(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法および酸素電極触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 55/00 20060101AFI20240709BHJP
B01J 23/644 20060101ALI20240709BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240709BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240709BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240709BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C01G55/00
B01J23/644 M
B01J37/08
H01M4/88 Z
H01M4/90 X
H01M12/08 K
(21)【出願番号】P 2020169268
(22)【出願日】2020-10-06
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】衣本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・イブス・オル
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-195775(JP,A)
【文献】特開平04-026519(JP,A)
【文献】特開2019-179592(JP,A)
【文献】特開2003-201526(JP,A)
【文献】特開昭54-085197(JP,A)
【文献】OH et al.,Synthesis of a metallic mesoporous pyrochlore as a catalyst for lithium-O2 batteries,NATURE CHEMISTRY,2012年12月,Vol.4, No.12,p.1004-1010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 55/00
B01J 23/644
B01J 37/08
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 12/08
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法であって、前記方法は、
(1)ルテニウム塩
、ビスマス塩
および界面活性剤を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、pHが10以上の水溶液を調製する工程、
(2)pHが10以上の水溶液に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体を生成させる工程、
(3)生成した前駆体を回収する工程、および
(4)回収した前駆体を焼成し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を得る工程
を含
み、
工程(1)の前に、1つの容器に、水、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を投入し、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を水に溶解させて、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を含む水溶液を調製する工程を含む、方法。
【請求項2】
工程(2)において添加する次亜塩素酸ナトリウムの量がルテニウム1molに対して0.01~3.0molである、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を含む酸素電極触媒の製造方法であって、前記方法は、
(1)ルテニウム塩
、ビスマス塩
および界面活性剤を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、pHが10以上の水溶液を調製する工程、
(2)pHが10以上の水溶液に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体を生成させる工程、
(3)生成した前駆体を回収する工程、および
(4′)回収した前駆体を焼成し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物粒子を含む酸素電極触媒を得る工程
を含
み、
工程(1)の前に、1つの容器に、水、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を投入し、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を水に溶解させて、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を含む水溶液を調製する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物粒子の製造方法および酸素電極触媒の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、塩基性水溶液中での電子の移動により酸素を発生させる反応および酸素を還元する反応の両方に対して有効である、酸素電極触媒として使用することができる含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法、および含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を含む酸素電極触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性水溶液中での電子の移動により酸素を発生させる反応は、水の電気分解(アルカリ水電解法)による水素製造で用いられている。このような反応では、反応触媒として、ニッケル、ニッケル系合金、鉄、ニッケル被覆鉄、希土類混合金属酸化物、貴金属酸化物などが用いられている。
電気自動車など向けのエネルギー源として近年特に有望視されている空気二次電池においては、塩基性水溶液中での電子の移動に起因して、空気極である正極において充電時および放電時に下記の反応が進み、それぞれ酸素の発生および酸素の還元が行われる。
充電時: 4OH- → O2 + 2H2O +4e-
放電時: O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-
【0003】
この酸素発生反応および酸素還元反応の触媒として、ビスマスとルテニウムを含むパイロクロア金属酸化物を用いることが知られている(特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
ビスマスとルテニウムを含むパイロクロア金属酸化物を製造する代表的な方法として、前駆体を作製した後、焼成する方法がある。その製造方法は、(i)2種類の原料金属塩(例えば、塩化ルテニウムとルテニウム以外の金属塩)を別々に水に溶解させた水溶液を準備し、(ii)それらの水溶液を混合し、(iii)塩基性水溶液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)を所定量加え、pHを10以上とし、(iv)酸素ガスを供給しながら、加温(例えば75℃)し、エージングさせ、(v)その後、生成物(前駆体)を回収し、(vi)回収した生成物を空気中で焼成することにより、パイロクロア金属酸化物を得る、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】T.Kinumoto et al.,Electrocatalysis,9(2),146-152(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記の製造方法では、(ii)の工程が必要であるし、(iv)の工程での酸素ガスの供給など、連続かつ高効率で量産するには不都合な課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、この製造方法におけるビスマスとルテニウムを含むパイロクロア金属酸化物の生成機構について詳細に検討し、反応中に、投入した金属を含む陰イオンの生成が、パイロクロア金属酸化物の生成を良好に導くことと酸化剤の供給が不可欠であることを見出した。そこで、以下のことを検討し、(ア)(ii)の手順を省くことができること、つまり、1つの反応容器に、硝酸ビスマスと塩化ルテニウムを同時に溶解させ、それに水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応を完結させることでも当該酸化物が得られること、(イ)酸素の代替に酸化剤として一般的な過酸化水素や次亜塩素酸ナトリウムなどを用いる検討を実施し、次亜塩素酸ナトリウムを用いることが最も好ましいことを新たに見出した。
そして、このビスマスとルテニウムを含むパイロクロア金属酸化物粒子の酸素電極反応への触媒性能を水酸化カリウム水溶液中で測定した結果、従来の製造方法によって得られたビスマスとルテニウムを含むパイロクロア金属酸化物粒子と同等以上の性能を有することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本件第一発明は、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法であって、前記方法は、
(1)ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、pHが10以上の水溶液を調製する工程、
(2)pHが10以上の水溶液に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体を生成させる工程、
(3)生成した前駆体を回収する工程、および
(4)回収した前駆体を焼成し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を得る工程
を含むことを特徴とする。
【0010】
本件第二発明は、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を含む酸素電極触媒の製造方法であって、前記方法は、
(1)ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、pHが10以上の水溶液を調製する工程、
(2)pHが10以上の水溶液に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体を生成させる工程、
(3)生成した前駆体を回収する工程、および
(4′)回収した前駆体を焼成し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物粒子を含む酸素電極触媒を得る工程
を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明は以下の実施態様を含む。
[1]含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法であって、前記方法は、
(1)ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、pHが10以上の水溶液を調製する工程、
(2)pHが10以上の水溶液に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体を生成させる工程、
(3)生成した前駆体を回収する工程、および
(4)回収した前駆体を焼成し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を得る工程
を含む、方法。
[2]工程(1)の前に、1つの容器に、水、ルテニウム塩およびビスマス塩を投入し、ルテニウム塩およびビスマス塩を水に溶解させて、ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液を調製する工程を含む[1]に記載の方法。
[3]前記ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液を調製する工程が、1つの容器に、水、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を投入し、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を水に溶解させて、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を含む水溶液を調製する工程である、[2]に記載の方法。
[4]工程(2)において添加する次亜塩素酸ナトリウムの量がルテニウム1モルに対して0.01~3.0モルである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を含む酸素電極触媒の製造方法であって、前記方法は、
(1)ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、pHが10以上の水溶液を調製する工程、
(2)pHが10以上の水溶液に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体を生成させる工程、
(3)生成した前駆体を回収する工程、および
(4′)回収した前駆体を焼成し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物粒子を含む酸素電極触媒を得る工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法によれば、従来の製造方法に比べ、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を連続かつ高効率で量産することが可能であり、かつ従来の製造方法で得られた含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物と同等以上の性能を有する。
本発明の酸素電極触媒の製造方法によれば、従来の製造方法に比べ、酸素電極触媒を連続かつ高効率で量産することが可能であり、かつ従来の製造方法で得られた酸素電極触媒と同等以上の性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例および比較例で得られた金属酸化物のX線回折パターンである。
【
図2】
図2は、実施例1で得られた焼成前の金属酸化物の電子顕微鏡画像である。
【
図3】
図3は、実施例2で得られた焼成前の金属酸化物の電子顕微鏡画像である。
【
図4】
図4は、比較例1で得られた焼成前の金属酸化物の電子顕微鏡画像である。
【
図5】
図5は、実施例1で得られた焼成後の金属酸化物の電子顕微鏡画像である。
【
図6】
図6は、実施例2で得られた焼成後の金属酸化物の電子顕微鏡画像である。
【
図7】
図7は、比較例1で得られた焼成後の金属酸化物の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本件第一発明の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法は、
含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法であって、前記方法は、
(1)ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、pHが10以上の水溶液を調製する工程、
(2)pHが10以上の水溶液に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体を生成させる工程、
(3)生成した前駆体を回収する工程、および
(4)回収した前駆体を焼成し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を得る工程
を含む。
【0015】
含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物とは、ビスマスおよびルテニウムを含むパイロクロア金属酸化物を意味する。含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の理想化学式はBi2Ru207であるが、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の化学式はこれに限定されない。含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の化学式をAxByOz(ただし、A、Bは異なる金属元素を表す。)で表したときに、酸素比zが6.5~7.3であるものが好ましい。
含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物は、その酸素電極触媒作用に有意の影響を及ぼさない限り、任意の他の成分(例えばアルミニウム)を含んでもよい。また、本発明の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を触媒として使用する際には、担体に担持させることも可能である。
【0016】
工程(1)は、ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、pHが10以上の水溶液を調製する工程である。
ルテニウム塩は、水に溶解する限り限定されないが、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ヨウ化ルテニウム、硝酸ルテニウム、ニトロシル硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウムなどが挙げられる。なかでも、反応中に生成すると考えられる含ルテニウムイオンの生成を良好に導くことから、塩化ルテニウムが好ましい。
ビスマス塩としては、硝酸ビスマス、塩化ビスマスなどが挙げられる。なかでも、水に比較的溶解しやすいことから、硝酸ビスマスが好ましい。
ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液は、ルテニウム塩およびビスマス塩以外の金属塩を含むことができる。ルテニウム塩およびビスマス塩以外の金属塩は、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の酸素電極触媒作用を阻害しない限り限定されないが、アルミニウム塩などが挙げられる。
アルミニウム塩を添加する場合、アルミニウム塩は、水に溶解する限り限定されないが、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどが挙げられる。なかでも、溶解して他の生成物を与えないことから、硝酸アルミニウムが好ましい。
【0017】
水溶液中のルテニウム塩の濃度は、目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物が調製できる限り限定されないが、好ましくは1~50mmol/L、より好ましくは1~20mmol/L、さらに好ましくは1~5mmol/Lである。ルテニウム塩の濃度をこの範囲にすることにより、純粋な生成物を得やすい、すなわち不純物の生成を抑制できる。
水溶液中のビスマス塩の濃度は、目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物が調製できる限り限定されないが、好ましくは1~50mmol/L、より好ましくは1~20mmol/L、さらに好ましくは1~5mmol/Lである。ビスマス塩の濃度をこの範囲にすることにより、不純物の生成を抑制できる。
水溶液中のビスマスに対するルテニウムのモル比は、好ましくは0.7~2.0であり、より好ましくは0.8~1.3であり、最も好ましくは1.0である。
ルテニウム塩およびビスマス塩以外の金属塩の濃度は、目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物が調製できる限り限定されず、その添加の目的に応じて適宜選択することができる。
ルテニウム塩およびビスマス塩以外の金属塩として、アルミニウム塩を含む場合、アルミニウム塩の濃度は、目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の元素比に応じて選択する。好ましくは、ビスマスに対しアルミニウムのモル比が9:1~8:2となるように、アルミニウム塩の濃度を選択する。アルミニウム塩の濃度をこの範囲にすることにより、純粋な生成物を得やすい。
【0018】
工程(1)は、ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、pHが10以上の水溶液を調製する工程である。
塩基性水溶液は、目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物が調製できる限り限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、テトラメチルアンモニウム水溶液などが挙げられる。なかでも、不純物の生成を抑制することから、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
添加する塩基性水溶液の濃度は、目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物が調製できる限り限定されないが、好ましくは0.1~10mol/L、より好ましくは0.5~5mol/L、さらに好ましくは1~2mol/Lである。塩基性水溶液の濃度をこの範囲にすることにより、速やかに生成物を得やすい。
添加する塩基性水溶液の量は、目的物が生成する量の塩基性水溶液を添加すればよい。
工程(1)では、塩基性水溶液を添加して、水溶液のpHを10以上にする。好ましくはpHを10~14に、より好ましくはpHを10~13.5にする。pHをこの範囲にすることにより、酸化ビスマスなどの不純物の生成を抑制することができる。
工程(1)では、水酸化物などが共沈し、また、ルテニウム酸イオン(RuO4
2-又は[RuO3(OH)2]2-))、過ルテニウム酸イオン(RuO4
-)、ビスマス酸イオン(Bi2O4
2-)などが生成すると推定されるが、本発明はその理論に拘束されない。
塩基性水溶液を添加する方法は、限定されないが、例えばルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、撹拌機等を用いて攪拌することにより行うことができる。塩基性水溶液は、必要な量を一度に添加してもよいし、数回に分けて添加してもよいし、一定の添加速度で時間をかけて添加してもよい。
工程(1)は、室温で実施するよりは、50℃以上、より好ましくは75℃程度に加熱する方が好ましい。
【0019】
工程(2)は、pHが10以上の水溶液に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体を生成させる工程である。
pHが10以上の水溶液に添加する次亜塩素酸ナトリウムは、次亜塩素酸ナトリウム粉末でもよいし、次亜塩素酸ナトリウム水溶液でもよいが、好ましくは次亜塩素酸ナトリウム水溶液である。
添加する次亜塩素酸ナトリウムの量は、ルテニウム1molに対して、好ましくは0.01~3.0molであり、より好ましくは0.05~2.0molであり、さらに好ましくは0.05~1.0molである。次亜塩素酸ナトリウムの量をこの範囲にすることにより、不純物の生成を抑制できる。
次亜塩素酸ナトリウムを添加する方法は、限定されないが、例えば混合水溶液に次亜塩素酸ナトリウム粉末又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加え、撹拌機等を用いて攪拌することにより行うことができる。
工程(2)の処理時間(攪拌時間)は、目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体が生成する限り限定されないが、好ましくは4~24時間、より好ましくは5~18時間、さらに好ましくは6~12時間である。処理時間(攪拌時間)をこの範囲にすることにより、十分に目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体の結晶が成長する。
工程(2)は、室温よりも高い温度で実施することが好ましく、好ましくは40~80℃、より好ましくは50~75℃、さらに好ましくは65~75℃で実施する。処理温度をこの範囲にすることにより、不純物の生成を抑制できる。
工程(2)で生成する前駆体は、Bi1.88Ru2O6.906のような化学式を有すると推定されるが、本発明はその理論に拘束されない。
【0020】
工程(2)の後、エージング工程を設けてもよい。エージング工程を設けることにより、生成物を沈降させ、水溶液から回収し易くなる。
エージング工程は、加熱を止め、放冷させながら静置することにより実施することができる。
エージング工程の時間は、好ましくは1~24時間、より好ましくは1~20時間、さらに好ましくは2~20時間である。エージング工程の時間は、長くても特に問題にならないが、短すぎると、十分に生成物が沈降せず水溶液から回収しづらくなることがある。
【0021】
工程(3)は、生成した前駆体を回収する工程である。
前駆体を回収する方法は、限定されないが、例えば、静置させて、沈殿させ、上澄みをある程度取り除いた後(デカンテーション後)、蒸発皿に移し、蒸発乾固させて、前駆体を回収する。デカンテーションの代わりに、ろ過を用いてもよい。
【0022】
工程(4)は、回収した前駆体を焼成し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を得る工程である。
焼成は、空気中で行うことができる。
焼成温度は、目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物が得られる限り限定されないが、好ましくは500~700℃である。500℃未満では結晶性が低くなり、700℃以上ではビスマスと酸素の脱離が激しくなり、不純物相の形成を招く。
焼成時間は、焼成温度にも依存するが、好ましくは1~12時間、より好ましくは1~6時間、さらに好ましくは1~3時間である。処理温度をこの範囲にすることにより、粒径の肥大化を抑制することができる。
【0023】
本件第一発明の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法は、工程(1)の前に、1つの容器に、水、ルテニウム塩およびビスマス塩を投入し、ルテニウム塩およびビスマス塩を水に溶解させて、ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液を調製する工程を含むことができる。
従来、ルテニウム塩を水に溶解させてルテニウム塩水溶液を調製し、別途、ビスマス塩を水に溶解させてビスマス塩水溶液を調製し、次いで、ルテニウム塩水溶液とビスマス塩水溶液を混合し、ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液を調製していたが、1つの容器に、水、ルテニウム塩およびビスマス塩を投入し、ルテニウム塩およびビスマス塩を水に溶解させて、ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液を調製する本発明の方法は、従来の方法に比べ、ルテニウム塩水溶液とビスマス塩水溶液を混合する工程が省略できるので、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を連続かつ高効率で量産するのに好都合である。
1つの容器に、水、ルテニウム塩およびビスマス塩を投入する方法は、特に限定されず、投入する順番も限定されない。水、ルテニウム塩、ビスマス塩の順番で投入してもよいし、水、ビスマス塩、ルテニウム塩の順番で投入してもよいし、ルテニウム塩、ビスマス塩、水の順番で投入してもよいし、ビスマス塩、ルテニウム塩、水の順番で投入してもよい。
なお、投入する水、ルテニウム塩およびビスマス塩の量は、目的とする水溶液の濃度が達成されるように適宜選択する。
ルテニウム塩およびビスマス塩を水に溶解させる方法は、限定されないが、例えば撹拌機等を用いて攪拌することにより行うことができる。ただし、ビスマス塩は溶解しづらいので、水溶液は白濁状態でも構わない。
【0024】
ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液がさらにルテニウム塩およびビスマス塩以外の金属塩を含む場合は、1つの容器に、水、ルテニウム塩、ビスマス塩、ならびにルテニウム塩およびビスマス塩以外の金属塩を投入し、ルテニウム塩、ビスマス塩、ならびにルテニウム塩およびビスマス塩以外の金属塩を水に溶解させて、ルテニウム塩、ビスマス塩、ならびにルテニウム塩およびビスマス塩以外の金属塩を含む水溶液を調製する工程によって実施することができる。
【0025】
ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液はさらに界面活性剤を含むことができる。界面活性剤を添加することにより、得られる含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の結晶子サイズの均一性と微細化を達成することができる。結晶子サイズはX線回折法で測定される。
界面活性剤の種類は、結晶子サイズの均一性と微細化を達成することができる限り限定されないが、テトラプロピルアンモニウムブロミド、ラウリル硫酸アンモニウムなどが挙げられる。なかでも、不純物をもたらさないことから、テトラプロピルアンモニウムブロミドが好ましい。
界面活性剤の添加量は、結晶子サイズの均一性と微細化を達成することができる限り限定されないが、水溶液1kgを基準として、好ましくは0~10gであり、より好ましくは0~5gであり、さらに好ましくは0~1gである。
ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液がさらに界面活性剤を含む場合、ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に界面活性剤を添加する時点は、限定されないが、好ましくはルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に塩基性水溶液を添加する前であり、より好ましくは水にルテニウム塩およびビスマス塩を溶解させるときに界面活性剤も同時に溶解させる。すなわち、ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液を調製する工程は、好ましくは、1つの容器に、水、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を投入し、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を水に溶解させて、ルテニウム塩、ビスマス塩および界面活性剤を含む水溶液を調製する工程である。
【0026】
本件第一発明の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法は、工程(4)で得られた含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を、温水で洗浄して空気中で乾燥させる工程(5)を含むことができる。
この工程(5)を実施することにより、残存する不純物を取り除くことができる。
温水の温度は、限定されないが、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃、さらに好ましくは60~75℃である。温水の温度をこの範囲にすることにより、操作もし易く不純物も取り除くことができる。
洗浄の方法は、限定されないが、例えばろ過器に含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を入れて温水を攪拌しながら投入することにより実施することができる。温水の量は、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物1gに対し、好ましくは500~1000mLである。
空気中で乾燥させる方法は、限定されないが、例えば、乾燥機に入れて、50~150℃の温度で1~3時間処理することにより実施することができる。
【0027】
本件第二発明の酸素電極触媒の製造方法は、
(1)ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液に塩基性水溶液を添加し、pHが10以上の水溶液を調製する工程、
(2)pHが10以上の水溶液に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の前駆体を生成させる工程、
(3)生成した前駆体を回収する工程、および
(4′)回収した前駆体を焼成し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物粒子を含む酸素電極触媒を得る工程
を含む。
【0028】
酸素電極触媒とは、塩基性水溶液(例えば、水験化カリウム水溶液)中において、駿素を発生させる反応(4OH-→O2+2H2O+4e-)と酸素を還元する反応(O2+2H2O+4e-→4OH-)の2つの反応(総称して「酸素電極反応」という。)を促進する触媒をいう。
【0029】
本件第二発明の酸素電極触媒の製造方法の工程(1)~工程(3)は、本件第一発明の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法の工程(1)~工程(3)と同じである。
【0030】
工程(4′)は、回収した前駆体を焼成し、含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物粒子を含む酸素電極触媒を得る工程である。
焼成は、空気中で行うことができる。
焼成温度は、目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物が得られる限り限定されないが、好ましくは500~700℃である。500℃未満では結晶性が低くなり.700℃以上ではビスマスと酸素の脱離が激しくなり、不純物相の形成を招く。
焼成時間は、焼成温度にも依存するが、好ましくは1~12時間、より好ましくは1~6時間、さらに好ましくは1~3時間である。処理温度をこの範囲にすることにより、粒径の肥大化を抑制することができる。
【0031】
本件第二発明の酸素電極触媒の製造方法は、本件第一発明の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法と同様に、工程(1)の前に、1つの容器に、水、ルテニウム塩およびビスマス塩を投入し、ルテニウム塩およびビスマス塩を水に溶解させて、ルテニウム塩およびビスマス塩を含む水溶液を調製する工程を含むことができる。
【0032】
本件第二発明の酸素電極触媒の製造方法は、本件第一発明の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の製造方法と同様に、工程(4)で得られた含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を、温水で洗浄して空気中で乾燥させる工程(5)を含むことができる。
【0033】
本発明の方法によって得られる含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物および酸素電極触媒は、X線回折法で測定される結晶子サイズが、500℃焼成後で約16nm、600℃焼成後で約21nmとナノメートルサイズの粒子であり、酸素電極反応に触媒活性を示すため、空気二次電池、特に水素/空気二次電池に適用できる。
【実施例】
【0034】
実施例1
塩化ルテニウム結晶(田中貴金属工業株式会社製試薬 47質量%)0.9779g、硝酸ビスマス五水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製試薬 特級)1.814gおよびテトラプロピルアンモニウムブロミド(富士フィルム和光純薬株式会社製試薬 特級)0.0282gをそれぞれ粉末状態で少量の超純水に添加して攪拌し、それらを混合した後、超純水を添加し全量を500mLにし、攪拌しながら、室温から75℃に昇温し、75℃で1時間保持・攪拌した。
次いで、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液60mLを2mL/minの添加速度で30分かけて添加した。添加完了直後の水溶液(75℃)のpHは10.9であり、添加完了後静置後の水溶液(22℃)のpHは13.2であった。
次いで、次亜塩素酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製試薬 化学用)を、次亜塩素酸ナトリウム濃度が0.5mmol/L(ルテニウムに対してモル比で約0.07)になるように、水溶液に添加し、75℃で24時間攪拌した。
その後、室温で19時間、エージング(静置)した。
次いで、上澄み液を除去し、共沈物を蒸発乾固した。
その後、120℃の乾燥機中で3時間乾燥した後、粉砕した。
次いで、電気炉(ヤマト科学株式会社FO100)に入れ、600℃で1時間焼成し、金属酸化物を得た。
【0035】
実施例2
塩化ルテニウム結晶(田中貴金属工業株式会社製試薬 47質量%)0.9779g、硝酸ビスマス五水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製試薬 特級)1.814gおよびテトラプロピルアンモニウムブロミド(富士フィルム和光純薬株式会社製試薬 特級)0.0282gを粉末状態で少量の超純水に添加して混合し、超純水を添加し全量を500mLにし、攪拌しながら、室温から75℃に昇温し、75℃で1時間保持・攪拌した。
上記と次亜塩素酸ナトリウム濃度を4.0mmol/L(ルテニウムに対してモル比で約0.6)に変更し、24時間攪拌を8時間攪拌に変更し、エージング(静置)時間を12時間に変更した点以外は、実施例1と同様に実施し、金属酸化物を得た。
【0036】
比較例1
次亜塩素酸ナトリウムを添加する代わりに、酸素ガスを水溶液中に10mL/minの流量でバブリングさせながら24時間攪拌した点以外は、実施例1と同様に実施し、金属酸化物を得た。
【0037】
[X線回折法による評価]
実施例1、実施例2および比較例1で得られた金属酸化物をX線回折法により評価した。得られたX線回折パターンを
図1に示す。
いずれの金属酸化物も、すべてのピークが、Bi
1.88Ru
2O
6.906(PDFカード番号59765)に帰属できた。すなわち、不純物のピークは認められなかった。
実施例1で得られた金属酸化物の格子定数は1.026nmであり、結晶子サイズは21.11nmであった。
実施例2で得られた金属酸化物の格子定数は1.026nmであり、結晶子サイズは21.11nmであった。
比較例1で得られた金属酸化物の格子定数は1.026nmであり、結晶子サイズは21.13nmであった。
この結果から、調合の段階でルテニウム塩およびビスマス塩を水中で混合して製造しても、目的の含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物を製造することができることが分かる。また、次亜塩素酸ナトリウムを使用することにより、8時間まで反応時間を短くできることが分かる。
【0038】
[電子顕微鏡による評価]
実施例1、実施例2および比較例1で得られた焼成前の金属酸化物および焼成後の金属酸化物を、電子顕微鏡で観察した。
実施例1で得られた焼成前の金属酸化物の電子顕微鏡画像を
図2に示す。
実施例2で得られた焼成前の金属酸化物の電子顕微鏡画像を
図3に示す。
比較例1で得られた焼成前の金属酸化物の電子顕微鏡画像を
図4に示す。
実施例1で得られた焼成後の金属酸化物の電子顕微鏡画像を
図5に示す。
実施例2で得られた焼成後の金属酸化物の電子顕微鏡画像を
図6に示す。
比較例1で得られた焼成後の金属酸化物の電子顕微鏡画像を
図7に示す。
図6の電子顕微鏡画像から、実施例2で得られた焼成後の金属酸化物の平均粒子径を算出したところ、29nm(標準偏差=8.0nm)であった。
図7の電子顕微鏡画像から、比較例1で得られた焼成後の金属酸化物の平均粒子径を算出したところ、23nm(標準偏差=6.6nm)であった。
【0039】
[触媒活性の評価]
実施例1、実施例2および比較例1で得られた金属酸化物の触媒活性を、回転ディスク電極を使用した電気化学測定(酸素還元反応(ORR)および酸素発生反応(OER)の測定)により調べた。測定には三電極式の電気化学セルを使用し、電解液として0.1mol/LのKOH水溶液を使用した。参照電極はHg/HgOであり、対極はNiメッシュであった。以下に記載する電位は全て、水素電極基準に換算した電位である。
ORR測定は、酸素を溶け込ませた0.1mol/LのKOH水溶液中で、ディスク電位範囲1.2~0.05Vで、回転速度1600rpm、走査速度5mV/sの条件で行った。ORR測定時の反応は次のとおりである。
ディスク反応:4電子:O2+2H2O+4e- → 4OH-
2電子:O2+H2O+2e- → HO2
-+OH-
OER測定は、ディスク電位範囲0.8~1.5Vで、N2雰囲気下に回転速度1600rpm、走査速度1mV/sの条件で行った。OER測定時の反応は次のとおりである。
ディスク反応:4OH- → O2+4e-+2H2O
測定した金属酸化物について得られた過電圧を、ターフェルプロットから得られたターフェル勾配とともに、表1に示す。
【0040】
【0041】
本発明の方法により製造した含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の酸素電極触媒活性は、従来の方法(比較例1)で製造した含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物の酸素電極触媒活性に比べ、遜色がないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の方法によって得られる含ビスマスルテニウムパイロクロア金属酸化物は、酸素電極触媒として好適に利用することができる。
本発明の方法によって得られる酸素電極触媒は、空気二次電池の電極に好適に利用することができる。