(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】工具ホルダ
(51)【国際特許分類】
B23B 31/117 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
B23B31/117 610B
(21)【出願番号】P 2020180913
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591033755
【氏名又は名称】エヌティーツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 信
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-029106(JP,A)
【文献】特開2018-183857(JP,A)
【文献】国際公開第2012/160664(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/117
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に沿って延在する筒状に形成され、工具ホルダ取付け部の工具ホルダ挿入空間内に挿入された状態で挟持される工具ホルダで
あり、
工具挿入空間を形成する工具ホルダ内周面と工具ホルダ外周面を有しているとともに、前記工具挿入空間に挿入された工具を保持する保持部を有し、
前記保持部は、軸方向および周方向に沿って延在する少なくとも1つの加圧室と、前記少なくとも1つの加圧室と前記工具ホルダ内周面との間に形成され、軸方向および周方向に沿って延在する少なくとも1つの把持部を有し、
前記少なくとも1つの加圧室内の圧力を高めることによって、前記少なくとも1つの把持部が径方向内側に弾性変形可能に構成され
ている工具ホルダであって、
本体部と、スリーブと、を備え、
前記本体部は、軸方向に沿って延在する筒状に形成され、本体部内周面と、本体部外周面と、本体部先端面と、本体部後端面と、前記本体部内周面により形成される本体部内側空間と、を有し、
前記本体部外周面は、軸方向に沿って延在する本体部外周面部分と、前記本体部外周面部分を切欠いて形成された切欠面と、を有し、前記切欠面は、前記本体部後端面から軸方向に沿って延在し、
前記スリーブは、軸方向に沿って延在する筒状に形成され、スリーブ内周面と、スリーブ外周面と、スリーブ先端面と、スリーブ後端面と、前記スリーブ内周面により形成されるスリーブ内側空間と、を有し、
前記スリーブ外周面は、後端側および先端側に形成されている、軸方向および周方向に沿って延在する第1のスリーブ外周面部分および第2のスリーブ外周面部分と、前記第1のスリーブ外周面部分と前記第2のスリーブ外周面部分との間に形成されている、軸方向および周方向に沿って延在している少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分と第4のスリーブ外周面部分と、を有し、
前記第4のスリーブ外周面部分は、前記少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分のうちの、後端側に形成されている第3のスリーブ外周面部分の後端部と前記第1のスリーブ外周面部分の先端部とに接続されているとともに、前記第1のスリーブ外周面部分および前記第2のスリーブ外周面部分より径方向内側に窪んでおり、
前記少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分は、前記第4のスリーブ外周面部分より径方向内側に窪んでおり、
前記スリーブ内周面は、前記後端側に形成されている第3のスリーブ外周面部分と前記第4のスリーブ外周面部分との境界部に対応する箇所より先端側に、内径D2を有するスリーブ内周面部分を有し、前記境界部に対応する箇所より後端側に、前記内径D2より大きい内径D1を有するスリーブ内周面部分を有し、前記境界部に対応する箇所に、前記内径D2を有するスリーブ内周面部分と前記内径D1を有するスリーブ内周面部分を接続する段差状のスリーブ内周面部分を有し、
前記スリーブは、前記本体部内側空間内に挿入された状態で、前記第1のスリーブ外周面部分および前記第2のスリーブ外周面部分が、前記本体部内周面に固定され、
前記本体部内周面と前記スリーブ内周面とにより、前記工具挿入空間を形成する前記工具ホルダ内周面が形成され、
前記本体部外周面により、前記工具ホルダ外周面が形成され、
前記スリーブ外周面の前記少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分と前記本体部内周面とにより、前記少なくとも1つの加圧室が形成され、
前記スリーブ外周面の前記少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分と前記スリーブ内周面とにより、前記少なくとも1つの把持部が形成され、
前記スリーブ外周面の前記第4のスリーブ外周面部分と前記本体部内周面とにより、前記少なくとも1つの加圧室のうちの、後端側に形成されている加圧室の後端部に連通し、軸方向および周方向に沿って延在する延在室が形成され、
前記延在室は、前記延在室の径方向に沿った幅が、前記後端側に形成されている加圧室の径方向に沿った幅より小さく設定され、前記延在室と前記工具ホルダ内周面との間の径方向に沿った幅が、前記後端側に形成されている加圧室と前記工具ホルダ内周面との間の径方向に沿った幅より大きく設定
され、
前記工具ホルダ取付け部の前記工具ホルダ挿入空間内に挿入された状態で、前記工具ホルダ外周面
の前記切欠面で受ける力による、前記工具ホルダ内周面の、
前記少なくとも1つの把持部のうちの、後端側に形成されている把持部に対応する部分の径方向内側への弾性変形が抑制されるように構成されていることを特徴とする
工具ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具を保持する工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
工具を保持する工具ホルダとして、流体圧力を利用した工具ホルダが用いられている。流体圧力を利用した工具ホルダは、例えば、特許文献1(国際公開2012-160664号公報)に開示されている。
特許文献1に開示されている工具ホルダは、本体部と、本体部内側空間内に挿入されるスリーブにより構成される。また、工具ホルダは、工具(詳しくは、工具の工具シャンク部)を保持する保持部を有している。保持部は、本体部内周面とスリーブ外周面との間に形成される加圧室と、加圧室とスリーブ内周面との間に形成される薄肉の把持部を有している。加圧室内の圧力を高めることによって、把持部が径方向内側に弾性変形する。これにより、スリーブ内側空間内に挿入された工具(工具シャンク部)は、スリーブ内周面の、把持部に対応する部分によって挟持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
流体圧力を利用した工具ホルダを、例えば、
図5~
図7に示されているように構成することが考えられる。
図5は、刃物台300の刃物台内側空間(工具ホルダ挿入空間)300a内に挿入された状態で挟持される工具ホルダ400の断面図である。
図6は、
図5の要部を拡大した拡大図であり、
図7は、
図5のVII-VII線断面図である。
工具ホルダ400は、本体部410とスリーブ420により構成されている。工具ホルダ400の保持部は、スリーブ420のスリーブ外周面422(スリーブ外周面部分422b、422d)と本体部410の本体部内周面411(本体部内周面部分411c)との間に形成されている加圧室423a、423bと、スリーブ420のスリーブ外周面422(スリーブ外周面部分422b、422d)とスリーブ内周面421(スリーブ内周面部分421a)との間に形成されている薄肉の把持部424a、424bを有している。なお、スリーブ外周面422の後端側のスリーブ外周面部分422aと先端側のスリーブ外周面部分422eは、本体部内周面411(本体部内周面部分411c)にロウ付けされる。本体部内側空間410aとスリーブ内側空間420aにより形成される工具挿入空間内に挿入された工具200の工具シャンク部は、加圧室423a、423b内の圧力を高めて把持部424a、424bを径方向内側に弾性変形させることにより、スリーブ内周面421(スリーブ内周面部分421a)の、把持部424a、424bに対応する部分によって挟持される。
工具ホルダ400は、締付けネジ305、306の締付けネジ先端面305a、306aと刃物台内周面301との間に挟持される。
【0005】
近年、径が小さい工具が使用されており、それにともなって、工具ホルダの径方向に沿った幅が小さく形成される。工具ホルダの径方向に沿った幅が小さくなると、工具ホルダを挟持するための押圧力によって工具ホルダ内周面が径方向内側に弾性変形し、工具ホルダ内周面によって形成される工具挿入空間の内径が減少して工具挿入空間内への工具の挿入が困難となるおそれがある。
例えば、
図5~
図7に示されている工具ホルダ400を構成する本体部410とスリーブ420の、軸方向に沿って延在する部分の径方向に沿った幅が小さくなると、締付けネジ305、306による押圧力が、本体部410を介してスリーブ420に伝達されるおそれがある。この場合、本体部外周面部分412c、本体部内周面部分411c、スリーブ外周面部分422a、422bおよびスリーブ内周面部分421aが、
図6、
図7に破線で示されているように径方向内側に弾性変形する(破線412c1、411c1、422a1、442b1、421a1参照)。スリーブ内周面部分421aの、径方向内側への弾性変形量が大きいと、工具挿入空間を構成するスリーブ内側空間420aの内径が減少し、工具200の工具シャンク部の工具挿入空間(スリーブ内側空間420a)内への挿入が困難となる。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、工具ホルダを挟持する力による工具挿入空間の内径の減少を抑制することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸方向に沿って延在する筒状に形成され、工具ホルダ取付け部の工具ホルダ挿入空間内に挿入された状態で挟持される工具ホルダに関する。
本発明の工具ホルダは、工具挿入空間を形成する工具ホルダ内周面と工具ホルダ外周面を有しているとともに、保持部を有している。
保持部は、工具(詳しくは、工具の工具シャンク部)を保持する部分である。本発明では、保持部は、少なくとも1つの加圧室と、少なくとも1つの把持部を有している。加圧室は、軸方向および周方向に沿って延在している。把持部は、加圧室と工具ホルダ内周面との間に形成され、軸方向および周方向に沿って延在する。加圧室には、加圧媒体である流体が充填される。好適には、油が充填される。加圧室と把持部は、加圧室内の圧力を高めることによって把持部が径方向内側に弾性変形可能に構成される。好適には、把持部は薄肉に形成される。
本発明の工具ホルダは、本体部とスリーブを備えている。
本体部は、軸方向に沿って延在する筒状に形成され、本体部内周面と、本体部外周面と、本体部先端面と、本体部後端面と、本体部内周面により形成される本体部内側空間と、を有している。
本体部外周面は、軸方向に沿って延在する本体部外周面部分と、本体部外周面部分を切欠いて形成された切欠面と、を有している。切欠面は、本体部後端面から軸方向に沿って延在している。
スリーブは、軸方向に沿って延在する筒状に形成され、スリーブ内周面と、スリーブ外周面と、スリーブ先端面と、スリーブ後端面と、スリーブ内周面により形成されるスリーブ内側空間と、を有している。
スリーブ外周面は、後端側および先端側に形成されている、軸方向および周方向に沿って延在する第1のスリーブ外周面部分および第2のスリーブ外周面部分を有している。また、第1のスリーブ外周面部分と第2のスリーブ外周面部分との間に形成されている、軸方向および周方向に沿って延在している少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分と第4のスリーブ外周面部分を有している。
第4のスリーブ外周面部分は、少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分のうちの後端側に形成されている第3のスリーブ外周面部分の後端部と第1のスリーブ外周面部分の先端部とに接続されている。第4のスリーブ外周面部分は、第1のスリーブ外周面部分および第2のスリーブ外周面部分より径方向内側に窪んでいる。少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分は、第4のスリーブ外周面部分より径方向内側に窪んでいる。第4のスリーブ外周面部分は、後端側に形成されている第3のスリーブ外周面部分の後端部に、径方向外側の個所で接続されている。
スリーブ内周面は、後端側に形成されている第3のスリーブ外周面部分と第4のスリーブ外周面部分との境界部に対応する箇所より先端側に、内径D2を有するスリーブ内周面部分を有し、境界部に対応する箇所より後端側に、内径D2より大きい内径D1を有するスリーブ内周面部分を有し、境界部に対応する箇所に、内径D2を有するスリーブ内周面部分と内径D1を有するスリーブ内周面部分を接続する段差状のスリーブ内周面部分を有している。
スリーブは、本体部内側空間内に挿入された状態で、第1のスリーブ外周面部分および第2のスリーブ外周面部分が、本体部内周面に固定されている。固定方法としては、種々の固定方法を用いることができる。例えば、ロウ付け方法が用いられる。
本体部内周面とスリーブ内周面とにより工具ホルダ内周面が形成される。本体部外周面により工具ホルダ外周面が形成される。スリーブ外周面の少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分と本体部内周面とにより少なくとも1つの加圧室が形成される。スリーブ外周面の少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分とスリーブ内周面とにより少なくとも1つの把持部が形成される。
また、スリーブ外周面の第4のスリーブ外周面部分と本体部内周面とにより、少なくとも1つの加圧室のうちの、後端側に形成されている加圧室の後端部に連通し、軸方向および周方向に沿って延在する延在室が形成される。加圧室が1つ形成されている場合には、加圧室の後端部が、「後端側に形成されている加圧室の後端部」に対応する。
延在室は、工具ホルダが、工具ホルダ取付け部の工具ホルダ挿入空間内に挿入された状態で、工具ホルダ外周面の切欠面で受ける力による、工具ホルダ内周面の、少なくとも一つの把持部のうちの、後端側に形成されている把持部に対応する部分の径方向内側への弾性変形が抑制されるように構成されている。具体的には、延在室は、延在室の径方向に沿った幅が、後端側に形成されている加圧室の径方向に沿った幅より小さく設定され、延在室と工具ホルダ内周面との間の径方向に沿った幅が、後端側に形成されている加圧室と工具ホルダ内周面との間の径方向に沿った幅より大きく設定されている。
本発明では、工具ホルダ外周面の切欠面が受ける、工具ホルダを挟持する力による、工具挿入空間の内径の減少を抑制することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の工具ホルダでは、工具ホルダを挟持する力による工具挿入空間の内径の減少を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の工具ホルダの一実施形態が刃物台に取付けられている状態を示す断面図である。
【
図2】本発明の工具ホルダの一実施形態の断面図である。
【
図5】従来の工具ホルダが刃物台に取付けられている状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
本明細書では、工具ホルダ取付け部(刃物台)の延在方向、工具ホルダ取付け部に取付けられた状態における工具ホルダ(本体部、スリーブ)の延在方向(
図1~
図3、
図5、
図6において左右方向、中心線Pの延在方向)を「軸方向」という。また、軸方向(中心線Pの延在方向)と直交する断面において、中心線Pを中心とする円に沿った方向を「周方向」といい、中心線Pを通る線の方向を「径方向」という。また、軸方向に沿って、工具ホルダが工具ホルダ取付け部の工具ホルダ挿入空間内に挿入される側、工具ホルダの工具挿入空間内に工具が挿入される側(
図1~
図6において右側)を「先端側」といい、先端側と反対側(
図1~
図3、
図5、
図6において左側)を「後端側」という。
【0010】
本発明の工具ホルダの一実施形態を、
図1~
図4を参照して説明する。本実施形態では、工具ホルダを刃物台に取付ける場合について説明する。
図1は、一実施形態の工具ホルダ100が刃物台300に取付けられた状態を示す断面図である。
図2は、一実施形態の工具ホルダ100の断面図である。
図3は、
図1の要部を拡大した拡大図であり、
図4は、
図1のIV-IV線断面図である。
【0011】
先ず、本実施形態の工具ホルダ100が取付けられる刃物台300について説明する。
刃物台300は、刃物台内周面301、刃物台外周面302、刃物台先端面300Aを有している。
刃物台内周面301によって、軸方向に沿って延在しているとともに、刃物台先端面300Aに開口している開口部を有する刃物台内側空間300aが形成される。工具ホルダ100は、先端側から、開口部を介して刃物台内側空間300a内に挿入可能である。
また、刃物台300は、刃物台内周面301と刃物台外周面302の間を連通するように径方向に沿って延在する孔303、304を有している。孔303、304は、刃物台内周面301に開口している開口部303a、304aを有している。孔303、340内には、締付けネジ305、306が、径方向に沿って移動可能に挿入されている。締付けネジ305、306は、刃物台内周面301に開口している開口部303a、304aを介して、刃物台内周面301より径方向内側に突出可能である。
工具ホルダ100を刃物台内側空間300a内に挿入した状態で、締付けネジ305、306を径方向内側に移動させて締付けネジ先端面305a、306aを工具ホルダ100に当接させ、工具ホルダ100を径方向内側に押圧する。これにより、工具ホルダ100は、締付けネジ先端面305aおよび305bと刃物台内周面301との間に挟持される(刃物台300に取付けられる)。
【0012】
刃物台300が、本発明の「工具ホルダ取付け部」に対応し、刃物台内周面301が、本発明の「工具ホルダ取付け部内周面」に対応し、刃物台外周面302が、本発明の「工具ホルダ取付け部外周面」に対応し、刃物台先端面300Aが、本発明の「工具ホルダ取付け部先端面」に対応し、刃物台内側空間300aが、本発明の「工具ホルダ取付け部内側空間」あるいは「工具ホルダ挿入空間」に対応する。
【0013】
次に、本実施形態の工具ホルダ100を説明する。本実施形態の工具ホルダ100は、本体部110とスリーブ120により構成されている。本体部110とスリーブ120は、弾性変形可能な金属により形成される。好適には、スチールにより形成される。
【0014】
本体部110は、軸方向に沿って延在する筒状に形成されている。
本体部110は、本体部内周面111、本体部外周面112、本体部先端面110A、本体部後端面110Bを有している。本体部内周面111によって、軸方向に沿って延在する本体部内側空間110aが形成される。
本体部内周面111は、本体部内周面部分111a~111cを有している。
本体部内周面部分111bは、本体部内周面部分111aと、本体部内周面部分111aの内径より大きい内径を有する本体部内周面部分111cを接続する段差面である。
本体部外周面112は、本体部外周面部分112a~112dを有している。
本体部外周面部分112aは、軸方向に沿って延在し、断面が円形を有している。本体部外周面部分112cは、本体部外周面部分112aを切欠いた切欠面であり、軸方向に沿って延在している(
図4参照)。本体部外周面部分112cは、締付けネジ305、306の締付けネジ先端面305a、306aが当接可能に平坦(平坦面)に形成されている。本体部外周面部分112cが、締付けネジ305、306により径方向内側に押圧されることで、工具ホルダ100が刃物台300に取付けられる。
本体部外周面部分112bは、径方向に沿って延在している。本体部外周面部分112dは、本体部外周面部分112bを切欠いた切欠面である。本体部外周面部分112bおよび112dと本体部先端面110Aによって、径方向に沿って延在するフランジ113が形成されている。フランジ113によって、工具ホルダ100の、刃物台内側空間300a内における挿入位置が規制される。
【0015】
本体部110のフランジ113には、本体部内周面111(本体部内周面部分111c)に開口する開口部を有し、径方向に沿って延在する孔114、116が形成されている。
孔114内には、加圧室123a、123b(後述する)内の圧力を調整するためのネジ(加圧ネジ)が配置されている。孔116内には、スチールボール118を介してネジ117が配置されている。孔116は、加圧室123a、123a内に加圧媒体を注入する際あるいは排出する際に用いられる。
【0016】
スリーブ120は、軸方向に沿って延在する筒状に形成されている。
スリーブ120は、スリーブ内周面121、スリーブ外周面122、スリーブ先端面120A、スリーブ後端面120Bを有している。スリーブ内周面121によって、軸方向に沿って延在するスリーブ内側空間120aが形成される。
スリーブ内周面121は、スリーブ内周面部分121a~121cを有している。スリーブ内周面部分121bは、内径がD1(
図3参照)であるスリーブ内周面部分121aと、スリーブ内周面部分121aの内径D1より小さい内径D2(D2<D1)(
図3参照)を有するスリーブ内周面部分121cを接続する段差面である。スリーブ内周面部分121bは、後述する、スリーブ外周面部分122bと122cとの境界部分(把持部124aの後端部)に形成されている。スリーブ内周面部分121cには、工具200を冷却するための冷却媒体が流れる溝125が、螺旋状に形成されている。溝125の形状は、螺旋状に限定されない。
【0017】
スリーブ外周面122は、断面が円形に形成されているスリーブ外周面部分122a~122fを有している。
スリーブ外周面部分122aおよび122fは、スリーブ外周面122の後端側および先端側に形成され、軸方向および周方向に沿って延在している。スリーブ外周面部分122aと122fは、同じ外径を有している。
スリーブ外周面部分122cおよび122eは、スリーブ外周面部分122aと122fの間に形成され、軸方向および周方向に沿って延在している。スリーブ外周面部分122eは、スリーブ外周面部分122fの後端部に接続され、スリーブ外周面部分122cは、スリーブ外周面部分122eより後端側に形成されている。スリーブ外周面部分122cおよび122eの外径(D2+2×M2:
図3参照)は、スリーブ外周面部分122aおよび122fの外径(D1+2×M1+2×N1:
図3参照)より小さく設定されている。すなわち、スリーブ外周面部分122cおよび122eは、スリーブ外周面部分122aおよび122fより径方向内側に窪んでいる凹面に形成されている。
スリーブ外周面部分122dは、スリーブ外周面部分122cの先端部とスリーブ外周面部分122eの後端部に接続され、軸方向および周方向に沿って延在している。スリーブ外周面部分122dの外径は、後述する、加圧室123aと123bを連通する連通室123cを介して加圧媒体が通過可能に設定される。本実施形態では、スリーブ外周面部分122dの外径は、スリーブ外周面部分122aおよび122fの外径より小さく、スリーブ外周面部分122cおよび122eの外径より大きく設定されている。
スリーブ外周面部分122bは、スリーブ外周面部分122cの後端部とスリーブ外周面部分122aの先端部に接続され、軸方向および周方向に沿って延在している。スリーブ外周面部分122bの外径は、スリーブ外周面部分122aおよび122fの外径(D1+2×M1+2×N1)より小さく、スリーブ外周面部分122cおよび122eの外径(D2+2×M2)より大きく設定されている。すなわち、スリーブ外周面部分122bは、スリーブ外周面部分122cの後端部に、径方向外側の個所で接続されている。
なお、スリーブ外周面部分122cおよび122eとスリーブ内周面121(スリーブ内周面部分121c)との間に、径方向に沿って弾性変形可能な薄肉の把持部124aおよび124b(径方向に沿った幅M2:
図3参照)が形成される。把持部124aは、把持部124bより後端側に形成されている。
スリーブ外周面部分122aが、本発明の「第1の外周面部分」あるいは「第1のスリーブ外周面部分」に対応し、スリーブ外周面部分122fが、本発明の「第2の外周面部分」あるいは「第2のスリーブ外周面部分」に対応し、スリーブ外周面部分122c、122eが、本発明の「少なくとも1つの第3の外周面部分」あるいは「少なくとも1つの第3のスリーブ外周面部分」に対応し、スリーブ外周面部分122cが、本発明の「後端側に形成されている第3の外周面部分」あるいは「後端側に形成されている第3のスリーブ外周面部分」に対応し、スリーブ外周面部分
122bが、本発明の「第4の外周面部分」あるいは「第4のスリーブ外周面部分」に対応する。
【0018】
スリーブ120は、本体部内側空間110a内に、スリーブ後端面120Bが本体部内周面部分111bに当接するまで挿入される。なお、スリーブ後端面120Bが本体部内周面部分111bに当接した状態において、孔114および116がいずれかの加圧室(本実施形態では、加圧室123b)に連通するように構成されている。
そして、スリーブ120を本体部110に固定する。本実施形態では、スリーブ後端面120Bを本体部内周面部分111bにロウ付けするとともに、スリーブ外周面部分122aおよび122fを本体部内周面部分111cにロウ付けしている。
これにより、スリーブ外周面122と本体部内周面111との間に加圧媒体が注入される密閉領域が形成される。すなわち、スリーブ外周面部分122cおよび122eと本体部内周面部分111cとの間に、加圧室123aおよび123b(径方向に沿った幅N2:
図3参照)が形成される。加圧室123aは、加圧室123bより後端側に形成されている。また、スリーブ外周面部分122dと本体部内周面部分111cとの間に、加圧室123aおよび123bと連通している連通路123cが形成される。また、スリーブ外周面部分122bと本体部内周面部分111cとの間に、加圧室123aより後端側に軸方向および周方向に延在している延在室123d(径方向に沿った幅N1:
図3参照)が形成される。延在室123dは、加圧室123aの後端部の、径方向外側の個所で、加圧室123aと連通している。
延在室123dの形状(径方向に沿った幅、軸方向に沿った長さ)は、工具200を用いて加工を行うのに必要な通常の挟持力(径方向内側への押圧力)が工具ホルダ外周面(本体部外周面部分112c)に加わった場合に、工具挿入空間(スリーブ内側空間120a)の内径が工具200の工具シャンク部の外径より小さくならないように(工具シャンク部の工具挿入空間内への挿入が困難とならないように)設定される。
【0019】
本体部110とスリーブ120により、本発明の「工具ホルダ」が構成される。本体部内周面111(本体部内周面部分111a)とスリーブ内周面121(スリーブ内周面部分121a~121c)により、本発明の「工具ホルダ内周面」が形成され、本体部外周面112により、本発明の「工具ホルダ外周面」が形成され、本体部内側空間110aとスリーブ内側空間120aにより、本発明の「工具ホルダ内側空間」あるいは「工具挿入空間」が形成される。
【0020】
加圧室123a、123b、連通路123cおよび延在室123d内には、加圧媒体が充填される。本実施形態では、油が充填される。
また、スリーブ内側空間120a(工具挿入空間)内に挿入した工具200(工具シャンク部)を保持する際には、加圧ネジ115を操作して、加圧室123a、123b内の圧力を高める。これにより、把持部124a、124bが径方向内側に弾性変形し、スリーブ内周面121(スリーブ内周面部分121c)の、把持部124a、124bに対応する部分によって工具200(工具シャンク部)が挟持される。
スリーブ内側空間120a(工具挿入空間)内に工具200を挿入する際あるいは工具200をスリーブ内側空間120a(工具挿入空間)から引き出す際には、加圧ネジ115を操作して、加圧室123a、123b内の圧力を低くする。これにより、把持部124a、124bの形状が、通常状態に復帰する。
【0021】
図5~
図7に示されている工具ホルダ400において、径方向に沿った幅(本体部410およびスリーブ420の径方向に沿った幅)が大きく設定されている場合には、工具ホルダ外周面(本体部外周面部分412c)が、締付けネジ305、306の締付けネジ先端面305a、306aによって径方向内側に押圧されても、押圧力が工具ホルダ内周面(スリーブ内周面部分411a)に伝達されるおそれは少ない。このため、工具ホルダ内周面(スリーブ内周面部分421a1)が径方向内側に弾性変形するおそれはない。すなわち、スリーブ内側空間420a(工具ホルダ内側空間)の内径が低減して、工具200(工具シャンク部)の、スリーブ内側空間420a(工具ホルダ内側空間)内への挿入が困難となるおそれはない。
一方、
図5~
図7に示されている工具ホルダ400において、径方向に沿った幅(本体部410およびスリーブ420の径方向に沿った幅)が小さく設定された場合には、工具ホルダ外周面(本体部外周面部分412c)が受ける押圧力が、工具ホルダ内周面(スリーブ内周面部分411a)に伝達されるおそれがある。すなわち、工具ホルダ外周面(本体部外周面部分412c)に加えられた力によって、本体部外周面部分412c、本体部内周面部分411c、スリーブ外周面部分422a、422bおよびスリーブ内周面部分421aが、
図6、
図7に破線で示されているように径方向内側に弾性変形する。この場合、工具挿入空間を構成するスリーブ内側空間420aの内径が減少し、工具200の工具シャンク部の工具挿入空間(スリーブ内側空間420a)内への挿入が困難となる。
【0022】
これに対して、本実施形態の工具ホルダ100において、径方向に沿った幅(本体部110およびスリーブ120の径方向に沿った幅)が小さく設定されている場合には、本体部外周面112(本体部外周面部分112b)が、締付けネジ305、306の締付けネジ先端面305a、306aによって径方向内側に押圧されると、本体部外周面112(本体部外周面部分112c)および本体部内周面111(本体部内周面部分111c)は、
図3、
図4に破線で示されているように、径方向内側に弾性変形するおそれがある(112c1、111c1参照)。
ここで、本実施形態の工具ホルダ100では、後端側に形成されている加圧室123aの後端部(H1の位置:
図3参照)と、径方向外側の個所で連通し、加圧室123aより後端側に軸方向および周方向に沿って延在している延在室123dが形成されている。すなわち、把持部124aが、本体部内周面部分111cに固定されているスリーブ外周面部分122aと、延在室123d(スリーブ外周面部分122b)の軸方向に沿った長さ(スリーブ外周面部分122cの後端部の位置H1と、スリーブ外周面部分122aの先端部の位置H2との間の軸方向に沿った長さ:
図3参照)だけ離れている。また、スリーブ外周面部分122bとスリーブ内周面部分121aとの間の径方向に沿った幅M1が、スリーブ外周面部分122c、122eスリーブ内周面部分121cとの間(把持部124a、124b)の径方向に沿った幅M2(
図3参照)より大きく設定されている(M1>M2)(
図3参照)。延在室123dの存在と、延在室123dより径方向内側の幅M1(肉厚)の部分の存在により、本体部外周面112(本体部外周面部分112b)に加えられた力がスリーブ内周面部分121aに伝達されるのが抑制される。すなわち、スリーブ外周面部分122a、122bは、
図3、
図4に破線で示されているように、径方向内側に弾性変形するおそれがある(破線122a1、122b1参照)が、スリーブ内周面部分121c(特に、把持部124aの後端部に対応する部分)の径方向内側への弾性変形は抑制される。
なお、本実施形態では、スリーブ外周面部分122bと122cとの境界部(把持部124aの後端部)に対応する個所に、段差状のスリーブ内周面部分121bが形成されている。すなわち、把持部124aに対応する個所に形成されるスリーブ内周面部分121cより後端側に、スリーブ内周面部分121cの内径D2より大きい内径D1を有するスリーブ内周面部分121aが形成されている。
これにより、スリーブ外周面部分122bの径方向内側への弾性変形にともなってスリーブ内周面部分121cの径方向内側に弾性変形した場合でも、スリーブ内側空間120aの内径が低減するのを抑制することができる。
これにより、本実施形態の工具ホルダ100では、工具ホルダ100を挟持する力(工具ホルダ外周面で受ける力)によるスリーブ内側空間120a(工具挿入空間)の内径の減少を抑制することができ、工具200(工具シャンク部)の、スリーブ内側空間120a(工具挿入空間)内の挿入が困難となるのを防止することができる。
【0023】
本発明は、実施形態で説明した構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
本体部やスリーブの構成は、実施形態で説明した構成に限定されない。
実施形態では、工具ホルダを2つの部材(本体部、スリーブ)により構成したが、工具ホルダは、1つの部材で構成することもできるし、3つ以上の部材で構成することもできる。
実施形態では、保持部を、2個の加圧室と2個の把持部により構成したが、保持部は、少なくとも1つの加圧室と少なくとも1つの把持部により構成されていればよい。保持部を、1個の加圧室と1個の把持部により構成する場合には、1個の加圧室が、本発明の「少なくとも1つの加圧室のうちの後端側に形成されている加圧室」に対応し、1個の把持部が、本発明の「少なくとも1つの把持部のうちの後端側に形成されている把持部」に対応する。
実施形態では、後端側に、内径が大きいスリーブ内周面部分121aを形成したが、スリーブ内周面部分121aは、省略することもできる。
工具ホルダを取付ける工具ホルダ取付け部は、刃物台に限定されない。
工具ホルダを挟持する方法は、締付けネジにより工具ホルダを径方向内側に押圧する方法に限定されない。
加圧室内の圧力を調整する方法は、加圧ネジにより調整する方法に限定されない。
実施形態では、工具ホルダの先端側が弾性変形するおそれがないため、後端側に形成されている加圧室の後端部に連通し、後端側に延在する延在室を形成したが、先端側が弾性変形するおそれがある場合には、先端側に形成されている加圧室の先端部に連通し、先端側に延在する延在室を形成してもよい。この場合、後端側に延在室を形成する方法と同様の方法を用いて先端側に延在室を形成することができる。
【符号の説明】
【0024】
100、400 工具ホルダ
110、410 本体部
110A、410A 本体部先端面
110a、410a 本体部内側空間
111、411 本体部内周面
111a~111c、411a~411c 本体部内周面部分
112a~112d、412a~412d 本体部外周面部分
113 フランジ
114 挿入孔
115、415 ネジ(加圧ネジ)
116 挿入孔
117、417 ネジ(封止ネジ)
118 スチールボール
120、420 スリーブ
120A、420A スリーブ先端面
120B、420B スリーブ後端面
120a、420a スリーブ内側空間
121、421 スリーブ内周面
121a~121c、421a スリーブ内周面部分
122、422 スリーブ外周面
122a~122f、422a~422e スリーブ外周面部分
123a、123b,423a、423b 加圧室
123c、423c 連通路
123d 延在室
124a、124b、424a、424b 把持部
125 溝
200 工具
300 刃物台(工具ホルダ取付け部)
300A 刃物台先端面(工具ホルダ取付け部先端面)
300a 刃物台内側空間(工具ホルダ取付け部内側空間)
301 刃物台内周面(工具ホルダ取付け部内周面)
302 刃物台外周面(工具ホルダ取付け部外周面)
303、304 孔
303a、304a 開口部
305、306 締付けネジ(締付部材)
305a、306a 締付けネジ先端面(締付部材先端面)