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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】偏光分析装置、及び偏光分析チップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20240709BHJP
   G01N 21/19 20060101ALI20240709BHJP
   G01N 21/21 20060101ALI20240709BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240709BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20240709BHJP
【FI】
G01N21/01 D
G01N21/19
G01N21/21 Z
B82Y20/00
C01B32/158
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021528168
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2020023128
(87)【国際公開番号】W WO2020255868
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019114912
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】牧 英之
(72)【発明者】
【氏名】中川 鉄馬
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1530670(CN,A)
【文献】特開2017-009338(JP,A)
【文献】特開2012-255731(JP,A)
【文献】特開2006-300708(JP,A)
【文献】特開2003-270127(JP,A)
【文献】MA, Z , et al.,On-chip polarized light emitters based on (6,5) chirality-sorted carbon nanotube aligned arrays,APPLIED PHYSICS LETTERS,2016年02月12日,Vol.108,pp.063114-1 - 063114-5,http://dx.doi.org/10.1063/1.4941813
【文献】CHANG, Y W , et al.,Polarized excitons and optical activity in single-wall carbon nanotubes,PHYSICAL REVIEW B,2018年05月09日,Vol.97,pp.205413-1 - 205413-14,DOI: 10.1103/PhysRevB.97.205413
【文献】MIR, M , et al.,Integrated electrochemical DNA biosensors for lab-on-a-chip devices,Electrophoresis,2009年10月,Vol.30,pp.3386-3397,DOI 10.1002/elps.200900319
【文献】牧英之、外2名,ナノカーボン発光素子の開発とその応用展開,固体物理,日本,2019年06月15日,第54巻第6号,第315頁-324頁
【文献】NISHIHARA, T et al.,Ultra-narrow-band near-infrared thermal exciton radiation in intrinsic one-dimensional semiconductors,NATURE COMMUNICATIONS,2018年08月07日,9:3144,pp.1-7,DOI: 10.1038/s41467-018-05598-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
B82Y 20/00
C01B 32/158
H01K 1/06
H01L 31/12
H05B 33/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に偏光を照射するナノカーボン偏光光源と、
前記試料からの光を測定する測定器と
を有し、
前記ナノカーボン偏光光源は長軸が所定の方向に向いた1本以上のカーボンナノチューブを有し、前記カーボンナノチューブから黒体放射による偏光を直接出力し、
前記ナノカーボン偏光光源の発光面のサイズは10μm以下である
ことを特徴とする偏光分析装置。
【請求項2】
前記ナノカーボン偏光光源は、前記カーボンナノチューブの前記長軸と平行な方向に振動する直線偏光を直接発光し、
前記測定器の出力から、前記試料の直線二色性、光学異方性、光学活性、または磁性特性が分析されることを特徴とする請求項1に記載の偏光分析装置。
【請求項3】
前記ナノカーボン偏光光源を前記試料に対して相対的に回転する回転機構、
をさらに有し、
前記直線偏光の振動方向を変えて測定が行われることを特徴とする請求項2に記載の偏光分析装置。
【請求項4】
試料に偏光を照射するナノカーボン偏光光源と、
前記試料からの光を測定する測定器と
を有し、
前記ナノカーボン偏光光源は長軸が所定の方向に向いた1本以上のカーボンナノチューブを有し、前記カーボンナノチューブから黒体放射による前記カーボンナノチューブの螺旋の巻き方向に応じた円偏光または楕円偏光である偏光を直接出力する、
ことを特徴とする偏光分析装置
【請求項5】
前記ナノカーボン偏光光源は、同じ巻き方向の複数の前記カーボンナノチューブを有し、前記カーボンナノチューブの前記長軸は基板面と垂直に配置され、前記円偏光または前記楕円偏光を前記基板面と垂直な方向に発光する、
ことを特徴とする請求項4に記載の偏光分析装置。
【請求項6】
前記ナノカーボン偏光光源は、同じ巻方向の複数の前記カーボンナノチューブを有し、前記カーボンナノチューブの前記長軸は基板面と平行に配置され、前記円偏光または前記楕円偏光を前記基板面に対して鋭角で発光する、
ことを特徴とする請求項4に記載の偏光分析装置。
【請求項7】
前記ナノカーボン偏光光源は、前記円偏光を直接発光し、
前記測定器の出力から、前記試料の円二色性が分析されることを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の偏光分析装置。
【請求項8】
前記ナノカーボン偏光光源はプローブの先端に配置されて、前記試料を保持するステージに対して相対的に走査可能であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の偏光分析装置。
【請求項9】
前記ナノカーボン偏光光源の偏光発光面は、赤外光の波長以下の距離で前記試料に近接して配置され、近接場偏光で前記試料を照射することを特徴とする請求項8に記載の偏光分析装置。
【請求項10】
前記ナノカーボン偏光光源は、複数の光源エレメントが一定方向に配置された偏光光源アレイであることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の偏光分析装置。
【請求項11】
前記試料をパルス刺激する励起源、
をさらに有し、
前記ナノカーボン偏光光源は、前記パルス刺激から所定時間遅延して、前記偏光を出力することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の偏光分析装置。
【請求項12】
前記試料を前記ナノカーボン偏光光源の近傍に供給するマイクロ流路を有する偏光分析チップ、
をさらに有することを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の偏光分析装置。
【請求項13】
前記ナノカーボン偏光光源は、前記マイクロ流路内に配置されるか、または前記マイクロ流路と対向する位置で前記偏光分析チップに形成されていることを特徴とする請求項12に記載の偏光分析装置。
【請求項14】
前記カーボンナノチューブの前記長軸の両端に配置される一対の電極と、絶縁膜を介して前記カーボンナノチューブにゲート電圧を印加するゲート電極と、
を有し、前記ゲート電圧の変化に応じて前記カーボンナノチューブの前記長軸に沿ってホットスポットが掃引される、ことを特徴とする請求項1または2に記載の偏光分析装置。
【請求項15】
一定方向に配列するカーボンナノチューブから黒体放射による偏光を直接発光する偏光光源と、
前記偏光光源の発光面に固定されるプローブ分子と、
を有する偏光分析チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光分析装置、及び偏光分析チップに関する。
【背景技術】
【0002】
一対の電極間に金属カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブを配置し、黒体放射によって発光を行わせる発光素子が知られている(たとえば、特許文献1参照)。電極へ通電することで、金属カーボンナノチューブが発熱して発光する。黒体放射による赤外光のスペクトルはプランク則によって規定され、1μmから10μmにわたる広い波長域での発光が得られる。また、黒体の温度を高くすることで、可視光域の発光が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5747334号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、赤外領域における分光分析で用いられている光源は、サイズが大きく応答速度が遅い。そのため、サブミクロンオーダーの空間分解能が得られない、高速な時間分解測定ができない、光源の集積化ができない、といった問題がある。
【0005】
特に、ハロゲンランプ、セラミック光源などの既存の黒体放射光源を用いた偏光分析では、偏光を作るために偏光子または波長板、もしくはその両方を光学系に挿入する必要がある。
【0006】
本発明は、高い空間分解能と時間分解能を有する小型の偏光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
偏光分析装置の光源にナノカーボン光源を用いることで、光源から直接、偏光を出力する。
【0008】
本発明の第1の側面において、偏光測定装置は、
試料に偏光を照射するナノカーボン光源と、
前記試料を透過、散乱または反射した光を測定する測定器と
を有し、
前記ナノカーボン偏光光源は長軸が所定の方向に向いた1本以上のカーボンナノチューブを有し、前記カーボンナノチューブから黒体放射による偏光を直接出力する。
【0009】
本発明の第2の側面において、偏光分析チップは、
一定方向に配列するカーボンナノチューブから黒体放射による偏光を直接発光する偏光光源と、
前記偏光光源の発光面に固定されるプローブ分子と、
を有する。
【発明の効果】
【0010】
高い空間分解能と時間分解能を有する小型の偏光分析装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】直線偏光を発光するナノカーボン偏光光源の模式図である。
図2A】円偏光または楕円偏光を発光するナノカーボン偏光光源の模式図である。
図2B】円偏光または楕円偏光を発光する別構成のナノカーボン偏光光源の模式図である。
図2C】円偏光または楕円偏光を発光する別配置のナノカーボン偏光光源の模式図である。
図3】回転ステージによる偏光の振動方向の制御例を示す図である。
図4】偏光光源プローブの模式図である。
図5】アレイ化されたナノカーボン偏光光源の模式図である。
図6A】並列配置したナノカーボン偏光光源におけるホットスポットの掃引を示す上面図である。
図6B図6Aのホットスポットからの偏光の出力を示す断面図である。
図7】ナノカーボン偏光光源を用いた第1実施形態の偏光分析装置の模式図である。
図8】第2実施形態の偏光分析装置の模式図である。
図9】第3実施形態の偏光分析装置の模式図である。
図10】第4実施形態の偏光分析装置の模式図である。
図11】第5実施形態の偏光分析装置の模式図である。
図12】第6実施形態の偏光分析装置の模式図である。
図13】第7実施形態の偏光分析装置の模式図である。
図14】第8実施形態の偏光分析装置の模式図である。
図15】ナノカーボン偏光光源を用いたバイオチップの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態では、一定の方向にカーボンナノチューブが配列されたナノカーボン偏光光源を用いて、直接、偏光を出射して偏光分析を行う。
【0013】
<ナノカーボン偏光光源>
図1は、直線偏光LLPを発光するナノカーボン偏光光源10Aの模式図である。ナノカーボン偏光光源10Aは、一対の電極12及び電極13と、電極12及び電極13に接続されるナノカーボン材料15Aを有する。この例では、ナノカーボン材料15Aは、基板11と平行な面内(X-Y面内)で一定の方向に延びるカーボンナノチューブ(以下、「CNT」とする)である。ここで、「一定の方向」とは、マクロ的または平均的にみたときに、CNTの長軸がほぼ同じ方向に向いていることを意味する。
【0014】
電極12と電極13は、CNTの長軸方向の両側に配置されている。電極12と電極13の間に電圧、電流、または電気信号を印加することで、ナノカーボン材料15Aに電流が流れ、ジュール熱による熱放射が黒体放射となる。CNTの長軸と平行な方向に電圧を印加することで、ナノカーボン材料15がもつ電気的異方性により、電極12と電極13に挟まれた領域から直線偏光LLPが発光する。
【0015】
複数のCNTが基板11と平行かつ一定の方向に配列されたナノカーボン材料15Aは発光源と偏光板の役割を果たし、基板11の面に垂直、かつCNTの長軸と平行なに沿った面内(Y-Z面内)で電場が振動する直線偏光LLPを直接、発光する。この直線偏光LLPは、可視光から赤外領域にまたがる広い波長帯域のスペクトルを有する。
【0016】
ナノカーボン偏光光源10Aを偏光分析に用いる場合、ハロゲンランプ、セラミック光源等の一般的な黒体放射光源を用いた偏光分析と異なり、偏光を作り出すための光学素子を挿入する必要はなく、システム全体を小型化することができる。
【0017】
ナノカーボン材料15Aは酸素によるエッチングで容易に加工することができ、発光面のサイズをナノメートルオーダーまで微細化することができる。従来の赤外分光での回折限界である10μmと比較して、非常に高い空間分解能が得られる。また、ナノカーボン材料に短パルス幅のパルス電圧を印加することでピコ秒オーダーの時間分解能が得られ、高空間分解能かつ高時間分解能の偏光分析が可能になる。
【0018】
基板11上へのナノカーボン材料15Aの形成方法に限定はなく、同じ向きのCNTを基板11の表面と平行に配置または形成できれば、どのような方法を用いてもよい。
【0019】
図2Aは、円偏光(または楕円偏光)LCPを発光するナノカーボン偏光光源10Bの模式図である。ナノカーボン偏光光源10Bは、一対の電極12及び電極13と、電極12と電極13に接続されるナノカーボン材料15Bを有する。この例で、ナノカーボン材料15Bは、基板11と垂直な方向(Z方向)に配向する多数のCNTで形成されるが、基板11と垂直方向に延びる1本のCNTでも、その螺旋の方向に応じた円偏光または楕円偏光を直接発光する。円偏光は、楕円偏光のうち直交する2つの電場Ex、Eyの位相差が±π/2、かつ振幅が同じ場合に相当するので、以下の説明では、「円偏光または楕円偏光」を、「円偏光等」と称する。
【0020】
CNTの高さは100nm~1000nmである。複数のCNTを用いる場合は、螺旋の巻き方(右巻きまたは左巻き)は同じことが望ましい。所定の巻き方(右巻きまたは左巻き)のCNTは、たとえば、光学的に活性な界面活性剤を用いた鏡像異性体分離法、右巻きと左巻きのいずれか一方に結合しやすい分子ピンセットによる分離法などで、分離することができる。一本のCNTを用いる場合は、必ず右巻きまたは左巻きになるので、分離は不要である。
【0021】
厳密には、電場(または磁場)の振動方向が一方向に回転する円偏光等のみがナノカーボン材料15Bから発光するわけではないが、所定の一方向に回転する円偏光等が支配的に放射される。
【0022】
図2Bは円偏光等を発光する別の構成のナノカーボン偏光光源10Cの模式図である。ナノカーボン偏光光源10Cは、巻き方(右巻きまたは左巻き)がそろった複数のCNTが、基板11と平行に配置されたナノカーボン材料15Cを用いている。
【0023】
ナノカーボン材料15Cの配列面に対して角度θで円偏光等が直接、発光する。θは鋭角であり、θが小さいほど円偏光等が取り出しやすい。ナノカーボン材料15Cは、図2Aのナノカーボン材料15Bと比較して作製しやすく、素子の作製効率が向上する。
【0024】
図2Cは、ナノカーボン偏光光源10Cの別の配置例を示す。図2Bの素子を傾けることで、所望の方向に円偏光等を取り出すことができる。図2Cの例では、ナノカーボン材料15Cの配置面がX-Y平面に対して(90-θ)度傾けられ、Z方向に円偏光等が取り出されている。この場合も、θは小さい方が効率良く円偏光等を取り出すことができる。
【0025】
図3は、直線偏光のナノカーボン偏光光源10Aを用いたときの、偏光の振動方向の制御例を示す。図3の(A)で、ナノカーボン偏光光源10Aをステージ21に搭載する。ステージ21はたとえば回転機構により面内方向に回転可能である。たとえば、ステージ21の最初の位置での方位角を0°とする。ナノカーボン偏光光源10Aは、CNTの配向方向で決まる向きに電場が振動する直線偏光LLPを発光する。
【0026】
図3の(B)で、ステージ21を90°回転させると、方位角は90°になる。ナノカーボン偏光光源10AのCNTの配向方向も90°回転し、直線偏光LLPの振動方向が90°変化する。
【0027】
ステージ21を任意の角度で回転することで、試料に入射する偏光の振動方向を制御することができる。あるいは、試料を保持する試料ステージをナノカーボン偏光光源10Aに対して相対的に回転してもよい。
【0028】
図4は、偏光光源プローブ20の模式図である。偏光光源プローブ20は、ナノカーボン偏光光源10と、ナノカーボン偏光光源10を支持するプローブ基板25を有する。図4の例では、ナノカーボン偏光光源10は、直線偏光を発光するが、図2A図2Cのように円偏光等を発光してもよい。
【0029】
ナノカーボン偏光光源10は、どのような形状の基板に形成されてもよく、図4のように、突起またはプローブの形状に加工されたプローブ基板25の先端にナノカーボン偏光光源10を作り込んでもよい。ナノカーボン偏光光源10は、図1の直線偏光を発光する光源であってもよいし、図2A図2Cの円偏光等を発光する光源であってもよい。ナノカーボン材料15の配置または成長の仕方に応じて偏光を直接発光する。プローブ基板25の先端をとがらせて、微細な点光源を実現することができる。この場合、電極12、13はプローブ基板25の側面に配置してもよい。また、プローブ基板25の傾斜した側面を利用して、図2Cのナノカーボン偏光光源10Cを配置してもよい。プローブ基板25の先端を平坦面にすることで、ナノカーボン偏光光源10の発光面に2次元的な広がりを持たせてもよい。2次元的な広がりを持たせても、ナノカーボン偏光光源10の発光面自体が非常に微細であるため、空間解像度は高く維持される。
【0030】
プローブ基板25の先端に形成されるナノカーボン偏光光源10も、偏光光源プローブ20自体も微小であることから、ナノカーボン偏光光源10を測定対象に接近させた状態で、測定対象に偏光を照射し、測定することができる。この場合、発光面の近傍に発生する近接場によって偏光を取り出すことができる。近接場偏光は、発光面からの距離に依存して指数関数的に減衰するが、プローブ基板25の先端面にナノカーボン偏光光源10を配置することで、発光面を試料の表面に近づけることができる。
【0031】
近接場光は、回折限界のある遠隔場光と異なり、その空間分解能は発光面のサイズに依存する。図4の偏光光源プローブ20を、走査型の分光分析またはイメージングに適用する場合、1本のCNTを用いたときは発光面のサイズをナノメートルオーダーまで小さくすることができるので、一般的な赤外分光における回折限界である10μmと比べて、高い空間分解能を実現することができる。
【0032】
図5は、複数のナノカーボン光源素子がマトリクス状に配置されたナノカーボン偏光光源アレイ30の模式図である。水平方向に延びる複数の電極121~121(適宜、「電極121」と総称する)と、垂直方向に延びる複数の電極131~131(適宜、「電極131」と総称する。)が、互いに電気的に絶縁され、かつ交差して配置される。水平方向の各電極121は、櫛歯状の電極突起122を有する。各電極突起122は、垂直方向の電極131と対向して電極ペアを形成する。各電極ペアにナノカーボン材料15が接続されて、1つのナノカーボン偏光光源10ijのセルが構成される。この例では、ナノカーボン材料15で、CNTは水平方向の電極121と平行な方向に長軸を有する。
【0033】
選択された水平方向の電極121に高電位を印加し、それ以外の電極121をOFFにする。選択された垂直方向の電極131に低電位を印加し、それ以外の電極131をOFFにする。選択された電極121と電極131で決定される位置のナノカーボン偏光光源10ijが直線偏光を発光する。偏光の電場の振動方向は、CNTの長軸と平行な方向である。この方式で、各ナノカーボン偏光光源10の発光をそれぞれ独立に制御することができる。
【0034】
ナノカーボン偏光光源アレイ30の各発光セルに整流効果を与えてもよい。たとえば、各セルでナノカーボン材料15と直列にダイオード等の整流性の素子を接続することで、電流の逆流を抑制して、所望の位置のナノカーボン光源10だけを発光させる。選択された水平方向の電極121に、たとえば高電位を印加し、それ以外の電極121をOFFにする。選択された垂直方向の電極131に、たとえば低電位を印加し、それ以外の電極131をOFFにする。整流素子を接続することで、選択された電極121と電極131で決定される位置以外のナノカーボン光源へ電流が迂回することが抑制され、意図しないCNTの発光を防止することができる。
【0035】
ナノカーボン偏光光源アレイ30を赤外分光イメージングに適用する場合、各ナノカーボン偏光光源10の発光タイミングに、分光器と検出器の動作タイミングを同期させることで、2次元のイメージング画像を得ることができる。
【0036】
図6Aは、並列配置したナノカーボン偏光光源アレイ40の上面図、図6Bは、断面模式図である。ナノカーボン偏光光源40アレイでは、基板41上にSiO2等の絶縁膜44を介して、複数の偏光光源エレメント45~45がたとえばY方向に配置されている。各偏光光源エレメント45はX方向に長軸を有し、ソース電極43Sとドレイン電極43Dの間にナノカーボン材料15が配置されている。ナノカーボン材料15はX方向に配向するCNTで形成されており、各偏光光源エレメント45で、直線偏光を発光するホットスポット49を掃引することができる。
【0037】
基板41の裏面に形成されたゲート電極42に印加する電圧を変えることで、ホットスポット49の位置がY方向に(一次元的)に掃引される。基板41の裏面に共通のゲート電極42が一つ形成されていてもよいし、偏光光源エレメント45ごとに、個別のゲート電極42が設けられていてもよい。
【0038】
共通のゲート電極42を用いる場合は、ソース電極43Sとドレイン電極Dの組を順次選択し、選択された偏光光源エレメント45ごとにゲート電圧を変化させることで、ナノカーボン材料15の長さ方向にホットスポット49をスイープすることができる。個別のゲート電極42を用いる場合は、複数の偏光光源エレメント45でホットスポット49を同時にスイープすることができる。この場合は高速のイメージングが可能になる。
【0039】
図6Aでは、Y方向にだけ偏光光源エレメント45を並べているが、たとえば絶縁層を介して、偏光光源エレメント45をX方向にも並べて、2次元マトリクス状の光源アレイとしてもよい。
【0040】
図6A及び図6Bのナノカーボン偏光光源アレイ40を用いる場合、アレイの表面に試料を配置して、試料の透過光を測定することも可能である。ゲート電極42を透明電極にして試料からの反射光を測定してもよい。
【0041】
<第1実施形態>
図7は、第1実施形態の偏光分析装置1の模式図である。偏光分析装置1は、偏光光源プローブ20を用いて、ステージ21上の試料S1に偏光を照射する。偏光光源プローブ20を試料S1に対して相対的に1次元、2次元、または3次元的に走査し、試料S1を透過した光Lと、試料S1で散乱または反射された光Lの少なくとも一方を、検出器35及び/または検出器36で検出する。検出器35及び/または検出器36の出力を後述する情報処理装置で解析して、検出された光の強度変化、スペクトル変化をイメージング画像として取得することができる。
【0042】
ナノカーボン偏光光源10が、直線偏光を発光する場合、偏光光源プローブ20を光軸周りに回転、あるいは試料S1を搭載したステージ21を面内方向に回転することで、直線偏光の振動の方向を変えることができる。試料S1が光学的に異方性を有する場合は、異方性の分布を取得することができる。
【0043】
偏光光源プローブ20を用いる場合、走査が容易、かつ偏光近接場を利用することができ、発光面のサイズに依存した高い空間分解能が得られる。光源は、偏光光源プローブ20に限定されず、図1の光源10Aまたは図2の光源10Bを固定にして、ステージ21を光源に対して相対的に走査する構成にしてもよい。また、光源として図5のナノカーボン偏光光源アレイ30、または図6Aのナノカーボン偏光光源アレイ40を用いて順次発光させてもよい。これらの場合も、各光源エレメントは微細であり、光源を試料に近接させて高い空間分解能での測定が実現する。
【0044】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態の偏光分析装置2の模式図である。偏光分析装置2は、直線二色性の高空間分解イメージングを実現する。直線二色性とは、偏光の電場ベクトル(または磁場ベクトル)の振動方向が90度異なる2つの直線偏光に対する物質の吸収度の差によって生じる光学特性である。
【0045】
偏光分析装置2は、直線偏光を直接発光するナノカーボン偏光光源10Aと、試料S2を保持するステージ21と、試料S2からの光(図8の例では透過光)を計測する計測器61と、計測器61に接続される情報処理装置62を有する。情報処理装置62はパーソナルコンピュータ(PC)でもよいし、スマートフォン、タブレット端末等の携帯端末であってもよい。
【0046】
光源として、直線偏光を直接発光するナノカーボン偏光光源10Aを先端に有する偏光光源プローブ20を用いる場合は、走査が容易、かつ偏光近接場を利用した高い空間分解能の測定が可能になる。
【0047】
ナノカーボン偏光光源10Aとステージ21の少なくとも一方を回転可能とし、試料S2に入射する直線偏光の振動方向を変えてもよい。試料S2が光学的異方性を持つ場合、入射する直線偏光の振動方向によって吸収率が異なる。
【0048】
計測器61で、直交する2つの直線偏光に対する吸収率(m//,m⊥)をそれぞれ測定する。たとえば、試料S2を保持するステージ21を、直線偏光の振動方向に対する方位角0°の向きにセットして、所定のステップサイズで試料S2上に直線偏光を一次元、二次元、または三次元に走査して、吸収率m//を測定する。直線偏光に対する方位角0°の向きは、あらかじめカリブレーションで決めておいてもよい。
【0049】
方位角0°での測定後に、偏光光源プローブ20の発光面を90度回転し、同じ走査軌跡、同じタイミングで、直線偏光を試料S2上に走査して吸収率m⊥を測定する。試料S2に入射する直線偏光の振動方向は、方位角0°での振動方向と90°異なっている。
【0050】
情報処理装置62で、各走査点での2つの吸収率の差(m//-m⊥)を計算してもよい。差分の大きさと正負により、試料S2の配向性とその分布を評価することができる。情報処理装置62は、スペクトラムアナライザ、画像信号への変換器、などのデジタル信号処理機能を有していてもよい。微細なナノカーボン偏光光源10Aを用いて偏光測定を行い、測定値の分布を画像化することで、定量的で高解像の直線二色性イメージングが実現する。
【0051】
この測定は、延伸などにより配向を持たせたポリマーフィルムや繊維の評価、配向性を持つ生体組織の機能評価などに応用することができる。
【0052】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態の偏光分析装置3の模式図である。偏光分析装置3は、円二色性の高空間分解イメージングを実現する。
【0053】
偏光分析装置3は、円偏光を直接発光するナノカーボン偏光光源10Bと、試料S3を保持するステージ21と、試料S3からの光(図9の例では透過光)を測定する分光測定器51と、分光測定器51に接続される情報処理装置62を有する。ナノカーボン偏光光源10Bに替えて、図2Bまたは図2Cのナノカーボン偏光光源10Cを用いてもよい。
【0054】
光源として、先端にナノカーボン偏光光源10Bを有する偏光光源プローブ20を用いる場合は、走査が容易、かつ偏光近接場を利用した高い空間分解能の測定が可能になる。
【0055】
キラリティを持つ試料S3は、円偏光を吸収する際に、左円偏光と右円偏光に対して吸収度に差が生じる。この例では、試料S3は、キラル中心に結合している原子の原子量に着目したときに、最も原子量が低い置換基を奥に配置し、残りの置換基の原子量の高い順序が時計回り(R体)か、半時計回り(S体)かによって、円偏光に対する吸収度が異なる。なお、高分子のように、R体、S体ではキラリティを定義できないものに対しては、ヘリシティー(螺旋構造)、すなわち右巻き螺旋(P体)か、左巻き螺旋(M体)かによって、そのキラリティが区別されるが、この場合も円偏光に対する吸収度が異なる。
【0056】
円二色性は、左円偏光と右円偏光に対する吸収係数の差で表される。左円偏光を直接発光するナノカーボン偏光光源10Bが形成された偏光光源プローブ20と、右円偏光を直接発光するナノカーボン偏光光源10Bが形成された偏光光源プローブ20を用いて、試料S3に右円偏光と左円偏光を照射する。たとえば、まず右円偏光で試料S3上を所定の走査ステップサイズで一次元、二次元、または三次元に走査し、次に、左円偏光で試料S3を、同じ軌跡、同じタイミング(またはステップサイズ)で走査する。
【0057】
各走査点で、所定の波長における左円偏光に対する吸収率mと右円偏光に対する吸収率mを分光測定器51で測定する。所定の波長は、試料S3が吸光感度を持つ波長である。分光測定器51の出力に基づいて、情報処理装置(「PC」と標記)62で吸収係数の差を計算してもよい。差分(m-m)の正負によって、分子のキラリティがわかる。微細なナノカーボン偏光光源10B(または10C)で偏光分光測定を行い、情報処理装置62にて測定結果に画像処理を施すことで、円二色性の高空間分解イメージングが実現する。
【0058】
赤外光領域の円二色性の測定には分子中への発色団の導入は不要であり、第3実施形態の偏光測定は、ほとんどすべての光学異性体に応用可能である。
【0059】
<第4実施形態>
図10は、第4実施形態の偏光分析装置4の模式図である。偏光分析装置4は、複屈折の高空間分解イメージングを実現する。
【0060】
偏光分析装置4は、直線偏光を直接発光するナノカーボン偏光光源10Aと、試料S2を保持するステージ21と、試料S4の後段に配置される検光子53と、検光子53の透過光を検出・測定する計測器61と、計測器61に接続される情報処理装置62とを有する。
【0061】
検光子53は、ナノカーボン偏光光源10Aから出力される直線偏光の振動方向と垂直な方向に透過軸を有する。試料S4の後段に直線偏光の振動方向と直交する向きに透過軸を持つ検光子53を挿入することで、クロスニコルの偏光顕微鏡と等価な光学系となる。特徴的なのは、ナノカーボン偏光光源10Aが直線偏光を直接発光するので、光源と試料S4の間に偏光子またはアナライザが不要になる点である。
【0062】
直線偏光を試料S4に対して相対的に、一次元、二次元、または三次元に走査する。直線偏光が複屈折性を持つ試料S4を透過すると、複屈折性の大きさによって振動の方向が回転し、検光子53を透過する光成分が生じる。検光子53の透過光を計測器61で測定することで、複屈折の有無とその大きさがわかる。
【0063】
偏光光源プローブ20の発光面と検光子53を、同時に、同じ方向に同じ角度で回転してもよい。直線偏光の振動方向と、検光子53の透過軸との直交性を保ったまま、同じ方向に回転する。あるいは、試料S4を保持するステージ21を、ナノカーボン偏光光源10Aと検光子53に対して回転してもよい。試料S4へ入射した直線偏光の振動方向が試料S4内で変化することで、試料S4の偏光特性または複屈折特性を、検光子53を透過した光の色(干渉色)または輝度の変化として観測することができる。微細なナノカーボン偏光光源10Aを用いて偏光測定を行い、情報処理装置62で、計測器61による測定結果に画像処理を施すことで、複屈折の高空間分解イメージングが実現する。
【0064】
<第5実施形態>
図11は、第5実施形態の偏光分析装置5の模式図である。偏光分析装置5は、キラル分子と直線偏光との相互作用による光学活性(旋光性)の高空間分解イメージングを実現する。
【0065】
偏光分析装置5は、直線偏光を直接発光するナノカーボン偏光光源10Aと、試料S3を保持するステージ21と、試料S3の後段に配置される検光子53と、検光子53の透過光を分光測定する分光測定器51と、分光測定器51に接続される情報処理装置62を有する。
【0066】
光源として、先端にナノカーボン偏光光源10Aを有する偏光光源プローブ20を用いる場合は、走査が容易、かつ偏光近接場を利用した高い空間分解能の測定が可能になる。
【0067】
キラリティを持つ試料S3に直線偏光を入射すると、キラル分子との相互作用により、試料S3を透過(または反射)した光の振動方向が回転する。試料S3の後段に配置した検光子53を回転して、試料S3を透過した特定波長の光の強度が最小となる検光子53の回転角度θを特定する。
【0068】
回転角度θは、分光測定器51と検光子53の回転機構を連動させて特定することができる。試料S3に入射した直線偏光の振動方向に対する検光子53の回転角度θが、試料S3の光学活性を示す旋光角となる。旋光角は分子のキラリティに依存するので、第3実施形態の円二色性と同様に、旋光角(すなわち回転角度θ)から光学異性体のキラリティを高精度に識別することができる。
【0069】
<第6実施形態>
図12は、第6実施形態の偏光分析装置6の模式図である。偏光分析装置6は、ファラディディー回転の高空間分解イメージングを実現する。
【0070】
偏光分析装置5は、直線偏光を直接発光するナノカーボン偏光光源10Aと、試料S5を保持するステージ21と、試料S5の後段に配置される検光子53と、検光子53の透過光を分光測定する分光測定器51と、分光測定器51に接続される情報処理装置62を有する。
【0071】
光源として、先端にナノカーボン偏光光源10Aを有する偏光光源プローブ20を用いる場合は、走査が容易、かつ偏光近接場を利用した高い空間分解能の測定が可能になる。
【0072】
試料S5は、自発磁化を持つ強磁性体、または、常磁性体もしくは反磁性体である。図12のように、強磁性体もしくは、光の進行方向と平行な方向に磁場が印加された常磁性体もしくは反磁性体の試料S5に直線偏光が入射すると、光学活性と同様に、試料S5から出射する直線偏光の振動方向が回転する。
【0073】
試料S5の後段に挿入した検光子53を回転させることで、透過光の強度が最小となる検光子53の回転角度θを決定してもよい。入射直線偏光の振動方向に対する検光子53の回転角度θがファラディ回転(磁気旋光性)の回転角となる。ファラディ回転角の正負は、磁化の方向もしくは磁場の印加方向に依存し、ファラディ回転角の大きさは、磁化の大きさもしくは印加磁場の大きさに依存する。微細なナノカーボン偏光光源10Aを用いて偏光測定することで、磁性体の磁区構造の評価や光通信用アイソレータの性能評価などを高分解能で行うことができる。
【0074】
<第7実施形態>
図13は、第7実施形態の偏光分析装置7の模式図である。偏光分析装置7は、ナノカーボン偏光光源10による高速時間分解測定を実現する。
【0075】
偏光分析装置7は、偏光を直接発光するナノカーボン偏光光源10と、励起源65と、試料Sからの光を検出するカメラ及び/または分光器63(図中、「カメラ・分光器63」と標記)と、カメラ・分光器63の出力に接続される情報処理装置62を有する。カメラは、CCDセンサ、CMOSセンサ等の光検出アレイを有する。試料Sの何を測定するかに応じて分光器を併用してもよい。
【0076】
ナノカーボン偏光光源10から直接出射される偏光をプローブ光Lprobeとして用い、励起源65からの刺激パルスPstimにより刺激された試料Sの変化を高速に測定する。試料Sの測定領域に、たとえば化学反応を開始する化学反応パルス刺激を印加する。刺激の印加からΔt秒の遅延時間で、ナノカーボン偏光光源10から偏光をプローブ光Lprobeとして、試料の同じ測定領域に照射する。試料Sに化学反応を開始する刺激を与えることができればよいので、刺激パルスPstimは光の照射に限定されず、電気化学反応を生じさせる電圧の印加、反応物質パルスの供給など、電気刺激や物質供給であってもよい。
【0077】
ハロゲンランプやセラミック光源などといった既存の黒体放射光源では、変調の応答速度が約100msと低速なため、高速な化学反応などの追跡ができない。一方、ナノカーボン偏光光源は100psオーダーの応答速度で変調が可能なため、高速時間分解測定が可能である。
【0078】
刺激により生じた試料Sの内部の変化は、たとえば、励起された分子振動による偏光の吸収または偏光の回転結果として、カメラ・分光器63によって検出される。検出結果は情報処理装置62に入力されて、信号処理、分析等が行われてもよい。
【0079】
第7実施形態の偏光分析装置7は、第2実施形態~第6実施形態のいずれと組み合わせてもよい。この場合、直線二色性、円二色性、複屈折、光学活性(旋光角)、ファラディ回転を、高速時間分解、かつ高い空間分解能でイメージングが実現する。
【0080】
<第8実施形態>
図14は、第8実施形態の偏光分析装置8の模式図である。第8実施形態では、マイクロ流路71を有するマイクロ分析チップ70を用いた偏光測定を実現する。マイクロ分析チップ70は、偏光分析を効率的に行う偏光分析チップの一例である。
【0081】
偏光分析装置8は、ナノカーボン偏光光源10と、カメラ・分光器63と、マイクロ分析チップ70を有する。マイクロ分析チップ70には、マイクロ流路71が形成されており、試料はマイクロ流路71内に供給される。
【0082】
反応物質を含む試料をマイクロ流路71に流しつつ、ナノカーボン偏光光源10から偏光を照射する。試料からの透過、散乱、または反応光を測定することで、マイクロ流路71中に存在する物質の偏光分析(直線二色性、円二色性、複屈折、光学活性(旋光角)、ファラディ回転など)を行うことができる。
【0083】
ナノカーボン偏光光源10は、マイクロ流路71の中に配置されてもよいし、マイクロ流路71と対向する位置、たとえば、マイクロ分析チップ70の内部または底面にナノカーボン偏光光源10が形成されてもよい。
【0084】
図14の構成を、図13のように励起源65による刺激と組み合わせて時間分解での化学反応分析に適用してもよい。この場合は、刺激により試料に生じた時々刻々と進む反応過程を追跡することができる。
【0085】
マイクロ流路71を有するマイクロ分析チップ70は、微量の化学分析、バイオ分析、医療診断などで有効に用いられる。
【0086】
第8実施形態の偏光分析装置7は、第2実施形態~第7実施形態のいずれと組み合わせてもよい。この場合、直線二色性、円二色性、複屈折、光学活性(旋光角)、ファラディ回転を、高速時間分解、かつ高い空間分解能でイメージングが実現する。
【0087】
<第9実施形態>
図15は、第9実施形態の偏光分析を説明する図である。第9実施形態では、ナノカーボン偏光光源10のような微小な偏光光源の発光面にプローブ物質を固定したバイオチップ80を用いた偏光分析を実現する。ここで用いられるバイオチップ80も偏光分析チップの一例である。バイオチップ上に分析用のサンプルを供給し、微細なナノカーボン偏光光源10に固定されたプローブ分子81に試料の相互反応する物質82を結合させて、簡便かつ高速に偏光分析を行う。
【0088】
基板11上に形成したナノカーボン偏光光源10などの微小な光源の上に、分析用のプローブ分子81を固定して、光源一体型のバイオチップ80を作製する。プローブ分子81としては、DAN、タンパク質、糖鎖、細胞、分子などを用いることができる。プローブ分子81は特定の物質(DNA、タンパク質、糖鎖、細胞、分子等)と選択的に結合する。プローブ分子81は、ナノカーボン偏光光源10に直接結合して形成することも可能であるし、ナノカーボン偏光光源10上にキャップ層を設けて、キャップ層にプローブ分子81を結合させてもよい。
【0089】
プローブ分子81付きのナノカーボン偏光光源に分析用の試料を導入すると、プローブ分子81と選択的に結合可能な物質82がプローブ分子81に結合する。これを利用して、分析用の物質の同定、検出、分析(分子構造の特定など)等が可能になる。
【0090】
ナノカーボン偏光光源10を用いたバイオチップ80では、目的に応じて、第2実施形態~第6実施形態のいずれの構成と組み合わせてもよい。例えば、第5実施形態の光学活性の測定をバイオチップ80に応用すると、高価な蛍光物質などのマーカーを用いずに、キラリティを示すアミノ酸・糖・タンパク質・DNAといった生体物質の構造とその変化を高感度で検出することができる。
【0091】
また、プローブ分子81とターゲットの物質は、従来法では用いることができなかった非発光の物質であってもよい。ナノカーボン偏光光源10は、微細加工による小型化が簡単なため、図5及び図6Aに示したように、シリコンチップ上に高集積化が可能である。これらの特徴により、遺伝子発現や抗体検出の精度の向上や診断の迅速化などにつなげられると期待される。
【0092】
以上、特定の実施例に基づいてナノカーボン偏光光源を用いた偏光分析装置について述べてきたが、本発明はこれらの構成例に限定されない。たとえば、ナノカーボン偏光光源10Aを用いて反磁性体の試料に直線偏光を入射し、透過光の偏光の楕円率を測定して磁気円二色性を分析してもよい。
【0093】
図5及び図6Aの構成で、ナノカーボン偏光光源アレイの表面に、試料Sを直接搭載して、透過光を検出し分析してもよい。円偏光等を発光するナノカーボン偏光光源10Bまたは10Cを用いて、図6A及び図6Bのようにホットスポットを掃引してもよい。図15のバイオチップは、複数のナノカーボン偏光光源が一定方向またはマトリクス状に配置された偏光光源アレイにプローブ分子が固定されたものであってもよい。
【0094】
基板上に配置されるナノカーボン材料の密度と膜厚は、所望の偏光強度を得るように適宜設計されてもよい。ナノカーボン偏光光源10、及び10A~10Cの表面全体を透明な保護膜で覆って大気中での使用を可能にしてもよい。
【0095】
いずれの場合も、追加の光学素子を用いずに、直線偏光または円偏光(もしくは楕円偏光)を直接発光する微細なナノカーボン偏光光源で偏光分析が行われるので、高速時間分解、かつ高い空間分解能で偏光分析を行う小型の偏光分析装置が実現する。
【0096】
本出願は、2019年6月20日に出願された日本国特許出願第2019-114912号に基づいて、その優先権を主張するものであり、これらの日本国特許出願の全内容を含む。
【符号の説明】
【0097】
1~8 偏光分析装置
10、10A、10B、10C ナノカーボン偏光光源
11、31、41 基板
12、13、121、131 電極
15、15A、15B ナノカーボン材料
21 ステージ
30、40 ナノカーボン偏光光源アレイ
42 ゲート電極
43S ソース電極
43D ドレイン電極
45、451~45n 偏光光源エレメント
49 ホットスポット
51 分光測定器(測定器)
53 検光子
61 計測器(測定器)
62 情報処理装置
63 カメラ・分光器(測定器)
65 励起源
70 マイクロ分析チップ(偏光分析チップ)
71 マイクロ流路
81 プローブ分子
80 バイオチップ(偏光分析チップ)
81 プローブ分子
S、S1~S5 試料
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15