載の診断システム。
【請求項14】
前記予測モデルを更新した更新後の前記予測モデルを生成する第2学習装置、
を更に備え、
前記モータは、エレベーターのかごを昇降移動させる巻上機に設けられ、
前記第2学習装置は、
前記モータの起動回数と前記モータの起動時間と前記モータの累計の運転時間と前記かごの累計の走行距離とのうち少なくとも1つが前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれた第2学習用データセットを取得する第2データ取得部と、
前記第2学習用データセットを用いて、前記モータの起動回数と前記モータの起動時間と前記モータの累計の運転時間と前記かごの累計の走行距離とのうち少なくとも1つが前記リーク電流の検出値と対応付けられて更に含まれた前記データセットから前記余寿命を推論するための更新後の前記予測モデルを生成する第2生成部と、
を有する請求項
8に記載の診断システム。
【請求項15】
前記受付部は、前記モータの起動回数と前記モータの起動時間と前記モータの累計の運転時間と前記かごの累計の走行距離とのうち少なくとも1つが含まれる情報を受け付け、
前記診断部は、前記モータの起動回数と前記モータの起動時間と前記モータの累計の運転時間と前記かごの累計の走行距離とのうち少なくとも1つが前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれる前記データセットおよび前記第2生成部が生成した更新後の前記予測モデルを用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する請求項
14に記載の診断システム。
【請求項16】
モータのコイルと前記モータの接地部分とを含む閉回路に流されたリーク電流として1×10
-7[A]以下の電流値を含み、前記リーク電流の1分間あたりの変化量が1×10
-11[A]以下になったときの電流値から前記モータの絶縁性能による余寿命を推論するための予測モデルを生成する学習装置であって、
前
記コイルを模擬したモデルコイルを用いて、前記閉回路を模擬した試験回路に流された初期試験リーク電流の検出値と、前記初期試験リーク電流の検出後であって前記モデルコイルに対して規定の劣化条件のもとで劣化試験が行われた後に前記試験回路に流された試験リーク電流の検出値と、が対応付けられて含まれた第1学習用データセットを取得するデータ取得部と、
前記第1学習用データセットを用いて、前記閉回路において基点となる時点で流された初期リーク電流の検出値と前記閉回路に流されたリーク電流の検出値とが対応付けられて含まれるデータセットから、前
記余寿命を推論するための学習済モデルである前記予測モデルを生成する生成部と、
を備え
、
前記モータは、エレベーターのかごを昇降移動させる巻上機に設けられ、
前記データ取得部は、前記かごの累計の走行距離が前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれた第2学習用データセットを取得し、
前記生成部は、前記第2学習用データセットを用いて、前記かごの累計の走行距離が前記リーク電流の検出値と対応付けられて更に含まれた前記データセットから前記余寿命を推論するための更新後の前記予測モデルを生成する学習装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、診断システムおよび学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モータの絶縁性能を診断する絶縁診断装置を開示する。当該絶縁診断装置が用いられることで、絶縁抵抗値とリーク電流とtanδの測定値とに基づいてモータの絶縁性能が統合的に評価され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の絶縁診断装置において、絶縁性能が今後どのように変化するかは定量的には評価され得ない。このため、絶縁性能の観点からモータの交換が必要となる寿命時期までは評価することができない。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされた。本開示の目的は、モータの交換が必要となる時期を推定することができる診断システムおよび学習装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る診断システムは、モータの絶縁性能の劣化を診断するための診断システムであって、前記モータのコイルと前記モータの接地部分とに電気的に接続可能であり、前記コイルと前記モータの接地部分とを含む閉回路に流されたリーク電流として1×10-7[A]以下の電流値を検出可能な検出器と、前記検出器から前記リーク電流の検出値の入力を受け付ける受付部と、基点となる時点で検出された前記リーク電流である初期リーク電流の検出値および前記受付部で受け付けた前記リーク電流の検出値が対応付けられて含まれるデータセット、並びに前記データセットから前記モータの絶縁性能による余寿命を推論するための予測モデル、を用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する診断部と、を備え、前記モータは、エレベーターのかごを昇降移動させる巻上機に設けられ、前記診断部は、前記かごの累積の走行距離が前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれる前記データセットを用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する。
また、本開示に係る診断システムは、モータの絶縁性能の劣化を診断するための診断システムであって、前記モータのコイルと前記モータの接地部分とに電気的に接続可能であり、前記コイルと前記モータの接地部分とを含む閉回路に流されたリーク電流として1×10
-7
[A]以下の電流値を検出可能な検出器と、前記検出器から前記リーク電流の検出値の入力を受け付ける受付部と、基点となる時点で検出された前記リーク電流である初期リーク電流の検出値および前記受付部で受け付けた前記リーク電流の検出値が対応付けられて含まれるデータセット、並びに前記データセットから前記モータの絶縁性能による余寿命を推論するための予測モデル、を用いて前記余寿命を推定するための情報を出力する診断部と、を備え、前記予測モデルは、前記リーク電流の検出値と前記モータの累計の経過時間の推定値との関係を示す寿命関数の学習済モデルであり、前記診断部は、前記データセットを前記予測モデルに入力することで、前記データセットに含まれる前記リーク電流の検出値に対応する疑似経過時間を推論する推論部と、前記予測モデルにおいて前記リーク電流の管理上限値に対応する前記モータの寿命経過時間を演算し、前記疑似経過時間から前記寿命経過時間までの期間を前記余寿命として演算し、前記余寿命を推定するための情報として出力する演算部と、を有した。
【0007】
本開示に係る学習装置は、モータのコイルと前記モータの接地部分とを含む閉回路に流されたリーク電流として1×10-7[A]以下の電流値を含み、前記リーク電流の1分間あたりの変化量が1×10-11[A]以下になったときの電流値から前記モータの絶縁性能による余寿命を推論するための予測モデルを生成する学習装置であって、前記コイルを模擬したモデルコイルを用いて、前記閉回路を模擬した試験回路に流された初期試験リーク電流の検出値と、前記初期試験リーク電流の検出後であって前記モデルコイルに対して規定の劣化条件のもとで劣化試験が行われた後に前記試験回路に流された試験リーク電流の検出値と、が対応付けられて含まれた第1学習用データセットを取得するデータ取得部と、前記第1学習用データセットを用いて、前記閉回路において基点となる時点で流された初期リーク電流の検出値と前記閉回路に流されたリーク電流の検出値とが対応付けられて含まれるデータセットから、前記余寿命を推論するための学習済モデルである前記予測モデルを生成する生成部と、を備え、前記モータは、エレベーターのかごを昇降移動させる巻上機に設けられ、前記データ取得部は、前記かごの累計の走行距離が前記リーク電流の検出値と対応付けられて含まれた第2学習用データセットを取得し、前記生成部は、前記第2学習用データセットを用いて、前記かごの累計の走行距離が前記リーク電流の検出値と対応付けられて更に含まれた前記データセットから前記余寿命を推論するための更新後の前記予測モデルを生成する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、予測モデルが利用されることで余寿命を推定するための情報が出力される。このため、モータの交換が必要となる寿命時期を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1における診断システムが適用されるモータが設置されたエレベーター装置の概要を示す図である。
【
図2】実施の形態1における診断システムが適用されるモータと診断装置とを示す図である。
【
図3】実施の形態1における診断システムのブロック図である。
【
図4】実施の形態1における診断システムに記憶された寿命関数の一例を示す図である。
【
図5】実施の形態1における診断システムで学習されるデータを取得するためのモデルコイルユニットの側面図である。
【
図6】実施の形態1における診断システムで学習されるデータを取得するためのモデルコイルユニットの上面図である。
【
図7】実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験のうち水蒸気圧を変化させたデータを示す図である。
【
図8】実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験のうち熱衝撃サイクルについてのデータを示す図である。
【
図9】実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験のうち温度条件を変化させたデータを示す図である。
【
図10】実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験のうちモデルコアのコア長を変化させたデータを示す図である。
【
図11】実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験のうちモデルコアとモデルコイルとの接触面積を変化させたデータを示す図である。
【
図12】実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験において試験回路に流れた電流の推移を示す図である。
【
図13】実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験において試験回路に流れた電流の推移を示す図である。
【
図14】実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験において試験回路に流れた電流の推移を示す図である。
【
図15】実施の形態1における診断システムによって行われる診断作業の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図16】実施の形態1における診断システムの第1学習装置が行う学習処理の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図17】実施の形態1における診断システムの診断実行器が行う動作の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図18】実施の形態1における診断システムの変形例のブロック図である。
【
図19】実施の形態1における診断システムの変形例で用いられるニューラルネットワークモデルを利用した学習アルゴリズムの例を示す図である。
【
図20】実施の形態1における診断システムの変形例の診断実行器が行う動作の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図21】実施の形態1における診断システムの診断実行器のハードウェア構成図である。
【
図22】実施の形態1における診断システムの別の例を示すブロック図である。
【
図23】実施の形態2における診断システムのブロック図である。
【
図24】実施の形態3における診断システムのブロック図である。
【
図25】一般的なエレベーター装置における巻上機のモータで測定された運行実績とリーク電流との関係を示す図である。
【
図26】一般的なエレベーター装置における巻上機のモータで測定された運行実績とリーク電流との関係を示す図である。
【
図27】一般的なエレベーター装置における巻上機のモータで測定された運行実績とリーク電流との関係を示す図である。
【
図28】実施の形態3における診断システムの第2学習装置が行う学習処理の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図29】実施の形態4における診断システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略される。
【0011】
実施の形態1.
図1は実施の形態1における診断システムが適用されるモータが設置されたエレベーター装置の概要を示す図である。
図2は実施の形態1における診断システムが適用されるモータと診断装置とを示す図である。
【0012】
図1には、診断システム1が適用される対象の一例として、エレベーター装置2が示される。エレベーター装置2は、建築物3に設けられる。昇降路4は、建築物3の各階を貫く。機械室5は、昇降路4の直上に設けられる。巻上機6は、機械室5の内部に設けられる。モータ7は、巻上機6に設けられる。モータ7は、回転機として、巻上機6の綱車を駆動する。かご8は、昇降路4の内部において主ロープ9に吊られる。かご8は、巻上機6の駆動によって、昇降路4の内部を昇降移動する。
【0013】
制御盤10は、機械室5に設けられる。制御盤10は、モータ7を含むエレベーター装置2を全体的に制御し得る。制御盤10は、モータ7の型番情報、エレベーター装置2の運行情報、等の情報を記憶する。遠隔監視装置11は、機械室5に設けられる。遠隔監視装置11は、制御盤10から運行情報等の情報を取得し、記憶する。情報センター装置12は、建築物3から離れた場所に存在する情報センター13に設けられる。例えば、情報センター13は、エレベーター装置2の保守会社の建物である。情報センター装置12は、遠隔監視装置11からネットワーク14を介して情報を取得する。情報センター装置12は、取得した情報に基づいてエレベーター装置2の状態を把握し得る。なお、エレベーター装置2は、機械室5が設けられない種類であってもよい。この場合、例えば、巻上機6、制御盤10および遠隔監視装置11は、昇降路4の内部等の機械室5ではない場所に設けられてもよい。
【0014】
診断システム1は、例えば、常設測定器15を更に備えてもよい。常設測定器15は、機械室5に設けられる。特に、常設測定器15は、モータ7の周辺に設けられる。常設測定器15は、巻上機6に取り付けられてもよい。常設測定器15は、モータ7の周辺環境として、空気の温度、湿度、等を測定する。常設測定器15は、モータ7が稼働している期間の測定値を記憶する。なお、上記はあくまで一例であり、診断システム1が備える測定器は、常設であるか否かに限定されない。
【0015】
エレベーター装置2において、1か月毎などの規定の周期で、定期的に保守作業が行われる。保守作業は、エレベーター装置2の保守会社に所属する作業員によって行われる。例えば、保守作業において、モータ7の絶縁性能についての診断作業が行われる。
【0016】
図2は、診断作業で診断されるモータ7の回転軸に垂直な断面を示す。例えば、モータ7は、三相交流電流によって駆動するモータである。特に、モータ7は、運転中に部分放電が発生することが想定されていない低電圧モータであってもよい。
【0017】
なお、モータ7は、診断システム1が適用され得るモータの一例である。このため、診断システム1は、エレベーター装置2の巻上機6に適用されるモータでなくてもよいし、コイルとコアとに電流が流されることで磁界が発生するモータであれば
図2に示されるモータ7の構造を有さなくてもよい。
【0018】
モータ7は、固定子として、コア7aとコイル7bとを備える。コイル7bは、スロットを1つの構造単位として、コア7aの周囲に巻回されている。図示されないが、コイル7bは、U相、V相、W相の3相のコイルを含む。モータ7には、図示されない商用電源から三相交流電流が供給される。当該三相交流電流がU相、V相、W相のコイル7bにそれぞれ流されることで、図示されない回転子である永久磁石が回転する。このようにしてモータ7が駆動する。
【0019】
モータ7には、3つの測定端子7c、7d、7eが設けられる。測定端子7cは、U相のコイル7bに電気的に接続される。測定端子7dは、V相のコイル7bに電気的に接続される。測定端子7eは、W相のコイル7bに電気的に接続される。
【0020】
診断システム1は、診断装置20を更に備える。診断装置20は、2つの検出端子21a、21bを備える。例えば、診断装置20は作業員に持ち運ばれることが可能な形状である。診断作業において、診断装置20は、制御盤10および常設測定器15と通信可能に接続される。診断作業において、検出端子21aは、モータ7における3つの測定端子7c、7d、7eのうちの1つに電気的に接続される。検出端子21bは、モータ7を支持する基台7fに電気的に接続される。基台7fは、モータ7の内部の電気回路における接地部分に相当する。
【0021】
診断作業において、診断装置20と接地部分である基台7fとUVW相のうちのいずれかの相のコイル7bとが含まれる直列の閉回路が形成される。作業員は、閉回路が形成された後、診断電圧が印加されるように診断装置20を操作する。診断装置20は、診断電圧として検出端子21aと検出端子21bとの間に1000[V]の直流電圧を印加する。なお、診断電圧は、1600[V]以下の直流電圧、より好ましくは1000[V]以下の直流電圧であればよい。
【0022】
診断装置20は、診断電圧によって閉回路に流れる電流である直流のリーク電流の値を検出する。診断装置20は、常設測定器15に記憶された測定値の情報を取得する。診断装置20は、制御盤10からモータ7の稼働情報を含むエレベーター装置2の運行情報を取得する。診断装置20は、例えば、検出したリーク電流の値(以下、リーク電流の検出値とも呼称する)、常設測定器15から取得した測定値の情報、および制御盤10から取得した運行情報を用いて、モータ7の絶縁性能の劣化を診断する。なお、診断装置20が診断に用いる情報には、少なくとも検出したリーク電流の値の情報が含まれていればよい。診断装置20は、当該診断の結果として、絶縁性能が管理水準を下回るまでに残された期間である絶縁性能による余寿命を演算する。例えば、診断装置20は、演算した余寿命を図示されない表示装置に表示することで、余寿命を作業員に報知する。なお、診断装置20は、ネットワーク等を介して、
図2には図示されない情報センター装置12に対して演算した余寿命の情報を送信してもよい。
図2には図示されない情報センター13では、診断装置20から送信された情報を基に、余寿命に応じたモータ7の交換計画が策定されてもよい。その後、作業員は、UVW相のうち、まだ診断していない相のコイル7bに対して同様の診断作業を行う。全ての相のコイル7bに対して診断が行われた場合、作業員は、2つの検出端子21a、21bを取り外し、診断作業を終了する。
【0023】
次に、
図3を用いて、診断システム1を説明する。
図3は実施の形態1における診断システムのブロック図である。なお、
図3では、コア7aとコイル7bとの図示が省略される。
【0024】
図3に示されるように、診断装置20は、検出器22と診断実行器23とを備えていてもよい。
【0025】
検出器22は、例えば、100[nA]以下、即ち1×10-7[A]以下の電流値を検出可能な電流計である。なお、検出器22は、1×10-9[A]以下の電流値を検出可能であればより好ましい。検出器22は、1×10-11[A]以下の電流値を検出可能であればより好ましい。検出器22は、1×10-11[A]以下の分解能を持つ。検出器22には、2つの検出端子21a、21bが接続されている。検出器22は、2つの検出端子21a、21bを介して、診断対象とされるモータ7のコイル7b(本実施の形態に示される本例においては、UVW相のうちのいずれかの相のコイル7b)と当該モータ7の接地部分である基台7fとに電気的に接続可能である。本例においては、検出器22は、モータ7のコイル7bとモータ7の接地部分である基台7fとが含まれる閉回路に診断電圧を印加可能である。なお、モータ7の接地部分は、基台7f以外の箇所であってもよい。検出器22は、当該閉回路に流れる直流のリーク電流の値を検出する。検出器22は、電流の検出値を示す信号を出力可能である。
【0026】
例えば、検出器22は、診断電圧を印加した際に閉回路に流れる直流のリーク電流の値を検出し、検出した値(電流の検出値)を示す信号をリアルタイムで出力してもよい。また、例えば、検出器22は、検出処理として、診断電圧を印加している間、規定のタイミング(例えば一定の周期)で、時刻と閉回路に流れる直流のリーク電流の値とを対応付けて記憶してもよい。そして、検出器22は、リーク電流を検出する際に、リーク電流の値の1分あたりの変化量が1×10-11[A]以下になったときの電流値をリーク電流の検出値として出力してもよい。
【0027】
診断実行器23は、制御盤10と常設測定器15と検出器22とに電気的に接続可能である。診断実行器23は、
図3には図示されないプロセッサとメモリとによって演算処理等を行う。診断実行器23は、当該演算処理によって、モータ7の絶縁性能の劣化を診断する機能を有する。当該機能に含まれる処理を行う機構として、診断実行器23は、例えば、記憶部23aと受付部23bと前処理部23cと取得部23dと診断部23eとを備える。
【0028】
記憶部23aは、情報を記憶する媒体であって、診断に必要な情報を記憶する。例えば、記憶部23aは、予測モデルの情報を記憶する。予測モデルは、入力された情報から余寿命を推論するための計算モデルである。例えば、予測モデルは、診断時のリーク電流を示す情報を含む1以上のパラメータとモータ7の絶縁性能の劣化具合を加味した累計の経過時間の推定値との関係を示す寿命関数である。ここで、診断時のリーク電流を示す情報には、リーク電流の検出値に限らず、後述する規格リーク電流値または記憶部23aに記憶された他の情報リーク電流の検出値または規格リーク電流値を算出可能な情報(例えば、基点となる時点からリーク電流の変化量)などが含まれてもよい。即ち、寿命関数に1以上のパラメータが入力されることで、当該パラメータに対応する値であってモータ7の絶縁性能の劣化具合を加味した累計の経過時間の推定値(以下、疑似経過時間ともいう)が導出可能である。記憶部23aは、寿命関数において、リーク電流の検出値の管理上限値に対応する累計の経過時間の推定値を寿命経過時間として記憶してもよい。即ち、記憶部23aは、リーク電流の検出値の管理上限値に達するとされる累計の経過時間を、寿命経過時間として記憶してもよい。なお、記憶部23aは、予測モデルの情報として、複数の寿命関数を記憶してもよい。例えば、複数の寿命関数は、関数型、内部の定数の値、等が互いに異なる。この場合、記憶部23aは、複数の寿命関数にそれぞれ対応する寿命経過時間を記憶してもよい。
【0029】
記憶部23aは、基点となる時点で検出器22によって検出されたリーク電流である初期リーク電流の検出値の情報を記憶してもよい。例えば、初期リーク電流は、基点となる時点としてモータ7を含む巻上機6が組み立て工場から出荷される直前に検出された値である。または、例えば、初期リーク電流は、基点となる時点としてモータ7がエレベーター装置2に据え付けられた後であって本格的に稼働を開始する前に検出された値であってもよい。また、例えば、初期リーク電流は、基点となる時点としてモータ7がエレベーター装置2に据え付けられて本格的に稼働を開始した後であって、最初の診断作業が行われた時、等の稼働の開始から一定期間が経過した後に検出された値であってもよい。なお、記憶部23aは、受付部23bが受け付けた情報を一時的または永続的に記憶してもよい。ここで、受付部23bが受け付けた情報には、検出器22からの初期リーク電流を含むリーク電流の検出値を示す信号、エレベーター装置2の運行情報、およびモータ7の構造的な特性の情報が含まれ得る。
【0030】
受付部23bは、検出器22から電流の検出値を示す信号の入力を受け付ける。受付部23bは、制御盤10からエレベーター装置2の運行情報の入力を受け付けてもよい。また、受付部23bは、制御盤10からモータ7の構造的な特性の情報との入力を受け付けてもよい。受付部23bは、常設測定器15から測定値の情報の入力を受け付けてもよい。なお、受付部23bは、制御盤10から運行情報およびモータ7の構造的な特性の情報を取得してもよい。また、受付部23bは、常設測定器15から測定値の情報を取得してもよい。
【0031】
前処理部23cは、常設測定器15からの測定値の情報に基づいて、当該測定値が測定された期間におけるモータ7の周辺環境の水蒸気圧の値を演算する。当該水蒸気圧の値は、周辺環境の空気の温度と湿度とから演算される当該空気中の水蒸気の分圧の値である。例えば、当該水蒸気圧の値は、当該測定値が測定された期間における水蒸気の分圧の平均値であってもよい。
【0032】
前処理部23cは、モータ7の構造的な特性の情報に基づいて、受け付けられたリーク電流の検出値を規格化する。本例においては、例えば、モータ7の構造的な特性の情報には、コア7aの回転軸方向の長さであるコア長、1スロット毎のコア7aとコイル7bとの接触周長、モータ7におけるUVW相のコイル7bのそれぞれに対応するスロット数、コイル7bの絶縁層の厚み、等の情報が含まれてもよい。例えば、前処理部23cは、コア7aのコア長と1スロット毎のコア7aとコイル7bとの接触周長とスロット数とを用いて、測定された相においてコイル7bがコア7aと接触している総面積を演算する。前処理部23cは、リーク電流の検出値をコイル7bがコア7aと接触している総面積で除算することで、単位面積あたりのリーク電流を演算し、規格リーク電流値である規格化されたリーク電流の検出値とする。また、前処理部23cは、リーク電流の検出値と同様の方法で、記憶部23aに記憶された初期リーク電流の検出値を規格化してもよい。
【0033】
取得部23dは、記憶部23aが記憶する情報、受付部23bが受け付けた情報、前処理部23cが演算により取得した情報、等の情報を取得し、予測モデルに入力するためのデータセットを作成する。データセットには、予測モデルが受け付ける入力パラメータに対応した情報が互いに対応付けられて含まれる。例えば、データセットには、初期リーク電流の検出値とリーク電流の検出値とが対応付けられて含まれる。なお、データセットには、初期リーク電流の検出値に加えてまたは代えて、規格化された初期リーク電流の検出値である規格初期リーク電流値が含まれてもよい。また、データセットには、リーク電流の検出値に加えてまたは代えて、規格化されたリーク電流の検出値である規格リーク電流値が含まれてもよい。また、データセットには、初期リーク電流の検出値とリーク電流の検出値とに加えてまたは代えて、初期リーク電流の検出値とリーク電流の検出値との差分値(即ち、変化量)が含まれてもよい。また、データセットには、規格初期リーク電流値と規格リーク電流値とに加えてまたは代えて、規格初期リーク電流値と規格リーク電流値との差分値(即ち、変化量)が含まれてもよい。データセットには、更に、前処理部23cによって演算された水蒸気圧の値がリーク電流の検出値と対応付けられて含まれてもよい。データセットには、更に、モータ7が稼働中にモータ7に印加された電圧の平均値および印加された回数のうち少なくとも一方がリーク電流の検出値と対応付けられて含まれてもよい。データセットには、更に、稼働中のモータ7の平均温度、モータ7に熱衝撃が加わった回数、およびモータ7に熱衝撃が加わった際の熱衝撃の平均温度のうちの少なくとも1つがリーク電流の検出値と対応付けられて含まれてもよい。データセットには、更に、コイル7bの絶縁層を構成する樹脂の物理的特性として、当該樹脂の転移開始温度Tg、当該樹脂の加水分解度、当該樹脂の熱分解開始温度Td、当該樹脂を構成する各分子の平均分子量、および当該樹脂の誘電率のうち少なくとも1つがリーク電流の検出値と対応付けられて含まれてもよい。データセットには、更に、コア7aのコア長、モータ7におけるコイル7bの占積率、およびコイル7bの線径のうち少なくとも1つがリーク電流の検出値と対応付けられて含まれていてもよい。
【0034】
診断部23eは、予測モデルとデータセットとを用いて、余寿命を推定するための情報を出力する。本実施の形態で示される例において、診断部23eは、余寿命を推定するための情報として、余寿命自体を出力する。
【0035】
以下は、診断部23eが、予測モデルを用いて、モータ7の絶縁性能の劣化が進行している程度を示す疑似経過時間を推論した上で、余寿命を出力する例である。本例において、診断部23eは、推論部23fと演算部23gとを備える。
【0036】
推論部23fは、データセットに含まれる情報を基に生成された各入力パラメータを予測モデルに入力することで、疑似経過時間を推論する。ここでの予測モデルは、例えば、診断時のリーク電流を示す情報を含む1以上のパラメータと、モータ7の絶縁性能の劣化具合を加味した累計の経過時間の推定値と、の関係を示す寿命関数であってもよい。診断時のリーク電流を示す情報は、例えば、初期リーク電流の検出値、リーク電流の検出値、等である。なお、診断時のリーク電流を示す情報は、規格初期リーク電流値、規格リーク電流値、初期リーク電流の検出値とリーク電流の検出値との差分値、規格初期リーク電流値と規格リーク電流値の差分値、等であってもよい。疑似経過時間は、寿命関数において入力パラメータに対応する累計の経過時間の推定値である。疑似経過時間は、実際にモータ7が運転した累計の経過時間とは異なることが多い。疑似経過時間は、モータ7の絶縁性能の劣化が進行している程度を示す指標値である。本例において、予測モデルに複数の寿命関数が含まれている場合、推論部23fは、データセットに含まれる入力パラメータに基づいていずれかの寿命関数を選択してもよい。具体的には、推論部23fは、データセットに含まれる水蒸気圧の値を用いて、疑似経過時間を推論するために使用する寿命関数を選択してもよい。例えば、水蒸気圧の値がいくつかの範囲に分割された複数の値域が予め設定されており、診断システム1は、複数の値域にそれぞれ対応する複数の寿命関数を記憶していてもよい。
【0037】
演算部23gは、例えば、推論部23fに推論された疑似経過時間を基に、記憶部23aに記憶された寿命経過時間から減算することで、余寿命を演算し、出力する。
【0038】
なお、演算部23gは、例えば、実際の累積の経過時間と疑似経過時間との比率を演算し、当該比率の影響を寿命経過時間と疑似経過時間との差に加味したものを余寿命とみなしてもよい。この場合、演算部23gは、実際の累積の経過時間と疑似経過時間との比率である増減率、即ち現実の経過時間に対する劣化速度の増減率を演算する。演算部23gは、寿命経過時間から疑似経過時間を減算して、第1の残存時間を演算する。演算部23gは、第1の残存時間に増減率を乗算して第2の残存時間を演算し、当該第2の残存時間を余寿命として出力する。具体的には、例えば、疑似経過時間が実際に経過した時間の1.1倍の長さであった場合に、演算部23gは、増減率を1.1とみなし、第1の残存時間を1.1倍したものを余寿命として出力する。なお、演算部23gは、第1の残存時間と第2の残存時間とのうち短い方の時間を余寿命として出力してもよい。
【0039】
このように、診断実行器23の診断部23eは、予測モデルを用いて余寿命を推定するための情報として、余寿命自体を出力する。
【0040】
診断システム1は、第1学習装置30を更に備えてもよい。例えば、第1学習装置30は、情報センター装置12の構成の一つとして設けられる。第1学習装置30は、機械学習の手法、例えば教師あり学習を行うことで、予測モデルを生成してもよい。第1学習装置30は、第1モデル記憶部30aと第1データ取得部30bと第1生成部30cとを備える。
【0041】
第1モデル記憶部30aは、学習済みの予測モデルの情報を格納する。例えば、診断作業が行われるまでに、診断装置20の記憶部23aには、第1モデル記憶部30aに記憶された予測モデルの情報が予め記憶される。即ち、記憶部23aに記憶された予測モデルは、第1モデル記憶部30aに記憶された予測モデルと同一である。
【0042】
第1データ取得部30bは、図示されない第1学習用データベースから、予測モデルを生成するための第1学習用データセットを取得する。例えば、第1学習用データベースは、情報センター装置12が備える記憶媒体に記憶される。
【0043】
第1学習用データセットには、事前に実施された劣化試験で計測された値、劣化試験で設定された値、等が互いに対応付けられて含まれる。劣化試験では、コア7aとコイル7bとの一部を模擬したモデルコイルユニットが規定の劣化条件におかれることで、モデルコイルユニットの絶縁性能の劣化が加速される。劣化試験では、モデルコイルユニットを含む試験回路における試験リーク電流が測定される。試験回路は、診断作業の際に形成される閉回路を模擬した回路である。試験回路においてモデルコイルユニットの両端に印加される試験電圧によって、試験回路には、閉回路中のリーク電流が模擬された試験リーク電流が流れる。劣化試験では、モデルコイルユニットが劣化条件におかれる前の初期試験リーク電流、劣化条件におかれている間に測定された試験リーク電流、および劣化条件におかれた後の試験リーク電流が1回以上測定される。なお、劣化条件は、1つの項目に対して、当該項目の設定値を変更した複数の劣化条件がそれぞれ含まれ得る。具体的には、例えば、水蒸気分圧が劣化条件の項目である場合、複数の水蒸気分圧の下で劣化試験が実施され、複数の水蒸気分圧に対応する複数の試験リーク電流がそれぞれ検出される。
【0044】
例えば、第1学習用データセットには、初期試験リーク電流の検出値と試験リーク電流の検出値とが対応付けられて含まれる。なお、第1学習用データセットには、初期試験リーク電流の検出値の代わりに、規格化された初期試験リーク電流の検出値が含まれてもよい。第1学習用データセットには、試験リーク電流の検出値の代わりに、規格化された規格試験リーク電流の検出値が含まれてもよい。第1学習用データセットには、更に、モデルコイルユニットの周辺環境における水蒸気圧の値が、劣化条件として試験リーク電流の検出値と対応付けられて含まれてもよい。第1学習用データセットには、更に、モデルコイルユニットに印加された試験電圧の平均値および試験電圧が印加された回数のうち少なくとも一方が、劣化条件として試験リーク電流の検出値と対応付けられて含まれてもよい。第1学習用データセットには、更に、劣化試験中のモデルコイルユニットの平均温度、モデルコイルユニットに熱衝撃が加わった回数、およびモデルコイルユニットに熱衝撃が加わった際の熱衝撃の平均温度のうちの少なくとも1つが、劣化条件として試験リーク電流の検出値と対応付けられて含まれてもよい。第1学習用データセットには、更に、モデルコイルユニットに含まれるモデルコイルの絶縁層を構成する樹脂の物理的特性として、当該樹脂の転移開始温度Tg、当該樹脂の加水分解度、当該樹脂の熱分解開始温度Td、当該樹脂を構成する各分子の平均分子量、および当該樹脂の誘電率のうち少なくとも1つが、試験リーク電流の検出値と対応付けられて含まれてもよい。第1学習用データセットには、更に、モデルコイルに含まれるモデルコアのコア長、モデルコイルの疑似的な占積率、およびモデルコイルの線径のうち少なくとも1つが、モータ7の物理的な特性を模擬した条件として試験リーク電流の検出値と対応付けられて含まれていてもよい。
【0045】
例えば、第1学習用データセットの一部の例が、以下の表1に示される。表1において、無視された条件は空欄で示される。表1において、数値の一部は指数表記で表される。具体的には、例えば、5.00E-12は、5.00×10-12を意味する。
【0046】
【0047】
表1における第1学習用データセットにおいて、同じ行の各数値が1つの組み合わせとして互いに対応付けられる。
【0048】
第1生成部30cは、第1データ取得部30bが取得した第1学習用データセットに基づいて、予測モデルを学習する。即ち、第1学習用データセットに基づいて、予測モデルとして1以上の寿命関数を生成する。例えば、第1生成部30cは、第1学習用データセットに含まれる各組合せの関係との距離が最短となるようなグラフを示す寿命関数を生成する。なお、第1生成部30cが実行するこのような学習アルゴリズムは、公知のアルゴリズムであってよい。第1生成部30cは、生成した予測モデルの情報を第1モデル記憶部30aに記憶させる。
【0049】
次に、
図4を用いて、予測モデルに示される寿命関数の一例を説明する。
図4は実施の形態1における診断システムに記憶された寿命関数の一例を示す図である。
【0050】
図4は、寿命関数をリーク電流の値と累計の経過時間の推定値との2次元で表現したグラフG1を示す。縦軸は、リーク電流の値である。横軸は、累積の経過時間の推定値である。なお、寿命関数は、入力パラメータに対応したn次元空間で表現可能な関数であってもよく、
図4にはそのうちの2次元空間で表現されたグラフが示される。
【0051】
破線L1は、リーク電流の管理上限値である。グラフG1上でのリーク電流の管理上限値に対応する累積の経過時間の推定値が、寿命経過時間である。例えば、リーク電流の検出値がI1のとき、グラフG上でのI1に対応する累積の経過時間の推定値が疑似経過時間である。
図4に示されるように、余寿命は、疑似経過時間の推定値から寿命運転までの期間である。
【0052】
次に、
図5と
図6とを用いて、モデルコイルユニットを説明する。
図5は実施の形態1における診断システムで学習されるデータを取得するためのモデルコイルユニットの側面図である。
図6は実施の形態1における診断システムで学習されるデータを取得するためのモデルコイルユニットの上面図である。
【0053】
図5と
図6とに示されるように、モデルコイルユニット40は、例えば
図2に示されるコア7aとコイル7bとを模擬したコア7aとコイル7bと同型のコイルである。例えば、同型のコイルとは、コア7aとコイル7bとに対して相似形となっているコイルである。なお、同型のコイルとは、コア7aとコイル7bとの占積率と等しい占積率を疑似的に有するコイルであってもよい。
【0054】
モデルコイルユニット40は、モデルコア41とモデルコイル42と絶縁紙43と端子44とを備える。なお、モデルコイルユニット40は、コイル7bの2スロット分を模擬し、同じ構成で2つのモデルコイル42を備える。
【0055】
モデルコア41は、コア7aを模擬した素材で形成される。モデルコア41は、コア7aと同様の方向に長手方向のコア長Lcを有する。モデルコイル42は、コイル7bを模擬した素材で構成される。モデルコイル42は、環状を呈する。モデルコイル42のうち2つの辺は、モデルコア41で覆われる。このようにして、モデルコイルユニット40において、コア7aの周囲にコイル7bが巻回されている状態が模擬される。2つのモデルコイルユニット40は、並んで配置される。絶縁紙43は、2つのモデルコイル42のうちモデルコア41に覆われていない部分の間に挟まれる。絶縁紙43によって、2つのモデルコイル42の間が絶縁される。端子44は、
図5と
図6とには示されない測定端子7c、7d、7eを模擬した位置に設けられる。端子44は、モデルコイル42と電気的に接続される。
【0056】
試験回路は、閉回路を模擬して形成される。具体的には、例えば、試験用の検出器は、端子44とモデルコア41の一部とに試験電圧を印加可能なように電気的に接続される。試験用の検出器は、
図5と
図6とには図示されない検出器22と同等以上の検出能力を有していてもよい。例えば、試験用の検出器によって測定された電流について、1分あたりの変化量が1×10
-11[A]以下になったときの電流値が、試験リーク電流の検出値とみなされてもよい。
【0057】
次に、
図7から
図11を用いて、劣化試験の結果の一部を説明する。
図7は実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験のうち水蒸気圧を変化させたデータを示す図である。
図8は実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験のうち熱衝撃サイクルについてのデータを示す図である。
図9は実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験のうち温度条件を変化させたデータを示す図である。
図10は実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験のうちモデルコアのコア長を変化させたデータを示す図である。
図11は実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験のうちモデルコアとモデルコイルとの接触面積を変化させたデータを示す図である。
【0058】
図7から
図11は、各劣化条件による時間等の変化と試験リーク電流との関係を表すグラフを示す。いずれのグラフにおいても、縦軸は、試験リーク電流[A]である。
【0059】
図7において、横軸は、劣化条件が与えられた状態で経過した劣化日数[日]である。グラフの点群1、点群2、点群3、点群4、点群5、および点群6は、劣化条件である水蒸気圧が異なるデータを示す。
図7より、一定以上の水蒸気圧のもとでは、3日間という比較的短い期間で試験リーク電流が増加することがわかる。試験リーク電流の上昇は、モデルコイル42の絶縁性能が低下していることを示す。
【0060】
図8において、横軸は、モデルコイルユニット40に熱衝撃が与えられた回数を意味する熱衝撃のサイクル回数[回]である。グラフの点群1、点群2、点群3、および点群4の熱衝撃の条件は同じである。グラフ上の点群1、点群2、点群3、および点群4は、初期試験リーク電流がそれぞれ異なる。
図8より、いずれの初期試験リーク電流を示すモデルコイルユニット40であっても、熱衝撃が与えられた場合、試験リーク電流が増加することが分かる。
【0061】
図9において、横軸は、劣化条件が与えられた状態で経過した劣化日数[日]である。グラフの点群1、点群2、および点群3は、劣化条件である雰囲気の温度が異なるデータを示す。
図9より、一定以上の温度のもとでは、試験リーク電流が増加することがわかる。
【0062】
図7から
図9より、いずれの試験条件においても、モデルコイルユニット40の絶縁性能の劣化が進行することがわかる。このため、水蒸気圧の値、熱衝撃の回数、および温度が予測モデルに入力されることで、予測モデルによって推定される劣化水準の精度が向上されることが分かる。特に、水蒸気圧の条件が付加された場合、モデルコイルユニット40の絶縁性能は、例えば温度変化の条件が付加された場合に比べて、顕著に劣化する。このため、予測モデルの精度を向上させるために、予測モデルが水蒸気圧の値を入力パラメータとすることが好ましい。
【0063】
図10において、横軸は、モデルコア41のコア長[mm]である。グラフの点群は、試験条件であるコア長が同じまたは異なるデータを示す。
図10より、コア長が長いほど試験リーク電流が増加することがわかる。
【0064】
図11において、縦軸の単位は[nA]である。横軸は、モデルコア41とモデルコイル42とが接触する接触面積[m
2]である。グラフの点群は、試験条件である接触面積が同じまたは異なるデータを示す。
図11より、接触面積が大きいほど試験リーク電流が増加することがわかる。
【0065】
図10と
図11とより、リーク電流は、コア7aおよびコイル7bの構造的な特性によって規格化された上で余寿命の診断に利用された方が望ましいことがわかる。
【0066】
次に、
図12から
図14を用いて、リーク電流として採用される検出値の決定条件を説明する。
図12から
図14は実施の形態1における診断システムのために行われる劣化試験において試験回路に流れた電流の推移を示す図である。
【0067】
診断作業の際にリーク電流として採用される検出値の決定条件は、劣化試験での試験リーク電流の時間推移から定められることが可能である。
図12から
図14は、試験回路に流れた電流値の推移を表すグラフである。横軸は、経過時間[分]である。縦軸は、試験リーク電流[A]である。
【0068】
図12から
図14では、時点Pにおいて、試験回路に試験電圧が印加される。試験電圧の印加直後は、過大な電流が試験回路に流れる。その後、電流値は、試験リーク電流の理想値である平衡値へ向けてなだらかに低下する。従来では、電圧が印加されてから10分後の電流値が、概ね平衡値に近い値として、リーク電流の検出値に採用されていた。
【0069】
一方で、
図12から
図14における破線Qの内部の領域および以下の表2に示されるように、試験電圧が印加されてから10分前後経過した時点において、電流値の1分間の変化量は、概ね1×10
-11[A]以下の値をとる。図示はされないが、表2における範囲1および範囲2は、それぞれが試験電圧が印加されてから10分前後の時間範囲である。即ち、試験電圧が印加されてからの時間ではなく、電流値の1分間の変化量を試験リーク電流の検出値の決定条件とすることが定量性の観点から望ましい。また、試験電圧が印加されてから10分が経過する前に、電流値の1分間の変化量が1×10
-11[A]以下の値をとり得ることが分かる。このため、電流値の1分間の変化量が1×10
-11[A]以下となることを決定条件とすることで、劣化試験を効率的に行うことができる。なお、電流値の1分間の変化量が7×10
-12[A]以下となることを決定条件とすることで、より精度よく試験リーク電流の検出値を決定可能である。また、電流値の1分間の変化量が5×10
-12[A]以下となることを決定条件とすることで、さらに精度よく試験リーク電流の検出値を決定可能である。
【0070】
【0071】
試験リーク電流の決定条件は、診断作業におけるリーク電流の検出値の決定条件に適用可能である。このため、実施の形態1における診断作業において、閉回路を流れる電流値の1分間の変化量が1×10-11[A]以下となることが、リーク電流の検出値の決定条件に設定される。なお、電流値の1分間の変化量が7×10-12[A]以下となることが、リーク電流の検出値の決定条件に設定されてもよい。なお、電流値の1分間の変化量が5×10-12[A]以下となることが、リーク電流の検出値の決定条件に設定されてもよい。
【0072】
次に、
図15を用いて、診断作業の一例を説明する。
図15は実施の形態1における診断システムによって行われる診断作業の概要を説明するためのフローチャートである。
【0073】
図15に示される診断作業は、例えば、エレベーター装置2の定期点検のたびに作業員によって開始される。
【0074】
ステップS001において、作業員によって、閉回路が構成される。即ち、2つの検出端子21a、21bは、それぞれコイル7bとモータ7の接地部分とに接続される。診断装置20は、更に、制御盤10と常設測定器15とに接続される。
【0075】
その後、ステップS002において、診断装置20は、診断電圧をモータ7に印加する。診断装置20は、リーク電流の検出値を取得する。
【0076】
その後、ステップS003において、診断装置20は、制御盤10と常設測定器15とからそれぞれ情報を取得する。
【0077】
その後、ステップS004において、診断装置20は、余寿命を演算し、出力する。例えば、診断装置20は、出力として、余寿命を画面に表示する。
【0078】
その後、ステップS005において、作業員によって、各配線が回収される。
【0079】
その後、診断作業が終了する。
【0080】
次に、
図16を用いて、第1学習装置30が予測モデルを生成するという学習処理を説明する。
図16は実施の形態1における診断システムの第1学習装置が行う学習処理の概要を説明するためのフローチャートである。
【0081】
図16の学習処理は、例えば、情報センター13の保守員によって実行される。
【0082】
ステップS101において、第1データ取得部30bは、第1学習用データセットを取得する。
【0083】
その後、ステップS102において、第1生成部30cは、第1学習用データセットを用いて予測モデルを生成する。
【0084】
その後、ステップS103において、第1生成部30cは、第1モデル記憶部30aにステップS102で生成した予測モデルの情報を記憶させる。
【0085】
その後、第1学習装置30は、学習処理を終了する。
【0086】
次に、
図17を用いて、診断実行器23が余寿命を演算する動作を説明する。
図17は実施の形態1における診断システムの診断実行器が行う動作の概要を説明するためのフローチャートである。
【0087】
図17に示される処理は、
図15のフローチャートにおけるステップS004の処理に対応する。即ち、
図17に示される処理は、
図15のフローチャートにおけるステップS003の後に開始される。
【0088】
ステップS201において、前処理部23cは、取得した情報からリーク電流の検出値を規格化する。
【0089】
その後、ステップS202において、取得部23dは、データセットを作成する。
【0090】
その後、ステップS203において、診断部23eの推論部23fは、データセットと予測モデルとから疑似経過時間を推論する。
【0091】
その後、ステップ204において、診断部23eの演算部23gは、疑似経過時間と寿命経過時間から余寿命を演算する。
【0092】
その後、診断実行器23は、処理を終了する。
【0093】
以上で説明した実施の形態1によれば、診断システム1は、受付部23bと診断部23eとを備える。診断部23eは、予測モデルに基づいて、モータ7の絶縁性能による余寿命を推定するための情報を出力する。例えば、診断部23eは、余寿命を推定するための情報として余寿命自体を出力する。予測モデルは、初期リーク電流とリーク電流の検出値とが対応付けられて含まれたデータセットに基づいて余寿命を推論するためのモデルである。予測モデルが利用されることで余寿命が出力される。このため、モータ7の交換が必要となる寿命時期を推定することができる。また、モータ7の絶縁性能による寿命を予測する精度を向上させることができる。さらに、初期リーク電流およびリーク電流は、部分放電が発生することが設計上予定されていない低電圧規格のモータでも測定が可能である。即ち、このような規格のモータを分解することなく、非破壊検査の検査項目に基づいて、余寿命が推定され得る。このため、モータ7の稼働時の性能に影響を与えることなく、絶縁性能の劣化を精密に診断することができる。ただし、診断システム1は、部分放電が発生することが設計として予定されているモータに対しても適用されることが可能である。
【0094】
なお、本開示における診断システム1は、上記の受付部23bと診断部23eとの構成が備わっていれば、その機能を発揮する。以下で説明される構成は、付加的な構成であり、本開示における診断システム1に必ずしも必要な構成ではない。
【0095】
診断システム1は、推論部23fと演算部23gとを有してもよい。予測モデルは、寿命関数を示す学習済モデルである。演算部23gは、推論部23fで出力された疑似経過時間から余寿命を演算する。このため、既存の寿命関数を利用しながら、余寿命を予測する精度を向上させることができる。
【0096】
なお、診断部23eは、予測モデルに基づいて、余寿命を推定するための情報として寿命関数を出力してもよい。この場合、例えば、作業員は、出力された寿命関数にリーク電流の検出値の管理上限値等の入力パラメータを適用することで、余寿命を算出してもよい。また、診断部23eは、余寿命を推定するための情報として、余寿命によって算出される交換推奨時期、等の情報を出力してもよい。これらの場合でも、モータ7の交換が必要となる寿命時期を推定することができる。
【0097】
また、診断システム1において、受付部23bは、モータ7の周辺環境の水蒸気圧を算出するための測定値の入力を受け付けてもよい。診断部23eは、水蒸気圧の値がリーク電流の検出値と対応付けられて含まれるデータセットを用いて余寿命を推定するための情報を出力してもよい。このため、余寿命の予測精度を向上させることができる。
【0098】
また、診断システム1は、検出器22を更に備えてもよい。検出器22は、リーク電流として1×10-7[A]以下の電流値を検出可能である。このため、余寿命を推定するための情報の予測精度を向上させることができる。
【0099】
また、リーク電流の検出値には、1分間あたりの変化量が1×10-11[A]以下になったときの電流値が用いられてもよい。従来は、電圧が印加されてからの時間によって閉回路に流れる電流が平衡に達したとみなされていた。本実施の形態では、従来と比べて、電流が平衡に達したとみなす値をより正確に決定することができる。また、従来と比べて、より短い時間で電流が平衡に達したとみなすことができ、診断作業の効率を向上させることができる。
【0100】
また、診断システム1は、前処理部23cを更に備えてもよい。前処理部23cは、リーク電流の検出値を規格化する。診断部23eでは、規格リーク電流値に基づいて余寿命を推定するための情報が出力される。このため、型番が異なる複数のモータに対して、各モータの構造的な特性による差異の影響が小さくなるように余寿命が予測される。その結果、余寿命の予測精度を向上させることができる。また、予測モデルを様々な構造のモータに適用させることができる。
【0101】
また、診断システム1は、学習装置である第1学習装置30を備えてもよい。第1学習装置30は、実機のモータ7を模擬した劣化試験で得られたデータを用いて予測モデルを生成する。このため、予測モデルを作成する際のデータ数を多くすることができる。様々な条件の下で劣化試験が行われたデータを予測モデルに反映させることができる。予測モデルが利用されることで、モータ7の交換が必要となる寿命時期を推定するための情報が出力可能となる。その結果、予測モデルによる予測精度を向上させることができる。
【0102】
また、第1学習用データセットには、劣化条件である水蒸気圧の値が含まれてもよい。水蒸気圧による絶縁性能の劣化の影響は、他の指標の影響よりも大きい。このため、予測モデルによる予測精度をより向上させることができる。
【0103】
また、第1学習用データセットには、モデルコイル42に印加された試験電圧の値が含まれてもよい。このため、予測モデルによる予測精度をより向上させることができる。
【0104】
また、第1学習用データセットには、絶縁層の材料特性に起因する項目、モータ7の構造上の特性に疑似的に起因する項目、および劣化条件に関連する項目のうち少なくとも1つが含まれてもよい。このため、材料、構造等が異なるモータ7に対して診断システム1が適用されることができる。
【0105】
なお、検出器22ではなく、診断実行器23の受付部23bがリーク電流値の変化量からリーク電流の検出値とする値を決定してもよい。即ち、この場合、検出器22は、検出した電流値を示す信号を規定の周期で診断実行器23に送信してもよい。受付部23bは、リーク電流値の1分あたりの変化量が1×10-11[A]以下になったときの電流値をリーク電流の検出値として採用してもよい。
【0106】
なお、検出器22が検出したリーク電流の検出値は、診断装置20に設けられた入力インターフェースを介して、診断実行器23に直接入力されてもよい。
【0107】
なお、リーク電流の検出値に対して、当該検出値が検出された環境に対応する補正が行われた値が、リーク電流の検出値として利用されてもよい。検出値が検出された環境には、診断作業時における検出器22の周辺の温度、湿度、等が含まれる。
【0108】
なお、記憶部23aは、寿命経過時間の代わりに、寿命関数に対応するリーク電流の検出値の管理上限値を記憶していてもよい。この場合、演算部23gは、余寿命を演算する際に、当該寿命関数とリーク電流の検出値の管理上限値とを用いて、寿命経過時間を演算してもよい。
【0109】
なお、規格リーク電流値として、絶縁層厚みあたりのリーク電流の検出値が採用されてもよい。
【0110】
なお、予測モデルは、以上で説明した例に限らず、機械学習によって得られる学習済みのモデルであって、診断時のリーク電流を示す情報を含む1以上のパラメータとモータ7の絶縁性能の劣化具合を加味した累計の経過時間の推定値との関係、または、当該1以上のパラメータとリーク電流の検出元のモータの絶縁性能からみた余寿命との関係を示す学習済みのモデルであってもよい。
【0111】
なお、以上でデータセットに含まれてもよいとされた情報は、予測モデルへの入力データセットとしてだけでなく、複数の予測モデルのうちから利用する予測モデルを選択するための情報として用いられてもよく、さらに、リーク電流の検出値を含む入力データセットを補正するための情報として用いられてもよい。この場合、本開示の説明において「予測モデルに入力するデータセット」という表現を、「診断部23eに入力するデータセット」と適宜読み替えてもよい。ここで、当該データセットに含まれてもよいとされた情報とは、初期リーク電流の検出値、規格初期リーク電流値、リーク電流の検出値、規格リーク電流値、水蒸気圧の値、稼働中のモータ7への印加電圧の平均値、当該印加電圧の印加回数、雰囲気の平均温度、熱衝撃回数、熱衝撃の平均温度、コイルの絶縁層を形成する樹脂の転移開始温度Tg、当該樹脂の加水分解度、当該樹脂の熱分解開始温度Td、当該樹脂の各構成分子の平均分子量、当該樹脂の誘電率、モータコイルのコア長、占有率、線径、等の情報である。
【0112】
次に、診断システム1の変形例を説明する。
図18は実施の形態1における診断システムの変形例のブロック図である。
【0113】
変形例において、推論部23fは、データセットから余寿命を推論し、余寿命を推定するための情報として出力する。このため、
図18に示されるように、変形例では、演算部23gが設けられなくてもよい。
【0114】
具体的には、変形例において、予測モデルは、データセットから対応する余寿命を出力する学習済モデルである。なお、データセットは、実施の形態1と同じ情報が含まれてもよい。このため、推論部23fは、データセットに含まれる各入力パラメータを予測モデルに入力することで、予測モデルに示される余寿命を推論する。診断部23eは、当該余寿命を推定するための情報として、余寿命自体を出力する。
【0115】
変形例において、第1学習装置30において作成される第1学習用データセットには、更に余寿命がリーク電流の検出値と対応付けられて含まれる。第1学習用データベースには、各数値条件から個々に算出された余寿命が、当該数値条件と対応付けられて記憶される。当該余寿命は、実施の形態1において演算部23gが行った方法と同様の方法に基づいて演算されてもよい。
【0116】
即ち、変形例において、以下の表3に示されるような第1学習用データセットの一部が作成される。表3において、余寿命の単位は[年]である。
【0117】
【0118】
一例として、第1学習装置30は、いわゆる教師あり学習によって、第1学習用データセットを用いて予測モデルを生成する。例えば、第1学習装置30が実行する学習処理は、
図16に示される学習処理と同様である。
【0119】
次に、
図19を用いて、第1学習装置30が予測モデルを生成する際に用いる学習アルゴリズムの一例を説明する。
図19は実施の形態1における診断システムの変形例で用いられるニューラルネットワークモデルを利用した学習アルゴリズムの例を示す図である。
【0120】
図19に示されるように、例えば、学習アルゴリズムには、ニューラルネットワークモデルが利用されてもよい。即ち、第1生成部30cは、ニューラルネットワークモデルに従って、いわゆる教師あり学習により、余寿命を学習する。ここで、教師あり学習とは、入力と結果のデータの組である第1学習用データセットを第1学習装置30に与えることで、それらの第1学習用データセットにある特徴を学習し、入力から結果を推論する手法をいう。
【0121】
ニューラルネットワークは、複数のニューロンからなる入力層、複数のニューロンからなる中間層、および複数のニューロンからなる出力層で構成される。中間層は、隠れ層とも呼称され、1層、または2層以上でもよい。
【0122】
例えば、
図19に示されるような3層のニューラルネットワークであれば、複数の入力が入力層(X1‐X3)に入力されると、その値に重みW1(w11‐w16)が乗算された上で中間層(Y1‐Y2)に入力される。その入力の結果である中間層(Y1‐Y2)からの出力に対して重みW2(w21‐w26)が乗算されたものが、出力層(Z1‐Z3)から出力される。最終的な出力結果は、重みW1とW2との値によって変わる。
【0123】
本変形例において、ニューラルネットワークは、第1データ取得部30bによって取得される各値と余寿命との組み合わせに基づいて作成された第1学習用データセットに従って、いわゆる教師あり学習により、予測モデルを学習する。即ち、ニューラルネットワークは、入力層に各値を入力することで出力された結果が、余寿命に近づくように重みW1とW2とを調整することで、学習を行う。
【0124】
次に、
図20を用いて、変形例における診断実行器23が余寿命を演算する動作の一例を説明する。
図20は実施の形態1における診断システムの変形例の診断実行器が行う動作の概要を説明するためのフローチャートである。
【0125】
図20に示される処理は、
図15のフローチャートにおけるステップS004の処理に対応する。即ち、
図20に示される処理は、
図15のフローチャートにおけるステップS003の後に開始される。
【0126】
ステップS301において、前処理部23cは、取得した情報からリーク電流の検出値を規格化する。
【0127】
その後、ステップS302において、取得部23dは、データセットを作成する。
【0128】
その後、ステップS303において、診断部23eの推論部23fは、データセットから余寿命を推論する。
【0129】
その後、診断実行器23は、処理を終了する。
【0130】
以上で説明した実施の形態1の変形例によれば、診断システム1は、診断部23eに含まれる推論部23fを有する。予測モデルは、余寿命を推定するための情報として、余寿命自体を出力する。余寿命を出力する際に、実施の形態1と比較して、寿命曲線等を演算する必要がない。このため、診断システム1は、精度の高い余寿命の予測を少ない演算コストで行うことができる。
【0131】
なお、変形例において、余寿命を出力するための情報は、余寿命でない別の情報でもよい。この場合、第1学習用データセットには、当該別の情報が、余寿命の代わりに出力されるべきデータとして含まれる。教師あり学習は、当該別の情報が余寿命の代わりに出力されるべきデータとして実行されてもよい。
【0132】
次に、
図21を用いて、診断実行器23を構成するハードウェアの例を説明する。
図21は実施の形態1における診断システムの診断実行器のハードウェア構成図である。
【0133】
診断実行器23の各機能は、処理回路により実現し得る。例えば、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。例えば、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える。
【0134】
処理回路が少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える場合、診断実行器23の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、少なくとも1つのメモリ100bに格納される。少なくとも1つのプロセッサ100aは、少なくとも1つのメモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、診断実行器23の各機能を実現する。少なくとも1つのプロセッサ100aは、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。例えば、少なくとも1つのメモリ100bは、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等である。
【0135】
処理回路が少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。例えば、診断実行器23の各機能は、それぞれ処理回路で実現される。例えば、診断実行器23の各機能は、まとめて処理回路で実現される。
【0136】
診断実行器23の各機能について、一部を専用のハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、前処理部23cが実行する機能については専用のハードウェア200としての処理回路で実現し、前処理部23cが実行する機能以外の機能については少なくとも1つのプロセッサ100aが少なくとも1つのメモリ100bに格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。
【0137】
このように、処理回路は、ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせで診断実行器23の各機能を実現する。また、処理回路の演算は、1つの場所に設けられた処理回路によって実現されるだけでなく、複数の場所に分散して設けられた処理回路がネットワーク等を介して一体となって機能することで実現されてもよい。例えば、このように実現されたいわゆるクラウドサーバ上で、処理回路と同等の演算が実現されるように構成されてもよい。
【0138】
例えば、記憶部23a、前処理部23cおよび取得部23dの機能は、ネットワーク等を介して診断実行器23と接続された情報センター装置12において実現されてもよい。即ち、情報センター装置12は、記憶部23a、前処理部23cおよび取得部23dを有してもよい。
【0139】
図示されないが、制御盤10の各機能、情報センター装置12の各機能、検出器22の各機能、および第1学習装置30の各機能も、それぞれが診断実行器23の各機能を実現する処理回路と同等の処理回路で実現される。
【0140】
なお、変形例を含む実施の形態1において、診断システム1には、第1学習装置30が備えられなくてもよい。
図22は実施の形態1における診断システムの別の例を示すブロック図である。
図22に示されるように、診断システム1において、予測モデルによって余寿命が推論されるのであれば、診断システム1に第1学習装置30が含まれる必要はない。
【0141】
実施の形態2.
図23は実施の形態2における診断システムのブロック図である。なお、実施の形態1の部分と同一又は相当部分には同一符号が付される。当該部分の説明は省略される。
【0142】
図23に示されるように、実施の形態2において、診断実行器23が情報センター13に設けられる。例えば、診断実行器23は、情報センター装置12の機能の一部である。
【0143】
診断装置20には、検出器22が備えられる。作業員は、診断作業において、検出器22を用いてリーク電流の検出を行う。例えば、遠隔監視装置11は、診断装置20からの指令に基づいて、検出したリーク電流とその時間推移との情報、制御盤10が記憶する運行情報、および常設測定器15が記憶する測定結果の情報を情報センター装置12に送信する。
【0144】
その後、情報センター装置12の診断実行器23は、実施の形態1と同様の方法で、余寿命の演算を行う。例えば、当該余寿命の演算結果は、情報センター13の保守員に報知されてもよい。
【0145】
なお、検出器22の測定結果の情報は、遠隔監視装置11を介してではなく、作業員が情報センター13に戻った後に、情報センター装置12に直接送信されてもよい。
【0146】
以上で説明した実施の形態2に示されるように、診断実行器23は、診断装置20に設けられなくてもよい。この場合であっても、診断システム1には、受付部23bと診断部23eとが含まれる。このため、診断システム1において、診断実行器23が設けられた位置に関わらず、余寿命の予測精度を向上させることができる。
【0147】
なお、図示されないが、実施の形態1の予測モデルおよび診断部23eの構成が実施の形態2の診断システム1に適用されてもよい。
【0148】
実施の形態3.
図24は実施の形態3における診断システムのブロック図である。なお、実施の形態1または実施の形態2の部分と同一又は相当部分には同一符号が付される。当該部分の説明は省略される。
【0149】
図24に示されるように、実施の形態3において、診断システム1は、第2学習装置50を更に備える。例えば、第2学習装置50は、診断装置20の内部に設けられる。
【0150】
第2学習装置50は、リーク電流の検出値の情報、常設測定器15が測定した情報、およびエレベーター装置2の運行情報を用いて予測モデルを更新して、更新後の予測モデルを生成する。第2学習装置50は、第2モデル記憶部50aと第2データ取得部50bと第2生成部50cとを備える。
【0151】
第2モデル記憶部50aは、予測モデルの情報を記憶する。第2モデル記憶部50aが記憶する予測モデルは、更新前の予測モデルでもよいし更新後の予測モデルでもよい。
【0152】
第2データ取得部50bは、診断実行器23からリーク電流の検出値の情報、常設測定器15が測定した情報、およびエレベーター装置2の運行情報を取得する。この際、第2データ取得部50bは、データセットの情報を併せて取得してもよい。第2データ取得部50bは、取得した情報に基づいて、第2学習用データセットを作成する。
【0153】
第2学習用データセットには、診断実行器23によって直前の診断に利用されたリーク電流の検出値、常設測定器15の測定結果に基づく水蒸気圧の値、および運行情報のうち少なくとも1つが診断時のリーク電流の検出値と対応付けられて含まれる。具体的には、第2学習用のデータセットには、モータ7の起動回数とモータ7の起動時間とモータ7の累計の運転時間とかご8の累計の走行距離とのうち少なくとも1つが診断時のリーク電流の検出値と対応付けられて含まれてもよい。第2学習用データセットには、直前の診断に利用されたデータセットの情報が診断時のリーク電流の検出値と対応付けられて更に含まれていてもよい。
【0154】
第2生成部50cは、第2データ取得部50bが取得した第2学習用データセットに基づいて、予測モデルを学習することで、当該予測モデルを更新する。即ち、第2学習用データセットに基づいて、予測モデルとして1以上の寿命関数を改めて生成する。例えば、当該寿命関数の関数パラメータが調整される。なお、第2生成部50cが実行する学習アルゴリズムは、公知のアルゴリズムであってよい。第2生成部50cは、更新した予測モデルの情報を、第2モデル記憶部50aに更新後の予測モデルとして記憶させる。
【0155】
予測モデルが更新された場合、診断実行器23は、更新後の予測モデルの情報を第2学習装置50から取得し、記憶部23aが記憶する予測モデルを更新後の予測モデルに書き換える。次回の診断作業において、診断実行器23の診断部23eは、第2生成部50cが生成した更新後の予測モデルを用いて余寿命を推定するための情報を出力する。例えば、診断部23eは、更新後の予測モデルを用いて、余寿命自体を出力する。
【0156】
次に、
図25から
図27を用いて、第2学習用データセットに運行情報が含まれることの理由を説明する。
図25から
図27は一般的なエレベーター装置における巻上機のモータで測定された運行実績とリーク電流との関係を示す図である。
【0157】
図25は、一般的なエレベーター装置における複数の巻上機のモータで測定された測定時間と単位面積リーク電流との関係を表すグラフである。縦軸は、モータのコアとコイルとの接触面積あたりのリーク電流の検出値である単位面積リーク電流である。単位面積リーク電流の単位は、[nA]/[m
2]である。当該リーク電流の検出値は、実施の形態1と同様の方法によって測定された。横軸は、巻上機によって走行したかごの走行時間である。走行時間の単位は、[時間]である。
【0158】
グラフにおける点群は、それぞれ走行時間が異なるモータの初期リーク電流の検出値およびリーク電流の検出値である。
図25より、走行時間が増加するほど、単位面積リーク電流の値が増加するという相関関係が存在することがわかる。
【0159】
図26は、
図25で示された複数のモータと同様のモータにおける経過年数と単位面積リーク電流との関係を表すグラフである。縦軸は、単位面積リーク電流である。横軸は、当該モータが設置されてから経過した経過年数である。
図26より、経過年数と単位面積リーク電流の値との間に明確な相関関係は見られない。
【0160】
図27は、
図25で示された複数のモータと同様のモータで測定された走行距離と単位面積リーク電流との関係を表すグラフである。縦軸は、単位面積リーク電流である。横軸は、当該モータによって走行したかごの累計の走行距離である。走行距離の単位は、[千km]である。
図27より、走行距離が増加するほど、単位面積リーク電流の値が増加するという相関関係が存在することが分かる。
【0161】
また、
図25から
図27より、走行距離と単位面積リーク電流の値との相関が最も強いことがわかる。このため、第2学習用データセットには、かご8の累計の走行距離を含む運行情報が含まれる。
【0162】
また、特に、単位面積リーク電流の値は、経過年数との相関関係が弱い。このことから、単位面積リーク電流の値の増加、即ち絶縁性能の劣化には、モータの回転速度による影響が大きいと考えられる。モータの回転速度の平均値が大きいほど、絶縁性能の劣化の進行が速いと考えられる。モータの回転速度は、出力電力[W]が影響する。ここで、一般的にエレベーターの運転電圧は一定であるため、出力電力は出力電流に比例する。実施の形態1等において、第1学習用データセットには、モデルコイルユニットに印加された電圧の平均値および印加された回数のうち少なくとも一方が劣化条件として含まれる場合がある。この劣化条件は、モデルコイル42に電圧を印加して電流を流すことで、当該出力電流による絶縁性能の劣化の影響を模擬するために設定されるものである。
【0163】
次に、
図28を用いて、第2学習装置50が更新後の予測モデルを生成するという学習処理を説明する。
図28は実施の形態3における診断システムの第2学習装置が行う学習処理の概要を説明するためのフローチャートである。
【0164】
図28の学習処理は、例えば、診断作業を行った作業員によって実行される。作業員は、診断作業を行った後、当該学習処理を開始させる指令を入力する。
【0165】
ステップS401において、第2データ取得部50bは、第2学習用データセットを取得する。
【0166】
その後、ステップS402において、第2生成部50cは、第2学習用データセットを用いて予測モデルを生成する。
【0167】
その後、ステップS403において、第2生成部50cは、第2モデル記憶部50aにステップS402で生成した予測モデルの情報を記憶させる。
【0168】
その後、第2学習装置50は、学習処理を終了する。
【0169】
以上で説明した実施の形態3に示されるように、診断システム1は、第2学習装置50を更に備えてもよい。第2学習装置50は、エレベーター装置2の運行情報がリーク電流と対応付けられた第2学習用データセットを用いて予測モデルを更新する。診断部23eは、更新後の予測モデルに基づいて余寿命を推定するための情報を出力する。このため、モータ7の実際の劣化の進行度合いに基づいて、余寿命を予測することができる。その結果、余寿命の予測精度を向上させることができる。
【0170】
なお、第2学習装置50は、モータ7とは別のエレベーター装置に設けられたモータに対して、モータ7に対応する更新後の予測モデルとは別の更新後の予測モデルを生成してもよい。
【0171】
なお、実施の形態3の診断システム1における予測モデルは、実施の形態1の変形例における予測モデルと同様に余寿命を推定するための情報を出力するものであってもよい。この場合、一例として、第2データ取得部50bは、診断実行器23からリーク電流に対応する余寿命の情報を取得し、余寿命がリーク電流の検出値と対応付けられて含まれる第2学習用データセットを作成する。第2生成部50cは、余寿命を出力する更新後の予測モデルを生成する。
【0172】
実施の形態4.
図29は実施の形態4における診断システムのブロック図である。なお、実施の形態1、実施の形態2、および実施の形態3のいずれかの部分と同一又は相当部分には同一符号が付される。当該部分の説明は省略される。
【0173】
実施の形態4において、第1学習装置30が、実施の形態3における第2学習装置50の機能を有する。例えば、作業員は、モータ7の診断を行って情報センター13へ帰ってきた後に、第1学習装置30に学習処理を行わせる。この際、作業員は、診断装置20を情報センター装置12に接続してもよい。
【0174】
即ち、第1モデル記憶部30aは、更新前または更新後の予測モデルを記憶する。第1データ取得部30bは、実施の形態3と同様の第2学習用データセットを作成する。この際、第1データ取得部30bは、診断装置20と直接接続することでまたは遠隔監視装置11を介して診断実行器23が診断に利用した情報を取得する。
【0175】
第1生成部30cは、実施の形態3の第2生成部50cと同様の方法で、予測モデルを生成する。その後、第1生成部30cは、第1モデル記憶部30aに更新後の予測モデルを記憶させる。
【0176】
以上で説明した実施の形態4に示されるように、第1学習装置30は、実施の形態3における第2学習装置50と同様の学習処理を行う。即ち、作業員は、第2学習装置50を追加で持ち運ばなくてもよい。その結果、診断作業の作業性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0177】
以上のように、本開示に係る診断システムは、エレベーター装置の診断作業に利用できる。
【符号の説明】
【0178】
1 診断システム、 2 エレベーター装置、 3 建築物、 4 昇降路、 5 機械室、 6 巻上機、 7 モータ、 7a コア、 7b コイル、 7c 測定端子、 7d 測定端子、 7e 測定端子、 7f 基台、 8 かご、 9 主ロープ、 10 制御盤、 11 遠隔監視装置、 12 情報センター装置、 13 情報センター、 14 ネットワーク、 15 常設測定器、 20 診断装置、 21a,21b 検出端子、 22 検出器、 23 診断実行器、 23a 記憶部、 23b 受付部、 23c 前処理部、 23d 取得部、 23e 診断部、 23f 推論部、 23g 演算部、 30 第1学習装置、 30a 第1モデル記憶部、 30b 第1データ取得部、 30c 第1生成部、 40 モデルコイルユニット、 41 モデルコア、 42 モデルコイル、 43 絶縁紙、 44 端子、 50 第2学習装置、 50a 第2モデル記憶部、 50b 第2データ取得部、 50c 第2生成部、 100a プロセッサ、 100b メモリ、 200 ハードウェア、 Lc コア長
【要約】
モータの交換が必要となる寿命時期を推定することができる診断システムおよび学習装置を提供する。診断システムは、モータの絶縁性能の劣化を診断するための診断システムであって、モータのコイルとモータの接地部分とを含む閉回路に流されたリーク電流の検出値の入力を受け付ける受付部と、基点となる時点で検出されたリーク電流である初期リーク電流の検出値および受付部で受け付けたリーク電流の検出値が対応付けられて含まれるデータセット、並びにデータセットからモータの絶縁性能による余寿命を推論するための予測モデル、を用いて余寿命を推定するための情報を出力する診断部と、を備えた。